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2006-10

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(99)

第六章 「血と技」(99)

 酒見粋は、現在の状況を分析する。
 わずか、数メートル上空に、狙撃者は陣取っている。しかし、そこは、周囲に足場の乏しい「電柱の上」であり、近寄るためのルートはかなり限定される。
 また、見渡しもよく、下から飛び上がるにしろ、真下から電柱を攀じ昇るにせよ、周囲の電線の上を伝って行くにせよ……。
『……火器を持っていれば、確実に、撃破できる……』
 ロケーション、だった……。
 狙撃者は……実に、「自分を優位に置く方法」を心得ている。
 容易に近寄れる場所なら……酒見姉妹を同時に相手にして無事でいられる者は、一族の中でも、かなり数が絞られてくる。
『……随分と、場慣れしているようだけど……』
 本当に、一族の関係者ではないのだろうか……と、粋は、狙撃者のことを推量する。
 確かに、あのようなライフル使いの噂は聞いたことがないのだが……外見上では、酒見姉妹より少し上にみえた。
 実際には、孫子の方が年下で、酒見姉妹が一学年上になるのだが、痩せていて背も低い酒見姉妹は実年齢よりも下に見られることが多く、大人びた孫子は、初対面の人間には、いくつか上に見られることが多い。
 だから、この年齢についての見当に関してだけは、酒見粋の予測が外れていても、決しておかしくはない。
 また、酒見姉妹は、荒事には秀でいていても、細かい調べ物は不得手とする。だから、「狩野家にたむろしている、幾人かの要監視対象者」についても、小耳に挟んだことはあっても、さして気にも止めず、その内実も詳しく知ろうとしなかった。
 酒見姉妹は、これで、物事を深く考えるのを、億劫に思い性向がある。問題があれば力ずくで解決しようとする傾向が強い。いわゆる、DQNというやつである。
 荒野が内心で警戒するのも、決して、根拠のないことではなかった。
 理性よりも本能で行動する酒見姉妹が、二人して、すぐそばまで近づきながら……最後の数メートルの距離を詰めることを、躊躇させる相手……それが、才賀孫子である。

 その頃、酒見粋の姉である酒見純は、思慮も策もなく、孫子の方に向け、前進し続けていた。
 もちろん、孫子は、相手が無防備だからといって、手加減をする性格ではない。容赦なく、スタン弾を、至近距離から純に浴びせかけた。
 十メートルにも足らない距離から、連射されるスタン弾の全てを、手にした山刀で捌ける訳もなく……逃げ場のない電線の上、ということもあって、足や腹に何発かのスタン弾を受けながら、純は、それでも前に進もうとする。
 狙撃者に取り付きさえすれば……何とでも、なる……と、純は思っている。
 一般人が相手なら……例え、相手が戦うことに慣れている人間であっても……自分たちの相手ではない、という、自信を持っている。
 あと数メートルの距離さえ、詰めることができれば……武器を取り上げるのも、身動きを封じることも……もし、抵抗が激しいようなら、抱きすくめて、そのまま地上に投げ出すことも、可能だ……と、酒見純は、思っている。
 そう思いつつ、体中にダメージを蓄積しながら……純は、じりじりと孫子のほうに近寄っていった。

『やっぱり、お姉様……』
 物陰からそっと頭上を……真っ正面から狙撃手に向かって歩いている純の姿を……見ながら、粋は、納得した。
 有効な作戦、なにも思いつかなかったんだな……と。
 力押し、一本槍、というのも、時には……というか、大抵の、並の相手なら……それでも十分に、用が足りるのだが……。
『……そもそも……それで対処できる相手なら……』
 ここまで、てこずってないし……と、粋は思う。
 例え、武装していたとしても……自分たちの二人の相手にして、ここまで長持ちさせている時点で、相手はただ者ではない……と、見なさねばならないのではないか……。
 姉は、酒見純は……警戒心が、足りなすぎる……と、酒見粋は、思う。
『……あれ、まだまだ……』
 奥の手の一つや二つ、隠していても、不思議ではないぞ……と、粋は、狙撃手……孫子について、予測をつけている。
 とか、思っていた矢先に……。
『……あっ!』
 粋は、心中で叫んだ。
「……お姉様……飛び越えて!」
 同時に、声に出しては、こういっていた。
 粋の角度からは……ゴルフバッグに入った狙撃手の片手が、弾倉ではないものを引き出したのを、認めたからだ。

「……お姉様……飛び越えて!」
 どこからか聞こえて来た粋の叫びを耳にした時、純は、反射的に、全身のバネを使って真上に跳躍している。
 粋が、それだけ逼迫した声を出すのは、よほどのこと……というのは、後からつけた理屈であって……この時は、ただ……。
『……危ない!』
 とだけ、思った。
 本能的に跳躍しながら、純は、狙撃者が、ゴルフバッグの中から取り出した無骨な物体を、視認する。
 散弾銃……それも、銃身を詰めた、ライアットガン……に、みえた。
 ライフルとは違い、近距離でしか効果は望めないが……代りに、近距離なら、比類ないストッピングパワーを持つ。
 あんなもの、まともに食らったら……身体の何割かが、間違いなく、ミンチになるだろう……。
 散弾が相手では、ライフル弾のように、一発一発視認して、弾丸を弾く……ということも、不可能だった。
 しかし、狙撃者は、その剣呑な武器を、粋の声がした方向に向け、跳躍した純には、ライフルを向け、同時に、引き金を絞った。
 狙いをつけて……というよりは、明らかに、威嚇であろう。
『……このっ!』
 しかし、殺傷能力が高いライアットガンの銃口を妹に向けられ、純は、瞬時に頭に血を昇らせる。
 おそらく何も考えずに、手持ちの武器を、片っ端から、狙撃者に向け、投げ付けた。
 山刀、手裏剣、六角が、立て続けに狙撃者に向け、飛んでいく。しかし、今まで、狙撃者の銃弾をさんざん弾いてきた衝撃で、純の方ももいい加減、まともな握力もない状態だったので……当然、勢いは、ほとんどなかった。
 狙撃者は、純が放った投擲武器の数々を、冷静に避けたり手にした銃器で弾いたりする。
『……それでも!』
 酒見純は、無事、着地した。
 ほとんどの武器を失い、両手はほとんど力が入らず、足や胴体にも、数え切れないほどのダメージを受けている。
 もはや純は、客観的にいって、「戦力外」といっても、いいすぎではない……。
『……それでも!』
 純は、粋がいった通り、狙撃者の頭上を飛び越え、こうして無事、立っている。
 狙撃者との距離は、二メートル前後。
 一気の飛びつける距離であり……。
 純は、自分の頬が緩むのを、懸命に自制しなければならなかった。
 狙撃者のすぐ後ろには……酒見純が注意を逸らした隙にはい上がってきた、酒見粋が、立っている。
 狙撃者は、まだ背後に出現した人影に気づいた様子はないし……粋は、純とは違い、無傷のままだった。
『……酒見姉妹とやりあって……』
 純は、何の目算もなく、狙撃者に突進した。
 狙撃者がライアットガンの銃口を純に向けるが、避けようともしない。
 いや、むしろ……粋に銃口をむけられるよりは、こっちに銃口を向けられた方が、都合が、いい。
 狙撃者は、躊躇せず、ライアットガンの引き金を引いた。

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彼女はくノ一! 第五話 (182)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(182)

「……あー……」
 結局、孫子は、夕食が済んで片付けをしているところに帰って来た。
 ……おまけをつけて……。
「……ちぃーす……」
 荒野が、肩にかついでいるのが一人。
「ゴスロリ子ちゃんが一人……」
 出迎えた羽生は、とりあえず、指さしながら、数えた。
 せっかくのコスチュームをボロボロにしている孫子。その表情は、何故か晴れやかだった。
「ゴスロリ子ちゃんが二人……」
 もう一人、孫子が抱えて、いるゴスロリ少女がいた。ぐったりと全身の力が抜けている。
「ゴスロリ子ちゃんが三人……」
 荒野を除く三人は、孫子も含めズタボロで……。
「……カッコいい、こーちゃん……また、か?」
 羽生が、尋ねる。
「また、です。
 今度は夕日をバックに……では、なかったっすけど……」
 荒野も、どこかあきらめの入った表情で、頷く。
 ……猫の子じゃないんだから……新しいのが来たからって、片っ端から喧嘩してんじゃないよ……と、羽生は思った。
 ……こんな時、真理ならどうするかなぁ……と少し考え、羽生は、
「……とりあえず、お風呂、直行……」
 孫子に向かって、風呂場のある方を指さして見せた。

 風呂場の直前まで、荒野は担いで来た子を運び、孫子も、それに続く。孫子と他の二人はそのまま風呂場に入って行き、荒野は、居間に戻って来た。
「……でえ、どうなん? あの子たち、新手?」
 居間に残っていた人々を代表して、羽生が荒野に質問をする。
 居間には、夕食後、さっさとプレハブに引っ込んだ香也以外の全員が、興味深々、といった様子で荒野の返答を待ち構えている。
「……ええ。まあ……。
 移住組です、けど……詳しいこと聞く前に、才賀がはじめちゃったもんで……。
 ちょっと聞いた所では、普通の女の子としての生活がしたいとかで……」
「……ふつーの……」
 羽生が、感慨深い顔をする。
「……ソンシちゃんの叔父さんと、気が合いそうだなぁ……」
「……後の詳しいことは、当人たちとか、才賀のヤツに聞いてください。
 悪いですけど、もう一人、来客がいるもんで……一旦、帰ります……」
「……お客さん?」
「こっちは、あの二人とは違って、結構大物です。
 今、茅と一緒に食事作っていますが……食事が済んだら、本人に確認してみて、こちらにも挨拶に来ますか……」

 荒野が帰ると、居間に残った人々は騒然とした。
「……ゴスロリが……当社比、三倍……」
 羽生譲は、難しい顔をして、しょーもないことをポツリといった。
「あ! ……それよりも、あの人たちの着替え! 着ていた服は、ボロボロだったし……」
 楓は楓で、生活感のあり過ぎる心配をして、パタパタと足音を立てて居間を出て行った。
「……今度の人達は、強いのかなぁ?」
 ガクは、首を捻っている。
「あの二人はともかく……もう一人は、かのうこうやが大物っていうくらいだから……相当なものなんじゃあ……」
 テンが、ガクの言葉に答える。
「……そっかぁ……じゃあ、その、大物の人に、稽古つけてくれるように、頼んで見るかなぁ……」
「……その前に、ガクは、怪我の方をしっかり直せよ……」
 腕組をしてそんなことをいいはじめるガクに、テンが、突っ込みを入れた。
「……傷、もうだいたい、塞がっているんだよね……。
 明日診てもらって、お医者さんがいいっていったら、それでもう通わなくていいって……」
 ガクは、にへら、っと笑った。
「……今まで、フラストレーションが溜まっているからなぁ……これで完全に直ったら……もう……」
 ガクが、くすくすと気味の悪い笑い声をあげはじめる。
「……また、無茶をして……すぐに、怪我するなよ……」
 テンは、ガクから目をそらす。

 しばらくして、孫子たち三人が風呂から上がった頃、荒野が茅とサングラスの女性を伴って、再度尋ねて来た。
「……ど、どうも。は、はじめまして。
 の、野呂、静流なのです……」
 玄関先で頭を下げる女性。年齢は……羽生譲と、同じくらいだろうか?
「……のろ、っていうと……年末の帽子のおにいさんと同じ姓だな……」
「……ぼ、ぼうし?
 り、良太のおにいさんが、こちらに来たのですか?」
 静流、と名乗った女性が、荒野の方を見る。
「……ああ……年末に、様子を見に来た。
 それと……売り込みだな……自分を傭えって……。
 そういや、一族の関係者でこっちに来たのは、のらさんが初めてだ……」
 荒野がそう答えると、
「……お、おにいさん、らしいのです……」
 その女性は、感慨深げな表情を作って頷いた。
「失礼ですが、あの帽子の方と、ご兄弟か、なにかで……」
「きょ、兄弟ではないですけど……と、遠い親類で、一時期、一緒に育てられていたのです……」
 羽生は、「あ。そうっすか……」とあっさり頷いて、中に入るように勧めた。
 ティーセットの箱を抱えたメイド服姿の茅が、とことこと静流の脇を通って、台所の方に向かった。
 荒野は、
「……ほれ、お土産……」
 と、マンドゴドアの箱二つを、テンとガクに手渡す。一つは学校からの帰りに、荒野が持ち帰ったものの、残り。もう一つは、双子を回収にいき、この家に送り届けた帰りに、ひとっ走り取りにいったものだ。
 荒野が、
「今日は二度目だし、売れ残りを適当に包んでください」
 と注文すると、マンドゴドラのマスターは複雑な笑みを浮かべた。

 静流も良太も、野呂本家の英才教育組だった、というわけだ。野呂本家は、素質がありそう子供は、かなり早い段階で一カ所に集めて、徹底的に仕込む。そして、成人した後の行き先は、本人の意志を優先させ、当人がフリーになることを望めば、あっさりと手放す。それでも、なにかと優遇されるので、あえて野呂の為に働くこと選択する者は、少なくはない。
 また、良太のように「組織の一員」であることを選択しなかったが、その後の働きで名を馳せる、結果として「野呂」の名をアピールし、そのイメージを強くした者も、決して少なくはない……。
 テンやガク、茅や孫子などもその辺の事情には、真理通じてはいない、と思い、荒野は、炬燵に当たりながら、羽生に答える形で、少し詳細な説明をした。
「……で、こちらが、その野呂のお姫さまで……あのお兄さんが、傍流だけど見所があるってことで、本家で一緒に教育を受けた人、なわけか……」
 羽生は、素直に感心した。
「……ニンジャの世界も、いろいろあるんだな……」
「お……お姫様、というのとは、ぜ、全然違うのです……」
 静流は、弱々しく抗議する。
「本家の出だから、っていうだけで、大事にされる程、甘い世界ではないのです。
 それに……わ、わたし……これ、だから……」
 そういって、静流は、コツコツと、自分のサングラスを指先で叩く。
「でも……その、それでも……英才教育を受けたってことは……ハンデを跳ね返すだけの、凄い才能をもってたってこと……なん?」
 羽生が、何げない口調で、するいどい指摘をする。
「……近距離の、女帝……」
「……最速……」
 それまで会話に参加せず、借り物のパジャマ姿で濡れた髪の手入れなどをしていた、酒見姉妹が、同時に呟く。
「……はぁ……これで、二つ名の姉さんなのかぁ……」
 羽生譲が、楽しそうに静流の方をみた。
「最強の二宮と、最速の野呂……。
 師匠と並んで、当代の血統を代表する、術者といっても、いいかと……」
 楓が、深々とため息をついた。楓のいう「師匠」とは、当然の事ながら、荒神を指す。また、静流ほどの有名人ともなれば、楓のような下っ端にも、名前は聞こえてくる。
「加納様……この町、本当に……どうなっちゃってるんでしょうね……」
 加納荒野、二宮荒神、野呂静流……六主家のうち、三家の本家筋が、一度に同じ土地に住むことになる……なんて……考えてみなくとも、十分に、異常なことといえた。



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(98)

第六章 「血と技」(98)

 囮役の少女は、果敢だった。
 ライフルを連射する孫子に向かって、臆することなく、真っ直ぐに向かってくる。
 姿を隠しているもう一人の少女を、完全に信頼している。それに、度胸がある……とはいっても、自分に向けて銃弾を連射する向かって、数百メートルの距離をほぼ直線上に向かってくる、無謀と紙一重の蛮勇は……。
『……嫌い、ではない……』
 と、孫子は、判断する。
 しかし、孫子は、手加減しない。
 囮役の少女に向け、立て続けにスタン弾を打ち込みながら、孫子は、神経を尖らせてもう一人いる筈の少女の姿を探し求める。かといって、囮役の少女からも視線を外すことはできないので、孫子にとってはなおさら、神経をすり減らす状況だった筈だが……孫子は、うっすらと微笑んでいる。
『……ここには……』
 楓といい、この少女たちといい……。
『手加減をしなくともいい方が、いっぱい……』
 孫子は流れるような動作で弾倉を取り替えながら、囮役の少女を狙撃し続ける。
 狙撃しやすい体幹部を狙っているし、相手はどんどん近づいてくるのだから、孫子の腕なら外しようがないのだが……孫子が送り込んだスタン弾は、ことごとく、「手動」で弾かれている……らしい。
 それでも、腕や肩にはかなりの負担を与えている筈だし、体力の消耗も強いているから、まったくの無駄ではない。
 最悪、これから「二人同時に」相手にしなくてはならない事態が来ることも、可能性としてはありえるわけで、であるとすれば、孫子としては、少しでも相手を損耗させておきたいところだ。
 だから、孫子は、囮役の少女に対する攻撃の手を、緩めない。
 その少女は、すでに顔の細かい部分まで、判別できる距離に近づいていた。と、いうことは、もう一人の少女の方も……すぐそこに、いてもおかしくないわけで……。
 微妙な気配を感じ取った孫子は、不意に、ライフルの銃口を下に向けて、放つ。
『……そこ!』
 いた。
 すぐそこの、塀の脇から、顔を出している。
 しかし、孫子の放ったスタン弾が届く前に、顔を引っ込めた。
『やはり……近親者?』
 そんなことを思いながら、孫子は、銃口をすぐに、囮役の少女の方に引き戻す。
 その一瞬だけ顔を覗かせた少女と、囮役の少女は、呆れるほど似通った目鼻立ちをしていた。姉妹か……せいぜい、従姉妹、といったところだろう。
 人数が多く、血がかなり拡散しているとはいえ、六主家は、血族集団だ。近親者で組んで仕事をしているパターンも、多いに違いない……と、孫子は推測する。
 そうこうするうちに、囮役の少女は、もうかなり孫子に近づいている。
『予想よりも……早い……。
 野呂系?』
 そんなことを思いつつ、孫子は、引き金を絞りつつける。
 いずれにせよ……。
『ここからが……』
 本番ですわ……と、孫子は思う。
 この一戦で……孫子が、術者を相手にして、戦力になるのかどうかが、明瞭になる……。
『……お手並み、拝見……』

 当然のことだが、狙撃者との距離が詰まるにつれ、それを弾く酒見純の負担も、強くなってきた。それでも純は、狙撃者に向かってまっしぐらに進むことを、やめない。
 しかし……。
『……あっ……』
 間近に、あと二十メートル強、という距離にまで近づいて……純は、狙撃者の立ち位置が、巧妙に考えられたものであることを、知った。
 まず、近場に、それ以上高い場所がない。
 高所を押さえている……ということは、遠投/射出武器の使い手を、かなり有利にする。重力の助けを借りられるからだ。射出した物体には重力エネルギーが加わり、そこに押し寄せようとする者は、逆に、そこまで昇っていかねばならない。
 孫子の立っている変電器の上、は、ただ高い……というだけではなく……周囲から、孤立していた。
 あそこに近寄ろうとするのなら……電線の上を伝っていくしか、道がない。
 しかし、そうすると……今度は、至近距離から、狙撃者に狙い撃ちにされる、ということであり……。
『……せっかく……ここまで来たのに……』
 純は、口惜しさに奥歯を強く噛みしめる。
 あまたのスタン弾を弾いてきた純の腕は……すでに、感覚がない。かろうじて投擲武器を投げることはできても、微妙なコントロールは望めそうにない。
 二十メートル、というのは……熟練者が扱う場合でも、手裏剣や六角などの有効射程距離、ギリギリだ。熟練者でなければ、そこまで離れれば命中させられないし、まぐれで命中することがあっても、たいしたダメージは期待できない……。
 その狙撃者は……「距離」と「高度」という地の利を考慮し、そのポジションを、要害と化している。
『……粋は?!』
 純が、そう思った時……狙撃者が、銃口を下に向けた。

『……わっひゃぁ……』
 急いで顔を引っ込めた粋は、心中で、舌を巻く。
 様子見で、ちらりと顔を覗かせただけで……途端に、銃撃された。
『あの子……とんでもなく、勘がいい……』
 ちらり、と見えた狙撃者の姿を思い返しながら……。
『……ひょっとして、一族?』
 粋は、そんなことを、思い、それから、自分の想像を、慌てて打ち消す。
 あんな変わり種が一族にいたら……絶対に、噂が広まっている筈だ。
 スカート姿で、涼しげな瞳をした狙撃者は……引き金を引くその瞬間も、微笑みを浮かべていた……ように、粋には、見えた。
『……あの子……』
 粋は、高速で思考を回転させる。
 あの狙撃者は……。
『……予想以上に、難物かも……』
 力押しでなんとかできるような、単純な相手ではない……と、いう気が、ひしひしとしてきた。
 少なくとも、酒見姉妹がこれまでに見聞してきた、どんなパターンにも該当しない、敵であることは確かで……。
 だからこそ、反応も対策も、考えるのが難しい……。
『……お姉様……どうしましょう?』
 ここから、攻撃が有効に作用する距離まで近づくのでさえ……かなりの苦労を強いられるのではないか……という、かなり確実な予感を、この時の粋は持っていた。




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彼女はくノ一! 第五話 (181)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(181)

 孫子が一番知りたかったのは、自分の視力が、現役の術者にどれほど通用するか、ということだった。
 囮役の少女は、今の所、孫子に対して自分の姿を意図的に晒している。だから、孫子も、申し訳程度に牽制の銃弾を送る程度にしている。それでも、若干の足止めくらいにはなっている筈なのだが……囮役の少女は、器用にベランダの手摺りなどを足場し、マンションの壁面伝いに、地上に降り立った。
 より正確に言うのなら、マンションに隣接した家屋の屋根に。
 その少女は、屋根の上を軽快な足取りで、孫子のいる方向に、真っ直ぐに疾走してくる。囮役であるから、物陰に隠れようともしていない。
 問題は……荒野のマンションから姿を消したままの、もう一人の少女だ。
『……さて……』
 孫子は、油断なく周囲に気を配りながら、突進してくる少女に向け、弾倉を何回か替え、次々とスタン弾を送り込む。徳川の工場でバックアップ体制を確立してあるので、弾数に不安はない。
 囮役の少女は、孫子が打ち込んだスタン弾を片っ端から器用に無骨な得物で打ち払いながら、速度を緩めずに突進してくる。
『どう……歓迎してあげましょうか……』
 ゲームのルールは簡単だ。
 彼女たちがここに来るまでに、孫子が彼女たちの戦意を喪失させれば、孫子の勝ち。そうできなければ、孫子が彼女たちにタコ殴りになり……そして、以後、実戦の場に出ることを、控える。
 ……足手まといになると分かっていながら、荒野や楓にまとわりつく……というのは、孫子のプライドが許さなかった。
 孫子は、囮役ではない、もう一人の少女の出方を予測する。
 物陰に隠れ、気配を押し殺して、そっと孫子に近づいてくる……というのが、セオリーだ。
 一息に孫子に飛びつける場所まで近寄ることが出来れば……囮役の少女と連携して、孫子に襲いかかってくるだろう。
 つまり……。
『……もう一人の少女の接近に気づくか……囮役の少女を、事前に撃破できれば……』
 孫子の勝率は、かなり高くなる。
 二対一で近接戦……ということになると、ただでさえ身体能力では見劣りする孫子は、ますます分が悪くなる。だが、一対一で、銃器を手にしている状態なら……まだしも、やりようがあった。

『なんで……隠れない? 移動しない?』
 孫子が心中で「囮役の少女」と呼んでいる、酒見純は、電信柱のてっぺんに棒立ちになったまま、自分に銃口を向けている孫子の態度を不審に思った。
 こちらが遠距離用の武装をしていない……という予測をしているのは、理解できたが、まるで姿を隠そうとしないのは……どうにも、附に落ちなかった。
『……まるで……誘い込んでいるような……』
 酒見純は、不審に思いながらも、次々と打ち込まれてくる弾丸を山刀で弾きつつ、刻一刻と孫子に近づいていく。
 不意をつかれた初弾こそ、まともに受け止めてしまったが、真っ正面から飛んでくる弾丸を横合いからはじき飛ばすことは、純にとってもさほど難しいことではない。受け止める、のではなく、横合いから弾く、のであれば、腕に受ける衝撃も少ない。それでも、初弾の衝撃がまだ腕に残っているから……投擲武器など、指先の微妙な運動が必要となる攻撃は、不可能だった。
 仮に、あの狙撃者……孫子に、肉薄したとしても……純にできるのは、力任せに不器用な攻撃を行うこと、くらいだ。
『……粋……』
 だから、純は、故意に姿を晒して、囮役を演じている。
『わたしが……気を引いているうちに……』
 あの狙撃者を……。

『……ったく……あの狙撃者も……お姉様も……』
 酒見純は、苦労して気配を消し、物陰に身を隠しながら、地上を、路地裏を走っている。
『……二人とも!』
 まっしぐらに狙撃者を目指している純に比べ、姿を隠しながら、道に沿って、走っている粋は、どうしても遅れがちになる。そのタイムラグを少しでも短縮しようと、粋は、汗まみれになりながら全力疾走をしていた。
 狙撃者……孫子に居場所を気取られないように気をつけながら……だから、神経を使うし……なおさら、疲れる。
『……自分に……酔いすぎ!』
 そもそも……あの狙撃者は、かなり芝居がかっている。
 粋は、わざわざ荒野や野呂静流と一緒の時に攻撃してきたことからも、単純な「敵」ではない……と、予測していた。
 現在、狙撃者が一箇所に、それも、これみよがしに、分かりやすい場所に陣取って、純を攻撃している……という特殊さ、を考えてみれば……狙撃者の目的が、自分たちの撃破にはないことは、容易に想像できる筈なのだ。
 敵の目的は……自分たちを撃破すること、ではなく……自分たちと、敵対すること、そのもの、だ……と、粋は、想定している。
 だとすれば……敵の思惑に、乗らない……。挑発や、攻撃を、ことごとく無視する……というのが、敵に一番ダメージを与える方法なのだが……。
『……もう!
 お姉様ったら!』
 だが……最初に攻撃を受けたことで、すっかり頭に血が上っている純は、そうした簡単な想像力さえ、発揮できない状態にあるらしい。
 いや、今では……。
『……お姉様……自分が盾になる、とか……ナルシスト・モードに……』
 すっかり没入している可能性が……高い。
 こうなると、この茶番を止めるのは……比較的、現在の状況を俯瞰できている、自分だけ……と、粋は思う。
『……それに……』
 粋はようやく……狙撃者、の姿を、間近に捕らえる位置に、到達した。
 狙撃者は、純の方に向けて、ライフルを連射していて……どうやら、粋の存在は、まだ感知していないらしい。
『もう少し……近寄らないと……』
 狙撃者の……ファッション・センスは、なかなかのものだ。服のセンスと着こなしだけは、手放しで称賛してもいいと思う。
 ……他人を狙撃する時に、わざわざああいう恰好をする神経は、粋にも理解出来なかったが……。
『腕は……確か、か……』
 ライフルを連射する姿勢に、隙、がない。
 粋の視界に入ってからも、何回か弾倉を取り替えているが……その動作は、スムースだ。弾数にも、かなり余裕があるらしい。
『……腕利きで、弾数にも余裕がある、スナイパーが相手……』
 二人がかりでも、厳しい戦いになりそうだ……と、粋は、覚悟を決めた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(97)

第六章 「血と技」(97)

「……なんじゃこりゃぁあ!」
 酒見純は、思わず、罵声を上げて飛び起きた。
 それから、再度狙撃される可能性に思い当たって、姿勢を低くしたまま、ベランダの方に向かう。
 妹の粋も心得たもので、純の意図をすぐに察知すると、玄関の方にかけだした。
 荒野はベランダで電話中だし、野呂静流はのほほんとお茶を飲んでいる。しかし、この二人は術者としても別格だ。表面的な態度のみをみて、外見通りにリラックスしている、とのみ解釈するのは、間違っている。いや、見た目の通り、リラックスはしているのだろうが、この二人の域までいくと、他に注意力を分散していても、銃弾くらい、鼻歌交じりに弾いてしまう。
 六主家の本家筋の者、全員がことごとく優秀な資質を備えるわけではない。しかし、優秀な、桁外れの能力を持つ者を多く排出しているのもまた事実であり、この二人はその生きた実例だ。先天的な資質の良さに加え、鍛え方も、並ではない。特に荒野など、若輩ながら、あの「最強」の一番弟子として認められた者、なのである。
 比較して……自分たちは、違う。
 資質も……二宮のパワーと野呂のスピードを兼ね備える……といえば聞こえはいいが、いい方を変えると、どっちつかずで、どちらにも突出していない……ということになる。
 筋力にしろ、反射神経にしろ、流石に「並の術者」よりは、よほど上回った性能を持ってはいる。が、自分たち以上の能力を持つ者など、一族内部には、ごろごろいる。
 だから、酒見純と酒見粋は……自分たちのアドバンテージを作ろうと、必死に努力し、工夫を重ねた。両親から、異なる体系の体術を同時に習い、自分たち用にカスタマイズし、「双子」という利点を生かした立ち回りを、練習し体に染みこませた。

『この暗さの中で……狙いが……正確』
 ベランダの手摺り伝いに階下に降りていきながら、酒見純は、「狙撃者の腕と判断力は、確かだ」と観察する。日が落ちているのにもかかわらず、純が嫌がる場所に、的確に弾丸を送り込んでくる。そもそも、純の動きを観察し、行く手を予測しながら、手がかりや足がかりになりそうな場所ばかりを狙う、という「いやらしさ」だ。
 暗くて視認しにくい弾丸をようやく見極め、それを避けながら、純は、わざと狙撃手に自分の体を見せるようにして、階下へ階下へと移動していく。
 先ほど、弾丸を受け止めた際の衝撃で、握力が半ば効かなくなっている。
 純が、あえて囮役を買って出たのも、今の自分が狙撃手の目の前まで迫ったとしても、その後、果たして互角以上に争えるか否か、自信がなかったからだ。
 自信がない以上、粋を狙撃者の元に送り出すまでの、粋の盾……に、なりきったほうが、狙撃手を撃破する可能性も高かまるように思える。
 そして……別ルートで狙撃手の元に向かっている筈の粋も、そのことは、分かっている筈、だった。

 酒見粋は、姉の純とは違うルートを辿っている。
 玄関から共用廊下に飛び出し、非常階段へと向かう。狙撃手がいる方向からは、粋の姿は確認できない筈、だった。狙撃手が単独かどうかも今の時点でははっきりしていなかったが……チームを組んで包囲している、という可能性は低い……と、粋はみている。
 根拠は……同じ部屋にいた荒野と野呂静流の態度に、あまりにも緊張感が欠けていたからだ。
 もし、狙撃手(と、いるかどうか分からないその仲間)が、無差別に包囲殲滅を図っていたのだとしたら……あの二人も、何らかの動きを見せているべきで……それがない、ということは、これは……実戦、ではないのだ……と、粋は結論する。
 それも……二人の落ち着きぶりを思い返せば……あれは、どうみても「他人事」という態度だった。つまり、狙撃手の狙いは……自分たち、だけ……という可能性が、濃厚……。
 手っ取り早くいうと……狙撃手に……。
『……遊ばれて……いる?』
 この結論が、一番妥当だ……と、粋は考える。
『でも……純ちゃん……』
 頭に血が昇っているんだろうなぁ……と、粋は、予測する。
 なにより、直接弾丸を受け止めたのは、純である訳だし……。
『今頃……純ちゃん……自分が盾になって、突破口を作ろうとかなんとか……悲壮なこと、考えているに……』
 違いないのだ。
 産まれた時からともに育った姉妹であるだけに、思考パターンは、手に取るように分かる。
 一卵性双生児で、産まれてきた順番などあまり意味がないだろうに……純は、いつまでも「姉」であろうとする所がある。その癖、思慮が浅くて、頭に血が昇りやすい……。
『……その点は、自分も、あまり変わらないか……』
 粋は、スカートの中からごつい山刀を取り出す。
 この山刀を握る時の、ずしり、とする感触は、酒見姉妹を安心させる。

 山刀……重量と本来の機能でいえば、「刀」ちょいうよりも「鉈」に近い。が、形状は、ナイフだ。刃はついているが、「一応」という気休めでしかない。斬る、というよりも、重量と薙ぐ時の勢いで、ダメージを与える。本来は、人里離れた野山を進むとき、枝を払いながら進むための「道具」であって、「武器」でさえない。しかし、姉妹はこの山刀を「凶器」として愛用している。
 酒見姉妹は、外見は華奢でか細い。が、二宮の血が入っているので、そこいらの成人男性も及ばない筋力を持っている。ので、重い山刀も軽々と扱える。体自体が小さいので、ウェイトでは、大抵の相手に負けるが……この山刀を振り回せば、その不利もある程度は、埋められる……。
 また、山刀の質量は、純が、先ほど孫子のスタン弾を受け止めたように、防御にも役に立つ。山刀は、分厚い鉄板でもある。

 孫子はライフルを抱えながら、二人を、酒見姉妹を待っている。今回は、二人を迎撃することが目的だから、孫子は狙撃時のセオリーをあえて無視していた。
 本来なら、一発射出する度に移動し、狙撃場所を変え、居場所を悟られないように努めなくてはならないのだが……孫子は、「そこ」で二人を待っていた。
「そこ」……マンションからは、直線距離で三百メートルほどの、電柱の……変電器の、上……だった。
 荒野のマンションが狙える高所……というと、こんな所しかなかったのだ。
 電柱の上で、リボンやフリルをふんだんにあしらったドレスを纏った孫子が、ライフルを構えながら仁王立ちになっている……という様子は、傍目にはかなりシュールかつ滑稽な光景であったが……幸か不幸か、目撃者はいなかった。周囲は住宅地であまり背の高い建物がなかったし、すっかり日が暮れた中、電柱の上を見上げて歩いている者もいなかったので。
 仮に、その時の孫子の姿を見かけた者がいたとしても……あまりにも、非現実的な光景に、「……これは幻覚だ、これは幻覚だ……」と、自分に言い聞かせるに違いなかった。




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彼女はくノ一! 第五話 (180)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(180)

『……挨拶が、命中するって……』
 楓は、耳から離した携帯を、まじまじとみる。
 荒野がいうことだから、比喩とか詩的な修辞ではない……と思う。
 そして、先程孫子が肩にかけていたゴルフバッグのことを思い出す。孫子がやりそうなこと、と……「命中」という単語は、妙に似合い過ぎて怖かった。
『……命中っていっても、撃たれた方も、ただで済ませるタマじゃあないから……。受け止めたはいいけど、着弾の衝撃までは殺す余裕なくて、派手にすっころんでたけどな……。
 それでも、予告なしに狙撃されて、とっさにそれを受け止められたのは、上出来だ……』
 電話の向こうでは、荒野が淡々と「向こう」の情景を中継している。荒野のその声には、呆れと感嘆が半々に入り交じっているように、聞こえた。
「……えっとぉ……」
 楓は、おそるおそる、自分の想像を確かめてみる。
「つまり、才賀さんが、そちらの客さんを、狙撃して……お客さんがそれを自分で防いだ……」
『……客は客でも、どちらかというと招かれざる、のほうだけど……あ。今、二人して、外に出て行った……。
 遠距離射撃が可能な相手と、あの二人、かぁ……。
 どうやって才賀の懐に飛び込むか、という勝負だなぁ……』
 荒野の背後から、『……わ、若い方は、元気なほうが、よろしいのです……』という少しい遠い女性の声が聞こえてきた。その声も、どう聞いても、年寄りの声ではなかった。
 出て行った二人と合わせて、どうやら、荒野のお客さんは、三人以上いるらしい。
『……あ。茅が帰って来た。おかえり、茅。
 今、ヒラヒラな、才賀みたいな格好をした二人とすれ違ったろう?
 あれが、例のアレで……。
 で、こちらが野呂……』
「……加納様!」
 楓が、少し語気を強くする。そのまま止めなければ、荒野はそのまま日常的な挨拶とか世間話を延々と続けそうな気がした。
「その……ほっといても、大丈夫なんでしょうか?」
『え?
 ああ。あいつらのことか。
 大丈夫だろ、多分……。
 才賀もあの二人も、多少、特殊な育ち方をしたから……あー。不器用で、お友達を作り方を良く知らないだけだよ。
 せいぜいやり合って、五分か十分後には、みんなくたくたになる筈だから、またその頃に拾いにでもいくさ。
 第一……お前と才賀だって、似たようなもんだったじゃないか……』
 そう事実を指摘されてしまうと……楓としても返答に困るのである。
「……で、では……その……」
『ああ。
 そのまま、放置しておいていいよ。頃合いをみて、おれが拾いに行くから……。
 いくらもたたないうちに体力使い果たして、そこいらでバテて静かになるだろ。
 お前は、そっちでいつも通りにゆっくりとしていていい……』
 そういう荒野の声には、どことなく達観した響きがあった。

「……で、孫子ちゃんの分のご飯は、結局後でいいの?」
 みそ汁の入った鍋を居間に運びいれながら、羽生が、楓に尋ねる。
 楓が荒野と電話している間に、夕食の準備はすっかり整っていた。
「ええ……。
 遅れることは、遅れそうですけど……」
 楓は、結論だけを伝える。
「……後で……。
 ボロボロになって帰って来そうな気も、ひしひしと、しますが……」
「カッコいいこーや君が、援軍や手助けいらないっていうんなら、多分、大丈夫だろ……」
 なんとなく事情を察した羽生は、したり顔で頷く。
 羽生は、楓よりは「外野でいる」という立場に、慣れている。楓たちとは違って、能力的に「当事者でいる」という選択肢がない。
「……お風呂くらいは、用意しといた方が、いいかもしれないけどな……」
「もう沸いているところだから、ちょっと湯加減、みてくる……」
 ガクが、風呂場に向かった。
「ま。
 孫子おねーちゃんも馬鹿じゃないし、やばそうな相手なら、こっちに救援要請してくるよ……」
 テンが、心配そうな顔をしている楓に、そう告げる。
「……それに……孫子おねーちゃん、出て行く時、すっごく楽しそうな顔をしていたし……孫子おねーちゃんのお楽しみを邪魔しちゃあ、いけないよね……」
 なんだか悟ったようなことを、いう。
「……疲れたら、すぐに帰ってくるって……」
 羽生も、その後に続ける。
「それよりも、ご飯が冷めないうちに、食べちゃお……」

 そのころ孫子は、すっかり迎撃準備を整えていた。
 商店街で荒野といっしょにいるところを目撃しされた三人のうち、扱い易い者を挑発して、こちらに向かわせる……という孫子の目的は、今のところ、滞りなく実現させている。
 孫子の目的は、大きく分けて二つ。
 まず、新参者の実力を確認する。
 次に、現在の孫子が、どこまで現役の術者に通用するのか、確かめる……。
 孫子にとっては、特に二番目の目的が、重要だった。現在の孫子が、一族に対して無力だ……ということになれば、孫子は、楓や荒野たちのバックアップに専念するつもりだった。
 多少、シルヴィから一族の術や技について手ほどきを受けたとはいっても……やはり、長年習練を行って来た術者には、かなわない。しかし、かなわないならかなわないなりに……それ以外の技術と組み合わせれば、なんとか凌げる場面もでてくるのではないか……と、孫子は思っていた。

 実験が成立するための用件は、以下の通り。
 被験者には、本気でこちらに向かって来てもらわねば、ならない。
 実戦を想定した試験でなくては、意味がないからだ。
 次に、被験者は、そこそこ強くなければならない。
 楓や荒野のように、平均を遥かに抜きん出た存在でも困るが、四人組のような鍛練不足も、また困る。
 適度な練度と実力を持ち、しかも、大きく他を凌駕するところの少ない術者……そのような条件を勘案しながら、孫子は、しばらくスコープ越しに二百メートル以上離れた場所から荒野のマンション内の様子を伺っていた。
 三人の来客者をしばらく観察して、そのうち、若い二人組を被験者として選択した。この二人のうち、どちらか一方を、挑発する。その結果、二人同時に相手にすることになっても、構わない。
 これだけ距離があれば、もちろん話し声は聞こえないが、それでも窓越しに見える各人の挙動から、それなりに多くの情報を読み取ることができる。
 もう一人、やや年長の女性もいたのだが、こちらは、サングラスをかけて白い杖を手にしている。加えて、荒野も、他の二人よりは、よっぽど丁寧に接しているように見受けられる。
 特殊な術者か、一族内部でも一目置かれている存在……である可能性が、高かった。
 孫子の実験には、あまり特殊な存在を相手にしても、仕方がないのであった。

 観察を終え、ターゲットを選択すると、孫子は、ライフルのセーフティを外し、携帯電話を取り出す。
 窓ガラスを破損しないために、荒野を誘導して、窓を空けさせるつもりだった。別に孫子自身は、窓ガラス越しに狙撃してもなんの掻痒も感じないのだが、その程度のことで茅や荒野との関係を悪化させるのも、馬鹿馬鹿しい。
 この寒空に、一晩、気密性が破れた部屋で寝ろ、というのも、酷というものだろう。
 ことに荒野は、本人はあまり意識していないのかもしれないが、無類の寒がりだった。炬燵に入った時のとろけきった様子を思い出せば、その程度のことは容易に想像がつく。

 そして、孫子は引き金を絞り……ターゲットがそれを自分の得物で受け止め、反撃に移った。
 なんと、ターゲットは、荒野を押しのけるようにしてベランダに出て、そのまま、手摺りの外に身を踊らせた。
 ターゲットと良く似た少女も、ターゲットとほぼ同時に反応する。
 俊敏な動作で、荒野のマンションを、こちらはドアの方から、飛び出た。
 片方がわざわざ、孫子から狙いのつけ易い外に飛び出したのは……もう片方を、孫子に近づけるための囮役を、買って出た……ということらしい。
 特に打ち合わせをした様子もないのに、二人が動き出したのは、ほぼ同時、だった。
 孫子からは、細かい顔の造作までは判別できないが、事によったら近親者、とか、かなり近い関係の者なのかも、知れない。
 気心が知れた、二人組の術者……が、今回の被験者……と、孫子は、想定し、時折、囮役の少女に向けて引き金を絞りながら……彼女たちが、近づくのを、待った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(96)

第六章 「血と技」(96)

「……じゃあ、住む所なんかも、自分で……」
「「はい! 引っ越しは、昨日、済ませました!」」
 酒見姉妹は、ユニゾンで答える。
「「……親元を離れて、晴れて二人暮らしです!」」
「あの……親御さんは、反対……しなかったのか?」
 荒野は、弱々しく抗弁する。
「「しましたけど……お母様は野呂の出ですし、いうこと聞いてくれないと、暴れちゃうぞっていったら、お父様がこの町のことを教えてくださって……。
 加納の若様のお膝元なら、大きな間違いもないだろうって……」」
 野呂……とは、術者個々人の気骨や能力に見合う分だけ、欲望を充足させることを是、とする気風がある。よく言えば実力主義的、悪くいえば力任せの実力行使や我が儘を容認してきた。
 そうした気風が、六主家の中で一番「技」に重きを置く野呂の文化を形作っている面もある。事実、六主家の中で、一番職人気質が強く、技の研鑽に熱心なのは、「我が儘で協調性のない」野呂、でもある。
『……つまり……』
 こいつらの両親は……こいつらの我が儘をいなすのに疲れて、こっちの方に押しつけてきた、と……。

 一般人社会とは違い、一族には「一定の年齢に達すれば成人」とみなすコンセンサスが存在しない。年齢よりも、実務に出た経験の有無、で、社会的な責任を取れる人格であるのか否かが、判断される。
 その伝でいえば、何年も前から一族の仕事をこなしていた酒見姉妹は、立派な「大人」なのだが……だからとって、彼女らが好き勝手に暴れて周囲に迷惑をかけたら、それなりに両親にもそれなりに類は及ぶ。
 親の、子に対する管理責任、という文脈ではなく、一族の内部での心証が悪くなったり恨みを買ったりすれば、それだけ自分たちの今後の仕事に差し支える。
 いまだ、バリバリの現役である酒見姉妹の父母にしてみれば……。
 彼女たちは、押さえつけておきたい。
 しかし、姉妹は、自分たちの手には、そろそろ余りはじめている。
 という、微妙な時期だった訳で……ちょうどそんな時期、荒野がこの土地で、一般人社会との共存を目指している、というニュースを拾い、双子をこっちによこした……。
 二人の話しを総合して、荒野の想像力で補完すると、大体、そんな次第であるらしい。
『……頭、いてぇ……』
 少し前までの楓や孫子も、十分に問題児だと思ったが……酒見姉妹も、少し違った意味で、扱いに難渋しそうな予感が、ひしひしと、した。
 荒野が、内心で頭を抱えはじめた時、荒野の携帯が、鳴った。

「あ。茅。
 そう。もうすぐ帰るか。実は今。え? そう。商店街で一緒にいた三人。あ。例によって一族関係だから、誤解のないように。
 え? え? って……ちょっと待て、どうしてそう……。
 いや、確かにあの恰好だと、遅いか早いかの差はあれ、才賀となんかあるのかも知れないけど……その、けしかけるような真似は……。
 してない? ならいいけど。うん。うん。
 って、こっちの人たちも、その、才賀に負けず劣らず……あー。扱いに、慎重さが必要となる人たちだから……その、な。
 冷静に。冷静に。
 うん。うん。あ。ちょっと待って。今、聞いてる……」
 荒野は一度携帯から顔を放す。
「……皆さん。メシ、どうします?
 もうすぐ茅が帰ってくるし、用意するの、これからだし……。
 なんだったら、一緒に食いますか? ここら辺、まともなメシ屋が少ないし、まだ準備とかしてなかったら、時間が時間だし、うちで食べていくのが……」
「はあ……。
 しょ、初対面で御馳走になるのも気が引けますが……確かに、何も用意していませんし、か、茅様にも、お会いしておきたいので……」
 野呂静流がそういって、こくん、と頷いた。
「「……わたしたちは、不要なのです。
 すでに、新居で準備を整えておりますので……」」
 双子は、そう声を重ねる。
「……あ。人数は、おれたちプラス、一人分ね。
 昨日、買ってきた材料で、全然足りると思うけど……。
 うん。うん。そうれじゃあ、また、後で……」
 荒野は電話を切って、双子の方に向き直った。
「で……さっきの話しの続きなんだけど、君たちがどういうつもりでここに来たのか、その経緯は、理解した。
 でもさ……今日の夕方の、殺気のは……どういうつもりだったの?」
 荒野は、にこにこと笑みを浮かべながら、二人に詰め寄る。
「……この間も、学校で……一般人の観ている前で、一族の若い衆に絡まれてさぁ……。
 もちろん、軽く撃退したわけだけど、本当、迷惑なんだよね……本家の血筋ってだけで、名を上げるためだけにつけ狙われるのって……わざわざ対戦しなくとも、こうして対面すれば、実力差は大体、見当がつくだろうに……いちいち相手にするのも、面倒でさぁ……」
 にこにこと微笑みながら、荒野が双子に向けてそんな話しをしていると、荒野の携帯が、また鳴った。
「……え? 才賀? なんで才賀が、今頃……。
 ベランダに出ろって? なんで? 出れば分かる?
 なにいっているんだよ、お前? 挨拶って……。
 いいよ。ちょっと待ってな……」
 荒野は、三人に向かって頭を下げた。
「……すいません。
 知り合いからの連絡で、ちょっと込み入った話があるとかで、一旦席を外します……」
 そういって荒野は、ベランダに出るために、サッシを開けた……途端、シュン、と、「何か」が荒野の頬をかすめ、室内に飛び込んだ。
 同時に、どがん、と何物かが床に叩きつけられる音がする。
『……軽い、ご挨拶ですわ!』
 荒野の持っている携帯電話から、孫子の声が聞こえ、そのあと「……ツー、ツー、ツー……」という音に切り替わる。孫子の方から、通話を切ったらしい。
 ……つまり、これは……内部を狙撃しやすいように、おれに、窓を開けさせた……。
 荒野がぼんやりとそんなことを考えていると、
「……なんじゃこりゃぁあ!」
 双子の片割れが、起きあがりつつ、叫んだ。
 純の方なのか、粋の方なのか、荒野には、判別できないが……手に持った山刀に、見覚えのあるゴム弾が、食い込んでいる。
 孫子の、スタン弾だった。
 どうやら……咄嗟に飛来したスタン弾を視認し、隠し持っていた武器で受け止め……でも、運動エネルギーまでは殺すことができず、派手に椅子ごと後ろに倒れ込んだ……と、いうことらしい……。
 直撃を食らわなかっただけ、流石……というべきなのだろう。
 小柄で華奢な彼女たちが、座った大勢であんなものを食らって、派手にぶっ倒れる倒れる程度で、済んでいるのだから……。
 その時、荒野の携帯が、みだび、鳴った。
「……あ。楓か……。
 今、そっちに才賀、いないだろう?
 出て行った所? 心当たりないかって?
 あるよ、ある。おおあり。
 いやね……たった今、才賀の挨拶が、うちの客人に命中したところでな……。
 いや、一族の関係者だから、大事には至らなかったが……」
 荒野は、軽くため息をついた。
「……問題なのは、こっちの客人も、才賀に負けず劣らず、血の気が多いってこったな……」
 楓に向かって説明しながら、荒野は、
『……なるように、なれよ……もう……』
 内心……かなり投げやりに、なっていた。




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彼女はくノ一! 第五話 (179)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(179)

 タクシーの中で、楓は、さりげなく香也の手をとった。
「……え?」
 一瞬、怪訝そうな声を上げ、身をすくませた香也の耳元に、楓は口をよせ、そっと囁く。
「その……こんなに……冷たいから……」
 確かに、長時間、野外でスケッチをしていた香也の手は、毛細血管が収縮して、すっかり冷たくなっている。絵を描く、などという細かい手仕事をするときに、手袋をはめるわけにも、いかない。
 香也の手を包み込むんでいる楓の掌は、香也の肌とは対照的に、しっとりと、熱い。
「……駄目……です、か?」
 楓は、おそるおそる、といった態で、香也の反応を、上目遣いに、伺う。
「……んー……。
 駄目っていうことは、ないけど……」
 香也は、こころもち頬を赤くしながら、楓から視線をそらして、答える。
「……じゃあ……」
 楓は、さらに香也のそばににじり寄り、香也の肩に頭を預け、香也の手を握ったまま、自分の太股に押しつけた。
「ほら……こんなに、冷たくなって……」
 楓にしてみれば、効率的に冷えきった香也の手を暖めようと、自分の腿と掌でしっかりと包み込んだだけなのだが……香也にしてみれば、弾力のある楓の腿と、それに、上から押さえつけてくる楓の掌の温度を感じているだけでも……刺激的なわけで……。
 香也は、急に喉が渇いたような錯覚に陥った。
 楓は、そんな香也の心境を知らぬ風で、ぴっとりと肩と背中を、香也の体に密着させている。そっと、こちらに凭れている楓に視線を降ろすと、楓の頭頂部が見え、うなじのあたりから、香也のものとは違うぬくもりとか体臭とかが、うっすらと感じられる……。
 この時間が、いつまでも続いたいいような……すぐに飛び退いて、楓から離れたほうがいいような……香也は、かなり複雑な心境だった。
「……着いたの」
 茅の一言で、その微妙な時間はあっさりと終わりを告げた。
 みると、外を見ると、確かにタクシーは、見慣れた狩野家の前に停車している。
 香也はどこか気まずい思いをしながら、手荷物を抱えてそそくさとタクシーの外に出た。楓も、すぐ後に続く。
「タクシーの料金は、例によって徳川持ちなの」
 茅は、例によって表情の読みにくい顔で、二人に別れを告げた。
「では、今夜は、これで……また明日なの」
 そういって、マンションの方に戻っていった。
 香也と楓は、なんとなく照れたような微笑をかわしあい、どちらともなく、「……か、帰りましょうか……」といって、玄関に向かう。
 とはいっても、家のすぐ前で降ろされたから、距離にして僅か数歩、といった所だ。
 そして、先導した香也が玄関に手をかけようとした時……。
 唐突に、盛装し、何故かごついゴルフバッグを背負った才賀孫子は出てきて、二人と鉢合わせになった。
 とりあえず、香也はいった。
「……んー……」
 とりあえず、楓は孫子が肩に担いでいるゴルフバッグに視線を集中させた。
「わ、わ、わ……わたし、まだ、何にもしてないですよ……」
「あなた……何をおっしゃっていますの?」
 孫子が、何故か慌てはじめた楓を不思議そうにみる。
「ちょっと……ご挨拶する必要がある方が、いらっしゃいましたので……ざっと、用事を済ませてこようか思いまして……。
 なに……いくらも、時間はかからないと思いますわ……」
 そういって孫子は、「んふふふふふふっ」と笑いながら外に出て行った。
「……あんなひらひらなドレスを着て……どこにいくんだろう……」
「ゴルフバッグの中身……今度は、誰に使うつもりなんでしょう?」
 孫子の背中を見送った香也と楓が、ほぼ同時にいった。
「……なんだ、こーちゃん……帰ってるんか?
 外は寒いだろ? ささっと中に入りなよ……。
 ご飯、もうできるよー……」
 香也の声を聞きつけた羽生が、台所の方から声をかけてきたのを機に、二人は家の中に入った。

 楓と香也は、自室に鞄などを置いて制服を着替えると、ほぼ同時に居間に入った。
「……さっき、家に入ってくる時、おめかしして外に出て行く才賀さんとすれ違ったんですけど……」
 楓が、炬燵に入りかけながら、台所に声をかける。
「ああ。それ……」
 台所から、顔だけをだしたテンが答える。
「少し前、どっかから電話がかかってきて……そしたら、孫子おねーちゃん、いきなりあの恰好で外出の用意して、出て行っちゃった……」
「なんか、急用ができたっていってたよー……」
 ガクの方は、声だけで答える。
 テンもガクも、羽生と一緒に夕食の支度をしている最中だった。
「孫子おねーちゃん、すぐ済むっていってたし……」
「でも! でも、ですよ……」
 楓が、二人に異論を唱える。
「才賀さん……ゴルフバッグ、持っていったんですよ……。
 ご飯前に、アレを持っていく急用、って……ちょっと、思いつかないんですけど……」
「……んー……」
 それまで黙って聞いていた香也が、ぽつりといった。
「そういえば……誰かに挨拶してくる、とか、いってたような……」
 香也がそう指摘すると、その場の空気が凍り付いた。
 テン、ガク、楓の三人は……孫子のゴルフバッグの中身を知っている。
「ま、まあ……才賀さんのことですし……」
 と、楓。
「そ、そうだよね。本人が大丈夫だっていっているし……」
 これは、テン。
「あ、挨拶っていったって……一族関係の人たちだったら、かのうこうやから何らかの連絡がくつ筈だし……」
 これは、ガク。
「……ちょ、ちょっと加納様に確認してみます!」
 結局、楓は荒野の所に電話をかけた。
 孫子が電話を受けた、という時間に、茅も何カ所かに電話をしている、ということに気づいたのだ。その前後の茅の態度も、不審といえば不審だった。
「……もしもし、加納様ですか? 楓、ですけど……。
 ええ。才賀さんが、誰かに挨拶をするって出て行って……。
 はい。はい。
 え? ちょうど今、その挨拶が命中した所……なんですか?」





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(95)

第六章 「血と技」(95)

「「……わたしたち……」」
 何のために、ここに来たのか……と、荒野が問うと、酒見姉妹は顔を見合わせ、頷き合う。
「「……普通の女の子として、生活したいんです……」」
 荒野の眉が、片方だけ、ぴくんと跳ね上がった。
 一般論としていえば……そういう意見も、あり、だとは思う。
 しかし……この双子の口から出ると、途端に胡散臭く聞こえるのは……どうしたわけだろうか?
「知っての通り……わたしたちは、両親ともに、生え抜きの術者で……」
「わたしたちも、幼い頃から、両親に、野呂と二宮、両方の体術を、仕込まれてきました……」
「おかげで……今では、年齢部相応な評判も、一族内部でいただいている身です。
 が……」
「物心ついたときから、人に倍する英才教育。
 その後は、仕事仕事の毎日……わたしたちは……」
 ここで二人は、立ち上がって、お互いの肩をひしと抱きすくめた。
「「……学校というものに、通ったことがないのです……」」
「あの……新しい、お茶が入りましたけど……。
 今度のは、渋めに入れましたから、甘いケーキなどにも、合うと思います……」
 目が見えない……ということを感じさせない動きで、静流が、荒野と双子の前に新しいお茶の入ったマグカップを置く。
 まるで動揺を見せず、自分のペースを崩そうとしない静流も、大概に大物だよな……と、荒野は思った。
「そう……っすね。まずは、ケーキでも食べながら、続きの話しを聞きましょうか……」
 荒野は、半ば、自分自身に言い聞かせるようにいいながら、ケーキ用の皿とフォークを、食器棚から出した。
「ほら……君たち待望の、マンドゴドラのケーキだ……」
 そういって、持ち帰った箱を開け、皿の上に取り分ける。
「「……こ、これは……!!」」
 荒野が皿に出したケーキを見て、立ち上がったままの双子は、恐れおののいた。
「「……マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ!!」」
「……いや、名前は知らないけど……。
 バレンタインだから、チョコレートケーキってのは、定番っていうかストレートすぎるっていうか……」
 マスターや茅にケーキの説明を聞かされていなかった荒野は、そんなことをぶつくさ言いはじめる。
「「これは……毎日、開店三十分以内に売り切れ必至の、レア・アイテムなのです!」」
 双子は、そんな荒野に向かって、真剣な顔をして身を乗り出す。
「「……荒野さん!
 これ、取り置きして貰えるなんて……あのお店と、どういう関係なんですか?!」」
「どういう関係って……少し前に、何度か、店の宣伝に協力したんで……ケーキ食べ放題にして貰っているんだけど……」
 双子の表情があまりにも鬼気迫るものだったので、荒野も若干引き気味になっている。
「「そんな! そんな!」」
 双子は、声を揃えて驚いていた。
「「加納本家直系だから……最近、人気急上昇中のケーキ屋さんと、そんな関係にあったなんて……。
 もっと恐い人かと思っていたのに……」」
 ……お前らと、一緒にするな……と、荒野はいいたかった。
 通称、酒見ツインズ。
 この二人は……どうも、血に酔う性質があるらしく……仕事に出れば……必要以上に、死傷者を出す。上層部も弁えたもので、最近では双子のそうした性質にあった仕事ばかりを回すようになっている。
 つまり……どんなに甚大な被害が出ても、困る事がない、という悪質な相手にしか……双子は、派遣されない。
 酒見ツインズは、この若さで、荒事専門……流血沙汰の、エキスパートだった。
 二宮はともかく、野呂の連中は、もっとスマートな仕事ぶりを好む傾向がある。特に古参の中には、この双子の仕事ぶりを露骨に嫌っている者も、多かった。
「戦闘能力」ということで比較すれば、荒神や鈴流の足元にも及ばないが……性格的に、やばすぎる……故に、荒野は、この二人を「限りなくレッドに近いイエロー」と分類している。
「その……マンドゴドラのケーキと、静流さんのお茶……を、一緒に味わう機会なんて、滅多にないから……ゆっくりと、味わっていただこう……」
 それでも荒野が平然ということが出来たのは、例え荒野一人であっても、酒見ツインズの二人を一緒に相手にして、引けを取ることはない……という自信があるからだが……二人は、そうした荒野の思惑を知ってか知らずか、
「「……はーい!」」
 と声を揃えて席に座り直す。
 その様子は、なんだか無邪気であどけなくて……でも……。
『……お前ら……もっと静かに、食えないのかよ……』
 ケーキやお茶を一口、口にする度に、「おいしー! おいしー!」といいあって、じたばたと手足を振る双子の、なんとも落ち着きのない食べ方に、荒野は辟易した。

「……で、君たちは……ふ、普通の女の子の生活を、ってことだけど……」
 いいながら荒野は「……こいつらほど、普通の女の子、という概念から遠い者はないんじゃないだろうか?」とか、思っている。
 しばらくして、ゴテゴテにクリームの乗ったケーキを丸ごと一つずつ平らげたことで、酒見ツインズはようやく静かになった。物欲しそうな目で箱の方を見ているが、荒野が「後でマンドゴドラのマスターに紹介してやる」というと、途端に静かになって、荒野の話しを聞く様子を見せた。
「その……学校か、もしくは、職場か……。
 その辺の、偽装工作とかは……」
「……していまーす!」
「……正規のルートで受験して、来年からちゃんと入学しまーす!」
 片手を上げて、元気よく、そう答える。
 書類によると、この二人は、荒野より一つ年上だったから……佐久間先輩と、同じ学年、ということになる。
 まさか……と思いつつ、荒野は、二人に四月から通う学校の名前を聞いた。
 二人は、沙織が通う予定の学校の名を、答えた。
 荒野自身の志望校、でもある。
「わたしたち……学校には、通ったことはないけど……」
「勉強だけは、自分たちで、してきたから……」
 二人も、かなりの難関校を実力で突破した、ということがよほど誇らしいのか……固まった荒野に向かって、胸を張った。
「「……学科の知識だけは、あるのです!」」




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彼女はくノ一! 第五話 (178)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(178)

 香也は、有働たち放送部員に混ざっていくつかの不法投棄現場を回った後、絵を描くのに適当な場所を見つけたので、そこに腰を据えることにし、放送部員たちとは別れた。この周辺に用事のない香也は、当然のことながら、土地鑑もまるでなかったのだが、周辺地図のプリントアウトは有働から渡されていたし、すぐ近くに徳川の工場もあり、そこには楓たちも来ているそうだから、いざとなれば、連絡すればなんとでもなる……と、思っていた。
 それよりも……。
 香也は、横倒しになったドラム缶の上に、スケッチブックから引きちぎった紙を一枚敷き、その上に腰掛ける。
 ……今の香也には、目の前の光景からうけるインスピレーションを、どのようにして紙の上に定着させるのか……という問題の方が、よっぽど、重要だった。
 香也は、改めてスケッチブックを開き、適当に目についた廃材を、スケッチしはじめる。
 まだまだ、最終的に、どのような絵にする……という具体的な構想は、ない。だから、構図とかを考える段階でもなく、今は、イメージを固めるため、目と手を、被写体に馴らすことのほうが、先決だった。
 香也は、こうした有象無象の廃棄物の山、を描いた経験がほとんどない。だから、「馴らし」は、絶対に必要だった。
 その場所は、近隣でも最大の「不法投棄場」とのことであり、廃棄された工場内が丸ごとゴミで埋まっている。これだけの大きな地所なら、どこかが買い取って使用しても良さそうなものだが……有働の話しでは、以前にこの工場を使用していた会社が倒産する際、債権関係がかなりおかしな具合になってしまったようで、アンダーグラウンド関係の組織のいくつが複雑に権利を握りこんで、身動きが取れなくなってしまい……結果、まともな買い取り先もみつからず、こうした惨状を十年以上も晒している……ということだった。
 今の香也の前には、かなり広大なゴミの山が出現している。
 ……今香也が腰掛けているドラム缶、冷蔵庫、洗濯機、テレビなどの家電品、箪笥や机、椅子などの家具、自転車、バイク、スクーター、トラックかトレーラーの大型タイヤが向こうに積み重なっている……果ては、タイヤが取れたバス……などの大物も、鎮座している。
 そうした廃物が、屋根が半ば落ち、朽ちかけた工場の中に、放置されている……。
 工場自体が、老朽化されたまま、手入れもされていない建物だから、敷地を取り囲むようにトラロープが張り巡らされ、所々に「立ち入り禁止」の表示されているのだが……長年、管理責任が放棄された場所でもあるので、そうした表示も多くは地面に落ちている。
 ここでは……「場所」そのものが、見捨てられ、人目を忌むように、ひっそりとしている……と、香也は思う。
 香也は、有働に案内されるまで、近隣にこんな場所があるなどとは、思わなかった。
 誰かのものではあるのだが、誰のものであるのかもはっきりとしない空白地帯……であるが故に、行き場のない廃物を呼び込み、累積してしまった場所……の静寂は……香也を、奇妙に落ち着かせた。
 香也は、手を動かし、目の前にある現実を、紙の上の描き写す。
 香也は、意識は目と手に集中し、他の感覚を、意識することはない。
 香也は寒さも感じない。うち捨てられた場所に、たった一人で居る、という事実も、意識の外にある。
 香也は、日が暮れて、手元が見えなくなるまで、そうして黙々と絵を描き続けた。
 塗装が剥げ、朽ちかかった木部が露出している家具を。錆の浮いた、あるいは、一面錆に覆われた金属を。その質感、その存在感をどのようにすればキャンバスに再現できるのか考えながら、ひたすらに、手を動かし続けた。

 夢中で手を動かしているうちに、あっという間に日が暮れて、手元も見えないようになった。
 街灯さえも遠い場所である。そろそろ帰るかな、と、香也が腰を上げると、ちょうどその時、ポケットの中の携帯が、「メリーさんの羊」のメロディを奏でた。
『……あ。香也様ですか?
 今、どこにいます? 有働さんから、この付近に来たと聞きましたけど……』
 携帯をとり、出てみると、楓の声が聞こえてきた。
「……んー……。
 有働さんに案内された所で、ずっと描いてたけど……もう暗くなったんで、帰ろうかなと思っていたところ……」
『……そうですか。
 まだ、最初の所から、動いていないんですね?
 じゃあ、場所は分かりますから、迎えに行きます。今、茅様も一緒なんですけど、徳川さんにタクシー呼んで貰っていますから、一緒に帰りましょう……』
「……んー……。
 分かった。じゃあ、分かりやすい場所に出て、待っている……」
 そう返事をして、香也は通話を切り、帰り支度をしはじめる。帰り支度、とはいっても、筆記用具を鞄の中にしまい、スケッチブックを畳んで鞄と一緒に抱えるだけだが。
「立ち入り禁止」の看板が針金で固定されている鉄の門を開き、僅かに空いた隙間をすり抜けて、外に出る。
 公道のすぐ脇で、街灯の下の明るい場所で立っていると、いくらもしないうちに一台のタクシーが近づいてきて、香也のすぐ目の前に停まった。
 助手席に、茅が座っているのが、見えた。
 後部座席の扉が開いたので、香也は荷物を持って、そちらに向かった。
 中に入り、後部座席に座ると、そこには制服姿の楓が座っている。
「……テンちゃんとガクちゃんも居たんですけど、自転車で来たとかで……」
 香也の顔をみるなり、楓はそういった。
「……わかったの。才賀には伝えておくの」
 茅は、助手席で誰かと電話している。茅は一旦通話を切ると、今度はメールをうちはじめた。
「……どうかしたんですか? 茅様?」
 楓が、茅に尋ねる。
「荒野が、新しい一族に接触したそうなの。
 限りなくイエローに近いレッドと、限りなくレッドに近いイエロー二名……。
 後者の存在は、是非才賀に伝えなくてはならないの……」
「……はい?」
 楓が、怪訝な顔をする。
「その、なんで……そこに、才賀さんが……」
「茅が伝えなくても……才賀、今日、商店街にいたから……どうやら、荒野があの三人と一緒にいたことを、人づてに聞いて知っていたようなの……」
 茅は、携帯の画面を見ながら、楓や香也にはよく理解できないことをいいはじめた。
「人が争う理由は……利害の不一致やイデオロギーのみに限らないの。
 時に、近親憎悪的な感情も、争乱の原因となる。
 しかし……そうした争いは、相互理解を効率的に促進する、という作用もあるの……」





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(94)

第六章 「血と技」(94)

「……まあ、遠慮せずにあがって……」
 荒野は三人と一匹をマンション内に招き入れる。
「茅がいれば、おいしい紅茶をいれてもらえたんだけど……みんな、コーヒーで、いいかな?」
 招き入れながら、一応、そうお伺いをたててみる。
「……その箱の中身を確かめてからでないと……」
「コーヒーにあうものかどうか、分からないのです……」
 ほぼ同時に、双子は、そう異議を唱えた。彼女たちの感心は、あくまで「箱の中身」にあるらしい。そして、相変わらず荒野には、どちらが純でどちらが粋なのか、見分けがつかない。「二人一組」として扱うのがよさそうだ……と、思いはじめている。
「……鞄、置いてくるから、箱空けて確かめてみていいよ……」
 そういって荒野は、冷蔵庫の中からミネラルウォーターのボトルを取り出して中身を薬缶にあけ、火にかける。
「あ。
 で、では……そ、そ、その間、お、お飲み物の用意は、わ、わたしがしましょうか?」
 いきなり、野呂静流がそんなことをいいだしたので、荒野は面食らった。
「……え?
 ええっと……その……静流さん……。失礼ですが、目の方が……」
「……こ、この程度のなら、問題はありません。
 お、お湯と器さえいただければ、あとは持参のものでなんとかできます……」
 野呂静流は、こころもち胸をはった。
「……こ、これでも、そちらの方面には、じゃ、若干の心得が、あ、あるのです……」
 ……この人は、ティーパックとかお茶の葉を普段から持ち歩いているのだろうか……と、疑問に思わないでもなかったが、今までに多くの奇矯な人物をみてきた荒野は、とりあえず、まかせてみることにした。別に、静流が失敗したとしても、荒野が飲み物をいれ直せばよいだけのことだ。
「まかせます……」
 荒野はそう答えて、別室に移動しようとする。
「ご、ごゆっくり。着替えて来ても、いいのです……」
 荒野の背中に、静流がそう声をかけた。箱の梱包を解いた双子が「わー。おいしそー」とか騒いでいる。

 荒野が着替えてダイニングキッチンに戻ろうと扉をあけると、ぷん、と懐かしい香りが鼻孔をくすぐった。
「……ち、ちょうど、お茶の用意ができたところです……」
 そういって、静流が、荒野に向かって、マグカップを差し出す。
「か、加納様の分です。
 て、適当な器がなかったもので……」
 マグカップの底の方に、なにやら濃い色の液体がたまっている。デミカップ一杯分、くらいの容積だろう……と、荒野は見当をつける。
「……こ、これは、最初の一杯用なので、濃くいれてあるのです。香りを楽しんでから、しばらく口に含んでみてください……」
 荒野はカップを抱えたまま、テーブルセットの椅子に座り、静流にいわれた通りに、マグカップを口に近づけ……まず、香りを嗅いでみた。
 がつん、と、鼻の中に香りが広がる。
 覚えがあるような気もするが……濃厚すぎて、その正体になかなか思い当たらなかった。
 そこで、続いて、口に含んでみる。少しぬるめの液体は、荒野もよくしっている「味」をしていた。
「……これ……グリーン・ティなの?」
 普段、飲みなれている日本茶の、味と香りをずんと濃くして、苦みを取り除いて純化したような液体、だった。
 以前、香港で喫したことのある、最上級のお茶に近いが……あれよりは、はるかに、洗練されているような気がする……。
「は、はい。
 玉露、です。じ、自分で葉とかいれかたを、研究してみました」
 静流は、こくん、と一度頷いて、
「あ、味も香りもきつすぎて、あんまり大量に飲むものではありませんが……最初のインパクトでいうと、これが一番分かりやすいのです……。
 だ、だから、初対面の方には、挨拶かわりに、できるだけこれを飲んでいただくようにしています……」
 双子の方はというと、蕩けたような顔をして視線を空中にさまよわせている。おそらく、ここまで豊かな飲料を喫する経験に、欠けていたのだろう。
「……け、ケーキ用には、もっと渋みが強いものを入れ直しますので……」
「……静流さん……」
 荒野は、マグカップを置いて、真顔で静流に告げる。
「……静流さんは、こういうのの専門店を出すべきです……」
 おそらく、最高級の茶葉を用いいて、湯の温度やむらす時間などにも、細心の注意をはらっていれたものなのだろう。だから、値段をつけるとかなり高価になる筈だが……そうしたニーズも、世の中にはある筈だった。
「あ。は、はい……。
 も、もともとは、手慰みにはじたものですが……わ、わたしも、も、もっと多くの皆様に、飲んでいただきたいと、そ、そう思いまして、ですね……。
 この町には、お店を出すために、来たわけです……」
 荒野は、頷く。
 静流には見えないことは百も承知だったが……頷かない訳にはいかなかった。
「……幸い、今までの蓄えも若干はありますし、長老に相談しましたところ、お店を出すのに適切な場所を探してくださるということで……」
 確かに……「パーフェクト・キーパー」とか「半径五メートルの女帝」などの異名をとる静流なら……ギャラも、貯蓄の額も、荒野などの比ではないだろう……と、荒野は、ぼんやりと考える。

 視覚に先天的な障害を持つ静流は、その他には有り余る資質を持ちながらも、結局第一線で活躍する……ということができなかった。
 しかし、野呂本家の直系である静流は、「最速」の名をほしいままにし、その俊敏さと五感ならぬ四感の俊敏さを生かして、彼女にしかできない仕事を請け負っている。
 それが、人であれ、書類であれ、物体であれ……彼女の手元にあるものに対して、外部から手を出すことは、事実上、不可能に近い。
 もともと、野呂は、五感が極端に敏感な者を時折出す血筋なのだが……静流の場合、どうも、視覚以外のすべて感覚が、突出して鋭敏のようで……だからか、これまでに、彼女を出し抜いて、彼女が守るモノを盗んだり壊したり殺したりすることに成功した者は、皆無である。
 静流自身は温厚な性格をしているが……「近距離」に条件を限定すれば、その戦闘能力は、一族でも一、二を争う。
 荒野の内部で「限りなくイエローに近いレッド」と分類される所以である。

「つまり……静流さんは、お店を出すために、住みやすそうなここに来た、と……」
 そういって荒野は話題を変え、双子に話をふった。
「で……お前らは……どうして、ここに来ようと思ったんだ?」
 双子は……その仕事ぶりは、決して評判の良いものではなかったが……それでも、仕事を干される、というところまで信用を落としてはいなかった筈だ。
 一人前の術者として見なされるところまでいかなかった、あの四人とは、根本的に異なる。




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彼女はくノ一! 第五話 (177)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(177)

 放課後、香也は帰り支度をして、一度美術準備室に寄り、常時そこに何冊かキープしてある新品のスケッチブックを取り出し、パソコン実習室に向かう。今朝、そういっていたように、樋口明日樹の姿は見えなかった。
 それから、鞄とスケッチブックを抱えて、パソコン実習室へと向かった。
 パソコン自習室は、昼休み以上に混雑している。パソコン部、放送部、自主勉強会……などのグループごとに固まって、打ち合わせをしながら、作業を続けているわけで、騒がしいといえば騒がしいのだが……活気に満ちた、騒がしさ……のように、香也は感じた。
 香也は、放送部員がたちがたむろしている方向に背を丸めて歩いて行くと、その姿に気づいた放送部員たちがさざめき始めた。
「や。や。や。どうもどうもどうも」
 そのうちの一人の男子生徒が立ち上がって、香也に向けて騒がしいと挨拶をする。ネクタイの色で確認すると、香也と同じ一年生だった。
「有働はまだ来ていませんけど、ここでちょっと待っていてください……」
 そういって、香也に、空いている席を勧める。香也は、おとなしく勧められるままにそこに腰掛けた。
「……有働がくるまでの間、例によって、ちょこちょこっとカットを描いちゃってくれませんかね……。
 これ……この子たちの、なんですけど……」
 そういって、その放送部員は、末端の画面に、何枚かの写真のスライドショーを表示させる……。
「……んー……」
 その写真を確認した香也は、うなった。
「これ……うちの……」
「はいはい。
 次期美術部長さんのおっしゃる通り、件のその子たちは、ここでは、シルバーガールズという名前になっております……」
 その放送部員は、揉み手をしながら、香也に説明した。
 にこやかな表情だったが、細めた目の奥は笑っていなかった。
「で、そのシルバーガールズですが、今度、正式にキャラクター商品などの展開も進めることになりまして、つきましては狩野君にもご協力いただき、ちゃっちゃといつものように……」
「……いい、けど……そういうのは、ぼくよりも、羽生さんのほうが向いているような……」
 実際、羽生譲は、マンガやアニメなどの既存作品のキャラを、かわいくて丸っこいディフォルメキャラとしてリファインするのが得意である。
「……それに……この子たちの服の模様……この間、玉木さんにいわれて何パターンか考えたけど……そのうち、どれが採用されたのかも、聞いていないし……塗装された実物も、まだみていないし……」
 香也は末端に表示された写真を指さしながら、そういう。香也にとって、実際に塗装されたものや、実物を自分でみていない……ということは、かなり重要な要素だった。
「……おい、鎌田。
 あんまりごり押ししても……」
 他の放送部員が、香也に話しかけた放送部員に注意する。
「急ぐ必要ねーし……それに、どうせ、今日これからゴミを見にいく予定なんだ。
 その帰りに徳川の所に寄って、ちょこっと実物を見せてもらえばいいじゃないか……」
「……そういえば、あの子たち、今日も工場にいっているって連絡あったよな……。狩野君さえよかったら、玉木に途中から合流する、って伝えておくけど……」
 さらに別の放送部員が、香也にそう告げて早速携帯をとりだした。
「……んー……。
 お願いします……」
 香也は、携帯をとりだした部員にそう返答する。寒い場所に長居したくない香也にしてみれば、ありがたい申し出だった。徳川の工場に寄れるのなら、そこを少し借りて、スケッチの整理もさせてもらおう……とか、香也は考えはじめている。
 その工場に、テンやガク、玉木のほかに、楓や茅が待ち構えている……とは、この時点では、香也は予測していない。
「……やあ。どうも、おまたせしました……」
 そんなやりとりをしている所に、香也と同じ、やぼったい学校指定のコートを羽織った有働裕作が、パソコン実習室に入ってくる。
「では……狩野君とレポート班は、出発の用意を……」

 放送部員レポート班の大半は、自転車通学組だということで校門でいったん別れ、香也と有働、それに、わずかに数名の放送部員が、バス停に向かう。歩いて行けない距離ではないが、この寒い中、とぼとぼと何十分も歩くのも……ということで、意見は一致していた。
 バス停まで歩く道程で、同行していた放送部員が、さきほどの鎌田と香也のやりとりについて、有働に耳打ちする。
「……はぁ……鎌田君が、そんなことを……」
 一通りの事情を聞いた有働は、ため息をついた。
「部活にも熱心な人なんですが……どうも、先走ることがあって……。
 どうも、ご迷惑をおかけしました……」
 有働が、香也に向かって頭をさげる。
「少なくとも、放送部内では、狩野君に対しては何か頼む時は、玉木さんを通すようにしているのですが……」
 と続ける。
 さまざまな画風で、しかもその場で絵が描ける香也は、放送部にとっては重宝する存在でもあり、だから、仕事を頼み過ぎて負担をかけ過ぎたりすることのないよう、一旦、玉木を通すことで仕事量を調節している……と、説明された。
 そういえば……玉木が「なにか描いてくれ」といってくるのは、決まって休み時間で、しかも、一回につき、その休み時間内で終わるような細かい仕事しか、頼んでこない。だから香也も、その場その場で、気軽に依頼に応じることができたのだが……。
 説明されて、はじめて、
『……そうか……調整、してくれていたんだ……』
 と、香也は気づき、感心もした。
「……鎌田のやつ……焦っているんですよ……」
 一緒についきた放送部員が、ぼそりという。
「今の二年生……玉木さんにしろ、有働さんにしろ、凄いから……。
 一年生は、人数が多いだけで、あんまり目立つやつ、いないし……」
 そういった放送部員も、一年生だった。
「……ああ……」
 いわれて、今度は、有働が感心したように、うめく。
「それは……気づかなかったな……。
 でも、その、人数の多さが、有利に働いている場面も、多々ありますし……。
 玉木さんはともかく、ぼくなんかは体が大きいから目立っているだけですよ……」
「……謙遜、ですよ、それ……。
 玉木さんだって、有働さんが足元かためなければ、自由に動けない訳ですし……」
「でも……それをいったら、一年生諸君だって……」
 香也をそっちのけで、そんなことを話しはじめる有働と放送部員たち。
 聞きながら、香也は……人数が多いなら多いなりに、いろいろな悩みがあるもんだな……と思った。実働部員が樋口明日樹と香也だけで、あとは幽霊部員……という美術部には、無縁の悩みでは、ある。
 その存在さえ忘れられがちな弱小美術部と、活発すぎる活動内容で校外にも存在を知られている放送部とでは、比較するのも馬鹿らしい……という側面は、あるのだが……。





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(93)

第六章 「血と技」(93)

「……そういう脅しは、卑怯なのです……」
 やせ細った少女が、ゆらり、と姿を現した。その少女が「例の恰好」をしていても、驚かなくなった自分を、荒野は、「……染まってきているな……」と、自己評価する。
「六主家の本家筋、二人と同時に事を構えるほど、愚かではないのです……」
 そのゴスロリ少女は、そういった。
「か、加納様……ご、ご存じの、方ですか?」
 油断なく白い杖を両手で持っている静流が、荒野に尋ねる。静流は、吃音癖があるらしい。
「一応……かろうじて、顔だけは……」
 野呂静流ほど有名人ではないが、例の名簿の中で、イエローに分類した一人、だった。だから荒野も。顔だけは記憶していた。
 荒野の分類によれば、野呂静流が「限りなくイエローに近いレッド」だとすれば、この少女は「限りなくレッドに近いイエロー」ともいうべき存在だった。
 荒野自身が加納と二宮の混血であるように、その少女も、野呂と二宮、両方の資質を受け継いでいる。いわば、パワーとスピードをバランス良く兼ね備えているわけで、身体能力という点でみれば、同年配の一族の中でも、かなり突出した存在である。
 しかし、荒野が警戒しているのは……その少女の、そんな表面的な部分ではない……。
「それで……スイか? ジュンか?
 もう一方の片割れは、挨拶はなしか?」
 荒野は、心持ち語気を強めた。
「わたしたちの名を問うのは、無粋というモノなのです」
 通称、酒見ツインズ。
 正真正銘の、一卵性双生児。
 それぞれ、酒見純、酒見粋、という固有名詞はあるものの、第三者が外見から個体を識別することは、まず不可能。
 ……必要以上にこちらに警戒心を与えないため、一人だけは姿を現し、もう一人は保険として、どこか近くで成り行きを見守っている……といった、ところ、なのだろう。
「……そいつは、残念……」
 そうした特徴を最大限に利用した連携技で敵を攪乱する……のが、得意で、若くしてすでに「荒事の名手」としての名望を確立している。外見上、かなり幼く見えるが、実は、荒野よりは一つ年上だった。
 しかし……荒野は、交渉についてなら、荒事以上に得意なのだった。
「スイかジュンかはわからないけど……とにかく、マンドゴドラの特製ケーキにありつけるのは、今、目の前にいる一人だけ、ということになるな……。
 でも、姿を現さないんだから、しょうがないね。
 君を、君だけを、静流さんと一緒に我が家にご招待しよう……」
 荒野の申し出がよほど予想外だったのか、その少女は、目を見開いて、金魚のように、口をパクパクと開閉させた。
「……そ、そ、そ……」
 などという声が喉からもれるが、まともな言葉にならない。
 ここぞとばかりに、荒野は声を大きくする。
「……いやぁ、残念だなぁ……。
 マンドゴドラの特製ケーキ……双子のうち、片一方しか、口にできないのか……。
 後で、喧嘩にならないと……」
 いいけど……と続ける前に、
「……お姉様! 一人だけずるいのです!」
 もう一人の、外見上、まったく同じに見える少女が、姿を現す。
「粋の馬鹿! こんな簡単な手に引っかかって!」
「だって、だって……あそこのケーキ! すっごくおいしいってお姉様も……」
 服装も、背格好も、顔も声も同じ少女たちが向き合って、お互いをなじりはじめる。
「……はい。そこまで!」
 パン、パン、と荒野が手を叩くと、少女たちははっとしたように、動きを止める。
「二人まとめてケーキを御馳走してさしあげるから……それ以上、騒がないように。
 君たちがこれ以上目立つと……おれたちも、目立つから……」
 鏡に向き合ったようにうり二つの少女たちは、ぎこちない動きで荒野のほうに振り返る。
「……それとも……ケーキ、欲しくない?」
 荒野が重ねていうと、いかにも恥ずかしそうに俯いて、「……ほ、欲しいです……」と、蚊の鳴くような声で、答えた。
 ユニゾンだった。
「加納様……。
 お見事です」
 一連のやり取りを聞き届けていた野呂静流が、ぽつり、と、評した。

 三人を待たせてすぐそこのマンドゴドラに入る。
 顔見知りのバイト店員に挨拶して、「今、在庫にある中で、一番珍しいケーキを最低四つ、ください。できれば、五つあればいいんだけど……なければ、三つでもいいです……」と微妙な注文をした。「できれば、五つ」というのは、茅の取り置き分、「なければ、三つ」というのは、荒野自身の分は確保できなくても構わない、という意味だった。
 高校の制服の上にエプロンをつけた店員は、「ちょっと待ってください」と言い残して店の奥に入っていき、マスターを伴ってすぐに帰ってきた。
「おっ。きたきた……。
 昨日、茅ちゃんがいったとおりだな……」
 荒野の顔をみるなり、マスターはそういった。そして、バイト店員に向かって、「例の用意していたアレ、もってきて……」と言付ける。
「昨日、茅が……なんか、いってましたか?」
 荒野は、マスターに聞き返す。
「ああ。
 あと数日ほど、お客が多くなりそうだから、毎日一ダースほどケーキを取り置きしておいて欲しい、って……。
 ということで、今日の分、一ダースね……」
 マスターはそういって、かなり大きな箱を、荒野に手渡した。

 荒野がケーキの箱を抱えて店の外に出ると、三人は気まずい沈黙を保ちながら立ちつくしていた。
 ゴスロリ双子と、犬を連れたサングラスの美女……という珍妙な取り合わせは、それなりに人目を集めてはいたが、さすがに足を止める者はおらず、せいぜい、通りがかりに珍しそうな好奇の目で眺めていくだけだ。視力に障害のある静流は超然としていたが、双子の方はかなり居心地が悪そうな様子だった。双子、ということで、注目されること自体には、それなりに慣れているにしても……好奇心丸出しの目でみられることには、慣れていないのだろう……。
「お待たせしました……」
 荒野が声をかけると、双子は明らかにほっとした様子をみせ、静流は小声で連れていた犬に、「……Stand up!」と命じる。




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彼女はくノ一! 第五話 (176)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(176)

 昼休み、給食を食べ終えた香也は、楓や茅についてパソコン実習室に向かう。そこに、何人かの放送部員が常駐している、という話しだった。香也は特に用事も無いので、滅多にパソコン実習室には足を踏み入れない。
 だから、予想外の喧噪に、少し面食らった。
「ああ……香也様は、あまりこっちに来ないんでしたね……」
 楓は、棒立ちになった香也を一度怪訝な顔で見返し、それから、不意に納得した表情になった。
「……なんだか毎日のように、人が増えちゃって……。
 最近では、放課後とか昼休みとか、いつもこんな具合ですよ……」
「……んー……」
 香也は、パソコン実習室が人いきれができるほどの混雑ぶりをみせているのに、少し引き気味になっている。
「……大丈夫ですよ。
 これだけ人がいれば、もう一人くらい増えたって、誰も気にはとめませんから……」
 楓に後押しされる形で、香也は混雑するパソコン実習室に入る。ここで香也がぐつついて自分で動かなければ、楓なら、文字どおり、「背中を押す」くらいのことはやりかねない……と思ったので、香也は自発的に足を進めた。
 これだけの人込みのなかで、目立つ行為はしたくはなかった。
「……今日は、放送部の人達は……あ。あのあたりにいますね……」
 楓が指さす方向に、香也も顔だけは記憶している放送部員が、確かに何人か、固まっている。
 香也は、人の名前を記憶するのは不得手だが、顔を覚えるのだけは、得意だった。
 荒野は、末端が設置された机と人の間を縫うようにして、そちらに向かう。
「……あの……。
 有働さんとかは、来てませんか? 一年の、狩野ですけど……」
 香也は、放送部員たちにそう声をかける。
「……有働さんがいなければ、別の、ゴミ関係のことが分かる人でも、いいんですけど……」
「……ええと……あっ!
 君、絵の人じゃないかっ!」
 香也に声をかけられた男子生徒は、一瞬怪訝な顔をしたが、不意に大声をあげた。
 すると、回りにいた放送部員たちも、次々と、
「ああ……あの……」
 とか、
「ども。いつもお世話になってます……」
 とかいいながら、香也に頭をさげはじめる。
 香也の顔はあまり知られていないが、香也の存在と仕事は知られている……という反応だった。
「有働さんは、まだ来てないけど……もうじき、来ますから……まあ、ここにかけて……」
 ある放送部員が、「いつもうちの玉木が無理いってすみませんねー」とかいいながら立ち上がり、自分で空けた椅子を香也に勧める。
 香也は弱々しく抵抗したが、強引に肩を押されて、結局、その椅子に座った。
 香也にしてみれば、彼ら、あまり親しいとはいえない放送部員たちの妙に親切で愛想の良い様子が不審でもある。
「……あ、あの……ぼく、不法ゴミ置き場の場所を……」
 知りたいだけだから……と続けようとする香也の言葉を、手近な場所にいた放送部員が遮った。
「……はいはい……。
 それはね、今、こういうのが出来ています……」
 その放送部員は、慣れた手つきで目の前にある末端の画面にブラウザを立ち上げ、アドレスバーにURLアドレスを打ち込む。
 駅や橋、主要な道路などをシンプルな線で描いた、学校周辺の略図が表示された。
「……はい、これ……ここいらの、地図っすね……って、これも、前に狩野君に頼んで、ざざっと描いて貰ったのを取り込んだもんなんですけど……」
 ……そういえば、時折、休み時間に玉木がやってきて、求められるままに、その場で絵を描くことが、ままある。香也は、そうしたその場限りの依頼された絵の内容は、大抵忘れ果てているのだが……こんな絵も、先週あたりに描いたような気もしてきた。
「……で、この絵、クリマカブルマップになっていましてね。
 この、旗の所にカーソルをあてて、クリックすると……。
 ほら、出た……」
 その放送部員のいうとおり、画面が、別ページに切り替わる。
 ふんだんに写真や文章が入ったページで、ある不法投棄ゴミの集積場になっている場所の、詳細なレポートだった。ざっと文面を斜め読みすると、近所の人やそこの地主さんの談話なども入った、かなり本格的な内容に思えた。
「……今は、こういう場所をリストアップして、順番にレポートしているだけですけど、ぼちぼち人数も集まりそうなんで、そしたら今度は、お片付けレポートになっていく訳ですわ……。
 これ、とりあえず、ブログに写真とか文章をみんなでぶち込んでから、後で番地や項目毎にカテゴリを設定して分類しているんすけど……」
 などと説明してくれたのだが、その手の事柄にはとことん疎い香也には、何が何だかよくわからない。
 そんなことを話しているうちに、有働勇作が大きな体を機敏に動かして、パソコン実習室に入ってきた。
「あ……来てたんですか? 狩野君……」
 入ってくるなり、香也の姿に気づき、にこやかに声をかけてくれる。
「彼、有働さんを訪ねて来たんすよ……」
「……ああ。それはどうも、お待たせをいたしました……。
 ちょっと、他にもいろいろ雑用が入りまして……」
 有働勇作は、言葉遣いと物腰が丁寧、ということの他に、大柄なわりにきびきびと動き、鈍重な印象がない。有働は、体の大きさでいったら、おそらく在校生の中で一番大きい筈だが……それでも、近くにいて威圧感を感じることが、ほとんどない。
「……んー……。
 ちょっと、用があって……」
 香也は、急いで要件のみを伝える、ということが得意ではない。だから、ついつい間延びしたしゃべり方になるのだが、有働は、せかしたりすることなく、自然体で香也が話し終えるのを、待っている。
「もう一度……今度は、じっくりと時間をかけて、ゴミ放置場所のスケッチを、したいんだけど……」
「わかりました」
 香也の要件を呑み込んだ有働は、その場で即答した。
「今日の放課後も、幾つかのレポート部隊が出向きますので……その時にでも、ご案内します……。
 ぼくも、出来る限り同行するつもりですが……他の用事が入るかも知れませんので、そういう時は、他の放送部員に頼んでおきます。
 放課後、このパソコン実習室に集合、ということで、いいですね?」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(92)

第六章 「血と技」(92)

 結局、荒野が帰ったのは、その日も最終下校時刻ぎりぎりだった。
 茅が現在の環境に順応し、自分の意志で動き始めた今、早めに帰ってもする荒野にはすることもなかったので、夕方遅くまで学校に居残ることには抵抗はない。しかし、どっぷりと「学生生活」に浸っている自分の姿の滑稽さを自覚し、内心で苦笑いする程度の客観性は、荒野は持ちあわせていた。
 最終下校時刻ギリギリ、という時間なのに、下駄箱のあたりは混雑していた。昨日の帰りと比較しても、人が多い。全体的な人数は増えても、珍しく知った顔に出会わないな……と、思っていたら、肩を叩かれた。
 振り返ると、コート姿で鞄を持ち、帰り支度を済ませた堺雅史と柏あんなが揃ってたっていた。二人と荒野は学年も違うので、その日初めて、顔を合わせたことになる。
「……なんか、凄い人だね……」
 挨拶もそこそこに、校門に向かって歩きながら、荒野は堺にそう話しかける。
 手短に、情報を交換するつもりだった。
「ええ。
 従来の部活組に加えて、自習組とかボランティアとか、いろいろと居残る人が増えちゃって……」
 堺は、そう答える。
「そういや……先輩、早々にこちらの全員に自習範囲を指示して、出て行ったっけ……」
「佐久間先輩、大活躍ですよ……。
 神出鬼没、っていうか……あっちにいたと思ったらこっちにいて、ちゃっちゃと的確なアドバイスをしたかと思ったら、いつの間にか姿を消しているんです……。 去年まで生徒会で活躍していたとは聞いていましたけど……あそこまでやり手だったとは……」
 堺たち一年は、当然のことながら、昨年の佐久間沙織の活躍を直に目撃する機会に恵まれなかった。
『……とはいっても……去年は、先輩も、それなりに、自主的なストッパー、かけてはいたんだろうけど……』
 最近の沙織は……荒野には、なんだか自分の能力を公然とフルスロットルで駆動することに、喜びを見いだしているように、見受けられた。
『……上の学校にいったら、早速、いくつもの伝説を作りそうだよな、あの人……』
 二人とは帰る方向が違うので、校門を出たところで別れることになる。
「……また、明日」
 とかいい合いながら、荒野は二人と別れた。
『……さて……帰って、夕飯まで、どうして過ごすかな……』
 ぼんやりとそんなことを考えながら、家路を辿る荒野。
 茅や楓、孫子、それに、テンやガクまでもが、それぞれ自主的な判断に基づいて行動を起こしている今、荒野は、実は、暇を持てあましている。
 家事については、茅にどんどん仕事を取り上げられていた所に、昨日などは四人組という荷物持ちが不意にできたので、食料の備蓄はどっさりと増えた。大食いを自認する荒野でも、週末までは十分に持つだろう、と確信できる。例のリストについては、要注意人物のデータを頭に叩き込んだので、後は、これといってすることもない……。
『こうして、みると……』
 自分は、意外に、無趣味だったんだな……と、荒野は改めて思った。
 今までの人生が、特に、この土地に住みはじめてからの数ヶ月が、波乱に富みすぎたんだ……ということは、あるが……。
 それでも、不意にぽっかりと余分な時間ができると、やることを思いつかないのは、どうかと思う……。
 そんなことを考えながら、真っ直ぐにマンションへ向かっていくと……不意に、悪寒を感じた。
 背筋にぞくり、と来る……生命の危機に際した時に感じる、直感的な不安、生理的な、警告……。
 今まで何度となく死線をくぐり抜けた荒野だからこそ感じとれる、信頼できる、予感……。
『……近くに……』
 自分を脅かすほどの、存在がいる……。
 そう感じた荒野は、さり気なく、周囲に意識を集中する。
 そろそろ商店街の外れにさしかかる所で……マンドゴドラの近所、でもある。人通りは、多いといえば多い。例のイベントの影響で、いつもよりは、人は多いのだが……混雑している、というほどには、密集はしているわけではない。
 ちょうど、交差点にさしかかったので、信号待ちを利用して、さり気なく周囲を見渡してみる。例の、背筋のヒリヒリは、まだ消えていない。
 すると……荒野の視界に、見慣れないモノをみつけた。
『……あ……』
 二十歳くらいの、女性だった。
 大きな犬を連れている。いや、犬に、先導されている、という方が、より正確なのだろうか。もうかなり暗くなっているというのに、顔の半分くらいを隠す濃い色のサングラスをして、白い杖をついている……。
 つまり、目が不自由だ、ということなのだが……彼女とは、荒野は、書類上であったことがある。彼女がこんなところに来ている……ということは、つまり、荒野に会いに来た、ということだった。
 そこで、荒野は、周囲に意識を飛ばし、警戒しながら、その女性に声をかけた。
「……しずるさん……野呂静流さん、ではありませんか……」
 荒野はゆっくりとその女性に近づきながら、声をかけた。
「荒野です。
 加納、荒野です……」
「加納……荒野、さん?」
 荒野が「野呂静流さん」と呼んだ女性は、白い杖を両手に持ちながら、声のした方に、つまり、荒野の方に、顔を向けた。
「……は、はじめ、まして……。
 その、野呂、静流です……。これから、ご挨拶に伺おうかと……」
「来るのなら、事前に連絡をくれれば、お迎えにあがりましたのに……」
 荒野は、静流を刺激しないように、害意がないことを明確にするため、できるだけリラックスした声をだした。
 静流の噂は、以前から何度も聞いたことがあったし……それに静流は、生まれついての障害のせいで現場に出ることはないが……温厚な性格だ、と聞いても、いる。
 しかし、存在自体が危険物……という事実には、変わりはない。
「……そ、そんな、もったいない……。
 わ、わたしなんかのために、加納の直系様にご足労を願うなどと……」
 静流は顔を伏せながら、わたわたと答える。
「……わ、わたしは、加納様がここを、一族が安心して住める町にしようとしていると聞いて、来たのですが……」
 静流の反応をみて、
『……噂通りの人、らしいな……』
 と、荒野は思った。
「……いえ……。
 立ち話でもなんですし、一度、うちに来ますか? なんなら、タクシーを拾いましょうか?」
 荒野は、気を効かせたつもりで、そう進言した。
「いえ。お申し出は、ありがたいのですが……これで、歩くのはまるで苦にならないたちですし……。
 それに……」
 言葉の途中で、静流の手にする白い杖が、揺らめく。
「ちょ……!
 こんな往来の真ん中で、そんな物騒なもん、振り回さないでください!」
 静流が仕込み杖を一瞬だけ抜いたのとほぼ同時に、荒野は大股に二、三歩退く。
 荒野以外には……静流が「抜いた」のに気づいた通行人は、いなかったようだが……。
「……ほら。
 周りに、人も、大勢、いますから……」
 荒野は、この寒い中、冷や汗をかきながら、必死で静流を説得しようとする。
「……でも……これでも、術者の端くれ……こんなに殺気をぷんぷんさせている方が側にいると……ついつい、体が自然に反応してしまうもので……」
 これで静流は、例の名簿に記された術者の中でも、「近接戦闘能力」でいえば一、二を争う存在だ。いや、「半径五メートル以内」という条件を付けさえすれば、荒神とだって互角にやり合える存在かも知れない……。
「……と、いうことで……」
 荒野は、かなり白けていた。
「いい加減……遊んでないで、姿を現してくれませんかね……。
 姿を現してくれれば、静流さんと一緒にうちのマンションにご招待しますよ……。
 でないと……加納の直系と野呂の直系、このタッグと、やり合うことになりますけど……」
 もちろん、それは静流に、ではなく……先ほどから故意に殺気を放って、荒野を刺激している人物に向けられたものだった。




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彼女はくノ一! 第五話 (175)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(175)

 次の日の朝、香也は、目覚ましがなる寸前に、自分で目を覚ました。
 以前ほど自堕落な生活をしていないせいか、香也の体内時計は、かなり正確になっている。目が覚めるか覚めないかのうちに、枕元で騒がれるのが嫌だから、時間が来れば否が応でも自分で起きるような習慣になってしまった。
 ぼけらーっとした顔をして、パジャマのまま、洗面所に顔を洗いに行く。
 洗顔を済ませて居間に行き、速攻で炬燵に手足を潜り込ませ、背を丸める。この季節の朝は、寒い。
 居間に入ると、台所から羽生譲が顔を出し、声をかけてきた。
 挨拶をすると、「卵焼きと、豆腐とわかめの味噌汁」と、メニューを告げてくれた。狩野家の朝は、和食であることが多い。人数分のトーストを用意するよりも、時間がかからないからだ。休日の朝は、起きる時間にばらつきが出てくるので、その限りではないが。休日の朝は、だいたい、住人各々が、好きに台所の食材を使用して、自分の朝食を用意する、ということになっている。香也の分のみは、誰かしらその場に居合わせた人が用意する。でないと、何も食べずにそのままプレハブに向かって、夜まで平気で絵を描いていたりするからだ。
 香也が炬燵で丸くなっていると、どやどやと楓、孫子、テン、ガクの四人が入ってくる。楓と孫子はすでに制服に着替えていたが、四人とも、頬が上気して、赤くなっている。二、三日前から、みんなで一緒に朝のジョギングだかランニングにでている、ということは香也も聞いていた。おそらく、ざっとシャワーでも浴びて、身繕いをしてからこっちに来たのだろう。早起きが苦手な香也には信じられない苦行に思えるが、彼女たちにとっては、どうということもない行為らしい。
 ……彼女たちと自分では、根本的な所で違いがあるのではないか……。
 と、香也は、時々、思う。
 香也自身に比べれば、彼女たちは、容姿にしろ、身体能力にしろ、頭の出来にしろ、総じて「出来過ぎ」なのだ。特に劣等感にさいなまれる、ということもないのだが、香也は、「基本的な能力の水準値に、相違がある」という認識を持ち、淡々と受け入れている。彼女たちとの比較、ということだけではなしに、香也は、同級生たちと比較しても、自分は、大抵の面で劣っている、と自認している。また、それでよい、とも、思っている。
 賑やかな朝食がはじまる。
 昨夜のカニ尽くしも誠に結構な食事であり、香也も、いつもよりも食べ過ぎた口なのだが、それでも一晩を過ごせばそれなりに空腹にもなる。香也だけではなく、他の皆も育ち盛りであり、それぞれに旺盛な食欲をみせる。が、香也以外は全員が若い女性ということもあり、賑やかな中にもどこか華やいだ雰囲気が漂っている。
 ……香也自身は、あまりそういうことには留意しないが、例えば香也の同級生男子がこの中に混ざり込んだら、感涙にむせぶ者の方が多いに違いない。

 いつものように、いつものメンバーで登校するのだが、最近では楓や孫子もかなり顔が広くなってきたので、以前にも増して登校中、様々な人に声をかけられている。一緒に登校する面子の中で、一番故知が少ないのは、他ならぬ香也であろう。他の連中が部活関係とかクラスの友人とか昔からの腐れ縁とか、それなりに「知り合い」と呼べる人間がいくばかいるのに比べ、香也自身は、家族とこの場にいる人々くらいしか、「知り合い」と呼べる者がいない。また、香也も、対人関係については極端に淡泊な性質だったので、それで特に不都合は感じていない。
 そんな淡泊な香也も、用事がありさえすれば自分から他人に話しかけることもある。
「……え? わたし?」
 合流してからすぐに香也が声をかけられたので、玉木珠美は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
 周囲に連中に混ざっていることが多いので、香也ともそれなりの頻度で会話をするようになっている。仕事として絵やデザインを頼んだことも、ある。しかし、香也の方から話しかけられる、というパターンは、極めて少ない。というか……これが、はじめてなのではないだろうか?
「……んー……」
 香也は、玉木を呼び止めてから、どうやって自分の意志を伝えるべきか、考えはじめた。
「……有働さん。放課後、空いてるかな?」
「……あっ。
 うどー君の方かぁ……」
 玉木は、腕組みをしてふむふむと頷いている。
「……どうかねー。彼も、ボランティアの準備とか、かなり方々かけずり回っているし……」
「……んー……。
 その、ボランティア……ゴミ置き場になっているところを、誰かに案内して貰いたいんだけど……」
「おー……そっちの用事かぁ……なるほどぉ……。
 でも、だったらちょうどいいや。うどー君たちは、この寒い中、毎日不法ゴミ置き場のマップ作りに勤しんでいるよ……。ちょっと声をかければ、それに便乗すんのは問題ないと思うんだけど……。
 うー……でも、わたしからいうよりかは、直接声をかけてみたら?
 昼休みでも放課後でも、放送室かパソコン実習室にいけば、誰かしらうちの連中がたむろしていると思うし……」
「……んー……。
 そうする……」
 香也は、答える。
 放送室は敷居が高いので、昼休みにでもパソコン実習室に出向いて、放送部員の誰かしらに声をかけてみるつもりだった。
「香也様……ゴミ置き場、いきたいんですか?」
 側で聞き耳を立てていた楓が、尋ねる。
「……んー……。
 土曜日にほんの少し、スケッチしただけだから……ポスターは、すぐにでも描かけるけど……自分の絵にも、したいし……」
「そういえば……この間も、そんな絵を描いていましたわね……」
 孫子も、会話に加わる。
「……んー……なんか、ね。
 気になるんだ……ああいう、野ざらしになった廃棄物が……」
 間延びした口調だけを聞くと、ちっとも熱を感じないのだが……香也にしては、多弁だ。
 楓と孫子は、飄々とした態度とは裏腹に、香也が、かなりやる気になっているのを感じた。
「……あの……温かくしていってくださいね。
 また、風邪を引かないように……」
 茅との先約がある楓としては、そういうよりほか、ない。
「今日は狩野君……来ないのか……。
 じゃあ、部活の方も、開店休業だな……。
 一人でやってもつまんないし、わたしも、休んじゃお……」
 樋口明日樹も、そういった。
 もともと……毎日部活を行わなければならない必要性も、ないのであった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(91)

第六章 「血と技」(91)

「……これから板書きする問題の中から、好きな科目を選んでください……」
 そういって佐久間沙織は黒板にまず二本の線を引いて三分割し、それぞれのスペースに、英語、数学、現代国語の問題を七問ずつ、何も見ずに、書き出す。
 それから、教室に後部につかつかと移動し、同じように後ろの黒板も三分割して、物理、世界史、古文の問題を書き出した。
 沙織が教壇に立ってから十五分もたたないうちに、それだけの作業を完了し終えると、沙織は教室内を闊歩して、その場にいた一人一人生徒たちの手元を覗き込み、進行状況をみて、片っ端から声をかけていった。
「……ここで詰まるのなら……教科書、出して。○ページからの単元を、復習しておくこと……」
 と自習を勧める場合もあれば、問題の解法や解説を、その場で詳しく説明しはじめる場合もある。
 前者は、圧倒的に基礎知識が不足している生徒、後者は、基礎はある程度できているが、応用問題で詰まっている生徒への対処、らしかった。
 沙織が残っていた生徒たち全員に声をかけ終わる頃には、沙織の中で一人一人の分類がなされている。生徒たちのことを把握すると、沙織は、科目毎、進行状況毎に生徒たちを、みっちりと暗記中心の自習をさせるグループ、時折、様子をみて、助言ぐらいは与えるグループ、効果的な点数の取り方を教えるグループ……などに、分けていく。
 沙織は、下校時刻ギリギリまで忙しなく教室内を飛び回りはじめ、沙織に教えられる側の生徒たちは、呆気にとられるよりも、沙織に出された目の前の課題を片付けるのに夢中になった。

 結果として沙織が、二十人からの生徒を相手に、同時に複数の教科の授業を効率よく進めていたことに気づいたのは、最終下校時刻前を告げる予鈴が鳴り響き、片付けをしはじめてからだ。
「……先生よりも、凄いんじゃねぇ?」
 という沙織の評判は、すぐに校内に広まることになる。

 荒野たちが教室で自習に臨んでいた頃、才賀孫子と玉木、田中、佐藤の四人は、商店街を闊歩していた。孫子と玉木は制服姿、田中と佐藤はスーツ姿だった。
 四人で商店街を歩いているのは、別に買い物をしに来たわけではなく、新しいビジネスのための足場を作りに来たのだった。玉木の案内で、四人は、賃貸に応じてくれそうな人たちを、片っ端から訪問していった。今は、イベント期間中、ということでそれなりに人出もあるが、商店街の半分ほどは、長らくシャッターを閉じたままだった。売り上げも芳しくなく、後継者もなく、休眠したり閉店したりしたお店を一件一件周り、店先を貸してくるよう、交渉していく。不動産屋を介すると手数料が発生するので、近隣の事情に詳しい玉木に、交渉に応じてくれそうな空き店舗の持ち主をピックアップして貰い、一件一件、案内して貰った。
 事務所だけではなく、倉庫や駐車場として使用する地所も必要だったから、使える空間は多ければ多いほど、いい。しかし、他にも経費を回さなければならない使途には事欠かなかったので、賃料は出来るだけ低く抑えたい。だから、孫子たちが大家さんたちと直談判する必要があった。
 大家、といっても、駐車場を除けば、店舗と住居が一体になっているうち、使用されていない店舗だけを貸してくれるように交渉するパターンが多くなるわけで、それだけ相手のプライバシーに触れるような側面もあり、だからなおさら、借りる側の信用、というものが、必要だった。
 そうした説得のためには……やはり、人を介するよりは、直接、顔を合わせて相談した方が、いい……と、孫子は判断した。
 こうして孫子が公然と動くことで、実際に事業を立ち上げる前に、孫子が何をはじめるつもりなのか……という噂も広まる、と、期待していた。
 年末とは違い、商店街の人たちも孫子の実家の事を知っているし、また、現在進行中のイベント準備中に、接触する機会も多かったので、孫子個人の為人についても、かなり広い範囲で知れ渡っている。
 必要な不動産を確保し、地元への顔つなぎさえ、スムースに行えれば……後の人集めや備品の手配は、孫子個人のコネクションでいくらでも調達可能なのだった。
 事務所と倉庫の確保以外にも、孫子が計画している配送サービスについて詳しく説明し、活用してくれるよう、営業も行わなければならいし……荒野かた資金を確保し、青写真だけはしっかり作ったものの、まだまだ、やるべきことが山ほどあった。

 茅と楓は、その日は授業が終わると、珍しく真っ直ぐに帰宅する。制服を着替えて、予定通り、徳川の工場に向う。
 茅が荒野にあらかじめ断りを入れておいた、というので、楓は荒野の自転車に乗った。茅によると、「時間が惜しいの」とのことだったので、楓と茅は二台の自転車で、徳川の工場に向かった。ガクが再生した二台の自転車は見あたらなかったので、ガクとテンが使用しているのだろう。
 徳川の工場に到着すると、案の定、見慣れた自転車が二台、停まっていた。この自転車がここにある、ということは、ガクとテンの二人は、今、ここに来ている、ということだった。
 茅と楓は、顔を見合わせて頷き合ってから、インターフォンを押した。

「……来たのか。
 そういえば昨日、来るようなことをいっていたのだな……」
 二人を出迎えて事務所に通した徳川は、あまり二人を歓迎している風ではなかった。関心事が別にあり、意識の大半はそちらに向かっている……という雰囲気で、半ば、「心ここにあらず」といった態だ。
「こちらの要件は、すぐに済むの」
 そんな徳川に、茅は持参したディスクを渡す。
「この中にあるデータ通りのものを、つくって欲しいの……」
「……席、外そうか?」
 同じ事務所内にいたテンとガクが、どうやら内密の相談らしい、と察して、腰を浮かせかける。二人とも、ノートパソコンを開いて、その前に座っていた。
「……そのままでいいのだ。
 こっちが、移動する。作業は続行するのだ……」
 テンとガクを制して、徳川は自分用のノートパソコンを抱えて、事務所を出ようとする。楓と茅も、それに続く。
「……あいつら、予想以上に使えるものでな……。
 邪魔は、したくないのだ……」
 事務所を出た徳川は、適当な廃材の上に上に腰掛け、自分の膝の上にノートパソコンを広げて立ち上げる。そして、白衣のポケットから茅が持参したディスクを取り出し、それをノートパソコンにセットした。
「……これは……仕様書、なのか?」
 茅のデータを見た徳川は、複雑な表情をした。
「見ての通り、CADデータと、構成素材についての、必要な要件の注意書きなの……。
 できるだけ……それに近いものを、つくって欲しいの……出来れば、内密に」
 楓は遠慮して、ノートパソコンの画面は覗かないように努めた。
「……秘密兵器、という訳なのか……ふむ。面白い。
 しかし、このような特殊なものを……」
 徳川の表情が、輝きだしている。どうやら、茅が渡したデータは、徳川の好奇心を刺激する内容だったようだ。
「茅なら、使いこなせるの」
 茅は、そういって頷いた。
「それに……茅に使えるものなら、当然、他の、テンやガクにも、使えるの……」
「自分自身で、試験をしようということか……」
 徳川も、頷く。
「荒野に、茅のことを認めさせるために、必要なの。
 これを作ってくれたら……茅は、徳川に、協力してもいいの……」
 そういって、茅は、コツコツと指先で自分のこめかみのあたりを、叩く。
「……ここで……」
「若干、よそから調達しなければならない材料もあるが……ここでなら、作ること自体は、さほど難しくはないな……。
 その見返りに、働いてくれるというのなら……取引としては、こちらに分が良すぎるのだ……」
「……そのうち、別の注文をするかも知れないの……」
「気にするな。ここまで来たら、一蓮托生なのだ。玉木なんか、もっと図々しいのだ……」
 徳川は、ニヤニヤ笑いを浮かべている。
「それで……これ、期限はいつまでなのだ?」
「本番は、五日後だけど、練習する時間も欲しいの。だから、一両日中に……」
「出来ないことは、ないのだが……本番?
 これを、すぐにでも使うあてがあるのか?」
「テンと模擬試合をすることになっているの」
 茅がそう告げると、徳川はしばらくまじまじと茅の顔を見つめ、それから声を上げて笑いはじめた。
「そうか……。
 これ……テン用の装備なのか……。
 茅がそういうのなら……」
「もちろん、勝算はあるの」
 茅は、表情を変えずにそういった。




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彼女はくノ一! 第五話 (174)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(174)

 その日も、樋口明日樹は香也に送ってもらった。以前からそうして貰うのが習慣になっているので、格別の感慨はない。だが、部活の時と並んで、最近、周囲の騒がしさにもかかわらず、いつものペースを崩そうとしない香也を確認できる時間なので、僅か数分の帰り道を、明日樹は、かなり貴重なものと見なしている。
 本当に……香也は、以前となにも変わらない。
 あれほど周囲が騒がしくなっても変化しなさすぎて、見ていて拍子抜けぬけするほどだ。そして、その香也の「変化のなさ」は、樋口明日樹を安心させる。
「……狩野君……」
 すぐ横を歩いている香也の方をみて、樋口明日樹は、香也の肩がまた高い位置に来ていることに気づく。
「また……背、伸びたんじゃない?」
 出会った初夏の時には、すでに明日樹よりも背が高かった。その後も、順調にすくすく育っている。
 たいして、明日樹の背丈は、以前とあまり変わらない。母も父も、姉もさほど大柄ではないから、明日樹自身もこれ以上、背は伸びないのではないかな、と、思っている。
「……んー……」
 香也の返答は、特に第一声は、大体同じだ。どんな質問をしても、大抵はそういって、考える時間をつくる。
「……そう……なの、かな?
 正直、自分では、わからない……」
「大きく、なってるよ……。
 肩の位置が、もう……わたしの目より高いくらいだし……」
 このまま香也の成長が止まらなければ、すぐにでも頭一つ分の身長差が出来てしまう訳か……と、明日樹は思う。香也は、背が高くなっている割には、あまり肉が付いたようには、見えない。
 いや……肩幅は、広くなっているか……と、明日樹は自分の考えを打ち消した。
 いつもぼっとーっとした雰囲気で威圧感がないので、普段はあまり意識しないのだが……背が伸びるに従って、香也の体は、確実に「少年」から「男」のものに変化している……ような、気がする。
 特に、この冬は……冬休み前に比べると、香也は、随分大人っぽくなったように感じた。
 例えば、以前と同じにぼーっとしていても、最近では、どっしりと落ち着いた芯のようなものを感じることがある。
『……なんだか……』
 こうして肩を並べて歩いていながらも、香也が明日樹をおいてどこかに行ってしまうかのような疎外感を、明日樹は感じている……。

 明日樹を送ってから帰宅した香也は、母屋には戻らず、そのままプレハブに向かう。居間ではみんなが以前として賑やかに過ごしている筈であり、また、そうした雰囲気自体は香也自身も嫌いでは無かったが、香也には、みんなと戯れること以上にやりたいことがあった。
 すきま風の吹き込むプレハブの中に入り、戸を閉めて、灯油ストーブに火を入れ、棚の奥に隠しているスケッチブックを取り出す。
 別にみつかっても構わない気もするが……香也は、そのスケッチブックだけは、まだ誰にも見せていない。
 単純に、気恥ずかしいからだ。
 脱いだ上着をハンガーにかけた香也は、椅子に座ってパラパラとスケッチブックをめくる。
 ……楓、荒野、茅、孫子、羽生譲、真理……テン、ガク、ノリ……樋口明日樹、飯島舞花、栗田静一……香也の身近な人々の顔や姿が、断片的にスケッチされていた。
 ごく最近になって、こっそりと、周囲に誰もいない時を見計らって、記憶に頼って描きはじめたものだ。
 ついこの間まで……香也は、人物画には、まるで興味を示さなかった。人物画に……というより、他人、というものに対して、どこか興味を見いだせないでいた。
 しかし、近頃では……それも、徐々に、変わってきている。
 香也は、スケッチブックの新しいページを開いてキャンバスに立てかけ、鉛筆を用意する。
 香也が一人きりになれる時間は、最近では貴重だ。
 先ほどの夕飯時の会話から類推するに、ひょっとしたら、このプレハブに頻繁に出入りしていた人々も、どんどん多忙になって、香也の周囲はまた元の静けさを取り戻すのかも知れないが……それでも、香也は、今、この一瞬に、香也の脳裏にある彼らの姿を紙に写すことが、ひどく重要なことに思えた。
 そして、香也は、自分の絵に没頭しはじめる。

 浅黄が眠たげな様子を見せはじめたので、徳川も浅黄を伴って早々に帰宅した。同時に、茅も隣のマンションに帰る。飯島舞花、栗田静一は、樋口明日樹と同時に家を出ていた。
「……後の片付けはやっとくから、楓と才賀も風呂でも入って寝ろって……」
 酒盛りを続けていた三島百合香が、そう告げる。
 ちびちびと長く呑んでいたわりには、酔ったようにも見えない。割と強いのかも知れない。
 その言葉を機に、孫子は、「……では……」と立ち上がり、テンとガクもそれに続いた。おそらく、着替えを用意して、風呂に入るのだろう。
 楓は、荒神に確かめたいことがあったので、居間に残った。多忙な荒神がこの時間にこの家に帰ってくることはほどんどないし、さらにいえば、こうして寛いでいるのも滅多にあることではない。
「あの……師匠」
 孫子たち三人の気配が完全に遠ざかったことを確認して、楓は炬燵こしに荒神に向き直る。
「最近の、ことを……師匠は、どう思っているんですか?」
「最近のことって……具体的には、何を聞きたいんだい?
 雑種ちゃん……」
 荒神は、なみなみと日本酒を注いだ湯飲みを傾けながら、楓に問い返す。
「茅様とか、テンちゃんたちのこと……。
 それに、加納様が、正体を明かした上で、この町に居続けること。
 あと、一族のいろいろな人たちが、集まりつつあることとか……」
 楓は、気になっていることを順番に口にだしていく。
「なんだ、そんなことか……」
 楓の言葉を聞いて、荒神は、露骨に失望した顔をした。
「どう思っているって……どうにも、思っていないよ。
 なるようにしか、ならないさ……」
「あの……加納様のこととか、一族の人たちのこととか……師匠は、心配には、ならないんですか?」
「心配……心配、ねぇ……」
 荒神は、思案顔で視線を上に向ける。
「このぼくが心配すると……何か事態が、好転するのかな?」
 そして、逆に楓に向かって問い返した。
「……正体がばれたのは、荒野君のせいではないけど……ここに居続けることにしたのは、荒野君の選択だよね?
 それと、今日の雑魚四人組みたいなのがいくら集まったところで、大勢に影響はないよ……」
「では!
 その……茅様……とか、ガス弾を使った人たちのことは……」
「雑種ちゃん」
 荒神は、意外に真面目な顔をして、楓の目を見返した。
「人は……自分では、生まれを選べない。
 ……雑種ちゃんが、雑種ちゃんなのも、荒野君が、加納本家と二宮本家の両方の血を嗣いでいることも……自分で選んで、そうなったわけではない。
 でも、雑種ちゃんとか荒野君が、今、この土地にいることは……産まれとは関係なく、自分の意志なんじゃないのかい?
 そして、それは……茅ちゃんたちや、これからくる雑魚どもも、同じなんじゃないのかな?」
 楓は……なんと返答していいのか分からなかった。
「みんな……好きにすればいいのさ。
 ただし、好きにしたその結果は……否が応でも、自分で引き受けなければならない……」
 荒神はそう続けて、また一口、湯飲みを傾ける。
「それに……ね。雑種ちゃん。
 外つ国ではいざ知らず、この国の神様は、伝統的に、人間にはなにもしないんだ……。
 なんの意味もなく存在し、来たりては、去る。
 ただ、それだけの代物だよ……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(90)

第六章 「血と技」(90)

 一生徒としてみた荒野は、かなり真面目な部類にはいる。極端に成績がよい訳ではないが、そこそこの成績はキープし、よほど忙しい時でなければ、課題もしっかりと提出する。授業態度も、問題はない……。
 なのに、昼休みに、職員室に呼び出された。
「……加納君。この、進路、なんだが……」
 荒野の担任である大清水先生は、呼び出した荒野を椅子に座らせ、その前で、手に持った数日前に荒野が提出した進路指導のアンケート用紙をみている。
「進学、は、いいんだが……この志望校は……かなり……」
 荒野の現在の成績では、難しい……と、言いたいらしい。
「誘ってくださった先輩……人がいるので、微力を尽くすまでです」
 荒野は、背筋をまっすぐに延ばし、はきはきと答えた。
「いや……現状を分かった上で志望しているんなら、いいんだ……まだ、受験まで一年あるからな……」
 大清水先生は、眉間のあたりを軽く指で揉んだ。
「……この学校は……知っての通り、難関でな……。
 この学校からは、毎年、一人か二人くらいしか、合格者がでない……。
 志望するのは、かまわんのだが……かなりの努力が、必要になるぞ……」
 大清水先生は荒野に念を押して、こっそりとため息をつく。
 なんで、今年の二年生に限って……こんなに大人数の志望者が、この学校に集中するのか……。
 ……しかも、個性豊かな、問題児ばかりが……。

「……って、わけで、しばらく用事がない時は、放課後、おれも居残るから……。
 他の奴らがいろいろ動いているけど、おれにはあまり手伝えること、ないみたいだし……」
 職員室からパソコン実習室に移動した荒野は、そこにいた茅に告げた。
「……わかったの……」
 茅は、忙しくキーボードに指を走らせながら、頷く。
「楓も、悪いけど茅の護衛、頼むな」
 荒野は、茅のとなりで作業していた楓にも、声をかける。
「わかりました……」
 楓も、素直に頷いた。
「今日は、授業が終わったら、まっすぐに徳川さんの工場にいくとかいっていましたが……」
「そうなの。
 こちらのほうも、だいぶ落ち着いてきたし、徳川に頼みたいこともあるし……」
「茅が……徳川に、頼みたいこと?」
 荒野は、軽く眉を顰める。
 なんだか……いやな予感がした。
「まだ……秘密なの」
 茅は、荒野の表情を読みながらも、そっけなくそう返す。
「秘密……ねぇ……」
 荒野は苦笑いをする。
 いやな予感はするのだが……茅が教えないというのなら、よほどの事がない限り、荒野にはなにも言わない筈で……。
「楓……。
 茅が何か危ない真似をしだしたら、力づくでも止めろ……」
 これみよがしに、楓に話しを振るのが、精一杯の抵抗だった。

「……ねーねー。
 大清水に呼び出し受けてなかった?」
 早めに教室に戻ると、本田三枝が話しかけてくる。席が近いこともあって、この娘はなにかというと荒野に話しかけてきていた。
「うん。呼び出された。
 今の成績では、志望校、難しいって警告」
 荒野は、大清水とのやりとりを極端に要約して伝えると、本田は、納得した顔をした。
「……進学、するんだ……。
 加納君、アレだから進路どうかなぁ、って思ってたけど……。
 で、具体的に、どこの学校受けるつもりなの?」
 荒野が学校名を告げると、本田だけでなく、周囲で聞き耳を立てていた生徒たちが、いっせいに、「ええっ!」と、悲鳴にも似た声をあげる。
 それから、ざっと荒野の周囲を取り囲んで、
「……なんで、あんな難しい学校を!」
 とか、
「その顔で、あの運動神経で……さらに、頭も良くなろうというのか!」
 などと、口々に荒野を責め立てはじめる。
「そんなことが許されると思っているのか!
 完璧超人になろうというのか、お前は!」
 荒野は、自分を取り囲んだクラスメイトたちを見渡して……正体を明かしても特別扱いされないのはいいが、こういうところはどうにかして欲しい……と、思った。
「……い、いや……。
 誘われたから、なんとなく、その学校がいいかなぁって……この間のアンケートに、第一志望で書いたんだけど……」
 荒野は引き気味になりながらも、そんな言い訳をする。
「……誘われたって、誰にだよ!」
「女か! 女なんだな!」
「加納、お前、そんなには成績良くないだろ!
 ……ふざけるな!」
 荒野の学科の成績は、科目にもよるが、平均して「中の上」か「上の下」程度である。そのことを、クラスメイトたちも知っている。小テストや業者テストの際、結果を、無遠慮に覗き込まれるからだ。
「……誘われたって、誰にだよ!」
 なんやかんや、騒いだ後、結局は、その一点に関心が集中した。
「……ええっと……」
 荒野は、クラスメイトたちの、いつにない気迫に、かなり腰が引けてきている。
「……その、先輩。三年生、の……」
「……三年生の!?」
 ……どうしても、個人名を特定しなければ、気が済まないようだ……と、荒野は観念した。
「さ、……佐久間、沙織先輩……」
 ぼつり、と、しかたなく、荒野が答えると、荒野を取り囲んでいた連中は騒然とする。
「……聞きました、奥さん……」
「あれだけの美少女軍団引き連れておいて、この上佐久間先輩まで毒牙に……」
「……ああっ。なんで一年の狩野とかこの加納の周囲ばかりに、いい女が集まってくるのか……」
「……みんなで一緒にその学校にいったら、楽しいだろうなぁ、って言われて……おい! 変な意味じゃないぞ! おれだけ誘われたって訳じゃなくて、みんないっしょにいらっしゃいって言われたんだ! そうだ! そこの樋口や才賀も一緒だった、そうだったよな! なっ!」
 荒野は助けを求めたが、孫子は素知らぬ顔をしているし、明日樹は明日樹で、騒ぎの大きさにびびって凍りついている。
「……あっ! あのうっ!」
 突然、教壇の方で、大きな声がした。
 全員でいっせいにそちらに振り返ると、岩崎硝子先生が、今にも泣きそうな顔をして震えている。
「……も、もう……とっくにチャイム鳴って、授業時間、はじっているんですけど……」
 全員、蜘蛛の子を散らすように素早く各自の席に戻り、全員が席に着いた頃を見計らって、日直が号令をかける。
「……きりーっつ……」
 後は、いつも通りの授業だった。

「……って、わけで、今日は、うちのクラス、半分以上の生徒が参加って方向で……」
 荒野は、今や、自主勉強会の本部になっている空教室で捕まえた佐久間沙織に、相談を持ちかけた。
「……その人数がいっぺんにこっちに移動してきても、混乱がおきそうだし……なんか、いい手、ないっすか?」
 この場に相談相手がいてよかった……という思いと、それに、なんでおれがこんな面倒までみなければならないのか、という不満が、荒野の中でごっちゃになっている。
「……大体の事情は、わかりました」
 佐久間沙織は、真面目な顔をして荒野に頷いてみせる。
「そうね……。
 今日は、茅ちゃんも、確か、徳川君の所にいっているのよね……。
 そんな大人数にいっぺんに来てもらっても、混乱するだけだし……まだ、プリント類もあまり整理で来てないし……。
 いいわ。
 わたしがいって、面倒みましょう……」

 荒野が佐久間沙織を伴って自分の教室に戻ると、
「……えっー!」
 と、
「……おっー!」
 という感嘆の声、半々にくらいに出迎えられた。
 佐久間沙織は、そうした騒がしさには一切、頓着せず、つかつかと教壇の上に移動し、クラス中を見渡す。
「……ええっと……。
 加納君に頼まれて、下級生の勉強を見に来ました。
 ここに残っているのは、やる気のある生徒だけとみなします。
 では早速、みなさんのレベルを図るための、小テストを行おうと思います。
 そこ! 私語は謹む! それから、加納君も席について!
 これから問題を黒板に書きますので、制限時間二十分以内に、解答を各自のノートに書いてください。
 その結果をみて、後は個別に指導します……」




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彼女はくノ一! 第五話 (173)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(173)

「そういえば、あたな方……ここでの職をさがしている、というお話しでしたわよね……」
 孫子が、新参の四人のうち、田中君と佐藤君に話題を振る。
「……はいっ!」
 田中君が、その場でシャン、と、背筋を延ばした。
「もう少し……あと一週間ほど待ってくだされば、職場をつくって差し上げますけど……。
 あなたがた、普通免許くらいは、持っていますわよね?」
 孫子は、田中君の気負い込んだ返事は華麗にスルーして、事務的な口調で続ける。
「そっか……運ちゃん、か……」
 玉木も、頷いた。
「確かに……こういうのに勝手に歩き回られるよりは、手元に置いといた方がいいだろうし……」
「そういうことです……」
 孫子も、頷く。
「……何の話しっすか?」
 佐藤君が、聞き返す。
「いやな、孫子ちゃんが、商店街の商品をデリバリーする会社を立ち上げようとしているらしくてな……」
 前から話だけは聞いていた羽生が、横合いから口を挟む。
「でも……孫子ちゃん、会社ってそんなすぐ、立ち上がるもんなんか?」
 羽生は、今度は孫子に話題を振った。
「所在地と連絡先くらいあれば、登記だけならすぐにできますけど……」
 孫子は、説明する。
「……今回の場合は、車両や駐車場、荷物のプール場所、それに配車に必要なシステムやマニュアル一式などが必要になりますから……それらを手配するのが、先決ですわね……」
「そういった、立ち上げのために必要な期間が、一週間前後……か……」
 玉木が確認すると、孫子も頷く。
「幸い、最初の運用資金は加納が出資してくれるというので、その辺の心配はなくなった訳ですけど……そういった手配関係は、わたくし学校帰りにわたくし自身ですることになります……」
 事務所や倉庫、駐車場などの不動産探し、と、システム回りの整備、実家経由で、必要な車両やオフィス備品を安く調達する……などなど、孫子は、明日からはかなり多忙になるという。
「……ま、孫子ちゃんも、商店街では顔だしな……」
 玉木が、茶々をいれる。
「……明日と明後日あたりは、予算調整や書類の整備。それが一段落したら、備品や不動産の手配と、挨拶回り……」
 年末のイベントと、そして、今回のバレンタイン・イベントの立役者である孫子の顔を知らない商店主は、いない。がからこそ、商店街の店舗を一軒一軒回っての挨拶回りも、あまり抵抗はない。
「……ちょうど週末にかかりますから……せいぜい盛装して、みなさまの目を楽しませようかと思います……」
 ようするに、例のゴスロリ・スタイルで練り歩きながら、営業活動も行う、ということらしい。
「……で、おれらはなにを手伝えばいいんでしょうか?」
 田中君が、揉み手をしながら孫子にお伺いを立てた。
「事務仕事……は、無理でしょうから、挨拶回りをする時に、ついていらっしゃい。後は、肉体労働は、任せます。仕事をした分は、正規の報酬を支払います……」
「はいはい。それくらいならお安い御用で……」
 にやけながら答える田中君。
「……うっすっ!」
 迫力のある返事をする佐藤君。
「ま、本人たちが納得しているんなら、別にいいけどな……」
 我関せず、といった態で呟く荒野。
「出資させる以上、確実に儲けを出す仕組みを作り上げて見ますわ……」
 そんな荒野ににっこりとほほ笑む孫子。
「最初は、スクーター数台から始めますけど……徐々に、手を広げて行く予定です……」
「……ソンシちゃんは、そっちの方で……タマちゃんは、シルバーガールズか……」
 羽生が、今度は玉木に話を振る。
「はいはぁーい!」
 玉木は、元気よく片手を上げた。
「製作快調、っす! 素材もどんどん溜まっているし、編集作業も、すいすいーって……」
「あの……基本的な質問なんですけど……」
 楓が、おずおずと片手をあげる。
「……テンちゃんやガクちゃんの映像を作る、っていうのは、理解できましたけど……。
 そういうのって、発表場所あるんですか?」
「最初は、ネットとか、あと、商店街の液晶ディスプレイから、開始だね……。
 数十秒とか、せいぜい数分のスポットを、予告編としてどんどこ流しておいて……話題的に暖まってきたところで、長めの本編を発表する。
 いずれは、上映会もやるし、DVDパッケージやダウンロード販売も、考えているけど……当面は、わたしらも学校があるわけだし、長いのは無理だね……」
 ……今度の春休みにでも、少し本格的な製作期間が取れるといいんだけど……と、玉木は肩をすくめた。
「まあ……そこいらが、現実的な線だよな……」
 荒野も、頷く。
 そっちらに関しては……営利目的、というよりも、町おこしのシンボル・キャラクターとしての側面の方が、大切だと、荒野は思っている。
 テンやガクたちが演じるキャラクターにいい印象を与えて、普段から流布しておけば、万が一、この先、彼女らが人目の多い場所で市街戦でもやらかした時……ひょっとしたら、排除されなくてもよくなるかもしれない……。
 このあたりの計算は、打ち合わせた訳でもないのに、荒野は、孫子や玉木と同じような結論を出していた。
「……それから……」
 それまで黙って殻から身をほぐして与えたり……といった浅黄の面倒を見たり食事をしたりしていた徳川が、不意に発しゃべりだす。
「才賀が、特許関係に強い法律屋を何人か紹介してくれるというのでな。テンやガクたちが作ったソフトも、どんどん知財として押さえていくのだ……」
「……茅も、なにか作るの……」
 徳川の言葉に続けて、茅も頷いた。
「この先……お金が必要になる側面も、多くなっていく……。
 財源は、多様であるほどいいの……」
「ハードとソフトの違いはあれ、こちらも、もともと、開発稼業の人間だから、売り込み先にはいくつか心当たりがあるのだ……」
「……ってか……売り物に、なるのか?」
 荒野は、徳川の態度に、露骨に不審な顔をしている。
「……なるな……。
 昨夜、ガクが組んだプログラムを一通りみてみたが……実にエキセントリックな代物だったのだ。
 パターン認識とかデータ圧縮など、あれ一つの中に、国際的に通用する独創的なアイデアがざくざく入っている……。
 テンや茅はいうまでもなく……こうなると、ノリがどういうプログラムを組むのか、知りたくなってくるのだ……」
 ……全員が一丸となったら……下手すると、量子コンピュータでも作りかねん……と、徳川は大仰なしぐさで頷いた。
 そういわれても、荒野や楓は、それがどれだけ凄いことなのか、実感できないのだが……。
 荒野は、そちら方面に関してはあまり造詣が深くなかったし、楓にとってコンピュータは、実用的なツールでしかない、先進的な部分に関しては、あまり興味や知識がなかった。
「……なんとなく、凄い……ということは、わかった……」
 荒野としては、半信半疑の表情で、そう頷くより他、なかった。
「だが……そっちは、数カ月とか数年という長いスパンでの儲け話になるな……短い期間で利潤を上げるとなると……孫子や玉木の方法のが、妥当なのだ……」
「……お金がすべて、とはいいませんけど……」
 徳川がそういうと、孫子も頷く。
「あって困るものではありませんし……それに、そちらの方も、地元で働く人が増えれば、それだけこの土地に根付くのが容易になるのではないかしら?」
「……ああ……はい……」
 田中君はあ、孫子の顔を見つめて、ぼんやりと頷いた。
「なんか……」
 佐藤君は、その場にいた全員の顔を見渡し、最後に、荒野の顔をじっとみる。
「すごいっすね……ここの人達……」
 半ば呆れている口調で、そういった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(89)

第六章 「血と技」(89)

「……何が、どうなっているの?」
 飯島舞花が、荒野に説明を求める。
 孫子と四人組、あるいは、楓とテンの組み合わせは、見ていても非常に分かりやすかったのだが……。
「茅さん、姿をくらますのが得意だから……楓おねーちゃん、見失いがちになって、戸惑っている……」
 荒野ではなく、胡座をかいているガクが、舞花にそう教える。
「楓も……気配を読むのは、おれより得意なぐらい、なんだけど……」
 荒野が、ガクの言葉にそう補足した。
 いわれた、舞花は、「ああ。年末の商店街で突然消えた、あれか」と声を上げた。
「……で、今は、二人とも姿を消したまま、鬼ごっこをやっている、と……」
 ……こいつも、たいがいに順応性は高いよな……と、荒野は思いつつ、さらに説明を加える。
「……楓の方は、時折、わざと隙をつくっているけど……茅が、そういうのに、食らいついてこない……」
「……ボクたちと楓おねーちゃんのパターンと相似形だね……。
 体力とかに劣る茅さんが、遥かに強い筈の楓おねーちゃんを、翻弄している……」
 胡座をかいているガクの後ろに立ったテンが、興味深そうに成り行きを見守っている。近く、茅と対戦する予定になっているガクにとっては、茅の手口を見極めるいい機会でもあり、勢い、それだけ真剣にみることになる。
「……勝てそうか?」
 荒野が、テンに問いただした。
「正直……やってみなければ、わからない……。
 あの分だと、まだまだ隠し球、もっていそうだし……」
 テンは、ゆっくりと首を振る。
「でも……仮にボクが、茅さんに負けたとしても……それは、身体能力に劣る相手と対峙しても、やりようによっては十分に勝てる、って証明されるってことで……それはそれで、いい事んじゃないかな……」
 テンの答え方は、自分たちの問題をもっと広い視野から見直す冷静さを含んでいた。
「……ああ……」
 そんなテンの態度を、荒野は、可愛げはないが……頼もしくは、ある……と、思う。
「そういうことには……なるな……」
 こちらの様子が気にかかるのか、孫子と四人組までもが動きをとめ、荒野たちの周囲で見物しはじめた。
「……楓が……押されてるようにみえるのですけど……」
 孫子は、目をすがめながら、賢明に二人の行動を追おうとしている。
「楓も……甘いところがあるからな。茅の隙をみつけても、決定的な攻撃を行っていない。
 かわりに、茅の方は、楓を完全にたたきのめす気でやっている。
 気力の差も、あるだろう……」
 荒野がそう解説すると、孫子は露骨に鼻白んだ顔をした。
「あの子……いつか、その甘さが、命取りになるのではなくて?」
「その恐れは、十分にあるけど……」
 荒野も、ため息をついた。
 もともと……素直すぎて、駆け引きや心理戦に弱い……という欠点を除いても……楓は、一族の仕事に従事するには、優しすぎるのだ……。
「所詮……本人の問題だからな……」
 そうですわね……と、孫子は、不機嫌な声で短く返答した。

 結局、その日は、いつまでも決着がつかず、だらだらと鬼ごっこを続けていたので、茅が肩を大きく上下させはじめるのを確認してから、荒野が、
「……そこまで!」
 と宣言した。
 長いようでいて、実際に鬼ごっこがはじまってから、五分ほどしか経過していない。
 荒野の制止の声が響くと、茅は荒い息をついて、その場にへたりんだ。
 楓も、その場にへたり込みはしなかったものの、顔中に汗をかいている。
「……楓!」
 そんな楓を、荒野は叱責した。
「もっと真面目にやれ!」
 楓は、小さく「はい! すいません!」と叫んで、荒野に向かって頭を下げた。
「茅は……」
「……体力が、全然足りないの……」
 楓以上に汗まみれになりながら、地面に座り込んだ茅が、荒野の言葉を遮るように、いう。
「それと……素手だったから、よかったけど……楓が投擲武器を使ったら、大体の方向に、段幕を張られて、終わり……」
「……その通りだ」
 出鼻をくじかれた形の荒野は、頷いた。
「茅は……今の時点では……危険が迫ったら、ひたすら逃げてまわることだな……」
 それなら……まだしも、なんとかなるかもしれない……と、荒野は、思う。
 荒野にしてみれば……茅の、実力に不釣り合いな闘志が、一番危うく見える。
「……テン。
 茅との戦い方、しっかりと考えておけよ……」
 最後にそういって、荒野は、
「あんまり遅くなってもあれだし、今日はもう帰ろう……」
 と、みんなに言い渡した。

「……って、わけでな……」
 登校時、飯島舞花は、途中から合流してきた玉木に、さっそく今朝の「練習光景」を説明する。玉木だけではなく、その場にいなかった樋口明日樹と大樹、それに栗田精一も、かなり興味がありそうな顔をして舞花の話しを聞いていた。そばにいた香也の耳にも、当然舞花の話しは入っている筈だが、こちらの方は目だった反応を示さないので、興味の有無さえ定かではない。
「……あれ、絶対、撮影のし甲斐あるって……」
「って、いっても……全員、トレーニングウェア姿だぞ……。
 映像としては、しまらないんじゃないか?」
 慌てて、荒野が舞花の話しを遮る。
 これ以上玉木に、身辺をいいように引っ掻き回されたくはない……というのが、本音だった。
「……ああ……」
 ……ふぁ……と欠伸をしながら、玉木は手をぱたぱたと振った。
「そういう、朝早いのは、パスって方向で……。
 それに、そういうの撮影なら、これから本格的にはじめるし……」
 荒野の危惧とは反対に、玉木は、あっさりと早朝の撮影を蹴った。
「それに、その手の撮影なら……これから、おおっぴらにすることになっているし……」
 にししっ、と玉木は笑う。
「……おおっぴらって?」
 玉木の反応に、舞花がいぶかしげな声をあげると、
「シルバーガールズ!」
 玉木は元気よく、舞花には意味不明な返答をした。

「……ねぇねぇ、荒野さん……」
 代わりに、身を乗り出してきたのは、樋口大樹である。
「その朝の、おれもいっても構わないっすかね?」
「……別に、いいけど……。
 学校の部活なんて、目じゃないくらいにハードだぞ? おれたちのは……」
「……やっぱり、やめときます……」
 大樹はきっぱりと、前言を取り消した。

「……なんだか知らないけど……また、おにーさんがらみで変な企画動かしてるのか……」
 舞花は、玉木を問い詰めている。
「そんなようなもんだよ。
 まあ、見ていたまえ! すぐに実物が拝めるから……」
 玉木は、大きく伸びをしながら、舞花にそう答えた。



 
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彼女はくノ一! 第五話 (172)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(172)

「……カニだって? まかせろ! カニ料理の精髄をみせてやる!」
 とかいって、三島百合香が駆け込んでくる。
 香也が帰宅して、一緒にいた樋口明日樹も誘われる。
 玉木玉美、徳川篤朗、徳川浅黄が、タクシーに同乗して来る来る。
 少し遅れて、自転車で孫子とテンが帰宅する。
 バイトから、羽生譲が帰って来る……。
 最後に、飯島舞花、栗田精一を伴って、荒野がくる。
 四人組は次々とやってくる初対面な人々に忙しく挨拶をしている気配がしたが、三島とともに台所にこもっていた楓には、詳しい様子は伺えない。

 いつもの通り、といえばその通りだが、これだけの人数が揃うと、がやがやと話し声が賑やかすぎて、いっそ煩いほどだ。
 台所に立っている楓に聞こえる範囲では、孫子がしきり「事業が……」といっている。玉木と羽生が、「商店街の空店舗を……」とか、話し合っている。徳川とテン、ガク、茅は、専門用語を交えてなにやら難しい話をしている。集合とか無限とか収束とかパターン認識とかの単語が乱れて飛んでいる。おそらく、プログラムのこと、というよりは、なにやら抽象数学方面の議論なのではないか……と、楓は推測する。荒野は、意外に声を発しない。時折、四人組に声をかけられて、それに答えるぐらいだった。香也は、居間にはいるようだが、全然声が聞こえない。ひょっとしたら例によってスケッチブックを広げているのかも知れないし、ぼーっと他のみんなを眺めているだけかもしれない……。
「……ねぇ……」
 楓と一緒に三島の手伝いをしてた樋口明日樹が、声を潜めて楓に声をかけてきた。
「あの人たち……やっぱり加納君関係の?」
「……ええ。そう、聞いています」
 明日樹にすれば……荒野や自分は、平穏な日常の割り込んで来た異分子だ。明日樹が、楓や荒野のことを目の敵にしている、ということはないが……それどころか、いろいろと親切にされている、とは思うが……時折、明日樹は、何かの拍子に、自分たちに対する警戒心を露にする。
 そして、そのような時、明日樹が確認をしてくるのは……比較的話しかけ易い、楓であることが多い。
「……そう……」
 明日樹は、頷いた。
 どこか、達観したような表情だった。
「あの……加納様は、もっと大勢の人達が、こっちに来るようなこと、いってましたけど……」
 いおうかいうまいか、少し迷ったが……結局、楓は、明日樹にそう告げた。
 隠し立てしてもいずれ知れることだし、だとすれば、できるだけショックを和らげるように、したほうがいい……。
「……なんで? こんな、何にもない所に?」
 明日樹は、軽く眉を顰める。
 不服……というよりは、「不審」なのだろう。
「加納様と、それに、茅様や、テンちゃんたちがいるからです」
 楓は、一気にそういいきる。
「一族の人達にとっても……今の状況は、かなり珍しくて、興味深いようで……手が空いている人達が、こぞって見物に来る、みたいな流れになっちゃって……」
「……って、ことは……何十人も、来るの?」
「現在、リストアップされている人達だけで、百名前後と聞いています……」
 楓は、荒野に聞かされた情報をそのまま告げた。
 それを聞いた明日樹は、数秒凍りついて、太いため息をついた。
 ちょうど、居間から、荒野が新参の四人に向かって「問題を起こすな」と注意している声が、聞こえて来る。
「まあ……いいけど……。
 あの分では、加納君が、悪い人はどうにかするんだろうし……」
 楓も……これからやってくる一族の関係者全てが、善良だったり扱い易い者ばかり……という幻想は、抱いていない。
「……ええ。
 悪い人が来たら……わたしたちが、責任をもってなんとかします……」
 ただし……荒野も、そうなのであろうが……周囲の住人に迷惑をかけるような者がやってきた場合は、体を張ってでも、それを止めるつもりだった。
「……そう……なんだよね……」
 楓の言葉に、樋口明日樹は、頷く。
「楓ちゃんにせよ、加納君にせよ……そういう人だとは、分かっているんだけど……」
 ……だけど……本当にそれだけ、で……事故や不祥事が、全て、避けられるものなのだろうか……と、いう続きの言葉は、樋口明日樹は、口には出さなかった。

「……しゃぶしゃぶに、テンプラに、もちろん、茹でカニ! さらに、茶わん蒸し、酒蒸しに、みそ汁!
 ……他にもいろいろあるぞ!
 遠慮なく食え、ガキども……」
 三島百合香の号令が響き渡ると、「いただきまーす!」の声ととともに、争奪戦がはじまる。
 しばらくは、みな、無言で食事を続けた。
 ……カニは、ヒトを無口にする。
「……そういや、センセ。こういう人達が、今後、どっかどっか来るんだってな……」
 しばらくして、三島にそう声をかけたのは、羽生だった。さすがに年長者だけあって、他の大半の連中よりもがっついていない。
「その話は、少しだけ荒野に聞いたけど……」
 三島は、自分の椀を啜る合間に、答えた。
「荒野の話しによると、一族といってもピンキリだからなぁ……。
 大半は、無害なやじ馬連中だと聞いているぞ……」
「……大半は、そうなんだけど……」
 荒野は、もぞもぞと身じろぎをした。
「……若干……扱いが難しい要注意人物とか……それよりもっと、遥かに危ないのも、混ざっている……。
 なんか、現場に出せない連中を片っ端からこっちに送って来たような具合で……」
「……危ないの、だって?」
 三島が、椀を置いて顔を上げた。
「もっと具体的に話しておけ……今のうちに……」
 荒野は、うつむいて、ため息をついた。
 あまり進んで話したくはない……というのが、態度から、まるわかりだった。
「危ないの……というのは、病的なサディストだったり、もっとひどいのだと、殺人狂だったり……。
 一族には、その手の人材も需要があるから活用している訳ですが……その中で、負傷して、現場に出れなくなったようなのも……このリストには、何人か、含まれています……」
 気は進まないながらも、早めにいっておいた方がいい、と判断したのか……荒野は、淡々と説明する。
「……とはいっても、このリストの中の、ほんの数名、なんですが……」
 荒野はそういって、ぱらぱらとプリントアウトの束をぱらぱらと捲ってみせた。
「……そんな剣呑なの、ほんの数名も混ざってりゃあ、十分だろ……。
 ん?」
 三島の視線が、冷たい。
「……加納……あなた……」
 孫子は、やれやれといった様子で肩をすくめた。
「上層部に……度量を試されていますわね……」
「たぶん、な……」
 荒野も、力無く、頷く。
「あぶないやつら、といったところで……今の手持ちの戦力で、押さえられないほどでもないし……。
 むしろ、おれが、そういう癖の強い人材を使いこなせるのか、どうか……じじいどもが、高みの見物を決め込んでいるんだろう……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(88)

第六章 「血と技」(88)

「……えっとぉ……」
 荒野に、テンと茅のことを託された楓は、困惑した。本格的に、他人に教える、というのも……楓にとっては、はじめての経験だった。
 幸い、いろいろと問題の多い茅は、先程から自主トレを続けている。
「……では……テンちゃん、軽く、組み手、いってみましょうか……」
「……素手で?」
 テンが、聞き返す。
「そう……ですね……」
 楓は、今までのテンの動きを振り返る。
 テンは、防御に自信がある戦い方をする。それは、自分に向かって来る大半の攻撃を、的確に弾くことができる……という、実績に基づいた自信から、なのだが……反面、棍や手足で攻撃をあしらうことが前提になっていて、細かい足捌きは、おなざりになる傾向があった。
「じゃあ……素手で、いってみまようか……」
 そこまで考えた上で、楓は、テンに向かう。
「……え?」
 テンが、はっと気づくと、楓の顔がすぐ目前にあった。
 慌てて飛びのこうとすると、その軸足を軽く払われる。
 テンは、ころん、と地面に転がった。

「……テンーッ!……。
 足使え、足ぃ!」
 胡座をかいて見物を決め込んでいたガクが、野次を飛ばす。
 ガクはガクで、
『……こうして、落ち着いて見ていると……』
 今までの見えてこなかった部分が、見えてくるもんだな……と、感心した。

 テンが起き上がり、態勢を立て直すまで、楓は攻撃をせずに待っていた。
 テンが構えを取ると、今度は、テンから見て左側に出現する。
「……このっ!」
 手で、楓の体を払おうとすると、逆に、その腕を取られた。次の瞬間には、がっちりと膝を決められている。
 そのまま楓が倒れ込めば……ガクの左肩は、あっさりと脱臼することだろう。
「……動きが、直線的です」
 楓は、昨日、荒野にも指摘されたことを、テンの耳元に囁いて、体を離した……。

 延々と続くテンと楓の静かな組合いを見物していたガクは、
『……こういうことか……』
 と、妙に納得していた。
 確かに……パワーもスピードも、単体の要素を取り出せば、ガクの方が、楓よりも数段上手だろう。しかし、実際に組み合って見ると……。
『……ボクたちは、今のままでは……勝てない……』
 ガクは、テンと楓の今の様子を見て、そう判断する。
 楓の動きは、テンのそれに比べると、遥かに精妙で臨機応変……いくら、力や速度で勝っていても、目標物に接触できないようでは、どうしようもないのだ。
 楓の方は、テンの動きを読んで、先手先手に動いて、いいように翻弄している……。
『ハードウェア的な性能差では……』
 乗り越えられない壁を、テンは、楓の動きから感じた。
 楓で、あの動きができるのだとすれば……もっとベテランの忍は、いったいどのような動きが可能なのか……。
 楓のあれが、一族の標準的な動きだとすると……。
『たとえ、相手がよれよれの年寄りだとしても……』
 勝てる気がしないな……と、ガクは思う。
 そもそも……自分たち三人の身体能力は……ヒトの形の中では、オーバースペックもいいところなのだ。人間一人を殺すのには、自分たちの過剰なパワーなど、いらない。
 ……普通の一般人の、脆弱な力でも……やり方さえ、心得ていれば……簡単に、壊すことができる。
 必要なのは、そのための技術や知識であり……。
『一族は、何十世代にも渡って、そういうノウハウを蓄積してきたんだ……』
 そういう相手に向かって……多少、身体能力が秀でていたとしても……それほど突出したアドバンテージには、ならないだろう……と、ガクは、結論する。
『ボクは……ボクらは……』
 一族の技を吸収し、身につけていかなければならない……と。
 そして、今後、敵対することが予測される襲撃者たちが……ガクたち以上の能力を持っている、と予測しながらも、荒野が、そのことを過剰に警戒していない理由も、飲み込めた。
 個体の、フィジカルな能力による優位性、など……いくらでも、埋め合わせることが、可能である……ということを、荒野は、肌で知っているのだ。
『……早く、怪我……直さなくちゃ……』
 ガクは、自分の手を見つめる。

「……随分、派手にすっ転んでるな、あの人たち……」
 飯島舞花が、目の前の展開している光景を、そう論評した。
「才賀のあれは……古流とか古武術とかいうやつかな?
 ほら、すり足だろう?
 甲冑とか着込んだままの相手を、倒すための技だな……」
 実家で伝わっているものを、仕込まれていたのだろう……と、荒野は推測する。
 その性質上、手足による打撃よりも、投げ技や関節技が主体になる。もっとも、四人は、孫子が関節技を使う間も与えず、次々と挑んでは景気よく投げ飛ばされているが……
「……あの四人組も……あまり真面目に、技の鍛練をしてこなかったクチだな……」
 一般人以上の能力を、生まれながらにしてもっていることが多い一族の中では……そうした「本人の努力不足」により、半端な、使えない人材に振り分けられるパターンは、実は多い。
 何故なら……「生来の資質にプラスして、厳しい自己鍛練を欠かさなかった人材」の方に、優先的に仕事が回されるからだ。
 どんな社会にも競争はあり、競争があれば、落ちこぼれも生まれる。
 四人組は、自分自身の怠惰によって、仕事にありつけなかったクチだな……と、荒野は判断する。
 四人で一斉にかかりながら……孫子一人で、順番に、いいように投げ飛ばされていた。
『……彼らにとっても、いい経験だろう……』
 テンのような特別製に、ではなく、孫子にいいようにあしらわれた彼らが、今後、どのように振る舞うのか……。
 一層精進して、一族の中で、より上位のヒエラルキーを目指すもよし、「適性なし」と判断して、足抜けして一般人として暮すもよし……どちらにせよ、「いい経験」には、なる筈だ……と、荒野は思う。

「……楓……」
 テンとの組み合いに夢中になっていると、不意に、背後から茅に声をかけられた。
「そろそろ、茅の相手もして欲しいの……」
 そういう茅は、寸前まで走っていたのか、息があがっている状態だった。
 一瞬、返答を躊躇した楓だったが、すぐに思い直す。
 よくよく考えてみれば……茅がはやめにあきらめてくれた方が、楓も荒野も安心できる訳で……。
 だから、楓は、テンに声をかけて、テンとの組み合いに区切りをつけ、茅に向き直る。
「……それでは……来てください」
 楓は、茅にいった。
「やる以上は……手加減をしません……」
 瞬間……茅の姿を見失いそうになる。
 楓は、慌てて全身の感覚を研ぎ澄ませ、茅の気配を探る。
 そして、いつの間にか背後を取られていたことに気づき、自分から、前方に転がり、あわてて茅から距離をとった。
 茅は……正面から戦うのには向いていなかもしれないが……いい、暗殺者には、なりそうだな……と、楓は思った。
 それから、気を引き締めて、茅の動きに集中する。
 真面目に取り組まないと……楓でも、優位を保てそうになかった。



 
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彼女はくノ一! 第五話 (171)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(171)

 乗ってきた単車については、「後で取りにきます」ということで、四人は、引き続き、山ほどの荷物を抱えてよたよたとした足取りで、楓たちの後をついてきた。
 商店街の外れで、
「……ちょっと待って……」
 と茅が皆の足を止める。
 まだこれ以上、荷物を増やすのか……と顔を強ばらせる四人組をよそに、茅はとことことマンドゴドラの中に入った。
「荷物を持ってくれたお礼に、ケーキを御馳走するの……」
 店に入り際に、そう言い残して、茅は中に消え、五分もしないうちに大きな箱を抱えて外に出てきた。
「……ケーキ、っすか……」
 鈴木君が、呟く。
「甘いもの、駄目?」
 茅が、首を傾げる。
「いいえ! 滅相もない!」
 身を乗り出して、茅の言葉を否定する田中君。
「疲れた時には、甘いものが一番っす! なっ! みんなっ!」
 いかにも軽薄な笑顔を浮かべて、同行者に賛意を求める。
 ……楓は、田中君のキャラは、実に分かりやすい……と、感じた。もちろん、口に出してはなにも言わなかったが……。

 全員でてくてくと歩いていって、まずは楓が鍵をあけて、狩野家の居間に入る。一旦そこで荷物を置いて、荷物を狩野家で使うものと荒野たちが使うものに二分し、後者を、再び荷物持ちに持たせる。
「……着替えて、お茶の準備をしてくるから、楓は、お湯を沸かしておいて……」
 といいのこして、茅は、お供の衆を引き連れて、すぐに席を立った。
 ……なんか……茅は、他人に命令をする姿が、様になっているな……と、楓は思った。
 つい今しがた、顔を合わせた「お供の衆」も、特に意義を唱える訳でもなく、それが当然、といった顔をして、唯々諾々と茅の言葉に従っている。
 佐藤君、田中君、鈴木君が茅の後に従い、楓よりも年下に見える高橋君が残った。
「……なにぃー……。
 誰か、お客さんが、来てるの?」
 眠そうに、目を擦りながら、茅と入れ違いにガクが入ってくる。

「……そっかぁ……」
 高橋君から一通り、今日の出来事について聞いたガクは、盛大な欠伸をした。
「一族の人達がどんどんくるようになるのなら……ますます、一日でも早く、傷を直したいなぁ……」
 高橋君が話している間も、楓は、制服を着替えたり、薬缶に水をいれて火をかけたり、と忙しい。茅がお茶をいれる、ということは、茶器を暖めるためのお湯も用意しなければならない、ということでもあった。
『……茅様、またあの格好で来るんだろうな……』
 そんなことを思いながら、居間に戻った楓は、炬燵の中に手足を潜り込ませる。
「……あっ。羽生さんにも、お夕飯の用意できてるって連絡しておかないと……」
 楓は、携帯を取り出して、簡単な文面のメールをうちはじめた。
「……今日は、なんなの?」
 高橋君の話しに聞き入っていたガクが、楓に尋ねる。
「そこの高橋君たちが、カニを沢山、買って来てくださったんですよ……」
「……カニーッ!」
 楓が答えた途端、ガクは、絶叫した。
「なに、それ! ボク、食べたことないよ!
 楓おねーちゃん、それ、どうやって食べるの? おいしい?」
 ガクにまくしたてられ、楓は少し引き気味になる。
「……そ、そういえば……お料理の方は……茹でる、くらいしか思いつかないですねぇ……誰か詳しい人に……」
「……センセ! 先生、呼ぼう! あの人、こういうこと詳しいよ!」
 ガクは、楓の返事を待たず、自分の携帯を取り上げて、電話をかけはじめる。
「……お邪魔するの……」
 その時、玄関の方から、茅の声が聞こえた。
 居間に入って来た茅は、案の定、メイド服姿だった。
 高橋君が目を丸くしているのにも構わず、茅は楓に問いただした。
「……楓。お湯は?」
「もうすぐ、沸く頃です。たっぷり用意していますよ……」
 茅は、こくりと頷くと、茶器の入った箱を抱えたお供を連れて、台所の方に向かう。
 お供を従えている方も、従えられている方も、すでにその状態が当然、という顔をしている。
『……な、なんだかなぁ……』
 と楓は思った。
「……ね、マンドゴドラの箱が、ここに追いてあるんだけど……」
 ガクが、炬燵の上に置いてある箱を指さして、声をあげる。今すぐ開けて、中身をいただきたい……という願望が滲み出た声だった。
「……それは、荒野の手下を餌付けするために買って来たものなの……」
 楓は……時折、茅の発言の、どこまで本気でどこまでが冗談か、判別できなくなることがある。この時が、そうだった。
「……お夕飯の前ですよ……。
 今食べたら、カニが入らなくなるのでは……」
 楓が、ガクを窘めようとする。
 が、ガクは、
「……ボク、この程度なら、ぜんぜん平気だけど……」
 と、キョトンとした顔をしている。
「……お、おれだって! ケーキくらい!」
 すると、何故か高橋君が、ガクに対して、対抗意識を剥き出しにした。
「……あ、あの……」
 楓は、今度は高橋君を、宥めようとする。
 以前、ケーキの大食い大会になった時も……ガクたちは、楓や孫子よりも大量のケーキを平らげ、なおかつ、平然とその直後に夕食も食べていた。
「ガクちゃんたちは、その……そういう所は、かなり特殊ですから……」
 張り合うこと自体に、意味がない……と楓が、説明と説得をすればするほどに、高橋君は、どんどん頑なになっていく。
「……楓さん、楓さん……」
 鈴木君が、楓に向けて手を振った。
「こいつ……工場で、同じくらいに見えるテンさんに、こてんぱんにやられたんで……意地になってるんですよ……」
 なるほど……確かに、高橋君は、テンやガクたちと同じくらいの年頃に見える……。
「とりあえず……お茶が入ったの……」
 茅が、湯気の立つティーカップを全員に配りだした。
「……砂糖もレモンも用意しているけど、最初の一口は、ストレートで飲んでほしいの……」
 半信半疑の顔でカップを手に取った四人組は、一口はカップの中身を啜った途端、驚愕の表情を浮かべた。
「……あ……」
「こう……ふわぁっと……香りが……」
「……口の中に広がって……」
「紅茶って……こういうもんだったのか……」
 口々にそんなことを口にする四人組。
「……このケーキも……」
 茅は、マンドゴドラの箱の梱包を解いて、中身を見せる。
「普通のとは、違うの。
 マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ。
 味わって食べなければ罰が当たる逸品。くだらない意地の張り合いに使うと、マンドゴドラのマスターが泣くの……」
「……お言葉は、ごもっともですが……」
 田中君は、額に冷や汗を浮かべている。
「これ……どのみち、食前に気軽にぱくつけるって代物ではありませんよ……。
 ……な、高橋!」
「……うっ……」
 高橋君の顔色は、すっかり青白くなっている。
「マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ」は、その名の通り、基本、チョコレート・ケーキなのだが……ベースの上には、こんもりと生クリームだのホイップ・クリームだのが盛り上がっていた。おまけに、一片のサイズも、かなり大きい……。
 かなりの甘党でないと、食べ終わったころ胸焼け必須、といった代物だった。
「……第一、これは、四人に今日のお礼として買って来たものなの。ガクの分は、明日の帰りにでも貰って来るから、今日は我慢するの……」
 茅がそういいかけると、
「いや……おれの分を、ガク君に進呈しよう……」
 ゴツい顔をした佐藤君が、そういいだした。
 顔全体に、冷や汗を浮かべている。
「おれのも……やるよ……。
 なんだったら……高橋に、でもいいけどさ……」
 田中君も、今までの軽薄さを拭い去り、いつになく真剣な顔をして、そういう。
「……って、いうか……やっぱり、夕食の後にした方がよくはないか? あるいは、持って帰るとか……」
 鈴木君が、高橋君にそういった。
 高橋君も、蒼白になってコクコクと頷く。
「……なに?
 みんな、いらないの? じゃあ、ボクだけ先に頂いちゃうね……」
 ガクは、手づかみで「マンドゴドラ謹製、一日百個限定、バレンタインスペシャル、ラ・チョコラーテ」をつかみあげ、あっという間に一個、平らげて見せた。
「……お前、最強だな……」
 高橋君は、ガクに向かって、そういった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(87)

第六章 「血と技」(87)

「てか……人数、増えているし……」
 翌朝、着替えた荒野と茅がマンション前まで出向くと、テン、ガク、楓、孫子といったいつもの面子に加え、昨日の四人組と、飯島舞花までもが勢揃いしていた。
「まぁまぁ、おにーさん。
 大勢の方が、楽しいし……」
 舞花は、ストレッチをしながら荒野をいなす。
「ま……いいけどな……」
 今までの経験から、文句をいうのも無駄だ、と知っている荒野は、人数が増えた件には、それ以上触れなかった。
「「「「……お願いしまーす!」」」」
 荒野がなにを考えていたのかも知らず、四人組は、声を揃えて頭を下げた。

「……なんか、部活の朝練みたいだな……」
 ストレッチを終え、全員で走りだすと、舞花は荒野に話しかける。
「水泳部も、朝練をやるのか?」
 荒野は聞き返した。
「……やらない、やらない。
 うちの部員、そんなに熱心なのいないし……朝練やるなんていったら、反乱起きちゃうよ……」
 荒野たちが通うのは、ごく普通の公立校である。スポーツで全国区に名前を売るような野心を持つ教員もいないから、運動部の活動も、勢い、そこそこ止まり、という程度になってしまう。
 舞花は、そんなことを荒野に説明する。
「部活に熱心なヤツは、それなりにいるけどね……。あくまで、そのスポーツが好きでやっているヤツがちょこちょこいる程度で、そういうのは、少数派かな?」

 いつものように、過rだを暖めるためにあまり早くないペースで橋を渡り、中州の河川敷に降りる。
 茅は、早速、全速力でのダッシュを開始する。
「茅ちゃん……短距離、意外に、早いな。
 タイム図ったら、結構いい線いくかも……」
 舞花が、そういう。
 学年が違う舞花は、茅がまともに運動する所を見るのは、これが初めてだった。普段の茅のイメージからして、このように体を動かしているところを、想像するのが難しい。
「一般人しては、な……」
 荒野は、素っ気なく答えた。
 茅自身が求めているのは、自分の身で一族に対抗できるほどの力を持つこと……で、現状を鑑みれば、荒野には、かなり遠い希望のように思える。
「……楓!」
 荒野は、楓に声をかける。
「テンと茅を、頼む!」
 すかさず、
「……えー! ボクはぁ?」
 と、ガクが不平をならした。
「お前は、見学。
 傷が塞がりきるまでは、見ているだけにしろ。それに、力を抜くことも大事だと、昨日いっただろう……。
 いい機会だから、自慢の力を使わない戦い方でも、静かに考えてろ……」
 荒野は、ガクにはそう言い渡しておいた。
 三人の中で、先天的な資質に依存する度合いが最も大きいのが、テンであり……それは同時に、弱点にもなりえた。
「……力を使わない、戦い方?」
 荒野の言葉がよほど意外だったのか、ガクは、かなり面食らった表情をしている。
 しかし、すぐに思案顔になり、
「そう……か。そう、だね。
 いろいろな方法を身につけておいた方が……応用が、効くか……」
 とかぶつぶつ呟いたかと思うと、そのまま地面にどっかりと胡座をかいた。
「わかった!
 しばらく、傷が癒えるまで、見て、考えるだけにしておく!」
 このような素直さは、ガクのいい資質だな……と、荒野は思う。
「あと、は……」
 荒野は、残った面子を見渡した。
「……君たち、か……。
 じゃあ……ちょっと、軽く手合わせしてみようか?」
 荒野は四人組に掌を指しだし、ちょいちょい、と手招きをした。
「君たちの実力も、知っておきたいし……面倒だから、全員でかかってきていいよ。武器の使用も可。こっちは、もちろん素手で、手加減するから……」
 四人組は、しばらく、困ったような顔をしてお互いの顔を見合わせていたが、すぐに真剣な表情で頷き合い、荒野を取り囲む配置についた。
 そして、四方から一斉に荒野に躍りかかり……気がついたら、全員、地面に転がっていた。
「……なるほど。実力は、だいたいわかった……。
 どうする? 君たちさえよければ、軽く鍛え直すこともできるけど……その代わり、今の状態から、どうにか使い物になるレベルにまでもっていくには……かなり、きつい鍛錬が必要になるよ……」
 平素通りの口調で、荒野は淡々と告げる。
「……見てろって……まるで、見えないじゃん……」
 その時になって、荒野たちの方に目を凝らしていたガクが、呆然と呟く。
 ガクには……荒野の動きが、まるで視認できなかった。
 ガクにも感じ取れないほど、完全に気配を絶ったのか……それとも、動きが速すぎて、ガクの目では追えなかったのか……。
「ガクちゃん……今の、何?」
 ガクと同じく、荒野の方をみていた舞花も、呆然としている。
「おにーさん、消えなかった? で、他の人たちが、ころん、って転がっていて……」
「相変わらず……非常識ですわね……」
 孫子も、眉間に皺を寄せている。どうやら、同じように荒野の動きを感じ取る事が出来なかったらしい。
「……この人たちよりも、才賀の方が、まだましかなぁ……。
 どう、才賀。
 この人たちと、ちょっと手合わせしてみる?」
「……荒野さん、冗談きついっすよ……」
 佐藤君がゴツい頬を紅潮させる。
「荒野さんになら、ともかく、おれたちが、とっくみあいで才賀衆に遅れをとるなんて……」
「……と、佐藤君は、いっているけど……。
 才賀、こういう偏見は、放置しておかない方がいいと思わないか?」
「……乗せられて、差し上げますわ……」
 孫子は、やれやれ、といった態で、肩をすくめた。
「佐藤さんという方……それから、他の方でもいいですけど……。
 一族の技も含めて、全力でかかってきても、よろしくてよ……」
「……いきます!」
 孫子のその言葉を聞くと、田中は、すぐさま立ち上がって、直立不動の姿勢になる。
「一番、田中太郎! 行かせていただきます!
 ……才賀さ~ん!」
 田中君は、相互を崩しながら気配を絶ち、孫子に抱きついた……と、思ったら、投げ飛ばされていた。
「……あー……」
 荒野は、若干白けた気分になりつつも、改めていい添える。
「才賀……姉に、若干の術理を習っているから……あまり巧妙ではない気配絶ちくらいなら、見切れるから……」
「荒野さん……遅いっす……」
 いやというほど地面に背中を打ち付けた田中君は、大の字に寝そべりながら、恨めしそうな目つきで荒野を見上げた。




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彼女はくノ一! 第五話 (170)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(170)

 茅と共に学校を出たところで、茅の携帯が鳴った。茅が出て、歩きながらしばらく話す。それから、茅のほうに向き直り、
「……才賀から。
 一族関係のお客が来るから、玉木の家で手土産を見繕ってやってくれ、と、いわれたの」
 と、いう。
「……一族関係の、お客……ですか?」
「例の、移住者みたい。テンに挑戦して、いいようにあしらわれたそうなの。徳川の工場を出て、商店街の方に……」
 茅がそういいかけた時、二人乗りの改造バイク二台が、けたたましいエンジン音をとどろかせ、二人のすぐ横の車道を通り抜けた。
「……すとぉぉっぷ!」
 後部シートに座っていた小さい背中が、大声を張り上げた。
「今、AAA監視対象と加納が保護している子、いたよ!」
 その声と同時に、二台の改造バイクが急ブレーキをかける。
 ぞろぞろと四人の特攻服が降りてきた。
「なにか……用ですか?」
 楓は、表情を引き締めて、茅の前に移動する。
「……荒野さんとこの手の者っすか?」
 四人の中で一番ごついのが、一歩前に進み出た。
 それから、不意に腰をかがめ、
「あのぉ……うお玉って魚屋さんの場所、教えてほしいんだけど……」
 と卑屈な声をだした。
 今にも揉み手をせんばかりの勢いだった。

「……はぁ……みなさん、もうテンちゃんたちと、その、接触、してきたんですか……」
「ええ。あっさりとやられてきました……」
 ゴツイの……佐藤と名乗った青年が、頷く。
「……おれら、二宮だから、自分より強い人には滅多なことでは逆らわんっす……」
「……あのおねぇさん、きれいだったなぁ……」
 佐藤の隣で遠い目をしている青年は、田中と名乗った。
「この人のあれは、一種の病気ですから、気にしないでください」
 どうみても田中や佐藤よりは一回りくらい年少の少年が、楓たちに囁く。
「……すみませんねぇ。付き合っていただいて……」
 ほっぺたが丸くて、目が細い青年が、楓たちに頭を下げる。年少の方が高橋、年配の方が鈴木と名乗っていた。
 格好はアレだけど、話してみると気さくで礼儀正しい人達だった。
「……いいえ。どうせ、商店街には寄っていく予定でしたし……」
「才賀に、思いっきり高いものを買わせろ、っていわれているの……」
「……茅様!」
「いいですよ。別に。
 幸い、金はありますし、おれたちの引っ越し祝いも兼ねて、ぱぁっーっといきましょう!」
 田中君が、軽薄な声をだしはじめる。
「……お前はすぐそれだ。
 あのな。これから加納の直系にご挨拶にいくんだぞ。もう少し気を引き締めてだな……」
 佐藤君がぶちぶちと田中君をたしなめはじめるが、当の田中君の方は、聞く耳をもった様子がない。
「……この二人はいつもこんなんだから、気にしなくていいですよ……」
 四人の中で、背も年齢も一番少ない高橋君が、楓たちにそう告げた。
「……皆さん、こちらに越してくるんですか?」
 楓が、尋ねる。
「ええ。まあ……。
 ぼくは、鈴木さんのアパートに転がり込みます」
 高橋君が答える。
「……おれたちは、しばらく近くにあるウィークリーマンションにいます。これから、適当な職と宿、探しですね……」
「……住所については、長老経由もいくつかをご紹介いただいているので、あまり心配していませんが……問題は、就職先ですね……」
 田中君と佐藤君は、そんなことをいいだす。
「……それは、たいへんですねぇ……」
 楓としては、当たり障りのない返答しかできない。
「でも……そんなにまでして……どうして、ここにやってきたんです?」
 楓の感覚でいえば……たとえ末端だといっても、六主家の血筋なら、それなりに一族経由で仕事を得ることも可能な筈であり……それをおして、このような田舎町にこなければならない理由が、楓には想像できなかった。
「荒野さんがはじめたことに対する興味……というのが、表向きの理由ですが……」
 鈴木君が、自分の右腕を見つめながら、答える。
「ぼくたちは……半端なんですよ。
 一般人の範疇には収まらない。けど、一族の中には、もっと卓越した能力の者がごろごろいる……だから、せいぜい、一般人にもこなせるような半端仕事しか回ってこない……。
 でも、それじゃあ……こんな体に生まれてきた甲斐がないじゃあないですか……」
 うにょっ、とした顔に似合わず、鈴木君のいうことは、理路整然としてた。
「……そこに、荒野さんです。
 荒野さんがやっていることは……要するに、一般人と一族の垣根を、取っ払おうっていうことでしょ?
 年寄り連中や、すでに現場で働いている人たちは、今まで維持してきた秩序を破壊しようとする動きを、冷笑的に見ている者が大半ですが……若い者を中心にして、荒野さんがみせる可能性に興味を持っている者は、今の時点でもかなり多いし……徐々に、増えています……」
 鈴木君は、話しているうちに、徐々に言葉に熱を帯びてく。
 荒野は……本人の意志はさしおいて、一種のオピニオンー・リーダーと目されているらしい。
「……今日、荒野さんの友人、何人かと話して見ましたけど……なんというか、みんな、一風変わってるっていうか、流石は荒野さんの友人、って思いましたね……」
 これは、田中君。
「ああいう人達に囲まれていたら……これならなんとか出来るのかもしれない、と思ってしまうの、分かる気がしました……」
 これは、高橋君。
「……あれ、みんな、荒野さんと同じ学校の生徒でしょ?
 あの年齢っていったら……おれ、何も考えていなかったぞ……」
 これは、佐藤君。

 そんなことを話している間に、商店街に到着。
 商店街の人込みをみた四人は、絶句した。
 人出に、ではない。雑踏の大半を構成する人々の、ファッションに、だ。
「……な、何かのお祭りですか、これ?」
「似たようなものなの。
 バレンタインのゴシック・ロリータ・フェアなの。先週から商店街主催でやっている、人集めのイベントなの」
「これが……日を追うにつれて、人が多くなって……毎日のお買い物も一苦労で……うお玉はこの先ですからね! ちゃんと、はぐれずについてきてくださいね!」
 茅と楓は、そういいながら、すいすいと慣れた様子で人込みをかき分けて行く。遅れまいと、じたばたと後を追う四人。
 制服姿で鞄を持ったままの楓と茅、それに、特攻服の四人、という珍妙な組み合わせは、否が応でも人目を引いた。加えて、茅は、この商店街ではしっかりと顔を覚えられている。立ち寄る店、一軒一軒で背後についてくるガラの悪い一団について聞かれ、その度に、茅は、臆面もなく「荒野の手下なの」と答えた。
 四人組は、「ちょうど人数がいるから」という理由で、茅の荷物持ちとして散々、あっちこちに連れ回され、見世物にされた上、ようやく最後に玉木の実家であるうお玉に到着した。
「……この人たち、このお店で一番いいものを買ってくれるといっていたの。お金は、あるそうなの……」
 うお玉の主人、ということは、玉木の父親でもある訳だが、そのおやじさんに茅は、開口一番そういって、四人組を指さした。
「……へい、らっしゃい!
 そうだね、今日は、カニのいいのが入っているよ! まとめて買うとかなりおまけするから!」
 ……なんとも居心地の悪い時間を過ごした後だったので、四人は、うお玉の主人が、「これも、これも、こいつもおまけだ!」とカニを何杯も包むのを制止する気力も、残っていなかった。

「……これで、この辺では悪いこと、できないの。
 悪いことをしたら、荒野の顔を潰すことになるの……」
 後に、茅は、四人組を連れ回したことについて、このように語った。
 周辺住人に四人顔を覚えさせるのが、目的だった、と。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(86)

第六章 「血と技」(86)

「……じゃあ、わたしたちは帰ります。
 今日はごちそうさまでした……」
 飯島舞花が立ち上がったのを機に、樋口明日樹も帰るといいだし、香也が送っていくことになった。
 荒野は、残った面子を見渡す。
 カニ料理を肴に酒盛りをはじめる荒神、羽生譲、三島百合香。事業計画がどうのこうのと打ち合わせをはじめる玉木と孫子。徳川とテン、ガクはパソコンの画面を覗き込んでなにやら理解不能な単語を並べ立てはじめる。茅と楓は、浅黄とお絵かきをして遊んでいた。
 ……居場所がない……と、感じる、荒野だった。
「……おれも、帰るか……」
 そこで荒野も、プリントアウトの束をまとめてすぐに腰を上げ、帰宅組の後を追った。

「あ。おにーさんも、帰ってきたのか……」
 マンションのエレベータ前で、飯島舞花たちに追いついた。
「……なんか……残ってても、やることなくてな……」
「あの集団だとな……徳川も玉木も、特殊だし……才賀さんあたりがそれに拍車をかけてる……」
「あの中に混じっていると、おにーさんがマトモにみえるよ」
 舞花がそうお笑ったところで、エレベータが開いた。三人で乗り込む。
「栗田君は、今夜も泊まっていくの?」
 荒野は、試しに尋ねてみる。栗田精一が飯島舞花のマンションに泊まり込んでいくのは、日常茶飯事といってもいい。
「……いえ。平日ですし、今日は帰りますよ」
 栗田は、淡々と答えた。
「これ以上、ベタベタしていると、先々飽きそうだから、その辺はけじめつけてるの」
 これは、舞花。続けて舞花は、不意に真面目な顔をして、
「でも……マジな話し、徳川とか玉木とかは、おにーさんたちが来てからだな。
 本当に生き生きとし顔を、しだしたの……」
 とか、いう。
「ってことは……前は、そうじゃなかった?」
「うん。なんていうか……もう少し、鬱屈してた。
 例えば、玉木ちゃんなんか……少し前と今とでは、違うだろう?」
 舞花がそういったところで、エレベータが舞花の部屋があるフロアに到着、
「……じゃあ、また、明日」
 といって、二人はエレベータから降りた。
 一人になって、荒野は、少し考えてみる。
 いわれてみれば、確かに……玉木にしろ、徳川にしろ……学校の中では、異色の生徒である。それまで、それなりに窮屈な思いをしていても、決しておかしくはないのであった……。
 放送部員を初めとして、友人知人が多い玉木はともかく、徳川などは、完全に孤立していたのではないだろうか? 徳川自身は、孤立していても、さほど掻痒を感じない性格であるらしいが……。
 しかし、荒野たちのように、自分たちよりも常識はずれな存在が同じ学校に通うようになり……所を得る、という面は、あったのだろう。
 それが彼らにとって、一概にプラスであるとばかりは断言できないものの……それでも、荒野たちが「ここにいる」ということで、活躍の場を得ることができた者がいる……という事実は、少しだけ、荒野を元気づけたのであった。

 ドアを開け、キッチンに入って、コーヒーをセットして、荒野は、改めて、プリントアウトした紙束をみる。今後のためにも、この町にやってくる予定の一族関係者の、顔と名前くらいは覚えておきたかった。
 今日のような、実戦経験のないひよっこばかりなら、何十人やってこようが、なにも問題がないいのだが……。
 問題なのは、「未熟だから」現場に出されていない若年者よりも、肉体的精神的な損傷によりリタイアし、なおかつ「一族の術者」であることに拘りを持つ……という、手合いで……うまく利用して立ち回れば、テンたちの修練に利用できるかな、という気持ちも多少はあったが……その逆に、一歩対処を間違えると、覿面、地雷と化す……のも、この層の特徴である。
 そこで荒野は、プリントアウトの「略歴」を頼りに、「おそらく、無害」と「もしかすると、有害」、「要注意人物」の三種に分けはじめた。国内の術者とはあまり面識のない荒野は、当面、データの概略からしか判断できない。
 この段階では、六割強が「おそらく、無害」に該当し、「もしかしたら、有害」が二十数名、「要注意人物」は十名ほどになった。それぞれ、「ブルー」、「イエロー」、「レッド」と色で分類し、「レッド」と「イエロー」の顔と名前を頭に叩き込んだ所で、茅が帰ってきた。
 茅も自分の分の紅茶をいれはじめたので、荒野は「レッド」と「イエロー」のデータを茅に示し、茅にも顔を記憶するように勧める。明日になったら、テンたちにも、同様にするつもりだった。プリントアウトの元データは、荒野のパソコンの中にあるから、ハードコピーなら、何枚でも作ることが出来る。
「……こんなに早く来るとは、思わなかったものな……」
 冷めかけたコーヒーを啜りながら、荒野は茅にいった。
「連中も、それだけ時間を余していたんだろうけど……」
 四人組とも「術者」として活躍した経験はなく、うち、二名は「無職」である、という話しだった。彼らが、国内の、あの年齢層の術者の平均的な像なのかどうか、荒野には判断できなかったが……半端ながらも、一族としての能力を持ちながら、活躍の場を与えられていない……という者が、それなりの人数、存在するのだとしたら……確かに、それは……一族上層部にとっても、頭の痛い話しだろう。
 穿った見方をするのなら、公然と共存策を推進する荒野が出現したのを幸いに、そうした持てあまし組と問題児とを、一挙に押しつけてきたのではないか……という考え方も、可能だった。
 荒野がそうした推測を口にすると、茅は、
「そういう人たちも……仲間にするの」
 とだけ、答えた。
「荒野の器量が、試されていると思うの……」
「まあ……そうなんだろな……」
 荒野も、頷く。
 公然と、堅気との共存を説いた荒野に向かって、「……やれるもんなら、やってみろ……」という訓戒も含めて、こうした人材を押しつけてきた……ということは、十分に考えられる。荒野の知る限り、二宮中臣と野呂竜斎は、その程度のことは、平気でやってのける人格だった。
「確かに……説得して、仲間にできれば……こっちの戦力もそれなりに増えるわけだし……」
 荒野は、ため息をついた。
 荒野を取り巻くリスキーな状況は、まだまだ改善される様子を見せなかった。




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彼女はくノ一! 第五話 (169)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(169)

「……お兄ちゃんたち、弱すぎ……」
 四人組に続いて、テンが事務所内に入ってきた。両手で、パージしたプロテクタを抱えている。どうやら、全て回収してきて、遅れたらしい。
「ほら。これ、観て。完全に六角とか手裏剣、弾いている。
 表面が少し削られているくらいでしょ? これ、使い捨てのつもりで作ったし、本当ならのめり込む筈なんだけど……」
「……確かに、試作品にライフル弾をぶち込んだときは、かなり深いところまで潜り込んだのだ……」
 徳川篤朗が、テンの言葉に頷く。
「……でしょ?
 そのために、これだけの厚みをつけているわけで……」
 テンも、頷く。
「これじゃあ、性能試験にもならないよ……。
 それから、ボク、三人の中で一番弱いから……お兄ちゃんたち、他の二人には手を出さない方が無難だよ……」
「……随分、大きくはないかしら、それ……」
 孫子が、テンの手元を興味深げに覗き込む。
「わたくしの知っている防弾装備は、もっと薄くて硬い素材を、特殊な繊維で包んだ形をしていますけど……」
「あの、もこもこ、っとしたヤツでしょ?
 だって、あれ、動きにくいし……。これ、嵩張って見えるけど、実は見かけほど重くないんだ。
 ボクたちの場合は、自分で弾の方を追尾できるから、全身をくまなく覆うよりは、手足とか動かし易い場所にどっしりした素材をくくりつけておいた方がいいんだ……」
 テンの言葉通り、テンのプロテクタは、二の腕、脛、胸部などを覆うだけの代物であり、それに、ヘルメットが加わる。すでに観たように、必要がある場合には、火薬によって瞬時にパージでき、身軽にもなれた。
「防御には、頼り切らない……か……」
 そういって、孫子は、考えに沈む。
「一般人の防弾とボクらの防弾は、コンセプトが違うし……普通の防弾は、外部からの力を遮断するもので、ボクらの防弾は、外部からの衝撃を自分で受け止めるためのもの。
 一般人がボクらの装備をつけても、重すぎて動けないし……」
 ……一族の人たちが、全員、今のお兄ちゃんレベルだったら、こんなもの必要ないんだけどね……と、テンは、肩をすくめた。
「……これ、刃物も防げますの?」
 孫子は、テンに尋ねる。
「もちろん。
 刃物の場合、途中で食い込んで動かなくなる筈……」
 気泡混じりのセラミックと何種類かの合金、それに、特殊な繊維を織り込んだ、複層構造になっている……と、テンは説明する。
 刃物が食い込んだ場合、目の細かい強靱な繊維が刃に絡むような仕掛けになっている、という。
「……コスト、高いんじゃありません?」
「高いけど……トクツーさんは、兵器としては安い方だ、っていってた……。
 実際、孫子おねーちゃんのライフルほどじゃあないし……」
「……あっちは、精密機械。こっちは、単なる弾避けでしょう……」
「単なる……って、結構、凝ったハイブリット素材とかふんだんに使ってたりするんだけど……」
 ……孫子とテンの会話がどんどんマニアックな方向に向かいはじめたので、玉木や放送部員たちは動画の編集、徳川はやりかけの自分の仕事に戻りはじめる。
「……あのう……」
 四人組を代表して、どこか軽薄な印象を与える青年が、誰にともなく声をかける。
「おれらは……」
「……ん? 加納の所には、行かなくてもいいのか?」
 徳川は、いかにも面倒臭そうに対応した。
「関係者なんだろ? 挨拶くらい、していったらどうだ?」
「……じゃ、じゃあ……皆さん、お忙しそうなんで、おれたちは、これで失礼しますんで……」
「……ちょっと、お待ちなさい」
 何を考えたのか、玉木が、四人を止めた。
「お兄さんたち、カッコいいこーや君のところに行くの?
 お土産とか用意している? してない。そう……。
 実はね、駅前にうお玉って安くておいしい魚屋さんがあってね、そこで何か適当なもの買っていくといいよ。なるべくいっぱい買っていった方がいいね。カッコいいこーや君、この子たちが下宿しているお隣と懇意にしてるし、そこ、大所帯でお客も多いから、食料品は多すぎるってことはない……」
 しっかり、実家の営業行為を行う玉木であった。
 すっかり毒気を抜かれ、玉木のいうままに、「じゃあ、これから手みやげ買ってから、その家に向かいます……」と頷いて出て行く四人組。
「……あ。茅? 今、どこ? 学校を出たところ? そう。ちょうど良かった。
 今から、四人組の、やや外見に不自由な方々が、商店街の玉木の家に向かうから、よろしく指導してやってくださいませんこと? ええ。一族の人間です。それで、テン一人にさんざんやりこめたところで……。ええ。慰めるのは構いませんが、玉木の家のためにも、なるべくお金を使わせて、旨いものを仕入れてくるようにし向けてくださいませんこと……」
 四人組の姿がドアの向こうに消えると、孫子は素早く携帯電話を取り出し、茅にかけはじめた。
「……今夜は、カニ尽くしだそうです……」
 孫子が通話を切ってそういうと、テンは、素直に「わーい!」と歓声をあげた。
「……カニかぁ……わたしも行こうかな……」
 玉木も呟く。
「ちょうど、ガクに、このプログラムのことを聞きたかったところなのだ……」
 パソコンの画面から顔も上げずにそういう徳川。
「食べきれないほど買わせるように、といっておきましたので、合流しても大丈夫だと思いますわ……」
「……えーと……三島先生、空いてるかな……。あの先生、料理の腕だけは確かだからなあ……」
 玉木が、自分の携帯を取り出してメールを打ち始める。
「……羽生さんにも、連絡しておいた方がいいですわね……」
 孫子も、携帯を取り出してメールを打ち始める。

 一通り、夕食関係の手配が済むと、「誰はともなく、あと小一時間ほどやって、今日の作業は終了」という合意ができた。
 徳川は、それまでしていたガクのプログラムの検証を一旦中止し、孫子とともに今までの業務内容を検証しはじめた。
「……細かい所まで目が行き届いてないから、放漫といえば放漫経営なのかも知れないが、大きくは損をしていない筈なのだ……」
 表計算ソフトにぶち込んだ会計データを孫子にみせながら、徳川は、いう。
「……大きく損はしていない代わりに……もっと儲けられる所で、儲け損ねていますわね……。
 特許やパテント頼りの経営も、開発費を必要経費として織り込めば、大きく損はしませんが……営業力をつけたり、開発したものを自社で生産すると、もっと大きな利益に……」
「利益も出るだろが、リスクも大きくなるのだ。それに、今までは良いパートナーに恵まれなかったから、一人でできることには限界が……」
「今後の展開を考える前に、もう少し現行の事業モデルに合理化の余地がないか……」
「人を雇う必要があるにしても、出来るだけ少人数で収めて欲しいのだ。特に、馬鹿はここでは不要なのだ……」
「その点は、ご安心ください。才賀グループの派遣社員は、精鋭揃いです。
 でも……そうですね。一人で一個小隊に匹敵する人材を引き抜いてきましょう。並の人材では、あなたの部下は務まりそうにもありませんから……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(85)

第六章 「血と技」(85)

 居間で皆が歓談しているその時、楓は、三島百合香と肩を並べて、台所で食器を片付けていた。
 楓は、今後の方策とか、難しい話しに参加しても仕方がない……と、思っている部分も、ある。
 そして……ある気配、を感じた楓は、
「先生……後は、頼みます……」
 と言い捨てて、三島の返答も待たずに、自室に急いだ。

「……なんか、仲がいいんすねぇ、皆さん……」
 そういったのは、四人組のうち、一見優男風の田中君だった。二十才前後に、見える。
「つきあいは短いけど……濃いからな……」
 いろいろな意味で……と、答えながら、荒野は思う。
「偏ったヤツらばかりだけど、それなりに役にはたつ……って……。
 ……来たか……」
「来たって……何が、ですか?」
 突如、真剣な表情になった荒野に、田中君が不審な顔を向ける。
「……楓に聞け……。
 これから、楓の後に付いていくと、面白いものが見えるぞ……」
 それから、腰を上げようとした玉木に気づいて、荒野は、
「……一族の関係者にしか見えない見せ物だけどな……」
 と、慌てて言い添える。
「……例の?」
「例の、だ」
 事情を知っている孫子と荒野は、そういいあって頷き合う。
「寒いから、わたくしは、遠慮させていただきます」
 孫子は、両腕を炬燵の中に潜り込ませて、背を丸めた。
「……ボクは行く!」
「ボクも、ボクも!」
「茅も行くの……」
 テン、ガク、茅の三人が、立ち上がり、廊下へと続く襖を開けた。
 ちょうど、完全武装の楓が、通りかかった所だった。
「……お前らも、後学のために一度見物しておいた方がいいぞ……。
 最強とその弟子の稽古風景、なんて、滅多に観られないから……」
 荒野が湯呑みを傾けながら四人組に向かってそういうと、四人組は慌てて立ち上がった。

「……なぁなぁ、カッコいいこーや君……」
 玉木が、上目遣いになって、荒野に尋ねる。
「その……楓ちゃん、って……強いの?」
「比較の対象が明確でないんで、正確には答えにくいのだけど……」
 荒野は、どう答えたものか、と考えながら、慎重に答えた。
「……一族の中では……かなり、上位に来るだろう。
 六主家の中でも、あそこまで行けるのは少ない……」
 しかも……まだまだ、成長の余地を残しているんだよな、あいつ……と、これは、口の中で呟く。
 楓は、荒神が教えるようになってから、格段に腕を上げている。
 楓がこの先、どこまで行けるのか……荒野にも、見当がつかなかった。

 五分後、楓と荒神、それに、四人組と、テン、ガク、茅が帰ってきた。
 四人組は蒼白な顔をしていて、テン、ガク、茅は、興奮した様子で頬を上気させている。
「……楓、さん……。
 あの……いつも、あんなこと、やっているですか?」
 四人組を代表して、平安貴族顔の鈴木君が、かなり恐縮した面持ちで尋ねる。
「……雑種ちゃんも、最近は、だいぶん動きが良くなったよねぇ……」
 楓が答える前に、スーツ姿の荒神が、歌うような節回しをつけていった。
「最初の頃は、今よりも無駄な動きが多かったけど……」
 ……じゃ、ぼく、着替えて来るから……と、言い残して、荒神は四人組の背後を通って、自室に向かう。
 その背中に、三島が、
「……二宮先生、カニ、まだ残っているけど、食うか?」
 と声をかけている。
「……ええっと……」
 四人組の注目を浴びて、戸惑いつつも、楓は答えた。
「いつも……。
 そう、ですね。これでも、段々、師匠の動きが、見えるようになってきました……」
 四人組は、ほぼ同時に、「はぁあぁ……」と盛大なため息をついた。
 そして、いきなり、口々に、「すいません。今夜はこれで帰ります」といって、玄関の方に向かう。
「……どうしたん? いきなり、あれ……」
 羽生譲が、荒野に向かって首を傾げて見せた。
「彼我の実力差を、見せつけられたからでしょう……。
 自信喪失、っていうか……」
「……だって、四人でもボク一人に敵わなかった人たちだもん……」
 テンが、炬燵に潜り込みながら、そう言い添える。
「今度誰か来たら、こっちに回せよ……」
 テンの隣に座りながら、ガクがテンに囁いた。
「……そういうんだったら、早く怪我直す……」
 テンは済ました顔をして、ガクにそう答えた。
「楓ちゃん……そんなに凄いのか……」
 玉木は、どこまで本気で受け止めていいのか、判断しかねている。
 玉木の知る楓は、この一党の中でも比較的地味な人間なのだ。
 楓は、照れたような笑いを浮かべて、「ちょっと着替えてきます」と襖の向こうに姿を消した。
「……単純に、力だけ、とか、スピードだけなら、テンやガク、ノリの方が上だけど……」
 荒野は、素人である玉木にも分かりやすい説明を考えつつ、そう話す。
「その代わり、楓は……様々な技を取得しているから……。
 例えば、テンやガクは、つい最近まで、手裏剣の投げ方、知らなかった。投擲武器があるのと無いのとでは、戦い方のバリエーションが、かなり違ってくるし……」
「そういえば……今日も、相手は目一杯飛び道具使っていたけど、テンちゃんは、使ってなかったな……」
 玉木も、納得した顔をして、頷く。
「……まだ、ようやく基本的な投げ方をようやく習った段階で、使いこなすところまではいってなかったんだ……」
 テンは、あっけらかんとした顔をして、いった。
「それに、いい機会だったから、プロテクターの評価もやっておきたかったし……。
 でも、あのお兄ちゃんたちは、ちょっと期待はずれだったな……。
 手裏剣や六角一つとっても、投げた時の勢いが、楓おねーちゃんの時とは段違いなんだ……あれでは、まともな試験になんないよ……」
「ライフルを使用して、防弾性能はチェック済みなのだ……」
「楓おねーちゃんの六角……距離にもよるけど、下手をすると、ライフル弾なんかよりも、エネルギー量、多いよ……」
 テンは、ぼつり、と、続ける。
 テンは以前、真っ正面から楓が投じる六角の雨の中に突っ込んだ経験がある。
「……そんなに凄いんか……」
 玉木が、半ば呆れたようにテンに尋ねる。
「うん。
 ……楓おねーちゃんだけは……怒らせない方が、いい……」
 テンは、妙に実感の籠もった返答をした。テンの隣では、ガクも、コクコクと頷いている。
「今度から……あまり、からかわないようにしよう……」
 玉木が、目を見開きながら、そういう。
「……なんにせよ、玉木が大人しくしてくれるのは、いいことだ……」
 荒野の言葉にも、実感が籠もっていた。




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彼女はくノ一! 第五話 (168)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(168)

「……戦闘開始から、三分かかってないよ……」
 玉木の目は、点になっている。玉木は、テンが本気で動くところを見るのは、はじめてだった。
「最初の煙のところだけ、もたもたしてたけど……あとは、しゅばばっ! って感じで、動き、早すぎ……」
「……時間を、かけすぎなのだ……」
 玉木とは対照的に、徳川は不機嫌な顔をしている。
「テンのヤツ……こんなところで、性能試験などしおって……」
「やっぱ、最初のは……わざともたもたしていたの?」
 玉木が、徳川に尋ねる。
「様子見、でしょうね……。
 装備の性能も、ですけど……一族の者が、どれくらいやるのか、確かめてから片をつけにいきました……。
 徳川のいうとおり、テンは、慢心しています……」
 徳川の代わりに、孫子が玉木に答えた。
「……楓の例で考える限り……彼らは、一族の中でも下流の者でしょう……。
 三流に勝っても、なんの自慢にもなりません……」
 孫子は、楓や荒野以外の一族の者を、あまりよく知らない。しかし、特に何度か対戦してことのある楓のことはよく知っている。だから、たやすく比較することもできた。
「……楓? 松島のことなのか?」
「楓ちゃん、そんなに凄いの?」
 徳川と玉木が、ほぼ同時に孫子に聞き返す。
 そういわれてみれば……ここにいる者の中で、楓の真の姿を目の当たりしたことがあるのは、孫子自身とテンくらいなものだ……。
「……え、ええ……まぁ……」
 孫子は、珍しく言葉を濁す。
 孫子にしてみれば……今までの成り行きがあったから、こうした場面でも、素直に楓のことを褒めることができない。
「……あの方々よりは、多少、マシですわ……」
 そこで、そのような微妙な言い方になる。
 このような時孫子は、素直ではなかった。
「ま……それは、それとして……」
 玉木は、孫子の様子から、「話題を変えた方がいい」と判断する。
 どのみち……このまま事態が推移すれば、楓や、今目の前にいる孫子自身、それに荒野などの勇姿も、カメラに収める機会が来るだろう……という、かなり確実な予感が、玉木にはあった。
「この映像も……使えるな……」
 玉木は、様々な角度から捕らえたビデオ映像を、パソコンの画面に再生してみせる。徳川が工場内に多数設置したカメラはそれなりに高感度のものだったが、四人とテンの動きが早すぎるのか、ほとんどブレている。そうした部分が、かえって迫力を生み出している……ように、玉木には思えた。
 玉木の頬は、自然に、ほころんでいた。
「……使え、使えいっ!」
 徳川も、何故か喜んでいる。
「……イメージ戦略、というわけですか……」
 二人の様子をみて、孫子は、玉木たちが何を考えているのか、段々と理解してきた。今までは、「商品としてのコンテンツ作成」の話ししかしていなかったが……。
「そうなのだ。
 この間の商店街でのように、衆人環視の環境下で、少なからぬ被害を出すような局面も、今後、予測できる……だから、事前に、どちらが敵でどちらが味方か、刷り込んでおくのだ……」
 徳川が、孫子に笑い返す。不敵な、笑いだった。
「シルバーガールズを……正義の味方にするのだ!」
「それで、お金も稼げれば、申し分なし!」
 玉木も、はしゃいでいる。
 二人とも、同時に四人を相手にして圧勝したテンの様子をみて、ハイになっていた。
「……それで……ボランティアや商店街のマスコット・キャラにも、すると……」
 二人ほどお気楽になれない孫子は、腕を組んで考え込む。
「イメージ的な相乗効果は……見込めますわね……」
「見込めます、見込めます!」
 玉木がかぶりを振る。
「カッコいいこーや君……確か、そういうの、かなり気にしてたでしょ?」
 ……そうなのだ……。
 孫子にしてみれば神経質に思えるほど……荒野は、自分たちの存在が、周囲から疎まれる可能性を……気にしている。
「それで……あらかじめ、プラスのイメージを、広範に……」
「……そうそう。
 カッコいいこーや君には、このあたりのこと伏せておいた方がいいような気もするけど……」
「そうですわね……。
 あの子、意外に……」
「他人を、当てにしようとしない……」
 孫子が明言しなかったことを、玉木は、ズバリと断言する。
「他人の意見を聞くことはあるから、頑固というのとは、ちょっと違うんだけど……。
 大抵のことは自分でできちゃう子だからかなぁ……。
 イマイチ、わたしらを信用しきっていない、っていうか……」
「わかりますわ……」
 孫子は、頷く。
 実は、玉木が指摘したことは、孫子自身にもある程度当てはまるのだが、孫子には、その自覚はない。
「……だからこの件は、あくまで欲得ずくで、わたしたち主導で行う、ということで……」
「……いいですわね。
 その代わり、数字の方はわたくしがしっかりと見させてもらいますけど……」
 ここで孫子がいう「数字」とは、「会計」つまり金銭の動きである。
「適所適材、ということなのだな……」
 徳川が、けけけ、と笑った。
「みんな、好きにすればいいのだ。
 あいつらが来てから、学校周辺がかなり楽しい場所になってきたのだ……」
 徳川の言葉に、放送部一同がうんうんと頷いた。

「……あのう……」
 いつの間にか、事務所内に入ってきた四人組が、後ろから声をかけてきた。
「……加納の荒野さん……皆さんに、その、随分、好かれているんですねぇ……」
「好かれている……っていうより、生きたネタ?
 弄り甲斐があるっていうか……」
 振り返った玉木がそう返答したので、四人組の目は点になった。
 六主家本家の直系を「ネタ」扱い……。
「お前たちにとってどれほどの存在かは知らないが……われわれにとっては、多少毛色の変わった友人、という程度のものなのだ……」
 徳川篤朗は、そういう。

 この瞬間、四人は、荒野がいう「一般人との共存」が、理論先行のものではないことを、実感した。




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