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2006-04

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彼女はくノ一! 第四話 (49)

第四話 夢と希望の、新学期(49)

 家の前で樋口明日樹と別れ、家の中に入ると、例によって玉木珠美が羽生譲の部屋に入り浸っていた。玉木と羽生はすっかり意気投合し、時折、「ししょー!」、「たまちゃん!」などと意味もなく呼び合っている。徹夜が続くと、羽生譲はむやみにテンションが上がるのであった。
 自室に戻って着替えてから、いつものようにプレハブに向かう。今日は部活でバタバタしていてほとんど絵が描けなかった。その分を取り返そうと意気込んでいたが、香也がプレハブに入って画材の準備を使用しているところに、相次いで楓と孫子が入ってきた。
「週末に、今日、美術室に来た人たちがこちらに来るんでしょう?」
「ええっとぉ……その、絵を、見せやすいように整理しておこうかなぁ、って……」
 二人に働かせておいて自分一人だけのうのうと絵を描くわけにもいかず、香也は、その日は絵を描くのを諦めた。

 夕食を挟んで三人が絵の整理をしていると、狩野兄弟がマンドゴドラの箱を抱えてプレハブに入ってきて、ケーキをお裾分けしてくれる、といった。夕食から小一時間ほどたっていたし、「甘いもの苦手でも、ミルフィーユくらいいけるだろ?」と荒野に誘われたので、香也もおとなしくみなについて居間に移動した。もっとも香也は洋菓子類の名称に詳しくないので、「ミルフィーユ」というのがいかなるケーキなのか、といった知識はなかったが。
 居間に羽生や玉木も呼び寄せ、みんなでマンドゴドラのイチゴのミルフィーユをいただく。デコレーションにクリーム類が使われているわけではなく、なにより甘味よりも素材である苺の味を生かしたつくり方だったので、香也にもおいしくいただくことができた。
 お茶とケーキと頂いている間中、荒野や玉木珠美、才賀孫子がなにやらごちゃごちゃ話し込んでいたが、具体的になにについて話しているのか、荒野がかなりぼやかしていたので、香也は理解の外にあった。
 なんとなく、荒野は、荒野自身や楓、孫子らの異常ともいえる身体能力の高さを秘匿したいようだ、というのは理解していたが、
『……その割には、ぼくたちには隠そうとしていないよなぁ……』
 と、香也は思った。
 楓が香也の上に落ちてきたあの日があの日だったから、狩野家の人々に関してはすっかり諦めているのかも知れない。
 荒野は孫子におとなしくさせるように、また、玉木には、あまり自分たちの事情を詮索しないように説得していた。孫子は荒野の説得にそれなりに納得していたようだったが、玉木は不承不承頷いた、といった態で、玉木に対する荒野の説得は理に拠るよりはどちらかといえば情に訴えるもので、ほとんど泣き落としに近かった。
『……なんか……必死だな……』
 自分らの目の前で玉木の情に訴え、泣き落としに近い懇願を行う荒野の様子をみて、香也はそう思った。
 荒野は玉木に向かって「おれたちは、平和に、穏やかに暮らしたいだけなんだ」と重ねて訴えていた。そのことからも、
『……加納君……今の生活、かなり大切にしているんだなぁ……』
 ということは理解できたが、香也の目からは、彼らならどこにいってもそれなりに周囲にとけ込めるのではないか、という気もした。だが、よくよく考えてみると、
『……自分たちの正体が露見するたびに、引っ越しして一からやり直し、というのも……』
 それはそれで、かなり大変なような気がした。
 結局……。
『……ここで居着けなければ、どこにいっても同じ……ということなのかなぁ……』
 香也が他人の身の上を案じたり、想像したりすること滅多にないのだが……そこまで考えを巡らせて、荒野や茅、それに楓や孫子など、「特殊な人々」の苦境が、ようやく理解できた。
 つまり、彼らは……。
『……自分が、普通の人々に混ざって、違和感なく暮らすことが出来るかどうか……』
 今、試している最中なのだ。
 彼ら、特殊な人々が、懸命になって普通の……彼らの言い方を借りるなら、「一般人」になろうとしている……。
 香也には、その理由は、わからない。
 いや、漠然と想像することはできたが……ごく普通の少年である香也が、訳知り顔に彼らの苦境を「理解できる」と断言するのは、あまりにも傲慢に思えた。

「平和に、穏やかに暮らしたいだけなんだ」
 という荒野の言葉は、たぶん、紛れもない本音だろう……。

 香也は、「……加納君の、思った通りになると……いいな……」と思った。
 本心から、そう思った。

 加納兄弟が帰った後も、玉木はもうしばらく残って作業をしていくという。
「……できれば、今週中に終わらせたいんだよねー……」
 とのことで、羽生のほうの作業も、特に〆切を区切られているわけではないが、時期的なことも考えて、そのあたりに終わらせるつもりでいるようだった。
 つまり、あと二、三日が追い込みということで、それでも玉木は学校がある関係で十時前には自宅に帰っていくが、羽生譲のほうはバイト先のファミレスも全休にして不眠不休に近い状態で頑張っていた。
 つまり、現在の羽生はテンションは高いが体力はへろへろ、という状態で、時折、不意に十分前後突然そこいらで寝たりするするが、それでも作業は進んでいるのが不思議だった。
 玉木は、自分のほうの作業をしながら、そうした状態の羽生譲をよくサポートしているようだった。もっとも、玉木の方も、かわりに動画編集の方法論や演出法などのノウハウを羽生から学んでいるようで、それなりに恩恵はあるようだ。
 性格的にもウマが会うらしく、作業をしながら時折不意に奇声を発して気合いを入れあったりしていた。

 その場に加納荒野が居合わせたら、間違いなく「厭な組み会わせだ……」と不安な気分に襲われたことだろうが、香也は荒野ではなかったから、二人のそんな様子を見ても、
「……んー……仲、いいなぁ……」
 と思うだけだった。

 楓や孫子が学校に慣れはじめたこの頃、彼女らや加納兄弟に引き寄せられるようにして新たな顔見知りが増え、香也の周囲もそれなりに騒がしくなってきてはいたが、それなりに平穏な状態にあるといえた。

[つづき]
目次

   [第四話・完]

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髪長姫は最後に笑う。第五章(40)

第五章 「友と敵」(40)

 荒野が黙り込んだのをみて、玉木は、ふっと表情を緩めた。
「君はいいヤツなんだな……仲間思いで、真面目で……。
 おい! ソンちゃん!」
「なに、それ? わたくしのこと?」
 孫子は上品に鼻の回りに小皺を寄せた。
「そんな呼び方は不本意ですわ。取り消さなかったら、今度からタマタマさんとお呼びして差し上げてよ」
「タマタマいうなぁ! 
 ……あいや、訂正。
 ソンシちゃん。こっちのカッコいいほうの荒野君が、君のことを心配しておるぞ。目立ちすぎて、このままでは孤立するんじゃないか、って……」
「加納!」
 玉木の言葉を受けて、孫子は荒野に向かって声を荒くした。
「それ、本当ですの? 本当だとすれば、それ、とんでもない屈辱でしてよ!」
「……い、いや……でも……」
「わたくし、才賀の中での次世代を担う有力株とみられていましてよ! そのわたくしが、たかだか大衆から孤立する程度のことを恐れると考えるのか……理解に苦しみます!
 第一、なんでこの才賀の後継者であるわたくしが、あなた方のようにこそこそしなければならないの?」
 孫子にすごまれ、荒野は、今までとは別の意味で頭を抱えたくなった。
『……そういやコイツ……表向きは才賀のご令嬢なんだよな……』
 その他の性格が濃すぎるんで、すっかり忘れてた……。
『そういう立場として育てられていれば……周囲から孤立している、というのは、むしろデフォルトなのか……』
 前に、何気ない会話の中で、孫子は前の学校でも一人だった……ということも聞いていた。
 あれだけの財力を持つ実家に生まれ、なおかつ、才賀衆としての教育も受けてきた孫子は……前の学校でも、良家の子女の中で浮いていたという話しで……。
「……まあまあ、そういきりたつなよ……」
 荒野は息をついて孫子に向き直った。
「おれがいいたいのはだな……才賀。お前、そうやって自分から他人との間に距離を作って、それで楽しいのか? ってことで……。
 楓! それに、玉木!
 この間の囲碁の中継、相当アクセスあったんだよな!」
「……あ。はい……」
 いきなり荒野に話しを振られた楓が、慌てて答える。
「すごい人気でした!」
「高画質版のDVDの予約も殺到しているよん!」
 玉木も、荒野の推測を裏付ける。
 ここ数日、玉木が狩野家、さらに詳しく言うならこの家の羽生の部屋に入り浸っているのは、そこのLAN環境を使って孫子と徳川の囲碁勝負の映像を編集するためだっが。ハイクオリティ版のDVDとして、実費にほんの少し色を付けた程度の値段で配布する予定である。あくまで部活で行ったものだから、必要経費をさっ引いた純利益は、今後の部活の資金にするつもりだった。
「校内からもそれ以外からも、びしばし予約入っておりまする」
「な。
 後、朝、通学中に一局うっていきなさいって誘われたことあったろ?
 つまり、才賀、お前さん本人がどう思うとも、お前は実質上ここいらでは人気者なんだ、もう……」
 ここで荒野はまともに孫子の目を覗き込んで、数秒間を置いた。
「……そのお前さんがだ、ちょいとした不注意のせいで、ここにいられなくなったら……そうしたお前さんを慕っている人たちや、それに、ここの家の人たちが……悲しむだろう?
 お前さん自身は、また、元居た場所に帰ればいいだけのことなんだろうから、気が楽なんだろうが……」
 荒野はそう諭すと、孫子は不承不承、ではあるが、「今後は言動に気をつける」と約束した。昨日、半ば脅迫して強制した「約束」とは違い、今回のは自分の利害を勘案した上での「約束」だったので、荒野は孫子の言葉に信頼を置いた。
「……あー……それから、楓。お前もだ。前々からいっていることだけど、ここにずっといたかったら、くれぐれも目立ちすぎる真似はするな……」
「……そいつはもう手遅れだと思うなぁ……」
 荒野に声をかけられた楓、ではなく、玉木は荒野に反論する。
「……昨年末の商店街イベントでしょ? ついこの前の囲碁勝負でしょ? それに、今羽生さんが編集中のマンドゴドラのCM……あれなんか、今までのように店頭で放映するだけではなくて、ネットで配信するって聞いているけど……。
 今や君たち、このご近所では、控えめにいってもかなりの有名人だと思うけど……」
「……いや、そういうことではなくて、だな……」
 荒野は、玉木にどのように説明すればいいのか、少しだけ迷った。
 相手が相手だけに……下手に隠しだてすると、かえって好奇心に火をつけかねないので……出来る限り、本当のことを話すことにした。
「……ああいう目立ち方は、まだしも……いや、実のところ、ああいうのも本当は好ましくないんだが、ここまで来たらもうなにを言っても無駄、という気もするし、諦めている部分もある……。
 それとは別にだな、おれたち、いろいろと特殊な部分があるんだよ。他人に知られたくないような部分が……」
「……うーみゅ……」
 肝心の部分を隠蔽したままの荒野の説明に、玉木は口唇を尖らせて「不服」の感情を表現した。
「その、カッコいいこうや君のいう『特殊な部分』ってのは、あれ?
 このわたしにも話せないようなことなのかね? 例えば、うまく隠してはいるけど実は、みんなには実は尻尾bが生えている、とか……円形脱毛症である、とか……」
「……違う、違う」
 荒野は苦笑いをしながら玉木の言葉を否定する。
「そういう、外見的な特徴ではないよ。もっと根本的な問題で……知ったら多分……玉木も、引く。
 と……思う。だから、詳しい内容は聞かない方がいい。というか、聞かないでくれ。
 ……おれたちのために……」
「……外見的な部分ではない……」
 玉木はさらに考え込んだ……ふりをした。
「……では、実は……さる王国の王族に連なる者だとか、宇宙人だったとか、ピンチになると変身したり巨大化したりするとか、どっかの危ない宗教の関係者とか、過激な政治活動をやっているとか……」
「そういうんでも、ない。
 まあ、外見的特徴説、よりは、的に近づいている……かなぁ?
 でも本当、これ以上のヒントは勘弁してくれ。
 おれたち、この町で平和に、普通に、暮らしたいだけで……その秘密ばれると、まず確実に、ここにこのままいられなくなる……。
 だから本当に、それ以上詮索しないでくれ……」
 荒野は深々と玉木に頭を下げた。
 荒野が本気でいっているのを理解した玉木は、指先でこめかみのあたりを掻きながら「わかったよぉ。もう。そこまでいわれて探り入れたら、こっちが悪役じゃんか」とぼそぼそ呟いて、荒野の懇願を受け入れた。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第四話 (48)

第四話 夢と希望の、新学期(48)

「……なんだ……今日は随分賑やかじゃねぇか……」
 無精ヒゲを生やし首に年代物の一眼レフをぶら下げた三十年配の教師が美術室に入ってきた。美術教師であり、放課後は滅多に美術室に顔を出さない美術部の幽霊顧問でもある、旺杜臨だった。旺杜の顔を知っている生徒たちが、軽く会釈する。
「……狩野、こいつらに似顔絵描かせてるの?
 ふーん……この間までまともに人物描かなかったお前がねぇ……。
 まあ、初心者に絵の面白さを教えるには、いいアプローチか……」
 旺杜は香也の手からみなが描いた絵を奪い、ぱらぱらとめくった後、すぐに香也の胸元の押しつけるようにして返す。
「で、こいつら……うちの幽霊部員、だったっけ?」
 旺杜が部長である樋口明日樹に向かって尋ねる。
「だいたいは……。来年度の入部希望者もいますけど……」
「……ふーん」
 旺杜は顎に手をあてて自分の無精ヒゲをごりごりと掻いた。
「おれ、この狩野の絵、正確すぎて好きじゃないんだけどね。ま、あれだ。絵、なんてさ、描くヤツのノイズ、っつうか、主観で描くから面白さがでるんであって……それがこの狩野は、自分の目線を入れようよしねぇんだよな……技術だけ、つうか……。
 そこいくと、ここに集まった絵なんざは、技術的には下手もいいところだけど、どれここれも味があって面白いねぇ……狩野の、取り澄ました絵なんかよりは、よっぽど、面白い……。
 あ。でもな。
 技術、ってのもなかなか馬鹿にしたもんんじゃないぞ。おれはもっぱらコレだけどな……」
 旺杜は、自分の首にかけた一眼レフを取り出して掲げて見せた。
「もう二十年近くやっているけど、未だに自分が思ったとおりの絵は撮れないからねぇ……。だから、かえって面白いんだが……」
 旺杜はいうことだけいうと、香也たちになんのアドバイスもせず、きびすを返してさっさと美術室から退出した。

「……なにしに来たんだ……あの先生……」
「……まぁ、名前だけの幽霊顧問だし……」
 残された生徒たちはしばらくそんな風にざわついていたが、すぐに今描き上げたばかりの似顔絵に話題が戻り、わいのわいのと意見交換を再開していた。

「……旺杜先生もいっていたけど、正確さ、だけを追求するなら、実は技術だけを向上させればいいわけで、でもそういう絵っていうのは、実は見ていてもあまり面白くないわけで……」
 徳川篤朗と部室で何局か対局し、「忙しいから今日はここまでなのだ」といって徳川が下校したのを期に、才賀孫子が様子を見に美術室にいくと、何故か香也を中心にして二十人ほどの生徒が車座になって香也の話しを聞き入っていた。
「……正確な絵、うまいだけの絵、というのを描きたかったら、まず、観察眼を養うこと。物事の形や色味などを正確に見とることができて、その後に、思い通りに手を動かせるようになって、初めて正確な絵が描けます。
 逆に言うと、じっくりと描く対象を観察し、それを正確に紙に描くための訓練を地道に行えば、誰にでも、あるていどまでのうまい絵は、描けます。ある一定レベルまでは、単純に、練習量の問題です。
 でも、それ以外に現代絵画では、手法やアプローチ法が無数にあって……」
 日常生活の場では口ごもることが多い香也も、自分の得意分野になると多弁になるようだ。孫子が美術室についたときにはすでに香也の独演会になっており、それは下校時刻ぎりぎりまで続いた。
 集まった生徒たちは当初の目的や興味の対象を半ば忘れかけており、すっかり香也の熱気に当てられている。途中から美術室に入って見学していた孫子の存在に気づいた生徒たちも少なくはなかったが、彼らが騒ぎ立てる、ということもなかった。

 最終下校時刻十五分前を告げるチャイムが鳴り響くと、その場限りの雰囲気もあるのだろうが、「明日の放課後も来ていいか?」とか「もっと香也の絵を見たい」とかいう生徒たちが続出する。
 結局、週末に、希望者を狩野家のプレハブに招待しなければ収まらないような感じになった。
 今日から参加しはじめた生徒たちを先に退出させた後、、香也と樋口明日樹、松島楓、才賀孫子の四人で簡単な片付けをして、最後に明日樹が預かっている鍵で美術部の戸締まりをする。職員室に立ち寄って美術室の鍵を返した後、香也と楓、孫子は同じ家に住んでいるし、明日樹も方向は一緒なので、四人で連れ立って帰宅した。
「……香也様、絵の事になると別人のように歯切れのいいしゃべり方しますよね……」
 帰り道で、楓がそんなことを言い出す。
「……んー……」
 香也は、照れているようだった。
「……話すこと、分かっていれば、口ごもる必要はないし……」
「……つまり、絵のことならかなり分かっている、と……」
 孫子は前を向きながら、わざとらしくため息をついた。
「これでもう少し、人間のほうにも興味を持っていただければ……」
「……なに? 狩野君、まだ人が怖い、とかいっているの? あれだけ大勢の前で堂々としゃべっていて……」
 明日樹は香也に尋ねた。
「あれ? 香也様、前にもそんなこといったんですか?」
 楓が、明日樹に聞き返す。
「んー……」
 明日樹はこの場でしゃべっていいものかどうか、しばらく躊躇していたが、横目で香也の様子を伺っていても、特に静止もされなかったので言葉を繋いだ。
「去年の夏前……狩野君が、まだ学校に来たり来なかったしてた時、何故学校に来ないのか聞いてみたら……その時、狩野君、こういったんだよね……」

『……学校は、好きでも嫌いでもないんだけてど……。
 あれだけの人が集まっていると、なんだか怖いような気もする……』

「……ちょっと反応が鈍いように感じる時はあっても、一対一とか二、三人相手にしている時は、狩野君、特に人見知りとかしていなかったし……。
 学校に行くようになっても、他の人、特に怖がったりする様子もなかったから、今まで忘れてたけど……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(39)

第五章 「友と敵」(39)

 玉木に邪魔されながらもなんとか部活を終え、荒野は帰路についた。
 なんかメンタルな部分が、根底から疲れて果てているような気分だった。
『……それにしても、才賀のヤツ……』
 帰り道で、荒野は今日の出来事を思い返す。
 特に、玉木のデジカメの液晶に映った、「有働を片手で高々と持ち上げる孫子の図」を。
『……あいつ、自分の能力隠そうとかいう発想、ないのかなぁ……』
 普通、孫子くらいの体格と年齢の女の子は……有働のような図体の大きなのを、軽々と片手で、自分の慎重よりも高く持ち上げたりはしないと思う……。
『……まあ、他人事といえば他人事、なんだろうけど……』
 荒野はぼんやりとそんなことを思う。
 今頃、学校内での孫子の評判に「怪力の持ち主」という項目が書き加えられている事だろう……。
『……このままでは、前にじじいがいった通りになっちまうな……』
 涼治は、楓と孫子について「いざとなれば、彼女らにはデコイになって貰う」といっていた。あの二人の性格を考慮にいれての見解、なのだろうけど……その涼治の予測通りに物事が動いているのが、荒野は面白くなかった。
 今のうちは面白がられているだけで済んでいるが……何かの拍子に、みなに「異物」として認識され、排除される……自分の経験からいっても、そうなる可能性は常にある……と、荒野はみている。
 楓にしろ孫子にしろ、そんな目にはあって欲しくはなかった……。
『……なんだってこんな、次から次へと問題が……』
 荒野の足は、自然に、商店街の外れにあるマンドゴドラへと向かっていた。
 こういうムシャクシャした気分の時は、甘いものを大量に摂取するのに限る、と、いうのが荒野の持論だ。

 昨日と同じくらい大量のケーキを抱えて帰ると、先に帰った茅が夕食の支度をしていた。今夜は茅の好物でもあるカレーで、隣りの真理さんからおすそわけをされたというイカや貝類がふんだんに入ったシーフード・カレーだった。
 つまり、玉木は、今夜もお隣りにお邪魔しているらしい。
『……真理さんは、なんか玉木のこと歓迎しているっぽいし……』
 かならず新鮮な海の幸を手土産に持ってくる玉木の存在は、主婦である真理さんにはそれなりに有り難い存在なのだろう。
 料理中の茅に、
「これ、おみやげ」
 とマンドゴドラの包みを示してみせると、茅は何ともいえないとろけたような表情を作った。茅も、荒野と同じく甘いものに目がなかった。

 夕食を終え、食後のデザートとしてマンドゴドラ特製イチゴのミルフィーユと紅茶を堪能してから、荒野は狩野家のプレハブに向かった。なにもなければ香也はプレハブに籠もっている筈で、昨日の今日で楓や孫子がまたなにか問題を起こしているようなら、それはそれで困るし、自分がいることが二人の抑止力になり、香也が落ち着いて絵を描けるのなら、それに越したことはなかった。
 そんなわけで荒野は、食べきれなかったケーキを包み直し、箱ごともってプレハブに向かった。
「様子、みてみたいの」
 といい出して、香也の絵にはあまり興味を示さない茅も、この日ばかりはとことこ荒野についてきた。

 プレハブには三人、香也、楓、孫子が勢揃いして、そして何故か仲良くプレハブ内の香也の絵を整理している所だった。
「……なにやっているんだ、君たち?」
「……んー……なんか、週末に、何人か、ここの見学希望者ができちゃって……」
「凄かったんですよ、今日の香也様」
「放課後、美術部に野次馬が殺到したのは知っていて? 香也、その人たちほとんどみんな、自分のシンパにしちゃったの……」
「……そんな大げさなもんじゃないよ……ただ、絵の面白さを知って貰っただけで……もともと、みんな、潜在的には興味を持っていた人たちだし……」
「……あー。なるほど……」
 なんとなく状況が飲み込めた荒野は、生返事をして楓に命じた。
「イチゴのミルフィーユ持ってきたからさ、真理さんにわたしてよ。一応、人数分、ある。玉木も来ているんだろ?」
「あ。はい。じゃあ、みんなで居間のほうに……」

 全員でぞろぞろと居間のほうに向かう。
 居間の炬燵には真理が一人で当たっていて、湯呑みを傾けながらテレビの温泉番組をみていた。
「あら。いらっしゃい」
 荒野たちの顔に気がつくと、真理はそう挨拶する。
「お邪魔します。これ、おみやげです。今日のお裾分けのお礼に……」
「いいのよ、気にしなくて……どうせもらいものだったんだから……」
「楓、奥にいって羽生さんと玉木、呼んでこい。玉木にはいっておきたいことがあるし……」
「なにがあったのか知らないけど、相手は女の子なんだから、あんまり乱暴なこといっちゃ駄目よ……」
 そんなに語気を荒くしたつもりはなかったのだが、真理は敏感に荒野の不機嫌さを感じ取ったようだった。
 楓が呼びにいくと、すっかり頬の肉が削げた羽生と、いつも通りの玉木がすぐにやってきた。
「ややや。ケーキっすか? しかもマンドゴドラの。こんちまた嬉しいね、っと……」
 羽生は、微妙にノリがおかしかった。
「……大丈夫ですか? 羽生さん……」
「大丈夫大丈夫! 二晩や三晩くらい、まだまだ徹夜できますですよぉ……」
 羽生はそういって、懐から出した茶色い円筒形の小瓶の蓋を開け、中身のねっとりとした液体を飲み干して、けけけ、と笑い声をあげた。
「マンドゴドラのマスターには、制作快調! といっといてつかぁーさい。
 明日か明後日あたりには完成の予定……」
 羽生はそんなことをいいながら、炬燵に手足をつっこみ、天板の上に頭を横たえてて目をつぶった。そのまま、すぐに「くかー」と軽い寝息を立て始める。
「……だ、大丈夫なのか? これ?」
 荒野が若干取り乱しながらいうと、
「……んー……羽生さん、気合いが入ってくると、いつもこんな調子……十分くらいで飛び起きるから、そのままでも……」
「おう! うちの師匠はこうなってからがすごいだぜぃ」
 と、荒野と玉木が二人して保証してくれた。
 決して安心したわけではないが、荒野はとりあえず気にしない事にして、真理がいれてくれた紅茶でみなとミルフィーユをぱくつきながら、こんこんと今日の昼休みのことを玉木に説教し始めた。
 玉木は、意外に殊勝に荒野の小言を頷きながら聞いていたが、荒野が一通りしゃべり終えると、
「……カッコいいほうの荒野君は、意外と常識人で心配性なんだなぁ……」
 といった。
「……君、人知れず、ストレス抱え込むタイプだろ?」
 荒野は、返答できなかった。

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彼女はくノ一! 第四話 (47)

第四話 夢と希望の、新学期(47)

 昼休みにああいった騒ぎがあっても、クラスのみんなは香也に比較的好意的に接した。始業式の日に狩野家に押し掛けていった生徒たちが主体となって、楓や孫子、香也ら三人の人柄についてという保証してくれたことと、クラス内での香也と数少ない友人である柏あんなが、
「みてのとおり、狩野君は人畜無害な人だよ」
 などと聞きようによってはかなり失礼な太鼓判を押したこともあって、仮にいわゆる三角関係であったにせよ、それはあまりドロドロした関係ではないのだろうなぁ……というあたりで、大方の見解が一致した。
 柏あんなの尻馬に乗ったわけではないが、香也に、二股とか三股とかかける度胸とか甲斐性はない……と、普段の香也を知る生徒たちは口を揃えて証言した。
『……大方、一方的に言い寄られて、でもどっちとつき合うとも決めかねて、こじれたことになっているんじゃないの?』
 というあたりが香也の同級生たちの平均的な味方であり、それは好意的、というよりはより一層生暖かい視線だったのかもしれないが、少なくとも香也たちを敵視したり反感をもったり、といった性質のものではなかった。
 柊誠二という「ナンパが趣味」と豪語する生徒だけが、「なんであんなのばかりがもてる!……」とかなんとか、一人で喚いていたが、これなどは極めて少数派の意見であり、あっさりと他のクラスメイトには無視されて終わった。
 女生徒たちは大方楓の味方で、というよりも無責任にけしかけているような空気があって、楓は照れながらもなんかそんな気分になっているようだし、それはそれで放置すれば将来香也にとってもいろいろと面倒なことが起きそうな気はするのだが、だからといって積極的にこの状況を打開しようとするほど、香也は勤勉でも器用でもないのであった。

 香也は当番の教室掃除を終え、いつものように美術室に向かう。
 いつもはせいぜい樋口明日樹くらいしかいない美術室は大勢の生徒たちが詰めかけていて、香也が室内に入ると口々に「おめでとう」「おめでとおう」といいながら、何故か拍手で出迎えてくれた。
 香也は、何年か前、同人誌の資料として羽生譲に見せられたあるテレビアニメシリーズの最終回を思い出した。それまでの伏線を回収することを放りだし、それまで登場してきたキャラクターが総出でなんの前触れも伏線もなく主人公を祝福して終わる、という前衛的なラストで、もちろん香也は、なんでそんな終わり方をするのかわけがわからなかった。
 今の香也の状況も、香也にとってはそのテレビアニメの最終回と同じくらい不条理な状況で、香也はその場に立ちすくんで「……んー……」と唸っているばかりだった。

「……狩野君、ちょっと……」
 奥のほうでこめかみのあたりを指で揉んでいた樋口明日樹が手招きしたので、香也は、これを幸いと人混みをかき分けて明日樹と一緒に美術準備室に入っていく。先に美術室に着ていた松島楓も、人混みをかき分けて香也の通り道を作るのを手伝ってくれた。
「……なんなの、この人たち……」
 美術準備室の扉を閉め、二人きりになると、香也は明日樹に尋ねた。
「……一応、ほとんど美術部員なんだけど……今まで部活に出てこなかっただけで……」
 ……幽霊部員が多いとはいっていたけど、こんなにいたのか……と、香也は思った。
「……少し、物見高い見学者もいるようだけど、それも一応来年の入部希望者だから、粗略には扱えないわけよ……」
 明日樹はため息をついた。
「入部届けは、毎年四月に出し直す。大抵は前の部活を継続するけど、たまに別のクラブに移籍する子もいる。そのことは、知っているわね?
 つまりは、そういうこと……」
 彼ら、幽霊部員と来年の入部希望者たちに、香也の事を聞かれたので、明日樹は美術室に放置されていた、今まで香也が描いていた絵を見せながら、香也のことを「来年度の部長」として紹介したところ、大いに受けた、という……。
「……んー……」
 香也は唸った。
 来年度の部長、は、仕方がないことだと思っていたが……これだけの人数が集まると知っていれば、雑用はできればそっちに任せて自分は絵に専念したかった……。
「……まあ、こんなんでも良い機会、ではあるし……あ、後……才賀さんと松島さんの噂、なんだけど……」
 明日樹がそういった時、じわり、と、香也のこめかみに汗が浮かんだ。
「……んー……あれは、無責任な噂……というか、玉木さんがわざと煽っていたずらに事を大きくしているような所があって……」
「……あの子、そういうところあるから……でも、本当に、その……何にもなかったの……」
 香也はしばらく思案した。
 風呂場で二人がかりで責められたことを、「何にもなかった」ことに分類することはアリなのだろうか? と。確かに、かろうじて一線は超えなかったわけだが……。
「……んー……二人とも、サービス過剰な所はあるけど……」
 結局、そう言葉を濁した。
「……そう……」
 頷いた明日樹も、どこか心ここにあらず、といった態で、香也の返答をまともに聞いている風でもなかった。
「狩野君……あの人たちが来てからなにかとバタバタしているけど……自分のペースは崩しちゃ、駄目……」
 明日樹は、自分に言い聞かせるような口調でそういった。
「……狩野君は狩野君で、わたしはわたしなんだから……」

 集まった人たちに、香也は基本的な画材の使用法などを実演しながら、簡単に説明し、
「……んー……後は、自分でやってみて……」
 手持ちのスケッチブックを一冊ばらし、紙を一枚づつ生徒たちに配って、二人一組にして向かい合わせ、お互いの顔を描かせてみた。
 集まった生徒たちは二十二人で、ちょうど偶数だった。
「……うまく描こうとか、完成させようしなくていいから……相手の顔の印象に残った部分を中心に、描いてみて……制限時間、十五分……」
 香也がそういうと、「えー!」という悲鳴に近い声があがったが、香也は構わなかった。
「……一応、これ、体験入部だから。
 やる気がなかったら、出ていって……」
 そういわれてしまえば、実際にやるよりほかない。
 最初のこうこそぶつくさ言っていたが、次第に美術室内は次第に静まり返って、紙の上を鉛筆が擦る小さな音だけがやけに大きく響くようになった。

「はい。終わり!」
 自分の携帯のタイマーが鳴り響くと、香也は皆の手を止めさせ、まず、描いていた似顔絵を交換して、絵がモデルの手元にくるようにした。
「それで、自分の絵が手元にありますね。それについての感想を、自分の似顔絵を描いてくれた人にいってあげてください……」
 似顔絵が交換された途端、美術室内は騒然となった。
 最初のうちは似てる似てない、「わたしの顔、こんなんじゃない!」とかいう声が多かったが、しばらくして落ち着いた時を見計らって、香也はみんなが描いた絵を回収、一枚一枚取り出して見せながら、その場にいた全員に意見をいわせるようにした。
 何枚かの絵が香也によって提示され、それについて意見が出そろうと、次第に意見をいう人たちの間に、「絵とはなになのか?」という疑問が生まれるようになる。
「正確にモデルの容姿を写そうとした絵」は、巧いけど、面白くはない。
「特徴だけを取り出したような絵」は、正確ではないかもしれないけど、モデルに似ていると思う。
「モデルとは似てもにつかないけど、どことなく味のある絵」もある……。

 いろいろな意見をだしてディスカッションを行ううちに、集まった生徒たちの間に「絵を描く」という事に対する興味が沸いてきたようだった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(38)

第五章 「友と敵」(38)

 翌日の昼休み、ちょっとした騒ぎが起こった。
 最初の兆候は、孫子が自分の携帯を取り出して、勢いよく廊下に飛び出していったことだ。
 荒野や樋口明日樹、その他居合わせた生徒たちが目を丸くして見守る中、孫子は制服のスカートを飜して足音も高く廊下を駆けて去っていった。
「……おい……廊下を走るのは……」
「……スカート、めくれてる……」
 たまたま近くにいた荒野と明日樹は、呆然と呟いた後、顔を見合わせた。

 五分ほどたってから、
「大漁たいりょー」
 大声で歌うようにいいながらスキップで教室に入ってきた玉木は、その「大漁」の中身、デジカメの液晶画面を荒野たちに見せびらかしてくれた。

 仁王立ちになって有働勇作を片手で持ち上げた孫子が、カメラのほうを睨んでいた。

「……いやあ、あの三人、露骨にあやしいからカマかけてみたら、案の定っていうか案の定以上っていうか、もう成功成功大成功ってなもんで、こんなに予想通りでいいのかなうははってなぐらいで……」
 自慢気に「狩野君ちであの三人挙動不審で面白そうだったからついついいじりたくなったんだよねー」とか説明しはじめる玉木をみながら、荒野は、
『……そういや、昨日一昨日の夜……玉木、あの家にいたんだよな……』
 とか思っている。
 荒野は、そのことをすっかり忘れていた。
 あの家にいながら、昨日一昨日あたりの三人の様子を目の当たりにしたら……そりゃあ、玉木でなくとも、好奇心を刺激されるだろう……。
 玉木であった……というのは、あの三人にとっても最悪に近い巡り合わせであったろうが……。
 横目で見ると、樋口明日樹は俯いて体中を震わせていたが、上機嫌の玉木珠美は明日樹の様子に気づいた様子はない。
『……あちゃー……』
 荒野はその場で頭を抱えたくなった。
『……こっちにも、火種が……』
 玉木は一通り説明というか、自慢をし終えると、「さ。壁新聞の準備だぁー……」とかいいながら、やはりスキップで去っていた。
 玉木が去った後、荒野は物見高いクラスメイトたちに囲まれ、「お前、あいつらの隣りのマンションだったろ?」とか、「なんか気づかなかったか?」とか、質問攻めにあった。
 その包囲網は、昼休みが終わり、五時限目の授業のため教師が教室に入ってくるまで続いた。

 放課後、荒野は他の生徒が滅多に来ない階段の踊り場まで移動し、楓にメールで「そちらクラスの様子」を尋ねてみた。屋上へ続く出入り口は閉鎖されており、踊り場の最上部にはほとんど誰も来ない。メールを送信すると、折り返し楓から電話が来て、詳しい様子を語ってくれた。
『……こっちのクラスの人たちは、わたしたちが一緒に住んでいること、知っていますから……案外、騒いではないです……』
 楓はいった。
『……騒ぐよりも……男子なんか、香也様のこと、「やるなぁ」とかいって、なんか見直しているようで……』
 荒野は、頭が痛くなったような気がした。
「……で、残りの半数。女子の反応は……」
『……ええとぉ……』
 楓は、なぜかそこで言いよどんだ。
『……そのぉ……「がんばれ」って、応援されちゃいました……』
「そうかそうか……。
 よかったな、味方がいっぱいいて……」
 荒野は、段々と白けてきた。
 ……なんでおれが、こんなことを心配しなければいけないのだ……。
「で、香也君は? やっぱり、部活にいったのか?」
『今は掃除当番です。でも、終わったら美術室に行くと思います』
「……念の為、お前もついていけ。今回のことは、お前にも責任あるから……」
 荒野はそう念を押して、通話を切った。
 楓や孫子とは違って、当事者でない荒野には、責任がない。
 心配はするが、それ以上の干渉をするつもりはなかった。
『……でも、才賀のヤツも……放っておいてもそっちに行きそうだなぁ……』
 香也はあまり有名な生徒ではない……いや、なかった……が、香也を知る人々は、「あの美術部の」という風に認識している。物見高い生徒たちは顔くらい覗きに行きそうなものだし、普段は幽霊部員を決め込んでいる美術部員たちも、様子見にいくかもしれない。
 今日……いや、数日は、放課後の美術室は混み合うのではないだろうか?
『……まあ……他人事だけどな……』
 そう思って荒野は、自分のほうの部活へ赴く。今日は、部活がある日だった。

「やぁやぁやぁ!
 カッコいいほうのこーや君! おひさっ! 昼休み以来だねー!」
 調理実習室で同じ部員である女生徒たちに囲まれながらエプロン姿で包丁を使っていると、騒々しく玉木珠美が入ってきた。
「調理中。騒ぐな。唾飛ばすな。不衛生だ」
 荒野は不機嫌に答えた。
「玉木さん、なんですか? 『カッコいいほうのこーや君』って……」
「いやいやいや。この学校にはもう一人カッコよくないほうのこーや君がいてねぇ……」
「あー。あれ! 一年と二年で二股かけているって!」
「うそっ! 一年の加納君って、あれ……目の細いぽやぽやーっとした人じゃないの?」
「あ。わたし、その子同じ美術部の先輩と付き合っているとか聞いたことある……」
「それじゃあ、二股じゃなくて三股じゃなあいっ! そんな人、この学校にいるの?」
 途端に、玉木の言葉に反応して騒ぎはじめる女生徒たち。
『ったく……女ってのは……』
 荒野自身はあまり偏見がないほうだと自認しているが、この時は少女たちの声の高さが気に障った。
「その、カッコいいのとかそうでないのとか、羽生さん譲りの呼び方でしょう?」
 荒野がそれとなく話題を反らそうとすると、他の女生徒たちに「いや、つい今し方もその件を報道した壁新聞、先生に引っぺがされたところで……」とか説明していた玉木が振り返って、答えた。
「そそそ。師匠の直伝でやんす」
『……羽生さん……玉木の師匠なのか……』
 荒野は内心で冷や汗をかいた。
 身の回りに、不穏な組み合わせがどんどん増えていくような気がする……。

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彼女はくノ一! 第四話 (46)

第四話 夢と希望の、新学期(46)

 翌日の朝食もかなり気まずい雰囲気だった。寝不足で元気のない羽生譲を除き、香也と真理はだいたいいつもの通りで、それどころか香也にいたってはいつも以上に熟睡できて顔色が普段よりよほどいいくらいだったが、なにしろ、楓と孫子の間に隠しようも誤解しようもない険悪な空気が立ちこめていて、食事の時に二人が座る場所は隣り合っていたから、食事の場全体がずーんと重苦しい雰囲気に包まれているような感じなった。
 自分のほうに過失があるわけではないのだが、香也までなんだかその場にいるみんなに済まないような気分になり、羽生譲も、いつもの軽口を口に出すのもはばかれる空気にかなり辟易しながらも、二人に気圧されて黙々と食事を摂るだけしかできなかった。真理だけが、いつものようににこやかに「今日の安売り情報」とか「ご近所の誰それさんのお舅さんがぎっくり腰で入院して」だの、いわゆる世間話をして場を賑やかしている。他のみんなは真理の話しに儀礼的に相づちはうつのだが、明らかに上の空といった態度で、それぞれの思考に沈んでいる。

 その日、香也は睨み合う二人に挟まれるようにして登校した。
 隣りの加納荒野は、三人の様子をみると、小さく息をつき、小声で、
「……大変だなあ、君も……」
 といって、香也の肩を軽く叩いた。
 荒野と同じく、飯島舞花も、合流するなり明らかにいつもとは違う雰囲気の三人の様子を感じ取り、
「……な、なに? なにがあったの?」
 と、この少女には珍しく取り乱した様子でその場にいた生徒たちに尋ねる。
「もはや、三人の問題なの」
 と加納茅が舞花の疑問に答えると、途端に納得した顔になって、
「ああ……そっかぁ……前々からそういう感じではあったけど……ついにそうなったかぁ……」
 とかいって、「がんばれよー」と香也の背中を叩いた。
「……飯島、なにを頑張るって?」
 ちょうどその時、舞花の後ろから弟の大樹を引き連れてやってきた樋口明日樹が、舞花に声をかけたので、背後から明日樹が近づいてくるのに気づかなかった舞花は「うひゃあ!」と声を上げて三十センチほど飛び上がった。
「ななな、なんでもない! え! そうだよ。絵、だよ!
 絵を描くのを、頑張れって……あは。あははははっは」
 舞花が大げさなくらいに動揺してくれたおかげで、明日樹の注意はそちらに向き、結果として学校に到着するまで、楓と孫子の様子に気づくことはなかった。しかし、必死で明日樹の注意をそらそうとした舞花の努力も、すぐに水泡と化すことになる。

「……ということで、本日は、二年の美貌転校生と一年のめちゃマブ転校生の二人と同居する話題の一年生にインタビューです。
 さて、狩野香也君、二年の才賀孫子さんとこのクラスの松島楓さんと同棲して夜な夜なひいひい言わせておるというのは本当かね?」
 昼休み、給食を食べ終えた香也がのほほーんと自分の席で休んでいると突如横合いからそう声をかけられ、目の前にマイクを突き出された。
「……んー……ん? ん?」
 香也は細い目をパチクリさせ、目前のマイクとマイクを手にした眼鏡の女生徒を交互に見やり、ようやく、事態を把握する。
『……この人、たしか……ここのところうちに来ている……放送部の……』
 玉木珠美、だった。
 後ろには、例によってビデオカメラを構えている有働勇作も控えている。
「ここ数日お世話になってまぁす。今日も学校終わったら行くからよろしくぅ。というか昨日、一昨日のあの様子、あの家にいりゃあ、イヤでも分かるって。ということで、おらおら! ネタはあがってんだよォ!」
「……ん? ん? ん!!」
 香也は、脂汗を流しながら凍りついていた。香也は、性分としてさほど機転が利くほうではない。
「いきなりやってきてナニするですか!」
 松島楓が、玉木と香也の間に体を割り込ませて、玉木に向かって抗議する。
「おお! もう一人の当事者ハケーン!」
 明らかに憤怒の形相を見せる楓に構わず、いや、むしろ、玉木は楓の登場を喜んでいさえいる。
「みなさん、こちらが今話題の転校生、松島楓さんです。彼女これで脱ぐと凄いんです。で、松島さん、いい機会ですからこの場で狩野香也君への熱いメッセージなど……」
「……え? え? あの……熱いっていうか……」
 いきなり玉木の矛先が自分に向かってきたことで出鼻を挫かれ、なおかつ、「香也への」熱いメッセージを、などと言われたものだから、当初の目的を失念し、途端にあたふたし始める楓。
「……そそそそれはだからあのですねぇ……。
 って! そういう話しじゃないでしょ!」
 顔を赤らめながらもじもじしばじめ、それからはっとなにか思い出した顔をして玉木に再度食ってかかる。

 その時、どたどたどたどた、と廊下のほうで足音が聞こえ、音高く引き戸をガラッっと開けて、才賀孫子が香也たちの教室に入ってきた。どうやら、二年の自分の教室から、全力疾走でここまで走ってきたらしい……。
 それはいいとしても、何故? ……と思って香也がきょろきょろとあたりを見渡すと、携帯を手にした加納茅と目があった。
 香也と目が合うと、茅は香也に指でVサインを作ってくれた。
 ……どうやら、茅が孫子に、香也の異変を知らせてくれたらしい……。

 教室内に入ってきた才賀孫子は、ツカツカと香也の座る席に、ということは、玉木と有働のほうに近づいてきて、有働の襟首を掴む。
「……この教室で……」
 孫子は、そのまま片手で有働の体を持ち上げはじめた。
「……あなたがた放送部は……」
 一見華奢に見える孫子が、片手で楽々と百八十以上ある有働の体を持ち上げたことで、周囲からどよめきがあがる。
「……一体なにをしていらっしゃるのかしらぁ?」
 有働の体を持ち上げたまま、ギロリ、と、玉木珠美を睨みつける。
 玉木珠美は、孫子の視線にも動揺することなく、ポケットから薄型のコンパクトデジカメを取り出し、有働を片手で持ち上げながら仁王立ちになって玉木を睨みつけている孫子を連写し始める。
 孫子は玉木のほうをまともに睨みつけていたので、結果として、カメラ目線になっていた。
「いえいえ。もう用件のほうは済みましたので、これでおいとまさせていただきますぅ。おかげさまでいい画がとれましたぁ。うはは。おまけでこれで、三角関係確実ぅ!
 うひ。うひひひひ……」
 玉木は気持ち悪い笑い声を上げながら、孫子に持ち上げられたまま背を丸めて縮こまっている有働を顧みもせず、スキップをしながら去っていた。

 玉木はその日の放課後、東スポもかくやという下品な煽り文句を連ねた壁新聞を放送部の部室前掲示板に貼りだした。それはすぐに職員に知られることになり、三十分もせずに撤去を申しつけられたが、噂のほうは玉木の新聞が張り出される前に全校に浸透していた。

 才賀孫子、松島楓、狩野香也の三人の関係は、放課後になる前に、全校的に知れ渡ってしまった。
「昼休みの教室」という衆人環視の環境下でああいうイベントが起こってしまったら、あっという間に噂が伝播するのは当然ともいえる。
 孫子と楓は以前からそれなりに注目を集める存在だったが……それまで、学校では地味で影が薄かった香也も、この出来事以来、全校的に顔が知られる生徒になってしまった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(37)

第五章 「友と敵」(37)

 楓と孫子の二人が、荒野が半ば押しつけた「約束」を受諾すると、後は特に話すことはなかった。荒野は茅に紅茶をいれ直してくれるように頼み(ほとんど誰も口をつけていなかった)、その後は特に雑談も盛り上がらず、早々に解散、ということになった。
 三人が出ていくと、荒野は一気に張りつめていたものがゆるみ、ソファに移ってそこで横になった。
『……結局は、力尽くで恫喝、かよぉ……』
 荒野は荒野で、理屈で楓や孫子が押さえられない、と知ったことに、落胆している。
 茅はソファでぐったりしている荒野の頭を持ち上げて、自分の膝をその下に置き、荒野の頭を撫でた。
「荒野、よくやったの……」
「……そうかぁ……もっとやりよう、なかったのかぁ……」
 荒野の声は、あくまで元気がない。
 荒野は、結局は「力」に頼らなければならなかった……という事実に、打ちのめされている。
「……感情論の世界で普通の交渉は難しいの。単純の利得の問題ではないから……」
「……んー……それでもさぁ……」
 結局、荒野が今夜二人にさせた「約束」は、結論を先延ばしにして、根本的な問題を棚上げにすることで、当座の安寧を保証させる……という、極めて皮相的な妥協の産物だった。
 そのことを、当の荒野も、それに茅も、気づいている。
「結局は、あの三人が結論を出さなければ、駄目なの……」
 茅は、やさしく荒野の髪を撫でる。
「荒野が、あの人たちのこと、決めちゃ駄目なの……」
「……んー……それでも、もっとスマートなやり方なかったかなぁ、って……」
「……別の、やり方……」
 茅はほんの数秒、考え込んだ。
「……源吉に頼んで、洗脳してもらう……。
 そうすれば、今後一切、問題は起こらない……」
「……それ、もっと悪いから……」
 荒野は答えながらも、
『香也君のあれ……いよいよ治療が必要となったら、源吉さんに頼む、という手もあったなぁ……』
 とか思っている。
 佐久間の技を持ってすれば、香也が人嫌いになった原因の記憶まで、遡って封印することができるはずだ。
 が……。
 そこまでやる、ということは香也の現在の人格まで含めて人為的に矯正する、ということでもあり、香也自身が矯正の必要を感じてはいない現在、そんなことを強要する資格もつもりも、荒野にはなかった。
「……なら、荒野がやったのが、とりあえず、最上なの。
 あとは、三人の問題なの」
「……うーん……そんなもんかなぁ……」
 茅にそう言われても、荒野はなかなか納得できなかった。もっとうまいやり方があるのではないか、と、思ってしまう。
 荒野は、最終的には自分の持つ「力」をちらつかせることでしか、楓や孫子を納得させることができなかった……ということに、依然、忸怩たる物を感じている。
「……昔、さ……ガキの頃……」
 茅に膝枕されながら、荒野は、同じ年頃の一族の子供たちと一緒に集められ、基本的な技を仕込まれた時のことを語りはじめる。
「……おれたち一族っていうのは、小さな頃から鍛えはじめなければ一流にはなれなくて、だから、ある程度血筋のしっかりした子供たちは、立てるようになると百人前後、人里離れた場所に集められて、何年か一緒に生活しながら、基本的なことを仕込まれる。
 だいたい、成長期によく運動させると、おれたちって筋力も反射速度も、すぐに一般人の大人を追い越して、その後どこまでいくのか、っていうのはかなり個人差があるわけだけど……。
 その時にね、一人の子供に一匹ずつ、兔とか鶏とか、子供でも世話できる動物を飼わせるんだ。飼う動物によって違うけど、だいたい半年から一年くらい、一人で世話させる。病気とかで飼っていた動物が死んだら、すぐに代わりが用意される。
 何分、みんな子供だから、一生懸命世話をするわけだ。子供の世話役の大人たちも、子供たちに必要な知識とか餌とかを十分に与える。
 で、しばらくすると、動物はすぐに大きくなる。
 十分に大きくなったら……」
 荒野は、目を閉じてため息をついた。
「飼い主である子供に、その動物を殺させて、食べさせる」
 目を閉じたまま、荒野は、一分以上、沈黙した。
「……それで、自分の手で殺した動物を、自分の手で血抜きして、自分の手ではらわたを引きづり出して、自分の手で料理させて、食べさせる。
 凄かったな、その時は。
 みんなわんんわん泣き喚いてな。もちろん、子供の事だから、気が弱かったり、本当に飼っていた動物を可愛がっていたりで、なかなか殺すことが出来ない。
 でも、世話役の大人たちも容赦しない。
 それが出来るまで、一切、食事を与えられないから……結局、子供たちは……おれたちは……さっきまで可愛がっていた動物の頚を刃物でかききるんだ……。
 その頃には、泣くだけ泣いているから、涙なんて枯れ果てている。
 それどころか、絶食してからかなり立つから、どうしたら早く血が降りるのだろうか、なんてことを考えている。空腹に耐えかねた子供は、生臭さにもかまわず、したたり落ちた血を直接呑もうとして、顔を真っ赤にして咳き込んだりする。
 でも、たいていの子供はちゃんと血抜きまで待って、羽や毛を抜き、適当に肉や内臓を切り分けて、串を通して、塩胡椒を振って、火を通して、食べる。
 ようやく食べられるようになる頃には、泣き喚いたりしていた時間も含めて、丸一日くらいは軽く経過している。だから、腹が減って腹が減って、火が通るか通らないか、というくらいで、もうかぶりつく。ついさっきまでペットだと思っていた動物の肉を、だ……」
 荒野はまた、しばらく沈黙した。
「……おれの時は兔だった。死ぬほど、うまかったよ。
 そうしておれたち一族は、物心つくかつかないかのうちに、暴力という物の本質を学ばされるんだ。食べるためには、なにかを殺さなくてはいけない。それは、必要な暴力で……それ以外の、必要のない時に、自分たちの能力をむやみに使ってはいけない、と、幼い頃から叩き込まれる……」
 今日のやり方……楓や孫子に、自分の実力をちらつかせて言うことを聞かせたのが……正しいやり方だったのかどうか、自信が持てない……と、荒野はつけ加えた。いくら茅が「あれが最上」と保証しても、荒野は「まだ別の方法があったのではないのか」と、思ってしまうのだった。

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彼女はくノ一! 第四話 (45)

第四話 夢と希望の、新学期(45)

「……そんなの、おかしいです! おかしいですよ!」
 楓が、テーブルの上に身を乗り出して、香也のほうに顔を近づけた。
 時ならぬ楓の取り乱しようを目の当たりにして、荒野と孫子が申し合わせたように、同時に眉をひそめた。
「……んー……」
 楓に詰め寄られている側の香也が、いつもの冷静な様子で平然と受け止めたことで、荒野と孫子は楓をその場で取り押さえることを、とりあえず保留した。
「……おかしい、と、いわれても……実際、落ち着くんだ……」
 この時、香也の口元が笑みの形に歪められる。
「……一人でいると……絵を描いていると……」
 その時の笑みは……多分、自嘲、なのだろう……。
 荒野と孫子は、そう解釈する。
 それにしても、痛々しい感じのする、笑い方だった。
「……みんなのこと、嫌いではないけど……」
 と付け加えたきり、香也は、なにか考え込む風で黙り込んでしまう。
 楓は、立ちつくして香也の顔を見ていた。今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「……今は、その、嫌いではない、ということで満足すべきではありませんこと?」
 しばらく続いた沈黙を破ったのは、孫子だった。
 それがきっかけになって、荒野が、今までの香也の言動を一つ一つ例を挙げて検証し、「特に問題はない。ただし、無理矢理、急激に異性に迫られたりしなければ」と、香也の人嫌いについて判断を下した。
 昔はともかく……今の香也の人間嫌いは、いわゆる「病理」とかいう大げさなレベルではなく、せいぜい「傾向」とか「性癖」程度の軽いものだ……というのが、荒野の判断だった。事実、周囲が普通に接してしている分には、日常生活に支障が出ていない。
 要するに、問題なのは香也ではなく、楓と孫子の二人だ……と判断した荒野は、「香也を脅かさない」、「加えて、楓は、現在の任務を疎かにしない」ということだけを二人に(半ば無理矢理)約束させた。
「……こういう脅すようなやり方は好きじゃないんだかなぁ……」
 とかぼやきながらも、荒野は、「この約束が守られない時には、実力行使も辞さない」という意志をちらつかせた。この場合の「実力行使」というのは、ようするに暴力、ないしは体罰、ということで……確かに、荒野が本気になって制裁を加えるつもりななら、楓にしろ孫子にしろ、その意志を阻止することは不可能だろう。
 荒野と二人の間には、その程度の実力差はある……という共通認識が、あった。
 実際、荒野が「自分が香也の身の安全を守るための抑止力にある」という旨の意志を顕わにした時、その眼光に射すくめられた楓と孫子は、青い顔をしてガクガクと何度も頷いた。
 そのくらいの迫力が、あった。
 楓と孫子が頷いたのを確認すると、荒野はほっとしたような顔をして椅子の背もたれに体重を預け、茅に冷め切った紅茶をいれなおしてくれるよう、お願いした。

 もう一杯だけ紅茶をご馳走になって、「あまり遅くならないうちに……」と三人は香也たちのマンションを辞した。いくらすぐ隣り、とはいっても、普通なら香也たちの年齢の少年少女が気軽に出歩いていい時間ではなくなっていた。
 狩野家に帰ると、すでに玉木は帰宅した後だった。眼の下に隈を作った羽生譲は栄養ドリンクの小瓶をストローですすりながら三人を出迎え、肩を回してコキコキ肩関節を鳴らしながら、
「……あー。お風呂、空いてるから……入っちゃえば……」
 といって、再び自室のほうに向かった。
 バレンタインまで間がない、ということで、羽生はこの前撮影した映像の編集作業を、突貫で行っているところだった。
 羽生にそう言われ、三人は顔を見合わせた。
 当然のように香也が二人に「お先にどうぞ」とゆずると、「昨日のこともあるから」と、二人は固辞した。
 結局、香也が先に入ることになった。昨夜は半端な入浴しかできなかったから、それはそれで有り難かった。

 二人に誘導されるまま、風呂場に行き、服を脱いでゆっくりと湯につかる。まだまだ一月下旬、寒さが厳しい夜中、距離は短いとはいえ外から帰ってきたばかりで暖かいお湯につかると、寒さに収縮していた表皮が急速に暖まり、それだけでもため息が漏れる。
「……あぁ……」とか「……ふぅ……」とか息を漏らして、湯に浸かり、体が温まってくるのを愉しんでいると、突如ガラリと戸が開き、体にバスタオルだけを巻き付けた楓と孫子が入ってきた。
 香也は覿面にうろたえて、
「……あわわわわ……」
 と何十年も前のマンガみたいなうめき声を出して、彼女たちに背を向けて湯船の端に体を寄せる。なにぶん、まっぱだかなもので、それ以外に逃げ場はない。
「大丈夫です、大丈夫です。昨日と違って、なにもしません」
「……待っている間、二人で睨み合っているのも不毛だし……」
「香也様にも、もっと早く人に慣れて頂きたい、ということもあって……」
「とりあえず、一緒に入ることにしましたの」
「ちゃんと、香也様からは離れていますから、安心してください」
「この浴室、十分に広いから、なにも問題ありませんわよね」
「……あ……できれば、ですけど……お背中ぐらいは流させて欲しいかなぁ、って……」
 二人交互で香也に説明する様だけをみれば、一見息が合っているようにみえた。しかし、そんなことをいいながらも、二人は横目でお互いに眼飛ばして牽制しあっていたりする。
『……い、いくらなんにもしない、といっても……』
 香也は凍り付いたまま、動けなくなった。
 さっき、荒野に厳重な注意を受けたばかりだから、二人も、香也には、滅多なことをするとは思われない。
 ……しかし……。
『こ……怖いよ、君たち!』
 表面上の、にこやかな顔を香也に向けながら、目に見えない火花をバチバチ散らしてお互いの挙動を監視しあう二人との混浴は……。
 当然、香也をリラックスさせるものではなかった。

 表面上は、一緒に風呂に入って、交代で背中を少し流して貰っただけで……昨日のような「暴走」は一切なく、香也は早々に、逃げるようにして風呂から上がった。

 その夜、香也が去った風呂場で、なにやら人が争っているような、かなり大きな物音が響いてきたが……香也は、すぐに布団を頭までひっかぶって、なにも聞かなかったことにした。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(36)

第五章 「友と敵」(36)

「そんなの……」
 楓が、何故かせっぱ詰まったような表情をして、香也のほうに身を乗り出す。
「おかしいです! おかしいですよ!」
「……んー……おかしい、と、言われても……」
 感情的な様子を見せた楓とは対照的に、香也は平然とした様子だった。
「……実際、落ち着くんだ……一人でいると……絵を描いていると……。
 みんなのこと、嫌いではないけど……」
 やはり、一言一言、吟味して考えているような口調だ。
「……今は、その、嫌いではない、というとことで満足すべきではありませんこと?」
 孫子も、なにかを考え込むような表情になって、口を挟む。
「……わたくしがここに来てから、でも……香也を取り巻く環境は、大きく動いていると思いますわ……。
 登校の時も、去年までは樋口と二人きりでしたし……」
「あと、始業式の後の騒ぎ、な……」
 荒野も、あの時のことをみなに思い出させた。
「あれ、柏の妹さんの先走りでああいうことになっちゃったわけだけど……あの騒ぎなんか、ほとんど香也君が主役みたいな感じだったわけだけど……香也君、それなりに、適応していたんだろう?」
 以前、香也が学校で、クラスで、どんな感じだったのか、荒野たち転校生組は、知らない。だが、想像するのは容易だった。たいていのことには「我、感せず」を決め込んで、人付き合いをほとんどしてこなかったのだろう……。香也のクラスの柏あんなも、そんなような事をぽろりといっていた気がする。
 でも、今では、孫子がいうように、状況が徐々に変わってきている。朝、一緒に登校していても、香也に挨拶していく生徒は何人もいる。
 荒野はそのことも指摘し、
「……教室では、どんな感じなんだ?」
 と、香也と同じクラスである茅と楓に向かって水を向けてみる。
「……ええとぉ……普通、かなぁ……」
 と楓は首を捻り、
「なにが普通なのか、判断が出来ないの……」
 それまで学校に通った経験のない茅は、素っ気なくそう返した。
「……人見知りをするとか、クラスの誰かと強く反発しているとか、そういうことは……」
 荒野が念を押すと、
「……そういうのは、ないです」
 楓は、ゆっくり首を振りながら、保証した。

 過去はどうだっかか知れないが、今の香也は、普通に日常生活を行える程度には、他人を怖がらなくなっている……。
 しかし、楓や孫子がしてきたとうに、いきなり距離を……心理的物理的、両面における距離を……短時間に詰めようと近寄られると、それなりに恐慌をきたす……と、いうことらしい……。
 荒野は、そのように理解する。
『……楓や才賀が無理に迫らなければ……特に問題ないんじゃないのか?』
 と思った荒野は、今度は二人のほうに矛先を変えることにした。
 香也の対人恐怖症傾向は……別に無理に直そうとしなくても……時間が解決してくれるような気がした。

「……楓。
 ひとつ、確認しておきたいんだが……」
 荒野は『……おれ、すっげぇ野暮なことやっているなぁ……』と自嘲しながら、楓に尋ねる。孫子には、監督責任がある、とういう言い方をしたが……人を使う、というのは、時として、そうした他人のプライバシーに踏み込まなければ解決できない問題も抱え込むことだ……と、荒野は実感する。
「……なんで、香也君なんだ? ほかの男性ではなくて?」
 荒野の趣味ではないが、今後も楓と組んで動く以上、曖昧にしておくつもりもなかった。この土地に来るまで、荒野は誰かの下で命令に従ってさえいれば、それでよかった。今では、立場が、違う。
「……なんで……というのは、わかりません」
 根本の部分に真面目な所のある楓は、荒野の問いを受け止め、臆することなく答える。このようなことを聞かれる、と予測していたのか、考え込む様子さえ、みせなかった。
「でも、今は……香也様以外の男性は、考えられません」
 真顔で、照れもせずにそう言ってのけた。
 そんな楓の顔を、横から孫子が細目で見つめているのに、荒野は気がついた。
『……やばいなぁ……』
 荒野は思った。
『どうやら、二人とも……本気、のようだ……』
 そういうことになると、荒野が出来ることは、極めて限られている。
「……よーく、解った……」
 荒野とて、他人の色恋沙汰に好んで介入したいわけではない。
「楓。それに、才賀。
 二つだけ、約束してくれ。その二つさえ約束してくれれば、後は三人の問題だ。おれは、余計な口を挟まない。挟みたくない……」

 荒野が提示した「約束」というのは、二つ。
 ひとつ目。香也を脅かさない。
 香也がそんな感じだから、必要以上に急いで香也に迫らない。
「お前らだって、香也君を怯えさせるのは、本意ではないんだろう?」
 荒野がそういうと、楓と孫子は肩を落とし、みていて気の毒になるくらい、悄然とした様子を見せた。
『……二人とも……時たま、なにかの弾みで極端なことしでかすけど……基本的に、悪気はないんだよなぁ……』
 と、香也は思った。

 ふたつ目は、孫子には関係のないことだった。
 現在の任務に支障をきたさないようにすること。
 つまり、楓への訓戒だ。

「このふたつさえ守ってくれるのなら、おれはとやかく言わないよ……。
 ただし、この約束が破られた時は……加納の名にかけて、相応の対応をさせてもらう。
 色恋沙汰で任務を放り出して貰っては困るし、香也君はおれの友人でもある。その香也君を脅かすような存在は、おれにしてみても目障りだ……だから、いざという時は……」
 ……実力に訴えることも、辞さないよ……。
 と、荒野が続けると、それだけで楓と孫子の背に、悪寒が走る……。

 一対一、という条件であれば、白兵戦で、この中で一番強いのは、荒野になる。いや、楓と孫子が二人がかりでかかっても、荒野一人に太刀打ちできるかどうか……。
 加納本家の直系、かつ、二宮本家とのハーフ……という血筋もあったが……それ以上に荒野は、楓や孫子とは違い、豊富な実戦経験も持っていた。

 その時の荒野の眼光は、荒野が……必要とあれば、いくらでも非情になれる存在だ……ということを、雄弁に語っていた。

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彼女はくノ一! 第四話 (44)

第四話 夢と希望の、新学期(44)

 なにか言いたそうな顔をしている樋口明日樹をとりあえず無視して、加納香也は筆を走らせる。
『……そうだよな……なにがあろうとも、ぼくは、絵を描き続ければ……』
 落ち着く。無心になれる。
 香也が真剣に描きはじめると、樋口明日樹もその間はなにもいえなくなる。仕方がなく明日樹も、軽くため息をつくと自分のキャンバスを用意しはじめた。
 小一時間ほどして、香也の携帯が振動して、メールが着信したことを告げた。買った当初こそ極端なメール攻勢に曝された香也だったが、メールが着信しても香也は必ず返信するわけではない、という風に方針を変えると、流石に数日でピタリと収まった。
 だから、香也の携帯にメールが着信すること自体、最近では珍しく、不審に思いながら香也が着信したメールを画面に表示させてみると、
荒野から聞いたの。
そのことで、今夜、夕食後、
楓や才賀も呼んで、
みんなでお茶会をしたいと思います。

絵描きも、早く解決したいでしょ?
 かや(・・)v

 という、加納茅からのメールだった。
 香也は数十秒考えた末、
「……彼らならなんとかしてくれるかも……」
 という期待をかけて、出席する旨、返信のメールを送信した。香也にしても、帰宅後、安心して一人でプレハブに籠もれないような状態がいつまでも続くと、困るのだった。
 明日樹がなにやら問いたげな顔をしていたので、
「加納兄弟から、お茶に呼ばれた」
 とだけ、教えておいた。明日樹に余計な刺激を与えたくなかったので、楓や孫子も一緒に誘われていることは伏せておいた。

 最終下校時刻になり、明日樹と連れだって帰る。どうせ、帰る方向は一緒だ。
「……最近、人、描くようになったね……」
 帰り道で明日樹は、そんな風に話しかけてきた。
「……んー……」
 香也は、例によってはっきりしない口調でごもごもと答える。
「……どうせ、ゲームの絵、描く必要があるから……」
 堺雅史に頼まれた自主制作ゲームの作業は、進行しているといえば進行している。
 ゲーム内に登場するキャラクターの一人一人について、複数の関係者からの意見をフォードバックしながら、何度もリテイクを出されながら、ちょっとづつ修正を加えていって決定稿まで持っていく……という、かなり面倒な作業を繰り返しているわけだが、最近では、そんな「面倒くささ」……自分の絵を提示すると、即座に複数の人間の反応が返ってくる……という状況が、楽しくなってきている香也だった。
 ゲームの完成に必要な作業量に比較すれば、目下の所、必要なデザイン作業の十分の一も終わっていないわけで、先はまだまだ長いのだが……香也は、羽生譲を除けば、他人との共同作業で絵を描く、ということをやったことがないので、今のところ、かなり新鮮な気分を味わっている。
「……そっかぁ……」
 香也の答えを聞いた明日樹は、要領の得ない表情をつくった。マンガとかゲームとかにあまり興味のない明日樹は、香也がゲーム用に描いたスケッチなどは遂一チェックしていたが、それらがゲーム内でどのように使用されるものなのか、具体的にイメージすることが出来ない。
 昨年末からこっち、狩野家に住人が増え始めてから、明日樹は、香也がどんどん自分の知らない領域へ向かっていて、自分だけが取り残されているような、寂しさを感じ始めている。
 そんなことを言葉少なく語るうちに、二人はすぐに狩野家の前まで到着する。香也は鞄だけを置いて明日樹を送ろうと申し出たが、明日樹は「もう、すぐそこだから」と断って、玄関前で別れた。
 家に入ると、玄関に見慣れない靴があって、どうやら、昨夜に続いて玉木珠美が羽生譲の部屋を訪れているらしかった。制服を着替えもせずに挨拶をしに羽生の部屋に向かうと、二人は軽く顔を上げて香也に目礼を返した。
 羽生が、
「おー。いいところにきた、こーちゃん……ちょこっとカット描いてよ……」
 といってきたので、
「……んー……着替えてから……」
 と返事をして、香也はいったん自室に向かった。どうやら、夕食までの時間を一人で過ごさずに済むようだった。
 
 玉木が持ち込んだ材料を使った夕食の後、玉木と羽生はすぐに羽生の部屋に戻った。
 楓と孫子と香也の三人は、荒野たちのマンションに向かう。楓や孫子も、真理や羽生、玉木などの人目のある場所では流石に無茶なことをしようとしなかった。楓も孫子も、普段は、基本的にまともな少女だった。ただ、お互いに対する競争意識が強いのと、香也という存在に拘りすぎることを除けば。
 荒野と茅の部屋に着くと、茅がケーキとお茶を振る舞ってくれ、荒野が孫子の問いに答える形で、長々と「なぜ、今夜みんなを呼んだのか」ということを詳細に説明してくれた。
 その後、香也が自分の「対人恐怖症的な傾向」についてぼそぼそと話すと、みんなが香也の顔を注目しはじめた。揃って、驚きと納得が入り交じったような複雑な表情をしている。
 一通り香也の説明が終わり、なんとか「二人のことは嫌いではない。でも、いざ近寄ると、怖い」ということを説明し終えると、孫子はやけに好戦的な顔をして、「香也の恐怖症を克服してみせる」といった意味のことを宣言しだし、荒野が「素人考えで動くと、かえってこじらせるぞ」といった意味のことをいって孫子を窘めた。その後、楓が香也に「それで、寂しくはないんですか?」と質問してきたので、香也は少し考えてから「寂しくはない。むしろ、一人でいる方が、気楽なくらいだ」といったような返答をした。

 香也がそう答えると、楓はひどく落胆したような、悲しそうな顔になった。
「そんなの……おかしいです……」
 と、楓は呟いた。

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人型動物ですよっ! 「わんことくらそう」

人型動物ですよっ!

「わんことくらそう」

↓公式サイト (体験版もここにあります)
わんことくらそう


さて、いきなり始まった
「エロゲ体験版紀行」

といっても、二回目があるのかどうか解りません!
はっきり言って、このblogの中の人の気分次第です!
毎日更新の小説、二本同時進行なんてばかなことやっているので、中の人も大変です!

まあ、ぼちぼち、気が向いたときにやります!

その記念すべき第一回は、

「わんことくらそう」

『人型動物』とは?
「さて、ここでは、私とクゥちゃんで、みなさんにはなじみが薄いであろう『人型動物』について色々とご説明させていただきます」

「まず最初に申し上げておきますが、人型動物というのは私達人間が遺伝子改良によって生み出したもの、と考えている人が多いのですが、彼らは間違いなく、何らかの進化の過程を歩んで生まれてきた生命である、ということです。」

「はい。私達の祖先となる存在が数千年前に存在していた、ということは歴史的にも証明されていますね」

以上、「なぜなに撫子」第一回より引用。

いやぁ、エロゲでしかあり得ない世界ですねぇ。

つまり、
この世界の猫耳犬耳天然物なのです!

加えて人型ですから、ペットにはぁはぁしちゃう危ない性癖の方でも、

罪悪感を感じることなくするっと獣姦を疑似体験できます!

キャラクター」のページ
をみて貰えばわかるとおり、デザインは基本的に可愛い系でまとめています。
というか、よーくみて説明文をよく読み込まなければ、

動物と人間の区別がなかなかできません。

百聞は一見にしかず、わたくしも早速、

こちら
から体験版をダウンロードしてやってみました。

意外にシナリオは丁寧です。

主人公が「みかん」ちゃんを拾って飼うようになるまでの経緯がプレイできます。

このシナリオだと、ちゃんと

人型動物=ペットである必然性
というのは、ありますね。

一見イロモノのようでいて、実はしっかりしてます。

さて、この体験版では、ストーリーのほうを最後までプレイすると、お待ちかねの

「エッチシーン」
もプレイできるようになります。

わんこにゃんこにゃんにゃんするわけです。

あ。一応、人間もいたか。

巨乳なにゃんこ、つるぺたなにゃんこさん、長身スレンダーなわんこなどとできます。

こいつら、揃いも揃って発情期らしいです。

いい口実ですね。

形は人間だけど、妊娠の心配はないから当然、避妊はしません。

もろ中だしです。


そんな感じの「わんことくらそう」

4月14日発売です。

↓ご予約、ご注文はこちら。


髪長姫は最後に笑う。第五章(35)

第五章 「友と敵」(35)

「……こうやって集まって貰ってからいうのもなんなんだけど……おれ、恋愛経験とかあまりないから、そっち方面に関しては、あまり的確なアドバイスはできないかも知れない……」
 と、荒野は断りを入れた。
 なにせ荒野は、この土地に来るまで数年間、ほとんど荒事だけをして生活していたのだ。任務によっては、数ヶ月以上、人里から離れて暮らすようなことも珍しくはなかった。愛想がいいのであまり目立たないのだが、基本的に、荒野は女性の扱いをこれまで学習する機会があまりなかった。
「……でもさ、君らの一人一人の事を、親身になって考えることは、できるよ。
 だから、話してくれないか? 君ら一人一人が、今、一体なにを考えているのか……」
 荒野は長々とした台詞を言い終え、一息ついて茅がいれてくれた紅茶を啜った。せっかくの紅茶が、冷めかけていた。
 しばらくは、誰も話そうとしなかった。
『……だろうな……』
 この結果は荒野も半ば予想していたことだったので、意外には思わなかった。
 男女の事は、基本的に「秘め事」なのである。
 堂々と仲間を交えてディスカッションとかするべき性質の問題ではない……とは思うのだが、荒野には、三人の本音を聞き出すのには、こんな方法しか思いつかなかった。

「……荒野さんは、ああいったけど……」
 座が静まりかえってしまったので、香也がおずおずといった感じで語りだす。
「……ぼく……みんなが来てくれて……よかったと、思っている。
 みんながここに来なかったら……たしかに静かで何の問題もなかっただろうけど……代わりに、ぼくのことを……ぼくの絵を、認めて、見に来てくれる人も、ほとんど、いなかった筈で……」
 香也の言葉はたどたどしく、切れ切れで、語る内容を考え考え、語っている……というのが、よくわかった。
「……楓ちゃんも、才賀さんも、決して嫌いじゃない……決して嫌いじゃないんだけど……昨日みたいなのは、ちょっと……。
 いや、実は……凄く……怖い……。
 ……あ……。
 怖い、っていっても……楓ちゃんや才賀さんが、ということではなくって……ぼく、基本的に誰でも、近づいてこられるのが、もともと怖くて……。
 これ、昔っからで……昔は、もっと酷くて……小学校の頃は、知らない人と、面と向かって話すこと、まるで出来なかった……。
 ……ぼく、昔っから、人が……人間が怖くて……」
 ぽつりぽつりと話し始めた香也の顔を見ながら、他の人間は今までの香也の様子とか、香也の知人が香也について語った事などを思い返している。
 例えば……羽生譲は、幼い頃の香也について、どういっていた?
 確か、「まともに話せるようになるまで、長い時間がかかった」とか、いっていなかったか?
 香也の話した内容は、それら、香也の知人の証言と、充分に符合するように思えた。
 また、香也が、未だに人と接するのが苦手で、つい最近まで、ほとんど「人間を」描くことがなかった……ということも、この場にいた全員が、知っていることだった。

『……やっかいだな……』
 香也の話しを吟味しながら、荒野は、思った。
『これは……香也君の心因性の……ある種の人間恐怖症をもっと緩和しなければ……楓にしろ才賀にしろ……ほかの誰が相手にしろ……香也君、まともな恋愛なんて……出来やしないぞ……』
 言われてみれば……香也のそうした傾向は、今までの付き合いを思い返してみても……充分に、思い当たる節があるのだ。
 昔はもっと酷かった……ということは、……真理なり羽生譲なりが長い時間をかけて、香也の人間恐怖症を徐々に軽減してきたのだろう……。
『こうなると、むしろ……』
 後の二人の反応が楽しみになってきた、荒野だった。

「それ……面白い、お話しですわね……」
 二人のうち、最初に話しはじめたのは、やはり孫子だった。
「つまり、香也の恐怖症を克服しなければ、どのみちこれ以上の進展はない、ということですのね……」
 不敵な笑いを浮かべながら、孫子はそんなことを言いはじめる。
 孫子は「負けず嫌い」である。その孫子が、「香也の恐怖症」を、克服すべき「仮想敵」としてロックオンした……と、いうことなのだろう……。
「この手のことに関して……素人考えの強引な治療は、かえって悪化させる可能性のが高いぞ……」
 慌てて、荒野は口を挟む。
 目標に突き進むときの孫子の強引さを知っている身としては、手遅れになる前に、釘を刺しておく。
 孫子は、拗ねたような顔をして、「分かってますわ」と視線をそらせた。

「……あのぉ……」
 楓が片手を挙げて、おずおずと香也に質問した。
「その……人が怖いのって……ずうっと昔から、なんですか?」
「……んー……」
 楓の質問に、香也はなにやら考え込んでいたが、しばらくして、
「……ぼく、小さい頃のこと、憶えてないんだけど……その、憶えている中で一番昔の時から……今の家に引き取られてきた時から、すでにそうだった……」
 香也の本当の両親……香也が孤児になる前に、なにかしらトラウマになるような出来事があったのかも知れない……と、荒野は思った。
 もちろん、香也本人がいる目の前で、そんなことを口にするつもりはなかったが……。
「……寂しくは、なかったのですか?」
 楓は、香也の目を真っ直ぐ見つめて、重ねて尋ねた。
「……んー……」
 香也は、やはりしばらく考え込む。
「ぼく……寂しい、って感情、実はよく分からなくて……出来ればずっと一人きりになりたい、とか、思っているくらいで……。
 でも、真理さんとか譲さんとか、ここにいるみんなは、決して嫌いじゃなくて……。
 ごめん。
 その、寂しい、っていうの……どうも、よく解らないや……」

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彼女はくノ一! 第四話 (43)

第四話 夢と希望の、新学期(43)

 翌朝、朝食の席での三人は、酷い有様だった。
 揃いも揃ってげっそり憔悴し、特に香也は目の下にくっきりと濃い隈をつくっている。孫子も楓も、いつものように振る舞おうとしているのはわかったが、疲弊した表情は隠しきれていなかった。いつもはつややかな顔の肌が、今日は心なしか渇き気味でかさついているように見える……。
「……な、なんかあったんすかねぇ……」
 三人の同居人の様子をみた羽生譲が、急いで台所に引き返し、小声で狩野真理に耳打ちした。
「そりゃ……あの年頃の男女が、一緒にいるわけですから……」
 真理は炊飯器を両手に抱えて居間に運び込みながら、柔らかく笑って、なんでもない事のように答える。
「……なにかしら、あっても不思議ではないでしょう……」
「…………はぁ……そんなもんすかぁ……」
 羽生譲はなんだかよく理解できなかったけど、狩野真理の態度には感心した。
『……真理さんは、偉大だ……なんだかよくわからないけど、偉大だ……』

 制服姿でいつもの座に着いた香也、楓、孫子の三人の間には、緊張感が張りつめていた。良くしゃべる楓が押し黙っているため、いつもはそれなりに賑やかな朝食の席も、その日はしーんと静まりかえったまま、始まり終わる。
 三人の顔をキョロキョロ見回して戸惑った様子の羽生譲、三人の様子には我関せず、を決め込んで涼しい顔をして、いつものように食事をする真理……。
 やがて、静寂に支配された気まずい食事も終わり、三人の登校時間になる。三人は自分の分の食器を台所まで運んだ後、いつものように玄関から外に出て行った……。
『……どーでもいいけど……』
 玄関先で手を振って三人を見送りながら、羽生譲は思った。
『……こーゆー重苦しい雰囲気、苦手なんだよなぁ……』
 ドアが閉まり、三人の姿が完全に見えなくなると、羽生譲は大きく伸びをして、袂から取り出した煙草を咥え、火をつける。
「……さー。編集作業の続き、やろー……」

 いつの間にか集合場所、ということになっている狩野家の隣りのマンション前には、既に樋口兄弟と飯島舞花、栗田精一が集まっていた。
「……どうしたの? その顔……」
 顔を合わせると同時に、樋口明日樹が香也に声をかける。ひと目見ただけでそれとわかるほど、不調が顔に出ているらしい。
「……才賀さんと楓ちゃんも、だから……昨日の撮影の疲れ、とか……。そういや、狩野兄弟もまだ出てこないな……」
 飯島舞花は、「いつもならとっくにここにいる時間なのに……」とかなんとかブツクサ言いながら、狩野兄弟の部屋に二人を呼びにいった。
「……狩野君……も、撮影……モデルやったの?」
 心配そうな顔をして、樋口明日樹が香也に重ねて尋ねる。
「……んー……」
 香也はゆっくりと頭を振った。
「ちょこっと、簡単な背景画、描いたけど……それだけで……」
「……夕べ遅くまで、なんかやってた?」
「……んー……別に、なにも……」
 香也はやはり首を振った。
『……おかしい……』
 最初は心配していた明日樹も、香也が疲労の原因をはっきりと言わないのと、同居している他の二人、楓と孫子が、明日樹たちとまともに目を合わせようとしていないことに気づき、段々と三人の様子に、不信感を持ち始める。
『まさか……三人の間に……昨夜、なにかあった……とか……』
 その「なにか」とは、つまり、明日樹があまり想像したくない内容なわけで……。
「……ねーちゃん、なに一人で怖い顔しているんだよ、朝っぱらから……」
 とりあえず明日樹は、話しかけてきた大樹の頭を無言ではたいた。
「……あの二人、寝坊していたって。今来るから……」
 加納兄弟を呼びにいっていた飯島舞花が、戻ってきた。少しして、舞花の言葉通り、荒野と茅の二人が姿を現す。
 出発するのがいつもより五分ほど遅れたが、時間的には充分に余裕を持って出ているので、遅刻をする心配はなかった。
 荒野は狩野家の住人三人組の様子をみて首を傾げたが、なにも言わなかった。
 茅は、狩野家の三人とは対照的に、いつもより顔の色艶が良いように思えた。

 登校中、いつもより頻繁に声を掛けられた。生徒だったり、行く途中にある民家の人だったりしたが。大半は、孫子に、だった。
「土曜日のネット中継みたよ」とか「こっちにも一局つきあってくれ」みたいな内容がほとんどだった。たまに、他の連中のクラスメイトや部活で知り合った生徒たちにも挨拶をされる。昨日、一昨日、と連続で楓や孫子、荒野たちたちと一緒にいた放送部員の生徒たちも、当然のように声をかけてきた。

 学校に着き、教室に入ると、楓はすぐに生徒たちに囲まれた。
 週末の囲碁勝負の合間に挿入されたマンドゴドラのCM映像は、モデルたちを直に知る人たちには意外にインパクトがあったようだ。
 あの衣装を着た楓自身はかなり抵抗を感じていたのだが、あの映像をみた生徒たちの評判は上々だった。特に女生徒たちに好評で、「楓ちゃん、着やせするタイプだ」、「スタイルいい」、「衣装はなんだかエッチっぽかったけど、楓ちゃんが着るとあまりいやらしく見えない」、「わたしがあんな滑降しても全然似合わない。楓ちゃん凄い」などという内容を、自分の席に座った楓を取り囲んで、わっとばかりに話しはじめる。
 おかげで楓は、昨夜のことをあまり深く考える余裕も与えられず、すぐに朝のホームルームが始まった。
 授業時間中、楓は必死になって睡魔と闘った。休み時間は机につっぷして、次の授業が始まり、近くに座る生徒に肩を揺すって起こされるまで、そのまま熟睡した。普段、眠りは浅いが、それ故に規則正しい生活を心がけている楓は、昨夜のように不意に生活のリズムを乱されると、昼間、とてつもなく強力な睡魔に襲われた。
 その日の昼間、楓は、迫り来る眠気と戦うのが精一杯で、授業の内容をろくに憶えないまま、あっという間に放課後を迎えた。
 その日は部活がない日だったので、そそくさと帰り支度をして、まっしぐらに狩野家を目指した。帰って、夕食の時間まで休むつもりだった。

 一方香也は、放課後、いつものように美術室に向かう。
 本来、部活は週二日しかない筈なのだが、他の部員たちも顧問の先生もあまりやる気がないのをいいことに、他に用事がない日は、だいたい美術室で過ごす。ゆっくり絵が描ける環境でありさえすれば香也はどこにいてもよかったし、自宅のプレハブで過ごすよりは、学校にいたほうが冷暖房代の節約になった。
『朝のこと……樋口先輩に、なにか聞かれるかな?』
 イーゼルを準備しながら、香也がそんなことを考えていると、何故か加納荒野が美術室に入ってきて、
「昨日……楓たちとなにかあった?」
 真剣な顔をして、心配そうに、香也に聞いてきた。
『……ああ』
 この人に相談すればよかったんだ……と、香也は思った。
 楓や孫子のことを、よく知っているし、いろいろと頼りになる荒野は……相談相手として、まさに適役ではないか。
 香也はほっとしながら、ぽつりぽつりと昨夜の顛末を荒野に語り、「こうした場合、二人をどう扱えばいいのか?」と、荒野に尋ねた。
 荒野は、やはり真剣な面持ちで香也の話しを聞いてくれたが、対処法に関しては即答してくれず、「ちょっと考えさせてくれ」とかいっているうちに樋口明日樹が美術室に入ってきたので、入れ替わりに、慌てて出て行った。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(34)

第五章 「友と敵」(34)

「……まあ……おれだってこんなこといいたくはないけど……お互い、異性を意識する年頃なんだから、そういうのはあっていいよ。いいと、思うよ。
 でもさ。それでも……最低限、無理矢理ってのは、ヤバイいんじゃないか……」
 荒野が訥々とそんな内容を語りはじめると、初めのうちは平然と聞いていた孫子も、段々と決まり悪げな表情を見せるようになった。香也はそもそもの最初から、非常に居心地の悪そーな感じだったし、楓は楓で、俯いて終始もじもじとしていて、落ち着きがない。
「……香也君、かなり、怯えていたぞ……」
 話しながら荒野は、
『……普通、男女が逆なんじゃないだろうか……』
 とか、思った。
 まあ、孫子にしろ楓にしろ、香也のみに限定する必要もなく、その気になりさえすれば、そこいらの並の男なんか平気で押し倒せるだろうが……。

 香也は……女性が苦手、というよりは、他人と接触することを、未だにどこかで怖がっている節がある。楓にしろ、孫子にしろ、それぞれ単独で香也と付き合ったら、それなりにお似合いなカップルになるんじゃないか……と、荒野は思った。
 孫子なら、主導権を握って、絵を描くこと以外に極端に消極的な香也をぐいぐい引っ張っていくだろう。
 常に誰かに命令や指示をされることに慣れた楓と柔和な香也なら、のんびりとした、平和な付き合い方をするだろう。
 問題なのは……楓と孫子の二人が、同時に香也を求めていることで……お互いに抱いている敵愾心や競争意識が、突発的に増大し……昨夜のように、普段なら考えられないようなトラブルを誘発することだった。
 楓と香也、あるいは、孫子と香也、という組み合わせには、なんら問題はない……と、荒野はみる。しかし……。
 しかし、「楓と孫子」という組み合わせが、「香也」という存在を意識しはじめると……途端に、話しがこじれはじめる。
 単なる三角関係なら、まだしも……楓と孫子は、どちらも、素手でさえ、充分な殺傷能力を保持する存在、でもあった。
 万が一、将来、楓や孫子が暴発する可能性も見越して、事前に、慎重に手をうってその可能性の芽を摘んでおくに越したことはない……と、いうのが、今回の件での、荒野の言い分と思惑だった。

「いいたくないことついでに、もう一つ。
 おれや楓……一族の者とか才賀とか……根本的な所で、一般人とは違うから。もちろん、恋愛は自由だよ。でも……」
 ……おれらが、感情に任せて暴れたり、相手を力づくで押さえつけたりし始めたら……。
 抵抗できる一般人、いないから……。

 自嘲を込めて、荒野は淡々とつけ加えた。
 幼い頃から、何度も何度も思い知らされてきたことだ。
 どんなに親しくなっても、自分と一般人とは……違う。

 荒野がそういっても、楓はきょとんとした顔をしている。
 養成所で育ち、最近外界に出てきた楓は、荒野とは違って、自分と一般人の差異をどうしようもなく思い知らされてきた……という経験に乏しい。加えて、楓は、無意識的に、「自分自身で判断すること」を忌避し、誰かに命令されたい、という願望を抱いている。楓自身が、どこまでその願望に自覚的であるのかは判断つかないが……そうして、自分の頭で考えることを半ば放棄することで……楓の、潜在的に持っている優れた資質や能力が、充分に開花しきれていない……という一面は、ある……。
 楓は、「あの」荒神が認めたたった二人の弟子、の片割れ……なのだ。
「最強」が、潜在的な才能を認めた……ということが、どれほど凄いことなのか……楓自身は、あまり自覚していない節がある。
 そんな楓が……こんなことで、躓いてしまうのは……荒野にいわせれば、あまりにも、馬鹿馬鹿しい……。

 いまいちピンと来ていない様子の楓に比べ、孫子のほうは、荒野の話しにかなり感銘を受けた様子だった。孫子は……実家の豊かさ、に加え、「才賀衆の一員」である自分と、そうでない一般人との間に横たわる溝の深さを……今までの経験で、それなりに思い知らされてきたのだろう。今まで通っていたのが、良家の子女だけが通う、いわゆる「お嬢様学校」だというのなら、そこの生徒たちと孫子との乖離は心身両面に渡る根深いものだった筈で……孫子は孫子で、今まで孤独な生活を強いられてきたに違いないのだ……。

「おれたち、友達だろ?」
 孫子の表情を読んだ荒野は、ここぞとばかりに言葉を繋ぐ。交渉事は、加納のお家芸だ。
「おれと茅、おれと楓、おれと香也君、おれと孫子、茅と楓、茅と孫子、孫子と楓、茅と香也君……組み合わせは、どうでもいいんだけどさ……ともかく、おれたち、友達だろ?
 せっかくこうして集まって、出会ったんだから……出来る限り、仲良くしていこうじゃないか。そのためには、うん、ここいらできちんんとぶちまけるものぶちまけちゃって……なるべく、しこりとか今後の憂いとか残らないようにしたほうが……お互いの、ためなんじゃないかな?」

 荒野は、楓や孫子が香也に向ける拘りを、必ずしも男女間の愛情のみ……とは、考えていない。
 孫子のことは少し分からない部分もあるのだが……楓は、明らかに、自分と同じような孤児だった香也を、自分と同一視している節がある。ただ、愛情表現が極端に下手なので……初っぱなにいきなり体の関係を結んでしまった事もあって、単なるシンパシィを、「恋愛感情である」、と、自分自身に言い聞かせているのではないか……。
 香也のこと、だけでもないが、楓は、物事全般に対して、少し引いた場所から取り組もうとする傾向がある。「当事者になることを怖がる心理」とでもいうのか……主役であることよりも、脇役や裏方的な役割を選択肢がちな傾向がある。
 楓が香也のことを意識しがちなのも……楓のそんな性向も、関係しているのではないか? 自分の世界に籠もって絵を描いていれば満足、という香也の性向は、そうした楓の性向と……表面的には、似ている。
 ただし荒野は、香也が絵を描くのは逃避だとは思わないが、楓が自分自身の人生を自分で切り開こうとしていないのは、一種の逃避だと考えていた。

 第一……。
『……孤児、というのなら……おれたちみんな、孤児みたいなもんなんじゃないのか?』
 早くに両親を亡くし、伯父に育てられた孫子。
 出生が定かではない茅。
 それに、父は健在だそうだが、生まれたときから行方知れずで、一族の中をたらい回しにされて育った荒野……。
 そこまで考えて……楓や香也だけではなく……ここにいるのは、みんな……満足に、両親の顔を憶えていないようなやつらばかりなんだな……と、荒野は、気づかされた。

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彼女はくノ一! 第四話 (42)

第四話 夢と希望の、新学期(42)

 基本的に才賀孫子は、実家が裕福で何人もの使用人にかしずかれて生活していた関係上、性的な情報源というと、教科書や医学書などの無味乾燥なものにしか触れることが許されない環境で育った。つまり、いわゆる扇情的なポルノグラフィなどとは無縁な環境にあったため、香也の男性器の実物をすぐ目の前に置き、それだけでもかなりドギマギしている。しかし、孫子の性格では、自分がかなり動揺していることを素直に表明することはできないのであった。
『……うわぁ……ヘンな形……グロテスク……』
 とか内心で思うながらも、
「……今、ちゃんと口で綺麗に清めて差し上げます」
 などと虚勢を張ってしまう。
 孫子が「口で……」などといいだしたのは、別段他意があってのことではなく、指で弄くっただけでも香也はあれだけ激しくうち震えて可愛い声を上げてしまうほど敏感な部分なのだから、もっと柔らかい部位で扱ってやろう、と考えただけのことで……そもそも孫子は、「フェラチオ」とか「オラール・セックス」などという語彙や概念さえ、しらなかった。
 だから、香也の男根に下から上まで丁寧に舌を這わせ、最後に先っぽを口に含んだ時、香也が指でやった時以上に激しく反応しはじめたことは、孫子の予測するところではなかった。
 ただ、体全体をガクガクいわせて声を上げている香也の姿を見ていると、孫子自身も訳の分からない高揚に包まれてくるのだった。舌先で香也の普段は包皮に包まれている部分を丁寧にまさぐっていくと、再び香也がビクン、ビクンと震えてはじめた。
『……なに?』
 と思いつつも、孫子は香也のものをちゅぱちゅぱとしゃぶるのを止めない。
 いつのまにかそうして香也のモノを口の中で転がしているのが楽しくなってきているし……香也が感じて悶絶している様子は、可愛い……。
 しかし……。
『……ちょっと前にも、同じような反応をしたことが……あの時は、確か……』
 孫子が、つい先ほどの出来事を思い出すよりも早く、香也はこの日二度目の射精を孫子の口内に行った。
 孫子の口の中に、刺激臭を含んだむっとする動物臭が広がり、生暖かくて何ともいえない味のする粘液が、溢れる……。
『……これ……殿方の……』
 精液……というものに関する知識は、孫子も持っていた。しかし、口でそれを受け止めたのは、当然のことながら、これが最初である。
 滅多にない経験だから、基本的に道の経験には貪欲な孫子は、口内に溢れた不快な物体について、味と臭いを冷静によく吟味する。
 一言でいってしまえば、「最悪」、といっていい。しかし……。
 孫子は、その不快な香也の排出物を、そのまま嚥下する。生牡蠣を呑み込んだような感触を喉に感じた後も、口の中にエグい臭いが残る。
 そのモノを嚥下した後も不快な感触は残ったが……これが、香也の味だ……と、孫子は思った。

「……の、呑んじゃったんですか? あれ?」
 気づくと、楓が四つんばいの恰好で自分の様子を心配そうに伺っていた。四つんばいになると、悔しいことに孫子自身のよりもよほど豊かな楓のバストが、否が応でも強調される。
 孫子が香也の精液を呑み込んだことが、よほど意外だったらしい。
「呑んじゃ駄目……な、ものなの? あれ……」
「……さ、さぁ……命に別状はないとは思いかすが……おいしいですか? あれ?」
 楓自身は、口の中に出された経験はない。が、あの独特の臭いから推察して、決して、おいしそうには見えなかった。
 楓の予測を裏付けるのように、孫子は軽く顔をしかめてぶんぶんと頭を横に振る。
「……やっぱり……」
「……でも、香也のだから……」
 珍しく孫子は、後半部の言葉を濁し、「……楓と違って、わたくし、香也としてないし……」という部分を、わざと楓に聞き取れないような不明瞭な小声で続けた。

 二人がそんな会話をしている間に、香也はそおっと風呂場を逃げ出し、その場では、辛くも貞操を守った。二人が気づいた時、香也は脱衣所に置いてあった服を抱え、真っ裸のまま、脱兎の如く風呂場を後にしていた。
 ……よっぽど、いきなり二人同時に迫られる、という体験が、怖かったらしい……。

 楓と孫子は、香也が逃げていくのに気づいてもまさか大声で静止するわけにも行かず、また、落ち着いて考えてみると、自分たちがとんでもないことをしでかしかけた、ということに気づき(俗な言い方をすれば、逆レイプ、逆輪姦をしそこねたわけである)、しばらく脱衣所でお互いの顔を見合わせた後、どちらともなく風呂場に戻って、冷えかけた体を湯船に沈めた。

「……なにやってんだろ、わたし……」
「……なにやってしまったのかしら、わたくし……」
 湯船に浸かりながら、期せずして二人は、同時にぽつりと呟いた。
 その呟き声が重なったことで、二人はさらに激しい自己嫌悪に駆られた。

 その夜、香也は一人きりになるのをあかるさまに怖がっている様子で、夕食の前後も、羽生の部屋で作業に勤しんでいた玉木や羽生の後ろで、用もないのに二人の作業を見守って過ごした。
 玉木が帰宅した後も、ギリギリまで真理や羽生と一緒にいようとし、いよいよ就寝しなければならない時間になると、悄然とうなだれてようやく自室に戻った。
 香也の部屋は襖で仕切られているだけで鍵がかかる構造ではない、ということもあって、不安で目が冴えた香也は、その夜はろくに眠れなかった。
 孫子や楓も、二人して、相手が夜間に香也の部屋に夜這いにでも行くのではないか、という疑心に駆られており、出歩く必要もないのに、二人で足音を忍ばせて香也の部屋の近辺を歩き回ったため、一晩に何度も廊下で鉢合わせし、パジャマ姿のままにらみ合う、ということを繰り返した。

 翌日、三人は、当然のように寝不足になっていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(33)

第五章 「友と敵」(33)

 美術室を出てから、荒野はよくよく考えてみた。今度の事態の収拾は、どうみても荒野一人の手に余る。そもそも、ろくな恋愛経験ももたない荒野には、荷が勝ちすぎた。何人かいる「相談相手候補者」の顔を思い浮かべては、片っ端からそれを打ち消していく。

 三島百合香。
 荒野と茅の問題、ではない以上、三島が積極的に解決に尽力するとは思えない。三島個人の興味……ということで動かれたら……どちらかというと、面白がって騒ぎを拡大する方向に持っていこうとするような気がする……。
 シルヴィ・姉崎。
 姉崎であるヴィは、この手の問題に対するエキスパートである、といっても過言ではない。しかし、ヴィが介入するとしたら、弟子で孫子のほうに過剰な思い入れをするのは必須であり、替えって事態をややこしいものにしるのではないか? それ以前に、今、ヴィによけいな貸しは作りたくないし……。
 ……その他、佐久間紗織とか玉木珠美、羽生譲の顔なども思い浮かべたが、前の二者については、知り合ってからの時間が短く今回のようなつっこんだ人間関係を相談するには不適切、羽生譲は一緒になって真剣に考えてはくれるだろうが、これといった妙案や打開策は期待できそうにもなかった。

 考え込んでいる間中、宛もなく校舎内の廊下をうろうろと歩き回り、しばらく考え込んだ結果、最後の最後になって、ようやく茅の顔が思い浮かんだ。
 人間関係の相談相手に茅、というのはかなり無理な思いつきかな、とも思わないでもなかったが、ついこの間まで「他人」の存在を知らずに育った茅は、かわりに鋭い観察力と豊かな想像力、臨機応変に目前の事態に対処する柔軟な応用力を持っている。少なくとも、荒野一人で考え込んでいるよりは

 一旦鞄を取りに教室にもどってから、図書室に向かう。部活がない日も含めて、放課後、茅は別に予定がない限り、下校時刻ぎりぎりまで図書室に籠もっていた。わざわざ重い本を借りて持ち帰る、という労働を嫌っているのだろう、と、荒野は思っている。
 荒野が声をかけて「お隣りの三人について相談がある」とだけ告げると、茅は頷いて、帰り支度をし始めた。荒野が拍子抜けするほどのフットワークの軽さだ。
「詳しい話しは、帰りながら」
 読みかけの本を棚に戻しながら、茅はいった。
 この場でできるような話しではないし、二人とも同じマンションに住んでいるのだから、帰り道は一緒だ。
「いいのか? 中断して?」
 念のため、荒野が確認すると、
「本は、いつでも読めるの」
 と、茅は答えた。
 一見、いつものようなポーカーフェイスだが、その実、かなり興味をもっている……ということが、荒野にはわかった。
「それに、昨夜、眠りが深すぎたから……今日はあまり集中力がないの」
 そう続けた茅の頬は、心持ち、ほんのりと赤みを帯びていた。

 帰り道、荒野は、往来で話しても良い程度に細部をぼやかしながら、ぽつぽつと狩野家の三人の事を、茅に相談する。茅は、荒野があえてぼかした部分でも想像がつくのか、よけいな質問を差し挟まず、黙って荒野の話しを聞き続けた。
 途中、マンドゴドラに立ち寄り、かなり多めにケーキを包んで貰う。
「今夜、三人を、うちに呼ぶの」
 と、茅はいった。
「うちに? おれたちのマンションに?」
「早い方が、いいの。こじれないうちに。それに、いつもご馳走になってばかりだから、たまにはうちがご馳走するの」
 そういうと茅は、その場で何通かのメールを出して、関係者の三人を夜のお茶会に招待した。

 夕食後の時間、昼間、約束をした通り、狩野香也、才賀孫子、松島楓の三人が、一緒に荒野たちのマンションにやってきた。香也と楓は若干緊張した面もちで、孫子だけは悠然と構えている。
「あんまり遅くなると明日に差し支えるからさっさと用件に入るけど……」
 茅が全員にケーキとお茶の入ったカップを配り終えると、荒野はいきなり本題を切り出した。
「……今夜、みんなに集まって貰ったのは、他でもない。
 今の君たち三人の関係は、とても不安定だから、できればそれを是正したい……と、そういう相談なんだけど……。
 才賀、それに楓。
 君たち、香也君にとてつもないプレッシャーを掛けつつあるって、自分でも分かっているんだろ?」
『二人とも、心の底では分かっているはずだ』と、荒野は思う。
 孫子も楓も、基本的には、頭がいい。
 ……時たま、どこか抜けていたり、ズレていたりすることはあっても……。
「その前に、一つ、質問があるのですけど……」
 孫子は優雅な仕草に一口紅茶をすすり、荒野に問いかけた。
「……なんであなたが、わたくしたちの問題にこうして口を挟もうとするのかしら?」
 言外に、「余計な口を挟むな!」と荒野を非難しはじめた。
「……なぜおれがこうして出しゃばるかというと……」
 しかし、孫子の反応は、荒野も予測していたところだったから、即座に返答することが出来た。
「一番大きな理由は、香也君が見るも無惨に憔悴していく様子を黙ってみていられなかった、ということだな……友人として。
 それ以外に、楓のこともある。
 こんな下世話な問題で、楓が、いざという時に実力を発揮できなかったりすると、こちらも困るんだ。少人数でやっている関係上、楓一人の戦力低下も馬鹿に出来ないし、そのためのメンテナンスもおれの仕事のうちだ。
 あとは、才賀、君のことも心配だ。君は、こんなことで自分を見失うほど浅慮な人物ではなかったはずだ……」
 荒野にそういわれても、孫子は眉をぴくりと動かしただけで、なにも言い返さなかった。
「香也君を友人だと思っているように、おれは、楓も才賀も友人だと思っている。できれば、みんなには健やかな人間関係を築いて欲しいと思っている。
 だから、お節介かも知れないけど、一度みんなの意見を聞きたくて、こうして集まって貰った。
 ……こういうことはあまりいいたくないんだけど……」
 荒野は目を閉じて、数秒、間を置いた。
「……おれや茅がこの土地に来なかったら、楓も孫子も、香也君の家に住み込む事はなかったんだ。もっともっと、穏やかな、以前通りの生活を続けていた筈……なんだ。
 今となってどうこういうのもなんなんだけど……香也君のような一般人の日常にいきなり乱入して居着いてしまったおれたちとしては、出来るだけ迷惑をかけないように心がけるのが、最低限の礼儀ってヤツなんじゃないかな?」

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彼女はくノ一! 第四話 (41)

第四話 夢と希望の、新学期(41)

 洗い場の床に体を横たえた状態で、香也の額……というよりは、顔の上半分に、冷水に浸してきつく絞ったタオルが置かれた。火照った顔の上に置かれたひんやりとしたタオルは心地よかったが、おかげで視界も完全に塞がれた。

「……すごい……こんなに……」
 才賀孫子の掠れた声が聞こえる。
「この間はあんまりよくみれませんでしたよね……触ってみますか?」
 続いて、楓の声も聞こえた。

 のぼせて頭がぼーとしているので、香也には二人がなにについて話しているのか、いまいち理解していない。
 もちろん、香也のナニについて話しているわけだが。
「……ほら、こんなにいきり立って、ピクピクしていて……他のを知っているわけではありませんけど、とても大きいと思います……中に入ってくると、もう、いっぱいいっぱいになって……」
 楓の声が、心なしか艶を含んでいる……ように、聞こえた。
「……そ、そうなの……こんなのが中に……」
 そこに熱い吐息がかかったので、ようやく香也は、二人がなにについて話しているのか、ということに思い当たる。そこに吐息が当たる、ということは、つまり、それだけ顔を近づけて、まじまじと見つめている……ということだった。
 よく聞くと、荒い呼吸音は二つ、聞こえている。
 しかも、棒立ちになったままのあそこには、今では両側から吐息がかかっていた。
「ほら……こうして根本に引っ張ると……先の方が……」
「……ん……変な匂い……」
 つまり、匂いがわかるほどに顔を近づけているというわけで……。
「本当……匂いますねー……洗わないと……」
「そうね……ちゃんと、清潔にしないと……」
 ……香也はいたたまれなくなって、そのまま飛び跳ねて逃げたくなったが、同時に、二人にこの後されるであろうことを想像するとこのままじっとしていた方がいいような気持ちにも、なり……結局、期待と不安の板挟みとなって、そのまま硬直しているほかなかった。
「敏感な所だから、手で……指でそおっと……」
「……直接洗剤つけても大丈夫?」
「……たぶん……中性ですし、ボディソープですから有害な物質は入っていないかと……」
「……わ、わたくしがやっても……いい?」
「それは、香也様に聞いてみませんと……」
 もぞもぞと間近に人の動く気配がして、ぴったりと熱くて柔らかい物体が、香也の右側に押しつけられる。
「香也さまぁ……才賀さんが香也様のあそこ、洗いたいっていってますけどぉ……」
 香也の耳元で、甘えたような楓の声が聞こえた。
 楓は、香也の半身に乗りかかるようにして添い寝して、ぴったりと密着する体勢になり、香也の胸あたりを掌や指で撫でさすりはじめる。
「……代わりにぃ……わたしは、他の所を洗わせてもらいますぅ……」
 香也の背に、ぞわぞわぞわ、悪寒に似た痙攣が走る。
 香也も興奮しているが、二人の様子も、十分におかしい。性衝動を抑制する箍が外れかけている、としか思えない。声を聞くだけでも、二人が興奮状態にあることがはっきりとわかっ。た。
「……んふっ……では、失礼して……」
 孫子が、はぁはぁと荒い息を香也の股間に当てながら、男根の根本を指で固定して皮を根本にひっぱり、露出した亀頭に冷たいボディーソープを垂らしはじめる。
 ねっとりとした液体を敏感な部分に垂らされると、香也は思わず「うひぃ」という声を上げてしまった。
「……本当……敏、感……」
 孫子はうっそりとそういって、香也の亀頭に軽く指を押し当て、泡立てはじめる。
 まだ若く、経験も少ない香也はそれだけでも体中をがガクガク震わせるほどの快感を感じている。
「動いちゃ駄目ですぅ……」
 楓が、拗ねたような甘えたような声をあげ、香也の体にのしかかるようにして、激しく震えはじめた香也の体を押さえつけた。
 豊満な楓の胸もぴったりと香也の肌に密着しており、香也が打ちふるえるの似合わせ、乳首の先端の硬くなった部分が荒野の肋の辺りに擦りつけられる。
「……せっかく、才賀さんがぁ、きれいにしてくださるんだからぁ……」
 香也の体に半ばのしかかった楓は、自分も感じているのか、腰の部分、陰毛のある辺りをそれとなく香也の太股に摩擦させていた。
「あ。あ。あ」
 と、香也はうめいた。
 美少女二人にやさしく攻められているわけだが……香也の意志は見事なまでに無視されている。男として、それに人間としての尊厳を、踏みにじられている。しかし、彼女らの行為は、香也の性感をこれ以上はない、というほどに刺激している。
「……香也様の体……興奮して、綺麗なピンク色になっていますよ……」
 熱い体を密着させながら、楓は、香也の首筋から顎にかけて、ねっとりと口唇を這わせる。
「……これが……殿方の……」
 孫子の声も、明らかに熱を帯びていた。
「今……ピクッて動いて……熱い……硬い……」
 孫子は今では細い指でしっかりと香也自身を握っており、ボディーソープでぬるぬるになったそこの感触を確かめるように、前後にしごきはじめた。
「……だ、駄目! それ以上されたらぁ!」
 楓に押さえつけられたまま、香也の背筋を何度目かの痙攣の衝動が襲った。
「それ以上されたらぁ!」
 小さく叫んでから、孫子の手の中に盛大に射精し始める。

 孫子は、脈打ちながら、とどめもなく白濁した液体を先端から出し始めた手の中の物体を見つめながら、それでも握る手をゆるめず、出始めてから出終わるまでを、ごく間近で観察した。
 手の中で打ちふるえながら香也の男性がすっかり射精を終えたの確かめると、孫子は、
「……匂い……これが殿方の……香也の匂い……」
 と呟いた後、んふっ、んふっふっふ……と笑い始めた。
『……壊れてるよ! 楓ちゃんも才賀さんも壊れているよ!』
 射精の後の虚脱感に襲われながら、香也は、ぼんやりそんなことを考えている。
「香也クン!」
 いきなり、孫子が叱りつけるような厳しい声を発した。
「なんですか! あなたは! 人がせっかく綺麗にしているところに粗相をして!」
 それから、うってかわって優しい声で付け加える。
「……今、シャワーで流して、また洗ってあげますからね……」
「それでは、わたしはぁ……香也様の上のほうを……」
 楓は、香也の腹の上に跨って、自分の胸にボディソープを垂らし始める。
「……この体で、洗せてもらいますぅ」
 上から垂らしたボディソープを、まず、自分の体に塗りたくった楓は、そのまま香也の上体に倒れ込んで密着させ、すりすりと前後に揺すりはじめる。
 俗称、阿波踊り。
 んふっ。んふんふんふっ。
 と、孫子も笑い続けていた。
「……では、わたくしは……この敏感な部分を……今度は、お口で、洗ってさしあげます……」
 んふっ。
 と笑い声をあげて、孫子は、根本を掌で固定した香也自身の先端を、口に含んだ。
「……ちゃんと……舌で……きれいに……」
 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……と聞こえる水音の合間に、孫子は切れ切れに、そんなことをいっていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(32)

第五章 「友と敵」(32)

 ざっと顔を洗い、寝癖を直しただけで慌てて制服に着替え、鞄をもって外に出る。いつもは二人ともかなり余裕を持って起きるので、これほど慌ただしい朝は初めてだった。
 二人してくすくす笑いながら、マンション前に待っていたいつもの連中と合流する。樋口兄弟と飯島舞花、栗田精一はいつもの通りだったが、お隣りの狩野家に住む三人は、何故か、揃いも揃って憔悴した様子だった。
「……なんか、あった?」
 荒野は、合流したみなに尋ねてみたが、誰もはっきりとした返答はしてくれず、僅かに飯島舞花が「わたしも聞いたんだけど、答えてくれなくってな……」と言っただけだった。
 才賀孫子はあかるさまに顔をあさってのほうをむけて誰とも視線を合わせようとせず、松島楓は耳まで真っ赤にして俯き、一番やつれているようにみえる香也は、目の下に色濃い隈をつくって肩を落としている。

 ……なにも、聞かないでおこう……。
 そのほうが、平和だ……。

 荒野は、思った。
 しみじみと、狩野香也に同情の念を感じながら。

 いつもより数分遅れでぞろぞろと学校に向かっていくと、確実にいつもより多くの人に声をかけられた。特に、才賀孫子が。
 同じ制服を着た見知らぬ生徒たちが「囲碁の中継見たよー」と気軽に声をかけてくるのは分かるが、通りかかった家の見知らぬお年寄りまでが、庭木にホースで水をやる手を止め、「そこのお嬢さん、こんど寄って一局打っていきなさい」などと呼びかけてくる。顔見知りになった放送部やパソコン部の生徒たちも挨拶をしていく。
 そうした人々は、まだしも節度を保っていたが、そうではない、通行の邪魔になるほどに道路を占有して荒野たちの集団を取り囲むような生徒たちも、段々と出始める。学校に近づいてくにつれ、そうした生徒たちは確実に増えていった。荒野たちから少し距離をとって団子になっているのはたいてい女生徒たちで、時折、飯島舞花なり荒野なりが、振り向いて「なんか用?」とか「その辺に固まっていると、邪魔だよ」などと声をかけると、「きゃー!」と声を上げていったんは引き下がるが、すぐにくすくす笑いを漏らしながら遠巻きに追尾を再開する。
「……なんだ、ありゃ?」
 荒野がぼやくようにいうと、
「あー……あれ、孫子ちゃんのファンなんじゃあ……中継の時、凛々しく映っていたから……」
 舞花が、推測を口にした。
 孫子は、深々とため息をついた。

 学校に到着し、教室に入ると……荒野の教室、というのは、当然、孫子の教室でもあるわけで、孫子が鞄を机の上に置くか置かないかのうちに、わっと生徒たちが孫子の周りに集まってきた。
 要するに、「囲碁中継見た」ということなのだが、それまで孫子から距離を取って敬遠しているようだった奴らが掌を返したように寄ってくるのをみて、荒野はその現金さに内心で苦笑いをすると同時に、「結果的には、これでよかった」とも思った。
 孫子は、ホームルームが始まる時間まで同級生たちに取り囲まれ、質問攻めにあっていた。

 この時の荒野は、その時の孫子の様子が明日の我が身になるとは予想だにしていなかった。

 放課後になると、荒野は、部活がなかったのにもかかわらず学校に居残り、美術室に向かった。朝の事が気になったし、美術室に行けば香也は確実に捕まるはずだった。荒野と同じクラスであり、美術部員でもある樋口明日樹は都合良く掃除当番に当たっており、部活に出るのが少し遅れる筈だった。
 荒野が美術室にはいると、やはり香也は一人きりで絵を描く準備をしているところだった。荒野が片手を挙げて合図をしながら美術室に入っていくと、香也は、疲労の色濃い顔に無理に笑顔を浮かべて見せた。
「……昨日……っていうか、昨晩、なんかあった?」
 荒野は聞いた。
 放っておいてもいいようなものだが、楓が関わっていることはまず確実であり、そうなると荒野にも監督責任があるような気がした……。それ以上に、かなりダメージを受け、憔悴した香也の様子が痛々しくて、やはり、真相を究明しないわけにはいかなかった。
 荒野が心配そうな表情を浮かべ、真剣に尋ねると、香也は目尻にじわりと涙さえ浮かべ、「実は……」と、とうとつと昨夜の出来事を語りはじめた。
 香也にしてみれば、誰にでも相談できる、という悩みではないわけだし……わざわざ人目のない時と場所を選んでこうして聞きにきてくれた荒野の存在は、どんなにか、心強かったに違いない。

「……あー……」
 一通り、「香也が昨夜どんな目にあったのか」を聞いた荒野は、半ば呆れ半ば感心し、しばし、口を開けて締まりのない声を上げることしかできなかった。
『……この場に、樋口がいなくて良かった……』
 という思いと、
『……モ、モロ、おれの苦手なジャンルじゃねーか……』
 という思いが荒野の中で交錯する。
「……楓のほうには、それとなく、おれからいっておこう……」
 とりあえず、荒野はそう告げることしかできなかった。
 問題なのは……楓を抑えることができたとしても……もう一方の当時者、才賀孫子を抑える方法を思いつかない、ということで……こうした場合、どちらか一方だけを抑えると、かえって事態が悪化する懸念があったことだった……。
 そのことを香也に話して意見を聞こうとした時、ちょうど掃除当番を終えた樋口明日樹が美術室に入ってきてた。
 流石に、樋口明日樹の前で香也のこの手の相談をすることも出来ず……荒野は、でかかった言葉を曖昧に濁して、明日樹にそそくさと別れの言葉をかけて、さっさと美術室から退出した。
 樋口明日樹は、荒野が美術室に居たことを、明らかに不審に思っているようだった。

『……まさか、そこまでエスカレートしているとはなぁ……』
 廊下を歩きながら、荒野は、内心で冷や汗をかいていた。
 ……同居している異性二人に同時に言い寄られ……そのどちらのアプローチにも、応じるつもりはない……にもかかわらず、その二人は、揃って実力行使を躊躇わない性格であり……同時に、お互いに対する敵愾心も、非常に強い……。
 香也が置かれた現状というのは、つまりは、そういうことだった。
『……難問だぞ、これは……』

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彼女はくノ一! 第四話 (40)

第四話 夢と希望の、新学期(40)

 香也は眼を白黒させながら、とりあえず、楓のいうことをおとなしくきいている。
 事態の推移に、理解力が追いつけないでいる……らしい。
「いいですか? わたしは、気にしません。
 このまま静かに、一緒にお風呂に入りましょう……」
 ねっとりとした声で、楓は香也の耳元に囁いた。

 楓は楓で、ここ最近、焦る気持ちが強くなりつつあった。
 才賀孫子……の、存在。
 最初のうち、むしろ香也を嫌っていたように見受けらた彼女は、年を越す当たりから露骨に香也との距離を縮めにかかっている。しかも、効率的に外堀を埋めて、香也に逃げられないように細工した上で……である。
 この辺、なんの戦略もなく猪突盲信気味に迫りがちな楓との性格の差がでるところでもあるわけが……ともかく、楓にしても、座して「果報は寝て待て」とばかりにどっしりと構えてばかりも、いられなくなっている……。

 そんか楓の思惑は知らず、香也は、首を振って抵抗し、脱衣所の方に逃げようとする。
 楓は、香也を羽交い締めにして、と脱衣所へと続く戸を閉めようとした。
 戸さえ閉めてしまえば、脱衣所には香也の服が残される。脱衣所に香也の服が残されている状態になれば、この家の他の住人は、風呂場の中に入り込めなくなる。
 香也の声も封じた現在……しばらくは、二人っきりの密室、になる筈だった。
 しかも……二人とも全裸。

 楓にとっては、またとない好機といえた。

 しかし、楓の目論見通りには、事は運ばなかった。
 楓が閉めかけた戸を、一見華奢にみえる細長い指が、阻む。
「……な、に、を、し、て、い、る、の、か、し、らぁ……」
 台詞を一音節ごとに区切って、楓が閉めようとした戸を無理にこじ開けて入ってきたのは……才賀孫子、だった。
 楓よりもむしろ、香也のほうが、孫子の形相と気迫に引き気味になっている。

「……ふぅん……そう……そういうこと……」
 脱衣所と風呂場の中の二人の様子を冷静に観察した孫子は、事態の本質を即座に理解したようだった。
 楓が睨み付けているのにも関わらず、孫子は余裕のある表情で裸の楓と香也を眺めている。
 香也の喉元に刺さったままの針をしげしげと見つめ、どうやら香也は、騒ぎたくとも騒げないらしい……と見当をつけた孫子は、楓ににんまりと笑いかけ、自分の服のボタンを外しはじめた。
「いいですわね、裸のおつきあい……。
 でも……わたくしだけ仲間外れ、というのはなしにしてほしいですわ……」
 孫子は、負けん気が強かった。
 以前にも、この同じ風呂場で、羽生譲が、今の楓と同じように香也に迫っていたのを目撃してもいる。
 楓や羽生譲がやっているのに……なんで、自分が同じ事をやってはいけないのだろう?
 一端、脱衣所のほうに向かいかけた孫子は、半裸のまま風呂場にいる楓と香也のほうに振り返り、ドスをきかせていった。
「でないと……大声を、あげますわよ」

 ……なんでこうなるんだろう……と、香也は思っていた。
 香也の両脇には、全裸の楓と孫子が取り付いていている。三人で湯船に入っているため、お湯が湯船から盛大にあふれ出た。楓と孫子は、お互いの動きを気にしながら、自分の胸を香也の腕に擦りつけるようにして抱きかかえている。
 喉の針は、すでに抜いて貰っている。こうして三人で仲良く湯船に浸かっている今では……下手に騒ぎ立てても、誰も香也の潔白を信用しないだろう。実際、香也のあそこは、お湯の中で「これ以上ない」というくらいに勃起している。
 全裸の美少女二人を左右に侍らせた健全な年頃の男の子としては、当然至極な反応だった。
 それでも香也は、真っ正面を向いて、左右にも下のほうにも、極力視線を向けないように努力していた。
 下を見れば、同年配の少女のあられもない裸体が、目に入る。
 左右をみれば孫子や楓の横顔が間近にある。
 どちらの方をみても、香也にとっては……どうにも居心地が悪いのであった。
 香也の顔に、みっしりと汗が浮かんでいるのも、決して、風呂の水温のせいばかりではなかった。
 香也の意志によって現在の状況があるのなら、香也とて、現在のような状況は、歓迎すべき所だったろう……。
 しかし、現実には……。
「ちょっと、あなた。くっつきすぎではなくて?」
「えー。これくらい、スキンシップのうちですぅ」
「そう……。では、わたくしも……」
「……うっ。じ、じゃあ……こういうところ、なんかも……ぴと」
 なんだかんだいいながら、楓と孫子は、競うようにして香也の体をまさぐったり首筋や耳に息を吹きかけたりしている。
 競うように……と、いうよりも、どうみても、完全に、対抗意識を剥き出しにして……香也の体を愛撫しはじめる。男性経験のない孫子は、楓の動きを後追いで真似しているような感じだが、その楓にしてからが、経験豊富、というわけではない。
 要するに香也は……楓と孫子の性的な好奇心を満足させるための、玩具と化していた。
 もちろん、両脇から全裸ですり寄られれば、悪い気はしない……どころか、やーわらかい感触とか、ほのかに鼻腔をくすぐる甘い香りとか、なんともいえない気分にはなってくるわけだが……だからといって、完全に理性を失ってどちらかに襲いかかったりすれば、残った方から容赦ない攻撃が来るのは必須であり……一方的に弄くられて内圧は高まっていくが、それを発散させる場があらかじめ塞がれている、という状況であった。
 一見天国、実態は地獄。
 ……それでいて……もともと対抗意識が強い楓と孫子は、香也を挟んでにらみ合い、どちらかが太股に手を這わせれば片方も従う。耳たぶを甘噛みすればもう一方も真似をする。両脇から首筋を舐め廻されたり、太股に両足を絡ませたて恥丘や陰毛を擦りつけられたり……と、二人の行為はどんどんエスカレートしていくのであった。

「あっ」
「あっ」
 香也の両脇から、同時声がして、二人の動きが止まったのは……二人がほぼ同時に、香也が鼻血を出しはじめたことに気づいたからだ。
 二人は慌てて香也の体を両脇から抱えて湯船から出し、洗い場の上に横たえた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(31)

第五章 「友と敵」(31)

 物心ついて以来、茅の意識は常に明晰であり、感受できる全ての事象を脳裏に刻み続けた。睡眠中も例外ではない。見る夢でさえ、総て、記憶してしまう……。年末にみんな口にしたアルコールも、茅の意識を混濁する所までは影響を与えず、多少気分を高揚させただけだった。

 そんな明晰な茅の意識が、荒野と肌を合わせ、愛撫され、侵入されると、いとも簡単にとろけてしまう。何物にも乱すことができない茅を、簡単にかき乱す荒野との行為は、茅にとっては麻薬にも等しい魅力を持っていた。
『……求めすぎては、いけない……でないと、簡単に、自分は壊れてしまう……』
 という警戒心と、
『もっと荒野との行為に没入して、我を忘れたい……』
 という要求との間で、茅は常に揺れている。

 荒い息をつきながら、汗だくになった体を荒野の胸の上に放り出していると、荒野が優しく茅の髪なでていた。
『……また……』
 行為の途中から、意識が飛んでいた。

 股間に硬さを残している荒野が入ったままなのを感じた。陰毛のあたりにこびりついた粘液が、そろそろ乾きはじめている。
 荒野は必ず避妊具をつけるようにしていたから、無我夢中になった茅が、そのまま放出するよう、「おねだり」したのだろう……。
 意識が飛んでいた時の自分の痴態を想像して、今更ながらに、茅の頬が熱くなる。
 茅は、他の一般人よりは意識的に自分の体をコントロールできる。普通の人が意識して操作できない不随意筋や臓器も、その気になりさえすれば、自分の思うままに操作することができた。「発見」され、あの廃村から救出されてからこっち、自分の生殖機能を停止していたのも、茅自身の意志によるものだが……。
 荒野に抱かれるうちに、自分の中に放出するように言っていたのだとすると……茅は、自分でも気づかないうちに、荒野を……荒野の子を懐妊することを、無意識裡に強く求めていたのかも知れない……。
 妊娠する事への不安はあまりなかったが、荒野が現在の生活を維持するために並々ならぬ努力をしていることも、知っていた。だから、茅ももっと自制して、気をつけなければいけない。

 情事の後、いつも感じる気怠い気分に浸りながら、茅はそんなことを考えている。

 ことさらに荒野の胸に頬をすりよせ、荒野の心音に耳を澄ましながら、茅は、徐々に息を整えていく。荒野の温度、荒野の(汗の、吐息の、精液の)臭い、荒野の(呼吸、心)音……ぐったりと体重を預けて、荒野に髪を撫でてもらう時間が、茅は好きだった。
「……荒野……」
「ん?」
「好き。荒野のこと、好き」
「あ……ああ……。おれも。
 おれ、茅のこと、好き」
 考えてみると、改めてそういいあったことはなかった。
 いつも近くに、身近にいることが当然の存在になっていて……体を重ねるようになってからも、二人とも、それ自然だ……という空気があって……。
 お互いに対する気持ちなんか、改めて確かめるまでもない……というのが、いつの間にか、暗黙のうちに、前提になっていたような気がする。

 茅はゆっくりと身を起こし、自分の中心から荒野の分身を放して、ベッドの上に正座をする。
 そして、
「ふつつかものですが……」
 と、三つ指をついて深々と荒野に頭を下げた。
 荒野は一瞬あっけにとられたが、咳払いを一つすると、茅にならって慌ててベッドの上に座り直し、
「こちらこそ……改めて、よろしく」
 と、頭を下げた。

 数十秒ほど額をこすりつけるように頭を下げあってから、照れたような笑いを浮かべながらどちらともなく身を起こし、手をとりあってシャワーを浴びに行く。汗とその他の体液で、体中べとべとだったし、シーツも替えなければならなかった。
 汗を流して再びベッドに戻ると、当たり前のように身を寄せ合いながら、
「ずっといっしょにいような」
 と言い合ううちに、いつの間にか寝ていた。
 二人とも夢も見ずにぐっすりと寝入ったおかげで、恒例の朝のランニングをする時間はなくなってしまったし、それどころか、朝食抜きで登校しなければならないハメになった。

 翌朝、荒野と茅は、飯島舞花がインターフォンを押して呼びに来るまで、寝続けた。

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彼女はくノ一! 第四話 (39)

第四話 夢と希望の、新学期(39)

 羽生譲に即されて母屋に戻った楓は、手渡されたエナメル・レザーのボンテージ・スーツに着替える。何というか、露出度がやたらと高い恰好で、脇の下から脇腹にかけては前後のレザーを紐で結んでいるだけで、上から下まで肌が直接露出している。体のラインがモロにでているのはもちろんだが、この構造だと下着を来ていると脇から見えてしまうので、全裸になって直接身につけないとならない……というのが、まず恥ずかしい。不幸中の幸いとして、レザーがかなり厚手のものだったので、下着をつけなくても乳首などが浮き上がっていない……という事があげられたが、だからといって楓の羞恥心が軽減されるものでもなかった。
 一度、自分の全身を鏡に写してつくづくと見る。
 ……確かに、以前羽生が指摘したように……出る所は出て締まるべき所は締まっている楓のポロポーションが、一層強調される恰好だった。
 見ているだけで照れ照れになった楓は、肩にジャケットを羽織り、部屋を出て玄関に向かう。編タイツに包まれた足を、コスチュームの色に合わせた真っ赤なブーツに突っ込み、ブーツの紐を慎重にしめる。その間も、顔が自然に火照ってくるのを自覚できた。
 そのまま庭にでると、既に着替え終わっていたフリルとかリボンがふんだんにあしらわれた黒いノースリーブのブラウスにミニスカート、背中に小さなコウモリの羽の作り物を付けた才賀孫子が、羽生となにやら話し込んでいた。
「おー。くノ一ちゃんも来たかー……」
 どてら姿の羽生は、楓の姿に気づくと片手をあげて楓を招き寄せた。
 庭には顔なじみになっている放送部員たちが何人か集まってきていて、楓のほうに目礼したり片手をあげてきたりする。楓はジャケットの裾で自分の体を極力隠しながら、挨拶を返しつる、羽生のもとに歩み寄った。
「……しかし、くノ一ちゃんも孫子ちゃんも……こうしてみると、足、長いよなー……」
 羽生は無遠慮に楓たちの腿のあたりに視線を這わせる。ハイレグのレザー・スーツ姿の楓はもとより、孫子のスカートもかなり短いので、二人とも足の根本まで、大部分が剥き出しになっている。楓がむっちりと肉感的な、孫子がすらっとシャープな輪郭をもっていた。
「くノ一ちゃん……露出度的にはあれだけど、それだけスタイルいいと、そういう恰好もよく似合うよ……」
 羽生は真顔で楓に請け合った。まんざら、お世辞、でもないらしい。
「もちろん、孫子ちゃんも……」
 いまいち羽生の言葉を信用していない楓とは対照的に、孫子は、称賛されて当然という顔をして頷いた。
 それがきっかけになって、回りにいた放送部員たちがわらわらと集まってきて、楓と孫子の容姿を熱心に褒めはじめた。自転車で乗り付けた玉木珠美が制止するまで、楓と孫子は彼らに包囲されて身動きがとれなかった。
 そのうち、写真館のご隠居、羽生譲がどこからか連れてきたメイクさんやら美容師さんやらが集まってきて、手際よく楓たちの見栄えを整えていく。ちょうど、楓と孫子のセットが終わったあたりで加納兄弟も合流してきて、撮影が始まる。

 楓にとっての撮影は、やれ、と言われたことを次々にこなしているうちにあっと言う間に終わったような感じで、一日がやけに短かった。羽生とかご隠居とかのオーダーに応じることに夢中になって、自分が恥ずかしい恰好をしていることも、すぐに意識から消えて、自然体で、言われるままにポーズをとったり他のモデルたちと戯れたりしているうちに、気がついたら日が暮れていた。他人の言われるままに体を動かしていくのはそのままなにも考えずに過ごせるから、楓にとっては楽な状態だった。
 途中、昼の休憩の時に、昨日の囲碁対決の時に流した映像を庭に持ち出したノートパソコンに表示させると、孫子が慌てふためいて自分の体を使ってその画面を隠したこととか、例によって香也が即興で撮影に使う背景を描いたこと、などがポツン、ポツン、と記憶に残っている。昨日配信した孫子の映像は、才賀鋼蔵から送られた映像を玉木が編集したもので、その冒頭に、生後一年くらいの孫子がオールヌードで水浴びをしている映像もあった。

 そんな感じであっという間に夕方になり、みんなが引き上げて、狩野家の住人だけが残る、途端にそれまで感じる余裕がなかった疲労を感じ始め、ぐったりとなった。ほぼ一日体を締め付けるような衣装を身につけていたので、妙な疲れ方をしている。楓は自分の部屋に引き上げる途中、狩野真理に「お風呂が沸いているから」と言われたので、衣装を脱いでバスタオルを体に巻いただけの恰好で替えの下着だけを持ち、ふらふらと風呂場に向かう。どうせ家の中、という安心感もあったし、夕食前に香也がプレハブから出てくることは滅多にない。窮屈な衣装から解放されたばかりで、自室から風呂場までの僅かな距離を移動するのにパジャマを纏うのも、今はひどく億劫だった。
 脱衣所の床に下着を置いて、その上に体に巻き付けておいたバスタオルをはずし、畳んで重ね、シャワーを浴びてから、ゆっくりと湯船につかってウトウトしていると、入り口の戸が開き、「孫子か羽生かな」と思って視線をあげると、全裸の香也が呆然とつったっていた。

 今日は庭が騒がしかったため、いつものように集中できなかった香也は、早めに切り上げて母屋に戻った。玉木珠美は残っていて羽生譲の部屋で一緒に動画の編集作業に勤しんでいるようだった。孫子と楓は自室に籠もってのか、居間にはいなかった。真理は台所で夕食の準備をしている。
 夕食までまだ間があり、居間に誰もいなかったので、早めに風呂に入ることにする。脱衣所に畳んだバスタオルが置かれているだけであることを確認した後、香也は服を脱ぎはじめた。多人数の女性と同居している関係上、香也が風呂に入れるタイミングは以前よりも図りがたくなっている。脱衣所に誰かの服が置いているのに気づいて慌てて風呂場から去った「ニアミス」も、何度か体験していた。だから、「空いている時にさっさと入っておく」、というのが、最近の香也の風呂に関する習慣になっている。
 だから、脱衣所に衣服が見あたらなかったのにも関わらず、戸を開けると湯船の中に楓の頭部が浮かんでいるのを見つけた時……香也は、軽いパニックに襲われた。
「……あ。あ……」
 ごめん! とでも叫んで咄嗟に後ろを向いて入り口の戸を閉めれば、なにも問題は起きなかったのかも知れない。
 しかし、香也が戸惑ったわずかな時間に、楓は動き出していた。
 楓は楓で、驚きもし、戸惑いもしたが……いつもとは違い、脱衣所にバスタオルしか置かれていない現状にすぐに思い当たり、咄嗟に香也の声を塞ぐことにする。
 間違いにせよ何にせよ……この状態で騒がれるのは、まずい。
 そう思って、常時喉の奥に仕込んでいる針を吹き出して、香也の喉元に突き刺す。
 図らずも、以前と同じ風呂場で、同じように香也の声を封じ、声帯を麻痺させた。以前と同じ、声がでないようにするツボだった。
 香也が突っ立ったまま自分の喉元に刺さった針を呆然と見下ろしているのを確認してから、楓は湯船から上がって恥ずかしげ気なく見事な裸体をさらし、香也の元に歩み寄る。
 考えてみれば……これは、好機、なのではないか。
 呆然と立ったままの香也の肩にしなだれかかり、耳元に息を吹きかけるようにして、
「……騒がないください……。
 他の方に知られると、いろいろ面倒です……」
 と囁く。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(30)

第五章 「友と敵」(30)

 荒野が奥まで入り込んだ部分は、すでに必要以上に濡れて硬直を迎え入れていた。茅が内部に侵入したモノを自分の内壁に擦りつけるように腰を蠢かすとそれだけでとどめなく奥の方から液体が滲みでてくる。
 荒野と繋がっている確かな証拠を感じ、茅は、我知らず熱い吐息を荒野の頬にぶつける。茅の口と荒野の口も相変わらずぴたりと重なったままで、荒野の上に乗った茅は、腰部と口内の二カ所で荒野と繋がったまま、荒野を責め立てる。荒野を責め立てながら、冷静に茅と荒野の身体活動の推移を観測している茅も、同時に存在している。
 どんな時にも、茅の知性は休まない。五感全てを使って茅の体験をする詳細な部分まで観測、記憶し、以前に同様の体験があるのなら異動を図り、より効率的な方法を模索する。
 茅は、自分が以前よりも乱れやすくなっているのを観測した。反対に、荒野のほうは以前よりも余裕がでてきているのも観測した。
 茅が必死になって責め立てているのにも関わらず、どうもより多く感じているのは、茅のほうらしい。
 それが悔しくて、茅はさらに工夫を凝らして、荒野の上で踊る。が、そうすることで、より多くの快楽を受けるのは、動いた茅の方、なのだった。

 しばらくして、汗まみれになった茅は、荒野の上でぐったりと動かなくなった。
「……どうしたんだ? 茅? 今日は随分……」
 熱心じゃないか……とまでは、荒野も口にしなかった。茅にだって性欲が、したくなる時はあるのだろうが……それを素直に本人の前で口にするのは、あまり懸命な態度とはいえないように、荒野は感じた。
「……むぅ……」
 茅は、荒野の胸に突っ伏したまま、拗ねたような呻き声をあげる。
「……荒野……あまり、感じてない」
 茅は、荒野と茅の体臭、体温、発汗量、呼吸……などの変化を観測し、以前の経験時の記憶と比較する。どのような観点からみても、一方的に動いた茅が、一方的に感じて、そしていってしまった……ということだ。茅の中に刺さったまま、荒野は硬度を保っている。
「……そんなこと、ないって……」
 荒野は苦笑いした。
 荒野とて、経験豊富というわけではない。今回の行為に関していえば、こっちが盛り上がる前に茅がヒートアップしてし先に果ててしまった……と感じていた。
「……少し休んだら、今度は、おれが動くから……」
 茅の髪を撫でながら、荒野はやさしくそういうと、茅はますます不機嫌になった。

 それ以上口先で茅を慰撫するのは無理だ、と判断した荒野は、繋がったまま少し茅を休ませて、息が整った頃を見計らって、半身を起こし、茅の体を抱きしめて上体を密着させた状態で、下からゆっくりと突き上げる。
「……くぅ……うはぁ……うぅ……うぅっ……」
 荒野が動きはじめるとすぐに茅の息が乱れはじめた。茅は腕を荒野の肩に回しすがりつきながらも、甘い吐息を漏らすまいと下唇に力を込めている。
 調子がでてきた荒野は、腰だけではなく、茅のヒップに両手を添え、腕の力で茅の体を持ち上げて、上下にがくがくと大きく揺さぶる。
 荒野自身を軸にして、何度か上下運動を行っているうちに、茅は堪えきれなくなったのか、「はぁあっ!」とは「うはぁあっ!」とか、うめき声を上げはじめる。
 じゅぶじゅぶじゅぶ、と、茅の中心から水音が聞こえはじめる。
 荒野は、茅を揺さぶりながら茅の表情を観察した。頬は上気し、半眼になった眼は濡れたような光を放っている。一言でいうと、恍惚とした表情だった。
「茅……気持ち、いい?」
 荒野はそんな茅に尋ねた。
「……いい……」
 茅が、か細い声で、なんとか答える。
「茅は……おれとこういうことするの、好き?」
「……」
 今度はなにも答えず、茅は、悔しそうな顔をして、荒野の口唇を自分の口唇でふさごうとする。
 背を反らしてそれを回避した荒野は、「……まともに答えるの、恥ずかしいのかな……」と思った。
 はにかんだような表情をして顔を伏せている茅を、可愛く思った。そして、さらに腕に力を込めて、がくがくと、わざと乱暴に茅の体を揺さぶる。
 荒野が入っている部分から、なま暖かい、夥しい液体が漏れてきて、荒野たちの股間を濡らす。
「聞こえる? 茅……。
 凄い音、している……」
 茅は恥ずかしそうに顔を伏せたままだったが、荒野の顔は愉悦に輝いていた。
 茅をコントロールしている、という支配欲が満ち足り、また、ぬるぬるに濡れながらもぎちぎちと荒野自身を締め付けられた部分の摩擦からくる快感が、荒野に愉悦を与えている。
 荒野は繋がったままゆっくりと茅の体をベッドの上に押し倒し、茅の両股を両手で抱えるようにして自分の動きの自由度を確保し、その体制で、存分に送出し始めた。
 茅がのけぞり、喉の奥から、
「がはぁ!」
 と空気を絞り出す。苦痛の表情では、ない。
「あ。あ。あ」
 上になった荒野が存分に送出し始めると、その動きに合わせて茅は身を震わせて息を吐いた。体全体が、小刻みに揺れている。
「いい? 茅、気持ち、いい?」
 先ほどと同じ問いを、荒野は、またした。
「いい! いい!」
 茅は、下から荒野にしがみつきながら、大声をだしていた。
「いいの! 気持ちいいの!」
 茅は、両腕と両足を使って、荒野の体にしがみつく。
「もっと! もっと!」
 荒野は茅の口唇を奪って、さらに夢中になって茅の内を貪った。
 荒野の動きがひときわ乱雑になると、荒野に口をふさがれていてさえ、茅の喉からでてくるくぐもった呻きを止めることはできなくなった。
 荒野自身もまた、自分の下で身もだえしている茅を見て、急速に上り詰めているのを感じた。
 茅と繋がっている部分が、熱を持ち始めている……ように、感じた。
「……来て! 荒野! 中に!」
 荒野の終着が近いと感じたのか、茅が、無理に荒野の口を避けて、耳元で、叫んだ。
「荒野の! 欲しい! 欲しいの! このまま!」
 目もくらむばかりの快楽に半ば頭が白くなっていた荒野は、茅の主導で始まった今日は、なんにも避妊の準備をしないまま繋がってしまった、ということに思い当たりながらも、このまま茅の中に放つ誘惑に逆らえなかった……。

 荒野は、灼熱の塊を茅の中に解放した。出している間中、茅の体はビクンビクンと跳ね上がり、荒野は、荒い息を吐きながら、どこか虚ろな気分で茅のことを見下ろしている……。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第四話 (38)

第四話 夢と希望の、新学期(38)

 翌朝、いつもの時間に自然に起きた楓は、いつものように真理が用意した食事を摂り、自室として使用している部屋の掃除を済ませた。掃除、といっても、楓は私物が極端少ないので、すぐに終わる。
 それから香也のプレハブに行く。楓は、わざと一般人並に物音をさせて中に入った。以前、無意識に物音をさせずに忍び入って、しばらくたってからようやく楓の存在に気づいた香也をひどく驚かせた経験があり、以来、楓は、プレハブに入る時は、うるさくない程度に物音をたてて入るようにしている。香也の集中を妨げるのは本意ではなかったが、必要もなく香也を驚かせるのも楓の好むところではなかった。
 やはり香也はいつものように絵を描いていた。今日は才賀孫子や加納荒野などの姿は見えず、プレハブの中には香也しかいない。このプレハブがたまり場のようになている最近では、珍しかった。
 振り返って楓の姿を認めると、香也は頷いて、すぐに描きかけのキャンバスに向き直った。同居している関係上、朝の挨拶はとうに済ませている。
 しばらく、香也は目前と絵を描き、楓は灯油ストーブにあたりながらその背中を見守っていた。
「……んー……楓ちゃん……」
 が、香也が、手も止めず、振り返りもせずに、不意に、いった。
「なにか、悩んでいる?」
「え?」
 香也に言われた事が即座に理解できず、楓の思考が、瞬時に凍結する。
「え? ……ええ、っと……」
「……んー……勘違いなら、いいけど……昨日から、なんか元気がない」
 ……この人は……どうして、こう……ぼーっとしているように見えて、鋭いのだろう……。
「……んー……ぼくでは頼りないかもしれないけど、なにか、愚痴くらいは、聞けると思う……」
 香也は、相変わらず手を止めない。後ろから見える耳が、真っ赤だった。
 多分……楓の異変に気づいても、香也は、他人の目のあるところで楓に面と向かって尋ねるのは気恥ずかしくて……こうして、二人きりになって、同時に顔を見合わせなくても不自然ではない状況になって……初めて、楓にまともに尋ねることができたのだろう……。
 あまり人に慣れていない香也の性格を考えると、かなり努力してくれている……と、楓は思った……。
 そう思うと楓は、なにやら無性におかしくなって、クスクス笑い出してしまう。
 香也は楓の押し殺した笑い声を聞いているのだろうが、相変わらず手を動かしながら、耳を真っ赤にして楓の返答を待っている。
 そんな香也の様子をみた楓は、昨夜から自分が抱えていた鬱屈や悩みが、急に馬鹿馬鹿しくなった。
 香也は香也で、香也のままここに……楓のそばに、いる……。
 それだけで、十分ではないか、と。
「……ごめんなさい。笑ったりして。安心したら、急に、笑いたくなって……」
「安心……できた?」
「……はい……」
「……ぼく、この家に来る前から、絵は描いていたそうだけど……」
 急に、香也は楓に話し出す。
 自分のことを話そうとしない香也が、自分からこういうことをしゃべりだすのは、珍しい。
「……そうだけど、というのは、その頃のこと、ぼく、あんまり覚えてないからで、でも、以前から、子供が使うクレヨンとか色鉛筆でなにかしら描いていった、って、真理さんがいってた。
 で、ね……ぼく、覚えている中で一番古いことっていうのが……この家に来てから、順也さんに筆や絵の具の扱い方を教えて貰った時のことなんだ……」
 ……それ以来、ずっと描いている。描き続けている……。
 でも、だからこそ……ぼく、本当に絵を描きたくて描いているのか……よくわからないことがあるよ……。
 惰性、というか……ほかにやることがないから、知らないから、しかたなく絵を描いているんじゃないか、って……。
「……ぼく、自分がなにを描きたいのか……実はよく、わからないんだ……」
 そういう香也の背中は、楓にはとても小さく見えた……。

「……香也様……」
「え?」
 突然、後頭部の至近距離から楓の声が聞こえたので、香也は振り返ろうとした。
 ものすごく間近に、すぐそこに、楓の顔が迫っていた。
「……ちょっと……背中、貸してください」
 香也が返事をする間もなく、楓は香也の肩にすがりつくように体を密着させる。香也の肩胛骨あたりに頬を押し当て、両腕を香也の胸に回す。
「……心臓の音……聞こえます……」
「……あ……や……ま、まずいよ、楓ちゃん……」
 落ち着いた声で告げる楓と、狼狽した声で返す香也。
 密着している、ということは、楓の豊かすぎる双丘も香也の体に押しつけられている、ということで……。
「……こうしていると……安心……落ち着けるんです……少し、このままで……」
 香也の心音を聞きながら、うっとりと目を閉じる楓と、早くも反応し始めている自分の身体的な変化を気取られないように焦りはじめる香也。
「……鼓動……早くなってます……なにか、興奮してます?」
 香也の変化に気づいているのかいないのか、楓はそんなことを言い始め、ますます香也を慌てさせる。
「……いや……あの……その……」

「……おーい! こーちゃん! くノ一ちゃん、こっちきてっかぁ?」
 その危うい均衡を破ったのは、突如乱入してきた羽生譲だった。
「そろそろ着替えたりなんだり、撮影の……」
『……準備を』といいかけ、羽生譲は一塊りになって固まっている香也と楓の姿に、気づいた。
 羽生は、表情を凍り付かせたまま、ゆっくりと開きかけた入り口の引き戸を、閉める。

「……ち、違うんだ、譲さん!」
「……あの、これ、そういうんじゃないんですぅ……」
 香也と楓は、慌てて外に出て、その場を離れようとする羽生譲の後を追いすがる。

 結局、楓は、香也と羽生譲の二人に、自分が抱える不安について詳しく話すことになった。
 楓の説明はたどたどしく、話しが前後して決して理解しやすいものではなかった。全て話し終えるまでに十分少々かかった。
 一通りのことを聞き終えた羽生譲は、ぽん、と優しく楓の頭の上に掌を置いた。
「……あのなぁ、楓ちゃん……」
 羽生譲はいった。
「……そんな悩み、君らの年齢の子なら、普通に抱えているもんなの……。
 ようするに、あれ……自分が何者か、何者になれるかなれないかわからない、って、そういう話しだろ?」
 羽生譲は思った。
 楓にしろ、孫子や加納兄弟にしろ、能力的な部分をみると、そこいらの大人以上のことをやってのける。だから、ついつい忘れがちになるが……。
 ……どんなに卓越した能力を持とうとも、彼らは、子供だ。
「……君らの年頃で、そんな事に揺るぎない確信を持っていたら、そっちのほうがよっぽど不自然で気持ち悪いって……だから……」
 悩んでもいいんだよ……。
 と、羽生譲は続けた。
『……自分が何者か……なんて、わたしにもわかんないよ……』
 内心で、そう思いながら。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(29)

第五章 「友と敵」(29)

 茅は観測し、全てを記憶する。特に、荒野の事を。
 荒野の体温を、鼓動を、唾液のぬめりを、自分の肌をまさぐる指先の感触を、そこだけ熱くなって起立する男性器を。
「……茅、明日も学校があるんだよ……」
 いつもは自信に溢れている荒野が、珍しく気弱な声でいう。
 茅の体力を心配して、激しい行為を遠慮しているらしい。
「……大丈夫なの」
 そんな荒野が可愛くなって、茅は、荒野の上に馬乗りになって、舌で、荒野の口の中を蹂躙する。同時に、いきりたつ荒野自身の先を、自分の秘裂に導く。
 夜、夢を……記憶を、自分の意志で整理することを何時間かやめれば……心肺機能や循環器への負担は軽くなる筈だった。今夜はぐっすりと……普通の人間がするように、全てを無意識に任せて、ぐっすりと眠りたい。
 可能かどうか分からなかったが……できれば、夢も見ずに。

 以前、荒野に「本当の年齢」を尋ねられた時に答えたように、茅の最も古い記憶は、まだはいはいをしていた頃のものだった。以来、茅は「全てを」記憶している。観たこと、聞いたこと、嗅いだこと……あるいは、肌や舌で感じたことまで、全てを。
 茅の完璧に過ぎる記憶力は、睡眠中にみる夢の世界でも存分に発揮され、最古の記憶から三年と五ヶ月ほど過ぎたある晩、不意に幼い茅は、「夜みる夢は、自分が昼間経験したことがらを整理するために飛び交うイメージを断片的に観測しているのではないのか」、というアイデアを得た。それから数ヶ月かけて茅は自分の夢を観察し、丁寧に分類し、法則性を見いだし……そしてついには、茅自身の意志で、睡眠中に茅自身の記憶を編纂するコツのようなものを掴んだ。
 恐る恐る、何度か試してみた結果、睡眠中、無意識に任せるよりは、茅自身の意志により恣意的に記憶を編纂する方がよほど記憶情報の圧縮効率が良い、ということと、そうした行為は、茅自身の脳細胞を過剰に稼働させ……結果、稼働する脳細胞に必要な酸素や養分を補給するため、茅自身の体に過度の負担をかける……ということが、分かった。
 寝汗で全身をびっしょりと濡らし、仁明に抱き起こされて目を醒ましたことで、茅は、今の自分の体には負担が多すぎる行為だった……ということに気づかされた。
 結局、その「自分の夢への介入」は、「茅がもっと成長して、体力をつけてからの課題」ということになり、かわりに、茅は、観た夢を片っ端から記憶にとどめた。茅が夢に興味を持ち、少しでも夢見る時間を長くしようとした結果、茅の眠りは常に浅いものになったわけだが、仁明と過ごした数年は廃村から一歩も出ない生活で運動量もたかが知れていたので、特に問題はなかった。
 茅は、この土地に来て、毎朝走るようになって初めて、幼い頃の予定、「自分の夢に積極的に介入し、自分の記憶を自分の意志で整理する」という行為を達成する事が出来た。
 そうした着想を得た幼い頃はともかく、今の茅は、起きている時と寝ている時間に観る夢、その全てを難なく記憶しておける自分、というものの異常さを充分に自覚しており、だから、荒野にも、自分の人間離れした部分を全て明かしているわけではない。荒野自身も、一般人とはかなり異なった生態と性能を持っていたが、茅の異常さはそれを上回る。何ヶ月も寝食を共にし、荒野の性格をかなり把握している今では、多少の事で荒野が茅から離れていくことがない、と、分かってはいたが……そうした予想よりなにより、茅は、万が一、あるいはそれ以上に僅かな可能性であっても、荒野が自分の元を去っていくのを恐れていた。

 例えば茅は、体温や鼓動、体臭などを観測できる距離であれば、他人の感情の推移がある程度性格に推察できる。茅の耳目、それに鼻、が、常人よりも効く、というわけではないが、茅には些細な変化も見逃さない観測力があり、数分前、数十秒前の体温や鼓動、体臭などの記憶を瞬時に検索し、比較することができる。
 このような能力は、茅が多くの人に触れ始めた、この土地に来てから、茅が元々持っていた記憶力、観察力、推論能力……などが結びついた結果、開花した能力で……そんな茅だからこそ、荒野たちが「気配断ち」と呼ぶあの独特な歩法も、一度観ただけでその原理を喝破し、容易に真似することが出来た。
 その事について、荒野はどうも「茅は一度歩法について訓練を受け、その記憶を佐久間の者に封じられている」と思っているようだが……その思いこみを訂正することは、茅の異常性を改めて荒野に意識させることにもなり……だから、茅は荒野の推論を未だに訂正することが出来ないでいる。

 ようするに茅は……荒野と離ればなれになることを、自分でも異常だ、と思えるほどに、恐れるようになっていた。
 もちろん、以前育ててくれた仁明にも、それなりに親しみは感じていたわけだが……仁明に対する感情と、荒野に対する感情とでは、明白な差異がある……と、茅は思っている。
 完璧な記憶力を持つ筈の茅は、少しでも多くの時間を、荒野の側で過ごし……さらに可能ならば、肌と肌と触れあわせて直接体温を感じ、鼻腔を荒野の体臭で見たし、全身の五感で荒野感じたいと思っている。
 何故か荒野は、自分からは茅を求めることが少なく、結局、我慢できなくなった茅が、自分でもはしたないと思いつつも荒野を挑発して、関係が始まることになる。
 どうやら荒野は荒野で、あまり抑制なく求めすぎては茅に嫌われる、と思っているらしく……そうした思い違いは速くに訂正してやりたい気持ちも勿論あるわけだが、毎日のように荒野に求められたら、まず、茅の体力が保たないし、体力が保たないとわかりきっていても、荒野に迫られたら茅には拒みきれる自身がないから……やはり、今のまま、荒野に誤解させたままでいいのかも知れない。
 どうしても我慢できなくなったら、茅のほうからアプローチすればいいのだ。
 今、そうしているように。

 茅は、荒野の上に馬乗りになり、荒野自身を深く導き入れたまま、舌で荒野の口の中を蹂躙しつつ、自分の内部に刺さっている荒野を揺さぶるように、もどかしげに腰を、体全体を、前後させる。荒野を迎え入れた内部だけではなく、恥丘と荒野の陰毛がじょりじょりと擦れてクリトリスを微妙に刺激する。
 自分の鼻息が、かなり粗くなっているのを感じた。
 それまで茅にされるがままだった荒野が、茅の乳首を指で摘み、コリコリと弄ぶ。割と力が入っていて、摘まれた途端、「うっ!」と呻いてしまった。
「悪い? 痛かった?」
 茅が口を離した隙に、荒野が尋ねる。
「痛かったけど……気持ち、いい」
 ぼんやりと、茅が答える。
『もっと、して欲しい……』と続ける前に、荒野が再び茅の乳首を捕らえ、ぎゅうっとつまみ上げた。
「……はっ!」
 と呻いて、茅はさらに乱暴に荒野と繋がった部分を揺さぶり、これ以上恥ずかしい声を荒野に聞かれたくなかったので、再び荒野の口を強引に割って舌を滑り込ませる。

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彼女はくノ一! 第四話 (37)

第四話 夢と希望の、新学期(37)

 二宮荒神はだいたい週末になるといずこかへと姿を消す。この週末も、二宮荒神は不在だった。おかげで帰宅した楓は、夕食が済み、その後一時間ばかり狩野香也の勉強につき合うと、それ以降の時間はまるっきり手が空いてしまう。
 いつものように庭のプレハブにいって香也が絵を描く背中を眺めたり(その晩は、才賀孫子も本を片手にプレハブに来たが、加納荒野は来なかった)していたが、皆が就寝すると、基本的に眠りが短く浅い楓は、いよいよ時間を持て余す。
 ここ数日、孫子の囲碁勝負につき合ってなにかと忙しない日々が続いていたが、楓が担当したのはあまり体力を使わないデスクワーク、かつ、裏方的な仕事であり、楓自身が人前にでていたわけではないのでストレスもさほど感じる、ということもなく、忙しなく働いていた割には、楓の中にはあまり疲労は残っていない。
 基本的に楓は普通の人よりもよほど頑強にできており、精神的に疲弊する類の仕事以外なら、かなりの耐性がある。

 だから、その夜、皆が寝静まった時間、楓は一人こっそり起き出して、夜の町を彷徨した。特に何者かを警戒する必要があったから……というでは、無論、ない。
 眠りが浅い楓のこの町に来てから習慣で、気晴らしの散歩みたいなものだった。荒野以外はこの楓の徘徊行為に気づいている者はいないようだったが、以前から、かなりの頻度で楓はこの「夜の散歩」を行っている。
 もっとも、夜陰に乗じてジーンズにジャケット姿で屋根や電柱の間を跳躍して移動する楓の行為を、「散歩」と称するのも、なにか間違っているような気がしないでもないのだが、楓の心情的には、この行為は「気晴らしの散策」程度の認識しかないのだった。

 終電と始発の間、「さほど人口密度が多いわけでもないが一応は住宅街」といった態のその辺りは、人通りがほとんどなく、ひどく静かだった。ぽつぽつと灯りがともっている窓もないわけではないが、そうした窓も大抵はカーテンを閉めている。
 人目がない、というのをいいことに、楓は自分の身体能力を全開にして、縦横に飛び回る。

 ここ数日の騒ぎは確かに楽しかったが、同時に、「彼ら」と自分の違いが浮き彫りになった数日、でもあった。夜、カラオケからの帰り道、孫子に見透かされたような事を言われたのも、かなり堪えた。
 どんなに優れた能力を持とうとも……。
 楓には、「自分」がない……。
「自分自身」というものを打ち消し、殺すように育てられてきた。人の形をした、高性能の消耗品であれ、と方向付けをされてきた。
 まや、どうしてもそうなりきれない部分があったから、苦しんでも、きた……。
 香也や徳川、あるいは堺雅史や孫子とは……自分は、根本的な部分で……違った存在だ……と、楓は感じていた。
「彼ら」は自分のやりたいこと、あるいはやりたくないことをはっきりと述べる事が出来る。しかし、自分は逆に、そうしたえり好みを削ぎ落とすよう、育てられた……。

 楓が知っている人物の中で、一番楓に近い存在、というのは……実は、数ヶ月前の、会ったばかりの頃の茅、だったりする。
 その頃の茅は赤ん坊のように自我というものが希薄で……無表情、なのではなく、喜怒快楽の感情全体が、「薄い」のだと、顔を合わせた瞬間、楓は直感的に気づいた。
 この人は……茅は、自分に近い存在だ、と。
 その茅も、時間がたつに連れて、どんどん自我を獲得していった。
 荒野と一緒に暮らしている、ということの影響もあっただろうし、学校に通うようになり、それまでとは比較できないくらい大勢の人々と接するようになって……茅は、変化は確実に加速している。毎日のように顔を合わせているとなかなか気づきにくいのだが……茅の内面は、短期間のうちに急激に密度を増している……と、楓は感じていた。

 つまり……自分だけが、取り残されている……と。

 そこいらの一般人よりよほど明瞭なな自出を持つ荒野や孫子、自分がやりたいこと、が、はっきりとしている香也や堺雅史……それに、玉木珠美と徳川篤朗。
 誰かの彼氏である、あるいは彼女である、と、胸を張って宣言している飯島舞花と栗田精一、柏あんなと堺雅史……。
 楓自身だけが、「自分が何者である」と、断言できる明瞭な自覚を得られない存在だった。
 内心に焦りを抱え、皮肉な事に、その焦りをみることができない他人からは、過去に血の滲むような努力をしてようやく獲得した能力を、羨ましがられたり、称賛されたりしている……。

 ……なんという、皮肉な状況だろう。
 楓は、そう、思う。
 楓の能力を、評価する者は、いる。
 堺や玉木は、楓がやった仕事を手放しで褒めてくれたし、最近では、最初のうち、楓を押しつけられたお荷物のように扱っていた荒野でさえ、楓を重要な戦力として扱っている。
 ……ただ、それは……彼らが褒めたり必要としたりするのは、楓が自分の意志によらず、命令を受けて、寝食を忘れ、膨大な時間と労力を積み上げ、努力してようやく身につけた能力であって……。
 だから、楓を評価する「彼ら」が見ているのは……決して、楓自身ではないのだ。
 以前いた養成所で、鋳型にはめ込められるようにして作られた、楓の虚像なのだ……。

『……こんなんでは……』
 自分の体をいじめるように、地上宇三メートルから五メートルのあたりを全力疾走しながら、楓は思う。
『……香也様に拒否されても、当然だ……』
 一度は……いや、二度ほど楓と体の関係を持った香也は……今では、まるで楓とはなにもなかったかのように振る舞っている。
「……友達からはじめよう……」
 と香也に言われた当時、楓は香也のいいうことがよく理解できなかった。
 だが、今では、なんとなく、理解できるような気がする。
 あの時の楓にはあまり自覚はなかったが……香也と自分、とでは……自我の強度や濃度が、決定的に違うのだ……。

 命じれたことを、なんの疑問も抱かずに実行するよう育てられた楓と……必死になって、自分がなにを描きたいのか模索している香也とでは……。
 そう。
 根本的な部分で、まるで、違う。
 例えは、あのまま香也が楓を拒絶せず、ずるずると惰性で何度も、何十度でも体を交えても……本当の意味で、楓が香也を、あるいは、香也が楓を、感じたり理解することは……できなかっただろう……。

 だから、あの時香也が楓と一旦距離を置いたのは、正しい。
 とても、正しい。

 悔しいが……今の楓は、香也の隣りに並んで似合うような存在ではない……。

 そんな事を考えながら、楓は、夜中の町を全力で疾走する。跳躍する。

 表面的には平穏な日々が続いたこの時期、楓は、心中に外からは伺えない鬱屈と葛藤を抱え、一人、懊悩を感じながら、暮らしていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(28)

第五章 「友と敵」(28)

 夕方になり、撮影も一通り終わり、集まった人々も三々五々に散っていった。徳川浅黄も徳川篤朗が迎えに来て、狩野兄弟もマンションに帰り、狩野家にはもともとの住人と玉木珠美だけが残った。

 楓が羽生譲の部屋に構築したLAN環境は、マシンを提供してくれた加納兄弟、それに徳川篤朗が、しばらくは貸しておいてくれるといってくれたので、いまだままだった。その部屋に羽生譲と玉木珠美はやってきて、ご隠居が操作したビデオカメラのデータを転送した孫子のノートパソコンを繋ぐ。
「くノ一……楓ちゃんから聞いたぞ。そっちのおねーさんは女子アナ志望だってか?」
「本当はジャーナリスト志望なんですが、分かりやすいのと半分冗談でこういう名刺作ってます」
 玉木は、羽生譲にも例の名刺を渡す。
「わはは。好きだなあ、こういうセンス……。ああ。だからか……カッコいいほうのこーや君が……」
「カッコいいほう?」
「お隣りのマンションの……銀髪の、上級生のほうのこーちゃん。
 この家にも、カッコよくないほうのこーちゃんがもう一人いるんからな……」
「もうひとりの……あの、絵を描いてたほうの?」
「そ。ややこしいことに、あの子も同じカノウコウヤっての。字は違うけんどな。
 で、そのカッコいいほうの荒野君が、君とは気が合うって保証してくれたんよ……。
 ……あー……」
 羽生譲はどてらの袖から煙草の箱を取り出して、言いにくそうに玉木に確認した。
「これ、吸ってもいいかな? 吸わないと、どうにも調子でなくてなー……」

 二人は撮り溜めた動画を編集しながら、お互いのエディアトル方針をつぶさに観察し合い、あるいは意見を交換しあって、夕食の支度が出来るまでには、かなり相互理解を深めていた。
 創作畑の羽生譲はマンドゴドラのCM映像、ドキュメンタリー方面志望の玉木珠美は希望者に実費で配布する予定の孫子と篤朗の囲碁勝負のDVD用の映像を編集していたわけだが、方向性の違いこそあれ、どのシーンを重要視し、どのシーンを不要と感じるか……という部分をみてみれば、お互いの手の内は、かなりの部分、理解できる。
 お互いの仕事ぶりを横目で確認しながらなんとなく「そこんところはこうしたほうが……」などという意見をどちらからともなく言いはじめ、結局、二人の共同作業で二本の編集ラインを行うような感じになった。
 一度食事のために席を外した後も、二人はすぐに羽生の部屋にとって返し、やかましいばかりに意見を交換しながらかなり遅い時間まで作業を続けた。明日も学校がある玉木は十時前に帰って行ったが、玉木も羽生もまだまだ作業は終わっていなかったので、帰り際に「明日、また、放課後に来ていいですか?」と聞いた。
 マシン環境だけなら学校の実習室でも大差ないが、学校には、羽生のような経験を積んだアドバイザーがいない。この差は、玉木にとっては、大きい……ということだった。
 羽生にしてみても一人きりで作業に取り込むよりも、隣りに話しの分かる相棒がいたほうが効率が良い、ということは今日の成果をみれば明白だったので、異存はなかった。狩野真理には、玉木が「また夕飯の材料、うちから調達してきますから」と約束して懇願した。
 玉木が帰った後、長時間マシンに向き合って凝り固まった肩を、腕を廻してほぐしながら、羽生は「面白い子だな」と、思った。玉木珠美もそうだが、玉木が編集していた映像の中の、徳川篤朗という孫子の対戦相手も、かなり毛色が変わっていそうだ……。
 松島楓、狩野兄弟、才賀孫子……。
 なんだか、続々と面白い子たちが集まりはじめているような気がする。そしてその関係の中心にいるのが、一見、絵を描く以外にはこれといった取り柄がなさそうな、うちのこーちゃんであるあたりが……羽生譲は、とても面白いと思った。
 狩野香也がここに居なければ、楓と孫子もこの家にはいない。この二人がいなければ、加納兄弟も頻繁にこの家に来るべき理由がなくなる。飯島舞花と栗田精一、柏あんなと堺雅史も、玉木珠美と徳川篤朗も、同じだ……。
 そして、羽生自身も、その関係の一端に加わっているわけで……偶然が重なった結果、なのではあろうが……今のこの状態は……。
 そう。
 とても、面白い……そうとしか、いいようがない、と。

 荒野と茅は、一晩ぶりに二人きりの夜を過ごした。
 昼間は慣れないことをしたため少し疲れが残っていたが、それもいつものように食事をし、風呂を浴び、歯を磨いて寝る準備をする頃になると、かなり回復していた。
「……荒野」
 服を脱ぎ、いつもの時間に一緒にベッドに入ると、いつもとは違って茅が荒野のほうに身をすり寄せてくる。
「ん?」
 荒野は、茅の髪を指で梳いた。
「……この音……」
 茅は、荒野の裸の胸板に耳を密着させる。
「たった一晩聞いていなかっただけなのに……ひどく、懐かしいの……」
「……そうか……」
「今日みたいに、いろいろな、おおぜいの人と一緒にいたり、夕べみたいに、浅黄と一緒にいるのもいいけど……こうして荒野といる時間が、一番好き」
「……うん……多分、おれも……」
 荒野は欠伸をかみ殺しながら、適当に答える。
 昨夜、浅黄を預かったのと、昼間の撮影……と、立て続けにイベントを通過した気疲れが残っていているのか、荒野は、とても眠かった。
「……多分?」
 茅は顔を上げてまじまじと荒野の目を覗き込んだ。
「多分?」
 茅の咎めるような顔つきをみて、荒野は「茅も随分表情豊かになったよなあ」と思った。「どんどん扱いにくくなっていく……」とも、思ったが。
 荒野は茅の体をぎゅっと抱きしめた。
「昨日からずっと、こうして、茅を抱きしめたかった」
 荒野の腕の中で、茅は、柔らかくて、いい匂いがして……。
 茅の肩を抱きしめながら髪を梳いていると、茅が顔を近づけてきたので、そのまま、口唇を重ねる。

 そのまま、求め合った。

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彼女はくノ一! 第四話 (36)

第四話 夢と希望の、新学期(36)

 そんなわけで、徳川篤朗は放送部員たちや松島楓や堺雅史など、中継に協力したパソコン部の生徒たち、それに才賀孫子と狭間沙織などの団体様に引きずられるようにしてカラオケに向かった。篤朗の姪、浅黄は、加納茅と遊び足りないようで離れたがらなかったので、そのまま学校に残していった。そろそろ下校時刻だったが、学校にはまだ加納荒野もおり、茅は、浅黄と荒野と三人で自分たちのマンションに帰宅する、といっていた。
 最初のうちこそ、篤朗は加納兄弟に姪の浅黄を預けて離れることに抵抗を感じているようだったが、楓や孫子、それに狭間沙織が「あの二人なら問題ない」と言葉を重ねて保証し、その他大勢の生徒たちは今日の功労者である篤朗を取り囲んで無責任なノリでなにくれと話しかけたりしてきたので、気にはなっても浅黄がいるところに引き返していくのは事実上不可能だった。そのうち、諦めたのかやけになったのか、カラオケ屋に到着する頃には篤朗も取り囲んだ生徒たちに抵抗するのをやめた。

 夕方のまだ速い時間帯だったので、まだ一応大人数用の部屋は空いていたが、週末ということもあって「二時間だけ、延長はなし」と店員に釘を刺された。割引券持参だったことも関係があったかも知れないが。
 玉木をはじめとして放送部員たちはしょっちゅうこの店に来ているのか、最初から手慣れた様子でマイクを奪いはじめた。
 そのうち玉木珠美がうまく仕切って才賀孫子や徳川篤朗、それにシステム面で貢献のあった松島楓に、順番にマイクを廻す。
 もともと歌唱力に自信があった孫子は優雅に一礼して朗々と歌い出し、篤朗は特撮番組のテーマソングをお世辞にもうまいとはいえないが元気な大声でがなりたて、歌える歌が極端に少なかった楓は慌ててリストブックのページを繰り、ようやく楓でも歌えそうな「大きなのっぽの古時計」をみつけ、赤面しながら恥ずかしそうに歌い出した。

 人数が多いこともあって店側から区切られた二時間はすぐに過ぎ去り、店から追い出され外に出ると、入店するときは暮れかかっていた陽はとっぷりと暮れていた。
 二時間マイクを握ってもいまだ興奮がおさまらない生徒たちは多く、玉木が希望者を募って次の店に流れることになった。が、孫子と楓も誘われはしたが同行は遠慮し、徳川篤朗も玉木の誘いを断って、次の店へと向かう大多数の生徒たちと別れた。
 驚いたことには、他の生徒たちを誘導していた玉木自身はその中に混じらず、彼らと別れて孫子や楓たちと一緒についてきたことだった。
「浅黄のことが心配なのだ」
 篤朗がそういいだしたので、孫子が荒野の携帯に問い合わせてみる。と、
「……今、ぐっすり寝ているけど……」
 という返答が帰ってきたので、孫子から携帯を受け取った篤朗が荒野と話し合いをして、浅黄はこのまま荒野たちのマンションに泊めることになった。篤朗が受けた荒野や茅の心証が良かった、ということもあったが、まだ小さい、疲れ切った浅黄を夜になってからあちこちに移動させることもいい考えとはいえない……と、楓や孫子が横合いからそれとなく口を挟んだためでもあった。
 また、この時、荒野から「三島たちが狩野家に夕食を作りにいっている」と聞いた玉木は、「あ。じゃあ、ミニラ先生たちに、家から材料もってく、って伝えておいて……」と慌てていった。玉木は荒野から「先生の番号教えるから、直接話した方がいいよ」と言われ、その言葉通りに、三島百合香の携帯に折り返し電話を入れ、なにやら簡単に打ち合わせした後、「ええ。二、三十分もあればそれもってそっち行きますんで……」といって通話を切った。
 姉以外に頼りになる親族がおらず、姉の留守中に一晩以上浅黄を他人に預けた経験がない篤朗は、かなり心配そうな様子をみせていたが、楓や孫子が重ねて「大丈夫」と保証すると、タクシーを拾って自分の工場へと向かった。
「トクツー君もねー……」
 篤朗の乗ったタクシーが遠ざかると、玉木珠美は楓と孫子に言い聞かせるように、しみじみとした口調でいった。
「家族とか研究とか、自分の興味あること以外には、極端に冷淡だからー……」
 玉木のそんな言葉を聞きながら、楓は、「そういうところは、香也様に似ているな」と思った。
 香也は絵、篤朗は研究……二人とも、夢中になれるものがあって、いいではないかと。

 一旦家によってなにか食材調達してくる、という玉木と一旦は別れ、楓と孫子は並んで家路を急いだ。
「……凄かったですねぇ、今日……」
 楓は、孫子よりも年下なので二人きりの時も警護を使う。
「徳川さんも、才賀さんも、玉川さんも……みんな凄かった……」
「……まるで自分は無関係、っていういいかたではなくて、それ……」
 楓の言葉を聞くと、孫子は鼻をならした。
「堺も徳川も、あなたの腕に驚いたでしょ?
 わたくし、あなたのそういうところ……謙遜している風で、その実、嫌味なのか卑屈なのか分からないくらいに低姿勢な所、好きではないの……」
「……あれは……無理に仕込まれたもので……一所懸命覚えなけりゃ、捨てられちゃうって……」
 楓の声が震えはじめる。
 最近、こうしてみんなと一緒にいると、ついこの間までの自分の境遇を忘れがちになるが……楓は、与えられたことを、貪欲に覚えなければ、また捨てられる、居場所を失う……という、根本的な、アイデンティティ・クライシスへの不安を抱えている。
 幼い頃から楓の人格にすり込まれてきた、本能に近い恐怖心だった。
「……香也様とか、徳川さんとかは……自分が好きなことをやっているわけで……」
 彼らや孫子とは違い、楓自身には、「学ばない」という選択の余地はなかった。
 その結果、たとえ、現在の楓が、同年配の人間よりよほど上回った能力を獲得していたとしても……それは、所詮、単なる結果だ。
 楓自身が自分で求めた成果ではない以上……楓は、現在の自分を誇る気持ちに、はなれない……。
「……つまり……あなた……自分自身が好きではないわけ?」
 孫子は、楓の詳しい事情を知っているわけではない。
 しかし、楓は目に見えて悄然としたので、この話題を楓が避けたがっているのは感じとることができた。
「わたくし……やっぱり嫌いよ。
 あなたも、必要以上に卑屈なのも……」
 楓は、なにも言い返さない。
 思えば、常に誰かしら他の人間がいるのが普通だったので、楓と孫子が二人きりで話す機会は、今までにほとんどなかった。二人きりになることがまるでないわけでもなかったが、そのような時は慌ただしくてゆっくり話しをするような暇がなかったり、そんな雰囲気ではなかったり、で……。

 今回も、二人はそれ以降は無言のまま、歩き続けた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(27)

第五章 「友と敵」(27)

 飯島舞花と柏あんなは昼食に米と干しアワビ、昆布などを一緒に煮込んで粥とも雑炊ともリゾットともつかないものを作ってくれた。味付けは柏あんなが担当したのか口に含むとかすかに胡麻の香りがして、どことなく中華風のアレンジだった。人数が多くて炊飯器で十分な量のご飯が炊けないために苦肉の策的な献立でもあったが、この季節、野外で撮影に従事していた人々には、食べやすく温かい食事が歓迎された。
「……だけど……お前らもよく来るよなぁ……」
 荒野は配膳してくれた礼を述べててから、二人にそういった。
「いいじゃないか、お兄さん……どうせお隣りだし……」
「っていうか……ここ、加納先輩の家じゃないでしょ?」
 飯島舞花は平然と柏あんなは憮然と、それぞれに答える。
 二人の後ろでは栗田精一と堺雅史が使い終わった食器を抱えて母屋と往復したりしている。
 もちろん、荒野とて本気で二人を非難したり揶揄したりしているわけではなく、撮影用の恰好をしている自分の姿を見られている、という引け目から来る照れ隠しの韜晦だった。舞花はそのことを分かっていたようだが、あんなは荒野の態度に半ば本気で腹を立てていた。
「……照れているんだよ……こういう恥ずかしいところ観られて……」
 舞花が小声であんなの耳元に囁いたつもりだったが、荒野の聴力は人並みよりほんの少し鋭いので充分に聞き取ることが出来てしまった。
 おかげで荒野はさらに不機嫌になった。もっとも荒野は外面を取り繕うことにかけては年期がはいっているので、荒野の内心の変化に気づいたのは茅だけだったが。

 この家の住人、狩野香也や狩野真理も、庭に出て撮影に従事する者と一緒に食事に摂っていた。この日も香也は、朝食を終えた後、庭のプレハブに籠もり、絵筆を走らせていたのだが、食事の容易が出来たとかで呼び出されたのだった。
 新学期がはじまってからこっち、香也は冬休みにあまり描けなかった反動もあって、部活と帰宅後の時間をほとんど使用して絵を描いている。それは、自分自身の習作だったり、あるいは堺雅史に頼まれたゲーム関係の絵だったりするすのだが、基本的に香也は絵さえ描ければたいていのことは我慢できてしまうので、最近の平穏な生活には満足している、といえた。
 休み時間などにクラスメイトが話しかけてきたり、放課後、堺雅史が美術室に尋ねてきてゲーム関係の詳細を話し込んだり、また、部活を終えて帰宅して庭のプレハブに籠もっていると松島楓、才賀孫子、加納荒野らの誰か(あるいは、全員)が訪問してくる、ということも珍しくなくなっており、香也を巡る人間関係もさり気なく複雑さを増してきている。
 が、その影響は、香也自身の内面に大きな変化を与えるほど甚大なものにはなりきっておらず……しかし、確実に香也を影響を与えていることも、また確かなのだった……。
『もしも……みんなが来なかったら……』
 この庭に、こんなにいろいろな人たちが賑やかに来訪してくる、ということもなく、この広い家にはいつまでも三人きり住民しかおらず、ガランとしていたままだったろう……。
 そうした仮定の想像をすると、香也は、とてつもなく寂しい思いを感じる。

「……なーなー。こーちゃん……」
 香也がお椀の中身を啜っていると、羽生譲が声をかけてきた。
 羽生譲はこれだけ大勢の人間が集まってきていても臆するところがなく、それどころか普段にも増して生き生きと、集まった人々に適切に仕事を割り振っていた。
「誰か若いのに模造紙かなんか買ってこさせるからさ、なんか背景、ちゃっっちゃと描いてくれないかな?
 即興で。ぼちぼち、セットが欲しくなってきた……」
「……んー……」
 香也は少し考えこんたが、すぐに、
「……いいけど……なにを描くかは、そっちで指示して……。
 あと、カメラは、駄目……」
「おっしゃあ!」
 香也の返答を聞いた羽生は、拳を握るとすぐに食事を終えそこいらにたむろしていた放送部員に声をかけ、紙と画材の調達を命じた。

 香也は衆人環視の中で買ってきて貰ったばかりの油性マジックの封を切る。
「……なに描く?」
「そーだな……ま、最初はオーソドックスに、お菓子の家……かな?」
「……んー……」
 香也は水彩絵の具を混合して水で薄め、手持ちの中で一番太い筆を、地面に敷いた模造紙の上に、じゃっ、じゃっ、と、無造作に走らせる。
 一見大ざっぱな動作で紙の上で手を動かしていると、すぐに羽生がいった通りのものが紙の上に姿を現す。絵の具を節約しながら、だから、太い枠線を引いた中をかなりすかすか気味に塗りつぶしただけだったが、それでもそれなりに質感が出ていた。
 月の沙漠とか、お花畑とか、羊のいる草原とか、ペンギンのいる氷原とか、ハイキングコースの山頂と、かキャンプ場とか、海水浴場とか……羽生は次々と思いつきで香也にリクエストをしたが、香也は一枚あたり五分もかけずにそのリクエストに応じた。
 時間もなかったので、本当に最低限の線しか描かなかったが、それでも香也が描き上げ、周囲で待機していた人に一番上の紙をはがすように合図すると、遠目にはそれなりに「言われたとおりのもの」が現れるから不思議だ。
 何枚かの模造紙を重ね、その上で筆を走らせていたが、絵の具が下の紙にしみこんでいく前に、最上部の紙がはがされる。
 あまりの手際の良さに、見物をしていた人々はどよめいた。荒野たち、香也のことを知っていた者も驚いていたが、香也が絵を描くところを初めてみる人々は、特に感銘を受けた様子だった。
 結局、食事休憩がそのまま香也のライブ・パフォーマンス鑑賞会になったような感じで、小一時間ほどで全ての紙を使い切ると、香也を見守ってきた人々から盛大な拍手が起こった。
 香也は描いている最中は絵に集中していたが、描き終え、周囲の騒然とした様子に気づくと、頭をかきながら心持ち上気した顔であたりを見回し、
「……んー……」
 といいながら、そそくさとプレハブの中に引っ込んでいってしまった。
 基本的に香也は、騒がしいのや、他人の注目を浴びることに慣れていない。

 香也が全ての紙を使い切った時には最初に描いた紙は乾いていて、その両端を二人の放送部員に持たせて、ピン、と張りつめた状態で持たせながら、羽生譲は、
「ご隠居。
 この背景で、モデルさんたちになにして貰いましょ?」
 と尋ねていた。
 今回は、徹底的にアドリブでやる気のようだった。
 ご隠居の指示で動くこともあったし、モデルたちや周囲にいた人々からアイデアがでることもあった。
 そんなこんなで、その日の夕方までかかって、多種多様な動画データを収録することが出来た。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第四話 (35)

第四話 夢と希望の、新学期(35)

 玉木が部室に来た最後の休憩は、孫子のとってよい影響を与えた。
 玉木と話すことで「素に戻れた」というか、それまでの二局で失いかけていた冷静さと自分のペースを取り戻した、といっていい。
『……これ以降は……』
 先に二回勝ち抜いたほうが勝ち、という条件で、すでに一勝一敗。孫子にとっても篤朗とっても、もう後がない。次の一局で、勝敗が決する。
『好きにはさせません……。
 兵は正を以て合い奇を以て勝つ……正攻法に拘りすぎで、柔軟さに欠けていましたわ……』
 正攻法で充分な準備を容易して、敵の予想外の方法で勝つ。戦略と戦術……。「奇」、という言葉を使うなら、篤朗の予測のつかない打ち方は、充分に奇手であろう……。
『でも……』
 孫子は心を落ち着け、最後の一局の最初の一手を置く。
 篤朗は、例によってなにも考えていない様子で即座に白石を置く。
 孫子も、篤朗に負けず、即座に石を置く。
 篤朗は、それまでいくばかの熟考の末に慎重に石を置いていた孫子が、急変して篤朗並の速度で石を置き始めたことに、一瞬、不審の表情を浮かべたが、すかさず次の一手を置く。孫子も、間髪入れずに次の一手を置く……。
 パチン、パチン、と石を置く音だけが響く。

「……前にもありましたね、こういうの……」
 再び実習室に戻ってきた玉木も、試合の再開とともに実況を再開していた。
「あの時は、お互いの手の内を探るために勢いよく打っていたけど……」
 狭間沙織はあいかわらず解説役に徹していた。
「……才賀さんが、徳川君のペースに慣れはじめたみたいですね……。
 今は……下手をすると、徳川君のほうが才賀さんの手に翻弄されてはじめています……」
「……ええと……形勢逆転……ですか?」
「……いえ……どちらが有利とも、言い難い……いい、勝負ですね……。
 それに……」
「……それに?」
「……二人とも、なんだか楽しそう」

 盤面に石を打ち付ける音だけが囲碁将棋部の部室内に谺する。
 間髪入れず次の一手を打ち続けている孫子と篤朗はもとより、同じ部室内にいる放送部員たちも二人の気迫に呑まれて押し黙っている。
「……なかなかやるではないか」
「……あなたも」
 ぽつり、と、二人が会話をしはじめたのは、一体何十手目を過ぎてからだったか。
「最初は、定石通りの打ち方しかできないつまらないヤツと思っていたのだ……」
「定石は、一番勝ちやすい方法だから定石なのです」
「ふん……こんな面白い手を打てるのなら、定石など必要ないのだ」
「この打ち方は、今日、あなたから学びました。はっきり申し上げて、邪道だと思います」
「さほどとはぼくの足元にも及ばない、といったが、それは訂正する。足元くらいには充分追いついているのだ」
「足元に火がついている、の、間違いではなくて?」
「どっちにしろ……」
 徳川篤朗は、孫子に笑いかけながら、言った。苦笑いに近い表情だった。
「……これで終わりなのだ。君の投了。ぼくの勝ちなのだ。かなり危うい所だったが……」
「……でも、満足のいく一局でした」
「ぼくも、ここまで追い詰まられたのは、君で二人目なのだ……」
「一人目は狭間先輩ですか?」
「そう。あの人は別格何のだ。君は、まったくタイプの違う、面白い打ち手なのだ……」
 才賀孫子と徳川篤朗は申し合わせたように立ち上がり、そのまま相手に向かって深々と頭を下げた。
「……囲碁将棋部に歓迎する、才賀孫子さん」
「……よろしくお願いします」

 こうして二時間半に及ぶ二人の囲碁対決は終わった。
 玉川珠美は慌ただしく用意してきたエンディングの言葉を述べて中継ストリーミングを停止し、松島楓は、慌ただしくシステム的な後始末の作業を開始する。
 その他の放送部員たちは、全員起立して二人に惜しみない拍手を送った後、二人の周りに駆け寄って口々に称賛の声をかけた。校舎内の実習室にいた生徒たちも、校庭の隅にある部室長屋に駆けつけて、囲碁将棋部に集合する。
 孫子と篤朗は、二十人近くに生徒たちに囲まれた。
 孫子のほうは人の注目を浴びることに慣れていたが、篤朗のほうはそうではなかったので、きょろきょろと落ち着かない様子で集まってきた生徒たちを見渡している。
「もう少し毅然と構えてみてはいかが?
 みな、わたしとあなたの健闘もたたえているのでしてよ」
 孫子がそういうと、篤朗はますます狼狽した様子で、人垣を掻き分けて逃げようとする。
「ぼくの優秀さはぼく自身が一番よく知っているのだ! 他人に讃えられる必要はないのだ!」
 もちろん、集まってきた生徒たちは、そんな篤朗をそのまま逃がしはしない。
「逃げるな、徳川。なんだ、照れてるんか?」
「こいつ、ろくに学校に来てないから人に慣れていないんじゃないか?」
「そういや、いつの間にか来ていつの間にか帰っているな……本当にあんなんで卒業できるのか?」
「まあまあ、詳しい話しはこの後の打ち上げで本人にじっくりと聞くことにして……」
「そうそう。わたし、この間カラオケ屋の割引券貰ったんだよねー。団体様だと四割引だって……」
「ああ。いいねー。才賀さんの歌唱力は年末に実証済みだし、もう一人の主役の歌も聴いてみたナーって……。
 こら、徳川! いまさら暴れるなって!」
「放せ! 約束の囲碁勝負は終わったのだ! ぼくは研究に戻りたいのだ!」
「……徳川、帰りたいの?」
 いつの間にか、数人の男子生徒に手足を拘束されている徳川篤朗の目前に、加納茅が立っていた。
「では、茅と囲碁勝負するの。徳川が勝ったら、解放するの……」
「君は……腕に覚えがあるのか?」
「経験はないけど、何度か観てたからルールと勝つコツは掴めたの。
 それとも、初心者の茅の挑戦から逃げる?」
 茅が小首を傾げる。
 一見無邪気に見えるその動作が、篤朗の闘争心に火をつけた。

「……完敗なのだ……」
 茅と篤朗の勝負は、十五分ほどで決着がついた。

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