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2006-01

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彼女はくノ一! 第三話 (12)

第三話 激闘! 年末年始!!(12)

 その日、狩野香也は朝食をすませると、そそくさと庭にあるプレハブに引きこもる代わりに、庭に出てベニヤ板にペンキを塗り立てる作業を開始した。明日からの駅前のイベントで使うものである。舞台美術、とかいうやつで、楓や孫子の舞台の背景になるはずの代物だった。一応、絵の範疇には入るので、香也にまかされている。ペンキを扱うのははじめてであまり自信はなかったが、香也に仕事を割り振った羽生譲は、当然のように強気で、香也自身以上に、香也のことを信頼しているようだった。
 三時間ほど描いて、いつの間にか昼になり、松島楓に呼びに来られ、昼食をとることになる。プレハブへ籠もりがちな香也への連絡係は、以前なら、だいたい羽生譲、譲が不在のおりは狩野真理が行うことになっていたが、最近……というより、楓がこの家に住むようになってからは、楓の仕事になっている。誰かが呼びに来ない場合、香也は腹が減ってどうしようもなくなるまで、何時間でも黙々と絵を描いている。
 居間に入ると、羽生譲や才賀孫子とかの同居人たちのほかに、加納兄弟も来ていて、家具調の大型炬燵にようやく収まりきるようなけっこうな人数での、賑やかな食事となる。少し前まで、この大きな家には、不在がちの主人を除いて三人の住人しかおらず、それを考えると、嘘のように賑やか光景だな、と、香也は思う。
 忙しそうに台所と居間を往復する狩野真理は、忙しそうにしながらも、結構、嬉しそうだった。
 ……真理さん、基本的に、人の世話を焼くの好きだしな……。

 食事を終えると、まず、あちこちに用事があるという羽生譲が席をたち、これから買い物に行く、といって、加納兄弟もそれに続く。それを機に、香也も庭に戻ったのだが、羽生譲も同行して、ベニヤの背景絵について二、三やりとりし、「その程度でいいよ」ということになって、香也は、後片付けをした後、プレハブに向かった。
 しかし、それからすぐ、三十分もしないうちに、呼び戻されることになる。
「……えっとぉ……」
 いつもは元気よく飛び込んでくる松島楓が、なぜか、引き戸を三十センチだけ開き、顔だけを覗かせている。
「……そのぉ……制服、届いたんですけど……」
 しばらく躊躇した後、そういってようやく全身を見せた。
 たしかに、香也の学校の、ブレザー・タイプの制服を着た松島楓が、そこに立っていた。

 楓に即されて居間にいくと、同じように制服姿になった加納兄弟と才賀孫子、それに、私服姿の、見慣れない顔の男女のペアがいた。
「へぇ? みんなうちの学校に転入してくるの? 来年から?
 ふーん……別嬪さんの転入生、団体様でお着き、だなあ……。
 新学期になったら、学校のやつら、騒ぐぞー」
 見慣れない顔の、女性のほうがそういったので、どうやら香也と同じ学校の生徒であるらしい、と、判明する。基本的に香也は、総じて他人への関心が薄く、クラスメイトの顔さえ、ろくに覚えていない。
 軽く自己紹介しあうと、
「知っている知っている。よく樋口と連んでいる子でしょ」
 と、いわれた。
「樋口とは部長会で一緒になるしな。クラスは違うけど、向こうは文化部代表、こっちは運動部代表みたいな感じになっているんで、それなりに話すよ。早く君を落として年の差カップルをカミングアウトして仲間になろう、とけしかけている」
 香也本人を目の前にして、あっけらかんとそういいはなち、ははは、と笑う。
 飯島、と名乗ったその少女は、くるくるとよく表情が変わり、加えて、加納荒野への対応などを見ても、繊細な心遣いもできる性格のようで、香也は、好感をもった。加納兄弟と同じマンションに、父親と二人暮らしだという。同伴している栗田という少年と、付き合っているらしい。

 その後、三学期から香也の学校に通うことになっている加納兄弟、松島楓、才賀孫子の制服姿を、じっくり検分したわけだが……正直、彼らは似合い過ぎている、と、思った。
 というより、今まで身近に話すことが多いのであまり意識することがなかったが、こうして、日常的に見慣れた学校の制服に身を包んでみると、改めて、「……美男美女揃いじゃないか……」ということに気がつかされる。

 エキゾチックな顔だちに、ちょっとワイルドな雰囲気を漂わせつつ、その実、にこにこと愛想のいい、加納兄。
 対照的に、腰まで届く黒髪を背負い、純和風な雰囲気を漂わせる加納妹。
 女性らしい曲線的な体のフォルムと、健康的に頬を輝かせる笑顔がまぶしい、松島楓。
 きゅっと切れあがった目尻と強い目線が印象的で、胴体が短く手足が長い、日本人離れしたプロポーションの才賀孫子。

「彼らが揃って外を歩いていると、さぞかし壮観だろうなあ……」という思いと、
「……同じ制服を着て並んで歩くと、ほかの生徒たちが霞んでしまうだろうな……」という思いが、交錯する。

 迂闊といえば迂闊だが、他ならぬ香也自身が、新学期から、彼らと肩を並べて登校することになる、ということには、この時の香也は、思い至らなかった……。

 加納兄弟が「買い物にいくから」といって狩野家を辞したのを機に、飯島舞花と栗田精一のカップルと香也自身も外にでる。
 庭のほうに歩いて行くと、「へぇ。そっちで絵を描くんだ。家でも。熱心だねえ。今度、絵を見にいっていいかな?」と、飯島舞花に声をかけられる。
「好奇心旺盛な人だなあ」と内心で思いつつ、香也は、とりあえず、「……んー……どうぞ」と答えておいた。社交辞令、という可能性がある。いや、そうである可能性の方が、高い、と、香也は判断する。
 基本的に香也自身は、自分の絵や才能に対して、過小評価する傾向がある。

 それからプレハブに戻って作業を再開したわけだが、なぜか、いつもに比べて集中力が続かず、早くも四時前後には、「……そろそろ休もうかな……」という気分になってしまった。基本的に香也は、マイペースかつゴゥイング・マイ・ウェイな人間だが、時折、年に数回は、気が乗らない日もある。
 午前中、慣れない作業をしたためか、同人誌での作業の疲れが抜けきっていないのか、それとも、最近の環境の変化が、ようやく精神的な疲労として現れてきたのか……。
「……考えても、しかたがないか……」
 香也はのろのろと後片付けをしはじめ、プレハブを後にする。気が乗らない時に描いても、ろくな成果を出せない、ということは、経験上、よく分かっている。
 母屋に戻ると、狩野真理が食事の支度をしているところだった。
「あら、こんな時間に? 珍しいわね。もう沸いているから、先にお風呂はいっちゃいなさい」
 といわれ、「……んー……」と生返事をして、浴場に向かう。
 最近、人口が二倍ちかくになった関係で、風呂に入るタイミングが難しくなってきた。いや、他の住人は全員女性だから、多少ブッキングして一緒に入ることができるが、香也の場合、流石にそういうわけにもいかない。
 入れるときに入っておくのが、確かに得策だった。
 服を脱いで湯船に浸かると、「……ふぅー……」とため息が漏れた。寒い、ということもあるが、基本的に香也は長風呂である。絵を描いている時の次くらいに、いつまでもぬるま湯に浸かって、うとうととしているのが好きだった。幸い、狩野家の浴室は、この家の以前の持ち主の普請道楽を反映してか、個人住宅のものとしては、不釣り合いに大きい。浴槽など、大人二人が同時に入って手足を伸ばせるほど大きく、夏場など、狩野真理から「ガス代節約のため、シャワーのみ」の令がでるほどである。
 そんなわけで、頭だけを外に出して、お湯に浸ってうとうとしていると、いきなり脱衣所の戸がガラリと開き、

「じゃーん! ひっさびさのお風呂イベント発生!」
 と、素っ裸の羽生譲が入ってきて、香也が反応する間もなく、どぽん、と、浴槽に飛び込んできた。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第三章(7)

第三章 「茅と荒野」(7)

 その日から荒野は、外出する時はニット帽を深くかぶり、髪の毛を隠すようになった。目立つ髪さえ隠せば、「ちょっとハーフっぽい顔立ちの少年」で通る。国籍不明な外見が変わるはずもなかったが、「マンドゴドラの猫耳少年」として目立つよりは、はるかにましに思えた。
 ……今更、ではあるが。

 前後して、茅のほうにも変化があった。
 同人誌の制作を体験して以来、マンガに興味をもったらしく、最初は図書館や三島百合香の蔵書を漁り、それらを読み尽くすと、今度は狩野家に頻繁に訪問し、羽生譲の蔵書を読みふけるようになった。もともとそういう趣味を持ち、長年この家に住んでいる羽生譲は、数千冊単位の膨大なマンガ本を所有していた。
 羽生譲は、
「そうかそうか。茅ちゃんもこういうの好きか」
 といっただけで、茅が好きなように読み漁ることを許容した。
「うちのこーちゃんは、こーゆーのあんま興味ないみたいでねー。張り合いなかったから、同好の志が増えてくれてうれしいぜ。ま、好きに読んでってくれ」
 単純にその頃、彼女が茅に構ってやれるほど暇ではなかったから、かも知れないが、そういって気軽に放置してくれた。
 この日から茅は、狩野家に気軽に出入りすることになる。
 ……まあ、それまでもあんまり遠慮しているようにも思えなかったが。

 羽生譲が多忙なのは、商店街が主催するクリスマス・ショーのイベントが、明日から始まるためでもあった。明日からの三日間、駅前に特設されたステージで、サンタとトナカイの恰好をした才賀孫子と松島楓が跳んだり跳ねたりする、という予定で、その日も、午前中に、二人と軽く打ち合わせをし、歌や振り付けを教えた後、軽く食事を済ませ、さっさと外に出ていった。
 聞けば、何日も徹夜を続けた直後で、流石に、作業終了後、一日だけは起きてこれなかったらしいが、それでも今ではこうして飛び回っている……。
 細く見えるのに、結構タフな人だな、と、荒野は思った。

 狩野真理に是非にと引き留められ、茅とともに狩野家の人々と昼食を取ってから、二人は狩野家を後にした。この日は午後から、二人で買い物にいく予定だった。
 一旦、マンションの駐輪場に戻り、そこで二台の自転車を取り出しているところで、
「あ。ほら、セイッチ。あの二人だ! やぱりそうだよ!」
 という声が聞こえてきた。
 振り返ると、自分らとさして変わらない歳恰好の少年と少女がこっちに近づいてくる。
「や、や。どうもどうも。はじめまして。
 えーとぉ……このマンションに住んでいる、飯島舞花。それと、こっちは、栗田精一。
 っていっても、こっちのほうは結構、お二人さんのこと、みかけているけどね。一方的に……。お二人さん、目立つから……。
 きみら、商店街の外れにあるケーキ屋さんのCMに出演してたでしょ? で、さらにいうと、こっちのお兄さんは……」
 しなやかに手をひらめかせ、荒野の頭から、ニット帽を取る。
「ほら! この色!
 ちょっと前、ゴスロリとニンジャが戦いながらマンションの前、ばーっと、通っていった時、カメラ持って凄い勢いで追っていったお兄さん、この人だよ!」
 こうして間近に対面してみると、飯島舞花は荒野よりも背が高かった。均整がとれた体つきをしているので、少し距離をとると、あまり大きくは見えないのだが。
 そして、連れの栗田精一という丸顔の少年は、茅よりも背が低かった。

「ってことは、あれだよ。やっぱ最近お隣りに住み始めた美人さんが、あの、サンタとゴスロリの人だよ! 顔、そっくりだし!」
 荒野がどうやってごまかそうかと思案しているうちに、飯島舞花と名乗った少女は、荒野と茅をそっちのけで、連れの少年に自説をまくし立てている。
「あとあと、あの、まるっこいトナカイさんのほうも怪しいと思うね。やっぱりいつの間にかお隣りに住んでいるし、顔はわからないけど、体つきなんかはあの時のニンジャとそっくりだし!」
 ……これは、適当にごまかし切れるレベルではないな、と、判断した荒野は、観念して、二人を出てきたばかりの狩野家へと案内した。
 まだ、松島楓と才賀孫子の二人は、食後のお茶をしているはずだ。

「……というわけで……」
『……なんでおれがこんなことしなければならないんだ……』
 そんなことを思いながらも、荒野は飯島舞花と栗田精一の二人を、松島楓と才賀孫子の二人に引き合わせた。
「こちらが、トナカイと、同時にニンジャでもある、松島楓。
 で、こっちが、ゴスロリで、同時にサンタな、才賀孫子。
 もうごまかせないと思ったから紹介したけど、どうしてああいう恰好していたのか、とか、なんであんな動きができるのか、とか、そういうことは問いつめないでくれ。こっちもいろいろ、深い事情があるわけだし……」
「ん。わかった」
 飯島舞花という少女は、自分の推測が正しかったことが証明されただけで満足したようで、あっさりと頷いてくれた。
「で、お兄さんとその子は? 正体なんてどうでもいいから、名前。
 なんて呼べばいい?」
「加納荒野と、加納茅。一応、兄弟」
「一応? ……わけあり、なんだ?」
「うん。わけあり。これ以上は聞かれても、答えられない」
「……ひょっとして……三島先生と仲いいのも、そっち関係の事情?」
 同じマンションに住んでいるのなら、一緒にいるところを目撃されていてもおかしくはない。
「……まあね。やっぱり、詳しくはいえないけど……」
「……そっかぁ……。
 あの先生の知り合いだから、って、今まで敬遠して声かけなかったけど……なんかお兄さん、マトモそうなんで、安心した……」

 ……生徒にどういう目で見られているのだろろうか、あの先生は……。いや、なんかわかるような気もするけど……。

 そんな経緯で軽い自己紹介大会になり、そうこうしているうちに、この家の主婦、狩野真理が顔を出した。
「あら。だれかのお友達?
 ちょうどよかった。今、楓ちゃんと孫子ちゃんの制服が届いてね。ちょっと試着して、みんなにも見てもらいましょう。楓ちゃん、こーちゃんも呼んできなさい。そうね。制服着てから顔だして、驚かせてあげなさい。
 荒野君や茅ちゃんの所にも、今頃、荷物届いているんじゃないかしら……」
 茅が炬燵から這い出して、すくっと立ち上がり、
「茅、とってくるの……」
 と、足早に、玄関のほうへ向かった。

 こうして、即席の制服ファッションショーがはじまった。
「へぇ? みんなうちの学校に転入してくるの? 来年から?
 ふーん……別嬪さんの転入生、団体様でお着き、だなあ……。
 新学期になったら、学校のやつら、騒ぐぞー」
「えへへ……」と、まともに照れ笑いを浮かべる、制服姿の楓。
「わたし、学校って、はじめて行くんですよー」
 などということを、不用心に言いはじめる。
「事情があるんだ! 彼女には!」
 かぶせるように大声を出す荒野も、制服。わかったわかった、と、追求しないことをジェスチャーで強調する飯島舞花。
「……って、そういや、おれも向こうの初等教育くらいか……学校と呼べるようなもんに通ったのって……」
「……これだから、加納の野蛮人は……」
 優雅に眉をひそめる、という高等技能をさり気なく披露する才賀孫子も、制服。
「……って、なんであなたが、わたくしと同じ学年ですの?」
 彼らが通う学校では、学年毎にネクタイの色を変える。孫子と荒野は、同じ水色のネクタイを締めていた。
「……わたくし、あなたのこと、もっと年上だと思っていました……」
「……おれも……」
「わはは。わたしもだ。
 しっかし、こうも老けてみえるのばっかが二年生に集中するとはなぁ」
 栗田精一以外の全員が、「え?」と飯島舞花のほうに振り返る。

 加納荒野と、才賀孫子は、その大人びた態度と雰囲気故に、実年齢よりもかなり上に見られる。
 飯島舞花は、成熟しきった体故に、実年齢相応に見られることが、少ない。
 しかし、彼らは、この場にはいない樋口明日樹と同じく、全員「二年生」だった。
 ちなみに、松島楓と加納茅は、香也や栗田精一、それに、この場にはいない柏あんなと同じ、「一年生」になる。

 彼らの新しい学園生活は、着々と、近づきつつあった。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第三話 (11)

第三話 激闘! 年末年始!!(11)

 今年のイブとクリスマスは週末にかかっており、二十三日の祝日と合わせれば、三連休になる。その三連休をあてこんだイベントだった。
「目指せ! 歌って踊れるくノ一とゴスロリ!」
 翌日の朝も、羽生譲はいつもと変わらないようにみえた。
「というわけで、今日から特訓だぁ! って、もう本番、明日の夕方だし!」
 早いもので、もう二十二日になっていた。
「忍装束で出歩くことは、しばらく禁止されてます」
「わたくしのあのファッションも、同じく」
 よーするに、「揉み消すのにも手間がかかりすぎるから、あまり目立つことするな」と、ようやくお咎めがあったのだ。

「……と、ゆーわけでー……」
 念のために、監視にきた荒野はいった。
「……くれぐれも、やりすぎないように。
 特にアクションは、一般人にも可能なレベルに押さえて……押さえてくれ……頼むから……頼むよぉ……」
 この土地に住むようになってから、なんだかどんどん自分が信じてきたものがガラガラと音をたてて崩壊しているような気がしてならない、今日この頃の加納荒野だった。

「そんなことは、このお馬鹿なくノ一にいってほしいものですわ。この子、加減ってものを知らないから……」
「……その言葉、そのままお返ししますのです……」
「まー。練習する時間もないから、軽く打ち合わせくらいはしておこうか。
 まずねー、予算もないし、司会はわたしが適当にやるから、そのナレーション通りにやってください。

 いちおー、
 子供たちへのプレゼントを、欲に駆られたトナカイが持ち逃げ!
 トナカイを追いつめるぜサンタ!
 勃発するバトル!
 勝利するサンタ!
 改心するトナカイ!

 っていう、大雑把なシナリオはあるんだけど、ぶっちゃけ、いわゆる人集めのネタなショーなわけだから、そんなもん、形だけ……あんま真剣に受け止めないように。

 ふっふっふ。
 所詮、お客が欲しいのは、ど派手で人外魔境なアクションだぁー!」
「って、だから、そこまでやっちゃ駄目だって、羽生さん!」
「……もー。カッコいいこーちゃんってばイケズぅ……。
 まあ、いいや。
 そういうことで、二人とも、そこそこはみ出さない程度に、派手に立ち回ること……。
 って、今更この二人に、アクションでわたしが指導することってないよなー……」
「……それなら、なんで朝からわたくしたちを集めましたの?」
「そりゃあ、きみぃ……最初にいったじゃないかぁ!」
 羽生譲は、ずずずず、と、湯飲みのお茶を啜った。
「歌って踊るのさ!
 せっかく二人揃ったんだ。エンディングでど派手にピンクレディーかますのよ! 昭和歌謡曲の馬鹿馬鹿しさを無知な大衆どもに教えてやれぇいっ!」
 狩野家の居間で、炬燵に手足をつっこんでいた、羽生譲以外の人間は、揃って深いため息をついた。
「……おれたち、その時代に生まれていません……」
「……わたしも、かろうじて端っこに引っかかってるだけのクチだけどな……」

 派手で受けそうなことには変わらないので、二人は、
『なぜ、サンタとトナカイが、ピンクレディーのメドレーをやるのか?』
 という根本的な疑問をさしおいて、一応、小一時間ほど、練習をすることになった。

 すぐに昼になり、今日も夕方からバイトが控えている二人を休養させるためにも、食事前にさっと解散。食事をとってから、羽生譲は、庭にまわる。
「おー。やっているねー。こーちゃん。どうだい、調子は?」
 狩野香也がベニヤにペンキを塗りたくっている最中だった。
「……んー。ペンキは、さすがにやったことなかったから、こんなんでいいのかなーって……」
「上出来上出来。舞台美術は、遠くからみるわけだから、荒くてもいいのよ。細かく書き込んでもみえやしないから、てきとーにざっくり塗るていどでいいよ……」
「……んー……じゃあ、もう、こんなもんかなー。手直しするところあったら、早めにチェックしておいて……」
「うん。大丈夫。これで十分だと思うよ。乾かす時間もほしいからさ、もう引き上げちゃっていいや。今年はばたばたと仕事増やして悪かったねー」
「……んー……」

 羽生譲は、愛車のスーパーカブに乗って、駅前に向かった。
 駅前広場では、盆踊りの時に使用する鉄パイプを借りて即席の舞台が組まれている最中のはずであり、実際の広さなどの感覚を、本番前に自分の目でみて、広さなどの感覚を掴んでおきたかった。
 比較的小さな設備だったので、羽生譲が到着した時には、土台はほぼ組あがっており、舞台の床になる三十センチ幅の板材を、その上に敷いている最中だった。
「あ。来た来た。今回のいいだしっぺ」
 めざとく羽生譲の姿を認めた商店街の人々が、駆け寄ってくる。羽生譲と同じように、舞台の設置を見物にきた人が、何人か固まっていたのだ。
「軽くはじめたつもりが、なんか、すごいことになってきているな。
 この年末、ここいらみんな、ここ数年で一番の売り上げだよ。
 みんな、あんたたちのお陰だよ」
「そういうことは、頑張ってくれたサンタとかトナカイにいってやってください。
 わたしゃあ、けしかけてやっただけなもんで……。
 できたら、あの二人になんぼかでも包んでいただけると、嬉しいっすねぇ……ほんの気持ち程度にでも……」
「うん。まあ、そうだなあ。そんくらい、するべきだよなあ。ほとんどあの子らのおかげだもんなあ……よし、こっちでもカンパって形で、声かけてこっそり集めてみるよ」
「そうっすね。彼女ら、本当は働けない年齢のはずなんで……その辺は、なにとぞよしなに……」

 帰りに銀行に寄って、いくらかお金をおろし、二つの封筒に分けていれる。柏姉妹の家に行き、インターホンを押すと、姉のほうがでてきた。
「ども」
「あ。ゆず先輩」
「とりあえず、今日は二人の分け前の仮払いってこって。妹さん、クリスマスのプレゼント買うっていってたろ? その分いくらかでも、先に、ね。残りは、本が売れてから、来年にでも」
「いつもすいませんねー。先輩。今度もうまく売れてくれるといいですねー」
「んー。どうだろうねー。一応、売れ線研究したりしているんだけど、結構はやり廃りも激しいし世界だし、一種の水物だからなー……。
 実は毎回、結果が出るまで冷や汗ものだったり……」
「そうですねー。でも、もうやるだけやったから、後は売り子さんたちの奮戦にまかせます」
「そうっすね。年末、頑張ります」

「ふひぃー」
 夕方に帰宅した羽生譲は、流石に疲弊していた。
「明日からイベント三連ちゃんかー……今夜は、早めに寝るかなー……どれ、ちょっと早いけど、ご飯前に、お風呂かシャワーにでも……ん?」
 風呂場には、先客がいた。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第三章(6)

第三章 「茅と荒野」(6)

「……と、いうわけなんだが……」
 最後に荒野は、茅に打診した。茅が拒否してくれればいい、と、かなり期待をかけながら。
「……どうする? 茅が嫌だっていうんなら、すぐにこと……」
「別に、構わないの」
 茅はあっさりと、荒野の密かな期待を砕いた。
「マンドゴドラのケーキ、おいしいし、大好きなの。売れてくれると嬉しいの」
「…………わかった。そう、伝えておく」
 荒野は、がっくりとうなだれた。

 マンドゴドラは内装をクリスマス・モードに切り替える時、店頭の、喫茶室の天井に、大型液晶ディスプレイを設置した。
 ショーウインドウのガラスに白い塗料で、雪の結晶やトナカイなどの記号化された吹き付けがしてあり、天井からつるされたディスプレイに茅と荒野が見つめ合いながらケーキを食べ続ける映像がひたすらリピートされる。そして運が良ければ、そこのカウンターにディプレイに映っている人物と全く同じ人物が腰掛け、幸せそうな顔をして、ケーキを食べている場面に遭遇する……。

 そういう案配に、なるはずだった。

 しかし、ちょうどマンドゴドラがその内装に切り替わった翌日、それまでよく店にきていた長髪の女の子とプラチナ・ブロンドの男の子は、途端に何日か姿を見せなくなった。
 この不在は、実はただ単に、茅と荒野がお隣り狩野家の戦場にかり出されていたために発生しただけなのだが、彼らの存在に好奇の目を向けていた人々の間に軽い衝撃を走らせ、その後、さまざまな憶測を生むことになる。
 それまで毎日のようにマンドゴドラに通っており、彼らの消息をチェックしている隠れファンは、意外と多かった。

 そんなことを知らない茅と荒野は、狩野家の一室で目の前に広げられたエロマンガの原稿を実地に見て、絶句していた。荒野は呆れ返っていおり、茅は、例の神秘的に見えないこともない無表情で、じっと書きかけの原稿用紙に見入っている。
 最近、ようやく茅の微妙な表情の変化を見分けれれようになってきた荒野は、茅が、自分のようにあきれているのではなく、純粋にその原稿に描かれている内容に対して、好奇心をもっているのだ、と、判断した。
「…………これ、なんだ?」
 しばらく絶句してから、荒野は、自分たち二人を連れてきた三島百合香に尋ねた。
 その場には他の者たちもいたが、皆、そろって余裕のない表情をして、黙々と自分の仕事を遂行している。なにげに真剣そうで、軽々しく質問を差し挟める雰囲気ではなかった。
「なにって、エロ同人の原稿だろ。あ……。そうか。お前、日本のそっち系の文化に疎かったな……いいか、まず、日本には何十年か前から同人とかいうアマチュアの……」
 三島は、荒野たちのために『コミケとはなにか?』とか『同人誌とはなにか?』といった基礎知識から、伝授しなければならなかった。荒野はかなりうんざりした様子で、茅は興味津々といった感じで、三島百合香の説明を聞く。
「……大体の所は、わかった。
 ようするに、そういう、かなり大規模ななんたらマーッケットというのがあって、そこで売るための本の中身を、今、作っているんだな?」
 途中で、荒野が三島の説明を遮り、絶叫する。
「でもこれ、ポルノじゃないか! それも、チャイルド・ポルノ! こら、君たちも、こんなの見てなんとも思わないのか!」
 そいいって、いかにもろりぷにーなアニメ絵の女の子が責められて涎を垂らしてもだえている原稿を指さす。荒野は、そういうものへのタブーがきつい文化圏で育った期間が長いので、ついつい声が大きくなる。

「えー? 萌え萌えーじゃないですかー」
 と、柏(姉)。
「うーん。実物とは全然ちがうしー。いやらしいというよりは、笑っちゃう?」
 と、柏(妹)。
「所詮、絵だし。すぐに慣れました。それに最近の少女マンガも、結構過激な描写ありますよ」
 と、樋口明日樹。
「お仕事」
 と、才賀孫子。
「任務なのです」
 と、松島楓。
「これも、お金のため」
 と、羽生譲。
「あのー……これ、描いたの、ぼくなんだけど……」
 と、狩野香也。

「……この程度のことで目くじらたてるなよ、少年……」
 三島百合香は、ちっちっち、と指を振った。
「……いわゆる、絵空事の話しだろ? 現実に性犯罪を行っているわけでも、推奨しているわけでもないんだ……」
「……だって、こんなの、茅への悪影響……」
「その茅は、結構好きみたいだぞ、こういうの」
 三島が指さした先を見ると、茅は、中性的な、線の細い男同士が絡み合っている原稿を手にとって、まじまじと読みふけっていた。
 血の気の引いた顔をして、荒野が絶句する。

「……あのー……ちょっと、いいかな?」
 顔だけは知っている、香也とよく一緒に学校にいっている眼鏡の少女が、片手をあげて、いった。樋口明日樹のほうも、自己紹介とかしあったわけではないが、狩野家によく出入りしている兄弟の顔は、知っている。
「……こういうこと、いっちゃっていいのかな?
 そっちのほうの加納君って、さ……ひょっとして……シスコン?」
 さらに顔をひきつらせる荒野。
 きょとんとしている茅。
 大爆笑する三島百合香。

「わあー。ゆず先輩がいった通り、本当に、白猫君と黒猫ちゃんだー」
 しばらく間を置いて、少し年上の眼鏡の女性が、タイミングを見計らったようにそういったことで、凍り付いた時間が再び動き出した。
 軽い自己紹介大会がはじまり、その後、荒野は憮然とした様子で、茅は結構ノリノリで、戦列に加わった。
 荒野と茅は、結局三日間、その戦場で「最後の追い込み」という敵と戦った。
 強敵だった。
『……才賀と加納が肩を並べてこんなことするなんて、後にも先にもこれっきりだろうなぁ……』
 黙々と作業をしながら、荒野は、そう思った。
 この時点で荒野は、コミケが夏と冬、年二回開催されることを、知らなかった。

 三日間、自宅と狩野家を往復するだけの生活をして(その間の食事は、三食用意してもらえた)、 再び二人で出歩くようになると、茅と荒野は結構有名人になっていた。
「あー。ケーキ屋さんの猫さんたちだー」
 と、道端で、見知らぬ五歳くらいの子供に指さされたのをきっかけに、二人が通った後で、指をさされてひそひそ噂話のネタにされているような気配がありありと伝わってくる。
 ひさびさに立ち寄ったマンドゴドラでは、いつもは厨房にこもって店頭には顔を出さないマスター自ら、二人を出迎えた。
「お。来た来た。どうした、しばらくご無沙汰だったじゃないか。ようやく、スターたちのご来場だ。いや、ここ二、三日、お客さんから君らのこと聞かれっぱなしで難儀したよ」
 と、挨拶をされた。
「なんでも、いくつでも食っていいからな。
 遠慮せず、注文してくれ」
 上機嫌であるところをみると、売り上げにも貢献しているのだろう、と、荒野は、そう判断する。実際には、普段の売り上げはもとより、クリスマスケーキの予約も平年の五割り増しになっていたりする。
「あのー……」
 ようやくカウンターに座ると、
「……サイン、いただけますか?」
 ティーンエイジャーの女の子数人に囲まれ、質問攻めになった。
「いや、おれら、モデルとかタレントとか、芸能人じゃないっすから。サインとか、そういうのは……。はい。最近日本に帰ってきた、帰国子女ってやつっす。来年から、近くの学校に通う予定……単なる、学生です……」
 今、香也たちが休み……ということは、他の、同年代の人々も休暇で、暇を持てあましている時期なのだ……ということを、荒野は失念していた。

 茅は、対応に忙しい荒野には構わず、黙々と、久々のケーキを堪能していた。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第三話 (10)

第三話 激闘! 年末年始!!(10)

「……はぁ。人に歴史あり、ですねー……」
 松島楓はそんなような相槌をうった。
「そうそう。
 わたしがここにお世話になりはじめた頃は、先生も真理さんも新婚だったし、こーちゃんはこーんなちいさかったし……」
 羽生譲は、自分の胸のあたりで手のひらを水平にして示す。
「……それが今では、こーんなに背ぇばかり延びちゃって……」
 今では、香也と羽生譲の背丈は、さほど変わらない。香也は、たぶん、同じ年齢の子たちに混ざっても、長身のほうだろう。
「……狩野君って、どんな子供だったんですか?」
 樋口明日樹が、おずずと尋ねる。
「それが、全然しゃべらない子でねー。今と同じで、絵ばかり描いてた。まともにしゃべれるようになったのは、本当、ここ最近だよ」
 特に、明日樹がこの家に出入りするようになってからは、めっきり口数が増えた。
「それまでは、必要最低限のことしかしゃべらなかったもんなぁ……」
 家でもあんな感じなのか、と、同級生の柏あんなは思った。
「さあ、雑談は終わり。気を引き締めてラストスパートいこー!
 もうすぐ敵を殲滅できるぞー!」

 全ての原稿をしあげるのに翌日いっぱいかかった。戦いを終えた戦士たちはそれぞれの生活に戻り、羽生譲は、原稿の梱包と送付を香也に任せると、そのまま泥のように眠った。
 さらにその翌日、原稿は、無事、印刷所に送付された。

 夜中、二人のサンタが商店街の裏の小道で話し込んでいる。
 才賀孫子と、羽生譲市だった。
「……はぁー……娘がそんなことをねー」
 才賀孫子の話しを聞くと、羽生譲市は深々とため息をついた。
「……あ。いや、基本的に、間違ってはいっていないんだが……そうか。狩野のところに世話になっていると聞いたが……元気にやっているのか……」
「問題のすり替えはおやめなさい!」
 孫子は、羽生譲市を叱咤した。
「なんで、自分の子供を省みずに失踪などしたのです! 実の親子でしょ!」
「……お嬢ちゃんには、まだ、わからないだろうなぁ……」
 羽生譲市は苦笑いを顔に浮かべ、ゆっくりと首をふった。
「こっちは借金にまみれて、闇金にも追われている身。そこに、年頃の娘を連れていったら、食い物にしてくれといわんばかりだよ。譲のためにも、あそこで関係を絶っておくのが、正解だったのさ……。
 そろそろほとぼりが冷めたかな、と、様子をみに帰ってみれば、すぐにとっつかまってお嬢ちゃんに助けられるような始末だし……。やっぱ、このままもう何年か逃げるのが吉、かなぁ……」
「……この上まだ、逃げ続けるつもりなのですか!」
 孫子の柳眉が、逆立った。
「せめて、一目でも、自分の子供に会いたいとは思わないのですか?」
「思うけど……なあ。今のおれがあいつに近づくと、あいつに迷惑がかかる。これまでだって、あいつには父一人子一人で長いこと迷惑かけてきたんだ。これ以上は、なあ……。
 お嬢ちゃんの話しでは、なんか、思ったよりちゃんとやっているようだし、安心したわ……。
 ありがとうよ、お嬢ちゃん。いろいろ心配してくれて。ここいらが今回の潮時だ。もう何年かほとぼりをさまして、もう一度様子をみにくるよ。
 ま、そんときまで譲がここにいるって保証もないけどな」
 片手を上げて立ち去ろうとする羽生譲市の背中に、才賀孫子は声をかけた。
「……百戦して百勝する者は、善の善なるものにあらず……」
「……ん?」
「わたくしの名前の由来、孫子の一節です。平たくいうと、
『百戦して百勝するようなやつが、善人のわきゃねーよ』
 というほどの意味です」
 才賀孫子は、昂然と胸をはって、名乗った。
「わたくしは、才賀孫子。何百年も勝ち続けた才賀衆の末裔。
 当然、才賀の一員であるわたしくしは善人ではありません。
 それでも、わたくし、才賀の姓にも、亡きお父様がつけてくださった孫子という名にも、誇りを持っておりますの……。
 そして……」
 ミニスカのサンタが、もう一人のサンタを抱えて、跳ぶ。
「……才賀も、孫子も……目的のためには、手段を選びませんの!」

 羽生譲市を抱えた才賀孫子は、聖夜の近い寝静まった住宅街を、一足に五、六メートルほど跳躍しながら、飛ぶようにして、加納家に帰った。

 才賀孫子が無理矢理連れ帰った父、羽生譲市と再会した羽生譲は……。
「……このぉ!」
 とりあえず、渾身の力を込めて、父、羽生譲市をぶん殴った。
「馬鹿親父ぃ! 今更、どの面さげて、帰ってくるかぁ!」
 吹っ飛んだ羽生譲市のボディに、さらに、げしげしと蹴りを入れ続ける。
「そんなに借金取りが怖いか! そんなもん、二人で返せばいいこったろ! なんにも言わずに勝手に消えちまいやがって! この! 馬鹿! 親父! がぁ! 消えろ! 消えちまえ! このまま、目の前からいなくなれって!」
 しばらくして、肩を上下させながら、動きを止め、予想もしていなかった展開に目を見開いて固まっている才賀孫子のほうに向き直る。
「あ、どうもな。ソンコちゃん。おかげですっきりしたわ。いや、分かっている。いいたいことは、よーく分かっている。でもな、その、感情的なアレってのがあるだろ? いろいろ事情はあったにせよ、仮にも、こっちは捨てられた身なわけだし……。
 ほら。いつまでもそんなところ寝てないで、とっとと起きろ馬鹿親父。
 いいか。もうこっちには近づくな。こっちはもう、大丈夫だから。別に勘当したわけじゃないだから、会いたくなったら真理さんにでも電話で連絡しろ。そしたら、こっから離れた所で会うから……」
 羽生譲は、父、羽生譲市を助け起こしてから、再度、才賀孫子に頭を下げた。
「本当にありがとな、ソンコちゃん。
 今日はもう遅いし、お互い、まだ疲れも残っているだろうから、ぐっすり寝よう。
 明日から、商店街のクリスマス・ショーの練習だ。なんだかんだで本番まで時間ないから、気張っていこうな!」
「……わたくしの名は、ソンコではなくてソンシです……」
「ああ! ごめんごめん! いままでゴスロリ子ちゃんで通していたもんんだから、つい!」

 ともあれ、その夜、羽生譲は、才賀孫子のことを、はじめて本名で呼んだ。

[つづく]
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髪長姫は最後に笑う。第三章(5)

第三章 「茅と荒野」(5)

「……もともとは、どっかの武将に飼われてたり、決まった主を仰がず気ままに請負い稼業でやっていたのが、日本が統一されちまってかなり生き難くなって、それでも代々磨いた技を捨てるのがしのびなくって……次第に合流していって、一部、海外に流れって再び合流していったりして……」
 次第に現在の「一族」としての形態を整えていった……と、いうことらしい。
「六主家のうち、自出を公言しているのは、秦野だけ。
 姉崎は、天正時代あたりに一旦海外にでて、いろいろな土地をさすらいつつ、何百年かかかって明治期に『一族』に合流。
 野呂は、たぶん、代々金次第で仕事を請け負うフリーランスやってたんだろうなぁ……。
 二宮は、子飼いかフリーかどっちかわからんけど……『おれより強い奴に会いに行く』ってノリのやつらだから、飼うほうにしてみれば、いつ寝首を掻かれるかわからないやっかいな存在になったはず。
 佐久間は、多分、どっかの子飼いで代々技を伝えていたのが、主家がつぶれて行き場のなくなったところで『一族』入り……まあ、あそこは極端な秘密主義なんで、推測だけど。
 加納は、秘密主義ではないけど、あんま過去に執着しないので、記録が残っていない……」
「……よくもまあ、そこまで反りが合わなさそうなのが、今まで、まとまっていられているもんだ……」
 荒野の説明を咀嚼した三島百合香が、率直な感想を漏らした。
「それも加納の交渉力……って、いいたいけど……あれだ。
 多分、代々受け継いできた異能の技を、自分らの代で消しちゃう、ということに対する恐怖感だけは共通しているから、それでなんとかまとまってこれたんじゃないかな。今まで」

 アイデンティティの保全、自己保存への欲求。
 そのためには、反りの合わない、嫌いな相手とも協力し、共生しあった。
 生物として、ある意味、とても正しいあり方だ。
 たしかに、六主家それぞれの血族が単独で存続しようとするよりは、まとまった「一族」として活動し続けるほうが、生存確率は高そうだった。
 三島百合香の頭の中で、なにか、漠然とした思いつきがチリチリと音をたてて自己主張をしはじめた。
『そのあたりに、なにか重要なヒントがある』
 と。
 だが、曖昧なインスピレーションはそれ以上は明確な形にはならず、口に出すこともなく、その日はそのまま解散、ということになった。

 三島百合香が帰って二人きりになると、茅が、
「荒野。欲しい物があるの」
 と、切り出した。
「なに?」
 荒野は、即座に尋ね返す。茅のほうからなにかをねだる、というのは、これがはじめてではないだろうか?
「自転車」
 ……なるほど……。
 このマンションからだと、茅が通う図書館へも、マンドゴドラのある駅前へも、徒歩では遠い。バスの路線がないわけでもないが、朝夕の決められた時間以外は、一時間に二本とか三本くらいしか通っていなくて、交通の便的には、かなり不便だった。
「買うのはいいけど……茅、自転車には、乗れるのか?」
「乗ったことないの」
 その日は、そのまま二人で茅用の自転車を買いにいき、「前に籠がついているのがいいの」ということで、少しスポーティなデザインのシティ・サイクルを購入した。
 その後、近所の児童公園で自転車に乗る練習をした。
 晴れた日曜日ということもあり、その、さほど大きくない公園には、小さな子供や子供を連れた親たちがそれなりに出歩いていて、いい年齢をした茅が、何度も転びながら自転車に乗る連中をする様子は、それなりに注目を浴びたが、二人ともあまり気にしなかった。たまに若い母親とかに話しかけられることもあって、その時は、荒野が茅の頭を叩きながら、
「こいつ、長い事、病院生活してたもんで……」
 みたいなことを説明した。
 茅は、発見されてから一年前後、ほぼ寝たきりの生活をしていて、その時に萎縮した筋力を蘇らせるためのリハビリ作業を必要としたほどだから、まるっきり嘘というわけでもない。
 何度も転びながらも茅は、決して諦めようとはせず、結局、二時間ほども練習をしたら、荒野の手助けなしでも自由に乗り回せるようになった。
 三島百合香が以前いったとおり、新しいことを学ぶことにどん欲で、飲み込みも早いほうだよな、と、荒野は思った。

 それから数日間は、茅と荒野にとって穏やかな日々が続いた。
 二人で買い物にいったり、図書館にいったり、その帰りにマンドゴドラに寄ったり……。
 それまで、同居しながらも離れて暮らしていた期間を挽回するかのように、できるだけ二人で行動した。

 そんな中、ある日、羽生譲に導かれ、商店街にある写真館に向かった。
 サンタとか振り袖に羽織袴とかのコスプレをしながら、ひたすらケーキを与えられ、食べまくり、その映像を撮られまくる、という……。
 ようするに、この前に、いつの間にかやることを約束させられていたマンドゴドラのプロモーションビデオの撮影、だったわけだが、レフ板とかハイビジョン対応のビデオカメラとか、どこからか調達してきた機材は結構本格的で、羽生譲の知り合いとか行きつけの店とかに応援を頼んだとかで、ヘアメイクとかメイクさんまでが来ていた。
「あら? ひょっとして、未樹ちゃんがいってた子たち?」
 近所の美容院からきたというおねーさんは、荒野たちの髪を整えつつ、そう言葉をかけてきた。
 茅の長髪と荒野の髪の色は、二人で連れ立っているとかっこうの目印になるらしい。
「うーん。本当、聞いていた通り。茅ちゃんは見事なおぐしねー。手入れ行き届いているし。
 荒野君は、ちょっと半端な長さになってきているから、気が向いたときにでもうちのお店に来なさい。学生割引もあるし、それ以外にもサービスするから。荒野君、土台がいいんだから、もっと磨かなくてはだめよ」
 と、名刺を渡され、しっかり営業されてしまった。その直後に、荒野は茅に手の甲を抓られた。

 髪の色に合わせた白と黒の猫耳をつけた茅と荒野が、真剣な顔をして見つめ合っている。
 BGMのクリスマス・ソングの音量が、徐々に高まっていく。
 お互いの目を見つめ合ったまま、おもむろにケーキを取り出し、それを食べ出す二人。
 ケーキを口にした途端、二人の表情が一変する。
 画面が、「ケーキのご用命はマンドゴドラへ!」と書かれたイラスト・ボードへを切り替わる。

 羽生譲が制作したビデオは、結局ただそれだけの、いっそ素っ気ないといっていい、三十秒ほどのスッポット・ムービーだった。
 同じ構図で、赤いサンタ服ヴァージョンと、振り袖に羽織袴ヴァージョンとがあり、最後に表示されるイラスト・ボードの背景も、二人の服装に合わせて、「雪景色の中にある、煙突つき煉瓦の家に樅の木」と「富士山と門松」に変わった。
「横顔ばかりではなく、二人の顔を正面から撮ったほうがいいんじゃないのか?」
 という関係者の声も多かったが、統括していた羽生譲は、譲らなかった。
「情報は、ある程度制限されていたほうが想像力をかき立てられるもの。
 それに、これ、マンドゴドラの店頭で放映すること前提にしているし……茅ちゃん、もう、あの店に入り浸っているって話しだろ?」
 茅ほど頻繁に、ではないが、荒野もそこそこ顔をだしていた。
「で、だ。
 ディスプレイの中の美形さん二人が、店の常連さんとして、実際に時折に店に姿を現す所、もう随分目撃されているわけだ。
 噂になるっつうか、話題性という意味では、これで十分なんじゃない?」

「……モデルさんがいいと……」
 カメラを担当したのは写真館のオーナーで、何十年も証明写真や記念撮影をしてきただけあって、照明のあて方や光源の設定などは、流石に堂に入ったものだった。
「……写真も映えるねぇ……。
 ん。それに、こうして実際にやってみると、動く写真も、なかなか乙なもんだ。
 こういうのを、デジタルっていうのかい?」
 デジタルだったため、撮影したその日のうちにデータを持ち帰った羽生譲は、そのまま自分のパソコンに取り込んで編集作業を開始、徹夜で完成させ、何枚かのDVDに焼いた後、茅や荒野をはじめとする関係者各位に配布して、反応を伺った。
 おおむね好評で、
「シンプルだけど、かえってそこがいい」
 という声が多かった。

 羽生譲は、電気屋さんが提供する液晶の大型ディスプレイを、マンドゴドラの喫茶コーナに据え付ける作業に立ち会った。
 ディスプレイ自体は、「どうせ店頭展示品だから」と快く貸してもらえたが、天井にスチール製の支柱を据え付け、そこにディスプレイをぶら下げる作業も、結構大がかりだったにも関わらず、タダでやってもらえた。
「いいよね。この映像。
 これからは、夕方のサンタとトナカイとか、こういうプロモーション、どしどしやるべきなんだろうなぁ、この商店街も。
 いや、おれも、商店街のホームページくらい作ろうって前々から言ってるんだけどさ。どうも、ここ、年輩の方が多くてね。ネットがどういうものかいまいち理解してないみたいなんだなぁ……」
 据え付け工事をしながら、電気屋の親父さんはいった。
「おねーさん、そっちのほうの仕事も、できる?
 かっこいい見本作ってくれたら、おれ、みんなを必死で説得しちゃうんだけどな。年寄り連中はいいけど、若い人も多いんだから、夢みられる環境、作らないとな。
 やってくれるんなら、サーバはおれが提供するし……」
 その電気屋さんは、ここ数年、量販店におされ、家電だけでは心許ないので、数年前からパソコンのパーツや自作キットの販売にも手を広げていた。
 羽生譲にしてみれば、この手の仕事は大歓迎だった。
「これからクリスマス・ショーの準備もあるし、それ以外の仕事もあるから……」
 ということで、プレゼンまでは協力できないが、簡単なサンプルは制作する、ということを約束する。幸い、htmlとかの基礎知識はあったし、フラッシュやCGIについても、必要になれば声をかける当てはあった。これで、羽生譲はなかなか顔が広い。
「さてさて。忙しくなってきました」
 羽生譲が、モデルの荒野たちに、ネットでの映像公開の許可を求めると、とりあず保留、という答えが返ってきた。その返答を待つ間、羽生譲は、松島楓と才賀孫子の街頭パフォーマンスを収録するために、ビデオカメラを抱えて夕方の商店街に立つ。
 それ以外に、もう二、三日もすれば、恒例の同人誌合宿の手配もしなければならないのだ。
 この年末、羽生譲は多忙だった。

 羽生譲から打診をうけた荒野は、自分の姿がネットに公然とさらされることに危機感をもったが、編集済みの映像を添えてメールで送り、涼治に問い合わせると、
「茅、かわいいじゃないか」
 などという、とんちんかんな答えが返ってきた。
「これくらいのことでびくつく必要もなかろう。せっかくかわいく撮れてるんだ。世間様にも見せてお上げなさい」
 などと、一族の長老とは思えない、暢気なことを言いはじめた。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第三話 (9)

第三話 激闘! 年末年始!!(9)

 狩野香也の復帰により、混乱した戦線は収拾するかにみえた。
 人物のペン入れのみをやらせておくと、一時間に三枚から四枚も消化してしまう香也のペースに、かえって他の者たちの処理が追いつかず、慌てて羽生譲と柏(姉)は、樋口明日樹が担当する背景、ならびに、才賀孫子の担当するトーン、ホワイト処理に戦場を変える。香也の速筆に追い立てるようにして、一枚、また一枚、と、原稿が仕上がっていく。それにつれて、後回しにされていた、あまり技能を要求されない、階調無しの塗りつぶしのみベタや、消しゴムかけの作業の方が、滞りがちになり、「半完成原稿」のストックが蓄積された。
 そんな時、援軍である加納兄弟が、新たに戦線に投入された。

「キター!」
 徹夜続きでテンションが妙に上がっている羽生譲はいった。
「カッコいいお二人。頼むからこれやってくんろ。これに、消しゴムかけて鉛筆の線、消してくれればいい」
 どさり、と、半完成原稿の束を置く。かなり、ため込んでいる。
「おーし! こおの調子なら、イブの前までには、かたずけられっぞー!」
「おー!」
 と、ここ数日、同じ釜の飯を食ってきた戦友たちが唱和する。
 羽生譲ほど寝不足にしていた者は流石にいないが、連日に渡り同じ部屋に籠もって黙々と単純作業をしているうちに、脳内からなんかヤバ気な汁でも出てくるらしく、揃って羽生譲のヘンなテンションに引きずられていた。

「わー。黒猫ちゃんと白猫くんだぁー」
 二人の到着を一番喜んだのは、柏(姉)だった。もともと視力の悪い柏(姉)は、眼鏡とコンタクト状況により使い分けているが、目に負担がかかるデスクワークを長時間しているため、ここ数日はもっぱら眼鏡を着用している。
「ビデオより、実物のほうが、ずっとかわいー」
 その後、羽生譲に「手を止めるな」と叱責され、原稿に向かいながら、「お隣りさんちの黒猫ちゃん、この頃すこしーへんよー、白猫くんたら読まずに食べたー」
 と、色々混ざってすでにかわけの分からなくなった替え歌を歌い始める。半分以上、壊れているかもしれない。

 正直、加納荒野と加納茅の二人はそのノリについていけず、かなり引き気味になった。

「おねーちゃん、やめてよ! 恥ずかしい!」
 隣に座っている柏(妹)が肘で姉をこづく。
「いいんですいいんですぅ。姉は、妹のようにクリスマスを共に祝う相手もなく、一人寂しく無意味にリアルに描かれたおちんちんにモザイク代わりのトーンを貼るのです。貼り続けるのです……」
「あれ? 夏に、なんかげとできそうな男いる、とかいってなかったか、ちづちゃん?」
 羽生譲は作業する手を止めずに尋ねる。
「いいんです、先輩。彼、あれからすっかり大学に来なくなって……たまに来ても、すれ違いで、なかなか顔を合わせられないんです。薄倖のわたしは、精液の質感を出すためにホワイト処理をするのです……」
「……あー振られたわけじゃないのか……そうだよなあ……ちづちゃんなら、そうそう振られるわけないよなぁ……」
「それにしても、ゆず先輩、ここ凄いですね。非常識に強い人、いっぱい」
「……わ、わかるの? 見ただけで、そういうの……」
「これでも、長年合気道をやっているのです」
 あまり関係ないような気もするが、眼鏡を光らせてそう断言されると、奇妙な説得力がある。
「この中で一番強い白猫くんを、百、とするとぉ……」
 柏千鶴は、ぐるりと周囲を見渡す。
「サンタさんとトナカイちゃんがだいたい拮抗していて、六十から七十くらい。
 一般人でもそこそこ、の、わたしとあんなちゃんがー、二十前後?」
 ちなみに、武道とかの心得のない人は、十前後だと、つけ加えた。
「……んじゃあ、その、ちづちゃんスカウターで計測すっと、ちづちゃんが狙っているって彼氏ってのは、なんぼよ?」
「やだなー、先輩。わたしが見初める人ですよー。桁外れに強いに決まってるじゃないですか……」
 柏千鶴はコロコロと笑った後、
「うーん。でも、かなーり慎重に隠しているし、正確なところはなかなかわかりずらいんですけどぉ……推測も交えて低く見積もっても、だいたい、二百五十から三百くらい? かなぁ……」
 首を傾げて考えつつ、事なげに、そういった。
「ええー!」
 と、加納荒野の実力を知る松島楓と才賀孫子が、反射的に大声をあげる。
 口々に、「そんな人、いるわけない」と言い立てるのだが、当の加納荒野が、
「いや。いるよ、この町に。おれよりずっと強い人。この前、会った」
 原稿に消しゴムをかけながら、なんでもない調子で、当の加納荒野が断言した。
「図書館で肩叩かれて、
『こっちの世界にも、君みたいなの、いるんだ』
 って、声、かけられた」
 殺気はまるでなかったが、荒野は産まれて初めて、二宮の人間と相対する時以上の威圧感を感じた。
「バイトで正義の味方やっているから、なんか困ったことがあったら声かけてくれって、名刺、渡された」
 でも、その人は、それ以上こっちの物語に関与することはないのであった。

「……でも、ゆず先輩、よかったですねー。ずっとこのお家に住めて……。
 高校辞めた時には、どうなるかと思いましたけど……」
「……ああ。うん。馬鹿親父の尻ぬぐいで、先生がわたし込みでこの家引き受けてくれた形だな……」
「え? あれ?」
 松島楓が、きょちょきょとと辺りを見回す。
「譲さん、ずっとここに住んでいるんですか?
 この家、競売にかけられそうになったものを、ご主人が、お知り合いの方から相場の半値以下で譲られたって、聞いてたんですけど……」
「……だからさ、その、商売に失敗してしこたま借金こさえて、夜逃げ同然で娘捨てった馬鹿親父と、先生が、たまたま昔っからの知り合いでさ……。
 先生、その頃何とか絵が売れはじめた所でまとまった金あったし、真理さんと結婚したばかりで住むところ探してたし、で……。
 ちょうどいいや、ってんで、当事の有り金ほとんど全部馬鹿親父に渡して……。
 馬鹿親父、これを幸いと借金取りから夜逃げ同然に、失踪……わたしは、どさくさに紛れて、この家に居候しているってわけ……」

 先生も、懐が深いよなぁ……。
 こんな、見所がないわたしを、ちゃんと弟子扱いしてくれるし……。

[つづき]
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漫画喫茶フェラ

漫画喫茶フェラ

漫画喫茶のボックス内で撮影開始。
で、予想通りのオチがつきます。

トホホ系。

髪長姫は最後に笑う。第三章(4)

第三章 「茅と荒野」(4)

「……一番わけ分からんのは……」
 茅の話しを一通り聞き終えた後、訪れた静寂を、三島百合香が、破る。
「……なんでそんな手間暇をかけ、茅を隔離していたか、ってことだよな。動機だ、動機。
 そんなコトして、一体誰が得するってんだ? ン?」
「……その辺は、おれも前々から不審に思っているけど……」
 荒野も、三島の意見に、賛同は、する。
「ぶっちゃけ、全然予測つかない。
 なんか、すっげぇ基本的な部分をおれらが見落としているか、それとも、おれらに渡されてない情報に、なんか重要な意味が隠されているのか……」
「……やっぱ、わたしらに渡された情報には、欠落があると思うかね?」
「あるんじゃねーの。あの、じじいの事だし。
 知る必要のない情報は、くれないと思う……。
 第一、茅の話しだと、おれの親父、主犯というよりは下っ端だよ。誰かの命令か指示を受けて、荷物運んでいた連中とグルになって、チームとして動いてる」
「やっぱ……茅を隔離してたの……お前らの一族、なのか?」
「ああ。多分ね……。
 茅の話し、聞いた限りでは、親父も無理矢理従ってた、っていう風でも、ないようだし……。
 あー。身重のお袋ほっぽってなにやってたんだよ、親父……。お袋の身内に見つかったら、無事じゃすまねーぞ……」
 加納荒野の母は、よりによって、六主家の中でももっとも勇猛で血の気が多く、個人的な戦闘能力では群を抜いている、という定評のある、「二宮」の出、なのである。おまけに、二宮は、六主家の中では「秦野」に次いで、身内の結束意識が強い……。

「あー。三人揃っているし、ちょうどいい機会だから、おれら一族のこと、軽く説明しておこうか……」
「一族」と総称される集団の中枢には、古い血筋を誇る六つの血族が存在する。「家」毎にそれぞれ代を重ねて磨いてきた特性があり、どうやら起源は、まちまちらしい。「六主家」は、時に軽く対立しながらも、今ではお互いの存在を利用し合い、共用のバックアップ機構を組織、維持している。
 それら、「六主家」と、様々な民間企業に偽装された膨大なバックアップ組織をひっくるめた緩やかな集団を総称して、「一族」と呼ぶ。

「で、おれのお袋が出た『二宮』ってえのが……」
 筋力や反射神経、体術など、個人的な戦闘能力の向上を求め、代を重ねて交配相手を選び、技を磨いてきた、「最強」の名を恣にする血縁集団。

「……で、集団戦闘に強いのが……」
「最強ではないが、勇猛」と呼ばれる、「秦野」。
 その起源は古墳時代にまで遡り、その頃の渡来氏族の末裔……「六主家の中でも、もっとも古い家系」……と、自称している。
 同じ血族内での近親婚を推奨していて、一人一人の顔つきや体つきも、かなり似ている。
「こいつらは、『均質化』に特化している。人数も、一番多い。血族内部での意志統一が堅強で、個を捨てて足並みを揃えて敵に向かう。決して、ひるまないし、逃げ出さない。自己犠牲を当然とし、常に、最小の犠牲で最大の戦果をだす」
 モンゴロイド特有ののっぺりとした、目尻のつり上がった表情の読めない顔……に囲まれた外国の連中は、彼ら秦野を「レギオン」とか「クラスタ」と呼んで、恐れている。
 ……とも、つけ加えた。
 ちなみに「二宮」は、「オーガ」とか「ジャガーノート」とか「カーリー」とか、破壊神系のあだ名をつけられることが多い。

「この二つが、六主家の中でも武闘派……ま、どっちも、敵には回したくない相手、では、あるんだけどねー……」

 ほかに、単独行動を好み、俊足と五感の向上、判断能力を特化し、適地潜伏や斥候を得意とする「野呂」。
 同じ潜伏でも、完全に現地にとけ込み、長期的な情報収集を得意とする「姉」。
 洗脳や催眠、集団心理操作に対して膨大な実効的ノウハウをもち、知略に特化した「佐久間」。
 これら、三家は、戦闘能力ということでは「二宮」や「秦野」に遅れをとるものの、地味ではあるが確実に任務を遂行する。「忍らしい忍」、といえるかも知れない。

 実際、一族の仕事の中で実際に武力が物をいう局面は結構限られていて、二宮や秦野が活躍するのは、仕事が失敗したときの「残務処理」であることが多い。この手の血なまぐさい「残務処理」を、一族では「荒事」と呼ぶ。

「……まあ、実際は、それぞれの血族が自分たちの利益のために他のヤツラを利用したり、されたりしているわけで……結束、という点でいうと、かなりゆるーい集団なんだがね……」
 つまり、「一族」は、決して一枚板ではない。
「……冷戦終結以後は、じじいが長老やってっけどさ……」
 東西対立が確とした時代は、姉の者が首領の座についたし、もっと前、日本が世界中を敵に回していた時代は、ほとんど佐久間の土壇場だった……。
 そのように、時代時代の特性に合わせ、一族全体の性質も変化させる柔軟性があるのだ、という……。
 だからこそ、この時代まで生き残れた、と、荒野はいった。

「で、肝心のお前ら、加納の得意技ってのはなんだ? ン?
 お前らも、六主家の一つなんだろ?」
「加納は、突出した特性を持たない。平均的な能力と知力。
 揶揄を込めて『凡庸なる加納』と呼ぶヤツも多い。揶揄を込めないときは、『偉大なる凡庸』とか、いわれる」
 平均的な能力をもつ、ということは、裏を返せば、これといった弱点がない、ということでもある。
「加納の特性をあえていうのなら……」
 早熟と長寿。どのような状況にでも、どうにか対応できる柔軟性。そして、……。
「外交能力。癖の強い他の六主家の間の緩衝とか……それに、一族と、その他の人々の窓口になることも、多い……」

 加納の者は、体が早く成熟し、また、平均寿命もかなり長い。二宮や秦野のように、死に急ぐ傾向もない……。
 個体の寿命が長いことは、個々人が蓄積する経験値も多くなる、というこを意味する。いわゆる「年の功」というやつだが、これは、交渉の場では、かなりの有利をもたらす。

「外国のやつらは、外見上はあまり年齢をとらない加納の者を、エルフと呼ぶこともあるよ……」
 六主家の簡単な説明の締めくくりに、荒野は、そうつけ加えた。

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彼女はくノ一! 第三話 (8)

第三話 激闘! 年末年始!!(8)

 そうこうするうちに、羽生譲のいう「第ン回、ポロリもあるよ! 女だらけの修羅場ちっく天国、怒濤の冬コミ攻略籠城合宿」も、三日目に突入した。
 完全泊まり込み体制の柏(姉)、元からこの家に住む羽生譲、松島楓、才賀孫子の三名、自宅と狩野家を往復しながら手伝うのが、柏(妹)と樋口明日樹の二名、という布陣である。狩野香也は試験休みの初日、合宿二日目に残っていたカラーページの作業も全て完了し、現在では、自分の絵を描く日々に戻っている。スケージュール的にいよいよ危ない、ということになれば、即、呼び出されるはずだが。

 作業に従事する者の半数以上が未経験者である割には、作業の進行状況に遅滞はなかった。
 絵心のある樋口明日樹は、最初の方こそ慣れないペン描きに苦戦していたが、「こういうのもあるよ」と、羽生譲が極細のロットリングやフェルトペンを差し出すと、途端に作業効率を上げた。香也もそうだが、普段、筆の感触に慣れた者にとって、ペンが紙を擦る感触は、あまり心地よいものではないらしい。
「でも、ペンで引いた線って、きれいですよね」
 樋口明日樹とは逆に、ペンでの作業に拘るのが柏(姉)、こと、千鶴さんである。もともとおっとりした所のある彼女は、効率よりも仕上がりの美しさに拘泥する傾向がある。今回、貴重な経験者である彼女は、初めて、人物へのペン入れもまかされることになった。予想されていたことだが、羽生譲だけでは全然消化しきれなくなったのだ。手はあまり早くないが、その分、丁寧で、一枚一枚着実に消化していった。
 一番、負担がかかっているのが、企画者である羽生譲である。彼女はこの三日、あまり寝ていない。目の下にクマを作り、買い込んだドリンク剤をダース単位で空にしながら、それでも、手は止めない。さすがに軽口を効く余裕は段々なくなってきているが、それでも初日とさして変わらない作業ペースを維持しているあたり、やはり場慣れした印象を与えた。
 最初の頃、「まず、慣れるまでは」と、ベタ塗り、枠線引き、消しゴムかけなどに従事していた三人は、それぞれの器用さを判断され、今ではさらに細分化された分業体制になっている。
 三人の中で一番手先が器用だった才賀孫子は、「削り」まで含めたトーン処理、それに微妙な階調を伴ったベタとホワイトの処理、までをまかされるようになった。
「ここ、チンコを抜いた所から、ぶわっと白濁液が噴出して、そんで、次のこのコマでは、それがとろりと垂れている感じで」
 みたいな羽生譲の指示に眉をひそめながらも、なにも言わず黙々と作業を続ける。エロ系だから、その手の液体の描写も、当然多くなる。
 孫子ほどではないが、そこそこ器用だった松島楓は、効果線などの単純作業に加え、樋口明日樹だけでは間に合わなくなってきた背景の一部のペン入れも手伝うようになっていた。
 本人は、慣れない作業に緊張しているようだが、その緊張がいい方に転がって、時間を経るにしたがって、いい線を描くようになっている……と、羽生譲は判断した。今回が初めて、ということを加味すれば、掘り出し物的な即戦力、だと思う。
 初めてなのに、少し教えただけで、トーンやホワイト修正までこなしてしまう才賀孫子のほうが、どちらかというと、例外的に器用すぎる。
 残った柏(妹)のほうは、ベタや枠線、消しゴムかけなどの単純作業を続けている。
 とはいえ、この単純な、誰にでも出来る作業が、実は、作業量的には一番膨大だったりするから、専任でそれだけをやってくれる人間がいてくれるのは、かなり助かる。このうち、枠線の作業は全て終わっているが、ベタはまだ大半が残っていて、消しゴムかけの作業は、これから原稿が上がってくるにつれ、どんどん溜まってくるはずだった。
『……場合によっては……』
 羽生譲は、そんなことも考えはじめている。
『……こーちゃんを呼び戻したり……お隣りの三人にも手伝って貰うかな……』
 日程的には、そろそろ半分近く消費しているわけだが、作業としては、まだまだ全体の半分に届いていない……。
 ほとんどの人員が今回初めて、ということを考えれば、かなりいいペースだとは思うが、全員、これから時間とともに疲労をため込んでいく。その分、ペースも落ちるはずで……。
 後の方にいくに従って、きつくなるはずだ……と、羽生譲は考えている。考えながら、手を動かしている。

 翌日、作業開始四日目にして、羽生譲はついに陥落した。
 いや、それまでほとんど寝ていなかったところを、六時間の仮眠をとった、ということなんですけど。
 周囲にしつこいぐらいに「この時間になったらたたき起こすように」と念を押し、六時間の仮眠をとった後、跳ね起きた羽生譲は、作業の進行状況をチェックし、
『……手遅れになる前に、手をうっておいた方がいいか……』
 と、判断する。そして、庭のプレハブに出向き、
「先生、お願いします」
 と、狩野香也に頭を下げた。
 それから台所を通りがかると、ちょうど狩野真理と肩を並べて調理をしていた三島百合香がいたので、
「センセ、お願いします」
 と、加納兄弟にも応援要請を伝えるよう、言付けた。
 三島百合香は、試験期間中ということもあって、ここ数日は毎日のように食事作りにこの家に来ている。もともと料理が好きだというが、多人数の食事を毎回用意しなくてはならない狩野真理には大歓迎されている。味のほうも、おおむね、どころではなく、大好評である。

「……んー。時間ないし、サインペンでやっちゃっていい? ちょっと仕上がり、荒れるけど……」
 作業部屋に入ってきた狩野香也は、まず全体の進行状況をチェックしてから、羽生譲と軽く打ち合わせを済ませ、あちこちからかき集めた原稿の束を、自分用に割り当てられた机の上に置き、その上から一枚、手前にとって、自分の目前に置く。
「まず、人物からやっちゃうね」
 新品のサインペンの封を切り、おもむろに、原稿の上に置く……。
 と、同時に、その手が、「ぶわぁっ!」という感じで、動く。
「……うわぁ……」
「……はやっ!」
 柏(妹)と松島楓が、感嘆の声を上げた。声は出していないものの、才賀孫子も、目を見開いて驚愕の表情を作っている。他の三人は、多少の差はあっても、香也の働きぶりをみたことがある。樋口明日樹は、自分の原稿のほうに顔を向けながら、にたにた笑っている。
 狩野香也が一枚目を手放すまで、十分強しかかからなかった。
 そのまま直ぐ、次の原稿と入れ替える香也に、
「……狩野君……なんで……そんなに早いの?」
 結局、香也が一枚目を手放すまで見ていた柏(妹)が、驚きを隠せない三人を代表する形で、そう尋ねる。
「……基本的に、自分で描いた絵をなぞっているだけだし……」
 答えつつ、香也は、手を止めない。
「それに、マンガの線って、シンプルで、少ないし……」

 さらに翌日になると、加納兄弟も参戦してきた。

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髪長姫は最後に笑う。第三章(3)

第三章 「茅と荒野」(3)

 マンドゴドラから帰ると、近くの道路に才賀総合運輸のロゴが荷台に書かれた四トントラックが何台も横付けされていた。お揃いのつなぎを着たドライバーたちが、才賀孫子の指揮で荷物を選別したり、お隣りの狩野家に運び込んだりしている。
 その大きなトラック群の間をすり抜けるようにして、よたよたと二トントラックがマンションの搬入口に横付けされる。
 荒野たちが共用部分の入り口を開けようとしていると、
「あ。ちょうどよかった。加納さんの家の方々ですか?」
 と、声をかけられた。
 昨日、狩野真理に連れられて買ってきた茅の服が、届けられたのだ。
 二トントラックから次から次へと部屋に運ぶ込まれる服の量を目の当たりにして、荒野は、目眩を覚えた。
 カジュアルなものからスタイリッシュなもの、それに、フォーマルなもの、と、様々な場に合わせられるように選んで貰ったのはありがたかったし、そっちの方面にあまり興味がない荒野からみても、どれも茅に似合いそうな服を選択をしている、と、思う。
 だが、いかんせん、量が多すぎる。
『……真理さん、張り切りすぎ……』
 マンションに備え付けのクローゼットに納めるのには完全に多すぎる量で、結局、二LDKのうち、茅の部屋として割り当てていた一室をまるまる使って、ようやく収納した。これで、茅の部屋はほとんど物置状態になり、居住スペースをほぼ完全に殺された形になる。つまり、茅は荒野と寝起きを共にするよりほか選択肢がなくなる。別に不都合はないが、選択の余地があるのとないのとでは、気分的になにか違うような気がした。
『……なんか、なにげにどんどん外堀が埋められているような気がする……』
 荒野は悩みつつ、どこか、安堵するような気分も味わっている。

 搬入された荷物を三人がかりでなんとか整理し終えると、なんとなく、「三人で最初の会議を」ということになった。
 茅が「発見」されるまでの状況を、茅に説明し、遺留品のリストなども見せる。
 その上で、茅の話しを聞く。
 と、いっても……。
「……付け加えるべきことは、別にないの……」
 基本的に、茅と加納仁明が生活していたあの廃村での生活は、単調なものだった、という。
 住人は二人だけ。茅は、あの村から出るまで、仁明以外の人間をみたことがない。仁明は、田畑を耕したり、家屋の修繕をしたり、茅の相手をしたりしていた。茅の記憶する限り、仁明が村をでたことはなかった。仁明以外の人間が村に入ってくることも、なかった。本やビデオはみていたので、村の外に別の、大勢の人間たちがいて、社会を作っている世界があることは、知識として知ってはいた。ただし、まったく実感を伴わない知識だったが。

 あの村から出るまで、茅にとって世界という言葉は、「仁明と茅の二人しかいない村」と同義だった。
 茅の目には入らなかったが、仁明以外の協力者がいたことは確かだ、と、茅はいう。
 定期的に燃料や食料、雑貨などを運び込んで来ていた者……おそらく、複数の人間が、いたはずだと。
 ただしそうした物資は、茅が寝ている間にこっそり補充されているので、茅は、どんな人間が運んできているのか、まったく知らなかった。仁明にも訊ねてみたが、
「茅が気にすることではない」
 といわれるばかりだった。

 茅の教育も、当然、仁明が行った。
 数カ国語の読み書きや計算や数学、初歩的な科学知識、歴史……など。
 三島百合香によれば、茅が修得した知識はだいたい義務教育終了相当、分野によっては、高校レベルを越えている分野も、あるという。
 茅の現在の年齢を考えれば、若年時の詰め込み教育に近いものだが、特定の才能だけを突出して伸ばそうとした英才教育では、ないようだった。
 茅が仁明から与えられた知識は、基本的には「広く、浅く」であり、その途中で茅が興味を覚えたことを、さらに細かく教え込む、という形をとった。だから、現在の茅の知識に偏りがあるとすれば、それは大体、茅自身の興味に即した偏向、ということになる。
 最後の数年は、茅の質問に仁明が答えられないことも、少なくはなかった、という。
「いろいろな知識を得るのは、楽しかったの。でも、仁明から学べるものが少なくなってきたので、少し退屈しはじめた頃だったの」
 仁明が村から、つまり、茅の前から、姿を消したのは。

 茅の前から姿を消す前日、仁明は茅にいった。
「茅、お前は、この閉ざされた場所で、全てを受け取り消費することで、今まで生きてきた。明日、お前を養ってきたおれは、お前の前から消える」

「理由を聞いても、教えてもらえなかったの」

 ただ、加納仁明は最後にこういった。
「これからどうするか、どう生きるのか。
 それを選択するのは、お前だ。
 お前が望めば、加納荒野という男……いや、まだ少年か……が、お前を守り、お前の側に居続けるだろう。ちょうどおれが、今までお前にそうしていたように。荒野は、おれの息子だ。だが、今は、お前の存在すら、知らない……」
 おれに似ているかどうかはわからないが、母親に似ていれば、お前とは対照的に白い髪をしているから、会えばすぐにわかる、とも、つけ加えた。

 そして仁明は、次の日茅が目を覚ますと、その言葉通り、姿を消していた。

「それからずっと、寝ていたの」
 わずか数日分しか残されていない食料を食い延ばしたところで、たかが知れていると思った。村の外にでていく、という選択肢は、思いもつきもしなかった。村の外、など、本や映像の中だけの、架空の世界だと思っていた。
 加納仁明と茅しかいない世界から、仁明が姿を消し、なにかを与えられることしかしらない茅が、抜け殻のようになって残された。

 何日か過ぎて、助け出されても、助けられた、という意識を持つこともできなかった。周囲の人影は、みな、本やビデオの中にのみ存在する、架空の世界の住人に思えた。
 話しかけられる言葉は理解できたが、返事をする気にはなれなかった。
 彼らと自分とは、住む世界を異にする住人だと、ずっとそう思っていた。

 妖精の国の一人だけ迷い込んだ人間。
 あるいは、妖精は自分のほうで、今は、なにかの間違いで、人間の国に迷い込んでいるのか?

 そんな気分でうつらうつら過ごしているうちに、あっという間に数ヶ月の時間が過ぎ去る。
 そして、ようやく……。
「白い髪の、仁明によく似た少年……荒野が現れたの……」
 荒野の顔をひとめ見たとき、茅は、知らず知らずのうちに涙を流していた。

「……これで、生きられる……。
 そう、思ったの」

 仁明に依存することで生きていた茅の前から、仁明が消えた。
 それは、茅にとって、天災か神罰に近い、衝撃的な出来事だった。
「仁明がいった通りの少年、仁明の息子だと名乗る荒野が、ようやく目の前に現れたとき……」

『……許された……』
 茅はそう思った、と、いう。

 生きることを、許された……と。

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彼女はくノ一! 第三話 (7)

第三話 激闘! 年末年始!!(7)

 数日前、叔父の才賀鋼蔵に社員たちの平均年収を教えて貰ったとき、才賀孫子は愕然とした。「不当に低い」、と、そう感じたのだ。それまで孫子が買い物するときは、値段もみずにカードで決済することが多く、買う物も、服や靴などの装飾品と若干の本くらいで、基本的に孫子は、「物の値段」に無頓着でいられた。
 だから、狩野家に住むようになって、同時に、商店街に毎日ようのように出入りするようになって、初めて孫子は、「世間一般」の人々が、極めて低廉な経済生活を送っているこのか、ということを実感した。たとえば、不動産屋の店頭に張られた広告によると、孫子が衝動買いするような服一着の値段で、この辺の一軒家の一月分の賃料を充分にまかなえる。そして、この商店街で取引kされる多くの物品は、不動産よりよっぽど安い。
 商店街に出入りして、食料や衣料品などの平均的な物価を実地に知ってみると、たしかに、叔父に教えられた社員たちの収入でも、充分に豊かな生活ができるような気がしてきた。
 こうした知見は、屋敷とお嬢様学校とを運転手付きのリムジン(防弾仕様。海外で羽振りをきかせている「才賀」は、テロの標的になる確率も高い)で送迎される毎日を送っているだけでは得られるわけももなく、孫子は、叔父にいわれた「世間知らず」の意味を徐々に実感できるようになってきた。
 最初こそほうこそ反発したが、たしかに、今の時点で、この土地での生活を経験することは、自分のためになるだろう、と、そう納得できた。
 また、接する人々も孫子を、「才賀の娘」としてではなく、「年齢相応の一少女」として扱う。例えば、バイトの合間に、不意に、温かい缶コーヒーを差し入れられたりするのは、以前のようなかしずかれているだけの立場では経験できないことであり、孫子にとって、最近の生活は新鮮な驚きに満ちていて、態度にこそあまり現さなかったが、実は楽しんでいた。

「そんなにお金が欲しいのなら、送られた物、処分すればいいじゃないかよぅ」
 ある日、なにかのはずみでそういう話しになり、ふと、羽生譲にいわれたことがあった。
 トラックで送られてきた孫子の荷物は、吟味した上、大半を送り返したわけだが、たしかに、衣料品や装飾品が多く、生活必需品、というわけではない。また、指摘されて初めて気づいたが(基本的に孫子には、「自分の持ち物を売買する」という発想自体がなかった)、オートクチュールやブランド品がほとんどのそれらを処分すれば、かなりまとまった金額の現金を手にすることができそうだった。
 そんな簡単なことさえ指摘されるまで気づけなかった孫子は、一人恥じ入り、「いざというときの手段」として脳裏に書き込んだ。当面は衣食住が保証されているので、孫子は、あまり大きな金額を必要としなかった。
 今まで、孫子が華美な生活をしていたことは、孫子個人の嗜好というよりは、やはり才賀という自出故、であって、実際にやってみると、質素な生活もそれなりに楽しいものだ、ということを、孫子は確認する。特に、大勢で身を寄せ合うようにして摂る食事は、たとえ食材が安価なものであっても、充分においしく、逆に、今まで、孫子の家族縁が極めて薄かったことを思い知らせる形にも、なった。

 そんなわけで、何日か過ごしてみると、孫子は、自分が案外狩野家での生活に満足していることを発見した。
 孫子が「もう一人のサンタ」と出会ったのは、そんな頃だった。

 松島楓と二人ではじめたチラシ配りのバイトは、基本的に順調だった。関係者の思惑を越えて順調にいきすぎた、ともいえる。二人を目当てに人手がではじめ、それは日々増え続けている。それを目にした店主たちが、競うようにして、新たにチラシを発注する。そんなわけで、二人が扱うチラシの種類と数量は日々増え続け、二人は見事に増え続けるチラシを配りきった。もともと、二人とも常人離れした体力の持ち主であり、この程度の労働はあまり負担だとは思ってもいないようだった。
 そんなわけで、「出来高」という約束ではじめたバイトは、日々、二人の賃金を、結果的に増大させはじめている。
 関係した誰もが利益を得る、奇跡的に幸福な推移、とさえ、いえた。
 人出が増え続けたこと、二人のファン層が差別化してきたこと、扱うチラシの種類も増えたこと、などにより、途中から、「昼過ぎから夜までが楓、夜から夜半にかけてが孫子」というシフトが固定し、そうなると今度は、孫子に、町の夜の顔をつぶさに観察する機会に与える結果となった。
 酔っぱらいに絡まれたりして、不快な事もあったが、商店街の裏手にある安酒場街の人々の生態をそれとなく観察したり、と、これはこれで、孫子には得るところが大きかった。休憩中、こっそりと商店街の裏手にまわり、自販機の温かい飲み物を楽しみつつ、大人たちの夜の顔を観察することは、孫子にとって密かな楽しみとなった。
 そこで、風俗店などのいかがわしいチラシを配布している、しょぼくれたサンタと知り合いになった。知り合い、といっても、最初のほうは「同じサンタのコスチュームを着ている」ということで、せいぜい目礼を交わし合う程度の関係だったわけだが。
 そのサンタは、中年の、にこやかだが覇気のない顔をした男で、頻繁に会うようになり、顔を記憶した後も孫子は、そのサンタの存在をあまり気にとめていなかった。そのサンタとの関係が少しでも深まったのは、たまたま孫子が、そのサンタが数人の柄の悪い男たちに囲まれいるところに出くわしてからだった。
「多勢に無勢は、無粋」
 反射的に孫子は、いかにも「その筋風」の男たちを蹴散らしていた。造作もないことだった。この近辺で武力で孫子対に抗できるのは、あの加納の跡取り……それに、百歩譲って強いてつけ加えるのなら、比較的まともに立ち会えるのは、あのお馬鹿なくノ一くらいなもんだろう。
 組織力を背景に一般人を恫喝することが仕事の「その筋風」など、束になっても孫子は問題にしない。組織的な暴力なら、四百年来続いてきた、才賀の家風でもある。もっとも、こっちは「恫喝無しの実力行使」として使用されることが多かったが……。
「……あ。あ。あ……」
 突如現れ、あっという間もなく男たちを逃走させた孫子を、男は見上げた。顔だけは知っている、ミニスカのサンタ。
「……お嬢ちゃん、強いんだねぇ……」

 男は、羽生譲市と名乗った。

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髪長姫は最後に笑う。第三章(2)

第三章 「茅と荒野」(2)

 翌日、荒野はキッチンの方から聞こえてくる包丁の音で目を醒ました。体内時計によると、たぶん、いつも起きる時間より、二時間ほど遅い。携帯電話の液晶を確認すると、荒野の体感した時間は、かなり正確だった。
 気が緩んだせいで、いつもより熟睡したのだろう。
『……ええっと……』
 自分はここにいる。ということは、……。
『……茅が、料理している?』
 除去法で判断すれば、そうなる。
 のろのろと起きあがって服を着ていると、荒野のエプロンを着た茅が、荒野の部屋に入ってきた。

 茅の恰好をみて、荒野は絶句する。
「……茅……その恰好……その、どうして、……エプロンしか、つけてないんだ?」
「先生が、『こうすれば荒野が喜ぶ』といってたの」
 ……あの先生、茅が素直に信じ込むのをいいことに、滅茶苦茶な知識をこっそり植え込んでいるのか?
「荒野、こういう恰好、嫌い? 喜ばない?」
「好きか嫌いかといったら……うーん。どちらかといえば……好きなほうだ……と、思う。……たぶん」
『さて、どう説明するべきか……』
 考えつつ、荒野はゆっくりと説明する。
「だが、間違うな、茅。
 その恰好そのものよりも、そういう恰好を自分のためにやってくれる女性がいる、というシュチュエーション自体がいいわけであって、すでに茅は、おれのために、おれを喜ばせようと思って、そういう恰好をしてくれた。
 それだけで、おれは満足だ。
 だから、今後、そういう恰好をする必要はない。これっぽっちもない。微塵もない。
 それとも、茅自身が、そういう恰好で歩き回るのが好きなのか? だったら、止めやしないが」
「茅、この恰好、全然好きではないの。これ、すーすーして涼しすぎるの」
「そうだな。では、今後、この部屋の中では、そういう恰好をしないように。
 はい。服を着てきなさい」
「わかった。
 それから、荒野。ごはんできてる」
「これから、ありがたくいただくよ。
 一緒に食べよう」
 こくん、と頷くと、茅はきびすを返し、平坦な節回しで「おっとこーのゆっめだーはだかエープロン」と歌いながら去っていった。

 荒野は、今後、どういう仕返しをしたら三島百合香を抑えられるのか、効果的な抑制法を、本気で模索しはじめた。

 茅が作った朝食は、焼き魚に納豆、味噌汁という極めてベーッシックな和食で、格別にうまいというわけでもなかったが、ごく普通な感じが、荒野にはかえって好感が持てた。
 食後のお茶を堪能してつろいでいるところに、三島百合香が訪ねてきた。今日は三人でマンドゴドラへ挨拶にいく予定である。
「先生。面白がって茅に変なこと吹き込むのはやめろ」
 三島の分もお茶をいれ、荒野は、おもむろに切り出した。
「それから、これからの相談事は、茅も含めて三人で話し合う。
 そう、決めた」
「お、荒野。一晩で随分さっぱりした顔になったな。ついに茅とヤッか?」
「ヤッてないし、仮にヤッたとしても、先生にいちいち報告する義理も、義務も、ない」
「なんだ。ノリの悪いヤツだな。
 ……ま、いいか。
 じゃあ、今日から茅は、お前が保護する対象じゃなくなったんだな」
 三島百合香はいろいろ問題は多いが、これで勘がいい。会話をしていて、打てば響くような感触を得ることがある。
「そういうことだ。
 これから、茅は、おれと対等の相棒だ」
「それならそれで、かえってやりやすい。むしろ、遅すぎたくらいだ。
 荒野。
 お前が漠然と予想しているよりも、茅は頭いいぞ」
 湯飲みを傾けながら、三島百合香はそう断言した。

 三人で他愛もないことをしゃべりながら小一時間ほどかけて駅の方に向かう。日曜の朝、ということもあって、人通りは少なかった。良く晴れて、空が高かったが、底冷えのする寒い朝、だった。
 商店街のはずれにある洋菓子屋マンドゴドラの店舗は、ごく小さなものだった。売り場の、道路に面した側がガラス張りになっており、そこに十脚ほどのカウンターが設置されていて、ソフトドリンクも売っている。やはり、持ち帰り用の商品がメインだったが、そのカウンターで飲食も可能な構造になっていた。
 開店時間まで数十分、という慌ただしいはずの時間帯なのに、店の前を掃除していた、高校生ぐらいの女性に声をかけると、店内のカウンターに案内され、すぐに中年のマスターが店の奥から出てきた。
「や。あんたらがそうか。話しは聞いている。なるほど、二人とも美形だなあ」
 好奇心を隠そうとはせず、荒野と茅に、じとじとと視線を這わせた。
「でも、あんまり見ない顔だな。本当にこのあたりの人? 東京あたりの、本職のモデルとかタレントじゃないの? うちもそうだけど、この商店街なんか相手にしたって、金になんかならないよ。見ての通り、半分寂れかかっているんだから」
「別に金銭を要求しているわけではない」
「や。あんた、大人? てっきりこの子らが、知り合いの子供を預かっているのかと思った」
「どちらかというと、わたしのほうがこの子らを預かっているのだがな」
 子供扱いされることに慣れているのか、三島百合香は冷静に免許証を取り出して、マスターの前にかざす。
「それに、つべこべ言わず、この子らにケーキもってこいって。こいつら、ケーキさえあれば、大抵のことは黙ってやるから。そんで、この子らの食べる顔、とくと見てみなって。なんにも言えなくなるから」

 その通りになった。
 ケーキを口に含んだ二人が相好を崩す様子を見て、マスターは口をしばらくぽかんと開け、たっぷり数十秒絶句し、その後、腹を抱えて笑い出した。いえ、比喩ではなく、本当に、そうした。
「わかったわかった! 君ら、本物だ! 一年でも幾つでも無料で商品を進呈する。でも、できれば、この店にきて、このカウンターに腰掛けて、外にいる人に見せびらかすように食べて欲しい」

 この日から、茅はマンドゴドラの喫茶室の常連になった。
 図書館から借りた本をカウンターに積み上げ、幸せそうな顔をしてケーキをパクつく茅がカウンターにいる時間は、マンドゴドラの売り上げが、確かに、伸びた。何日かに一遍は、荒野も隣に座った。
 その年の年末、「よくマンドゴドラのカウンターに座っている、少女と少年」の噂が、口コミで、近隣の中高校生の間に広まっていった。
 ほぼ同じ頃、夕方になると出没するサンタとトナカイのチラシ配りの活躍で、商店街の人出が、徐々に増えつつあった。

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彼女はくノ一! 第三話 (6)

第三話 激闘! 年末年始!!(6)

「……しかしまあ、十八金のエロ同人誌なのに、助っ人のほとんどが十八才以下のしか集まらなかった、というあたりが笑えるよなー……。
 ……いいけど……」
 とか何とかいいながら、羽生譲は、てきぱきと仕事を割り振っていく。
 人物のペン入れは自分でやることにして、美術部所属で絵心のある樋口明日樹には背景の仕上げ(香也は、人物だけではなく背景の小物まで鉛筆書きでかき込んでいた)、手先が器用で実力のほどが把握できている柏(姉)はトーン張りとか効果線の処理。
 その他の、初参加の三人は、とりあえず、ベタ塗りとか枠線引きとか、比較的誰にでも無難にできそうなところから手をつけて貰う。ペン入れが終わった原稿が溜まってきたら、消しゴムかけもやってもらおう。
 今回は全体的に量が多いので、手をつけられるところからどんどん片づけていかないと、仕事が消化しきれないおそれがあった。

「あ。わたし、もうすぐ何時間か抜けます。
 駅前にいかにないと……」
「その後わたくしも、入れ替わりに」
「そっかぁ……。
 くノ一ちゃんとゴスロリ子ちゃんは、商店街の方と掛け持ちだったなぁ……。
 クリスマスまでの辛抱だ。がんばれ」
 今現在、楓が忍装束だったり孫子がゴシック・ロリータ・ファッションで決めていたりするわけではないが、初対面時の印象がよほど強かったのか、羽生譲は普段から二人をそう呼んでいる。

「実際にやらせてみると、予想を越えて人が集まりすぎた」ということと、「二人目当てでやってくる客層が明確に違う」ということが判明したので、ここ数日、楓と孫子は時間差をつけて出勤するようになっている。楓のファンは子供や家族連れの人が多く、孫子の歌を聴いてリピータになるのは比較的年配の人が多かった。楓は三時から七時まで、孫子は七時から十一時まで、商店街に立つことになっていた。未成年である孫子に夜間の仕事をやらせることに反対する声もあったが、
「……わたくしに不埒な振る舞いをしようとする輩は、かなり、後悔することになるでしょうね……」
 という本人のひと言と、あと、実際に孫子に絡んで「かなり、後悔すること」になった酔っぱらいが実在したので、黙認される形になった。
 ちなみに、その時の一件は、「正当防衛」、かつ、「不起訴」である。その一件以来、孫子に軽々しく言い寄る者は皆無になった。

「わたしも、今夜は帰りまーす」
 学校帰りで、そのまま様子見をかねて立ち寄った柏(妹)も、手をあげる。
「鞄置いてきて、着替えも持ってきたいし、まぁくんのごはんも……」
 柏(姉)のほうは、いつものことなので長期滞在の用意をしてきていた。
「あの……通い、でも、いいですか?」
 樋口明日樹がおずおずと手を挙げた。樋口家は、狩野家から歩いて五分ほどの距離であり、そもそも泊まり込みをする必要性があまりない。
「遠慮しなくていいよ、そんなもん」
 猛烈に手を動かしながら、羽生譲が答える。
「儲けは、ちゃんと働きに応じて平等に配分するから。
 好きに出入りしてくれぃ!」
 羽生譲も、一度仕事に集中しだすと、目が据わってきて、口数が少なくなる。
「……あ。でも、今夜は三島先生が陣中見舞いでメシ作ってくれるとかいってたな」
「な、なんでここにミニラ先生が出てくる!」
 柏(妹)が悲鳴に似た声を上げる。夏以来、柏(妹)は三島百合香に苦手意識をもっている。
「お隣りのマンションに住んでいるご近所さんでな。最近、うちとは家族ぐるみの付き合いになってるんだよ、センセとカッコいいほうの兄弟とは」
「カッコいいほうの兄弟?」
「わはは。ようやく昨日から放映されたばかりだから、まだ知らないか。もうじき有名人になるぞ、あの二人。分からない人は駅前のマンドゴドラのショーウィンドウをちぇっきッ! だ! あれもわたしの力作だしなー」
「あ。」
 柏(姉)が顔に掌をあてて、目を見開いた。
「ひょっとして、あの、萌え萌えーな猫耳ちゃんたちですか?」
 柏(姉)は毎日のように食事を作る関係上、商店街にも日参している。
「そー。それそれ。黒猫ちゃんと白猫ちゃん」
 くくっく、と、羽生譲は笑いをかみ殺している。それでも、手は止めない。
「そっかぁ……。ちづちゃんも萌え萌えーっときたかぁ……。
 これは、予想以上にブレイクしそうな予感……」
 自分が企画に関わったコンテンツが好評だと、やはり嬉しいらしい。
「すごいですねー。今年のゆず先輩はー。
 黒猫ちゃんと白猫ちゃん、それに、ひょっとして、トナカイさんとサンタさんも、先輩のプロデュースですか?」
 羽生譲と付きあいの長い柏(姉)は、羽生譲のことを「ゆず先輩」と呼ぶ。
「わかる? わかる? まあ、わたしだけではなく、共同プロデュースみたいなもんだけどな……」
「あ! 商店街!」
 突然、それまでおとなしかった樋口明日樹が、中腰に立ち上がって、松島楓と才賀孫子を交互に指さしはじめる。
「サンタ! トナカイ! サンタ!」
「ああ! 本当だ!」
 少し遅れて、柏(妹)も、二人の正体に気づいた。
「最近、商店街でビラ配っているサンタさんとトナカイさんだ! なんで! どうして!」
「……いやぁー……あはは……なんていうかぁ……」
 手をとめ、照れたように笑って後頭部を掻きながら、松島楓は、小さく首を傾げた。
「……浮き世の、義理? ……に、なるのかなぁ……それとも、一宿一飯?」
 たぶん、最後のは激しく違う。
「お仕事。お金のため」
 向かっている原稿から顔も上げず、ポツリと呟くように答える才賀孫子。
「あー。じゃあ、ぼく、プレハブのほうに戻ってカラーページやっているから……」
 自分に矛先が回ってくる前に、早々と逃亡を図る香也。

 狩野家での闘いの始まりは、こんな感じだった。

[つづき]
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髪長姫は最後に笑う。第三章(1)

第三章 「茅と荒野」(1)

 以前、茅とこのマンションに住みはじめた当初、茅は寝間着のまま荒野のベッドのそばに来て、そこで服を脱いで、荒野のベッドに入ってきた。
 その夜は、茅が荒野の部屋に入ってきた時点ですでに一糸も纏わない全裸だった。
 照明をつけていない薄暗い部屋の中に、漆黒の髪と瞳とは対照的に青白い茅の肌が、ぼうっ、と浮かび上がっている。
 当然、荒野は茅が部屋に入ってくる前から茅の気配に気づいていたが、緊張と当惑で体がうまく動かなかった。全裸の茅が実際に部屋に入ってきてからは、茅の存在ん自体に魅入られて、声も出せなくなった。
 シミ一つない白い肌も股間の小さな茂みも、誇示するわけでもなく隠すわけでもなく、茅は全てを無防備にさらけ出し、寝ている荒野のそばまですたすたと近づいてきて、無造作に寝具をはぎ取って、中に這い入ってきた。
「……茅……」
 以前と同じように、茅が荒野の服をはぎ取ろうとするのに任せながら、荒野はなんとか言葉を絞り出した。喉がカラカラに乾いている。
「……その……前から聞こうと思っていたけど……これ、なに?」
 茅は、荒野の服を脱がせる手を一旦止めて、きょとんとした顔で荒野の顔を見上げる。
「……冬は寒いから、肌を合わせて寝るの。仁名とは、そうしていたの。そうしてないと、凍えるの」

 茅の返答を聞いて、荒野は、慌てて記憶の中を検索し、茅が発見された廃屋に残されていた物品の中で、「暖房器具」がどれほどあったのかを思い返してみた。
 ……たしかに、たいしたものは、なかったように思う。
 囲炉裏があったので、炊事と暖房の用は、大方それでまかなわれていたのだろう。
 ただ、北国ではないとはいえ、真冬の夜間はさすがに冷え込みがきつい地方でも、あった。
 だから、冬の間は、人肌で暖めあうのが習慣になっていた……というのは、いわれてみれば、確かに納得できた。
 同時に、そうした行為に対して妙に身構えて悶々とし、過剰な意味を見いだそうとした自分の間抜けさ加減にも気がついて、荒野は、一人落ち込んだ。笑いたくも、なった。

「……そっかぁ……。
 は。
 ははは」
 気づいたら、実際に乾いた声を上げている。
「……荒野? ……泣いているの?」
「ん。安心したら泣けてきたかも。
 あー。
 ここ最近、おれと口をきかなかった理由も、きいていいかな?」
「……荒野、ここ最近、怖い顔していたの……荒野に嫌われるの、怖いの」
 茅は、はだけた荒野の胸に、自分の小さな頭を押しつけて、囁く。
「仁明にずっと聞かされてきたの。荒野が、茅を助けてくれるって。ずっと茅の側にいて、守ってくれる人だって……」
 ……だから、その人に嫌われるのが怖かったの……。
 茅は、そう、囁いた。
「……おれ、親父の、仁明のこと全然知らないんだけどさ、仁明ってどんなヤツだった? 良かったら、少し詳しく話してくれないか?」
「複雑な人なの」
 茅は、前と同じ事をいった。
「いつも笑っているけど、同時に泣いていて、でも泣いていることをいつも隠そうとしてて……。
 ……そして、なんだかわからないけど、いつも何かに対して怒っていて、苛ついていた……。
 ……最近の荒野に、とてもよく似ていたの……」
 と、茅は続けた。
『……そうか。おれと、似ていたのか……』
 顔も知らない父親と似ているといわれ、荒野は不思議な気分になる。
 こういう場合、どういう感情をいだくのが「正しい」のだろうか?
「……おれは、おれだよ……」
 声に出しては、そうとだけ、いった。
「茅。
 相手がおれならいいけど、他の人とは裸で一緒には寝ないこと。
 茅は知らないのかも知れないけど、成人した人間が二人、裸で寝たり抱き合ったりすることには、特別な意味がある」
「これのこと?」
 と、茅は、ごく自然な動作で、すでに硬直しているペニスを軽く握って持ち上げる。
「ヒトの生殖行為についての知識はあるの。
 でも、多くの文献があるわりには、肝心な部分が、まだ、理解できていないの。受精以外を目的として性行為をする意味が、よく分からないの」
 茅は、可愛らしく首を傾げてみせた。
「でも、これは、不思議。
 仁明のは小さくて柔らかかったのに、荒野のはこんなに大きいの。
 荒野、茅とやりたいの? 今から、茅とやるの?」
 茅の表情には、期待もない。恐れもない。もちろん、欲情も愛情も、ない。
『……なるほど……本当に、わからない、のか……』
 ただ、強いていえば、ほんの少しの好奇心は、あるようだった。
「茅。そういうことは、さっきもいったけど、特別な人とやるものだ。
 ……茅は、おれのことが好きなのか?」
「わからないの。
 嫌いではない……と、思う。
 それに、荒野に嫌われるのは、とても怖いの。
 でも、荒野の側にいると、緊張するの。なにもいえなくなるの……」
「おれも同じだ。
 茅のそばにいると、普段の自分とは違うんじゃないかと思うくらい、ガチガチに緊張する。
 嫌われたくないと、思っていた。今も、思っている……」
「……でも……」
 茅は、荒野の胸に両腕を回し、抱きしめた。
「……こうしていると、とても落ち着くの……。
 仁明とはそうでもなかったけど、荒野とだと、とても安心するの……。
 ……だから……」
 ……ここ何日か、話せなくて、つらかったの……。
 と、茅は、言葉を続けた。

「いいよ。こうしてくっついてれば茅が落ち着くのなら、いくらでもくっついていなよ……」
 でも、眠い。今日は昼間、久々に、いい運動をしたからな……。
「……でも、ごめん、茅。
 もっといろいろ茅と話したいけど、今日は、もう眠い。もう寝る」

 ……続きは明日……。
 小声でそう呟くと、荒野はすぐに微睡みの奥に意識を沈めていった……。

「……おやすみ、荒野……」
 どこからか、茅の声が聞こえてきた……ような、気がした。夢、だったのかも知れない。
「……やっと、ようやく、荒野と普通に話せたの。
 これからもいっぱい、お話したいの……」

[つづき]
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彼女はくノ一! 第三話 (5)

第三話 激闘! 年末年始!!(5)

「……さて、と、今日は……」
 隣のマンションに住む加納兄弟を、撮影場所の写真館に連れて行く日だった。
 照明機材が揃っている、ということで、商店街の店舗の中でも古参の写真屋さんに話しをつい、衣装をレンタルして、メイクなども行きつけの美容院のスタッフに協力して貰うことになった。あとは、当人たちを連れて行き、撮影するだけである。
 羽生譲がマンションの一階の入り口で、インターフォンで加納兄弟の部屋を呼び出すと、カッコいいほうの荒野君から返事があり、すぐに兄弟連れだって外に出てきた。
 兄の方は、その年齢の割には長身で、愛想がよく、クォーターだとかで彫りが深く、短めのプラチナブロンド。妹のほうは、背はさほど高くはないは、腰まで届く黒髪と大きな目が印象的で、普段は結構表情豊かなのだが、ときおり、すっと静かにしていると、どこか神秘的な雰囲気を漂わす美少女。
 二人ともスリム、というあたりがかろうじて似ているのかも知れないが、それ以外はあまり類似がみあたらない兄弟だった。
『……この間会ったおじいさんと荒野君は、わりと似てたけどな……』
 タイプは違うとはいっても、二人とも人目を引きつける美形であることには変わりなく、特に二人揃って並んでいると、とても絵になる……。
 羽生譲にとっての、加納荒野と加納茅の印象は、そんな感じだった。謎のニンジャ集団の関係者、ということは知らされているし、この間はバイクに乗っているところを荒野と併走されて、そこ事実を改めて思い知らされてもいたのだが、そのあたりの背景には、羽生譲はあまり関心がないし、また、普段、あまり意識してもいない。
「今日は寒いし、タクシー呼んでおいたから……」
 羽生譲は、外に出てきた兄弟を、車内に招き入れた。駅前までは、歩くとなると結構離れている。

 いつもより枚数が多すぎるため、日曜だけでは間に合わなかった。結局、香也は、期末試験期間中の放課後の時間をかなり消費して、同人誌の原稿の大半をあげ、水曜日の夜、羽生譲に手渡した。
「おー、お見事。いつもいつも手が早いねー」
 渡された原稿をチェックしながら、羽生譲は関心した。二百枚近い原稿を、下書きとはいえ、わずか四、五日ていどで全て仕上げたことになる。
 ……それでいて、筆は荒れていない……。
 羽生譲が、彼我の才能の開きを意識するのは、こんな時だった。
「でも、まだ、カラー原稿は手をつけてないし……」
 狩野香也は相変わらず淡々としていた。
 同人誌とはいっても、表紙と口絵ぐらいはカラーを使う。その分コストもかかるが、モノクロオンリーとカラーとでは、会場での目立ち方が全然違う。特に表紙の出来不出来は、売り上げに大きく影響した。
 羽生譲も狩野香也も、アマチュアとしては不純なのかも知れないが、「お金のために」という意識が強かったので、一番手を抜きたくないパートでもあった。
「……そっちは、試験休みに入ってから片づけるから」
「うん。こんだけできてれば、今日明日にでも招集かけられるから、それで十分だわ」
 今年のコミケは師走の三日間が予定されていた。印刷に原稿を回すのは、最高に遅くて二十五日前後。できれば、その前に上げたい……。
 つまり、これから一週間くらいが、ちょうど正念場ということになる。

 この期間は、香也の学校の試験休みの期間とも、かなり重なった。

 その年最後の定期試験が終わった事を告げるチャイムが鳴ると、ちょっと脱力したような声が教室内でのそこここから聞こえてくる。
 早々に「起立、礼」の声がかかり、開放感に包まれた生徒たちは、ざわめきながら数人づつたむろしたり、帰宅の準備をしたりしている。学校中の教室で、今頃同じような光景が展開しているのだろう。
 香也は、級友のだれも語り合うことなく、そそくさと筆記用具を鞄に放り込み、廊下にでた。そして玄関口で、樋口明日樹に捕まった。
「や」
 試験期間の前後を含め、樋口明日樹とは、一週間前後顔を合わせていないことになる。
「試験、どうだった? って、狩野君はそんなこと気にしないか……」
 当然のように、一緒に帰ろう、という事になった。どうせ方向は一緒だし、樋口明日樹も、そのつもりで声をかけてきたのだろうし……。
「あの」
 連れだって帰ろうとする二人に、声をかけてきた女生徒がいた。
 香也と同じクラスの、たしか……。
「……柏さん、だったっけ?」
 学年の違う樋口明日樹のほうが、香也よりも先に名前を出す。
「可愛い」ということで、割と顔が知られている生徒だった。一見華奢な外見に似合わず、小さい頃から空手を習っている体育会系だったりする。この学校には「空手部」がなかったので、水泳部に所属している。
「試験、どうだった?」
「聞かないでください!」
 明日樹の問いかけに、柏あんなは、悲鳴のような声を反射的にあげていた。
『……なるほど……』
 と、樋口明日樹は思った。
『……こういう子なわけね』
「……それよりも、狩野君。
 家、こっちのほうだったっけ? じゃあ、この住所の狩野って家、ひょっとして……」
 柏あんなが示したメモ用紙には、狩野香也の住所が書かれていた。

「では、これより第ン回、ポロリもあるよ! 女だらけの修羅場ちっく天国、怒濤の冬コミ攻略籠城合宿を開始する!」
 羽生譲のワルノリ気味の宣言を、
「ポロリはありません」
 と、柏あんなの姉、柏千鶴がやんわりと訂正する。
「初日である本日は、今回から初出場する選手が多いことから、自己紹介から開始することにする! まずは、筆頭であるわたし、羽生譲。
『師匠』ないしは『にゅうタン』と敬愛を込めて呼ぶように!」
 このあたりのボケには誰も突っ込まなかった。
「それで、わたし、柏千鶴です。譲先輩の高校時代の後輩にあたります。常連です。また萌え萌えな原稿がナマでみられて幸せです」
 大学生くらいの、ほわほわーっとしたおねーさんだった。
「おねーちゃんから声をかけられた、初参加の柏あんなです。クリスマス・プレゼント代を稼ぎにきました……」
 姉の千鶴と顔立ちは似ていたが、雰囲気的に姉よりもシャープな印象があり、それでいて、女の子らしい柔らかさも感じさせる少女だった。
「……っていうか、本当に、これ全部、狩野君が描いたの? 結構、タッチが違うのが入り交じっているんだけど……」
 たしかに、柏あんながぱらぱらとみていた原稿の束の中には、ロリプニの太くて柔らかい線と、BL系の細い線、アニメ調の均質な線、モロ「エロマンガ」っていう感じの質感のある線などが、入り交じっていた。
 羽生譲の後ろでぼーっと座っていた狩野香也は、無言のままこくこくと頷く。
「うちのこーちゃんはすごいよー。人間コピー機だ。画家が駄目でもマンガ家のアシかアニメーターにでもなれば、今すぐにでも戦力になれる」
 羽生譲が請け負った。
『……意外な人に、意外な特技……』
 柏あんなは、半ば呆れた。
 学校での狩野香也は、一学期の途中までは「不登校の生徒」、それ以降は、極端に口数の少ない、影の薄い生徒ということになっている。少なくともクラス内には、友人と呼べる人間はいないのではないだろうか? あんなは、狩野香也がクラスの人間と親しく会話してる光景を、みた覚えがない。
「松島楓です。この家で居候やらせてもらっています」
 背はあんなと同じくらいだろうか。そのかわり、全体のフォルムが、あんなよりはよっぽど曲線的な少女が、にこやかにそう挨拶した。太っているわけではないのだが、なんか全体に丸っこい。特に、胸。
『…………胸だけなら、飯島先輩に匹敵するな……』
 柏あんなは、内心で冷や汗をかいた。
『……それにしても、居候って、今時……』
「才賀孫子。同じく、事情があってこのご家庭に寄宿させていただいている身です。お金が欲しいので参戦いたしました」
 言葉遣いは丁寧だが、言葉の端々に、なんとなく緊張感があった。
『……こっちは、キツめの美人さんかぁ……。
 ……なんなんだ、この家は……』
 柏あんなは、そう思い始めていた。
『そういえば、おねーちゃんの先輩だっていう人も、狩野君とは姓が違うし……』
 どてら姿でおちゃらけてはいるが、羽生譲も、容姿だけをみれば、充分に美人の部類に入るだろう。
「……あの……樋口、明日樹です……。狩野君と部活一緒で、この家にも結構きてます……」
 ちょっと引き気味に、樋口明日樹が挨拶をした。
 まさか、「ここに揃った美女\美少女軍団に危機感を持って、今日、急遽、参加を決めました!」などという本音をいえるわけもなく、また、目の前にこれだけの上玉が揃っていると、もともと「比較的地味な容貌」ということに自覚のある明日樹は、自然、声も小さくなってしまう……。
 明日樹は、
『なんなのよ! この状況は!』
 と叫びだしたかった。

 樋口明日樹の前途は多難だった。

[つづき]
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「はい(♀)×ろぅ(♂)×ろぅ(♀)」  完結記念アンケート 第四回結果報告

謹賀新年!!

忘れた頃にやってくる、
はい(♀)×ろぅ(♂)×ろぅ(♀)」 完結記念アンケート、 四回目の集計結果のご報告でございます。

ちなみに、こちらが
第一回第二回第三回の集計結果っすね。
ご興味ある方は、これらもご参照下さい。

 それでは今回の累計結果、いってみましょう。

Q1.本作品の登場するキャラクターの中で、お気に入りの人物はいますか?(幾つでも)
 1.千鶴さん   26票
 2.あんなちゃん 21票
 3.雅史くん   12票

Q2.ここ作品の中で一番の加害者は誰だと思いますか?(1つだけ選択)
 1.千鶴さん   34票
 2.あんなちゃん 7票
 3.雅史くん   1票

Q3.ここ作品の中で一番の被害者は誰だと思いますか?(1つだけ選択)
 1.千鶴さん   2票
 2.あんなちゃん 11票
 3.雅史くん   25票

Q4.この作品がシリーズ化されるとしたら、どのような形が望ましいと思いますか?(いくつでも)
 雅史くんとあんなちゃんが、いろいろなロケーションやシュチュエーションでやりまくる、一話完結式の連作短編集。
     24票
 千鶴さん、あんなちゃん、雅史くんがどろどろの三角関係を演じる、メロエロドラマ。
     18票
 千鶴さんの、意中の先輩を「手段を選ばず」籠絡するまでの奮戦記。
     5票
 突如帰国した雅史くんのお父さんが次々に養子縁組をして、雅史くんに十人の義理の姉と十二人の義理の妹ができちゃった! という設定のハーレムタイプのエロコメ。
     12票
 雅史くんの目前で突如現れた悪の秘密結社に殺害される千鶴さんとあんなちゃん。雅史くんは復讐を誓い、長く孤独な旅に出る。
     1票
 続編なんんかいらない。
     0票  

Q5.今後、「悪場所の小径」で扱って欲しいものをお答えください。(幾つでも)
 ロリ
     12票
 女子高生
     13票
 女子大生
     12票
 ばぁにぃがーるだ!
     4票
 メイドさん
     18票
 ふたなり
     4票
 人妻
     14票
 こすぷれもん
     5票
 女教師
     10票
 女社長
     5票
 近親相姦
     8票
 レイプ
     3票
 逆レイプ
     7票
 ひたすら、らぶらぶ&いちゃいちゃ
     25票
 乱交
     9票
 獣姦
     1票
 触手
     2票

という結果になりました。

このblogで初めて長期連載だった作品も、完結してからもおう随分になりますねえ。
感慨深いものもあります。

ということで、もうそろろそろ、このアンケートも撤去したいと思います。

2006年1月末日〆で、このアンケートは締め切りますので、もしこれから参加したいという方は、お早めに、どうぞ。



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髪長姫は最後に笑う。 「第二章」登場人物一覧

第二章 「荒野と香也」 登場人物一覧

加納荒野
 主人公。

加納茅
 「気になる存在」と、荒野は思っている。

狩野香也
 「話していると落ち着く」と、荒野は認識しいてる。

狩野真理
 「頼りになる存在だ」と、荒野は認識しいてる。

松島楓
 「頼むから問題起こすなよ」と、荒野は思っている。

加納涼治
 「いけ好かないじじい」と、荒野は認識している。

才賀鋼蔵
 「話の分かるおっちゃん。でも、濃い」と、荒野は認識しいてる。

才賀孫子
 「……まあ、ファッションは個人の自由だし」と、荒野は思っている。

三島百合香
 「……いつか懲らしめてやろう」と、荒野は思っている。

羽生譲
 「元気のいいおねーさん。でも、これ以上先生とは組むなよ!」と、荒野は思っている。

地元駅前商店街の皆さん
 「…………これからお世話になります」と、荒野は諦めている。


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