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2006-03

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彼女はくノ一! 第四話 (20)

第四話 夢と希望の、新学期(20)

「……それでさ、結局、お兄さんはつき合っている人、いないの?」
「荒野は、二宮とらぶらぶなの。姉崎とも、らぶらぶなの」
「い、いや、それは解っているんだけど……」
 加納荒野が二宮浩司やシルヴィ・姉崎に抱擁されている風景は、今や学校では頻繁に見られる。もはや風物詩扱いだった。周囲には、「加納兄は複雑な家庭環境だったんだなぁ」とか「外人さんの愛情表現は大胆だよ」と理解されている。
 もちろん、それ以上に性的に不適切な関係を邪推する者も少なくはなかったが、当事者である加納荒野が本気で嫌がっていて他の二人が面白がって追いかけている……という構図が傍目にもはっきりしているので、本格的には問題視されていない。
「……そういうのじゃなくて、同い年くらいの女性と、親しくしてたりしないの?」
「同い年くらいの男性、でもいいけど……」
 もう一人の女生徒が混ぜっ返すと、茅と一緒に歩いていた文芸部員たちは路上で一斉に「きゃーっ!」と悲鳴に似た声を上げた。
 加納茅と文芸部員の五名の女生徒は、学校から駅前商店街の外れにあるケーキ屋、マンドゴドラに向かっている最中だった。
 校則には「保護者の同伴なしに制服姿で飲食店に入ってはいけない」とか「登下校中の買い食いは禁止」などの項目があった筈だが、そんな規則を真面目に遵守している生徒は皆無だ。
「……同い年くらいの……」
 茅はしばらく首を傾げて考え込んでいた。
「荒野、茅ともらぶらぶなの」
「兄弟じゃねー」
「荒野、絵描き……もう一人の狩野香也とも、らぶらぶなの」
「もう一人のカノウコウヤ……って誰?」
「絵描きっていったから、あれじゃない? 一年の美術部員。あの子、狩野君っていってた……と、思う」
「ああ。あのぼやーっとした感じの、目の細い子?」
 一年の狩野香也は、二年に転入してきた加納荒野ほどには有名でも印象的でもなかったので、文芸部員たちには「かろうじて存在を知っている」程度の認識しか持たなかった。
「絵描き、茅たちのマンションの隣りに住んでいるの」
「マンションの隣り? 隣りの部屋?」
「違うの。隣りの一軒家なの」
「……ふーん……ようするに、ご近所で仲がいい、ってわけか……」
 文芸部員の女生徒たちも茅との会話に慣れてきたのか、茅がいう「らぶらぶ」は世間的な意味合いとはだいぶズレがあることに気づきはじめていた。

「……ここ、マンドゴドラ」
「お。本当だ。着いた着いた」
「あー。まだあの猫耳CMやってるー……」
 マンドゴドラのショーウィンドウ上部に据え付けられた薄型液晶ディスプレイには、相変わらず着物姿の茅と荒野が世にも幸福そうな顔をしてケーキを食べ続けていた。
 茅たちが中に入ると、顔見知りのバイト店員が「いらっしゃいませ」といいかけて茅に気づき、慌てて店の奥に引っ込んでいった。
「……てんちょー。例の妹さんのほう、来ましたよーっ……」
 とかいうバイト店員の声に続いて、いかつい顔にダイナミックな笑顔を浮かべたマスターが出てくる。
「お。来た来た。今日は団体様だな」
「いつもご馳走になっているから、今日はお客さん連れてきたの」
「ああ。いいんだいいんだ。気にしなくて。
 こっちは十分に元とっているから、そちらのお連れさんの分も奢るよ……」
 マスターがそう請け負うと、茅についてきた文芸部員は「きゃーっ」と声を上げ、その場で小躍りしだした。
「ちょうどいい。
 人数もいることだし、これから本格的に売り出すイチゴ物の試作品、みんなで試食してもらうか……」
 マスターはそういって店の奥に姿を消した。

「……それでなあ、茅ちゃん……」
 一通り「イチゴ物ケーキ尽くし」を文芸部員たちに振る舞って感想などを聞いてから、マスターはいよいよ本題を切り出した。十脚ほどのカウンターしかないマンドゴドラの喫茶室は女子学生のきゃぴきゃぴしたノリに支配され、他の客が寄りつかない場と化している。マンドゴドラは持ち帰りが主体の店だから、それでいいとマスターは思っている。
 そうした一時的なことよりも……。
「……このCM、もう古いだろ? 一月半ば過ぎで、振り袖はないよなぁ……」
 マスターの言葉に、景気良くケーキを振る舞われた茅の同伴者たちがうんうんと頷く。
「……でな、できたら新しいヴァージョン……今度は、バレンタイン・モードを作りたいんだが……そっちのお兄さんのほうに、話し通してくれないかねぇ……」
 ……羽生さんに相談したら、『加納荒野を口説いてくれたら考える』っていわれてねぇ……。
 と、マンドゴドラのマスターはわざとらしく大げさにため息をついた。
 そばで見ていた文芸部員たちは、だいたい、
『……二匹目……いや、三匹目のドジョウを狙っているな……』
 と思ったが、それは顔に出さず、口々にマスターのアイデアを褒め称えた。
 ケーキを奢って貰った恩義、というのもあるし、ここでもう一つ恩を売っておけば、加納兄弟だけではなく、自分たちにもおこぼれに預かれるかも知れない、という計算があったからだ。
「……荒野に話すのは、いいけど……」
 マスターの話を一通り聞いた茅は、可愛らしい仕草で首を傾げた。
「……ヴァレンタイン、って、なに?」
 その場にいた全員の目が、点になった。

「……っていうわけなんですけど……」
 その日、加納兄弟は久々に狩野家で夕食をご馳走になっていた。
 日本のヴァレンタインについての知識を持たなかった荒野が聞きに来て、そのまま誘われた形だった。
「……日本のヴァレンタインって、いわゆる奇習なんですか?」
「……奇習、って……。
 あながち、間違ってもないか……」
 羽生譲は珍しく難しい顔をして唸った。
「信憑性のある一説によると、昔の菓子屋の陰謀でな……」
 その日に女性の告白代わりにチョコレートを送る……というのは、荒野の知る限り、日本だけの風習だった。
「……なるほど……。
 マンドゴドラのマスターとか、夏に鰻を売り出した平賀源内みたいな人がいたんですね……」
「丑の日か……。
 古いことを知っているな、カッコいいこーちゃんは……」
 鰻が皮下脂肪を蓄えて旨くなるのは本来、冬場である。夏場の痩せた鰻を売るために「土用丑の日に鰻を」などと言いだしたのは、当時コピーライターじみた仕事もしていた平賀源内だった。
 本来関係ないのに無理に関連づけを行って需要を促進し、商品の売り上げを伸ばす、という商法において、「丑の日に鰻」と「バレンタインにチョコ」は類似する。
 ちなみに、現在市場に出回っている鰻は、ほとんどが輸入物かつ養殖、冷凍品なので、あまり旬は関係なくなっている。
「……で、そのカッコいいこーちゃんは、またマンドゴドラのCMやるのかね?」
「……それなんですけどねぇー」
 荒野も難しい顔をした。
「マスターには世話になっているし……でも、いい加減、きりもないので……今度こそ最後ってことで、あと一回だけやろうかと思っています……」
「そっかぁ……でも、衣装が問題だなあ……ヴァレンタインって、クリスマスや正月と違って、これって服装ないし……」
 羽生譲も腕を組んで考え込む。
「……インパクトもあったほうがいいしなぁ……」
「それについては……」
 それまで興味なさそうに聞いていた才賀孫子がいきなり発言しただしたので、加納荒野は非常にイヤな予感がした。
「……わたくしに、とてもいいアイデアがあります……」
 最近の荒野の「イヤな予感」は、的中率抜群だった。

 ……ゴシック・ロリータ……。
 と、才賀孫子は囁いた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(11)

第五章 「友と敵」(11)

「どう、その後……」
 加納荒野はある放課後、教室のゴミ箱の中身をゴミ捨て場に開けにいった帰りに、狭間紗織に呼び止められた。
「……うまく、やっていけてる?」
 少し前に知り合った狭間紗織は、荒野たちの事情をある程度知っている部外者であり、そうした立ち位置に立つものは今のところほとんど彼女だけだ。元生徒会長、ということで校内で顔も広く、荒野や茅に部活の斡旋もしてもらっている。
 基本的に面倒見がいい性格なのか、生徒会長を辞めた、卒業間近の今でも他の生徒の相談に応じることが多いらしい。荒野も、時折こうして声をかけられていたる。校内での助言者として荒野も頼りにする存在だったが、三年生の彼女がこの学校にいられるのも、期間として残りわずかとなっていた。
「なんとか、今のところ……」
 荒野としては、頭を下げるしかない。
 死亡したことになっている源吉と定期的に会う機会を与えることで多少恩返しできたかな、という気はするが、彼女には世話になりっぱなし、という感覚がある。
 実際、荒野と茅の学生生活は、予想した以上に順調に推移している……と、荒野は評価している。
「……おれたちは、うまくいっているつもりなんですが、一人入る部活が決まっていないのがいまして……」
 今朝、通学中の会話を思い出した荒野は、才賀孫子のことを狭間紗織に相談してみることにした。校内にコネクションを持つ彼女は、こうした案件を相談するにはうってつけの人材に思えた。

「……才賀さんの部活、かぁ……」
「あいつ、ああいう性格だから、いまだにクラスで浮いてるんですよねぇ……。
 意地張ってないで、さっさと地を出しちゃえばいいのに……」
 一見冷静な才賀孫子は、実は、負けず嫌いであった。勝負事に関することになると、特に負けが込んでいる時ほど感情を顕わにする。
 休日に荒野たちのマンションで源吉と落ち合うようになった狭間紗織は、何度か碁の勝負を孫子に挑まれていた。超人的な記憶力と思考力を持つ佐久間である源吉と、その血を色濃く受け継いだ狭間紗織にその手のゲームで敵うわけはないのだが、孫子は何度敗退しても、懲りずに勝負を挑むのだった。
「……要するに、才賀さんが本気で挑める相手がいればいいってことよね?」
 狭間紗織は、荒野に謎めいた微笑をみせた。
「……一人、そういうのにうてつけの変人がいるけど……」

「……囲碁将棋部?」
 休み時間、教室で荒野の話を聞いた才賀孫子は、軽く眉をひそめた。
「才賀、碁を打つだろ?」
「……打ちますけど……」
 才賀孫子が碁を打つのは、古い歴史を持つ碁というゲームが、広義の戦略ゲームだからだ。その名が示すとおり、孫子は戦略や戦術の研究に興味を持つ。幼い時から打ってきただけあって、孫子はかなりの腕前だった。佐久間源吉や狭間紗織のように反則的に強い相手ならともかく、そこいらの素人碁打ちに負ける気はしなかった……。
「それがさぁ、この学校に一人、強いのがいるっていうんだよね……。
 ……狭間先輩の推薦で……」
 荒野がぽつりと「狭間先輩」の名を出した時、孫子の顔色が少し変わった。
『……かかったな……』
 と荒野は思った。
「……狭間先輩が、三回に一回は負けるって相手が、囲碁将棋部にいるって話しで……」
「……行ってあげても、よろしくてよ……」
 荒野たち会話に聞き耳を立てていた同じクラスの生徒たちは、その場でメールを打ってこのニュースを広めた。

『……美貌の転入生、「あの」徳川に挑戦……』
 と。

「……ということで、その転入生の相手、お願いね……」
「……面倒くさいのだ……」
 同じ日、狭間紗織は、囲碁将棋部の部室に出向いて、だらしなく制服を着崩した男子生徒に孫子との対戦を申し込んでいた。
「君レベルならまだしも、それ以下となるとこの頭脳の無駄使いなのだ……」
 その生徒は、長椅子に寝そべりながら、迷い込んできてそのまま部室に居着いてしまった黒猫を弄りつつ、狭間紗織に顔も向けずに答える。
「わたしほどではないけど、結構強いよー、彼女……。
 美人だし、彼女が入部すると、彼女目当ての入部者が、春にはどかっと入るって……」
 この囲碁将棋部も、定員割れで廃部の危機にあった。
 わずか数年前までは、下手な全国紙よりも部数の多い週刊マンガ雑誌に囲碁を題材にした人気マンガ連載されていた関係でバブリーに部員が増大していた時期もあったそうだが、今では見る影もない。
「……こんなの部のことなど、知ったことではないのだ……」
 その徳川篤朗という生徒は荒野たちと同じ二年生だった。部室に入り浸りで滅多に授業には出ていなかったが……。
「……トクロウくん!」
 狭間紗織は、いきなり声を大きくした。
「……一応部長なんだから、たとえ本音でもそういうこと言わない!
 それに、このわたしが、面白いって保証しているのよ! それ、信じられない?」
「……狭間女史……」
 その男子生徒は、ようやく身を起こした。
「そこまでいうのなら……その人、暇つぶしくらいにはなってくれないと、困るのだ……」
 上体を起こしたその生徒のぼさぼさ髪の上に、太った黒猫が、でん、とのっかる。
「トクロウくんほどユニークな子ではないけど……」
 ようやく腰を上げた徳川篤朗という生徒に向かって、狭間紗織は保証した。
「……それでも十分に面白い子よ……」

「……それでも十分に面白い子、とは君のことか?」
 よれよれの制服に身を包み、頭に太った黒猫を乗せた二年生が、翌日、昼休みに荒野たちの教室に入ってきた。
 ネクタイの色から二年生だと分かるが、荒野たちは見かけたことのない顔だ。少なくとも、このクラスではない。
「すごい美形だから見ればすぐに解る、と、狭間女史はいったのだ……」
 一通り教室を見渡した二年生は、才賀孫子の机につかつかと近づいてきたかと思うと……。
「気に入った。大いに気に入ったのだ。このぼくに挑戦してくるのを許すのだ!」
 目を見開いて引き気味になっている孫子をよそに、そんな叫び声を上げはじめる。

 荒野のクラスメイトたちは遠巻きにして「おい、トクガワだよ」とか「トクロウだよ」と囁きあっていた。
「……誰、あれ?」
 荒野は異様な風袋の二年生の登場に目を丸くしながら、たまたま近くにいた樋口明日樹に尋ねた。
「徳川篤朗って人でね……」
 樋口明日樹も突然登場した徳川篤朗に目を丸くしていたが、小声で荒野に囁いた。
「まあ、有名人。あの年齢で、株や特許でしこたま儲けているって話しで……」
「……株……は、まあいいとしても……特許?」
「うん。発明家なの。かなり有名な企業も、あの人のパテント使っているって……。
 この辺りでは、有名な、変人……。
 先生たちも触らぬ神に祟り無し、で、放置している……」
 樋口明日樹はさらに声を小さくして、「見ての通り、かなりいっちゃっている人だけど」とつけ加えた。
『……世間は広い……』
 荒野は内心で冷や汗を流した。
『……一族の連中も相当に浮き世離れしているけど、その上をいくような奴が、こんな身近にいたとは……』

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彼女はくノ一! 第四話 (19)

第四話 夢と希望の、新学期(19)

 いつもの朝、いつもの通学路。
「……お兄さんが料理研で、茅ちゃんが文芸、楓ちゃんがパソコン……」
 飯島舞花は指折り数えて転入生たちが入ったクラブを確認する。
「……で、才賀さんはどこ入ったの?」
「まだ、どこにも」
 両手で鞄を持った才賀孫子は、首を振った。
「誘われたり見学したりした所は幾つかあるのですが、これといった所がなくて……」
「うちの学校の場合だと、部活熱心にやらない人は、文化部にいって幽霊部員するのがパターンになっているね……」
 樋口明日樹も頷く。
「なんらかのクラブに所属しなければならない」という規則があっても、それで部活そのものが盛り上がっているわけではい。美術部など、明日樹と香也くらいしか、まともに来ている部員がいない。
「……そういや、おれ、何部にはいっていたっけ?」
 樋口大樹が明日樹に訪ねる。
「自分のことを、わたしに聞くな!」
 答えながら明日樹は、大樹のスキンヘッドを景気よく叩いた。
 明日樹も、実の弟に対しては割と容赦がない。
「で、才賀は、今までどこ見学したんだ?」
 話題を再び孫子に戻したのは、加納荒野だった。
「……吹奏楽、茶道、華道、マン研……」
 孫子は答えた。
 吹奏楽は、年末の商店街で孫子に音楽的な素養があり、ということで誘われたのだが、見学してみると孫子が満足できるようなレベルの部ではなかった。
 マン研は孫子にアシ経験があり、ということを聞きつけた香也のクラスメイト二名が早速「即戦力」として声をかけてきたのだが、そっちの趣味がなかった孫子は速攻で断った。
 茶道と華道は、孫子が自発的に見学に行った部なのだが、どちらも熱心にやっている部員が皆無に近い状態で、だらけきった雰囲気に、孫子はなじめそうになかった……。
「……才賀さん、なんでも出来る代わりに、周りに対する要求も高そうだもんな……」
 そうした孫子の話を聞いて、飯島舞花も頷く。
 こうして話しを聞いてみると、意識的なのか無意識的なのかは知らないが、荒野や楓、孫子の三人は、何故か、運動部に入ることを、最初から視野に入れていない。彼らの身体能力を考えると、多少手を抜いたとしても、他の部員たちとの間に格差がありすぎるからだろう……。
 加えて孫子の場合は、実家が実家だから、文化的な素養もここいらのような田舎町に住む学生とは比較にならないのではないだろうか?
「……前の学校では、部活なにやってたの?」
 ふと気になって、飯島舞花は孫子に尋ねてみた。
「特に、なにも……」
 孫子は首を振った。
「以前いたところは、部活にはさほど熱心な学校ではなかったので……」
 孫子が以前通っていた私立校は、名門の子女ばかりが通う、閉鎖的な女子校だった。いわゆる「お嬢様学校」という言い方もできたが、有形無形の規則で生徒を抑圧するそこの校風は孫子の好むところではなく、成り行きとはいえ、はるかに緩い校風の今の学校に転校してきたことには、孫子も素直に安堵を感じている。
「……やっぱり、文化部がいいの?」
「できれば」
 荒野の質問に、孫子は軽く頷く。
 確かに、負けん気が強い孫子では、運動部に入っても適当に手抜き、というのは難しかろう。

 転入生、加納茅のクラス内でのポジションは微妙だった。
 松島楓ほど他の生徒と馴染んでいるわけではない。
 が、完全に敬遠されているわけでもない。
 潜在的には、人気は高かった。
 授業の時間毎に教師をやりこめることができる生徒など、なかなかいるものではない。また、現在も絶賛放映中のケーキ屋のCM映像にも隠れファンは多かったし、始業式の日、狩野家を訪れた生徒たちは、「猫耳メイド姿でご奉仕してくれる加納茅」の噂を流布してもいた。
 これで、茅本人がもっと気さくで近寄りやすい雰囲気の生徒だったら、たちまちクラスの人気者になっていただろう。
「……絵描き……」
 しかし……。
「……んー……なに?」
「今日、茅は、帰りに文芸部のみんなとマンドゴドラに寄っていくの。荒野にもいっておいて」
「……んー……いいけど……メールは?」
「今の時間、荒野は料理中なの。料理中の荒野は携帯置いているの。伝言頼んだほうが確実なの。楓は掃除当番なの」
「……んー……わかった。ちょっと、調理実習室に寄ってく……」
 口の利き方がさり気なく命令調デフォルト、かつ、特徴的な語尾だった。
 その特徴的な語尾について、男子の多くは「にょ、とかではないあたり、まだマシだよなあ」とコメントし、女子の一部はひそかに「なのなのちゃん」と茅の事を呼称した。

「いい? ワックスがけは気合いだから……」
 クラスメイトの中でも、牧野と矢島のマン研コンビは松島楓といち早く馴染んだ生徒だった。席が近く同じ班、という事もあり、掃除当番も一緒である。
 そこで、廊下のワックスがけは初めて体験する、という楓に、二人は床のモップがけの要領を教えているところだった。
「……こうやって……」
 モップの毛先を、牛乳のような白い濃厚な液体に浸し……。
「……しぼって……」
 専用のバケツに付属したローラーに毛先を挟んで、余分なワックスを落とす。
「……あとは、気合いで……」
 牧野は、「でやーっ!」と奇声を発しながら、教室前の廊下を一往復分、駆け抜けた。
「……はい。今度は楓ちゃん、やってみて……」
 モップを手渡された楓は、見よう見まねでモップをワックスに浸し、絞る。
「……ええと、後は、気合いで……」
 そして、「でやーっ!」と奇声を発し……何故か、同じ箇所に突っ立ったままだった。
「こんな感じですか?」
「え?」
 突っ立った楓の後ろから、突如突風が吹いて牧野と矢島の前髪を踊らせた。
 風越しに薄目を開けてみると、確かに廊下には、一往復分、ワックスをかけた後が残されているのだった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(10)

第五章 「友と敵」(10)

「……なあ、加納君……」
 その日、登校して教室に入ると、クラス委員である嘉島繁が寄ってきて荒野が抱えてきた大量のポリ袋を指さして訪ねた。
「……それは、なんだ?」
 嘉島の後ろで、荒野と顔見知りの本田三枝もうんうんと頷いている。
「……なにって、部活で使う食材。
 おれ、料理研に入ったから……」
「ああ。それは知っているけど……」
 荒野の入部届を職員室に届けたのは、クラス委員でもある嘉嶋である。
「……それ、全員の分か? 随分量が多いようだけど……」
「いや、これ、おれだけの分……」
 どかり、と、荒野は大量の食材を自分の机の上に置いた。
「……確かに教室に持ち込むのは多すぎたな……後で調理実習室にでも持っていかないと……」
 机の上に山積みになった食材をみて、荒野も唸る。
「……これ、全部つくるのか?」
「うん。作って、食べる」
「誰が?」
「誰が……って、おれが」
「これ……全部食べるの!」
 その会話を嘉島の後ろで聞いていた本田が、小さな悲鳴のような声を上げた。
 その声をどう誤解したのか、荒野は自分が持ち込んだ食料の上に覆い被さるような姿勢をとり、
「や、やらないからな! ようやく確保した食糧補給場所なんだから!」
 などと言いはじめる。
「「「いや、誰も欲しがってないし……」」」
 ジャガイモやタマネギの山に覆い被さった荒野に、周囲にいた全員が同じように突っ込んだ。
「おい! 大清水来た!」
 廊下に出ていた生徒が慌てて教室に入ってきたのを機に、全員が慌ただしく自分の席につく。
 ホームルームのために教室内に入ってきた大清水先生は、挨拶の号令の後、加納荒野の席にこんもりと生野菜が山になっているのを目にとめ、
「……加納君、それはなにかね?」
 と、嘉島と同じ質問をした。
「はっ! 部活で使用するための食材であります!」
「うむ。加納君は料理研に入ったのだったな……」
 大清水潔先生は、一応、真面目な顔をして頷いた。
「机の上に置くと授業の邪魔になるから、とりあえず教室の後ろにでもまとめておくように……」
 頑固で融通が利かない部分はあるが、悪い先生ではない、という評判の先生だった。

 こんな感じで、加納荒野は一時はかなり嫌がった料理研究クラブの活動に積極的に参加することにした。狭間先輩もいっていたが、校内での食料供給源を探していた荒野にとって、確かに悪い話しではないのである。
「おう、来た来たこーや君。あの冷蔵庫の多量の食材、ひょっとして全部君の?」
「うん。おれの」
 放課後、部活のために調理実習室に行くとクラブの先輩方はすでに集まっていた。一月も終わろうというこの時期、部活に参加する三年生は、推薦などで進路が確定していて、余裕がある者ばかりだった。荒野と同じ二年生も若干名いたが、一年生は皆無。
 そんなわけで、その日部活に集まった部員は、十名にも満たなかった。
 具体的にどれくらい人数を割ると廃部になるのか荒野は聞いていなかったが、広い調理実習室を少人数で埋めている様子をみていると、「来年は廃部の危機」というのも、あながち杞憂というわけではない……と、思ってしまう。
『……問題は、おれ以外の全部員が女の子ってことと……』
「……おーい、猫耳! さっさと作って試食させろー!」
「……そこにきているケバいおねーさんと三七分けの先生がおれに抱きつくのを阻止してくれたら、少しは食わせてやってもいい……」
「わはは……そいつは無理だと思うなぁ……」
 のーてんきな笑い声を上げる二宮浩司先生こと二宮荒神。
「えー。そうなるとわたしって、ボーイズに迫られちゃうわけ?」
 媚びた口調でそんなことを言ってわざとらしい仕草で体をくねらせるシルヴィ・姉崎。
 二人の言葉を受けて、朗らかに笑い出す、興味本位で見学に来た荒野のクラスメイトたち。
「いいか、外野ども。部活見学するのはかまわないけど、邪魔したら即刻たたき出すからな……」
 荒野は、邪魔にならないように調理実習室の後ろに固まっているギャラリーに包丁を向け、そう宣言する。
「コウ! 刃物を人に向けるのは不作法よ!」
 すかさず、シルヴィ・姉が突っ込んだ。
 それには答えず、荒野が背を丸めてもの凄い早さでジャガイモの皮をむき始めると、見学者や料理研の部員たちが、一斉に「おお!」と声をおげた。
 荒野は、特に料理が得意、というわけではないが、刃物の扱いには習熟している。
 食材を適当な大きさに切りそろえ、フライパンで少し火を通してから調理実習室の備品である寸胴鍋に入れ、水を入れて火をかける。
 そうすると、後はアクを取り除いたり、味付けをするくらいしかすることがない。簡単で、大量に作れば作るほど味がしみてうまくなり、数日は食いつなぐことが出来る煮込み料理は、荒野の得意とする所だった。
 あっという間に大量の材料の皮を剥き、切って鍋に放り込んだ荒野の手際よさを見て、ギャラリーのクラスメイトたちからどよめきが起きる。

 その中の一員、野球部所属の嘉島が寄ってきて、荒野の耳元になにやら囁いた。
「……それでな加納君……ものは相談なんだが……」
 嘉島は、
「食材はこちらで用意するから、料理研で、野球部員たちが練習後に食べる物とか、作ってくれないか……」
 とか、言い出した。
「……みんな食べ盛りだし、練習終わるとへとへとでな。
 外食とか買い食いするよりは、手作りの物食べた方が、栄養的にもいいだろうし……」
「そういうことは、おれよりも先輩方に相談してくれ……」
 荒野は、一応そういっておたまを振り、ちょこちょこと調理を続けている他の部員たちを示した。
 が、ふとなにか思いついた表情になり、
「……実はな、ご覧の通り、料理研、定員割れで来年度は廃部の危機なんだ……。
 野球部の伝手で、新入生、何人か引っ張ってこれないかな? そっちの部員の知り合いとか妹とか弟とか、いるだろ?」
 と、いった。

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サイト紹介 「Angele Paradice」

サイト紹介 「Angele Paradice

今日はお休みなんで、久々に小説以外の更新でもしてみましょうかね。

ということで、
Angele Paradice」というサイトのご紹介。

よくご指摘を受けるのですが「Paradice」とは
「楽園」と「ギャンブル」をイメージして
作った単語です。
天使が貴方の運命をいたずらにサイコロで
決めるなんて可愛いでしょう?

とのこと。

いわゆる素人さんが自分たちで撮った写真を掲載しているサイトさんです。

TOPページ」 → ENTER
で、入ったページの下部に

「■CONTENT■」
というコーナーがあり、

そこの
「・GALLERY INDOOR OUTDOOR」に写真。
「・KONAKO'S GALLERY」にも過去に掲載した写真が多量にあります。

写真のサイズはさほど大きくないし、特に過激なことをやっているわけではないですが、モデルのKonakoさんのプロポーションが抜群だし、衣装を着ていても脱いでもきちんとモデルさんを綺麗に撮っています。

投稿系の露出雑誌なんかにも掲載されている方だし、サイトとしても老舗で、今更紹介するわけでもなくすでにご存じの方も多いのではないか……という気もしないでもないですが……。
わたしがネットはじめた頃には、すでにサイトあったような……。

あと、類似のサイトさんは結構多いけど、ちょっと定着するとみんな有料化しちゃうのね、この手のサイトって。
そういう風潮の中では、「Angele Paradice」さんも有料CDの販売とかもやっているようですが、それとは別に無料でみれるページもしっかりと継続してやっていらっしゃるあたり、評価に値するのではないでしょうか?

ともかく、Konakoさんのプロポーションは一見の価値在りなんで、まだご覧になっていない方は、どうぞ。



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彼女はくノ一! 第四話 (18)

第四話 夢と希望の、新学期(18)

 クラスの中でもかなりおとなしい、静かな生徒だった狩野香也の特技が周知のものとなり、転校生二人や柏あんなの他に、始業式の日に羽生譲の同人誌を持ってきた牧野と矢島の二人の女生徒などが、頻繁に香也に声をかけるようになっている。挨拶程度、ということになれば、人数はさらに増える。そんなわけで、香也個人の周りには、実質上クラス内で孤立しているも同然だった前学期までとは比較する気にもなれないくらいの変化があった。
 転校生二人、加納茅と松島楓も、日を追う毎に好意を集めている感触があった。最初、クラスメイトたちの興味を引きつけたのはやはり外見、二人の整った容姿だったが、そのうち、茅と楓は授業中に軒並み教師を論破したり凹ましたりし続けるようになり、体育の授業では、楓は身体能力の高さを強く周囲に印象づけた。同時に、サッカーやドッチボールのルールを知らなかったり、といった天然の無知ぶりは、もっと強く印象に残ったようだが……簡単にルールを教えると、たちまちコツを掴み、何年もプレイし続けている他の生徒並の活躍をしてみせた。茅は、楓ほどのには順応性は高くなかったが、それでも、色白で一見ひ弱そうな外見に反し、体力的には、女子の平均を大きく上回るようだった。
 授業中の香也は、相変わらず、静かで目立たない生徒だったが、静かで目立たないながらも香也の中ではそれなりに変化が起こっており、年末から自宅で半強制的かつ継続的に勉強をさせられているので、以前よりずっと授業の内容が分かるようになっていた。いつの間にか、不意に教師に指名されてもまごつかない程度には、他の同級生たちに追いついていた。
 そして、休み時間になると決まって楓が香也に近づいてきて話しかけてくる。
 楓ほど緊密に、ではないが、三学期にはいってから香也に近づいてくるようになった牧野と矢島の二人の女生徒などは、昼休みにお気に入りのキャラクターを香也に模写させながら、
「狩野君へのアプローチみていると、楓ちゃんって犬系だよね」
「うん。狩野君ところに来ながら、こう、見えないしっぽ振っているの分かるし」
 などと話し合っている。
 そんなこんなで、いつの間にかクラス内では「香也と楓は公認」というコンセンサスが香也の意志を無視して定着しつつあるのであった。香也は、本来社交的でもないし自分の意見を他人に伝えるのが得意でもないし、第一、無下に否定するような発言をしたらクラス中から総スカン位そうな機運を感じていたので、黙ってそうした雰囲気を容認するしかなかった。

 時間がある昼休みなどは、他のクラスにいる堺雅史が訪ねてくることもあった。家が隣同士であり、ほぼ全校的に「公認」ということになっている、柏あんなと堺雅史だったが、昼休みに堺が訪ねてくるのは香也と付き合うようになってからであり、教室内で柏あんなと堺雅史はあまり会話をしなかった。
 そのことについて柏あんなは「家でいつも一緒にいるし」と澄ました顔をして周囲の顰蹙を買い、堺雅史は照れ笑いを浮かべながら香也と制作中のゲームについて、細かい打ち合わせをするのだった。
 香也は以前、堺雅史にゲーム制作者が集まるソーシャルネットへのアクセス権を発行して貰ったのだが、そこには、数えるほどしかアクセスしていない。
 自分が描いた絵に対して、否定的なものであれ肯定的なものであれ、極めて短時間で反応が帰ってくるのは面白いと思ったのだが……虚構のキャラクター一人一人の髪型や外見など、ヴィジュアルに対する細かな修正案やオーダーを点検していると、香也は、制作者たちの、自分の作ったキャラクターたちに寄せる過剰な思い入れを感じ、その情の熱さや濃さに対して、噎せ返るような気分になるのだった。
 ただせさえ人が苦手な香也は、本来なら存在しない、自分たちが作った虚構の人間にそこまで思い入れをする彼らの心境が理解できなかったし、若干、引き気味にもなった。
 コンピュータ越しに他人とコミュニケートすることに慣れていない、ということを口実に、香也は、ゲーム制作のソーシャルネットからは次第に遠ざかるようになり、堺雅史や楓を介して必要な情報をやりとりするようになっていった。
 そんなわけで、最近では堺雅史と香也が接触する機会が増えている。どちらもインドア派であり、性格的にも馬があった。樋口明日樹や楓たちを除けば、堺雅史は、香也がこの学校に入ってからはじめて出来た、友人らしい友人なのかも知れない。

 放課後になると、香也は毎日のように美術室に向かった。美術部は極めてやる気のない顧問と幽霊部員多数、それに香也と樋口明日樹しかいないので、実質明日樹と香也の二人きりで活動していたようなものだった。三学期に入ってからは楓や堺雅史などが訪れるようになったこと以外には、あまり変化がない。
 そして、結局堺に誘われるままに楓はパソコン部に入部したので、週に何日か、香也と明日樹は美術室で二人きりになった。二人きりになった、といっても、以前から部活の時はだいたいそんな感じだったので、なんの変化があるというわけでもないのだが。
「……今、この状態みればわかると思うけど……」
 しかし、ある日の放課後、樋口明日樹にいきなりこういわれた時、香也は到底承諾できない気持ちになった。
「……三年になると、わたし、受験でこっちにはあまり顔出せなくなるけど……そうしたら、狩野君が部長ね」
 到底承諾できない……という気持ちは強いのだが、香也は、反論もできないのだった。
 樋口明日樹に「受験を止めろ」とか「三年になるな」とかいっても無駄な相談というものだし、一年で、いや、全学年の部員を集めても、明日樹と香也以外にまともに部活に出ている者はいないのだから……必然的、除去的に、香也が次期部長、という形になる……。
 香也の気持ちとしては、目一杯否定したかったが……目一杯否定したところで、なにが変わるというものでもなかった。

 加納茅は「図書室で先輩に誘われた」とかで、すんなり文芸部に入部した。
 もっとも、部活のない日も決められた下校時間ギリギリまで図書室に入り浸っていたから、文芸部に入ったからといっても、茅自身の生活にはあまり変化はないようだったが。
 楓は茅と一緒に下校するようにしていたから、自分の部活がない日は美術室に来て、香也の背中を見ながら静かに時間がたつのを待った。
 そして下校時間になると、変える方向が同じ樋口明日樹も含め、四人で一緒に帰宅した。

 学年が違うこともあって、加納荒野や才賀孫子とは、登校する時を除き、学校で接触する機会があまりなかった。才賀孫子はそつなくこの学校にとけ込んでいるようで「二年に入ってきた美人の転入生」という以外の噂はあまり聞こえてこなかった。
 が、加納荒野に関しては、
「この間、おれ、狭間先輩とあれがツーショットしているのみちゃったよ……」
「あー。あの猫耳兄のほう? あれ、料理研に入ったとかいってたな?」
「マジ? あそこ、女子しかいないって話しじゃね? ハーレムだよハーレム!」
「あと、この間、シルヴィちゃんに廊下で抱きつかれてたぜ、あの猫耳兄……」
「くっそー! あのケーキ屋の猫耳め!」
 などという噂が、そうした事にはうとい香也の耳にも漏れ聞こえてきているくらいだから、全校的にはかなり凄いことになっているような気がする……。
 香也は、
『……あの人、たしか平穏な学生生活を望んでいたような……』
 とか、思わないでもなかったが……学校でも加納茅とずっとくっついていたら間違いなくシスコン疑惑が確定したした筈でもあり、そういう意味では別の騒がれ方をしていたほうが、幾分は、マシか……と、思わないでもない……。

 いずれにせよ、狩野香也の三学期は、平穏ながらも確実に過ぎ去っていくのであった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(9)

第五章 「友と敵」(9)

 佐久間源吉との接触を終えて、加納荒野が得たものは、考え方によってはごくわずかなものだ。
 若干の情報と、源吉が荒野たちの記憶を封印しない、という言質……だけ、なのだから。しかも後者に関しては、源吉がそのつもりになれば、いつでも破棄できる口約束である。
 だが、荒野は源吉を信じた。
 何故ならば……。

「そうか……三年生も今になると、そんなにピリピリしているものか……」
「……ん……今の時期はねー……わたしは、絶対安全圏の公立校にさっさと決めちゃったから余裕あるけど……。
 あ。おじいさん、そこに置くと、王手にいけちゃうけど……」
「……あっ! 待った!」
「……いいけど……」
 佐久間源吉と狭間紗織は、あれから二週間とか三週間に一度くらいの割で、荒野たちのマンションを訪れるようになった。二人は、ここで囲碁や将棋に興じながら近況を報告し合ったりしている。
 狭間紗織にとって、佐久間源吉は八年前に物故した祖父……の筈だが、紗織は、驚くほど冷静にこの事態を受け止めている。この辺の順応性も、祖父譲りなのだろうか?
 戸籍上は死人である源吉と、その孫の紗織が密会するのに、荒野たちのマンションは好都合な場所だった。
 茅も、来客者が増えると紅茶をご馳走する機会が増えて、喜んでいる。
 これに、飯島舞花と栗田精一のカップルが突如乱入してきたり、碁を打つ趣味がある才賀孫子が紗織や源吉に再三、挑戦してきたり……と、日が経つにつれて、なかなか賑やかなことになっていった。

『……とりあえず、源吉さんの件はクリアだな……』
 荒野はそう結論する。
 まだまだはっきりしないことばかりで、進展はあまりなかったが……荒野はこれでいい、と、思っている。
 荒野の最終目的は、茅を笑わせること、であり、そのための最低条件を整備するために、防衛的な闘争は、場合によってはやむを得ないかも知れないが……。
 自分のほうから、他の六主家の中枢に近づいていって、様々な謎を解き明かしたい……という欲望は、今の所、ない。好戦的に挑戦していくつもりは、もっとない。
 謎を解き明かし、他の六主家を屈服させることが仮に可能だったとしても、そんなことをしたところで、荒野にとっても茅にとっても、ほとんどなんのメリットもないのだった。

 源吉のような不安要素が目前に現れたと時のみ、その場その場の判断で対処していけばいい……と、荒野はそう思っている。そして、もし可能ならば、条件を整え、不安要素を無害な存在に変換できればば……あえて敵対する必要もあるまい……いうのが、荒野の方法論だった。
 茅のこともあるし、当面は、「めざせ一般市民」、である。
『……まあ、じじいにはこちらの手口とか動きとか、筒抜けなんだろうけどなぁ……』
 荒野は、そうも思っている。
 源吉には口止めをしていないし(狭間紗織のことがあるので、源吉のほうから詳しい事情を涼治に奏上する、というのは、現実問題として考えにくいのだが)、茅の重要性を考えれば、源吉以外の監視員も、当然配置されているだろう……。
 だから、こちらの動向は涼治には筒抜けになっている、と思うくらいでちょうどいい……と、荒野は思っている。

 以前から感じていたところだが……涼治は、「茅」という特殊な存在を利用して、自分を試しているのではないか……という疑惑が、日に日に強くなっていく。
 ……荒野が、茅に、野呂に、姉崎に、佐久間に……今まで、そしてこれから、どのように接し、どのように遇するのか……その様子を細かにチェックしているのではないか……と。
 荒野は、涼治の性格と手口をよく知っている。
 涼治は、荒野が涼治について知っている以上に、荒野について詳しい筈だ。
『……茅の件に、じじいがどれだけ関与しているのかはわからないけど……』
 荒野は、そう考えている。
『……現在、おれと茅をとりまく状況を制御しているゲーム・マスターは、明らかに、じじいだ……』
 と。
 ……今度は、あのじじいはどんな手でこちらに揺さぶりをかけてくるのか……。
 荒野はそう思いながら、とりあえず現在の平穏を楽しんでいる。

「……って、なんでおれはここにいるのでしょう?」
 源吉との初会見があった、あくる週の月曜。
 放課後、荒野は茅にメールで呼び出され、そこで茅に家出使っているエプロンを手渡された。
 荒野が呼び出されたのは、「調理実習室」。
「……だってぇ……」
 何故かその場にいた狭間紗織が、荒野に説明した。
「……荒野君、入るクラブ探しているんでしょ?
 今、料理研究クラブ、二年生と三年生しかいなくて、来年、三年生が卒業すると廃部の危機なの。
 それと、三島先生から聞いたけど、荒野君、給食だけでは足りなくて、お腹が減って大変なんでしょ? 部活のある日は、自分で作った料理食べられるから、一石二鳥じゃない」
 狭間紗織がそう言い終わると、料理研究クラブの部員たちが総出で声を揃え、
「「「おねがいしまーす!」」」
 と荒野に深々と頭を下げた。
 全員、女子。
「大丈夫、荒野、料理できるの」
 顔を引きつらせて棒立ちになっている荒野の様子に気づいているのかいないのか、茅が気軽な口調で保証した。
「……ほれ、お望み通り、学校内での餌場、確保できたぞ。ん?」
「荒野くぅぅん……エプロン姿も似合うじゃないかぁ……」
「そういえばわたし、コウの料理って食べたことないのよね……」
 荒野と茅、狭間紗織の他に、三島百合香、二宮浩司、シルヴィ・姉なども何故か集まっていて、口々に勝手なことを言い合いながらにやにやと笑いながら成り行きを見守っている。
「……恨みますよ、先輩……」
 荒野はうろんな目つきで狭間紗織を睨んだが、狭間紗織は涼しい顔をしていた。
「……んーなんてぇか、元生徒会長としては、やっぱり廃部になる部とかだしたくないよのねー」

 こうして、「風変わりな転入生」として校内に知られていた加納荒野に、また一つ新しい噂の種が加わった。

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彼女はくノ一! 第四話 (17)

第四話 夢と希望の、新学期(17)

 今学期に入って初めて自分の受け持ちのクラスで授業をすることになったこの日、岩崎硝子先生はかなり緊張していた。
 それというのも、今学期から転入してきた生徒が「手強い」と、岩崎先生よりも先にこのクラスでの授業担当した同僚たちにさんざん聞かされていたからだ。
「……手強い? もしかして、授業の妨害でもしたとか……」
「静かといえば、静かなんですけど……」
「むしろ、逆。熱心すぎるんです!」
「わたしも、質問責めに合いましたよ」
「こっちは黒板書きの誤字、何度も指摘されたなあ……」

 ある教師は、自分の体験談をこう語った。
 転入生のうち髪の長いほう、加納茅は、授業中、教科書やノートを机に出していなかったり、よそ見ばかりして教師のほうにあまり注意を払わなかったり、と、非常に態度が良くない。
 よそ見はともかく、教科書を出していないのは何故かと問いただすと、
「もう全部覚えたから、開く必要がないの」
 と自分のこめかみのあたりを指でつつく。
 それを聞いた教師は、当然その場しのぎの虚勢だと思ってページ数を指定して、なにも持たない茅に、教科書の内容を朗読させる。
 すると茅はm目を閉じて何ページでも何十ページでも、教科書の内容を、誰かが静止するまでえんえんと朗読し続ける。
 加えて、
「このページの問題の答えは……」
 などと、教科書に記載されていた問題の解答まで、解説付きで、口頭で説明しはじめる。
 目を閉じたまま、そらで。
「もういい!」
 と、その教師は茅の言葉を遮った。
 なんのことはない。これでは、自分の代わりに茅が授業をしているようなものだ。
 転入時に行った小テストの結果を考え合わせても、加納茅は、この学校で教える程度の知識は、既に学習済み……というより、丸暗記済みにしか思えない……。

 また別の教師は、松島楓についてこう語る……。
 もう一人の転入生、松島楓は、加納茅よりもよっぽどおとなしい、扱いやすい生徒だ。
 授業態度も真面目で、熱心で……むしろ、だからこそ、かえって授業が進まない。
 全教科の内容をおおかた暗記しているらしい加納茅に比べ、松島楓は教科により出来不出来の差が激しかった。楓は、自分の理解が深い教科に関しては、授業中もかなりおとなしい生徒といえた。
 が……楓が苦手とする教科に関しては、積極的に手を挙げ、自分が理解できるまで教師を質問責めにする。楓は予習をしてきた上で解らない箇所を質問してくるのだが……どうも根本的な部分で、基礎的な知識が欠落しているような部分もみうけられた。
 例えば、現国の長文読解の問題に対し、
「『この時の気持ちを以下の中から選択せよ』、とのことですが、物語の登場人物の気持ちって、作者でもない第三者が明確にこうだと指摘できるようなものなのでしょうか?」
 とか、
「この『四百字以内にまとめよ』という問題なんですが……この字数はどのような必然性があって決定された字数なんでしょうか?」
 などという根元的な質問を、真面目な顔をしてぶつけてくる。
「……まあ、態度からいっても、こっちをからかっているわけではない……っていうのは、わかるんですが……授業の進行の妨げには、なっているわけだし……」
 その現国の先生は、かなり疲れた顔をしてうなだれた。
「……あの松島って生徒は……いったい今まで……どういう生活してきたんですかね……」

 そんな噂をざんざん聞かされた後、岩崎硝子先生は緊張した面もちで、今学期最初の自分のクラスの授業に臨んだ。背後に、どこかの語学研究所から日本の語学学習の現場を研究するために派遣されてきたとかいう、シルヴィ・姉崎という女性を伴って。

「……で、どうでしたか?」
 自分のクラスの授業を終え、職員室に戻った岩崎硝子先生は、自分の席につくとそのまま机の上に突っ伏した。
 ぐったりした岩崎先生に、学年主任の先生が声をかける。一年生の転入生二人の手強さは、教員たちの間で、今では周知のものとなっている。
「……二人とも、真面目ないい子だとは思うんですけどぉ……」

 岩崎先生は半ば涙声になりながら語り出す。
 金髪青眼、褐色の肌、地味なスーツにも包んでも隠しきれないプロポーションの良さ……というシルヴィ・姉崎と一緒に教室に入ると、案の定、教室内は騒然となった。特に男子。
「静かに!」
 しかし、これは事前に大体想定していたことだったので、岩崎先生も落ち着きはらって生徒を静かにさせる。
 始業式で全校生徒にお披露目されたシルヴィ・姉崎を改めて紹介し、
「今日は姉崎さんも見学するので、集中して授業を行いましょう」
 と宣言する。
 紹介されたシルヴィは、いかにも外人らしい大仰なジェスチャーで、
「はぁーい!」
 と片手を上げて挨拶し、簡単な自己紹介をした後、持参した折り畳み椅子をもって教室の一番後ろに陣取った。
 加納茅は、他の先生に注意されたせいか、教科書とノートを広げてはいる。しかし、あくまでポーズだけ、なのか、すぐに校庭のほうに顔を向け、岩崎先生のほうを見向きもしなくなった。
 だから、岩崎先生は最初に加納茅を指名し、ページを指定して、教科書を朗読させる。話しに聞いていた通り、茅は、教科書を見もせずに教科書を朗読した。発音は、大部分の生徒よりもましだったが、それでもさほど正確でもなかった。
 そのことに少しほっとしつつ、岩崎先生は茅の発音の怪しいところを自分で良い直し、茅に復唱させる。
 茅はおとなしく従って、より正しい発音を覚えようと試みた……。

 ここまでは、よかった。

 しかし、この時、加納茅の隣の席の松島楓が、片手を上げた。無視するわけにもいかず、岩崎先生が楓を指名すると、楓は立ち上がって、早口の英語でまくしたてた。
「……失礼ながら、ミズ・イワサキの発音は若干訛っているのではないか? その部分の発音は正しくは……」
 うんぬんから始まり、
「……この教科書は一通り目を通したが、あまりにも非実用的な構成ではないのか? なぜならば……」
 という「教科書批判」まで、行いはじめた。楓としては、単なる質問のつもりだったが、岩崎先生には、そう感じられた。
 楓の発音はネイティブ並で、しかもやたら早口で、時折俗語が混ざる。基本的には丁寧な言い回しを選んでいるようだったが、外国語で話された内容を頭の中で日本語に翻訳しながら聞いていた岩崎先生には、とても尖った口調に感じられた。英語教師、とはいえ、岩崎先生もごく普通の日本人であり、ネイティブほどには英語に堪能ではない。その岩崎先生には、楓は、きつい口調で、ネイティブの立場から日本の語学教育を批判しているように感じられた。
 早口でまくしたてられる楓の質問をなんとか聞き取ろうとしながら、岩崎先生は、段々泣きたいような気持ちになってくる。
『……いじめ? これって新手の先生いじめ?』
 楓の早口が一区切りしたところを見計らって、岩崎先生は、涙を堪えながら、なんとかいった。
「……松島さん。いいたいことはわかりましたけど……。
 ここは、日本の学校です。授業中は、なるべく日本語を使いましょう……」
「……えー? これって、英語の授業じゃないんですか?」
 岩崎先生にそう言われた楓は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして叫んだ。
 その時の楓は、「心底驚いた」という様子で……やはり、この子には悪気はないんだな……と、岩崎先生は思う。
「……でも、日本語でないと、他の生徒のみなさんが、なにをいっているのか解りませんから……」
 岩崎先生が懇願するニュアンスも込めて、楓に重ねてそういった。
「……前いたところでは、英語の時間に日本語使うと、お仕置きされたのに……」
 とか、ぶつくさいいながらも、楓はおとなしく自分の席に座った。

 岩崎先生がふと目を上げると、教室の隅でシルヴィ・岩崎が口に手を当てて体を細かく震わせていて、あかるさまに笑いを堪えていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(8)

第五章 「友と敵」(8)

「何故、そのような条件を呑むと?」
 佐久間源吉は目を細めて荒野を見据えた。
「考えてみたんだよね……。
 うちのじじいが、源吉さんに一体どういう条件をだして仕事をさせていたのか……」
 荒野も、源吉の目をまともに見返して話す。
「……家族の安全、なんじゃないかな?」
 ここは、涼治が何十年もかけて根を張ってきた土地、言い換えれば、涼治の目が比較的行き届いている土地だ。
 近所や、ことによったらこのマンション内にも、涼治の息のかかった者たちが何気なく生活していて、荒野たちの動向に目を光らせているのではないか……と、荒野は疑っている。
 そのような土地で、「偶然」茅が佐久間と関わりのある先輩と知り合った……その「偶然」も、荒野は当然、疑った。
 本当に偶然なのか?、と。
「ここならじじいの目も行き届いているから……源吉さんの奥さんとか子供とか……何年も安心して暮らしているんじゃないかなぁ、って……」
 源吉に働いて貰う代わりに、涼治は源吉の妻子の身の安全を保障した……。
 他にも報酬や細かい取り決めは、当然あったのだろう。
 が、涼治が源吉に保証した最低限の条件は、まず「家族の安全」だったのではないか?
「……いくら長寿とはいっても、うちのじじいもいい年齢だし、そろそろ契約更新の時期じゃないかな?
 おれなら、じじいよりも先まで、源吉さんの子供たち、守れるよ……」
 実は涼治の実際の年齢は、荒野も他の誰も、知らされていない。
 荒野が知っているのは、うっかり昔話をリクエストしようものなら、薩英戦争とかクリミア戦争とかの話しを「体験談」として滔々と語りはじめる、ということだけだ。多分、法螺話だろうと思っているが。
 涼治が昔のことを話し始めるととにかく長くなるので、荒野はでるだけ避けることにしている。
「若のお心遣いはありがたいが……」
 源吉は荒野に深々と頭を下げた。
「この老いぼれ、戸籍上はすでに亡き身。くわえて、子供は佐久間の血は薄く、家名を継がせるほどの器ではありませんでした……」
 源吉は、自分の係累は一般人だ、といっている。
 普通の、一般人であるのなら、一族の、荒野の加護も必要はないと……。
「……息子さんは、一般人かもしれないけど……」
 荒野は、源吉の隣りに座る狭間紗織を、まともに見据える。
「そこのお孫さん……狭間紗織さんは……どうも、佐久間の血がかなり色濃く出ているようだけど……。
 ……源吉さん、そもそも紗織さんのこと、うちのじじいにちゃんと報告しているの?」
 源吉の目が、大きく見開かれる。
「子孫を一般人として育てたかった……っていう気持ちは、よくわかるんだ。
 ぶちゃけ、一族の仕事なんて、たいてはろくなもんじゃない……。
 でも、お孫さんが充分な佐久間の素質ありっていう情報が伝わったら……。
 佐久間は、あるいは他の一族は……狭間紗織さんのこと、放っておいてくれるの?」
 源吉が返事をしなかったので、荒野は言葉を続ける。
「……おれなら、お孫さんのこと隠し通せるし、それに多分、おれはじじいよりはずっと長生きする。
 紗織さんのこと、黙っていることで源吉さんに求めることは、ごく些細なことでさ。
 源吉さんの今の仕事は、おそらくおれらの動向の監視とじじいへの報告なんだろうけど……それには、干渉しようとは思わない。源吉さんは、源吉さんの仕事を全うしてくれ。
 おれらが求めているのは、源吉さんの仕事に支障がない程度に、情報を漏らしてくれることと……それに、おれらの記憶から、源吉さんとこうして話したを抜かないで欲しいって、ただそれだけのことで……」
 源吉が黙り込んだのを「遠回りな了解」と受け取った荒野は、いよいよ本題に入る。
「源吉さん……源吉さんは、茅の計画のこと、どれだけ知らされている?
 茅の正体……おれたちは『姫の仮説』って呼んでいるんだけど、あれについては、どう思う?」
「……敵いませんなぁ、若には……」
 源吉には、なにかを諦めたとうに、ゆっくりと首を左右に振った。その割に、表情はさばさばとしている。
「……本当に、涼治の若い頃にそっくりだ……」
 荒野の言葉は、裏返せば「要求を呑まなければ、狭間紗織の存在を、他の一族にばらまく」といっているようなもので……圧倒的に優位に立っている筈の源吉を、脅しているようなものだ。
 現に源吉は、荒野の要求を退けることができない……。狭間紗織が常人離れした能力を持っている、という証拠データを、この場にいない者に保管させている可能性もあるのだ。
 源吉にとって、荒野の要求を無視をしたり退けたりすることは、リスクが大きすぎた……。
 そこで、源吉はしゃべりはじめる。
「……若が『姫の仮説』と呼ぶものの内容は知っていますが……さて、その真偽のほどとなると、とんとをわかりませんななぁ……。判断を下す材料が、圧倒的に不足しておりますから……。
 もう十数以上前になりますか……仁明がこの子を預けられてどこかに消えたのは風の噂で聞きましたが……直接の関わりは持たなかったもので……」
 源吉は、自分は茅の件には関わっていない、と、主張している。
「……やっぱりおやじ……仁明は……じじいの命令で動いたのか?」
「涼治の、というよりは、当時の一族首脳部の総意を受けて、でしょう……」
 源吉は『姫の仮説』については「判断できない」といった。
 しかし、茅を育成することが、一族全体にとってかなり重要視されていたことは、直接関わりのなかった源吉にとっても、自明視されていたらしい。
「……で、今の茅は……うちのじじいの預かり、ってことになっているの? その、一族の首脳部とやらでは?」
「首脳部も大部分、その頃とは代替わりしておりますから……」
 荒野の直線的な質問に、源吉はどうにとも受け取れる曖昧な答え方をする。
「……今の方針は、茅様を、少し一般人の社会に馴染ませてみよう……というところではないですかな?」
 荒野と同じく、源吉も茅のことについては、「状況をみて、そこから推測する」以上のことはできないようだ。源吉は、茅の件について、あまり深くは関わっていないらしい。
 本当か嘘かは即座で判断できないが……あまり事情に通じていない者が監視役を割り振られる、というのは、充分にあり得るように思えた。
「……茅のような子供たちは、他にはいるのか?」
「いるのかも知れませんが……そのような噂は、とんと聞いたことがありませんな……」
 考えてみれば、源吉は、公的には八年前に死亡したことになっている。他の一族と接触するのも容易ではないだろうし、最近の風聞には疎くて当たり前なのかも知れない。
「……こちらからの質問は、とりあえずこんなもんかな?」
「では……こちらからも一つ、いいですかな?
 若……」 
 荒野が考え込むと、今度は源吉のほうが、荒野に尋ね返した。
「どうして紗織が能力を隠している、とわかりましたか?
 これには、幼い頃から自分の力を隠し続けるようしつけてきた筈ですが……」
「ああ。それ……」
 荒野はなんでもないことのように答える。
「なんか、茅の狭間先輩に対する接し方が、変だったんだ。
 茅、大抵の大人の前でも物怖じしないし、平然と呼び捨てにするのに……狭間先輩と向かい合っている時は、なんか意心地悪そうに名前で呼ぶんだよね……。緊張しているようにも見えたし……。
 だから、茅、狭間先輩のこと、一目置いているんじゃないかって……。
 で、狭間先輩が、茅が目上の者だと認めるぐらいの人なら……なんか突出した能力を持っているんじゃないかってな、って予測して……」
 荒野の答えを聞いた源吉は最初ポカンと口を開け、しばらくして、声を上げて笑いはじめた。
「予測! ……わ、若! それはひどい!
 見込みでしかない、漠然とした根拠に基づいた……はったり! 裏付けのないはったりを元に、この年寄りを……。
 本当に……」
 ひとしきり笑った後、源吉はこういった。
「……若は、涼治にそっくりでございますな……」
 と。
 そういわれた荒野は、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「で、茅。
 敬語とか敬称の問題な。
 茅が狭間先輩に対して思っているように……なんか一目置いている人に対しては、自分の気持ちを表すためにも、なんらかの敬称をつけたほうがいいんだ。
 そのほうが、気持ち的にもすっきりするだろ?」
 実際には、敬称は敬意を表すため、よいうとりは、便宜上の立場の違いを明確にするために使われる(学校では教師や)などのほうが多いと思うのだが……そういった部分は、茅がこれから自分自身で学ぶべきだ、と荒野は思う。
 荒野の言葉を受けた茅は、しばらく考え込んだ後、狭間紗織のほうを真っ直ぐに見て、
「……これからは、狭間先輩って呼んで良いですか?」
 と、聞いた。
 茅が自発的に敬語を使った、最初の例だった。

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彼女はくノ一! 第四話 (16)

第四話 夢と希望の、新学期(16)

 次の日から、狩野香也の朝は騒がしいことになった。
 以前なら目覚まし役は誰か手の空いている者が交代でくる、という感じだったが、その日の朝は何故か松島楓と才賀孫子のユニゾンで起こされることになる。
「……いや。今日はわたしが起こしますから……」
「……いいえ。わたくしが声を掛けておきますから、あなたは先に準備をしておきなさい……」
 というか、彼女らの言い合いが部屋の外から聞こえてきて、目を醒ました。昔に建てられた日本風の家屋である狩野家は、各部屋が襖で仕切られているだけで、防音はないに等しい。
 何事か……と寝ぼけ眼の香也が思っているうちに、がらりと襖が開き、制服姿の美少女二人が真剣な面持ちで入ってきて、横になっている香也の傍らに仁王立ちになる。
 香也が目を醒ましていることに気づくと、二人はあかるさまに人為的な作り笑いを浮かべて挨拶を口にする。香也は、そんな二人の様子を不審に思いながらも、急いで半身を起こした。寝たままだと、二人のスカートの中身が丸見えだったからだ。
 松島楓が白、才賀孫子が黒、だった。
『……いけないいけない』
「……んー……おはよう……」
 香也はそう思いつつ、二人に挨拶をし、
「……着替えるから、一旦出てくれると助かる」
 といった。
 実は、朝の生理現象のおかげで、二人が居る前だと、布団から下半身を出すに出せない状況にあった。そんな香也にとって、寝起きからスカートの中身を見せつけられるのは、目に毒もいいところだ。
「……そんなこといって、また二度寝するんでしょ……」
 才賀孫子は、香也の様子にまるで頓着せず、素早い動きで掛け布団をはぎ取る。
『……あ……』
 そして、パジャマの薄い布地越しに膨らんだ香也の股間を目にし、真っ赤になって後ろを向いた。
 孫子がはぎ取った掛け布団が、どさりと香也の上に落ちる。
「ご、ごめんなさい!」
 孫子は耳まで真っ赤にして、ギクシャクとした足取りで部屋を出て行った。
「……あのぅ……」
 松島楓は、身をかがめるようにして香也に小声で話しかけた。
「それって、すぐ自然に治るもんなんですか? なんなら、小さくするお手伝いしましょうか?」
 と、なにか棒状のモノを手でしごくような仕草をする。
 こちらはこちらで、男性の生理というモノに無知かつ天然だった。
「いいから! 先に向こう行ってて!」
 二人とも、親切心でしてくれることだとは思うが……香也にしても、声を大きくしたくなるのだった。
『……明日から、目覚まし早めにかけよう……』
 しかたなく、そう決意する香也だった。

 その日も集団登校だった。香也は、この日ほどこの新学期から始まった集団登校をありがたく思ったことはない。どういう理由か知らないが、今朝から、才賀孫子は以前にも増して松島楓に対する対抗意識を剥き出しにして香也に構いつけるのだ。松島楓のほうも、さらにそれに対抗してさらに敵意を燃やす……という、いわゆるマッチポンプ状態で……二人の間にあって標的にされる香也は、たまったものではなかった。
『……これで、三人だけで登校するようになったら……』
 学校に着く前に草臥れはてるな、と、香也は思う。
 幸い、三人だけでないと、孫子も楓もそれなりに他の人たちと話してくれるので、結果的に、香也の負担は激減した。
「……絵描き……」
 そんなことを思っている香也の袖を、加納茅が指で摘んで香也の注意を引いた。茅は、香也のことを「絵描き」と呼ぶ。口頭では、加納荒野と紛らわしいからだろう。
「……なにかあった? 体調悪そう」
 茅の黒目がちの瞳でじっと見つめられて、香也は少し狼狽した。
『……そんなに具合悪そうに見えるのかな?』
「……んー……大丈夫。なんでもない」
 口に出してそういうと、茅は「そう」と素直に頷く。
「体温がいつもより二度くらい低下しているの。自覚症状がなくても気をつけるの」
『……ようするに、血色が悪い、ということかな?』
 香也は、茅の言葉をそう解釈した。
 まさか、実際に体温が見えるわけでもあるまい。

 その加納茅は、意外に松島楓と仲が良く、教室内でも、二人でいる事が多かった。
 二人とも、初日からクラス内に一気に友人が増え、休み時間などは常時数人に取り囲まれている状態にあったから、二人一緒にいることで、ある程度精神的な防波堤を築いた形になり、ちょうどいいのかも知れない。
 見ていると、楓は女生徒に、茅は男子生徒に声を掛けられることが多い。
 楓は、始業式の日に羽生譲の同人誌を持ってきた二人組の女子(例によって香也はフルネームを記憶していなかったが、たしか牧野と矢島、とかいった)とすでにお友達状態であり、それが呼び水になってクラスの女子に馴染んでいる形だった。
 茅は、一見無表情で無愛想だが、声をかければ誰にでも分け隔てなく接するので、大体は好感を持たれている。口数が少ない割にときおりかなりずれた発言をして、周囲に笑われたり指摘されたりしている。それと、記憶力がよく、一度聞いた名前は忘れず、誰彼構わず呼び捨てにするので、なおさら印象が強いのかも知れない。
 平坦な口調で、茅のような美少女からいきなり名前呼びされると、誰でも一瞬ぎょっとした表情になるのだが、すぐに、茅が誰にでも分け隔てなくそうしていると気づき、クラスのみんなはすぐに慣れたようだ。ただ、担任の岩崎硝子先生が泣きそうになってお願いしたので、茅も教師にだけは「先生」をつけて呼ぶようになっている。

 そして、楓も茅も意外に、天然だった。
 二人の会話はまるで漫才のような様相を呈することがあり、それも、クラスメイトには受けが良かった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(7)

第五章 「友と敵」(7)

 それは、奇妙なお茶会だった。
「うん……これは……」
「ね。いけるでしょ?」
 茅がいれなおした紅茶に舌鼓をうった源吉に、荒野は自分のことのように胸を張る。
 つい先ほどの襲撃者と被襲撃者が、向かい合って和んでいる、という構図であった。
「傷はたいしたことないな。小さなフォークの先がほんの少し刺さっただけだ。
 ま、消毒して絆創膏はっとけば大事なかろう……」
 源吉の傷を見ていた三島百合香が、自分の言葉通り、消毒し終わった傷口を絆創膏でふさぎ、救急箱の蓋を閉める。
「……ねぇねぇ。わたしぃ、佐久間って初めて見るんだけどぉ……みんな、おじいさんみたいな感じなの?」
 シルヴィ・姉崎は、佐久間源吉への好奇心を隠そうともしない。
 佐久間と直に接触した者は一族でも稀少な存在であり、この場で得られる情報は、他の姉へのいい手みやげになる……と、シルヴィは考えている。
「さて。
 佐久間は一族のはずれもの。この老いぼれは佐久間のはずれもの……。
 能力的には、この老いぼれを凌駕する佐久間はいくらでもおります」
「その代わり、他の一族とつるむような佐久間は源吉さんくらいなもんでしょ?
 他の佐久間は、佐久間以外の一族の者を金蔓くらいにしか見てないし、必要以上に関わろうとしない……」
 源吉の供述に、荒野はそう答える。
 長年、加納涼治とつるんでいた源吉のような存在のほうが、佐久間の中では例外的な存在なのだ。
「……うん。凄いねえ。これが佐久間の実力かぁ……」
 源吉を攻撃することをすぐに諦めた……というよりは、成果がまったくでないので、すぐに飽きた……荒神は、おとなしく元居た椅子に座り直して一人頷いている。
「……なにが最弱、だよ……。
 こんなの、ほとんどオールマイティーなのと変わらないじゃないか……。これからは、不敗の佐久間とでも名乗り給え!」
 最強、の異名をとる荒神は、何故か嬉しそうな口調でそう呟く。
「その源吉さんでさえ、佐久間の中では突出した存在ではない、っていうことになると……」
 荒野は何事か考え込んだ振りをした。
 実は、佐久間に関しては、荒野は以前から情報を収集していた。その過程で幾つかの信じがたい事例も採取していたし、「佐久間という正体不明の存在」に関する、自分なりの推論や対策も用意していた。
「他の佐久間も……実は、結構人前には出てるでしょ?
 その後、大抵は目撃者の記憶を封印しちゃうんで、目撃例が極端に少なくなる……」
「……さて……。
 その質問には、お答えできませんな……」
 佐久間源吉は、不敵に笑って荒野の質問をはぐらかした。源吉の自信に満ちた笑顔が、荒野の推論が認めているようなものだ……とは、思ったが。
「だけど、そこまで他人の動きや意識を簡単に制御できる、ということになると……」
 シルヴィは、軽く眉をひそめた。
「ようするに、天敵がいないということで……退屈なんじゃない?」
「佐久間が他の一族と関わりを持つ理由は大きく分けて二つ……」
 源吉は、シルヴィの質問にそう答えた。
「先ほど挙げた資金の確保、というのが一つ。もう一つは、一族の元には、最新の情報が常に集まるからです……」
 一族は、情報を集め、それを売買することで利益を得る。今も昔も、最新のニュースや、本来は秘匿され公開されない筈の情報は、それなりの金額で売買される。つまり、一族には、世界中から貴重な情報が集まる……。
 その一族の情報源を利用するために、一族の仕事を手伝っている……。
「……佐久間の多くは、一族の仕事の他に生計の道を持ち、一般人に紛れて平穏に暮らしております。大多数の佐久間にとって、一族の仕事を手伝うのは……面倒で面白みのない義務、と捕らえておりますな……」
 たいていの佐久間は、若い頃、何年間か一族と関わりを持ち、その後はすぐに元通りの生活に戻るのだという。
「ちょうど、そう……感覚としては、兵役、みたいなものですな……」
 その言葉が本当なら……半生を、加納涼治と組んで一族の仕事に取り組んで過ごした源吉は……自分でも言うとおり、佐久間の中でも、そうとうの「はずれもの」ということになるのだろう。
 佐久間のライフスタイル、などは勿論想像の外にあったが……他の部分は、おおよそ、荒野が推察が裏付けられた形だった。

 佐久間の能力は、他の一族が漠然と想像しているよりも、よほど高い。大体、他の一族は、佐久間のことを「催眠術師に毛が生えたような」能力しか持たないものとして、見下している。
 が、それは……誤った先入観だ……。
 佐久間は身体能力こそ「最弱」かも知れないが……その短所を補って有り余る長所を有している。加えて、なによりも、用心深い……。

 では……その佐久間の一員である源吉を、涼治は何故、長年従えていられたのか?

 否。
「従わせていた」のではなく、源吉が自発的に協力していたのだ……と、荒野は結論する。
 涼治は、源吉を動かすために、なんらかの……源吉にとっては魅力的な報酬を用意し……源吉が自発的に、涼治に協力したくなるような好条件を提示したのだろう……。
 荒野は、そう結論する。
 戦闘行為で、荒野たちが束になっても荒神に敵わないように……この場にいる全員が源吉に立ち向かっていたところで、結果は見えていた。
「最強」の荒神さえ指一本触れられないのなら……源吉は、この場にいる全員に「源吉を攻撃できない」という強い暗示をすでにかけている……と、想定した方が、いい。
 つまり、源吉は、こちらをいいように扱えるが、こちらは、源吉には手を出せない……。
 荒神がいうとおり、下準備を終えた佐久間は、まさしく「無敵」……。
『……でも……』
 それならそれで、やりようはある……と、荒野は思う。
「……いよいよ、本題なんだけど……」
 荒野は紅茶を一口啜って、故意にゆっくりとした口調で話し始める。
「源吉さん、今後、半永久的に……少なくともおれが生きている間は、狭間紗織とその係累の身の安全を保証する、っていったら……今後、おれたちの記憶を封印しないで貰える?」
 交渉事は加納が得意とするところだ。
 そして、この交渉の場で荒野が有利な点といえば……自分の「若さ」くらいしか、思いつかない。
「……その上で、これからする質問に、答えられる範囲内で答えてくれると、ありがたいんだけど……」

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彼女はくノ一! 第四話 (15)

第四話 夢と希望の、新学期(15)

 風呂上がりの才賀孫子が庭のプレハブに向かうと、狩野香也が黙々とキャンバスに向かっていた。いつのも光景であり、その後ろに松島楓がちょこんと座っているのだが……その夜は、その他に加納荒野までもが腕を組んで香也の背中を見守っていた。
 なんで加納が……。
 と、孫子は思ったが、自分も毎日のようにプレハブに来ている身で、荒野がこの場にいることをただすのも筋違いに思えた。思い返してみれば、孫子に香也の絵をみるように最初に薦めたのは荒野である。
 それで孫子は、無言のまま荒野に合図をし、プレハブの外に出るように手招きした。基本的に勘がいい荒野はすぐに孫子の意図を察し、素直に合図に従う。

「……この間の姉の件だけど……」
 庭に出た孫子は、前置き無しに切り出した。
 始業式の日、孫子がシルヴィ・姉に「一族の術を伝授する」と言われた場には荒野もいた。それで、通じるはずだった。
「どうするかは才賀の自由だけど……」
 孫子の言いたいことを察した荒野は、端的に切り返す。
「……正直、あまりお薦めはしないね。
 相手が悪いというのもあるし、それ以上に、才賀にはおれたちに深入りして欲しくないんだ……」
「それを判断するためにも、姉がなにを目論んであんなことを言い出したのか、予測つかない?」
「才賀とのパイプ、太くしたかったんじゃないの?
 姉、実戦力欲しがっているし……」
 荒野は、孫子が予測した範囲内のことしか言わなかった。
 孫子は、順当にいけば、将来、才賀の中でもかなりの地位を占める筈である。その孫子に恩を売っておけば……という思惑は分かりやすいのだが、それだけではないような気もする。
「あの時、二宮と楓がどうのとかいってたけど……」
「ここ数日、荒神が楓に稽古つけているのは、本当」
 荒野は、その稽古で楓の動きが見違えるように良くなったことは、孫子には伏せておいた。もともと素質があった楓は、超一流の荒神と直接模擬戦を行うことで、荒野でも目を見張るほどの上達ぶりを見せている……。
 孫子の性格だと、楓に対する対抗心から、姉と組む……と、言い出すことは必至なような気がしたからだ。
「……そうよー……」
 その荒野の配慮を、不意に背後に発生した気配が台無しにする。
 いつの間にか、シルヴィ・姉が荒野の背後に立っており、そのまま背中に抱きついて、荒野の耳に息を吐きかけるようにして囁いた。
「……あのくノ一ちゃん、もう、凄いんだから……才賀ちゃんも、うかうかしていると、どんどん差が開いちゃよぉー……」
 最弱、といわれようが姉も忍。気配を消して近寄る、くらいの芸当は、難なくできるのであった。
『……いつの間に……』
 荒野は内心で冷や汗をかいた。
 ヴィの接近に気づかなかったということと、ここで孫子とヴィに好きに会話をさせると、どうにもヤバイ方向に事態が進展するのでは……という予測。二重の危機感が、荒野を圧迫する。
「……楓は、そこまで……」
「なんっていうか、最強が側についちゃったからねぇー……。
 もともと、素質はあり余るほどあったようだし……」
 深刻な顔をして考え込む孫子と、それを煽るシルヴィ・姉。
 事態は、荒野にそうなって欲しくないと思う方向に進みつつあるようだった……。
 正直、ただでさえ「六主家同士の内紛」の様相を呈している不透明な現状の上に、さらに「才賀」という部外者、かつ、不確定窮まる要素までが、しかも姉と手を組んで本格的に参入してくるのは……荒野としては、歓迎できなかった。まったく、歓迎できなかった。
「……仮に、あなたが、わたくしに一族の術を教えるとして……」
 孫子は、荒野が歓迎しない方向に話しを進めていく。
「……その代償は、なに?」
 才賀は海商の末裔でもある。なにかを貰えばなにかを支払わねばならない……ということを、弁えている。そして、可能な限り値切ろうとする。
「さっきコウがいっていた、将来の才賀とのパイプも欲しいけど……」
 シルヴィ・姉は、言葉を選びながら、いった。
「……それ以上に、今は荒神の弟子に一泡吹かせたいっていうのが、本音?」
『……やはりそれか……』
 荒野は思った。
 具体的な情報を掴んでいた訳ではないが、荒神とヴィとの様子から、来日したばかりのヴィが荒神に軽くちょっかいを出して、手ひどく返り討ちになったのではないか……と、荒神は予想していた。
 二人の性格を熟知している荒野にしてみれば、その程度のことは容易に予測できた。
 その予想は、当たっていたらしい。
 つまり、ヴィが孫子に肩入れしようとする最大の動機は……「私怨」、だった。
 シンプル、かつ、採算度外視……これ以上、荒野にとって望ましくない動機はないであろう……。
「もしも……わたくしが、そこまで成長しなかった場合は?」
 孫子はあくまで慎重である。流石に、取引の基本を抑えている。
「ぜーんぜん、関係ない……」
 荒野の背中にしがみつきながら、シルヴィ・姉は婉然と笑う。
「だってぇ、わたし、恋する乙女の味方だもん……技、以外にもぉ……女にしかできない戦い方、いっっぱい教えてあげちゃう……」
 荒野の耳元に息を吹きかけるようにして、そういう。
『……やばい。本格的に、やばい……』
 荒野の心中で警鐘が鳴り響いている。
 女系の姉は、男性を虜にする技術を何百年も磨いてきた血族である。その姉が、才賀孫子に本格的に肩入れしたら……結構、とんでもないことになるのではないか……。
 容姿や才覚、という要素以外にも、才賀孫子には「いざとなれば、目的のためには手段を選ばない」という側面もある。
 そう。その名が示すとおり、才賀孫子は、孫子の兵法を諳んじており、いざとなれば実践することを躊躇わないメンタリティの持ち主でもある。
 ……これは、現在の所、危うくもなんとか平衡を保っている狩野家周りの人間関係が、バランスを崩す前兆ではないのか……。
『……コウ……余計なこと、なにもいわないように……』
 荒野が持った危惧を見透かしたのか、シルヴィが荒野にしか聞こえない小声で囁いた。
『……でないと……「あのこと」を、みんなにばらすわよ……』
 その言葉で、荒野は動きを封じられる。
 幼少時の荒野と家族同然に生活し、姉代わりとして面倒を見てきたヴィ……には、荒野を脅すための材料には、事欠かないのであった。
「その取引……乗りますわ……」
 しばらく考え込んだ後、孫子はシルヴィ・姉に片手を差し出した。どう考えても、損はしない取引だ、と、判断したらしい。
「そうこなくっちゃ!」
 シルヴィ・姉は、荒野の背中から離れて、孫子の手をがっしりと握りしめる。
『……ああああああ……』
 荒野は、二人の女が文字通り「手を組む」のを、黙ってみているしかなかった。
 これは……今の荒野にとって、ある意味、最悪の組み合わせではないのか?
『……強く生きろよ、狩野君……』
 荒野は、強くそう念じた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(6)

第五章 「友と敵」(6)

 狭間紗織の視点から見た事態の推移は、次のようになる。

「……でも、誰がどうやって、っていうのは今すぐ指摘できるよ……。
 ……こんな風に……」
 いきなり椅子から立ち上がった加納荒野がそういって、ケーキを食べるのに使っていたフォークを自分の顔に突き立てようとした。
 狭間紗織は、決してすぐれた動体視力の持ち主ではない。まず人並、といっていいだろう。その紗織の目からみても、荒野がなにを持っているのか、しっかりと視認できた。だから、紗織は、
『……荒野は、本気で危害を加えるつもりではない』
 と、瞬時に判断した。
 数年前、紗織が佐久間源吉に聞いていた加納(佐久間源吉の話しに出てくる加納は、だいたい涼治という名の老人だった)は、とりわけ高い能力の持ち主であって、本気で誰かを傷害しようとしたら、被害を受ける人間が気づく前に仕事を終えている……ということを、何度も話していたからだ。
 紗織は、動体視力や筋力、反射神経などは人波だが、一度見聞したことは決して忘れない。だから、幼い頃聞いた細切れの源吉の話しも、すぐさま脳裏で鮮明に思い出すことが出来る。

 加納荒野はその加納の直系であると聞いている。
 ……だとすれば、これは、荒野が何者かに自分の意志を伝えるためのパフォーマンスだ……。
 自分の目のあたりにめがけ、荒野が手にしたフォークを振り下ろすのを見ながら、佐織が一秒もかからずにそう結論した時……。

「……涼治に似て、平然と無茶な真似をしますな、若」
 忽然と……懐かしい……あまりにも懐かしい……背中が、目の前に出現していた。
「ご明察の通り、この老いぼれが佐久間源吉にございます」
 荒野と紗織の間に、忽然と現れたのは……数年前に死別した筈の、義理の祖父の姿……声……。

「わははははっ!」
 いつの間にか、小柄な源吉のすぐ側に、二宮浩司……いや、二宮荒神、と呼ぶべきだろう……が、立っている。
 源吉と荒神のまわりに、もの凄い風音がなっている。
 荒神の両腕が……見えない。
「面白い! 面白いではないか!
 ……これが佐久間か!」
「左様。
 この片眼と引き替えに、この老いぼれに指一本触れられないように暗示をかけさせて頂きました」
 源吉が、静かな声で答える。
 荒神が源吉を攻撃しようとして、それが源吉に届いていない……ということらしい。
 紗織は、幼い頃の源吉の話しを再び想起する。
 源吉をはじめとする佐久間は、知力に優れ、洗脳、扇動、暗示など……他者を思い通りに動かすのを得意とする集団だった筈だ……。

「……無茶でも、効果的でしょ?」
 荒野も、平静な声で突如出現した源吉に話しかけていた。
「自分の存在をおれらに感知できないように暗示をかけて監視していた源吉さんを炙りだすには……源吉さんにとって不測の事態……しかも、咄嗟に姿を現さなければならないような状況を、作らなければならなかったわけで……。
 いろいろ考えたけど、こんな方法しか、思いつかなかったよ……」
 紗織は、荒野の言葉を咀嚼する。

 源吉は、なんらかの理由で、紗織たち家族の前から、死亡を装って姿を消した。そして、紗織たちに、自分の姿を感知できないように暗示をかけ、何食わぬ顔をして、何年も過ごしていた。
 なんらかの理由、というのは、多分……忍としての仕事……なのだろう。
 そして現在。
 荒野の言葉によれば……源吉は、荒野たちに、源吉自身の姿を感知できないように暗示をかけて、荒野たちの様子を監視していた……。
 その源吉の術を破るために、荒野は、源吉の身内である狭間紗織にあかるさまに危害を加えることで、隠れている源吉を炙りだした……。

『……これが、一族の人たちの闘い……』
 そこまで現在の状況を推測した狭間紗織は、目眩にも似た、地面がぐらつくような感覚を味わっていた。
 なんという能力、なんという駆け引き。

「……しかし、若。
 よくこの老いぼれがこの場にいる事に気づけましたな……」
「そこは……まあ、状況証拠しかなかったけどね……。
 うちのじじいなら、おれらになにも言わず、誰かにおれらの事を監視させているんじゃないかって……。
 あと、こっちの生活が落ち着いた所で他の六主家におれらの居場所リークしたり、新学期が始まったた途端、狭間先輩が姿を現したり……大体が、都合よく行きすぎなんだよ……。
 まるで掌の上で踊らされているようで、居心地が悪くてしょうがない……」
 荒野は肩をすくめた。
「……まあ、源吉さん。もう源吉さんの術は破れちゃったんだから、後はおとなしくお客さんしていってよ。そこにお孫さんも来ているし……。
 楓、向こうの部屋から医療キット持ってきてくれ。先生、それで源吉さんの傷、治療してあげて。茅は、紅茶をもう一人分、頼む……」
「……紅茶、ですか?」
 それまで小さく縮こまっているように見えた源吉の背筋が、ここで初めて大きく伸び上がって、背中を細かく震わせた。源吉が、笑ったらしい。
「それは、いい。
 いつも指をくわえて見ているばかりでしてな。一度茅様の紅茶を頂きたいと思っていたところで……」
「うん、うまいよ。茅の紅茶」
 荒野は源吉に頷いて、空いている椅子に座るようにすすめた。
「……源吉さんもこうして姿を現した、ということは、暗示をかけて身動き出来ないようにして、おれら全員の記憶を封印するとか……その程度のこと、朝飯前にできるって自信があるからなんでしょ?
 だったらゆっくりしていってよ。いろいろ聞きたいこともあるし……」
「……そういう理由だ、紗織」
 椅子に座った源吉は、狭間紗織のほうに顔を向けて、照れているようなはにかんだような顔をした。
「……あれからも、ずっと、見守っていたよ……」
 その、しわがれた声を聞き、どこか焦点のずれている源吉の義眼をまともに見た時……狭間紗織は、静かに涙を流していた。

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彼女はくノ一! 第四話 (14)

第四話 夢と希望の、新学期(14)

「……例えば……」
 いきなり、茅は話しに入っていけず立ちすくんでいた楓の方を振り向いた。
「……楓。
 楓は、一族とはなんの関係もない生まれで、先天的な優位性はほとんどない。にも関わらず、後天的な学習によって、能力を伸張させ続けているの」
「……この子が?」
 茅と話していた女生徒も、楓のほうを振り返る。ネクタイの色から、その女生徒が三年生だと分かった。
「……そう。
 だとすれば、この子は、わたしとは反対の存在なのね……」
 その女生徒はなにか考え込みながらそういうと、席を立つ。
「帰りましょ。
 もう下校時間よ」
 白々とした蛍光灯の下、その女生徒の顔は蒼白にみえた。
 楓は、ようやく図書室に来た用件、「香也たちと一緒に帰ろう」という誘いの言葉を、茅に切り出しはじめる。茅としゃべっていた三年生は、挨拶をして先に図書室を出て行った。

「……今、文芸部に誘われてたの」
 狩野香也、樋口明日樹、それに楓と加納茅を加えた四人で帰宅する途中、茅の様子はいつもの通りだった。
 楓は、ぼんやりと三人の会話を聞き流しながら、さきほど図書館でみた楓と三年生の会話は……一体なんだったのか、と、思い返す。
 確かに、茅には表情が乏しい面があったり、時折変に難しいことをいったりすることがあって戸惑うことは多いのだが……先ほど、図書室で三年生と一緒にいた時の様子は……普段の茅から比べても、どうしようもない違和感を感じてしまった。
 よく知っている存在である茅が、姿形はそのままに、中身だけ、いきなり異質な存在に変化してしまったかのような……。
 今、こうして香也たちと普通にしゃべっている茅は、まったくいつもの通りの茅で……図書館で感じた楓の違和感は、多分、勘違いだったろうと思うのだが……。
「……それで、楓ちゃんもどっか部活に入らなければならないんでしょ?
 どうするの? 堺君に誘われた通り、やっぱ、パソコン部入るの?」
 樋口明日樹が、黙り込んだ楓に声をかけてくれる。
「……ええ。多分……」
 楓はぼんやりと答えた。
 ……他に、あてがあるわけではない……。
 考えてみれば、楓は、今まで自発的になにかをやる、ということが、あまり、なかった……。
 堺が感心したコンピュータ関係の技能も、上から教えられたから必死になって習得しただけで……他の忍びとしての技能と同様、自分が、それが好きなのかどうか……などと言うことは、楓は、考えたことさえなかった……。

 プログラマ志望なんだ……と、語った時の堺雅史の顔を、楓は思い浮かべる。それから、絵を描いている時の香也の顔も。
 彼らは……自分に比べ……なんと真っ直ぐで、屈託がないのだろう……。
「……んー……」
 楓が黙り込んだのを見て、香也は楓に声をかけてきた。
「……とりあえず、出来ることをやるのは、いいことだと思うけど……」
 普段はぼーっとしている香也は、時々、妙にこちらの心境を見透かしたような言葉をかけてくる時がある。
 この時が、そうだった。
「……そう……ですね……」
 楓は、自分に言い聞かせるように、頷いた。
「とりあえず、自分に出来ることを、やっていくしかないんですよね……」

 平常通りの授業が始まり、香也の日常もそれなりに落ち着いてきたようだ……庭のプレハブに向かいながら、香也はそう思った。
 例えば、夕食後、一時間前後、楓や孫子に見られながら勉強をする、という日課が加わる、など、以前とは違った変化もたしかにあったが……それをいうのなら、楓が来た日から、香也の身辺は、変化の連続だったのだ。
 その中でもとりわけ、試験休みから冬休みにかけての期間が、なんか妙な具合にイベントが立て続けに起こってしまった……ので、こうしてプレハブに向かい、以前と同じような日課として、寝るまでの時間、絵を描いて過ごす……という他愛のない日常が、この時の香也には、しみじみ、ありがたいものに思えた。
 楓は、二宮先生と連れだって外出をしている。時間的には短いのだが、二人が揃って外出するのも、ここのところ、日課のようになっていた。
 家や学校では物静かな二宮先生も、加納涼治の紹介でこの家に来たことからも分かるように、どうやら加納荒野の一族に関係のある人らしい。
 香也たちは、二宮先生の素性について、詳しいことは聞かされていなかったが。
 才賀孫子は入浴している。孫子は長風呂で、一旦浴室に入ると、一時間以上は出てこない。
 羽生譲は夕方からファミレスのバイトに行っていた。帰るのは夜中になるという。
 そんなわけで今夜、香也は、ゆっくりと絵を描ける筈だ。
 プレハブに入り、電灯のスイッチを入れ、灯油ストーブに火を入れ、イーゼルに向かう。
 ストーブの暖気がまだまわりきらない中、絵の具のチューブを搾り、キャンバスに筆を置くと、香也の意識は、冴える。筆を動かしはじめ、香也の頭の中にだけ存在するヴィジョンを、淡々と画布に塗り込めていくと、集中した香也は、時間が経過することさえ忘れる。
 だから、背後にいつの間にか加納荒野が来ていたのにも、しばらくは気づかなかった。
 ふと気づくと、以前よくあったように、いつの間にか荒野が背後にたって、香也の手元を覗き込んでいた。
「来てたんだ」
 香也はキャンバスから目を背けず、手も止めず、荒野に話しかける。
「うん。久しぶりに」
 たしかに、荒野がこうして一人で夜、ここに訪れていたのも……かなり前のことのように感じる。
 実際には、ほんの一、二ヶ月ほど前の事だった筈、なのだが……。
「ほんとう、久しぶり……」
「最近バタバタしていたからなあ」
「うん。バタバタしていた。ようやく、落ち着いてきたけど……」
「そうだな。
 もう、学校も本格的に始まったし……」
 加納荒野は息をつく。
「……落ち着きすぎて、落ち着かない。
 茅、最近手が掛からなくなって、なんか拍子抜けしちゃって……」
 ……ようするに、暇ができた、という事なのだろうか?
 と、香也は思った。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(5)

第五章 「友と敵」(5)

 茅は、狭間紗織を観察していた。
 狭間紗織は、いつもの、茅が知っている狭間紗織よりは快活で、別の人格を演じているようにも見えた。
 荒野や荒神、それに姉崎など、一族の実物を目の前にして、年齢相応の少女を演じているのかも知れないし、目の前にいる人たちが、尋常でない能力を秘めた存在であることを肌で感じ、無意識裡に、「自分は無力な存在である」とアピールしていたのかも知れない……。
 だとしても、狭間紗織の脈拍も体温も平常通りで、特に変化は見られなかった。

 茅は、戸籍上は狭間紗織の「義理の」祖父にあたる佐久間源吉は、狭間紗織の実際祖父だったのではないか、と、思っている。
 現役時代、長年危険な任務についていた佐久間源吉が、身分を偽って娶っていた妻が、狭間紗織の祖母なのではないか、と……。 そして、現役を退いた佐久間源吉は、ようやく佐久間源吉本人として、狭間紗織の祖母の元に返ってくる……。
 この土地は、加納涼治が長い年月をかけて根を張ってきた場所だ。涼治も、事情を知った上で、現役を退いた佐久間源吉が安心して暮らせる環境を提供したのだろう。
 その証拠に……狭間紗織は、茅と同じように、驚異的な写像記憶力を持っている。茅には明かしていないだけで、その他にもいろいろな能力を隠し持っている可能性も多分にある。
 茅の本の読み方を見て、「自分と同類なのでは?」と思った狭間紗織が、図書室で茅に声をかけてきたのが、つき合いの始まりだった。
 話し合ってみると、狭間紗織の資質の多くは、茅のそれと類似していた。
 たぶん、そうした資質こそが、「知力に優れる」とされる佐久間の遺伝によるものなのだろう。
 狭間紗織は、佐久間の血を引き、多くの良質な資質を受け継ぎながら、しかし、後天的な修練で獲得する「術」は引き継がなかった……そんな存在ではないか、と、茅は推測している。茅の推測が正しければ、佐久間源吉は、自分の子孫を「一族」の中に組み入れるつもりはなかったのだろう。だから、長年、自分の妻と子と、別れて暮らしていた……。
 自分と同じような資質を現しはじめていた幼い紗織に接した源吉は、突出した能力を持つ者が一般人に紛れて暮らす際の処世術などを、それとなく伝授していたのではないか……。

 そうした推測を、茅はその場では口にしなかった。
 この場には、二宮荒神がいる。シルヴィ・姉崎もいる。
 二人とも、個人としては、むしろ茅は好ましく感じていたが……事態が今後、どのように転ぶかわからない現状では……余分な情報を与えない方が懸命だ、と、茅は判断する。彼らが今後も、永劫に茅たちの味方のままでいる……という保証は、どこにもないのだった。

「……ひとつ聞くがね、お嬢さん……」
 狭間紗織が一息ついたところを見計らって、二宮荒神が言葉を挟んだ。
「その、お嬢さんの義理のおじいさんにあたる源吉さんは……目が不自由ではなかったかね?」
「ええ。よくご存じで……」
 狭間紗織は荒神のほうを向いて、微笑んだ。
 この時の荒神は朱い舌を踊らせて、学校で見せている「二宮浩司」のものではない、凶暴な素顔をかいま見せていたのだが……狭間紗織は、少しも怯んでいるようには見えなかった。心拍も体温も、正常だった。
「……源吉さんは、左目に義眼をいれていました」
「ああ。じゃあ、本物だ……」
 荒神はうっそりと笑った。
「そのじいさん、十年くらい前まで、長老とよくつるんでいた人だよ……。人前に出る佐久間は珍しいから、よく覚えている……。
 その人の左目はね、このぼくが、この指でえぐったんだ……」
 荒神は笑いながら、自分の人差し指を示し、自分の指先に舌を這わせる。
「……長老が止めなかったら、そのまま頭蓋骨を握りつぶしていたのに……」
 ……まあ、弱かったけど、その他の手応えだけはありすぎる、食えないじいさんだったよ……。
 荒神は懐かしむように、そう付け加えた。

「レディの前で指をくわえるのはお辞めなさい。不作法です」
 シルヴィ・姉が荒神を窘めた。
「この血に飢えたけだもののことはあまり気にしないでいいわよ。
 こいつにとって他人を傷つけたり殺したりすることは、日常茶飯事なんだから……」
 シルヴィ・姉は狭間紗織に微笑んで見せた。
「わたしも聞いたことある。
 わたしの身内は噂好き。世界中にちらばって、あることないこと始終くっちゃべってるの。グローバルな井戸端会議ね。
 そんな中で、長老……加納涼治とつるんでいる義眼の佐久間のことは、何度か聞いている。
 だから、小さい頃、あなたが源吉さんに聞いた話しは、だいたい本当にあったことだと思う……。
 それにあなた、このけだものが『目が不自由ではなかったか?』と聞いたら、『左目に義眼をいれて』たって即答したわね。けだもののほうは義眼のことは一言もいってないのに……。だから、あなたの義理のおじいさんとわたしたちが知る佐久間源吉は、かなり高い確率で、同一人物。
 ……でも、こんな偶然ってある?」
「偶然では、ないと思う」
 それまで黙って話しを聞く一方だった荒野が、いきなり立ち上がって話し始めた。
「……ずっと考えていたんだ。こんな偶然、いくらなんでも出来すぎだって……。
 でも、狭間先輩が嘘をついているとは思わない。
 もっと根本的な所で……大昔から仕掛けが作られ、何年も、おれたち引っかかるのを待っていたんだ……。
 何故そんなことをするのか、っていう点が、実のところよく分からないけど……。
 でも、誰がどうやって、っていうのは今すぐ指摘できるよ……」

 ……こんな風に……。

 と、荒野は何気ない、しかし素早い動作で、手にしていたフォークを挾間佐織の顔に突き立てようとした。
「……涼治に似て、平然と無茶な真似をなさいますな、若」
 しかし、荒野のフォークを、小さな皺だらけの掌が遮る。
 その義眼の老人は、フォークを掌に突き立てられながらも表情ひとつ変えることなく、平然と荒野たちに挨拶した。
「ご明察の通り、この老いぼれが佐久間源吉にございます」

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彼女はくノ一! 第四話 (13)

第四話 夢と希望の、新学期(13)

 楓は、美術室にいた狩野香也、樋口明日樹、堺雅史に挨拶をして、堺雅史の話しに耳を傾ける。堺の話しは、予測した通り制作中のゲームの話しで、先日ネット上にアップした香也のラフスケッチに関する反響をふまえて上での、修正個所などの打ち合わせだった。美術部員のほとんどはさほど部活に熱心でないか幽霊部員で、おかげで香也と明日樹の二人で部費を自由に使える、と、以前、明日樹がいっていた通り、その日も他の人影はみえなかった。
 明日樹も、部活とは直接関係ない堺の話しを遮ろうとはしていない。実質二人きり部活で真面目にやれ、もないのかも知れないが、それ以上に、香也が堺と打ち合わせをすることに乗り気になっているから、なのだろう。

 図書室に残った茅は、机の上に本を積み上げて片っ端からページをめくっていく。
 傍目には「読んでいる」とは見えない情景だが、茅はしっかり内容を把握していた。大まかな文脈は一瞥するだけで呑み込めたし、細かな部分はページを丸ごと記憶しておいて、後で暇があるときにでも読み直す。
 荒野にも話していないが、茅には瞬間写像記憶力がある。見たもの、だけではなく、物心ついたときから、聞いたもの、嗅いだ匂い、肌に触れる気温……など、五感の全て記憶しており、また、記憶した事柄を、いつでも鮮明に反芻することができた。
 その程度のことは他の人間も当然できることだろう、と茅は思っていたが……年末の勉強会で、一般人の記憶力の悪さを確認した今では、そうした記憶力も茅特有の能力らしい、と気づいている。
 その他にも、茅には、他の者には決して真似できない、茅だけができる、ということが、まだいくつかあった。
 例えば、茅は、目が届く範囲内の物なら、かなり細かい動きまで関知、計測できる。例えば、肌の微妙な震えから、側にいる人間の心拍を正確に読むことが出来た。また、体温の変化も、何となく、感じ取ることができる。
 よって、茅には、近くにいる人間が動揺しているのか平静なのか、かなり正確に言い当てることができる。心音と体温の変化を観察していれば、簡単にわかる。だから、茅は他人の表情を読むのが、かなりうまい。
 こんなことは、他の人間にも当然出来るだろうと思っていたのだが……一般人はもとより、荒野のような、一族でもかなり抜きんでた能力を持つ者さえも、茅ほどには物事を鮮明に見えないし、聞こえないらしい……。

 荒野などにはまだ話していないが、仁明に去られ、他の人間たちと関わりを持ちはじめた当時、茅がその人たちになかなか打ち解けられなかったのは、そうした要因もあった。
 ……その当時接触してきたような愚鈍な者たちが、茅と同じ人間だとは……茅は、なかなか認められなかったのだ……。
 やがて荒野が現れ、この町に来て、様々な人たちと出会い……茅は、彼らの不完全さを愛するようになった。
 いや、不完全であるからこそ、愛しいのだ、と……今では、本気でそう思っている……。

 調べれば調べるほど、人間たちが作ったこの世界は、矛盾と綻びに満ちた不完全な場所だという事が、よく理解できた。よく今まで滅びないでいられたものだ、と、この世界についてかなりの知識を身につけた今では、茅は本気で感心してしまう。

 この人間たちの世界が、今こうして存続していること……これ以上の奇跡が、どこにあろう?

 そんなことを考えながら、茅は、傍らに積み上げた本を一冊一冊取り出して、ページをめくり、その内容を画像として脳裏に刻み込み続ける。
「……ねぇ。ちょっと、座っていい?」
 すると、茅に声をかけてくる者があった。落ち着いた、女の声。
「あなた、一年生? みない顔だけど?」
 ネクタイの色から、声をかけてきたのは三年生だと判断する。今、三年生は受験の追い込みで大変な時期の筈だ。図書室に勉強をしにくるのではなく、初対面の一年生に声をかけてくる三年生……というのは、かなり奇特な存在の筈……だと、茅は判断する。
「あと、それ、本当に読んでいるの?」
 その三年生の女生徒は、狭間紗織と名乗った。

 狭間紗織は、かなり静かな人間だった。どんな話題をふっても、脈拍も体温にも変化がみられない。最初、狭間紗織は茅が読みかけだった本について、などの他愛のない、当たり障りのない話題を選んでなにかと茅に話しかけて来たが、やがて、
「……わたし、校内の生徒はだいたい顔覚えているつもりだったけど……。
 特にあなたみたいに目立つ子、見かけたら覚えていない筈はないんだけど……」
 と、茅に探りをいれてきた。
「三学期からこの学校に来た、転入生なの」
 そこで初めて、茅は自分から名乗った。
「加納茅というの」
 それまで平静だった狭間紗織の心音が、一回だけ、どくん、と大きく波打って、あとはすぐにもとの平静さを取り戻したのを、茅は知覚する。
「かのう……かや?」
 狭間紗織は、何故か泣きそうな顔をして、茅の顔を見つめた。
「じゃあ、かのう、じんめいって名前に、覚えはない?
 あるいは……かのう、こうや……とか」
「仁明は茅を育ててくれた人、荒野は茅の兄なの」
 茅がそう答えると、狭間佐織は掌で口を覆って目を大きく見開き、ついで、泣き笑いの表情になった。
「そっかぁ……こうやはかや、の、あに、かぁ……」
 ……覚えていないだろうけど、わたしのおじいちゃんが、茅ちゃんに会っているかもしれないね……。
 と、狭間紗織はいった。

 下校を即すアナウンスが流れる頃には、日はどっぷりと暮れていた。この時期は、日が暮れるのが早い。
「……じゃあ、考えておいてよ」
 といって、今まで美術室で時間を潰していた堺雅史は、松島楓に声をかけて去っていった。楓は、堺に「部活が決まっていないのなら、是非パソコン部に」と誘われていた。「ぼくらの年齢でちゃんとしたプログラムくめる人、そんなにいないよ」ともいっていた堺は、これから柏あんなと合流して帰るらしい。水泳部は、冬場は筋トレや走り込みをする、という。
 やはり部活で学校に残っていた柏あんなを待つために美術室で時間を潰していた、というのが本当の所だろう。
 香也と樋口明日樹が画材の後かたづけをしている間に、楓は図書室まで茅を迎えにいく。

「……じゃあ、やっぱり、目で覚えて、後で読んでいるんだ……わたしと一緒……」
「他の人はこういうことはできないって、最近、知ったの」
「うん、そうだね。
わたしも、目立ちたくなかったから、茅ちゃんみたいに大ぴらにはパラパラ読みはできなかったなぁ……人目がなければ効率的なんだけどね……」
 時間が遅いせいか、図書室は閑散としていて、茅ともうひとり、茅の隣りに座っていた三年生の女生徒の二人しか残っていなかった。
「……でもさあ、そうすると茅ちゃん、すっごく退屈なんじゃない?」
 楓が入ってきたのにも気づかず、その三年生は茅に質問をする。意外に真剣な表情だった。
「茅には、まだまだ学ぶべき事が多いの。退屈している暇はないの」
 茅は答えた。途中から会話を聞いた楓には、どういう文脈でそのような問答が行われているのか、当然理解できなかった。
「それに、紗織が本当に聞きたいことは、違うことだと思うの。
 たしかに、茅も紗織も、他人には見えないものが見え、聞こえないものが聞こえる……。
 でもそれは優劣の問題ではなくて、単なる差異だと思うの。茅や紗織はある面では突出した存在かも知れないけど、茅や紗織にはできないことを易々と行える人も大勢いるの。
 この町に来てから、いろいろな人にあって……それら不完全な人々の多様性に、茅はいつも圧倒されているの……」
 二人とも、図書室に入ってきた楓の存在に気づいていないのか……それとも、気づいていても、楓以上に今の会話が重要なのか……いずれにせよ、声をかけるタイミングを脱した楓は、その場に立ちつくして二人のやりとりが一区切りするのを待つより他なかった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(4)

第五章 「友と敵」(4)

 茅は、続けて、
「それで、その文芸部に誘ってくれた先輩のおじいさんが、引退した佐久間だったといっていたの……」
 といったので、荒野は危うく紅茶を吹き出しそうになった。

 佐久間、は、六主家の中でも最も得体の知れない集団である。煽動や洗脳に長け、他者をほぼ思い通りに動かすことができる……と、言われている。
 だから、たとえ他の六主家の者でも直接佐久間の者と接触した者は極めて希でもあった。接触する必要がある時は、以前なら施術された傀儡が出向いてきたものだし、ここ数十年は通信機器が発達してきたおかげで、その傀儡にさえ、接触する機会が極端に減少した。
 佐久間が他の六主家の力が必要になった時は向こうからその時々の窓口(今ならさしずめ長老の加納涼治になるわけだが)に連絡してくるし、逆に、佐久間の助力が必要だと仕事を依頼すれば、確実に任務を遂行したので、それで不都合はなかった。
 また、六主家に属するか属しないか、という違いにかかわらず、引退したり、足を洗う一族の者は、決して珍しい存在でもない。
 負傷や加齢などの理由の他に、結婚や育児などの一般人なみの月並みな理由や、スランプとか仕事に嫌気がさした、などのメンタルな原因で辞めていく者もいる。
 一族の側は、仕事に意欲を失った者を引き留める、ということは一切しない。よほどの事がない限り、希望通りに引退させる。そうした引退者の中で、公にしてはならない極秘事項などの記憶を部分的、選択的にに封印するのも、佐久間の大きな仕事だった。

 だが、「元」佐久間の引退者、という者となると……荒野が知る限り、そのような者に誰かが接触した、という話しは聞いたことがなかった。
 そもそも、通常の佐久間に直接会った者さえ、極端に少ないのだ……。

「……でも、そのお爺さんはもう何年も前に亡くなっているし、引退してからは、佐久間とも他の一族とも連絡をとったこともなかったって、いってた……」
 しばらく唖然としていた荒野をよそに、茅は淡々と説明を続けている。
 とりあえず、荒野は、茅にその先輩に引き合わせてくれるように頼んだ。
「……そうだな、学校ではいろいろ都合が悪いから……今度の週末にでも、うちに招待してくれるか?」
 茅は、承諾した。

 週末までの時間を利用して、茅のいう「狭間紗織」という三年生のデータを、荒野は収集する。
 役所の資料によると、生まれた時からこの市に在住。両親は平凡なサラリーマン。この両親のうち、父親の義理父にあたる人物の名が、「佐久間源吉」。
 つまり、佐久間源吉は、引退後、一般人の女性と所帯を持ち、その女性の子供は、結婚時にはすでに成人していて、これが狭間紗織の父親にあたる……。
「狭間紗織」と「佐久間源吉」の関係を戸籍などから検証すると、そのような形になった。
 紗織の側からみれば、長年寡婦だった、いい年齢になった祖母がいきなり再婚して、その再婚相手が佐久間源吉だった、ということらしい……。

「狭間紗織」自身の評判も、特に怪しむべき点はない。というより、狭間紗織は、在校生の中でも、かなり評判がいい生徒だろう。
 二年生の時、一年間、生徒会長を勤めている。下級生にも同級生にも人望があって、誰に聞いても、いい評判しか聞かない。他の三年生が追い込み入って殺気立っているこの時期、悠然と部活に興じているほど、成績も優秀。模試で全国数百名の上位者にも再三入っているし、志望校にも、充分に合格圏内……というより、この成績で、何故もっと上の学校を受験しないのか、という点で、周囲の人間に首を捻らせていた。
「狭間紗織」とは、一言でいって、「非の打ち所がなさ過ぎて、かえって怪しいぐらいの優等生」といえた。

『……でも……』
「狭間紗織」の周辺を調べた荒野は、そう感じた。
『……トラップだとしたら、やり口が回りくどいんだよなぁ……』
 何かしら、向こうが荒野たちに掴ませたい情報があって、そのための接触の口実に「義理の祖父が……」という生徒を用意する……というのは、偶然を装いすぎて、かえって不自然に思えた。それに、「佐久間源吉」の名前にも、荒野は覚えがある。
 十年くらい前まで、涼治の手足のように働いていた佐久間の名が、たしか、「源吉」といった……。
 荒野自身は直接の面識はないが、少し昔の報告書や書類の中で、頻繁に出てくる名前だ。偶然を装ったのだとしたら、あまりにも出来すぎで、いかにも「警戒してください」といわんばかりの、わざとらしいさがある……

『……実際に会ってみれば、なにか掴めるか……』
 調べるだけ調べたら、後は考えすぎてもなにもかえって疑心案擬に駆られるばかりだ……と判断した荒野は、荒神とシルヴィ・姉崎、それに楓と三島百合香に「狭間紗織」と「佐久間源吉」の事を伝えた。
 荒神とシルヴィは完全に荒野たちの味方ではない(せいぜい、「好意的な中立」といった所だろう、と荒野は思っている)とはいえ、一族の関係者である。
 真偽のほどは「保留」とはいえ、情報が極端に乏しい「佐久間」の係累と会見する、と伝えれば、興味を示すだろう。

 そんなわけで、その週末、荒野たちのマンションには、荒野と茅の他に二宮荒神、シルヴィ・姉崎、松島楓、三島百合香が集合して、狭間紗織を待ちかまえる事になった。
「……うわぁ! 可愛い!」
 メイド服に猫耳装備の茅に出迎えられた私服姿の狭間紗織は、玄関口でそう叫んだ。
「その恰好、似合うね、茅ちゃん! 噂には聞いてたけど、わたしん家、年末旅行しててさ、商店街のクリスマス限定イベントはみてなかったのよね!」
 狭間紗織は以外にテンションの高い少女だった。
 集まった人々を見渡して、紗織は驚きの声をあげた。
「あ。荒野君だ! 加納荒野君! 二宮先生に姉崎さん、それに三島先生まで? 三島先生とかこっちの子まで、関係者なの?」
 とりあえず、テーブルにつかせて、マンドゴドラのケーキと紅茶を勧める。こちらがなにか聞く前に、狭間紗織はしゃべりまくった。
「……茅ちゃんから聞いたと思うけど、うちのおばあちゃんの再婚相手が佐久間さん、っていって、うち、同居じゃなかったけど、近くに住んでいた関係で、小さい頃、わたし、おばあちゃん家によく預けられていたのね。
 で、その佐久間さんって、わたしのおじいちゃんに当たるんだろうけど、わたし、まだ子供だったし、いつまでも佐久間さん、佐久間さん、って呼んでた。で、その佐久間さんがね、むっつりとしたおじいさんだったけど、たぶん、子供のあやし方、あまり知らなかったんじゃないかな? いろいろと話してくれたのよ。今でも活躍している忍者の話しを……」
 その佐久間源吉は八年前に亡くなっている。
 再婚相手の孫である紗織に、晩年になって自分たちの事跡を語ることは、源吉にとってどういう意味を持っていたのだろうか……と荒野は思った。
「……おじいさんの話しだから、昔のことがほとんどでね。
 今思い出してみると、戦時中の話しとかまだソビエトがあった時の話しとかなんだろうけど……その時は、正直な話し、あんまり細かいことは理解できていなかったと思う。
 なんか、佐久間さんの若い頃はいろいろと大変な時代で、そこで一生懸命に戦っていた人たちがいた……みたいな理解をしていた。
 その話しに出てくる人たちは、みんな子供向け番組のヒーローみたいに強くて、佐久間さんにしてからが、催眠術みたいなので何十人もの人をいっぺんに操った、とかいう話しを、何度もしてくれた……。
 佐久間さん、わたしが退屈な様子みせるとすぐに別の話に変えたし、切れ切れにしか聞いてないんだけど……佐久間さん、すごい真面目そうなおじいさんで、普段冗談いうような人じゃなかったから、なんで子供相手にあんな話ししてたんだろうってずっと思ってたんだけど……あの話しが全部本当だったとしたら、佐久間さんって、実はすごい人だったんだなあ……」
 狭間紗織は遠い目をしていう。
「……その佐久間さんの話しによく出てきた名前が、二宮だったり姉崎だったり加納だったり……。
 佐久間が頭で、そうした人たちは手足のようによく働いてくれた……って、佐久間さんは、よくいってた……」
 佐久間の側から他の六主家をみれば、そのような認識になるのだろう……。
「……ここん所、立て続けに佐久間さんのいっていたのと同じ名前の人たちが学校に集まってきて……しかも、だめ押しが茅ちゃんと荒野君だもんなぁ……」
 狭間紗織は、荒野の目をまともに見つめて、尋ねる。
「……荒野君のお父さんって、ひょっとして仁明さんっていわない?
 だとしたら、佐久間さん……源吉さんが、最後にした仕事というのが……茅ちゃんと仁明さんに関わった人たちの記憶を消すことだったって……」

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彼女はくノ一! 第四話 (12)

第四話 夢と希望の、新学期(12)

 そんな感じで、香也は新学期から、朝は集団で登校することになった。初日こそ香也の集団を遠巻きにして囁きあうだけだった生徒たちも、日がたつにつれ、次第に登校中に声をかけてくるようになる。最初のうちは、始業式の日に香也の家に尋ねてきた連中たちが、たまたまこちらの姿をみかけて挨拶してくる程度だったが、日がたつにつれ、荒野や孫子と知り合った二年生も声をかけてくるようになり、中には途中から香也たちの集団に混ざって雑談しながら登校する生徒も出始めた。
 例えば、香也と同じクラスで、初日から馴れ馴れしく声をかけてきた柊誠一などがその代表で、この生徒は樋口大樹によれば「女生徒とみれば片っ端から声をかける」という軽薄さを遺憾なく発揮し、毎日のように合流しては日替わりで孫子、楓、茅……と標的を変えて語りかけていた。もっとも、孫子は挨拶を返して後は無視、楓は曖昧に微笑んでなにも言わず、茅は柊の口から出任せっぽい軽口の矛盾点を遂一指摘したり質問したり……と、柊をまともに相手にした者は皆無だったが。
 そうした執拗さがあまり不快に感じられないのは、柊はとことん軽い性格で、女性へのアプローチさえ、真剣味をまるで感じさせない淡泊さを伴っていたからで、まるで手応えのない対応をされても一向にめげる気配を見せずに毎日のように誰かに話しかけてくる様子をみると、「やはり、登校中の暇つぶしとしてこっちに話しかけてくるのではないか?」とさえ思えるからで……そんなわけで柊は、香也たちの登校仲間の間では、いつの間にか空気のような、存在感のない存在に成り下がってしまった。

 その柊誠二は、始業式の翌日、始業式の放課後に狩野家を訪問した生徒たちの話しを聞くと、大仰に悔しがった。始業式の日、香也の周りに人だかりが出来ていたのは柊も知っていたが、その原因が同人誌だと知り、さらに、松島楓や加納茅は小テストで学校に居残る、ということを知った柊は、早々に帰宅した。
 だが……その後、香也と同行して狩野家に赴いた生徒たちが、松島楓、加納茅はもとより、上級生の才賀孫子、などの手料理を御馳走になり、また、狩野家には羽生譲や狩野真理などのイケている年上女性がいて、さらにさらに、どうした訳かパツキンかつボン、キュ、ボンのシルヴィ・姉までもが訪問してきた……と、知ると、柊誠二は地団駄を踏まんばかりに悔しがり、昨日の自分の判断を呪い、狩野香也に詰め寄って、
「狩野君、ぼくら、友達だよね。ね。今日、君の家に遊びに行っていいかな?」
 などと上目遣いに懇願し始めた。
 楓や柏あんなが引き気味に、加納茅がきょとんとした表情で見守る中、香也は、
「……んー……今日から部活始まるから、ぼく、帰り、遅くなるんだけど……」
 と曖昧に言葉を濁し、そうこうするうちに柊誠二は、昨日狩野家に訪問した生徒たちに取り押さえられ、
「てめぇなに考えているんだ」、「ごめんなー。狩野君。このナンパ馬鹿は後でおれらがヤキいれておくから」、「柊君、さいてー……」、「こいつにはじっくり言い聞かせておくから、狩野は気兼ねなく絵を描いてくれ」……などなどと、言い合いながら、複数の生徒たちに羽交い締めにされ、教室の隅に連れ去られ、始業の予鈴が鳴るまでそこで集中砲火的なブーイングを浴びた。

 柊が教室の隅に連れ去られている間に小柄な少女がとことこと楓と茅の側に近づいてきて、朝の挨拶をした後、
「部活っていえば……」
 と切り出しはじめる。
 クラス委員の羽田歩は、転入生二人に「なにかしらのクラブに所属しなければならない決まりになっている」ということを告げた。
「……部活、ですか?」
 と日々を捻る楓。
「茅、知っているの」
 と頷く茅。
 もっとも茅の学校に関する知識はだいたい羽生譲のマンガの棚から仕入れたものなので、信憑性と信頼性は著しく欠くのだが、その程度の知識もなく、「学校=同年代の子供を集めて勉強を教えるところ」程度の辞書的な知識しか持たない楓からみると、かなり頼もしく見えた。
 楓に期待を込めたまなざしで見つめられた茅は、なにか知識を披露しなければ、という思いに駆られたらしく、唐突に、
「例えば……転校生」
 と、口を開く。
 楓も、期待を込めて後に続く言葉を待つ。
「……登校中に、異性がぶつかったり体当たりしてくる」
 集団で登校してきた楓たちには、柊誠二が話しかけてきただけでぶつかってきたりしたことはなかった。
「……朝のホームルーム、教室内でその異性を発見」
 これも、当然ない。第一、昨日の朝のホームルームはバタバタしていて、すぐに体育館に移動して始業式になった。
「……そして、大体はその転入生とぶつかってきた生徒は恋に落ちるの」
 ……この展開も、自分らには当てはまらなかった……などと、真剣に耳を傾けていた楓は思った。
 楓と同じように傍らで、真剣な面持ちで茅がそんなことをいうことを聞いていた羽田歩は、「加納さんって冗談が好きなんだな……」と思った。
 イマイチ、いや、かなり滑っている気もしたが。
 そんなことをするうちに岩崎硝子先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まり、今年も平常通りの授業が開始された。

 昼休みに入り、給食を食べ終えると、茅は一人でとことこと教室の外に出て行った。あわてて楓が後を追いながら、「どこに行くのですか?」と尋ねると、
「図書室」
 と一言で茅は答えた。
「この間、見学した時にちらりとみたけど……規模的にはたいしたことがなかったけど、古い書籍も結構あったの」
 昼休みいっぱい、茅は図書室の本を片っ端からパラパラとめくって過ごした。ページをめくる速度が速すぎて、楓にはまともに読んでいるようには見えなかったが。

 放課後になると香也は美術室へ、茅は図書室へと向かう。どちらについて行こうか楓が迷っていると、「なにかあった時と帰る時には、携帯で連絡するの」と茅がいってくれたおかげで、楓は自由に行動することができた。楓は自らを茅の護衛役として任じており、茅が校内にいる限りは、そうそう大きな事件は起こらないだろうと判断する。
 一応、荒野にメールでお伺いを立ててみたところ、荒野も同じ判断をしたのか、
「おれ、晩飯の買い出しにいってくるから、茅のこと頼む」
 とのみメールで返信が来た。
 楓が少し遅れて美術室に行くと、美術部員の香也や樋口明日樹の他に、堺雅史も美術室に入り込んでいて、香也となにやら真剣に話し込んでいた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(3)

第五章 「友と敵」(3)

 部活のことは考えておく、といって嘉島と別れ、本田といっしょに帰路につく。
「二人きりだと、いろいろ大変じゃない? 食事もそうだけど、掃除とかその他の家事とか……」
「そういわれれば、そうかなって感じだけど……でも、慣れた」
 実際には、「茅が」慣れたおかげで、家庭内での荒野の仕事はかなり少なくなっている。料理も掃除も、最近はもっぱら茅の仕事になりつつある。
 料理は、買い出しと下拵えくらいしか手伝わせて貰えない。荒野の掃除の仕方は、茅にはかなり大ざっぱに見えるらしく、荒野がやっても後で茅がやり直してしまう。
 荒野も、茅の世話に追われていた以前に比べれば、かなり暇になった、ともいえる。ただし荒野自身は、その空いた時間は、自分個人の自由時間というよりは、有事の際のための待機時間だと思っているが……。
 荒野は「商店街に寄って夕食の買い出ししてから帰る」といって、本田と別れた。

 学校と、駅前商店街と、荒野たちのマンションを地図上で結ぶと、扁平な二等辺三角形になる。つまり、学校から商店街に寄るには少し遠回りをしなけばならず、かといって、一旦マンションに帰ってから引き返すのも馬鹿馬鹿しい、半端な距離である。そこで荒野は、学校帰りに少し遠回りをして、買い物を済ますことにしている。
 制服姿のまま鞄を抱え、肉や魚や野菜を買い漁る荒野の姿は、傍目には滑稽にみえたのかもしれないが、荒野は頓着しなかった。
 もともと目立つ容姿であったことと、マンドゴドラの店頭CMに出演したことなどから、荒野の顔や噂は予想以上にその界隈に浸透しているらしい。
 商店街で買い物をしても、「いつも、偉いねえ」などといわれながら、商品を余分に包んで貰うことが、少なくない。どこでどう間違えたか、荒野と茅の二人については、「年少ながら、苦労しながら二人きりで生活している兄弟」という美談調の尾ひれがついた認識が、商店街界隈では一人歩きしているらしい。
 もちろん、荒野の側がそのようなバイアスをかけて情報を流布したわけではないし、また、誤った認識に陶酔している商店街の人々の幻想を壊すのも大人げないと思うので、荒野はそうした誤解を誤解のまま放置している。
 その日、制服姿のまま食材がびっしり詰まったポリ袋を大量に抱えた荒野は、商店街のはずれにあるマンドゴドラで休憩することにした。マスターから「一年間ケーキ食べ放題」を言い渡されたのはいいが、学校に通うようになってから顔を出していない。また、それにマンドゴドラは商店街の外れにあり、自宅までの帰り道、休憩するのにちょうど良い位置にある。
 年末年始は長蛇の列を作っていたマンドゴドラも、最近では流石に落ち着いていていた。持ち帰りのお客さんは頻繁に出入りしていたが、喫茶コーナーのカウンターは半分弱しか埋まっていない。
 いったん、空いているスツールの周りに鞄とポリ袋を固めて置いてから、セルフサービスのカウンターでコーヒーとショートケーキを注文する。高校の制服にエプロンを掛けた顔見知りになっているバイト店員は、「お久しぶりです」と荒野に挨拶してから業務用のエスプレッソ・マシーンでコーヒーを作って番号札と一緒にお盆の上に置いて荒野に渡し、「カウンターでお待ちください」といって、店の奥に消えた。
 コーヒーを飲みながらケーキが出てくるのを待っていると、「お。来た来た」といいながらマスター自ら注文したショートケーキを運んできてくれて、「女の子の方、茅ちゃんは元気にやっているか?」などと話しかけてくる。
 ちょうどその時、荒野の電話が鳴った。液晶を確認すると、茅からだった。
『同級生の子が、荒野がマンドゴドラに入っていく所をみたと、教えてくれたの』
 と、電話越しに茅はいった。
 どうやら、茅は茅で、独自のクラスメイト情報網を築きつつあるらしい。
 マンドゴドラのマスターに、「今、茅から、電話」といって携帯を渡し、荒野はマスターが運んできたショートケーキを賞味する。

 相変わらず、うまい。
 甘いけど、甘すぎない。
 三角形で上に苺が一粒ポツンと乗っているだけのシンプルなケーキが、どうしてこうもうまいのか。コンビニやスーパーで売っているものよりもずっとうまく感じてしまうのは、何故か……。
 こういうのを職人芸というんだろうなぁ……。

 などと、毒にも薬にもならない思考を展開していると、「ほい」と、マスターに携帯を返される。
「今、みやげ箱詰めするから、もうちょっい待っていてくれ」
 といって、マスターは再び店の奥に姿を消した。
 なにやら熱心に話し込んでいる、と思ったら、茅におみやげを注文されたらしい。
『……やれやれ……』
 と思いながらふと視線を落とすと、店のショーウィンドウ越しに五、六名の小学生らしき団体様が、荒野の顔を覗き込んでいるのと目が合った。
 荒野と目が合うと、子供たちは「ねこみみー」とか「すげー、ほんと、ビデオと同じ顔!」とかいいながら、わっと一斉に逃げ出した。
『……そりゃ、同じ顔だろうよ……本人だもん……』
 その荒野の頭上では、未だ正月モードのままの、荒野と茅のプロモーション・ビデオがエンドレスで流されている。マスターの話しだと、成人式を過ぎる頃までは、流しっぱなしにするという。そのビデオは当然荒野も見ているわけが、そのビデオの中の荒野は、ケーキを口に入れた途端、どうしようもなく緩みきった、締まりのない表情をしているのだった……。

 帰宅し、着替えてから買ってきた食材を冷蔵庫に放り込み、米を五合磨いで炊飯器にセットする。荒野はもとから大食らいだし、毎朝走るようにしてから、茅も以前よりはずっと食べるようになってきている。時折、三島百合香も一緒に食卓を囲むことがあるので、いつもこれぐらい炊く。ご飯が余ったら(滅多に余らないが)、後で夜食のお茶漬けにして食べる。米だけは、近所の専門店に定期的に配送して貰っている。
 そのうち茅が両手に本の山を抱えて帰ってくる。学校に通うようになってから、茅は放課後、学校の図書館に寄ってくるようになった。そんな時はたいてい楓も一緒で、時間が合うときには、部活帰りの香也たちと集団で下校してくることもある。
 マンドゴドラのおみやげを空けながら、茅に紅茶を入れて貰い、荒野は部活の話題を出す。下校する時、クラス委員に呼び止められて……。
「……で、あの学校、部活必須で、なにかしら入らなけりゃならないんだってな……:。
 茅、知ってた?」
「茅、もう入ったの」
 茅は、荒野の分の茶器を荒野の前に置きながら、こくりと頷いた。
「文芸部。
 放課後、図書室にいたら、誘われたの……」

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彼女はくノ一! 第四話 (11)

第四話 夢と希望の、新学期(11)

 早めの夕食は三島百合香が手伝っただけあって、煮魚、揚げ出し豆腐、とうふと葱の味噌汁、山菜の煮浸し、出汁巻き卵と和風で統一されていて、味も流石にうまかった。
「そういや、茅、腕は上がったか?」
 その夕食の席で、三島が主語を省略して尋ねた。一時期、三島は茅に料理を教えていた時期がある。
「上がった上がった」
 同居している荒野がうけあった。
「今日のパスタも、あれは茅の味付けだったな。
 最近では勝手にネットでレピシ検索してレパートリー広げて、いろいろ実験台にされてる」
 茅はレピシの通りに作るだけでは飽きたらず、最近では香辛料などでの味付けに一工夫を凝らすようになっている。今日、洋風のトマトソースのパスタにアンチョビや山椒を入れたように。
「ああ。柏の姉のほうも、たしか、エスニックな味付け好きなんだよな。時々すっごい味になるそうだけど……」
 羽生譲もそんなことを言いだす。
「……最近では、ほとんど茅が作っていますね。うちのメシ……」
 荒野は下拵えまでしか手伝わせてもらえないようになっていた。たしかに荒野の料理は、大雑把で大味だ自分でも思うが……。
「こっちは手の空いている女性陣が交代で手伝っているって感じだな。人数増えて一回の量が多くなっている分、材料を切るだけでも真理さん一人だと大変でな……」
 そういう羽生譲も、時間の都合がつく時は積極的に台所に立つ。必要がなければ自発的にはやりたがらないが、その昔数年間、父子家庭の生活を経験してきた羽生も、一通りの家事はこなせる。
「こっちは女性の人数も多いから、楽といえば楽なんだけど……」
 うちのこーちゃんは包丁もたせると危なっかしいしな、と、羽生は付け加える。
「でも、これ、おいし」
 シルヴィは器用に箸を使って味噌汁を一口飲むなり、そう感嘆する。
「こんなおいしいミソ・スープ、久しぶり。グランマが作ってくれたの、思い出す……」
「……最近は、インスタントの出汁、多いからな……店でも家庭でも……」
 三島は「……出汁からちゃんととれば、多少の手間で、シンプルな味噌汁でもぐんとうまくなるのに……」とかぶつくさ言いはじめる。
「センセ、これ、あなた作ったのか?」
 とシルヴィが尋ねた。
「ああ。そうだが……」
 三島が頷くと「グレイト!」とかいって、シルヴィが三島に近寄り、その体を抱きすくめる。シルヴィと三島とでは体格差があるので、小さな子供を大人の女性が抱きしめているように見えた。三島は「離せってこのガイジン! わたしゃノンケだっての!」とかいいながら藻掻いている。が、もちろん、シルヴィの腕をふりほどくまではいかないのだった……。
 おかげで、羽生譲の、
「……センセも、料理だけはうまいよな……」
 とかいう失言は、うまい具合に聞き流される。
 ほかの連中は黙々と料理を堪能していた。

 食事を終え、一息つくと、いきなり楓が立ち上がり、外出の支度をし始めた。
「ホワット?」
 シルヴィが首を傾げると、
「師匠……二宮先生の気配がしたんです。すぐ側まで来てます」
「あー……ほんとだ。楓はほんと、気配とか読むの、うまいな……。
 ……おれ、言われて初めて気づいた……」
 荒野も、のろのろと炬燵からはい出す。
「二宮先生のは、独特の凄みがあるっていうか……また、別格ですから……」
「うん。だけど、それでもこの距離から分かるっていうのは凄いよ……今日はおれも、久しぶりに見学させて貰うかな……」
「加納様も、たまには二宮先生に組み手して貰ったらいかがですか?」
「……やだよ。
 最近の鍛錬不足は認めるけど、あいつ、おれとやると手加減しねぇんだもん……。
 楓だと放り投げるところを、おれの時はぶん殴るんだ……」
 そんな会話を交わしながら玄関に向かう楓と荒野。
 狩野香也は才賀孫子にせかされて英語の教科書とノートを広げはじめている。冬休みの勉強会以来、「毎日の積み重ねが大事」ということで、孫子と楓が交代で毎日小一時間くらいつづ香也の勉強をみることになっていた。香也は積極的に取り組んでいる、というわけではないが、言われるままに従っている。同級生に比べ、自分の勉強がかなり遅れている、という自覚はあるのだ。
「……ヴィも、後学のために一度見学してみたら?」
 不意に、玄関に向かった荒野が振り返って、シルヴィ・姉にそういった。

 シルヴィがスーツの上にフェイク・ファーのコートを羽織って荒野たちの後ろを歩いていくと、荒野たちは河川敷のほうに向かう。
 ある程度の広さがあって、人通りが少なくない場所、というと、この辺だと限定されるのだろう。
「……おお。今夜は見学者がいるのか!」
 河原には、待ち合わせでもしていたかのように、コート姿の荒神が腕を組んで仁王立ちになっていた。
「さあ、ぼくの可愛い雑種ちゃん! ギャラリーを満足させるためにも、いつもより余計に足掻いてみせるのだ!」
 その言葉が終わるか終わらないか、というタイミングで、荒神の姿が、溶ける。 昼間は神経を集中させていなかったからすぐに見失ったが、荒神が使ったのは単純な「気配絶ち」だった。一族の技の中でもごくごくベーシックなものだったが、シルヴィはその基本的な技をこれほど見事に使いこなしている例を、他に見たことはない。
『……認めたくないけど……』
 シルヴィ・姉崎は思った。
『最強の噂は、伊達ではないか……』
 シルヴィがさらに驚愕したことには、楓は、シルヴィにさえようやく感知できる荒神の動きに対応し、なんとか攻防し続けるほどの実力を、すでに身につけていることだった。楓が投擲武器を惜しみなく使用し、荒神が素手で対応している、というハンデはあったが……楓が積極的に攻撃し、それを荒神が弾く、という、一種の模擬戦が、繰り広げられていた。機動力のある忍同士の模擬線だから、河川敷の広さを活用して、二人とも縦横に移動している。
 シルヴィでさえ、うっすらと存在が感知出来る程度だから、気配を読むことが出来ない一般人が見たら、突風がざざっと河原の草を押し倒しているようにしか見えないだろう……。
『……それに、あの子も……』
 数日前、集めている途中の配下が勝手に気を利かせたあげく、返り討ちにあった、というのは……たぶん、あの子が相手だったのだろう……。
 加納の直系である荒野よりは与しやすい、とでも思ったのだろうが……。
『……一流、じゃないの……』
 動きのキレが、シルヴィが慌てて手配できる程度の凡庸な忍とは、まるで違う……。
 シルヴィたち姉が手配できる忍など、所詮、雇われる境遇に満足できる、家畜化された忍なのだ……ということが、楓の動きをみると、実感できた……。
 荒神はもちろん、まだまだ持てる実力をセーブして相手しているのだろうが……昼間、シルヴィの護衛を片っ端から放り投げていた時の荒神は、もっともっとセーブしていたのだろう……ということが実感できるほどには、鋭い動きだった。
「……あー。楓のヤツ、もともと素質あったけど……わずか数日で、なんか凄いことになっている……」
 シルヴィの感想を裏付けるように、傍らの荒野が呟いた。
「……正直……楓がここまでいけるようになるとは、思っていなかった……」
 そういう荒野の顔は、意外に真剣だった。

 シルヴィは、その夜以来、その土地で術者を雇うことを止めることにした。
 荒神や荒野はもとより、楓までがそこまでの実力を持っているとなると……武力で対抗しようとするのは、あまりにも予想される損害が多すぎる。
 二宮が荒事に特化しているように、姉には姉の得手があるのだから、そちらで勝負すれば良い、と、シルヴィは判断する。
 また、シルヴィがそう判断することをあらかじめ予測していたからこそ、荒野も、シルヴィを、楓の修練見学に誘ったのだろう。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(2)

第五章 「友と敵」(2)

「……加納君!」
 次の日の放課後、帰宅しようとしたところを加納荒野は女生徒に呼び止められた。席が比較的近い……たしか、本田類とかいう名前の生徒だ。
「なに?」
 荒野は反射的に愛想笑いを浮かべながら、返事をする。
「なにっ、て……掃除。
 もうクラスの一員なんだから、当番、さぼっちゃ駄目」
「掃除?」
 みれば、教室の後ろにあるロッカーから、箒やちりとりなどの掃除道具を生徒たちが取り出していた。
「あの……学校の掃除って、日本では……おれたち……生徒がやるもんなの?」
「……あのねぇ……」
 本田さんはため息をついた。
 ……この帰国子女は、とぼけているわけではなく、本当になにも知らなかったようだ……。
「あなたが今までいたところではどうだったか知らないけど、日本では、教室の掃除は、生徒が交代でやることになっているの。
 それで、あなたは当番であるにも関わらず、今まで掃除しないで直帰してたの……」
「……ああ。悪い。
 そうか……もっと早くいってくれたらよかったのに……」
 事情を聞いて納得した荒野は、早速鞄を自分の机に置き直して、他の生徒と同じように、掃除道具を手にする。
「みんな変に遠慮しちゃっているんだよね……君とか才賀さんとか、なんとなく近寄りがたいし……」
「……そうかぁ? おれはこの髪だからあれかもしれないけど、才賀は外見上、普通の日本人だと思うぞ……」
「普通、って……。
 あんなに綺麗な子、めったにいないって……。
 年末の商店街のあれもあるし、みんな最初はプロのタレントかなにかだと思ってたし……」
「まあ、たしかに、綺麗だとは思うけど……」
 本田にそういわれて、「……確かに才賀のやつ、学校ではなんかとり澄ましているよなぁ……」と、荒野は納得する。
 荒野にとって才賀孫子とは、楓と張り合っている時とかの、感情の動きがわかりやすい少女、という印象が強いのだが……。
「で、掃除って、まずなにすればいいの?」
「うーん……みんな、だいたい帰ったようだから、とりあえず、机を後ろに下げる。掃きやすいように」
 なるほど、本田の言葉に頷いた荒野は、教室の一番前の机に手をかけて、一挙に一列分の机を後方に下げる。
 と、なぜか教室に残っていた掃除当番の生徒が全員、目を見開いて荒野を注視していた。
 なに? と首を傾げた荒野に、本田は、
「……狩野君、よくそんなに、いっぺんに動かせるね……普通は、一つとか二つずつずらしていくのに……」
 と、呆れたような感心したような顔をして、呟いた。

「……じゃあ、外国では、学校の掃除、生徒がしないの?」
「外国全部がそうかどうかはわからないけど……」
 掃除が終わり、行きがかり上、帰る方向がだいたい同じだ、という本田と、途中まで一緒に帰ることになった。
「……おれが通っていたところは、そういうのなかったなぁ……。
 たぶん、清掃業者とか学校の職員がやっていたんだと思う……」
 荒野がまともに学校に通っていた時期といえば遙か昔の幼少時、ということになり、その辺の記憶は実はかなり曖昧だったりする。
 それでも、荒野には、学校で、自分たちの教室の掃除をした、という記憶がない。
「……ふーん……そんなもんなんだ……」
 本田が何気なく頷いたその時、
「……おーい!」
 と叫びながら荒野たちに近づいてくる者があった。ユニフォームを着ている所をみると、野球部の部員なのだろう。
「狩野君! もう部活は決まったか!」
 顔が判別できる位置まで近づいてくると、そのユニフォームの男子生徒は、荒野に向かって叫ぶように、いう。
「ええと……嘉島君、だっけ?」
 実は荒野は、以前身辺調査を行ったおり、クラスメイトの顔と名前は大体記憶している。だが、あまり記憶力がよすぎるのも不自然だと思ったので、軽く眉をひそめて思い出すふりをして見せた。
「部活って、なに?」
 嘉島と本田は、驚いたような顔をして、顔を見合わせた。
「クラブとか部活って、……向こうでは、ないのかな?」
「全くないってことはないだろう。
 向こうの青春映画とか、フットボールとかバスケとかやってるじゃないか……チアリーディングとか……」
「……ああ……そういえば、そういうの見たことあるような気がする……。
 でも、ああいうの、ほとんど大学の話しじゃなかったけ?」
「……いや、二人の話し聞いて、なんとなくわかった……」
 荒野は嘉島と本田のやりとりを遮った。
 そういえば、最初にこの学校に教科書を取りに来たときも、女子バスケ部が練習していたし、今の嘉島もベースボールのユニフォームを着ている。
「……でも、そういうのって、好きな人が集まってやるもんじゃないの?」
「うーん……本当は、そうなんでしょうけど……」
「この学校では、強制的に最低一つはなにかのクラブに入って活動することになってる。
 まあ、籍だけいれておいてあとは幽霊部員、ってパターンも実際は多いけど……。
 でも、部活真面目にやっていると、内申が良くなる……」
「……ナイシン……」
 荒野が呟いたのは、単に、その単語の意味を知らなかったからだ。
「あ。でも、ちゃんと成績良かったら、部活なんかやっていなくても、普通に進学できると思うから……」
 慌てて本田がそう付け加える。
 その様子をみて荒野は、「本田はその幽霊部員というやつなのではないか」と推測し、本田に部活の話題を振るのはやめることにした。
「……で、嘉島君……」
「嘉島でいいよ」
 ユニフォーム姿の嘉島は、冬だというのよく日焼けしていた。こっちは好きでクラブ活動をやっているタイプだろう、と、荒野はあたりをつける。
「では、嘉島。
 そのクラブとか部活で、一番早く帰れるのはどこだ?」
 荒野のその言いぐさを聞いて、「そこまで直球でくるか」と嘉島は笑った。
「……いや、おれもクラス委員だから、いきがかり上、狩野君に声かけただけで……。
 そもそも、全クラブの実態知っているわけではないから、どの部が一番楽か、なんて、なんともいえないよ……」
 慎重で、誠意のある答え方だ……と、荒野は嘉島という生徒に好感をもった。
「楽じゃなくてもいいんだ。早く終わりさえすれば。
 おれ、できるだけ早く帰って、晩飯の用意とかしなけりゃならないんで……」
「あ!」
 本田が、ぽん、と柏手を打つ。
「そういや、あれ、本当なの?
 狩野君が妹さんと二人きりで暮らしているって噂……」
「うん。本当。おれら、両親もういないし、じじいは滅多にこっちに帰らないから、最初から二人で暮らすことにした。じじいの知り合いの三島先生が、一応の保護者代わり……」
「……へぇ……ミニラ先生がねぇ……」
 嘉島が何故か目を細める。
「あの先生、いろいろ評判悪いけど、なかなかいいところもあるよな……」
 嘉島は、部活の関係で何度か三島の世話になったことがあるのかもしれない……と、荒野は思った。

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彼女はくノ一! 第四話 (10)

第四話 夢と希望の、新学期(10)

 その日、香也のクラスメイトら来客者たちは、日が暮れる前に帰っていった。もともとその場のノリと勢いで狩野家に乗り込んだあげく昼食まで出されたわけで、さすがに長居はしずらかったらしい。
 松島楓も加納茅も、転入初日から知り合いが増え、おまけに香也もなりゆきで一方的に顔を売ってしまった形でもあり(香也のほうは、例によって顔は覚えていても、ほとんどの来襲者たちの名前までは記憶していなかった)、結果としては良かったのではないか……というのが、狩野家関係者の大方の意見であった。
 来襲者たちが帰って行くと、残された狩野家の人々と加納兄弟は例によって居間の炬燵に集合した。夕食まで少し間があったし、茅が本格的な紅茶をみなに御馳走したかったからだ。どうやら、紙コップの一件で意外にフラストレーションが溜まっていたらしい。
「まあ、なんだ……柏妹ちゃんのやり方は、強引といえば強引だったけど……」
 羽生譲が茅がいれてくれた紅茶の香りを楽しみながら、炬燵にあたっている面々にいった。羽生はもともとコーヒー党だったが、茅が御馳走してくれるようになってからは、紅茶の良さを再確認させられている。
「……あれ、結果的には良かったんじゃないのか?
 こんなことでもなけりゃ、こーちゃんの性格だと、クラスの人たちと打ち解けたりしないだろ?」
「好奇心旺盛でなんにでも鼻突っ込みたがる……あの年頃の子たちは、どこの国にいっても同じねぇ……」
 加納荒野の左腕にしがみつくようにして密着している金髪女性がいった。浅黒い肌と青い瞳が、複雑な混血であることを物語っている。
「……そういや、当然のようにいつの間にかそこにいるあんたは誰かね? おねーさん……」
「あら? 失礼、自己紹介がまだでしたわね。
 わたくしは、シルヴィス・ジョゼフィーヌ・カテリナ・サンタマルタ・エリス・ジェリカ・ジェシカ・マグダレーナ・アンジェリカ・エレンディア・アゴタ・ナンシー・クロエ・クリス・クローディア・カルネアデス・姉。カノウコウヤを幼少時、預かっていた家の娘で……いわゆる、姉代わりです……」
「……なっげー名前……」
 羽生譲は新しい煙草に火をつけ、その女性に抱きつかれている加納荒野のげんなりした表情を観察した。
「そっちのこーやくんの関係者ってことは……ひょっとして、おねーさんもザ・ニンジャ?
 まさか、二宮さんみたいに家に下宿したい、なんていいだすんじゃないでしょうな……」
「二宮? あんなのがこの家に住んでいるの? コウ!」
 シルヴィは羽生譲の質問には答えず、抱きしめていた荒野の腕をがくんがくんと揺さぶって尋ねる。
「……大丈夫だよ、ヴィ。あれ、今日は仕事で遅くなるっていってたから、当分帰ってこない……」
 揺さぶられた荒野は、どこか遠い目をして答える。
 ……なんとなく、悟りを開いたっぽい表情だ……と、見ていた羽生譲は思った。
「……そういや、ヴィ……しばらくこっちにいるんだろ? どこに住むつもり?」
 荒野がそう聞いたのは、シルヴィまでがこの狩野家や荒野たちのマンションに転がり込んでくることを懸念したからだ。
 荒野にしてみれば、これ以上、心配の種を増やしたくない。
「まだこっちに着いたばっかりで、決めてない……。そのうち適当なところ見繕うつもりだけど、当面はホテル住まいね。
 ……そっかぁ……二宮がこの辺に居着いているってきいたけど……こんなに近くに住んでいるの……。
 では、コウのマンションに転がり込むってプランは却下ね……」
 荒野が知らない昼間の一件で、シルヴィは荒神に強い警戒心を抱くようになっている。
『あんな化け物の近くにいたのでは、落ち着いて生活できやしない……』
 というのが、シルヴィの本音だった。
 そんなシルヴィの思いは知らず、荒野は、返答の内容のみを了解して、一人安堵のため息をついた。ようやく落ち着きかけてきた荒野と茅が住むマンションに、「シルヴィ・姉」なんて要素が新たに入り込んできたら……確実に、荒野の気が休まる暇もなくなる。
「……それで……コウ。
 二宮の二番目の弟子ってのは、どの子?」
「あ。はい。
 たぶん、わたしの事かと……」
 松島楓がおずおずと片手を上げる。
 楓にしてみれば、荒神に一方的に師弟宣言をされてそれに従っているだけ、なので、自分が荒神の何番目の弟子にあたるのか、などということは、考えたこともない。
「……だってさ。おれも後で聞いたんだけど……」
 荒野は冷めかけた紅茶を啜った。徐々に、普段の自分のペースを取り戻しつつある。
「楓は確かに素質あると思うけど……あの人も、なに考えているかなぁ……」
「……で、後の二人のうち、どっちが姫?」
「あっち。メイド服のほう……」
 荒野は炬燵に両手をつっこんだまま、顎をしゃくっただけで忙しく立ち働いている茅を示した。見ると、狩野香也のほうも香也と同じような姿勢でふったりと炬燵にあたっている。
 ……慣れないことして気疲れしたんだろうな、と、荒野は思った。
「……なに? あの服装?
 最近の日本ではああいうのが流行っているの?」
「ごくごく限定的な流行らしいね」
 まだ詳細な経緯を話せるほど回復していない荒野は、適当に答える。
「……それじゃあ、こっちの娘は?」
「才賀孫子。あの才賀の。いろいろ事情があって、この家に下宿している」
 例によってかなり投げやり気味に荒野が答える。
 今はただ、疲れた体にしみいる炬燵のぬくもりだけが愛おしい……。
「……へぇ……才賀の、ねぇ……」
 シルヴィが珍獣をみるような目で炬燵にあたっていた孫子を見つめる。その視線をうけた孫子は、不快そうに眉をひそめた。
「二宮がそっちのタヌキみたいな娘に肩入れするんなら、わたしはこっちのキツネみたいな子に肩入れしよっかなぁ……」
 さらっりととんでもないことをシルヴィが言いだしたので、荒野は炬燵の天板に思いっきり額を打ち付けてしまった。
「タヌキみたいな娘」とは丸みを帯びた体つきの楓、「キツネみたいな子」というのはほっそりとした長い手足を持つ孫子のことだろう。
 もちろん、どちらの少女も動物に例えられるほど野卑た雰囲気は漂わせていないので、記号化された印象なのではあろうが……。
「ヴィ!」
 顔を上げた荒野は、叫んだ。
「なにを考えている!」
「……あっらぁ……」
 いかにも心外そうな顔をして、シルヴィは荒野の顔をまじまじと見つめた。
「わたしはいつだって恋する乙女の味方よぉ……。
 それに、片方だけが六主家のバックアップ受けているなんて、アンフェアじゃない……」
『……そういう問題じゃないだろ!』と、荒野は叫びたかった。
「……ねーえぇー、孫子ちゃん……。
 見ればわかるわよ。そこのタヌキ娘に敵愾心燃やしているんでしょ? あなた……・
 このおねーさんがぁ、女の戦い方ってもの、おしえたげよーかー……」
 そんな荒野は無視して、シルヴィは猫なで声で孫子に語りかける。
「……あなた、みたところかなり鍛えているようだけど、才賀なら、忍の技なんてほとんど知らないでしょ?
 本当なら門外不出の技、特別にわたしが教えてさしえげてもいいのよぅ……」
 シルヴィの悪魔の囁きに孫子が回答する前に、
「……まあ、なんだ。そういうことはまた、食事の後にでもゆっくり話し合うんだな……」
 台所から顔を出した三島百合香が、シルヴィの言葉尻を引き取った。
「……とりあえずは、少し早いけど、メシだ。
 わたしと姉崎は、いろいろあって昼抜きだったからな……」

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髪長姫は最後に笑う。第五章(1)

第五章 「友と敵」(1)

 荒野と茅の学生生活は当初予定したよりもずっと平穏に推移した。
 社会経験が極端に欠乏している茅は、相変わらず時々とんちんかんな言動を繰り返しているようだが、同じクラスの楓とか香也、それに、始業式の日に狩野家に遊びに来たクラスメイトたちにうまくフォローされている……らしい。
 らしい、というのは、茅が学校にいる間は荒野も別の学年、別のクラスで授業を受けているから直接知りようがないからで、授業中の茅の様子に関しては、伝聞に頼るほかない。
 また、そろそろ茅にも荒野以外の様々な人と接して欲しい、という期待も、荒野にはあった。
 その面でも「学校」という環境は、今の茅には必要かつ適切に思えた。あえて難をいうのなら、知り合うのがほとんど同年輩の人間に限られるのが、学校という場所の難だとは思うが……その辺は、後で別の場所で解消するよりほかないだろう。学校とは、同年輩の若年者が集まり、集団生活を通して社会的なルールを学ぶ場所であり、その伝でいえば、茅ほど「社会的なルールを学ぶ」必要性がある生徒も、珍しい。
 楓の報告によれば、茅の時折見せるとんちんかんな言動は、「多少風変わりな所がある生徒」と認識されている程度で、本格的に茅の自出や経歴に不審な目を向けている者は、今のところいないらしい。
 今のところ、茅は、朝起きて、少し走り、シャワーを浴びてから、みんなと登校し、帰りに図書館かマンドゴドラに寄って(両方に寄る場合もある)から、夕食の材料を買ってきて、荒野と一緒に夕食を作って食べる、という生活をルーチンで行っている。携帯に登録されるアドレスも日々増えていて、友人、と呼べる者も学校に出来始めているようだった。

 だから、「茅には」ほとんど問題らしい問題がなかった。

「……なにぃ? 給食の量が少ないだぁ」
 荒野が昼休みに保健室に寄って「深刻かつ重要な当面の課題」について三島百合香に相談すると、三島は本気で呆れ返った声を出した。、
「そうっす」
 荒野は憮然として答えた。三島がどのような態度をとろうが、荒野にとっては深刻に問題である。
「あの量だと、いざという時、力が出せません」
 この学校の給食の味は、学校給食というものがたいていそうであるように、あまり芳しくない。しかし、くそまずい野戦用のレーションなども食べ慣れている荒野にしてみれば、上々、といったところだろう。少なくとも、食べ物の味がする。
 だから、給食の味には特に不満がない。味については不満はないが、量については大いに不満があった。
「……って、いってもなあ……基本的に学校内、飲食物の持ち込み禁止だし……」
 もちろん、給食のない日、部活などで学校に残る生徒が弁当などを持参する事は許されている。しかし、平日に関しては、飲食物を持ち込んで校内で飲み食いすることは禁じられていた。
「それに、別にすぐに飢え死にするってわけでもなかろう。
 我慢しろ、我慢」
「もちろん……死ぬわけではないですがね……。
 おれ、腹が減ると、通常時の半分も力が出ないんですよ……」
 事実、何年前に計測してみたところでは、荒野が十分な食事をとっている時ととれない時とでは、反射速度は半分ほど、筋力は三分の一ほどに落ちる。
 そのデータを三島に告げても、
「お前さんの場合、そんくらいでようやく人並みだろ……」
 と、にべもない返答しかもらえなかった。
 平和な日本に生まれ育った三島には、危機管理の重要性がよく理解できないのだ、と、荒野は引き下がるしかなかった。

 しかし、完全に校内での食量確保を諦めたわけではない。
 いつ、どのような状況で茅や自分が襲撃されるかわからない現在の状況では、運が悪ければ、最悪の事態も招きかねない。
 ……荒野は、そう判断する。

「……それでぇ、わたしの所にきたってわけぇ……」
「こんなこと、先生以外に相談できるとしたら、ヴィだけなんだ……」
 三島がいる保健室の次に荒野が赴いたのは、シルヴィ・姉崎が学校内での根城にしている生徒指導室だった。どういう手管を使ったのか知らないが、この生徒相談室に私物持ち込み、シルヴィは私室のように使用している。
 もっとも授業時間中は、英語教師の誰かに張り付いて、「研究用の資料」とやらを収集したり授業の手伝いをしているので、ほとんどここにいる時間はない筈だったが……。
 荒野にしても、シルヴィ・姉崎に相談をするのは不本意である。しかし、だからといって……「もう一人の関係者」に相談するのは、問題外だった……。
「……そうね……あの罰当たりな天災野郎に持っていくよりは、わたしのほうがまだしも無難かぁ……」
 シルヴィにとっても荒野にとっても、その突出した能力と行動の予測し難さ、という二つの要因のため、「二宮荒神」という存在は鬼門に近かい存在である。
「……わたしがなんとかしてもいいけどぉ……」
 シルヴィは蠱惑的な表情を浮かべる。
 途端に、荒野の姉代わりをしていた子供時代には、とうてい浮かべることができない妖艶さが漂う。
「わたし、コウのベイビィ欲しいなぁ……」
 シルヴィの要求は、冗談でも奇異なものでもなく、むしろ、「姉崎」としては当然そうくるであろうと予測できる要求だった。
 血縁に拘る姉崎にしてみれば、加納本家の跡継ぎの子を宿し、太いパイプを作ることは、大きなメリットになる。成功すれば、姉崎の中でのシルヴィの地位も向上するだろうし、生まれてくる子供には、最高の教育環境も用意されるだろう……と、予測できた。
 だから、荒野は、そのシルヴィの要求を聞いた時「やはり」と思い、口に出しては、
「やっぱりいいや。この相談、忘れて」
 あっさりそういって、生徒指導室を出た。生徒指導室を出たところで、ちょうど昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴ったので、シルヴィも荒野の後を追ってこない。荒神もそうだが、シルヴィも潜伏先の学校内では、普通の常識人として振る舞い、非常識な言動はしない。
 シルヴィの誘いというのは……シルヴィが懐妊するまで、何度かシルヴィと同衾するだけ……で、荒野は、姉から、途方もない優遇措置を受けるはずだった。見方によっては魅力的な取引……と、いえないこともなかったが、それだけになおさら、慎重に身を遠ざけなければならない……と、荒野は思う。
 うっかり誘いに乗れば、自分は姉崎に骨抜きされ、姉にいいなりの傀儡にでもなってしまうだろう、と。
 姉はそうした「寝技」には熟練している。なにせ相手は、関係した男をいいように操る技を、何百年も磨いてきた一族なのだ。

 そんなわけで、その日も「空腹問題」について解決を見なかった荒野は、帰りに駅前まで夕食の材料を買いにいくついでに、特盛の牛丼を買い食いしなければならなかった。

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髪長姫は最後に笑う。 「第四章」登場人物一覧

第四章 「叔父と義姉」 登場人物一覧

加納荒野
 主人公。
「忍者の一族の御曹司」というアリガチな設定で、アリガチから遠く離れた悩みを随時抱え込む、ある意味かなり不遇な少年。

加納茅
 主人公。
 たぶん、この物語の中で一番自由気ままに振る舞っている。

狩野香也
 荒野と茅のマンションに隣接する狩野家の息子。
 何故か女性が寄ってくる主人公特権野郎。

松島楓
 荒野につけられた手下。以前は全然荒野にあてにされていなかったが、最近はなんだかんだと信用されつつある。
 描写されていないところで結構地道に頑張っていたり。

才賀孫子
 強制的に狩野家に下宿させられた、某財閥のお嬢様。
 人気の高さはお約束コードてんこ盛りな設定のせいか?

三島百合香
 時たま真面目な事をいうと、すごい常識人にみえる。
 役得というか、いいポジションだよな。

羽生譲
 狩野家の同居人。気だてのいいおねーさん。
 でも、学校が舞台になってくると、必然的に出番は減るはず。

樋口明日樹
 香也の部活の先輩。後に、荒野や孫子のクラスメイトになる。
 眼鏡っこは巨乳の法則、は適用されない。普通の大きさです。

柏あんな
 香也のクラスメイト。
 元気で活発で性格もいい。成績は悪い。

堺雅史
 柏あんなの彼氏。

飯島舞花
 荒野たちと同じマンションに住むことから、頻繁に顔を合わせるようになる。

栗田精一
 飯島舞花の彼氏。

二宮荒神
 六主家の一つ、「二宮」の長。「最強にして最凶」。
 他の一族からは「歩く天災」とか「アンタッチャブル」とか言われている。
 当初、「渋くてごついおっさん」系のキャラにしようという構想もあったのだが……あまりにもアリガチで面白くなさそうなので現在の形に。

シルヴィ・姉
 六主家の一つ、「姉」の一員。「姉」の中では中堅クラスの地位にある。
 でも、「姉崎」の名前が出たときから、こういうキャラ予想した人は絶対いると思う。

狩野真理
 狩野香也の義理の母。
 段々出番が減っていく。

加納涼治
 直接の出演はないが、なんだかんだで困ったときには頼られる人だから、電話を受けては裏でごそごそ後始末の手配とかかなりやっている。

柏千鶴
  隙をみてまた出そう。



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彼女はくノ一! 第四話 (9)

第四話 夢と希望の、新学期(9)

 羽生譲のマシンは自作機で、羽生の部屋に案内された堺雅史は、その無骨な筐体のメインスイッチを入れる。ほぼ同時に、羽生はプリンタ兼用スキャナ、いわゆる複合機の電源をいれる。スーパーカブを愛車としていることからも推察できるように、羽生譲の商品購入選択基準は、購入時点での性能/価格比率、つまりコストパフォーマンスを最重視する傾向がある。
「……ハイスペックですねぇ……」
 立ち上げ時に表示されるハードウェア情報を目にした堺が、目を丸くした。
「絵とかやってると、CPUのベンチとメモリは多いほど良くてな。
 なんだかんだと増設したりパーツ入れ替えたしちゃうんだ、これが……」
 羽生が割合頻繁にパーツの増設や入れ替えを行うことも、マシンがメーカー制ではなく自作機になっている一因になっている。
「……まあ、どんなに高性能になっても、わたしら絵描きにはアナログな道具のが一番しっくりくるんだがな……」
「……そういうもんなんですか?」
「んー。慣れの問題っていえばそれだけだけど、さ……パソコンのお絵かきソフトってのは、だいたい便利過ぎるんだよ……機能ありすぎ。
 例えば、いくらでもアンドゥできたり、レイヤー重ねられたりするだろ? ああいうの、アナログの道具に慣れていると、どうもずるっこしているようでな……」
 羽生譲は傍らにいる狩野香也を示す。
「うちのこーちゃんにもな、前に一度触らしてみたんだ、その手のソフト。
 何種類か触らせてみたけど、結局一番使いたがったのは、アナログの画材を愚直にシミュレートするシンプルなソフトだったなぁ……」
「……ん……」
 香也も、そういう話題だと話しの輪に入る。
「……パソコン……絵の具で汚れないし、道具の手入れもしなくていいし……便利なんだけど……画面小さいし、目は粗いし……細かいところまで書き込む作業には、まだまだ向いていないと思う……」
「画面は、今、大きな液晶どんどん安くなってきているけど……ドットの大きさは……うーん。たしかに、当分変わらないと思う……」
 そんなことを話しながら、堺は立ち上がったマシンを操作し、ブラウザを立ち上げてタイピング・タッチでアドレスを入力、ソーシャルネットのログイン画面が表示されると、ユーザーネームと暗証番号を素早く入力、ゲーム制作の関係者しか入れないページを表示させる。
「後で、狩野君のIDも発行するから……」
 といいながら、スキャナで香也のラフ・スケッチを取り込み、その画像を一枚一枚アップしていく。途中からスキャナの操作を羽生が手伝ってくれたので、枚数がある割には、スムーズに作業が進行した。
「……後は、他の人たちの反応待ちなんだけど……」
 堺雅史は狩野香也をちらりと見て、
「狩野君、自分のID、発行してみる? 今アップした絵の反響、後で、自分で確認できるよ」
 ソーシャルネットのユーザー登録画面を表示させた。
「こっから先は、こーちゃんにやらせないと……自分でやらないと、いつまでも覚えないし……」
 羽生譲にも背中を押されて、狩野香也は、おそるおそる、といった感じで、たどたどしくキーをタイプし、フォームに必要事項を入力していく。登録にはメールアドレスが必須だったが、以前、羽生譲が香也専用に作っておき、全然使用していないフリーのアカウントを香也は持っていた。
 最後に、ユーザー名:「kouya」、パスワード:「*****」と入力すると、登録作業は終わった。
 香也と交代して再び堺がキーボードに向かい、しばらくタカタカ打鍵する。
「うん。これで、狩野君、今のサイトに入れるようになったから」
 堺雅史は香也に向き直ってそういった。
 羽生譲は、堺にログイン画面を表示させ、そのアドレスをブックマークに登録する。
「いつでも絵の感想みれるし、自分で絵をアップもできる。あと、定期的に覗いてくれると、助かる。キャラクターの設定変更とか、まだ頻繁にあるから……」
「……んー……」
 香也はしばらく考えてから、堺に聞き返した。
「その絵なんだけど……やっぱり、色、ついていたほうがいいのかな?」
「……そのほうが、他の人たちもイメージしやすいと思うけど……」
「……んー……じゃあ、今、色つけちゃう。
 羽生さん、この間のソフト、どうやってはじめるんだっけ?」
「……あー。はいはい。あれね……」
 羽生譲は、ペンタブレットに付属していたお絵かきソフトを立ち上げる。
「ここ、クリックすると、ファイル名を表示するから。さっき取り込んだ絵は、このフォルダな……」
「……んー……こう、かな?」
 香也は、適当に開いたファイルの内容、ラフスケッチの線画が表示されるのを確認してから、ペン先と色を選択し、ちゃっちゃと色を乗せていく。水彩風の淡い色遣いで、大まかに服、顔や手など露出している肌色の部分、それに髪の毛に色を乗せただけだが、それだけでも、ラフな線のみの状態と比べると、かなり見栄えがした。
 ソフトには不慣れ、とかいっていた割には手際が良く、たちまち二枚、三枚、と、仕上げていく。
「おい! やっぱすげぇよ、狩野!」、「はっえぇー……」、「これ、よくみると、うちの制服なんじゃないか?」……。
 例によって騒ぎはじめるギャラリー。
「……んー……ぼく、学校の制服、これしか知らないし……」
 香也は手を休めずにそう答える。取り込んだスケッチは三十数枚あったが、その全てを着色し終わるのに二十分ほどしかかからなかった。その着色作業で、香也はそのお絵かきソフトの基本的な操作を、だいたい飲み込んだ。
「……堺君。これ、またさっきのに上げなおすの、どうすればいいの?」
「……う、うん。まず、さっきのログイン画面だしてログインして……」
 堺の指示通りに自分でやってみて、香也はなんとか新たに着色した絵のファイルをアップロードする。
「……狩野君……慣れてない、っていってたけど……飲み込み、早いよ……」
 全ての作業を終えた後、堺がそういうと、香也は頭を掻きながら「……んー……」とうめいた。
 どうやら、照れているらしい。
 その時、なぜかギャラリーからぱらぱらと拍手が起こった。

 その後、楓が堺に質問して、ゲーム制作に使用しているスクリプトを配布しているサイトを開いたり、そのスクリプトに関して簡単に説明したりする。
 一通りの説明を聞いた後、楓は「これなら、なんとか自分にもできそうです」といったので、堺は楓もゲーム制作のソーシャルネットにログインできるようにした。
「……そういえば、堺さんは、このゲームで、どういう作業しているんですか?」
 楓に尋ねられ、堺は照れたような表情を浮かべながら、答える。
「ぼく、一応、スクリプト書きで、そのつもりで制作に入ったんだけど……最近では、年少者組のとりまとめ役、みたいな仕事が多くなってきている……」
 ゲームの制作者たちも、年齢的にはバラつきがあり、同年輩の人間のほうがなにかと意見をしやすい、ということもあって、堺は、同年輩の制作者たちの間で起こる摩擦の緩衝役、みたいな作業をすることが多い、という。
「ぼく、プログラマ志望なんだけどな……」
 と堺自身は不満そうだったが、香也は、人当たりの良い堺には、そうした役割が似合っている、とも思った。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(48)

第四章 「叔父と義姉」(48)

「……今まで接触してきた他の六主家のヤツらは、自分らの眷属の総意を即答をしてこなかったぞ……」
「……それはぁ……」
 不審がる三島に、シルヴィ・姉は不敵な笑顔をみせる。
「秦野と姉を除く他の六主家は、所詮、能力だけが自慢の烏合の衆ですから……それに……」
 ……女って基本的に噂話が好きなんですの……おかしな動きをする姉崎がいたら、すぐに他の姉に知れ渡りますわ……。
 と、シルヴィ・姉はつけ加える。
「……先生……わたしたち姉について、どのように聞かされています?」
「……ええと……埋伏の上手、天正あたりに海外にでてって、明治辺りから一族に合流してきたって……」
「そうそう。口伝によると、もともとわたしたちの祖先は歩き巫女の一派として代々女系相続を行ってきたそうです……」
 諸国を渡り、神になりかわり、あるいは、神前に供えるものとして、性をひさぐ。しかし、現在の経済活動としての売春行為ではなく、その当時には房事も神事として扱われていた。少なくとも、姉の祖先にとっては……。
 しかし、時代を経るにつれ、周辺の事情は変化する。
 神事よりも経済が重視されるようになり、同じように寺社を渡り歩く芸能民たちや職人との融合も始まる。旅を止め、諸国に根を張り、元の仲間たちに拠点を提供するものも多くなる。それに、諸国を渡り歩く、という祖先の性質上、情報を収集し、それを諸侯へ売買することも、はじめるようになる……。
「でも、当時の日本、諸国の併合がどんどん進んで、すぐに統一されちゃうでしょう?」
 姉ははるか昔のことを、数日前の事を話すかのような気軽な口調で語った。
 当時、羽振りの良かった者たちが、時の権力者に過分な打撃を食らったのを契機に、大半の者が、一旦海外に出ることになった。
「伝承によると、当時興隆を極めた女歌舞伎には、わたしらの祖先がかなり関わってたって話しなんだけど……」
 そんなことを言われても、三島は理系だったので、とっさに出雲の阿国の故事とかが連想できないのであった。
「……鎖国の時も、なまじ文物の出入りが規制されていたもんで、かえって密貿易は旨味があったそうでね……」
 国外に出た姉たちは、倭寇や行く先々での土地の有力者たちと体を張って結びつきを強めながら、アジアからヨーロッパまでに届く「血のネットワーク」を張り巡らせ、今では、それはは世界中を覆うものになっている。
「だからぁ……すごいですよぉ、姉の情報伝播力……。
 姉様方や婆様方、身内についてのあることないこと、始終触れ回っている。だから、滅多な隠し事なんて出来やしない……」
 怪しまれない程度に間隔を置いて到着する車両に順番にけが人を乗せて搬出する作業を、手配したり監督したりしながら、姉はそんなことを三島に話して聞かせた。
 路地の入り口と出口には、三島が来たときから「工事中につき車両歩行者通行止め」の看板が出されており、警備員も配置されていた。もともと通行人のほとんどいない、塀に囲まれた狭い道だったので、いきなり交通閉鎖されても、あまり人目を引かないようだ。
 そうした場所を選び、五十人からの護衛を連れてシルヴィは二宮荒神に接触したのだが……相手が、悪かった。あの「神」を自称した「最強にして最凶」は、シルヴィの予測と思惑を遙かに超越した存在だった。
 ……いろいろな、意味で……。
「……そんなんだからぁ、わたしたち姉は、他の六主家ほど、個人の能力には期待してないのです。
 どんなに超人的な能力を持っていても、個人にできることは、所詮、集団にできることに及ばない。わたしたちの力は、点ではなくて、線であり面。グローバルなネットワークと豊富な資金、それに、がっしりと根を張った組織力……」
 ……特異な能力が必要なら、外部からそうした能力を持つ者を雇うか懐柔するかして、引っ張ってくればいい、というのが、姉の発想だった。だから、姉は、遺伝子操作などに、興味は持たない……。
「……さらにいうと……」
 姉にとって「子を産み、育む」ということは、かなり神聖な行為だ、ともつけ加える。
「わたしたち姉にとって、婚姻を結び、子供を作ることは、自分たちの基盤を強化するという意味でも重要な行為です。また、実際に血の繋がりがなくても、一度家族とみなした者に対する愛情は、終生変わることはありません……」
「……だから、『わたしのコウ』かい……」
 今朝、職員室の前で、姉が荒野に抱きついている光景を思い出して、三島は半眼になった。
『……コイツに……荒神も、ほとんど同じ事を荒野にやっている、って知らせたら……どんな顔をするかな……』
 三島百合香は、ふとそう思った。
 そんな三島の思考など知るよしもなく、姉は自分の頬を掌で覆い、
「……だってぇ、コウったらあんなに恰好よく、逞しく育っているなんてぇ……」
 とかいいながら、一人で顔を赤くして、ぶんぶんと首を振っているのだった……。
『……荒野のやつ……』
 三島は、どんどんしらけた気分になりながら、そんなことをぼーっと考えていた。
『……年上の身内だけに効果があるフェロモンでも分泌しているんじゃないのか? あいつ……』

 堺と香也が他の連中をぞろぞろと引き連れて母屋に入っていくのと同時に、
「ぼくも、ちょっと用事があって、これから遠出してきます。今夜中には帰りますが、ぼくの分の夕食は要りません」
 と、荒神も腰を上げた。
 用事とは、多分、本業の荒事、のことなのだろう、と、荒野は予測する。荒神にとって「二宮浩司としての仕事と生活」は、あくまでかりそめのものである。
「いや、お食事、実においしかった……」
 最後にそういいながら、荒神は狩野家を後にした。
 庭の入り口で出て行く荒神を見送り、荒野は内心、かなり安心した。同性とはいえ、いや、同性であるからこそ、か、人前で、あれほど頻繁に肉体的な接触行為を強要されるのは、一種の精神攻撃ではないか、と、荒野は思う。
 荒神の背中が小さくなるまで見送って、ほっとしながらきびすを返し、荒野が母家に入ろうとすると……。
「コウ! わたしのコウ!」
 その背中に、いきなり、抱きつかれた。
 誰に、というのは、確認しなくても分かっている。荒野を「コウ」と呼ぶ人間は一人しかいない。朝の職員室前の再現。しかし、今いるギャラリーは、ほとんどが香也たちの同級生だった。
 シルヴィ・姉の声に反応し振り返った、母屋に入りかけた連中が、時ならぬ珍事に目を見開いて「おおっ!」と、声を上げ、騒ぎはじめる。
「プラチナ・ブロンドがブロンドさんに抱きつかれてるYO!」、「あれ、始業式の時に挨拶してた、なんとかってやたら名前の長いおねーさんじゃ……」、「年上か! 時代は年上なのか!」……などなど。
「……はぁーい!」
 シルヴィ・姉は荒野の背中に顔を埋めながら、片手を上げて、生徒たちに挨拶をした。
「わたし、コウ……荒野の姉代わりやってた、シルヴィ・姉崎! フルネームはちょー長いのでここでは省略。
 シルヴィかヴィって呼んでね!」
 その「シルヴィかヴィ」の後ろには三島百合香も立っていて、なぜか達観したような表情で「やれやれ」とでもいいたげな表情をして、肩をすくめながら首を左右に振っている。

「荒野……年上キラー?」
 玄関口に固まっていた生徒たちの戦闘あたりにいた茅が、荒野たちのほうに向き直り、誰にともなく、真顔でそう問いかける。

 加納荒野の新学期と学生生活は、このようにして開始された。

 [第四章・完]

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彼女はくノ一! 第四話 (8)

第四話 夢と希望の、新学期(8)

 パスタとサラダ、それに紅茶の昼食はおおむね好評だった。一月初旬であるにもかかわらず快晴で無風のその日、肌を引き締めるような外気の温度と暖かな日差しの落差が心地よく、野外でも比較的に快適に過ごすことができた。
 初対面の者も多かったが、出された味の感想や香也の絵、それに転入生たちや途中から合流してきた二宮浩司のことなどが共通の話題になり、皿に盛ったパスタやサラダが大方なくなっても和やかな雑談はいつまでも続いた。
「そういや、なんでいつの間にか堺が来ているわけ? たしか別のクラスだろ、あいつ」
「馬鹿だな、お前。柏が呼んだに決まっているだろ」
 柏あんなと堺雅史は、飯島舞花と栗田精一と同じく、校内公認カップルとして認識されていた。
 その堺雅史は、隣に座る柏あんなとではなく、狩野香也となにやら熱心に話し込んでいる。香也の隣には松島楓もいて、地面にスケッチブックや紙の束を広げて、時折その上を指さしながら、なにやら言い合いをしていた。才賀孫子もその側にいる。
 加納荒野、加納茅、羽生譲、二宮浩司は、大人数に囲まれながら、狩野家周辺の人々の人間関係をざっと説明している。そのうち、狩野家の息子の姿がその輪に入っていない事に気づいた生徒が、香也と堺のほうを指さして、「何やっているんだ」と近寄ってくる。香也と堺は顔を見合わせ、制作中のゲームに関して皆に説明しはじめた。
「こうしてみると、一年の狩野君はすごいよなあ……」
 香也のスケッチをパラパラと回し見しながら、集まった生徒たちは同音異義にそう言いはじめる。そのスケッチブックには、香也がほとんど即興で描いたゲーム用のキャラクターが何体か描かれていた。
「同人誌とかゲームとか、あと、絵とか……」
 そんな事をいいあっていると、「数日前にケーキ屋のショーウィンドウの絵、描いているのを目撃した」という証言も、何人かの口から出始める。
「……んー……ぼくなんか、まだまだ全然……」
 香也は謙遜ではなく、本心でそういい切る。人物画もろくに描けないし、自分が本当に描きたいものも分からない……。
「技術だけだ」と、香也は自分の絵に関しては、本気でそう思っている。
「ね。狩野君。これだけラフ画が溜まっているなら、もうそろそろネットにアップしちゃっていいかな?」
 堺雅史が香也にいった。このゲームの制作は、遠隔地に住む複数の制作者の共同作業で、関係者しかアクセスできないソーシャル・ネットのサーバにアップして意見を聞いてみよう、ということらしい。
「あ。そんなら後で、わたしのマシン、使っていいから。スキャナもあるでよ」
 羽生譲が新しい煙草に火をつけながら、片手を上げてそういう。
「ついでにこーちゃんのアカウントもつくってやったら? こーちゃん、パソとかネットとかに疎いから、基本的な所から教えなけりゃならないけど……」
 羽生がそういうと、松島楓と才賀孫子がほぼ同時に、「そんなことなら自分が……」と名乗りを上げて香也に近寄り、ぶつかりそうになって、一歩引いた位置で軽く睨み合って牽制しあった。
『おおっ!』
 と、目撃者は思った。
『こいつら、同居しているだけではないのか……』
 と。
「……あ、あの。堺……君。ちょっといいですか……」
 松島楓は片手を上げて、ゲーム用の資料の紙を示した。複雑なフロチャートがプリントアウトされている。
「ここ……ここの所の選択肢、こう、こう、こう……っと、こういう風に進んでいくと、ぐるぐるまわってどこにも抜けられなくなるんですけど……」
「え?」
 堺雅史は、楓が指さす部分を目で追いながら、頷いた。
「あれ? ほんとだ。ループになっちゃう……よく気がついたね……こんな所……」
「君、ちょっとよろしいかしら?」
 堺雅史の肩を、エプロン姿の才賀孫子がつついて振り向かせた。
「……ここ、これだけ誤字があったのですけど……」
 孫子が持っているのは、ゲームの画面に表示されるテキストをプリントアウトしたものだった。「ゲームの脚本」に相当し、完成時にゲームをするユーザーが直接目にする部分でもある。
 そのプリントアウトは、孫子が入れた朱で、真っ赤になっていた。
「……あ、ありがとうございます」
 制服のネクタイの色から判断して、孫子は堺雅史より一学年上にあたる。孫子自身が「なんとなく偉そう」な雰囲気の少女だったこともあって、堺雅史は一応敬語を使った、
「……ちょっといいですか?」
 楓が、再び堺雅史に声をかけて注意を引いた。
「このゲーム、言語はなにで組んでいるのですか? Cとかパール位なら、わたしもプログラム周りとかお手伝いできるんですけど……」
「え? ああ。あの、そんな上等なのではなくて、ほとんどアドベンチャーゲーム制作に特化したような専用言語がネットで配布されていて……」
 言いかけて、堺はなにかに気づいたような顔をして、楓の顔をまじまじと見つめた。
「……君、楓……さん。
 プログラム、組めるの?」
「はい。
 ゲームとかはやったことないのですけど……主にサーバサイドのとかは、多少、経験があります……」
『この子は……今まで、いったいどういうことをやってきたのだろう……』と、目の前の楓という少女の経歴について、堺雅史は疑問に思った。しかしそれを、自分ですぐに打ち消す。
 さっきのループ部分の指摘なども、よほど注意力を持って資料を子細に検討するか、アルゴリズムに関して素養があるかしなければ、なかなか気づきにくいバグだったわけで……それを、楓はみつけている……。
 堺は、羽生譲に声をかけてPCの使用許可をとり、香也に案内させて母屋の羽生の部屋に移動した。楓と孫子、そして一連のやりとりをみて興味を持ったのか、加納茅までが、堺の後についていく。
 何人かの来客者も、その後に続いた。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(47)

第四章 「叔父と義姉」(47)

「……いや、だからね。おれらゲイじゃなくて……」
 加納荒野はひきつった顔をしならがら狩野香也の同級生たちに説明をする。
「……親類だよーん……」
 しかし、その背中に二宮浩司が張り付いて頬をすりすりしているので、説得力はまるでない。
「荒野、らぶらぶなの」
 その横で、猫耳メイド服の茅までがそう請け負ったりするのをみて、荒野の説明を拝聴していた聴衆は生暖かい目つきをしてうんうんと頷いた。
「リーマン×美少年ね……」
「年上眼鏡はポイント高いっす」
「プラチナ・ブロンドの美少年もね……」
 などと囁きあっている女生徒たちもいる。本人たちは小さな声で話しているつもりかも知れないが、荒野の聴力は常人よりよほどいいから、丸聞こえだった。
「……今度は、教師×生徒本で……」
「……どっちが攻めでどっちが受けっすか?」
 荒野には良く理解できない内容が漏れ聞こえてきたが、なにやらすっげー厭な予感だけは、ひしひしと感じていた……。

「……えーと……まとめると、こちらのおねーさんが……」
 少し離れた所では、男子生が狩野家を取り巻く人々の関係についてまとめている。
「居候、第一号っす。自称順也先生の弟子」
 羽生譲が片手を上げる。
「んで、こちらのお嬢さん方が……」
「居候、第二号です」
 と、松島楓。
 この時、羽生譲が、
「技の一号力の二号と呼んでくれぃ!」
 といったが、モトネタが古すぎたのか誰も突っ込まずにスルーされた。
「故あって、こちらに下宿させていただいてます」
 と、才賀孫子。
「はいはーい! 下宿人第四号の二宮浩司でぇーす。学校では先生と呼びたまえ!」
 荒野の背にしがみついたまま、荒神が手を振った。
「……それで、こっちのケーキ屋の白猫君と黒猫ちゃんが兄弟で、隣りに住んでいて……」
 と、荒野と茅を指さして確認すると、
「はい。わたしん家も同じマンション。あと、三島先生も住んでる……」
「ミニラ先生まで……」
 三島先生の名前が飯島舞花の口から出ると、何故かその生徒は、若干背をのけぞらせた。
「…………つくづく、凄い環境に住んでいるなあ、一年の狩野君は……」
 その生徒の説明を輪になって聞いていた他の生徒たちが、うんうんと首を縦に振った。

 その「一年の狩野君」こと狩野香也は少し離れた場所で、堺雅史と一緒になにやら話し込んではスケッチブックに鉛筆を走らせている。
「……って、こっちのいうこと聞いてないし!」
「……んー……なにかいった?」
 どうやら自分の事が話題になっているらしい、と気づいた香也は、顔を上げて問い返した。
「……いや、特に用らしい用ってのもないっすけど……あのー君ら、さっきからなにやってるんすか?」
 香也と堺雅史が顔を見合わせる。
『話してもいいのか?』と確認を求めるように香也が首を傾げたので、堺が、
「……うーん……ぼくらが作っているフリーのゲームの絵を、狩野君に描いて貰っている所なんだけど……」
「エロいやつ? エロゲ?」
「違う違う! 普通のアドベンチャーだよ。ミステリとかサスペンス風の……」
 ビニールシートの端の方に並んで据わっていた二人の周りに、人が集まってくる。
 堺と香也は、資料の紙の束やスケッチをめくりながら作りかけのゲームの内容をその場にいる人々に説明しなければならなかった……。

「いや、あんたの名前が姉っていうのを知った時から、いつかこういう事になるんじゃないかとは予測してたけどな……」
 荒野たちがのんびりと午後のひとときを過ごしている頃……。
「こんなに早くこうなるとは思ってもみなかった……。
 お前らが接触しようが摩擦しようが潰し合おうが、わたしの知ったこっちゃないがな……。
 わたし、お前らの主治医じゃないんだから、いちいち呼び出すなよ……一応、こっちはまだ勤務時間中だったんだぞ……」
 シルヴィ・姉に呼び出され、早退することを余儀なくされた三島百合香は、怪我人の山を目前にして指で目頭を押さえた。
「……だってぇ……」
 シルヴィ・姉は三島に向かって甘えた声を出した。
「長老に相談したら、この近くの信用できるお医者さん、三島先生だっていわれたわけだしぃ……」
「……いや、わたしノンケだから。同性に甘えられても少しも嬉しくないし……。
 それに、いったいどうしたらこうなるのか想像できんのだが……このおっさんら、ほとんど捻挫や骨折な。足を挫いたの、捻ったの、あと、肋いっちゃってたのも多かった……。
 一人だけ、さっき運んでいったヤツだけが妙に重傷だったけど……」
 最下部で下敷きになっていた居合いの銀二の症状を一瞥しただけで、三島は「一刻も早く病院連れてけ!」と一喝した。
「……それ以外は、まあ、軽傷だな……医者よりも骨接ぎとかカイロプラティクの領分だ……」
「……ええ、ええ。
 それさえ分かれば、あとはこちらで手配いたしますので……」
 三島が請け負ったので、姉は殊勝に頷いてみせた。
「さて……っと……。
 こっちはそっちの要求を呑んで一肌脱いだんだ。ちょっと答えて貰おうか?
 率直に聞くがな、姉崎さん、あんた、荒野たちの味方なのか? 敵なのか? ん?」
「わたしが? わたしはコウの味方に決まっています!」
 三島の問いに、シルヴィ・姉は昂然と胸を張って答えた。
「それに、女系の姉は、母性をないがしろにするような姫の計画を支持しません!」

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彼女はくノ一! 第四話 (7)

第四話 夢と希望の、新学期(7)

 柏あんなが連絡すると、私服姿の飯島舞花と栗田精一はすぐに到着した。学校からまっすぐ舞花のマンションに帰って、二人で過ごしていたらしい。
「そろそろお昼にしようっていっていた所だから、ちょうどよかった」
 台所に入ってくるなり舞花はそういって、手伝いを申し出てくれた。
「玄関にいっぱい靴あった。なんか、人数多そうだもんな」
 茅が、「プレハブにも同じくらいいるの」というと、舞花は「いったいなにが起きたんだ?」と首を捻る。
「あの……まぁくん……堺君も呼びましたから。
 狩野君が堺君と話し込めば、他のみんなも少しは遠慮するかと……」
 柏あんなは小さくなりながら、片手を上げてそういった。
「まぁくん……堺君も、狩野君と話し、したがってたし」
「むぅ……」
 指折り来客の人数を数えていた茅が、不満そうな声をあげる。
「……カップ、全然足りないの……」
「……ああ」
「この人数だと、流石になぁ……」
 孫子と舞花は顔を見合わせて頷き合った。
「あ。狩野君、来る途中で紙コップ、余分に買ってきてましたけど……」
「……紙コップ……」
 目に見えて、茅は動揺した。
 どうやら、内心で美学的な問題と目の前の現実とのすり合わせが進行しているらしい……。
「……ま、まぁ、ないもんはしかたないんじゃないか? とりあえず、お湯も沸いたし、庭にいる人を優先で、お茶、いれに行かないか? わたしも手伝うから……」
 飯島舞花は茅に妥協案を提示した。
「外にいる人、寒いだろ? 早く行こう、メイドさん……」
 茅は「むぅ」と唸りながらも、てきぱきと慣れた手つきでティーポットに茶葉とお湯をいれ、蒸らし時間を計る。
 茶器を抱えた舞花と茅が庭に出ていくのと入れ違いに、食材を抱えた荒野と楓が台所に入ってきた。
「お。やってるやってる」
 羽生譲が様子を見にやってきた。
「今日、人数多いだろ? 天気いいし、この人数だから、ビニールシート敷いて庭で食事しないか?」
 羽生譲と加納荒野とで、庭の準備をすることになった。

 荒野たちから食材を受け取ったエプロン姿の孫子は、ホールトマトの缶詰を平鍋にあけて火にかけ、冷凍のシーフードミックスをレンジで解凍し、乾麺を景気良く煮立ったお湯の中に空ける。
 茅が、解凍したシーフードミックスをホールトマトの鍋に入れ、アンチョビ、塩、胡椒、それに山椒で味を調え、あまり煮込みすぎないうちに弱火にする。その後、茅はカップを盆に乗せて自分で持ち、ポットを飯島舞花に持たせて庭のプレハブに向かった。
 才賀孫子は柏と楓に手伝わせて、サラダを作り始める。

 飯島舞花を伴った猫耳装備メイド服の茅がプレハブを訪れると、プレハブ内で香也の絵を肴にだべっていた連中は目を剥いて感嘆した。
「メイドだよメイド! 猫耳メイドだよ!」、「商店街で乱入した時の恰好だ! 間近でみると迫力! しかも可愛い!」などと一通り騒いでから背後の舞花に気がつき、「あ。飯島先輩。どうも」などと慌てて挨拶しはじめる。長身で整った容姿を持つ飯島舞花は、校内ではそれなりに有名人だった。
「いいからいいから。
 それより、ここ狭いから、みんなで庭に来てよ」
 庭では、羽生譲と加納荒野がビニールシートを敷いて、準備を終えたところだった。
「あ。ガイジンさんだ!」
 荒野の半端に伸びたプラチナ・ブロンドを見て、何人かの生徒が声を上げる。
「どうもうぉ。今度転入して来た、加納荒野といいますぅ」
 荒野は、茅の頭を平手で軽く叩きながら、にこやかに挨拶する。
「実は、これの兄でして……」
「おお。そういや同じ加納!」、「って、似てねー」、「いや、カノウコウヤって……同姓同名?」、「字は違うんじゃ?」……。
 などと騒ぐ生徒たちにカップや紙コップを持たせ、憮然とした表情でお茶を注いでまわる茅。本格的な紅茶を紙コップで飲ませることには、相変わらず忸怩たる思いがあるらしい。
 庭に出来てきた生徒たちにお茶が行き渡る頃には、ポットに用意した分のお茶が綺麗になくなったので、茅と舞花、それに羽生譲は、一旦母屋に戻ることにした。
 荒野はそのまま庭の一団と合流し、プレハブから持ち出した香也の絵をみんなと見ながら雑談に興じている。

 茅たちが台所に戻ると、才賀孫子大きなボール数個に春野菜と海草のサラダを盛りつけ、作ったばかりのドレッシングをかけ終わったところだった。
「これ、先に庭に持って行って」
 楓と飯島舞花に指示し、孫子はパスタのゆで加減を確かめる。
 茅は、ポットに新しいお茶を用意しはじめ、羽生譲は「残りの連中、庭に出しとくわ」と自分の部屋に向かう。残りの生徒たちは、羽生譲の部屋でマンガかなにかを読みふけっているということだった。
 孫子が茹であがったパスタを鍋からとりあげ、大皿数枚に分けて盛りつけ、その上に茅が調理したソースをかける。
 孫子と柏あんながが出来あがった大皿のパスタを、茅が新しいお茶を、庭に持って行くのと前後して、羽生譲が引き連れてきた一団が庭に到着、合流を果たす。堺雅史もいつの間にか庭に来ていて、香也と制作中のゲームの資料を見ながら、なにやら話し込んでいた。
 そこで、大皿のパスタやサラダを各自の紙皿に取り分けながら、全員で食事、ということになった。
 加納荒野、加納茅、松島楓、才賀孫子などの目立つ風貌の転入生が合流し、早々に他の生徒たちとうち解けて話し始めたこと、それに、出された料理がかなりうまかったこと、香也が堺雅史とスケッチブックを片手に真剣に打ち合わせをはじめたこと、などの要因で集まって来た生徒たちの興味は分散され、全体に和やかな雰囲気の集まりになった。
 冬とはいえ、快晴で無風のその日、外にいても耐えきれないほどの寒さは感じられない。茅の紅茶がなくなった後は、帰りに香也が買ってきたペットボトルが飲み物としてまわされ、用意した料理が残り少なくなる頃には、ほぼ全員がまったりとした気分に浸るようになっていた。

 そんな頃、不意に帰宅した二宮浩司がいきなり加納荒野の背中に抱きつき、一部の女生徒たちを驚喜させた。

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髪長姫は最後に笑う。第四章(46)

第四章 「叔父と義姉」(46)

「おっそーい!」
 居合いの銀二、あるいは人斬り銀二はあり得ない筈の事態に直面して目を見開いた。
「……そもそも、速さで忍に勝てるっと思うほうが、無理!」
 つかつかと一見無防備に銀二の間合いまで歩いて来た荒神の胴体を薙ぎ払った筈の銀二の白刃は、荒神の胴体に届く直前で、荒神の親指と人差し指の間に挟まれてピクリとも動かせない状態になっている。万力のような力だった。加えて、銀二のヤッパは、荒神の胴体と荒神の掌に挟まれた合間にあった。
『……あ、ありえねぇ……』
 居合い、あるいは抜き打ち。
 常人なら、ひらめく白刃に気づかぬうちに斬られ、刃が鞘に納められてから斬られることに気づく、迅速の技……それが、居合いという技だった。ことに銀二の技量は確かなもので、抜くタイミングを気取られることもなく相手を討ち果たす必殺の技である。今まで銀二が片づけてきた相手も、例外なく自分が絶命していることに気づかぬままに息絶えた。

 現在の姿勢から判断するなら……荒神は、ただ防いたしのいだ避けた、というレベルの話しではない……達人のみが果たせるという「真剣白刃取り」でさえなく……ただの指二本で、それも、向かってくる刃を掴むのでもなく、刃を故意に胴体ギリギリにまで通らせて、峰のほう方向から無造作に指で摘んだだけ……と、いうことになる……。
「と、いうことで……銀二さん、しっかーく!」
 あっけにとられている銀二の額に、荒神の人差し指が迫る。
 特に力を込めたようにもみえなかったが、荒神の指に額を弾かれると、銀二は五メートルほども後方に吹っ飛んだ。
 そして、吹っ飛んだ先にはシルヴィ・姉崎がいた。
 当然、シルヴィは飛来する銀二の体を避けようときびすを返す。
「駄目だよー……姉崎ぃー……」
 しかし、そのシルヴィの耳元で荒神の声がして、足下を掬われた。
 声は聞こえたが、荒神の姿は感知できない。
「供物が弱っちくて荒ぶる神はお怒りなのだぁ! 神の怒りをうけとるのだぁ!」
 飛来した銀二の体の下敷きになった姉崎の頭上、空中に、突如、何人もの男たちが出現する。
 万が一に備えて、荒神の周囲を囲ませて置いた姉崎の手の者だった。
「わは。わはぁっ。わはははあはっ! 最近、毎日のように弟子を放り投げているので、ぼくはすっかり人間投げが巧くなってしまったぞ! 今では高度二十メートルくらいまでなら軽く投げられるのだ! 神はなにをやっても巧い!」
 どこに潜んでいたのか、四方八方から「人間」が次々に放り出され、荒神の言葉通り、地上十メートル以上の地点でぶつかり合い、落下してくる。
「弟子? 弟子ですって?」
 姉崎は自分の上にのしかかった銀二の体を押しのけて、相変わらず姿を消したままの荒神に問いかける。姉が起きあがった次の瞬間から、銀二の上にどしゃどしゃと際限なく人間の雨が降り注いだ。
「あなた……毎日、コウを放りなげているの?」
 姉崎が知る限り、荒神がとった弟子は、加納荒野ただ一人だった。
「最近、もう一人見込みありそうな雑種ちゃんをみつけたのだよぉ!
 退屈だ退屈だ!
 銀二さんも思ったより弱かったが、その他の雑魚はやっぱり雑魚だ! 投げるのが簡単すぎてつまらないぞ! 君たち! 少しはぼくの可愛い雑種ちゃんをみならいたまえ! 最近の雑種ちゃんはあの手この手で抵抗してくるので、君たち雑魚どもより数倍投げ甲斐がある! 神はお怒りである! わざわざ挨拶にはせ参じるならもっと歯ごたえあるお供えを用意してからにしろぉ、姉崎ぃ!」
 荒神の哄笑とともに、空中に出現する姉崎の手下の数も増えていった。空高く放り上げられて、空中でぶつかり合ったりしながら、次々に銀二の上に落下していく。
「みだりに神の名を騙るのは控えなさい!」
 指で十字を切りながら、姉崎は叫んだ。「荒神が最近とった弟子」のことも気になったが、それ以上に、神を冒涜する荒神の言動が気に障った。姉崎は某宗派の敬虔な信徒である。
「わはははは。ここは秋津島、八百万の神々がおわす国なのだ! 唯一絶対の神しか許容せぬ了見の狭い場所などではない!」
 その八百万の神々の三主神の一柱と同じ名前を持つ男は叫び返す。
「これほどの実力を持つぼくが八百万一番目の神でないと誰に断言できよう! 八百万もいればもう一人くらい増えたって誰も気にしやしないし支障もないのだ! そうこうことで、このぼくは神認定! せいぜい神を敬いたまえ! でないと祟ってやるぞ! ついでに、捧げ物としてもっと強い奴、よろしくぅ! 銀二さんクラスだと、ぼくの弟子の雑種ちゃんの噛ませ犬くらいにしかならないから、わざわざぼくが相手をするまでもない! 弟子の教材として払い下げてやるぞ!」
 姿を消した荒神は絶好調で姉が用意した伏兵を片っ端から空中に放り投げ続ける。
『……こいつ……噂以上に無茶苦茶……』
 ……姉崎が用意した伏兵も、決して弱い者たちではない。むしろ、時間が許す限り、精鋭を集めたつもり……だった。
 が……その精鋭たちが、為す術もなく、姿さえ関知できぬ荒神に片っ端からいいようにされている。基本的に、空中に放り投げられれば、後は物理法則に従って落下するよりほかない、非常に無防備な状態になる。放り投げられた男たちの中には、せめて手足を振って重心を変え、足から着地しようと姿勢を変えようとする者も少なくなかったが、次から次へと荒神が人間を放り投げるので、すぐに空中で激突し、玉突き状態になりながらもみ合って地上に落下する。
 銀二がいた場所には、今や人間の山ができあがっていた。
「退屈だ退屈だ。姉崎が手配した奴らはあまりにも雑魚雑魚しくてつまらないぞ! 飽きたしぼくも忙しいのでこれで失敬する! これから下宿先に帰ってお昼を頂いて、長老から出された宿題を片づけて、明日の授業に備えて休まねばならんのだ! 神は多忙だ! この程度の挨拶でわざわざ足止めするなど不敬極まりない!」
 荒神の声がそういったのを最後に、姉の足下に銀二が持っていた日本刀が投げつけられた。その日本刀はアスファルトに易々と切っ先を潜り込ませ、刃渡りの半分以上を地下に潜り込ませて、ようやく止まった。
 こうなるともはや……シルヴィ・姉崎は、荒神の罵倒を否定する材料を持たなかった。現に、五十人以上伏せておいた者たちが荒神一人にいいようにあしらわれている。人間一人を地上十メートル以上の空中に投げ出すより、のど笛を掻き切ってまわる方がずっと容易だ。荒神は、姉が「手練れ」のつもりで用意した五十名を、単身で殲滅することが可能だった、ということになる……。
『……噂以上の……実力……と、性格……』
 シルヴィ・姉崎は、二宮荒神が一族の関係者の中で「アンタッチャブル=不可触」な存在とされる理由を、様々と実感した。
 ……あんなの、まともに相手にするだけこっちの損害が増えるだけ……。
『本当……経費の無駄遣いだわぁ……』
 そう思いながら、姉崎はバックアップ要員に連絡し撤退の指揮をするため、携帯電話を取り出した。
 六主家の中でも最弱とされる姉は、組織的なバックアップ体制に関しては、六主家の中でも最大規模のものを整備している。個人の資質に頼るよりは組織の力で問題を解決する、というのが、姉の方法論だった。個体の身体能力を最大限に引き出す、というテーゼを持つ二宮とは、対極にある在り方といえる。

 二宮荒神が下宿先に帰ると、何故か狩野家には、荒野と茅、才賀の小娘、それに制服姿の生徒たちが十名以上も庭に集まっていて、パスタと紅茶の食事をしているところだった。
 荒神は気配を消して荒野の背後に近づき、いきなり抱きついて、
「……こぉやくぅぅぅん……」
 と鼻にかかった声を出して、荒野の背中に頬ずりをする。

 荒野の背中が硬直し、何人かいた女生徒たちが「きゃー!」と黄色い声を張り上げた。

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