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隣りの酔いどれおねぇさん (3)
肩を貸して歩いている最中も、
「すいませんねー。おにーさーん」
とかいいながら、加々見さんはしなだれかかってくる。ぐにぐにと体を押しつけられる感覚に、次第に欲望を刺激されたりするわけだが、それ以上に重いし、歩きにくい。
「いいから。ほら。もっと、ちゃんと歩いてください」
「うふふふふ。感じます? 感じちゃいます?」
とかいって、ぼくの腕を抱えて、自分の胸の膨らみをうりうりと押しつける。
……素面のときにこういうことあってくれれば、とても嬉しいのだが……。
どうみても、今夜の彼女は悪酔いしていた。その証拠に、不自然なほどはしゃいでいたのもわずか数分のことで、なんとかエレベーターの前にまでたどり着く頃には、真っ青な顔色をしてうつむいてるようになった。静かになったのはいいことだが……。
なにぶん深夜のことなので、エレベーターはボタンを押せばすぐに乗ることができた。
「……ちょっと、大丈夫ですか? もうすぐで着きますからね!」
「……大丈夫じゃないかも……」
彼女は、消え入りそうな小さな声でいってから、自分の口を押さえた。
「……吐きそう……」
「ちょ、ちょっと待って! すぐ着きますから!」
こんな狭い密室で吐かれでもしたら、匂いが充満してかなりイヤな環境になりそうな気がする。
幸い、彼女はエレベーターが着くまでは持ちこたえた。
「はいはい。着きましたからね。ゆっくり行きますからね。おうちはすぐそこですからね」
彼女の肩を支えるようにして、あやすようにいいながら、ゆっくりと進む。といっても、わずか数十メートルの距離なんだが。彼女は返事をする余裕すらないようで、真っ白な顔をして、かろうじてこくこくと頷いている。
「はい。つきましたよー。鍵。鍵を出して、おうちに入りましょうね」
彼女はとろんとした目でぼくを見上げ、ごそごそとポケットを、ついで、バッグの中をあさりはじめる。鍵をしまった場所を思い出せないのか、長々とあちこちに手をいれて、探っていたが、しばらくして、
「…………めん……い……」
と、よく聞き取れない声で囁く。
「……えーと?」
いい加減、彼女を支えることに焦れてきていたぼくは、身をかがめて、彼女の両手に手をおいて、彼女と同じ目線の高さで、聞き返す。
「……どうしたんですか? まさか、か……」
『鍵、みつからないんですか?』といおうとしたまさにそのとき、彼女は盛大に戻しはじめた。
ぼくは、ぼとぼと音と湯気をたてぼくの胸を経由して床にしたたり落ちていく、彼女の口から噴出された、刺激臭のある液体を、呆然と見下ろした。
[
つづき]
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