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2007-03

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彼女はくノ一! 第五話(332)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(332)

「……わっ!
 おにーちゃんのおちんちん、まだまだ元気……」
 ノリの声に誘われて視線を横に向けると、ぐったりと横たわった孫子のかたわらで、膝立ちになった香也が肩を上下させて喘いでいる。その香也の股間に、濡れた陽物が半ば地面とほぼ水平の角度を維持している。
『……あっ』
 明日樹は別に、男性のものを見るのは、これがはじめてということでもない。幼少時には、父や弟のものを何度か普通に目撃している。しかし、その時の香也のものは、明日樹が知っている男性器とは、やはり形状が違っていた。持ち主である香也とは違い、やけに猛々しい印象を与える形状を、していた。よく、「グロテスクだ」といわれているが、確かに、所々に血管が浮き、やけにゴツゴツしているソレは、特に見慣れていない明日樹の目には、醜悪に映った。醜悪というよりも、いかにも、生々しく……香也のそこだけ、まったく別の、未知の生物が寄生しているような違和感さえ、おぼえる……。
「……ね。
 おねーちゃん、いこう……」
 裸のノリが、いまだ起きあがろうとしない明日樹に手を差しのべる。
「……楓おねーちゃんや、孫子おねーちゃんに、おにーちゃん独占させちゃ、いけないよ……。
 あっ。
 二人の場合、独占とかいわないのか……」
 こういう場面だというのに……ノリの様子には、陰や屈託というものがない。
「……おねーちゃんが行きたくないのなら、無理にとはいはないけど……。
 あすきーおねーちゃんが行かなくても、ボクらは行くし……このままだと、あの二人かボクらか……ともかく、このうちの誰かに、おにーちゃん、取られちゃうよ……」
 ノリにそういわれた時、先ほど、ちらりとみた、孫子の勝ち誇ったような表情が、明日樹の脳裏をかすめた。もっとも、その孫子の表情を明日樹が目にしたのはほんの一瞬だったし、実際には、明日樹の頭の中で、勝手にイメージした表情なのかも知れないが……。
 それでも、明日樹は、気づくとノリがのばした手に、自分の手を重ねている。
「うん。
 いっしょに行こう。おにーちゃんのところに……」
 明日樹が手を重ねると、ノリはほほえんで、明日樹の体を引っ張りあげて、立たせる。
 よろよろと立ち上がった明日樹の肩を支え、ノリは、明日樹の耳元に囁いた。
「……遠慮しちゃ、駄目だよ……。
 自信がなくても……気後れとかしりごみしているばかりだと……はじまる前に、終わっちゃうよ……」
「……そう……だね……」
 耳元でそう囁かれた明日樹は、泣き笑いの表情になった。
 ……一体、なんなんだ……。
 この子は。
 この状況は。
「二人で、どーんとアタックしてこよう。
 大丈夫。
 おにーちゃんは、絶対、受け止めてくれるから……」
「……う、うん……」
 曖昧に頷いてみたものの……明日樹は、もはや、ノリにあらがう気は失せている。
「……行くよっ!」
 ノリは、明日樹の肩を抱いたまま、わずか数歩の、香也との距離を一気に、詰める。
「……どーんっ!」
 楓、孫子……と、立て続けに二人と交わり、へろへろになっていた香也は、いきなりノリと明日樹のタックルを受け……きれず、三人でもつれ合って、倒れた。

「……あっ……」
 気づくと、香也の顔が至近距離にあった。
 どうも、ノリと一緒に香也にぶつかっていった際、香也を押し倒してしまったらしい……。
 どあっぷの香也は、照れたような困惑しているような、微妙な顔をしている。確かに、香也の性格を考えると、こんな時に、気の効いたことをいえるほど、器用でないことは、明らかであって……。
「……あっ。
 あの……ごめんっ!」
 不意に香也は、明日樹から視線を逸らし、顔を横に向ける。
 しかし、そっちには、ノリが横たわっていた。
 やはり至近距離で、香也とまともに目線を合わせたノリは、「にひっ」と笑い、
「……あったーっくっ!」
 とか叫びながら、明日樹の背中に飛び乗る。
 明日樹は、慌てて香也の両脇に手を置いて、重量を支えようとした。間一髪、明日樹が畳に手をつくのは間に合い、明日樹と香也の顔が正面衝突することは、免れた。代わりに、ただでさえどあっぷだった香也の顔が、さらに間近になる。
 今や、香也の顔はほんの鼻先、わずか数センチほどの至近距離にあり、顔全体を赤らめている。
 ……今の自分の顔も、きっと真っ赤になっているのだろうな……と、明日樹は思った。
 そして、そこではじめて、それまで明日樹の体重を支えていたのが、明日樹の腕ではなかったことに気づく。
 明日樹と香也は、ほぼ同時に、視線をわずかに下に向けた。
 二人の視界に、明日樹の胸に両手を置いて体重を支える、香也の腕が見える。
 反射的に、香也は、明日樹の乳房を覆っている掌をもにもにっと動かした。
 明日樹は、これも反射的に、
「……やぁ、はぁん!」
 みたいな吐息をついている。
 その時の自分の声が、やけに甘て生々しい響きを持っていたことで、明日樹は現在の状況を完全に理解し、慌てて香也の上から飛びのいて、畳の上に正座する。
 香也も、ぎくしゃくとした動きで、起きあがった。
 明日樹にせよ、香也にせよ……状況が状況だけに、照れくさくてまともにお互いの顔をみることができず、顔を真っ赤にして伏せてしまう。
「……ご、ごめん……」
 明日樹は、気まずさを誤魔化すために、あらぬことを口走ってしまう。
「わ、わたしの胸、楓ちゃんより全然、小さいし……揉み甲斐、ないよね……」
「……んー……」
 香也は香也で、ごもごもと口ごもり、相変わらずはっきりしない。
「……いや、別に……大きさは、そんなに……。
 いきなりだったんで、感触、覚えてないし……」
 二人して全裸で顔を伏せて目をそらし、畳の上に正座している光景は、傍目にはかなりシュールであった。
「……おにーちゃーんっ!」
 ノリが、香也の膝元に飛び込んできた。
「……おちんちん、少し元気なくなったねーっ!
 今、舐めて元気にしてあげるねっ!」
 などといい、ノリは香也の返事も待たず、半勃ち状態の香也の陰茎を素早く口に含み、ちゅぱちゅぱと盛大に音をたてて舐めあげはじめる。
 明日樹も、ノリの無邪気な奇行に目を丸くして、おもわず、香也の股間にとりついているノリをまじまじとまともに見据えてしまう。
「……いや……あの、この……これは……」
  ノリに局部をくわえられた状態で、香也は、ノリの後頭部と明日樹とを、交互にみつめた。
 かなり狼狽した様子で、どのようなリアクションをしていいのか困惑しているようだった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(248)

第六章 「血と技」(248)

 荒野は一度、動きを止めた。三人分の重量を抱えながら動くこと自体は、荒野の筋力と体力であれば、特に問題はない。しかし、こうも密着していると重量よりも体温で、無駄に消耗する……と、荒野の理性的な部分が判断を下す。
「お前ら、痛くないのか?」
 荒野は、自分の左右にとりついた酒見姉妹に声をかける。
「痛くなくて……まだして欲しいようだったら、ヴィとのが終わってから、相手にするけど……とりあえず、暑いから、少し離れてくれないか?」
 荒野が左右を交互にみながらそういうと、酒見姉妹は顔を見合わせてうなずき合い、荒野に黙礼して、素直に荒野から離れた。
 一方、茅の方は、荒野が動きを止めてからも、くねくねと腰を動かして、シルヴィの陰部からはみ出た荒野の陰茎に、茅の股間をすりつけていた。
『……こっちは……すっかり、スイッチが入っているみたいだ……』
 茅が、一度火がつくと、快楽に貪欲になることを、荒野は今までの事例で学んでいる。まだ開通したばかりの酒見姉妹の方は、快楽が目当て、というよりも、荒野との繋がりをもっと強固にして置きたい、というのが本音だろう……と、荒野は推察する。
 荒野の方はといえば、今のところ、酒見姉妹に関しては、「手駒として利用する代償として、姉妹が望めば性交をする」というビジネスライクな感情しか持ち合わせていない。そんなことを口にすれば、シルヴィや茅はまたうるさく何やかんやといってくるのだろうが、荒野にとって一番大事なのは茅であって、それ以外の女性は、抱くことは出来ても一定以上の、本気での好意は持てない。
 他の部分でひどく大人びているところもある荒野は、その実、まだまだ精神的に未成熟な部分も多分に残していて、複数の異性を同時に、同じくらいに好意を持つ……という器用な真似は、できそうにもなかった。
 シルヴィはもとより、酒見姉妹も、その辺を理解した上で、荒野を求めて来ているのだと、荒野は思っているが……そのことは、実際に口にして確認するまでもない、と、荒野は思っている。実際に口にすれば、いくらなんでもしらけるだろう……という判断が働くほどには、荒野は野暮ではなかった。

「……茅……。
 振り落とされるなよ。
 動くよ……」
 抱きついてくる茅の耳元に囁いて、荒野は、下から上に向かって、シルヴィの中を突きあげる。現在の体位だと、シルヴィの膣内の上部を、荒野の亀頭が擦りつけながら奥に向かっていく、という感じになる。
 行き止まりまで押しつけると、シルヴィが、
「……Oh! 」
 と、大仰な声をあげ、そのまま引き抜くと、
「……uuuu……Un!」
 と、うめき、体全体をわななかせる。
 そのシルヴィの反応をみて……なんか、整形ブロンド主演のポルノビデオだな、と荒野は思った。
 もっとも、シルヴィは、ブロンドで豊かなバストの持ち主だが、その手の女優にあちがちな、一目で整形とわかる、自分の頭よりも大きいシリコン入りのバストではない。荒野が動くたび、シルヴィのバストが複雑に形を変える。その「弾み方」から考えても、シルヴィは、自分の容姿に外科的に手を加えてはいないだろう……と、荒野は思う。風貌的にも髪や目の色も、幼少時のシルヴィと現在のシルヴィには、共通性がある。
 荒野はそんなことを考えながら、下から上に向けて、機械的にシルヴィの中を突き上げる。
 荒野もシルヴィも、背筋を傾斜させて向かい合っているので、中で当たるところがいつもと違うのか、シルヴィは、今まででもっとも敏感な反応をみせていた。シルヴィの中は、複雑に収縮して動き続ける荒野の分身に絡み着いてくる。また、出入りする荒野の分身の上に、恥部を乗せている茅も、そこから刺激を受けるのか、他にはなにもしていないのにも関わらず、息を荒くしいった。荒野が動くたびに、茅の襞が荒野の分身にすり付けられ、そこの割れ目の奥から、湿り気が荒野の分身に滴り落ちる。
 茅にしろシルヴィにせよ、一度荒野によって絶頂に導かれているので、感じやすくなっている、というところはああるのだろう……と、荒野は観測する。
 一方、荒野はといえば、彼女らが狂態を見せれば見せるほど、自分の中のどこかが醒めていくのを、自覚していた。
 ……やっぱり、こういうのは……多人数でやるよりは、二人きりでやった方が、安心して集中できるな、と。

 荒野はしばらく、そのままの体勢で動き続け、結局、荒野の射精感が高まるよりも先に、シルヴィが再び達することになった。
「……Oh! ……Yes!」
 とかいいながら、汗だくになったシルヴィはベッドの上にどさりと、背を延ばし、満足そうな微笑みを浮かべながら目を閉じて、動かなくなる。
 茅の方は、挿入していない分、不完全燃焼なのか、荒野がシルヴィの中から分身を引き抜くと、何か懇願するような表情で荒野をみる。が、荒野はそれに構わず、荒野の首を抱いたまま、離れようとしない茅の体を、両脇に手をいれて軽々と背中に回す。茅は、不満そうな表情はしたものの、荒野の背中に乗って、胴体に両足を絡めて抱きついた。
 つまり、荒野が茅を背負った形である。
 そのまま荒野はベッドの上に立ち上がり、おとなしく見物していた双子に向き直って、確認する。
「……って、いうことで、体が空いたけど……」
 荒野は努めて冷静な声を出した。
「お前ら……まだ、おれとやりたいのか?
 女の人、はじめての時は、痛いだけだっていうし、無理をしない方がいいと思うけど……」
 酒見姉妹は、荒野の股間を凝視しながら、ぶんぶんと音を立てて首を縦に振った。
 荒野のそこは、シルヴィの愛液に濡れたまま、先端を天井に向けている。
「……それじゃあ、面倒だから、二人いっぺんに相手する……」
 酒見姉妹の意志を確認した後、荒野は茅を背負ったままベッドの上から床の上に降りて、二人に、ベッドの上に折り重なるように指示した。
 酒見姉妹は、諾々と荒野の指示に従い、腹を下にし、太股から下をベッドの外にはみ出させるようにして、上下に重なり、荒野に臀部を向けた。
 荒野が二人にそういう格好をさせたのは、その格好だと、二人同時に出し入れするのに都合がいいからだった。面倒な仕事は、できるだけ短時間で、効率的に済ませるのがいい……という発想だった。
「……痛かったら、やめるから、いつでもいってくれ……」
 荒野は上になった酒見……相変わらず、荒野には二人の見分けがつかなかった……の尻を平手でペタペタとたたきながら、話し出す。
「その時点でやめて、茅だけを相手にするから。
 もっとも、この分だと……中止はないかな……」
 視線を下げると、姉妹のくさむらに水滴がついているのに気づいたので、荒野はそう付け加える。
「……もう、準備は出来ているみたいだし、早速、つっこもうか……」
 荒野は、上になった酒見の陰毛をかきわけて割れ目をさらし、そこに自分の分身をあてがって、一気に根元まで押しつけた。
「……がはっ!」
 と、荒野に貫かれた酒見が大きく息を吐いて、全身を振動させる。
 荒野は素早く分身をその酒見から引き抜き、下になった酒見の女陰にも、同じように一気に突きいれて、ゆっくり引き抜いた。下の酒見も、上の酒見と同じような反応を見せた。
 後は、同じ要領で、上下の酒見を交互に犯す。最初のうち、荒野が侵入したり出たりするたびに、苦しそうな吐息を漏らしていた酒見姉妹は、回数を重ねるごとに、吐息に甘い響きを含ませていった。




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彼女はくノ一! 第五話(331)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(331)

 一方、明日樹の方は、強制的に三人に愛撫されながら服をぬがされ、半裸の姿になりながら、そのことを気にする余裕もないくらいの刺激を立て続けに受け、半ば意識を喪失した状態で荒い息をついて横たわっていた。下着越しに軽く触る程度の、しかもいいところまでいくと、そこから得られる刺激が怖くなって手を止めてしまう……といった自慰しか知らなかった明日樹にとって、三人がかりで身動きを封じられ、強引に気持ちよくさせられる……という今回の出来事は刺激と快楽とが強すぎて、自分でもどう解釈していいのかわからないし、ゆっくり考えている心理的余裕もない。たった今、自分が体験したこともショックだったが、香也と楓や孫子の三人が、すぐそこで手慣れた様子で交わっているのは、それ以上にショックだった。ここ数日、三人の距離が格段に縮んでいたのは、普段の言動からも見て取れたし、内心では「……もしや……」と思い、理性をもって、慌ててそれを否定する……ということを繰り返していた矢先だっただけに衝撃は大きく、現在の明日樹は、自分の意志で思考を麻痺させて、放心状態の中にいる。つい先ほどまで、「出ちゃうっ! 出ちゃうっ!」という香也の声が聞こえていたが、今、ちらりと横目で確認すると、香也は、四つん這いになった孫子の背中にとりついて、激しく動いているところだった。香也に激しくゆさぶられている孫子は、普段の毅然とした様子からは信じられないぐらいに乱れていて、口泡を飛ばして香也の名前を大声で呼びながら、合間に卑猥なことをいっている。その様子をみて、明日樹は、何か考えるはじめると、自分がとどめなく取り乱してしまうそうな予感がしたので、できるだけ何も考えないようにつとめていた。
「……ガク、この間、挿れた時、どうだった?」
「すっごく、痛かった。でも、これがおにーちゃんだーって思ったから我慢できたけど……。
 これから挑戦するつもりなら、実際にやる前によくほぐしておいた方がいいよ……」
「……指で、やってみようか……こう……」
「んっ!
 い、いきなりは、痛いよ……。
 もっと……こう、そうっと……触るか触らないかの微妙な感じで……」
「……ふっ。
 う、うまいよ……テン……。
 そ、そんな感じで……あっ。あっ。あっ……」
「……こ、こんな感じかな?」
「そ、そう……」
 明日樹がぐったりと反応しなくなったので、三人は、お互いの肌を愛撫しだした。多少、鼻にかかった吐息が混じるものの、あまりいやらしい雰囲気ではなく、自分たちの体を使って実験かなにかをしているような、冷静な雰囲気がある。その会話の中で、三人の中でも、どうやらガクは香也と「体験」したらしい……と理解できたが、明日樹は、今、そのことを真剣に考えると、泣き出しそうだと感じたので、できるだけ何も考えないように、頭を空白にするようにした。

 明日樹が体を休めている間にも、三人は手を休めない。最初のうち、「感じる部分」を探すため、実験的にお互いの体をまさぐるような感じだったが、結局はすぐにお互いの股間に手を当てあって、はぁはぁと呼吸を荒くしはじめる。はじめたころは、含み笑いをしながら「もっと、そっと……」とかいいあっていたのが、次第に言葉が少なくなり、息が弾んでくる。
「……あっ! あっ!」
 とか、声をあげて体をビクビク震わせるようになり、お互いの股間に当てた手を激しく動かすようになったりするのに、さして時間はかからなかった。
 明日樹が体を休めながら、横たわった自分のすぐそばで、三人が同時に自分の秘処に触れ合い、おずおずと表面を撫であうところからはじまって、次第に激しく動かしていく様子を、ぼんやりと眺める。ガクの股間にひとさし指を入れたテンにいたっては、かなり深いところまで激しく出入りさせ、ガクは口を半開きにし、断続的に大声を出させていた。テンの指がガクのそこを出入りするたびに、ガクそこから水音がして、テンの指を伝わって、透明な液体が漏れてくる。
『……ああ……』
 大声をだすガクのゆがんだ顔をみて、明日樹は、自分より子供なのに、自分よりよっぽどいろっぽいな……とか、思う。
 ガクを攻めているテンの股間には、ノリの手が伸びている。ノリの股間には、ガクの手が当てられているのだが、ガクは途中からテンの激しい動きに気を取られ、ノリのそこをいじる余裕はなくなってきて、実質手を止めている。だから、ガクが「……あっ。ああっ。ああーっ。あーっ!」と声をあげ、テンがスパートをかけて指を出し入れさせはじめた時、ノリは余裕のある態度でテンのそこを攻めはじめた。
 ガクがひときわ大声をあげてがっくりと腰を降ろした時、今度は、ガクを攻めていたテンが苦悶に似た表情を浮かべて身悶えしている。
「……テンのここにも、指、いれてみようか……」
 ガクがリタイアしたので、ノリはテンと正面で向き合うようにしながら、それまで掌で上下にさするようにしていた手を休め、中指を折り曲げて、テンの中心に突き立てる。
 その瞬間、それまで懸命に声を出すのを堪えていたテンが、
「……ふっ!」
 と、太い息を吐いた。
「……あっ。
 するっとはいっちゃった。これなら、二本同時に入るかな……」
 正面に向き合ったノリの肩に手を置き、顔を伏せて何事に耐えているテンとは対照的に、ノリはのんびりとした口調でそういい、ゆっくりとテンの中に入れた中指を、出入りさせる。
 ノリの指が動くたびに、テンは、肩をびくびくと震わせて、
「……ふぁんっ! あっ……あんっ!」
 などと、歓声をあげはじめる。
 横たわっている明日樹の位置からは、ノリの指が出入りする度に、テンの「そこ」が、じゅぶ、じゃぶ、じゃっ……などと、水音をたてるのがしっかりと観察できた。そこを出入りしているノリの指は、テンの中から出てきた液体で、根元まで濡れててらてら光っている。
 そんな様子を、目をそらすこともなく、ぼんやりとみている間に、明日樹の股間もぼんやりと熱をもってくる……ということを、明日樹は自覚した。
 少し離れたところでは、香也が孫子のお尻に腰を打ちつけ、ぱん、ぱん、ぱん、ぱん……と、景気のよい音をさせている。
 孫子が「……ああっ。あーっ。あーっー。あーっ……」と叫びながら、がっくり畳の上にとうつ伏せになるとの、ノリの体にすがりつくようにして、テンがずるずると膝をついてへたりこんだのとは、ほぼ同時だった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(247)

第六章 「血と技」(247)

 荒野が酒見粋から身を離すと、すかさず茅が抱きついてきて、荒野の口唇を求めた。そして口唇を重ねたまま、香也の股間に手を伸ばし、まだ破瓜の血に濡れている香也の分身を、自分の中に導こうとする。
 どうやら茅は、荒野が他の女たちと交わるのをみて、嫉妬にかられているらしかった。荒野の口の中をかき回す舌の動きが、いつもよりよほど荒々しい。様々な計算もあって、口では、荒野に他の女を抱くようにいっても、実際に目の前でやられてみると、やはり感情面でいろいろと鬱屈してくるところがあったのだろう。それに、いつもは二人きりで行うことを、人目のある環境で行うことで、興奮しているのかも知れない。
 茅は荒野の口唇を塞ぎながら、下腹部にいれた手で荒野を自分の中に導き、そのまま荒野をベッドの上に押し倒す。荒野の上で、体を出来るだけ密着させながら、結合部を中心としてくねくねと体をゆさぶりはじめた。快楽を得るため、というよりは、香也の存在を茅の全身でうけとめ、確認するための動きのように、荒野には思える。しばらく、そうして蠢いた後、茅はようやく荒野から口を離し、太いため息をついた後、自分の中にいる荒野を確認するような慎重な動きで、腰を上下させはじめた。
 最初のうち、荒野の顔のすぐ上で喘ぎながら動いていた茅は、いくらもしないうちに自分の動きが生み出す快楽に夢中になり、上体を起こして、荒野を味わうことに熱中していく。
「……んっ! はぁっ! んはぁっ!」
 茅は、次第に声を大きくしながら、目を閉じ、胸を反らしながら、自分の体を上下に動かしだした。茅の胸や腹にうっすらと汗が浮き上がり、茅が動く都度に長い髪が複雑な揺れ方をする。こうなつと、もはや、荒野のことはあまり念頭になく、快楽を貪るのに夢中になっているのだろうな、と、荒野はぼんやりと思う。
 あれほど荒野に執着する茅でさえ、実際に行為に及べば、たやすく、こうして肉の楽しみの方に没入してしまう……という事実は、荒野に複雑な気分にさせた。人間というのは……どんなに卓越した存在であっても、基本的な仕様として、単純に作られているらしい。
 そんなことを思いはしても、荒野の性格だと、そのことに対して悲観的な見方をして沈む、ということもない。茅やシルヴィ、酒見姉妹、それに荒野自身など、一般人の基準から見れば、明らかに規格外の存在でさえ、裸になって絡み合っている時は、男であり女であり、ようするに「ただの人間」でしかない……という事実を認識することは、荒野をむしろ安心させる。
 それとは別に、こうしてとっかえひっかえ女たちに荒野の男性だけを使用されると、なんだか自分がヒトではなくモノであるかのうような気分になってくる。もっとありたいにいえば、生きた大人のおもちゃにでもなったような気分になってくる。同時に、「それですべてが丸く収まるののなら」特に不服はない、とも、思っていたが……いずれにせよ、物理的な刺激は受けるものの、心理的には、この時の荒野はかなり醒めており、従って、射精感はいっこうに高ぶらないままに、硬度だけを保っていた。

 荒野の肉を使って一人で盛り上がった茅は、一度昇りつめた余韻もあって、極めて短時間で昇りつめ、すぐにがくりと全身の力を抜いて、荒野の胸板の上に突っ伏する。荒野は反射的に茅の頭に手をおいて、手櫛で適当に茅の髪を梳いていたが、茅の息が収まるまで待つこともなく、シルヴィが茅の体を優しく押し退けて、荒野の上に重なってくる。
「……まだ、足りないのかよ……」
 荒野も、兄弟同然に育ったシルヴィに対しては、遠慮のない口を聞く。
「ウォーミングアップは、すんでいるけど……」
 シルヴィはそういって、荒野の口唇を割って舌を滑り込ませてくる。
 茅が荒野の上で息を切らしている間、休んでいた酒見姉妹が、揃って部屋を出ていった。休憩するのか、シャワーを浴びるのか、それともこのまま帰るのかは、何もいっていなかったから、わからない。だが、姉妹がいたスペースが空いたことは確かで、シルヴィは荒野の首を抱いたまま横に転がり、荒野を上にした上体で、
「コウ……動いて……」
 と、いった。
 さっき結合したときは、茅と同じく騎乗位でシルヴィが動いていたから、今度は荒野が動け、ということらしい。
 荒野は素直にその指示に従って、動きはじめる。
 最初のうち、余裕のある態度で荒野の動きを受け止めていたシルヴィは、すぐに喘ぎ声を上げはじめた。
 ひょっとすると、すぐそばで休んでいる茅の存在を意識しているのかも、知れない……と、荒野は思う。以前に抱いた時のシルヴィは、これほどには感じやすくはなかったように記憶している。茅が他の女性たちの存在を無視できないように、シルヴィも、茅や双子が荒野と交わるのを直に目撃して、それなりに興奮するところがあるらしい。嫉妬混じりの興奮、といったところだろう。
 それにいちいちつき合わされる荒野はたまったものではないが、幸い、体力だけは人並み以上のものを持っている。少々、煩わしいとは思うものの、逆に、この程度のことでご機嫌がとれるのなら、安いものだ……という気もしてくる。
 そんなことを思いながら、シルヴィの中を往復していると、息を吹き返した茅が立ち上がり、荒野の背中にもたれ掛かっている。
「……重いよ、茅……」
 普通にしていれば茅一人分の体重など、どういうこともないのだが、今は激しい運動をしている最中だ。
 しかし、荒野の抗議は、茅が荒野の肩越しに口を重ねてきたことで、すぐに中断させられる。
 しばらかく、茅と口唇を重ねながら動き続けると、下では、シルヴィの声が不自然に大きくなってった。ちらりと視線を下にさげると、茅が片手を延ばしてシルヴィと荒野の結合部周辺を、指先で探っていた。
「……茅も、まだ足りないのか……」
 口を離して茅にそう問いかけると、茅は、答える代わりに、荒野と向き合う形でシルヴィの腹部にまたがり、本格的に荒野の口唇を求めてくる。
 荒野は、シルヴィの上で茅と本格的に抱擁しながら、動き続けた。
 すぐに、いったん部屋の外に出ていた酒見姉妹が帰ってきた気配があり、その二人も荒野の左右にすがりついてきて、茅の口を離して荒野の口を奪おうとする。
 軽いもみ合いが発生し、正面にいる茅が体重をかけてきたことと、それに、荒野がシルヴィの上に体重をかけることを避けたかったため、一度動きを止めて体を後ろに倒す。
 シルヴィも荒野の意志を読みとって、太股を大きく開いたまま、軽く膝をたてて、上体を起こした。荒野とシルヴィは、結合したまま上体を斜めにして向かい合う形になる。荒野の背中を左右から酒見姉妹が支え、斜めになった荒野の上に、茅が乗って、自分の股間を、シルヴィの陰部からはみ出た荒野の陰茎の根元にすりつけながら、荒野の首に腕を回して、口唇を求める。酒見姉妹は、荒野の背中を支えながら、荒野の首や耳に舌を這わせはじめた。
 荒野も、シルヴィに習って軽く膝をたてながら、挿出入を再開する。
 シルヴィが声をあげはじめ、頬にかかる茅の鼻息も、弾んできた。
 荒野といえば……肉体労働よりも、三人の人間に同時に密着されることに辟易し、全身に汗をかきはじめる。周囲を熱源に……それも、火照った人肌に取り囲まれ、密着される……という経験は、荒野にしてみてもはじめてのことだったが、荒野の予想以上に、熱が籠もる状態だった。





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彼女はくノ一! 第五話(330)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(330)

 その時の明日樹は自分のことだけで精一杯で外部の物音に意識を振り向ける余裕などなかったけだが、明日樹が三人組により無理矢理絶頂に導かれたのと前後して、かねてより楓と交わっていた香也も、この日、一度目の射精を行った。

 その時、香也は「出ちゃうっ! でちゃうっ!」と告げて、自分の上で蠢いている楓に、その場から退くように即したが、楓は、結合から得られる快楽を貪るのに夢中だったのか、それとも、あえて聞く耳を持つつもりがなかったのか、その前までと同じく、夢中になって腰を上下に振り続ける。香也の負担が少ない、ということと、楓が香也を呑み込んでいる、という実感が得られるので、楓は、騎乗位を好んだ。楓は、普段の日常生活で控えめな分、こういう時には主導権を取りたがる傾向がある。
 そして、楓は、後の始末を深く考えずに、香也をより身近に感じたいから、というしごく単純な理由で、香也の放出したものを、膣の中で受け止めることを好む。この日も、生理などの曖昧なデータから「たぶん、大丈夫だろう」程度の曖昧な推測に基づいて、香也が射精する瞬間も抜こうとはせず、あえて受け止めた。けっこうやばいパターンなのだが、どこか世間慣れしていないところがある楓は、その手のことをあまり真剣に考えていない節がある。
 香也が自分の中で解きはなった時、楓はぶるっと身震いしたが、同時に、少し物足りなさも感じた。このときばかりではなく、楓は、香也との交わりが終わる時、いつも物足りない気分に襲われる。性的な充足感は十分に感じていると思うのだが、同時に、一刻でも長く香也と繋がっていたい、という気持ちもあり、特にこのところ、二人きりでじっくり……という機会が極端に減っており、そのため、余韻に浸る余裕もなく、終わるとすぐに「誰か」に体を引き剥がさせるのが、不満といえば不満だった。
「……終わったようですわね……」
 この時も、案の定、楓は、二人の挙動からめざとく、香也が一度終わったことを見抜いた孫子に、即座に引き剥がされた。抵抗してやろうか、と思わないでもないのだが、情事のすぐ後で、香也の目の前で孫子と醜い争いを繰り広げるのもなんなので、このような時、たいてい、楓は孫子のいうことを聞いて、素直に香也の体を空けるようにしている。楓が香也の上から立ち上がると、香也と繋がっていた部分から、香也と楓の体液が入り混ざった、どろりと粘度の高い液体が溢れ出てくる。楓は立ち上がり、香也から身を離すと、孫子がいつものように香也の局部を口と舌で清めはじめる。
 楓の後にする時、香也のその部分をまず口で清める、というのが、今では孫子の習慣のようになっている。他人のそうした体液を口にすることに、孫子は特に抵抗がないようだ。日常生活の場で控えめな楓が、情交の場では大胆になるのとは対照的に、普段、自信に満ちあふれている孫子が、裸になって香也の前にでると、別人のように従順になる。口での奉仕はもちろんのこと、行為そのもについても、楓のように自分から動くのではなく、孫子は、香也に何事かをして貰うのが、好きなようだった。香也が積極的に動いて孫子の体を貪っている時、孫子の喜びの声は高くなり、ともすれば、普段の孫子からは想像も出来ないような卑猥な言葉さえも声高に口にする。どうも、孫子は、そういう性癖があるようだ……と、楓は観測している。少なくとも、香也の相手をしている時の孫子は、そんな様子だった。
 孫子が丁寧に香也自身を口ですっかり清める終わると、香也が硬さを失う前に、香也の分身を握り、自分の秘処にあてがったりおねだりをしたりする。この時、孫子は四つん這いになって自分の股から手を回し、一度射精した直後で未だ硬さを失っていない香也の先端を自分の入り口に押し当て、「来てください。香也様のもので孫子のいやらしいものを貫いてください。熱くなっている中をかき回してください」などいう、普段の孫子からは考えられないような卑猥な懇願を、譫言をいうような口調でいう。そういう時の孫子は、とろけたような顔をして、普段の怜悧な様子とは、まるで別人の表情になっている。
 あれで、自己陶酔が激しい性格なのかも知れない……と、楓は思う。
 この日も、香也は、孫子の誘いを断ることなく、犬のように畳の上にはいつくばり、高々と持ち上げた孫子の尻に香也は両手を置き、孫子に導かれるままに、一気に挿入した。根本まで差し込んだだけで、孫子の全身がガクガクと痙攣に似た動作をする。香也がすべて収まっている、という感触だけで、軽くいってしまったらしい。無防備な孫子の表情が、何よりも雄弁にそれを物語っていた。
 香也が、一度引き抜くと、孫子は、
「……はぁあぅぅ……」
 という細かい吐息をもらす。
 香也が再び、根元まで突きいれると、
「……きゃっ!
 ……ふぅぅうぅん……」
 などという甘い吐息を、また漏らす。
 そういう時の孫子の、しまりのない顔をみて、楓は、「……自分の時も、あんなにだらしのない、いやらしい顔をしているのだろうか?」とか、思ってしまう。そういう時の孫子は、香也の与える感触に満足しきっているようも、さらなる快楽を貪欲に求めているようにも、見える。
 楓が見守る間にも、香也の動きは徐々に早くなり、それに従い、孫子があげる甘えの入った声も、「はうぅうぅんっ! きゃぅうぅんっ!」とどんどん遠慮を失って大きくなっていく。

 楓や孫子が迫る時、香也は、最初のうちこそ激しく抵抗するのだが、やがてそれが無駄だとわかると、それからは従順になる。楓と孫子が二人がかりで迫るようになってからは、ことにその傾向が強くなっていた。また、楓として孫子とはしない、あるはその逆に……といった具合に、片方だけを優遇するということもない。後で誰もが気まずい思いをする……と思ってか、勢いにほだされて一人とやった場合は、必ずもう残りの一人ともするようにしているようだ。優柔不断、というよりは、やはり今の時点では、どちらかに過度の思い入れをしないよう、心がけているのだろう……と、楓はみている。同時に、多少の抵抗をすることはあっても、香也が本気で嫌がっているわけではないのだ、という感触も、得ている。楓にしろ孫子にしろ、他人の気持ちに鈍感な少女ではなく、ことに、香也に自分がどう思われているのか、ということについては、かなり敏感だ。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(246)

第六章 「血と技」(246)

「……本当に、はじめてがこんな格好で……いいの?」
 荒野はもう一度確認した。
「いいんです」
 ベッドの上で四つん這いになり、荒野に向かって高々と尻を持ち上げた酒見粋は、頷く。
「姉の時のをみていると、かなり痛そうでしたから、逃げにくい体勢の方がいいし……それに、その……わたしたち、痩せっぽっちですから、若様にあまり見苦しい前を見せたくないんです……」
 この場合、「見苦しい前」とは、あばらが浮いてほとんど隆起していない胸のことだとは理解できるのだが……今までのことを考えると、今更そんなことを気にしても……という気も、する。
「……わかった」
 しかし、そこは荒野も学習してきているので、つまり、「女性の心理は下手にわかったつもりになってはいけない」と、今までの失敗を肥やしに了解しているので、荒野は素直に頷いて、酒見粋の尻の両脇を手で押さえ、分身の先端を粋の秘部に当てがう。
「……かなり痛いと思うけど……」
 荒野が、もう一度、確認する。
「わたしが、押さえつけておきます」
 姉の酒見純が、実際に四つん這いになった妹の上に乗りかかって、頷いた。
「若様……。
 ご遠慮なさらず、どんなに泣き叫ぼうが、一気に貫いてください。この程度の苦痛に耐えきれないわれわれではありません……」
 純が真面目くさった顔をしてそんなことをいうので、荒野は危うく吹き出しそうになり、合わせててそれを自制する。
「……わかった……」
 できるだけ真剣な顔を取り繕って、もっともらしく頷き、荒野は改めて、自分に向かい、無防備に突き出された粋の臀部をみる。肛門と性器が荒野の目に晒されているのは、いいのだが……この双子は、全体に、肉が薄い。
 ……というより、腰から腿にかけて、女性らしい肉付きがほとんどなく、例えば股間の股下部など、腿に肉がついていないので、大きく空間が空いている。成熟した女性のそれ、というよりは、やせた子供の下腹部、にみえた。
『……こんなんで、泣き叫ばれたら……』
 荒野でなくとも、げんなりする。
 内心でそんなことを考えながらも、荒野は、ぐいと体重をかけて酒見粋への侵入を開始した。
「……がっ!」
 案の定、悲鳴にもならない太い吐息をついて、酒見粋は荒野が押し込むものから逃げようとする。その背中に姉の酒見純が乗りかかって、必死に固定しようとする。
 先ほど、酒見純の処女幕を破った時も、かなり荒野を押し戻すような肉の感触を覚えたものだが、この粋の内部は、それにもまして荒野を拒み、跳ね返そうとしているように思えた。
「……やっぱり、無理なんじゃないか?」
 荒野は、いったん中に押し込むのを中断し、姉の純に意見を具申してみる。
「お前の時より、全然きついぞ。
 さっきは、入り口までは苦労しなかったけど……」
 今の粋のそこは、あまりにも強固に閉ざされているので、荒野のモノは、亀頭が隠れきるほどにも入っていない。実質、入り口に分身の先端をあてがっているだけだった。
「わ、わたしの時には、その……」
 荒野にそういわれ、酒見純は頬を染めて、あわてて目をそらした。
「……少しは、濡れていましたから……」
 そういわれて、……そうか……と、荒野は素直に納得する。
「……少しは、ほぐれてからの方がいいのか……。
 途中で休憩いれちゃったのが、かえって悪かったかか……」
「……はっ……」
 酒見純は、荒野の視線を避けるように顔を伏せる。
「……ほぐすとか濡らすとかいっても、おれも、あんまり経験豊富なわけではないし……」
「……さ、さきほどのを……」
 酒見純の下にいる酒見粋が、震える声で、時折、どもりながら、いう。
「……姉様と抱き合って、その間に荒野様が出入りした時……その、あそこに、荒野様の硬いのがすれて、かなり……か、感じました……」
 そういう酒見粋の耳は、真っ赤だった。この分だと、荒野の方から見えない顔も、一面真っ赤になっているのだろう。
「……確かに、あの時は、二人とも濡れてたな……」
 荒野は真面目な顔をして頷く。
 どうせやるのなら、全員ができるだけ快適な状態に持っていくのが好ましい、と、荒野は思っている。
「……じゃあ……そうだな。
 二人で、向かい合って抱き合ってくれ。
 さっきみたいに……ではなく、姉が下にになって、妹が上で……それで、姉は妹を下から押さえつける。しばらく二人の間で動いて、うまく暖機が終わったら、その後に本番、と……」
 荒野の指示通りに、姉が下、妹が上になって、抱きあうと、荒野はさっそく二人の股間に自分の分身をあてがい、妹の臀部に両手をついて体重をかけながら、一気に二人の隙間に押し込んだ。
「……うっ!」
「ひゃぁっ!」
 姉妹は、同時に声をあげる。
 下になっている姉の純の声の方が、若干大きかった。
 その後も、荒野が腰を引いたり突き出したりするごとに、姉妹は断続的に声をあげる。それに、荒野の分身がこすれている二人の陰毛も、いくらもしないうちに湿ってきていることからも、この行為が二人にかなりの快楽を与えていることは、確かなようだった。荒野も、二人の陰毛がすっかり濡れぼそり、すべりがよくなった頃あたりから、独特の感触に思わぬ愉悦を感じてしまっている。しかし、双子の方は香也以上に感じてしまっているようで、途中から大きくなりすぎた自分たちの歓声を気にしてか、どちらからともなく口唇を求め合い、がっしりと抱擁したままに口づけして声を押し殺している。
『……そろそろ、かな……』
 そう判断した荒野は、一気に腰を引いて、二人の股間から分身を解放する。
 二人は、ほぼ同時に不満そうに鼻をならし、恨めしそうな目つきで荒野の方を振り返った。
「……準備できたようだから、そろそろ本番、いくぞ……」
 荒野は、二人の表情に気づかぬ風で、そう宣言する。
「……姉の純は、妹の体が逃げないよう、しっかりと肩を抱いているように……」
 酒見純は、はっとした表情で、妹の肩を抱く腕に力を込め、無言のまま頷いた。
 荒野が、すっかり準備の整った酒見粋の秘部に再度、先端を当てがい、ゆっくりと中に侵入を開始する。
「……がっ!
 はっ! はぁあっ!」
 入り口付近はそれなりに濡れてほぐれているものの、ほんの少しでも内部にいくと、やはり強固な抵抗にあった。
 荒野の分身が、強固な抵抗にあう中、荒野はゆっくりと体重をかけて酒見粋の肉をめきめきと割っていく。途中、それまでとは異質な抵抗にあい、荒野の侵入が一度差し止められた。
 これが……酒見粋の純潔……なのかな? と、姉の時よりは心理的な余裕がある荒野は、思う。
「……貰い受ける」
 主語を省略して、荒野が短く呟くと、荒野に後頭部を見せている酒見粋が、微かに頷いたようにみえた。姉が、妹の肩を抱く腕に、さらに力を込める。
 それを確認して、荒野は、その抵抗を打ち破るっべき、一気に腰を沈める。
「……っっっっー……っ!」
 酒見粋の喉から、音にならない叫び声が漏れた時、荒野の分身は、根本まで酒見粋の中に埋没していた。
「……最後まで、入った……」
 荒野は、低く呟く。
 酒見粋は、姉の腕の中でがくがくと全身振るわせるだけで、何かをいう余裕はないようだった。
 しばらくしそうして、酒見粋の痙攣的な動きが収まってから、荒野はそっと双子から身を離す。
 姉と同じく、酒見粋も出血をしていた。




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彼女はくノ一! 第五話(329)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(329)

「……んっ。
 ふぁっ。
 駄目……やめ……」
 明日樹が抵抗する声は弱々しく、だいたいのところ、形だけといってもいい。最初のうち、ノリだけだったが、服を脱ぎ終わったテンやガクまでもが明日樹の体のそここをまさぐりはじる。たとえ、服の上からといっても、胸や首筋、太股の内側など、三人がかりで優しく、入念に刺激されれば、それなりに感じるところもある。ましてや、チョコに入った変な薬の影響もある。明日樹の意識としては十分に抵抗をしているつもりだったが、実態としては鼻息を荒くして、三人の愛撫に身を委ねている……といった態になるのに、いくらも時間を必要としなかった。
 それほど絶妙な力加減で、三人はじらすように、徐々に明日樹の性感を高めていく。
「……はい。
 ブラのホックはずした……」
 ノリの声が、聞こえる。
「んふっ。
 じゃあ、あすきーおねーちゃんのおっぱい、もんじゃおー……」
 すかさず、服の上から明日樹の乳首をつまみあげていたガクがブラをずらし、セーターを捲りあげて、ブラウスのボタンをはずしはじめる。
「……だめ、だって……」
 明日樹が身をよじって抵抗しようとすると、ガクは親指と人差し指で明日樹の乳首をつまみ、ぎゅうーと力をいれて持ち上げる。たまらず、明日樹が、「んはっ!」と鼻声をあげる。そんなことをされれば、本当は痛いはずなのに……何故か、気持ちがいい。思わず声をあげて反応してしまう自分の体を、明日樹は恨めしく思った。
「……あすきーおねーちゃん、感じやすいんだ……。
 ボクたちに少しいじられただけでこんなになっちゃうんじゃあ、おにーちゃんが触れたら、それこそ半狂乱になっちゃうね……。
 ほら。
 パンツのここに、しみができているよ……」
 明日樹の膝の上に乗りかかって、コットンパンツの上から丁寧に太股周辺を撫でさすっていたテンは、そんなことをいう。
 その言葉を聞いた途端、明日樹は羞恥に頬を染め、「……いやっ!」といいながら、腰を逃そうとするのだが、テンとガクに二人ががっちりと体の上に乗りかかって固定しているので、明日樹の力程度では、びくともしない。
「……んふっ。
 あすきーおねーちゃんの、おっぱい……」
 そんなことをしている間にも、ガクが、ブラウスの胸元をはだけて、明日樹の乳房を半分方、露わにする。セーターは顎下まで捲りあげられ、その上で、ブラウスの胸元を大きく開き、ブラが下にずれて完全に乳首が露出している格好だ。
 火照った肌に冷たい外気の存在を感じ、明日樹の肌はますます血の色を濃くする。
「……あまり大きくないけど、尖って上を向いている……。
 食べちゃおうか……」
 いうがはやいか、ガクは、明日樹の乳首にむしゃぶりついた。
 音をたてて舐めあげ、歯をたてて、甘噛みする。
 明日樹がビクンと全身を跳ねて、その後、硬直させた。
 ……その一瞬……明日樹の意識が白く溶けて、何がなにやら、わからなくなった……。
「……かわいいよ、おねーちゃん……」
 全身を硬直させた明日樹の頭を、ノリが優しく撫でつける。最初のうち、背中から腕をまわしていたノリは、現在では自分の腿の上に明日樹の頭を乗せ、固定している。
「……今のうちに、下も脱がしちゃうね……」
 ガクが、ぴちゃぴちゃ音を立てて、明日樹の胸を貪っている間に、テンは明日樹のコットンパンツのジッパーを降ろす。
 明日樹は、すでに前後不覚になっているのか、ビクビクと断続的に痙攣しているだけで、抵抗らしい抵抗はなかった。それをいいことに、テンは、ジッパーをすっかり降ろし、ベルトを緩めて、コットンパンツの股間を大きく開く。
「……あっ。
 やっぱり、こんなに、濡れてる……」
 どこか遠いところで、テンが感嘆する声が聞こえてきたが、明日樹の意識は混濁して反応をしめそうとしない。
「……すごい……パンツ、ぐっしょり……。
 あすきーおねーちゃん、感じやすいんだね……。
 このままだと風を引くから、一度脱がしちゃうね……」
 テンはそういって、軽く腰を浮かせて、コットンパンツごと明日樹の下着を引き抜いた。これで、胸元から足下まで、明日樹は何もまとわない状態になったわけだが……そのことをどれだけ意識しているのか、明日樹は弛緩した表情で、なすがままになっている。
「……それじゃあ、上も全部脱がしちゃおうか?」
「そうだね。
 その方が、もっとおねーちゃんを気持ちよくしてあげられるし……」
 ノリとガクが頷きあい、二人で共同して明日樹にバンザイの格好をさせ、セーターとブラウス、ブラを完全に取り払う。
 これで明日樹は、一糸もまとわない、生まれたままの姿になった。
「……さて、風邪を引かないように、濡れているところを拭き拭きしちゃいましょうね……」
 テンが、ティッシュの箱を引き寄せて何枚か乱暴に引き抜き、明日樹の股間にあてた。陰毛の生え際からはじめて、徐々に中心に向けて、ティッシュで丁寧に拭っていく。その動作自体が、明日樹に刺激を与えることになるわけだが……。
「……おねーちゃんの胸、大きくないけど、形がきれい……」
「ノリのよりは、大きいよ……」
「なんだよっ! ガクなんか、ほとんどないじゃないかっ!」
 そんなことを言い合いながら、ガクとノリはほぼ同時に明日樹の乳首を口に含んだ。
 それまで反応をみせなかった明日樹の全身が、ビクビクと震える。
「……うわぁっ!
 また濡れてきたっ!」
 テンが、そんな声をあげる。
「……おねーちゃん、胸の先っぽが、気持ちいいの?」
 テンは、新しいティッシュを引き抜いて、とどめなく透明な液体滲ませている箇所に当てる。ティッシュは、すぐに液体を吸って、重く湿る。
「……キリがないな、これは……」
 何度かティッシュを代えてから、テンはとうとうあきらめて、明日樹の膝を立てて、太股に間に顔をつっこんだ。
 そして、ぴちゃぴちゃと音を立て、陰毛に埋もれている襞の周囲を舐めはじめる。
「……うわぁ!」
 と、明日樹が声をあげて全身を振るわせた。
 首を左右に振りながら、「駄目! 駄目!」とか「ぃやぁー!」とか声を上げながら、必死に身をよじるのだが、テン、ガク、ノリの三人に押さえつけられている明日樹は生半可なことでその束縛から逃れることができない。
「……まだ溢れてくる……」
 テンは舐めるのもあきらめ、明日樹の秘裂に直接口をつけて、そこから際限なく溢れ出てくる透明な液体を、音をたてて吸い込む。
 明日樹は、
「……ふぁっ! ふぁっ! ふぁっ!」
 と断続的に意味のない叫び声をあげ、ガタガタと全身を振るわせた後、再びぐったりと動かなくなった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(245)

第六章 「血と技」(245)

『……なんで、こうなる……』
 荒野は、そう疑問に思う。
 今、荒野の上には、結合した状態でシルヴィが乗っかって、嬉しそうな嬌声をあげながら、体を上下に揺すっている。荒野からはブロンドのさらさら髪を揺さぶっているシルヴィの背中しか見えないが……シルヴィが「見本、見本……」といっていたので、酒見姉妹は、今、正面からその結合部を凝視している筈だった。
「……荒野……」
 茅が、恥ずかしそうな表情をしながら、それでも、荒野の顔の上にまたがってきた。
「……さっきは、荒野、最後までいかなかったから……」
 ……どうやら、荒野に口で奉仕して欲しい……ということ、らしい。
『……いいけど……』
 茅が恥ずかしがるので、茅が口で荒野のモノを咥えることはあっても、荒野が茅の性器に口をつけることは、ほとんどない。
 薬のせいか、雰囲気のせいなのかは知らないが……。
 荒野は、大人しく首を起こし、鼻先に突きつけられた茅の恥丘に、口をつけ、舌で陰毛をかき分けて、茅の中に硬くした舌を突っ込んだ。
 その途端、茅が背を反らして、
「……んんっ!」
 と、うめき声をあげる。
 構わず、荒野は首を左右に振りながら、舌で、茅の秘処を……その中を、なぶり続ける。それで荒野が快楽を得る、というわけではないのだが、自分の行為によって、茅が反応するのを見るのは、楽しい。
 時折、茅がビクン、ビクンと全身を震わせるのは、適当に動いているだけでも、鼻先が茅のクリトリスに触れてしまうためだろう。
「……茅様……」
 いつの間にか、酒見の一人が、荒野の顔を……ということは、茅の股間を、ということなのだが……覗き込んでいた。
 その酒見が接近する気配に気づかなかった、ということは、荒野も、自覚するよりは、茅のそこに愛撫を加える行為に夢中になっていた、ということなのだろう……。
「……気持ち、いいですか?」
「いいのっ!」
 茅が、荒野の顔の上で全身をがくがく震わせながら、叫ぶ。
「とても……いいのっ!」
 茅は、先ほど一度達している。その余韻もあって、感じやすくなっているのだろう……と、荒野は思った。
「……では……」
 茅に尋ねた酒見が、さらに顔を近づけてきた。
「お手伝い、させて貰います……」
「……はうぅっ!」
 その酒見の舌と、荒野の舌が、茅の敏感な箇所で触れあった。
 つまり、その酒見は、茅の陰茎の上部、荒野からみると鼻先あたりを、ぴちゃぴちゃ音を立てて舐めはじめる。
「……あぅ……あぅ……あぅ……」
 という、切れ切れの茅の喘ぎ声が、聞こえる。
 その酒見は、荒野と一緒に茅の局部を口で責めたてながら、茅の背を腕で支えているようだ。茅がのけぞったような重心の移動を、荒野は感じ取っていたが、茅はまだ後に倒れ込んでいない。
 その酒見が、荒野とともに茅への奉仕に加わったのと同時に、もう一人の酒見は、荒野の局部にとりついて、やはり口での奉仕を開始していた。荒野とシルヴィは結合していたままだったので、結合部を中心に舐め回している感触が、あった。シルヴィの声が、一層、大きくなる。荒野の下半身にとりついた酒見は、舌を使うだけではなく、シルヴィに何らかの愛撫を加えているのかも知れないが……実際の所は、荒野からは、確認ができない。
 いずれにせよ、酒見姉妹がプレイに参加してから、いくらもしないうちに、荒野の上に乗って頑張っていた茅とシルヴィは、前後してぐったりと動かなくなった。
 双子と荒野は、力が抜けた大小の女体を慌てて腕で支え、ベッドの脇に横たえる。二人はせわしく胸を上下させ、ぼんやりとした表情をしていた。
 茅とシルヴィの体が荒野の上からいなくなると、荒野が起き上がる前に、すかさず、酒見姉妹が荒野に体重を乗せて抱きついてくる。
「……お、おいっ……。
 お前ら……」
 荒野が弱々しく抗議する。
 今現在の状況が状況だから、いつものように毅然とした態度が取りにくい。
 酒見姉妹は、何も言わずに左右から荒野の口唇を求め、貪った。茅とシルヴィが前後不覚になっている今のうちに、ということもあるのだろう。
 いつの間にか、茅、シルヴィ、酒見姉妹……という順番で、荒野に対する優先権というか序列というか、ともかくそういう秩序、ないしは、力関係が明確になってしまっている。
 酒見姉妹と荒野の、三人分の口と舌とが、複雑に絡み合う。
 ……んふふっ……と含み笑いをしながら、双子は、二人分の手指で、シルヴィの愛液にまみれている荒野の分身をまさぐっている。
「……若様、の……」
「……まだ、こんなに……」
 確かに、荒野のそこは、まだ全然力を失っておらず、いきり立ったままだ。というか、今日はまだ、一度も射精していない。
「いや、状況が、異常だから……なんか、緊張しているのかな……」
 荒野は、何故か、いいわけがましい口ぶりになった。
「……いえ……」
「殿方は、タフな方がいいです……」
 双子は、そんなことをいいながら、さらに荒野の口をもとめ、手では、荒野の胸や腰のあたりを愛撫する。
 しばらくそうしてから、双子の一人が荒野の手を取って、
「……そろそろ、わたしの純血も……」
 とか、言いだす。
「……ええっと……その前に……」
 荒野は、こめかみを指で軽く掻きながら、確認する。
「名前、教えてくれるかな?
 さっきもいったけど、おれ、君たちの区別がつかない。
 今更、やるのがイヤだとはいわないけど……その、名前が分からない女の子とやるのは……正直、ちょっと、抵抗がある……」
 荒野がそういうと、双子は一度顔を見合わせて、含み笑いをした。
 そしてすぐに、
「……さきほど、お世話していただいたのが、わたし……。
 姉の、純です……」
「……そして、こらからお相手してお相手していただくわたしが、妹の、粋です……」
 交互に紹介され、荒野は頷く。
「……わかった。
 見分け方は、おいおい、覚えるとして……その、粋ちゃん……に、なるのか?
 上になるのがいい? 下になるのがいい?」
 荒野が真面目な顔でそう尋ねると、何故か双子は、さらに笑った。




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彼女はくノ一! 第五話(328)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(328)

 明日樹が一つめのチョコを食べると、こちらをじっと見ていたガクと目があった。
「……これで、あすきーおねーちゃんも、僕たちといっしょだね……」
 ガクが、あくまで無邪気な笑顔を見せる。
「おにーちゃんとえっちしないと、みんな死んじゃうんだ……」
 そのすぐ横では、相変わらず楓、孫子、香也の三人がお互いの服を脱がし合い、盛大にいちゃついている。楓が、時折、「……はやくしてくれないとぉ……死んじゃいますぅ……」と鼻にかかった声で香也に訴えている。その口調が、自然な媚態を含んでいるようで、その声を聞くたびに明日樹は、かなり落ち着かない気分になった。香也は、抵抗するのにももはや疲れたのか、ぐったりと二人のなすがままになっている。それをいいことに楓と孫子の二人は、手慣れた手つきでほぼ全裸になった香也の体に手を這わせたり、交互に香也の口を吸ったりしている。
「……いつも……こんなこと、やっているの?」
 一度は三人の様子を確認した明日樹は、あられもない様子にすぐに目を逸らして、三人の方に顔を向け直した。
 香也や、普段親しくしている楓や孫子が「そんなこと」を……それも、すぐそこで、かなり慣れた様子でしている……ということを意識するのは、明日樹にとっては刺激が強すぎた。
 自然と、明日樹の頬が、熱くなる。
「ボクたちは、全然。
 でも、あの三人は、時々やってるみたい……」
「……なにいってんだよっ!
 ガクも、この間お風呂で、最後までやって貰ってたじゃんっ!」
 ガクとテンが、無邪気な口調を崩さずにそんなことを言い合っている。ノリは、そのやりとりに加わらず、ポリポリとチョコを食べ続けている。
『……この子たちに、とっては……』
 こうした性的な事柄と他の遊びとの区別が、あまりついていないのかな?
 ……と、明日樹は思った。
 この場合、「最後まで」というのは、香也との行為、ということなのだろう。そのことについて、自分があまりショックを受けていないことに、明日樹は気づいた。すぐそこで、現在進行形で「そういうこと」をやられているわけで、今更、という気持ちが強いのだろうか……とかも、思ったが……どうやら、それだけではなく、香也の意志によらず、無理矢理そういうことをしなければならないハメに陥っている……ということ「らしい」ので、落ち着いていられるのかも、しれない。
 いや。それ以上に、やはり、今現在の状況があまりにも非現実的なので、当たり前の感受性が、一時的に麻痺しているのだろう……と、明日樹は思った。
「あすきーおねーちゃん、顔、真っ赤っか……」
 ノリが、指摘する。そういうノリも、耳まで真っ赤になっている。
 確かに、先ほどから明日樹の顔は、熱を発している。それだけではなく、体中がぽかぽかと暖かい。
 昨日、明日樹は、薬の効果について、シルヴィから「飲むと、性的に興奮してくる」と聞かされている。その効果について、明日樹は半信半疑だったが、いかにもあやしげだったので、自分が作ったチョコには混入していない。しかし、こうしてチョコを口にしてみると、確かに、全身の血の巡りが良くなって、自分は、興奮してきているようが……と、明日樹は他人事のように、自分の身に起きた変化を観察した。
『……そういえば……』
 楓と孫子は、シルヴィが提供した薬物に関して、「体内に摂取したら、えっちをしないと死ぬ薬」であるということを、繰り返し口にしていて、テンとガクも、その情報を疑うことなく信じ込んでいる。
 明日樹が聞かされた説明と、その説明の差は、一体、どこから来ているのか……。
 などということを、ぼーっと考えている明日樹の横で、三人が服を脱ぎはじめる。そのことに気づいた明日樹は、「ちょ、ちょっとっ!」と、慌てて声を上げた。
「何……脱いでるのっ!」
「……えーっ!」
 ガクが、不満そうな声をあげた。
「だって、裸にならないと、おにーちゃんとえっちなこと、できないじゃん……」
「そうそう」
 下着ごと一気にハーフパンツを脱ぎ降ろしたテンも、ガクの言葉に頷く。
「ほら、おにーちゃんたち……もう、はじまっちゃっているし……」
 下半身を剥き出しにしたガクが指さした方向に反射的に目をやり、明日樹は「うひゃぁあっ!」と叫び声をあげた。
『……は、はじまっちゃってるぅ……』
 素っ裸になった楓が、香也の上に馬乗りになって、リズミカルに自分の体を上下に揺すっている。行為に夢中になっている楓は、もはや、周囲のことなど眼中に入っていないようで、頬を薔薇色に染めてしまりのない表情をし、体が上下するたびに「はうぅ、はうぅ」と甘い吐息を漏らし、豊かな乳房がたゆゆんたゆゆんと弾んでいる。孫子は孫子で、やはり全裸になった状態で、香也の顔にとりつき、「んふっ。んふふふふふっ」とか含み笑いをしながら、執拗に香也の口とか顎のあたりに舌を這わせている。孫子が覆い被さっているため、香也の表情は確認できない。だけど、楓と孫子は、明らかに興奮して、忘我の状態にある。
「……うわぁぁあぁ……」
 明日樹は、細く吐息を漏らした。
 もちろん、他人の性行為を間近にみるなど、明日樹にとっては、初めての経験である。どちらかというと奥手な明日樹は、AVやポルノなどの「関連情報」にも苦手意識があり、自分の意識で遠ざけてきた。ので、十分な予備知識もないままに、いきなり「本番」、それも過激な複数プレイを間近に見たことになる。
「……あすきーおねーちゃーん……」
 首のすぐ後でノリの声がして、その次の瞬間には、背中から回された腕で、むぎゅ、と、抱きすくめられた。
「……駄目だよぉ……脱がないとぉ……」
 明日樹を背中から抱きすくめたノリが、むぎゅむぎゅと明日樹の乳房を揉む。耳にかかるノリの吐息とともに、その「揉まれる感触」が、明日樹に背筋に電撃のような快感をもたらし、明日樹は反射的に「……うひゃんっ!」と小さい叫び声を上げてしまっている。
「……あっ……やっ……やめっ……」
 明日樹は、身をよじってノリの腕から逃れようとするが、制止を訴える自分の声が、ひどく甘い響きを持っていることを、明日樹は自覚した。
「……本当に、やめちゃって……いいの?」
 明日樹を抱きすくめているノリの吐息も、熱かった。
「おねーちゃんの、乳首……こんなに、硬くなっているけど……」
 ノリが、服の上からでも明らかに勃起していることが確認できる明日樹の乳首を、人差し指と親指で抓みあげると、明日樹は、「ひゅんっ!」と、大きく息を吸い込んで、背を大きく仰け反らせた。
「……あーはーはー。
 あすーきーおねーちゃん、感じやすいんだー。
 かわいー……」
 どこか遠いところから、ノリの声が聞こえる。
 同時に、自分の服を脱がそうとする複数の手の感触を感じたが、明日樹の意識は霞がかかっていて、もはや抵抗しようとする気力も湧いてこなかった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(244)

第六章 「血と技」(244)

 途中、一度抵抗の強い箇所があったが、荒野は構わず最後まで挿入した。
「……ふぎぃっ!」
 と、荒野の下になった酒見が、艶っぽくない声をあげた。
「その」酒見の中は、とても、狭い。入り口付近はそうでもなかったが、途中からとてもきつくなった。「締め付けてくる」というより、「侵入を拒んでいる」といって方がしっくりくる感触。
 当然、荒野は、気持ち良い筈もない。
「……痛いか?」
 荒野は、すぐ目の前にある酒見の目をまともに見つめながら、指で軽く前髪を弾いた。荒野が組み敷いている酒見は、涙目になって頷く。
『……どうみても……』
 快楽を得ている表情ではないな……と、荒野は思った。
「中」の感触からいっても、痛みしか感じしかいないだろう。
 それに……荒野にしてみても……。
『……見分けがつかない女の子を……』
 本気で抱けやしないよなぁ……と、荒野は思う。
 少し前から感じていた違和感……自分の内部にわだかまる気持ちの悪さが、ここに来ていきなり明瞭になった気がすた。
「……なぁ、酒見……」
 荒野は、目の前にいる酒見に告白した。
「こうなってから、なんだけど……フェアじゃないと思うので、告白しておく。
 おれ……お前がどっちの酒見が、これだけ間近でみても、見分けがつかないんだ……」
 荒野に貫かれている酒見は、目を見開いた。
「その様子じゃあ、お前もはじめてだろ?
 最後までやっておいて、なんだけど……今、このまま続けても、お前、痛いだけだろ?
 それに、おれも……もっとお前……お前らとしっかりと向き合ってから、改めて、続きをしたい」
 荒野はここで、一度言葉を切った。
「こういうの……その場の勢いで、っていうの、良くないと思うし……それ以上に、えっちは、二人とも気持ちよくないと駄目だろ?
 だから、一旦……離れるぞ……」
 荒野は、酒見の反応も待たずに体を離す。荒野の下にいた酒見は、残念そうなほっとしたような、複雑な表情をしている。
 荒野が分身を引き抜くと、そこから一筋の血がしたたっていた。
 やはりな……と、荒野は思った。
「……そこの……もう一人の酒見も、聞いておけ。
 こうなった以上、お前たちとおれたちは、一蓮托生だ。そういうのが、望みだったんだろう?
 だから……もう、無理をしなくてもいい……」
 フルチンでこんなことをいっても決まらないよな……と思いながら、荒野は組み敷いていた酒見から離れて、続ける。
「「……若様……」」
 テーブルの上から立ち上がった酒見と、もう一人の酒見が、左右から荒野に対して声をかけた。
「「……それは……あまりにも……」」
 酒見姉妹は、顔を伏せて声と肩を震わせている。
「「……屈辱ですっ!」」
 荒野は、左右から平手打ちを食らった。
「「バチンッ!」」と、とてもいい音がした。

「……今のは、コウが悪い……」
 その後の軽い一騒動の後、シルヴィは腕を組んでジト目で荒野を見下ろした。
「……損得勘定とオトメゴゴロを混同するとは、ナニゴトですか……」
 いつまでもキッチンで、それに全裸で……というのも何なので、順番にシャワーを軽く浴び、体や腰にバスタオル巻き付けて、ベッドルームにしている部屋に移動した。
 荒野はベッドに腰掛け、その荒野の肩に茅がもたれかかり、シルヴィを中心にして酒見姉妹が、二人を見下ろしている。
「……ごめんなさいなの」
 茅が、頭を下げた。
「荒野……他のことはともかく、特に女性の扱い方は不器用で、鈍感なの」
「……お、おれ……そこまで、駄目か?」
 茅にまでそういわれて、荒野は……かなり肩身が狭かった。
「……まぁ……コウだもんね……。
 あんまり器用に立ち回られても、コウらしくないし……」
 シルヴィは、大仰に肩を竦めて天井を見上げる。
「……ヴィまでっ!
 フォローしているようで追い打ちかけているしっ!」
 抗議しようとした荒野は、シルヴィの両脇にいた酒見姉妹にギロリと睨まれて、慌てて口を噤む。
「……と、いうことでぇー……」
 シルヴィが、ざがっと「何か」を、体の前に突き出す。
「……これから、男性としてのコウを鍛えたいと思いマースっ!」
 シルヴィがつきだしたのは、「例の」チョコが入った箱だった。
「……まだやるのかよっ!」
 つっこみを入れる荒野。
「……えー……」
「「……いえーっ!」」
 露骨に嫌な顔をする茅と、歓声をあげる酒見姉妹。
「……Off course! モチロンッ!」
 シルヴィは、がばっと自分のバスタオルをはぎ取って、形の良い乳房を荒野につきつける。箱の手を突っ込み、がばっと一つかみのチョコを自分の口にざらざらっと落とし込んで、箱を酒見姉妹に手渡し、荒野に抱きつく。荒野の肩にもたれかかっていた茅ごと、荒野をベッドの上に押し倒し、口移しで、荒野の口の中にチョコを送り込んだ。
 酒見姉妹は顔を見合わせて頷き合い、いくつものチョコを立て続けに口の中に放り込み、飲み込んだ。
「「……いえーっ!」」
 そして、すでにもみくちゃ状態になっている三人の上にダイブする。

 後はもう……乱交状態に、なった。




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彼女はくノ一! 第五話(327)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(327)

 楓も孫子も、妙にねっとりとした視線で香也をみている、と、明日樹は観察した。それが、二人の内的な願望や欲求からくるものなのか、それとも、薬物が影響もたらした変化なのか、明日樹にはにわかに判断できなかったが……おそらく、その両方だろう、と、明日樹は判断する。ここ最近、この二人の香也への接近ぶりは傍目からも明らかで、今現在、楓が当然のように香也に迫り、孫子もそれを不当とはみなしていないことからも、「この人たちは、何度かこういうことを経験している」と、明日樹は結論づける。そうでなければ、このなれなれしさは発生しえない、と。
 三人の関係を知って明日樹が気落ちしたかというと、実は、そうでもない。薄々、雰囲気からそんなことではないかとは感じていたので、「意外に思った」というよりは、「……やっぱり、そうだったんだ」という「腑に落ちた」感じの方が強かったし……それに、楓と孫子はともかく、香也の方は、この期に及んでもなお、いやがって抵抗している。明日樹にとっては、既成事実が存在する、ということよりも、香也が望んでそうなっているのかどうか、ということが、大事だった。それに、明日樹にはひとつ下の弟が存在し、その大樹をみていれば、同じくらいの年頃の男の子の性欲がどれほどのものか、容易に想像がつく。これほど「恵まれた」環境下にあって、未だ「流されていない」香也の意志と自制心は、実はすごいのではないか……などと、明日樹は思う。そのような思索を重ねることで、今、目の前で進行している現実から目を逸らそう、という逃避的な心理的バイアスは、当然かかっているわけだが……。
 明日樹が、そんなことを考えている間にも、香也は楓と孫子に押し倒されて身動きを封じられ、服を脱がされはじめている。手足を拘束され、服を脱がされている香也はともかく、楓と孫子の方は、ゆっくりと香也の着衣をはだけながら、指や口を露出した香也の肌に押しつけて愛撫したりしていて、すっかり「その気」になっているようだった。二人とも、顔中を紅潮させ、うっとりとした表情をして、香也の肌を愛撫している。普段の様子とはまったく違う同性の友人の顔を目の当たりにし、明日樹はどきりとする。
「……ほら……香也様のここも……すっかり、元気に……」
 孫子がコワク的な微笑みを浮かべながら、香也のジッパーを降ろしてその中に手をいれていた。
「……香也、さまぁ……」
 楓は楓で、香也の手を、はだけた自分のシャツの中に導きながら、香也の耳のあたりを舌や口で愛撫していた。
「……いろいろ……愛してくだらさないとぉ……わたし、死んじゃうんですよぉ……。
 わたしが、死んじゃっても、いいんですかぁ……。
 この間、わたしが香也様の毒抜きをして差し上げたのに……」
 楓は、そんなことを囁きながら、香也のジーパンの中に入れた手を蠢かせる。明日樹の目にも、香也の股間は、楓の手の分以上に膨らんでいる……って、いや、それより、今、楓は、「わたしが香也様の毒抜きをして」うんぬんとかいっていなかったか? それってやっぱり、あれ、この薬とかやらを狩野君が飲んで(飲まされて?)今、まさにそうなりかけているように、あーんなことやこーんなことをやってしまった、ということなのだろうか? ん? ん?
 ……などと、外見的にはそのまま凍り付いている明日樹も、頭の中では立派にぱにくっているのであった。
「……わたしくも……」
 孫子が、香也の上半身の服を脱がしながら、香也の首筋にねっとりと口唇を這わせる。楓と孫子の二人がかりで押さえつけられたら、別に香也でなくとも抵抗は出来ない。二人は、白兵戦や格闘戦についても一通り以上の訓練を受けている、いわばエキスパートであり、加えて、反目することが多い割には、こういう時に限ってぴったりと息を合わせて手際よく香也の服を脱がしていく。手慣れているっつーか、まるで、あらかじめ打ち合わせでもして計画的に香也を襲っているように感じるほどの手際の良さ。明日樹の内心は、「とんでもないところに居合わせてしまった……」という焦りや他人の秘め事を見せつけられている恥ずかしさといたたまれなさ、それに、他ならぬ香也が明らかに望んでいない関係を迫られていることに対する怒りなどが内心で入り混じってぐだぐだになっている。思考が混濁して動けない明日樹の耳に、ことさらゆっくりとした口調の、よく通る孫子の声が入ってくる。
「……先ほど、チョコを食べましたから……わたくしも、毒に犯されております……。
 香也様ぁ……助けてください……」
 この時、孫子は確かに、明日樹の方をちらりと横目で見た。
『……挑発っ!』
 瞬間的に、明日樹の頭に血が昇る。
 楓の方はともかく……孫子は、明日樹の気持ちを知りながら……気づいていながら……わざわざ逆撫でするような……見せつけるような……。
 明日樹は、むーっとした顔で、何気なく炬燵の上をみる。
 放置されたチョコの箱が、視界に入った。蓋は開いたままで、中身はまだまだ残っている。
 明日樹は、固唾を飲み込む。
『……これを、口にすれば……』
 正直……えっちすれば、うんぬんという話しはかなり眉唾だとは思うが……少なくとも、これを食べてしまえば……楓や孫子と同じく、今、ここで、そういうことをする口実が、できる。
 そういうのが明日樹の本望なのか……といえば、決してそんなことはないのだが……指をくわえてみているよりは、自分の意志で仲間に入った方が、遙かにマシなのではないか?
 あはんうふんと楓と孫子の嬌声が次第次第に大きくなる中、明日樹が、複雑な心境のまま、そろーっと手を炬燵の上に伸ばす。
 その時、
「「「……たっだいまっー!」」」
 玄関の方から、聞き覚えのある声が三人分、響いた。
 明日樹はぎくりとしてのばしかけた手をさっと引っ込める。
「……あっ! この匂い……。
 誰かがえっちな気分になった時の匂いだっ!」
 ガクの声がまず聞こえ、その直後、どたどたと三人分の足音がして、三人がどたどたと慌てた様子で居間に入ってくる。
「「「……あーっ!
 やっぱり、みんなでえっちなことやってるーっ!」」」
 入って来るなり、三人は声を揃えた。
「……わっ……わたしっ!
 やってないっ! まだ、全然、何もやってないからっ!」
 明日樹が、目を点にして、顔の前でぶんぶんと掌を振る。
「「「……あーっ!
 あの、えっちな気分になるチョコ、本当に使ってるっー!」」」
 三人は、明日樹の横を素通りして、すでに絡み合っている香也、楓、孫子の方に駆け寄る。
「……これは……」
「うんっ!」
「出遅れたけどっ!」
 テン、ガク、ノリの三人は、一斉に炬燵の上のチョコに手を延ばす。
 明日樹も、勢いにつられてチョコに手を延ばした。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(243)

第六章 「血と技」(243)

 ……こいつら……雰囲気に酔っているんじゃねーの……。
 とか、思わないでもない荒野だったが、茅に急かされる形で、裸になってテーブルの上に横臥した双子に近づいていく。荒野の方は、度重なる刺激で、肉体的にはエレクトしたまま、精神的な不感症状態となっている。状況が異常すぎて、心理的に麻痺している、ともいう。
 姉崎のネットワークを利用する条件としてシルヴィの要求に応えたように、この姉妹を従属させるために、抱く……ということについては、荒野も異存はないのだか……。
「茅……。
 本当に、いいのか?」
 一応荒野は、自分の股間にとりついている茅に確認してみる。
「いいの」
 一度、荒野から口を離した茅は、頷いた。
「荒野の一番は、茅だから、いいの」
 まったく気にならない、といったら嘘になるのだろうが……茅は茅で、一線を引いた上での関係であるのなら、まだしも我慢できる、といったところ……なのだろうか?
 実際、楓以外の、自由に動かせる部下が欲しい……というのは事実であり、
 荒野と茅の関係の強度に自信があるから、許容できるのかもしれない。
『……今度の週末が……』
 思いやられるな、と、荒野は思った。
 どうせ茅に、後で、今日の「埋め合わせ」を要求されるに決まっているのだ。
「……それよりも、コウ。
 ツインズの方を早くなんとかしないと……」
 相変わらず、豊満な乳房を背中に押しつけながら、シルヴィも、荒野を双子たちの方に即す。
「コウがあんまりじらすもんだから、あの二人、自分ではじめちゃったわよ……」
 酒見姉妹は、あわれもない格好で股を開き、陰毛の薄い性器を荒野の目に晒しながら、自分の指で慰めはじめている。あばらが浮いているほど痩せていて、実際の年齢よりもずっと幼く見える姉妹が、他人の視線を気にせず……いや、むしろ、荒野に見せつけるようにして自分の性器をまさぐっている様子は、鬼気迫るものがあった。
「……薬ってヤツが、効き過ぎなんじゃないのか、これ……」
 荒野は、シルヴィに確認する。
「効き目に、個人差はあるけど……」
 シルヴィはゆっくりと二、三度、首を振った。
「毒でもないし、中毒性もないわ。
 この二人、virginなんでしょ?
 夢中になっているうちに終わらせちゃった方が、痛みを意識しなくて、かえって都合がいいかも知れない……」
 そんなもんか、と、荒野は思う。
 男性であり、今までに処女との経験がない荒野は、破瓜の痛みについては、想像しようにも、どうにも実感がない。
「……それに、この二人が、荒野にらぶらぶなのは、一目瞭然なの」
 茅が、最後の後押しをした。
「二人が、荒野の役に立つための口実を与えておけば、感謝されることはあっても、非難されることはないの」
 肝心の姉妹はというと、自分自身で慰めながら、喘ぎ声の合間に荒野の名を呼んでいる。そして、荒野が近づくと、我先にとしなだれかかってきた。
「で……」
 荒野は、すっかり発情している様子の二人に、尋ねる。
「どっちから、先にするんだ?」
 この時点で荒野は、気分的には、かなり醒めている。
 どうにも……自分自身が、女たちによって、駆け引きの道具にされている……と感じるのは、やはり良い気分ではない。
 荒野にしなだれかかってきた双子は、薬物の影響かそれとも雰囲気のせいか、すっかりその気になっていて、「自分の方を先に」といった意味のことを口々にいう。普通の状態でさえ見分けがつけにくい酒見姉妹は、全裸になったことで、荒野の目はどちらがどちらだか、完全に分からない状態になっている。そこで荒野は、二人のうち、一人を適当に選んでテーブルの上に押し倒し、その上に覆い被さって、秘処に自分の先端をあてがった。
 入り口付近で亀頭を何度かこすり合わせると、抵抗らしい抵抗もなく、襞の中に滑り込んでいく。そこがすでに十分に湿っていた、ということもあるし、入り口付近に関しては、たいした抵抗もなかった。ただ……そこもやはり体のサイズに比例しているのか、今までに荒野が経験した女性器と比較すると、格段に、狭いし、きつい。
「……んぐっ!」
 先端が入っただけで、荒野が組み敷いている酒見が、いかにも苦しそうな声をあげた。
「……痛いか?」
 荒野が、尋ねる。
 その酒見を気遣って……というより、このような不自然な性交を中止に出来るのなら、荒野にしてみればそれにこしたことはなく、ここで止める口実ならを提供してくれるのなら、大歓迎なのであった。
「……ま、まだ……んっ!
 ……がっ!」
 その酒見は、気丈にも平気な振りをしてみせたが、言葉の途中でほんの少し、奥に押し込むと、途端に喉を仰け反らせ、肺腑の奥から息を絞り出す。
「無理するな。かなり、きつそうだし……」
 荒野がその酒見から離れようとすると、その酒見は、下から手足を伸ばして荒野の胴体に巻き付け、しがみついてきた。
「……この、まま……」
 荒い息の下で、その酒見が、荒野の耳元に囁く。
「さいご……まで……。
 本当に……若様の……ものにして……ください……。
 本気でなくても……お情けでも、いいですから……」
「……そう、か……」
 荒野は、耳に口を寄せられた時、荒野の頬にその酒見の涙が付着したことに気づいた。
 痛みを堪えた涙、ではあるまい。
 荒野にしてみれば、妥協と打算の関係なのだが……この少女にとっては、そうではない……。
 ということを、荒野は理解した。
「……痛いとは思うけど、一気にいく」
 荒野は、その酒見の腰が逃げないように、がっしりと両手で、その酒見の腰を掴む。
 その上で、一気に最後まで、腰を下ろす。
 荒野に組み敷かれた酒見が、悲鳴に似た、甲高い声をあげた。




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彼女はくノ一! 第五話(326)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(326)

「……あ、どうも……」
 樋口明日樹は、お茶をいれてくれた楓に頭をさげる。しかし、お茶に手をつけようとはしなかった。香也がまっすぐ帰宅する、ということを知ったときから、「一人きりではいないだろう」予想をしてはいた。誰かしら、この家の人が付き添っているだろう、と。
 楓と孫子は以前にもまして公然と香也との距離を詰めはじめていたし、加えて、ここ数日は、三人組まで、香也にべたべたしはじめている。香也は相変わらず、彼女らの誘いに乗っているような雰囲気ではなかった。が、かといって、彼女らを意識して遠ざけているようにも、見えない。
 このことに限らず「香也の態度」というのは、本人がいたって泰然と構えているため、傍目からは「本音」がなかなか見えにくく、それがかえって明日樹のフラストレーションをいや増すことになる。
 かといって……楓がいるこの場で、香也の真意を問いただすのも、勇気がいった。
 さて、当の香也であるが、明日樹のやきもきを知らぬ風で、炬燵に手足をつっこんであきらかにだらーっとだらけている。
 香也にしてみれば、「わざわざ自分を訪ねてきた明日樹を放置して、まさか昼寝を決め込むわけにもいくまい……」とか思って、必死で睡魔と格闘しているわけだが……傍目にはとにかく、ぼーっとしているようにしかみえなかった。
「……大丈夫、かなり、調子悪そうだけど……」
 明日樹は、香也の様子をみて、そう声をかける。
「……んー……。
 大丈夫……」
 香也は、もごもごと不明瞭に答えた。
「ただ……変な時間に起こされて、眠い、だけだから……」
「……そ、そう……」
 ……何で「変な時間に起こされ」たんだろうか? と、不審に思いながらも、明日樹は頷く。
「あ。
 これ、どうですか? お茶うけに……」
 一度、台所に引っ込んでいた楓が、クッキーの缶を抱えて居間に帰ってくる。
「どうも、昨日作ったものの余りのようですが、かなりいっぱいありましたから……」
 楓は缶の蓋をあけて、炬燵の上に置く。
 中には、一口大のチョコレートがびっしりと詰まっていた。その一つを指で摘み、楓は、ひょいと自分の口に放り込む。
「……あっ!」
 と、明日樹が、大声をあげた。
 昨日の……ということは、シルヴィが持ち込んだ、得体の知れない薬剤が混入したものなのでは……。
 いきなり明日樹が大声を上げたので、楓は、「え?」と訝しげな顔をする。
「……別に、問題なくおいしいですよ、これ……」
 楓は、口に放り込んだチョコを飲み込んで、そういった。昨日、その場にいなかった楓は、「手作り」ということで、明日樹が「味」に不安を感じているもの……と、思いこんでいる。だから、何気なくもう一つ、チョコを口に放り込んだ。
「……そ、そうじゃなくってっ!」
 明日樹は、血相を変えて楓に近寄り、耳元に口を寄せて、香也の耳にははいらない程度の小声で、昨日のあらましをごしょごしょと囁く。
「……えっ! あっ! あっ……」
 明日樹の説明を聞くうちに、楓の顔色は、蒼白になって、叫んだ。
「……そ、それって……。
 えっちをしなければな、死んじゃうお薬なんじゃないですかぁっ!」
 根が素直な楓は、以前、孫子が、その場の判断で適当に吐いた嘘を、すっかり信じ込んでいるのであった。
 思わず、逃げ腰になる香也の服を、明日樹が、がっしりと掴む。
「……だ、駄目っ! 逃げないでっ!」
 明日樹は、香也に向かって叫んだ。
「昨日、姉崎さんは、えっちがしたくてたまらない薬だといってただけど……それの、楓ちゃんっ!
 えっちをしないと死んじゃう薬って……」
「さ、さ、さ、才賀さんが、以前、香也様に使って、えらいことに……」
「……楓ちゃん、落ち着いてっ!」
 そういう明日樹も、実はかなり動転している。
 その証拠に、「その薬が香也に使われた」ということは、香也が誰かと性交渉をしている……ということを意味するのだが……その事実に、明日樹は思い至っていない。
「楓ちゃん、まだ、体に異常ないっ?
 ま、まずは、確認……姉崎さんか、才賀さんに……」
「わ、わ、わ、わたし、姉崎さんに、連絡しますっ!
 樋口さんは、才賀さんにっ!」
「……わたくしが、どうかしまして?」
 楓と明日樹が動転して騒いでいる間に、居間に、ゴスロリ服の孫子が入ってきていた。
「今、商店街イベントの、閉会宣言をして帰ってきたところなのですが……」
 楓と明日樹は、わたわたと慌ただしく、孫子にさっきのいきさつを説明する。二人とも慌てているため説明の要領が悪く、孫子は何度か聞き返さなくてはならなかった。
「……そう……」
 一通りのことを聞き終え、事態を把握した孫子は、しれっとした顔をして、以前吐いた嘘を吐き通した。
「……まず、服用したら、えっちをしないと死んでしまう薬がある、というのは、本当です。
 また、その薬は姉崎女史から入手したもので……昨日、姉崎女史が使用したものと、同一のものである可能性は、きわめて高いとしかいいようがありません……。
 樋口さん、このチョコには、確かに、姉崎女史の薬が混入しているのですか?」
「それは……はっきりと、そうだとはいえないけど……」
 明日樹は、ゆっくりと首を振った。
「……でも、姉崎さん、こういう細かいチョコ、いっぱい作っていたから……」
「……わかりました。
 その点については、わたくしが確認してみましょう。
 それから、楓。
 今から吐こうとしても無駄です。この薬は、消化吸収が極めて早く、微量でも効果があります。もう、手遅れです……」
 孫子は、澄ました顔で、嘘をつき続ける。

 そして、携帯電話で短く問答をした後、孫子は、自分の口にチョコを放り込んだ。
 明日樹が、「あっ!」と大声をあげる。
「……毒物ではないので、そんなに驚くべきことではありません……」
 孫子は明日樹に、淡々と説明しながら、次々とチョコを噛み砕いて飲み込んだ。
「ただ……これで、楓が、性行為をしなければ死亡してしまう薬を服用したことが、証明されました。
 ここには、楓と性行為をすることができる男性は、一人しかいませんし……わたくしは、楓だけに、そのような真似をさせておくことに、耐えられません……。
 楓……今の、体調は?」
「な、なんだか……胸が、どきどきして……」
「……そう」
 孫子は、平静を装って、頷いた。
「それは……楓とわたくしの人命を救うため、香也様には頑張っていただきませんと……」
「……そ、そう……ですね……」
 すっかり孫子に言いくるめられた形の楓も、頷いた。
「香也様……このチョコ……食べておいた方が、頑張れると思うのですが……。
 この間も、その……凄かった、ですし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(242)

第六章 「血と技」(242)

「……どっちから、先にするね?」
 シルヴィが双子に向かって、意地の悪い質問をする。
「コウのコック……一本しか、ないね……」
「……面倒だ……」
 荒野が、うっそりとした声で答えた。
「そこに、二人、重なれ……。
 一緒に、挿れる……」
 テーブルを指さす。
 茅との激しい交わりと終えたばかりで、荒野の中に、加虐性とでもいうべき性向が、芽生えはじめていた。
 そんなに相手にして欲しいのなら、一度に相手にしてやろうじゃないか、と。
 香也にそくされるまま、双子は、テーブルの上に、抱き合う形で、おりかさって横たわる。スカートを大きく捲りあげたままだったので、下半身はむき出しのままだった。細い腿の奥に、薄い色の性器がみえる。
 荒野は、四本の腿の間に自分の体を割り込ませ、自分の分身を、二人の股間に差し込んだ。二人の股関節は柔軟で、何の苦もなく左右に開き、荒野の腰、ひとつ分の空間をあける。
 荒野のそれが、二人の湿った性器に挟まれる形になった。
「……動くぞ……」
 荒野は、上になった酒見の腰に両手を置き、体重をかけてから、そう宣言し……腰を、使いはじめた。
 二人の性器に挟まれた荒野の硬直が前後するつどに、二人は、体を振るわせて喘ぎ声をあげる。動いているうちに、荒野のものが敏感な部分にあたるらしく、時折、高い声をあげることもあった。
 二人の性器に挟まれた荒野の分身は、すぐに、上下から染み出した液体にまみれて濡れぼそっていた。荒野が動く度に、荒野の分身は、二人の割れ目の襞をかきわける。二人が荒野の硬直を求めて、無意識裡に腰を押しつけて来るものだから、荒野が二人の中に埋没する度合いは、徐々に深くなっていった。
 双子を、次第に大きな声を出すようになっていったが、それを堪えるためもあって、お互いに強く抱擁しながら、目を閉じて口唇を重ねた。
「……こうしていると……このツインズ、ゲイみたいね……」
 荒野の背中に固く抱きついているシルヴィが、荒野の耳元に、息をふきかけながら、囁く。「ゲイ」という語は、英語圏では同性愛全般を包括して指す単語であり、性別の区別はない。
 つまり、シルヴィは、酒見姉妹を指して、「同性愛者のようだ」程度の感想を述べている。実際には、二人は、同性愛というよりはナスシストの気が強く、かつ、外見上の差異が少ない双生児であるため、そう見えるだけなのだが、つき合いが浅く、二人のことをあまりよく知らないシルヴィは、当然のことながら、そこまで深い事情を察することはできない。
「……ゲイのツインズを、犯しているみたい……」
 シルヴィは、荒野の背中に自分の全面を密着させている。荒野の臀部に、シルヴィの湿った茂みの感触があるくらいだから、シルヴィは、荒野の代わりに、双子を犯しているような感覚を味わっているのかも、知れない。
「……荒野……」
 ようやく息を吹き返した茅が、服を脱ぎ捨てて、重なっている双子を跨ぎ、テーブルの上に膝立ちになって、荒野の首に腕を回して抱きついた。シルヴィが荒野の背中を支えているため、茅が飛びついて来ても、荒野は後ろに倒れるということもなく、そのまま腰を使い続ける。
 そのまま、茅は、荒野の口唇を長々と貪った。

 そんなことをしている間に、異常な雰囲気も手伝って、挿入なしの摩擦だけでも十分に高まった酒見姉妹が、一声、甲高い声をあげて、動かなくなる。
 そうして到達したのも、二人同時だった。
「……Oh!」
 シルヴィが大仰に感嘆してみせた。
「フィニッシュも、シンクロね……」
 二人がぐったりとしたのを期に、荒野は二人の股間に挾さまれていた分身を引き抜く。
「……荒野、の……」
 すかさず、荒野の胸に縋りついている全裸の茅が、力を失っていない荒野を握りしめ、先端を自分の入り口に押し当てた。
「もう、一度……」
「……だめ……」
「……です……」
 その茅の手首を、双子が同時に掴んだ。
「わたしたち……まだ……」
「若様に……若様のものに……」
 二人は、息も絶え絶えに、茅にそう訴える。
 どうやら、荒野に最後まで貫いて欲しい……ということ、らしかった。
「荒野……茅の……」
 茅は、酒見姉妹を軽く睨んだ。
 茅がそんなに酷薄そうな表情を浮かべるのを、酒見姉妹は、はじめてみる。
「荒野の体は全部、茅のものなの……」
「……茅様っ!」
「お願いですっ! 一度だけでもお情けをっ!」
 半裸の姉妹が、全裸の茅にすがりつく。
「……二人とも、もう十分に、荒野に気持ちよくしてもらったの……」
 茅は、目を細めて姉妹を見つめた。
「それ以上、欲しければ、自分たちで乳くりあっていればいいの……」
「だ、だって……」
「快楽だけの問題ではありませんっ!」
 酒見姉妹は、必死になって茅に懇願をする。
「……すべてを、若様に……」
「わ、わたしたちのすべてを、若様に捧げたいのですっ!」
「……そう……」
 茅は、醒めた目で、双子を見下ろした。
「そんなに……茅の、荒野が欲しいの……」
「茅の」という部分を、特に強調して発音する。
 荒野は、自分のパートナーである……と、強調しておきたいようだ。
「……いいの」
 茅は、しばらく黙って何事か考え込んでいたが、すぐに顔をあげた。
「今回だけ、特別。
 茅は、許すけど……そんなに欲しければ……荒野がその気になるように、荒野に、浅ましくおねだりしてみせるの……」
「「……お、おねだり……ですか……」」
 酒見姉妹は、一瞬、虚をつかれた表情になった。
 しかしすぐに、はっと何かに気づいた顔になって、かろうじて上体に絡みついていた服を脱ぎはじめる。すっかり服を脱ぎ、痩せこけた裸体をあらわにすると、二人は、荒野に向けて、思い思いにポーズをとってみせる。
 ともあれ……どうにか、茅の許可はとりつけたのだ。
 あとは……当事者である荒野を、その気にさせなくては……他の女性たちではなく、自分自身に向かってくるように、し向けなければならない……。
「……わ、若様……ほら、ここに……」
「わ、わたしの方を、どうか、先に……」
「若様の、その……硬く、いきりたったものを……」
「ここに……さっきので、すっかり欲しくなって……こ、こんなに……充血して……」
 酒見姉妹は、競い合うようにして過激な挑発の言葉を並べ、荒野の目にむけて、自分の性器を晒してみせる。この双子の場合、乳房なども茅より小さいくらいで、とっさにセックスアピールをしろ、といわれても、そのものずばりな部分を誇示するくらいしか、思いつかない……。
 その伝でいけば、「荒野をその気にさせてみろ」という茅の指示は、かなり残酷なものでもあった。この双子は、自分たちの体が、あまり女性的でないことを、普段から十分に自覚しているのだから……。
 二人を挑発した当の茅は、悠然と荒野の前に膝まずいて、ぴちゃぴちゃと音をたてて、荒野の分身を口に含んでいる。二人に、茅と荒野の関係を見せつけている……と、解釈できないこともない。
「……ほ、ほら……若様のことを想像して、こんなに、溢れて……」
「……さ、さっきみたいに、激しく……今度は奥まで……」
「はっ! ……んっ!
 わ、若様っ! どうか、その……お、おちんちんをっ!」
「おまんこにっ! 若様のことを想像して濡れて、ぱっくり開いているおまんこにっ!」
「は、はじめてですけど……。
 その、わ、若様の逞しいおちんちんで、最後まで一気に貫いてっ!」
「後ろから、一気に最後まで純のおまんこを、若様のおちんぽで自分のものにしてくださいっ!」




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彼女はくノ一! 第五話(325)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(325)

 その日、香也は一日中ふらふらしていた。授業中だけではなく、休み時間も自分の席で机の上につっぷして、ぐったりと休んでいる。
「……大丈夫ですか?」
 昼休みをすぎてもそんな調子の香也に、楓が、心配そうに声をかけてきた。
「あんまり調子悪いようでしたら、早退して家で休んでいた方がいいと思いますけど……」
「……んー……」
 香也は、いつもののんびりとした口調で答える。
「……調子が悪いというか、眠いだけだし……。
 でも、そうだね……。
 部活はしないで、まっすぐ帰ろうか……」
 そういって香也は、のろのろと携帯をとりだして、樋口明日樹にメールをうった。香也が部活に行かないのなら、明日樹もまっすぐ帰って受験勉強でもするだろう。

 授業と掃除当番を適当にすませ、香也は予定通りまっすぐに帰宅する。楓も、当然のような顔をして、香也についてきた。
「……部活の方は、大丈夫なの?」
 香也は楓にそう尋ねる。
「ええ」
 楓は、頷いた。
「……そっちは、もうかなり落ち着いてきまていすし、それに、もうその気になれば、自宅でもできますから……」
 先日、楓専用のノートパソコンが届いている、ということらしかった。
「あと……今日は、わたしが香也様をお世話する日、ですし……」
 まだ外が明るい時間に、二人っきりでの下校は、極めて珍しい。たいていは、大勢で、下校時刻ぎりぎりに帰宅するからだった。以前、一度だけ、「楓が調子悪くて、保健室で休んでいた日」に二人だけで下校したことがあったが、それ以来のことだった。
 当然のことながら、この時間帯だと楓や香也と同じく、下校しようとする生徒の数が、いつもよりもずっと多い。また、校内の様子も、部活とか、用もないのに居残っている生徒たちが、活気のある物音をたてている。
 途中、何どか楓が声をかけられて、挨拶したり、二、三、短く言葉を交わしあったりしていた。
「……茅様たちのお手伝いをしていると、いろいろなお友達ができるもので……」
 楓の説明によると、例のボランティアや自習会関係で知り合いが増えている、という。一方、香也の方は、相変わらずで、声をかけてくる生徒など、ほとんどいない。
 二人でとことこと歩いて、校門を通り抜け、商店街も通過するあたりで、人通りががくんと減る。というか、昼間の住宅街なので、二人以外の人影が見あたらなくなる。
「……さ、寒いですね……」
 不意に、それまで押し黙っていた、楓の声が聞こえた。香也がぎくりと横を振り返ったのは、例によってぼーっとして楓の存在を意識していなかったことと、それに、予想していた以上に、楓の声が間近から聞こえたことによる。
「……う、うん……」
 戸惑いながら、香也は答える。
 見ると、楓は頬を紅潮させて、予想以上に香也に密着している。
「……あの……」
 楓が、目を伏せて、香也に尋ねた。
「……家まで……で、いいですから……。
 手、繋いでいっても……いいですか?」
「……う、うん」
 香也は、反射的にそう答えてしまった。
 そう答えたのは、否定する理由がないからだったが……それでも、反射的に答えてしまってから、自分の頬が熱を持ってくるのを、香也は自覚する。
 女の子と、手を繋いで歩く……というのは、よくよく考えてみると、「かなり恥ずかしいこと」のではないか?
「……いいですかぁっ!」
 しかし、楓がぱっと顔を輝かせて、即座に香也の手を取ったので、香也は前言を取り消すタイミングを、永遠に逃した。
「……んー……」
 香也はなんとも微妙な表情を作る。
 ここから家まで、五分くらいだし……それに、楓がこんなに喜ぶんなら、それでいっか……とか、思った。
 実際、それから家にかえりつくまで、楓は上機嫌だった。

 帰宅してから、すぐ、楓に「お布団、しきましょうか?」と聞かれたが、香也は即座に断った。こんな時間に本格的に寝てしまったら、夜になっても寝られなくなるような気がしたし、炬燵でうつらうつら仮眠する程度で十分だろう、と、判断した。
 着替えて、居間にいくと、すぐに楓もやってきて、
「……これ……」
と、香也にラッピングされた小箱を差し出す。
そうされたことで、香也は、「ああ。そういえば、今日は……」と、「バレンタインデー」のことを思い出す。
 そういえば、今朝、登校の時もそんな話しが出ていたな……と。
「……あ、ありがとう……」
 とりあえず、香也は楓に、礼を述べる。
 昨年まで、香也は、真理や羽生以外に、この日にチョコを貰ったことなどなかったわけだが……楓のこれは、普段の態度からも明らかなように、決して「義理」ではない。
 そのこと自体は、決して嬉しくないわけでもないのだが……。
『……今日、これから……』
 同居人の少女たちにより、怒濤のチョコ攻勢が開始されるのか、と思うと、香也は少し憂鬱になる。
 香也は、甘い物は、どちらかというと苦手だった。
「……あ、後で、ゆっくり味わって食べるから……」
 とりあえず、楓にはそういっておく。
 少しづつ食べるのなら、香也でも何とかいけるだろう。
「はいっ!」
 楓が、目を輝かせて、元気よく答える。
「甘さ、控えめにしておきましたからっ!」
 楓は、香也の嗜好も熟知していた。
『……他の子たちも、これくらい、素直だと、いいけど……』
 とか思いながら、香也は、いったん、楓のチョコの包みを部屋に置きに戻り、その後、また居間に戻って炬燵に足を潜り込ませた。
「……できるだけ、静かにしますから……」
 香也が戻ると、楓は自分の分のお茶をいれながら、炬燵の上にノートパソコンを広げていた。
「……お茶、いりますか?
 お茶うけも、ありますけど……」
「……んー……。
 いらない……」
 香也は、そのまま横になり、目を閉じる。

 香也がうつらうつらしだした時、来客があった。
「……あの……」
 玄関で対応した楓が、香也をやさしく起こす。
「樋口さんが……」
 香也が身を起こすと、楓の後ろに、私服姿の樋口明日樹が立っていた。
「……あの、調子、悪いっていってたし……」
 明日樹は、微妙に香也から目をそらしながら、ラッピングされた小箱を香也に差し出す。
「それに……これも、渡したかったし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(241)

第六章 「血と技」(241)

「……んっ……」
 最初は茅からだ、と荒野が告げると、茅は、もどかしげな所作でスカートを捲りあげ、その端を口でくわえて固定し、素早く下着を膝下に降ろした。
 その育ち故か、茅はもともと羞恥心を感じるところが標準よりも少ないようだったし、それに、シルヴィの薬が回っている今の状況では、一刻も早く荒野に自分の内部を触れて欲しい……という欲望が、何よりも先行するのだろう。
 その証拠に、スカートの裾をくわえて生白い下腹部の肌を露出した茅は、顔から耳まで真っ赤にしながら、湿った期待のこもっためで、荒野を上目遣いに見上げている。
「……茅……」
 荒野がそういいながら、指先で、茅の秘処に触れると……。
「……茅のここを……どうして欲しい?」
 茅はくぐもった声をもらした。
「……んんっ!」
 荒野は、指を、茅の割れ目にそって、上下にゆっくりと動かす。
 とくに力を込めて押しているつもりはないのだが、自然に、割れ目の奥の方に、指が沈む。
 茅は、言葉で答える代わりに、荒野の分身を指で掴み、その先端を、自分の股間にあてがった。
「……もう、挿れて欲しいの?」
 荒野が尋ねると、茅は、目を伏せて頷く。
「いつもは、もっとゆっくり準備してから挿れるのにな……」
 いいながら、荒野は、ゆっくりと茅の体を押して、テーブルの上に腰掛けさせた。そうしておいて、茅の片足を持ち上げ、足首を自分の肩に置く。
 メイド服のスカートを大きく捲れあげられた茅は、下半身を露出したまま、大股開きの格好になった。
「……茅の恥ずかしいところが、丸見えだね……」
 できるかぎり平静な声をだしたが、実のところ、荒野もかなり興奮している。
 酒見姉妹は両脇から、シルヴィは荒野の背中に自分の乳房を押しつけるようにして、茅の茂みのあたりを注視している。もちろん、灯りはそのままだから、すでに準備が整っている茅と荒野の局部は誰の目からも隠されることなく、晒されている。
「……ここに、欲しいの?」
 荒野は、茅の茂みを指先でかき分けながら、再度茅に尋ねた。
「……今すぐ、挿て欲しいの?」
 茅は、かすかに頷き、荒野の首に片手を回し、もう一方の手で荒野の硬直をゆるく握りながら、腰を、荒野の方に近づける。
「このまま……いきなり、欲しいの?」
 茅は、答える代わりに、荒野の腰に両足を回し、股間をすりつけるように、抱き寄せる。
 ……これ以上、じらすのもアレか……と、思った荒野は、茅が軽く掴んでいる分身に体重を乗せ、ゆっくりと先端を茅の中に沈めていった。
 茅のそこは、すでに荒野を受け入れられる体制になっていたが、荒野を呑み込んでいくと、茅は、首をのけぞらせて、全身を振るわせる。荒野の分身を包み込んでいる茅の部分は、いつもとは違った感じに震えて、荒野を受け入れた。
 故意にゆっくりとした動きで茅の中に進入していくと、茅は、もどかしげに荒野の首を抱こうとする。
 しかし荒野は、茅の腕には従わず、体を離したまま、腰だけを茅におしつけた。当然、茅との結合部は、酒見姉妹やシルヴィからも、丸見えである。
「……茅と繋がっているところ……みんな、みてるよ……」
 荒野の分身が根本まで茅の中に沈み込むと、荒野はあえてかすれた声に出して、指摘をした。
 茅は、スカートを口にくわえたまま、いやいやをするように、首をゆっくりと振る。
「……本当……」
「あんなに大きいの、すっかり、呑み込んでいます……」
 酒見姉妹が、結合部を注視しながら、熱い吐息を吐く。
「カヤ……」
 シルヴィが、荒野の股間に手を入れて、茅のそけい部を指先でまさぐった。
「……やっぱり……。
 いやらしい汁が、溢れている……」
 シルヴィの言葉を確認しようと、酒見姉妹が、無遠慮に指先で、茅と荒野の結合部の周辺、ということは、つまり、茅の敏感な部分、でもあるわけだが、とにかくそのへんを、まさぐる。
「……わ。本当……」
「茅様の、お汁……荒野様が刺さっているところから、どんどん溢れてきています……」
 ことばと触覚により刺激を受け、茅は、すでに真っ赤になっていた顔を、さらに朱に染めた。むき出しになった茅の真っ白い腹部や大腿部にも、血の色がさしはじめる。
「……動くよ、茅……」
 ひとこと断ってから、荒野は挿出しはじめる。
 動かないままでも、荒野を包み込んだ茅の粘膜は、もぞもぞと蠢いて、誘うように荒野を刺激する。
 あるいは茅以上に、荒野も辛抱が効かなくなりつつあった。
 だから、荒野は、普段とは違い、最初から大きく腰を動かす。
 そもそも、いつもなら挿入前に、かなり念入りに「準備」するのだが、今回は茅も荒野も、異常な状況に気が急いていて、それ以上に、極度に興奮しきっている。
 二人とも、精神的な安寧よりも、より動物的な刺激を欲していた。
 荒野は、本能に従って、茅の片足を高々を掲げ、結合部をよく見える状態にしながら、陰毛同士を打ちつけるように、大きく腰を動かした。
 茅は最初のうち、エプロンをくわえて声を出すのをこらえていたが、すぐに、全身を震えわせて、歓喜の声を上げるようになる。
 荒野が腰をひくごとに、茅の中からとどめなく透明な液体が噴出し、テーブルの上を濡らした。
 極度に興奮していたためか、茅は、すぐに極まりきったようで、荒野の体とテーブルの間でばたばたと忙しなく手と首をふりながら、「やぁっ! 駄目っ! だめだめ駄目っ! いっちゃうっ! いっちゃうのっ!」とひとしきり叫んだ後、いきなりがっくりと全身の力を抜いて、ぐったりと静かになった。
 荒野が動き出してから、五分も経過していない。
「……カヤ……」
 シルヴィが、荒野の背中を抱きしめながら、呟く。
「もう……一人で、フィニッシュ?
 コウ、まだまだなのにね……」
 シルヴィは、荒野の腰に両手を当て、ゆっくりと後ろに引く。
「……ら、らめぇ……まだ、離れたく……」
 茅が呂律の回らない、小さな声で抗議したが、茅の愛液にぬれた荒野の分身は、茅の中から完全に姿を現す。
「……わぁ……」
「荒野様、の……逞しくて、湯気をあげてますぅ……」
 酒見姉妹は、視線を荒野の分身に釘付けにしながら、感嘆の声をあげる。
「コウのコック……」
 すかさず、シルヴィが声をかける。
「次は、誰が食べる?
 わたしが食べてもいいけど……」
 シルヴィの挑発に乗って、酒見姉妹は、茅と同じようにスカートを大きく捲りあげ、躊躇いもなく下着を脱ぎ捨てた。痩せ型で小柄な酒見姉妹は、露出した下半身をみても、とても年齢相応にはみえない。肉付きが薄いし、陰毛など、茅より薄いくらいで、申し訳程度に生えたくさむら越しに、ピンクいろの秘裂が透けてみるほどだった。
「……若様……」
「どうか、お情けを……」
 姉妹は、上気した顔で、荒野にそう訴える。
 二人とも、未だ男性を経験していなかったが、そうねだることにためらいはなかった。シルヴィの薬の効果による強制的な高揚、という効果も後押しをしていたわけだが、荒野以外の男性を相手にすることには、心理的な抵抗が強い。
 二人の性行は同性愛的、というよりは、たぶんに自己性愛的な成分が強く、男性の経験はないものの、戯れまじりに二人で絡みあうことは珍しくはなかった。そうした行為は、この双子にとってはなんらアブノーマルな意味合いはなく、むしろ、通常の自慰行為の延長線上にある、ごく自然な行為であった。つまり、この姉妹は、外見上の類似だけではなく、精神的にも、お互いをあまり区別していない、特異な精神構造を有していた。
 そのため、二人は処女でありながら、他者により愛撫される感覚を学習すみであり、性感もそれなりに開発されている。




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彼女はくノ一! 第五話(324)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(324)

 香也は、その日も外見上は、異常がなかった。
 つまり授業中も休み時間中も、他人の話しを聞いているのかいないのかよくわからない、茫洋とした態度でぼーっとしていた。それが香也の常態であり、あやしむものはいなかったが、その実、香也は一日中睡魔と戦っていた。早朝、いつもなら熟睡している筈の時間に一度叩き起こされているのが、つらい。
 新学期がはじまってからこのかた、香也の体は自分で自覚する以上に、規則正しい生活に慣らされている。誰かに起こされなくとも、毎日決まった時間に自然に目が覚めるし、逆に、そのリズムが一度崩れると、今日、そうであるように、妙な時間に眠たくなる。
 ちゃんと聞くふりくらいはしないと、目の前で授業をしている教師に悪い、と思うからだが、そのくせ、自分の都合で学校を休みことは躊躇しない。このあたりの香也の倫理感は、客観的にみると奇妙にバランスを欠いているわけだが、香也自身は、それをあまり「奇妙」だとは自覚していない。
 そして、その香也の努力は、本人が自覚するほどには身を結んではおらず、授業中、何度も舟をこいでは慌てて背筋を伸ばしたり、時には、前後不覚になって、机の上に額をうちつけそうになったことさえある。
 そして、すぐそばで香也の様子をみていた楓など、かなりはらはらさせられた。
 大半の教師は、そんな香也を観て、「……本人も、寝るまいと努力はしている……」と判断したのか、あるいはただ単に、注意するのが面倒だったのか、見ぬ振りをしてくれた。生徒たちから「厳しい」とされている嵯峨野先生や大清水先生など、「顔を洗ってきなさい」とか「授業を受けられる体調でないのであれば、素直に保健室で休みなさい」などと、香也を名指しで注意した。香也は、前者の忠告にはおとなしく従って廊下にでて、後者の忠言は、謹んで辞退した。保健室で待ちかまえているのが三島百合香でなかったら、香也も後者の忠言に喜んで従ったのかも知れないが、以前、いきなり往復ビンタをくらっていらい、香也は三島に対して若干の苦手意識を持っている。授業時間中、他に誰もいない筈の保健室で、あの奇妙な先生と二人きりになる……という事態は、香也としては可能な限り避けたかった。
 香也がその日、一日中、そんな様子だったので、刺激に飢えた、言葉をかえれば、暇な同級生たちは、休み時間にこそこそと憶測を囁きあった。もちろん、香也本人や楓、ならびに、牧本さんや柏あんななど、香也たちと比較的親しい友人たちの耳に入らないように、ではあるが……。
「……何かの拍子で、あの家に住む女の子たちと一挙に進展。
 今夜は眠らせないよっ!
 ……ってな状態だったり……」
 という、いささか品性にかける説を唱えたのは、例によって柊誠二であった。
 しかし、柊のこの憶測は、おおかたのものに指示されなずに終わった。
 本日、二月十四日、聖バレンタインデーであるにもかかわらず、柊が一つの義理チョコもゲットいていない、というのは周知の事実だったし、それでなくとも普段の言動から、「柊は、美少女に囲まれて暮らしている香也のことをやっかんでいる」ということは、クラス内ではもはや「定説」となっている。
 香也と同居している楓や孫子の様子がいつも通りであることも根拠となり、柊の説は一蹴された。
 その他、「人知れず、夜中まで猛勉強している」、「深夜ラジオにはまっている」、「例によって朝方まで、絵に熱中していた」などなどの説が提出されたが、そのどれもが決定打とはならなかった。
 強いていえば、一番最後の「絵に熱中していた」説が一番有力視されたが、それでも、「同居している楓や孫子が、そんなことを許すか?」という反論もあって、やはり疑問視されている。
 楓や孫子の、香也に対する過保護なまでの「世話焼きぶり」については、この頃までには、クラス内はおろか、校内で知らぬものがいないほどになっていた。
「……あと……」
 香也の授業態度に関する噂話をする時以上に声を潜めて、「もう一人の名物生徒」の異常に対して、生徒たちは囁きあった。
「……加納さんも、なんか、お疲れモードっていうか……」
「……ひょっとして……。
 意表をついて、茅ちゃんと狩野のやつがデキてたりして……」
 柊は、さらに「珍説」を披露する。
 これは、以前の憶測以上に、他の生徒たちから無視をされた。
 いかに家が近いとはいえ、香也には楓や孫子が、茅には荒野が、常時身辺にぴったりと寄り添っている。
 荒野の、茅に対する過保護ぶり……も、校内では、知らぬものがいない「事実」である。今週に入ってから、茅の下校時に、「メイド服姿の双子」という目立つ護衛がつけられていることも、校内ではかなり広く知られるようになっていた。
 絵を描く……という特技がなければ、平々凡々たる男子生徒でしかない香也とは違い、茅は、なにせ「目立つ」生徒である。
 成績優秀……というか、学科に関しては、事実上、オール・マイティ。それどころか、楓と一緒になって、パソコン部を率いて学校のシステムを改良しているのも、茅だ。放課後の自習時には、当然のように「上級生の」勉強までみている。
 それでいて、運動音痴ということもなく、それどころか、体育の授業を観る限り、大半の女生徒よりは、よほど活発に動けた。機敏であるだけではなく、体力もある。身体能力的には、普段、ろくに体を動かさない男子生徒よりも、現在の茅の方が、よっぽどタフかも知れない。
 ようするに、「加納茅」とは、周囲のクラスメイトからみて、かかり「出来すぎ」の生徒なのである。
 香也の場合は、「彼の邪魔をするのは、悪いから」と放置されているような感じだが、茅の場合は、その整った風貌、感情の起伏が読みとりづらいことなども手伝って、他の生徒たちに、どことなく「近寄りがたさ」を感じさせる生徒だった。
 楓や、下校時に迎えに来る双子が、茅のことを「様づけ」で呼んでいるところも、何人かに目撃されていることもあって、茅のことを「姫」とか「姫様」と呼ぶ生徒も、ぼちぼち現れはじめていた。あるいは、一族の関係者が、茅のことを「加納の姫様」と呼ぶのを、どこかで漏れ聞いた者がいたのかも知れない。この頃になると、放送部の関係者や日曜日のボランティアや商店街での騒動時など、一部の生徒たちと一族の者が接触する機会も、それなりにあるのであった。
 茅の「近寄りがたい雰囲気」と、周囲の者の茅に対する態度から連想された、罪のないニックネームのようなものだったが、この時点では、茅のことをそう呼ぶ生徒は、まだまだ少数派である。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(240)

第六章 「血と技」(240)

 基本的に荒野は理性的な少年だ。年齢分相応に冷静であり、観察力もある。だが、そうした資質がかえって足かせとなり、判断力を鈍らせる場合もある。例えば、今回、各種の「分かりやすい兆候」を目の当たりにしながらも、「ヴィにはそんなことをする動機がない」という、ただ一点の根拠で、漠然とした憶測を内心で打ち消し続けていた、というわけで……。
「……ヴィ!」
 荒野は、三人に絡みつかれながら、叫ぶ。
「一体……何が、目的だっ!」
「……決まっているじゃない……」
 いつの間にか立ち上がっていたシルヴィが、嫣然と微笑む。
「いつの時代だって、結束を固めるための一番手っ取り早い手段は、婚姻と性交……血のつながりと肉の交わりが、複数の人間を一つの集団にまとめ上げる……」
「……それは……姉崎のロジックだっ!」
 反論する荒野の口を、茅が塞ぐ。
「そう。姉崎の、ロジック……。
 でも……口先三寸の加納のロジックは、こういう時には役にたたなーい……」
 茅が荒野の口を貪る間にも、荒野の左右にとりついた酒見姉妹は、荒野の着衣をはだけていく。
 茅の顔や手と同様に、荒野の体に触れる酒見姉妹の体も、耳や頬にかかる吐息も、熱い。
「子供だった頃とは違って……ヴィは、姉崎だし、コウも加納になったね……。
 それとも……」
 ……加納の技で、彼女たちの体についた火を、沈めてみせる?
 と、シルヴィは微笑む。
「……やって出来ないことも、ないんだけどね……」
 荒野も、不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。
 両腕に双子をぶら下げたまま、茅の体をそっと押しのけて、立ち上がる……という程度のことなら、荒野なら朝飯前だった。
 今までされるがままになっていたのは、シルヴィの真意を測りかねていたからだ。
「……かわいくなーい……」
 三人の束縛を意に介することもなく立ち上がった荒野をみて、シルヴィが口を尖らせる。
「そりゃあ……」
 荒野は、酒見姉妹を両腕にぶら下げたまま、肩を竦め、のんびりとした声を出す。
「……これでも、男だし……。
 それに、子供の頃ならともかく、この年になってまで、ヴィにやられっぱなしでいたくはないなぁ……」
「……All right……」
 シルヴィも、方を竦める。
「確かにコウは、もう子供ではないし、昔とは違う。それに、やられっぱなしでもない……。
 それは、この前の夜に、証明して貰ったわ……。
 でもね……」
 それだけじゃあ、女は御せないからぁ……と、シルヴィは笑う。
「……新種でしょ、野呂に、二宮……。それに、そこのシスターズのような変わり種までいる……
 今のこの土地、一族の見本市じゃない。
 こういう混沌とした状況下では、加納の言葉よりも、もっと直接的な繋がりの方が……安心できるものよ、女は……ね。
 少なくとも、そこの二人は、コウとそうなることを望んでいるようだけど……」
 シルヴィに説明されるまでもなく、荒野はそのことを体感している。酒見姉妹だけではなく、茅も、はだけたメイド服の合間から、火照った肌を、直接、荒野の肌になすりつけようとしている。
 荒野の両腕を抱き込んでいる姉妹は、スカートの中に荒野の手を導いていた。
「……体で、報酬の前払いか……」
 荒野は、ため息をついた。
 そこまでしなくて、酒見姉妹なら、喜んで働いてくれそうな気もするが……。
「……コウは、自分の価値を、過小評価しすぎ……」
 シルヴィは、再び、方を竦めた。
「……加納の直系の種を求めない、若い女の術者の方が、少数派なんだから……」
「……あー……」
 荒野は、天井を仰いだ。
 優秀な子孫を得るために、優秀な資質の持ち主と交合する……。
 確かに、それは、一族の間では、それなりに支持されている考え方、なのではあるし、この間のシルヴィとの「交渉」も、その一環なわけであるのだが……まだ年若い荒野は、今まで自分自身に引き寄せて考えたことが、あまりない。
「……いっぺんに三人相手では、身が持たないよ……」
 荒野は、視線を落としながら、そういう。
 そんな会話の間にも、茅が立ち上がった荒野の前に跪き、荒野のベルトのバックルと外しにかかっていた。
「……他の女の人とやったら、後で茅と二倍以上、やらないといけないそうだし……」
「……嘘おっしゃいっ!
 この前は、あんなにタフだった癖にっ!」
 シルヴィが、芝居がかった動作で首を左右に振る。
「……それに……」
 相手にするのは、三人だけではなく、四人よ……と、訂正しながら、シルヴィも服を脱ぎはじめた。
「……荒野、の……」
 茅は、下着もろとも荒野のパンツをずり降ろし、荒野の下半身を露出させる。そして、すでに起立している荒野の分身を目の前にし、潤んだ瞳でそれをみつめた。
「……これが……男性の……」
「……加納の、若様の……」
 半裸で左右から荒野に抱きついている酒見姉妹も、耳まで真っ赤にしながら、床に座り込んで荒野の局部に顔を近づけた。
 荒野も、本気で抵抗するつもりはない。
 シルヴィが指摘する通り、こうした方法も、術者を動かす際には有功なのだ。現金が必要ないかわりに、荒野の負担も増えるわけだが……現在の状況では、遠慮することなく、自由に扱える手駒が多いにこしたことはない。
「……コウなら……全て、うまくやれるわ……」
 全裸になったシルヴィが、近づいてくる。
「……最初は、茅だ……」
 荒野はいった。
 それは、譲れない。そうしておかないと、後が怖い。




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彼女はくノ一! 第五話(323)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(323)

「……あっ……」
 教室に入るなり、先に来ていた柏あんなと鉢合わせをした。
「き、昨日は……」
「……んー……」
 香也と顔を合わせようとしないあんなとは対照的に、香也は、いつもののんびりとした口調で挨拶をする。
「どうも。
 おはよう……」
「あっ。
 うん……おはよう……」
 あんなは、拍子抜けしたような表情で、香也に挨拶を返す。
「昨日、何かあったんですか?
 そういえば、柏さん、放課後、美術室にいたようですが……」
 香也の隣の楓が、口を挟んだ。
「……んー……。
 別に……」
 香也は、気の抜けた声で楓に答えた。
「ただ、少し話しをしただけ……」
「そう……ですか……」
 楓は、怪訝な顔をしながらも、頷く。
「……は、はは……」
 柏あんなは、複雑な笑顔をみせる。
「そう、ね……。
 少し、お話し、しただけだし……」
 昨日の放課後、香也との会話の内容を克明に覚えているあんなは、動じる様子もなく、いつもとまるっきり変わらない様子でそんな風にいえる香也のことを、少し見直す。
 意外に……大物なのかも知れない、と。
 気づくと、動揺するあんなを、茅がじっと見ている。
「……何?」
 茅の視線に気づいたあんなは、今度は、茅に尋ねた。
「観測者、不動の中心、台風の目……」
 茅は、あんなにいう。
「絵描きは、そういう人なの……」
「そ、そう……」
 あんなは、もちろん、茅がいうことを完全に理解したわけではない。
 が、なんとなく、「ニュアンス」で、理解をする。
 確かに……狩野香也は、動じない。
 今まで、あんなは飯島舞花の鷹揚さにばかり気を取られていたが……よくよく考えてみれば、香也は、舞花よりも早く、より身近な立場から、「彼ら」のことを見ていて……それでいて、何のリアクションも起こさずに、平然とその存在を受け入れているのだ。加えて、昨日聞いた話しの内容によれば……もっと、非凡な境遇の中にいることも、確かなようだったし……。
 少なくとも……今の香也のように、落ち着き払って「全て」を受け入れることは、出来そうもない。あるいは香也は、外見上だけ、取り繕っているだけなのかも知れないが……それでも、あんな自身には……仮に、今の香也と同じような立場にたった時、同じような態度を取れるかというと……全然、自信がない。
「見かけ以上に……」
 自分の席について鞄を置く香也の姿を目で追いながら、あんなが呟く。
「そう。見かけ以上に……」
 すると、茅が、あんなの思考を見透かしたように、頷く。
「彼の意志や能力は関係ない。彼は、重要なパーツ……。
 茅や荒野たちの、要なの」

 授業中、柏あんなは、茅の言葉を反芻する。
 意志や能力は、関係ない……と、茅はいう。
 能力、ということでいえば、荒野や茅たちは、すでに充足した状態にある。客観的にいっても、彼らは、自分たち「一般人」と比較すること自体が馬鹿馬鹿しくなるほど、優れた存在だ。今までの付き合いから分かっている範囲内でも、その程度のことは断言できる。
 その優れた彼らは……何故か、多くの不利と不都合を覚悟した上で、能力的に劣る自分たちと共に暮らすことを、選択しようとしている。その、根本的な部分に、どういう動機があるのか……柏あんなには、そこまで窺い知ることはできないわけだが……。
 それでも、知力とか体力とか、授業中の様子をみるかぎり、よくいっても平均以下の成績しか取れていない香也が、「彼ら」の強い興味を引いている、という事実は……何事かを、象徴しているのではないだろうか?
『……難しいことは、よく分からないけど……』
 柏あんなは、深く思索を練る、とかいう行為は、どちらかというと苦手だった。
『あとで、まぁくんに考えて貰おう……』
 しかし、授業中にもかかわらず、心ここにあらずといった態で物思いにふけっているあんなの姿は、教壇から目立つらしく、たちまちあんなは教師に指名されたのであった。
 もちろん、あんなは、教師の質問に答えられなかった。

「……そのことは、後で考えておくけど……」
 堺雅史は、休み時間に別のクラスから訪ねて来たあんなに、にべもなくそういった。
「あんなちゃんは、その前に、もう少し自分の成績のこと心配しないと。来週から、テスト漬けだし……」
 やぶ蛇になったか……と、あんなは思った。
 確かに、堺のいうとおり、来週に、業者の試験があり、それが終わるとすぐに期末試験がはじまる。
「あんなちゃん、今日、部活ないでしょ?
 今日、居残って勉強ね。ぼくも、自分たちで作った学習用のソフト、自分でも試してみたいし……」
 堺雅史も、香也とは別の意味でマイペースな男子だった。
「……ひどいっ!」
 あんなは、叫ぶ。
「まぁくん……わたしと試験の勉強、どちらが大切なのっ!」
「あんなちゃんは、自分の勉強をないがしろにしすぎ。
 学校でやるのがいやなら、家でじっくりとやるだけなんだけど……」
 あんながわざとらしく大声を上げても、堺は動じなかった。
 いったんは「何事か」と二人を注目した教室内の生徒たちも、すぐに「またか……」といった表情で興味をなくす。
「……わかったぁ……。
 今日、残りますぅ……」
 あんなは、拗ねたような声を出した。
 この二人のそうしたじゃれ合いは日常茶飯事なので、今更誰も注目しないのであった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(239)

第六章 「血と技」(239)

「……ヴィ……」
 荒野は、低い声でシルヴィに問いただす。
「さっき、チョコの中に入れてた、あやしい液体……。
 あれは、何だ?」
「……んー……」
 シルヴィは口唇に指先をあて、小首を傾げる。
「別に、あやしいってことは、ないよー。すくなくとも、毒ではないし……。
 強いていうなら……愛の妙薬?」
 荒野の口にチョコを入れまい、と、むさぼり食べていた茅と酒見姉妹の手が、いつの間にか動きを止めている。
 茅と酒見姉妹は、二人のやりとりを見た後、おずおずとした動作で座り直し、再びカレーのスプーンを手に取った。
「……やっぱり、カレーとチョコはあわないと思うの……」
「そ、そうですよね……」
「な、なんだか、体が火照ってきたような……」
 どこか気が抜けた口調で、そんなことを囁きあう。
 どうやら、荒野とシルヴィの会話から、チョコの中に得体の知れない材料が入っていると気づき、しかし、まっさきに手をつけた手前、それに、「毒ではない」と明言されている以上、詳細を問いただすわけもいかず、まずは食べかけの食事をすますことにしたらしい。
 またしばらく、会話のない食事が続く。
 一口食べるごとに汗が吹き出ているのは以前と変わらないが、特に茅と酒見姉妹の三人は、頬も朱に染まって瞳が潤んできているような気がする……と、荒野は観測する。
「毒ではない」とシルヴィは明言したが、だからといって、完全に安心するほど、荒野もシルヴィのことを信用しきっているわけではない。
『愛の妙薬、って……』
 まさか、惚れ薬、などという非現実的な代物ではないだろうが、シルヴィは微妙に言葉をぼかして具体的な効能を語っていないので、荒野はかなり、警戒している。
 何しろ、シルヴィの性格と姉崎の生化学的知識が結びつけば、かなりおかしないたずらが可能であった。
『……あの笑顔は……』
 ……何かたくらんでいる時の顔だ、と、荒野は判断する。シルヴィは、荒野の視線をまともに見返すと、ウインクをしてさらに笑みを大きくする。
 汗まみれになりながらも、全員がなんとか「超強力極辛カレー」一皿をたいらげる。酒見姉妹は、「のどが」とか「おなかが」とかいってうめいており、茅も、繰り返し、グラスを乾している。三人とも、全身に汗をかいいる。
 ……シャワーでも浴びてこい、といいかけ……ここにきてはじめて、荒野は違和感を抱いた。
 カレーの香辛料のせいかと思っていたのだが……いくら何でも、効果が持続しすぎる。いつもなら、酒見姉妹はともかく、茅は食事のとして茶の準備をはじめるのだが……今日に限って、座り込んだまま、メイド服の胸元をはだけ、掌で扇いで風を送り込んでいる。酒見姉妹も、ほんのりと赤い顔をしながら、茅の動作を真似して服をゆるめはじめた。
 ……不自然だ……と、荒野は思う。
「……ヴィ、これは、いったい……」
「……チョコ、まだ残っているわぁ……」
 荒野の問いには直接答えず、シルヴィは、梱包を解かれたチョコの箱を、茅と酒見姉妹の前に押し出す。
「思いっきりホットなものを食べた後だから、お口直しにいかがぁ?」
 そんなことをいいながら、自分でも一つ摘み、口の中に放り込む。
「「……いただきます……」」
 酒見姉妹が、同時にチョコに手を伸ばした。
「……貰うの……」
 茅も、緩慢な動作で、チョコに手を伸ばす。
「……おいっ!」
 荒野は、一括した。
「おかしいぞ、この反応っ!」
 一度はチョコに対して警戒心を持った筈の酒見姉妹と茅とが、再び、自分の意志でチョコを欲している……というのは、やはり、おかしい。
「……はん、のう……はん、おうぅ……」
 茅が、荒野の言葉を反芻し、最後にヒクッと可愛らしいしゃっくりをした。
「茅の、はんろぉはぁ……体温の、上昇……脈拍数と呼吸量の、増大……酩酊感と、意識の混濁……これふぁ、アルコールや薬物中毒の際の、身体の変化に告示しているろぉ……」
 しかも、呂律が回っていない。
「アルコール……お、お酒……」
「わたしたち、うわばみです……飲むことはあっても、飲まれたことはありません……」
 酒見姉妹は、茅の言葉に応じた。
「茅も、そうだ……」
 荒野も、頷く。
「……うわばみ、というほどかどうかは、わからないけど……どちらかというと、強い方だと思う……」
 アルコールを摂取した時と同じような反応を起こす、なんらかの薬物……と、まで推測し、荒野は厳しい声でシルヴィに糺す。
「……ヴィ!
 毒物ではなくても、慣習性や中毒性があれば同じ事だぞっ!」
 荒野は、その手のドラッグを、個人的にかなり嫌っている。
「ないわよぉ、そんなのぉ……」
 シルヴィはにこやかにほほえんで、また一つ、チョコを口に放り込む。
「ヴィだって、同じもの、食べているじゃない……。
 食べてないの、コウ一人だけで……」
「……荒野……食べてない……」
 茅が、真っ赤な顔をしながら、ぼんやりとした口調で呟く。
「……荒野も、食べるの……」
 茅の目の焦点が、合っていなかった。
 背筋に悪寒を感じた荒野が、立ちあがろうとする。
「……駄目ですぅ……若あぁ……」
「一緒に、気持ちよくなりましょうぉ……」
 しかし、いつの間にか背後に忍び寄った酒見姉妹に、両側から抱きつかれた。
「……荒野……」
 茅が立ち上がり、チョコを手で摘みながら、告げる。
「……あーん、するの……」
 そういうと茅は、自分の口でチョコをくわえ、テーブルの上に四つん這いになり、荒野に覆い被さる。
 荒野の頭部を両手で挟んで固定し、口移しで、チョコを荒野の口の中に入れ、そのまま、長々と口づけをした。

 茅が陶然とした顔をして唾液の糸を引きながら、ようやく荒野から顔を離した時、荒野は、口移しで茅に貰ったチョコを呑み込んでいた。茅の舌で無理矢理、喉の奥に押し込まれたため、呑み込まないと窒息するおそれがあったからだ。
 味的には、なんの変哲もないチョコレートだったが……。
「……ヴィ、本当に、何でもないんだな、あのチョコ……」
 呑み込んでしまった今となっては、確認しても遅いのだが……それでも、荒野としては、自分の体調の変化を確認しつつ、聞かずにはいられなかった。
「……Off course……」
 シルヴィが、笑いを含んだ声で答える。
「毒でもないし、慣習性もないよ。
 ただ、性欲が、一時的に昂進するだけで……」




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彼女はくノ一! 第五話 (322)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(322)

 次に、今度はちゃんと「いつもの起床時間」に起こされた時、香也は、普段よりずっと、すっきりとしない目覚め方をした。変な時間に一度起こされたせいか、なんか、頭がすっきりとしない……。
 それでもごそごそと起き出して布団を片付け、顔を洗って、着替えて、食卓につく。この辺の動作は、多少、頭がぼーっとしていても、長年の習慣で、半ば条件反射的に体が動いてしまう。焼き魚にみそ汁、香の物という定番の朝食をゆっくりと咀嚼するうちに、だんだんと意識も覚醒してくるのだが、香也の場合、見た目的にはそれ以前とそれ以後の区別がつきにくい。というのは、香也は、外見的には、普段からぼーっとしていているように見えるから。

 そんな感じで、いつもと同じように朝の支度を終え、全員で外に出る。三人娘は玄関先までで、誰もついてこようとしないのは、今日の「香也当番」が楓であるからだ。今日は二月十四日、つまり、聖バレンタインデーに当たる訳だが、籖引きによって楓がこの日の当番に当たった時、孫子は露骨に悔しがった。とはいえ、その時、皆にせがまれてあみだ籖を用意したのは香也であり、その作業は衆人環視の環境下で行われた訳だから、不正が介在出来る余地はない。いくら孫子が不平に思おうが、文句をいうべき余地はなかった。
 楓は、昨日のノリ程べったりと香也にくっつきこそしなかったが、いつもよりは距離を近づけているようにみえる。
 飯島舞花が、「これ、義理だから」といながら、いつも一緒に登校する男子生徒たちに一口大のチョコを配る。「義理だ」と断らなくとも、一目ですぐにそうと分かるような、ひとつ三十円とかの、安価で小さなチョコだった。これくらいの方が、貰う方も気が楽というもの、でもある。舞花は、栗田に対してはそのチョコを与えず、栗田の方もそれを当然、という顔をしている。本命分はすでに渡したのか、それともこれからかは知らないが、別の機会に渡すことになっているのだろう。
 ともかく、舞花のそれが皮切りとなって、孫子、楓、テン、ガク、ノリ、それに樋口明日樹までもが、義理チョコ配りをはじめた。学校まで持っていていくよりは、今配っちゃった方が……という、散文的な理由だった。樋口明日樹以外は、チョコ講習の時、ついでに作った小さなチョコを適当にラッピングしたものだった。
 それらが歴然と「義理チョコ」だと分かってはいても、樋口大樹は、「……おれ、こんなの、はじめて……」と、かなりの感銘を受けた様子だった。
「……おにーさんたち、遅いな……」
 飯島舞花が、ぼつりと呟く。
 舞花が「おにーさん」という時は、たいてい、荒野のことを指す。
「今日の朝も、集まりが悪かったし……。
 またなんか、あったのかな?」
「……ちょ、ちょっと、様子を見て来ますね……」
 何故か、楓があわてた様子で、マンションの中に駆け込んだ。
「……たるんでいますわ……」
 その楓の背中を見ながら、孫子が、ぼつりと呟いた。

 やがて、珍しく寝むそうな顔をした荒野と茅が、楓に伴われて合流する。
「……随分、疲れた様子ですけど……」
 そのような荒野を見たことがない樋口大樹が、無邪気に、荒野に尋ねる。
「何か……あったんすか?」
「茅、何も言うなよ」
 荒野は、大樹の質問に答える前に、何故か、茅に口止めをした。
「あったといえば、あった。
 だけど、プライベートに属することだから、何があったか、具体的に述べることは出来ない」
 荒野は明瞭に「答える気はない」と語った。
 香也は茅と荒野の憔悴ぶりをみて、「……昨夜、自分の知らないところで、よほど、すごいことがあったのだろう……」と悟った。
 そうした荒野たちの背後で、楓が、非常に微妙な表情をしている。なにかいいたいことがあるが、それを堪えているような……。
「「……皆様、いってらっしゃいませ……」」
 いつの間に背後に控えていた酒見姉妹が、声を揃えて一礼した。昨日と同じ、メイド服姿だった。酒見姉妹も、荒野たちの同様に、疲れた顔をして、目の下に隈をつくっている。
「……双子さんたちも、いたのか……」
 飯島舞花は、不審そうな表情を浮かべる。
「ランニングには、来なかったようだけど……」
「……だから……」
 荒野は、もっともらしい顔をして頷いた。
「昨夜は、いろいろあったんだよ。
 詳しくは、言えないけどな……」
 荒野の背後にいた楓が、ますます複雑な表情になる。

 ぞろぞろと登校する途中で、荒野が楓に向かって長々と何事かを説明しているが、少し離れて歩いている香也の耳には、「野呂と二宮が……」とか、「佐久間も、やっと教師役を……」とか、断片的な言葉しか聞こえてこない。いずれにせよ、荒野の周囲に、また新しい人が来る……のかな? と香也は思う。
 そして、来るのだとすれば、それは……また、かなりユニークな人格である筈……という、かなり確実な予感が、香也には、ある。
 何しろ、今までが今までである。
 そんな予感は香也を少し不安にさせたが、楓に説明をしいている荒野の声は、決して暗いものではなく、逆に、明るく張りのあるものだったので、過度に心配をする、ということもなかった。
 香也な、身辺が多少騒がしくなっても、あまり気にかけない性格だが、出来れば、今後、身近に人が増えるのであれば、異性よりは同性がいい……と、思った。
 少なくとも、これ以上、自分をとりまく人間関係……もっと端的にいって、女性関係が複雑になるのは、勘弁して欲しいところだった。

「……昨日はどうもぅ。お世話様でしたぁ!」
 途中から、玉木玉美が合流してきた。
 玉木は、孫子と同じく、義理チョコを配ろうとはしない。
「いや、貰う方は嬉しいかも知れないけど……義理は所詮、義理だしなぁ……。
 それに、わたしの場合、顔が広いから、配りはじめると金額的にシャレになんなくなって……」
 とかいって、頭を掻く。
 孫子の場合、
「不合理な習慣だと思います」
 と、一蹴だった。
「本気なら、ともかく……義理というのは、お互いに気を遣いすぎますし、資産運用としてみても、ロスが多すぎます」
 孫子と玉木とでは、性格がまったく違うが、妙なところで意見が一致するのであった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(238)

第六章 「血と技」(238)

「……こ、これは……」
「目と、鼻に来るのです……」
 酒見姉妹は、顔中に汗を浮かべ、涙と鼻水をだらだらと流しつつ、ハンカチで顔からでた分泌物を頻繁に拭いながら、それでもスプーンを動かす手を休めない。
「……It's hot!」
 シルヴィの方も、大差なかった。
 茅も、一見して表情には出てないのだが、やぱりだらだらと汗を流している。
『……そんなに辛いのなら、食べるのを止めればいいのに……』
 と、荒野は思うのだが、なんだか一種の我慢大会に近いノリになっている。
 女たちは、横目でチラチラと他の女たちのペースをチェックしながら、黙々と食べ続けていた。
『……なーに、意地になっているんだか……』
 そんなことを思っている荒野は、水をがぶ飲みしながら、マイペースで食べている。荒野は、どちらかというと甘党なわけだが、だからといって辛い物や酒が駄目なわけではない。
 そして、何故、彼女たちが意地を張り合っているのか、まるで気づいた様子がない。
「……なぁ、ヴィ……」
 この場に会話がないことを気にしてから、荒野が汗を拭いながら、話し出す。
「さっきの、捜索の話しだけど……」
「……捜索……」
「姉崎に、捜索を依頼したのですか?」
 荒野の言葉に酒見姉妹が反応し、酒見姉妹が顔を上げる。
「おう」
 荒野は、何気なく、頷く。
「前から、頼んでるんだ。例の悪餓鬼どもの件な。
 こっちは、学校に通っているから、ここから離れるわけにもいかないし……」
「「水くさいっ!」」
 だんっ!
 と、酒見姉妹はいきなり立ち上がり、テーブルに手をついて身を乗り出す。
「「……姉崎に頼むくらいなら、どうして、野呂や二宮や、それに、わたしたちを頼りにしてくださらないのですかっ!」」
 ユニゾンで身の乗り出されて、荒野は、二、三度瞬きをして、もう一口、カレーを口に運ぶ。
「……だって……正式に頼んだら、半端じゃない金かかるし……。
 特に今回は、ろくな手がかりもない上、捜索範囲がめちゃくちゃ広いから、先だつものがなければ腕のいい術者は……」
「……それはっ!」」
 酒見姉妹は、シンクロナイズな動作で、シルヴィをびしっと指さす。
「「姉崎でも、同じことではないですかっ!」」
「……あー……」
 荒野は露骨に姉妹から目を逸らせして、人差し指で、こめかみを掻いてシルヴィに話しを振った。
「そのへんは……あれ……。
 なぁ……ヴィ……」
「……yes……」
 グラスの水をごくごくと喉を鳴らして飲んでから、シルヴィが答える。
「この程度のことは、全然ダイジョーブよぉー。
 ……コウとヴィとは、家族同然に育った仲だしぃ……」
『……あっ……』
 シルヴィがそういった瞬間、茅と酒見姉妹の顔が覿面にこわばったことを、荒野は見逃さなかった。
 ここまできて、どうしてシルヴィが先ほどのような真似をしたのか……という真意を、理解した。
 シルヴィは……意図的に、茅や酒見姉妹を、「あえて」刺激しているのだ。つまり……荒野の周囲にいる、少女たちを、標的にして。
 ヴィは……やっぱり、いじめっ子体質だ……と、荒野は確認した。
 外見ほど、中身まで変わっているわけではない……と、安心している部分もある。
 茅と酒見姉妹は、凍り付いて「なわなわ」と震えている。
「……それくらいにしてけよ、ヴィ……」
「駄目なのっ!」
「「駄目ですっ!」」
 荒野がシルヴィをいさめようとするのと、茅と酒見姉妹が叫んだのは、ほぼ同時だった。
「取引だから、許しているけど……荒野は、あげないの」
 茅は、荒野の二の腕を、ぎゅっと掴んだ。
「「姉崎が動いていると知って引いたら……国内の術者の名折れですっ!」」
 酒見姉妹は、同時に自分の携帯を取り出して、どこかに連絡を取りはじめる。
「……お前ら……だから、一流の術者を雇う金なんかないって……」
「「……そんなもの、後で、どうとでもできますっ!」」
 荒野が酒見姉妹を制止しようとすると、逆に一喝された。
「「それに、まだ名が売れていない若い世代なら、比較的、安いギャランティで雇えますっ!
 若直々のお声掛かりとあれば、いくらでも人は集まりますっ!」」
 二宮と野呂、双方の血を引いている姉妹は、国内の一族の間では、これでかなり顔が広いのであった。
「よかったわねぇー……コウ」
 シルヴィは、各人の反応を眺めて、興味深そうな表情をしながら、にこにこと笑っている。
「皆さん、協力的で……」
 そのシルヴィを、茅が睨んでいる。
『……香也君……。
 おれ、今なら、君の気持ちが前よりもよく理解できるよ……』
 荒野は、天を仰いだ。
「……そうそう」
 シルヴィは、何でもない口調で、テーブルの上にランッピングされた箱を置いた。
「これ、今、バレンタインということで、お隣で作ってきたチョコなんだけど……よく考えてみたら、ヴィ、あげるような男性なんか、いなんだった……。
 後で、みんなで……」
「……荒野には、食べさせないのっ!」
 茅が、シルヴィの手からもぎ取るように箱を奪い、乱暴な動作で包装を剥がす。茅の意図を察知した酒見姉妹も、携帯を置いてチョコに飛びついた。
「……やめっ!」
 荒野が制止する間もなく、茅と酒見姉妹は、シルヴィが作った一口大のチョコを、次々と争うようにして、自分の口の中に放り込む。




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彼女はくノ一! 第五話(321)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(321)

 風呂から上がって自分の部屋に戻ると、すでに布団が敷いてあって、いや、別に布団は構わないのだが……。
 パジャマを着たガクとノリが、布団の上に正座をしてちょこんと座っていた。
「……駄目」
 香也は、二人が口を開く前に、廊下を指さす。
「自分たちの部屋で、寝る……」
 けじめというのは必要だし、どこかで妥協すれば、自分の性格からいってもずるずると関係を深めていくことになりかねない……と、香也は思っている。楓と孫子の例からいってみても、一度前例を作ってしまうと、あとは止めようもない……。
 だから、この時も、香也にしては、かなり強い語調になっていた。
 途端に、じわり……と、ガクとノリの目が潤み、泣きそうな顔になる。
「……泣いても、駄目」
 香也は、重ねて、いう。
「騒げば、楓ちゃんたちが、来るし……それに、あんまりわがままをいっていると……嫌いになる」
 静かな声で告げると、ようやく二人は肩を落として廊下に出て行った。
 ……やれやれ……と思いながら、香也は襖を閉じ、部屋の明かりを消して布団の中に潜り込む。
 そうしたガクやノリの態度を思い返し、今更ながらに、彼女らが「子供」である、と感じる。どんなに凄い力を秘めていようとも、この先、女性として美しく成長していこうとも……やはり、中身に未成熟な部分がある、と。香也とて、他人の内面をどうこういえるほどに成熟した人格であるわけではない……ということは、日頃から常々、痛感しているところだ。だが、自分の場合は、いびつさを感じるの比べ、三人の場合は、より「幼い」感じを受ける。特に、対人面での経験が圧倒的に不足しているためか、「他人への感情表現」が、妙に直線的にすぎる部分が、昨日、今日、と、ガクとノリにつきまとわれた香也には、気になった。香也に好意を持っているから、抱きついたり、身体的な接触を図ろうとしたり……一緒に寝ようと、待ちかまえていたりする。そうした「分かりやすい行動」を、「可愛い」と、思えないわけでもなかったが……それ以前に、そうした自分たちの行動が、第三者の目にどう映るのか、ということを、まるで配慮していない……という部分が、空恐ろしくも、ある。
 現状では、彼女たちが、「社会」というものに不慣れであることから、「他人の目」とかに対する、その手の想像力がうまく機能していないだけであって、時間が経てば自然に収まるとは思うのだが……例えば、昨日の柊や今日の柏あんなの反応を見れば分かる通り、今の香也の状況を「そういう風に」解釈している人は、少なくはないだろう。いや、もっと端的にいえば、多数派であろう……。
 香也一人のことだけなら、もともと「他人」とか「世間」というものに極端に関心の薄い香也のことだ。特に頓着もしないのだが……彼女たちの方は、何分、将来がある身である。
 また香也は、荒野たちが、なにくれと「この土地」に馴染もうと努力しているのも、見てきている。
 自分がこれ以上の被害に合わないためにも、少し強硬な態度を取ってでも、出来る限り、辛抱強く接して、彼女たちを「普通」にしていかなければならない……などと、柄にもない決意を固めかけている、香也であった。
 「……なんだか……妙なことになって来ているなぁ……」と、最近の自分の近辺について、感慨を新たにする。「自分が他人に心配をかける」ことは多くても、「自分が他人の心配をする」という経験は、香也にとってはほとんどはじめてのことで……新鮮といえば、新鮮な心境だった。
 ……妹とかいたら、こんな感じなのかな……とか思いつつ、香也は目を閉じた。

「……あーっ!」
 翌朝、香也は楓の叫び声で目を醒ます。
 ……何事っ!
 と、跳ね起きようとしたが、左右からがっしりと抱きつかれて、身動きがとれなかった。
 誰に?
 香也は、寝ぼけまなこで、薄暗い中、自分の体を見下ろす。
 ガクとノリが、両脇からがっしりと香也の胴体に腕を回して、抱きついていた。
 それはもう、起き上がろうとしても、重くてろくに寝返りがえりもうてないほどに、ぎゅうーっと抱きついている。その上、すぴょすぴょ寝息を立てている。
 ……昨日、あれだけ強く注意したのに……。
 身動きのできない香也は、暗澹たる心境になった。
 その間にも、楓がずかずかと香也に向かって近づいてくる。
 その表情を一瞥して、香也は瞬時に悟った。
 やばい、と。
「……ほっ、ほら……起きて……」
 香也は、必死になってノリとガクを揺り動かす。しかし、二人は「……うーん……」とか呻吟するだけで、一向に目を醒まそうとしない。
 すぐに楓が、間近に顔を近づけた。もともと、何歩もない距離だ。
「……あっ、あの……待って……かえ……」
 でちゃん……と、続けようとした香也の声も聞いていない風で、楓は、素早くノリとガクの頭を両手で掴み、「ごちん」と、鈍い音を響かせて、二人の頭同士をぶつけた。
 香也が、その音から「痛さ」を想像して、反射的に顔をしかめる。
「……さあっ!
 起きるっ! 立つっ! 部屋から出て、着替えるっ!」
 流石に、自分の頭を撫でさすりながら起きたノリとガクに向かって、楓は、元気な声を浴びせる。
 ノリとガクは、一瞬、恨めしそうな顔を楓に向けたが、楓の形相を確認すると顔を引き攣らせて、ぎこちない動きでぴょこんと立ち上がり、部屋から出て行った。
「……香也様……。
 さっき、何かいいかけましたっ?」
 二人が出て行ったのを見届けてから、一瞬前に二人に向けていたのとは別人のような穏やか笑顔を香也に向けて、楓が、確認する。
「……あっ……い、いや……何、も……」
 香也は、ゆっくりと首を横に振った。
 今更、気づいたが、楓はスポーツウェアを着ていた。学校指定のジャージではない。いつもぎりぎりまで寝ている香也は、その姿の楓をみるのも初めてだったし、他の住人たちが毎朝、早朝から外に出て運動をしていることも、知らなかったりする。
「どうも、お騒がせしました」
 香也が唖然としていると、楓は、ぺこりと一礼する。
「まだ、いつも起きる時間まで、間がありますので、香也様は、まだ寝ていらしてください……」
 楓は、香也の返答も待たずに廊下に出て、襖を閉める。
「……ああっ……」
 香也はあっさりと出て行った楓に手を伸ばしかけ、何も言うべきことがないことに気づき、手を降ろす。
 ふと、枕元の目覚まし時計をみると、いつもの起床時間より、二時間も早かった。
「……んー……」
 いきなり脱力感を感じ、どさり、と、香也は布団の上に横になり、目を閉じる。
「……疲れる……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(237)

第六章 「血と技」(237)

 狩野家の前で解散した後も、シルヴィは荒野と一緒にマンションまで着いてきた。
「……たまには、カヤとも話したいし……」
 とのことだが、荒野としてはシルヴィの来訪を断る理由もない。仮に、シルヴィが何事かたくらんでいたとしても、後いくらもしないうちに、茅が酒見姉妹を伴って帰宅する。
 下手に反抗するよりは、素直に部屋に招き入れてお茶でも飲みながら、腹のさぐり合いでもしている方が、まだしも建設的に思えた。
 それに、話しの流れによっては、悪餓鬼どもの捜索に、もっと真剣に対処してくれるよう、頼むことも、ありえた。あくまで条件次第の話しではあるが……その辺の詳細は、しっかりと話し合ってみないと、なんと判断できない。荒野一人の「頼み」程度で、姉崎が総力を結集して協力してくれる、と考えるほど、荒野は無邪気ではなかった。
 下手に焦っても仕方がない、ということはわきまえてはいるつもりだたが……早めに、やつらの身柄なり居場所なりを押さえれば、それだけリスクが減って安心できる……といううのも、また事実なのである。そのためには、多少の無理を聞いてもいいのではないか……と、荒野は思っている。ここでの生活は、荒野にとって、その程度の重みは持っていた。

「……静流さんや茅ほど、うまいもんじゃないけど……」
 そう断りをいれながら、荒野はコーヒーをいれる準備をする。
 コーヒーメーカーをセットし終えてから、荒野は、改めてシルヴィと向き合って座った。
「それで……。
 実際のところ、なにを狙っているんだ、ヴィ……」
 シルヴィの目を見ながら、改めて、荒野は尋ねた。
「別に……」
 シルヴィは、荒野の目をまともに見返しながら、答える。
「ただ……コウが守ろうとしているものを、自分の目で確かめてみたかっただけ……。
 面白い人ばかりじゃない……」
「……一部分、面白すぎる人もいるのが困りもんだけどな……」
 荒野は、シルヴィから目をそらして、そういった。
「……そーねー……」
 と、シルヴィも、荒野の挙動に反応して、笑う。
「姉崎は、新種を欲しがらないのか?」
 荒野は、短刀直入に、尋ねる。
「竜斎のじいさんも、二宮も、この間あの三人にこなかけていたけど……」
「彼女たちが、身を寄せたいっていえば、もちろん歓迎するけど……」
 シルヴィは、やわらく微笑みながら、肩をすくめる。
「でも……彼女たち、いまのところ、そのつもり、ないんでしょ?」
「……そうなんだけどな……」
 いって、荒野は、お湯につけてお暖めておいたマグカップをお湯から出し、ふきんで丁寧に拭う。
 それから、できあがったコーヒーをマグカップに注ぎ、シルヴィと自分の前に置く。
「後、肝心な話し……」
 荒野は、座り直して、自分のマグカップに口をつける。
「……例の悪餓鬼どもの件、もう少し、姉崎の方で、力を入れられないか?
 そのための条件を出してくれれば、出来るだけ、対処する……」
「あらま……」
 シルヴィも、マグカップを抱えて、自分の口元に持ってくる。
「ご執心。
 条件は、ないことも、ないけど……」
 シルヴィは、マグカップをテーブルの上に置き、立ち上がって、ちょいちょい、と荒野を手招きした。
 ……耳を貸せ……ということか?
 と、不審に思いながら、荒野は、立ち上がってシルヴィのそばに近寄る。
 荒野が、すぐそばにまで近寄ると、シルヴィは素早く荒野の首に抱きつき、口唇を奪った。荒野の口を割って、熱い舌を差し込みながら、両腕を荒野の首と肩に回し、がっしりと力を込めて抱擁する。ついで、タイトスカートがまくれあがるのも構わず、両足を荒野の腰に回し、完全に荒野に体重を預けて、抱きついた。
 シルヴィは、抱擁する力を緩めず、荒野の舌を吸い、乱暴に腕を動かして、荒野の体をまさぐった。
「……ヴィ、何を……」
 ようやく、顔を話して、荒野は尋ねる。
「あら…こっちは、その気になっているのに……」
 シルヴィは、荒野にぶら下がったまま、股間を、すでに反応しはじめている荒野の部分に、こすりつける。若い荒野は、すでにジッパーを引きちぎらんばかりに硬直していた。
「そういう、気分じゃないって……」
 実際、荒野は、少なくともこの部屋で、茅以外の女とそういうことをする気にはなれなかった。自分に絡みついてくるシルヴィを引きはがそうとして、もみ合いになる。シルヴィも荒野も、なまじ体術の心得があるものだから、かなり高度な競り合いとなって……結果として、バランスを崩し、荒野は、シルヴィに抱きつかれたまま、床の上に横倒しになった。
 それでも、荒野に抱きついてこようとするシルヴィ。
 それを避け、シルヴィから逃れようとする荒野。

「……荒野……」
 気づくと、制服姿の茅が、息を切らして床の上で絡み合っている荒野とシルヴィを見下ろしていた。茅の後ろには、酒見姉妹も控えていて、「……んまぁ……」という表情で、目と口をぱっくりと開いて荒野たちをみている。
 ……これが、狙いだったか……と、今更ながらに、荒野はシルヴィの目的を悟った。
 シルヴィにとって荒野とは、いくつになってもいじり甲斐のあるおもちゃ、なのであった。

「……だから、ヴィに、茅ぐるみでからかわれただけだって……。
 ヴィ、こういういたずら、昔っからしょっちゅうしてたし……」
 あれから茅は、荒野といっさい口をきこうせず、黙ってメイド服に着替え、黙って夕食の支度をはじめる。何もいわないが、茅の背中は、あきらかに怒気を伝えていた。
「……第一、例の交換条件があるからさ、ヴィがおれとそういうことしたければ、もっと堂々とできるわけだし、茅に見せつける必要ないし……」
「……カヤ……。
 コウの話し、本当……。
 前に、カヤの独占欲が強いっていっていたので、それを確かめたくなって……」
 しまいには、荒野に同情したシルヴィまでもが、荒野に加勢しだす。
「……ホンの……軽いジョークね……」
 酒見姉妹は、茅の背中が醸し出すオーラを恐れて、おろおろと荒野と茅とを交互に見渡しながら、こわごわと茅の手伝いをしている。二人がぼろぼろと涙をこぼしているのは、大量のタマネギを刻んでいるからだった。
「……もう、その程度でいいの」
 茅は、荒野とシルヴィは無視して、酒見姉妹の手元をのぞき込む。
「……それを、じっくりと色が変わるまで、炒めて…」
 その間に茅は、牛肉の塊の表面に、ざっと火を通している。表面に軽く焦げ目をつけると、茅は肉を火からおろし、一口大に切り分ける。その後、酒見姉妹が炒めていたタマネギを受け取り、寸胴鍋に放り込み、皮をむいて適当な大きさに切りそろえたニンジンやジャガイモと一緒に火を通しはじめる。
「……おい、茅……」
 その手元をみて、荒野は冷や汗を流しながら、しばし、絶句した。
「それ……いくらなんでも……香辛料、効かせすぎだって……」
 材料を炒めあわせる段階で、茅は冷蔵庫の中から、ありったけの香辛料を取り出して、どっばーっ、と、大胆に放り込みはじめた。
 見ているだけで、空恐ろしくなる量だった。
「……いいの」
 その時の茅の眼光は、鋭かった。
「今は、超強力極辛が食べたい気分なの……」
 茅は、寸胴鍋に肉と水をいれて、火を弱火にする。
「……それから……荒野。
 首筋に、キスマークがついているの……」
 鍋が沸騰しはじめると、なんともいえない刺激臭がキッチンの中に漂いはじめる。「自然と唾液が沸いてくる」という範囲は当の昔に越えていて、においを嗅ぐだけで鼻の粘膜が痛くなってくるような刺激臭だった。
 その日の夕食である超強力極辛カレーは、涙なくしては食べられない代物だった。しかし、茅の迫力に気圧されて、全員が完食した。





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彼女はくノ一! 第五話(320)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(320)

 香也が着替えて庭に出ようとすると、玄関で、段ボールの箱を運び入れている制服姿の孫子とテン、ガクと出くわした。三人組と楓が使うパソコンが届いたところだ、という。孫子の会社に納入する事務用品と一緒に納入されたものを、車でここまで運ばせた、という。テンとガクは早速、段ボールを居間に運び込み、梱包を解きはじめた。
 しかし、孫子の会社とかコンピュータにあまり関心が持てない香也は、予定通りそのまま庭のプレハブに向かう。夕食の準備が整うまでの僅かな時間でも、今夜描くものの準備を整えておきたかった。
 
 しばらくして、ノリに呼ばれて居間に戻ると、夕食の準備が整い、住人も全員が勢ぞろいしている。今日、この家でノリたちがチョコを作ったこと、明日のバレンタインのこと、それに、三人は、新しく届いたノートパソコンとその設定や使用法について、楓や孫子は、孫子の会社で使用するソフトのこと……などを賑やかに話し合いながらの食事となる。会話の内容の大半を香也は適当に聞き流しているし、仮に、耳に入っていても、専門的な用語が大半を占めるため、その内容は理解も把握もしていないのだが、この賑やかな雰囲気は悪くない……とは、感じていた。
 夕食が終わると、テンとガク、それに楓は、届いたばかりのパソコンを早速、本格的に使い出す。テンとガクは、映像処理関係のソフトを、楓は、孫子に頼まれているソフトに、それぞれ手を着けはじめていた。孫子は、封筒から分厚い書類の束を取り出して、それに目を通したり、書き込みしたり、署名したりしている。食器の片づけは、「支度はしてもらったし、みんな忙しそうだから」という理由で、羽生が引き受けてくれた。ノリは、昨日、ガクがしていたように、香也の勉強をみている。こと、香也の勉強に関していえば、以前なら、楓と孫子の二人でしていたわけで、これが、五人で順番に行うようになったことは、五人とも、それぞれに、自分の仕事を抱えている今では、一人頭の負担の軽減、ということで、十分に意味があった。おのおの、別の仕事を行いながらも、しばらくそうして居間に居続けたのは、その場の雰囲気に居心地の良さを感じていたためだろう。
 香也も、もちろん、早く終わらせて、プレハブにいって絵を描きたい、という気持ちは、以前と同じく、強くあったわけだが、それとは別に、この場の雰囲気を「心地良いもの」と認識していた。

 その雰囲気に当てられてか、一時間前後で終える勉強に、この日は二時間近くかけてしまい、おかげで絵に裂ける時間が、かなり目減りしてしまった。香也が庭のプレハブに向かうと、当然のように、ノリもスケッチブックを抱えて香也の後についていく。
 ノリは、この家に帰ってきてからも、常時スケッチブックを持ち歩き、隙間の時間を見つけては、なにがしかの絵を描くようになっている。
 プレハブの中で、香也は、ここ数日のノリの絵を見ながら、求められるままに細かいアドバイスを行うことになった。ノリは、筋がいいのはもちろんだが、香也のいうことを理解し、実際に描く段に、それを反映する……という、フィードバックのレスポンスが、格段にいい。
「砂に水がしみこむように」という例えがあるが、まさにそんな感じで、ノリは「絵を描く」ということの本質を体得しつつある……ように、香也には、思えた。
 ノリは、空間や立体の形状を把握するセンスにたけていて、遠近法やパースの概念も、口頭で簡単に伝えただけなのに、今ではしっかりと理解して、自分の手で再現できるようになっている。光源や陰影の描写も含めて、ノリの描く絵は、今ではかなり「リアル」なものになっていた。
 さらに加えて、最近では、羽生の部屋にあるマンガの模写までを手がけているようで、何種類かの見覚えのあるキャラクターで、ところ狭しと、スケッチブックの紙を何ページ分も埋め尽くしていたりする。こうしたディフォルメの効いた絵に関しても、器用なことにノリは、かなりモデルに似せて描けるようだった。

 その日、香也は、結局、ノリへのアドバイスとか話し合いとかで時間をとられ、自分の絵に手を着けられないままに、かなりいい時間になってしまった。
 風呂が空いた、と、楓が呼びに来て、かなり襲い時間であることに気づき、ノリに、先に風に入るようにいい、自分も席を立つ。その頃には、これから本格的に絵をかきはじめると、翌日に差し障りがでるような時刻になっている。ノリは、香也に「一緒に風呂に入ろう」とか「背中を流します」とか誘ったが、当然、香也は遠慮して、自分も立ち上がり、ノリや楓と一緒に家の中に入る。 
 
 ノリが風呂を使っている間、香也は居間で炬燵に入って、ぐったりとしていた。一見して、ぼーっとしているように見える香也が、実際にこうして何もせずにぼーっとしていることは、実はかなり珍しい。そのような時間があれば、香也は何かしらを「描いて」いるから、だが……この日は、珍しく、何もせずに、パジャマ姿でノートパソコンのキーを叩き続けるテンとガクを見続ける。
 二人は、香也にはよく意味がとれないカタカナ語を応酬しながら、タカタカタカタカタカと途切れずに打鍵し続ける。それを見て、香也は「……本当は、自分よりもよっぽど頭のいい子たちなんだよなぁ……」と、改めて思う。今日も、柏あんなに「なんで、香也ばかりが……」みたいなことをいわれたわけだが、それについては他ならぬ香也自身が一番聞きたいことでもあった。自分のような出来損ないと、彼女たちのような、容姿も整い頭脳明晰な少女たちとでは、釣り合いがとれない……とも、謙遜抜きに、本気でそう思う。彼女たちにその疑問を直接問いたださないのは、それが藪蛇になって迫られる可能性があったから……に、他ならない。
 香也は、卑下しているわけではなく、自身のことを、感情か精神活動の「どこか」が欠落した人間である、と自己評価している。例えば、同級生たちと比較してみても、自分自身の精神のありようは、やはり、異質に思えた……。

 そんなことをぼんやりと考えているうちに、湯上がりのノリが、「お風呂が空いた」と香也に告げにくる。香也は、居間にいた少女たちに、くれぐれも乱入してこないように、と念を押してから風呂場に向かう。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(236)

第六章 「血と技」(236)

 シルヴィが持ち込んだ怪しげな材料で盛り上がった以外は、これといって特筆するべきこともなく、チョコ作りは一時間ほどの時間をかけて恙無く終了した。手を動かしている間も会話が途絶えず、それなりに騒がしかったが、やはりいい年齢の大人が半数を占めていた、ということが大きい。ノリと明日樹も、どちらかというとおとなしいタイプだし、それに、この中で意味もなく騒がしいのは、玉木と三島くらいなものであり、料理関係の仕事に慣れていないのは、玉木一人だったので、作業はおおむねスムースに進行した。
 型に流し込んだチョコを冷やす間に後片づけをして、それも終わると静流が全員にお茶をいれてくれた。
 静流がいれたお茶を喫すると、例によって全員がしばし、言葉を失う。
「……あっ!」
「これ……」
 特に今回が初体験である、樋口明日樹と柏千鶴、ノリは、一口、口をつけた後、そう呟いてしばらく、固まってしまった。
「……こ、こんど、商店街に、お店を出しますので……」
 すかさず、静流がビラを炬燵の上に置いて皆にまわしはじめた。
「……価格帯とかパッケージは、流石に考えているか……」
 三島は、静流が配ったチラシを眺めながら、そんなところをチェックしている。
「さ、才賀さんに、いろいろとアドバイスいただきまして……」
 静流は、背筋をしゃんと伸ばした状態で、答える。
「お、お店がはじまったら、定期的に、お、お茶のいれ方の講習なんかも、するつもりです……。
 み、みなさんに、おいしいお茶を飲んでいただきたいので……」
「……お店の中に、お茶が飲めるところもあるんだ……」
 ノリも、チラシをみながらいった。
「は、はい……。
 席数が、少ないから……試飲程度のことしかできませんが……」
「……失礼ですが、お店、おひとりでなさるのでしょうか?」
 千鶴が、柔らかい口調で尋ねる。
「は、はい。
 だいたい……出来る限りは……」
 静流は、ゆっくりとした口調で答える。
「お店持つのは、前からの夢だったもので……。
 で、でも、わたし、目がこれだから、ひ、一人で、というのは、難しいので……及ばない部分は、さ、才賀さんが、誰か適当な方を見繕ってくださる、ということで……」
 孫子を経由しなくとも、静流なら、この周辺にいる野呂の者を手伝いとして手元に置くことは容易だった筈だが、孫子の顔を立てたのか、それとも、できるだけ一般人の店員を置きたいという希望があるのか……とにかく、静流はそういう選択をしている。
「……はいっ!」
 しゅばっ! と、千鶴が勢いよく片手をあげた。
「立候補するのですっ!
 大学の講義がない時、馳せ参じるのですっ!」
 三島と玉木が、
「……おおぉお……」
 と、歓声をあげて拍手をはじめる。
 ノリと明日樹も、少し遅れて、パチパチと手をたたいた。明日樹はともかく、ノリは、実のところ、この事態をよく理解していない。荒野一人だけがひっそりと俯いて、眉間を自分の指でマッサージしていた。
「……いやー
 よかったなぁー……。
 こんなあっけなく、美人のバイトさんが見つかって……」
 三島が、感心したような声をあげた。
「扱う商品も、出迎える店員さんも上物ってことになれば、大入り満員のウハウハだぞ……」
「……そうそう……」
 玉木も、頷く。
「やっぱね、お客さまと対面する商売ですもの。そういった要素も、重要ですよ……。
 柏さんのおねーさんなら、身元も確かだし……」
「……はいっ!」
 再び千鶴が、しゅたっ! と、元気よく挙手した。
「質問っ!
 お店の制服とかは、あるんでしょうかっ!」
「……せ、制服、ですか……」
 静流は、かなり引き気味になりながら、小さな声で答える。
「……そ、そういうのは……ま、まるで、考えて、いませんでしたけど……」
 もともと、こうした賑やかな雰囲気に免疫がない静流は、すでにかなり腰が引けている。
「駄目ですっ!」
 千鶴は、どん、と炬燵の天板を拳で叩いた。
 静流が、方をびくりと振るわせる。
「ヴィジュアル・イメージは、大事ですっ!
 可愛いは、正義なのですっ! 萌え萌えなのですっ!」
 千鶴は、そう力説した。
「……も、もえもえ……なの、ですかぁ……」
 静流は、すっかり逃げ腰になっている。
「……このチラシみると、中国茶もかなり扱っているな……」
 三島が、冷静に指摘する。
「……中国の、お洋服……。
 おねーちゃんたちに、似合いそうなの……」
 ノリは、少し考えた後、部屋の隅に常備してあるスケッチブックを取り出し、ささーっと、鉛筆を走らせて、簡略な女性の人物画を、描いてみせた。
「……こういうの?」
 荒野と明日樹、それに、ノリの絵を見ることが出来ない、静流本人の三人を除いた全員が、
「……おおぉぉっ……」
 と、歓声を上げながら、拍手する。
「……そっか……。
 チャイナかぁ……」
「……か、加納様……」
 わけがわからない静流は、今にも泣きそうな顔をして荒野に助けを求めた。
「な、何が、どうなって……」
「あきらめてください」
 非情にも、荒野は静流に向かってそういいきった。
「おれには、この人たちを抑えるだけの力がありません………」
「……大丈夫です。
 お茶のおねーさん……」
 玉木が、すっげぇ不安そうな顔をした静流の肩に手を置いて、声をかえる。
「おねーさんも、柏のおねーさんも、スタイルがいいからこういう格好、よく似合います……」
「……どどどど、どういう、格好なんですか、だからぁ……」
 ますます動揺しはじめる、静流。
「……あのな……」
 三島が立ち上がり、座っている静流の肩に、抱きつく。
 静流が、「……きゃっ!」と、小さな悲鳴をあげた。
「……チャイナドレスっていうのはな……こう……ノースリーブでな……。
 んで、こう、腿のところに、切れ込みが、入っていて、っと……」
 三島は、静流の後ろから、耳に息を吹きかけながら、静流の肩や腿を指先でたどりつつ、説明する。静流が、三島の息や指先に反応して、「あんっ!」とか「やんっ!」とかいいながら、びくびくと体を振るわせた。
「先生っ!」
 流石に、荒野が語気を鋭くする。
「……わかているよ、もぅ……。
 お茶目なスキンシップじゃないか……」
 三島は、あっさりと静流から体を離した。
「……だけど……グラサンのねーちゃん、意外に敏感だ……」
 静流から体を離しながら、三島はそんなことをぶつくさ呟いていた。
 静流は、すっかり怯えた表情になっている。
「……あんないたずらをするのは、先生くらいしかいませんから……。
 もう、ご安心ください……」
 荒野は静流を落ち着かせるために、ため息混じりにそう声をかけた。
「……は、はい」
 静流は、まだ怯えた表情をしながら、気丈な返事をした。
「こ、この程度でびくびくしていたら、お、お客様の相手はできませんね……」
「……そうですっ!」
 今度は千鶴が、静流の手を取る。
「……一緒に萌え萌えで、可愛いお店にするのですっ!」
「……も、もえ……ですか?」
 静流は、千鶴のノリにもかなり面食らっていた。
「お、お茶は……燃やしては、いけないと思いますが……」
 その後、千鶴は数分に渡って「萌えとは何か?」という独演会を続ける。ノリは感心したような顔で聞き入っており、肝心の静流は、かなり疲れた表情をしながら、「……わ、わかりましたのです。もう、結構ですから……」と、降参してみせた。

 そのうち、ノリが、「おにーちゃんを迎えに行く時間だ」といいだし、その日はお開きということになった。




[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話(319)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(319)

 そんな事情説明やら、奇妙な成り行きではじまることになった「当番制」のことなどとかを相談している間にも、時間は過ぎていく。堺雅史と柏あんなは、香也の話しを驚きと呆れが入り交じった複雑な表情で聞きつづけ、しかし、香也に対して有効な対策とか意見とかをいうこともなかった。彼ら、聴衆二人の関係はきわめて良好であり、この手のトラブルに関する経験もないから、有用なカウンセリングもしようがない。
「……どうもぉ……」
 コート姿で鞄を持ち、すっかり下校の支度を整えた楓が、美術室に入ってきた。
「もうそろそろ、帰る時間ですけど……。
 あれ?
 堺君、途中でいなくなったと思ったら、こんなところにいたんですか……。
 それに、柏さんも……」
 堺とあんなは、今まで話していた内容が内容だけに、バツが悪くて楓の顔をまともに見返すことができず、「い、いや……」とか、「そ、そうだねっ! 帰る支度をしなけりゃっ!」とか、しどろもどろな口調で適当なことを口走って、ばたばたと足音も荒く、美術室の外に出ていった。
「……なんなんですか?
 あの二人……」
 事情を知らない楓は、挙動不審な二人の様子に、ひたすら首を捻っている。
「……んー……」
 香也は、のんびりとした口調で答えた。
「なんでも、ない……」
 ……今日は、結局、まるで絵に手をつけられなかったな……と思いながら、香也は、後かたづけをはじめる。
「すぐ終わるから、ちょっと待ってて……」

 楓と連れだって校門前まで出ると、そこには昨日よりは人数が少ないが、人だかりが出来ていた。
 茅、ノリ、それにカラフルなメイド服の酒見姉妹が談笑している。酒見姉妹プラスαのお出迎えはこれで二日目だが、この時間まで居残っている生徒の顔ぶれは、部活などの関係で、昨日とは違ってきている。中には、酒見姉妹の奇態な格好に足を止め、茅や楓の顔を確認し、「……そういうことか……」と納得した顔をして去っていく生徒もいる。
 どうやら、「彼女らの知り合いなら、どんな変な奴がいてもおかしくはない」というコンセンサスが、校内で出来つつあるようだ。
 香也の顔をみかけると、ノリが駆け寄ってきて、「……おにーちゃんっ!」と香也に抱きついてきた。香也は、当然のことながら、「……んー……」とかいいながら、優しくノリの体を引き離す。
 そこに、自転車を手押しした柏あんなが通りかかり、ぼそり、とした口調で、
「……ロリコンは、ビョーキです……」
 言い残して、去っていく。
 堺雅史が、
「あんなちゃんだって……どちらかというと、ロリ系なのに……」
 とかつっこんでから、香也たちに頭を下げて、あんなの後を追っていった。
「……そういうことだから、少し離れて……」
 香也はここぞとばかりに、ノリの体を引きはがしにかかる。
 柏あんなの言動については、「あれで、彼女なりの香也支援なのだろう」と、納得することにした。柏あんなは、以前から香也の環境を好ましく思っていないということを隠していなかったし、女性としてそうした感情を持つことは、香也にしてみても、それなりに想像できる。今日、成り行きで詳細な説明を聞いたからといって、すぐに気持ちの切り替えが出来るわけもなく、そうした形でそっけなく香也に手を貸してくれるだけでも、香也にしてみればありがたかった。

 往来で抱きつかれたりするのは勘弁して欲しいが、かといって別にノリのことを邪険にしたいわけでもなく、帰るみちすがら、香也はノリの話しをおとなしく聞いていた。今日、ノリは、登校時に話していたように、荒野たちと集まってチョコ作りをしていたそうだ。登校時のメンバー以外に、野呂静流と柏あんなの姉、柏千鶴も合流して、かなり賑やかな様子になった……と、いう。
『……彼は……』
 さぞかし、居心地が悪かったろうな……と、香也は思う。大勢の女性たちに囲まれて苦笑いしている荒野の顔が、香也にはありありと想像できた。
 ノリの話しを聞いて、酒見姉妹も、
「「……わたしたちも、行きたかった」」
 と声を揃える。
 二人は確か、今週から日中、商店街でビラ配りのバイトをしている、といっていた。
 どちらかというと、甘いものが苦手な香也は明日のことを考えて、少々憂鬱になる。山盛りになったチョコを目の前にして、顔色を悪くしている自分の姿が、ありありと想像できた。できれば、長い時間をかけて、ゆっくりと食べていきたいものだ……と、香也は思っていたが、彼女たちは、それを許してくれるだろうか……。
 せっかくの気持ちなんだから、さあ食え、その場で食えとせっつかれる自分の姿は、さらに鮮明に想像できた。
 かといって、どこにも逃げ場はないし、明日のバレンタインは確実に来るのだった。
 結果、香也は出来るだけ明日のことを考えないようにした。

 家の中に入ると、甘さを連想するカカオの香りがまだ残っているような気がしたが……おそらく、それは香也の気のせいだろう。
 来客たちはすでに帰った後とかで、家の中はしんと静まり返っている。
 ノリはそのまま台所に入り、流しに残っていた片づけものに手を着けた。チョコを調理した後の片づけは済んでいたが、その後、みんなでお茶を楽しんだ後の茶器が、香也たちの下校時間が差し迫っていたこともあって、そのままになっていた。
 その時、狩野家の住人はノリしかおらず、三島たちはこぞって留守番と片づけを申し出てくれたが、ノリの方が「お客さんに、そこまでやって貰うのは……」と遠慮して、みんなを外に出して施錠した、という。
 その辺、三人は真理にしっかりと躾られているのだった。
 三島が再び車を出して、野呂静流と柏千鶴を送っていったようだ、と、ノリは付け加えた。
 着替えてから楓もノリに合流し、そのまま二人で夕食の支度をはじめた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(235)

第六章 「血と技」(235)

 一人で駐車場に車を置きに行った三島は、三人で帰ってきた。
「……静流さん、と……柏の、おねーさん……」
 エプロン姿で玄関に出迎えた荒野は、柏千鶴の格好に呆気にとられながらも、なんとか型通りの挨拶をする。
「どうも……ご無沙汰しています……。
 だけど……その格好……」
 顔を合わせるのは年末以来となる柏千鶴は、メイド服のスカートをつまみ上げて、優雅に一礼してみせる。
「……これ、期間限定のバイト先の制服なんですけど……。
 茅ちゃんとか双子ちゃんとかも、似たような格好で町中を堂々と歩いているし、萌え萌えじゃあないですかぁ……」
「……いや……。
 好きでやっているんなら、結構なんですけど……」
 そういいながらも荒野は、その場で頭を抱え込みたくなった。
 ……日本のドレスコードは、一体、どうなっているのだ……。
「この二人、な。
 買い物の途中でばったり出くわしたんで声をかけてきた。
 車に乗り切れなかったから、歩いて来て貰ったが……」
 三島が、そういいながら、玄関で靴を脱ぐ。
「……こ、こういうイベントに参加するのは、は、初めてなのです……」
 静流も、呼嵐の頭を撫でながら、普段よりも、心持ち、硬い声をだした。
「が、学校とか行ってないから、ば、バレンタインとか、え、縁がなかったのです……」
 ……静流なりに、緊張しているらしかった。
『……どういう組み合わせだよ、これは……』
 荒野は、台所でちらりと視線を走らせ、そこで準備を開始しているノリ、玉木、明日樹、シルヴィの四人とここにいる三人の女性たちのことを、考える。
 一族であるシルヴィと静流、新種のノリ、学生の玉木と明日樹、それに、一般人の柏姉と、三島……。荒野以外は、すべて女性だった。
 ……このグループの中に自分が混ざっているのが、どうにもなにかの間違いにしか、思えない……。

 当惑を感じつつも、荒野は後から来た三人を先導して台所に入る。先に準備をはじめていた四人は、買ってきたばかりの荷をほどいて、湯せんの準備をはじめていた。
 ……買い物の途中で声をかけてきた、ということは、今いる連中は静流や柏姉のことをすでに知っているのだろうな……と、判断し、荒野は、
「……残りの三人が着きました……」
 とだけいって、三島、静流、柏姉の三人を台所に導く。
 すぐに賑やかに挨拶合戦がはじまり、ますます荒野は「……おれ、この場にいなくても、いいんじゃねーの……」という思いを強くする。
「……お湯の温度は……こんなもんかな?」
「そう、ね……。
 チョコ、溶かしはじめよっか……」
 ノリが、湯せんのボウルに刺した調理用の温度計を確認し、明日樹が、フレーク状になった袋入りのチョコを、ボウルの中にいれ、静かにへらでかき回しはじめる。
「……そういや、今日は、こういう時にはいそうな飯島さんとか柏の妹ちゃんとかが、いないねー……」
 玉木が、ノリから温度計を受け取り、自分の分のボウルに差し込みながら、そんなことをいう。
「あの二人は、先週の土曜に、学校でやったやつに参加したから……」
 荒野は、チョコを流し込むための型を用意しながら、答えた。
 玉木は、
「……むむっ。
 すでに経験済みでしたか……」
 などと、答える。
「……なんだ、随分オーソドックスな作り方だな……」
 先週末、学校で使用した説明用のプリントにざっと目を通しながら、三島はそんなことをいう。
「……こんなもんに、奇をてらってどうするんですか……」
 荒野はそっけなく答えた。
「この手のイベントで大事なのは、気持ちでしょう。
 それに、学校で教える場合、誰にでも作れるっていうのが肝心なんです……」
 シルヴィは、三島が目を通していたのと同じプリントの内容を、静流に向かって読み上げていた。その際、「これがボウル、これがチョコの型……」と、静流の手を取って、道具や材料に触らせている。
「……そうそう。
 大切なのは、気持ちなのですぅ……」
 柏姉が新しいボウルにお湯を注ぎながら、嬉しそうな口調で荒野の言葉を繰り返す。

「……それでも……。
 そうね。
 ここまで集まったんなら……」
 一通り、静流への説明を終えたシルヴィが、荒野以外の全員を集めて、こそこそと何かを説明しはじめた。なんでも、「女の子だけの秘密」だそうで、荒野の耳には入れたくないらしい……。
 そう聞いた荒野は、思わず、「……このまま、帰ろうかな……」と、思った。
 円陣を組んでシルヴィが小声で説明を開始すると、
「……ええっ!」
「それ……使っても……」
「あら……強制はしないけど……」
「で、でも……他の人が使うのを、黙ってみているっていうのも……」
「……おいおい。
 なんだかトンデモな代物、さらりと出すな、おい……」
 ごしょごしょ、断片的な声が聞こえる。
 ……一体シルヴィは、何を持ち出したんだ……と、荒野は思った。
 非常に、イヤな予感がした。

「……それじゃあ、そういうことで……」
 シルヴィは、挑発的にみえる笑みを浮かべながら、五分もかからずに「女の子の内緒話し」を終える。
「これ、使うか使わないかは、各自の判断にお任せするわぁー……」
 ノリは、「……これを使うと……」と、どこかぼうぅっとした表情をしている。
 玉木と明日樹は、二人で「……ええっとぉ……」、「ど、どうしようっかぁ……」などといいあっている。二人とも、視線が泳いでいて、落ち着きがなかった。
 柏姉は、「……らぶらぶの萌え萌えなのですっ!」とよく分からない盛りあがり方をしているし、静流は、「さ、さっきの……ほ、本当なのですかっ!」と、シルヴィに詰め寄っている。
 三島は、からから笑い声をあげながら、「ちょっこら、、使ってみるかね。ダメもとってぇか、試してみるくらないなら、害はないんじゃね?」などと、荒野には理解できないことをいっている。
 ますます、荒野は、
『……ヴィのやつ……。
 いったい、どんな代物、持ち出したんだ……』
 という思いを強くする。

 少しの間とはいえ、中断したため、溶けかかったチョコが固まりはじめていた。ノリと明日樹は、新しく湯せんのお湯を容易し直し、みんなと一緒に最初から作り直すことになった。
「……どうする?」
「もちろん、使うけど……ボク、みんなより出遅れているし……」
「……えっ?
 そうなの……」
 ノリと明日樹は、そんなことを囁きあっている。
「……わたしの場合、家族とかへの義理チョコだしなぁ……。
 そういうの、必要ないっつうか……」
 玉木は玉木で、そんなことをぶつくさ呟いている。
「……こっちが、入れたやつで、こっちは入れない方……」
 柏姉は、ボウルを二つ用意して、二種類のチョコを使っているようだった。
「わ、わたしは……こ、こういうものの力を使わなければ……」
 そういう静流の声には、どこか差し迫った響きがあった。
「……けけけっ……」
 三島は三島で、なんかいっちゃているし……。
「そうだな。
 この程度のスパイスも、時には必要だよなっ!
 うん……」

『……知れねーからな……。
 明日のバレンタインに何が起きようが、おれは知らねーからな……』
 荒野は荒野で、女性たちの鬼気迫るノリについていけず、そんなことを思いながら、台所の隅で引き気味になっている。
 もはや、荒野が軽々しく干渉できる雰囲気ではなくなっていた。




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彼女はくノ一! 第五話(318)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(318)

「……ええっと……」
 一通りの事を香也から聞いた後、堺雅史は香也を指さし、柏あんなにこういった。
「……彼……あんなちゃんがいうような、何人もの女の人、手玉に取るような、器用なタイプに……見える?」
 結局、これが決定打になった。
「全然、見えないっ!」
 柏あんなは即答して、ぶんぶんと激しく首を振った。
 聞きようによってはかなり失礼なやりとりだが、当の本人である香也は特に気にする様子もない。
「それじゃあ……そういうことだよ……」
 堺雅史は、ため息混じりに、静かな口調で話しはじめる。
「狩野君……あまり、自分から話しかける人ではないけど……それでも、誰かから話しかけられたら、正面から相手してくれる人だと思う……。
 喧嘩腰で乗り込んできたあんなちゃんとだって、こうしてきちんと話してくれているでしょ?」
 堺は、自主制作ゲームの関係で香也とは何度か話したことがある。その時の印象からいっても、柏あんながいうように、年下の女の子を何人も同時に攻略する程、覇気がある人間だとは思えなかった。
「……もう……いい……。
 わかったから……」
 柏あんなは、膨れながらも、自分の思いこみの方が間違っているのかも知れない……と、思いはじめた。
「でも……狩野君、なんでそんなにモテモテなわけ?
 松島さんとか才賀先輩は、前からだったけど……あんな小さい子たちからも、なんて……」
「……三人のうち、ノリちゃんはもう小さくないと思うけど……」
 堺が、小さな声でつっこみをいれたが、あんなは無視した。
「……んー……。
 それは……あの子たち本人に、聞いてみないと……。
 ぼくの方からは、なんとも……」
 香也としては、困惑顔でそういうしかない。
「……それも、そうか……」
 あんなも、香也の言葉に頷いた。
「じゃあ……才賀先輩……は、なんとなく怖いから、松島さん、呼ぼうか?」
「……いや、松島さん、今忙しいし、迷惑だからっ!」
 携帯を取りだそうとしたあんなを、堺が押しとどめる。
「それに……松島さんとか才賀さんの気持ちは、普段の態度で、もう分かっているしっ!」
「いわれてみれば……それも、そうか……」
 堺に制止され、あんなは天井を仰ぐ。
「ちびちゃんたちを、ここまで呼びつけるわけにはいかないしな……。
 そうだっ!
 狩野君っ!」
 香也は例によって、「……んー……」と、はっきりしない返答をした。
「……狩野君の気持ちとしては、どうなのっ!」
 あんなは、勢いこんで香也に問いかける。
「今のところは、特に誰か一人をってことは、ない……」
 この前も……いいや、何度か同じ質問をされているので、香也にしてははっきりとした口調で返答する。
「というか……本気になれないのに、無理に誰かを選んでつき合おうとするの……どこか、間違っていると思う……」
 香也にそういわれて、柏あんなは虚をつかれたような表情になる。
「……い、いわれてみれば……誰かを選ばなければいけない、って前提も……あれだけど……」
「……ぼく……そういうの、自分には、まだ早いんじゃないかなーって……。
 彼女どころか、まともに、他人とつきあったこと、ないし……」
 ぽつぽつと、香也は言葉を紡いでいく。
「誰かと一緒にいるより……一人で、静かに絵を描いていたい方だし……」
 静かな口調で、しみじみと、そういう。
「……あっ……」
 あんなは、段々、香也をいじめているような気がしてくる。
「そ、それは……あれ……どーしても、誰かとくっつかなくてはいけない、ってわけでは……」
 あんなは、露骨に動揺し、顔を左右に振って、堺と香也を交互にみる。
「……ほらね……。
 香也君は、こういう人なんだから……」
 堺は、深々とため息をついた。
 堺は、あんなよりは、香也の性格を深く理解している。
「……誰もが恋愛に積極的でなければいけない……ってわけではないし……。
 それに、狩野君も……あんな子たちに迫られても、適当なところで流されまいとしている、っていうのは……それはそれで、強い意志を持っていると思うけど……。
 あれだけの美形揃いの中で、自分の意志を保っていられる、というのも……。
 な、なに?
 あんなちゃん……」
 気づくと、あんなは、堺の横顔をじと目で睨んでいる。
「まぁくん……」
 あんなは、猜疑心に満ちた目つきで、堺に尋ねた。
「狩野君が、うらやましい?」
「や、やだなぁっ!
 そ、そんなこと……いや、ほんの少しは思ったけど、それより、狩野君……。
 よく、持ちこたえているなぁ、って……。
 い、いやっ!
 一般論だよっ! 一般論っ!
 今の狩野君の状況で、平然としていられる男子の方が少数派なんだからっ!」
 香也を弁護したり、弁明したりと、なにかと忙しい堺だった……。
「……いいけど……」
 今度はあんなが、ため息をついた。
 それから少し考え、あんなは、いきなり、
「……あっ! 例のブツっ!」
 とか、叫び出す。
「……例の、ブツ……」
 堺が、怪訝な表情になる。
「ほらっ! 少し前、才賀先輩がいきなりうちに来て、まぁくんのお茶にいれて大変なことになった……」
「あっ! あれっ!」
 堺も、柏に続いて小さな叫び声をあげた。
「そっか……あれ……先輩……狩野君に……」
「……あんなの使われて、誘惑されたら……目の前の女の人、襲っちゃうよね……」
 孫子が前に使用した薬物の効果を、実地に試していた二人は、頭を寄せてこそこそと囁きあう。
「……あ、あの……」
 やがて、あんなが、顔をあげて、香也に確認した。
「その……才賀先輩に、おかしな薬とか飲まされて……大変なことになったりしたことは……」
「……ん……」
 香也は、少し考えてから、正直に答える。
「……ある。
 二度ほど……無理に、飲まされて……」
 その時の香也の口調と表情から、あんなは、
「……やっぱり、狩野君……。
 加害者というより、被害者だ……」
 と、再度、確信した。




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