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2007-01

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(178)

第六章 「血と技」(178)

 茅はノートパソコンを操作して画面に近辺の地図を表示させ、その地図上に、いくつかの白い光点を表示させた。白い光点は、地図上にまんべんなく広がっている。
「……あまり、正確なものではないけど……現在、登録中の、ボランティア要員の所在地を表示させてみたの……」
 茅はカーソルを操作して、光点の一つをクリックしてみせる。すると、ウィンドウが開き、メールアドレスや年齢、性別などの個人情報が閲覧できるようになる。
「この間から作っていた、インターフェース。
 まだ試作品だけど、リアルタイムに誰がどこにいるか、だいたいの位置が把握できるの……」
「その位置情報って……どの程度、正確なの?
 あと、どうやって現在地を判断しているの?」
 ノートパソコンを覗き込んでいた荒野が、茅に尋ねる。荒野も知らない間に、茅がこのようなシステムを作っていた……ということは、まあ、よしとしよう。
 おそらく、放課後、学校のパソコン実習室でごそごそやっていた時の合間にでも作っていたのだろう。また、「何故、こんなものを作ったのか?」という動機も、荒野には十分理解できる。今回のように、広範囲で行われるボランティア活動には、確かに便利なシステムだろうが……本来の目的からいえば、もっと緊急を要する時に使用するではないのか?
「残念ながら……今の時点では、位置情報は、さほど正確ではないの」
 茅は、荒野が考えていることを察したような表情で、首を横に振る。
「一部の機種では、携帯の位置情報を特定できるけど……大半は、自己申告の現住所を、機械的に表示しているだけ……。
 そのへんの機能の充実は、今後の課題なの……」
「……そっか……そのへんは、今後のバージョンアップに期待、ということだな……」
 荒野が茅の言葉に頷いた時、荒野の携帯が鳴った。
「……はい、加納ですが?」
『……徳川なのだ。
 たった今、敷島からの伝言を受け取った……』
「早いな……。
 ついさっき、電話を切ったところだぞ」
『トイレに行っていただけなのだ。
 用件は、敷島から聞いた。商店街はこっちに任せるのだ。
 ぼく自身も行くし、敷島も、何人か心当たりを連れて行くといっている。材料とバーナーを持参して、現地でもっとも効率的な道具を作るのだ……』
「……ちょっと待って、今、茅と変わる。
 できれば、その引き連れていく人たちの情報も、茅に渡して欲しい……」
『……それでは、こちらも敷島に変わるのだ……』
 荒野は茅に自分の携帯を手渡し、茅がそれを耳に当てるのと同時に、氏名と登録番号を復唱しながら、ノートパソコンの光点を、地図上の徳川の工場に移動させていく。白い光点が集まって、一回り大きな光点になると、茅はその光点からウィンドウを開き、光点の色を白から青に変える。
「……ボランティア活動に入った、という連絡が入った者は、色が変わるの。
 青が稼働中、黄色が待機中。徳川たちは、商店街に向かった所だから、商店街でも仕事が終わるまで、青色のままなの……」
 茅が、ノートパソコンのディスプレイを指さす。
 地図上では、徳川の工場を出た少し大きめの青い点は、道沿いに駅前商店街へと移動しはじめている。
「……他に、先の同報メールに、参加しますという返信した人の分も、色が変わるの……」
 荒野は、茅から受け取った携帯を操作して、メール画面を表示。着信していた同報メールを開けて、「参加しますか? Yes/No」のという文面の、「Yes」の部分にカーソルを移動させ、クリックした。
 すると、確かに、地図上でマンションにある光点の色が、黄色に変わる。そこにはいくつかの光点が重なっていて、判別しにくかったが……確かに、白い光点の中に、黄色い光点が混ざっていた。
 まだメールを出してから間がないためか、黄色い光点の数は、白い光点の数分の一ほどでしかない。
「……隣の人たちは、もう、外出した後みたいだな……」
 荒野は、隣の狩野家に光点がないのを確認した。
「……楓たちは……」
 茅は、狩野家から倉庫街に向かう道を指でたどり、そこに重なっている白い光点をクリックして、ウィンドウを開いた。
「楓と、テンとガク……見つけたの。
 才賀は、どこか別な場所にいるみたい……」
 話しながらも、開いたウィンドウを操作して、何やらタイピングをはじめた。
 そしてすぐに、茅がウィンドウを開いていた光点の色が、白から黄色に変わって、二手に別れた。
「テンとガクは、一旦、工場にいってシルバーガールズの装備を取ってから商店街に、楓は直接商店街に向かったの……」
 いいながらも、茅はなおも操作を続ける。
 商店街に近い黄色い光点のウィンドウを片っ端から開き、
「……今、商店街に近い待機者は、道具を持って商店街に集合させたの。
 残りは……さっき荒野がいったとおり、近場で集合させて、自分たちの近所を雪かきをして貰うの。
 この積雪だと、移動するのにも苦労しそうだから……」
「……なあ、若……」
 それまで、半ば呆然と成り行きを見守っていた東雲目白が、荒野に話しかけた。
「……これで、未完成だって?
 それから、ここいらの一般人は、この子は……いつもこんな真似やってんのか?」
「さっきも話していた通り、このシステムは未完成で……そして、おれの知る限り、これが実際に稼働したのは、今回が初めてだよ……。
 少なくともおれは、今、はじめて見た……」
 荒野はせいぜい真面目な顔を作って、東雲に返答する。
「最初の稼働実験としては、いい機会なの」
 いうと、茅は立ち上がり、
「着替えてくるの」
 と言い残し、物置にしている部屋に消えた。
 酒見姉妹も、慌てて茅の後を追う。
「……荒野さん……。
 おれも、早く携帯欲しくなりました……」
 そういったのは、甲府太介である。
「……ああ。
 なるべく早く、手続きを済ませてやるよ……」
 荒野はそう答えた。




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彼女はくノ一! 第五話(261)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(261)

 家を出ていくらもしないうちに、三人の携帯にメールが入った。例のボランティアに登録した者、全てに配信される「お知らせメール」だ。この日は、本来、倉庫街の近辺に放置されているゴミを片づける予定だったのだが……。
「……あー……」
「やっぱりねー……」
 テンとガクは、自分の携帯の画面を覗き込みながら、そう呟く。
「雪かきに予定変更」、と、そのメールは告げていた。
「……今日は……そっちの方が、先決ですものね……」
 楓も、メールの文面を見ながら、いう。
 周囲は、一面の銀世界。たかが十センチに満たない積雪、とはいえ、雪が降ること自体が珍しいこのあたりでは……。
「……あっ……コケた……」
 たまたま、少し先を歩いていた中年女性が、雪に足を取られて転んだ。三人は、慌ててその女性に駆け寄って、助け起こす。
 もちろん、三人は雪に足を取られる、などというへまはしない。
「……このあたりの人は、雪に慣れていないから……」
 その女性を助け起こしながら、楓はテンとガクにそういう。

 そうこうする間にも、三人の携帯に新たなメールが着信する。
「……商店街に行けってさ」
「シルバーガールズの格好で……って、一度、徳川さんの工場によらなければ駄目かぁ……」
「わたしは、直接、向かいます」
 三人は、そんなことを言い合いながら、顔を見合わせる。
 今度は、茅のメアドから直接配信されたメールだった。イベントの開催期間中であることあり、商店街の店舗が開く十時頃まで、駅周辺の道からきれいに雪をどけておきたいらしい。
 楓は、テンとガクと別れて商店街に向かう。
 その途上で、荷台に十人ぐらいの人を乗せたトラックが一度楓を追い越して、停車した。
「……松島さんも、商店街ですか?」
 運転席から顔を出した女性が、楓にそう声をかけてくる。楓は、一瞬、その女性が誰だか分からなかった。
「……おい、あの子だよ」
「最強のお弟子さんだよ……」
 が……にわかに荷台に乗っていた人たちが楓を指さしながらざわめきだしたのに記憶を刺激され、数日前、ほんの少し顔を合わせただけの人物を、ようやく思い出す。
「……敷島さん!」
 楓が、トラックに近寄りながらそういうと、
「ご名答……」
 どうみても、これから出勤するOLにしか見えないメイクと服装の女性が、自分の名前を思い出した楓に、ひらひらーっと手を振る。
 よく見ると、荷台にいるのは、あの日、工場に集まっていた一族の者たちだった。
 ちなみに、トラックの荷台に人を乗せるのは立派な交通法違反なので、よい子のみんなは絶対に真似しないでね。
「……なんなら、松島も乗っていくか?
 どうせ、行き先は一緒なのだ……」
 助手席に乗っていた、白衣姿の徳川徳朗が、敷島の体越しに、楓に声をかけた。
 楓は、トラックの運転席と荷台を交互に見て、結局、
「……遠慮しておきます。
 歩いても、そんなにかからないし……」
 と、答えた。
「そうか」
 徳川は、軽く頷いて運転席の敷島に合図し、
「……では、先にいって待っているのだ……」
 と言い残して、トラックを発進させた。
 トラックの荷台に乗った一族の者たちが、楓に手を振って小さくなっていく。
 なんとなく、トラックに向かってぼんやりと手を振り返していた楓は、トラックが見えなくなると、ポツリと呟いた。
「……いつの間に、あんなに仲良くなったんだろう……」

「……楓!」
 それからしばらく歩いていると、後の方から声をかけられる。振り返ると、茅が、酒見姉妹の二人を従えて駆けてくる所だった。
 茅たち三人に少し遅れて、荒野や甲府太介、東雲目白が後を追ってくる。
「今、トラックが停まった所、見えたの」
 楓が足を止めていると、追いついた茅が息を切らしながら、いった。
「楓の方が、先に出ていたみたい……。
 どうせ行くのなら、家の前から一緒に出て行けば良かった……」
 頬を上気しさせ、切れ切れにそういう茅を見て、楓は、
『茅様……こんな表情出来るんだ……』
 と、思った。
 楓の、茅に対する印象は、「表情の乏しい、人形みたいな」少女、というものだったが、最近の茅は、めっきり表情豊かになっていっている……ような、気がする。
「テンちゃんやガクちゃんと一緒に出たところで、メールが着いたんですけど……」
 楓は、口に出しては、そういう。
「今の軽トラ、徳川のだろ?」
 楓のいる場所まで追いついて来た荒野が、楓に話しかける。
「そうです。
 徳川さんと敷島さん、あと荷台に、この間の一族の人たちが乗ってました」
 楓は、簡潔に答えた。
「……商店街の方は、あれだけいれば十分だと思うの」
 茅が酒見姉妹に合図すると、酒見姉妹は、抱えていたノートパソコンを開いて茅に示す。
 ノートパソコンの画面には、この周辺の地図が表示されており、地図に重なっていくつかの光点が瞬いていた。
「この光点が、今、実働しているボランティアの所在を表しているの。点が大きいほど、大勢の人が集まっている。
 商店街にはこれだけの人数がすでに動いているし、それに、まだ朝早いからこの程度だけど、現在稼働している人数は、ボランティアへの登録者数の数分の一だから、もう少し時間が経てば、人数も増えると思うの。
 だから、わたしたちはこのまま、学校に行くの」
 



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(177)

第六章 「血と技」 (177)

「メイドール3」が終わると、床の上にぺたんと座り込んでいた茅は起き出してシンクにむかい、そこに積んであった汚れた食器類を洗いだす。酒見姉妹は、そんな茅をみて慌てて手伝おうとするが、「みんなでやるほどの量でもないから」と、茅に断られる。
「……今ので、いかにお前らが、普段なにもやっていないのか分かるな……」
 と、荒野は酒見姉妹のことを評した。
 おそらく二人は、自分で汚した食器を自分で洗う、という習慣もなかったのだろう。この間いっていた、「食事は外食とコンビニ」というのは、おそらく誇張でもなんでもなかったのだろう。
「……りょ、料理は……」
「……学習中なのです……」
 酒見姉妹は荒野にそう抗弁したが、果てしなくいいわけに近い……と、荒野は思う。
 第一……料理の作り方だけ覚えて、もっと簡単な食器洗い一つ出来ないようでは、日常生活を送る上で支障が多すぎるように思う。
「……若が手ほどきしてやったらどうっすか?」
 そのやりとりをにやにや笑いながら見ていた東雲目白が、からかうような口調で荒野にそういう。
「冗談」
 荒野はにべもなく東雲の提案を拒絶した。
「精神的にも、物理的にも、そんな余裕はありませんよ……」
 荒野のその言葉を聞いて、酒見姉妹が露骨に落胆するのを、甲府太介は興味深い表情で観察していた。
「……さすがは、荒野さん。
 もてるなぁ……」
「……おれの知り合いほどじゃないさ……」
 荒野としては珍しく、この場にいない人物をねたにする。
「それはともかく……太介、それと、酒見たち。
 今日、これから、時間あるか?」
「……わたしたちは……」
「……加納様の御意のままに……」
 酒見姉妹は即答した。
「おれも、今日一日は自由にしていいっていわれてます……」
「……そうか、そうか」
 荒野は満足げに頷いた。
「茅。今日の人手、三名追加な」
「わかったの」
 食器を洗い終えた茅が、手を拭きながら振り返った。
「酒見たち……その格好だと不自由するから、着替えを貸すの……」
 ちょいちょい、と、茅は、酒見姉妹を手招きする。手招きされた酒見姉妹は、顔を見合わせた。
「……着替え、はいいですけど……」
「……一体、何が……」
「これから、総出で雪かきなの」
 茅が、説明する。
「人数は多ければ多いほど、いいの。
 まさか、そのドレス姿で雪かきを……」
「……着替えます……」
「……着替え、お借りします……」
 ほぼ同時に、酒見姉妹はそういった。

「おいおい、若……」
 茅の後を追って酒見姉妹の姿が隣室に消えると、東雲が荒野に尋ねる。
「なんだよ……。
 その……総出で雪かきってのは……」
 東雲の横で、太介もうんうんと頷いている。
「……ええっと、いろいろあって、ボランティアってのをやることになりましてね……」
 荒野は、自分のノートパソコンを引っ張りだしながら、説明しはじめる。具体的なことは、ネットに接続して、アップされている情報を参照しながらするのが早かった。
「……もともと、おれたちの正体がバレてもここに留まれるように、この付近の住人にいい印象を与えようってことで立ち上げたんですが……そう決めた直後に、例の襲撃事件があって……今では、移住組と地域住民を繋ぐための方策、という位置づけに変わっていますね……。
 融和策の一環と考えれば、規模が大きくなっただけで意義自体に変化はない、ともいえますが……」
「……一般人社会に公然と溶け込むための方策……であることには、変わらないわけか……」
 一通り、荒野の説明を聞いた東雲は、複雑な表情で嘆息する。
「ええ。
 基本のコンセプト自体は変化してませんが、周囲の環境自体が急激に変化して、おかげでかなりおかしなことになっています……」
 荒野も頷く。
「……加納の後継ぎが一般人との共存実験をおっぱじめた……って噂は、表面的な部分しか伝えてないな……」
「……噂なんて、そんなもんでしょ……」
 荒野は、肩を竦める。
 いつの間にか、東雲と太介以外に、茅のジャケットとジーンズに着替えた酒見姉妹までもが、真剣な面もちで荒野の説明を聞いていた。
 茅は、自分のノートパソコンを開いて、なにやらタイピングしている。
「……荒野」
 荒野の話しがひと段落した、と思ったのか、茅が顔をあげて荒野に告げた。
「人数に比べて、道具が不足しているの。
 玉木が、商店街とか付近の学校に掛け合って、スコップとかをかき集めているけど……」
「……そっか……」
 荒野も、思わずそんな気の抜けた声をだした。
「……いきなり、だったもんなぁ……。
 徳川の所で、なんか用意できるかな……」
 そういって荒野は、携帯を取り出す。
 徳川の工場には、金属屑や溶接に必要な道具もあるから、多少は用意できるかも知れない。あるいは、相談さえすればもっといい方法を考えてくれるかも知れない。
「……自宅にスコップとかある人は、それを使って自宅の周囲からはじめるようにメールを出したの」
 キーを忙しくたいぷしていた茅が、荒野に告げた。
「……道具より人が多いなら、ブロックごとにわけて人集めて、交代しながらやってもらった方がいいんじゃないか?」
 呼び出し音が鳴っている間に、荒野は茅に向かって、話す。
「……あっ。出た……。
 って、あれ? そっち、徳川君の携帯ですよね?」
 疑問の声を上げたのは、出てきたのが女性の声だったからだ。
『……やだなあ、若。
 わたくし、敷島丁児ですよ……』
 徳川の携帯にでた女性の声が、そう答える。
『……わたくしども、徳川さんの工場をここでの根城にしていますから、その恩返しに、秘書代わりをやらせてもらっています。
 徳川さん、基本的にルーチンな事務仕事、お嫌いですから。おかげさまで喜んで頂いております……』
 性別不詳の人物が、電話を通じて、意味ありげに笑う。
「あいつ……自分の興味がある事以外、全然、無頓着だもんなぁ……」
 荒野は、徳川の性格を思い返して、ため息をついた。
「……まあ、いいや。
 そっちの工場にたむろしている連中で、溶接とか出来るの、何人かいないか?
 それが出来ない奴らは、手が空いていれば、雪かきを手伝って欲しい……」
『……例のボランティアですね。
 わかりました。この土地にいる一族の者に、その旨、通達します』
 徳川の工場に居着いているだけあって、こちらの内情もかなり詳しく知っているらしい。荒野としては、その方がありがたかったが……。
「……なんだ、仁木田さん。
 さっそくこっちに流入してきた連中、組織化しているのか……」
 仁木田の動きは、対応が素早くて、同時に抜け目ない。
『……組織化なんて、そんな大げさなものではないですよ……。
 あちこちから流れてきた寄せ集めですし……。
 ただ、連絡先をまとめておいただけで……だから、こちらの意志を伝えることは出来ますが、それ以上は、保証できませんよ……』
「それでいい。声をかけてくれるだけで十分だ。
 一応、人手だけならこっちも相応に集まりそうなんで……」
『……手よりも道具の方が足りない感じですか……』
 敷島丁児は、それなりに頭が切れるらしい。受け答えが素早く、いちいちしっくりとくる。
「そういうこと。
 徳川に、手伝う気があったら、知恵を借りたいと伝言しておいて……」
『……了解しました。
 一族の関係者には、手伝う気があったら、ボランティアのサイトに登録して、一市民として参加するよう通達します。
 もっとも……今更いうまでもなく、登録している者は多そうですが……』
 荒野が通話を切ると、全員が荒野の顔を見つめていた。
「道具については、どれだけ集まるか分からないけど、できるだけの手配はしておいた」
 荒野はその場にいる全員に向けて、そう告げる。
「あと、一族の者も、すでにかなりボランティアに登録しているそうだ。
 人員の配置やなんかは、茅、任せたからな……」




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彼女はくノ一! 第五話(260)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(260)

 テレビ番組「奉仕戦隊メイドール3」が終わったのを機に、まったりとお茶を飲んでいた香也が立ち上がって玄関の方に歩いていく。他の炬燵を囲んでいた他の住人たちもぞろぞろと立ち上がって、それまでののんびりとした雰囲気から、にわかに忙しない風情に移っていった。
「……なに、今日は、みんな休みなんじゃあ……」
 小埜澪が、狼狽した声をあげる。
「……わたしのお仕事は、土日関係ないっすから……」
 そういって片手を上げたのは、羽生譲である。いいながらも羽生は、身支度を整えるため、自室に引き上げていく。
「ほかの人たちも、いろいろ用事あるし……」
「みんな、すぐ出ていくから、手早く掃除だけでも……」
 テンとガクはそんなことをいいながらも、掃除機や雑巾掛けの準備をしている。二人とも、いつもやっている手慣れた作業だから、手際が良かった。
「……わたしは、お洗濯……洗濯機、回しておきます……」
 楓が、そういう。
「香也様の、お昼の用意をしておかなければ……」
 孫子が、台所に駆け込む。
 香也はおそらく、また一日中プレハブに籠もっているのだろうが、楓も孫子も、外出する用事があった。台所に食べ物を用意しておけば、この家に、他に誰もいなくても、香也が飢えることはないだろう。
「そ、そうか……」
 小埜澪は、急な雰囲気の変化に戸惑いながらも、そういって頷いた。
「じゃあ……せめても、掃除の手伝いでもしていくかな……。
 あれ、食事とか風呂とか、世話になった分でも……」
 誰も、「お構いなく」などといって、小埜澪を止めはしなかった。
 別に手を抜いているわけではないが、この家は、住人の数に比べていささか大きすぎるので、気を抜くと、どこかの隅に埃がたまっていたりする。掃除を手伝ってくれる、という申し出は、実の所、ありがたいのだった。

「……んー……」
 いつもの通り、プレハブ入って、古ぼけた灯油ストーブに灯油をくべる。イーゼルの前に座り……そこで香也は、腕を組んで、一人、うなり声をあげはじめる。
 今朝は、孫子とのアレとか、楓とのナニとかの件で、香也もいろいろと動揺していた。
 雑念が多すぎて、いつものように、平静な気分で、キャンバスに向かい合うことが、できそうもない……。
「……んんっ!」
 一人、しばらく唸り続けた香也は、自分の頬を両手でぴたぴたと軽く叩いた。
 そして、いそいそと絵筆の準備をしはじめる。
 今ここで、一人で考え込んでいても、何も解決しない……ということは、確かだった。
 そもそも、香也は、人間関係について考察する事が得意ではない。考察するのに必要な経験や知識にも、事欠いている有様だ。
 楓や孫子のことを、ここで一人、くよくよ悩んでいたところで妙案が浮かぶとは思えない。それこそ、下手な考え、休むに似たり、だ……。
 そう思った香也は、「考えること」をやめ、「今、自分に出来ること」に専念することにした。
 香也は、イーゼルの上にスケッチブックを立てかけ、鉛筆を走らせる。
『……所詮……』
 と、香也は思う。
『……所詮、今のぼくに出来るのは、せいぜい、この程度のことでしかないんだ……』
 現在の香也には、絵しか、取り柄がない……と、香也自身は、思っている。
 で、あれば……。
『……彼女たちの今を、紙に焼き付ける!』
 自分に好意を寄せている楓や孫子に対して、今の香也ができるのは、そんなことくらいだ……と、香也自身は思っていた。

 まず、最初に、勤務先のファミレスに羽生譲が出勤し、次に楓とテン、ガクの三人が「ボランティアに行く」といって出かけた。最後まで残った孫子も、「……所用がありますので……」と言い残して家を出ていく。
 庭にこの家の息子が残っているとはいえ、初対面の小埜澪一人を残して平然と母屋を空ける。この家の住民は、揃って人がいいのか、図太いのか……。
 最年長の羽生譲は、「いたければ、別にいつまでいてもいいけど……」といい、テンとガクは「ご飯食べたんだから、その分働いていって……」と遠慮なく小埜澪をこき使った。楓は楓で、家を出る間際に「昼以降もここに残るのなら、お昼の時間に、庭のプレハブに香也様を呼びにいって貰えますか? 香也様、夢中になると時間がたつのも忘れちゃうから……」と言い残し、孫子は、「もし、香也様になにかあったら、その時は……」と、意味ありげに微笑んだ。
 そんなわけで小埜澪は、まだ早い時間に一人ぽつねんと母屋に取り残される。全員が出払っても、まだ九時前だった。日曜のこの時間、ということであれば、普通の学生や勤め人の多くは、まだ起きてさえ、いないかも知れない。
 とりあえず、小埜澪は洗濯機から洗濯物を取り出し、それを風呂場の脱衣所に干す。いつもは外に干すそうだが、今日のように雪が積もったり雨が降っているときは、ここに干すのだ、と、そう聞いていた。確かに、脱衣所の天井付近に、洗濯物を干すのに適したひもが張り巡らされている。
 洗濯物を干し終えると、小埜澪は、廊下の雑巾掛けをはじめた。掃除に関しては誰に頼まれたというわけでもないのだが、ここの住人が出払っている最中に台所や冷蔵庫をいじくり回すよりは抵抗がない。それに、体を動かすことが好きな小埜澪は、この家の古風な板張りの廊下を、端から端まで雑巾掛けしていくと、無心になることができた。家自体が広いので、雑巾掛けもやりがいがある。他の住人が出払っていて、誰にもぶつかる心配がなく、のびのびと雑巾を掛けることができた。
 各部屋については、さすがに立ち入るのはばかるので、掃除をするのは遠慮しておいた。荒神も、週に何日か寝に帰る……とは、聞いていたし、荒神の部屋がどこになるのか、気にならないでもなかったが……どうせ、あの人のことだ。最小限の荷物しかなくて、がらんとしているだけだろう……とも、思う。
 廊下の掃除が終わって、居間にもはたきと掃除機をかけ終わると、ようやく昼になった。
 これまた古風な、ゼンマイ式の柱時計が「……ぼーん……ぼーん……」と時を告げたので、ふと見上げると、短針と長針が真上を指して重なっている。
「……もう、こんな時間か……」
 ひとりごちて、「そういや、この家の息子を呼びにいくんだったな……」と、楓にいいつけられたことを思い出した。
「そういや……庭にいるとか……」
 いっていたな、と思いながら、小埜澪は玄関に出て、そこで適当なサンダルを足にひっかけ、外に出る。
 玄関を空けた途端、外気の冷たさに首を竦めた。
「……寒い、寒い……」
 と首を竦めながら、小埜澪は雪を踏んで庭へと回る。一般人とは違い、寒さにもそれなりに耐性がある身だが、そういう態度をとることが習いになっている。
 玄関を出て、母屋にそってぐるりと回れば、すぐに庭に出た。大きな家、といっても、決して豪邸といえる規模のものではない。庭や敷地の広さ、標準よりは確かに広めであったが、やはりそれなりのものだった。
 物干し台の他に、ぽつねんと建っているのは、どうみても物置にしかみえないプレハブだった。
 それ以外に、「庭のプレハブ」らしきものはないから、何故かモテモテのこの家の息子は、この中にいるのだろう。
「……おーい、息子さんやー……。
 ご飯の時間ですよー……」
 そう声をかけながら、小埜澪は、プレハブの中に入る。
 香也は、小埜澪が入ってきたことに気付いたのか気付かないのか、顔も上げずに一心不乱に鉛筆を走らせている。
「……おーい……。
 聞こえてるか……」
 いいながら、小埜澪は、ずかずかとプレハブの中に入り込んで、香也の背中から香也の手元を覗き込んだ。
 これで本当に聞こえていないのなら……本当に、たいした集中力だな……と、思いながら。
 そうして香也の手元を覗き込んだ小埜澪は、
「……わっ!」
 と、驚愕の声をあげる。
 香也が広げているスケッチブックには、大小さまざまな楓と孫子の裸体がひしめき合っていた。
 それも……いわゆる、芸術的なポーズをつけた裸像ではなく、人目でそれとわかる、媚態や狂態を示した、楓や孫子が。
 おそらく……香也との行為の最中の記憶を頼りに、その時に見た二人を、紙に起こしているのだろう……。
 それ以外に解釈のしようがない絵を、真剣な顔をして、この家の息子は描いていた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(176)

第六章 「血と技」(176)

 その朝の朝食の様子を、甲府太介は畏れと驚きをもって見守っていた。太介自身は、下宿先で朝食を摂って来たので、ソファに腰掛けてお茶だけを喫している。
 荒野が痩身に似合わぬ大食らいだ、とうことは知っていた。が、その荒野に負けず劣らずの健啖ぶりを発揮しているのが、痩せているばかりではなく、背も小さい。年下の太介とそう変わらない背格好の、酒見姉妹だった。実年齢よりも幼く見えるほどだが……実に、よく食べる。
 トースト二枚とサラダを平らげただけで「ご馳走様」とテーブルから降りてソファへと移動したのは、東雲目白だけだった。
 茅は、残りの欠食児童たちに食物を用意するのに忙しく、トースターだけでパンを焼くのが間に合わないので、フライパンを持ち出してフレンチトーストも作り出した。
 養成所にいた時、当番制で食事の用意をした経験がある太介が「手伝いましょうか?」と立ち上がると、即座に茅に「お客さんだから、いいの」と断られた。
 そうして小一時間ほどして、怒濤のような食事がようやく終わった……と、思ったら、今度は酒見姉妹が「ケーキ!」をリクエストした。自分たちが土産に持ってきたものだ。
 それを聞いた太介は、ソファの上でずっこけそうになった。
 ……まだ食うのかよっ! と、内心で叫び声をあげる。
「……甘いものは、別腹だしな……」
 荒野までがそんなことをいって、茅がいれた紅茶を啜っている。
「……お前、そんなに驚くことか?」
 太介が愕然としている様子を、東雲は面白そうに眺めていた。
「うちとこのお嬢もこんくらい食うから……これくらいが二宮系の標準だと思ったけど……一応、お前も二宮系だろ?」
 太介は、ぼんやりと頷く。
 この場にいる中で、荒野、酒見姉妹、そして、太介自身が、二宮の血を引いていることになる。
「「……傍流……」」
 酒見姉妹が、声を揃えて太介を指さした。
「……まあ、同じ二宮系でも、個人差が大きい、ということだな……」
 東雲は、そういって紅茶をすする。
「そういわれても……おれ、他の二宮、ほとんど知らないし……」
 太介は早くに両親と死に別れて、養成所で育っている。養成所にいる大半の者は、楓のように資質を認められた孤児であり、太介のような一族の出身者は、どちらかというと少数派だった。
「……二宮だ、一族だ、といっても……一人一人、違う……」
 東雲は、同じソファに座る太介を横目でみて、にやりと笑った。
「お前さんがまだ何も知らない、白紙の状態なら……余計な先入観なんか、持たない方がいいな。
 一族も一般人も……多少の差こそあれ、同じ人間だよ……。
 細かい差など、あまり気にしなさんな……」
「……それ……アドバイスってやつですか?」
 太介が、隣に座る東雲に顔を向ける。
「……そ。アドバイス。
 年上の先輩のいうことは、素直に聞いておきなさい……」
 東雲は、にやにや笑いを浮かべたままでそういったので、どこまで本気で太介に忠告しているのか、太介には判断できない。それに、先ほどの、食事前のやりとりからも分かる通り、この中で、東雲という男が一番、得体が知れない存在だった。
「……いちおう、聞いておきます……」
 太介としては、そう答えるほかなかった。
「……結構、結構」
 東雲は、そういって大仰な動作で頷いた。
「他人のいうことは、鵜呑みにしない。
 一応聞いておいて、後で真偽を自分で確かめる……正しい態度だ。特に一族の間で、化かし合いや騙し合いは日常茶飯事だからな……」
 まるで、「自分のいうことは、信用するな」といっているようにも、聞こえた。
 メイド服の茅が、そんなことを話している太介と東雲の前を通って、とことことテレビに近づき、スイッチを入れる。
 騒々しくて馬鹿馬鹿しい歌詞のテーマソングが流れ、テレビの画面に「奉仕戦隊メイドール3」のロゴが大写しになる。
 茅はそのまま、テレビの直前の床に、ぺたん、と座り込んだ。
「……この番組、茅が大好きなんだ……」
 その場にいた連中があっけにとられているのを見て、荒野がそうフォローする。
「毎週、楽しみにしている……」
「……ま、まあ……」
「……趣味は、人それぞれですし……」
 酒見姉妹は、戸惑った口調でそういいながらも、じっとお子様向けテレビ番組に見入っている茅から不自然に視線を逸らしている。
「……例のあれ、ネットでやっているシルバーなんたらってのも、この子の発案か?」
 東雲は、荒野に向かってそう尋ねた。
「あれ……一族の間で、かなり話題になってるぞ……。
 こっちの新種は、とんでもない目立ちたがりだって……」
「シルバーガールズは、おれの預かり知らないところでいつの間にか動いていた企画だから……おれは、詳しい事情を知りません……」
 荒野は、正直にそう答えておく。
「……でも……。
 どう、ですか?
 その、一族の間では、あれ……感触っていうか……」
「……賛否両論、ってところだな……」
 東雲は、荒野の眼を正面から見据えて、そういう。
「やつら新種が勝手にやっていることだから、一族には関係ない……って意見もあったが……仁木田の一党までもが、顔出しで出ているからなぁ……。
 あれ、これから、本格的なリアクションがでてくると思うぞ……」
「……そうっすよねぇ……常識的に、考えれば……」
 東雲の見解を耳にして、荒野は、そっとため息をつく。
 本心では「あいつらが勝手にしたことだから」といいわけしたい所だったが……外から見れば、荒野とテンやガクは、つるんでいるように見えるだろう。行きがかり上、とはいっても、テン、ガク、ノリの三人、いわゆる「新種」たちの世話を、荒野が焼いているのは、一族の中では周知の事実だった。
「ま……そっちの方は、できるだけ奴ら自身に始末つけて貰いましょう。
 奴らだって、それなりに考えなしってわけでもないし……」
 そういいながら荒野は、「……考えはあっても、世間知らずな所もあるよな……あいつら……」とか、思っている。
「……加納の若も……ご懸念が多そうだ……」
 東雲は、そんな荒野の考えを見透かしたようなことをいう。
「……懸念っていうか……」
 荒野は、真面目な顔をして、頷いた。
「個性的なやつらばかりで、次に何が起こるか、まるで予測がつかないので……先のことを懸念している暇もありません」




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彼女はくノ一! 第五話(259)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(259)

 小埜澪というお客を迎えたこともあり、その日の朝食はかなり賑やかなことになった。テンとガクも、「朝飯前」に活発な運動をしたせいか、いつもよりテンションがあがっている。楓と孫子、それに羽生は、小埜澪の質問に答える形で、ここでの生活について、特に、荒野が「一般人の中で、自分の正体を隠さずに暮らす」という選択をした経緯について、また、その事に、周囲の人々が示した反応について、詳細に語った。
「……そうか……。
 思ったより、その、無理矢理ってわけではなく……それなりに、受け入れられているんだな……」
 一通りの説明を聞いた小埜澪は、愛想よく笑いながら、頷いた。
「それについては……荒野様は、いつも、運がよかった、回りに恵まれていた……と、申しております」
 楓も、小埜澪の言葉に頷く。
「回りに恵まれていた……というより……あの学校も、たいがい、変人の集まりですから……あまり目立たなかったというだけではありませんの……」
 といったのは、孫子だった。
 おそらく、玉木や徳川のことを想起しながら「変人」という語彙を使用したのだろうが、自分のことを度外視しているのは相変わらずだ。
「いや、楽しい学生生活で、なによりだ」
 小埜澪は、真面目な顔をして、孫子に頷いてみせる。
「わたしは、学校というものに通った事がなかったからなぁ。なんか、堅っ苦しい場所、というイメージが先行していて……回りにも、通えと強要してくる大人がいなかったし……。
 そういう楽しそうな場所だと分かっていれば、素直に通ったのだが……」
「……う、うちの学校は……結構、特殊な例で……一般的な学校とは、少し違うと思いますけど……。
 生徒も先生も、ちょこっとづつ、変わっていますし……」
 楓は、少し引き気味になって、小埜澪にそういう。
 ここで、「学校」についての間違ったイメージを持って欲しくなかった。
「……普通の学校は……学生の中にマッドサイエンティストがいたり、放送部が大がかりなネット配信とかしたりしませんし……」
「……つまり、君たちの学校だけが、例外的に面白い場所だ、と……」
 小埜澪は、真面目な顔をしてうんうんと頷く。
 その、小埜澪の表情をみて、楓は、どんどんどつぼに嵌っていくような気分になってきた。本能は、楓に「危険」と告げているのだが、何がどう「危険」なのか、イマイチ明瞭にわからないもどかしさを、楓は感じている。
「……学生、いうても……おねーさんの年齢だと、大学生くらいっしょ?
 外見的に……」
 羽生譲は、小埜澪の外見から「自分より少し年下、くらいかな」と見当をつけていた。「柏の姉の方とか、この間の、グラサンのお茶おねーさんとかと同じくらいかな」と。
「……あー。
 そっかぁ……年齢的には、確かに大学に通っていても、おかしくはないなぁ……わたし……」
 当の小埜澪は、他人事のような口調で、そんなことをいう。
「っていっても、大学は、ちょっと雰囲気が違うっていう話しだし……。
 普通の社会とあまり隔たりがなさそうで、かえって面白くなさそうだ、というか……」
「……大学は大学で……普通の社会人になる前の、不完全な大人としての猶予期間としての魅力があると思うけど……」
 そういう羽生自身は、家庭の事情もあって、大学には通っていない。
「小埜さんの場合は、そういう途中過程すっとばして、立派に社会に根ざした生活をしているわけだから……それで、いいんじゃないですか?」
 そういう羽生は、自分の祖父の代まで限りなくグレーな家業に従事していたので、一族の仕事に関しても、特に賎業であるとは見なしていない。どんな汚れ仕事でも、ニーズがあるから存在できる、という考え方で、そうした仕事が存続できる社会構造のことを度外視して、実際に手を汚している者だけを蔑視するのは、あまりにも自分本位すぎる価値観だ……という考え方だった。
 荒野や小埜澪が、過去、あるいは現在、どんなことをやっていても……自分個人の欲望を解消するために世の中の規範を徒に乱すのと、「仕事」として請け負ったことを割り切って遂行するのとでは、意味や重みが異なる……と、羽生は思っていた。
「……まあ……社会に根ざしているといえば……それは、そうなんだけどね……」
 一族の仕事をそのようにいわれてしまうと、小埜澪も、苦笑いするしかない。
 小埜澪が請け負うのは、主として荒事、つまり、流血沙汰になりやすい仕事であるわけだが……一族が介入した場合と、介入しなかった場合、両者を比べてみれば、前者の方が、よっぽど「スマート」で、「全体の被害が最小限に抑えられる」、というのは、確かに事実なのだ。
 そうした事実を積み重ねて、信頼を築いて来なかったら……一族はここまで存続しておらず、当の昔に干上がっている。どんなに卓越した能力を持っていても、それを役立てる方策を持たなければ、飢え死するだけだった。

 そんな話しをしながらの朝食が済んでも、なんとなく皆で居間に居座っていた。
 ガクがテレビをつけると、ちょど「メイドール3」がはじまるところだった。時期的に、「メイドール3」は、最終回直前の、最後の盛り上がりの回だったので、見逃すことが出来ない。
 食器を片づけた羽生や楓が、そのままお茶を用意する。
 とはいって、茅や野呂静流がいれるような、凝ったり高級だったりするわけでもなく、普段飲んでいる平々凡々たるお茶を、特に工夫もなく急須で湯飲みにわけていれるだけだったが。
「……こういうの、落ち着くよね……」
 湯飲みを傾け、そのような「ごく普通のお茶」に口をつけて、小埜澪はそういう。
「それから……彼女たち、こういうのやっているんでしょ?」
 と、「メイドール3」を映し出しているテレビと、その番組を食い入るように見ているテンとガクを指さす。
「……やってる、やってる」
 番組に夢中で答える余裕のない二人に変わって、羽生が答えた。
 編集が終わった端から、ネットで配信しているので、隠しようがない。「シルバーガールズ」関連のコンテンツは、テンとガクが語学に堪能なのをいいことに、英語と中国語のナレーションや字幕をつけたバージョンも同時に複数の動画共有サイトにアップしている……ということを、羽生は知っていた。
「……なんか、全世界規模で、ごくごく狭いマニア層に受けがいい、ってタマちゃんがいっていたな……」
 その「シルバーガールズ」が、今後、どのような波及効果を生んでいくのか……この場にいる人間の中で、そのことを予測できる者は、誰もいなかった。




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