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2007-02

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(219)

第六章 「血と技」(219)

 ランニングから帰ってざっとシャワーを浴び、トーストとサラダに玉子料理、といういつもとさして変わらない朝食を平らげて、登校。
 いつもと違うのは、テン、ガク、ノリの三人が、狩野家の玄関前まで見送りに出ていたことだった。
「……昨日、あれから……なんか、あったのか?」
 不審に思った荒野がそう尋ねても、楓は、
「……さ、さぁ……」
 とわざとらしく視線を反らせるだけだっし、孫子は孫子で、
「プライベートな事柄ですので……」
 と短く返答するだけ。
「いわゆる、家庭内の問題だから、部外者には、ちょっと……」
 三人組を代表して、テンはそんな生意気な口をきいた。
「……ちょっと……」
 ……ますます不安になってきた荒野は、香也の腕を引いて、二人してみんなから少し離れた場所に移動する。
「本当に、なんにもなかった?
 あの……あいつらが迷惑をかけているようだったら、遠慮なくおれに相談してもらえれば……」
 などと耳打ちする。
「……んー……」
 しかし、香也の返答は、ますます荒野の気分を落ち着かないものにした。
「……特に、何も……。
 みんな、いい人だし……昨日も、みんなで一緒にお風呂に入っただけで、それ以外のことは、なにも……」
 その朝の通学時、荒野は「お隣の家庭の事情」に想像を逞しくし、しかし、まさか朝の往来で荒野が想像しているような内容を誰彼構わず相談するわけにもいかず、一人、悶々としながら登校した。

「……あっ!」
 楓が、校門前にできた人だかりを眼にして、小さく叫んだ。
「また、持ち物検査、です……」
 前回の検査では、楓も大量の武装を没収されていた。
「もうバレンタインだし……今年は、今回の最後でしょう」
 飯島舞花がそう付け加えた。
「お前、まさか……また、やばいブツ持ってきているんじゃないだろうな?」
 荒野は念のため、楓に確認する。
「……流石に、それはないですけど……」
 楓は、軽く首を振った。
「でも……何にも持たないで出歩く、というのも、それなりに不安で……。
 それに……もし本当に、何かがあった時……丸腰だと、やれることに限りがありますし……」
 昨日、小埜澪との接触時に、冷や汗をかいたことは、楓にとっても鮮明な記憶であった。
「そう……だな……」
 少し考えてから、楓の言葉に、荒野は軽く頷いて見せた。
「そのことについては、後で具体的に検討してみよう……」
 いつ、どこで、どのような襲撃が行われるのか、まるで予測がつかない現状では……できる限りの準備を怠らないでおこう……と、荒野は考える。
 徳川に相談すれば、携帯しても怪しまれない形のものを考案してくれるかも知れないし……普段、持ち歩くのが無理なら……学校内の目立たない場所にキープしておく、という手もある。
 とにかく、有事の際、楓をはじめたした手持ちの戦力が、全力で事にあたることができる体勢を作る……ところまでは、荒野自身の仕事だ……と、改めて、そう思った。
「それから、楓。
 ……あと……別の件で、話しておきたいことがあるんだけど……。
 そう、だな……。
 昼休み、人気のない場所……そうだ。
 樋口……と、それに香也君、か。
 美術室の、あの……準備室、っていったのか。
 あそこ、昼休みに借りられるかな?」
 荒野にしてみれば、「狩野家の人間関係」についても無関心ではいられないわけで……本当に、「何にもない」のなら、それに越したことはないのだが……そういう判断は、詳しい事情を楓の口から確認してから、下すべきだろう。
 もちろん、その場には茅も、同席させるつもりだった。
「……昼休み、は……予鈴が鳴るまでは、先生も生徒も、誰もいないと思うから、大丈夫だと思うけど……」
 樋口明日樹は、考えながら、そう答えた。
「……確かに、鍵は借りられると思うけど……。
 変なこと、しないでよ……」
 一応、「美術部長」の肩書きを持つ明日樹は、荒野にそう答えた。
「そんな、へんなことは、しないよ……」
 荒野は苦笑いしながら、首を振った。
「ただ、ちょっと……内緒の話しをしたいだけだ……」
 昼休み、荒野は楓の口から、荒野が予測したのとは違った意味での「他人の耳には入れられない」情報を耳にすることになるのだが……この時点では、もちろん、予想できるわけもない。

 荒野と同じクラスである樋口明日樹は、教室に入るなり、コートを片づけ、自分の机の上に教科書を開きはじめる。真面目な性格である、ということの他に、明日樹は、荒野たちが走り回っていたこの週末も含めて、本格的に「受験の準備」を開始していた。
「……遊んでいて、いい成績がとれるほど頭良くないし……だとしたら、地道に時間をかける他、ないじゃない……」
 とは、本人の弁だった。
 面白味はない考え方であったが、地道で常識的な思考でもある。そんなわけで、二年の三学期も残り僅かになったこの時期、明日樹は寸暇を惜しんで受験勉強に勤しんでいた。
 荒野たちが駆けずり回っていたこの週末も、ずっと家に籠もって勉強していたそうだ。
「……おれも……そっちのことも、考えなくっちゃな……」
 と、荒野は思った。
 茅やテンほど極端な記憶力に恵まれているわけではないが、荒野だって、それなりの記憶力を持っている。
 無理のないカリキュラムを組んで、それを地道に消化していけば、なんとかなるとは思うが……。
『……あいつらだって、受かっているんだから……』
 荒野は、酒見姉妹の顔を思い浮かべる。
 あの二人は……あれで、佐久間先輩と同じ難関校を、実力で突破している、という話だった。
 あの二人が通った受験を、荒野が失敗したりしたら……それこそ、この土地に流れてきた一族の中で、いい噂話のタネを提供してしまう……。
『ここは、ひとつ……』
 意地でも、通ってやるからな……と、荒野は決意を固めた。
「……そういや……」
 荒野は、孫子の方に顔を向けて、尋ねた。
「才賀は、大丈夫なのか?
 いろいろ、忙しいみたいだけど……」
 ここ最近の孫子は、起業準備とかで忙しく飛び回っている。
 実際のその会社とやらが動き出したら、その時なりに、仕事は増えるだろうし……。
「想定の範囲内です」
 孫子は、毅然とした態度で即答した。
「その程度のマルチタスクをこなせなければ、才賀の事績を継ぐことはできません……」
 将来に備えて、スケジュールの調整や自己管理などもみっちりと仕込まれている……ということだった。
 孫子の実家である才賀衆は、現代では「表の顔」の方が、もう一つの顔よりよっぽど広く知られている。孫子も、才賀グループの次代を牽引する人材の一人として、英才教育を受けてきた口なのだろう……と、荒野は思った。
『……そこいくと……』
 荒野は、自分の手を見つめる。
 一族の資質は……どう考えても、「一般人社会」の中では、無用の長物だよな……。
 とか、荒野は思う。
「優れた身体能力」とか「体術」など……見せ物になるか、無用に一般人の不信感を煽るぐらいにしか、役に立たない。
 戦闘能力はいうに及ばず、潜入、潜伏、ストーキング、流言飛語を利用した大衆操作なども……どう考えても、堂々と他人に誇れる類の「特技」では、ない。
『こうしてみると……一族って……ツブシが、効かなねーなぁ……』
 などと、荒野は思った。





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彼女はくノ一! 第五話(302)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(302)

「……えっ? ……えっ?」
 ノリは、困った顔をして、香也、それに、左右にいるテン、ガクの顔を見回す。ノリ自身もかなり混乱していたが、それに輪をかけて、テン、ガクの二人も戸惑った表情を浮かべていた。
「……ええっ、と……おにーちゃん……」
 困惑顔の三人を代表して、テンが片手をあげて、周囲の女性たちをぐるりと示した。
「念のために、聞くけど……その……こういうの、いやなの?」
 テン、ガク、ノリの三人にくわえ、楓と孫子、それに羽生……すべて、全裸。
「……んー……。
 ……好きかどうかっていったら、そりゃ、嫌いではないけど……」
 香也は、泣きそうな顔をしているノリの頭を撫でてから両脇に手をいれ、「……よいしょっ……」と声をかけて、自分の腿に乗っているノリの体を降ろした。
「……でも、それは……性欲だから……。
 その、現に、こうなっているから……とてもじゃないけど、嫌いだなんていえないけど……」
 香也は股間を指さして、いきり立ったままの分身を指さす。
「でも……こういうのと、みんなが求めているのとは……ちょっと、ズレているんじゃないかなぁって……。
 ここでみんなとえっちしても……それで、何が変わるかというと……何も、変わらないと思う……」
 諄々と諭すように語りかける、香也。
「で、でも……にゅうたんの本では、こんなことすると、最初は嫌がってたり痛がってたりしても、すぐに気持ちよくなって、あんあんいって最後にはみんな、ハッピーになったりするけど……」
「……んー……」
 香也は天を仰いだ。
 どうも、様子がおかしいと思ったら……そうか……羽生さんの、エロ同人誌の内容を、真に受けていたのかぁ……とか、香也は納得する。
「……ああいうのは、そういう刺激を与えるのが目的のものだから……都合良く脚色されているし、誇張もあるし……現実とは、全然、違うよ……。
 現に、ノリちゃん……今も、かなり痛がっていたと、思うけど……」
 香也がそういってノリの方をみると、ノリは後ずさってガクの背中に身を隠した。
「……痛いとかそういうのは別にしても、こういうことは、あんまり軽はずみにしちゃあ、いけないと思う……。
 よくいえないけど……ぼくも、正直、よくわからないことばかりなんだけど……相手の意志を無視して、無理矢理っていうのは……やっぱり、なんか、違うと思う……」
 香也は誰かを責める口調ではなく、淡々と、向きような口振りで、自分が抱いた違和感を説明する。
 それから、唐突に大きなクシャミをして自分の肩を抱きしめ、
「……んー……。
 寒い……。
 お風呂……」
 とか、いいながら、湯船の中に入ろうとする。
 香也は強引に隙間をあけたりはしなかったが、自然と、香也を取り囲んでいた少女たちは香也の前から退き、前の空間を開けた。
 そして、毒気の抜かれた表情をして、残りの全員も香也に続いて湯船に入り、肩まで浸かった。

 とりあえず、大事に至らずこの場が収まったことに安堵しつつ、羽生は、
『……こーちゃん……。
 思っていた以上に、ずっと大物っぽいな……』
 とか、思いはじめている。
 計算ではなく、天然で、あの場をあっさりと納めてしまう、というのは……やはり、誰にできることでもない。
「……なぁ、こーちゃん……」
 湯に浸かりながら、羽生は、ふと思いついた疑問を香也にぶつけてみた。
「こん中の誰かでも、あるいは、わたしたちが全然知らない人でも、いいんだけど……。
 こーちゃんは、さ。
 誰かに嫌われてたりしたら、怖いとか……逆に、好かれたいとか、思ったこと……ないのか?」
 天然……という言い方が、悪ければ……香也は、こと対人関係の問題になると……「他人」という存在に対して、極端に無関心で……感情移入する度合いが低いから、思ったことを好きにいうことができるのではないのか……。
 今のやりとりをみて、羽生は、そんな印象を持った。
 香也は、例によって、
「……んー……」
 と、唸る。
「ぼく……その、どういうふうに説明したらいいのか、わからないんだけど……誰かのことを、好きとか嫌いとか、そういう感覚……よく、わからないんだよね……。
 今まで、そんなにイヤな人に出会わなかってこなかった、というのもあるけど……」
 ……やっぱり……。
 と、羽生は納得する。
 香也は、もともと……極端に人付き合いの悪い……学校に通うようになっても、自分から友人を作ろうとはしない、子供だった……。
 香也は……色恋沙汰がどうこういう以前に……他人への関心が、極端に、薄い。
 他人に好かれようが、嫌われようが……香也は、まるで頓着しないのだろう。
「……今日、ノリちゃんの絵を、見た時……」
 羽生が、何故そんな質問をぶつけてきたのか……香也も、悟るところがあったらしい。
「……ああ、これは、ボクの絵だな、って思った……。
 その……絵を描いた人が、描いた対象をどうみて、どう思っているのか、見当がつかない……。
 でも、ノリちゃんの場合、まだ絵というものがどういうものなのか、知らないで描いているだけだけど……ぼくの場合は……ぼくの、絵は……」
 ……本当に、うつろなんだ……と、香也はぼそぼそとした口調で、話した。
「……たぶん、だけど……。
 ぼくは、みんなと違って、どこか……。
 ここか、ここか……わからないけど……」
 と、香也は、人差し指で自分のこめかみをさした後、親指で自分の胸を示してみせる。
「……とにかく、どこかが、欠けているんだと思う。
 本当に、どうしようもないのは……」
 ……自分に欠落がある、という自覚があっても……そこことに対して、なんの感慨も抱けない……そうなんだろうな、って気づいたときから……今までに一度も、悲しくは思わなかったことなんだ……。
 といった意味のことを、香也は、平坦な口調で語る。
「……みんなは……普通の人より、優れた人たちだけど……ぼくは、普通の人以下の、欠陥品だから……」
 あまり、本気で相手にしない方が、いいよ……と、香也は真顔でいいいきった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(218)

第六章 「血と技」(218)

 荒野や茅がどんな悩みを持ち、複雑な思いを噛みしめていても、時間は平等に流れるし、夜は明ける。荒野と茅は、今ではいつもの時間に自然に目が覚める習慣ができてしまっていた。
 二人でほぼ同時に起き上がり、肩を並べてカーテンを開け、朝日を浴びながらベランダへと続くサッシを開く。
「……昨日、あれだけ雪かきしたし……」
「特に問題はないと思うの。別に強制ってわけでもないし……」
 荒野と茅は、そういって顔を見合わせ、頷き合う。
 そして、サッシとカーテンを閉め、ランニングに出るために着替えはじめた。

「……なんだ。
 結局、ほとんどみんな、揃ったのか……」
 マンションの前に出ると、すでに「いつもの面子」が勢揃いしていて、茅と荒野は最後だった。
「……道はともかく、河川敷の方は、まだ雪が残っているぞ……」
「まあ、そのへんは、てきとーに……」
 入念にストレッチをしながら、飯島舞花が答える。
 晴れているとはいえ、日の当たらない場所には、まだだいぶ雪が残っている早朝であり……当然のことながら、空気はかなり冷たかった。茅も舞花に倣って入念にストレッチを行う。寒い日に運動をするには、普段にもまして、関節や筋肉をほぐす必要があった。
 楓と孫子、テン、ガク、ノリの三人組、つまりお隣の住人たちも合わせて、大勢で、橋の方に向かう。
 その途中で、ぽつりっぽつりと顔見知りになったばかりの一族の移住組が合流してきて、橋を渡り河川敷に降りる頃には、かなりの人数になっていた。
「……こいつらも……」
 などと思わないでもなかったが、荒野がいくら苦々しく思ったところで、彼ら移住組に対し、実質上、何の権限も持たない荒野には、明確に「ついてくるな」と命じることも出来ない。
 第一、今朝、集まってきた連中の目当ては、荒野や茅というよりは、昨日、竜齋を相手に大活躍をした三人組だろう。一族の一員であれば、「六主家の長」を相手にあれだけの働きを見せた者に対して興味を持たないわけがないのだった。
 荒野にしてみても、
『……まあ……ヘンに衝突が多くなるよりは……』
 一目置かれる方が、なんぼかマシか……とも、思わないでもない。
 そう思った荒野は、一族と三人に関しては、「しばらく好きにやらせておいて、様子をみてみよう」と態度を保留することにした。
 有り余るほどの潜在的な素養を持つ三人と、今まで、長い年月をかけて様々な技を身につけてきた一族の者とが協力しあう関係になれれば、それはそれで、荒野にとってもそれなりに歓迎すべき側面もある。
 そう考えた荒野は、三人の新種たちと一族の者たちが混ざり合って演舞しはじめるのを、何もいわずに見守っていた。

 この先、もの凄くご都合主義に事態が進行すれば……。
『新種が、一族内部の反目や対立を緩和する役割を果たす可能性も、ありうる……』
 一族内部も、「六主家」というメジャーな勢力と、それ以外の数多くの傍流があり、時と場合によっては、各勢力が反目する局面もあった。
 現に、昨夜、竜齋は、三人の新種たちが一族内の既存勢力に取り込まれることのメリットを説いたわけだが……荒野は、逆に、新種たちが、一族内部の反目やわだかまりを解消するために機能する可能性もあるのではないか、と、思いはじめている。
 さらにいえば、「一族」と「一般人」の架け橋にまでなってくれれば……荒野にとっても、理想的な展開といえたが……。
『……そこまで都合良く、いかないだろうな……』
 とも、思う。
 荒野は、荒野の利害と都合で動くわけだし……それは、三人にしても、一族にしても、一般人にしても、同じだろう。
 逆に言うと、利害が対立しない限りは、協調路線でいける、ということでもある。
 現に、かなりの綱渡りながら、荒野たちは、この土地で「なんとか、やっていけている」。一般人が普通に生活するこの土地で。一族と新種とか、協力して「うまくやろう」という共通の目的を持って行動している。
『……やはり、キー……というか、一番障害になりそうなのは……』
 例の、悪餓鬼どもだな……と、荒野は思う。
 やつらについては……漠然とした仮説はいくつかあるものの、目的も正体も、イマイチはっきりとしていない。
 シルヴィ以外の伝手も、捜してみるかな……と、荒野は思いはじめている。
 奴らが取り返しのつかないことをしでかす前に首根っこを押さえられれば……荒野にとっても、それが一番、都合のいい展開なのであった。
 そして、そのためには……。
『やつらに関する正確な情報を、一刻でも早く……』
 取得し、向こうが仕掛けてくる前に、こちらから出向いていって割る餓鬼どもを捕獲する……のが、理想的、なのだが……。
『……いかんせん、先立つものがな……』
 荒野には、そのために裂く時間がない。
 それに、情報収集や捕獲作戦に必要な人間を雇うための、資金もない。
 多少の例外的存在はあっても、総じて一族の者は、リアリストだ。
 どんなに高邁な理想を抱こうとも、必要な支払いを渋る者に、協力してくれるほど暇な者は、ほとんどいないといってもいい。
『……とりあえず時間作って、この土地に来ている者だけにでも、聞き込み調査でもしてみるか……』
 あまり成果は期待できなかったが、何かと顔の静流や仁木田あたりなら、荒野がまだ知らない情報を、それと知らずに握っている可能性もある。
 これまでは、移住組の一族とゆっくり話し合う時間もとれなかったが、これからの連携のこともあるし、少し時間を割いて話しあってみよう……と、荒野は決意した。
「……おいっ!
 お前ら、あんまり暴れすぎるなよっ!」
 荒野の前では、一族の者を相手にした三人が、「少し」本気を出しかけていた。

 河川敷の上空、数メートルの位置に、まるでゴムボールかなにかのように、大の大人が軽々と放り投げられている様子を、一般人である飯島舞花が目を丸くしてみている。




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彼女はくノ一! 第五話(301)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(301)

 ノリの、香也が侵入しかけている部分が、ぼんやりと熱を帯びていた。
 実のところ香也は、まだ、ノリの中に亀頭が入りきったかどうか、というあたりで中の狭さに難儀して、それ以上、挿入できないでいる。
 だが、ノリの主観によれば、その事実に反して、かなり「入って」いるような気がしている。何しろ、股から全身が裂けているような錯覚を覚えるぐらいの痛みを感じているのだから。
 ノリは、痛みに耐えかねて、先ほどからだらだらと涙を流している。
「……ノ、ノリちゃん……」
 そんなノリの様子を間近に見ながら、香也は、慎重な口ぶりで提案する。
 正面から抱き合っているわけだから、香也とノリの顔は、至近距離にある。
「そんなに痛いのなら……別に、無理、しなくても……」
 香也としては、他の女性陣に囲まれている、という異常な状況下で完全に萎縮し、流されるままになっているだけで……決して自分の意思で、自主的に、行為に参加しているわけではない。
 どんな理由であれ、ここまで「止め」にしてくれるのなら、歓迎こそすれ、文句をいうつもりはなかった。
「……続ける……」
 ノリは、口をへの字型にし、涙目になりながらも、ぼつり、と、答えた。
 成長した容姿に似合わぬ、幼い表情だった。
「どうせ、はじめては痛いっていうし、おにーちゃん以外の人とはこんなことやりたくないし……」
「……んー……」
 香也は少し考えて、のんびりとした口調で、自分たちの股間を指さした。
「でも……まだ、いくらも入ってないんだけど……。
 今のでこんなに痛がっていたら……全部入れたら、かなり凄いことになるんじゃあ……」
 ノリは視線を下げ、香也が指さした先を見た。
 そして、
「……げっ……」
 という、あまり上品とはいいかねる呟きを漏らす。
「これで……まだ、全然……先っぽだけじゃんっ!」
 体感と現実の不一致……を、ノリは実感した。
「べ、別に……ノリちゃんが、どうのってわけじゃないけど……」
 香也は、できるだけゆっくりとした口調を心がける。
「その……こういうことしている女の子に、その最中に泣きわめかれるのは……ちょっと……。
 それに……こういうこと、別に、焦ってやらなけりゃあならない理由っていうのも、ないし……」
『……こーちゃん……。
 ぼーっとしているだけかと思ったけど……意外に、頭が回るんだな……』
 ……すぐ側で一部始終を見ていた羽生は、かなり失礼な感想を持つ。
 ノリを傷つけずに、止めるための口実を提示する……という香也の機転に、半ば関心し、半ば呆れた。
「か、体の方が準備できてないのに、無理に、こういうことすることはないと思うんだけど……」
 香也は、諄々とノリに向かって、諭す。
「……で、でもっ!」
 ノリは、猛然と香也に食ってかかった。
「放っておいたら、おにーちゃん、おねーちゃんたちと、どんどん、えっちしちゃうでしょっ!
 おねーちゃんたちはよくって、ボクたちは駄目って……絶対、不公平だよっ!」
 聞いていた羽生は……その場で頭を抱えて蹲りたくなった。
 やっぱり、ノリは……この子たちは……根本的なところで、男女間の機微を理解していない……。
「……そーだ、そーだっ!」
「このままぼっーとしてたら、おねーちゃんたちにおにーちゃん、独占されちゃうじゃないかぁー……」
 ノリの言葉に、テンとガクが賛同の声を上げる。
 香也の後にいた楓と孫子は? と、見ると……案の定、あかるさまに視線を逸らし、何もない空中に顔を向けていた。
「……いや……その……。
 あのね……」
 羽生が、おどおどとした口調で助け船を出そうとすると、香也が軽く手を挙げて、それを制する。
「……んー……。
 ……いや、その……確かに、楓ちゃんとか才賀さんとか……そういうえっちなこと、何回か、しているけど……」
 香也は、考え考え、ゆっくりとしゃべる。
「でも……こういうで責任転換できるとも思わないけど……ぼくの方から誘ったことは、一度もないし……えっちしたからっていって、二人との関係が変わったってわけでもないし……。
 あと……えっちしていても、していなくても……今、ここにいる人たちは……全員、ぼくにとって、同じくらい大事な人たちだし……。
 だから、その……そんなに、無理をする必要って、あんまりないと思う……。
 あの……無理をして、えっちしても……ぼくの気持ち、そんなに変わらないと思うし……」
 香也の抗弁を聞いているうちに、羽生は、今度は、
『……こーちゃん……。
 天然のジゴロになる素質、あるな……』
 とか、思いはじめる。
 これだけの裸の女性に囲まれて、「えっちしても、気持ちは変わらない」などと、平然と断言できる男が、いったいどれだけいることか……。
 今の香也とは逆に、女と見れば、隙あらば襲いかかってくるような男が大半なのではないのか……。
『……無欲、とはちょっと違うけど……』
 香也は、ごく自然に、性欲とその他の感情とを、区別している。
 女性全般に対する本能的な欲望と、特定個人に対する感情を、混合することがない。
 これは……。
『……本気で狙っている側にしてみれば……やりにくいといえば、かなり、やりにくい相手なのか……』
 目を白黒させている楓や孫子をみて、羽生はそう思った。
 色仕掛け込みの駆け引きが通用しない相手に対して……本気で愛情感じている側は……一体、どのようなアプローチをし、自分の気持ちを伝えればいいのか……。
 楓と孫子だけではなく、ノリも目を点にして、フリーズしている。
 無理もない。
 香也が今いった内容を翻訳すれば、
「ノリが無理をして貞操を捧げても、香也はそのことに価値を感じない」
 ということになる。




[つづき]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(217)

第六章 「血と技」(217)

 しばらく休んでから、茅は再び荒野を求め、結局、その晩、荒野は茅の中に三度放った。
 今までも、荒野と二人きりの時に茅が取り乱したことがあったが、その後も決まって茅は荒野を求め、普段にもまして、狂態を見せている。
 これは……茅の肉望……というよりは、もっと根深いところに根ざした不安、に依る反応なのではないか……と、荒野は思いはじめていた。以前の時も今回も、茅が激しく求めてくるのは、決まって「自分が何者であるのか?」という疑問について、茅が思い悩んだ時だった。
 荒野自身はその出自があまりにも歴然としすぎているため、かえってその手の悩みには無縁である。
 しかし、茅の場合は……茅が今、何者であり、これから何者になろうとしているのか……明確に答えられる者は、この世のどこにもいないのであった。
 以前、茅がまだ、ごく狭い世界しか知らず、加納仁明という保護者しか他者という者を知らなかった頃は、そのような悩みとは無縁であったろう。しかし、今、茅は、この世の中に多種多様な人間が生息し、それぞれの役割を果たしながら生息している……という事実を、茅は、知っている。
 この、複雑で広大な「世の中」で、自分自身をどう位置づけていいのかわからず、困惑する時……茅は、今夜そうであったように、取り乱して荒野を強く求める傾向がある……と、荒野は思った。
 あるいは、自分たちの年齢で、荒野のように「自分が何者であるのか?」に思い悩む必要のない人種の方が希ななのだろうが……と、荒野は、クラスメイトたちの顔を想起して、考える。現代日本における、荒野と同年輩の少年少女は、そもそも茅とは違い、性急に自己を規定する必要性も、さほどない。だから、多少の個人差はあっても、あと十年内外は、「何者でもない自分」でいられる、モラリトアムの期間を過ごすことが、許容されている。善し悪しは別にして、そういう意味で、現代の日本とは、年少者にはかなり寛容な社会だ……と、荒野は評価していた。
 現代日本が、そうした、若年者に対して寛容で、束縛の少ない社会であっても、それが茅のアイデンティティへの不安を打ち消すことになる……とも、思わないが。
 茅の常時保持していなければならない不安は、おそらくもっと根元的で、誰にも解決や解消がしようがない種類のものだ……と、荒野は思う。
 だから……時折、何かの拍子に不安に駆られると、茅は荒野を切望する。肉欲に溺れている間は、「自分は、荒野のパートナーである」という確信を得られるからだ。
 少し前、荒野が茅との行為を週末に限定した時は、漠然とした不安を感じ取っただけでそこまで深く考えたわけではなかった。しかし、こうして改めて考え直してみると、それまで見えなかったことも、見えてくる。
「ある不安から逃避するために、何らかの快楽に逃げ込む」という心理は、いわゆる「依存症」の初期症状であり、その意味では、茅に、早めに歯止めをかけておいて良かった……と、荒野は、思った。
 ある程度、日時を制限しておけば、少なくとも、際限なくのめり込む、ということは、回避できるのだから……。
 後は、……。
『茅自身が……ちゃんと、自分を捉えられるようにならないと……』
 三度の激しい行為の後、風呂に入り直してようやく寝入った茅の横顔を眺めながら、荒野はぼんやりとそんなことを考える。
 茅は……荒野や楓、あの三人組のような突出した身体能力は持たないものの、それ以外のことは、たいてい器用にこなせる。成績にせよ、その他のことにせよ、同じ学校に通う生徒たちよりも、よっぽど「出来た」生徒だろう。学科についてはいうに及ばず、あくまで一般人レベルの範疇の中で、にせよ、実は体育の成績も、決して悪いわけではないし、家事も器用にこなしている。
 茅よりももっとぼんやりと生活していて、「何も出来ない」生徒たちの方が多数派だったが、その多数派の生徒たちは、茅のように「自分は何者であるのか?」などという悩みとは無縁だった。彼らには、当然のように家族がいて、学校に通っていて……少なくとも、自分の居場所について、茅のように疑問を持つ必要は、ない。
「知性体として、必要以上のスペックを持つ代わりに、自分が何者であるのか、あるいは、将来、何者になりえるのか、まるで見えない」茅と、未成熟で無邪気な同級生たちとは……存在の性質として真逆である、といっても良かった。
 一般人とは異質な存在である荒野自身にしても、茅の悩みや苦悩を、本当に理解しているわけではない。少なくとも荒野は、自分の由来と、そして、将来、選択しうる未来について、かなり詳細に想像することができる。
 しかし、茅の場合……。
『……特に、将来、の話しだな……』
 問題なのは……茅の能力が、この先どこまで伸張していくのか……その結果、茅の行動原理に変化が現れるのか否か……まるで想像がつかない、ということだった。
 現在の所、茅は、荒野や他の一般人たちと、大きな隔意を保持しているようでもない。しかし、この先……知性や感性が、予測以上に成長したとしたら……。
『……そういう時も、まだ……』
 茅は……自分を、人類の一員、として、認識できるだろうか……。
 あるいは、逆に……こっちの方が、もっとありそうなのだが……茅の能力がこのまま成長し、常人からも一族の基準からもかけ離れしたレベルに達してしまった場合……そして、そのことが、何かの拍子に白日のもとに晒された時……最も起こりそうな事態は……。
『迫害、だ……』
 一般人社会からも、一族からも、「脅威」と見なされ……よくて、スポイルされ、もっと悪くすれば、積極的に、排除される……。
 それでも……。
『……茅の味方をすることで、誰かを傷つけないで、か……』
 難しい注文だな、と、荒野は思う。
「自分の身より、想像上の他者の身を案じる」というのは、生物としてみると健全な思考法とはいえないのがだ……そもそも知性とは、時折、本能とは正反対の結論を出すことがある。知性とは、「他者の立場を想像することができる、想像力」ともいいかえることができるからだ。
 荒野は、その知性体が所持している情報量の多寡と知性レベルは必ずしも比例しないと思っているし、さらにいえば、「優しさ」という曖昧、かつ、傲慢な言葉で、自分とは違った立場に立つ者の心情をシミュレートする能力を測ることは嫌った。
 正確無比な想像力と鋭敏すぎる五感、人間離れした演算能力をもつ茅は、いわば、この地上で最も知性的な存在になりかけているところだったが、それはすなわち、自分以外の者について、誰よりも早くその心情を想像できる、ということも意味した。
 言い換えれば……茅は、誰よりも他者の心情を思いやることができ、それにより、かえって悩みが大きくなる……というジレンマを、根源的な部分で抱え込んでいる。
 しかも……自分の前には、その経験を参照できるような、「先輩」が存在しないのだった。




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彼女はくノ一! 第五話(300)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(300)

「……そーだ、そーだっ!」
「差別だっ! それ、差別っ!」
 ガクとテンがそれぞれに左右からノリの援護をしはじめる。
「これくらい、強引なことしないと、割り込めないじゃんっ!」
「ボクたちには外見年齢というハンデがあるっ!
 一足先に育ったノリには、ここで既成事実を作れるってことを証明して貰わねばっ!」
 必死なのはわかるが、香也からみれば、ステレオで責められているようなものだった。
「……そーゆーことで……」
 ノリが、下に手を伸ばして香也の分身を掴み、にへら、と笑った。
「おにーちゃんのこれ、少し借りるから……」
 そういって上向きになっていた香也を掴んで固定したまま、その先端を、自分の性器にあてがう。
「……ええっと……ここ、かなぁ?
 んんっ!
 なんか、変な感じ……」
 香也の先端を自分の性器に押しつけて、入り口を探るように、割れ目に沿って上下に動かす。
 先端を密着させたまま、ゆっくりと上下に動かしているうちに、ノリの割れ目が左右にめくれて、香也の先端が、ほんの少し、ノリの中に入っていく。
「……はぁ……。
 こう、かな……先っぽが、少し入ってきた……」
 自分が恥ずかしい事をしている、という自覚があるのか、そうしているうちにノリの頬がうっすらとピンクに染まってくる。
「……そのまま、体重をかけて、一気に沈めちゃえよ……」
 ノリと同じように頬を染めたガクが、ノリをせかす。
「駄目だよ、そんなの……。
 ……怖いし……」
 いいながら、ノリは、香也自身を掴んで、その先端を自分の入り口に押し当て、上下に動かす……という行為を繰り返していた。ノリとていたずらに戯れているわけではなく、その証拠に、香也の先端は、ごくゆっくりとした速度ではあるが、ノリの中にのめり込みはじめている。
「……はぁ……。
 おにーちゃんの……おっきいよぉ……。
 んっ!
 ボク、の……裂けそう……」
 香也の先端が完全にノリの中に飲みこまれると、ノリは目尻に涙を浮かべながら、浴槽の縁に両足をつけ、自分の腰をゆっくりと小刻みに上下させはじめた。
「……おにーちゃんの、が……んんっ!
 はぁっ!
 ……中で……ボクの中で、みしみしいって……はぁっ!」
 その間、香也は、ぎっちりと分身が締め付けられる苦痛に耐えていた。
 未通のノリは、「締まりが良い」というレベルを超えてギチギチに狭く、お世辞でも、異性を受け入れる準備ができている、とはいいがたい。
 肉の壁により周囲を取り囲まれて逃げ場がないのと、痛みに耐えて半ば泣きながらも動くのを止めないノリの真剣さにうたれ、そのままやりたいようにさせているわけだが……破瓜の痛みに耐えているノリと同等かそれ以上に、香也も痛みを堪えている。男性諸子は、アソコの先端を万力で締め付けたまま、上下に揺さぶられる痛みを想像していただきたい。
 香也を取り囲んでいる楓や孫子も、どうした加減か、固唾を飲んで成り行きを見守っている。香也を人質に取られた状態で三人を同時に相手にするのは不利、という計算なのか、それとも、同性として、ノリに感情移入しているのか、その辺は詳細は、本人たちにもよくわからない。
「……はぁっ!
 んんっ!」
 ノリは、額に汗を浮かべながらも、香也の首に抱きつきながら、小刻みに動き続ける。
 深く入れるのはまだ怖いから、香也の先端は、振幅数センチ単位、せいぜい、亀頭が埋没するかしないか、という浅い部分を出入りしているだけだったが、辛抱強くノリが反復作業を続けるので、出入りする周辺の肉がかなりほぐれてきた印象が、あった。
 ノリの方は相変わらず……というより、文字通り、身を裂かれるような痛みが常態化して、そのあたりがジンジンと痛むだけで、もはや感覚がなくなってきている。ノリの肉がほぐれてきている、と感じたていたのは、先端を出入りさせている香也だった。
 締め付けは相変わらず、だったが、香也の肉を拒むような抵抗は、入り口に限っていえば、かなり軽減されている。
 それに、ノリの奥から、潤滑油が染みだし初めてもいた。それまではわずかに湿っている、程度だったのが、今では香也の分身を伝い、陰毛を濡らすまでにしたたってきている。入り口の肉が若干緩んできたこととあいまって、その湿り気が香也の出入りをよりスムーズなものにしていることは、確かだった。
「……もっ、と……もう、少し……で……」
 ノリも、自分の変化を自覚してきたのか、腰の振幅をほんの少し増やし、奥の方まで香也を受け入れるようにしていた。
 とはいえ、具体的な長さを示せば、それまでよりほんの一、二センチだけ、深く出入りするようになった、というだけのことなのだが……ノリ本人の体感では、それでも大きな変化なのだろう。その証拠にノリは、痛みに耐えるための苦悶の表情を浮かべ、顔中にうっすらと冷汗を浮かべている。
 すぐそばで見守っていたガクとテンは、「がんばれっ!」とか「もう少しっ!」とか声援を送りながら、不安定な姿勢になっているノリの体を支えている。

 為す術もなく、この場の異様なノリにあてられえていた羽生は、無邪気に声援を送るガクとノリをみて、内心で、
『……運動会じゃないんだから……』
 とか、ツッコんだ。
 とはいえ、同じ女性として、ノリが真剣であることには感じとれたし、この場の雰囲気もあって、「……無碍に邪魔するのもなぁ……」とか、思いはじめている。過去の対応を思い返してみても、真理なら、当事者同志が真剣な気持ちで行ったことについては、年齢を理由に、軽々しく否定したりしないだろう……という想像も、羽生が黙認する根拠となっている。
 とはいえ、いくら真理がその手のことに寛容だとは入え、香也一人がこれだけの人数の異性を相手にしている、現在のインモラル、かつ、アブノーマルな状況を「良し」とするわけもない……とも、思ったが……。
『……真理さんが帰ってきたら……』
 かなりの波乱が、あるだろうな……と、羽生は思った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(216)

第六章 「血と技」(216)

 茅は、脚を開いて繋がった箇所を無防備に晒している。荒野は茅と接続している部分に手を伸ばした。
 荒野の指先が、荒野が入っている茅の部分の縁に触ると、茅がビクンと肩を震わせる。
「……今……茅のここに……おれのがすっかり入っているの……丸見え……」
 荒野は、自分のモノを根本まですっかり押し包んでいる茅の部分の、自分と茅の境界線に沿って、ゆっくりと指を這わせる。
 自分の根本を、円を描くように指を動かすわけだが……。
「茅からも、ここ、見える?」
 何気なく、荒野は聞いた。
「おれたち……一つになっているよ、ここで……」
 暗くしているわけではないし、荒野と向き合っている茅からは、間違いなく結合部が見える筈だ。
「見えるの」
 茅は、かすれた声で答えた。
「そ……そんなところ、触ると……」
「おれ、今、全然動いてないけど……そっと触るだけでも……そんなに、感じるの?」
「か、感じるっていうか……荒野が、へんなことをいうから……んっ!
 妙に、意識しちゃうの……」 
 何気なく動かしている荒野の指が敏感な部分に触れたのか、茅の体が、また震えた。
 そういうものなのか……と、荒野は妙に感心した。
 いずれ、女性ではない荒野には、自分の内部に異性の一部が入っている……という感覚は、うまく想像できない。
「……動いた方が、いい?」
 荒野は遠慮がちに、茅に尋ねてみた。
「それより……ぎゅっとするの」
 茅はそういいって、体を荒野の方に倒してくる。
 そのまま茅は、荒野の首に腕を回し、体の前面を密着させた。
 どちらからともなく、口唇を合わせて、口の中で舌を絡ませる。
 抱き合って密着していた時間はさほど長いものではなく、すぐに、やはりどちらともなく、もぞもぞと体を動かしはじめた。
 茅にしろ荒野にしろ、まだまだ雰囲気より、もっと具体的な刺激の方を欲しているらしい……と、荒野は思う。
 荒野自身もそうだし、茅も、荒野と二人だけでいる時は、快楽を求めるのに貪欲な方であり……まだ若い荒野は、そんな茅を素直に歓迎していた。
 あぐらをかいた荒野の上で、荒野に貫かれたままの茅の体が小刻みに、踊る。
 大きくはないが、張りのある茅の乳房が荒野の胸板に押しつけられたまま、上下に弾む。
 茅は荒野の首に腕を回したまま、体も口も離そうとはしない。性器が挿入されているだけでは飽きたらず、もっとこ荒野と一体になりたい、という願望をことさら強調するように、必死になって荒野に首にしがみつく。
 顔や首にかかる茅の息は弾んでいて、熱い。
 茅と結合している場所から落ちてきた液体が、荒野の股間を濡らす感触。
 もみ合ううちになんとなく動いていた、という態の小刻みな動きが、気づかぬうちにかなり大きな振幅になっている。
 荒野の腿の上で体を弾ませている茅。
 その振幅が大きすぎて、荒野を迎え入れている部分が、ともすると荒野を置き去りにしそうになる。
 動きが激しくなり、そのままの体位では不都合を感じたので、荒野は茅の体を押し倒し、その上に覆い被さって、大きく腰を使いはじめた。
 茅は、大きく、抜けそうになるほど引き抜いた時と、逆に、押し込んで、一番奥まで突き入れ、荒野の先端が行き止まりの、阻まれて、それ以上進めない場所にまで行き着いた時に、声を上げて反応する。
 いつものように、茅の呼吸と喜びの声、荒野の動きが一体となってリズムを形作る。
 荒野が茅の反応に馴染んでいるように、茅の体も荒野のやり方に慣れてきている。
 ……二人して、か……と、荒野は思った。
 茅の反応も、荒野の快楽も……肌を合わせる回数が増えるごとに、よくなってきている……という実感があった。
 少なくとも、こうして睦みあっている最中は、茅との一体感を感じることができた。
 茅の体を下に敷いて蠢いていると、茅の反応はよくなってきたが、流石に慣れてきたのか、前ほど急激に上り詰める、という感じでもなくなっていた。
 いいところまでは「昇る」のだが、ギアがトップまでは入らない、という感じで……茅は、荒野の動きに合わせて声を上げながらも、それでもまだ余裕があるように見えた。
 荒野は腰の動きを止めずに、茅の腿を、片方だけ、持ち上げる。
 残りの腿に跨り、茅の腿を抱え、従って、茅の脚を大きく開いた状態で、ザクザクと茅の中にうちつけた。
「……ふぁっ! ああっ!」
 そういう格好だと、いつもとは当たる場所が違うのか、茅の反応がひときわ良くなった。
 自由になる上体をくねらせ、シーツを掴んで声をあげる茅をみて、荒野は、
『……また一段、「昇った」な……』
 とか、思う。
 そして、口に出しては、
「……茅。
 こうしていると、動いているところ、丸見えだよ……」
 と、指摘した。
 茅は、シーツを鷲掴みにしながら、乱れた髪の隙間から、荒野が出入りする自分の股間を見つめ、
 ……ふっ。
 と、強く息を強く吹いた。
 髪が茅の顔を隠しているので、表情は読みとれない。
 挙動から見ても、感じていることは、確かだと思うが……。
 荒野はもっと茅を反応させたくなって、さらに腰の動きを速くした。
 荒野が刺さっているそこは、すでに潤沢な潤滑油にまみれていたが、さらに夥しい液体が、荒野の動きに応じて外に掻き出され、結合部の周辺とシーツの上に水滴となって降り注いだ。
 茅がシーツを掴む力が、明らかに強くなっている。
 ……あっ。あっ。あっ……。
 と、茅の喉の奥から声が漏れた。
 と、思ったら、突如、茅が上体を起こし、荒野にしがみついてくる。素早く手足を荒野の胸と腰に巻き付けて、密着した。
 荒野はしばらくそのままの体勢で茅を上下に揺さぶり続けたが、座ったまま、茅にしがみつかれたままではできることに制約がありすぎる……と考え、茅の体を抱えて、立ち上がることにした。
 荒野が茅の体を抱えて立ち上がると、茅は悲鳴に似た声をあげて、さらに力を込めて荒野にしがみつく。
「……いくよ」
 とだけ告げて、荒野は茅の体を前後左右に振り回しはじめる。荒野の腕の力を持ってすれば、茅一人の体重を支えて振り回すなど、造作もないことだった。
 茅はなおさら荒野にしがみつきながらが、
「……あーっ。あっー。あっー……」
 と鳴きはじめる。
 荒野を包み込んでいる部分が、複雑に収縮している。
 おそらく、今までにない刺激に、茅の性感も一気に高まったのだろう……と、荒野は思った。
 もっともそれは、荒野自身も同じことだったが。
 荒野の中心、茅に包まれている部分に、熱がこもってくるような感覚が、ある。
 ……終わりが近いな……。
 と、荒野は思った。
「……おれ、もういきそうなんだけど……」
 荒野は茅に、そう告げた。
「いくのっ! 茅も、いくのっ!」
 茅も、そう叫び返す。
 荒野は茅の体を、上体だけをベッドの上に置き、腰と脚は空中に浮かせた格好で、そのまま腰を動かし続ける。
 荒野がラストスパートに入ると、茅は苦悶に似た表情を浮かべ、ベッドの上で背を反らせ、頭を左右に振りながら、髪の毛をかきむしった。
「……いくよっ! 茅、いくよっ!」
 茅の腰と腿を手で持ち上げながら、ここぞとばかりに動きを激しくする。
「いくのっ! 茅も、いくのっ!」
 いやいやをするように首を左右に振りながら、茅が復唱するように、叫ぶ。
 ……自分が何を口走っているのか、もはや、まともに意識していないんだろうな……と、荒野は思い、茅の粘液に包まれたまま、避妊具の中に長々と射精した。
 茅は、ゴム越しにでも荒野が放出したことを感じたのか、脚と腰を荒野に持たれたままその場で全身を硬直させ、ビクビクと痙攣に似た動作を繰り返す。




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彼女はくノ一! 第五話(299)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(299)

『……これが、男の人の……こーちゃん、の……』
 羽生は香也の逸物を目前に、恍惚とした表情を浮かべている。写真や映像でみたことはあるが、「実物」を間近……文字通り、「眼と鼻の先」に……みるのは、これが初めてのことだった。
 香也の、人体の一部とは思えない、血管が浮き、ごつごつした見た面のその器官は……。
『……へんな、匂い……』
 香也は一度、楓の口に放っていたので、股間からかすかに男の精の匂いが漂っている。
 羽生にとって異質なのの「匂い」を間近に嗅いだことで、羽生は香也の「男性」をことさらに実感した。

「……ほら。
 にゅうたん……」 
「一緒に、お口で……」
 テンとガクは、羽生の両脇で肩を組み、まるでスクラムを組んでいるような体勢で、三つの頭を密着させ、香也の股間に顔を埋めている。
 すぐそば……というより、羽生の両方のほっぺたに、二人のほっぺたが密着している状態で、鼻息すらいちいち顔にかかる状態だった。
 羽生の両側に頬を密着させたテンとガクが、グロテスクな香也の逸物に舌を延ばす。両肩を押さえられている関係で、羽生はその様子を至近距離で目撃することになる。
『……あっ……』
 テンが口を香也の「そこ」に近づける。根本に舌の先をつけて、そこから先端部に向かって、舌の先を滑らせていく。
 最後に包皮がまくれあがり、露出した亀頭部を丹念に舐め上げ、鈴口に沿って何度か入念に舌の先を往復させる……。
 ……いったい、どこで覚えたのか、実に繊細で丹念な動きだった。
「……つぎっ! ボクもっ!」
 テンがそこから口を離すと、今度はガクがそこに口をつける。
 ガクは、テンのような繊細さはなく、いきなり香也の先端を口の中に含んだ。
「……うっ!」
 という香也のうめき声が、頭上で聞こえる。
 香也の先端を口に含んだガクは、表面上、軽く頭を上下させる以外の動きを、しばらくみせなかった。香也の先端を口で愛撫しているだけでもそれなりに感じるところはあるらしく、ガクは耳まで真っ赤にして、「……んっ……んふっ……」などと鼻息を荒くしている。
「……はぁ……。
 おにーちゃん、まだいかない?」
 じゅばじゅばと水音をさせ、しばらく香也をくわえ込んでいたガクは、ようやく荒い息をして顔をあげた。
「今、出したばっかりだし、無理だよ……」
 すかさず、テンがツッコミを入れる。
「お口だと、刺激が弱いか……」
 ガクが、もっともらしい口調で答えた。
「まだ、本番は駄目だからね。
 にゅうたん、お口でやってないし……」
 テンがそういってガクを諫める。
 ……どうやら彼女たちの中では、「順番にやる」ということが、既成事実になっているらしい……と、羽生は思う。
 そして、
『……えっ、と……本当に、やるの?』
 とか思って、肝心の香也の顔を見上げると……。
『……あっ……』
 香也は、テンやガクが口で下半身に奉仕している間、左右の肩と腕を楓と孫子にがっちりと捉えられ、交互に口づけをされたり、頬や耳に口による愛撫を受けたりしている。
 香也にしてみれば、他に逃げ場がなく、しかたがなくそうしているのかも知れないが……上目遣いに見上げた感じでは、両手に花状態というか、三人でいちゃいちゃしているようにしか、見えない……。
『……これは、これで……なんか、ムカつくよな……』
 ……いっそここと、ここに噛みついちゃろか……とか思いながら、羽生は憤然として香也の分身をくわえこんで、軽く歯をたてた。
 頭上で、香也の「ううっ!」という声が聞こえる。
『……ふんっ!』
 羽生は喉の奥まで香也をくわえこむ。とはいえ、すぐにえづいたので、あまり大きくくわえることはできなかったが……。
 見た感じより、固くて太い物体だ……と、羽生は、口にした香也の分身を評価した。その癖、軽く噛むと、硬いゴムのような感触がある。口蓋のかなり奥の方に、香也の先端が当たっている感触があった。舌が亀頭に直接ついていないせいか、味はほとんど感じない。
 テンがしていたように舌を使うことも、ガクがしていたように上下に動かすこともしなかったが、羽生は、一度くわえ込んだ適度に弾力がある香也自身を、はむはむと少し強めに、しかし、歯形がつかない程度に、噛み続ける。擬音で表現すれば、「はむはむ」という感じだった。
 いくらもしないうちに、香也が体を振るわせはじめる。
 歯の感触というよりも、羽生が今までになく深い部分にまで香也をくわえこんだことが、香也には新鮮だったようだ。
 そこに受ける感触、ということでいえば、今羽生がしているように、深くまでくわえ込んだ状態が、膣に挿入している状態に近いわけで……。
「……ぷはぁっ!」
 不意に、羽生が香也の股間から顔を上げる。 
 あんまり奥まで飲み込みすぎて、息がしづらくなっていた。
 顔をあげた羽生の背後に、いつの間にかノリが近づいている。
「……はい、にゅうたん、交替ぃ-……」
 そういいながら、ノリは、羽生のお尻に……もっといえば、股間の部分の、敏感な秘裂に、すっ、と指を這わせる。
 突然の刺激に、香也の前に膝をついて四つん這いになっていた羽生が、「……ひゃんっ!」と悲鳴をあげて飛び起きた。
 ノリは、羽生が身を起こしたことでできた、香也直前の空間に、すっとすばやく割り込む。
「……んっ、ふっふっふぅ……。
 おにーちゃーん……」
 ノリは、すっかりその気になっている表情で香也の胸元にしなだれかかった。
「……今日は、これで……おにーちゃんので、最後まで、やって貰うんだからぁ……」
 香也の首に抱きついたノリは、片手を下に延ばし、いきり立った香也のモノに指先を這わせる。
「すごい、ね……。
 こんなに大きくて、どくどくいっているのが……これから、ボクの中に入っていくんだ……」
 ノリはそういいながら、香也自身を軽く指で掴んで固定し、その先を、自分の入り口に当てがう。
「……ええっと、このへん……だと、思うけど……」
 ノリが、香也の亀頭で自分の秘裂を探り、無理にでもそこに入れようとしていると……。
「あ、あの……ノリ、ちゃん……」
 香也が、か細い声で抗議しはじめた。
「こ、こういうことは……もっと、ちゃんとしないと……。
 ノリちゃん……その、はじめてなんでしょ?」
 香也は、遠慮がちな口調ながら、そういう。
「……おにーちゃん……」
 顔をあげたノリの顔をみて、香也はギョッとした表情になった。
「おにーちゃん……ボクがいない間に……おねーちゃんたちと、いろいろやっているんでしょっ!
 なんでおねーちゃんたちがよくって、ボクは駄目なのっ!」
 ノリは、涙目になっていた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(215)

第六章 「血と技」(215)

 体を拭いてから、茅の体を抱え、ベッドのある部屋へと向かう。茅の体をベッドの上に投げ出して身を起こそうとすると、茅が荒野の首に腕を回し、口唇を求めてきたので、長々とそれに応じる。ようやく、茅が腕の力を緩めたので、身を起こし、一度茅に背を向けて、仕舞込んでいた避妊具を取りにいく。
 茅から体を離したことで、茅が不満そうに、
「……むぅ……」
 とむくれたが、荒野は特に気にとめずに相変わらず硬度を保っている自分の分身に、封を切ったばかりの避妊具をかぶせる。
「……ほら、そんなにわがままいっていると、ここから先、やらないで寝ちゃうぞ……」
 荒野はそういいながら茅の両足首をを軽く握り、無造作に茅の股を開いた。茅も、特に抵抗することなく、荒野のなすがままに両足を開き、中心の大事な部分を荒野の眼に晒す。
「荒野の、そんなになってる……」
 茅は、避妊具をかぶせた荒野の分身をみて、そう感想を述べた。
「茅のだって……そんなに光ってる……」
 荒野がそういって、茂みの中にあるピンク色のスリットに軽く手を触れると、茅はピクリと全身を震わせた。
「……やっ!」
 茅は自分の中心に延ばされた、荒野の手首を掴んだ。
「乱暴にしちゃ、駄目なのっ!」
 とはいえ、茅のそこ、荒野がいましがた触れた箇所には、ほんの少し触っただけでもそうとわかるほどに濡れていた。
「わかった。触らない」
 荒野はあっさりと頷いた。
「明日も学校があるし、今日はこのまま寝よう」
 そういって荒野は、茅の隣に、茅に背を向けてごろりと横になった。
「……むぅ……」
 茅が不満そうに鼻を鳴らして、寝そべった荒野の背中に覆い被さってきた。
「……荒野、いじわるなの」
 そういって、荒野のわき腹をまさぐる。
「くすぐったいよ、茅」
 荒野が、小さな声で抗議した。
「これ……つけたまま、寝るの?」
 茅の指が、避妊具の表面をそっと撫でる。
「いや。
 やめてっていったの、茅だし……」
 荒野がそう答えると、茅は「むぅ」とむくれていきちたった荒野の分身を掴んだ。
「いいのっ!」
 茅は荒野の体を仰向けに転がし、その上に跨った。
「荒野がやらなければ、茅がやるのっ!」
 そういって荒野の分身を握りしめ、その先端を自分の秘処にあてがって、ゆっくりと息を吐きながら、腰を沈めていく。
 浴室での行為で期待が高まっていたところでじらされ、どうにも抑えが効かなくなってきたらしい。
「……んっ……。
 んんっ……」
 茅の方は十分に受け入れ準備ができていたらしく、なんの抵抗もなく荒野の分身を飲み込んで、茅は深く息を吐きながら腰を沈めきった。
「……はぁあっ!」
「……どんどんえっちになるね、茅……」
 荒野は下から茅の乳房に手をあてて体を支え、一度、大きく腰を突き上げた。
「……やっ!」
 茅が、小さな叫び声をあげる。
「だから、そういうこというと、本当に止めちゃうよ……」
 いいながら、荒野は、がんがんと強く茅の体を突き上げた。
 茅は、悲鳴のような小さな声を上げながら、髪を振り乱して荒野の上で跳ねまわる。
 荒野を包んでいる茅の部分が、今までになく強い力で、荒野の分身を締め付ける。
「……ふぁっ!
 あっ。
 あっ……」
 茅はガクガクと体を揺さぶりながら、荒野のもたらす快楽を受け止めていた。荒野も力強く下か突き上げているわけだが、茅自身も、いつの間にか自分の意志で体を上下に動かしている。
 荒野が半身を起こして茅の乳首に食らいつくと、茅は「……ひゅっ」と息を吸い込んで、頭をのけぞらせ、白い喉を露わにした。
 荒野は、その喉を甘噛みしながら茅の背に両腕を回し、大きく後方にのけぞった茅の体を支える。
「……ほら……」
 荒野はひざを立て、後ろに倒れ込みそうになった茅の腕を、自分の膝の上において茅自身が、自分の体重を支えられるようにする。
「茅が……自分のいいように、動いて……」
 荒野の言葉に従い、茅は、荒野が立てた膝の上に手を置いて自分の上体の重さを支え、後に背をのけぞらせ気味にして、荒野と向き合った形で、ゆっくりと腰を上下させはじめる。
 少し落ち着いていた茅の呼吸が、またすぐに荒くなっていく。
「こうしていると……出入りしているところが、丸見えだね」
 荒野は茅との結合部を指さして、静かな口調で指摘した。
「……やぁっ!」
 茅は半身を前に倒して、荒野の視界から結合部を隠そうとする。
 しかし、それよりも速く、荒野の指がそこに触れた。
「……ふぁっ!」
 荒野の指が、結合部の上にある突起を軽く圧すと、茅の首が、がくん、と勢いよく前に落ちて、長い髪の毛が管制に従って茅の顔の前に降りる。
 結合部の周辺は茅の中からあふれてきた液体で濡れていて、荒野が指で軽く圧した突起の周辺も、泡だって濡れていたから、そこに圧し当てた荒野の指先も湿った感触を得ている。
 濡れた指先を、ついつい、と上下に動かすと、うつむいて髪を下ろした茅の肩が、その動きに応じてがくがくと震えた。
 荒野は、自分の腹部に揃えておいていた茅の腿を、自分の立てた腿の上に置着直す。
 それまで足を揃えて荒野の上に座っていた茅が、今では足をM字型にして局部をさらけ出した形だ。
 荒野が茅の腿を置き直す間にも、茅はがっくりとうなだれて荒い息をついているばかりで、抵抗らしい抵抗をしなかった。




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彼女はくノ一! 第五話(298)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(298)

「……ふぁ……。
 んふっ……苦いの……いっぱい出ましたねぇ……」
 しばらくして、ようやく香也の股間から顔を上げた楓は、とろけるような笑みを浮かべる。
「……んっ……この、いがいがで、苦いの……香也様の匂い……」
「……代わって、代わって……」
「おにーちゃんの、まだしぼんでない……」
「朝か孫子おねーちゃんやったし、楓おねーちゃんは今、おにーちゃんの飲んじゃったから、今度はボクらの番ね……」
 楓が香也の体を降ろしたのをいいことに、三人はもぞもぞと香也の周辺で配置を変えはじめる。
「……ちょ、ちょっと待ったぁっ!」
 それまで呆気にとられて事態を見守っていた羽生が、つかつかと香也の方に近づいていく。
「これ以上は、ちょっと、シャレになんないっ!
 集団逆レイプ定年齢淫行輪姦御免!」
 羽生もたいがいに興奮し混乱しているので、かなりとち狂ったことを口走っている。
「……えー……にゅうたんも、やりたいのぉー……」
「だって、ほら。おにーちゃんのおちんちん、やる気まんまんだよ? 全然小さくなってないし、湯気たてて、ピクピク動いている……」
「ほらぁ。
 にゅうたんもそんな所で遠慮なんてしてないで、こっちきてちゃんと見てみようよ……」
 天然に無邪気に性的な好奇心を隠そうともしない三人組のあっけらかんとしたノリにたじたじとなりつつ、香也の前に引きずり出される。もとより、三人の力に羽生があらがう術もあろう筈がない。
 三人の方は、さほど力を入れているようにもみえなかったが、羽生はあっという間に香也の直前に引きずり出された。
「……こうした方が、よく見えるね……」
 といって、テンとガクは香也の体に両側から手をかけ、ひょいと持ち上げて、香也を浴槽の縁に座らせた。香也はもはやあらがう気力もなく、ぐったりとなすがままにされている。
 その「中心」だけが元気にいきり立っており、てらてらと濡れ光って湯気を立てていた。
「……ほら、にゅうたん……。
 おにーちゃん、元気だよね……」
 ノリが、羽生の肩を抱いて屈めさせ、二人の顔を香也の股間に近づけた。羽生の視線から見れば、香也の性器を間近にみることになる。そこのパーツだけ別の生物であるかのような、複雑な器官をどアップに突きつけられた形で、男性経験のない羽生は、思わず「ひっ!」という小さな声をあげる。
「……にゅうたん、お口でやらないの?
 ボク、やるけど……。
 みんなやっているし、ボクだけ話しを聞いているだけで、いやだったんだ……」
 ノリはそんなことをいいながら、香也の男性に根本から舌をはわせる。
 ……みんなやっているから、って……そういう問題なのだろうか、と、羽生は思った。そう思いつつ、目前でちろちろと香也の男性に舌を這わせるノリから、眼を離せないでいた。
『……うわぁ……。
 ほんとにやってるよ……』
 と、羽生は思った。
 羽生の目前で、ノリが、恍惚とした表情で香也自身を舐めあげている。なんというか、実に、「おいしそう」に、丁寧に、根本から先端まで、舌を這わせていた。そして羽生は、そんなノリと香也の性器から、眼が離せないでいた。
 凝視する羽生の視線に気づいたのか、うっすらと頬を染めて香也を舐めていたノリが、ちらりと羽生の方に目線をやり、何ともいえない妖艶な笑みを浮かべた。
 それから、つい、と羽生から視線を離し、
「本当は……にゅうたんも、おにーちゃんとやりたいんでしょ……」
 小さな声で、呟く。
「……あっ!
 ……だっ!」
 羽生は覿面にうろたえ、立ち上がろうとしたが、その肩の上から、テンとガクががっしりと体重をかけて羽生を取り押さえる。
 テンとガクは、羽生の両腕をがっしりと抱き込み、
「……本当かなぁ……」
「にゅうたん、興奮しているんじゃないかなぁ……」
 左右から、羽生の耳に息を吹きかけるようにして囁き、ふにふにと指先で羽生の体をまさぐりはじめる。
「……あっ!
 ちょっ……やめっ……」
 耳元で囁かれるくすぐったさと、わき腹とかその他の敏感な部分に触れられのとで、羽生は身をよじって逃れようとする。しかし、両側で腕を取られているので、まともな抵抗ができない。
「……にゅうたん……。
 間近でみると、肌、スベスベ……」
 テンが、羽生の腕を抱きしめながら、なんだか妖しいことをいいはじめる。
「……にゅうたん……顔、真っ赤……。
 それに、おっぱいも……尖ってきている……」
 テンとガクは、左右から羽生に息を吹きかけながら、次第次第に大胆に羽生の体をまさぐりはじめる。
「……やっ……あっ……やめっ……」
 羽生は徐々に強くなっていく刺激に耐えながら、段々と自分の理性が溶けていくのを感じていた。
「……にゅうたん……」
 すぐ目の前で一心に香也自身を口で愛撫していたノリが、羽生にいう。
「一緒に……おにーちゃんの、舐めよう……」
 ノリの方も、とろんととろけたような表情をしていた。
「……んっ!」
 ちょうどその時、誰かの指が羽生の中心に到達したので、羽生はビクンと全身を震わせた。
 体を振るわせたその拍子に、浴槽の縁に座り込んでいた香也の前にじゃがんでいた羽生の体が、前につんのめって、そこを舐めていたノリにぶつかりそうになる。
 ノリは、羽生の肩を横抱きにして抱き止め、羽生の顔に頬をつけて、
「さっ……。
 一緒に、気持ちよくなろぅ……」
 と、いった。
「……あっ! やっ!」
 羽生の敏感な部分に到達した誰かの指が、陰毛をかき分けて、ゆっくりとした繊細な動きで割れ目をたどるように、前後する。
「……すごっ……。
 にゅうたんの……濡れ濡れ……」
「あっ!
 本当だっ! にゅうたん、我慢していたんだねっ!」
 すぐそばでそんな声がしたが、もはやぼうっとしてまともな思考能力を持たない羽生は、その声がだれのものか、詮索する気力もない。
 ただ、自分の下腹部の繊細な部分をまさぐる何本かの指を感じ、その動きによってどんどん自分の理性が溶かされていくのを自覚した。

「……ふぁ! あっ! やっ!」
 誰かがそんなはしたない声をあげている。
 どこかで聞いた声だな、と思い、半ば麻痺した頭で少し思い返すと、それは自分の声だった。
「……さっ……。
 いっしょに、おにーちゃんの、舐めよう……。
 にゅうたん一人だけ気持ちよくなるの、ずるいよ……」 
 どこからか、そんな声が聞こえる。
 目の前には、唾液に濡れててらてら輝いているグロテスクな男根があった。
 何故だか、この時の羽生には、それがとても「おいしそう」にみえた。
 複数の手で絶え間なく全身を愛撫され、もはや快楽の虜となった羽生は、目の前にある男根にむしゃぶりつく。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(214)

第六章 「血と技」(214)

「……今度は、前……」
 茅はそういって、荒野の上から自分の体をどかし、荒野の体を仰向けに変えてから、再び荒野の体に跨った。
 そして、ボデイソープのボトルをとり、荒野の局部に少し垂らしてから、その上に乗る。ちょうど、荒野の硬くなった分身の上に恥丘を押しつける格好で馬乗りになり、そのまま腰を前後に振りはじめた。
 茅の陰毛が泡立ちながら、荒野の分身を刺激する。
「……荒野、気持ちいい?」
「確かに、今までにない感触で、新鮮ではあるけど……。
 どっちかというと、茅の方が、気持ちいいんじゃないか?
 これ……」
 事実、動き始めてからいくらもしていないのに、茅の息は、「ふっ。ふっ。ふっ」と軽く弾みはじめている。
毎朝のランニングが効を奏して、このところ、茅の持久力はかなり向上している。だから、この程度の運動によって茅の息が切れる、とも思わない。
 やはり、局部を刺激したことによる、性的な高揚とみていいだろう……と、茅の「そういう時の表情」を見慣れている荒野は、そう観測する。
「……むぅ……」
 茅は、不満そうにそう声を漏らしながらも、局部を泡立てて動くことを止めない。
「こっちも、動こうか?」
 荒野はそういって、下から腕を延ばして茅の乳房を支えた。
 そして、茅が返事をする前に、下から上に、茅の体を突き上げるように、腰を動かす。
 いつもとは違い、荒野の分身が茅の中に収まっているわけではないが、表面をこすり合わせているだけでも感じるところはあるらしく、「あっ。あっ。あっ」と声をあげて、茅はすぐに反応しはじめる。
「……入っているわけでもないのに、茅は敏感だなぁ……」
 そういって荒野は、下から茅の胸を支える手を少し動かし、茅の乳首を親指と人差し指で、軽く力を入れて摘む。
「……ひゃっ!」
 といって、茅は、軽く背を反らせ、その後、「むぅ」とうなって荒野の方を軽く睨んだ。
「……荒野……いじわるなの……」
「だって、茅……そんなに、感じやすいから……」
「荒野だから……こんなに、なるの……」
 茅は弱々しく抗議した。
「……そういいながらも、動き止まらないし……」
 会話の最中も、茅は荒野の上で動き続ける。
「茅……。
 そこを擦りつけるの、そんなにいいの?」
 荒野が尋ねると、茅は「……知らないのっ!」っと、小さく叫んで横を向いた。
 そしてまた、ボディソープのボトルを取り出して、荒野の胸に垂らす。
「……今度は、体を洗うの……」
 茅は頬を赤く染め、明らかに興奮した表情でボディーソープを荒野の胸から腹部にかけ、掌で薄く延ばす。
 その後、荒野の上に覆い被さり、体の全面同志をぴったりと密着させた状態で、蠢きはじめた。
 すでに軽く呼吸が荒くなっていた茅は、体を密着したままぐじゅぎゅぐぎじゅと音を立てて動き始めると、今度は耳まで真っ赤にして息を弾ませはじめる。
『……これって……』
 茅は、柏あんなから「この手法」について聞き及んだ、ということだったが……。
『絶対……素人というよりは、その道のプロの方法だよな……』
 どちらかというと、そちらの方面には疎い荒野にも、こうした「手法」が性的なサービスを提供する業者のものではないか……というぐらいの想像は、つく。少なくとも、普通のカップルが日常的に行う行為、とうわけではなかろう……。
 挿入こそしていないが……いや、していないからこそ、かえって制約なく体を密着させ、洗剤という潤滑油を介して自由に肌を触れ合わせる……という経験は、荒野にとっても初めての経験だったが……自分たちの行為にこうした道具を介在させる、という仰々しさも相俟って、荒野を不思議な気分にさせた。
 気に入ったか気に入らないか、といえば……荒野にしても、「どちらかといえば」という条件付きで、気に入った、と答える方だが……それは、あくまで茅と密着すること、今までの性行為の時とは別の意味で茅を感じるていることができるから、という理由であり……でも、茅は……。
『……なんか、えらくお気に入りのようで……』
 茅の中に入っていないためか、いつもよりは冷静な荒野の上で、茅は「はっ。はっ。はっ」と喘ぎながら、懸命に体を前後に動かしている。
 自身が受ける快楽に意識を埋没させている様子で、茅の股間が荒野の硬直の上を通過する時、明らかに荒野に向けて、自分の股間を押しつけている。
 そんな茅の表情をみて、荒野は、
『……女の顔だな……』
 と、妙に冷静に、そう思った。
 何故だか荒野は、必死になって快楽を引き出そうとする茅の顔を見て、茅に対する愛おしさがこみ上げてきた。
「動かすよ……」
 短くそういって、荒野は茅の腿に手を回して固定し、腕の力で茅の体を激しく動かしはじめる。
「……やっ!
 だっ……」
 茅が切れ切れに叫んだが、荒野は構わず腕を、茅の体を、力強く動かし続けた。茅の体が洗剤の泡で滑りながら、荒野の上を前後する。荒野があまり激しく動かすものだから、茅は、床のマットに体を擦りつけないように、手足を浮かし気味にしなければならなかった。
 結果、ぜったりと体の前面同志をくっつけた二人が、洗剤の幕ごしに体を滑らせる、という状態になる。
 荒野は、胸の上を固くなった茅の乳首が滑っていくのを感じた。
 茅も、荒野の硬直が自分の中心を通過する感触を得ているのだろう……と、荒野は想像する。
「……あっ。あっ。あっ!」
 とか、茅が、激しい動きに振り落とされまいと荒野にしがみつきながら、短く声を上げはじめる。
 荒野はさらに茅を動かす速度をあげた。
「ああっ! ああっ! ああっ!」
 と、茅の声が一層、大きくなる。
 やはり、荒野よりも、茅の感じる快楽の方が、大きそうだ……と、比較的冷静な荒野は観察する。
 やがて茅は、受け止める快楽に耐えきれなくなってきたのか、荒野の首にしがみついて、荒野の口唇を無理矢理塞ぐ。
 そうやってしがみつかれると、荒野も茅を動かしようがなかった。
 茅は眼をつぶって荒野にしがみつきながら、ぶるぶると体を痙攣させた。
 どうも、一度軽く達しってしまったらしい。
『……茅は、感じやすいな……』
 荒野は、ぎゅっと目をつむりながら荒野の口を吸ってくる茅に対して、そんな感想を持った。
 荒野の顔に当たる茅の息が静かになるまで、かなり長い時間が必要だった。

「……ほら、起きて……」
 茅の呼吸が静かになったのを見計らって、荒野は茅の体を優しく起こした。
「泡、流すよ……。
 それで、向こうで、ベッドの上で、続きをちゃんとやろう……」
「……ベッド……続き……」
 茅はぼんやりと霞がかかった瞳を荒野に向け、荒野が口にした単語を反芻する。
「……もちろん、茅がよかったら、っていうことだけど……」
「……いいの……」
 荒野が付け加えると、茅は、うっすらと笑って、力を失っていない荒野の分身に手を伸ばした。
 茅の中に入っていない荒野は、当然のように精も放っておらず、硬さを保ったまま上を向いている。
「荒野、の……こんなに、元気……」
 童女のようなあどけなさと、淫婦の淫蕩さが混合した、不思議な笑みだった。
 泡だらけになった二人の体をシャワーで流してから、ぐったりと力の抜けた茅の体をバスタオルで拭い、荒野は、茅をベッドの上まで運んでいく。




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彼女はくノ一! 第五話(297)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(297)

「……もうっ!
 我慢できませんわっ!」
 突如、それまで事態の進行を見守っていた孫子が、大声をあげてずんずんと密着してひとかたまりになっている香也たちに向かって進んでいく。
「こ、こんないやらしいこと……こ、このわたくしをさしおいて、香也様になんてうらやま……い、いかがわしいことをっ! こ、子供がやっていいことではありませんっ! み、見てもいられませんっ! こ、香也様には、わ、わたくし自らご奉仕させていただきますっ!」
「……ソンシちゃんも、壊れた……」
 あまりのことに茫然自失していた羽生が、ぼんやりと呟く。
 孫子がいっていることも支離滅裂だったし、今、目の前で繰り広げられている痴態も何気にとんでもない光景だったりする。
『……ロリ二人、媚熟少女一人、ツン系スレンダー一人……。
 あっ。
 今、童顔巨乳も負けじと乱入した……。
 このまま家庭内オージーパーティに突入っすかぁ……』
 これでそこそこの常識人でもある羽生は、目の前の光景が自分が想定する「常識」からはみ出すことが大きいすぎたので、半ば思考を停止してしまっている。
 一種のパニック、という奴である。
 ぼんやりと、
『……わたしの同人誌でも、ここまで滅茶苦茶じゃないぞ……』
 とか、
『……真理さんが帰ってきたら、どう説明しよう……』
 とか、そんな、今、この場の役に立たない思考ばかりが空回りしている。

「……わ、わたくしだって、香也様を喜ばせようとして、いろいろ学習しましたのよっ!
 ほらっ!
 殿方って、こう……んンっ!」
 孫子は左右に侍るテンとガクの体を強引にのけて、身動きのとれない香也に前に身を屈め、ちゅぱちゅぱと盛大に水音を立てはじめている。
「……はぁ……丁寧に、舐め上げると……んふぅんっ!
 はぁ……はぁ……。
 ……香也様ぁ……気持ちいいですかぁ?」
「わ、わたしだってっ!」
 今度は楓が、孫子の体を押し退けて香也の局部にとりつく。
「わ、わたしは……んふぅんっ!
 こ、こう……胸で……ほら、こうやって挟むと、お、男の人って、よ、喜ぶんですよね?
 こう、挟んで……ぷにぷにっ、て……ほらぁ……。
 香也様ぁ……気持ちいいですかぁ……」
「……ううっ!」
「悔しいけど、あれはできない……」
 左右から覗き込んでいたテンとガクが、悔しそうに呟く。
「そこいくと……ボクは……結構可能性あつもんね……」
 背後から香也を羽交い締めにしていたノリが、香也の背中に自分の体を押しつけ、香也のうなじと耳の後ろに息を吹きかけるようにして、囁く。
「……ほらぁ……おにーちゃん、感じるでしょ?
 おにーちゃんのこと考えると、胸の先っぽがね、こう、硬くなるんだよ……」
 香也は、背中にとがったノリの乳首、臀部にノリの柔らかい陰毛を感じる。
「……おにーちゃん、感じてるんだね……全身にこんな、鳥肌立っているし……。
 もっともっと頑張るから、どんどん気持ちよくなってね……」
 ノリはそういって背中から腕を回し、香也の体の全面をそっとまさぐった。
「……じゃあ、ボクは、おにーちゃんとキスするー!
 ちゃんとしたことないし……」
「ボクも、ボクもっ!
 ほら、おにーちゃん、ちゃんと舌だしてっ!
 んんっ!
 ……はぁ、はぁ……」
 テンとガクが交互に香也に口唇を塞ぎ、舌を絡ませ、唾液を交換する。
 最初のうち、テンとガクは交替交替で香也の口を犯していたが、すぐにもどかしくなったのか、
「……ほらぁ……。
 ちゃんと、口を開けててよ、おにーちゃん……」
 とかいいながら、二人同時に香也の口の中に舌をいれはじめる。
 三人の舌と唾液が、無分別に混ざり合う淫媚な水音が、響いた。

「……んっ!
 はぁ、はぁ……。
 香也様の、ここ……すごい、男の人の匂いがしますぅ……」
 楓は、はじめのうち、胸で香也の局部を刺激し続けていたが、いつしか恍惚とした表情になり、香也の両脚を自分の肩の上に載せ、軽く持ち上げる体勢に移行していた。
 そうして香也の局部に顔を密着させ、口と舌で香也の分身や睾丸を責めはじめる。
 肩の方はノリが抱きしめて持ち上げていたので、香也の体はお湯の上で半ばぶら下げられている格好である。
「……んっふふっ……」
 その香也の体の上に、普段のクールさからは想像できない淫蕩な笑みを浮かべた孫子が顔を近づける。
「……知ってますかぁ……香也様ぁ!
 男性も女性も、性感帯は対して変わらないんですわよ……」
 ねっとりとした口調で孫子は囁き、香也の乳首にとりついて、ぴちゃぴちゃと音を立てて舐めあげはじめた。 

 経験の浅い……とは、そろそろいえなくなってきた香也だが、全身に数人の美少女軍団をびっしりと張り付かせて絶え間なく性感を刺激されているわけだから、地獄のような天国といか、天国のような地獄というか、天国兼地獄というか、ともかく血気盛んな年頃の男子としては、かなりたまらないシュチュエーションであった。
「……うはぁっ!
 みんな、姦る気まんまんだしっ!」
 羽生は叫んだ。
 叫ばなくては、目の前で展開されている刺激的な光景の影響で、どんどん変な気分になっていく自分の気持ちをごまかせない。
 年頃の香也がこのようなおいしいシュチュエーションに逆らえないのはよく理解できる。というか、今の香也と同じ境遇にあって、理性を保てる男は、同性愛者が性的不能者くらないなものだろう。
 香也も全身に絶え間なく送られてくる刺激に感極まって、「……ああっ!」とか「……んあっ!」とか、女の子みたいな声を断続的にあげ、なすがままになっている。
「……だ、駄目だよぉ!
 もう、そんなにされたらぁ……」
 香也は感極まった声をあげはじめた。
「……このまま、一度いってくださいっ!」
 香也のモノから一度口を離して、楓が叫び返す。
「ちゃんと……受け止めますからっ!」
 そういって、楓は再び香也の分身を口にくわえ、盛大に舐め上げはじめた。
 すでに限界まで高まっていた香也は、「駄目っ! いっちゃうっ! いっちゃうっ!」とまるでAV女優のような悲鳴をあげて、ビクビクと全身を痙攣させながら楓の口の中に果てた。
 楓は、香也が放った精液を音を立てて吸い込み、一滴漏らさず飲み込む。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(213)

第六章 「血と技」(213)

 荒野と茅は、いつものように狭い浴槽の中に二人で入っている。そうしていると、ほとんど身動きが取れないのだが、二人は特に気にしたことはいない。
 荒野は茅の体を自分の上に乗せながら、ぼんやりと天井を眺めていた。
「……荒野。
 何を考えているの?」
 茅が、囁く。
 さっきよりは、多少落ち着いたようだ。
「おれたちの、関係のこと」
 荒野は、答える。
「茅は……おれと二人きりの時だけ、自分の弱みを……本音をいってくれるよね?
 それって、いいことなのかな?」
 荒野の上に寝そべっていた茅は、半身を起こしてひねり、荒野の顔を直接のぞきこむ。
「茅は……荒野と一緒にいると、どんどん、弱くなっていくの……」
 茅は、何事か考えこみながら、真顔で言葉を紡ぐ。
「茅を弱くした責任は、荒野にあるの」
「茅が今のようになったのは……おれのせいだって?」
 荒野が確認すると、茅は頷く。
「……まいったなぁ……。
 おれ、まったく別の……逆のことを、考えてたよ……。
 茅がいなければ、今のおれは、ない。
 ここでの生活も、仲間たちとの関係も、ない……。
 茅は……ただおれのそばにいるだけで、今のおれの大部分を作ったんだ……」
 今、自分が必死になって守ろうとしているものは……なんなんだろうか?
 先ほどの茅との会話の後で、そう、荒野は考えた。
「……いろいろ、考えたんだけど、さ……。
 おれが守りたいのは、茅やおれも含めた、今の環境全体なんだ……。
 だから……いくら茅の頼みでも、できることとできないことがある。
 おれは……最後の最後まで、抵抗すると思うな。
 たとえこの先、最悪の事態が待ち受けているにしても……本当にどうしようもならなくまで、みっともなく、あがき続けると思う……」
 茅が荒野の言葉に応じるまで、しばらく間が空いた。
「……荒野なら、そういうんじゃないかと思ったの……」
 茅は、ひっそりと、笑う。
「さっきいったのは、茅のエゴ。
 ギリギリまで……場合によっては、ギリギリを越えても耐え続け……その結果、かえってリスクを増やそうとするのは、荒野のエゴ……」
 ……二人とも、わがままなの……と、茅はいった。
「……エゴ、か……」
 荒野は、虚を突かれた顔をした。
「そういう考え方をしたことは、なかったけど……。
 そういわれてみると……」
「エゴであり、わがままなの」
 茅は、荒野に向かい、頷いて見せた。
「茅が、いざという時、荒野に茅を止めてと頼むのも、荒野が、茅を含めて一切合切に責任を持とうとするのも……。
 一族が、利用価値を重視するあまり、後顧の憂いを絶つために、茅たちを始末しなかったのも……。
 全部、エゴであり、わがままなの」
「……そっかぁ……」
 荒野は、にへら、と笑った。
「みんながみんな、私利私欲で動いているんなら、一人だけストイックに構えても、しょーがないなぁ……」
「そうなの」
 茅は、再度頷いた。
「茅には茅の思惑や欲望があり、荒野には荒野の、一族や一般人も、それぞれの背景に応じたものを、欲しているの。
 みんながみんな、勝手なことを願い、それを求めて動いているから、この世の中は複雑で猥雑で……そして、その分、可能性と矛盾に満ちているの……」
「……そっかぁ……」
 茅にそう断言されて、荒野はかなり気が楽になった。
「みんながみんな、わがままにしているのなら、しかたがないな……。
 だったら、おれは……自分のわがままで、全身全霊を賭けて、ぜーんぶ、一切合切を、守ってみせるよ……。
 甘い考えかも知れないし、そうそううまくは行かないかも知れないけど……それがおれのやりたいことなんだから、しかたがない」
「それがいいの」
 茅も、頷く。
「その方が、荒野らしいし……」
 そういって茅は立ち上がり、荒野の腕を上に引いた。
「立って。
 いつも髪を洗っているから、今日は、茅が荒野を洗うの」
「……おっ。
 ……おおっ……」
 荒野は何となく気圧されて、頷いてしまう。
 茅が腕を引くままに立ち上がると、茅は荒野の下半身をみて、「むぅ」と不満そうにうに短く唸った。
「……何?」
「荒野の、大きくなってないの……」
 茅は不機嫌そうな声をだした。
「そりゃ……今までいろいろやってきてるし……今更、一緒にお風呂に入る程度では……」
 荒野は苦笑いを浮かべながら、そう応じる。
「……いいの。
 これから頑張るから……」
 茅はそんなことをいいながら、立ち上がった荒野の腕を引いて、荒野を浴槽の外に出す。
 そして、
「……ここに、寝そべって……」
 と浴室に敷いてある、バスマットを指さした。
「……寝そべる?」
 イヤな予感がして、思わず、荒野は聞き返した。
「日本の伝統的な荒い方……だそうなの」
 ボディソープのボトルを取り上げながら、茅は、しごく真面目な顔をして頷いてみせた。
「……ニッポンの、でんとー……」
 荒野のこめかみに冷や汗を浮かべて、茅の言葉を反芻する。
「それって……また、先生の入れ知恵か?」
「違うの」
 茅は自分の体にボディソープを大量に垂らし、自分の手で軽く泡立てる。
「これで、直接肌を合わせて洗うと、ぬるぬるして普段とは違った感じになるって、柏あんながいってたの……」
 いうが早いが、茅はそのまま荒野に抱きついてきた。
「……ほら。
 ぬるぬる……」
 茅は荒野の体に抱きついて密着したまま、体を軽く上下に揺さぶってみせた。
「ちょっ……ちょっとっ!」
 珍しく、焦る荒野。
「荒野の……少し硬くなってきた……」
 冷静に事実を指摘する茅。
「荒野が寝そべってくれると、もっと自由に動けるようになるの」
「……か、茅は、もう少し友達を選んだ方がいいな……」
『……日本の学生は、進んでいる……いや、あいつらが例外なのか?』
 ……などと思いながら、荒野はそういって、結局、茅のいう通りに、床に敷いてあるバスマットの上に寝そべる。
 なんだか気恥ずかしかったので、うつ伏せに寝そべった。
 荒野の背中に、冷たい液体を垂らし、掌で軽く広げた後、その上に茅の軽い体が重なる。
 そして、ゆっくりと、茅が体を動かしはじめた。
 荒野の背中と茅の全面とが、生ぬるくなった洗剤を介してこすり合わされる。荒野は、茅の乳首と陰毛がぬめりながら背中で前後に滑るのを、感じた。確かに素肌同志で触れ合う感触とは違い、妙に淫媚な感触だ……と、荒野は思う。
「荒野……感じる?」
 うなじのすぐ後ろで、茅が荒野の内心を見透かしたようなことをいった。
「……ああ……」
 荒野は、ため息まじりに答える。
「思ったより、気持ちいい……」
 素直にそう答えたのは、茅相手に見栄や虚栄を張ったところでどうしようもないし、それ以前に荒野の分身が、早くも反応しはじめていたからだ。
「……本当……」
 茅は、荒野の下腹部に手を入れて、荒野の硬直を確認する。
「荒野の……もう、こんなになって……」
 そういう茅の声も、妙に湿っている。
「そういう茅だって、感じてるんじゃないの?」
 荒野は手を背中に伸ばして、茅のお尻をいったん鷲掴みにする。それから、素早く指を又の割れ目に入れ、茂みの中をまさぐる。
 指先が伝える感触によれば、茅の陰毛は、茅自身が分泌した体液によって、しっとりと濡れていた。




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彼女はくノ一! 第五話(296)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(296)

 素っ裸で脱衣所に乱入してきた中で、真っ先に香也に近寄ってきたのはノリだった。香也は以前にもノリの裸体を目撃しているわけだが、その時と比較しても、ノリの体はめっきりと女らしくなっている。背が伸びた、というだけでなく、全体の輪郭が丸みを帯び、胸こそさほど膨らんでいないものの、引き締まった腹部とそこからきゅっと広がっていく腰や腿の曲線は、香也をドキリとさせるのに十分なヴィジュアルインパクトを持っていた。
 ……何、冷静に観察しているんだ……と、香也があわてて目をそらすと、その香也に、ノリが「おにーちゃんっ!」とかいって、躊躇すること抱きついてくる。
 ノリはそのまま、
「……何、目を逸らしているのかなぁー……」
 とか、
「ね。
 もう、ちゃんと感じる?」
 とか無邪気にいいながら、容赦なく香也に抱きつき、体を密着させてきた。
 どうやって楓や孫子の防衛線を突破してきたのか、ガクとテンもすぐにノリに続く。つまり、全裸で容赦なく、香也に抱きつき、そこここに体をすりつけたり香也のそこここを触ったりする。
「……ちょっと、駄目。
 そんなにひっつかれたら……ああっ。
 そんなところ触らないでっ!」
 香也は情けない声をあげた。
「……あー。
 おにーちゃんの、もうこんなになっているー!」
「感じる? 感じているの、おにーちゃん……」
「ね? 気持ちいい・?
 どこか触ってほしいところとか、触りたいところある?」
 などなど。
 三人は香也を取り囲んでざわめき合い、肌を密着させ、香也の体をまさぐる。

「……ちょっと待ったぁ!」
 少しして羽生の声が聞こえたので、香也は「……助かった……」と思って顔をあげ、そこで凍りつく。
 何故か、羽生は一糸も纏わぬ全裸であり、その後ろに楓や孫子もやはり裸でたっている。
 てっきりこの甘美な地獄から救助されると思いこんでいた香也は愕然とし、ついで、暗澹たる気分に襲われた。
「……こーちゃん、いやがっているでしょ?
 早くはなれなさいっ!」
 羽生は勢い込んでそういうのだが、何分裸なもんで、威厳というものがまるでない。
「……えー?」
 語尾下がりで羽生に異を唱えたのは、ノリだった。
 香也の背中に密着して小さな胸の膨らみとまだ薄い陰毛を香也の背中に押しつけているノリは、背中越しに腕を回して香也の中心を掌でそっと包む。
「おにーちゃん……全然、いやがってないよ……。
 ここ……こんなに大きくしちゃって……あっ!
 またビクッって大きくなったっ!」
 香也のうなじのあたりから、妙にねっとりとした口調のノリの声が聞こえる。その時、香也自身がビクリと震えたのは、その声に含まれる天然の媚態に、香也の性感が刺激されたからだった。
 気づくと、その場にいる全員が、ノリの手の中でいきり立っている香也自身を凝視している。
『……こんなの……』
 香也は、恥ずかしかったり、いたたまれなくなったり、で、すぐにその場を離れたかったが、三人組に左右と背中からがっしりと抱きつかれているため、逃げ出すことも、しゃがみ込んで湯に体を沈めて隠すこともできない。
「……わっ」
 テンが、無邪気な驚きの声をあげた。
「こういう状態になったおにーちゃんの……何度か見てきたけど……今のこれが、一番、大きい……」
 テンはみたもののサイズを正確に目測することができる。また、一度見聞したことは、絶対に忘れない。
「……何、おにーちゃん……」
 ガクが、香也の耳元に息を吹きかけるようにして、囁く。
「ボクたちみたいなチンチクリンに抱きつかれて、こんなにしちゃったの?
 それとも、みんなに自分のここを注目されて、感じちゃったの?」
 そう囁きながら、テンは、ノリの指の隙間に指先をはわせ、香也自身をつつく。
 止めに入った筈の羽生、楓、孫子も、何故か足を止めて、香也の「そこ」に注視している。こころなしか、足を止めた三人の頬に赤みが差していた。
「……うらやましいのなら、一緒に混ざればいいじゃないか……」
 テンは、足を止めた三人をチラリと一瞥し、浴槽の中で膝をつく。
 そうすると、テンの顔の高さが、香也の腰あたりにくる。
「ボクなんか……おにーちゃんが喜ぶなら、なんでもするし……」
 そういってテンは、目の前にある香也の睾丸の重さを確かめるように、掌でもちあげてみる。
「……ボクもだよ、おにーちゃん……」
 今度は反対側から、ガクの声が聞こえた。
「……ほら……。
 ボクのここ……おにーちゃんのと、同じ……。
 ……もう……こんなになって……」
 ガクは、香也の手を取って、自分の股間に導いた。
「ほら……くちゅくちゅ、って……なっちゃっているのぉ……。
 わかる?
 おにーちゃんがいるから、ボクのここ、こんなになっっちゃっているんだよ……」
 茂みをかきわけて香也の指先が到達したガクのソコはすでに湿っていた。なま暖かい液体を掻き出すように動かしはじめたのは、香也の手をとったガクの手か、それとも香也自身の意志で動かしているのか……香也には、もはや判然としない。
 この逃げ場がなく、かつ、異常な状況に香也の理性には薄く膜がかかり、もはやどうなっても良いような気分になりはじめていた。
 香也の指が上下に動く度に、ガクのソコから液体が滴り落ちる。
「……ガク……腿まで濡らしちゃって……」
 いつの間にか、ノリが屈み込んで、香也が触っている部分に顔を近づけていた。
「しょうがないな……。
 ボクが、きれいにしてあげる……」
 上気した顔をして、ノリはそういい、下から上に向かって、ガクの股間から垂れてきていた液体を舐めあげた。
「……ひゃつ!」
 と、ガクが背を仰け反らせ、その拍子に、香也の指が触れていたガクの亀裂に少し潜りこんでしまう。
「……んふっ!」
 ガクが、また体を振るわせた。
「だらしないな、ガクは……」
 テンが、そういって香也の局部に顔を近づける。
「自分だけ気持ちよくなって、おにーちゃんのここ、ほったらかしじゃないか……。
 いいよ。
 おにーちゃんは、ボクが気持ちよくさせてあげる……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(212)

第六章 「血と技」(212)

 茅はソファに座っている荒野の膝の上に、荒野と向き合う形で抱きついている。
「……荒野」
 茅が、荒野の胸に頬をつけながら、名を呼んだ。
「なに?」
 荒野は、答える。
「荒野はここにいるのに……どんどん、遠くなっていく気がするの……」
「おれは……どこにも行かないよ」
「こんなに近くにいるのに……ずっと一緒にいるのに……一緒にいる時間が長くなるほど、荒野が何を考えているのか……わからなくなって……怖くなっていくの……」
 おれの心を読めばいい……といいかけたが、荒野はその言葉を口にしなかった。
 茅が、できる筈のことをあえてしていない、というのなら……そこには、相応の理由がある筈なのだ。
「茅は……その、普段は、ヒトが考えていることを、読んだりしないの?」
 結局、荒野は本当に聞きたいことを、かなり湾曲して尋ねることになる。
「荒野が、ヒトは読むなっていった」
 そうした質問を予期していたのか、茅は、荒野が言い終わるやいなや、即座に答えた。
「……でも……。
 それがなくても、読もうとは思わないの。
 むしろ……気を抜くと、どんどんヒトが考えていることが、流れ込んでくる……。
 日が経つにつれて、よく聞こえるように……遠くまで、詳細に、聞こえるようになって……」
 結局……苦労して、「心の耳」を、塞ぐ方法を、自分でみつけたの……と、茅は囁いた。
 荒野は、その話しを聞きながら、「おれは今、どんな顔を、しているんだろう?」と考えた。
 いずれにせよ、茅が荒野の胸に頬を押しつけ、顔を上げようとしないのは、幸いだった。
 きっと、今のおれは……ろくでもない表情を、しているのに違いない。
「荒野が今、なにを考えているのか、茅には予想がつくの……」
 あくまで、茅の口調は、平静だった。
「荒野……茅のこと、怖がっている。
 そして同時に、怖がっていることを恥じていて、茅にその感情を読みとられなくないと思っている……。
 読まなくても……荒野が考えそうなこと、わかるの……」
 最初のうち、平静を保っていた茅の声が、後の方にいくに従って、湿り気を帯びてくる。
 じわり、と、荒野の胸……茅が顔を押しつけているあたりが、暖かい液体で濡れはじめていた。
「……どうしよう、荒野……。
 茅……どんどん、怪物になっていくの……」
「茅が怪物なら、おれも怪物だよ」
 荒野はわざと、快活な声をだした。
「怪物同志なら、いい組み合わせじゃないか……」
「……荒野にお願いがあるの……」
 茅は、荒野の胸に顔をつけたまま、続ける。
「もしも、茅が……この後、本当の怪物になったら……」
「断る」
 荒野は、短く答えた。
「いくら茅の頼みでも、聞けないことはある。
 本当の怪物?
 茅がそんなものに、なるわけがない。
 それに、第一、例の悪餓鬼どもも含めて、誰も見捨てないとみんなで決めたじゃないか……」
「荒野は、論点をずらしている」
 茅は、鋭い語調で反駁する。
「能力の差異も、ある閾値を過ぎれば、個性とか個体差とかの表現ですますことはできなくなるの。
 今のところ、一族や、あの三人の能力は、常人の能力の延長上で収まっている。
 五感、筋力、反射神経……などが、一般人の平均よりも突出している……というだけのこと。各種能力のパラメータが、量的に増大しているだけのこと……。
 でも、茅の場合は……あきらかに、量的な差異、というより……」
 質的な差異、なの……と、茅は告げる。
「……今日、佐久間の能力を持つ男と接触した。
 彼が、佐久間の術者の中で、平均的な能力の持ち主であると想定するならば……ろくに訓練を受けていない状態で、見様見真似でその術者に、逆に施術してしまった茅は……現時点でさえ、明らかに、イレギュラーな存在だと思うの。
 茅は……一族とも、あの三人とも……それに、もちろん……一般人とも違う……孤立した存在。
 しかも……この先、どんな風に育っていくのか、予測ができない。
 ……もし、この先……茅が存在することで……茅の存在自体が、一族や一般人の脅威と見なされるようなことが、あったら……」
 茅は、平静な声で続ける。
「……荒野は、その茅を守るために……戦わないで欲しいの……。
 茅一人を守るために……誰かを傷つけるという選択を、しないで欲しいの」
 荒野は、答えなかった。
 いや、答えられなかった。
 そういうことは、絶対にあり得ない……というだけの根拠を、荒野は持っていない。
 荒野は……人間が、異質な存在を、どのように排除するのか……ということを、知っている。他ならぬ、自分自身の経験から、学んできている。
「……風呂に、入ろう……」
 しばらくしてから、荒野は別人のようなしわがれた声でそう答え、膝の上に乗った茅ごと、立ち上がる。
 喉が、からからに乾いていた。
『……おれは、無力だ……』
 と、荒野は思った。
「……心の声を聞かないように、いろいろ試していた時……」
 荒野に抱えられながら、茅は言葉を継いだ。
「……その他の感覚を抑えるコツも、徐々に覚えていったの。
 だから……今の時点では、茅は、一般人並の知覚の中に、自分を閉じ込めておくことが、出来る……。
 でも……その方法がいつまで有功なのか……茅の能力が、この先どこまで伸張していくのか……分からない。
 それに……どこかで、何かのきっかけで、茅が暴走をはじめ、危険な存在になるかも知れない……」
 荒野には、茅の安全弁でいて欲しい……茅を、悪役にしないで欲しいの……。
 と、茅は続けた。
 ……酷いお願いだ……と、荒野は思った。




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彼女はくノ一! 第五話(295)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(295)

「……ふぅ……」
 湯船に浸かった香也は、深々と息をついた。
 今日は、人の出入りが激しく、なんだか慌ただしい休日だった。絵の方は進行した方だとは思うが、香也の心情的には、落ち着きがない一日だった。
『……絵といえば、ノリちゃん……』
 随分、いいたいことをいってしまったが……自分に、他人を教えるような資格があるのかな……とか、香也は思いはじめている。自分に、他人に何かを教える資格なんかあるのかな……と。
「……んー……」
 低くうめいて、香也は手足を伸ばして湯船にずるずる浸かり、鼻の下までお湯に浸かった。
 半ば、お湯の中で寝そべっている形だが、風呂が広いため、こういうこともできるのだった。
 そのままゆっくりと体を温めていると、不意に脱衣所に誰かが入ってくる気配があって、香也はギクリとする。
 今までの経験から、入浴時の人の気配に対して、過剰に反応するようになっていた香也だった。
 しかし、ビクビクしながら香也が様子をうかがっていると、脱衣所に入ってきた気配はどうやら二人で、楓と孫子らしい……と、察しがつく。幸い、二人とも浴室に乱入してくるつもりではないらしく、すぐ洗濯機が音を立てはじめた。
 どうやら、真理が持ち込んだ汚れ物を片づけに来ただけらしい……と気づいて、香也は、深く安堵する。
『……そう、だよな。
 いきなり乱入してくるなんて、そうそう……』
 あるわけがないか……と、香也が思いかけたその時……。
「……えっ! あっ! あっ!
 そんなっ!」
「ちょっ……な、何っ!
 あなたたちっ! その格好っ!」
 楓と孫子の狼狽しまくった声が聞こえる。
 楓はともかく、いつも冷静な孫子がうろたえる、というのは、滅多にあることではない。
 何事か?
 と、怪訝に思いつつ、香也は腰を浮かしかけた。
 ごく短い間、脱衣所でもみ合うような気配がして、すぐにガラリと戸が開く。
「……お風呂イベント、発生っ!」
 といって、一糸もまとわないノリが、成長した白い裸体を隠すこともなく、浴室に入ってきた。
 その後ろでは、やはり全裸のテンとガクが、それぞれ楓と孫子と組み合っている。
 三人組は、どうやら、服を脱いだ状態でここまで来て、楓と孫子という関門を、強行突破したらしい……などいうことを考える間もあらばこそ、香也は、突進してきたノリに抱きつかれている。
 香也は、自分の胸に飛び込んできたノリを、反射的に抱き止めた。
「……えっ……あっ、あっ……」
 予想外の事態に、香也は、パクパクと口を開けたり閉めたりするが、軽くパニクっているため、この場にふさわしい言葉を思いつかない。
「……えいしょっ!」
「離さないと、おねーちゃんたちもこのままお風呂にいれちゃうよー」
 みると、楓や孫子と組み合っていたテンとガクの二人は、それぞれ組み合っていた相手の体を軽々と持ち上げて、浴室に入ってきていた。
 テンにせよ、ガクにせよ、まともに組み付いたら容易に持ち上げてしまえるほどには、力が有り余っている。
 楓と孫子も、準備や心構えさえしていれば、ここまでいいようにはされていないのだろうが……不意をつかれたことと、三人がいきなり全裸で現れたことで、すっかり動転してしまったらしい。
「……いい加減に、おろしなさいっ!」
 孫子が、少し怒った声を出す。
「ボクたち、おにーちゃんと一緒にお風呂に入りたいだけだよ?」
 ガクは、自分で高々と掲げた孫子の顔を見上げながら、いった。
「おねーちゃんたちみたいに、例えば今朝の孫子おねーちゃんみたいにえっちな……」
「……わっー!!!」
 孫子は、ガクに最後までいわせず、わんわんと響く大声をあげて、ガクの言葉をかき消した。
「わかりました、わかりましたっ!」
 孫子は複雑な表情をしながら、早口で妥協案をまくし立てた。
「もう、邪魔はしませんから……。
 そ、そのかわり、わたくしも一緒に入浴しますっ。
 そのっ! ……か、監督するためにっ!
 そうっ!
 いかがわしい行為がないよう、監視するためにっ!」
「……わかった……。
 本当に、ボクたちの邪魔しないでね……」 
 ガクは軽く念を押しただけで、あっさりと孫子の体を降ろした。孫子は、「……まったく、何でこんなことを……」とかなんとか、ぶつくさいいながら、脱衣所に向かう。
「……えっ? え? え?」
 一方、テンに抱えられていた楓は、何でこういう展開になるのかまるで理解できず、眼を白黒させるばかりだった。
「どうする?
 楓おねーちゃん……」
 そんな楓を両腕で抱え上げながらテンが確認した。
「……ええ、っとぉ……」
 楓は、周囲を見渡す。
 荒々しく脱衣所の戸を後ろ手に閉めた孫子。
 悠々と湯船に向かう全裸のガク。
 全裸のまま、ノリと抱き合って表情を無くしている香也。
 特に最後の、一体となって固まっている二人を眼にした時、楓の表情がこわばった。
「……わたしも……間違えがないように、監督しますぅ……」
 楓が、低い声でそういう。

「……なんだ、何が起こった?」
 脱衣所の方で、羽生の声がした。
「今、三人が裸で飛び込んできて、香也様と一緒にお風呂に入るといってきかないので、わたくしも監督するために一緒に入ることになりました……」
 テンに降ろされた楓は、脱衣所の戸をガラリと開く。
「わたしも、ご一緒するのです」
 低い声で楓がそういうと、羽生は半歩後ずさった。
 孫子はすでに服を脱いでいて、下着姿になっている。
「……ああっ。
 ま、まあ……そうだよ、な。
 お風呂に入るだけ、だもんな……」
 羽生は楓と孫子の顔を見回して、自分自身を納得させるような口調でそういった。
「……混浴……というよりは、家族風呂みたいなもんか……」
 その時、浴室から、
「……ちょっと、駄目。
 そんなにひっつかれたら……ああっ。
 そんなところ触らないでっ!」
 という、香也の弱々しい声が響く。
 楓と孫子と羽生は、顔を見合わせて頷きあった。
「……わたしも、一緒に入って様子見る……」
 結局、羽生もその場で服を脱ぎはじめる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(211)

第六章 「血と技」(211)

 マンションに帰ってくると疲れがどっと襲ってきた。
 荒野はソファにどっかりと腰を下ろし、茅はその荒野の膝の上にちょこんと座って背を荒野の胸に預ける。
「茅も疲れた?」
「気疲れなの」
 茅は神妙な声で答える。
「人に指示を与えるのが、あんなに神経を使うものだとは、思わなかったの」
「……あー……」
 荒野は天井に視線を向ける。
「……責任、ってやつだな……。
 他人にやらせるより、自分で動いた方が、精神的には楽かも……」
 荒野の本音だった。
 荒野自身、「他人に指示する」側に立ったのは、この土地に来てからのことであり、「慣れている」という実感が持てるほど、自信を持てないでいる。
 荒野は茅の頭の上に掌を乗せ、軽く撫でた。
「いい子いい子?」
「いい子いい子、だ」
 茅の疑問形に、荒野は真面目な口調で頷いて、茅の頭を撫で続ける。
「ただ……茅は……数量とかデータの処理は強いけど、人間相手の予測というのは、弱いからな……。
 あんま、無理しないでもいいぞ……。
 前線の判断が必要な時は、どんどん、おれとか楓、才賀あたりに回してくれ……」
 孫子は自称「兵法家」であり、古今の戦術、戦略論を読破しているし、楓は楓で、大局的なことはともかく、「現場の判断」レベルについては、十分に信頼できる判断力を持ち合わせている。
 戦闘時の指揮、ということでいえば、その手の教育も受けていなければ、実戦経験にも乏しい茅が、無理に前に出る必要もないのだった。
『……茅の資質だと……』
 一番ぴったり来るのは、決定権を持つ指揮官、というよりは、その指揮官を情報でサポートする参謀役、なんだろうな……とか、荒野は思う。
「……荒野……」
 茅が、小さな声を出した。
「今日、急いで荒野を呼ばなかったの……駄目だった?」
「駄目、というわけではないけど……」
 荒野は、慎重に答える。
「……前にもいった通り、おれを現場に呼んだ方が、もっと手っ取り早く片付いたと思う……」
 いいながらも、荒野は茅の頭を撫で続ける。
「……そう……」
 茅は、頭の上の荒野の手をゆっくりとした動作でどけ、向き直って荒野の胸に抱きついた。
「茅は、荒野のそういうところが、心配……。
 荒野……他人のことばかり優先して、自分のことはいつも後回し……」
「うーん……。
 そう……なのかな?」
 荒野には、自分に茅がいうような傾向がある、という自覚はない。
「おれ……他人でも出来るそうなことは、率先してそいつにやらせているぞ?」
 そこで荒野は、弱々しく抗議してみる。
 事実、荒野は、ここ最近、楓やテン、ガクの後に控えて、成り行きを見守っていることが多い。彼女らの能力を見極めるべく、活躍の場を譲っている、という理由もあったが……荒野が手を抜いている、という見方もできた。
「だから、無理している」
 茅は断定する。
「荒野……いつも、自分がやれば、もっと上手に出来ると思いながら、我慢して手を出さない。
 それって……かえって、ストレスになるの」
 荒野は、しばらく何も言わなかった。
「……読んだ?」
「読まなくても、わかるの」
 茅は、荒野の胸にゆっくりと頬ずりをする。
「茅……荒野のこと、いつも見ているから……」
「……そっか……」
 荒野が返答をするまで、また少し間が空いた。
「確かに、今のような境遇に慣れていない……っていうのは大きいけど……。
 だけど、だからといって……おれの代わりを誰かに押しつけるわけにも、いかないだろう?」
 いざという時に、最悪の事態を回避する……それが不可能であったら、せめても、責任を取る……と、いうことを、この綱渡り的な平穏の中で、いつしか荒野は決意していた。
「……だから……茅も、少しは荒野の荷物を持ちたかったの……」
 荒野はソファの背もたれに背中と頭を預けて、天井に向かって「……そっかぁ……」と、小さく呟く。
 ぐったりとソファにもたれかかった荒野の頭に、茅が掌を置いて、そっと動かした。
「いい子、いい子」
「いや、それはいいから……」
 荒野は苦笑いをする。
 どうも、茅には……荒野が、かなり無理をしているように見えるらしい……と、今更ながらに気づく。
「……それより、茅も、今日は、朝早くからばたばたしてて、疲れただろう?
 明日、学校だし、今夜は早めに寝よう」
「……ん」
 茅は、小さく頷いて、荒野から身を離す。
「お風呂、湧かしてくるの」
 一旦、荒野から離れてバスルームに向かった茅は、風呂に火を入れて洗濯機を動かしてから、すぐに戻ってくて、荒野の上に覆い被さる。
 そして、長々と、口をつけた。
 茅の舌が荒野の口を割り、ゆっくりと口内に入ってくる。茅の唾液が、重力に従って荒野の内部にしたたり落ちた。
 しばらくして口を離すと、茅は荒野の上に覆い被さったまま、ソファの上に膝を置き、荒野の首を自分の胸にかき抱く。
「荒野は……何でも、一人で抱え込まないで、いいの」
 茅は、優しい口調で、そう囁く。
「茅も、他のみんなも、いるの……。
 もっと、みんなを頼っても、いいの……」
 茅にぎゅっと抱きしめられながら、荒野は、
「……そうだね……」
 と、小さく答えた。




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彼女はくノ一! 第五話(294)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(294)

 賑やかな夕食が終わり、来客たちが三々五々に帰って行った後、香也は羽生に「先に風呂に入っちゃいなよ」と勧められ、素直にその言葉に従った。
 羽生と楓、孫子は洗い物をしているし、テンとガクは、居間でノリと話し込んでいる。ノリが帰ってきてからこっち、バタバタとしていて、ようやく落ち着いて「積もる話し」をする余裕が出来た、ということなのだろう。
 おかげで香也も安心して風呂場に向かうことが出来た。
 何度かの奇特な経験を積んだおかげで、ここ最近の香也は、みんなが風呂を使った後、一番最後に入るようにしている。

「……っと、後は、洗濯か……。
 真理さんが、風呂場の方にどさりと持ってきたっていってたな……」
 三人がかりで一通りの洗い物を済ませると、羽生はそう呟いた。
 普段の洗濯物に加え、全部、とはいわないが、真理とノリ、二人分、数日分の洗濯物がある。相応の量になるだろうし、早めに取りかかっておいた方が後々楽だった。
「あっ。
 わたし、いってきます……」
 楓が片手をあげた。
「わたくしも」
 孫子も、楓についていくことにした。
 孫子にしてみれば、香也が風呂に入っている今、たとえ脱衣所までではあっても、楓一人を風呂場に行かせるわけにはいかないのだった。
「まあ、まあ……。
 二人で、仲良くな……」
 羽生は苦笑いをしながら、そう答える。
 二人で行く分には、どちらかが入浴中の香也に突入しようとしても止めるだろう、と、羽生は考えた。

「……短い間に、いろいろあったんだね……」
 ガクとノリから自分の不在時のことを詳しく聞いたノリは、そう感想を述べる。もちろん、ごく簡単な情報は、二人から携帯やメールで知らされていたのだが、直接二人の口から聞けば、また違った感想を持つ。
「……そういうノリの方は?」
 ガクが尋ねた。
 離れていた間に、何があったのか……という質問だ。
「背が伸びた」
「見ればわかる」
 即答したノリに、即応するテン。
「他には?」
 ガクが、重ねて尋ねる。
「……うーん、と……ねー……。
 真理さんにつき合って、美術館とか画廊とかいって、いっぱいいろいろな絵を見てきた。
 そんで、都会とか都会でない所とか、いろいろな土地をみて、前の服が着られなくなったんで、真理さんが新しい服を買ってくれて……」
 ノリが、のんびりとした口調で答える。
「つまり、ノリは……ボクたちが苦労していた時、ノリはゆっくりと観光三昧していたわけか……」
 テンは、わざとらしく重々しい口調を作る。
「……都会でおいしいもん、いっぱい食ってきたんだろう……」
 ガクは、憮然とした表情を作る。
「観光っていうほど、ゆっくりとはしていられなかったけど……。
 だって、二、三日ごとに引っ越ししているようなもんだよ?
 それに、毎回、外食とか出来合いのお弁当ばかりだと、すぐに飽きるって……。
 二人とも、毎日手作りのご飯食べられたんでしょ?
 そっちの方が、ずっといいって……」
「……うっ……」
 ノリがそういうと、ガクは覿面に怯んだ。
「毎日、お弁当……。
 のらさんの所にいた時みたいな……」
 かつて、島からこっちの世界への移行期間、三人は数週間に渡って野呂良太に預けられ、「一般人社会への馴致期間」として過ごしたことがある。
 野呂良太は別に三人を虐待したわけではなかった。むしろ、三人のやんちゃぶりtによく耐えながら、辛抱強く三人に「一般常識」を教え込んでいってのだが……。
 その間、世間とはほぼ隔絶した環境下におかれた三人の食事は、野呂良太が調達してくる仕出し弁当を食べて過ごしている。
 お世辞にもうまいものではなかったし、それ以上に、同じようなメニューの繰り返しで、その味は恐ろしいまでに単調だった。結局、三人は、その弁当の単調さに辟易し、積極的に野呂良太が教え込む「常識」とやらを吸収するようになる。
 そこから解放されて(と、同時に、野呂良太も三人から解放されたのだが。「一刻も早く、この状況から解放されたい」という点において、当時の三人と野呂良太の利害は見事なまでに一致していた)この家に来た時、一番感心したのはご飯がおいしく、また、多品目であることだった。料理を作る人数が多い、ということもあり、作り置きの総菜を入れ替わり立ち替わり作っていたため、一食あたりの皿の数が、増える。また、日常の料理だけではなく、数日に一度の割で、今夜がそうであったように、宴会じみた騒ぎが起こる。その折に食べられる普段とは違った食事も、三人を満足させていた。
「そういう二人だって……ボクがいない間に、いっぱいおいしいもの食べてた癖に……」
 ノリはそういってジロリとテンとガクを睨んだ。
「向こうには、マンドゴドラはなかったし、先生みたいな便利な人も、どこにもいなかったぞ……」
 ノリは、まるで三島百合香が専属の料理人であるかのようなことをいう。
 別にやましいところがあるわけではなかったが……三島の料理とかマンドゴドラのケーキとかを、ノリの不在時も存分に食べていたテンとガクは、何気なくノリから目を逸らしてしまう。
 食べ物の恨みは、根深い。
 ことに、成長期においては。
「……それに、おにーちゃんとだって……ずっといた癖に……」
 ノリの声が少し低くなった。
「そ、それは、そうだけど……」
 ガクは、あたふたとノリと……テンの顔を見合わせる。
「でも……楓おねーちゃんと孫子おねーちゃんばっかりだよ。おにーちゃんといいことあったの……。
 ボクたちは、なんだか割り込む隙がないっていうか……」
「確かに」
 ガクの言葉に、テンが頷いた。
「なんだか進展しているよね、あの二人だけ……」
 三人は、顔を見合わせて頷き合った。
 ……ノリが不在だった身時間期間で、三人の関係は前より密になったような気がする……。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(210)

第六章 「血と技」(210)

 しばらく賑やかな食事が続いてから、竜斎がノリに向かい、「野呂に身を寄せないか?」と口説きだした。
『……そういう、ことか……』
 それで荒野は、今日の騒ぎの原因を、ようやく了解する。
 六主家のいずれかが、新種を取り込もうとする……という動きは、三人の能力と六主家のニーズを考慮すれば、当然、思い浮かぶ構図だったが……荒野は、ここに至るまで、まるで予想していなかった。
 三人の性格と一族との仕事とのイメージのギャップから、荒野は無意識のうちにその可能性を排除していたらしい……。
 仁木田らとテン、ガクのコンビが戦った際の映像がネットに出回った直後の、このタイミングで……ということも考慮すると、竜斎は、あの映像に触発されて、慌てて動き出した、ということも考えられる。
 二人の能力を再認識し、仁木田たちと接近したことで焦りはじめた……と、いったところか……。
 野呂の長としては、妥当な判断だ……と、そういう観点から今日の竜斎の行動を振り返ってみれば、荒野も納得ができる。
 竜斎の目的は、その実力も含めて、新種たちを自分の目で見ること。そして、今しているように、直接口説くこと。
 万が一、野呂が三人のうちのいずれかを取り込むことに成功すれば……。
『すぐにどうこう、ってことはないだろうけど……』
 新種たちは即戦力になる、ということの他に、先進的な遺伝子操作の産物でもある。その成果の実物を確保すれば……。
『そっち系の技術も、これからはどんどん進むだろうし……』
 長期的には、かなりのアドバンテージとなるだろう……。
 テンたち新種は、優秀な資質を持った人材であり、同時に、生きた資料と遺伝子サンプルでも、ある。
『だから、じじいは……』
 わざわざおれに預けて、むざむざ飼い殺しにしているのか……と、荒野は思った。
 あくまでそういう可能性もある、という程度のことでも……今の時点で六主家間のパワーバランスが大きく狂うことを、涼治は望んでいないのだろう。
 その点、まだ若年の荒野に預け、「好きに」やらせておけば……。
『どこからも、苦情は来ないか……』
 なんのことはない。
 荒野は、都合良く、「新種」という扱いのお宝の番犬をしているようなものだ。
 貴重なお宝であるが、実際に使おうとするといろいろな方面から苦情が来そうな、「使えないお宝」の……。
『……ちゃっかりしてやがるなぁ……』
 荒野は涼治の思惑を想像し、そういう感想を持った。
 荒野がそんなことを考えている間にも、会話は進んでいる。
「……それとも、そこの加納と密約でも交わしているのか?」
 竜斎がまさしく、荒野が考えていたようなことを述べた。
 竜斎なりに、加納と新種の関係を、勘ぐっているらしい。
「ない、ない」
 荒野は即座に否定した。
「おれの知らない所で、じじいとこいつらがなんらかの約束を交わしたりしていれば、話しはまた別だけどな……」
「それも、ないよ。
 そもそも、涼治のお爺さんとボクら、数えるほどしか顔を合わせてないし……好きにしろ、としか、いわれてないし……」
 テンが、荒野の言葉に即応する。
『……そんなところだろうな……』
 荒野は涼治の顔を思い浮かべながら、本当に、食えないじじいだ……と思った。
 荒野がそんなことを考えているうちにも会話は進み、小埜澪も、竜斎に負けじと、三人を口説きにかかる。野呂が手を出せば、二宮も指をくわえて看過することはできない……ということだろう。
 しかし、三人は返答は、「今のところ、どちらにも与する気はない」と繰り返すばかりで、それ以上進展することはなかった。
 ただ、竜齋も小埜も、「ここから逃げ出す必要がある時は、いつでも三人の身元を引き受ける」といった意味のことを繰り返し、強調してはいたが。
 新種の中でも三人だけに声をかけて茅には声をかけなかったのは、茅が仁明から荒野に引き継がれた生え抜きの「加納預かり」であり、つけいる隙がない、と判断したためだろう。

 テンが竜齋たちに「自分たちの意思でここを離れるつもりはない」といった説明をした折、唐突にガクが、
「ボクたちも、その……いつかは、バラバラに、別れ別れに……なっちゃうのかな?」
 とか、いいだした。
 テンが何度か、「ひとりだちする時」といった語を口にしたからだ。
 ガクはテンの口調に、「いずれ、自然にここを離れるまでは、ここにいる」、つまり、「いつかは離れなければならない」といったニュアンスをかぎ取った……ようだった。
 テンはガクに、こう答える。
「いつかは、自然にそうなるよ。
 人間は……いろいろなことを経験して、どんどん変わっていく存在だし……。
 現に、ノリはもう自分だけの道を歩きはじめているし……。
 いきなりどうこうっていうことはないだろうけど……自然に変わっていって、離れる時は、やはり自然に離れていくと思うんだ……」
 ノリが自分だけの道を歩きはじめている、というのは、香也の影響か、ノリが絵に興味を示し、自分でも描きはじめたことを指すのだろう。
 荒野は、そのやりとりを興味深く見守った。
 そうしたノリの変容も含め、三人の個性と関係性が、そのやりとりに色濃く反映している、と思ったからだ。
 絵を描きはじめたり、それまで一緒に育った二人と離れることを厭わなかった……つまり、いち早く新しい環境に適応し、自分一人で行動をとりはじめたノリ。
 いつまでも従来の関係性にとらわれ、なかなかそこから脱却できないでいるガク。
 二人と自分自身の行き先を冷静に観察し、客観的に分析してみせるテン。
 いたって仲がいいし、全員揃っていれば息も合っている三人だったが……別人である限り、性格にも内面にも、差異というものはそれなりに存在し……当然のことながら、決して、一心同体というわけでははない……。
『……こいつら……一体……』
 この先、どういう風に育っていくのだろうか……と、荒野は思った。
 超人的な能力と未完成な内面を持った、子供たち……。
 今の時点では、特に不安を感じる要素はなかったが……今後、この三人が、何らかの契機を得て「自分の意思で」反社会的な行動をとりはじめたら……。
『……それを止めるのも、一苦労だ……』
 荒野は、「あのじじいは、本当に扱いの難しいお荷物を押しつけてきたんだな」と、今更ながらに認識した。




[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話(293)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(293)

「……駄目だと思うな」
 香也に負けず劣らず、大量の肉を自分の器に持ってがつがつ食べていたガクガ、横合いから口を挟んだ。
「ノリには全然、その気はないし……」
「そうはいうがな……」
 竜斎はコップ酒を一気に煽っていった。
「……まだどこも手をつけていない有望な者がいれば、声をかけたくなるのが、長というもんだ……。
 おまえたち、まだ先のことは、まるで考えてないだろ?
 それとも、そこの加納と密約でも交わしているのか?」
「ない、ない」
 荒野は顔の前で平手を左右で振る。
「おれの知らない所で、じじいとこいつらがなんらかの約束を交わしたりしていれば、話しはまた別だけどな……」
「それも、ないよ」
 テンが口を挟んだ。
「そもそも、涼治のお爺さんとボクら、数えるほどしか顔を合わせてないし……好きにしろ、としか、いわれてないし……」
 テンの言葉に、ノリとガクが大きく頷く。
「そこまで放任状態だと……かえって裏がありそうな気がしてくるの」
 竜斎は顎を掻いて、荒野に顔を向けた。
「加納の長老は、一体何を考えておるのか?」
 将来有望な人材を利用しようとも育てようともせず、むざむざ遊ばせておく……というのも、竜斎の立場から見れば不可解なのであろう。
「さあね」
 荒野はとしては、そう答えるより他、ない。
 事実、涼治が一体何を考えて新種たちを荒野に任せているのか……以前より、荒野自身も疑問に思っている所だ。
「うちのじじいの考えていることなんて……おれには、想像もできませんよ」
 紛れもない、荒野の本音だ。
 最近では、涼治の思惑を想像することすら、止めてしまっている。
「……あれも、昔っから確かに読めない奴だからからのう……。
 わしの若い頃から、あの年格好だし……」
「加納は長命ですからね。
 じじいの本当の年齢なんて、おれも知りませんし……」
 荒野はそういって頷いた。
「……土台、前提となる経験値が桁違いの相手ですから……おれは最近、じじいの思惑なんか、予想するのやめてますよ……。
 どう動いても、結局はじじいの思惑のままに動いているような気がして……考えれば考えるほど、気分が悪くなる……」
「……傑物の子弟に生まれるのも、良し悪しか……」
 そういって荒野をみる竜斎自身は、野呂本家の出ではない。血筋によるコネクションよりも、その実力で長にまで昇りつめてきた男だった。
 絶えず実力を見せつけてきたからこそ、いろいろと困った性癖を持ちながらも、下の者も竜斎を認めてついてきている、という側面もある。
「……いずれにせよ……」
 竜斎は、話しを元に戻す。
「そちらの新種にとっても、将来の選択肢は多いにこしたことはなかろう……。
 長いものに巻かれ、一族の既成組織にあえて組み込まれる、というのも、一つの選択肢だぞ」
「……それをいうのなら、二宮も、だ。
 優秀な人材は諸手をあげて歓迎するし、相応の待遇も用意する」
 それまで黙って聞いていた小埜澪が、片手を挙げる。
「もちろん、今すぐにどうこう、ってことじゃあないけど……。
 でも……ここでの生活が、このまま一生続く、ってわけでもないだろう?
 数ヶ月先か、数年先になるかはわからないけど……うまくいっても、みんなひとりだちする時というものがいずれ来るわけだし……。
 それに、いざという時のためにも、いよいよとなったら逃げ込める先をあらかじめ確保しておくのは、そっちにとっても悪い話しではないと思うが……」
 いざという時……とは、ようするに、「共生」の試みが、何らかの理由により破綻し、この土地から排除された時、ということだ。
「みんなが……」
「……ひとりだち、する時……」
 ノリとガクが、愕然とした表情で顔を見合わせた。
「確かに、いずれは野呂なり二宮なりを頼る時が来るかもしれないけど……」
 三人組の中で、一人テンだけが、冷静に返した。
「今はまだ、ボクたちは、ここで一緒にいる。
 本当に、いよいよ駄目ということになったら、その時は改めてお願いするけど……それまでは、ここでの生活を楽しませてもらえないかな?
 あと……そこまでうまくいくかどうか、今の時点では何ともいえないけど……それでも、ボクたちは、このまま一般人の人たちに混ざって生活していくという可能性を、まず一番に選択したいと思っている。
 ボクたちはここでの生活を気に入っているし……ここには……大切な人たちが、いるから……。
 だから……あらかじめ言っておくけど……ボクたちが一族のいずれかの勢力に帰属する可能性は……かなり、少ないよ」
 いつの間にか、一般人も含めたその場にいる全員が、その会話に注目している。
 話題になっているのが「進路」ということで、特に学生連中にとっては、自然と興味が向くのだろう。
「……ねぇ……」
 それまで旺盛な食欲をみせていたガクが、いつの間にか箸を止めている。
「ボクたちも、その……いつかは、バラバラに、別れ別れに……なっちゃうのかな?」
 普通に考えれば、ナイーブすぎる設問、ではあったが……ガクは、今までテン、ノリと常に一緒にいる、という環境で育ち、「それが当然」、「今後もそれがずっと続く」と、思っている。
「いつかは、自然にそうなるよ」
 テンは、素っ気なく答えた。
「人間は……いろいろなことを経験して、どんどん変わっていく存在だし……。
 現に、ノリはもう自分だけの道を歩きはじめているし……。
 いきなりどうこうっていうことはないだろうけど……自然に変わっていって、離れる時は、やはり自然に離れていくと思うんだ……。
 一般人って……普通の人たちも、そういうのが、普通なんでしょ?」
 最後の質問は、舞花たち、「普通の学生」たちに向けられた問いだった。
「まあ……ある年齢まですごく仲が良かった友達と、クラスが別になったとかで疎遠になるっていうことは……普通にあるけど……。
 でもそれ、別に相手のことが嫌いになったから、っていうわけでもなくって……」
 舞花はしどろもどろになりながらも、特殊な生い立ちを持つガクに、懸命に「普通の感覚」を説明しようと試みる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(209)

第六章 「血と技」(209)

「こいつらのことをなんといおうと勝手だけど……」
 荒野は冷静な声で返す。
「……こいつらは、現に、今、目の前にいる。
 おれは、正面からこいつらとつき合っていきたいね」
 荒野がそう答えた時、
「今、夕餉の支度ができたからな。
 運び込むから、炬燵の上、片づけるように……」
 といって、三島が居間に入ってくる。
 本格的な食事の支度がはじまり、会話は一度中断されることになった。

「……いやぁ、いいんですかねぇ、ご一緒しちゃって……」
 しきりに恐縮してみせたのは、東雲である。
「今日は、うちのお嬢とかその他とかがお世話をかけっぱなしだというのに……」
 さりげに、野呂の長である竜斎を「その他」扱いするあたり、この男の神経も相応に太かった。
「いいから、いいから……」
 そう答えたのは、羽生である。
「この家、いつもこんな調子だし、人数多い方が食事もうまいし……」
「ま。食料もそこのおっさんの奢りで食べきれないほど買ってきたしな。
 遠慮すんなって……」
 台所の方から三島もそう声をかけてくる。
「一応、みやげももらったしな……」
「先生の味付け、うまいよ」
 ガクが二本目の紙パックをあけてから、いった。
「食べないで帰ったら、損だと思う……」
「……ガク、お前……。
 腹、何ともないか?」
 荒野はガクに尋ねた。
「向こうでケーキもがっついてたし……それにそれ、二本目だろ……。
 これから飯、入るのか?」
 荒野はたった今ガクが飲み干した牛乳の一リットル入り紙パックを指さす。
「全然、平気」
 ガクは平然とした顔で答えた。
「それより、いっぱい食べて早く大きくなるんだ」
「そりゃ、いいけど……」
 荒野は、なんとも微妙な顔をする。
「……根性で背が伸びると、いいな……」
「伸ばす。絶対、伸ばす」
 なんだか知らないけど、ガクはやけに張り切っていた。
「背だけではななくて、すぐにむっちむちのプリンプリンになって、おにーちゃんを誘惑してやるんだっ!」
 ……荒野は、フェロモン系に成長したガクを想像しようとしたが、うまくイメージできなかった。
「……ま、無理をしない程度にな……」
 そこで、そんな当たり障りのないコメントを返しておく。
 ノリが見事に成長して帰ってきたことに、ガクなりに衝撃を受けているらしい。

「……量は食べきれないくらいあるから、ゆっくりとバランスよく食え。
 肉だけではなく野菜もなっ!」
 スキヤキの鍋が煮えてくると、三島はそういってGOサインを出した。
「……いただきますっ!」
 と唱和して、特に食べ盛り育ち盛りの子供たちが、一斉に箸を伸ばす。
 三島は一度台所に引っ込こみ、
「こいつらのペースが落ちるまで、これでも食って間を保たしてくれぃ」
 といって、焼き蟹の皿を持って大人たちの前に置いた。
「あと、食ったらその分、鍋の中に具を補充しろよっ!」
 と、これは、食料の争奪戦を繰り広げる子供たちに向けていった。
 人数が多いということもあったが、放っておけばあっという間に鍋の中が空になる。
「この汁が……エキスいっぱいって感じで……」
「……ああ。椎茸なんかも、肉と野菜のうまみを吸ってて……」
 要するに、「うまいうまい」、といいながら、箸を休める者はいなかった。
 楓と孫子は、自分の分を取るついでに、競うようにして香也の器に肉を放り込んでいる。
 マイペースで淡々と休まずに箸を動かし続け、結果としてかなり大量に食べている荒野。
 猛然と箸を動かし、餓鬼にでも憑かれたようにがっつくガク。
 荒野がガクほど早いペースではないものの、テンとノリは談笑しながら、しっかり箸を動かし続けるし、茅や酒見姉妹も同様だった。
 彼らほど派手ではないが、飯島舞花、柏あんな、栗田精一ら、水泳部の三人組もいかにも体育会系らしい食欲を発揮しているし、その他の徳川や堺、玉木、有働らも、年齢相応に食べている。
 彼も今日は朝からずっと動きっぱなしであり、本人たちが自覚している以上に体が休息と栄養を欲していた。
 三島は台所と居間をくるくると忙しく往復して、空になった皿を下げては用意していた鍋の材料を補充する。

「……こうなると、新種も一族も一般人も、変わらないな……」
 そういったのは、小埜澪である。
 大人組は若い者のペースにはついていけず、手近な料理に時折箸をつけながら、東雲が持参した酒をチビチビと舐めている。
 一般人と一族の融和と共生が荒野の理想だというのなら……この食卓に限り、荒野の理想は実現されているように、小埜の眼には映った。
「……一般人と混じることができる奴らは、そうすりゃいいのさ……」
 竜斎は、誰にともなく放った小埜の呟きに返答した。
「だがな……一族は、すべてをオープンにできるほど綺麗な存在じゃあねぇし、そういう汚濁の中でしか生きれれねぇ連中ってのも、確実にいるんだ。
 それに、一般人の方だって、異質な者に対して寛容に振る舞える奴らばかりじゃねぇ……」
 野呂の術者の中には、一族の組織からあえて距離を置き、単独で自分の仕事を行いつつ生活する者も多かった。
 竜斎の立場では、そうした者たちから伝えられる様々な摩擦について耳にする機会も、それだけ多いのだろう……と、小埜は想像する。
 それとも……竜斎自身の経験から出た言葉、なのだろうか?
「わ、わたしは、これですから……」
 そういって流静は自分のサングラスを指で叩く。
「か、かえってわかるんですけど……個人の能力差、など……じ、実は、みんなが考えるほど、たいしたものではないのです……。
 た、たしかにわたしは、皆様ほど物は見えませんが……そ、そのかわり、物以外のものは、わたしの方が皆様より、よくみえています……。
 わ、わたし程度の障害など、け、健常者が考えるほど、たいそうなものでもないのです……」
「だけど……」
 東雲が、静流の言葉を引き取る。
「その……些細な差異をあげつらって仲間だけで固まり、排他的な組織を作ろうとするのも、人間というものの本質だぁ……。
 能力もそうだが……国家、宗教、民族、肌の色……一族だって、中にいくつもの派閥があって、決して一体ではない……。
 人間に、何かに所属することで安心する、という帰属意識がある限り、差別はなくならない……。
 そこを無理に変えようとすると……」
 いつか、手痛いしっぺ返しを食らうんじゃないのか……という続きの言葉を、東雲は口にはしなかった。




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彼女はくノ一! 第五話(292)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(292)

「……そんで、いよいよ本格的に作るってか?」
 用意した料理が出され、あらかた消費された頃、食器を片づけながら三島が尋ねた。
「うん。
 そろそろ、しっかりとした脚本が必要になるし……それで、茅さんに頼んだってわけ……」
 テンが頷く。
 午餐の時に、たった今ダウンロードしてDVDに焼いたばかりの映像を、居間のテレビで再生した。主として、「今日の分の映像」なわけだが……。

「……うわぁ……」
 と、柏あんなが、ぽかんと口を開けたまま絶句する。
 俗にいう、「開いた口がふさがらない」というやつだ。
「これ……。
 本当に、その……何にも、加工してない?」
 飯島舞花が、テレビの画面を指さして、誰にともなく尋ねる。
 その他の、堺雅史はノリの分身攻撃が映った所で飲み込みかけた食物を吹き出しそうになり、同じ箇所で、羽生譲は画面を指さし、「……わは。わはははっははは……」と爆笑した。
 その時、商店街にいた人間も、特にアーケードの上に戦場が移動してからは、断片的な映像しかみていない。
 こうして改めて、通して映像を確認してみると……その時の彼らが、いかに人間離れしたことをやすやすとやっていたのかが、よく実感できた。
 しかも、その人間離れしたことをやすやすと行った当事者たちと、今、一緒に同じ鍋をつついているわけで……。
「いやー……」
 比較的、そういうことに動じない飯島舞花が、ノリに向かっていった。
「すごいな、ノリちゃん……」
「……グッ、ジョブ!」
 実は少し呆気にとられかけていた玉木も、慌ててノリに親指を突き出す。
「ノリちゃんっ! いぇいぃ!」
 羽生も、玉木に少し遅れて唱和した。

 ……とまあ、こんな具合に、たとえ頭ではわかっていても、いざ具体的に、「あれだけの映像」を、それも、「自分たちにとって身近な人物が」行ったことに、やはりショックを隠せないでいた。
 楓たちとのつきあいが長く、そもそもの最初から、「そういう人たちだ」という認識を持っていた羽生や飯島舞花は、まだしも比較的あっさりと立ち直ることができた方だが……。
「でも……これは確かに……特撮にでも、したくなるわ……」
 しばらく映像をみてから、気持ちを落ち着かせた柏あんながいった。
 逆にいうと、「特殊な加工をされた映像だと思わなければ、まともに見ることができない」ということでもある。
「……ま。
 一般人の反応としては、まだしもまともな方だな……」
 竜斎は、それぞれの反応を面白そうに観察していた。
「今までにもそれなりにいろいろと見ているからね、彼らも……」
 荒野はそう答える。
「……分身、なんて、野呂の上位者でも数えるほどしかできないんだけど……飯島たちなんて、これが初めてというわけでもないし……」
「……静流ちゃん?」
 竜斎は、静流の方を意味ありげにみた。
「あ、朝早くの、ひ、人目がない場所でのことでしたし……きょ、今日のおじさまより、よっぽどマシなのです……」
 静流は、平然と竜斎の問いかけを受け流す。
「その、今日のコレ、なんだが……」
 荒野は、テレビの画面を指さして、玉木に再度確認する。
「……本当に、大丈夫……なんだろうな?」
「大丈夫も何も……」
 玉木は、真面目な顔をして頷いた。
「ほんの十分ちょいの出来事だよ。
 たいていは、なんか騒がしいなぁ……って思って、それで終わり。
 そこのミスターRのおじさん、絶えずあっちこっちに動いていたし……局所的な騒ぎを目撃した人は多くても、一連の騒動の全体像を把握できた人がいたとも思えないし……。
 これ、放映したこともあって、大部分の人は、シルバーガールズのプロモーションかなんかだと思っている……というか、それ以前にあんまり関心がないのと違う?」
 荒野の危惧はわかるが……以外に「不特定多数の他人」というものは、直接自分と利害関係がない事柄に関しては冷淡で、積極的な関心を持たないのではないか……と、答えながら玉木は思う。
 逆にいうと……今後、この町で、荒野たちの周辺で、一般人に何らかの被害が及ぶような事件が起これば……今日の件なども振り返って周辺住民に「予兆」として思い返されることになる。
 ミスターRこと、竜斎がいう、「周辺住民に免疫をつける」という意見にも、それなりに頷けるのだが……。
『……今後、何か間違いがあったら……』
 かえって、荒野たちに対する風当たりが強くなる……ということも、十分に考えられた。
 しかし、そんなことは……。
『……わたしでも、気付くぐらいだから……』
 荒野にしても、先刻折り込み済みのリスクなのだろう……と、玉木は予測する。
 その荒野は、玉木の返答を確認すると、
「そうか……」
 とあっさり頷いただけで、それ以上、その話題には触れなかった。

「それでよう、荒野。
 ものは相談なんだが……」
 竜斎は、ノリのさし示しながら、荒野に向かってとんでもないことをいいだす。
「その新種について、なんだがな。特にその、速いの。
 うちの預かりって事にできねーか。
 将来の長候補ってこって……」
 竜斎のその言葉が響くと、それまでざわめいていた居間の中が一気に凍り付いた。
「本人を、直接口説け。
 別におれは、こいつらの保護者でもないし、従属させているわけでもない」
 荒野は薄笑いを浮かべながら、冷静に答えた。
「もっとも……こいつらは、ここでの生活が気に入っているようだから、自分から離れるとは思わないが……」
 あるいは荒野は、竜斎がそんなことを言い出すことも、あらかじめ予想していたのかも知れない。
「別に、今すぐっにって、わけでもねぇよ……」
 竜斎も、うっすらと笑った。
「知っての通り……野呂は、使える奴ほど足抜けしてく傾向があってな。
 中枢部は、万年手不足なんだわ。
 ここいらで、将来有望な人材にコナかけておいてもいいだろうと思ってな……。
 そこのチビちゃんも、仁木田の一党と連んでるって話しだろ?」
「……確かに、仁木田さんたちと、条件つきで協力関係になっているけど……」
 竜斎に「そこのチビちゃん」呼ばわりされたテンは、箸を置いて軽く肩をすくめた。
「それは、仁木田さんたち少数派とボクたち新種の立ち位置が比較的近いから、利害的にも一致する点が多いってだけのことで……。
 ここでボクたち新種が野呂に荷担しても、あまり意味がないんだよね。逆に、特定の六主家に近寄りすぎると、他の六主家の反感を買いかねないし……」
 テンたち新種が仁木田たちと手を組んでも、総数では他の六主家を脅かす存在には、なり得ない……だから、安心して手を組める……。
 と、いうことだった。
「だから、あとはノリの意志次第だけど……。
 どうする? ノリ?」
「そんなの、行かないに決まってるよ」
 ノリは即答した。
「今日、帰ってきたばかりなのに、すぐにまたみんなと分かれたくないし……。
 それに、おじいちゃんの所には、おにーちゃんいないし……」
 そういってノリは、例によって左右に楓と孫子を従えた香也をじっと見つめた。
 香也は、左右から楓と孫子に火の通った肉を盛られ、てんこ盛りになった肉を前に途方にくれている。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(208)

第六章 「血と技」(208)

「……まったく、もう……。
 近頃の若いもんときたら、敬老の精神とかが枯渇しておるな……。
 世も末じゃ……」
 竜斎は、静流にいやというほど踏みにじられ、赤くなった足の甲をさすりながら、これ見よがしに愚痴をいった。
「……そういうんだったら、ちゃんと敬いたくなるような年寄りでいろって……。
 その……少なくとも、その若いもんにフクロにされるようなおいたをすんなよ……」
 ため息混じりにそう正論を吐いたのは、東雲目白だった。
「……お、おじさまのコレは、もはやビョーキの域なのです……」
 静流は、そう断定する。
「い、今まで何人もの身内が、きょ、矯正を試みて、ざ、挫折したか……」
「……全会一致で下のもんにフクロにされている長、ってのも、前代未聞だよなぁ……」
 小埜澪は、むしろ面白がっている風で、にやにや笑っている。
「なに?
 野呂の方は、いつもこんなもんなの?」
「お、おじさまが、特別なのです……」
「己の能力を己の欲望のために使うっ!
 これぞ、術者の本懐っ!」
 静流と竜斎は、ほぼ同時にそういった。
「……いや……。
 野呂の方々のそういう所は、今にはじまったことじゃないけど……」
 荒野は、ことさらにこにこと愛想笑いを浮かべて、竜斎ににじりよる。
 一族は総じて実力主義の気風が強いが、特に野呂は、「実力を持つもののわがままを大目にみる」という傾向が強い。また、そうでなければ、竜斎のような困った爺さんが長の地位につくことはできなかったろう。
 術者として優れていて、統率力にも問題さえなければ、必ずしも品行方正である必要はない……というのが、野呂の価値観だった。もともと、一族の倫理感と一般人社会のそれとは、必ずしも一致するわけではない。
 今回、その野呂の者も含めた一族の下位の者に竜斎が鉄拳制裁をくらったのは、今、この土地に集まっている一族の者は、総じて一般人社会との融和を求めているからであり、今回の竜斎の行動が、その目的と真っ向から対立するからだった。
 実力主義である、ということは、裏を返せば、自分たちの目指す所と対立する行いに対しては、たとえ自分たちの上位に属する長であっても、容赦なく実力行使に訴える……ということでもある。
 上の者を上とも思わない……という面でみれば、なるほど野呂は、実力主義であり、かつ、個人主義だ……と、荒野は思った。
「ほかの場所ならともかく……この土地でこれ以上、いたずらすると……。
 おれ、黙ってないから……」
 荒野はにこにこと愛想良く、竜斎に釘を刺した。
 荒野がにこにこと愛想良く笑いかけながら、じっと竜斎と目を合わせ続けると、ぷいっ、っと竜斎の方から視線を外す。
「いや、だからな。今日はわしも調子に乗りすぎたと……」
「で、結局、あれはなにが目的だったの?
 さっきはあえて、聞かなかったわけだけど……」
 荒野は少し声のトーンを落とす。
「趣味や気まぐれで」という、竜斎が主張する表向きの理由は、荒野は信じていない。
 仮にも六主家の長ともあろう者が、その程度のことで自ら動くとは思わないし……それに、こと女性ということでいえば、竜斎ほどの人物になれば、不自由する筈もないのだ。
 一族が実力主義を信奉している以上、自分の子供の能力を伸ばすために竜斎に近寄ってくる女性も、決して少なくはないだろうし……それに、荒野に聞こえてくる範囲内で判断するならば、竜斎は、決して、憎まれている長ではない。男女の別によらず、竜斎をさして「しょーがねーな…」と肩を竦めるものはあっても、本気で煙たがっている者はごく少数だった。
 どちらかというと……やりたい放題な割に、まともに憎まれてもいない竜斎は、その地位という要素を除いても、女性に不自由はしないのではないか……と、荒野は予測する。
 少なくとも……わざわざこんな田舎町に、スカートをめくるためだけに足を運ぶほど、暇であるとも異性に飢えているとも、思われない……。
 荒野がそうして正面をきって目的を尋ねると、竜斎は、「……ほっ」と息をついた後、
「……だから、よ……」
 と、淀みなく答えはじめた。
「ああいう騒ぎに慣らしておけば、いざという時にも、さほど混乱しないですむだろうがよ……」
 竜斎は、主語を省略してそう続ける。
「誰が」さほど混乱しないですむかといえば……。
『……地元の人たち、か……』
 荒野は、即座に竜斎の意図を了解した。
 竜斎は竜斎なりに……「共存」という荒野たちの狙いを理解し、その成功率を高めるために、手を打ってくれたのだ、と。
 あるいは、そうした表層の意味づけとは別に、まだ荒野の気付いていない部分での損得勘定が働いているのかも知れないが……とりあえず、竜斎は、荒野たちの妨害行為をする意図はない。
 本当にとりあえず、あくまで「現時点では」ということだが……。
『敵に回らないだけ、ありがたい……とでも、思うべきなのかな……』
 荒野は前向きにそう思うことにした。
「……しかし、まあ、予想外といえば、予想外だったなぁ……。
 荒野。
 おりゃ、てっきり、お前さんが出てくるまでは誰もおれを止められねぇと思っていたが……まさか、新種のお嬢ちゃんに止められるとはなぁ……」
 竜斎は、自分のことを指す一人称について、「わし」と「おれ」の二種類を適宜使い分けている。日常会話に不自由はしないものの、日本語を母国語だとは感じていない荒野は、そうした言葉遣いの変化には敏感だ。竜斎の一人称についても、その使い分けに際して、なにがしかの法則性はないものか、と、以前より思案していた所だったが……。
 竜斎のこの言葉を聞いて、荒野はある直感を持った。
『……術者として、個人としての意見が全面にでる時は、おれ。
 長として、公人としての立場を重視する時は、わし……』
 あくまで荒野の直感であり、どこまで厳密に適用される法則なのか、荒野には確認のしようがないが……少なくともその時の竜斎は、「一介の術者」として、素直に感嘆しているように見えた。
「みんな、成長期ですからね。
 これからもまだまだ、伸びますよ……」
 荒野は本心から、そう答えた。
 もともと、三人とも素養は有り余っている。
 加えて、周囲には、刺激的な人材が多く集まっていて、見習ったり吸収したりするための教材役、教師役にも事欠かない。
 あの三人がこれからどこまで伸びていくのか、荒野自身にも、まるで見当がつかなかった。
「まったく……とんだやつらを、作っちまったもんだよなぁ……」
 竜斎は、そうぼやいた。




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彼女はくノ一! 第五話(291)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(291)

「……そっか……」
 香也のたどたどしい説明を聞いた後、テンは神妙に頷いた。
「絵って……ノイズが多ければ多いほど、うまいってことになるのか……」
「……んー……」
 ノリの反応を受けて、香也は難しい表情になる。
「ノイズ……という言い方は、あれだけど……。
 描いた人が、どういう風に物事をみているのか……見せたいのか、っていう主観が入っていないと……手で描く意味がないっていうか……」
 お前のは、うまいが面白味がない……香也が常々、部活顧問の美術教師いわれていることを、多少言葉を変えて反復しているわけで……したり顔でテンにそんなことをいっている香也自身の胸中は、かなり複雑だった。
 香也は、「自分にそんな偉そうなことをいう資格があるのか?」という弱気と、「でも、ノリちゃんもこれだけ本気で取り組んでいるんだから、自分も真剣に向き合わなければ駄目だ」という使命感のようなものとの板挟みになっている。
 勢い、口調は例によって覇気のない、「自信がなさげ」なものになるわけだが、幸い、ごもごもと不明瞭に発音する香也の言葉を、ノリは謙虚に聞いていた。
 ちらりと脇に目をやると、新しく組み立てたPCに数人がとりついて賑やかなやりとりをしている。茅がいれた紅茶のカップとソーサーを、酒見姉妹がみなに配っている。
 台所の方からは、女性たちのやりとりが聞こえてくる……。
『……なんか……』
 こうして賑やかな状態を、いつの間にか自分が「当然」と思っていることに気づき、香也は愕然とする。
 ついこの間まで、この居間には家族しかいない状態だったのに……。
 香也がぼんやりとそんなことを考えていると、玄関の方で人が訪ねてきた気配がした。
 香也は腰をあげて、玄関へと向かう。

 その時、香也が出迎えた四人のうち、半数にあたる二人について、香也も面積がありその素性をうっすらと知らされていた。
 そこで香也はすかさず荒野を呼ぶ。
 四人と荒野は玄関先で軽く立ち話しをした後に、居間に迎え入れられた。
 それからいくらもしないうちに、
「おお。
 今夜もまた、随分とお客さんが多いようで……」
 羽生が帰ってくる。
「今夜もまた」というのは、こうして不意の来客を迎えることが、この家では珍しくなくなっているからだろう。
 羽生は居間と台所に顔をだして一言声をかけてから、一度自分の部屋にもどり、すぐに居間にとってかえした。
「……ダウンロードも、そろそろ……。
 これ、DVD焼いておいた方がいいかな……」
「なに、それ。新しく買ったの?
 それと、これだけの人数が集まっているってことは……今日もまた、なんかあったの?
 それと……え? あれ?
 ひょっとして……ノリちゃん?!
 あんれ、まぁ……しばらくみないうちに、随分と育っちゃって、まぁ……」
 これは、テンと羽生。
「いや、だからな。今日はわしも調子に乗りすぎたと……」
「で、結局、あれはなにが目的だったの?
 さっきはあえて、聞かなかったわけだけど……」
 これは、竜斎と荒野。
「ええ……。
 実際、あの中継の前後から、シルバーガールズ関連のページビューが激増しています、フィギュアなどの関連グッズも、予約が殺到しています。
 それまでは、ほとんどゼロに近い状態だったんですが……」
「……そうすると、世界観から設定から、まるっきり手つかずでこれから作る、ということなの?
 あの手のヒーローものにはいくつかの類型があって……」
 これは、有働と茅。
「……結局、現在の状況だと、スタン弾の消耗率が予想よりも多くなってきますわね。
 わたくし以外に銃器を使う者がいるのなら、なおさら……」
「……弾頭と薬きょうに関してはいくらでも量産ができるのだが、肝心の炸薬をもっと手配してもらわないことには、使いものにならないのだ……」
「そのへんの手配は、しておきます」
 これは、徳川と孫子。
「「茅様。
 こういう服って、どこで売っているんでしょうか?」」
 これは、酒見姉妹。
「……ねー。
 おにーちゃん、もっといろいろな絵を見たいんだけど……」
「……んー……。
 とりあえず、図書館にある画集、くらいかな……。
 美術館、ここからだとかなり遠いし……」
 これは、ノリと香也。
 大勢の人間がてんでバラバラにしゃべりはじめたので、かなり騒がしいことになってきた。
「……はい。
 そこまでっ!」
 台所から入ってきた三島が、大きな声で告げる。
「今、夕餉の支度ができたからな。
 運び込むから、炬燵の上、片づけるように。
 それと、この人数だと入りきらないから……」
 香也と数人が協力して、物置代わりの部屋からテーブルをだしてくる。その間にテンたちは、焼き終わったDVDだけを残して新しいパソコンを片づけた。どうやらあれは、三人娘の部屋に安置するつもりらしい……と香也は思った。
 卓上用のガスコンロと平鍋、皿に山盛りになった材料などが運び込まれる。鍋に火をかけて十分に暖めてから、三島は鍋底にラードを塗りはじめた。
「……まず、肉……」
 三島は、極上の霜降り肉を、鍋底に薄く敷き詰める。
 じゅわじゅわーっ、と小気味の良い音を立てて、肉の鍋に当たった下の方が、たちまち色を変えた。
「……ここに、割り下……」
 三島は、持参した醤油色の液体を回し入れた。
 何ともいえない香ばしい臭いが居間に充満する。
「……この上に、野菜と豆腐……。
 火が通りにくいのを下にして、どっさり、っと……」
 言葉通り、三島は鍋にこれでもかというぐらいに野菜を盛って、素早く蓋をしめる。
「これで、しばらく蒸し焼きにすると、野菜から水分が出てきて、それで煮えてくるって寸法だ……」
「……スキヤキって本当は、こう作るんだ……」
 飯島舞花が、ぽつりと呟く。
「鋤焼き、って字をあてるくらいだからな。もともとは、煮物ではなくて焼き物だ。
 でも、そんなに昔の方法にこだわることもないと思うぞ。
 昔の調理法に拘るのなら、文明開花の折り、肉料理は、臭みを消すためにっぱら味噌を使ったそうだし……」
「……あの頃の牛鍋って、味噌味だったのか……」
 そうぽつりと呟いたのは、羽生である。
 牛鍋は、明治初期、「開花を象徴する流行の食べ物」として多くの文献やその時代を舞台にしたフィクションに登場する。
 確かに……それまで、表向きには四つ足の獣肉食はしていない……ということになっていた当時の日本人向けには、濃い目の味つけが歓迎されるだろうことは、想像に難くはない。
 



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(207)

第六章 「血と技」(207)

 香也とノリが絵について話し、楓たちが台所で食事の支度をしている時、徳川と軽く語らったノリは、羽生の部屋にいってそこのマシンでLinuxの比較的簡素なカーネルをダウンロードして、データをDVDに焼いて居間に戻り、新しいマシンに展開した。
 それから一旦、電源を切り、LANケーブルを引っ張ってきてマシンに接続。電源を再び立ち上げ、ネット接続回りの設定を手早く行い、WEBに接続。徳川の指示に従って、工場内のサーバから必要なデータをダウンロードしはじめた。
「後は……データが重いから、全部来るまで時間がかかると思う……」
 そばで見ていた堺に、そう解説する。
「ひょっとして、撮りためた動画データ、全部?」
 堺が確認すると、テンは、
「そう。その方が、今後の作業もやりやすいし……」
 と、頷く。
 テンの指の動きは目で追うのには速すぎた。堺が確認できたのは、高速で切り替わる画面くらいだが、それでも、テンがどんな操作をしているのか、どうにか見当をつけることができた。
 堺は、茅や佐久間先輩、それに楓のキータッチに慣れていたので、テンの速度にもさほど戸惑わずにすんだ。
「……なーにぃー?
 もーはじめてるの?」
 一度は台所に引っ込んだ玉木が居間に戻ってくる。
「……玉木は手伝わんのか?」
 徳川が尋ねると、玉木は軽く首を振りながら炬燵に入った。
「三島センセに引導渡された。
 お前はもう、わたしの前で包丁持つなってーの……って……」
「似てない」
 徳川は、玉木の物まねを一蹴する。
「本格的なシステム構築とかにはまだ手をつけないけど、動画データだけでもこっちにコピーしておけば、なにかとやりやすいかなぁ、って……。
 茅さんも一通り、早めに見ておいたほうがいいだろうし……」
 本格的な漫才がはじまる前に、と、テンが玉木に説明した。
 徳川と玉木は、昔からの知り合いという気安さもあってか、二人きりで話し出すと、途端に冗長性が高くなり、会話の効率が極端に悪くなる……ということを、工場などで目撃してテンも学習していた。
「……こんばんわなの」
 その時、玄関の方で茅の声がする。
 勝手知ったる何とやら、というやつで、案内も乞わず、ティーセットを抱いた酒見姉妹を引き連れて、そのまま居間に入ってきた。
「……あっ、茅さん。
 今……」
 新しいマシンを指さして、テンが説明をしようとすると、
「後で」
 ぴたり、と、茅はテンの言葉を遮る。
「今から、お茶をいれるの。
 詳しいことは、その後でゆっくり聞くの」
 茅にとっては、おいしいお茶をいれることの優先順位は、かなり高いようだった。
「ええ。ごめん」
 茅と酒見姉妹が台所に入っていくらもしないうちに、玄関の方で時代がかった挨拶の声がする。
「……んー……。
 ちょっと、見てくる」
 まがりなりにもこの家の息子である香也が、ノリとの会話を中断して、腰を上げた。

「あ。
 今日の……」
 香也が玄関まで出向いてみると、そこには小埜澪、東雲目白、野呂静流の三人と、その三人から少し下がって、三角布で腕を吊って顔の上半分を包帯でぐるぐる巻きにした、太ったお爺さんがいた。何故、包帯で顔のほとんどが隠れたその太った怪我人が「お爺さん」だと見当がついたかというと、顔の下半分からはみ出していた髭が白かったからだ。小埜澪、東雲目白とは今日知り合ったばかりの間柄だが、香也が竜齋に合うのはこれが初めてだった。
「やー。どもども」
 四人を代表して、スーツ姿の東雲が持参した包みをかざしてにこやかに挨拶をする。
「今日はさ、朝から皆さんに色々とお世話になりっぱなしでさ、ここから離れる前にお礼でも、ってね……」
「……わ、わたしは……」
 静流が前に進み出て、包帯に包まれた竜齋の頭を強引に下げさせる。
「お、おじさまがご迷惑をおかけしたから、そのお詫びにと……」
「……んー……」
 香也は少し考えたが、すぐに居間にいる荒野に声をかける。
「……なんか、そっちの知り合いの人が、大勢来ているけど……」
「……あー。
 またか?」
 頭をかきながら、荒野が玄関先に出てくる。
 そして、来訪者たちの顔ぶれを見て、露骨にげんなりとした顔をした。
「って……。
 わざわざ来てくださるまでもないのに……」
 荒野は一応、敬語を使った。
「そういいたい気持ちはわかるけど……」
 小埜澪は苦笑いする。
「その……あがっても、いいかな?」
「どうする?」
 荒野は香也に尋ねる。
「……んー……。
 別に、いいと思うけど……」
 香也には、断らねばならない理由はなかった。
「この家の人の許可が下りました。
 どうぞ、奥に……」
 荒野はにこやかに嫌味をいった。

「……あー。
 ミスターRぅ!」
 居間に入ってきた竜齋を指さして、玉木が叫ぶ。
「……五十六点」
 包帯の合間から玉木を一瞥した竜齋がボツリと呟き、その竜齋の足を静流が念入りに踏みにじった。




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彼女はくノ一! 第五話(290)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(290)

「……あっ。あっ。あっ……」
 いきなり抱きつかれて、香也は頭の中が真っ白になった。
 この……娘さんは、一体、誰だろう……とか考えている間にも、香也に抱きついたまま、その場でぐるぐるーっと回転しはじめる。
 まるで、ダンスでも踊っているかのように。
『……あっ。あっ。あっ……』
 ぐるぐるーっと回転ながら、香也はみた。
 自分たちを見つめる、楓の、孫子の、テンの、ガクの……表情を。
 そして、身の危険を感じ、香也の頭から即座にざっと音をたてて、血の気が引いた。
 香也に抱きついてきた少女は、そんな香也の胸中は知る由もなく、ご機嫌な様子で「おにーちゃん、おにーちゃん」といいながら、香也の胸に顔を埋めている。
 ともすれば恐慌に襲われそうな心理状態だったので、香也は、平常心を保つためにもその少女を観察する。
 背は、香也の肩ぐらい。痩せ型。顔は、香也の胸に密着させているため、確認できない。体全体を香也に密着させているため……少女の肉付きを、否が応でも意識してしまう。
 抱きつかれた体から立ちのぼる体臭もあわせて、香也の男性機能は動物的な反応を起こそうとしていたが、香也は、意志の力を必死に動員してそれを未然に防いだ。
 香也は、「この少女」の心当たりを、必死に脳裏からまさぐる。
 もとより、香也と面識がある異性の知り合いは極めて限られている。しかも、香也を「おにーちゃん」と呼称する女性となると、さらに限定される。昼間、真理が家に立ち寄った時に見せた、「驚くわよぉ」といった時の意味ありげな笑顔。
「ノリちゃんっ!」
 ようやく、香也はその少女の名を呼んだ。
「うんっ!」
 ノリは、香也の胸から顔をあげ、元気よく答える。
「……おにーちゃん、ただいまっ!」 
 よくよく顔を見てみれば……確かに、香也の記憶にあるノリが、そのまま成長すればこうなるであろう……という顔つきをしている。
 出会い頭にいきなり抱きつかれた為、そんなことも確認する暇もなかった。
「……んー……」
 香也はさりげない手つきでノリの肩に手を置き、密着していた体を引き離した。
「……お、おかえり……」
 ここでデレデレと鼻の下でも延ばそうものなら、後でかなりヤバそうなことになりそうな気がしたので、せいぜい表情を引き締めて香也はノリにそういった。
 ……すでに手遅れ、という気も……ひしひしと、するのだが。
 その後、香也は、怖くて楓たちの表情を確認することができなかった。

 その時、台所からちょうど三島が来たこともあった、表面上はさほど混乱することもなく、玄関に集まった人々が散る。
 茅は双子を引き連れて一度マンションに戻り、テンと堺雅史は徳川が組み上げたばかりのパソコンへと向かう。その後もしばらくは香也の腕にしがみついていたノリは、「離れていた間に描いた絵を香也見せる」といって、ようやく一度、香也から身を離す。それ以外の女性陣は三島の後について台所に向かった。
 ともかくも一度、ノリが離れてくれたことで、香也は軽く安堵を覚えながら居間炬燵に潜り込んだのだが、そのノリはあっという間にスケッチブックを抱えて戻り、また元のように香也の隣に密着して、持参したスケッチブックを開いた。
 日中に何かあったのか、少し離れた所に座ったガクは、ちらちらと時折こちらの方を伺いながら、どこからうらぶれた表情で1リットル入りの紙パック牛乳に直に口をつけて、チビチビ飲んでいる。
 そことはない、安酒場の隅でクダ巻いている酔っぱらいのおじさんのような風情が漂っていた。
『ガクちゃん……何があったんだろう……』
 と香也は気になったが、声をかける前にノリにせっつかれて、スケッチブックを検分することになった。
 香也は、ノリがこの家を離れていた間に描いたスケッチを、一枚一枚みていった。ページを埋め尽くすように、一枚の紙に複数のモチーフがびっしりとかかれている。画材は、シャーペンらしい、太さが均質な鉛筆線であったり、ボールペンだったりした。おそらく、手近にあってその場その場で入手したもの、かたっぱしから使用したのだろう。
 わずか数日の間にこれだけの量を描いた……という集中力も凄いと思うが……その短時間に、急ピッチで描線が手慣れたものになっていく過程が、スケッチブックにありありと残っていた。それでも、最初の頃はまだしも線にたどたどしさが残っているのだが、それが次第に、手慣れた、迷いのない線に変わっていく。
 ……でも……。
 と、香也は、ノリのスケッチにふと違和感を覚え……それが何であるのか、自分でもなかなかわからないまま、ノリのスケッチをぱらぱらとめくる。
 荒野も、少し離れた所から香也の手元を覗き込み、「うまいじゃないか」とかいう。それに生返事を返しながら、しばらくノリのスケッチを眺めるうちに、香也は、そのどこに不足を覚えるのか、香也は不意に、悟り、「あっ」と小さな声をあげた。
 香也の声は小さなものだったが、すぐ隣にいたノリには聞こえた。 
「……なに?」
 ノリは、心配そうな顔をして、香也を見上げる。
「おにーちゃん、どこか、おかしい?」
「……おかしくは、ないんだけど……」
香也は、自分が感じたことをどう説明すべきか……慎重に、考えをめぐらせる。
「ぼく……今の学校の先生から、お前の絵はうまいだけで面白くない、っていわれてたんだけど……。
そうか。
こういうことなのか……」
 ノリは……もともと、ひどく器用なたちだったのだろう。絵を描きはじめてからすぐに、「ものの形を正確に紙に移す」ということに、短時間で習熟していった。
 しかし……それは、決して「ノリ自身の絵」ではない。
「うまいけど……面白くない?」
そういわれたノリは、その表情に困惑をありありと浮かべる。
「うん。
これ……ノリちゃんの絵……ぼくのと、同じ。
正確なんだけど……これだと、写真と、同じ。
ノリちゃんの絵では、ない……」
 こんな調子で、香也の考えていることが伝わるだろうか……と香也は、自分の口べたさを呪った。
 ノリと香也の違いは……香也自身は、過去の画家たちの技法や絵についての知識があるから、それを模倣することができたが……ノリは、模倣する対象が、ほとんど目の前の現実しかなかった……ということくらいだった。
 香也は、訥々とした、不器用な口振りで、ノリに自分の考えていることを詳しく伝えはじめる。




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