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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(68)

第六章 「血と技」(68)

 荒野たちが掃除に取り掛かってしばらくすると、徐々に人が増えはじめた。同報メールの告知に従って、集まったらしいが、自主勉強会についての情報は、さすがにまだ広まってなかったらしく、後から来た生徒のほとんどは、何のために倉庫代わりにされている教室を片付けなければならないのか、理解していない様子だった。
「……この辺の告知は、放送部の領分だな……」
「ですね……」
 荒野が指摘すると有働は頷いた。
「あと……今後、新しい企画を立ち上げる時には、その情報がなるべく早く行き渡るようにしないと……」
 まだ準備を開始したばかりの自主勉強会については、告知がなされていなくても当然、と、荒野は思うのだが……有働は、本気で対応策を考えはじめているようだった。
「……ま。今は、目の前のこの教室を、片付けなけりゃ……」
 荒野はそういって、棒立ちになった有働を即す。
「……ええと……。
 おっ、大樹も来たのか……それから……」
「やあ、おにいさん。
 なんだかわからないけど、水泳部の連中、連れて来たよ。
 部活の代わりだから、なるべく肉体労働押し付けてやってくれ……」
 ジャージ姿の飯島舞花が、柏あんなや栗田精一を含めて二十名ほどを引き連れて、合流してくる。
「……なんだか、思ったより……人が……」
 有働は、集まった生徒たちを見渡して、困ったような笑顔を見せた。
 何だかんだで、すでに五十名以上の生徒が集まっている。いくら中に備品が詰まっている、とはいっても、たった一つの教室を片付けと掃除をするのには、多すぎるくらいの人数だった。
 主に女子の方の仕事を割り振っていた孫子が、急速に増えて来た生徒に仕事を割り振るのがおっつかなくなって来ている……。
「……有働君。
 来てくれたのはいいが、何をやっていいのか分からない生徒たちが出て来ている。
 はやく指示を……場合によっては、別の仕事を割り振っても……」
 荒野が指摘すると、有働ははっとした表情になって、集まった生徒たちに仕事を割り振りはじめた。
「……おれ、ちょっとパソコン実習室にいって、募集終了のメール出してくれるように頼んでくる……」
 有働が動きはじめたのをみて、荒野はそう告げて、その場から去った。有働は集まった生徒たちに仕事を割り振りながら頷き、荒野目当てで集まった一部の女生徒たちは、露骨に不満そうな顔をした。

「……って、わけで、募集終了のお知らせ、発信して……」
 忙しく動いているパソコン部の一人に声をかけると、「はいはいー!」といって、即座に末端に取り付き、処理をしてくれた。
「……これで、募集終了のお知らせ、送信しました……」
「……今度から、こういう突発的な仕事も定員を設定して、参加できる人は、メールを返信してもらって、定員になり次第、募集終了のお知らせを送る……ってシステムにした方が、いいんじゃないかな?」
 荒野は、そう提案して見る。
「……ああ、それ、いいですね。
 今までのシステムは、長期で取り組む仕事を、何日かに分けて処理することを前提として組んであるんで、こういうスポットの仕事に関しては、まだまだ不備があるし……。
 他のみんなと相談して、その他にも工夫してみます……」
「……頼むよ。おれ、そっちは弱いから……」
 荒野が声をかけたのは、「顔は覚えている」程度の薄い繋がりしかない生徒だったが、荒野の要望に気持ち良く答えて、早速背を向けて、他のパソコン部の生徒達と相談をしはじめた。
「……あと、この中に、放送部員の子、いるかな?」
 荒野は少し大きい声でいって、実習室を見渡す。
 玉木あたりがいれば話しが早いのだが、この日はたまたま姿が見えなかった。
「……うっす。自分、放送部所属です」
 末端を前にして斎藤遥と話し込んでいた、これも、顔だけは知っている放送部員が、立ち上がる。よく、ビデオカメラを持って玉木や有働の後を追っている二年生だった。
「……今、ちょっと、有働君と話して来たんだけど、あっちで準備している自主勉強会の告知については、どの程度準備しているのかな?
 そっちの方で、なんか、手伝えること、ない? 今、人手、余っているけど……」
「……そうっすねぇ……ボランティアの準備が落ち着かないうちに立ち上げちゃったもんで、勉強会の方は、正直、ほとんど、手付かずです……」
「……文面、考えてくれれば、学校のサイトには、すぐにでも告知できますけど……」
 その放送部員の後ろから、斎藤遥が声をかけてくれる。
「うん。
 そっちも、準備ができたら、お願いする……」
 荒野は、斎藤遥に頷いてから、同じ実習室にいる茅に声をかけた。
「……茅、そういうことだから、そっちから告知用の人員、何人か割いてくれないかな?」
「……楓……。
 何人か連れて、そっちに回るの」
 茅は、かしゃかしゃとキーボードを叩きつつ、楓に話しを降る。
「今、茅は、茅にしかできないことをしているの」
「……それはいいですけど……」
 茅と同じように末端に取り付いていた楓が、立ち上がって戸惑ったような声をあげる。
「その……具体的に、どういうことをするんですか?
 それから、人手は、何人くらい必要なんでしょう?」
「……こういう時、放送部のセオリーでは、どうするんだ?
 ええと……」
 荒野は、立ったままの放送部員に確認する。
「梁間です。梁間、太助」
「……梁間、太助君、ね」
 荒野は梁間の顔と名前を記憶する。
「……そうっすね。
 音声放送と、ポスター……悪ノリする時は、チラシなんかも用意しますが……」
「……そのポスター、今、用意しました」
 佐久間沙織が、片手をあげる。
 荒野が話しているのを聞いて、即座にワープロソフトか何かを起動し、手を動かして作成したらしい。
「……後は、必要な枚数をプリントアウトして、掲示物の許可を取ってから貼り出すだけ……。
 放送の方は、明日の昼休みからにやってもらうことにして……そうね、ポスターの許可は、わたしが職員室にいって貰って来ましょう。そろそろ、こっちのデータも、先生方に見て貰いたいし……。
 人手が余っているのなら、加納君は、ポスター貼りの要員、掃除している人の中から引っ張って来て……。
 せいぜい、五、六人でいいと思うけど……」
 ……的確な判断力と、それに臨機応変な行動力は、やはり元生徒会長だな……と、荒野は思った。

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彼女はくノ一! 第五話 (151)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(151)

 二人で台の自転車屋にいくついでに、夕飯の材料を買いに行く。現在の狩野家は人数が多いので、小まめに食材を買い足さないと、すぐに冷蔵庫の中身は寂しいことになる。
 ガクはまだ自転車に乗る練習をしていないので、二人で二台の自転車を手押しして移動する形になった。
 商店街は、例のゴスロリ・フェアの真っ最中だったので、適当なところで一度自転車を止め、ガクに荷物もちをさせて手早く買い物を済ませて自転車のところに戻り、荷物を荷台やハンドルにぶら下げて、家に向かう……つもりだったが、買い物の途中、茅と楓の二人組みに、ばったりと出くわした。
「……どうしたん? 君たち?」
「お買い物なの」
 羽生が尋ねると、茅が即答する。
「そりゃ……みれば、分かるけど……」
 羽生は不審に思った。
 それまで、加納兄弟の買い物は、荒野が行っていた筈だ……。
 羽生自身は何度か、学校帰りに肉とか野菜とか魚とかが入ったビニール袋をぶら下げた荒野を見かけている。
「……買い物は、カッコいいこーや君の分担だったんじゃあ……」
「これからは、買い物も、茅がやるの……」
「でも……カッコいいこーや君、食うだろ?
 荷物、大変じゃないか?」
「……楓がいるの」
 それまで即答した楓が、少し、言いよどんだ。
 なるほど。
 茅の後ろに立っていた楓は、多数の荷物を抱えていた。
「……こっちのガクちゃんみたいなもんか……」
 羽生がちらりと視線を走らせると、ガクも、今の楓と同じような格好をしている。
「ま……なんでもいいか。
 今日一日かけてな、庭におっぽいといた自転車を、ガクちゃんが使えるようにしてくれてな、それこっちに置いてるんだわ。
 荷台とか籠とか、ハンドルにぶら下げるなりすれば、みんなで楽できるし……」
 羽生のいう通りにして、四人でぞろぞろ帰ることになった。
 その帰り道、羽生は楓と茅から、最近の学校での様子を、詳しく聞くことになる。
「……それで、いつもより早く帰って、買い物をすることにしたの」
 茅は、今朝の校門前での顛末を語った後、そう締めくくった。
「それでか……。
 カッコいいこーや君、確かにモテそうなルックスだもんな……」
 羽生は、話しはじめた茅が、普段とは違い、意外に表情豊かにみえることに、気づいていた。
「で……楓ちゃんも、それに付き合っている、と……」
「わたしは……もともと、帰り道は茅様とご一緒するようにしていますし……。
 それに、パソコン部の人たちも、帰っていいって言ってくれましたので……」
「例のボランティアのシステム、かなり良いところまでできてるの?」
「ええ。もう、基幹部分は……。
 あと、自主勉強会の方のシステムと、連動させるとか言い出しまして……」
「……え?」
 羽生は茅のほうを振り返った。
「そっち方面には、あまんり詳しくないけど……。
 それって……大変なんじゃないか?」
「そうでもないの」
 茅は、なんでもないようにいって、頷いた。
「システム自体はわりあいシンプル。大まかな部分はもう作ってきたの。
 後は、中身の、教材の拡充だけ……」
「……茅様……仕様書、ぱっぱっぱっーて、二時間くらいで上げちゃいましたもんね……」
「内容は、昨日、寝ている間に考えておいたから、後は、その場でタイプするだけだったの。
 学校の勉強も、ボランティアも、あらかじめ設定した作業内容を設定期間内に消化する、という点は同じだから、最終目標までの工程を、無理のない範囲内で消化できるタスクに整理し、それを消化し、達成度を表示できるスケジューリング機能を付加すればいいだけのことで、プログラム的には、かなりの部分を流用できたなの……」
 ……寝ている間に考えておいた? 最近、若いモンの間では……そういう冗談が、流行しているのだろうか?
 茅の話しを聞きながら、羽生は、そう、いぶかしく思った。
「……でも、パソコン部はなんか課題ができたーって喜んでましたし、教材の方は、佐久間先輩が中心になって、まとめてくれることになったし……」
「今日のペースを維持できれば、今学期中にはすべて完成すると思うの」
「……正直、なんだかよくわからんが……君たちが、見かけ以上に凄い存在だということだけは、よく分かった……」
 それが、羽生譲の正直な感想だった。
 話しに出てくるパソコン部員とかは、そういう茅や楓たちに臆する事なく、ついて行こうとしている訳で……そっちの、「普通の子」たちも、凄いよなあ……と、羽生は思う。
 自分より、明白に優れた者が、すぐ目の前にいた時……卑下することも僻むこともなく、まっすぐに対峙できる者が……果たして、どれだけいるだろうか?
「……学校の友だち、大事にしろよ……」
 羽生は、誰にともなく、そういった。

 マンションの前で自転車を止め、茅と楓、それにガクが、加納兄弟の分の食材を運び込む。
 羽生は、「夕食これから作るんなら、またこっちで一緒につくって食べないか?」と誘ってみたが、「今日は、茅がご奉仕したいの」と断られた。それでは、と、楓が手伝いを申し出る。まだ、茅といろいろ話し合うことが残っているから、ちょうどいい……というのだ。
 三人がマンションの中に消えると、荷物番の羽生は煙草に火をつける。
『……なんだか、みんな……意外に、しっかりしてんのな……』
 羽生の主観によれば……程度の差こそあれ、みんな、どこか危なっかしい子たちばかりだ……という印象が強かったが……今日の話しを聞いていると、危なっかしい部分はやはりあるものの、それなりに自分がやるべきことを見つけて、それに打ち込んでいるじゃないか……とか、思う……。
 羽生が煙草を吸い切る前に、ガクだけ帰ってくる。楓は、夕食の準備ができるまでには帰ってくるそうだ。

「……んじゃ、こっちは二人でみんなの分の晩ごはん、用意しようか?」
「そうだね。にゅうたんと二人で、というのも、珍しいけど……」
 そんなことを話しながら、ガクと二人、肩を並べて、すぐ隣の家まで自転車を押して歩く。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(67)

第六章 「血と技」(67)

 放課後になると、昼休みと同様、荒野は、パソコン実習室に向かう。
 そこでは現在、ボランティア活動に必要なシステムと、自主勉強会に使用する教材の打ち込みと整理が行われていて、荒野の知り合いの多くも顔を出すようになっている。作業の中心になっているのは、やはり堺雅史らを中心としたパソコン部の生徒たちで、放送部員たちに頼りにされることが多いせいか、この数日でめっきり表情に自信が見えるようになってきた。
 それ以外には、今日の昼休みから、佐久間沙織と茅が中心になって勉強会の資料整理を行うようになっている。これも、量が多いから、一応の完了を見るまでに数日の時間を要することだろう。

 荒野がパソコン実習室に入ると、予想通り、二つの島に別れて人が集まっている状態になっていた。
 先週から引き続き、ボランティア活動に必要なシステムを整備しているパソコン部員たちが集まっている箇所と、茅や佐久間沙織が中心になって、教科書や参考書、プリントなどをどこかから持ち込んだスキャナーで取り込んでいる人々と。後者には、すでに受験を終えた生徒に佐久間沙織が声をかけたのか、三年生の生徒が多かった。
 茅は、そうした、受験を終えたばかりの生徒と互角以上になにやかやと議論しながら、保存すべきデータを選択している。楓は、パソコン部の島と勉強会準備の島を、忙しくいったりしたりしている。パソコン部の島の方から、楓だけでは飽き足りず、茅まで呼び出されることもあり、そんな時は、茅も気軽に応じて足を運び、ひとしきり解説らしきことをしゃべりながらカタカタと忙しなくキーボードを叩いて当座の問題を解決し、また、元の沙織の隣の席に戻って、例のキーボード二刀流に戻るのだ。
 近寄ってよく見てみると、茅と沙織は、英語と数学、とか、地理と古典、とか、全く別個の教科についての作業を左右同時に進めていて、周囲にいる生徒たちも、もう慣れてしまったのか、茅や沙織が行っている人間離れした作業に注意を払っている者は、いないようだった。
 というか、今、パソコン実習室にいる生徒たちはそれぞれに自分で処理すべき仕事を抱えており、茅や沙織に注意を向ける余裕がある者は、いなかった……と、いうべきなのかもしれない。

 しばらくその様子をぼーっと眺めていると、荒野から少し遅れて孫子が実習室に入ってきた。孫子は今週の掃除当番に当たっていたので、それだけ遅れたのだろう。
「……よう……」
 孫子とは同じクラスで、当然、一日顔を会わせていたわけだが、放課後になって顔を合わせるのは初めてなので、荒野は一応声をかける。
「今日は、徳川の所にいかないのか?」
「……彼には、彼の仕事がありますの。
 通常の仕事とか、それに、わたくしが昨日渡した事業計画書に目を通して、検討するという作業とか……」
 孫子は、そう答える。
「でも……才賀は、プログラムとか、できないだろ?
 勉強のほうは出来そうだけど……これだけ、三年生が出ばってきているとなあ……あんま、出番はないんじゃあ……」
 そういう荒野も、顔を出してみたのはいいが、ここでやるべき事をあまり見いだせないでいる。
「……あ、いたいた。
 加納君、才賀さん……それから、ここにいる人で、手が空いている人!
 良かったらちょっと、こっちを手伝ってくれませんか?」
 荒野と孫子がそんなやりとりをしている所に、有働勇作が入ってきた。
「それから、堺君。
 例のシステム使って、登録者の中から希望者募ってください。
 仕事は、自主勉強会の会場として使用する空き教室の整理と掃除。汚れてもいい服装で来ること。日時は、今から、二階の北側の空き教室で。
 校内の登録者全員にメールすれば……」
「……はい。ぽちっとな、と。
 同報メール、送りました。
 サーバレスポンスの関係で、多少前後することもありますが、この学校関係のと登録者に、同じメールが届いている筈です」
 パソコン部の島に埋没していた斉藤遙が、片手を上げて有働に答える。
 それとほぼ同時に、実習室内にいた生徒の携帯が、ほぼ一斉に鳴ったり振動したりして、メールの着信を告げた。
 荒野が自分の携帯を確認すると、確かに有働がしゃべった通りの内容のメールが、着信している。
『……なるほど……』
 荒野はこの時初めて、パソコン部が制作しているシステムの利便性を実感した。

 一旦自分の教室に戻り、学校指定のジャージに着替えてから、「二階の北側の空き教室」とやらに向かう。いってみれば、なんのことはない。
 この学校に転入してきた初日、自分で使う分の机や椅子を取りに行った、倉庫代わりにされている空き教室だった。
「……何年か前までは、この学校も、もっと生徒数が多かったそうですが……」
 同じように学校指定のジャージに着替えて来た有働勇作は、そう説明してくれた。
 ここ数年は、一学年の生徒数が減少傾向にあり、校内の設備はキャパシティを余している状態だ、という。おかげで、先生方に話しを通しさえすれば、こうして空いている教室を生徒が使用できるわけだが……。
「……まずは、中に積み上げられている机や椅子を、教室の外に出そう……」
 荒野は、有働にとりあえず、そういった。
「そう……ですね。
 とりあえず、廊下に出して、その後、教室内を綺麗に掃除してから、使う分だけ中に戻しましょう……」
 有働も、荒野の言葉に頷く。
 先に到着した荒野と有働が机や椅子を出している間に、着替え終わった孫子、それにメールに応じて散発的に男女の生徒が集まってくる。
 男子は椅子や机の持ち運びなどの力仕事、女子は廊下に出した備品の水拭きや、備品を運び出して空いた箇所の掃き掃除やワックス掛け、という分担になった。
 その教室から出した備品は、なるべく状態のいい五十組の机と椅子を残して、残りは、少し離れた場所にある、同じような空き教室へと運び込まねばならず、この移動も男子の仕事になった。自然と、男子の仕事の采配は有働が、女子の仕事を手分けするのは孫子が行っていた。
 拭き掃除や掃き掃除を担当した女子も、何年も放置されていた備品であり教室だったので、当然のように埃まみれであり、何度も雑巾をゆすぐバケツを取り替えねばならなかった。一年でもっとも寒いこの季節に長時間、水仕事を行うのはけっして楽ではなかった筈だが、特に愚痴や苦情をいう生徒はいなかった。
 駆けつけてきた生徒たちの中には、昨日の放課後と今朝の校門前で荒野にまとわりついてきた女生徒の一群も含まれていて、彼女たちも意外に機敏に動き、率先して他の人の負担を減らしてくれていた。

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彼女はくノ一! 第五話 (150)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(150)

 羽生譲にとって遅い朝食、ガクにとっては早めの昼食を一緒に摂ったところで、二人で庭にでて、整備中の自転車をみる。
 羽生はせいぜい錆を落とした程度……と、予測していたが、ガクは二台の自転車を分解し、庭に敷いたビニールシートの上にパーツを広げていた。ハンドルやサドルなど、錆だらけだった部分も完全に錆を落とされており、バラしたパーツの一つ一つに番号を振った紙を貼り付けてある。
「これ……ガクちゃん一人でやったのか……」
 午前中だけで……あの短時間で、ここまで出来るものか……と、羽生は半ば呆れた。
「うん。
 車庫にあった道具とかサンドペーパーとか、かなり使っちゃたけど、いいよね……」
「……そ、それくらい、構わないと思うけど……」
 羽生は、こくこくと頷く。
「で、ガクちゃん。
 取っ替えなけりゃならない部分ってのは……」
「この、リスト。
 車輪は、スポークがかなり腐ってたから、全取っ替えした方が安全。同じく安全に関わるブレーキも、全部替える。
 それ以外は、そのまま使えるんじゃないかと……」
「……ガクちゃん、前にも自転車整備したこと、あるの?」
「ないよ。島には、こんなの無かったもん。
 でも、こういうのがあるってことは知ってたし、実物見ていじってみれば、パーツの機能や要求される性能は、分かるし……」
「……で、とっかえるパーツのリストも……」
「うん。これ」
 ガクは、ポケットから出したメモ用紙を、羽生に見せる。
 羽生がガクのメモを見ると、そこには、パーツ名とサイズが、かなり詳細にリストアップされていた。

 歩いていくらもかからない所にある自転車屋さんに二人で出向いていって、ガクのメモを渡したら、自転車屋さんは一度奥に引っ込んで、すぐにリストのパーツを揃えてくれた。
 羽生ではなく、ガクが自転車の修理をしている、と話すと、「えらいねー」といいながら、気持ち程度の値引きもしてくれた。
「……あと、古い自転車直した場合は、警察に目をつけられやすいし、防犯番号も生きているかどうか確認しておいたほうがいいから……」
 といって、修理が仕上がったら、一度店に持ってくるといい……とも、いってくれた。
「……てか、ガクちゃん、整備とか修理の仕事に就けるぞ、将来……」
 ガクと二人で自転車のパーツを抱えて帰る道すがら、羽生はそう呟く。
「テンちゃんなんかもアレだけど、ガクちゃんも結構、頭良かったんだな……」
 自転車を解体整備した際の、手際がいい……ということだけでは、ない。
 初めて触れる「自転車」について、形状から部品の役割について推測、理解する、というのは、それなりに論理的な思考を伴わなくては、不可能なわけで……。
 ましてや、分解したものをみて、どれを交換するべきか判断する、などということは、マニュアルがなければ何も出来ない大人、よりは、はるかに頭がいい……と、羽生は、思う。

 考えてみれば、楓にしろ三人組にしろ、あの若年にも関わらず、自分の考えというものをしっかりもっている。生い立ちが特殊で突飛な言動をすることもあるが、方向性は違うにせよ……それぞれ、頭は、決して悪くはない……と、一緒に寝起きしている羽生は思う。
 ……彼女らの特異性は、能力の不足ではなく、過剰に、由来する……。
 荒野が警戒しているのも……明らかに、自分以上の能力を持った人間が、隣人なりクラスメイトの中にいる……という状況を、荒野たちのいう「一般人社会」が、果たして鷹揚に受け入れられるのかどうか、判断できない……という危惧を、持っているから、だろう。
 荒野が出自と能力の一端を公然としたことで試されているのは、むしろ、周囲の人間たちの方で……明白に、自分より優れた存在を、敵視しないでいられる人間が……いつまで主流、多数派で、いられるのか……。
『……あー……』
 そう考えると……確かに、「重い」わな、こりゃ……と、羽生も、思う。
 一族、とかいう人たちが、未だに荒野のように正体を明らかにしていない、ということは……つまり、正体を明かした上での、一族以外の人たちのと共存の試みが、今までは成功していなかった……ということで……。
『今の、カッコいいこーや君は……』
 その、最初の成功例になれるかどうかの……瀬戸際、ということなのか……。
『……みんながみんな、真理さんやこーちゃんのようにマイペースに接することができる……って、わけでは、ないもんな……』
 帰り道、羽生は、ぼんやりとそんなことを考え込んでいた。

 家に帰ると、早速庭に荷物を移し、ガクは一旦母屋に引っ込んで、すでに油まみれになっているスポーツウェアに着替えて戻ってくる。
「……しかし……あんだけ錆だらけだったのに、午前中だけで全部落としたんか……」
 研磨されてピカピカになっているハンドルなどをみながら、羽生譲は呟く。
「ボク、肉体労働は得意だから……その代わり、サンドペーパー、かなり使っちゃったけど……」
 そういってガクは、買ってきたばかりの錆止め塗料のスプレーを羽生に手渡す。
「表面かなり削ってちゃったから、これ、吹き付けておいて。
 離れた所からかければ、服も汚れないと思う……」
「……汚れて困るような服装でもないけど……」
 今日の羽生は、着古したジーンズにカッターシャツとダウンジャケット、というラフな服装である。少し寒いが、邪魔になるダウンジャケットを脱いで、縁側から母屋の中に放り込み、シャツの袖を捲って、羽生はスプレーを使う。
 その間にも、ガクは、新品の部品と磨いた部品を手際よく組み合わせ、時折羽生の手を借りたりしながら、かなり短時間で、二台の自転車を組み直した。
 最後に、チェーン周りに油を差し、ペダルを回してみせて、完成。
 羽生も、試しに庭の中を数メートルほど乗り回してみたが、長年放置していたとは思えないほど快適な乗り心地になっていた。外から見た時の古めかしさはどうしようもないが、普段の足として使用するのなら、これで必要十分だろう、と、羽生も思う。
「……さて、と……」
 羽生は、油だらけのガクの恰好をしげしげと見る。
「……ガクちゃん、その服着替えて、手と顔、洗ってきな。
 完全に日が暮れる前に、さっきの自転車屋さんにいって、防犯登録し直してこよう。
 その服は、別の洗濯物に混ぜないで、洗面器に入れておいてな……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(66)

第六章 「血と技」(66)

 いつもの面子に佐久間沙織を含めてわいのわいのと話し合いながら登校していく。校門の前まで差しかかると、校門の左右に二十人ほどの女生徒たちが固まっていた。
『……あっ……』
 その女生徒たちの顔ぶれを確認して、荒野は顔を引きつらせる。
『すっかり……忘れてた……』
 女生徒たちは、荒野の顔を認めると、瞬時に荒野の周囲に群がってきた。もみくちゃにされながら、荒野君、加納君、と黄色い声で騒がれるのを、荒野は快いとは思わない……。
「……ははは……もてるなぁ、おにーさん……」
 飯島舞花が朗らかに笑いながら、そう評する。
 そんなことをいう余裕があったら、助けてくれ……と、荒野は思ったが、舞花をはじめとする、一緒に登校してきた連中は、荒野から距離を置いて成り行きを生暖かく見守っているだけだった。
「……荒野……」
 少し離れたところで、茅が荒野を睨んでいる。
「その人たち……誰?」
 視線が、氷点下だった。
 下校時に彼女らに絡まれた一件を、すっかり忘れていた荒野は、当然の事ながら、茅にもまったく説明していなかった。
「ええっと……加納君の妹さん、茅ちゃん、だったかしら? わたしたち、お兄さんの友達で……」
 荒野を取り囲んだ女生徒うち、一人が茅に手を差し出して挨拶をしようとしたが、茅は、ぷい、っと横を向いた。
「……知らないの。荒野の友達なら、荒野が紹介してくれる筈なの……」
 茅がこれみよがしに横を向いたので、差し伸べた手のやり場に困ったその女生徒は、表情を硬くして途方にくれ、立ちつくしていた。
「……荒野!
 このお友達の、名前を教えるの!」
 いきなり、茅が周辺に響き渡る声で、叫ぶ。
 遠巻きにしていた、登校途中の生徒達までもが、足を止めて荒野たちの挙動に注目しはじめた。
「……ええと……」
 荒野は、おろおろと左右を見渡しながら、震える声で答えた。
「……その……ごめん。
 ……知らない……」
 昨日は、一人一人名乗り合う間もなく、うやむやにして別れたのだった。
 荒野が、最初の一人の名前を知らない、というと、茅は、荒野の周囲に群がった女生徒を一人一人指さし、「この人は? この人は?」と荒野に確認していく。
 転入前の事前調査で、名前を記憶していた者も何人かは、いたが……それまでに接点がなかった生徒の名前を、これだけ注目をあびている中で復唱するのは、不自然であり……だから、荒野はなにも答えられなかった。
 茅に指さされた上、荒野に公然と「知らない」といわれた女生徒たちは、気まずそうな顔をして、お互いに目配せを交わし合っていた。
「……つまり……」
 最後の一人まで指さし終えると、茅は傲然と胸をそらした。
「……ここにいる人達は、一方的に荒野を知っているだけの、お友達なの……」
 そう結論した茅は、にっこりと「完璧な」笑顔を女生徒達にみせて、こう挨拶した。
「はじめまして……荒野の、一方的な、お友達……。
 茅は、荒野の妹なの……」
『……やりすぎだよ……茅……』
 心中で、荒野はうめいた。
「……やるなぁ……茅ちゃん……」
 少し離れたところで、飯島舞花が小さく呟く。
「あれで……敵には容赦しない性格なんですね……」
 佐久間沙織は、そう論評した。

 その日のうちに、「茅=強度のブラコン」説が校内に広まり、荒野狙いの女生徒たちの間では、「茅対策」が焦眉の問題として取り沙汰されるようになった。

「……つうわけで……」
 荒野は、一時限目が終わると即効で保健室に駆けつけ、三島百合香に今朝の出来事を話した。こんなのしか相談相手がいない、というの事実も、荒野にしてみればかなり忸怩たるものがあるのだが……荒野と茅の関係を理解していて、愚痴をこぼしても問題無さそうな相手は、ほかに思いつかなかった。
「……苦労してます……」
「苦労は、今にはじまったことではなかろう? ん?」
 案の定、三島は荒野の話しをおもしろがってにまにま笑うだけで、具体的、かつ、事態の収拾に役に立ちそうなアドバイスは、何一つ貰えなかった。
「……お前に御しきれない茅を、わたしがどうこうできるわけなかろう?
 ほれ、もうすぐ次の授業がはじまる。休み時間は短いんだから、さっさと教室に戻れって……」
 荒野は……自らの孤独を噛みしめながら、自分の教室に戻った。

 昼休みまでには気を取り直した荒野は、パソコン実習室に向かう。特に約束や待ち合わせをしてたわけではないが、校内で生徒が扱えるパソコンが置いているのはそこくらいなので、茅をはじめとする知り合いの何人かがそこにいる可能性は大きかった。
 案の定、茅や楓、堺雅史や斎藤遥を初めとするパソコン部の生徒達、それに玉木や有働などの放送部員たちが入り交じって、忙しく働いていた。
 そこまでは、荒野が事前に予想した通りの光景だったが、現実には、それに加えて、佐久間沙織が、茅の隣に陣取って目にも止まらぬ速さでキーをタイプしていた。
 それも……茅と同じく、左右にモニターとキーボードを置き、片手にひとつのキーボードを、左右に同時に叩いている。
 肩を並べてキーボード二刀流を披露している茅と沙織の周囲には、当然のように人垣ができていた。
 茅のとなりでは、楓が陣取ってかなり速いペースでキーボードを叩いているのだが、やはりインパクトが弱いのか、二刀流の二人ほどには注目を集めていない。
「……あっ……荒野君……」
 人込みの中に荒野の姿を認めた沙織が、顔をあげて声をかけてきた。
「茅ちゃんが公然と能力全開にしてるのみると、わたしも、こそこそしているのが馬鹿らしくなっちゃって……ここももう卒業だし、セーブしなくてもいいかなって……」
 そういって沙織は、可愛らしくちろりと舌を出す。
 悪戯を見つかった子供の表情だった。

 気づくと……沙織に話しかけられた荒野は、その場にいた全生徒の注視を浴びていた。

「……で、今度は、美術室に逃げ込んできた、と……」
 一通り荒野の話しを聞いた樋口明日樹は、わざとらしいため息をついた。香也は、明日樹の側でこちらに背を向けて、例によってイーゼルにたてかけたスケッチブックに向かって、鉛筆を走らせている。
「加納君って……本当、注目されることが苦手なのね……そういうルックスなのに……」
「好きで、こういうルックスに生まれついたわけではないし……」
 荒野は、悄然とした様子で、力無い声で答えた。
「今までずっと、目立つな、目立つな……と自分に言い聞かせて生活してきたんだから……仕方がないじゃないか……」
 それから、荒野は香也に近寄り、香也にだけ聞こえる小さな声で、囁いた。
「君は……なんというか、豪胆だよな……妙なところで……」
 すぐ側にいる明日樹の耳に入る可能性も考慮し、荒野は、言葉を選んだ。
 今朝の一件を経験した後では……「ああいう環境」に身をおいていても、平然として態度を揺るがさない香也は……やはり「豪胆」としか、形容のしようがない。

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彼女はくノ一! 第五話 (149)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(149)

「……いや、だからな……」
 数時間後、髪の毛を乱した羽生譲が、息もたえだえ、といった態でいった。
「……君たち、本気で喧嘩すると、それこそカッコいいこーや君呼んでこなけりゃ収拾つかないし、真理さんの留守中に家、大破したらいいわけきかんし……それ以上に、仲裁するこっち方のが命懸けだから、その、もちょっと冷静になってくれい……」
 羽生譲も、居間の様子も……それに、他の四人も、「ずたぼろ」という形容が相応しい状態だった。
 以前のように楓と孫子の二人だけだったら、体力が尽きるまで際限なくどつきあっていたのだろうが……今回からは、テンとガクも入り交じっての四つ巴戦になっている。誰かが有利なポジションを取れば、誰かが牽制する……といった具合に、狭い居間内での戦いになった。せいぜい、襖が全壊した程度の被害ですんでいるのは、それでも四人がパワーをセーブするだけの理性を保っていたからだろう。テレビや窓ガラスには、被害がなかった。
 途中まで、居間の内部で逃げ惑いながら、争いを止めようとしていた香也は、いつの間にか姿が見えなくなっている。
 おそらく、自分の手には負えない、と判断して、自室に逃げ込んだのだろう。羽生も、留守にしている真理への義理がなければ、勝手にやらせているところだった。
 四人は、炬燵の周囲でパジャマと髪を乱しながらへたり込んで、荒い息をついている。
『……みんな……普段はおとなしい、いい子なのにな……』
 そう、羽生譲は思う。
「……提案……」
 羽生譲は、のろのろと片手を上げた。
「……結局、なんの解決にもなっていないけど……もう、真夜中だよ……。
 明日……いや、もう、今日か……今日も、学校があるわけだし、みんな汗かいたから……とりあえず、今夜は、このままみんなでお風呂にはいって、朝まで休もう……。
 いや、結局は、こーちゃんの気持ち次第なわけだし……今、ここで相争っても、なんの解決もならないかと……」
 実は、一言で要約すると「もうちょい、様子見しよう」としか、いってない。
 しかし、羽生譲以外の四人も、顔を見合わせて、今の自分たちがひどいありさまであること確認した後、不承不承、頷き合う。
 そして、のろのろと立ち上がり、風呂場に向かった。
 最後の一人が立ち上がり、歩きだしたのを確認してから、羽生譲も、それに続く。
 ……まったく……なんてぇ子たちだ……。
 と、羽生譲は思った。
 こういう子たちを前にして、自分のペースを崩さない真理や香也は、つくづく偉大だ……とも。
 もっとも、香也に関しては……その、マイペースすぎるところが、諍いの原因にもなっているのだが……。
 多分、羽生譲は、この家の住人の中で、一番普通でまともな人間だった。

「……おはようございます」
「あ。楓おねーちゃん、おはよー……。
 もう、いつでも食べられるよー……」
「あ。はい。
 朝はいつも作ってもらって……」
「気にしない、気にしない……。
 ボクら、どうせ朝早いし、おねーちゃんたちと違って、学校いかなくていいいし……」
「……それよりも、そろそろおにーちゃん起しにいかないと……また、孫子ねーちゃんがなにかするかも……。
 孫子おねーちゃん、隙をみつけると、すぐにおにーちゃんにベタベタするから……」
「あ。はい! そうですね! 今、見てきます!」
 翌日、朝食の時間になっても起床することができなかった羽生譲をよそに、他の住人たちは、いつもの通りの朝を迎えていた。普段と違うところがあるとすれば、全員の目の下に、濃いクマができていることくらいだ。
 日常というものは、かくも……強靭、なのである。

 その日、ファミレスのバイトがオフだった羽生が、昼前にようやくのろのろと起きてくると、居間は、破れた襖なども含めて、きれいに、元通りに片付いていた。
『……こういうところは、しっかりしているんだよな……』
 半ば呆れながら、炬燵に入る。
 炬燵の上には、こんもりと真ん中が膨らんだ新聞紙が置いてあり、その上に、「起きたら、食べて。台所におみそ汁もあります」と書いたメモ用紙が置いてあった。
 新聞紙をまくって下を覗くと、ラップに包んだ焼き魚と香の物、それに伏せた茶碗と箸、などが一式用意されている。
 温めれば、いつでもそのまま食事ができるようになっていた。
『……みんな……いい子、なんだけどな……』
 羽生は、寝癖がついたままの髪をぼりぼり掻きながら、灰皿と煙草を取り出して、煙草を咥え、火をつける。
『いい子、なんだけど……いろいろと、難しいよなぁ……。
 特に、こーちゃん……』
 現状のまま、誰をひいきする、ということもなく……というのは、それはそれで、賢明な選択かもしれない……と、羽生は思いはじめている。
 香也が、あの中の、あるいは、この家の住人ではない、特定の誰かを選んだとしたら……それはそれで、また波乱がありそうな気も、する……。
『でも……ま……』
 こういうのは、気持ちの問題だからな……と、羽生は思い直す。
 なるようにしか、ならないだろう……とも……。
『……ってぇ、か……ろくな恋愛経験もないわたしが……心配しても、どうにもならんか……』
 羽生は、ごろん、と煙草を咥えたまま畳の上に寝そべって、天井の上に、紫煙を吐いた。

「……あ。にゅうたん、起きんだ……」
 羽生が一服しながらのろのろしていると、玄関の方からとたとた足音を響かせて、居間に、ガクが入ってきた。
 ガクは、スポーツウェア姿で、服とか顔のそこここに汚れがついていた。
「ガクちゃん……どったの、その格好……。
 それと、顔のここんところに、汚れがついているよ……」
 えいしょ、と上体を起した羽生が、自分のほっぺたを指でさすと、ガクはそのあたりを手でこする。
「……あ。かえって、汚れが広がった……。
 一度、風呂場に行って、手と顔を、よく洗ってきな……」
 ガクは、素直にその言葉に従い、とたとたと足音を響かせて、居間を出て行く。いつも一緒にいるテンの姿が見えない……ということは、今日は、どうも別行動のようだ……と、羽生は予想した。
 やがて、手と顔をきれいにして居間に戻ってきたガクに尋ねると、やはりテンは、単身で徳川の工場に出向いている、という。
「……なんかね、あっちはあっちで、いろいろ忙しいみたい……」
「……そっかぁ……まあ、やることがあるってのは、いいことだな……何事も、経験だ……」
 羽生は、とりあえず、当たりさわりのない返答をする。羽生は、荒野ほど、ガクたちの行動を把握しているわけではないので、テンが徳川の工場で具体的にどういうことをやっているのか……までは知らない。
「で……ガクちゃんは、お留守かぁ……」
「留守番も、だけど……ボク、庭に置いてある自転車、今、修理しているんだ……」
「ああ。あの、野ざらしになってたやつか……」
 そういや、そんなのもあったな……と、羽生はぼんやりとそう思い出す。
「あれ、前にうちに住み込んでいた人達が置いていったのだけど……使えるの? あれ?」
「とりあえずは、錆を落としてみたところだけど……あと、チェーン周りに油差して、ブレーキのワイヤーとかタイヤとかとっかえれば、なんとかなるんじゃないかな、って……」
「……新しいのを買った方が、早いんじゃないか、それ……」
 話を聞く限り……ほとんど、オーバーホールに近い。
「そうかもしれないけど……できるだけ、あるものを使いたいし……それに、ボク、テンと違って、傷が直りきるまでは、この程度しかやれること、ないし……」
「……そっか……」
 傷が直るまでの時間つぶし、といわれれば、頷くよりほかない。また、物を大切にするのも、いいことだ……と、羽生は思った。
「……じゃあ、ご飯食べたら、一緒に部品、買いに行こうか?
 どうせこっちも、今日は休みだし……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(65)

第六章 「血と技」(65)

 登校の準備を終え、いつものようにマンション前に集合する。その日は、荒野と茅が一番最後だった。
 荒野は、早速楓の方に向かって歩いて行き、「テンも一緒に、体術をしこんでくれ」と頼もうとし、そこで楓がひどく憔悴していることに気づいた。
「……なんだ、楓……目の下に、クマができているぞ……」
「あは。あははははっ……」
 楓は、笑ってごまかそうとした。返答しにくいことを聞かれた時の、楓の癖だ……ということが、この時点では、さすがに荒野も気づいていた。
 そこで荒野はさりげなく、あたりを見渡す。
 孫子と香也……つまり、隣家の住人だけが、楓と同様に、目の下にクマを作っていた。
「……家の中で、あれからなんかあったか……」
 何事か察した荒野は、声を潜めて楓に尋ねる。
 楓は、蒼白な顔をして、小さく頷いた。
 ……お隣の、家庭の事情……となると、十中八九、香也をめぐるドタバタだ……とは思うが……。
「この場では、なんだから……昼休み当たり、じっくり話を聞く。場所は、後でメールで……」
 荒野がそういうと、楓は小さく頷いた。楓が頷いたのを確認して、荒野は楓から離れる。
 登校中、ペースメーカーである飯島舞花が、「来週のバレンタインが」どうのこうの、と、話題を振って来て、女性陣はそれなりに盛り上がっていた。
 商店街に差しかかった所で、玉木珠美が合流してくる。茅が、鞄の中から紙の束を取り出しながら、玉木の方にかけよって、早速、自主勉強会のことについて、説明しようとした。茅が鞄から取り出したのは、昨夜、テンと一緒に作っていた資料の、プリントアウトだった。
「……あー。
 そういうの、いきなり見せられて、説明されても……」
 玉木は、苦笑いを浮かべながら、茅に断りをいれた。
「放課後、使える場所は、責任をもって確保するから……後は、ソフトの整備の方は、そちらに一任します……」
 玉木は茅にそういって、頭を下げる。
「……このカリキュラム……サーバにもアップしているから、学校外からでも、学校のパソコン室からでも、アクセスできるの……」
 玉木にやんわりと断られた茅は、一緒に登校している生徒たちに、説明しはじめる。
「……時間がなかったから、まだ、一年生と二年生の、ごく一部分しか、整理できなかったけど……じきに、全学年、全教科を網羅するつもりなの……。
 会員登録をしてログインすれば、いつでも簡単なテストを受けて、学習した内容をどこまで把握しているのか、分かるし……それに、成績の推移も、記録されるの……」
「……いたれりつくせり、だな……」
 飯島舞花が、つぶやく。半ば、呆れた口調だ。
「それ……完成すれば、どっかの塾とかに、売り込めるんじゃないの?」
「売れるかもしれないけど……売らないの」
 茅は、ゆっくりと首を振った。
「教科書の記述をそのまま使っている所が多いから、営利目的にすると、問題が出てくると思うの……。
 それよりも、無償公開して、みんなに使ってもらうほうが、長い目でみるとメリットになるの……」
「……それ、ある程度できたら、先生方に内容を確認してもらって、監修してもらった方がいいな……。
 いや、早いうちから、『こういうの作っているんですが……』って、相談する形で、見てもらった方が、いい……。
 先生方も、面子ってものがあるから……茅ちゃんたち、生徒がやったものを、後で認める……というより、最初から、初期の段階から、作るのに噛んでいた……という形にした方が、スムースにいく」
 玉木も、茅の言葉に頷き、そういって協力してくれそうな先生、それに、協力はしてくれないだろうが、声はかけて顔をたてておいた方がいい……という先生の名前を、何人か、上げてくれた。
「……分かったの」
 茅は、素直に頷き、玉木の上げた先生の名前を反復してみせる。
「ま……そうやって、茅が頻繁に、職員室に出入りするようになった方が、こちらも都合がいいしな……」
 荒野も、そういって頷いた。
 今後……教員たちの、茅への心象がよい方が……荒野たちの立場が、有利になる……という、局面も、ありうるわけで……。
「ネットにアップした、って……それ、どこのサーバに、アップしましたの?」
 今度は孫子が、茅に尋ねる。
「徳川の。性能とバックボーンは折り紙付きだし、メールで頼んだら、快諾してくれたの」
 ……そんなところでしょうねぇ……と、孫子は納得した。
「……随分と、楽しそうな話をしているじゃない……」
 不意に、荒野の肩を叩いてきた者がいた。
 振り返ると、佐久間沙織が立っていた。
「……それのデータ、学校のパソコンからでも更新できるの?
 わたし、もう受験の心配をしなくていいから、手伝おうか?」
 沙織は、気軽にそんなことを言ってくれる。
「……学校からでも、自宅からでも、管理パスさえあれば大丈夫なの……」
 茅が、沙織に微笑む。
「先輩が手伝ってくれると、作業スピードが、倍増するの……」
 佐久間の体質を受け継いでいる沙織は、完璧な記憶力を持ち、実際に受験を経験して来たばかり。加えて、元やり手の生徒会長で、教員の覚えもめでたい……。
 これから、自主勉強会、を推進するには、これ以上はない、というぐらいに、うってつけの援軍だった。
「それにしても……。
 ……まさか、荒野君が、カミングアウトするとは思わなかったなぁ……それも、こんなに早く……」
 その佐久間沙織は、そういってため息をつく。
「わたし、もう卒業だから……もう一年、それが駄目なら半年はやく、荒野君たちがここに来てたら……わたしの学校生活も、もっと充実してたのに……」
 沙織は、そうぼやいた。
「でも、ま……。
 荒野君も、来年、三年でしょ? 進学は、するの? するんだったら、みんなを引き連れて、うちの学校にいらっしゃい。
 歓迎するし……その次の年は、茅ちゃんたちもいるでしょ?
 みんな揃ったら……楽しいことに、なるわよ……」
 ……沙織の進学先は、県内でも有数の難関校なのだが……沙織は気軽な口調でそういって、荒野たちを誘う。
「その件については……微力を尽くし、前向きに善処します」
 荒野は、わざと畏まった態度で、そう答える。
「……と、いうことで……大樹、お前も付き合え……」
 荒野は、昨夜の明日樹との約束を思い出し、ヘッドロックをする形で、すばやく大樹の首をホールドする。
「玉木、とりあえず、今日の放課後は、どこの教室を押さえたんだ?」
「……ああ、それなんだけど……」
 いつもはきはきする玉木には珍しく、言葉を濁す。
「まずは、勉強会の前に、大掃除、だな……。
 空き教室を使っていい、っていうことにはなったんだけど……そこ、長年倉庫代わりになっている所で、備品目一杯つまっているし、埃だらけだし……。
 片付けとか掃除とか、何人か人手があっても、使えるようにすうるまで、丸一日はかかるんじゃないかと……」

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彼女はくノ一! 第五話 (148)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(148)

「……と、いうわけで、第一回、これからこーちゃんをどうしようかな? 家族会議をはじめたいと思います……」
 そういう羽生譲の顔は、どこか虚だった。
 あるいは、「……なんでこんなことになったんだろう……」と思っているのが、ありありと表情にでていた。
「わたしとしても、あんま大きな顔をして仕切れるような立場では無いんだけど……なんか、このまま放置しておくと、どんどん事態がこじれそうなんでな……。
 真理さんから留守を預かっている関係でも、座視するわけにもいかんだろう、と、こうしてやりたくもない会議を開いている訳ですが……。
 ……おーい……。
 肝心のこーちゃん。
 ちゃんと聞こえているかー?
 なんか、心ここにあらず、といった感じだぞ……」
「……んー……」
 香也は、いつも以上にぼーっとしていた。
 あるいは、「ここはどこ、わたしは誰?」的な心理状態にあった。
「……こーちゃんが、終始受け身だったのは理解している。っつーか、受け身だったから、ここまで拗れた、ともいえる。
 こーちゃんの性格はよくしっているつもりだけど……ここいらで、びっしり、相手を一人に絞っちゃえば、遺恨は残るかもしれないけど……それでも無用のトラブルは減るよ……」
 羽生は、とりあえず、そういい渡した。
「……あんまし、こういうのもなんなんだけど……。
 この中で、誰か一人に絞って付き合ちゃえば?
 そしたら、他のはおとなしくなる。ならざるを、えない。
 付き合ってみて駄目だったら、次に移ればいいわけだし……」
「……んー……でも……」
 香也は、それでも、躊躇った。
「……その、便利だから、とか、丸く収めるため、とりあえず……っていうのは……なんか、違うと思う……」
「…………だよなぁ……」
 香也のそうした反応を半ば予期していた羽生は、がっくりと項垂れた。
「……というか、こーちゃん……。
 この中でも、あるいは、家の外の人でも……今の時点で、女の人と付き合いたいって思ったこと、ある?」
 香也は、ぶんぶんと首を横に振る。
「……ぼく……女性は、嫌いじゃないけど……。
 その、付き合うとかそういうのは……まだまだ早すぎると思う……」
 羽生は、香也の言葉に頷いた。
 これも、予想通りの反応だ。
「……さて、お嬢さん方……。
 こーちゃんは、こう申しておりますが……」
 そういって、羽生は、「お嬢さん方」の方に向き直る。
 すなわち、楓、孫子、テン、ガクの四人に。
 四人とも、ひどく真剣な顔をしている。
「……って、か、くノ一ちゃんとソンシちゃんは前々からあれだったけど……テンちゃんガクちゃんまでこーちゃん狙いなわけか?
 今朝のアレまでそんな気配もなかったような気もするけど……」
 羽生は二人に確認する。「今朝のアレ」とは、風呂場での一件だ。
 羽生は、特殊な育ち方をした二人が、そもそも通常の意味での「恋愛感情」というものを、理解しているのかどうかも、あやしい……と、みている。
 楓と孫子の場合は、以前から公然とそういう態度をしていたから、まだわかるのだが……。
「……生物学的な発情と恋愛感情がどう違うのか、イマイチよくわからないんだけど……おにーちゃんとそういうことしたい、と時々切実に思うのは、確か……」
 テンが、あくびれもせずに、そういう。
「……おにーちゃん……付き合わなくてもいいから……今度、そういうことしようよ……」
 ……うわぁ……普段は子供の顔をしているのに、こういう時だけ女の顔になるよ、この子は……と、どきまぎしながら、羽生は思った。
 ちらりと視線を走らせて確認すると、楓と孫子は怒気を通り越して、殺気を放っている。
「……はいはーい!」
 ガクが、元気よく片手を上げる。
「……ボク、おにーちゃん好きでぇす!
 えっちなことか、よくわかんないけど……おにーちゃんがしたいのなら、しちゃってもいいと思いまぁす!」
 こっちはこっちで、あっけらかんと何も理解していないようだった。
「……あ、あのなぁ……ガクちゃん……さっきから、おねーさんたちが殺気だっているから……そういう不穏な言動は謹むように……」
 羽生は、片手で顔を覆いながら、げんなりとした口調でいう。
 ……なんで自分が、こんなに居心地の悪い思いをしなければならないのか……。
 というか……香也は、普段……こういう雰囲気の中で、それでものほほんとしながら暮らしていたのか……。
『……思った以上に大物だな……。
 こーちゃん……』
「……えー。
 だってぇ……」
 ガクが、ここぞとばかりに声を張り上げる。
「……おにーちゃん、自分で処理している時ははいいけど……そうでない時は、体が、可哀想な匂いに変わるんだもん……。
 風邪で寝込んでいたからか……今朝は、とりわけ可哀想な匂いが強くて……」
 ガクの発言が理解されるにしたがって、その場の空気が凍りついた。
「……そ、そ、そ……」
 羽生が、どもりながら、ガクに確認する。
「それは……ガクちゃんは……その……こーちゃんが……あー……溜まっている時と、そうでない時の体臭の違いが……」
「……うん。わかるよ!」
 ガクが、例によって、元気よく、頷く。
「男の人はねー……。長いことせーえき出してないと、体臭が濁ってくる……。女の人も、男性ほど極端には変わらないけど、それでも、しばらく性的なこーふんしていないと、体の匂いが変わってくる……。
 この家の中で、いい匂いになっているのは、羽生さんと孫子おねーちゃん……それに、おにーちゃんで、この三人は、毎日のように自分で気持ち良くなっているんだと思う。
 一緒に住んでいるんだから、二人とか三人で仲良く一緒に気持ち良くなればいいのに……」
「……あのなー……ガクちゃん……」
 こういうのと同居していると、プライバシーも何もあったものではないな……と、羽生は思った。
「まず……そういうことは、大ぴらにいってはいけないんだ。
 この社会では、そういうえっちな事は、おおぴらにいってはいけない、っていうことになっている……」
「……え?」
 いわれたガクは、キョトンとした顔をした。
「そ、そうなの……。
 島にいた時は、じっちゃん、結構おおぴらに……さて、欲情してきたから、ちょっと向こうでこいてだしてくるわ……とか、いって、すっきりした顔をして帰ってきたけど……」
 ……それは……ガクがいたから、なのではないか……と、羽生は想像する。
 ガク、テン、ノリ……の三人は、容姿的には、かなり恵まれている。その三人の女の子に囲まれて……他には誰もいない場所で三人を育て上げた「じっちゃん」という人は……。
『……こちらが想像もつかないところで、苦労していたんだな……』
 と、羽生は思った。
 日々、美しく成長していく三人の別嬪さんに囲まれて……しかも、そのうちの一人は、匂いで体調や感情も、ある程度は読み取れるときている……。
 それは……あっけらかんと自分の劣情を認めでもしなければ……いつか、暴発してしまいそうにも、なるだろう……。
 羽生は、名も顔も知らないじっちゃんという人に、いたく同情した。
「……いいか、ガクちゃん……」
 羽生は、訥々とした口調で、ガクに語りかける。
「……自分で気持ち良くする……オナニーは、別に悪いことではないけど……でも、それを、そういうことを、他人の前で大っぴらにいうのは、駄目だ。
 島ではどうだったかしらないけど、ここでは、通常の日本社会では……性的な事柄や、他人の性生活についておおぴらに触れ回ることは、タブーとされている。
 場合によっては、セクハラとかいって、裁判ざたになる……わかるな?
 裁判とか訴訟とか……」
「ええと……見たことはないけど……基本的なことは、前に習った……。
 たしか、公的な紛争調停機関、だったっけ?」
「……そう。
 つまり、場合によっては、犯罪あつかいされる。
 だから……ガクちゃんの鼻が、自動的に嗅ぎ付けちゃうことなのかもしれないけど……それを、他人にいちいち指摘したら、駄目だ……」
 羽生は、いつになく真剣な表情をしていた。
 ガクだけ……かも、しれないが……三人は、この社会にかんする知識を得る機会をあまり与えられないまま、こうして放り出されている……という、普段はあまり意識していなかった事実が、羽生の中で、急速に重い意味を持ちはじめている。
「……それと……ああ。
 せ、セックスというのは、だな。あ、あれ、体の欲求を解消するだけの、行為ではないから……。
 同居しているから、とか、利害が一致しているから、とか、その程度のことで、軽々しくやってしまっては、いけないんだ。ましてや、二人だけ、ではなく、多人数でやるの、というのは……あー……今の社会では、アブノーマル、特殊な趣味、と、されている。
 だから、その……。
 ああっ。
 あー……そういうのは、お互いの気持ち、というが最優先であって……」
 せどろもどろに説明しながら、羽生は頬を真っ赤にしていた。
 ……処女にこんなこと、説明させるなよ……。
 これ、なんて羞恥プレイ?
「……えー?」
 おとなしく羽生の説明を聞いていたガクが、怪訝な顔をして異を唱えた。
「……でも……。
 ボクが入院している間に、おにーちゃんと、楓おねーちゃんと、孫子おねーちゃん……。三人で、かなり長時間、楽しんでたよ……。玄関先に、三人が興奮した時の体臭がべっとりとついているし……その時に、おにーちゃん……何発か、数え切れないくらい、射精しているけど……。
 そういうのも、いけないことなの?」
「……なにぃー!」
 羽生は、半身を乗り出して、叫ぶ。
「その……こーちゃんが、初物のソンシちゃんとやっちゃった、ってのは聞いてたけど……。
 それって……楓ちゃんも……一緒だったの?
 ……ってか……一体、なんだって、そんなことに……」

 ……という訳で、「第一回、これからこーちゃんをどうしようかな? 家族会議」は見事に紛糾し、その日の夜半まで行われた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(64)

第六章 「血と技」(64)

「夕べは、三回」
「いちいち、回数を指摘しなくていい……」
 荒野とガクの、毎度おなじみの朝の挨拶だった。今朝は、雲一つ無く、抜けるような青空が広がっていたが、大気は乾燥していて、肌に突き刺さるように、冷たかった。
 荒野、茅、テンとガクの四人は、ストレッチをいつもより入念に行ってから、土手の方に走り出した。
「そういや……ガク、傷の具合、どうだ?」
「浅いのはだいたい、塞がってきた。でも、深く切れている箇所もあるから、そっちの方は、もう少しかかる。傷口が盛り上がってきたところなんか、古い細胞がぼろぼろ表面に剥がれてきて、痒くてしょうがない。
 今日、お医者さんのところにいって、見て貰う予定」
「痒くても、掻くなよ。
 昨日の、楓とのアレはどうだった」
 町中を併走しながら「術が、技が、修練が」などの単語を使うのが何となく恥ずかしかったので、荒野は「アレ」といういい方をする。
「本格的に習うのは、傷がすっかり塞がって、激しい運動が出来るようになってからだけど……」
 ガクは、ため息混じりに呟いた。
「……まずは、手裏剣が真っ直ぐ飛ぶようになるように、練習する」
「……飛ばないのか、お前」
 荒野は、まじまじとガクの顔をみた。
「基本中の基本、だぞ」
「だって……やったこと、無かったんだもん……」
 ガクは、珍しくしょぼーんと肩を落とした。
 ……あまり深く追求しないようにしよう……と、荒野は思った。
「……ねえねえ、かのうこうや!」
 テンが、荒野の服をちょんちょんと引っ張る。
「ボクは! ボクにはなにか、聞くことないの!」
「テンは……しっかりしているからなあ……」
 荒野は、あやうく「ガクとは違って」といいそうになり、慌ててその言葉を呑み込む。
「徳川の手伝いとか、昨日いってた茅の手伝いとか、適当に忙しくやっているっんだろ、どうせ。
 ま、なにか問題があったら、その都度、連絡してくれ……」
 荒野がそういうと、テンが、珍しく不満そうな顔をする。テンはテンで、荒野に心配されていないのが、不満らしい……。
 難しいものだな……と、荒野は思う。
 荒野とて、他人に指示を出す立場にたつのは、これがはじめてのことであり……万事そつなく、というわけにもいかないのだった。
「……それより、茅……。
 本当に、楓に習うつもりか?」
 荒野は、話題を反らすために、茅に話しかける。
「習うの……」
 茅は、頷く。
「無理はしないし、怪我や体に負担をかけすぎないように、気をつける。
 それが、今後予測される状況下で、一番、合理的な対処法なの……」
 今度は、荒野がため息をついた。
「まあ……ほどほどにな……」
 その件については、昨夜のうちに、茅自身から聞かされていた。楓は「荒野が許可してくれれば」という条件付きで、茅に体術を教えてくれる……と、約束してくれたらしい。
 楓自身が判断していいのかどうか、分からなかったので、荒野に振ってきた……というところだろう。
 そして、荒野にしてみれば……本心はどうあれ、茅が自発的に「やる」といったことを、確たる根拠もなしに止めさせることも出来ないのであった。
 茅のいう「側に誰もいないとき、自分の身を守れるように」という理由も分からなくもないのだが……生半可な護身術を身に付けてしまったおかけで、かえって慢心し、逃げ際を誤って負傷する……という例は、意外に多い。
『後で……楓には……茅がすぐに根を上げるくらい、厳しい修練を課すよう、申しつけておこう……』
 結局、その件に関しては、荒野はそう結論した。
 茅が、楓のしごきに耐えきれなくなって、逃げ出す……という形が、一番妥当な結末に思える。

 ガクは本格的な運動を禁じられていたので、茅と一緒に走り込みをやっている。茅がやっている程度の運動なら、ガクにとっては、「激しい運動」の範疇に入らない。
 そこで、テンの組み手の相手は、荒野が努めることになる。
 荒野は、ガクから借りた六節棍を構えて、テンと対峙していた。
「お前ら、さ……」
 荒野はそういって、棍の関節を全て外し、手首を飜す。
「これ……折りたたみの棒としか、使ってないだろ?」
 荒野の六節棍が、生き物のようにうねって、テンの手元に飛びつく。
 テンは、冷静に荒野の棍の先端を払う。
 反対側から、今度はテンの頭部に向かって、荒野の棍が向かってくる。
 テンが、数メートル後退して、それを避ける。
 荒野は、関節部を全て外して頭上に掲げ、長く伸ばした六節棍の中央を高速で回転させていた。荒野の頭上に、円盤状の残像が出現している。
 荒野が、消えた。
 いや。急激に動いたので、瞬時にテンの視界から、消えた。
「動きが、単調」
 不意に、すぐ後ろから荒野の声が聞こえたので、テンは総毛立てて振り返る。
 テンのすぐ目の前に、棍が迫っていた。
 背を反らして、棍をやり過ごす。
 と。今度は、足元を払われる。
「注意力、散漫」
 足元を払われ、横向きになったテンの体を、荒野は腿で受け止め、一拍の間をおいて、今度は、足の力で真上に放る。
 テンの体が、高々と、空中に舞い……。
「ま……まだまだ、ってこったな……」
 落下止まると、テンは、荒野に襟首を掴まれた状態で、猫の子のようにぶら下げられていた。
 目線が、荒野と同じ高さで……テンの足は、地に着いていない。
「武器に頼り過ぎるな。目だけでなく、肌で、全身で、三百六十度を感じろ。動きをもっと柔らかく。相手に次の手を読ませるな」
 一息にそういってから、荒野は、テンの体を地面の上に降ろす。
「なんなら、お前も、ガクや茅と一緒に、楓に体術を習っておけ……」
 テンは……反論、できなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (147)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(147)

 勉強会が終わり、この家の住人以外の者が帰っていき、香也も樋口明日樹を送るために一緒に出て行くと、居間には羽生譲と三島百合香の二人が残された。茅とテンは羽生の部屋に籠もって、やりかけの作業を切りのいいところまでやってしまう、といっているし、他の住人は仲良く風呂に入っている。
「……なあ、先生……」
 ちびちびとビールを舐めながら、羽生が、しんみりとした口調で、三島に語りかける。
「学校のこと、周辺の人たちの反応、敵さんとやら……本当に、あの子たちは、大丈夫なんかいな?」
「……むざむざ潰されるようなタマかい、あいつらが……」
 三島は、グラスに残っていたビールを、ぐいっと仰いだ。
「そこいらの大人よりもバイタリティあるぞ、あいつら……。
 半年や一年後には、これといった産業のないここいらに、コングロマリット作り上げていてもおかしくないが……」
 たしかに、勉強会の合間に、孫子が徳川と組んでなにやらはりはじめようとしている……という話題も、ちらりと出てはいた。詳しい内容は、聞いていないが……。
「子供のやることが……そんなに、うまくいくんすか?」
 羽生が、三島に尋ね返す。
「子供って、いっても……徳川は、モノホンのアレだからな……。今までは、いいビジネス・パートナーがいなかったから、地味な開発しかしていなかったけど……。
 で、才賀は、資本と法務や販路、商売に関するノウハウを提供できる。
 才賀の実家だって、金になると納得すりゃあ、本気でバックアップしてくる。
 んでもって、さらに加えて、茅とかテンとかの天才集団が本格的にソフト開発に取り組んだりしてみたら……」
 こりゃあ……結構な、見物になりますよ……と、いって、三島はげっぷをした。
 羽生は、三島の空になったグラスに、ビールを注ぐ。
「有働あたりがしつこいくらいにいっているように、差別感情自体は、なくせないかも知れないけど……地元に金落としてくれる人間を、表だって非難する者は、いないって……。
 裏でこそこそ陰口をたたくヤツは、いるにしてもだな……」
「地元の方は、それでいいとしても……学校の方は、大丈夫なんすか?」
 羽生譲は、さらに三島に食い下がった。
 やはり、心配になってきているらしい。
「……公立校、ってのは、いうまでもなくお役所の機関だからな……」
 三島は、グラスに口をつけ、泡を少し啜る。
「何にも問題を起こさない限り……表だって、他の生徒と差をつけることは、できない……。
 やつら、書類上は、ここに住所を持つ、歴とした納税者の師弟なんだから……」
「何にも問題を起こさない限り……か……」
「そう……何にも問題を起こさない限り……」
 しばらく、二人は天井の方をぼんやりと見上げて、言葉を切る。
 二人とも……未知の敵、のことを、考えていた。
「でも、ま……大丈夫だろ。
 やつら、今のところ、学校にも地元ににも、気を使いすぎているくらいで……」
「……そうっすよね……。人気者っすもんね、彼ら……」
 しばらく間を置いて、三島と羽生はそういって、力なく、笑い合った。
 その時、ポットを抱えた茅と、カップのセットが入った箱を持ったテンが、居間に入ってきた。茅は、学校での自主勉強会で試用するカリキュラム作成が一段落したので、帰るという。

「……彼らのこと……知ってた?」
 送っていく途中で、樋口明日樹は、やはりそのことを持ち出してきた。
 香也は、反射的に、
「……んー……」
 と、呻ってから、
「知っては、いた。
 あまり、気にしたことは、なかったけど……」
 と、答える。
 明日樹はそっとため息をつく。
 確かに……香也にとっては、あまり関心のないこと……なのかも知れない……。明日樹になにも話さなかったのも……他意はなく、「そんなに重要なこととは思っていなかった」とか、その程度の理由なのだろう……。
 しかし……。
「あのね……狩野君……」
 香也は、「……んー……」といつものように生返事をしようとして、ちらりと見た明日樹の表情が、意外に強ばっていたので、あわてて口を閉じた。
「狩野君にとっては、どうでもいいことなのかも知れないけど……。
 わたしだけ、仲間はずれにされるのは嫌だから……今度から、なにかあったら……」
 ここで、樋口明日樹は言葉を切って、深々と深呼吸をし、香也の方に体の向きを変えて、香也の胸に人差し指をつきつけた。
「ちゃんと……教えること!」
 香也は、コクコクと、何度も頷いた。

 香也が帰宅すると、居間には誰もいなかった。玄関に靴が無かったことから、まだ残っていた三島や茅も帰ったことは分かっていたが、この時間に居間に誰もいない、というも、珍しかった。
 一瞬、庭のプレハブに行こうな、とも、思わないでもなかったが、就寝する時刻まで二時間を切っている。今日はまだ風呂にも入っていないし、集中して作業をするには、時間的に半端なので諦めた。風呂に入ろうかな……とも、思ったが、今朝の出来事を考えると……どうしても、躊躇してしまう。誰かと鉢合わせしたら……また、何があるかわからない。
 仕方なく、香也は炬燵に潜り込み、リモコンで見たくもないテレビをつけた。香也が名前の知らないタレントがやたらと声を張り上げて騒いでいる、バラエティ番組が映ったが、もとよりテレビを見たかったわけではないので、チャンネルを変えずにそのままにしておく。
 香也は、炬燵の天板に頭を乗せた。そういえば……今朝は、かなり早い時間に目が醒めたのだった。そのせいか、ひどい眠気を催してきた。
「……香也様……」
 そうして休んでいるところに、不意に背中から孫子の声が聞こえた。
 ぴたっ、と、柔らかくて、温かくて……いい匂いのするものが、背中にのし掛かってくる。
「……香也様……」
 背後から抱きついてきた孫子が、香也の耳に息を吹きかけるように、やけに湿った声で囁きかける。
 孫子の腕が、背後から、香也の首に絡みついてくる……。
 と、思ったら……。
「こんなところで……何、しているですか……」
「だ、だめだよ、孫子おねーちゃん!
 おにーちゃんを取り合うと、おにーちゃんがどうにかなっちゃうんだ!」
 声のした方に顔を向けると、鬼気迫る表情で仁王立ちになっている楓と、やたら狼狽しまくっているガクとが、すぐそこに立っていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(63)

第六章 「血と技」(63)

 狭いバスタブに、茅を抱えるようにして一緒に浸かりながら、荒野は茅から今朝の一件を詳しく聞いた。朝のランニングの時に小耳に挟んだ香也をめぐるいざこざの詳細を。
 早朝、寝汗を流すために香也が朝湯に浸かっていた。その現場に、テンとガク、それに羽生譲の三人が、突如乱入していって、例によってあれこれあったらしい……。

「…………彼も、災難だよなあ……」
 思わず、荒野は呟いてしまう。
 どう考えても、女難の相がでてる。荒野は無宗教だったが、香也に前世があるとするのなら、絶対に女性を虐待していたヤツだったに違いない……などと、思ってしまう。
 なにしろ、あの家の男女比率は女性の方に大きく傾いている。しかも、その女性のほとんどが、香也に気があるらしい……という、非現実的この上ない現実がある。この分では、荒野が知らないところでまだまだいろいろな目にあっている可能性もある。
 夢想や絵空事ならともかく……現実に、自分自身の身に降りかかってくるとなると……天国のような地獄、というか、地獄のような天国、というか……とにかく、いたたまれない。
 しかも、全員と同居しているのだから、プレッシャーもひとしお、大きい筈だが……。
 香也は、あの通り、飄々として、ペースを崩さない。
 せいぜい、軽い風邪を引く程度だ。
 そう考えると……。
「意外と……大物なのかな……」
 と、荒野は、ぽつりと声に出した。
「絵描きが?」
 荒野の胸に頭を預けた茅が、下から荒野を見上げながら、いう。
「……うん。よく、平気だなあ、と……板挟みもいいところだろ、彼……」
「絵描き……そこまで他人の気持ちを想像できるほど、成熟してないの……」
「いうなぁ、茅も……」
 荒野は、頭を掻いて、天井を見上げた。
「でも……そんなもんなのかなぁ?」
 心理戦や戦いの駆け引きに関してはそれなりの経験はあるが、こと、男女のこととなると……荒野だって、香也とどっこいどっこいだ。いや、荒野や香也の年頃で、異性関係の経験豊富なエキスパート、というのがいたとしたら、それはそれでイヤなヤツなのかも知れないが……。
「それをいったら、茅だって……他人のことは……」
「以前は知らなかったけど、憶えてきたの」
 茅は、荒野を見上げながら、ふ、と薄く笑った。
「ここには……サンプルがいっぱいなの……」
「……なるほどねぇ……」
 荒野は、こちらに来てからの知り合いの顔を一通り思い浮かべる。
 特に、公然と回数を競い合う二組のバカップルとか、どこまで本気でいっているのか判然としないが、生徒相手に誘惑してくる三島百合香とか……。
「確かに、サンプルはいっぱいだ。
 おれとしては、茅にはあんまり参考にしてない欲しくないけど……。
 人間、慎みを忘れたら、お終いだぞ……」
 荒野が真面目な顔をしてそういうと、茅は、ぷっ、と吹き出した。
「……茅は、大丈夫なの。
 荒野と二人きりの時しか、こういうこと、しないの……」
「……あのなぁ……」
 荒野は、茅の首に腕を廻して、抱きしめた。
「今日、みんなの前で、こうやったの、誰だ?
 らぶらぶだって、触れ回ったのは?」
 非難する口調ではなく、笑いを含んでいた。
「あそこにいた人たちは、いいの。
 あの場にいたのは、茅たちのこと、知っていて欲しい人たちだけだったから……」
 茅も、くすぐったさそうに身を捩りながら、そう答える。
 なんか……茅は、少しづつ、感情を表に出すようになっているな……と、荒野は思った。人目がある時はまだまだ硬いけど、荒野しかその場にいない時は、よく表情を変えるようになってきている。
 もう少しすれば……学校や町中でも、今、ここでそうしているように、素直に笑ったりする、普通の女の子になるのだろう……と、荒野は、そう思った。
 茅の情緒面に関しては……もはや、成長による解決は、時間の問題だ……と。
「なあ、茅……」
 荒野は、抱きすくめた茅の耳元に口を寄せて、囁く。
 そして、
「今日、シルヴィが、うちに来て……」
 と、シルヴィ・姉崎に持ちかけられた取引について、一通り、茅に話してみた。今日は、事件らしい事件が起きていない割には、一族関係の交渉で細かい進展がいくつかあった一日だったが、その中でも真っ先に茅の耳に入れておきたい案件が、これだった。
 最初に、やりとりの概要だけを茅に伝え、それから、「おれは応じるつもりはないって断ったけど、シルヴィが茅の意見も聞きたいといったので」と、前置きした上で、「茅も、そういうの、イヤだろう?」と聞いた。
 茅は、
「……むぅ」
 と、呻って考え込んだ。
「……お、おい、茅……なに、考え込む事、あるんだよ……」
 荒野としては、当然、茅も荒野と同じ判断を下すものと思っていた。
 ので……焦る。
「でも……荒野がここから離れられない今……姉の情報網は、魅力なの……」
 茅は、やけに冷静な判断を下す。
「それに、荒野がシルヴィのことらぶらぶでえっちするのは、茅もすごく厭だけど……。
 荒野、シルヴィに、らぶらぶ?」
 荒野は、ぶんぶんと首を横に振る。
「シルヴィは好きだけど……その、家族みたいなもんだから……。
 らぶらぶとか、そういう感情とは、違う……」
 ……第一、子供の頃にさんざんいじられ、いぢめられた相手でもある。荒野にとっては、「異性」というより、「苦手意識」の方が先に来る。
「なら……茅は、気にしないの……」
 茅は、曇りのない瞳で、荒野を見上げる。
「シルヴィがいうとおり、デメリットはほとんどないけど、メリットがある取引だし……それに、ことは、荒野と茅の二人だけの問題ではない……。
 感情論だけで判断するのは……収集できるはずの情報を収集しないのは……最悪、楓や、他のみんなを危険にさらす可能性もあるの……」
「……あ。ああ……」
 荒野は、ぼんやりと頷く。
「そうだな……こんだけ、訳わからない状況だと……どんな伝手でも掴んでおいた方が、いいよな……」
 荒野は……茅に、叱責されているような気分になった。
 いわれてみれば……これから、荒野の判断は、多くの人の……安全、に影響する。だとすれば……。
『……私情に流されるのは、駄目か……』
 とか思っている荒野に、茅は、いった。
「……その代わり、シルヴィとえっちした日は、その三倍、茅とえっちするの……」
「……せめて、二倍にしてくれ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (146)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(146)

 夕食後、茅がいれてくれた紅茶を啜りながら、三時間ほどみんなで勉強をした。
 昨日、一昨日と香也の体調が思わしくなかったので勉強どころではなかった。その分を取り戻すため、という口実はあるにせよ、それだけの長時間拘束されることを香也が特に嫌がらなかった(ように、見えた)のが、楓には意外だったし、それに、孫子や、その他の面々も、楓の目からは、割合に楽しそうに見えた。
 もちろん、「勉強」であるから不必要な雑談をひっきりなしにしている訳ではない。が、荒野は玉木や茅と「学校で行う予定の勉強会」なるものについての打ち合わせをぽつぽつとしているし、玉木は、そうしたイベントの段取りをするときの水を得た魚然とした活き活きとした様子と、自分の勉強に向き合った時の悄然とした様子をめぐるましく往復するのが、みていて無性におかしかった。真面目な樋口明日樹は、しきりに一年先の受験のことを気にして神経質になっているし、飯島舞花は、周囲のやり取りに適当に相槌やつっこみをいれながら、自分の教科書やノートに向かい合う時は、意外に真剣な顔をしている。そのうち、話の流れで茅は、勉強会のためのカリキュラムを組む、といい出し、荒野たちの教科書を持って、テンとともに羽生の部屋に向かった。羽生の部屋にはスキャナーがあるから、必要な部分を取り込んで、そのデータを生かすのであろう。
 その席で話しているのを聞いた所では、樋口明日樹、玉木玉美、飯島舞花はそれなりに成績がよく、志望校はともに、県内でも一、二を争う進学校だ、という。その学校は佐久間沙織が入学する予定の学校でもあり、通学している生徒の偏差値が高いことと、その割に、自由な校風であることで知られている。つまり、三人とも、その学校を狙えるだけの成績を今の時点でキープしている、ということで、真面目な樋口、淡々と作業として学習に必要な工程を消化する舞花は、の二人はともかく、玉木までもがそれだけの成績を取っていた……という事実に、楓は軽い驚きを覚えた。
「……不得意ではないけど、苦手なんだよ……」
 不審な顔をしたのは楓だけではなかったのか、玉木は、炬燵にあたっている面々をぐるりと見渡して、そうつぶやいた。
 半ば、涙目になって、
「……なんで勉強って静かーに地味ーにじっーとしてやんなければならないんだ!」
 とか、ぼやいている。
「……安心しろ。どうあがいてもお前は、地味でも静かでもない……」
 孫子や舞花に古文の説明を聞いている合間に、荒野が玉木につっこんでいる。
「第一、嫌々やってそこそこの成績をキープしているお前がそんなこといっているのを、だな、一生懸命やってお前以下の成績しか取れないやつが聞いたら、気を悪くするぞ……」
「わたしの場合、成績がいいっていうより、テストの結果だけがいいって感じなんだけど……」
「そういや、玉木のヤマはよくあたるって話し聞いたことあるな……玉木の場合、頭がいいというより、要領がいいのか……」
 玉木とは違うクラスの舞花が、伝え聞いた情報を披露すると、玉木は、
「……そうそうう。授業中の先生の態度チェックしていれば、重要な箇所はだいたい分かるんだから、そこだけ覚えておけばそれなりの点数はとれるよ……」
 と頷いていた。
「……そんな小手先テクでも、点数が取れるのは凄いと思うけど……」
 樋口明日樹は、微妙な表情をしている。
「……そんな付け焼き刃で、本番の入試まで、いけるかな?」
「……それなんだよねー。
 定期試験が終わるとスパッと忘れちゃったりするし……」
 わははは、と、玉木は、他人事のように笑った。
「……そういや、おにーさんも来年は三年なんだよな。
 進学とかどうするんだ? 卒業したら、やっぱ、家業の方に戻るの?」
 舞花が、荒野の方に顔を向け、尋ねる。
 荒野は、以前、玉木にも同じようなことを聞かれていた。
「……おれが卒業するまで、この生活が続くようなら……とりあえず、進学……かな?
 学歴はどうでもいいけど、茅はまだ卒業しない訳だし……」
 荒野は、考えながらそう答えた後、
「でも、今は……正直、そこまで先のこと考えている余裕、ない……」
 と、付け加えた。
 確かに……今の荒野は、外部の変化に対応するだけでイッパイイッパイなのだろう……と、楓にも容易に想像できた。
「……あの……」
 楓が、おどおどと声をかける。
 楓自身は、毎日、孫子と一緒に香也の勉強をみることで、自分の復習にもなっているので、かなり助かっている部分もあるのだが……さまざまなトラブルと事後処理に加え、茅と二人で生活し、当然のことながら、家事も二人で分担しなければならない荒野は、ほとんど自分の時間は取れないのではないか……と、ここにきて、はじめて、楓は気づいた。
「……加納様は……今、本当にお忙しいんですよね?
 よかったら、定期的にお掃除とかお買い物とか、お手伝いに……」
「……いいの」
 楓がそういいかけると、突如、背後から茅の声がした。
 茅の気配を察することができなかった楓は、びくっと背中を震わせて、慌てて背後を振り返る。
「荒野にご奉仕するのは、茅。
 だから……楓は、いいの……」
 下から見上げた茅の表情は……どこか、思い詰めているような真剣みを感じさせた。
「……あつ……ああっ……。
 はっ、はいっ!」
 メイド服姿の茅に半ば気圧された形で、楓は、そう返事をせざるを得なかった。
 声が、裏返っていた。
「……なあ、おにーさん……」
 舞花が、荒野に問いかける。
「今更、こういうこと聞くのもなんだけど……。
 この間の説明会の話しでは、茅ちゃんたちはアレだっていうことだから……つまり、その、茅ちゃんとおにーさんは、実は血が繋がっていないんだろ?」
 舞花は、のんびりとした口調で、核心をついてくる。
「……お……おう……」
 正面から、そういわれると……荒野も、素直に答えるより他、ない……。
 日曜日の説明会に参加していなかった樋口明日樹は、玉木の耳元に口を寄せ、小声で「……アレってなに?」とか尋ねている。玉木の方も、「茅ちゃんとかテンちゃんとかは、実は……」と小声で、明日樹の耳元に囁くように、説明しはじめる。
「そっか……なら、何も問題はないな……。
 そうだよな。二人で、一緒に住んでいるんだから、そうなってもおかしくはないよな……」
 舞花は、うんうんと一人で頷いている。
「茅……荒野とらぶらぶなの……」
 茅が、炬燵に入っている荒野の背後に近づき、荒野の頭に両腕を回し、そのまま抱き締めた。
「……あ、あの、このことは……」
 荒野は、心持ち青い顔をしている。
「わかっている。
 表向き、兄弟ということになっているからな。もちろん、いい触らしたりはしない」
 舞花は、真剣な顔をして頷いた。
「……そんなこと、広める気があったら、とっくにしているって……」
 玉木は、澄ました顔をして、冷めかけた紅茶を啜った。
「……兄弟にしては、なんか仲が良すぎるっていうか……くっつきすぎっ……とは、思ってはいたけど……」
 明日樹は、そういってため息をついて、香也の方をちらりとみた。

 三島百合香と羽生譲の年長者二人は、酒盛りをしながらそうしたやり取りを、いかにも面白そうな顔をして眺めていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(62)

第六章 「血と技」(62)

 夕食後、二時間ほど他の連中が勉強をしている間、テンと茅は羽生譲の部屋に引っ込んで早速カリキュラム作りを開始した。孫子や楓、茅に借りた教科書や参考書、問題集を羽生のスキャナで取り込んで、整理したりしていたらしい。そのうち、羽生のデスクトップやテンが徳川に借りているノートだけでは足りなくなってきたのか、茅は途中で自分のノートパソコンを取りにマンションに戻ったりしていた。
 二人の作業は荒野たちが勉強を終えた後も続き、荒野は飯島舞花や玉木玉美、樋口明日樹とともに狩野家を辞す時間になっても、まだ終わらなかった。

 かなりいい時間になっていたので、自然と、荒野が玉木を、香也が樋口を送っていくことになる。
「……こうしてつきあってみると、みんな普通の子なのにね……」
 マンションの入り口で舞花と別れ、二人きりになると、唐突に、玉木がそんなことをいった。
「みんな……カッコいいこーや君たちと、実際につきあってみればいいんだよ。
 そうすれば、変な偏見は、なくなるから……」
「……そうだと、いいんだけどな……」
 荒野は、そう答えることしかできなかった。
「だから……もっといろいろな人と、つきあわなければならないね……。
 一人でも多くの人と、直に顔を合わせて、一緒に話したり勉強したりすれば……友だちが、いっぱいできれば……事態は、好転して行くよ……」
「そうなると……いいな……」
 玉木は商店街の外れまでくると「ここでいい」といったので、荒野は、夜道を一人で引き返した。

 マンションに戻ると、茅はまだ帰っておらず、部屋は真っ暗なままだった。
 バスルームに入って風呂に火をいれ、コーヒーメーカーをセットし、自分のパソコンを立ちあげ、メールチェックをすると、野呂竜斎と二宮中臣からメールが着ていた。
 内容は、どちらも似たようなもので、現在、荒野がこの土地で行っていること……正体を晒した上で、一般人として生活する、という選択……に興味を持った若い者が数十名、この町に、一般人として移住してくる。
 ついては、なにかあった時に相談相手になってやってくれ……というものだった。
 メールに添付されたファイルを開いてリストの内容を確認してみると、野呂系と二宮系、それぞれ五十名前後の顔写真と簡単なプロフィールが記載されている。男女半々くらいだが、十代から二十代前半の若者たちで、土曜日に学校で叩きのめした顔も、少なからず交ざっていた。
 今でも……荒神がいて、荒野がいて、シルヴィがいる。監視の人員も、何十人か常駐して、交替で荒野たちの動向を記録している筈だ……。
 だが、今度の大挙して来る若者たちは……確とした目的を持ってここに来るのではなく……荒野がはじめてたとの顛末を、その目で確認しにくる……という漠然とした目的しか、持たない……。
『興味、本意か……』
 土曜日の一件で、荒野は、自分で認識している以上に、一族の中で自分が注目されていたことを実感した。
 加納と二宮の両方の血を継ぎ、荒神の弟子……。
 しかし、長く日本を離れ、実態よりも「噂」や「イメージ」の方が先行していて……土曜日の一件で、実力も証明してしまった。加えて、日曜の会食で、重鎮たちを目の前にして、「正体を明かした上で、一般人社会の中で生きる」と宣言してしまったわけで……。
『やつらかられば、……珍獣、みたいなものだろうな……』
 こうして改めて考えてみると……荒野の出自も、やり方も、経歴も……確かに、一族の規範から大きく逸脱している。
 一族の中心から発生し、従来の一族の生き方を否定する生き方を選択しようしている荒野は……彼ら、一族の中で育った者たちからみれば……かなり、奇異に移る、筈だ。
 だから、好奇心を抱くのも、よく理解できるのだが……。
『だからって……この、狭い町に、さらに百名前後の術者が、来るのかよ……』
 茅や三人組……楓や孫子に加え……この上、若い……実力も性格もよくつかめない連中まで、三桁のオーダーで大挙して押し寄せて来る、となると……。
 例え、やってくる連中に害意がないとしても……。
『また……一騒動、二騒動、あるんだろうな……』
 そう予測せざるを得ない。
 楓や三人組の例から考えても……とのちょいとした行き違いや摩擦が、増えるのは、明白なように思える。

 コーヒーを飲み終えて、湯加減をみにいくと、ちょうど良い湯加減だった。
 荒野は炬燵と同様に、湯船になみなみとお湯を張る日本風の風呂が、割合に気に入っている。もう少し落ち着いたら、一度みんなで温泉にでもいってみたいものだと思っているが、それはいつのことになるのか、今の時点ではまるで予測ができない。
 脱衣所で手早く服を脱ぎ、ざっとシャワーを浴びて、バスタブの中に入る。
「……ふぅうぅ……」
 という年寄り臭いため息が、思わず漏れた。
 今日のように冷え込みが強い日は、なおさら効く。
『……出来れば、味方につけたいんだけどな……』
 国内の若い一族の者がどれほどの修練を受けているのか、荒野はよく知らなかったが……今度この町に来る者のほとんどは、即戦力にはならないのではないか?
 と荒野は予測する。
 即戦力になるような人材なら、二宮舎人や荒野がそうであったように、現場に出て自分の仕事を抱えている筈だからだ。
 すぐにこの町にこれる……といいうことは、目下の所、差し迫った仕事を抱えていない、あるいは、一族の仕事からの足抜けを考えて、仕事を控えている……か、まだまだ修練が不足していて、術者として未熟で、現場に出せないような人材であるか……いずれにせよ、なんらかの理由で第一線から外れた者しか、これない筈であり……。
『でも……人手が欲しいことは、確かだからなあ……』
 そうした連中の下手な動きを、警戒しつつ、うまく利用しあう……という関係に、なってしまうのだろう……。
 いずれにせよ、それら流入組は、荒野にとってメリットとデメリットの両面を備えた、扱いの難しい集団になりそうだ……とか、考えていたところ、唐突にがらりとガラス戸を開いて、
「……お風呂イベント、発生!」
 とかいいつつ、全裸の茅が入って来た。
「……その無駄知識、今度は誰に吹き込まれた?」
 荒野は、タオルで額の汗を拭いつつ、茅にツッコミを入れた。

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[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話 (145)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(145)

 徳川の工場と狩野家との距離は、「徒歩で行くと時間がかかりすぎる。本数が少ないバスは、時間が合うかどうか分からない。多人数で利用するのなら、バスよりもタクシーの方が、一人あたりの料金は割安になる」といった頃合いだった。だから、タクシーを呼ぶことに、あまり抵抗は起きない。タクシーを読んでも、料金を頭割りにすれば、楓たちでもあまり負担に感じないですむ小銭で済んだ。
「……でも、頻繁に何度も往復するようとなると……」
 楓は、呟く。
 楓たちにしてみれば、実は、どうということもない距離なのだが……これ以上、一目を集めるような真似は、謹んでおきたい……。
 いわれるように、自転車が何台かあったほうが、便利なのだった。
「……不法投棄ゴミの中のものも、処理業者に引き渡して終わり、というよりは、再利用できるものは、どんどん修理して、リサイクルするべきかもしれないですわね……」
 孫子も、頷く。
 修理して使える者は、修理する……。その後、バザーやネットオークションなどで、格安で売り出し、資金源の一助にする……。
 不法ゴミの一時集積所、として、用地と建物を確保し、必要な人手は、できるだけボランティアの人員で賄う……。
 その建物は、孫子や楓の射撃場や習練場も、兼ねる。大きめの倉庫を確保し、別のフロアに関係者以外が入ることができない場所を作ればいいことだ。
 そのように都合のいい不動産が近隣にあるかどうかは、まだ分からないが……孫子は、そうした場所を確保するために必要な資金を自分で調達することが可能だった。
 タクシーの中で、孫子は、そうした構想をみんなに話した。
「……資金は才賀にまかせるけど……そういうことをするには、ある程度まとまった人数、特定の修理技術を持った人が、必要になるの……」
 茅が、難点を指摘する。
「……そんなもの、外から教師役を雇って、希望者に覚えさせればいいのです……」
 孫子は、そういって胸を張った。
「……今のペースで行くと、ボランティアの希望者は、まだまだ増えます。人数だけではなく、さまざま経験を持った年齢層の人たちが来るはずですわ。
 ……そうした人たちに、教えをこう、というのも、手ではないですか?」
「それは……経験を引き継ぐための、場を作る……ということなの……」
 茅は、頷いた。
「……もうすぐ……団塊の世代の人たちが、定年に入る……。
 そうした人たちの中には、さまざまな技術を持ったまま、仕事から離れた人もいて……」
「ええ。
 材料は、そこいらに転がってるゴミみたいなもの。
 講師は、時間と技術を持ち、健康な方々。生徒は、技術の習得を希望する、若い方々……」
「場所や設備、それに、人材の紹介やスケジュールの調整は、こちらで行う……いけそうなの」
 ……孫子と茅は、目をぱちくりさせて見守っている楓をよそにして、かなり詳しい部分まで構想を詰めはじめた。

 狩野家に着くと、楓はすぐに居間を抜けて台所に入った。制服姿の樋口明日樹も、香也や荒野とともに炬燵に入っていて、どうやら、学校帰りに引き留められたらしい。
 台所では、三島百合香がサラダに使うドレッシングを作っていた。すり鉢で胡麻をすり、それをボールに空けている。
「……なんだ、楓か……。
 ルーは荒野が用意したからな。こっちはこの程度しかやることがなくてな……」
 楓が近づいたのに気づくと、三島は顔だけをこっちにむけて、そういった。
「……この程度、で……ドレッシングを、一から作らないでください……」
 楓の常識では、ドレッシングなんか、市販の物を使えば十分……なのであった。
「なんだ? こんなもんは、こんなもんだろ。
 材料ボールにほうり込んで、掻き混ぜるだけであがり、だ……」
 そういいながら、三島は、すった胡麻をいれたボールの中にお酢やサラダオイルなどをぶち込み、しゃかしゃかと掻き混ぜはじめる。
「……ほれ、手伝うつもりがあるのなら、野菜切るなり皿を用意するなりしろって……」
 そういわれて、楓は、あわってサラダに使う野菜を切りはじめた。
 一度、ゴルフバッグを自室に置いてきた孫子も台所にはいってきて、皿にご飯を盛って、ルーの入っている寸胴鍋をみていた飯島舞花に回す。舞花はご飯を盛った皿にルーをかけて、それをテンとガク、茅が居間に持っていく。
 荒野が作ったカレーは、豪華な材料を使っていた訳ではないし、なんの変哲もない平凡な、日常的な料理でしかなかったが、その日の食事は、かなり和やかなものになった。
 荒野が、飯島舞花や樋口明日樹から、それまで秘密にしていた事柄をつつかれる……という場面もあったが、それは、秘密にしていたことに対する非難というよりは、「やっぱり、裏があったのか……」という確認、それに、「これから、大丈夫なのか?」という心配からくるものだった。
 これまで、それなりに付き合いがある明日樹や舞花は、荒野や楓たちの人柄をそれなりに理解もしており、裏の顔が判明した現在も、「まさか!」と驚くよりは「……やはり……」と納得する部分が多かったらしい。
 とりあえず、この二人に関しては、荒野や自分が一般人とはいえない存在であっても、特に態度をかえる様子がみられなかったので、とりあえず、楓は安心した。
 三島は、ドレッシングの中に砕いた胡桃をいれたり、サラダの上に薄くスライスをして、油で揚げたニンニクを乗せていたり、で、それまで料理のことにあまり関心を持たなかった楓をひそかに落ち込ませた。

 雑談をしながらの食事を終え、さりげなく席を立とうとする香也の両腕を、打ち合わせをしていたわけでもないのに、楓と孫子がほぼ同時に捕らえる。
 香也が風邪をひいていた期間、中断していた勉強を、再開する……という意図は、言葉にしなくても、楓と孫子とで通じ合っていた。
 香也は……教えたことは覚えるから、決して記憶力が劣る訳ではないのだが……それでも、まるで熱意がないため、学校の成績はさんざんだった。毎晩の勉強が奏効して、三学期に入ってからは、多少持ち直してきたが……それでも、試験をやれば、平均点に届かない学科も多い。今までにサボっていた範囲が大きすぎて、なかなか追いつけない状態だった。
 みると、玉木も、飯島舞花と樋口明日樹に捕まっていた。
 結局、羽生譲と三島百合香を除いた全員で、急遽勉強会をすることになり、荒野と舞花は自分の勉強道具を取りに、一旦、隣のマンションに帰った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(61)

第六章 「血と技」(61)

 重い話しも軽い話しも含め、それなりに会話が弾んで夕食が終わると、テンとガクが「お片付け~」といいながら食器を下げ、茅が紅茶をいれに一緒に台所にいく。
 さりげなく香也が席を立とうとするのを、楓と孫子が両脇からほぼ同時に手を伸ばして、阻止した。
「……風邪で、何日か間が空いてしまいましたが……」
 にこやかに笑いながら、楓。
「……そろそろ、体調もよろしいようですし……」
 やはり、にこやかに笑いながら、孫子。
「「……勉強の方を再開しても、よろしいですね……」」
 二人の声が、重なる。
「……はい。
 玉木も、逃げない……」
 炬燵の向こうでは、やはりそーっと逃げようとしていた玉木の首根っこを、樋口が捕まえていた。
「わたしもあんたも学校帰りでそのまま来たんだから、勉強道具あるでしょ?」
「……玉木は、自分でも勉強会企画しているんだから、逃げちゃいけないな……」
 荒野はそういって、立ち上がった。
「……じゃあ、おれも……教科書とか道具、取ってくるよ……」
 茅の分も一緒にとってこようかな……とも、思ったが、考えてみれば、茅は教科書を丸暗記していしノートも取っていない。
 無用の長物、だった。
「……じゃあ、わたしも取ってくるよ……」
 飯島舞花も、荒野と一緒に玄関に向かった。

「……しかし、よく考えてみるとおにーさんみたいな人たちが普通に学校の勉強とかやっているのも、ミスマッチだよな……」
 エレベータの中で、飯島舞花はいった。
「他の子たちはともかく、おにーさんは、ここに来る前まで、現役バリバリでニンジャしてたんだろ? 世界を股にかけて……」
「……まあ、そうだけど……」
 荒野は、舞花の表現に苦笑いをしながら答える。
「……それでも、おれ、今までほとんど日本にいなかったから、国語とか古典、それに日本史基礎知識がごっそりとないからな……。
 理数系はそれなりだけど、英語はまだ、文法用語がよくわからないし……」
「……でも、この間の業者テスト、偏差値わりとよかったて話しでは……」
 毎朝、一緒に登校していれば、そういう話題も自然にでる。
「偏差値って、他の人の成績との比較だろ? まだ、みんな本気をだしていないんでよ……偏差値は、三年になってくると、勉強しているのとしていないの差が、どっとついてくるって……沙織先輩が、いってた……」
「そう、なんだけどね……」
 今度は、舞花が苦笑いを浮かべる。
「そっかぁ……もう……三年生なんだな……」
 そこで荒野の部屋があるフロアに到着したので、一旦舞花と別れ、エレベータを降りる。

 エレベータを降りた荒野は、舞花の言葉を反芻する。
『もう、三年生……か……』
 正直、荒野は、学校に通い出して一月たつこの時点でも、現在の生活に違和感を抱いている。この自分が、一般人の、同年配の子供たちといっしょに、ごく普通に学校に通い、受験や成績の話題に興じている……という事実が、ひどく滑稽で現実離れしているように思えた。
 それから、先程三島から、
『……不利で不利でしょうがないこの状況を、お前さん、楽しんでいるんじゃないのか?』
 といわれたことも、思い出した。
『おれは……笑って、いたのか……』
 確かに……以前の荒野なら……笑っていても、おかしくない状況だ。
 荒野自身は、あまり自覚していなかったが……以前、一緒に仕事をしたことがある者たちは、口を揃えて証言した。
 荒野は……状況が切迫すればするほど……実に嬉しそうな笑顔をみせる……と。
 荒野は、考えてみる。
 窮地に陥るほど顔が綻ぶおれと、友達とカレー食って学校の勉強の準備するおれ……どっちが、本物のおれなんだろうか?

 そんなことを考えてみても結論なんかでるわけもなく、荒野は、教科書とノート、それに筆記用具を抱えて、狩野家の居間に戻った。
 炬燵では、香也が楓と孫子に、玉木が樋口と茅に両脇から睨まれて、教科書とノートを広げている。
「……暗記物は機械的に反復学習すれば、体が自然に覚えます……」
 孫子と楓はそういって、香也に英語の教科書を音読させ、発音を直させていた。
「……玉木……本当にこんな成績で、志望校あそこなの?」
 樋口明日樹は、玉木に向かって同情にみちたまなざしを送る。
「……玉木の志望校って、ランク高いいんだ……」
 荒野は、炬燵の上に自分の勉強道具を広げなながら、そう聞いた。
「……沙織先輩と同じ所、志望だって……」
 明日樹が、軽くため息をつく。
 この地区でも有数の進学校で、荒野たちの学校からは、毎年数えるほどしか合格者を出していない……。
「……そっか、玉木は女子アナ志望、とかいってたしな……」
 荒野も、明日樹に習って軽くため息をつく。
 確かにあそこの学校に進学できれば、その後、東京の大学へ進学する、いい足掛かりになるだろう……。
「でも……それだと、もっと計画的に、出題範囲消化して行かないと……来年まで、待ち合わないと思う……」
 自分でも調べ、実践している経験から、樋口明日樹は、断言する。
「……そんなにひどいのか? 玉木の成績……」
 思わず心配になって、荒野が尋ねる。
「平均すれば、そうでもないんだけど……」
 樋口明日樹は、ひっそりと答えた。
「玉木は……覚えている所と、そうでない所のムラが、ありすぎるの……」
 明日樹の代りに、茅が答えた。
「これなら、教科毎、単元毎に細かくチェックしてって、覚えている所と再履修が必要な所を洗い出し、一つ一つ覚えさせていった方が、早いと思うの……」
「……茅……」
 荒野は、なにかに気づいたように、まじまじと茅の顔をみた。
「そのチェックシート、玉木だけでなく、学校の、他に希望者にも、実施できないか?」
「できるの」
 茅は、頷いた。
「教科書の内容は有限だから……分割して、理解度をチェックするプリントを作成するのは、簡単なの」
「……そういうの、一年の分もあったら……」
「……香也様も、助かりますねぇ……」
 楓と孫子が、声を揃える。
 特に学年度の前半、あまり熱心に授業に出なかった香也の理解度は、かなりムラがある。
「……うちの大樹も……」
 半眼になって、明日樹が呟く。
「そうだ。加納君、大樹のやつに一度いってやってくれない?
 なんかあの子、加納君のいうことなら聞きそうな気がするし……」
「そりゃ……いいけど……」
 どのみち、自主的な勉強会とやらがはじまれば、大樹にも声をかけるつもりだった。
「茅、そのプリントとか、用意するのにどれくらい時間がかかる?」
「……ボクも、手伝う!」
 テンが、片手をあげた。
 記憶力に関しては心配していないが……テンが「学校の勉強」という代物の性質を、どの程度理解しているのか、荒野にはよくわからなかった。
「じゃあ、悪いけど、茅と二人で、今夜から……。
 それ、作ってくれれるか?」
 この時点では、荒野は、勉強会と含めて、学校側の心証をよくする役には立つだろう……くらいにしか、思っていなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (144)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(144)

 孫子は小一時間ほどを費やして、一ダース以上の弾倉を空にし、その間、若干退屈になってきたギャラリーは、事務所の中でお茶を飲みながら雑談していた。
「……なぁなぁ、くノ一ちゃん。
 さっきの話なんだけど、ニンジャってやっぱテッポウ使わないのか?」
 玉木が、楓に話しかける。
「……絶対に使わない……というわけではありませんけど……」
 楓は、作戦行動時の、秦野の方法についての噂を思い返しながら、慎重に答える。秦野は、近代火器で武装し、人海戦術による速やかな弾薬の補給による包囲殲滅戦を得意とする、と聞いている。常人以上の身体能力を持っていることは勿論だが、例えば、固体の能力を極限まで引き出す二宮とは違って、秦野は、単体での戦闘能力はあまり重視していない。
「……そういう、力づくで制圧する、という手段が有効な局面というのは、意外に限定されていますし……それ専用に特化した集団が、すでにいますから……」
 玉木には、ごく簡単に説明した。
 玉木は、「……ふーん……そんなもんか……」と、素っ気なく頷く。
 むしろ、傍らで楓の話しに耳を傾けていたテンとガクの方が、真剣な表情で聞いていた。
 それで楓は、二人に聞かせるため、もう少し詳しく話すことにする。
「……勿論、途切れる事なくいくらでも弾薬を補給出来る態勢が整っていれば……火器で武装するのが、一番です。
 いくら体を鍛えたところで、分間何百、何千、何万というオーダーで吐き出される鉛弾には適いませんから……。
 でも、平時の法治国家の中でそんな派手な戦闘行為を行うとなったら……その時点で、自分の存在と行為を大声で喧伝しているようなもので……そういう戦い方は、忍がするものではありません……」
 忍の最大の武器は……攻撃力よりも、その存在を秘匿し続ける事にある……と、楓は、教えられてきた。
「……でも、楓おねーちゃん……」
 すかさず、ガクが無邪気に突っ込んでくる。
「……ノリが眼鏡屋さんで眼鏡、受け取った日……白昼堂々、ボクたちとか孫子おねーちゃんと派手にやりあったじゃない……」
 楓の言葉と行動が、一致していない……と指摘され、楓は一瞬、返答に詰まった。
「……わ、わたしは……落ちこぼれ、ですから……」
 かなり間をおいて、楓は、ようやくそう答える。
 潜在的な能力は強大、しかし、時に状況判断に的確さが欠け、感情的な行動にでる傾向がある……というのが、養成所時代の楓の評価、だった。
 楓自身、その評価は的を射ている……と、思う。

 徳川篤朗は、孫子が通常のライフル弾からスタン弾に切り替えた時だけ、モニターの前に身を乗り出したが、すぐに「……画面が粗いのだ……」とかいいながらモニターから離れ、孫子が持参したプリントアウトの束に視線を戻した。書類に目を走らせながら、「もっと高速の動きも捉えられなければ、参考にならないのだ……」とか、ぶつくさいっている。画面の粗さ、と同時に、動画のコマ数に不満があるようだった。
「……あー……徳川……」
 着弾時のスタン弾の動きを細かく見たいのかな、と察した放送部員の一人が、気を利かせて声をかけた。
「……そういうの撮りたいのなら、こんな家電品ではなくて、もっと高品位のカメラとか強力な光源が必要になるけど……」
「……わかっているのだ……」
 徳川は、憮然とした声で答えた。
「その辺の映像資料も、才賀に要求するつもりなのだ……」

 孫子は、久々にふんだんに弾丸を消費出来て、割りと機嫌がよかった。立てるようになるかならないか、の頃から、おもちゃがわりに銃を抱いていたような人種である。これほど長期間に渡って実弾演習を怠ってきたのは、孫子にしても初めての経験で、だから、本心では、勘や腕が鈍っていないか、かなり不安だった。
 近場に射撃場を確保する……のを急いだのも、様々な状況や口実があったとはいえ、根本の本音をいえば、しばらく鍛練を怠っている間に、孫子の射撃の腕が鈍っているのではないか……という恐怖交じりの焦燥感があったためで……だから、こうして久々にまとまった練習時間をとって見て、体の感覚がまだ鈍っていないことを確認し、孫子は、安堵した。
 孫子は、残りの弾倉が五ケースになった所で、射撃練習をやめる。
 何百発、という弾丸を一度に発車しのにもかかわらず、徳川が作り直した銃は、特に異常をみせなかった。もちろん、銃身はかなりの熱をため、チリチリと音をたてて周辺に熱気を放射しているわけだが……。
『あれだけ撃っても、狙いがずれなかったのは……』
 まずは、合格……と、見るべきだろう。
 とっさの時、標準がずれたり作動しなくなったりするのが、一番困る。
 兵器は、カタログに記載してあるスペックよりも、信頼性や故障のしにくさ、の方が重視される。特に、個人が携帯する兵器は、「安心して命を預けられる代物かどうか?」が、一番重要だったりする。
『……まあ……とりあえずは、合格、ですわね……』
 短時間にこれだけ酷使すれば、そこここのパーツにかなり負担がかかり、場合によっては交換しなければならない筈だが……徳川なら、予備のパーツも用意している筈だ。
 実地に試験をしてみて、はじめて孫子は、徳川の技術力を認めた。
 この土地にいるかぎり……やはり、仲良くしておいた方が、よさそうだ……と。

 孫子の射撃練習が終わると、いい時間になっていたので、その日は解散となった。
 ほとんどの放送部員たちは、自転車でここまで来たようで、変える方向が一緒の楓たちは彼らと別れ、タクシーを呼んで貰った。茅が、荒野から「夕食は、狩野家で、みんなでカレー」という旨のメールを受け取っていたらしく、玉木も呼び止められる。
 カレーなら、人数の融通が効きやすいし、荒野はかなり多めに作る、という。

「……ここまで、歩きだとかなりかかりますから、頻繁にくるとなると足を確保する必要もありますね……」
 三々五々、自転車に乗って去っていく部員たちを見送りながら、楓はそんなことをいう。
 実は、楓たちの足ならさほど時間はかからないのだが、それだって、目立たないように、気配を絶っていかなければならない。現在の状況で、町中で大ぴらにを一族の技を使うのは、できれば避けたかった。
 一般人に対して……というより、どこかで見ているかもしれない、気配を読む能力を持つ者への用心として……。
「……そういえば、庭に朽ちかかった自転車、一、二台、転がっていたような気がするけど……あれ、直して使えないかな?」
 テンが、そんなことをいいはじめる。
「……聞いて見なければ、分かりませんけど……誰も使っていないよ
うですから、直せれば、そのまま使えると思いますけど……」
 この中では狩野家への滞在歴に一番長い楓が、慎重に答える。
「……じゃあ、今日帰ったら、にゅうたんに直して使ってもいいか、聞いてみよう……」
 テンも、楓の返答に納得したかのように頷く。
「それより……お二人は、自転車、乗れるんですか?」
 テンやガクがいた環境には、舗装した道路はなかったのではないか……と、楓は予測する。
「うん。今は乗れない。でも、すぐに覚えるよ……。
 ガクも、どうせ、傷がしっかりふさがるまでは、本格的な運動ができない訳だし……ボクはボクで、しばらくトクツーさんの手伝いが忙しくなりそうだし……」
「うん。やるよ、それくらい。
 錆を落として、油差して……本格的に駄目そうなパーツ、取り替えるだけでしょ?」
 テンの言葉に、ガクも頷く。
 自転車くらい簡単な構造ものなら、自分でも直せる……といいたいらしい。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(60)

第六章 「血と技」(60)

「……そ、そういえば、才賀さんも、いつの間にかいたけど……」
 孫子の顔をまともに覗き込んでそういったのは、樋口明日樹だった。
 明日樹は、楓がはじめて来た時には居合わせていたが、孫子に関しては詳しい事情を知らない。
「……そ、それは……」
 いつもは毅然としている孫子が、珍しく口ごもる。
 香也を狙撃しそこねたのが、なれそめだ……などとは、軽はずみいえるものではない。
「……この女……」
 それまでから笑いを続けていた楓が、いきなり孫子を睨みはじめた。
「……香也様を、亡き者にしようとしたです……」
 楓には珍しく、ひどく暗い声だった。
「……え? え?」
 質問を発した明日樹が、ひどく戸惑った様子で、楓と孫子の顔を交互に見渡す。
「ほ……本当なの?」
 明日樹は二人の顔色を交互に見比べ、どうやら嘘ではないらしい……と、納得する。テンとガク、それに飯島舞花の三人も初耳だったらしく、明日樹と同じように動揺していた。
「まあ、一応……」
 言葉を詰まらせたまま答えようとしない孫子に変わって、荒野が返事をした。
「……なんで、また……そんな……」
「才賀、意外とうっかりさんでな。
 おれと香也君を間違えて、狙撃するところだったんだ……」
「狙撃……って……。
 ……間違えにせよ、穏やかじゃないな……」
 飯島舞花が、珍しく険しい表情を作る。
 昼間、工場に行かなかった舞花は、孫子の「狙撃手」としての顔を知らない。
「……だろ? だからおれが、すぐに取り押さえて事なきを得たんだけどね……」
 荒野は、カレーをかき込みながら、何気ない、世間話しをする口調で淡々と語る。
 その時、孫子がどのような服装をしていたのか、また、その後、孫子が楓にどのような「お仕置き」をされたのかまでは、話す必要もないし、話すつもりもなかった。
「……あっ!」
 突然、舞花が大きな声をあげた。
「じゃあ!
 やっぱり、年末のショッピング・センターで暴れたの、この二人だったんだ!
 片一方は、ニンジャの恰好してて、もう片一方は、フリフリのレースとかリボンいっぱいつけたドレス姿で……」
「……ニンジャの方が、楓ちゃん……は、いいにしても……。
 そうすると……その、フリフリドレスが、才賀さん?」
 そういって、明日樹が首を傾げる。
 才賀さんが、そんな……今、商店街をたむろしている人たちみたいな服……と思いかけて、明日樹は、はっとする。
 楓が、本気でとっくみあいをする女性……。
 できる、女性は……いわれてみれば、孫子くらいしか、該当しないような気も……。
 楓は……もともと、好んで他人と諍いを起こす性格ではない。
 唯一、例外的に敵愾心を露わにする相手は……孫子、のみ……。
「……おい、おにーさん……」
 飯島舞花が、暢気な顔をしてカレーを食べている荒野に、声をかけた。
「……意外に……ヤバイ状態なんじゃないか? 今……。
 わたしだって気づいたんだから……そのうち、もっと広い範囲で、憶測や噂が飛び交うぞ……」
「わかっているって……だから、今まで秘密にしていたんだ……」
 荒野はスプーンを止めて、軽くため息をついた。
「こいつらにも、しつこいくらいに正体がばれないように、といい聞かせてきたし……。
 それも、土曜日ので、ふいになっちまったけどな……。
 衆人環視の環境下で、あれだけ決定的な証拠をみせちまったら……その綻びから、芋づる式に様々な過去の隠蔽がほじくり返される。
 最終的な決壊がはじまるのも……時間の問題だと、思っている……」
「……でも……」
 三島百合香が、ひどく冷静な声で指摘する。
「荒野……お前さん……まだ全然……絶望、していないだろ?」
「……一応、ね……」
 荒野は、カレーを食べるのを中断し、皿の上で、スプーンをぶらぶらとさせて、弄ぶ。
「不安材料には事欠かないが、全く希望がないわけでもない。
 まず、一般人の……周囲の反応だが……まだ、実感が湧いていないとか、興味本位のレベルだが……それでも、目に見える形での、反発や反感、嫌悪感は表面化していない。
 次に、自発的に、おれたちに協力してくれる協力者や友人たちがいる。
 それらの人々のおかげで、敵……を、迎撃する準備も、なんとかはじまった……」
 荒野は、故意に「不安材料」の方ではなく、「希望」の要素を数え上げた。
「……でも、その程度じゃ、まだまだ不足でもあるんだろ?」
 荒野の意図を察した三島が、さらに追求してきた。
「……ああ。
 全然、不足だ。
 今度の敵……は、ただ、勝てば……撃退すればいいってわけではない。
 捕まえて、性根をたたき直してやらないと……根本的な対策にならないんだ……。
 なのに……戦力も、バックアップしているやつらの意図や規模も、はっきりとしたことは、何にもわかっちゃいないときてる……。
 オマケに、むこうさんの方は、いつでも準備万端整えて、好きな時期、好きな場所を選んで攻撃することができる……。
 不足……というよりは、滅茶苦茶、不利だよ……。
 二重三重のハンデを背負って、向こうが作った一方的なルールでゲームをするようなもんさ……」
「でも、負けてやるつもりは、さらさらない……」
 三島は、さらにいいつのる。
「ああ。ないね。
 さらさら……負けてやるつもりは、ない……」
 荒野は、淡々と答える。
「荒野、お前さん……気づいているか?」
 三島百合香は指摘する。
「今のお前さん……ひどく嬉しそうな顔して笑っているぞ。
 お前さん、実は……そういう不利で不利でしょうがいない今の状況を、心底、楽しんでいるんじゃないか?」

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彼女はくノ一! 第五話 (143)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(143)

 楓はそれで簡単な手裏剣の講習が終えるつもりだったが、放送部のギャラリーたちからリクエストがあったので、今度は「飛んだり跳ねたり」の機動も含んだ実技をみせることになった。
「どんな体勢からでも投げられるっていうの、実際にみせてよ」
 と、いうわけだ。
 玉木と放送部たち、徳川浅黄は、期待のこもった目で楓をみつめている。
「い、いい……ですけど……」
 自分が注目される、ということに慣れていない楓は、戸惑いつつも、衆人環視の中で、自分の技を披露することにする。
 放送部員に、「光量の関係で、あそこいらへんを……」と指示された場所にある廃材に、まずは背中を向け、振り返り際に何発か、手裏剣を突き立てる。次に、あぐらをかいた体勢から、寝転んだままで……と、続け、どれもかなり狭い範囲に集中して命中。
 拍手が起こる。
「……今度は、移動しながら、いきますね……」
 楓が片手を上げて宣言した次の瞬間、楓は一陣の旋風となった。
 びゅうん、という音とともに、それまで立っていた場所から姿を消し、玉木ら、目撃者たちが「え?」と思った次の瞬間には、廃材の反対側、十メートル以上は離れた場所にいる。
 その、瞬時の間にも、廃材に突き刺さる手裏剣の数は、増えている。
 楓は、廃材を中心にして、円を描くように走りながら、廃材に手裏剣を突き立て続けた。
 残像を残して走る楓の速度自体、玉木たち一般人の感覚では異常に思えるほどだったが、それだけの速度で移動しながら、ちゃんと狙った場所に手裏剣を命中させている……。
「……本当は、気配を消してやらないと意味ないんですが、今日は見せるため、ということで……」
 いつの間にか、楓が玉木の隣に立っていた。
 ぎょっとして、玉木は二歩ほど楓から遠ざかる。
「……け、気配を消すって?」
「えっとぉ……人の目をごまかすための、歩法、というか……。
 あ。実際に、やってみますね……」
 玉木の問いに答える形で、楓は、唐突に姿を消した……ように、見えた。
 きょろきょろとあたりを見渡して、楓の姿を探す放送部員たち。
「……ね?
 見えなくなったでしょ? こういう技、わたしたちは、気配を消すって呼んでいるんです……」
 姿を消した時と同じ唐突さで、楓がもともと立っていた玉木の隣に姿を現した。
 楓にとってはどうということもない行為なのか、息ひとつ、切らしていない。
「……あ。あ。あ……」
 それまで無害な存在だと思っていた楓が、立て続けに見せてくれた、脅威的な行為を目の当たりにし……玉木は、かなり動転していた。
 手裏剣とか、走るのが早い……というのは、まだしも……いきなり、姿を消したり現れたりするするのは……。
「……本当に……ニンジャ、なんだなぁ……」
 玉木としては、そうつぶやくよりほか、なかった。
「これ、見えないように見せかけているだけで、実際に、消える訳ではないから、カメラとかには写るんですけどね……」
 玉木の動揺には気づかない風で、楓は、ビデオカメラを持っていた放送部員に声をかける。
「ちょっとまって……今、再生して……」
 楓に話しかけられた放送部員は、液晶画面を覗き込みながら、ビデオカメラを操作しはじめた。
「あっ……それらしいのが、写っていることは、写っているんだけど……。ぶれぶれだな。動きが速すぎるのか、かろうじて、何かがある、ってことくらいしか、分からない……」
 玉木も同じ液晶を、覗き込む。
 めいっぱいスローにして再生しても……その部員のいうとおり、かろうじて、輪郭が判別できる程度だった。
「……もっと、高感度のカメラを用意しなければ、ちゃんと撮れないな……」
 放送部員たちは、そんなことをささやき合った。

「……ガクちゃんたちは、気配絶ちはできるんですよね?」
 楓は、放送部員の反応には興味がなかったので、そのままテンとガクに話しかける。
「……うん。そういうのは、じっちゃんに一通り、教えてもらっている……」
 テンとガクは、頷きながら、二人で交互に答えた。
「歩法とか、体術とかは、一通り……」
「……手裏剣も……補充が効く環境なら、教えてもらえたと思うんだけど……」
「……それなら、基本は出来ているんですから、手裏剣も、すぐに扱えるようになりますよ……」
 楓は、そういって、二人に笑いかける。
「……そう……だね……」
 楓の笑顔をみて、それまでどこか不機嫌そうだったガクも、少し緊張を解いた表情になる。
「うん! ボク、がんばるよ! 早く傷、直す!」
 肝心のガクが、思うように体を動かせない現状では……と、楓の出番は、その日はそこまでになった。
 まだ、全然、大したことを教えていない……という物足りなさを楓は感じたが、手裏剣の講習などは人目のある場所では行えないので、それなりに意義があるのだろう……と、思うことにする。

「……防音は、大丈夫ですわね?」
 続いて、孫子が徳川に確認しながら、ゴルフバッグから無骨なシュルエットのライフルを取り出す。
「……このあたりは工場や倉庫ばかりで、多少の音なら、まるで目立たないのだ……」
 徳川が保証すると、孫子は頷いた。
「人も……いませんわね?」
「今、工場内にいるのは、ここにいる人間だけなのだ……」
「工場内で、一番、長い距離を取れるのは、どのポイントかしら?」
「このフロアで、というと……対角線をとるのが一番長くとれるのだ……ちょっと待て……今、邪魔な廃材をどけるのだ……」
 徳川が天井に据えられたクレーンを操作して、適当に孫子の射撃に適した状態を整えるのに、二十分ほどの時間が必要だった。
 徳川は、クレーンを操作しているの間に、手の空いた放送部員たちに塗料の入った缶と刷毛を渡し、「標的のマーキングをしておくのだ」と言った。
 放送部員たちは、孫子の指示にしたがって、かなり遠くまで歩かされ、黒と白のペンキで、頑丈そうな廃材に同心円を描き、その周囲にライトとビデオカメラをセットした。
 三脚で固定したビデオカメラは、ケーブルで徳川から借りたノートパソコンに接続し、LAN経由で現場を中継するようにした。同様のセッティング作業は何度か経験しているので、手慣れたものである。
 さらに、孫子の前に出ないように、全員で事務所の中に入った。中継のセッティングは済んでいるから、回線に接続されたマシンさえあれば、着弾状況は、どこででも確認出来る。
 すべての準備が整うと、孫子は、ライフルを構え、立て続けに引き金をしぼる。あっという間に一弾倉分を空にし、流れるような動作で、すぐに別の弾倉をセットした。
 その弾倉も、すぐに空になる。
「……すげぇ……」
 着弾状況をモニターしていた放送部員が、ぽつり、とつぶやいた。
 孫子は、いくつもの弾倉を空にし、何十発という弾丸を打ち出しているのに……着弾は、まったくぶれることがなかった。
 すべて、せいぜい半径二センチほど場所に、集中している。

「……今日は、この子の耐久性をみてみなかったので……とりあえず、数を撃ってみましたの……」
 散々撃ち尽くして、事務所の帰ってきた孫子は、そういって微笑んだ。
「……使っているうちに、熱やガス圧で標準が狂うことも、ありえますから……」
 命を預ける銃器の使用試験は、しつこすぎるくらいに繰り返すのが、普通なのだ、と説明した。
「それに……実弾の量産も、すぐにでも着手してくださるそうですし……」
 続いて、孫子は、この近隣に専用の射撃場を確保する相談を、徳川としはじめる。
 必要な用地や設備は、買い取ってもいい……と事無げにいい、面積など、必要な条件をずらずらと並べはじめた孫子を、徳川篤朗と浅黄以外の者は、異星人をみる目で注目しはじめた。
「……十億単位の資金でしたら、すぐに用意出来ますけど……。
 当座はこの工場を使わせて貰うにしても、長期的に見ると、専用の設備はあったほうがいいわけですし……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(59)

第六章 「血と技」(59)

 そうこうするうちに、徳川の工場に行っていた、楓たちがタクシー二台に分乗して戻ってきた。メイド服姿で、紅茶のポットを抱えていた茅は、タクシーから降りるなり、荒野の手を引き、マンションに一旦、戻った。何をするのか……と不思議に思っていると、ティーカップの入った箱を持たされる。
「……カレーには、紅茶が合うの……」
 との、ことだった。

「……でね、今日は中途半端だったから、ボク、一日でも早く、傷口をふさぐんだ!」
 狩野家の居間に戻ると、ガクが今日のことを身振り手振りでみんなに説明していた。
 この家の人々と、飯島舞花、樋口明日樹、三島百合香に加え、玉木玉美も来ていた。
『……そんなもん、自分の意志でどうこうできやしないだろう……』
 荒野は、そんなことを思いつつ、カップを台所に運びこんだ。
 そして、居間に帰ってくるなり、ガクの頭に手をおく。
「……その傷も、元はといえば、自分の判断ミスが原因だからな。
 今後は、もう少し慎重になれよ……」
 頭の上においた手で、ガクの髪の毛をぐちゃぐちゃとかきまぜる。
「……わかっているよう」
 ガクは、荒野の手を払い、指櫛で髪の毛を直しながら、いった。
「ボクは……もっと、賢く、強くなるんだから……」
 それから、カレーの皿とサラダのボウルが炬燵の上に置かれ、夕食がはじまった。
「……でも、あれ、おにーさんが心配していたわりには、みんな平然と受け止めているよな……」
 飯島舞花が、そう切り出す。
 もちろん、荒野のカミングアウトのことだ。
「……みんな、まだ実感が沸いていないだけじゃあないかな?
 これから、本格的な拒否反応がでてくることも、十分に考えられるし……」
 荒野は、あくまで慎重な態度を崩さず、そういう。
「……土曜日に、例の事件があって、日曜日、説明会しただろ?
 その間、うわさという形で静かに広まった分、ショックが少なくなったんだとは、思うけど……」
 一時的なものであれ……静かなとことは、いいことだ……と、荒野は思う。
「……そうだね……」
 玉木珠美が、頷く。
「……土曜日のアレがあったから、うちの部員たちに説明する手間が省けたっていうのは、あるけど……」
「……でも、タイミングとしては、やはり早すぎたの」
 玉木の言葉の続きを、茅が引き取る。
「そうそう……。
 もう少し、ボランティアとかなんとかで、カッコいいこーや君たちの顔を売りながら、徐々に秘密を明かす人を増やす予定だったから……」
 今のところ、うまくいっているのは……僥倖だ、という意味らしい。
「……三学期から、学校に通い出して、ようやく一カ月……だもんな……」
 荒野は玉木の意見に頷く。
 荒野も「うまく運び過ぎている」という点に関しては、同じ意見だった。
「……次々といろんなことが起きるんで、もっとずっと長く感じるけど……」
「ここって、退屈だけはしないよね……」
 ガクは、無邪気にそういいきる。
「……お前がいうな、お前が……」
 ガク、テン、ノリの来訪も……今となってはかなり昔のことのように感じるが……その実、ついこの間のことである。
 三人の存在も、荒野の身辺を騒がしくする大きな原因となっている。
「……そういや、樋口ちゃんは、どこいらへんからカッコいいこーや君のこと、知ってたの?」
 玉木が、樋口明日樹に問いかける。
「……わたし、も……今日まで、はっきりと知ってたわけではないけど……」
 樋口明日樹は、言葉を濁す。
「……松島さんが、来たときの状況が、アレだったから……」
 明日樹がそういうと、話題になっている楓は「あは。あははっはは」と乾いた笑い声をあげた。
「来たとき……どう、でしたの?」
 楓が来たときは、まだこの家にいなかった孫子が、詳しいことを知りたがった。
「……えっとぉ……」
 明日樹は、楓と香也の顔にちらちら視線を走らせながら、詳しい事情を説明するのを、避ける。
 孫子と同様、当時の状況を知らないテンとガクが、「知りたい、知りたい」と騒ぎはじめた。
 もう一方の当事者である香也は、素知らぬ顔……というより、なにを考えているのかよくわからない顔をして、カレーを咀嚼している。
「……あー……。
 あの時、なー……」
 明日樹に代わって、羽生譲が、続きを引き取った。
「……モロ、にんじゃーって格好した楓ちゃんが、登校するところだった、うちのこーちゃんの上に……落ちて来たんだ……」
 テン、ガク、孫子が、目をパチクリさせた。
「……落ちて来た、って……」
「……おにーちゃんの上に……楓おねーちゃんが……」
「……どうして、そんなことに……」
 しばらく間を置いて、こそこそささやき合う三人。
 楓は、乾いた笑い声を上げ続けている。
「……おおかた、電柱の上あたりを走っていて、足でも滑らせたんじゃないのか?」
 澄ました顔をして、荒野が答えた。
「……いわゆるオチものってやつだな……」
 三島が、意味ありげな笑みを浮かべて、そういう。
「先生! 質問!」
 テンが、片手をあげた。
「オチものって、なんですか?」
「らぶったりこめったりするマンガや何かの基本設定、その一、だ……」
 三島は、ちちち、と舌を鳴らして人差し指を顔の前で降った。
「……ある日、いきなり難の前触れもなく、平々凡々とした少年だか青年だかの上に、容姿端麗、しかし、どこか抜けたところのある女性が落ちてくる……所から、物語がはじまる。
 たいていは女神とか天使だとか妖精さんだとかで……」
「……何万人に一人だとかの割合で、あなたの願いをかなえるためにやって来ました……とか、どっかのキャッチセールみたいなこというんだよな……」
 羽生も、三島の説明を横から補足する。
「……そうそう。
 で、主人公がいうことも、たいてい決まっていて、」
「「……君みたいな彼女が欲しい……とか、いった途端、その女神とか天使だとか妖精さんだとかとの同棲生活がはじまるんだよな……」」
 三島と羽生の声が、はもる。
「……それも……日本の伝統ってやつですか?」
 半眼になった荒野が、いかにもげんなりとした声で確認する。
「……まあな……」
 三島は、しれっとした顔をして、答えた。
「……香也様……」
 孫子は、ジト目で香也を睨んでいた。
「このお馬鹿くノ一に……そんなお願い、したんですか?」
「……んー……」
 孫子の剣呑な雰囲気に気づいているのかいないのか、香也は、首を傾げながら、答えた。
「……あの時は、確か……死んだふりをしていたら……三島先生にいきなり往復ビンタをくらって、学校へいけって怒鳴られた……」
「意外な展開、ってヤツだな……」
 三島が、はやり、しれっとした顔をして、答えた。

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彼女はくノ一! 第五話 (142)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(142)

 茅がいれてくれたお茶を喫した後、まずは楓が各種武器類の実演をして見せることになった。
「ガクに教える」というのが当初の目的だったが、玉木をはじめとする放送部員や徳川篤朗と浅黄、それに、才賀孫子やテンまでもが、物珍しいさでぞろぞろとついてくる。
 楓が、皆とカメラに取り囲まれて、解説しながら実演する、という格好だった。
「……ええと……」
 楓は、これほど大勢の前で自分の技を披露したことがない。戸惑ってはいたが、身に染み付いた技を説明したりみせたりすることに、迷いはなかった。
 この場にいる一人一人が、大事な仲間である……という意識が、楓にはある。
「……まずは、手裏剣、ですね……。
 存在自体は、時代劇でおなじみだと思います。
 投擲する刃物全般を指す名称ですが、いろいろな種類があり、また、同じ形状のものでも、想定する飛距離によって、重心が違うものが何種類もあったりします……」
 楓は実際には何種類かの手裏剣を一つ一つ取り出し、「これが近距離用、これが遠距離用」と説明しながらみんなに渡す。
 特に、徳川篤朗とテンが、興味深げにしげしげと眺めたり、刃紋を透かして見たりしていた。
「……時代劇なんかだと、忍専用の武器とされていますが、実際には多くの武芸者が手裏剣術をたしなんで来ました。
 武術のうち、剣術のみが重視されるようになるのは江戸以降のことで、それ以前は、組み討ちや棒術、槍術まで含めた体系として伝承されることが多く、手裏剣術も、その一角としてまとめて伝えられていました。
 特に、、単独で諸国を回遊する武芸者がいる時代には、手裏剣術は、食べ物を確保する手段、でもあったわけですね。山ごもりしたりする時、これができるのとできないとでは、食生活に雲泥の差がでます……」
 そんな解説をしながら、楓は手首のスナップだけを効かせて、何種類かの手裏剣を少し離れた廃材に向け、ひょいひょい、と放って見せた。
 まったく力を入ていないようにみえたのに、楓が放った手裏剣は、「カッ、カッ、カッ」と音をたて、ことごとく廃材に突き刺さる。
「……ええ。
 このように、習練次第では、いろいろな態勢から打てるようになります。
 あ。手裏剣は、本来、『投げる』というよりは『打つ』というのが正式な言い方だそうですが……それは、こういうモーションから来たいいかただと思います……」
 そういって楓は、こんどはゆっくりとした動作で、棒手裏剣を、正面の廃材に向けて、打つ……『打つ』という語感にふさわしい、肩から先の腕全体を大きく動かすモーションだった。
 少し、ダーツを投げる時の動作に似ている。
「……これが、やはり一番狙いが安定するフォームですね。基本形です。
 でも、実際には飛んだり跳ねたりしながら、動く敵にむけて使う訳だから、どんな態勢でも使えるようにならないといけません……」
 いいながら、楓は横向きになったり、背後に向けて肩越しに手裏剣を使ったりする。
 手裏剣が音をたてて廃材に突き刺さるたびに、拍手が起こる。
「……くないや棒手裏剣は、こんなところでしょうか?
 あとは、十字や八方、ですね。
 やはり時代劇などでおなじみの、こういう平べったいやつです。
 これは、左手で重ねてこの当たりに持っていいて……」
 楓は、重ねた八方手裏剣を左手で持ち、臍の前あたりに固定し……。
「……右手で、こう……」
 その左手の上に右手をひらめかせ、八方手裏剣を矢継ぎ早に投擲する。
「カッ、カッ、カッ、カッ、カッ、カッ……」という音を立てて、正面のほぼ同じ場所に、手裏剣が刺さる。
 狙いが接近し過ぎていて、先に刺さった手裏剣の上にさらに手裏剣が刺さり、ばらばらと弾かれた。
 やはり、拍手が起こる。
「……つまり、連発するのに便利なのように、偏平な形状をしているわけですね……。
 狙いは二の次で、弾幕をはる時なんかに、使います……」
「……弾幕、で思い出したが……」
 徳川篤朗が片手を上げて、楓に質問をした。
「……銃器は、使用しないのか?」
「使用する場合も、ありますが……。
 特に海外で活躍する人たちの中には、現代兵器を好んで使用する人たちもいます……」
 楓は、慎重に言葉を選びながら、答える。
「でも、日本だと、法律の問題もありますし……。
 それがなくっても、重さ、という要素があります。
 常に兵站がしっかりしていて、いくらでも弾薬が補充できる状況であれば、銃器がいいのですが……。
 わたしたちの仕事だと、単独での潜入が主ですから……一度に持ち歩ける荷物の重さも、おのずと限られて来るわけです。
 銃器プラス弾丸の重さ……を持つより、同じ重さの手裏剣を抱えた方が、弾数は多くなる……というのが、一族の一般的な考え方です……」
「……ねーねー、楓おねーちゃん……」
 好奇心に顔を輝かせたガクが、楓に摘め寄ってくる。
「もう、説明はいいから……ボクも、実際にやってみて、いい?」
「あ……はい……」
 楓が、おずおずと手裏剣をガクに差し出す。
 もともと、それが目的である。
「……ガク……」
 手裏剣を受け取ったガクに、テンがいった。
「まだ、力いっぱい動いちゃ駄目だよ。
 軽く、軽く……ね。
 傷口開くから……」
「……わ、わっているよ……」
 ガクは、口唇を尖らせながら、答える。
 そして、楓に基本のモーションの見本を見せてもらったり、何度か自分でもそれをやってみて、楓にチェックして貰ってから、実際に手裏剣を「打って」みた。
 ガクが放った手裏剣は、楓が放ったものが奇麗に刃先を前にして飛んで行ったのにくらべ、きりもみ状に回転しながら正面の廃材にぶちあたり、乾いた音を立てて、跳ね返った。
「さ……刺さらない……」
「最初は、そんなもんです。
 真っすぐ飛んだだけでも、たいしたもんですよ……」
 楓は、特に慰めるふうでもなく、ガクにそういった。
「……じゃあ、次はボク!」
 テンが元気よく片手をあげ、ガクの手から手裏剣を奪う。
「……やっ!」
 という掛け声と共に、テンが手裏剣を「打つ」と、今度は、「カッ!」と小気味良い音がして、廃材に突き刺さった。
「……本当に、初めてですか?」
 楓も、目を丸くしている。
「うん! 楓おねーちゃんのフォーム、盗んだ!」
 テンは、得意げに胸をはる。傍らで、ガクが、明らかにむっとした表情をしていた。
「……茅も、やるの……」
 今度は、メイド服姿の茅が、前に進み出る。
 テンの時と同じく、刃先がまっすぐ標的に向かっていったが、廃材には刺さらなかった。
「……むぅ……やはり、筋力が、不足しているの……」
 茅は頬を膨らませたが、楓は茫然としている。
「でも……。
 茅様も……フォームは、完璧です」
 金属の廃材に、刃先が突き刺さる……という方が、どちらかというと、異常なのだ。

 それで、ガクは、ますます不機嫌になった。
 ムキになって何度か挑戦したのだが……。
「……なんか、やればやるほど、フォームがひどくなってますけど……」
 楓が、おそるおそる、といった感じで、ガクに指摘する。
「……だって、だって!」
 涙目になったガクが、困惑した声で答えた。
「傷口開くから、力を込めちゃいけないって……。
 加減が、わからないんだもん!」
 それで、ムキになればなるほど、不安定な心理状態を反映して、ますますフォームが乱れる……。
 悪循環、だった。
「もう! いい!」
 ついに、憤慨したガクが、手裏剣をほうり出した。
「傷、直す! 根性で、直す! 一日、一刻でも早く、傷口をふさぐ!」
「……ま、まあ……」
 楓は、ガクから目をそらした。
「それまでは……理論面だけを学習しておいた方が、無難ですね……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(58)

第六章 「血と技」(58)

 しかし、そういった懸念は、この場でくよくよ思い悩んでも解決しないことではあった。第一、それで情報収集の必要性が増すことはあっても、減ることはない。
 荒野は手早く「協力依頼」のメールを知る限りの伝手に送信し、ずん胴鍋の様子をみて、それから、
『……たまには、こちらから御馳走するのもいいかもな……』
 と、思いたち、羽生譲の携帯宛てに、「今、カレー大量に作っているんですけど、今夜、みんなで一緒に、どうですか?」といった内容のメールを打つ。
 真理不在で、なおかつ、テン、ガク、楓、孫子も出払っている。香也は、こと家事に関しては、当てにはならないし、羽生とて、暇を持て余している訳ではない……。
 案の定、いくらもしないうちに、羽生譲から、
「助かるー!!!」
 というメールが返って来た。
 荒野にしてみても、作る手間は同じだし、お隣にはいつも御馳走になってばかりなので、たまにはこれくらいのことをして、ちょうどいい……くらいに、思っている。
 なにより、今は炬燵の温もりが恋しかった……。

 カレーができたころに、茅から「もうすぐ帰る」というメールがくる。
 荒野は即座に、「今夜は狩野家で夕食をする」と返信し、ガスの火を止めて、上着を羽織り、いい匂いのする寸胴鍋を抱えて外に出る。
 エレベータに乗ると風采の上がらない中年男が先に乗っていて、カレーの匂いが充満する密室で、数十秒間、二人きりになった。知らない顔だが、ラフな格好をしているところをみると、このマンションの住人なのだろう。
「……カレーですか?」
 男が、にこやかに話しかけて来た。
 荒野の方は男の顔を知らなかったが、男の方は荒野のことを知っているらしい。
 不自然、ではない。
 玉木の尽力のおかげで、荒野も顔だけは売れている。
「カレーです」
 荒野も、にこやかに答える。
「お隣りで、みんなで一緒に食べようということになりまして……」
「ああ。あの大きな古い家……。
 そういえば、正月には、餅つきもやってましたね……」
「ええ。みんな、いい人たちばかりです」
「そうですね。友達は、大切にした方がいい。
 わたしの年齢になると、そういう繋がりも、すっかりなくなりますからね……」
 そういって、男が寂しそうに笑った時、エレベータが地上階に到着し、マンションのエントランスで男とは別れた。
『……友達、か……』
 飯島や先生も呼んでみるか……と、寸胴鍋を運びながら、荒野は思った。
 どうせ近所だし、カレーのルーはたっぷりと作っている。
 ちょうど帰宅したばかりだ、という羽生譲に迎えられて、狩野家に入る。台所のガス台に、寸胴鍋を置かせてもらい、さっそく炬燵に入りながら、三島百合香と飯島舞花にお誘いのメールを打つ。「ルーはたっぷりあるけど、人数がおおくなるとご飯が不足する恐れあり。できれば、ご飯持参で」とも、付け加えた。
 荒野も、炊き上がったばかりのご飯を持ってこなければならないのだが……もう少し、ゆっくりでいいや……とも、思う。茅たちが戻ってきたら、取りに行こう、と。
 炬燵には、一度入るとなかなか出たくなくなる魅力があった。
 居間に戻ってきた羽生がお茶をいれてくれ、それを啜りながら、適当に会話をする。
「今朝、ちょこっと聞いたんだけど……随分、おげさなことになっているみたいだねー……そっち」
「……んー……」
 荒野は、自然に香也みたいな声をだしていた。
 なるほど。
 これは……答えにくいことを答える際、時間を稼ぐのに適している……と、実際に唸ってみて、荒野は実感した。
「それも、もういつものことっていうか……」
 ゆっくりとした口調で羽生に返事をしながら、荒野は思った。
 必要十分な情報もろくに与えられず、いきなり渦中にほうり込まれる……なんだ。本当に、「いつものこと」じゃないか……。
 そんな風に思うと、かなり気分が楽になった。
「いや、まあ……そのうち、なるようになるでしょう……」
 ……なんかその言い方、うちのこーちゃんみたいだな……と、羽生譲は笑った。
 そうやってくつろいでいる間に、香也が帰宅する。例によって、下校時刻ぎりぎりまで美術室にいたのだろう。樋口明日樹もいっしょだったので、当然荒野は明日樹も夕食に誘った。
「ややや。どうもどうも。誘ってくれてありがとう。一人の食事って、味気無くてな」
 明日樹が返事をする前に、タッパーを抱えた飯島舞花が玄関口に到着した。
「飯島も来たんだ……」
 明日樹が、呆れたような声をあげる。
「近所だからな。先生も、呼んだ。
 来るかどうか、まだ返事がきていないから分からないけど……」
「……来たぞ!」
 明日樹の背後から、唐突に三島の声がした。
 三島百合香は、木製のおひつを抱えている。
「ついでだ。樋口も付き合え!」
 三島は、玄関口で躊躇している樋口明日樹に、そういう。
 そういわれた樋口明日樹は、なにか達観したようなため息をつき、自宅に連絡をいれるために携帯を取り出した。
 そんなことをしている間に、香也は荷物を置き、制服を着替えてるため、一旦自室に戻っている。

「……ねぇねぇ、加納君……」
 結局、樋口明日樹は、居間に来て、借りたハンガーにコートをかけ、荒野や飯島舞花のように炬燵に入っている。
 羽生譲と三島百合香は、缶ビールを空けて談笑しはじめていた。
「その……いろいろ大変になってきたようだけど……できるだけ、あの……香也君は、巻き込まないで欲しいの……」
 明日樹は、一言一言区切るように、しかし、荒野の目をまっすぐに見て、そういった。
「わかっている……」
 荒野は、短くそう答えるより他、返答のしようがなかった。
「わかってるよ……うん」
 荒野とて……香也や、この家の人たちや……学校の人たちを巻き込むのは、本意ではない。
 しかし、荒野の意志や意図がどうあれ……。
『……そういうことは、敵さんにいってくれ……』
 樋口明日樹が心配していることを重々理解しながら……荒野のリアリズムが、香也の無事を保証する方策がないことと、告げていた。
「香也君、だけではなく……他の誰も、犠牲にしたくない……と、おれは思っている」
 荒野は……結局、明日樹には、そういうのが精一杯だった。
 そばでそのやり取りを聞いていた飯島舞花が、誰にともなく、「……おにーさんは、やさしいからな……」と、呟いた。
 舞花も、明日樹も……知り合い全員の無事を保証することが、現実には困難である……ということを、本能的に察しているのではないか……と、荒野は思った。

[つづく]
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彼女はくノ一! 第五話 (141)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(141)

 茅は給湯器しかないことに不平をいったが、それでも持参のポットと茶葉を使って全員の分の紅茶を用意しはじめた。
 その間に、楓は持参してきた投擲武器を一揃いを、徳川にみせる。楓は手持ちの武器を一つづつ、持って来ていたが、徳川は、楓が取り出した物品をしげしげと眺めては、即座にテンに手渡す。
「……つまらない……こんな単純な構造では、改良のしようがないないのだ……」
 とか、ぶつくさ言っていた。
 創意工夫の余地がないことが、不満らしい。
 徳川から次々と武器を手渡されたテンは、珍しそうにひとしきり重さや形状を確認した後、即座にノートパソコンにデータを入力しはじめる。
「このうち、六角というのは、工場内の設備と材料で生産をはじめられる。
 手裏剣類は、刃物だから、鍛えたり研磨したり、とか工程が増えるけど、二、三日もらえば十分量産ライン作れるよ……」
「……この程度のもの、すぐできて当たり前なのだ……」
 テンの言葉に徳川が答えた。
「ということで、この辺の製造ラインはテンに任せるのだ。コストダウンと材料の改良も視野にいれて、やってみるといいのだ……」
 ここで徳川は、楓の方に視線を向けた。
「……手持ちの武器には、まだ余裕があるのだろう?」
「……ええ……十分に……」
 楓は、頷く。
 もともと、実戦がなければ、そうそう消耗するものでもない。
「……では、すべて引っくるめて、せいぜい二、三日で最初の試作品を作るのだ……。
 それでよしとなれば、そのラインを正式に稼働させるのだ……」
 楓の答えを聞いてから、徳川はテンに告げた。
「改良なしの複製なら、ここの設備を使えば、今日明日中にも可能だね……」
 テンは、徳川の言葉に頷く。
「……それでは、次はこれを……」
 今度は、孫子が何種類かの弾丸を徳川にみせた。
「……実弾は、鋳造でも構いませんが……スタン弾は、多少構造が複雑で、材料も特殊です。合成樹皮を使用している、とは聞いていますが、詳しい組成などは知りません……」
 孫子は通常のライフル弾とスタン弾、アンプル弾とHEAT弾なども念のため持参していた。
 荒野の構想を考えれば、このうち最も使用頻度が多くなりそうなのは、スタン弾だろう。アンプル弾は中に入れる薬剤が調達可能かどうか分からないので後回しでいいし、実弾とHEAT弾は……できれば、使用しなければんらない……という局面には、なってほしくない。
「……合成硬化ゴム、か……確かに、材料も構造も特殊なのだ……」
 孫子の手からスタン弾を受け取った徳川は、しげしげと眺めてそっとため息をついた。
「確かに、これはテンの手には負えそうにもないのだ……この手の材料に詳しい人間に聞いて見ないと分からないこともあるし、ぼく自身がやるのだ……。
 それから……このHEAT弾というのは……中に炸薬が詰まっているのかね?」
「……ええ……」
 孫子が、頷く。
「装甲を打ち抜くために開発された、徹甲弾の一種です……。
 打ち出されて、この弾頭が装甲に当たると、弾頭部分が爆発して標的を破壊。その後、中に火のついた炸薬を送り込みます。
 対装甲車両の兵器としては、現在ではミサイルが主流ですが、腕のよい射手がいれば、このような特殊弾の方が遥かにコストパフォーマンスに優れています……」
 物騒な内容を淡々と解説する孫子。
「……むむむ……」
 徳川は、唸った。
「……こっち方面も、流石にノウハウを持っていないのだ……」
「実家に問い合わせて、必要な資料を取り寄せましょう」
 即座に、孫子が答える。
「……可能なのかね?」
 徳川が、孫子の顔をまともに見る。
 常識的に考えれば……そんな物騒な兵器の開発を、簡単に任せたりしないものだが……。
「どうせ、炸薬も取り寄せになります。
 実家は……こちらが説得しますわ。
 そのかわり……」
 そういって、孫子は、持参した書類を広げて、徳川に見せた。
「……事業計画書、か……」
「ええ……。
 ビジネスの相手として信用できる、ということになれば……才賀は喜んで、誰とでも手を組みます。
 高い技術力を持ち、それなりに実績もある御社が、潜在的な能力をフルに発揮して利益率を上げれば……才賀は、喜んで手を貸すでしょう……。
 内容は、不公平にならないように気をつけたつもりですが……もちろん、そちらの人員や顧問に、時間をかけてチェックして頂いて結構です……」
「もちろん、そうするのだ。
 こちらも、気がついたらのっとらられていた……ということになったら、困るのだ……」
 そういいながら、徳川は、孫子が持って来た書類を引き寄せて、子細に読み込みはじめた。

 孫子と徳川がシビアな対話をしている内に、茅はみんなに紅茶を給仕しはじめる。カップは持参していなかったので、ここでふだん使用している、プラスチックのカップに人数分の紅茶を注ぎ、浅黄と一緒に配って回った。
 浅黄は、最初の一杯は砂糖とミルクをどっさりいれ、ゆっくりと時間をかけて飲んでいたが、ほとんど渋みがないことが分かると、今度は隣に座っていた茅のストレートティを一口確認し、二杯めからはストレートで砂糖もいれずに飲みはじめた。
 他のみんながお茶を楽しんでいる間も、孫子と徳川は書類を挟んであれこれ議論していた。議論の内容は、もはや二人以外には理解できないほど専門的な方面に突入している。新規事業のために新しい法人を作った方がいいか、悪いのか、そのための資本比率はどうするのか、など、普通の学生には縁のないことをあれこれ話している。
『……ウドー君なら、まだしも理解できたかもな……』
 と、傍で聞いていた玉木玉美は思った。

 ゆったりとお茶をしてから、ガクにせっつかれたこともあって、楓は事務所を出て、とりあえず「実技」をしてみることになった。茅にも「見学させる」という約束をしているし、先に徳川に見せた投擲武器を、実際に使用する場面も、見せておいた方がいい。
 楓とガクに続いて、他の面子もぞろぞろとついていく。
「最初に確認しておきますが……」
 事務所を出た楓は、ガクに問いかけた。
「手裏剣とか六角とかの扱いは……まだ、習っていなかったのですね?」
「……うん」
 ガクは、頷く。
「投げるので、習ったのは、印地打ちだけ……。
 ベルトとか、帯条の布とか革ならなんでもいいんだけど、そういうので、こう、そこいらにある石とかを、ブン!
 って、ぶつけるやつ……」
 ガクは、ジェスチャーつきで説明してくれる。
「印地、あるいは、飛礫。
 スリングや素手での、広義の投石攻撃方法……ですが、古代から中世、いや、近現代まで、広くみられる攻撃方法です。
 悪党の技、としている本もありますが、戦国期まで合戦の資料をみると、刃物による傷よりも打撲による負傷の方がよほど多いそうですから……一般的なイメージよりも、こっちの攻撃方法の方が、主流だったのでしょう……」
 孫子が、解説を付け加える。
「……じゃあ……。
 やぁやぁ、我こそは……って、名乗りあったりするのは……」
 玉木が、疑問の声をあげる。
「……大方は、平和な後世の創作ですわね……。
 だって、雌雄を決する合戦の実態が……石合戦がだったり、遠くから弓矢を射掛けるだけでは、絵にならないでしょう?」
 孫子は、肩をすくめる。
「武士、という階級の黎明期に、自分たちの存在を誇示するために、ごくごく限定された期間と地域で、そういう芝居めいた真似をすることがあったのかも知れませんが……。
 実際の戦は、もっと泥臭いものです……。
 それに、武士の発祥は、貴族子飼いのやくざみたいなものですわ……」
 だから……特に、初期は、自分たちの働きを、周囲に認識させる必要があった、と孫子はいう。
 そんなことを話す間にも、放送部の面々は、ビデオカメラと光源をセットしはじめた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(57)

第六章 「血と技」(57)

 竜齊とのビデオチャットを終え、さて、メールの続きを……と思ったところに、今度はインターフォンのチャイムが鳴った。今度は誰だ? と思いながらスコープを覘いてみると、シルヴィ・姉崎が立っていた。一時は家族同然にしていた間柄でもあり、荒野はすぐにドアを開け、招き入れる。
「……で、今日は、なんなの? 用があるんでしょ?」
 コーヒーを入れ直しながら、荒野は単刀直入に尋ねる。
 変な遠慮が必要な関係ではないし、荒野の他に誰もいないタイミングで来訪してきたのが偶然とも思えない。
「……そう。
 昨夜、みんなで話していた一件のことなんだけど……」
 シルヴィは意味ありげに微笑みながら、切り出す。
「……姉の情報網、使いたくはない?」
「対価は?」
 即座に、荒野は返す。
「コウの、ベイビー」
 シルヴィも、即答だった。
「姉も欲しがっているし、ヴィ自身も、欲しい……」
 そんなことだろうな……と、荒野は思う。
 以前にもそんなことをいっていたし……荒野の血、と、加納本家とのコネクション強化……前者は、うまく子供に荒野の特性が引き継がれる、という保証はなかったが……姉の中に、荒野の子がいる……というコネクションの方は、確実で……かつ、姉にとって、魅力的な筈だった。
 姉は、そうして少しづつ世界と交合し、力を蓄えてきた血族だった。
「……考えておく」
 荒野は、素っ気なく、当座の結論を伝える。
「なんで躊躇うの?
 コウにとっては、ほとんどリスクがない取引よ……。
 ベイビーは、姉が責任を持って育てるし……」
「解っている」
 荒野は頷いた。
「ヴィのことは、嫌いじゃないけど……。
 この年齢で子持ちになりたくないし、自分の子供を担保代わりにしたくないんだ……」
 その実、茅のことを考えて、踏み切れないでいた。
 あるいは、荒野と茅との関係など、一族にはすでに周知なのかも知れないが……。
「あの子のこと気にしている?
 別にヴィは気にしないわ。ヴィったち、所詮、イチゾクだし……」
「……おれが、気にするんだよ……」
 荒野は低い声で、しかし、きっぱりと断言する。
「おれ……まだまだそういうの、気にする年頃だんだ……」
 その荒野の返答を聞くと、シルヴィは声を上げて笑った。
「コウ……本当に……イッパンジンになれると思っている?
 羊の群れに混じっても……狼が、羊になりきれるわけではない……」
「わかっているよ……わかっている……つもりだ……」
 荒野は、弱々しく首を振った。
「でも……やれるところまで、やってみたいんだ……。
 あー……。
 それが……若さってもんだろ?」
 荒野が冗談めかしてそうつけ加えると、シルヴィは、荒野に優しく微笑む。
「……all right!
 それが、コウの、答えってわけね……」
 そして、肩をすくめながら、さらにいった。
「……コウの気持ちは、分かった。
 でも……あの子……カヤにも、この取引のことを、話してくれないかしら……」
「……茅に?」
 荒野は、片方の眉を吊り上げて、問い返す。
「……大丈夫。
 ヴィがこういう取引を持ちかけてきた、っていうことだけ、伝えてくれればいいから……。
 案外……。
 コウとは、違う結論を出すかもよ……」
「……あいつ……嫉妬深いんだぜ、意外に……」
 荒野は、しみじみとした口調でいうと、シルヴィは、また笑った。
「……知っている。
 でも、これは普通の浮気とは少し違うし……。
 カヤ、頭がいいから、この取引の旨味もちゃんと飲み込める……。
 コウは、ヴィにこういうことをいわれた、と、伝えるだけでいいの……。
 それとも……いつくるか、本当に来るかどうかも分からない相手を、いつまでも、何年も、待ち続けるつもり?」
「やつら……襲撃者に、心当たりがあるのか!」
 荒野の顔つきが、厳しくなった。
「コンタクトを取れるのか! 居場所がわかるのか!」
「……さぁ……」
 シルヴィは、曖昧に笑って、荒野の追求をかわす。
「今日は、そのことを伝えたかっただけ……。
 ヴィは、もう、オイトマするわ……」
 結局、シルヴィは、コーヒーメーカーが新しいコーヒーをいれる前に、いいたいことだけをいって、さっさとマンションを出た。

 残された荒野は……大量のコーヒーをちびちびと啜りながら、様々なことを考え直してみる。

 つまるところ……ガス弾を使い、佐久間現象を操った勢力……というのは、本当に、荒野が想定している通りの者たち……なのだろうか?
 と。

 荒野たちが「姫の仮説」と呼んでいたものも……いざ、真相が明かされてみると、的を射ている部分と、大きく予測から外れていた部分が、ない交ぜになっていた……。
 この襲撃者についても……荒野たちが、何か大きな見落しを……している可能性は、ないだろうか……。
『それを判断するのには……まだ……判断材料が……少なすぎる……か……』
 昨夜、提示された情報を……そのまま、鵜呑みにしてはいけない。
 裏をとるまでは、余分な先入観を持たないように、しなければならない……と、荒野は自戒する。
 現状……荒野自身が、リーダーのようなポジションに立ってしまっている。
 荒野が判断ミスを犯せば、その他の人間に、多大な悪影響を与える……。
『……人に、指示を与える立場……というのも……』
 これはこれで……まるっきり、楽ではないよなぁ……と、荒野は、心中でぼやいた。

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彼女はくノ一! 第五話 (140)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(140)

 マンション前で一旦別れ、家に入ると、すでに私服に着替えていた孫子が待っていた。スカート姿が多い孫子には珍しく、今日はパンツ姿であり、傍らに例のゴルフバッグを置いて、居間の炬燵で悠然と湯飲みを傾けていた。
 孫子は帰宅した楓に、
「随分と、ゆっくりでしたわね」
 といった。
 おそらく、事実を指摘しただけで、嫌味や皮肉などの他意はないのだろう……と、楓は思った。
「今日は、掃除当番でしたので」
 楓が小声で答えると、孫子は、
「そう。では、茅ももうじき来るのね?」
 という。
 どうやら、一緒に徳川の工場にいくつもりで、待ってくれていたらしい。
「ええ。着替えたら、すぐにこっちに来るそうです。
 わたしも、着替えてきます」
 楓がそういって、自室に向かうと、
「では……タクシーを、呼んでおきます」
 孫子は、携帯を手にしていた。

「……その荷物は、なんですの?」
「お茶の道具なの。みんなに、御馳走するの……」
 楓が着替えてくると、玄関の方で、孫子と茅がそんな問答をしていた。
 茅は、コート姿だった。
「お茶は、いいのですけど……。
 と、すると……そのコートの下は……」
 孫子が素早く茅の胸元を掴み、コートの中を覗き込む。
 そして、げんなりとした表情になった。
「……その恰好で、向こうにいくつもりじゃあ……」
「ご奉仕する時は、この服なの」
 楓も茅のコートの中身を覗き込むと……案の定、茅は、メイド服姿だった。
「……こんちはーっす。
 狩野さんのお宅は、こちらですか?」
 孫子と楓がなんともいえない表情で固まっていると、タクシー会社の制服を着た中年男が、茅の後ろから顔を出した。

『……き……気まずい……』
 三人でタクシーに乗り込んでからも、会話は、見事なまでに弾まなかった。
 これだけ身近にいれば、顔を合わせる機会には事欠かなかったが……この三人だけで、というシュチュエーションは、意外なほど、少ない。
 大抵は、他にも大勢の人が、周囲にいるので、会話はそれなりに弾む。
 楓は、下校の際、かなり頻繁に茅と二人きりになる。
 孫子と二人きりになるのは、大抵「戦闘状態」であり、会話どころではない。ついこの間も、孫子と「世間話し」をしようとして、見事に撃沈したばかりだった。
 性格も……まちまちであり、実は、身近に生活している、ということを除けば、この三人の少女たちには、あまり接点や共通点、というものが、ない……。
 それでも、タクシーの運ちゃん、のような第三者がいない場なら、それなりに現在の状況分析、などの話しも出来たのだが……無関係の一般人がいる場で、この三人で会話できる話題……というと……楓には、思いつくことができなかった。
「……でも……」
 その場の空気を読んだのか、それとも、ただ単にお客との会話をするのが好きなのか、タクシーの運ちゃんが話しかけてくれたので、楓はほっとした。
「お嬢ちゃんたちみたいな女の子三人が、あんな何にもない場所に行くなんて、珍しいよな。
 なんの用事でいくんだい?」
「……あそこの工場に、お友達がいるんです……」
「……あー……工場に、ねー。
 そうだな。
 あそこいら、工場や倉庫くらいしかないもんなぁ……」
 タクシーの運ちゃんは、適当に意味のない相づちを打っていた。
「その住所、徳川の工場なの」
 突然、ぼそり、と茅がしゃべった。
 運転手の肩が、びくりと震える。
「なんだ、お嬢ちゃん、しゃべれたのかい。
 人形みたいにじっとしているから、随分大人しい子だなーとは思ったけど……」
 置物みたいに感じていた茅がいきなりしゃべったことで、かなり、驚いたらしい。
 ……この運転手から見て……自分たち、三人は、かなり奇妙な組み合わせなのではないか……と、楓は思った。

 徳川から渡された住所でタクシーを下り、大きなゲートの前でインターフォンを押すと、徳川の声で「すぐに迎えに行くのだ」と返答があった。
 二、三分ほどで、白衣を羽織って太った黒猫を頭に乗せた徳川篤朗が、ゲートを開いて中に招き入れてくれた。
「……テンとガクは、もう来ているのだ……」
 といいながら、徳川は、迎え入れた三人に、フォークリフトのアームの上に乗るようにいった。
「ちょっと……あなた、免許とか持っていますの?」
 孫子が、軽く眉を顰めて徳川に尋ねる。
「持っているわけがないのだ」
 何故か、徳川は薄い胸をはった。
「私有地内で運転する限り、問題はないのだ。
 毎日のように扱っているから、運転技術は確かなのだ」
 孫子と楓は、不承不承、フォークリフトのアームの上に乗った。
 茅は、持参したお茶の道具を、運転席に座った徳川の膝の上に置き、自分自身は運転席の背後にしゃがんで、運転席を覆う骨組みにしがみつく。
 その状態で数百メートルほど移動し、天井の高いフロアー内に建てられた、二階建てのプレハブの前に案内される。本人が自賛するだけあって、スムースで無理な機動のない運転ぶりだった。
 徳川は、先にアームから下りた楓に、茅のお茶の道具を渡して運転席から降り、先導して三人をプレハブの中に招き入れた。
「……ネコさんだー!」
 プレハブの中に入ると、徳川浅黄が、コート姿の茅に抱きついてくる。
 その他に、先に来ていたテン、ガク、それに、玉川珠美以下数名の放送部員、などが、楓たちを待ちかまえていた。
「……徳川……。
 お湯が欲しいの……」
 浅黄に抱きつかれたまま、茅は、楓が抱えている包みを指さした。
「……みんなに御馳走するつもりで、お茶の道具を持ってきたの……」
 浅黄が、その茅の体によじ登り、茅の頭にネコミミ・カチューシャを乗せようとしていた。
 孫子が浅黄の体の側面に手を添え、浅黄が落ちないように持ち上げる。
 と、なんとか浅黄は、茅の頭の正常な位置に、カチューシャを据えることに成功した。
 茅がコートを脱いで中のメイド服を露わにすると、「……おー!」という歓声があがり、放送部員数名が、ビデオカメラを回しはじめていた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(56)

第六章 「血と技」(56)

 ママチャリで何往復かして食料をマンションに冷蔵庫やキッチンの収納棚に片付け終えた所で、斎藤遥から、
彼女たち、意気投合。
マンドゴドラに来る必要なし。

 というメールが入った。
 マンドゴドラで何があったのかは分からなかったが、斎藤遥が先導するかなにかして、荒野目当てで寄ってきた女の子たちをうまく糾合してしまったらしい。
 あるいは、当初反発しあっていた彼女たちが、実際に顔を合わせて会話をしてみると、実は反発すべき理由などどこにもなかった……ということに、自然に気づいただけなのかも知れないが、だとしたら、明日以降、荒野は、一体となって組織化されたあの人数に影に日向に追い回されることになる……ので、こっちの可能性は、あえて考えないことにした。
 それでなくとも、やらねばならないこと、考えねばならないことが山積みになっているのである。
 それから、玉木から「明日の放課後、一回目の勉強会を行うが、予定はどうか?」という旨のメールも届いており、それには「明日は部活があるので、いけない」と返信しておく。
 ついでに、そろそろ夕食の支度をする時間になっていたので、茅に「いつ帰るのか? なにか食べたいものはあるか?」とメールを打つ。普段、家事は茅の分担になっているが、今日は帰りが何時頃になりそうだ、とかの連絡を、まだ受けていなかった。
 コーヒーメーカーで自分で飲む分のコーヒーを入れていると、茅から「あと一時間くらいで戻る。カレーが食べたい」とのメールが着信し、荒野はコーヒーを飲んで一服入れてから、……茅、本当にカレーが好きだよな……とか、思いながら、夕食の準備をしはじめる。

 カレーを作る時はいつも多めに作り、余った分は冷凍しておく。
 寸胴鍋に手際よく切ってざっと火を通した野菜や肉を放りこみ、水を入れて煮込みはじめる。寸胴鍋を火をかけると、煮込む時間は手が空くので、その隙を利用してパソコンを立ち上げ、複雑な認証を幾つか経由して一族の管理するサーバに接続し、主要な動きをチェックしはじめる。昨夜の会食が契機となったのか、茅やテン、ガク、ノリたちの情報が「公然」のものとなっていた。同時に、商店街にガス弾を投下した勢力についての情報、並びに、情報提供の呼びかけ、も行われていたが、こちらは芳しい成果は上がっていないようだった。
 荒野たちが「姫」と呼称している子供たち……についての情報さえ、昨日まではごく一部の人間しか知らなかったわけだし、加えて、あそこまでガス弾の連中の情報が、まるで掴めていない不自然さ……を考慮すると、やはり、一族の中枢に近い者の中に、内通者、ないしは、協力者がいる可能性も、捨てきれない。
 この時点で荒野は、一族からは、通り一遍の協力しか得られないのではないか……という感触を得ていた。
 つまり……自分たちの手で解決を図らなければ、事態に進展はないのではないか、と。

『……と、なると……』
 今のところ、姿を見せていない襲撃者を、どうやってこっちにおびき寄せるのか……というのが、はやり一番のネックになる。
 戦力の拡充と、地元での足場造り……に、関しては、昼休みに見聞した感触では、茅や楓、孫子の三人が、様々な協力者と共同して、それぞれ自主的に動いてくれている。だから、この方面でのことはしばらく任せてみよう……と、荒野は思っていた。
 もっとも、しばらく様子をみて駄目そうだったら、即座に介入するつもり、ではあったが……三人とも、それぞれに欠点や短所はあるものの、決して頭が悪いわけでも思慮がないわけでもないので、おそらく、大きく外すことはないだろう……と、荒野は判断する。
 だとすれば……荒野が、今すべきことは……。
『対外交渉……か……』
 今のところ、あまり本気で「ガス弾の襲撃者」の捜索を行っているように見えない一族を、どうやって本気にさせるのか……を考えることが、荒野の「今、すべきこと」のように思えた。
 この仕事は……一族の中枢にコネクションを持つ荒野にしか、出来ない……。
 荒野はパソコンに向かい、心当たりの幾つかに、取引を持ちかけるメールを書きはじめる。
 一族同士の連絡は、現在では、暗号化して部外者には内部を読み取ることが困難なファイルをメールで送信することが標準となっている。もっとも、これも時と場合によりけりで、口頭や手紙や電話、はては伝書鳩やのろし、みたいな原始的な手段を使用しなければならない局面も多かったが、日本のように情報インフラが整備された環境下で、一般人に混ざって生活している者同士なら、はやり便利で融通の利く方法を選択する。
 荒野が現在取引材料として持っているのは、多少の現金と過去の仕事で入手した「使えそうな情報」くらいなもので、これでは、ろくな成果は望めまい……と、思っていたが……とにかく、どこからかは手をつけなければ、はじまらないのであった。

 現金、に関しては、物心ついてからこの土地にくるまで、一族の仕事に従事してきた荒野は、正当な報酬として相応のまとまった分け前を支払われている。日本円に換算して億単位の金額であり、一学生が所有する資産としては多すぎるのかも知れないが……特に終盤の数年間は毎日のように命のやりとりをしていたことを考えると……金額の多寡に関しては、多少の疑問も残る。
 また、茅と荒野の二人が、あと数年、「社会から成人と認められるまでの期間、贅沢をせずに生活するための費用」としては十分なもの、「手練れの術者を長期間拘束する」対価としては、全然足りないのであった。
 戦闘要員、あるいは、情報収集要員として、術者を金で傭う……となると、現在の荒野の資産状況では、二流どころ、三流どころを短期間、しか、拘束できない。
 そこで、荒野は、手はじめに、それぞれの陣営が欲しがっている「情報」をちらつかせて、協力を引き出す……という作戦を選択した。
 駄目もと、ではあったが……。
『……これで駄目なら……』
 徳川に、株式投資のやり方でも習うかな……とか、荒野は思いはじめている。
 すぐに反応が……それも、荒野が交渉をもちかけるメールを書いている途中で、おもいがけず荒野にコンタクトしてきたのは、昨夜会ったばかりの野呂の長、竜齊だった。
 竜齊は、荒野に「ビデオチャットモードにせよ」というメールを送りつけてきた。

『……お前が、サーバに接続しているのに気づいたからよ。
 ちょうどいい案配だな、と……』
 ビデオチャットのソフトを立ち上げると、竜齊の赤ら顔がパソコンの画面に映る。
『……昨日、話していた、うちの若い者の中に、そっちに行きたがっているのがいるって、って件な……。
 野呂はな、自分力量で自分の欲望を満たすことを是、としている。だから、若い者のやりたがっていることを、おれら上のもんがとどめることはできねぇ……。だから、おれの方も、若いやつらの動きをどうこうするつもりはまったくねぇんだがな……。
 荒野。
 お前さんが、うちの若い者の面倒を、多少なりとも見てくれるってんなら……野呂は、荒野、お前さんに恩義を感じるってことになるぜ……』
 竜齊なりに、気を遣ってくれているらしい……。
 荒野は、「できる範囲内で」世話をする、と約束し、代わりに、こちらに逗留しそうな野呂の者のリスト、それと、こちらに来る際は、あくまで一般人として転入してくることを、要求する。
『……わかってるって。なにぶん、そこいらは、長老が根を張ってきた場所だからな。一言断りをいれておけねーと、後でこじれるかもしれなくてよ……』
 竜齊はそういって、チャットを切断した。

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彼女はくノ一! 第五話 (139)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(139)

 今朝、校門前で多数の武器を没収されたことを除けば、目立っているのはやはり荒野であり、少なくともその日一日は、楓の周辺では、これといった異変は起こらなかった。もちろん、没収の一件や昼休み、実習室でのやりとりが噂となってじわじわと静かな波紋を呼んでいる気配は十分に察せられたが、そうした噂が具体的に目に見える形となって跳ね返ってくるのには、まだしばらく時間がかかるのだろう……と、楓は推測する。
 直接、荒野の常人離れした身体能力を目の当たりにした人間はまだ数十人のオーダーに留まっており、あれこれある噂が、それなりのリアリティを獲得するのには、まだ少しの猶予がある……。
 直接、目撃した生徒たちも、間接的に噂を聞いた生徒たちも……まだ、その事実をどのように評価したらいいのか、判断に困っており……とりあえず、物珍しさだけが、先行しているのが、現状だ……ろうと、楓は、観察した。
 そんなわけで、昨日の説明会から数えて一日目、の、月曜日は、表面上、穏やかに過ぎ、放課後になった。楓は、それまで会話を交わしたことのない生徒や、見知らぬ生徒から、通りすがりに「よ! くノ一!」などといきなり意味もなく声をかけられる……ということを何度か経験したが、それ以外はまったく平常通りの学校生活をおくることになった。
 クラスメイトたちの楓に対する態度も……少なくとも表面上は、以前となんら変わらない。
 やはり……非人間的な能力を持っているのは、荒野だけだ……と、思われているようだった。
 あるいは、商店街の人たちが、年末のショッピング・センターの一件について、あえて口を噤んでくれたように……なにがしかのことに気づいても、築かないフリをしてくれている生徒も、多いのかも知れないが……いずれにせよ、まだしばらくは従来と何ら変わらない生活を送れそうだ……ということが、楓にはありがたかった。

 放課後になり、その週は掃除当番に当たっていたので、茅には少し図書室で待って貰い、三十分くらい遅れて、二人で一緒に帰宅する。茅は、図書室の本を、「まだ、全て、記憶しきってないの」とのことで、時間が空きさえすれば図書室に足を運んでいる。したがって、その程度の時間、待たされるのは、まるで苦にならないようだった。
 また、
「待ち合わせしてまで、一緒に下校するのは……兄弟としたら、仲が良すぎるだろう」
 という判断で、荒野と茅は、特別な用事や事情がない限り、一緒に下校することはない。
 だから、帰りの茅の護衛役は、よほどのことがない限り、楓がすることになっている。
「茅様……」
 茅と肩を並べて家路につきながら、楓は茅に話しかけた。
「……体術を習いたい、って……」
「前々から、考えていたことなの」
 茅は、楓の目を真っ直ぐ見据えて返答した。
「茅だけが、戦力外。足手まとい。ウィークポイント。
 それを改善するため、毎朝、走ってきたの……」
 そのことは……茅が毎日ランニングを行っていることは、楓も何度か耳にしていた。そして、茅が以前から「強くなるの」といっていたことも、楓は知っている。
『……本当に……思ったことを……希望通りに、実現しちゃうんだな……茅様は……』
 と、楓は思う。
 少なくとも……そのための努力は、惜しまない……。
「で、でも……」
 茅に、黒目がちの目で真っ直ぐに見据えられ、何故か少し狼狽えながら、楓は目を反らした。
「とりあえず、今日は……見学だけ。
 それから、加納様に正式に許可を取って……。
 その次は……今の時点で、どれだけ体が出来ているのか確認させて貰って……それで、少しずつ、無理のないペースで……しか、お教えできませんよ……。
 それに、どの時点でも、茅様に見こみがないと判断したら……その場で、中断します」
 一口に、「一族の体術を教授する」といっても……いうほど簡単なものではない。その過程は、かなり、「しんどい」し、体にも少なからぬ負担を強いることになる。「最低限の資質」として、「先天的な適合性」に恵まれていなければ体を壊すのがオチで……誰にでも教えられる……というものでは、ないのだった。
「それで、いいの」
 茅は、頷いた。
「茅のせいで、荒野を……みんなを不幸にするのが、いやなだけなの……」
 思いの外、真摯な口調だった。
「か、茅様……」
 その真摯な口調にあてられ、楓は慌てて話題を変える。
「もう、お友だち……できましたか?」
「佐久間沙織先輩。徳川浅黄」
 茅の返答は、いつも単刀直入だ。
「それ以外に、クラスの方とか、クラブの方とか……」
「みんな、優しくしてくれるの。
 クラブの人たちとは、何度か一緒にマンドゴドラにいったの」
「そ……それは、いいんですが……」
 楓は、未だに茅との会話になじめない。
 茅の言葉はいつも「意味一辺倒」であり、「余裕」、というものが無さすぎる。
「……茅様が、特別親しくしている人……とか、出来ましたか?」
 少し前をおいて、楓は、昼休みから考えていたことを、ようやく切り出すことが出来た。
「どこまでが普通に親しい状態で、どこからが特別に親しい状態なのか……明確に条件を設定して貰えないと……うまく、答えられないの」
 やはり……茅の返答は、明確で余裕というものがなかった。
「あ……あの、ですねぇ……」
 楓は、話しの方向を変えた。
「昼間……考えたんですが……茅様にも、お友だちが……もっと大勢の人たちとつき合う必要性が、あると思うんです。
 というのはですねぇ……」
 楓は淡々と、昼休みに考えたことを茅に説明する。
 荒野や自分、のような身内以外に、親しい人間を多数作るのが……地元社会にとけ込む早道だし、特殊な環境で育った茅のためにも、いいのではないか……と。
 楓の話しを、茅はいつもの無表情で聞き入っていた。
「……面白い偶然なの」
 一通り聞き終わってから、茅はぽつりと呟く。
「今朝、茅が絵描きについていったことと……ほとんど、同じ……」
 そういってから茅は、楓の言い分の正当性を認め、「これからは、学校内外に、もっと多くの親しい人間を作るように、努める」と約束してくれた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(55)

第六章 「血と技」(55)

『……まいったなぁ……』
 と、荒野は思った。
 尾行……というのも馬鹿馬鹿しい、稚拙な追尾者たちの正体が、どうやら、以前から荒野のことをこっそりと追いかけている生徒たちらしい……と気づいた時、はじめて荒野は、今、食材を持たせている生徒たちの意図に気づいた。
 荒野たちの後をついてくる集団は、今は私服に着替えてはいたが、以前から入れ替わり立ち代わり、部活を見学しに来ていた生徒たちであり、彼女たちの顔は、昨日の説明会でもみていた。
 そして、彼女たちの正体に気づいた時点で、荒野は、それまでろくに会話を交わしていなかった安藤さんが、今日、はじめて話しかけてきたのか……何故、その後ろに数人の女生徒を引き連れているのか……その意図に、気づいた。
 表向き、「兄弟」ということになっている茅と、毎晩のように秘密の関係を持っている荒野は、表面上、異性に対して超然とした態度をしている……が、それは、欲望が充足されているのと、異性とあまり付き合った経験がない荒野は、性別によって対応を変えない……というところからくる誤解であって、その実、荒野は……。
『こういうの……どう、扱ったらいいんだろう?』
 なにしろ、徹底的に経験値が不足している。
 荒野は、異性の扱いに関しては……からっきし疎くて、そして、思いっきり、鈍感だった。
『……とりあえず……』
 後をつけて来ている子たちにも、声をかけてみるか……と、荒野は思った。面倒なことは、早め早めに片付けておきたい。というか、今の時点でもかなりイッパイイッパイなのに……これ以上の面倒は、流石に抱え込みたくはない。
 そこで荒野は、荷物の重さに耐えながらも必死に笑顔を向けようとしてくれる制服組を、「荷物、多くなっちゃたから、休憩しよう」といって、マンドゴドラに誘った。
 荒野がたまたま全席空いていた喫茶コーナーのカウンターに荷物持ちの女の子を案内し、店頭に立つと、早速店の奥からマスターが顔を出してきた。
「お。来た来た。
 聞いてくれよ、兄さん。コンテストで来たねーさんたちが、自分のブログとかネットでうちのケーキのことを褒めちぎってくれてな、何だかんだでネット通販の売上が……って……」
 そこでマスターは、はじめて疲弊した顔をして喫茶コーナーのカウンターにへたりこんでいる、荒野の学校の制服を着た生徒たちの姿に気づいた。
「……おい、おにーさん……。
 初めてみる顔触れだな……」
 マスターは荒野の耳元に顔を寄せ、急に小声になって、囁いた。
「で……どれが、本命だ?」
 ……やはり、そう見えるのか……と、荒野は思った。
「どれも、本命ではないんだけど……」
 荒野も、小声になった。
「ちょっと二、三分、出て行って、すぐ戻るから……彼女たちの好きなもの、食べさせておいて……」
 と、マスターにお願いする。
 そして、喫茶コーナーに戻り、待っていた女の子たちには、こう告げた。
「……今、知り合いを見かけたから、ちょっといって声をかけてくるね。
 すぐに戻るから、好きなもの頼んでよ。
 勘定は、気にしないでいいから……」
 にこやかにそういって、返事も待たずに身を翻し、荒野は店の裏口から外に出た。

『……次は……』
 荒野は有働勇作の携帯に電話をかけ、ボランティア活動の内情に詳しい者を一人、マンドゴドラに派遣してくれ、と、要請した。
「……そうそう。有望な協力者候補が……あー……二十人くらい、かな? うん。今、マンドゴドラにたむろしているからさ。ちゃんと説明できる人がいいな。
 資料とかも持たせてくれると、さらに、いい……」
 有働勇作は、斎藤遥を派遣してくれる、といってくれた。二人とも学校内にいた……ということは、パソコン実習室か放送室かで一緒にいたのだろう。

「……やあ……」
 二、三人づつのグループに別れ、荒野の後をつけて来た女の子たちのさらに後ろを、気取られずに取る……などいうのは、荒野にしてみれば造作のないことである。
「……ぼくに、なんか用かな?」
 荒野はにこやかに挨拶し、グループのひとつひとつをマンドゴドラに案内する。
「……おいおい、おにーさん……。
 こんな女の子をばかりを集めて、一体、なにをしようっていうんだ?」
 マンドゴドラのマスターは、明らかに面白がっていた。
「……これから、突発的に地域ボランティア活動の説明会、はじめることになりそうでね……」
「……あれか? うお玉んところのお嬢ちゃんが、最近リキいれているやつ?」
「そうそう。それそれ。
 人助けだと思って、しょっとお店貸してよ……。
 なんなら、会場代とケーキ代、払うからさ……」
「そんなもん、いいってことよ。
 おにーさんには世話になっているし……それに、ほれ、ぼちぼち人目も集めはじめているし……」
 そういってマスターはバイト店員を即して、在庫を残らずワゴンに乗せはじめる。
 すでに、あまり広くない店内の喫茶コーナーには、明らかにキャパシティを越える人数の少女たちが密集している。マスターの言葉通り、ショーウィンドウー越しに外からも見える異様な風景に……通行人たちも、足を止めはじめていた。
 この店の突発的なイベントと、便乗ワゴンセールは、もはや近隣の皆様にはおなじみのものになっていた。
 斎藤遥が大量のコピー用紙を抱えた男子生徒二名を引き連れてマンドゴドラに到着するのと、荒野が尾行者全員をマンドゴドラに集め終わわるのとは、ほとんど同時だった。
 こうして一緒に集めてみると、教室内で声をかけてきた安藤さんたちが、制服姿であるのにもかかわらず、どことなく派手な印象を与え、逆に、こっそり後をつけてきた子たちは、どことなく内気そうで地味な外見をしていることに気づかされる。
 斎藤遥がボランティア活動の説明をはじめると、地味グループの子たちは口々に「昨日の説明会、行きました……もう、メンバー登録もしています」といいはじめ、すると、派手グループの方もしぶしぶ、といった感じではあるが、斎藤遥の説明に、真面目に耳を傾けるよりほか、なくなるのであった……。
 斎藤遥に随行してきた男子生徒二名が、外に出てマンドゴドラのワゴンセールに寄ってきた人たちに、ボランティア活動の詳細を記したコピー用紙を配りはじめると、説明を聞く必要のない地味グループの女の子たちが店の外に出て、それを手伝いはじめる。
 派手グループの子たちも、対抗意識がでてきたのか、斎藤遥の説明がすべて終わる前に、慌ただしく携帯の画面でボランティアメンバーの登録を済ませて外に飛び出し、ビラ配りを手伝いはじめる。

「……おにいさん……意外に、策士ですね……」
 途中から手の空いた斎藤遥が、こっそり荒野に話しかけてきた。
 大体の事情は、途中から察していたらしい。
「……そうでも、ないよ……」
 荒野は澄ました顔で答えた。
「おれより年下で、もっとえげつないのいるし……」
 荒野は、知り合って間もない楓と孫子の関係を見抜き、両者を噛み合わせようとしたテンの顔を、思い浮かべていた。

 皆さんがビラ配りに夢中になっている間に、荒野は一度家に帰り、愛用のママチャリで何往復かして、大量の食材を自宅に運び込んだ。

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彼女はくノ一! 第五話 (138)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(138)

 その日の休み時間、楓は、堺雅史に「昼休みに、パソコン実習室に」と誘いをかけられる。土日を使ってパソコン部の部員たちが作業した分をみてほしい、という話しで、それでは、と、楓は、茅も誘ってみることにした。これを機会に茅に知り合いが増えれば、という思いもあるし、現在、パソコン部で作業しているプログラムに関しては、茅も無関係という訳ではない。
 そう思って楓が茅に声をかけると、例によって表情を変えぬまま、茅は頷き、そして三人は連れだって、昼休み、給食を食べ終えた後、パソコン実習室に向かう。

 パソコン実習室に着くと、すでに何人かのパソコン部の生徒たちが集合していて、末端にとりついたり話し合ったりしていた。その場に集合した顔なじみの部員たちの顔をみて……土曜日以前よりは、かなり、引き締まった顔付きをしているな……と、楓は思った。
 堺の言葉にしたがって、楓と茅はこの週末に部員たちが書いたコードを点検する。部員の中には初心者といっていいレベルの者が多数を占め、案の定、コードの中に初歩的な間違いも多数見受けられたが、作業量的な部分に着目すると、「……プログラムに関する知識があまりない状態で、よくぞここまで……」と思えるほど、大量のコードが記述されていた。
 人数が多い、ということを割り引いても……熱意と士気は、高い……と楓は判断する。
 楓は茅と分担して、部員たちが書いたコードを点検し、間違いを一つ一つ指摘し、口頭で解説を加えながらコードを訂正したりコメント文を書き加えたり、といった作業を開始した。
 部員たちは、楓や茅の指摘にいちいち頷きながら、時折、メモをとったりして熱心聞き入っている。
 そのうち、徳川篤朗と才賀孫子の二人が入ってきて、事業計画がどーの法務官理がこーの、と口早に専門用語を羅列しながら、末端の一つにとりついた。
 徳川篤朗は孫子と早口で会話しながらずらたたったたっと物凄いいきおいで、キーボードをタイプしはじめる。
「……徳川……」
 茅が、そんな徳川に、声をかけた。
「今日の放課後、茅たちも、徳川の工場にいきたいの……」
 茅も、ブラインドタッチでキーを叩きながら、徳川と話しかけている。
「……あっ!」
 楓も、声をあげる。
「わたしも……徳川さんのところに、一緒にお邪魔してもいいでしょうか?」
 楓は、放課後、徳川の工場でガクに稽古をつけ、それを茅に見学させる、という約束をしている。徳川にも一言、断って置いた方がいいだろう。
「なにをたくらんでいるのかしらないが……好きにすればいいのだ……」
 徳川は、茅にはそっけなくそう答え、孫子に向かって、パソコンの画面を指さしてみせる。
「……うちの会社の経営状態は、現状、こんなもんなのだ……」
「……赤字、ではないですけど……予想以上にどんぶり勘定ですわね……。
 もっと無駄を絞れるし、利益を計上できますわ……」
「必要以上の利潤に興味はないのだ。
 ぼくは、生活と研究に必要な分さえ稼げれば、それでいいのだ」
「いいえ……。
 あなたにはもっと稼いでもらいます。税金対策が必要になるくらいに……」
「……ふむ。
 で、その税金対策の分を、ボランティアに回そう、ということなのだな?」
「そういうことですわ。
 現状、それが一番手っ取り早く資金を確保する手段のようですし……。
 まずは、うちの法務スタッフを迎え入れる準備をしてくださるかしら? うちの系列の者は優秀ですから、ギャラ以上の仕事はしてみせますわ……」
「細かいことは、任せるのだ。
 面倒臭いから放置しているだけで、より多くの利益が上がるのには、こしたことはないのだ……」
「いずれ……共同出資の会社を作ることも視野にいれて、とりあえずは、派遣社員という形でうちの者を雇い入れてください。
 数カ月様子をみてくだされば、成果が目に見えるかたちで出はじめる筈ですわ……」
「それでいいのだ……」
「……それでは、必要な書類を用意させますので、届いたら正式な契約をお願いします……」
 そういって孫子は、どこかに電話をかけはじめる。
「……おう、トクツー君。
 こっちにいたかー……」
 玉木玉美と有働勇作が、実習室に入ってくる。
「今日、君のところに綺麗どころが勢揃いすると聞いてな。それで、その模様を撮影しておきたいのだが……許可をよろしく……」
「綺麗どころ?」
 徳川は、首を傾げる。
「放課後……テンちゃん、ガクちゃん、楓ちゃん、孫子ちゃん、茅ちゃんが勢揃いするするんだろ? トクツー君のところに?」
 玉木は、そういうと、聞き耳を立てていた生徒たちが「ええー!」と声をあげた。
「……なに? 何が起こるんだ、これから?」
「テンちゃん、ガクちゃんって誰?」
「この間のシルバーガールズじゃない?」
「ああ……って、そんなのが一同に介して、何をはじめるんだ、一体……」
「ご町内防衛の準備じゃないかな?」
「なる……徳川の工場が、拠点になっちゃうんか……」
 ガヤガヤ話し合いながら、意外に真相に近い結論を導き出してしまっているし……。
『……これは……』
 この町で、自分たちが動く限り……機密、というものはないに等しいな……と、楓は思った。
 どうも、自分たちは……目立ち過ぎるようだ。

 そんなことをしている間に、荒野までが実習室にやってきた。
「……荒野……」
 荒野の姿を認めると、茅はまっさきにこういう。
「今日の放課後、みんなで徳川の工場に行く予定なの」
「あ……ああ……」
 不意にそういわれた荒野は、かなり面食らった表情をしている。登校時の打ち合わせは、他のことに気を取られて聞いていなかったようだ。
 続いて茅は、「楓に体術を習うの」と明言し、徳川が、「工場内に習練の場と兼ねた射撃場を作るのだ」といい、玉川は「放送部は、その記録をとるって寸法ですよ」といった。

 ……やはり、この人たちには、手の内を外部に秘匿する……という概念はないらしい……と、楓は結論する。
 この時、楓は……荒野の苦労を、少しくらいは、察することができた……ような、気がした。

 荒野は完全に毒気を抜かれた表情をしているし、他の生徒たちはさらに声高になってさまざまな憶測を並べ立てている。
 おそらく明日あたりは……生徒の間で、土曜日の襲撃者の再来に備え、荒野たちが、対抗るための防備を本気で準備しはじめている……という噂が、蔓延するのではないか……と、楓は思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(54)

第六章 「血と技」(54)

 一瞬、茅たちと一緒に徳川の工場までついて行こうかとも思ったが、週末に恒例の買い出しに行く余裕がなかったので、冷蔵庫の中身が極端に不足していることを思い出し、同行するのはやはり断念した。
 ライフラインを維持するのも、立派な仕事だ……と、荒野は思った。
 楓や孫子も行動を共にする、というし、工場では、テンやガクも合流する予定だという。そのような状況下でなおかつ茅の身の安全を心配するのも、過保護な気がした。
 昨日に続いて今日もよく晴れていて、商店街ではヒラヒラだったりフリフリだったりするゴシック・ロリータ・ファッションの女性たちでいっぱいである筈……である。
 商店街にいくにせよ、ショッピング・センターにまで足を延ばすにせよ、いずれにせよ、それなりの時間はみておかなければならないのであった。
 そんなわけで、放課後になると、荒野はいそいそと帰り支度をはじめる。

「……ね。加納君」
 帰り支度をしはじめた荒野に、声をかけてきた生徒がいた。同じクラスの女子で、それまで会話はろくに交わしたことがない……と、そういう部類の、生徒だった。
「ああ……っと。
 安藤さん、だったっけ?」
 荒野はクラス全員の顔と名前を記憶していたが、わざといいよどんでみせた。
「瑞希でいいわ。
 それより加納君。これからまっすぐ帰るの?」
 安藤瑞希は、挑発的な目付きで荒野を見返した。
 安藤瑞希の背後には、数人の女生徒が控えており……どうみても、荒野と瑞希の会話を興味本位で面白がっているようだ。安藤瑞希の背後にいる生徒たちは、荒野と同じクラスの者たちもいれば、別のクラスの者たちもいたが……全員、二年生だった。
「まっすぐ……いや、ちょっと商店街に寄って、買い物をしてから帰るつもりだけど……」
「そう……ちょうどよかった。
 わたしたちも商店街に寄って行こうと思ってたところなの。一緒にいっても構わない?」
 さて……どうしたものか……と、思いながら、荒野はとりあえず差し障りのない返答をしておいた。
「……いいけど……。
 最初にいっておくけど、おれの買い物って、本当につまらないものだよ……。
 君たちの興味を引くようなものじゃあ、ないと思うけど……」
 荒野は、そっちの方面にはどちらかというと疎い方ではあるが……ティーンエイジャーの女の子が、肉や野菜のドカ買いに興味を示すとは、到底、思えない……ということくらいは、十分に推察できる……。
 荒野にしてみれば、かなり率直に思ったままを口にしてみたのだが、安藤瑞希は、
「……いいわよ、それで。
 どっちらかというと、わたしたち、加納君の方に興味あるの。買い物は、口実……」
 と、かなり直接的な物言いをする。
 安藤瑞希についてきた女生徒たちだけではなく、その他の、教室に残っていた生徒たちも……明るさまに荒野たちに顔を向けるような真似はしないものの……聞き耳をたてている気配が、した。
 同じクラスの樋口明日樹や才賀孫子は、すでに教室を出た後であったが……それが、荒野にとってよかったことかどうかは……かなり、微妙だった。
「……おれは……別に、構わないけど……。
 でも、本当に……おれの買い物は、つまらないものだよ……」
 荒野は、安藤瑞希の積極性をいぶかしみながらも、さらに、念を押す。
 ……これだけ荷物持ちがいてくれると、かなり買いだめができるな……とか、思いながら。
「……ええ。
 わたしたち、加納君に、本当に興味があるの……」
 安藤瑞希は、不敵、にも見える笑顔をみせた。
「……途中で、加納君のことを教えてくれると、うれしいんだけど……」
 安藤瑞希の言葉に、背後の女生徒たちが「うん、うん」とかぶりをふる。
「話せることと話せないことがあるけど……ご希望には、できるだけ、そうにするよ……」
 荒野は荒野で、自分たちの協力者や理解者を、一人でも増やしたい……と思っている。
「……その代わり、っていったらなんだけど、みんなでちょっと荷物を持ってくれたら……夕飯くらい、御馳走するけど……」
「……ええ……そんなの、悪いよぉ……」
 根本的なところでは噛み合っていないが、表面上は和やかなやりとりをしながら、荒野と安藤瑞希、その他大勢は、教室から出て行った。

 掃除当番その他の理由でたまたま教室に残っていた生徒たちは、荒野たちの姿が完全に見えなくなってから、いっせいに携帯を取り出してメールを打ちはじめた。

「よぉ。ネコミミのにーちゃん……なんだ、今日は……。
 ずいぶんとまた、大勢ひきつれて……」
「……いやぁ……。
 なんか、学校帰りの買い物つき合ってくれる、って、いってくれて……」
「おー。もてるなーネコミミ君。
 それに、今時、奇特だ子たちだ……大事にしろよ。
 じゃあ、こっちの白菜も、どうだ?
 漬物なんかにすると日持ちもするし、こんだけ買うとこんだけおまけするぞ……」
「んー……漬物かぁ……。
 先生ならうまいやり方、知っていそうだな……。
 ええと……あと、手が空いている人は……」
 その日、ゴスロリ・ファッションに身を包んだ女性たちでごった返す商店街の人込みを縫うようにして、食材を抱えて歩く制服姿の姿の一団は、かなり目だった。

「……あー。
 目標は、現在、全員お野菜やお肉の入ったビニール袋をたっくさんぶら下げて、商店街をでました。
 このまま、加納君自宅に向かう模様……」
 そこから少し離れた場所で荒野たちを見張っている集団があった。
 全員私服だが、やはり荒野の学校の生徒たちで、二年生と三年生の混成軍であった。推薦などの場合、すでに受験の苦労から解放される生徒もではじめる時期である。
 その女生徒たちも、荒野に注目するうちに次第に組織化された集団なわけだが、情報の伝達速度ではやはり同じクラス、同じ同学年に所属する地政学的な優位には敵わず、今日も、先に組織化された二年生の電撃作戦に先を越された形だった。
 現在、三人から五人に別れて荒野の後を追尾している集団は、当然の如くほとんどの者が日曜日の説明会に出席しており、目下のところ、荒野が置かれている窮状について理解をしめし、なんとか力になってやりたい……と、思っている。
 彼女たちは、表面的なルックスだけに引かれ、週末の騒ぎに乗じて荒野に近づいた二年生集団とは違うのだ……という自負を、持っていた。
 端から見たら五十歩百歩、という気もしないでなかったが、もちろん、彼女たちにその自覚はない。

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彼女はくノ一! 第五話 (137)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(137)

 香也たちと別れて一人で職員室により、職員たちの好奇の視線にさらされながら、邪魔にならないお気場所を尋ねる。職員室の隅の、物置き場になっている片隅に没収された武器を置いて、とぼとぼと自分の教室に向かう。
「……楓ちゃん、ニンジャなんだって?」
「違うよ、もとさん。ニンジャなのは、なのなのちゃんのお兄さんの方で、楓ちゃんは怖かっこいいお兄さんの子分。
 そうなんでしょ? 楓ちゃん……」
 教室に入った途端、さっそく、待ち構えていた牧本さんと矢島さんの二人に捕まった。
「……あは。あはははあは……」
 楓は、とりあえず、笑ってごまかしておいて、その時間でめぐるましく思考を回転させる。
 矢島の推測は……意外に、真相に近かったのだが、荒野からは「自分の正体は秘匿せよ」と命じられている。しかし、楓は今朝のポカで、自分が平凡な女学生ではないことを、自ら明かしてしまったようなもので……。
 そこで、楓は可能な限り自分の能力を低く見せる、という手段を選択した。
「わたしは……茅様の護衛、ただ、それだけの者です。
 加納様の足元にも及びません……」
 楓は、近くの席にすわっていた茅を指さして、そう答える。まるっきり嘘というわけでもないが……泥縄に近い対応だ……と、楓自身も、思う。
「やっぱり、関係者だったの……」
「転入して来た時期が一緒だし、家も近いし、それに、一緒にいること多いし……そんなんじゃないかなーって思ったけど……」
 矢島さんと牧本さんは、そんなことをいいあっている。
 二人だけではなく、教室内にいる生徒達も聞き耳を立てている気配を、楓は感じた。
「……ねーねー……。
 それじゃあ、さ……」
 牧本さんが、無邪気に尋ねてくる。
「……楓ちゃんも、二年の加納兄みたいなことできるの?
 二階とか三階の窓から飛び降りてって、びゅーんとすごい早さで校庭駆け巡ったり……」
「……そ、そなことは……」
 楓は視線をそらしながら、狼狽気味に答える。
「……できませんよ。で、できるわけ、ないじゃないですか……」
 視線が、泳いでいた。
 根が素直な楓は、嘘をつくことや駆け引きが、徹底的に、不得手だった。
「……ふーん、そっかー……。
 秘密にしろ、って言われている訳ね。
 そりゃ、そっか……昨日の説明会だと、この町や加納さんたちを狙っている悪者がいるってことだし、こっちの戦力普段からバラしても得なことないもんね……」
 何気に鋭い牧本さんだった。
 牧本さんが口にした憶測に、周囲にいた生徒たちまでが「……そういうことか……」と納得した顔をして、うんうん、頷きはじめる者の多い。
 楓は、落ち着きなくなって、きょろきょろあたりを見回しはじめた。
 助けを求めるように茅の方をみると、茅は、黒目がちの瞳をこっちに向けて、じっとなりゆきを見守っている。
『み、見てないで……助けてくださいよ~』
 楓は、内心で悲鳴を上げていた。
「……いいー! みんなー!
 そういうことだから、くノ一ちゃんは、普通の生徒だらねー。
 くれぐれも、特別扱いしないよーにー……」
 楓がわたわたしている間に、勝手に納得した牧本さんと矢島さんは、教室中に響くような大声で通達する。
「……わかったわかった!」
「公然の秘密ってやつだね!」
「いいか、松島がくノ一ちゃんだってことは、秘密だからな!」
「頑張れよ! くノ一ちゃん!」
 ……ここまでくると、単にノリがいいのかそれとも楓をからかっているのか、判断に困るクラスメイトたちであった。
『……こ、……これで……いいんだろうか?』
 楓は、こっそり冷や汗をかいた。

 その後の授業中は、取り立てて変わったことはなにも起こらず、平常どおりの授業風景が展開された。昨日、教員二名を含めた大人数に向かって荒野の正体が説明されているのだが、学校側のリアクションはほとんどなかったので、楓は拍子抜けするくらいだった。
 まぁ……生徒の一人が、現役のニンジャです……と、いきなりカミングアウトされても、なにも問題を起こしていない以上、特に問題視する必要もない……ということなのかもしれないし、あるいは、もっと単純に腰が重いだけで、それなりの動きをとるための意思統一が、教員の中でとれていないだけ……なのかも、知れない。
 さらにいえば、大清水先生や岩崎先生が、昨日知り得た荒野の周辺情報を他の教員たちに伝えず、自分たちのところで止めている……という可能性も考えられたが、生徒間でこれだけ公然とささやかれ、今朝、楓が証拠物件となりうる武器類を成す術もなく没収されているのだから、おそかれはやかれ、自分も含めた荒野の一党……関係者の処遇は、問題になるだろう……と、楓は推測する。
 仮に、平時に置いて、自分たちの存在は問題視されない……という決定がくだされたと仮定しても……そんなものは、無辜の一般人を平気で巻き添えにする敵、が、本気で攻勢をかけてきた時に、あっけなく反故にされるに決まっている……と、楓は、思う。
 荒野が再三、指摘しているように、「自分たちがこの場にいようとしなければ、この土地の人々が巻き添えを食らうことはない」のだ。
 そして、実際に巻き添えをくらった、第三者の被害者が出たとしたら……その時こそ、自分たちは、この土地にいられなくなるだろう。
 被害者自身、あるいは、被害者の身近な人々は……直接手を下した者と、そして、その災厄を呼び込んだ楓たちを、いっしょくたに憎む筈だった。
 理不尽だ……とは思うが、それが、人間の感情として、正常なありかた、である。
 つまり、楓や荒野たちは……自分たちは、ばかりではなく、学校の関係者や近所の人々の身の安全まで、確保し続けなければならない……それも、能力も人数も、いつ、どういう手段で襲いかかってくるのかもわからない、不明の敵から、半永久的に、かなり広範囲な人員を守らねばならないわけで……。
 いうまでもないことだが……これは、かなり分の悪い戦いだった。
 早期解決を望むとすれば……。
『相手を……敵を、こちらの手の届く範囲に、引きずり出すよりほか、ない……』
 こちらが疲弊するより前に、根本的な解決を図らないと……どんどん泥沼にはまって行くような気がした。
『……そのために、わたしにできることって……』
 ……なんだろう? と、楓は考えはじめる。
 戦力の増強と補給線の確保、の算段は、なんとかつきはじめている。地元との協調、ということに関しても、玉木たちの尽力のおかけで、今のところいい線いっていると思う……。
 その他に、足りないもの……といえば……。
 楓は、ふと、茅の席に目を向ける。
『……あった……』
 茅は……別段、クラスの中で孤立している、というほどえもないが……それでも、クラスメイトから、少し距離を置かれている。
 茅自身は、あまり気にしていないようだが……それでは、いざという時に……本気で身を案じてくれる人が、身内以外にいるのといないのとでは……やはり、違うのだった。
 これから先、なにがあったとしても……茅を、孤立させてはいけない……。
『茅様に……友だちを、つくる……』

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