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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(308)

第六章 「血と技」(308)

「そ、そういう聞き方は……ずるいです」
 静流はそういいながらも、荒野の身体を抱きしめる力を、弛めない。
 静流さん……着やせするタイプだな、と、荒野は思った。
「そ、それに……わ、わたし、男の人とこういうこと、するの……はじめてなんですよ……。
 も、もう少し慎重にしてくれないと……正直、怖いです……」
 事実、静流の身体は細かく震えていた。
「それじゃあ、ゆっくりと、慣れていきましょう……」
 荒野は、胸元の方に顔をずらしながら、そう答えた。
 静流が受胎するまで……これから何度となく、荒野は静流を抱くのだろう。それが、二人が合意した約束であり、選択だった。
「か、加納様の方は……よりどり、ですものね……」
 静流は、荒野の髪を指でぐしゃぐしゃとかき回す。
「……ちょっ……。
 や、やめてよっ! 静流さん……」
 荒野は静流の上から身を起こし、手櫛で髪をざっと整えた。
「……加納様は……」
 静流は、ゆっくりと身を起こし、荒野に顔を近づける。
「女性とのことはともかく……加納様は、何でも、一人で背負いすぎです……」
 そんなことをいいながら、静流は、荒野に体重をかけて、荒野の身体をゆっくりと畳の上に押したおした。
「た、頼りないかも知れないですけど……これでも、年上なんですよ」
 静流の顔が、荒野の直上にある。静流が、荒野の上に覆い被さっていた。
「か、加納様は、もっと周囲の大人を……信用……できなければ、利用しても、いいんですよ……。
 み、未知の……得体の相手に、自分たちの力だけで、って……む、無謀なのです……。
 か、加納様は、なんで……」
 静流が、荒野の頬の両側を掌で固定して、口唇を重ねる。
 口唇を触れあわせるだけのキスを、しばらく続けて……静流は、顔を離す。
「……そ、そんなに、一人なのですか?
 お、大勢の人に囲まれながら……か、加納様は、いつも、一人でいます。一人で、いようとしています……」
「そう……見えるかな?」
 荒野の微笑が、引き攣る。
 もちろん、荒野は日常的に無理をしている。荒野が不安そうな様子をしていたら、周囲の者が動揺するからだ。どんな時にでも、平然としていること……は、荒野の重要な仕事である……と、荒野自身は思っている。
「ほ、他の人の目がない時くらいは……む、無理をしないで、いいのです……。
 ふ、二人きりの時くらいは、せめて……」
 ……甘えてくれても、いいのです……と、静流はいう。
「おれ……無理しているように、見えますか?」
 荒野は、泣き笑いの表情になって、いった。
 静流の視覚に障害があってよかった……と、そんな不謹慎なことさえ、荒野は考える。
 今の自分は、とてもひどい顔をしているだろう……と。
「……ど、どだい、無理なのです。
 しょ、正体不明の、強力な……いつ襲いかかってくるのかわからない、襲撃者。
 そ、その派生新種も含めた、い、一族全ての、将来……。
 その……ど、どちらかでも、十分な、お、重荷なのに……両方を、い、いっぺんに、なんて……」
 い……今の加納様は、重すぎる荷物を、あえて背負おうとしています……と、静流は続ける。
「か、加納様は、いいかっこうしですから……か、茅様の前でも、平気な顔をして、格好つけているんでしょう……」
「そ……そんなつもりは……ないんだけど……」
 荒野はそう答えたが、どうしても小声になってしまう。
 静流のいうとおり……無理をして平気な顔を続けるうちに……自分は、感覚を麻痺させてきたのではないか……。
「……おれ……荒事、とか、前線に出るのは、かなり慣れてきた……。
 でも……でも……おれだけでなく……仲間とか、無関係の人とかの命とか……そういうのを守るのって……守ろうとするのって……は、はじめての、ことで……」
 荒野は、自分の声が震えているのを、自覚した。
「そ、そういうの……大事なものや人を失うのを恐れるのは……。
 こ、怖くても……は、恥ずかしいことでは、ないのです……」
 静流はそういって、荒野の髪を、指で梳く。
「は、はじめて、なんだ……こんなに……いろいろな人と、知り合いになって……普通に、何も考えずに、話したり、ふざけたりするのって……。
 おれ……そういうの……今の生活、壊したくなくって……ただ、それだけで……。
 一族とか新種とか、そんなの、本当は、どうでもいいんだけど……でも、ひとつひとつ、解決していかないと、おれ、ここにいられなくなって……だから、何とかしていこうって……本当に、ただ、それだけで……」
「か、加納様は……個人としては、ほとんど、万能です」
 静流は、荒野の頭を抱きしめる。
「ほ、他の人が出来ることは、ほとんど何でも出来るし……で、でも……どんなに優れた資質の持ち主でも、一人の人間には、ちっぽけなことしかできないのです……」
「……そうだよ……本当に、そうだ……」
 荒野は、静流の胸に顔を埋めた。
「おれ……ここに来るまでは……たいていのことは、自分で解決できる……と、そう思っていた。
 だけど……この土地に来てからこっち……自分の手だけでは、何の解決も出来ない問題ばかりが、立て続けに、目の前に立ちふさがってくる……」
「こ、ここでなら……甘えても、いいのです」
 静流は、荒野の耳元に口を寄せて、囁く。
「二人きりの時は、弱音を吐いても……泣いても、わめいても、いいのです……」
「……あっ。
 やべ……そんなこと、いわれると……本当に……」
 荒野は、自分の涙腺が緩んでくるのを感じた。
「いいのです」
 静流は、決然とした口調で断言した。
「か、加納様は……今まで、それだけ無理を重ねてきたのだから……少しは、気を緩めないと……こ、この先も、長続きしないのです……」

 荒野は、静流の胸に顔を押しつけて、声を押し殺して、すすり泣きはじめた。




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彼女はくノ一! 第六話(49)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(49)

「……どうかしたの?」
 挨拶が終わると、狩野家の面々の様子がいつもとは違うことに気づいた樋口明日樹が、小声で香也に尋ねてきた。
「……んー……」
 香也は、少し考え込み、これ見よがしに香也の腕を取っている孫子から顔を逸らし、結局、
「……朝から、いろいろ、あった……」
 と、言葉を濁す。
「……そう」
 明日樹は、狩野家の同居人たちをさりげなく見渡す。
 にこやかな孫子を除いて、全員が、どことなく苛立っているように見受けられた。
 ……具体的に何があった、ということこそ、わからなかったが……それでも、「どういう種類のことがあったのか」ということは、明日樹にも、漠然と想像できた。
「香也も、大変だ」という同情心と、またそぞろ、強引な手口を使って他の少女たちを牽制したのであろう、孫子への嫉妬心とが、明日樹の中でないまぜになる。
「いろいろ……大変なんだね……」
 明日樹は、結局、そういって目を伏せただけだった。
 ごく普通の少女にすぎない、という自覚のある明日樹にしてみれば……気が強く、容姿や才覚も含めて、これといった欠点が存在しない孫子に、正面からくってかかる気概はない。それに、なんだかんだいって、香也も、本気でいやがっているようにはみえなかったから……当事者の意志をさしおいて、明日樹が口を出すべきことではないな……という判断も、明日樹にはある。
 良くも悪くも、明日樹は「型にはまった発想しかできない常識人」だった。

「……テスト、二日目だね……」
「今日は、数学か……」
 などということを話し合いながら、全員でぞろぞろ登校する。どことなく雰囲気が硬くなるのは、全員が試験の成績に自信がある、というわけではないからだろう。
 この雰囲気が、来週の期末試験まで続くのか……と、「自信がない組」の代表格である明日樹は思う。
 この中で、平然としているのは、荒野と茅、孫子、飯島舞花、それと、香也と楓、明日樹の弟である大樹だった。
 もっとも、香也の場合は「自信があるから」平然としているわけではなく、「学校の成績に興味がないから」態度が変わらないのだろう。
 大樹も、成績に関する無関心さについては、香也と似たようなものだが、香也の「勉強とは別の感心事があるため」というパターンとは違い、大樹の間合いは、もっと単純な「勉強嫌い」にすぎない。 
 そもそも、不登校気味だった大樹が学校に通うようになったのだって、荒野がそういう風にし向けてくれたからで……。
『……加納君に、それとなく頼んでみるか……』
 荒野のいうことなら、大樹も、耳を傾ける。
 ダメもとで、後でそれとなく頼んでみるかな……と、明日樹は思う。別に、つきっきりで大樹の面倒をみてやってくれ、というのではなく……今では、毎日放課後にやっている自主勉強会に、時折、顔を出すように、荒野からいって貰えれば……多少なりとも、違ってくるのではないだろうか?
 と、明日樹は思う。
 今週は、中心人物である茅と沙織が、実力試験問題の解説に力を入れているから、普段の内容とは違ってくる筈だが……。
『……今日、学校についてからでも……』
 荒野に相談してみよう、と、明日樹は思い、それからふと思いついて、舞花に声をかける。
「あの……飯島、栗田君の勉強、ずっと見てたよね……」
 声をかけられた舞花は、一瞬、きょとんとした顔をしたが、
「……うん。一応……」
 と、答える。
「あの……よかったら、ついでの時にでも大樹も、一緒に……」
「……げっ!」
 明日樹の言葉を聞くと、大樹は奇声を発して逃げ腰になった。
「……おっと……」
 タイミング良く、逃げだそうとした大樹の首根っこを荒野が掴む。
「いい話しじゃないか。
 大樹、お前、勉強なんて、どうせろくにしてないだろ……」
「……ああ。
 そういうことか……」
 舞花は、しきりに頷いてみせた。
「いいよ。
 どうせ、堺と一緒に、うちの部の劣等生、面倒をみる約束してるし……。
 まとめて、面倒をみよう……」
 そういってから、舞花は、いまやく不揃いに短く毛が延びている大樹の頭を、平手でぽんぽんと叩いて、にやりと笑った。
「……まさか、逃げるなんていわないよな……大樹……」
 大樹は、栗田と同じく、幼少時の舞花と面識があった。
「……こうなったら、逆らわない方がいいぞ、大樹……」
 栗田が、沈痛な面もちで大樹に告げる。
「……まーねー……。
 いまだに、プロレス技をかける相手、探しているんだから……。
 今のまーねーの体格で、ドロップキックとかブレンバスター食らったら、シャレにならないぞ……」
 どこか悟りきった表情で、淡々と諭す栗田の言葉を聞き、大樹の顔がみるみる蒼白になる。
「……今日の放課後からでいいな。
 堺にも、柏を逃がさないように、念を入れておこう……」
 舞花は、携帯を取り出して、メールを打ちはじめた。
「……おはよーっす。
 今朝は、なんの話しっすかー……」
 そんな時、玉木が合流してきた。
「そこの問題児を、みんなで更正させようって話し……」
 荒野が、舞花に首を極められ、ガクブル状態で引きずられるようにして歩いている大樹を指さす。
「……ああ……」
 玉木は、切なげなため息をついて、大樹にむけ、「……なむー」といいながら、手を合わせた。
「それは、ご愁傷様です……」
「……玉木も、他人事ではないだろう。
 もう、二年も終わりだし……」
 荒野が、玉木につっこみをいれると、
「……ああ。それそれ」
 と、玉木が、何故か勢いづいて、茅に話しかける。
「昨日、茅ちゃんと沙織先輩の試験解説場面、ビデオに撮っておいたら、思いの外、先生方に好評でな。
 自主勉強会の映像資料にもなるし、今後も、きちんと撮影して保管してもいいかな、茅ちゃん……」
「別に、構わないの」 
 茅は、即答した。
「ビデオに撮っておけば、誰でも好きな時に見ることが出来るし……いいと、思うの」
「……うっし。
 そんじゃ、早速、今日の放課後の分から生放送でいきます……」
「……をい……」
 荒野は、玉木に聞き返した。
「今……生放送、っていったか? 映像資料の録画、じゃないのか?」
「うん。
 生放送も、やる」
 玉木が、ことなげに頷く。
「だって……リアルタイムの映像配信システム、うちら持っているんだもん。
 使えるものは、使わなけりゃ、損だよ。
 もちろん、撮ったファイルも保存、活用するけどさあ……ネットで配信すれば、もっと多くの人たちが、同じ内容の抗議、同時に聞けるわけでしょ?
 校内の、その場にいる人しか聞けない……っていうのよりは、公平だと思うけど……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(307)

第六章 「血と技」(307)

「なにか不自由することとか、ありませんか?」
 荒野は念のために、静流に尋ねてみる。
 障害があろうがなかろうが、静流は立派な大人であり、年下の自分がこのようなことを聞くのも、僭越なような気もしたが……荒野には想像できないような、些細な事柄がネックになっていることもありあえるし、また、静流と二人きりになることも、ほとんどない。
 いい機会だし、聞きにくいことはこの場で聞いてしまうのがいいだろう、と、香也は思った。
「と、特に、何も……」
 静流は、首を振った。
「み、みなさん、よくしてくださいます。
 こ、こちらに引っ越してきてから、楽しいことばかりです……」
「……そうですか……」
 荒野は安堵して、頷く。
「何かあったら、いつでもいってください。
 できるだけ、力になります」
「か、加納様は……」
 静流は、顔のムキを動かさずに、火鉢にかざしていた掌を動かし、湯呑みを包み込むように持っていた荒野の手を、掌で包み込む。
「……いつも、そうして、他人の心配ばかりしているように、見えます……」
 静流の方から荒野に触れてきたことに、若干の戸惑いを感じながら、その動揺を押し隠すように、香也は、できるだけ平静な声で答える。
「……そういう、性分ですので……」
「わ、わたしも、そうですよ」
 静流は、湯呑みを持っていた荒野の手首を軽く握り、自分の顔に導く。
「こ、この目も……他人様とは、多少、違うそうですが……生まれた時からこうですから、わ、わたしは、今の状態が、異常だとは、思っていません。
 む、むしろ……健常者の方は、なんて鈍いんだろう……と、ど、同情することも、多いです……」
 荒野は、静流に手首を持ち上げられて、静流のサングラスに触れていた。
 ……静流の言葉に、嘘はないのだろうな……と、荒野は思う。
 静流が日常生活に不自由していないことは、普段の様子をみていれば、よく理解できる。
 それより……荒野は、不躾を承知で、以前から気になっていたことを、聞いてみた。
「静流さんは……その、どのくらい、見えるんですか……」
 静流は、サングラスを荒野の指に握らせて、顔から離す。
「ほ、ほとんど……見えません」
 静流は、焦点の合っていない目で荒野の顔を見据えたまま、顔を近づけてくる。
「こ……こんなに近づいても……輪郭が、わからないのです。
 かろうじて、暗いところと明るいところの区別は、つきますが……も、ものの形は、まるで見分けられません……」
 全盲に近い、強度の弱視……という噂は、本当らしい。
「か、加納さまの、お顔……さ、触ってみても、いいですか?」
 今度は、静流の方が、荒野に尋ねる。
「ご自由に、どうぞ」
 今度は荒野が、静流の手をとって、自分の顔に近づける。
 しばらく、静流の指が、荒野の顔の輪郭を確かめるように、細かく、動いた。
「……か、加納様のお顔……き、きれいな……均整のとれた形を、しております……」
 静流は、目を閉じて荒野の顔をまさぐった後、そういった。
「静流さんの方が、きれいだと思いますが……」
 実のところ、サングラスをかけていない静流の顔を間近で見るのは、荒野も初めてのことだった。
 予想以上に、美人だ……と、荒野は思ったので、素直に口に出来た。
「色が、白いし……それに、肌のきめが、とても細かい……」
 そういう細かい部分は、これだけ近づいてしげしげと見つめなければ、よく観察できない。
 しかし、荒野の言葉をお世辞の類と思ったのか、静流は、ぱっと身を翻して、荒野から身体を離そうとした。
 荒野は、反射的に静流の肩に手をかけて、静流を抱き寄せようとする。
「……お、おからかいになっては、困ります……」
 荒野に抱き寄せられながら、静流が、狼狽した声を出す。
「……からかっているつもりは、ないんだけど……」
 荒野は、静流の身体を完全に両腕で抱きしめた。
 すぐに、静流の抵抗は弱まった。
「その……静流さん。
 誰にも、そういうこと、いわれたことないですか?」
 逆に荒野は、心底不思議そうな口調で、静流に問い返した。
「……そ、そんなこと……」
 静流は、荒野の腕の中で、蚊の鳴くような声を出す。
「み、みんな……ほ、本当のことなんて、いうわけ、ないのです……」
 ……あー……。
 そういえば……この人、野呂本家の、箱入りだったけか……とういう事実に、荒野はようやく思い当たる。
 ……ある年齢になるまで、身内の人間しかいないところで、高貴な血筋に生まれ育つ……というのも、荒野には想像が出来ない苦労があるのかも、知れなかった……。
「……静流さんは、本当に、おきれいですよ……」
 荒野は、静流の身体を抱きしめながら、耳元に口を近づけて、囁く。
 そういっても、静流は、荒野の腕の中で身を固くするばかりだった。
「あの……こういうの、いやですか?
 静流さんが、いやなら……腕、離しますけど……」
 荒野が腕を緩めると、今度は、静流の方が荒野にむしゃぶりついてきて、荒野の身体を押し倒した。
「ちょっ……静流さん……」
 畳の上に押し倒されながら、荒野は、苦笑いを漏らす。
「い、いやでは……ないです……」
 静流は、仰向けになった荒野の胸に顔を埋めながら、呟く。
「で、でも……こういう時、ど、どうすればいいのか……よく、わからないので……」
「……ええっと……です、ね……」
 荒野は、静流の肩に手をかけて静流の上体を起こし、座り直させた。
「順番に、行きましょう。
 ええと、静流さん。
 おれ、今、静流さんにすっごくキスしたいんだけど……やっても、いいですよね」




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彼女はくノ一! 第六話(48)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(48)

 香也の頭部は孫子のスカートにくるまっている形なので、香也の視覚は、布地越しに漏れてくる頼りない光しか捉えていない。だからなおさら、目の前から漂ってくる孫子の体臭が、香也の想像力を刺激した。薄暗い視界の中なかで、さらに黒々とした孫子の股間から、その臭いは強くただよってきている……ような、気がする。
 香也は、薄暗い中でも白く浮き上がっている両足の間にあって、そこだけ黒黒とした部分に、顔を近づけ、口をあけて茂みの中を舌でさぐる。
 じゃりじゃりする陰毛を舌でかきわけ、強い臭いを発する秘裂に、容易に舌をつけることができた。
 香也の舌の先が、ぬめりとした粘液に触れると、香也のモノを口にくわえていた孫子が、「ぅんっ!」と声を上げる。
 一度舌をつけると、香也は、孫子の臀部を両手包むように固定し、孫子の筋にそって、陰毛をかきわけるようにして、舌を動かしはじめた。
 すぐに、香也の唾液と孫子の愛液が入り交じって、孫子のそこはしどとに濡れてくる。
 ぴちゃぴちゃと盛大に音を立てながら、香也は、恍惚としながら孫子の秘裂を舐め続けた。
 孫子も、負けじと香也のモノを口に含んだまま、顔を上下させる。
『……これが……女性の……』
 そんなことを思いながら、香也は、本能に従って、何度も自分自身を中に挿入したことがある孫子自自身を舐めあげ、舌を硬くして、深く、差し込む。
 懸命に口で香也のモノを奉仕していた孫子の動きが、ビクンととまり、孫子が、「……ぅんふぅ……」と鼻息を漏らす。
 孫子は一度、香也のモノから口を離して深呼吸をし、それから、それまで以上に深く香也をくわえ込み、喉の奥に香也の亀頭をあてた状態で、強く息を吸い込んだ。
 今までにない刺激に、今度は、香也が「……うっ」とうめいて孫子のそこから顔を離してしまう。
 孫子は、さらに香也のソコを吸い込みつつ、顔を大きく上下させた。
 孫子の頬の肉がすぼまって、香也自身の側面に張り付いている。
 香也は、孫子のソコを口で刺激するのも忘れて、手を置いていた孫子の臀部をぎゅうと抱き寄せ、ゆっくりと顔を左右に振った。
「……そのまま、出してくださって……」
 香也の反応から終わりが近づいたことを察した孫子は、さらに動きを激しくする。 
 じゅぱじゅぱと激しい水音をさせて、孫子が頭を高速で上下させはじめると、すでに十分に高まっていた香也は、
「……うっ……」
 と、低くうめいて、孫子の口内に射精した。それも一度射精しはじめると、なかなか終らず、いつもよりも大量の精液をドグドグと断続的に孫子の口の中に吐き出し続ける。
 朝一番、ということと、それに、同居人の少女たちと交わるようになってから、この方、香也の自慰行為の回数は激減……というより、事実上、絶えていたので、その分、濃いものがたっぷりと出ることになる。
 孫子も、発射しはじめ時こそ身体を小さく震わせたものの、それ以降は、むしろどん欲にいつまでも出続ける香也の精を吸いあげ、呑み続けた。味的にも質感的にも、決して呑みやすいものではないのだが、孫子が香也の精を口で受け止めたのはこれがはじめてではないし、それ以上に、「香也の一部だったものを自分の体内に取り込む」という行為に対して、孫子は、どこかフェテッシュな快感も、覚えている。
 事実、香也の精を孫子が呑んでいる最中、孫子の局部は筋肉を弛緩させ、透明な液体が大量に下にいた香也の顔の上に降り注ぐ。
 香也はそれが小便ではないかと疑って目を閉じたが、無味無臭であることと、それに、量が半端であることから、どうやら、別種の体液である、と結論する。
 特に性情報に詳しくない香也は、「潮を吹く」という表現は知らなかったが、女性が性的にきわまったときの反応の一種として、そこから夥しい液体を分泌することがある……ということは、経験上、知っている。
 今回も、そのパターンだろう……つまり、孫子も、香也と同じく、ある程度の快感は得たのだろう……と、香也は、思った。
 その時、孫子が四肢の力をがっくりと抜き、結果、香也の顔は、孫子の股間の下敷きになった。
 ちょうど、孫子のくさむらが、香也の鼻の下あたりにふわりと落ちてくる。直前に、そこから降りてきた液体を避けるため、目と口を閉じていなければ、香也の歯がそこに当たっていたかも知れない。
 香也の上に乗りかかって、完全に体重を預けている孫子は、荒い息をつきながら、ぐったりとして動こうとはしない。もともと、孫子は細身だったので、上に乗っていても香也はまるで負担を感じなかったが……。
『……ん……。
 そろそろ……』
 どいてもらわないと、やばいかも知れない……と、香也は思う。
 下半身の方が、精液とは別の液体を放出したいという欲望を、香也に伝えていた。何しろ、朝一で孫子が来襲したので、香也は用便もまだしていなかった。射精するタイミングがいつもよりも早くなったのも、雰囲気とは別に、そっちの欲望が射精を促していた側面も、あったのではないか……と、香也は思う。
 香也が心配するまでもなく、一分もしないうちに孫子はむっくりと身を起こし、香也の上からどいた。
 そして、香也の顔が自分の分泌した液体で濡れているのに気づくと、恥ずかしそうに周囲を見渡し、自分の下着を拾い上げて、それで香也の顔を拭こうとする。
 香也は急に恥ずかしくなって、孫子の手から逃れようとしたが、孫子は、
「……今、履いてきたばかりですから、ぜんぜん汚くはありません……」
 とかいいながら、有無もいわさずに自分が脱ぎ捨てた下着で、香也の顔を拭った。その意味を香也が思い知るのは、少しあとのこととなる。
 その際、目覚まし時計を確認すると、目覚ましをセットした時間の十分前だった。
 ……長いように思えたけど、意外と短い間の出来事だったんだな……と、香也は思った。

「……んー……。
 トイレ、行きたい……」
 二人で身を起こすと、香也ははっきりとそう口にする。
 孫子がそれ以上、エスカレートして何かをしでかさないうちに、「二人きっり」という現在の環境から抜け出したほうがいい……と、香也は判断した。
「……そう、ですわね。
 わたくしも、一度部屋に帰りたいですし……」
 孫子は、案外素直に香也を解放してくる。
 おそらく、新しい下着を履きなおしてくるのだろうが……香也は、その素直さを意外にも思う、少し拍子抜けに思った。
 普段の孫子なら、ここまできたら、ここぞとばかりに香也を責め立ててきそうなものだが……。

 ともあれ、「服を整えてから出ていく」という孫子を後に残し、香也はざっとパジャマを改め、一人で部屋を出て、トイレに向かう。
 用をたしてから洗面所に向かって洗顔をすませ、自室に戻る。孫子の姿は見えず、香也は、正直なところ、少しほっとした。
 布団を畳んでから制服に着替え、登校する準備を整えた。制服を着ている最中に目覚ましが鳴りはじめたが、これは、速攻で止める。
 身支度を整えて、居間に向かうと、そこで、
「……あー……」
 というガクの大声で、出迎えられた。
「おにーちゃんから、孫子おねーちゃんの匂いが、ぷんぷんしてくるーっ!」
 ……香也は、先ほど、孫子が自分の下着で香也の顔を拭ったのは……孫子の体臭を、香也の顔につけるため……一種のマーキングだと、この時はじめて気づいた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(306)

第六章 「血と技」(306)

 静流は、火鉢のそばに座布団を置いて荒野に進めてくれた。
「……こ、こうして、手をかざすと、暖かいのです……」
 中腰になった静流自身が火鉢に手をかざして、実演してくれる。
「……確かに、暖かいですけど……」
 荒野は火鉢の前に腰を降ろして胡座をかき、家具もろくに揃っていない部屋の中をみわたしてから、静流に尋ねた。
「暖房器具、これだけ……なんですか?」
 問いかけた途中で、荒野は、ぎくりと動きを止める。
 ジャケットを脱いだ静流が、身体に合わないほど大きな綿入れを羽織ろうとしている。
「……だ、だんぼう……ですか?」
 静流は、首を傾げながら、荒野の隣に腰を降ろした。
 身体に合わない……というより、綿入れが大きすぎて、完全に、静流の身体がすっぽりと埋まってしまっている。「着ている」というよりも、「くるまっている」といった感じだった。
「じゅ、十分、暖かいので……必要ないですが……」
 まるで布団にくるまっているかのような静流の格好をみて、荒野は思った。
 その格好なら……それは、そうだろう……。
「静流さん……その、綿入れは……」
 荒野は、恐る恐る尋ねる。
「これ……ですか?
 ち、父が、風邪をひくからといって……いろいろ、送ってくるのです……。
 ほ、他にも……」
「……他にも?」
 荒野が聞き返すと、静流は「な、なんでもないです!」と首を振って強引に話しを打ち切った。
 ……とりあえず、静流さんが、あまりファッションに拘らないことと、それに、静流さんの父上が妙に心配性ならしい……と、荒野は思った。
 前者については、静流の障害のことを考慮すると、別に不思議ではない。見た目を気にしなければ、全身をすっぽりと覆う綿入れは、確かに冬場は暖かいだろう。
「……お、おかしい……ですか?」
 荒野のわずかな雰囲気の変化を察した静流が、そう聞き返してくる。
「いえ。別に」
 荒野は、真面目な表情で頷いて見せた。
 親の愛情や静流の障害に由来する齟齬を、物笑いの種にするべきではないだろう……と、荒野は思う。
「不自由がないのが、何よりです」
 大真面目な顔をして頷いて、荒野は、火鉢に手をかざす。
 炭火とその上に乗せてある鉄瓶は、手を近づけてみると、想像していた以上に暖かい。
 それも、じんわりと肌にしみてくるような、柔らかい暖かさだった。
「……そ、そうですか……」
 荒野の返答に納得しない表情をしながらも、静流は、それ以上追求してこようとはしなかった。
 静流はそのまま、火鉢の引き出しから湯呑みと出し、そこに茶葉を一つかみ入れて、鉄瓶のお湯を注いで荒野の前に差し出す。
 いつものことながら、洗練を感じさせる、手慣れた、流れるような動作だった。
 荒野は、一口、口をつけただけで、嘆息してしまった。
「……こう……身体の中から、暖まりますね……」
 うまい……ということは、静流がいれたお茶であるから、今更いうまでもないような気がする。
 しかし、こうして室内の気温が低い中で飲む、熱いお茶は……快適な環境で飲むものよりも、一層おいしく感じられる。
 ひょっとして静流は、普段からおいしいお茶を楽しむために、あえてろくな暖房を整備していないのかもしれない……などと、荒野は、感じた。
「そ、それは、よかったです……」
 荒野のすぐとなりに座った静流は、頷く。
 気づくと、静流の顔が、すぐ横にあった。
「さ、寒く、ないですか?」
 すぐ横にある静流が、荒野の方に顔を向けて話すと、吐息が、荒野の頬にかかってくる。それくらいの、近距離だった。
 間近でみると、静流の肌は、白くて肌理が細かいな……と、荒野は感じる。
「……いえ……別に……」
 静流の無防備さにどぎまぎしながら、荒野は、「ああ。そうか。この前、あんな約束したから……今更、警戒する必要もないのか……」とか、そんならちもないことを考える。そんなことを思い出したり考えたりするうちに、荒野は、ますます動悸が早まることを自覚する。
「……いつも……ここに、一人で……」
 そこで荒野は、さりげなく話題を変えた。
「……ひ、一人で……といっても……お、お引っ越しの後、すぐに、改装工事に入りましたし……。
 それに、野呂の縁者やご近所の方が、入れ替わり立ち替わり、様子を見に来ますし……」
 ……それも、そうか……。
 と、荒野は思い直す。
 今まで、何かと騒がしくて……それで、今は……静流が越してきてからはじめて訪れた、静かな時間なのかも、知れない……。
 静流の店が開店すれば、新たな人の出入りも、それなりに発生するだろうし……。
 そう考えると、静流の身辺については、そう心配する必要もないのかも知れない。
「……この、火鉢……留守中も、火を消さないでいくんですか?」
 荒野は、再び話題を変える。
 少なくとも、荒野がこの部屋に入った時には、種火はついたままだった。
「こ、これ……一度火を落とすと、また火を起こすの、一苦労なのです……」
 静流は、少しあどけない表情になって、ちろりと舌を出した。
「ほ、本当は、いけないんですけど……ゴミ出しとか、ちょっとしたお買い物とか……三十分以内に帰ってくるような用事なら、そのままでいっちゃいます……」
 大地震でも来てこの家が横転でもしなければ、まず火事になることもないだろうから、実際上、それで問題がないのかも知れないな……と、荒野は、見るからに古そうな、時代劇にでも出てきそう火鉢を見降ろしながら、そう納得をする。
 静流は……まだ、ここに越してきて間もないのに、自分なりのライフスタイルを、すでに構築しつつある……と。
「この火鉢……お店がはじまったら、そっちに置いてもいいですね……」
 荒野は、そんなことを口にする。
 どのみち、開店したら、静流は一日のほとんどの時間を、店の中で過ごすことになるだろう。




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彼女はくノ一! 第六話(47)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(47)

「……ふっ。ふっ。ふっ……」
 孫子が、手を下に延ばしていきり立った香也の竿を指先で撫でながら、意味ありげな微笑みを浮かべて、香也に顔を近づける。
 ……共犯者の笑みだ……と、香也は思った。
 事実、香也は、もはや抵抗する気がなくなっている。
「……本当に、苦しそう……」
 孫子は、香也の気持ちを見透かしたような表情を浮かべて、指先で香也の亀頭を探る。
 孫子の指先が鈴口に当たると、香也は、思わず、「……うっ」と呻いた。
「……これ……何とかしませんと、学校にもいけませんね……」
 孫子は、じらすような手つきで、怒張した香也のモノの表面を、指先でそおっーとなぞる。触るか触らないかという、微妙な手つきだった。
「……こ、う、や、さ、ま……」
 孫子が、香也の鼻先に息を吹きかけるようにして、囁く。
「これ……。
 何とか、したいですか? して、いいですか?」
 どアップの孫子にそう迫られて……香也は、こくこくと頷いた。
 香也のそこはすでに、「何とかしたい」とか「して、いい」とかいうよりも、もうちょっと刺激を与えれば、いつ暴発してもおかしくないくらいになってしまっている。
 香也の表情から切迫した状態を察したのか、孫子は「ふっ」と息をつき、ちらりと目覚まし時計に視線をやり、時刻を確認する。
 香也の普段の起床時間、つまり、目覚ましが鳴るまで、あと十分。
「それでは……時間もないですし、制服が汚すのも問題ですので……。
 お口で、失礼させていただきます……」
 そういって孫子は、頭を香也の股間にまで下げ、両手の指で香也の肉棒を持ちながら、ちろちろと香也の亀頭に舌を這わせはじめた。
 常に、周囲の状況に気を配り、最善の選択をするように努める……そういう冷静さは、こんな時でも、はやり孫子らしかった。
 孫子は、上目遣いで香也の表情の変化を観察しながら、ちろちろと舌を使いはじめた。香也は、そこを口に含まれたことは何度かあったが、舌先だけで刺激された経験は少ない。
 生暖かい孫子の舌が露出した先端の敏感な部分に触れる度に、新鮮な感覚に香也は軽く身震いをする。
「気持ち……いいですか?」
 ぴちゃぴちゃと音をたてて舐めあげる合間に、時折、孫子が顔をあげ、香也にそう尋ねて来る。
 香也は、その度にこくこくと頷く。
 孫子の舌先によって、そこに刺激を受けることは、気持ちがいいことは、いい……の、だが……それはぬるま湯的な気持ちよさであり、せっかく高まってきた欲望を射精まで高めるまでのエネルギー量は持ち得ない。
「……ふっ。
 わかっております……」
 孫子は、香也の考えを見透かしたような微笑みを浮かべて、スカートの左右を掴み、持ち上げて、自分の下半身を香也の目に晒した。
 白い肌と黒々とした陰毛が、香也の目を射る。
「……これが……欲しいのですわよね……」
 そういって孫子は、スカートを持ち上げたまま、立ち上がる。
 孫子は頬を染めて、潤んだ瞳で香也を見上げる。
 香也は、孫子の茂みから目を離せなくなった。
 立ち上がった孫子は、香也の視線を避けることもなく、スカートをまくり上げたままで、香也の頭の方に、ゆっくりと、歩く。寝そべったままの香也の頭を跨いだところで、孫子は、歩みを止めた。
 香也の顔の真上に、孫子の性器がある。それを、香也はまともに見上げている。
「……これが……欲しいのですわよね……」
 孫子は、再び香也に同じことを尋ねた。頬は染めているが、孫子の態度はむしろ堂々として、怯んだ様子がない。
 香也は、孫子の茂みから目を離すことが出来ず、こくこくと頷く。
「……ふっ」
 孫子は、目に慈愛に似た表情を浮かべて、身体の向きを変える。孫子は、香也の足の方に顔を向けて、香也の顔の上に、腰を降ろした。
「こうすれば……香也も楽しみながら……わたくしも、ご奉仕できます……」
 香也の顔の前に、孫子の局部があった。
 孫子は軽く腰を浮かせているらしく、孫子の茂みに香也の鼻が当たるくらいの位置で、ぴったりととどまっている。
 ばさり、と、香也の顔の両脇に、孫子のスカートが降り、周囲が暗くなる。そうやって周囲を覆われると、孫子の匂いが目の前に充満しているような気がしてくる。
 孫子の匂い……というのは、要するに、目の前の茂みから臭ってくる、孫子の女性の匂いなわけであるが……。
「このまま……失礼させていただきます。
 そのまま、わたくしのは、好きにしていただいて、構いませんから……」
 ……殿方は、そういうのがお好きなんでしょう……と続ける孫子の声は、笑いを含んでいるように思えた。
 香也の分身を、生暖かい粘液が包み込む感触。そのまま、孫子の舌が這ったものらしい感触も……。
 どうやら、孫子は、香也のモノを口に含んで、本格的に愛撫しだしたらしい。
『……うわぁぁぁ……』
 と、香也は思った。
 感触も、そうだが……この、シュチュエーションが、香也的には、やばい。
 今までのあれこれも、なんか、どさぐさまぎれってーか、どたばた騒ぎってーか、がちゃがちゃしたノリで行ってきたわけだが……今回のは……雰囲気と……。
『……に、匂いが……』
 先ほどから、むっとする香りが、香也の鼻を刺激している。孫子のイメージにほど遠い、動物性の香り……であることが、香也をかえって興奮させる。
 香也が鼻をひくつかせると、吐息が敏感な部分に触れてしまうのか、孫子が腰をゆらゆらと動かした。
「……んっ。
 よかったら……香也様も……好きにしてくださって……」
 孫子が、香也のモノから口を離して、そういう。
 香也を誘う……というよりも、孫子がそうして欲しい……という願望を含んでいるように、香也の耳には聞こえた。
 香也は、固唾を飲む。
 孫子に上に乗りかかられて、身動きができない……というのもあったが、こうまで目の前にあると……やはり、健全な少年としては、いろいろとしたくなるわけで……。
 香也は、そろそろと舌を延ばしはじめた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(305)

第六章 「血と技」(305)

 他の生徒たちに混ざって沙織の講義を一通り聴いた後、荒野は早々に退散することにした。時間がたつほどに、図書室に集まる生徒が増えている。後から来た他の生徒たちにも、場所を譲ってやるべきだと判断した。
 荒野が席を立つと、一緒に来た同じクラスの生徒たちも、荒野の後についてぞぞろと図書室を後にする。
 ほぼ同時に、茅を中心とした一年生たちも、全員、図書室から退出して移動しはじめていた。人数が増えすぎたから、別の教室に場所を移す、とかいうことだった。一年生が出て行った分、図書室内の空間は空き、後から来た二年生を収容するのに都合が良かった。
 香也と楓は、その一年生たちとは別の方向……つまり、美術室の方に向かう。荒野も一瞬、そっちに同行しようかと思ったが、思い直してそのまま帰ることにした。
 冷蔵庫の中が空っぽになっていたことを、思い出したのだ。

 帰りに商店街に寄って、すっかり顔なじみになった店の人たちと無駄口をききながら抱えきれないほどの荷物を抱え、そのままマンションに向かおうとしたところで、声をかけられた。
「……か、加納様……」
 白い杖を手し、犬を連れた静流だった。
「どうも」
 荒野は、両手に抱えた荷物の間から出した、頭だけをぴょこんと下げる。静流にはこちらの様子は見えない筈なのだが、気は心というヤツだ。
「お、お買い物、ですか?」
 静流は、声をかけながら、荒野に近づいてくる。
「ええ。
 学校帰りに寄り道、です。最近、前にも増して、食料の減りが早くて……」
 と、反射的に静流に答えかけて、荒野は、
『……確かに……食料を消耗する速度が早いよなぁ……最近……』
 ということに、気づく。
 最近は荒野自身で買い物に出る頻度が少なくなっているので、それと、酒見姉妹が夕食を食べていくことが多いので、今までなかなか思い当たらなかったが……よくよく思い直してみると、確かに……茅の食欲は、以前よりもずっと増している。荒野が知る範囲では、同年配の少女より、かなり多く……倍以上、食べているのではないのか?
 最近、荒野は、大勢で食卓を囲む機会が多いので、同年配の少女たちが一食につき、どの程度「食べる」のか、かなり具体的に類推することができるようになっている。
 まるで……。
『……おれ、みたいに……』
「……ど、どうか、しましたか?」
 静流が、急に黙り込んだ荒野に、戸惑ったような声をあげる。
「いや、別に……」
 荒野は、平静な声で静流に答えた。
「……何でも、ありません……」
 茅が、加納の体質を受け継いでいることは、すでに判明している。それ以外に、この先、どういう特性が発現しようが……今更、驚くべきことではないのかも知れない……と、荒野は思う。
「……そ、そうですか……」
 静流も、それ以上追求しようとはせず、話題を代えた。
「か、加納様は、今、お、お時間がおありでしょうか?
 じ、実は……」
 近く開店する予定の静流の店の内装工事が終わったから、よかったら見に来ないか……と、静流は荒野を誘った。
 荒野には、断る理由はなかった。

「……明るくて、いい感じですね……」
 静流に案内されて、内装が仕上がったばかりの店内に入った後、荒野は周囲を見渡して、そう感想を漏らした。
 決して広くはないが、白で内装を統一された店内は、とても明るくて、清潔に見える。もともとあった古い商店に、内装だけを手に入れただけだったから、建物の外見は、率直にいってみすぼらしいくらいだったが……中に入ると、全然印象が違ってくる。
「……わ、わたし……これですから……」
 静流は、サングラスを指先で軽く叩く。
「……せ、センセイや、千鶴さんの意見を聞いて、こういう内装にして貰いました……。
 じゅ、什器とかの手配は、これからですけど……。
 あ、あまり広くないので、多くのスペースは、さけないですけど……お、お茶を試飲するためのコーナーも、つ、作るつもりなのです……」
 静流の言葉通り、今の店内には、何もない。
 だから、外から見た印象よりも、かなり広く感じられた。
「……それで……静流さんは、この上に、住んでいるんですか……」
 荒野は、荷物を抱えたまま、上を見上げる。
 静流は、借りた店の階上に住んでいる……と、以前、何かの拍子に聞いた覚えがあった。
「そ、そうです……」
 静流が、頷く。
 それから、急に何かに気づき、小さな声をあげる。
「……あっ。
 い、いつまでも……立ち話しも、なんですし……。
 ど、どうぞ……お二階に……」

 荒野は、静流に先導されて、店の二階に続く階段へと案内される。
 犬は二階にあげないようにしているのか、店の中で床に伏せ、蹲っていた。
 静流自身には必要がないためか、階段の灯りはつけておらず、採光も悪かったため、昼間であるにもかかわらず、かなり薄暗かったが、夜目が利く荒野としては、それでもまるで不自由をしなかった。
 階段だけではなく、店内の内装が明るかったのに比べ、居住部分に一歩足を踏み入れると、途端にこの建物の古さが露わになる。
 足を乗せるたびにぎしぎしと軋む狭い階段を上がり、二階部分に入ると、そこは畳が敷かれた日本間で、しかも、敷かれている畳はいちように陽に灼けていて、この建物の年季を感じさせた。
 部屋の真ん中にぽつんと置かれているちゃぶ台と、その隣に置かれている火鉢以外に家具らしい家具は見あたらなかった。火鉢の上には鉄瓶が置かれ、そこから湯気が立っている。どうやら、その火鉢は格好だけのものではなく、「現役」で使用されているらしい。
 がらんとした室内を見渡し、荒野は、
『……静流さん……普段、一人でいる時間は、どうやって過ごしているんだろうか……』
 と、荒野は、ふと疑問に思った。




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彼女はくノ一! 第六話(46)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(46)

 薄いパジャマの布地越しに、押しつけられた孫子の身体を感じた。孫子も学校の制服を着たままだったが、制服が皺になる心配をする様子もなく、躊躇なく香也に身体を押しつけている。
 だから、孫子の身体の感触が、もろに伝わってくる。
 外見上、ほっそりとした体つきをしているように見える孫子が、その実、出るべきところはしっかり出ていることを、香也は知っている。何しろ、孫子の全裸を間近に見たことがあるし、それ以上にあーんなことやこーんなことも、さんざんしてきている。
 孫子は、余分な場所に肉がついていないから、特に服を着ていると実態以上に痩せてみえる。が、胸とか腰とか、女性として肝心な場所は、しっかりと盛り上がっていた。孫子本人は、自分の体つきについて、「痩せすぎている」と認識しているが、それは、ごく身近に「もっと凄い」凹凸の持ち主がいるからだった。
 その証拠に、こうして身体を密着させていると、ワイシャツ越しにでも、孫子の胸のボリュームが実感できた。
 もちろん、依然として口唇は押しつけられたままで抱きつかれたままだったので、香也は、顔の両側も孫子の両手でしっかりとホールドされたまま、口の中も舌でかき回されている。
「……はぁ……」
 長々と香也の口の中を舌でかき回した孫子が、陶然とした表情で、少し、口を離した。
「……この、感触……。
 もう……随分……」
 香也の目を覗き込みながら、そんなことをいいながら、孫子は自分のスカートを手探りで捲りあげ、自分の下着を露わにし……香也の下半身に、改めてまたがり直した。
 香也の股間は、すでに、これ以上はないというほどに硬直し、パジャマを持ち上げている。その香也の硬直の上に、孫子は自分の恥丘を押しつけるようにして、香也の上に乗った。
「ほら……香也様のも……わたくしのも……」
 孫子は、香也の顔の両側を掌で押さえながら、香也の顔に息を吹きかけるようにして、感極まったように、囁く。
「ああ……。
 ほら……もう、こんなになって……」
 孫子は、そのままの体勢で、ゆっくりと腰を前後に揺さぶった。
 そうすると、孫子と香也の局部が、布地越しに擦り合わされる。
「……わたくし……ふっ……。
 はしたない……。
 もう、こんなになって……」
 香也の硬直した部分まで、擦り合わされている孫子の部分からの湿気が、感じられる。
「……このままでは、下着が濡れてしまいますわね……」
 香也の視線が、自然とその当たりに向けて下がったの気づいた孫子が、頬を赤らめて悪戯っぽい表情をして、下着に手をかけた。
 香也の目線が「そこ」に注がれていることを十分に自覚しながら、孫子は、自分の手で下着を降ろしはじめる。
 孫子は、素早く腿まで降ろした下着を足から抜き、中腰になって、香也の手を取り、自分の茂みへと導く。
 香也の指が、水滴を含んだくさむらに触れると、香也は反射的に喉を鳴らしてしまった。
「……香也様のことを考えるだけで……わたくし、こんなになってしまいますの……」
 孫子は、再び、香也の耳に口を近づけて、そんなことを囁く。
 くさむらの中に導いた香也の指を、孫子は、そのまま、くさむらの奥にある湿り気の原泉へと導いた。
「……んっ……。
 わたくし……。
 香也様のことを考えながら……時々……一人で……こんなはしたないことを……」
 孫子は、顔を耳まで真っ赤にしながら、なんのつもりかそんな告白を行い、導いた香也の指を自分の局部に擦りつけはじめた。
 香也の指の腹が、ぷちゅぷちゅと水音を立てながら、孫子の秘裂の中に潜り込む。
「……んっ……。
 はっ……。
 んんっ……」
 孫子は、香也の恣意を無視して、すっかり自分の世界に没入して陶酔している。
 よっぽど、「香也の指を使って、自分を慰める」という現在のシュチュエーションが、お気に召したらしい。
『……わっ……』
 香也は香也で、間近で、自分の指が孫子の女性を刺激する光景を見て、触ることに、すっかり夢中になっている。
 孫子のソコの奥から伝い降りてきたさらさらした液体が、香也の指と手を濡していた。
 そして、香也も年頃の健康な少年である。
『……すごい……』
 今までどさぐさ紛れでの経験は何度となくあるものの、これほど落ち着いて、自分の身体の一部が女性を興奮させる光景をみるのは、香也にしてもはじめての経験であった。
「……あっ」
 不意に、香也の指を使って自分を慰めていた孫子が、動きを止めた。
「……わたくしとしたことが……まずは……。
 わたくしよりも……香也様を……」
 そういって孫子は、意味あり気な視線で香也をみながら、手を下に延ばす。
 そして中指で、パジャマの布地を持ち上げている香也の分身の表面を、つつーっと、刺激した。
 香也が、
「……うっ」
 と、呻いて、身体を一瞬、強ばらせる。
「……んふっ……」
 孫子が、笑って、香也のパジャマに指をかけ……。
「香也様も……こんなに苦しそうになって……」
 下着ごと、香也のパジャマを、足元方向に、ずらした。

 ぴょこん、と、すっかり大きくなった香也の分身が、外に飛び出る。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(304)

第六章 「血と技」(304)

 教室内に入ると、荒野は、いつもの雰囲気との違和感を感じた。雑然としているが、騒がしいわけではない。むしろ、いつもは無駄におしゃべりをしている連中が、殊勝にも教科書やノートを開いている。
「……そっか……。
 テストか……」
 しばらく考えて、荒野は、雰囲気の変化の原因に、ようやく思い当たる。
 今日の六時限目に、英語の実力テストが実施される予定だった。
 考えてみれば、二年の三学期もあと僅か。
 それまで、成績に関してのんきに構えてきた生徒の中にも、そろそろ、神経質になりはじめても、不思議ではない時期だ。
「……余裕ねぇ」
 他人事のような口調で感想を述べる荒野に、明日樹はため息をついてみせる。こちらは、時間が経つにつれて、ナーバスになっていくグループに属している。
「普段から、なすべき事をなしていれば、動揺する必要はありません」
 そういう孫子は、普段から、放課後に飛び回る関係上、学校にいる間は、休み時間も惜しんで一人で自習を行っている。孫子は、自らのスペックを維持、向上させるための努力は、惜しまないし、他の生徒たちの視線も気にしないの性格であった。
「気にしたところで、点数がよくなるわけではないっていうのは、そうなんだけどな……」
 舞花は、そういう。
「でも……まったく気にするなっていうのも、無理だろう。実際問題として……」
 茅のような特殊な記憶力を持っていない限り、何の努力もなしに、新しい知識を身につけることは出来ない。それは、一族も一般人も変わるところがない。
「でも……勉強って、やってみると、なかなか楽しいよな?」
 荒野も、最近では、合間の時間を見つけては、こつこつと学習時間を捻出している。やってみてはじめて気づいたが、自分が興味を持てる分野に限っていえば、自主的に知識を増やすことは、これで、なかなか、楽しい。
「……それ……テスト前で殺気立っている人に、直接いってみたら?」
 荒野の言葉を聞くと、明日樹は、憮然とした表情で、ぐるりと腕をまわして教室内をしめした。
 そういったわけで、荒野の意見に賛意はえられなかった。 

『……二年生も、もうすぐ終わり……』
 来週には期末試験があり、それをすぎると、もう授業はないらしい。そのあと、試験休みが何日かあり、残りの登校日は、卒業式の練習とやら大掃除やらに費やされる、という話しだった。全校生徒が参加するリハーサルを、何度か繰り返すらしい。
 そうした「直接、授業や成績に関係しない行事も、学校ではそれなりに大切だ」ということを、荒野も、そろそろ、学びはじめている。
 人にも、よるのだろうが……成績のことを、まったく気にかけないグループも、生徒の中には存在し、そうした生徒たちにとっては、学業よりも節目節目で行われる行事の方が、大切だったり印象に残ったりするのだろう。
 ともあれ、三学期もそろそろ終わりに近づいている。
 そして、春休みを挟んで、新学期になれば……テン、ガク、ノリの三人が入学してきて、現象と梢は二年に転入してくる。茅や香也たちは二年生に、荒野たちは三年に、それぞれ進級する。沙織先輩は、卒業して上の学校に入学する。
『……繰り返しのようで、少しづつ、変化していく……』
 こういう反復は、別に、学生生活だけに限ったことではなく、どこかに定住して安定した生活を送っている一般人なら、それが当たり前の生活なのだろうが……そもそも、ここ数年の荒野は、ごく短時間で世界中を飛び回る生活をしていたので、そうした感覚は、ひどく新鮮に感じられた。
 こうした平穏な生活が……。
『……出来るだけ……』
 長く続けば、いいな……とも、荒野は思う。

 昼休みくらいから、教室内の空気はさらに緊張感を増し、六時限目のテスト中に、その緊張感は、最高潮に達していた。
 六時限目、すなわち、テスト時間の終わりを告げるチャイムが鳴ると、生徒のほぼ全員の口から、脱力感と解放感、それに、諦めが複雑に入り交じったため息が一斉に漏れる。
 監督していた教師が、答案用紙を回収するように告げ、後ろの席の生徒から前の席の生徒に、裏返しに伏せた答案用紙を順送りに渡して回収する。監督役の教師が生徒全員分の答案用紙を回収し終えると、日直が号令をかけた。
 教師が教室を出ていくと、生徒たちのざわめきが大きくなる。
「……おーい、加納君」
 嘉島が、荒野の席に近寄ってきた。
「君、英語はネイティブだろ?
 ちょっと、正解を教えてくれ……」
 それがきっかけとなり、荒野の席を、あっという間に
生徒たちが取り囲む。
「……ネイティブって……そりゃ、日常会話に不自由しないくらいは、読み書きできるつもりだけど……文法とか、ひっかけ問題は、あんま自信ないぞ……」
 そんな前置きをしながら、荒野は、生徒たちの質問に答える形で、一つ一つ、自分の解答を答えていく。そのたびに、荒野の周囲に集まった生徒たちは、安堵か悔恨のどちらかのため息を漏らしていた。
 そんなことをしているうちに、
『……ぴんぽんぱんぽーん……』
 というチャイム音が校内放送で、響く。
『……現在、図書室内において、生徒有志による、本日の試験の答え合わせが行われております……』
 とり済ました声を出しているが、玉木の声だな……と、荒野は思った。
『……二年生の答案については、三年生の佐久間沙織さん、一年生の答案については、一年の加納茅さんが、解説を行っております。
 興味のある生徒は、図書室までおいでください……』

「……そっちに、行こう」
 ふたたび、『……ぴんぽんぱんぽーん……』というチャイム音が響き、校内放送が終わると、荒野はすかさず、周囲の生徒に声をかける。
「……おれよりも、佐久間先輩の方が確かだし……それに、いつまでもここに居座っていると、掃除当番の邪魔になる……」
 荒野は、十名以上の生徒を引き連れて、図書室に向かう。

「……やってる、やってる」
 図書室に着いた荒野は、中をのぞき込んで呟いた。
 図書室の閲覧室は、普通の教室の二倍くらいの面積がある。その閲覧室の中で、茅と沙織が離れた場所に陣取り、それぞれ、一年生の分と二年生の分の試験問題について、解説を行っている。一年生と二年生、それぞれ、すでに二十名以上は集まっており、荒野たちのように、放送を聞いて集まってきた生徒たちも、まだまだいる様子だった。
 これ……最終的には、結構な人数になるんじゃないか……と、荒野は思った。
 荒野たちは、沙織を中心とした集団の周縁部にとりつき、熱心に沙織の解説に耳を傾けはじめた。荒野がそれとなく、観察してみると、やはり、一年生よりも二年生の方が、熱心に聞いているようだった。
 一年生は、受験までの間があるせいか、まだ、あまり逼迫感というものを感じなかったが、二年生の大半は、かなり真剣な表情をしている。
 沙織や茅の解説に耳を傾けている生徒たちを観察して、
『……なるほど、なぁ……』
 と、荒野は、納得した。
 最初、荒野は、先ほどの校内放送で、玉木がわざわざ、生徒である沙織と茅の個人名をいったのか、よくわからなかったが……毎日のように行われる勉強会の際に、沙織にも匹敵する茅の知識の確かさは、生徒たちの間にも、すっかり知られるところとなっているらしい。
 沙織の周囲に集まった生徒たちも、茅の周囲に集まった生徒たちも、沙織や茅が、間違った知識を伝える可能性については、まるで心配している様子がない。
 こと、学業に関しては、茅の知識の確かさは、今では、かなり広い範囲で生徒たちに認知されているらしい……と、荒野は観察する。
 荒野が、さりげなく周囲を観察していると、香也と楓が、何人かの一年生と一緒に図書室内に入ってくるのを、見つけた。
 荒野は、そっと席を立ち、香也たちの方に近づいてく。




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彼女はくノ一! 第六話(45)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(45)

 三人と茅にしばらく話しをさせたから、楓と孫子は、三人に向かってお風呂に入りにいけ、と即し、三人は、素直にその言葉に従ってプレハブを出ていった。
 それを機に、荒野と茅もマンションに帰っていき、プレハブの中には香也、楓、孫子の三人が残された。 
 香也はといえば、人数が増えたり減ったりしても、外見上は特に態度を変えることなく、淡々と手を動かし続ける。
 他の者がにぎやかに話していても、返答を求められない限りは自分から話しに加わる、ということもない。また、他の者も、絵に集中したいという香也の意向を尊重しているので、香也の背中に返答や相槌が必要な話しをすることはなかった。
 風呂に入りにいった三人も、小一時間もすると、パジャマに上着をひっかけた姿で香也を呼びに来る。それを機に、香也も画材を片づけはじめた。いつの間にか、これから風呂に入れば、後は寝るだけ、という時間になっていた。

 真理が帰ってきて以来、特別な事情がない限り、香也の入浴の順番は、一番最後になっている。何度かの乱入事件があったことを知った真理が、気を回すようになった結果だった。香也としても、特に順番にこだわりはなかったので、この方が気が楽だった。
 手足を伸ばして、こころなしかぬるめのお湯に浸かっていると、長時間、画架に向き合って強ばっていた手や肩がほぐれていくのを感じる。
 自分では、リラックスして描いているつもりだったが、こうしてお湯に浸かってみると、絵を描いている最中、必要以上に手や肩、背中が緊張していたことが、わかる。長年、やりつづけて、慣れいる分、意識せずに済んでいるが……香也にとっても、絵を描くことは、それなりに精神的な緊張を強いられる作業だった。

『……なんで……』
 こんな、肩が凝るまで緊張して……何時間も、何年間も……自分は、絵を描いてきたのだろう……。
 湯船に身体を延ばしながら、香也は、今まで気にしたことがなかった疑問について、ぼんやりと考える。
 絵を描くようになったきっかけは……よく覚えていない。
 気づくと、誰とも遊ばずに、何かを描いていたように思う。
 それは、ずっと昔からで……おそらく、この家に来る、前からのことで……その証拠に、幼いころ、順也に初歩的な画材の使い方を習った時も、『これ、もっといろいろな種類の絵がかけるようになる』と思ったことを、香也は記憶している。
 と、いうことは……順也から、絵を描く楽しさを習ったのではなく、順也に出会う前から、香也は、有り合わせの紙と筆記具で……当時の香也の年齢からいって、おそらく、クレヨンとか色鉛筆とか、そんなものだったのだろう……誰かにお知られる前に、まったくの自己流で絵を描いていた……ということになる。
 事実、香也が今の時点で想起できる、もっとも古い記憶は、幼い自分が、施設の一室らしい場所でクレヨンを使っている場面であり……。
 それ以上に古いこととなると、香也はまるで記憶していない。
 今までは、そんな過去のことは、気にかけたこともなかったが……。
『……廃棄物同士、か……』
 現象がいった言葉が、香也の脳裏に引っかかっていた。
 あれは……どういう、意味だったのだろう……。
 現象は、今のままでうまくいっているのだがら、無理に思い出させてバランスを崩す必要もない……というような意味のことも、いっていた。
 裏を返せば、香也が今、忘れていることを思い出すと、何か、不安定な状態になる、ということで……。
 香也は、そんなことをぼんやりと考えながら、浴室の天井を見上げている。
 結局は、いくら考えても香也自身にはどうにも手の出しようがない問題であり、また、現象がいうように、気にし過ぎるとかえって今の良好な状態を損ねる可能性もあるので、気にし過ぎない方がいいのか……という気も、している。
 だから、ぼんやりと天井を見上げながら、適当に身体が暖まった時点で、香也は「そんなことを、考えても、しかたがない」という当たり障りのない結論を、とりあえず出しておいて、思考を中断する。

 翌朝、香也は孫子に起こされた。
 先週にはじまった「当番制」とやらは、今週に入っても継続しており、日曜日に香也はあみだ籤を用意させられ、その結果、昨日は楓が一日、香也に張り付いていた。
 周囲に他の少女たちがいない状態では、楓も必要以上に香也にべたべたしてくることもなく、そういう意味では安心して過ごすことが出来たのだが……性格が異なる孫子に、そうした楓の「控えめさ」を期待するのは無理だな……と、至近距離にある孫子の顔を見上げながら、香也は起き抜けの不明瞭な思考で、そんなことを思う。
 目を覚ますと、孫子が香也の口唇を塞いでいた。いや、息苦しさを自覚して目を開けると、孫子の顔がどアップになっており、そこで香也も、今、自分の身に何が起こっているのか、自覚した……という方が、より正確な記述なのか。
 目を覚ました香也は、孫子の身体を押し退けようと、孫子の肩に手を置いた。
 すると、香也が起きたことを察した孫子が、いよいよ上から香也に身体を押しつけてくる。
 孫子は、布団に寝ている香也の上にうつ伏せに寝そべって、香也の口を塞ぎながら、身動きを封じている。
 んんんんっ……と、口を塞がれながれているため、不明瞭な音を喉の奥から漏らす。
 すると、孫子は、僅かに香也の口を離し、
「……はぁっ!」
 と、香也が息をついだところで、すかさず、その口の中に舌を割り込ませてきた。
 香也が首を左右に振って振り払おうとしても、孫子は、香也の上に覆い被さったまま、首にしっかりと腕をまわして離れようとしない。
 それどころか、香也の口の中を舌で探りながら、二人の身体の間にある掛け布団を手探りで剥ぎ、香也の胸板に、自分の身体を押しつけてくる。
 パジャマの薄い布地越しの感触で、香也は、孫子がすでに制服を着用していることに気づいた。
 ちらりと視線を横に走らせて、香也は目覚まし時計で時刻を確認する。
 目覚ましが鳴る、十五分前。
 自分の身に、何が起こっているのかを把握すると、香也は、少し冷静になった。
 どうやら、孫子は……香也と二人きりになれる、僅かな時間をこうして作って、香也とこういうことをしているらしい……。
 おそらく……孫子の存在を、香也の中で大きくするために。
 たとえ動機が、性的な欲求からくるものであっても、自分が香也に必要とされる機会を増やす……というアグレッシブなアプローチは、理解してみれば、何となく、孫子らしい……と、香也は思う。
 香也がそんなことを考えている間にも、孫子は掛け布団を手探り剥いで、いよいよ香也にのしかかって身体を密着させてくる。
 布地越しにでも、孫子の身体が熱を持ちはじめていることが、香也にも、感じられた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(303)

第六章 「血と技」(303)

 現象の周りに寄ってきた一族の者たちのうち、一人が現象に手を差し出した。
「……佐久間にも、面白いのがいるんだな」
 寄ってきた一族の者たちは、口々にそんなことを言い合いながら、現象を取り囲み、みながらにやにやと笑っている。
「佐久間が、面白いのばかりだと思わないでください……」
 梢が、顔を伏せてぼつりという。
「……そういわれても……この中で、佐久間を実際に見たヤツ、皆無だし……」
 梢の側にいた若い女性が、梢に手を差し出しながら、答える。
「実は……みんな、興味はあったんだけど……今まで、話しかけるきっかけがなくって……。
 あっ……わたし、野呂の茜」
「えっと……佐久間の、梢といいます……」
 梢は、おずおずと、茜の差し出した手を握る。
 すると、堰を切ったかのように、「おれも、おれも……」と梢の周りにいた男性陣が、梢に手を差し出して一斉に名乗りはじめた。
「……えっ……あっ、あっ……」
 梢は、困惑した様子で、周囲をきょろきょろと見渡す。
「まともに相手にするな」
 舎人が、憮然とした表情でいった。
「もともと、一族っていうのは、大概に物見高いんだ。
 現象は、この間の騒ぎの元凶だし、加納の若の手前もあって、今まで自重していたんだろうが……これからは、何かとちょっかいを出してくるぞ……」
 そういって、舎人は、数人がかりで羽交い締めにされ、連行されていく現象を指さした。
「……ほれ。
 あのヘタレも、少しはやると思われた途端、あのざまだ。
 連中、これからめいっぱい現象をこづき回してどこまでのものか試して、その後、野呂と二宮とで、競うように技をたたき込んでいくぞ……」
「……は……はぁ……」
 梢は、目を点にして、次々に一族の術者たちに襲いかかられている現象を、みる。
「……あの……それって……いいこと、なんでしょうか?」
「……現象にとっては、いいこと……なんじゃねーのか?」
 舎人は、ぼりぼりと音をたてて太い首を掻いた。
「今まで孤立していたあいつにとっては、いい経験だろう……。
 だが……あいつが、経験値溜めてレベルアップしていくと、見張っているおれたちにしてみれば、どんどん扱いにくなるなぁ……」
「そんな……のんきに……」
 梢は、舎人の無責任な言葉に、かなり呆気にとられている。
「無駄だよ、梢さん……」
 それまで黙って成り行きを見守っていた荒野は、割ってはいる。
「舎人さんは……こうなると予想した上で、現象をけしかけたていたんだ」
 ここまで来れば、荒野にも舎人の思惑が、おおよそのところ読めている。
「舎人さんは……おそらく、現象を、他の一族の者に接触させたいんだろう……」
「あいつ……何かというと、一族キラーだとかなんとか、ほざくからなあ……」
 舎人は、荒野に向かってそう応えた。
「少しは現実というものを、自分の身体で体験してみた方が、いい。
 実力差を……己を知るということも、必要だし……それに、一族にしろ一般人にしろ、人間なんて個々人、それぞれに違う。
 そのことを、肌で感じて貰わないと、あいつの歪みはどうしようもねーだろ……」
 梢は、少し思案顔になって、舎人の言葉について、検討している様子だった。
「……わかりました。
 短期的には、ともかく……長期的に見てれば、現象の人格的な成長を即した方が、余計なトラブルは少なくなる……と、理解します」
 少しして梢は、真面目な表情で、頷く。
「それに……現象が、多少戦力として成長しても、わたしたちで十分に抑えられます」
 ……そう願いたいものだな……と、荒野は、内心で梢の言葉に頷いた。
 佐久間の長がこのような形で現象を放し飼いにしているのなら、それなりの予防措置も、二重三重に講じているのだろう……と、荒野は予想しているし、梢の「十分に抑えられる」という発言についても、その文脈で理解できるのだが……やはり、誰にとっても一番いい展開は、「現象が、特に監視を必要としない存在になる」ということだ。
 荒野の経験からいっても、幼少時に植え付けられたドグマや憎悪など、害こそあれ、本人にとっても周囲の者にとっても、利点はひとつもない。そうとわかっていても、意識の底にこびりついた負の感情は、なかなか拭えるものではない。
「この世の多様性を、肌で実感させる」という舎人の方法論は、それなりに有功だろう……と、荒野も思う。強制的に植え付けられたドグマや憎悪を消せないのなら……せめて、他の様々な事物を経験させ、その比重を、小さくするように、し向ける……というのは。
 別に、荒野にしてみれば、現象の人格的成長などにはまったく感心が持てないわけだが、それでも、他の一族と、無分別に交わらせたり、普通の一学生として、学校に通わせたり……という経験を現象に積ませることは、現象の視野を広くする上で、それなりに、妥当な方法だろう……と、荒野も、思う。

 その現象は、今では、大勢の一族の者たちに囲まれて、いいオモチャになっていた。

「……あの三白眼の子も、なかなか面白いじゃないか……」
 登校時、飯島舞花は、脳天気な口調で現象のことをそう評した。
「ま……見ているだけなら、確かに、面白いやつなんだけど……」
 荒野は「面白い」という部分を否定しきれないので、仕方なく肩を竦めた。
「……あれも……春から、三人とともに、うちの学校に通うようになる……。
 それを考えると、ちょっとな……」
 これ以上、問題児が増えたとしても……荒野の警戒心はすでに振り切れていて、麻痺している。
 このあたりの荒野の心情を言葉にするならば、「どうにでもなれっ!」という捨て鉢さよりも、「……なるようにしか、ならないだろう……」という諦観に近い。
 現状はすでに、いい加減、荒野一人の努力ではどうにもしようがないほどに錯綜している。
 今、そしてこれから、荒野に出来ることは、自分一人の努力だけではどうにもならない、ということを自覚しつつ、それでも、事態を好転させようとすることを、諦めないことくらいだった。




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彼女はくノ一! 第六話(44)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(44)

 孫子は、実家から持ち込んだ衣服や小物類を売り払って作った資金を、「シルバーガールズ」に投じている。孫子の立場を考えれば、「やる以上は、成功して貰わないと困る」という意見なのも、無理もないであった。
「……ぜんぜん、大丈夫だよ……」
 テンが、口唇を尖らせる。孫子に信頼されていないことが、かなり不満そうな表情をしていた。
「今までの感触だと、結構、反響とか手応え、感じるし……それに、経費も、現金はほとんど動いていないから……」
 ガクとノリは、テンの言葉に力強く頷く。
 三人は、「コンテンツ産業としての、シルバーガールズ」について、かなり自信を持っているようだった。
「成功しても、必要経費を差し引いた純利益は、全部ボランティアにまわす予定だけど……だかこそ、成功しなけりゃいけないし……みんな、そのつもりで趣味に走っているから……結果として、かなりいい出来になってきているんだ、今……」
 テンは、静かな中にも、自信を湛えた声で、そう続ける。

 食事が済むと、テン、ガク、ノリの三人は、「用事がある」とかいって、外に出ていった。三人が、夜間に外出することについて、真理は「気をつけていってね」と注意しただけだった。いくら、夜間とはいえ、三人に対してどうこうできる者がいるとは、真理も思ってはいない。もともと、真理は、出来る限り子供たちの判断や自主性を尊重する放任主義者だし、注意、というよりは、ほんの挨拶代わりの言辞にすぎないのだろう。
 香也はというと、いつものように、庭のプレハブに向かう。
「……やあ」
 プレハブの前に荒野が、腕を組んで待ちかまえていた。
「久しぶりに、見学させて貰うよ」
「……んー……」
 香也は、不審に思っていることを示すために、軽く首を傾げながら、答えた。
「……いいけど?」
 荒野も年末頃までは、頻繁にプレハブに出入りしていたが、最近では、滅多にこないようになっている。
 特に、「何の用もなく、荒野が単独で……」というのは、最近では、皆無に近い。
「いや、その……」
 荒野は、照れくさそうに笑ってみせた。
「茅が、しばらく、夜に外出することになったんだ。
 一人でぽつんとマンションで待つのも、な……」
 ……そういうことか、と、香也は納得する。
 香也は、自分が、荒野は一人でいることに、不自然さを感じていることに気づき、少し驚いた。
 いつの間にか、香也の中では、「荒野と茅が一緒にいる風景」が、当然のものとなってしまっている。もちろん、荒野と茅とでは、学年が違うわけし、常に一緒にいるということも、ないのだが……。
『……二人一緒だと、絵になるからかな……』
 長い黒髪が印象的な茅と、プラチナブロンドの荒野とは、確かに、同じ視界に入っていると、風貌としては好対象であり、香也の心証としては「しっくり来る」のであった。
 今すぐ……とは、いかないが……そのうち、二人が並んで立っているところを、描いてみたいな……と、香也は、漠然と思った。香也が自分から人物画を描きたいと思うことは、かなり珍しいことだったが……当の香也自身は、そのことを不自然だと思っていない。
 香也はプレハブの中に入り、荒野が来ているからといっても特に身構えることなく、いつものように準備をはじめ、自分の絵に向かいはじめる。

 しばらくすると、風呂からあがった孫子と楓も、プレハブにやってきた。荒野が来ているのを知ると、孫子は軽く眉をひそめ、楓は目礼をしたが、二人とも、絵に集中しはじめた香也の邪魔はしたくなかったので、口に出しては何もいわない。
 香也は、
『……こういうの、なんか、ひさしぶりだな……』
 と思いながら、背中に感じる三人の視線を、極力意識しないように努めながら、目の前の絵に集中しようとする。
 背中に三人の存在を感じることで、手の動きに何かの力で後押しをされているような気分になって、いつもよりも描くペースが、明らかに早くなっていた。
『……他人の……視線は……』
 力だ……と、香也は実感する。
 たった一人で描いていた時と、今とを比較すれば……明らかに、今の方が、描く腕の速度が、加速している。
 それまで……自分は……。
『……たった一人で……』
 いったい、何をやって来たのだろう……と、香也は思う。
 絵は……見る人がいてこその、絵……なのではないか……と、ごく当たり前のことを、今更ながらに認識する。
 絵を描くことは、一人でもできる。
 でも、描きあがった絵を見てくれる人がいなくては……その絵も、意味がない。
 誰かに見て貰うあても、まるでなく……小さな頃から延々と絵を描き続けていた自分は……本当に、今まで……何を、やっていたのだろうか?
『……ぼくは……』
 手を動かしながら、香也は、思い返す。
 一番、古い記憶がある頃から……何かを、描いてた気がする。

 だけど……そもそも、何のために……ぼくは、絵を描きはじめたんだっけ?

「……たっだいまっー!」
「おにーちゃーんっ!」
「今帰ってきたよーっ!」
 しばらく、静かに香也が絵を描きつづけ、それを他の三人が見守る……という時間が過ぎ去った後、テン、ガク、ノリの三人が、けたたましく声を掛け合いながら、プレハブの中に乗り込んできた。
「……か、かのうこうや……」
「何で今頃、こんなところに……」
 そこで三人は、香也の姿を認めて、棒立ちになる。
「人の顔をみるなり、今更ながらに、失礼なやつらだな……」
 荒野は、故意に渋面を作ってみせた。
「それで……現象のところは、どうたった?」
 荒野がそういったので、香也は、はじめて三人の外出先を知った。何のために、総出で現象の家まで出向いていったのかは、香也には、見当もつかなかったが……。
 楓も孫子も、あらかじめその辺の事情を聞かされていたのか、荒野の言葉を聞いても、これといった反応を示していない。
「……まずは、簡単な概論と説明。
 それと、感覚拡張の適正試験をされたの……」
 三人の後ろから茅が進み出て、そう説明する。
 どうやら、茅も三人と一緒に現象の家に行っていたらしいが……当然のことながら、香也には、茅の説明が具体的に何を意味しているのか、まるで理解できない。
「……感覚、拡張?」
 荒野も、はやり茅の言葉の意味がとれないのか、軽く眉をひそめてみせた。
「最終的には、もっといろいろ拡張していくそうだけど……とりあえず、今日は、聴覚」
 茅は、荒野に頷いてみせた。
「……何種類もの音叉を取り出して鳴らせてみせて、どこまで聞こえるか、一人一人調べたて……その後、特殊な笙で、頭に刺激を与えられたの……」
 その……「特殊な笙」とは、いったい何で……何のために、三人と茅は、現象のところにいって、そんなことをしているのだろうか……と、香也は、疑問に思った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(302)

第六章 「血と技」(302)

 太介が両腕を矢継ぎ早に現象に繰り出し、現象は、片っ端からその攻撃を横にはじく。
 現象の動きに淀みや迷いはなく、見ただけでは、昨日今日に鍛錬をはじめたようには判断できないほどだった。

「……なかなか、様になっているじゃないか」
 荒野は、太介の攻撃を受け流している現象の動きを、そう評した。
 実際、わずか数日の鍛錬しかしていないことを考えれば、荒野の目から見て、上出来に思える。
「護身と受け身に関しては、基本の型だけを真っ先に、みっちりと教えておいたんだが……」
 舎人は、苦笑いを含んだ声で答えた。
「力も反射神経もそこそこのものだから、かえってその先が教えにくくてなぁ……」
 なるほど……と、荒野は納得する。
 現象は、素質はともあれ、性格的に図に乗りやすいタイプだ。
 舎人としては、まず最初に、自分の身を守る方法から教えておいたのだろうが……その結果、滅多のことでは打ちのめされないようになったらなったで……またそぞろ、増長するだろう。
 だから、舎人としては、この段階で、明らかに現象よりも格下に見える、太介や高橋君に、現象を打ちのめして欲しい……というわけ、らしかった。
 静流や、同じ新種であるテン、ガク、ノリの三人に負けるのは、現象としてもそれなりに納得してしまう。しかし、現象よりも年下に見える二人に太刀打ちできなかったとすれば……以後、現象としては、体術に関しては、謙虚に構えるしかなるしかなくなる。
『……年下、といっても……』
 太介と高橋君は、確かに、現象よりは「下」に見えるが……それも、程度の問題だ。
 実際の年齢よりもかなり上に見られる荒野とは違い、現象は、実年齢相応の少年にしか、見えない。
 つまり……現象は、外見上は、一歳下の太介や高橋君とは、あまり差が認められないのであった。実際の年齢差よりも、発育段階なのどの個人差の方が、大きいだろう。三人とも、中肉中背で背やウェイトも、ハンデとなるほどの差異は存在しなかった。
 太介が、やや手足が短く、高橋君が、細身でひょろりとした印象を与える位の差はあったが……それも、「強いていえば」といった程度の差でしかない。

 現象が、太介に気を取られている隙に、高橋君は現象との距離を取り、鎖分銅を使った。
 どうやらそれが、高橋君の手に馴染んだ得物らしい……と、荒野は見当をつける。
 高橋君は、細い鎖の両端にある分銅を軽く振り回し、遠心力を乗せると、左右から一度に現象に向かって投げつける。鎖分銅に使う分銅は、見た感じではそんなに大きく感じられないし、また、実際に分銅自体は、たいした重量でもない。
 それでも、勢いつけて当てれば、人の身体くらいは簡単に壊せる凶器と化す。
 一方は、現象の視界に入りやすいように、頭部に向けて、もう一方は、現象の足首に向けて……二つの分銅が、一度に現象に襲いかかる。
 現象は、逃げ場を失ったかにみえた。
 前面にいる太介も相手にしている現象は……いずれかの攻撃を避ければ、別の方向から来る攻撃を受ける。または、足首を鎖で戒められ、行動の自由を失う。

 しかし、次の瞬間……現象は、にやりと嗤った……かのように、荒野には、みえた。

 現象が、目の前に繰り出された太介の腕を払う代わりに、頭をめがけて飛来する分銅を、払う。
 同時に、身をかがめて、正面から太介の掌底に頭突きをかます。
 十分に体重を乗せて腕を繰り出していた太介は、その腕を正面から押され……足元があやしくなり、一瞬、太介は、背後方向に身体をよろめかせる。
 現象の足首には、もう一方の鎖が絡まっていたが……自分の足首と高橋君の手とを繋ぐ鎖を、無造作に踏みつけにした。
 現象の踏みつけられた拍子に鎖を一気に引っ張られて、高橋君の身体が前につんのめる。
 ……やばい……かな……。
 と、荒野は思ったが……その時には、現象は、足首に鎖が絡まった方の足を躊躇いもなく振り上げ、高橋君の顎を蹴り上げていた後だった。
 現象は、高橋君が倒れるのを確認もせず、鎖を巻き付けたままの足を、今度は横方向に、振り回す。
 鎖が、体勢を立て直す前の太介に、まともにぶつかる。
 細い鎖だったので、ダメージそのものは、あまりなかった。が……かわりに、太介の身体の周囲を何回転かして、太介の腕を胴体に、固定した。
 現象が、太介との距離を、一気に詰める。
 そして、太介が反応する前に、両腕を拘束された太介の足首を、素早く横に払う。
 高橋君に続いて、太介までもが、無様に横転した。
 その時になって、高橋君が、頭を振りながら、身を起こした。

「……舎人さん……」
 荒野は、尋ねた。
「ここまで……教えたのか?」
「いいや」
 舎人は、首を振る。
「あれは……教えて出来るものでは、ないだろう……」
 まあ……そうだろうな……と、荒野も思う。
 瞬時に状況を把握し、利用できるもの全てを利用する判断力……というのは、体術とはまた別の才覚だ。舎人が最低限の護身術を教えたことによって、現象は、そうした才覚を活かす余裕を、生み出すことができるようになった。
 最初の一撃さえ、何とかすれば……現象は、そこそこ強い……と、荒野は脳裏に書き留める。
 ただし……。
『相手によりけり、ではあるだろうけど……』
 とも、思ったが。
 相手が……目的のためには手段を選ばないプロフェッショナルなら、こんな手は、まず通用しないのだが……現場経験のない太介や高橋君相手なら、この程度の機転でも十分に対応できる……と、そういうことなのだった。

 気づくと、遠目で成り行きを見守っていた一族の者たちが、現象に近寄ってくるところだった。




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彼女はくノ一! 第六話(43)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(43)

 家の前で、香也は楓に鞄を預け、そのまま明日樹を送りにいった。
 楓は、「ただいま帰りました」と声をかけてそのまま玄関をくぐり、まず、香也の部屋に寄って香也の鞄を置き、それから自室に戻って制服を着替えた。
 着替え終わると、楓は台所に行き、真理に声をかけて、夕食の準備を手伝いはじめる。他の住人たちは、それぞれの事情でまだ帰ってきていないらしい。
 真理には、家事を手伝う代わりに、料理の仕方を教わっている。真理の料理は、例えば三島が作るものほど凝ったものではなかったが、そのかわり、レパートリーが広く、手軽に作れるものが多かった。また、同じような料理でも、味付けを工夫することでバリエーションを多くし、食べる側が飽きにくいようにする、ということも、教えて貰った。
 一言でいうと、真理の料理は、家庭の主婦としては、極めて実用的なのであり、他の住人たちも、手が空いている時は、今の楓のように、手伝ったり料理を教えられたりしている。
 しかし、最近では……ことに、真理が長旅から帰ってきてからは、もっとも長く真理に接しているのは、楓になっている。他の少女たちは……孫子や、テン、ガク、ノリは、今では家の外に、実質上、仕事を持っているような状態だった。テン、ガク、ノリの三人も、ボランティアの活動資金として企画されたシルバーガールズと、自分たちで使用するための装備開発、それに、ソフトウェア開発で、多忙を極めているようだった。
 それでも、孫子にせよ、三人娘にせよ、夕食が準備できる時間には、きちんと帰ってくるのだが……。
 ともあれ、真理と一緒に細々とした日常的な家事を行う時間は、今では、楓にとってもリラックスできる時間となっている。
 もともと、楓は、普段からにこやかな態度を崩さず、出来るだけ、表面に出さないように努めているので、気づいている者も少ないのだが……その実、神経が細かいところもあり、普段の眠りも、ひどく浅かったりする。
 そうした楓の神経過敏な傾向に気づいているのは、この時点では、荒野と孫子くらいなものだろう。それと、茅も、楓が抱える、根底的な部分の不安定さを見抜いているのかも知れないが……少なくともこの時点では、「そのことに気づいている」と、周囲の者に明言しては、いない。

 こうして、手を動かしていると、落ち着く……と、楓は思う。その安心感は、「自分が、何かの/誰かの役に立つことができる」という実感から来るものなのであるが、そのことを、楓はまだ自覚してない。
 楓が、常時、抱えている不安とは、「孤児である自分は、何者か、わからない」という思いであり、そこから出発して、楓は「自分が何者であるのか、明示してくれる者につき従っていきたい」という脅迫観念にも似た強い焦燥感を持つまでに至っている。
 誰かの命令に従っている以上、少なくとも、命令を発した人物は、楓を必要としてくれている……と、安心できる、という心理が、楓の行動を大きく規定している。また、「孤児=似たもの同士」であり、なおかつ、「自力で、自分が何者であるのか(=絵を描くもの)、自然体で自己規定して揺らぐことがない、香也」という存在に楓が惹かれているのも、そうした心理が多分に働いている。
 楓自身は、そうした心理を、ほとんど自覚していなかったが。
 楓が、真理と一緒に手を動かしていると落ち着くのは、真理が楓を、ごく自然な態度で「ごく普通の女の子」として扱ってくれ、その間、「自分が何者であるのか」という楓が持つ不安を、楓が意識しないで済むからだった。

 しばらく、真理の手伝いをしていると、すぐに明日樹を送ってきた香也が帰宅し、続いて、孫子、テン、ガク、ノリ、帰ってきて、すぐに家の中が賑やかになる。羽生が仕事から戻る頃には、夕食の支度は終わっており、後はみんなで食べるだけの状態になっている。
 居間で食事をしながら、テン、ガク、ノリの三人は、シルバーガールズの制作苦労話などを、身振り手振りでみんなに披露する。様々な手を尽くしても、実際に撮影してみると、最初の構想通りに行かないことが多々あり、それを、どうやって切り抜けるか……という話しが多かった。
 春休みがはじまり、茅の身体が空くまでの間、三人は、合成が必要なシーンの素材や、あまり人目のあるとこでは撮影できないようなアクション・シーンを、徳川の工場内で撮影しているところだ……という。
 日曜日、茅とのミーティングで最初の数エピソード分に関しては、大まかなプロットができあがっており、まだ、ちゃんとしたシナリオはまだ作製されていないものの、必要となりそうなシーンは、かなりリストアップされており、合成や加工に必要な時間のことも顧慮して、素材として使用できる映像を撮り溜めている……との、ことだった。
「……たいがいは、そのシーンをCGで加工すれば、それなりに対処できるんだけど……それが無理だったら、全体に影響がない範囲内で、シナリオの方を変更するんだけど……」
 と、テンは説明する。
 そのシナリオも、まだ完全に固まったものがあるわけではないのだが、実際に撮影する段になって、はじめて判明する問題点を、みんなで知恵を絞ってなとか予定通り撮影するのが、パズルを解くみたいで、楽しい……とか、いい、ガクやノリも、テンの言葉に大きく頷く。
「予定と変えちゃうと……後で、新しい素材とか加工シーンとかがでてきて、結局、問題を先送りにしていことになって、後になるほどスケジュールがきつくなると思うんだよね……」
 と、ガクが、テンの言葉を補足する。
「デジタルツールは自前で揃えているし、自分たちの使いやすいように、自由にカスタマイズできる……っていう点は、有利だけど、それでも、無限に時間があるわけではないから……」
 ノリも、そういって首を振る。
 多少の手助けはあるにせよ、メインで動いている三人は、主演兼企画兼プロデュース兼撮影兼特殊効果兼ソフト開発……などなど、持ち回りで何役もの役割を代わる代わる行っている状態であり……三人の卓越した知力、体力、それに、あうんの呼吸を可能とする長いつき合いがなかったとしたら、撮影も、短時間でここまで進捗することはなかっただろう。
「……なんか、話し聞いていると、想像していたよりも、ずっと本格的だな……」
 羽生が、そんな相槌をうつ。
「うん。
 本格的、本格的……」
 ガクが、何度も頷く。
「……トクツーさんが、工場使わせてくれるし、それに手が空いている一族の人たちが、手を貸したりしてくれるから、どうにかなっているけど……」
「……どうにかなってくれないと、困ります」
 そういったのは、制作資金を出資している、孫子だった。
「そっちで利潤をあげて貰わないと、ボランティアも、十分な活動が出来なくなります……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(301)

第六章 「血と技」(301)

「そういうおっさんは、二宮系か……」
 太介は、舎人の申し出には直接答えず、さりげなく話題を逸らした。
「……よく、わかるな……」
 舎人は、太い眉をビクン、と跳ね上げる。
「だって、見るからに……だし……」
 高橋君は、舎人の顔を見上げる。
 舎人の身体は、縦にも横にもでかく、厚みもある。外見だけで判断するのなら、「わかりやすいタフガイ」のイメージに近い。
「二宮の末端、舎人という」
 舎人は、そう名乗った。
「今の仕事は……一応、こいつの監視ってことになっているんだが……。
 ま。見ているだけっていうのも、これで退屈でな。
 それで、このヘタレの手助けも、勝手にやっているわけだ……。
 おいっ! 荒野っ!
 それで、別に構わんよなっ!」
 舎人はぽんぽんと現象の頭の上に掌を置きながら、少し声を大きくして、少し離れたところで、テン、ガク、ノリの三人と何やら話し込んでいた荒野に問いかけた。
「……別に、構わない」
 荒野は、顔だけを舎人に向けて答える。
「というか……現象の場合……舎人さんに後押しして貰って、どうにか使えるレベルだろ……。
 せめて人並み程度に使えるところまで舎人さんが調整してくれると、こっちとしても助かります。
 その……現象、今のままじゃあ……あまりにも……」
 荒野はその続きを口にしなかった。
 現象は、実に不機嫌そうな表情で、押し黙っている。
「……あ……あっ……」
「……ま、まあ……いいっか……相手、しても……」
 この間の現象の醜態を記憶していた太介と高橋君は、何となく現象がいたたまれなくなって……どちらからとももなく顔を見合わせて、頷きあった。

「……本当に、武器有りで……」
「それと……二人同時で、構わないの?」
 太介と高橋君は、舎人に確認をした。
「……好きにしろ」
 舎人の代わりに、現象が答える。
「ぼくに欠けていたものは、すでに補完した」
「……そうなの?」
 様子を見に来た荒野が、舎人に尋ねる。
「いいや」
 舎人は、ゆっくりと首を振った。
「おれは、簡単な身のこなし方とか、基礎的な鍛錬法しか教えてないが……」
「……一を聞いて十を知るのが、佐久間だっ!」
 現象が、叫んだ。
「すでに昨日までのぼくではなっ……」
 言い終わらないうちに、額に分銅の直撃を受けた現象は、その場で大の字になって倒れる。
「……やっ。
 あっ……あっ……」
 高橋君は、手にした鎖分銅と倒れた現象を見比べて、かなり動揺した声を出した。
「だって、もう好きにしていいっていったし……それに、こんな真っ正面からの攻撃、普通、まともに食らわないでしょ? でしょ?」
 太助は、目をまんまるにして固まっていたが、しばらくして、ぼんやりと呟いた。
「……あれだけ偉そうにして……これで、終わりぃ?
 おれ……まだ、何にもやってないのにぃ……」
 自分の出番がなかったことが、いかにも不満そうな口調だった。
「……あー……」
 荒野は、こめかみの周辺をこりこりと指で掻いた。
「これじゃあ……この前と、あまり変わらないんじゃ……」
「……見てな」
 舎人が、にやりと笑った時……。
「……ふはっ!」
 という大きな声が、聞こえた。
 荒野は、ぎくりとして声が聞こえた方に顔を向ける。
「ふははははははっははははっはははははっ!」
 突然、倒れていた現象が、笑い声を上げはじめた。

「……あいつ、な……」
 舎人は、「やれやれ」といった感じで、肩を竦める。
「筋力や反射神経は、一族の水準を遙かに超え……その上、思いっきり、タフなんだ……」
「……驚いたか、ガキどもぉっ!」
 ひとしきり意味のない哄笑を放った現象は、叫びながら、飛び起きた。
 太介と高橋君が、露骨に動揺した様子で、「ひっ!」という声を上げる。
 ……そりゃ、驚くだろ……と、荒野は思った。
 ただし、現象の行動の意味不明さに、だが……。
「……額はなぁ!
 頭蓋骨の中で一番、厚い部分なんだぁっ!」
 そんなことを叫びながら、現象が、太介と高橋君に迫る。
 ……別に頭蓋骨を貫通しなくとも、そこに打撃を加えれば、衝撃が、脳を揺さぶるけどな……と、荒野は思う。
 今のも……大方、高橋君の攻撃への対応が間に合わず……現象がまともに攻撃を食らってしまった……というのが、真相だろう……と、荒野は推測する。
 それにしても……。
「確かに……回復は、早いな……」
「……だろう?」
 舎人が、面白そうな表情をして、荒野に頷いてみせる。
 軽い……とはいえ、脳震盪から、あれだけ短時間で回復できる……というのは、やはり特異な性質である、といっていい。

 迫りくる現象の前に、太介が進み出た。
 そのまま太介は、素手で現象に攻撃をしかける。現象は、太介の打撃を、両手を駆使して弾いた。
 意外と……様になっているな……と、荒野は、現象の動きを評価する。
 わずか、数日で……と、思いかけて、荒野は、現象が「佐久間」であることを思い出す。
 一度、身につけた動作は、完璧に反復することが可能なのだろう。
 そして、教師役は……「負けないための方法」なら熟知している、「しぶとい」舎人だった。




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彼女はくノ一! 第六話(42)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(42)

 前半は、香也の絵を撮影作業していて、何かとばたばたと慌ただしく、香也と楓が来てからは、楓に釣られるようにして、楓と一緒になって香也の手際をしばらく観察してしまい……そこで明日樹は、最終下校時刻まで、もう一時間と少ししか、時間がないことに気づき、慌てて自分の絵に取り組みはじめた。その程度の時間、絵に取り組みはじめてしまえば、あっという間に過ぎ去ってしまう。道具の片づけの時間も考慮しなければならないから、なおさら、時間が不足する。
 明日樹は、現在、部活引退前の、最後の一枚に取り組んでいた。香也ほど、「絵を描く」という行為にのめり込んでいない明日樹は、三学期一杯の時間を使ってこれを書き上げてしまえば、後は受験が終わるまで、一年近い長い期間を、絵筆を握らずに過ごすことになる。その「節目」の絵を描くことができる時間も、もう残り少ない。
『……なのに……』
 と、明日樹は自嘲的に、思う。
『……何を、浮ついているんだか……』
 香也と「体験」して以来、明日樹は軽い情緒不安定に罹患している……と、少なくとも、本人は、思っている。
 具体的にいうと、部活の時、香也と二人きりになると、急に甘えたくなったり、香也が他の女性と二人でいるのを見ると、明らかに不愉快になる……など、明日樹は、比較的堅実な価値観の持ち主で、現実的な性格でもあるため、少し時間がたって我に帰ると、軽い自己嫌悪に陥るのが常だった。 
 もう……そういうことで、不安定になっていい時期ではないのに……とも、思ってしまう。
 また、競争相手の女性たちと自分を引き比べれば、客観的にみて、自分の方が、かなり分が悪い……とも、自覚している。また、それが軽い苛立ちの元になっていることも……。
 香也は、一心不乱に絵を描いている香也と、背中からその手元をのぞき込んでいる楓の二人をみて、二人に気づかれないように、そっとため息をつく。
 この二人は……細々としたことに気を取られがちにな自分に比べて、シンプルで、邪気がないな……と、そう思う。
 香也は例によって絵に夢中だし、楓は楓で、まっすぐに香也のことしか、見ていない。
 まったく、打算とか計算というものが感じられない二人の様子をみていると、邪念ばかりに自分が、また、疎ましくも思えてくるのだが……一方で、
『……どうして、そんなに……』
 無邪気に、無防備で、いられるのか……と、二人の純粋さを危ぶむ思いも、明日樹には、ある。

 最終下校時刻の予鈴が鳴る直前に、鞄を持った茅が、美術室を訪れた。
 時刻を確認し、
「もう、こんな時間か……」
 とかいいながら、香也と明日樹が、画材を片づけはじめる。
「今日、お迎えは……」
 楓が茅に尋ねると、
「双子は、引っ越しの準備に入ったから、今日は断ったの」
 と、答える。
 香也と楓が去った後も、茅は、何度かの休憩をはさんで、テスト問題の解説をもう一度、繰り返していたという。
「……よく、生徒がそんなに残っていましたね……」
 楓は、半ばあきれた。
 それだけ繰り返し、そのたびに、楓たちが参加した時のように、満席だったとすると……のべ人数でいえば、学年のうち半数以上が、茅の解説を聞きにきている勘定になる。
「……何人か、繰り返し、参加した人がいたし……それに、メールとかの口コミで、いったん帰ったのに、引き返してきたグループも、何人か、いたの……」
 それが本当だとすると……参加者の中の何割かの生徒は、純粋な向学心というよりも突発イベントを見逃さないように、という野次馬的な関心で、茅のことを見物しに来たのではないだろうか……と、楓は、予測する。
 普段のクラスメイトたちをみていても、勉強熱心な生徒の割合は、そんなに多くはいないように、楓は認識している。
「まあ……ご苦労様でした」
 とりあえず、楓は、茅のことをねぎらった。
 茅が苦労したのは事実だし……それに、茅にしてみれば、他の生徒たちがどのような心つもりで参加したのか、という部分には、あまり関心がないのかも、知れない。
「……行こうか?」
 楓と茅とが、そんなことを話している間に、帰り支度を整えた香也と明日樹が、声をかけてくる。
 全員で帰宅、ということになった。

 校門を出てしばらく行くまで、同じく学校帰りの生徒たちに挨拶をされることが多かった。ほとんどが、一年生だったが。
「さっきまで、一緒にいた人たち……」
 それら、向こうから挨拶をしてくる生徒たちに関して、茅が楓たちに説明をする。
「……佐久間先輩の方も、同じくらいに盛況だったの」
 それから、今日の様子を尋ねた明日樹に答える形で、茅はそう説明する。来年、受験生になる明日樹としては、やはり気になるらしい。
「佐久間先輩なら……そうでしょうねぇ……」
 学年はひとつ上だが、成績優秀、という噂は、明日樹の耳にも届いている。というより、この学校内で「絵に描いたような優等生」である沙織のことを知らない生徒は、ほとんどいないだろう。そうのような「出来すぎ」の生徒は何かと妬まれそうなものだが、沙織は裏表のない性格であり、誰が相手でも面倒見がいいので、疎んじる者もほとんどいないようだった。
 明日樹にしてみれば、三学期になってこの学校に通うようになった荒野や茅が、いつの間にか「その」沙織とかなり親しそうにしているのが、不思議といえば不思議だった。
 別に、知り合うことが、不自然とは思わないが……少なくとも明日樹は、荒野や茅が沙織とつき合うようになった契機について、何も聞かされていない。
 普通なら……こちらから聞かなくとも、登校の時などの話題に出てきそうなものだが……。
「……んー……」
 そんなことを考えている明日樹に、香也が尋ねる。
「それじゃあ、明日は、いくの?」
 沙織の、テスト問題の解説に……という意味だ。
「うん。行く」
 明日樹は、特に考えることもなく、答える。
 どのみち、今週、香也は掃除当番で遅れるのだ。成績に関わることだし、自分も、数十分、部活を開始するのが遅れても、支障はないだろう。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(300)

第六章 「血と技」(300)

 翌日、荒野と茅が目を覚ますと、雨はすっかりあがっていた。二人とも、目覚めはすっきりとしたもので、目覚ましが鳴る前に、自然に起きることができた。そのまま置き上がり、トレーニングウェアに着替えてマンション前にでる。
 しばらくストレッチをやっていると、前後して、いつもの面子が集合してくる。
 簡単に声をかけあって、河川敷に向かった。つい数時間まで雨が降っていたため、路面は塗れていたし、空気は湿気を含んでいつもり冷たかったが、身体を動かしている間に、段々と寒さが気にならなくなっていく。
 むしろ、冬の冷気が、火照った身体には心地よい……と、茅は思う。
 毎朝の努力の甲斐もあって、このところ、茅は、自分の体力が著しく向上している……ということを、実感できるように、なっている。
 以前には、すぐに息が切れる距離でも、呼吸数も脈拍も変えずに全力で走りきることができるようになっていた。完璧な記憶力を持つ茅は、自分の変化を、回想の中で正確にチェックすることが出来る。
 過去のパラメータの変化をチェックしていると、ほんの数日前から、茅の運動能力が、飛躍的に増大していることが、確認できた。また、その変化の時に、茅の食欲も、かなり増大している。
 どうやら、毎日、一定量以上の運動を、繰り返すことがスイッチになって……茅の身体は、一般人の水準から、一族に近いものに、内側から代わりはじめているらしい……と、茅は、推測している。
 普段から、無駄に思えるほど、膨大な食料を消費する代わりに、いざという時、常人離れした能力を発揮する……というのは、荒野の体質に近い特性だった。
 荒野が、その能力に比較して、外見上、あまり筋肉が発達しているように見えないように、茅の外見も、あまり目立った変化はなかった。
 だが……茅は、いくつかの変化を、自分の内部に認めている。
 例えば……動態視力。
 高速で動く相手を、目で追う自信があの時点でなければ……テンに対する作戦も、また違ったものになっただろう。
 あの時点で、茅は、ノリや静流はともかくとして……テンやガクが、全力で動いていても、その動きを正確に補足する自信があった。
 また、朝のトレーニングの時、必要に応じて、静流は「分身」してみせる。その時にも、茅は、自分の目が、どこまで静流の動きを追うことができるのか、常に観察して、試すことにしていた。
 以前は、茅の目にも、「分身」、すなわち、「たくさんの静流が、同時に出現した」ようにしか、見えなかったが……何日か前から……具体的にいうと、そう、あれはちょうど、現象が、河原に姿をみせた朝のことだ。
 それまで、見切れなかった、分身時の、静流の動きが……その朝、茅には、完全に見切ることが、できるようになっていた。
 静流が移動する軌跡を、目で追えるように、なっていたのだ。
 目が、ついていけるようになった、ということは……もう少し、足腰が強化されれば、静流とおなじくらいに……と、まではいかないまでも、他の一族と同じくらいには、早く動けるようになる……という可能性も、ある。
 別に、身体能力に頼る気持ちは、なかったが……この先、どのような局面に直面するのか、まるで見当がつかない以上、使用できるリソースには、余裕がある方が、いい。だから、茅は、自分の能力の中で、延ばせるものは、限界まで鍛え上げ、延ばすつもりだった。
 つい、先日、荒野に、正式に体術を習う許可を貰ったばかりだが……茅の感覚によれば、その許可は、ぎりぎりで、間に合った……ということになる。
 茅の方の下地は、もうかなりの部分まで、仕上がりつつある。後は、この完成しつつあるハードウェアに、「一族の技」という歴史のある、いいかえれば、信頼性の高い、制御ソフトを、染み込ませるだけたった。
 観察し、分析し、解析し……その後、自分のものとして、取り込む。それが、茅の学習法だ。
 この土地には……今では、茅のサンプルとなりうる者たちが、多数、集まっている。

 懲りずに、佐久間現象とその監視者たちは、この朝も顔を見せていた。現象の監視者の一人である二宮舎人は、河川敷を一通り見渡した後、あるグループに目を止め、現象に合図をして近付いていく。
「……ああ。君たち……」
 舎人は、組み手をしようとしていた、甲府太介と高橋君に、声をかける。
 この二人は、二宮系と野呂系という違いはあるものの、同年齢ということもあり、朝のこの場では、よく組み手を行っている。と、いうより、年少で経験不足ということもあり、この場に集まる中で、まともに相手になるのは、この組み合わせしかない……という関係だった。
 すっごく分かりやすくいうと、「半人前以下のがきんちょ」あつかいであり、他の一族の者にまともに相手にされない者同士、ということになる。
「……ちょっと、いいかな?
 悪いとは、思うんだけど……ちょっと、こいつと、遊んでやってくれないか?」
 太介と高橋君は、顔を見合わせる。
「……いや、これも、素質は決して悪くはないんだけどねえ……。
 なにぶん、まともな教育を受けてこなかったもんで、基礎からやり直している状態なんだ。
 ご協力いただければ、ありがたい……」
 そういって、舎人は、二人の少年に頭を下げる。
「ほれ、お前も……」
 舎人は続けて、現象の頭にグローブのような太い指を置いて、強引に押し下げて、太介と高橋君への懇願を続けた。
「一応、二、三日、基本動作は仕込んでみたが……こいつに一番足りないのは、経験だ。
 君たちだって、同じようなものだろう?」
 太介と高橋君は、再度、顔を見合わせ、少し離れた場所に移動した。
「……どうする?」
「別に、断る理由もないと思うけど……。
 この前のあれ、見てただろう?」
 特に声をひそめることもなく、二人は相談をしはじめた。
 二人とも、現象が静流や、テン、ガク、ノリにかなり手ひどくやられた場に居合わせて、目撃している。
 短い相談が終わると、舎人と現象がいる場所まで戻ってきて、舎人の申し出を受け、現象と組み合う、明言した。
「そのかわり、手加減はしないよ」
 太介が、憮然とした表情で、断りを入れた。
「構わない。
 こいつ、普通よりずっと、傷や怪我の直りが早いんだ。その辺は、まったく心配しないでいい」
 舎人は、真面目な顔で答える。
「その……できれば、二人いっぺんに、こいつにかかってくれないか?
 君ら、見たところ、二宮系と野呂系だろ?
 こいつに仕込んだものがどれくらい実用に耐えられるのか、見てみたいんだ……」




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彼女はくノ一! 第六話(41)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(41)

「……あっ。ようやく来た……」
 樋口明日樹は、香也たちを複雑な表情で出迎えた。
「この人たちのことを避けて、わざと遅く来たでしょ……」
 そういって、後かたづけに入っている放送部員たちをみる。
 香也の思考法や行動パターンは、見透かされているのであった。
「……んー……。
 今週は、掃除当番……」
 香也は、とりあえず、そう返答しておく。少なくとも、嘘ではない。
「それにしても、遅すぎ。
 もう、一時間以上たっているし……」
 明日樹は、少し怒った顔をしている。
 楓は、「あっ。これは……遅れたことだけを、怒っているのではないな……」と、察した。明日樹は、楓から故意に目を反らしているように感じたからだ。
 明日樹は、香也と楓が一緒に来たことを……不満に思っている。
「……あの……」
 そこで、おずおずと、口を挟んでみる。
 楓自身が、この場で発言することが、いことなのかどうか……という判断は、実は微妙なところだったが、いわないで後悔するよりは、きちんと伝えるべきことを伝えておくべきだった。
「放送、ここでも聞こえたと思いますけど……わたしたち、茅様のテストの解説を、聞きにいって……それで、遅れました……」
「……あっ……。
 あれ……か……」
 明日樹は、虚を突かれた表情になる。
 楓が、いかにも申し訳なさそうな様子でそういったので、明日樹は、それ以上の追求を封じられた。
「そっか……勉強に、いってたのか……」
 そういうことであれば……明日樹も、おおぴらに香也を攻めるわけにもいかない。そもそも、美術部の活動は、強制参加なわけでもない。
「……茅様が一年生で、佐久間先輩が二年生を見ていました。
 今日、突発的に行ったにしては、随分、人が集まっていたようですが……」
「まぁ……あの二人、なら……」
 明日樹も、納得したように頷く。
 佐久間先輩、はもとより、茅も、ここ最近、放課後に行う勉強会で、その記憶力の確かさを、多くの生徒に印象づけている。
 自分の能力を、無償で他の生徒たちのために、公然と、役立てようとしているから……二人に、仮に妬みなどを抱いた者がいたとしても、公然とその感情を表沙汰にできない雰囲気が、形成されつつある。
 第一、こうして二人が行動をともにしていれば……。
「……茅ちゃん、来年、生徒会の選挙にでるとかいってたっけ?」
 明日樹は、楓に尋ねた。
 今朝、登校する時に、そんな話しがでていた。
「ええ」
 楓も、明日樹がいいたい内容を察して、頷く。
「ああしていると……茅様が、佐久間先輩の後継者だと、アピールしているようなものですね……」
 沙織できることは、茅にもできる……と、他の生徒たちに印象づけているようなものだ。現在の在校生にとって、半年前まで生徒会長を務めていた佐久間沙織の存在感は、それなりのものであり……。
「……他にも、いろいろなところで公然と動いているし……断然、有利だよね……茅ちゃん……」
「……ええ……」
 楓も、明日樹の言葉に頷く。
「ボランティアとか、あちこちで、顔をみるから……もうすっかり、有名人ですよね……。
 少なくとも、校内では……」
 マンドゴドラのポスターに出ていた頃にも、それなりに顔は知られていたが……今では、茅が外見だけの存在ではない、とアピールする機会が、いくらでもある。
 楓と明日樹は、期せずして、同じようなことを思いながら、顔を見合わせた。
 茅は……この先、この学校を……どのように、変容させていくつもりなのだろうか?
「とりあえず、明日あたり……樋口先輩も、行ってみた方がいいですよ。
 勉強になることは、確かですから……」
 楓は、とりあえず、当たり障りのないことをいう。
「……うん。
 明日は、そっちに寄ってみる……」
 明日樹も、素直に頷いた。
「……受験対策もあるし……佐久間先輩の解説なら、折り紙付きだもんね……」
 その時の明日樹は、毒気の抜かれた顔をしていた。
「……そんなに、すごいんですか?」
 撤収作業をほぼ終えた有働が、二人の話し割ってはいる。
「茅様の方は……参加希望者が多くて、途中から、図書室から別の教室に移りました。わたしたちのように、最初の方から聞いていた人は抜けたりしましたが、教室を埋まるだけの人は集まっていましたね。
 何の事前告知もなく、突発的にはじめたことを考えると、かなりの盛況かと思いますけど……」
 楓は慎重な口振りで、有働に説明する。
「なるほど……」
 有働は、頷いた。
「……佐久間先輩の場合、ネームバリューからいっても、それ以上であってもおかしくない……ですね……」
 ひとしきり、一人で頷いた後、放送部員たちに、
「……これから、動画撮影の準備っ!」
 と、宣言する。
「生徒の活動を記録にとどめるもの、放送部の活動のうちですから……」
 と、楓たちに説明して、大きな体を押り曲げて一礼し、他の放送部員たちを引き連れて、有働は、美術室を出ていった。
「……んー……。
 みんな、もう、出ていったの?」
 準備室で、放送部員たちが梱包しなおした絵をチェックしていた香也が、ようやく自分の画材を持って出てくる。
 こちらはこちらで、マイペースだった。

 香也は、画架に新しいキャンバスを置いた後、スケッチブックを開いて、そこに描いてある小さなラフスケッチを見ながら、がっ、がっ、一見、乱雑にみえる大胆な動きで、線を引いていく。
 楓は、後ろからそっと近寄り、スケッチブックとキャンバスの上に姿を現しつつある絵を見比べる。
 香也は、スケッチブックに描かれた、小さくて簡単なスケッチと相似形の、ただし、もっと大きくて緻密な絵を、瞬く間に、キャンバスの上に、描きだしてみせる。
 構図を当たるだけの簡単な線が引かれ、その線の間に、下地になる、暗色系の絵の具が塗りたくられ、その上に、様々な色が重ねられ……。
「……あっ」
 楓は、香也が何を描こうとしているのかに気づくと、思わず声を上げている。
「夕日……」
 最初のうち、暗い色ばかりを塗りたくっているので、なかなか気づかなかったが……楓が見守るうちに、絵の中はどんどん茜色に染まっている。
「……んー……。
 そう……」
 手を休めずに、香也は、ぼんやりとした口調で答える。
「……この前、テンちゃんが、見晴らしのいい場所につれていってくれたから……その時の光景を、忘れないうちに……と、思って……」
 香也の言葉の通り……今や、キャンバスの上には、日の入りの間際、夕日に染まった町の展望が、
はっきりと姿を現している。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(299)

第六章 「血と技」(299)

 茅の方は、そんな荒野にまともに答えるほどの精神的余裕もない様子で、荒野の荒々しい動きを受け入れながら、荒野の動きに合わせて切なげな声を上げている。
 荒野が茅の中心を出入りする動きに合わせ、茅は、
「……あぁ……はぁ……あはぁ、あー、あー……」
 とかいう声を、高くしたり低くしたしながら、喉の奥から絞り出している。
『……なんだか……』
 そんな茅をみて、荒野は「楽器みたいだな……」という感慨を持つ。
 おそらく、今の茅は、荒野がそうであるように、結合している部分の動きから、遂一、深い快楽を受け取っているのだろう。そして、その快楽は、動くほどに、深くなっていく……。
 その証拠に、荒野の下で喘いでいる茅は、目を閉じ、明らかに恍惚とした表情を浮かべていた。その表情をみていると、荒野の動きによって……というよりは、茅自身の奥底から湧いてくる快楽を、一心不乱に受け止めている……という風にも、見える。
 今の茅は、もはや荒野の存在さえ意識しておらず、荒野が跳ねる度に深くなっていく悦楽の波に翻弄されている……と。
 そう思う荒野自身も、機械的な動きで茅の中を往来しつつ、そこから得られる快楽に酔っている。
 ……ああ……。
 もう十分に高まってきていた、荒野は思う。
 おれたちは……茅と、おれは……つい半年前まで、面識さえ、なかったのに……今では……。
 自分の中心から、熱い塊がわき出してくる感触を、荒野は自覚した。
「行くよっ! 茅、もう、行くからっ!」
 荒野は茅の中をさらに激しく動きながら、叫ぶ。
 茅は、言葉では答えなかったが、両腕と両脚を荒野の身体に回して、ぎゅっと荒野にしがみついてくる。
 荒野と茅の、身体の前面が密着し、二人が汗まみれになっていることを、荒野は「肌で」実感した。特に、下腹部、陰毛のあたりは、汗とそれ以外の体液ですっかりぐしょ濡れになっている。
 二人の濡れた陰毛がぶつかり合う場所は、荒野の動きが激しいこともあって、水音と茅の中の空気が外に漏れる滑稽な音が入り混じり、かなりのノイズが発生している。
 しかし、行為に夢中になっている二人は、自分たちの行動が作り出すノイズを気にかける様子はない。
 荒野は何度か「行くよっ! 行くよっ!」と繰り返し叫んだ後、実際に避妊具の中に熱い欲望をぶちまける。
 茅は、荒野が急に動きを止めたことと、それに、自分の体内に差し込まれた荒野のパーツの感触の変化かから、荒野が終わったことを感じて、反射的に、さらに手足に力を込めて、荒野にしがみつく。
 どちらからともなく口を重ね、そのまま舌を絡ませ合い、唾液を啜りあった。
 密着した二人の身体が、ビクビク、を通り越して、ガクガク、揺れる。
 二人とも汗まみれになっていた。お互いの呼吸音だけが、しばらく、聞こえる。
 数分間、そうして抱き合った後、荒野は茅の上から離れ、ごろりと茅の横に寝ころぶ。荒野のモノが抜けると、茅のそこから、茅の体液がどろりと流れ落ちてきた。一度放出しているのだが、荒野のモノはまだ硬度を失っておらず、湯気をたてて天を向いていた。
 荒野はすぐに平静な呼吸をするようになっていたが、茅はまだ、しばらくは、早い呼吸をして、せわしく胸郭を上下させながら、トロンとした半眼でぼんやりと荒野の顔を見つめている。
「……すごかった……の……」
 やがて、茅が、荒野の横顔を観ながら、いった。
「途中から……何も、考えられなくなった……。
 頭の中……真っ白になって……」
 そういいながら、茅は、また荒野の肩の当たりに、頭をすり寄せる。
「……おれも……今までで、一番、すごかった……」
 荒野も、呆然とした口調で答える。
「セックスって……こんなに気持ちいいもの……だったんだな……」
 最近になって、荒野は何人かの女性と関係を持った。
 が……やはり、茅との関係が、一番荒野を、満足させる……と、そう確信できた。
 経験の浅い荒野には、茅とその他の女性とに、どういう差があるのか、しかとは分からなかったが……やはり……。
『……精神的な……関係とか、帰属感とか……』
 そういう要素、なのだろうな……と、ぼんやりと、そんなことを思う。

 何分かその姿勢のまま、休んだ後、荒野は唐突に、呟く。
「おれ……もう、茅が近くにいない生活……想像できない……」
 特になにも考えずに、ふいと、口をついて出た言葉だった。
 茅が、もぞもぞと動いて、それまで以上に、荒野に密着してこようとする。
 それから、小さい声で、
「……茅も……」
 と、いった。
 その時、茅は、顔を荒野の肩口に密着させていたので、荒野からは、茅がどういう表情をしていたのか、確認できなかった。
 ただ、肩に当たっている茅の顔は、その前後で心持ち、熱くなった気がする。
「……二人とも、汗まみれだな……」
 荒野は、なんとなく照れくさくなって、そんなことを言いだす。
「シャワー浴びて……それに、シーツも換えよう。
 そうしないと、風邪引きそうだ……」
 荒野は、茅の肩を腕で抱えて無理矢理半身を起こした。
 それから、立ち上がり、茅の身体を両手に抱えてバスルームに向かう。
 茅は何も言わず、荒野のするがままに身を任せていた。

 シャワーを浴びて軽く汗を流し、シーツを換えて再びベッドに横たわると、二人ともすぐに寝息を立てはじめる。
 その夜は、二人とも、熟睡ができた。




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彼女はくノ一! 第六話(40)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(40)

 香也と楓、それに荒野は、そのまま他の生徒たちに混ざって沙織と茅の講義を聴くことになった。当然、二年の荒野は沙織の、一年の香也と楓は茅の、と、それぞれの学年に別れることになる。
 今日の……というより、つい今し方に終わったテストの問題用紙を使用して、順番に解説や規範となる回答を説明していく。今日の試験科目は英語だったが、茅も沙織も、必要な時は、スペルをゆっくりと口で繰り返したため、板書きは必要なかった。多少の質疑応答はあるものの、基本的に、一年生と二年生が、二十名ほどのグループに分かれて茅と沙織を取り囲んで、その話しを静聴している感じで、集まった人数に比較すると、ひどく静かな場となった。
 テストの問題用紙だけを手にして、何のあんちょこや参考書も持たないで、口頭で淡々と詳細な解説をつけていく茅と沙織は、同じ生徒として、楓はどうかと思うのだが……慣れとは怖いもので、この場に集まった生徒たちは、そのことをあまり疑問に思っている様子がない。
 ……ここ最近、毎日のように、放課後になると行われる自主勉強会で、この二人が、同じようなことを繰り返している結果、少なくとも、自分の意志でここに集まってくるような生徒たちに関しては、茅たちのこうした行状も、見慣れて、不思議に思わなくなってしまったのだろう……と、楓は思う。

 香也と楓が駆けつけた時には、すでに最初の問題を何問か解説した後だったが、三十分ほどかけて残りの問題について茅が解説している間にも、玉木の広報アナウンスが何度か繰り返された。
 一通りの解説を茅が終わえた時、茅は、ちらりと時刻を確認してから、
「……十分間休憩をとって、もう一度同じことを説明するの……」
 と、宣言した。
 すると、茅の前に陣取っていた生徒たちが、隣りの生徒たちとなにやら話し合いながら、ばらばらと席から立ち上がり、退出していった。会話の内容は、はやり、テストの点数に関した内容が多かった。彼ら、退出した生徒たちの代わりに、香也や楓のように、後から来た生徒たちが、空いた前の席に進みはじめる。退出した生徒たちは、最初から茅の解説を一通り聞いた生徒たちなのだろう……と、楓は思う。

 一年と二年では、成績に関する感心や執着も違うのか、沙織が担当する二年生たちは、一年生よりも質問を出す頻度が多く、茅が全ての解説を終えても、沙織はまだ解説を続けていた。
 一年生は、退出する生徒と、新たに入ってきた生徒との入れ替えで、多少ざわついている。
「……あのう……」
 一人、目をつむって椅子に座って休んでいた茅に、楓が名前の知らない男子生徒が、遠慮がちに声をかける。おそらく、他のクラスの生徒だろうな……と、楓は思う。
「廊下に、まだまだ、受講希望者がいまして……。
 出来れば、場所を、別の教室に変えて貰えば……」
 茅が顔をあげ、楓も、茅の視線を追って背後に振り返る。
 今、退出していった生徒よりも多いくらいの一年生が、図書室内の椅子に座りきれず、後の方に立っていた。
「廊下に、まだまだ」いる……ということは、確かに、場所を移した方がいいだろう……。
「……分かったの……。
 どこか、適当な教室に……」
 茅がいいかけると、
「近くの教室を、もう押さえてます」
 茅に声をかけてきた男子生徒は茅にそう答え、芝居ががった仕草で、一礼した。
「では、曽根君。
 そこに案内をして」
 茅がいうと、「曽根」と呼ばれた生徒は、まじまじと茅の顔をみつめた。
「おれ……名乗ったこと、ありましたっけ?」
「顔と名前はできるだけ記憶しておいた方が、心証はよくなる……と、佐久間先輩にいわれたので、実行しておいたの」
 茅は、ことなげにそういってのけ、曽根という男子生徒は、困惑した表情をしてみせた。
 ……リアクションに困っているらしい……と、楓は、観察する。

 その曽根に先導され、茅と、一年生たちは、ぞろぞろと別の教室に向かう。
 放課後のこの時間ともなれば、部活で残っている生徒を除き、大半は帰宅している。つまり、どの教室もがらんとしている状態なので、図書室から一番近い教室を確保したようだった。そこに、一年生が、すでに集まっていた。座席は、半分以上埋まっている。
 教室に座っている生徒たちは、制服姿とジャージ姿が半々くらいで、ジャージ姿の生徒たちは、放送とか他の生徒たち経由のクチコミでここのことを聞いて、一時的に部活を抜け出してやってきたのだろう……と、楓は思う。
 茅が教壇に立ち、茅について図書室から移動してきた生徒たちが、空いていた後の席に座る。
 一通り、移動がすんで落ち着くと、茅は、携帯を取り出してどこかにメールを打った(おそらく、放送室にいる玉木への連絡だろうと、楓は思った)後、
「明日もテストがあるし、みんなも、早く帰りたいだろうから……」
 と前置きして、先ほどと同じようにテスト問題の解説を、最初から繰り返しはじめた。
 今度は黒板が使えたので、茅は、黒板に問題と解答を書きながら、話しを進める。茅は黒板を観ずに、生徒たちに向かったままで、口と手を同時に動かしていた。
 早口でテストの問題文をしゃべりながら、手だけを横につきだした姿勢で、しゃべるのとだいたい同じスピードで、今、話しているのと同じ内容の英文と和文を、黒板に書き出す……茅を、生徒たちは、目を丸くしてみている。
 茅は途中で何度か手と口を休め、「……ここまで、質問は?」と繰り返し、生徒たちに確認していたが、図書室での時とは違って、茅により詳細な解説を求める生徒はいなかった。
 どうやら……茅の異能を目の当たりにして、完全に、意識をそっちの方に持って行かれたらしい。

 香也と楓は、最初の数問について茅が解説を終えた時点で、つまり、試験問題について、一通りの解説を全て聞き終えた時点で、そっと席を立った。二人は、そのまま美術室に向かう。

 香也と楓が美術室につくと、有働が待ちかまえていたかのように香也に向かって近寄ってきて、ポスターの構図がどうの、色校正の都合がこーとのいいはじめる。
 他の放送部員たちも、機材を片付けて撤収する仕度をしているところだった。
 香也は、例によって「……んー……」と唸りながら、有働に向かって適当に相槌を返していた。
 香也にしてみれば、絵を仕上げた後の作業には、あまり興味がないのだった。
 しかし、有働は、「……せめて、本格的に印刷に出す前に、構成刷りをみて、意見だけはください」と食い下がり、香也に約束をさせて帰って行った。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(298)

第六章 「血と技」(298)

 ベッドの上でもつれ合い、口唇を貪り合いながらも、茅は荒野の下腹部に手を伸ばして、いきり立った荒野のモノを軽く握りしめた。
「……これ……」
 顔を離して、茅が、荒野の顔に息を吹きかけながら、囁く。
「これが……欲しいの……」
 風呂場でさんざんいちゃついていたおかげで、茅は、すっかりヒートアップしている。荒野は、それほど多くの女性を知っているわけではないが、その乏しい経験からいっても、茅は、感じやすい方だと思う。
 そして、荒野の方も、それまで、ほとんど茅だけを相手にしていた時とは違い、シルヴィや酒見姉妹との経験を通じて、性愛の方法にも、多様性がある……ということを知りはじめていた。
「これって、何?」
 荒野自身も、いい加減ヒートアップしている。
 そのまま、今、茅が握っている分身を、茅の中に埋め込みたい衝動に駆られたが、荒野は、かろうじてそれを自制し、ベッドのサイドボードに出しておいた避妊具の封を切って、素早く装着した。
 その動作にも、もう随分となれてしまったな、と、荒野は思う。
「今、茅が握っているのを、どうすればいいの?」
 少し前から、荒野は、茅に奉仕される形より、じらしたり、言葉で攻めたり……といった、荒野の側から働きかける行為を、試しはじめていた。
「……これを……」
 茅は、上気した頬を左右にゆるく振って自分の腰を浮かし、荒野の分身の先端を、自分の秘部にあてがった。
「ここに……」
「……これ、とか、ここって……」
 そのまま腰を沈めようとする茅の身体を、荒野は、下から腕で持ち上げて、制止する。
「もっと、具体的に、いって……」
「荒野……」
 荒野がそういって、茅が腰を沈めるのを邪魔すると、茅は、切なそうな、口惜しそうな表情をして、顔を横に振る。
 荒野の力で、下から身体を支えられてしまえば、茅の力では、事実上、腰を沈めることはできない。
「どんどん……意地悪に、なるの……」
「ほら……茅のここは、なんていうの?」
 荒野は茅の切なそうな顔は無視して、自分の分身があてがわれた、茅のその部分を、指で探った。
 荒野の指先が、陰毛をかきわけて、もう十分に湿っている茅の中心に触れると、茅は……っんっふぅっ……と、小さく鳴いた。
「ちゃんといわないと……これ以上の続きをしないで、寝ちゃうよ……」
 荒野がそんな態度を取るのは、じらせばじらすほど、あるいは、茅に恥ずかしいことをすればするほど、茅の反応も、自分の快楽も深くなる……ということを、学びつつあったからだ。
 
 例えば、それまでなら、局部を口で奉仕するのは、ほとんど茅の役割……として固定していたが、逆に、荒野が茅の股間に顔を埋め、長時間、口と舌とで愛撫する……ということを、試してみた。
 茅の反応は、上々……というか、そのことも契機となり、また一段、深い悦楽を学習したように……荒野には、思える。
 性行為も、動物的な性欲を発散させるだけの行為ではなく、どうやら、もっとメンタルな要因も、快楽の質に深く関わってくるようだ……と、荒野は気づきはじめている。
 茅以外の女性を抱く時と、茅を抱く時とでは……快楽の深さも、だが、それ以上に、行為の前後に感じる安堵の深さが、ぜんぜん、違った。
 現在、行われているような、荒野による「茅いじり」も、荒野と茅の関係性が前提とした上で「意地悪」である。

「……おまんこっ!」
 風呂に入っている時から延々と刺激されては冷まされ……といった扱いを繰り返さえされていた茅は、もはやそれ以上、我慢することができないようになっていたのか、突如、顔を真っ赤にしながら、そんなことを口走りはじめる。
「茅のおまんこに、荒野のちんちんいれるのっ!
 ……んっ、ふうぅっんっ!」
 茅の言葉が終わらないかのうちに、荒野は、下から腰を突き上げ、一気に根本まで、分身を茅の中に埋める。
 いい加減……茅をじらしている荒野自身も、そうしたいという欲望に身を焦がしていたのだ。
 その衝撃で、茅は全身を細かく痙攣させ、がくりと頭を背中の方にのけぞらせる。
 荒野は、そのまま、乱雑な造作で下から突き上げ、茅の中を往復した。
 荒野が突き上げるたびに、茅は上体をがくがくと揺らせる。
 茅は、荒野の膝に手をおいて、荒野の動きにあわせて大きく動く自分の身体を支えた。荒野に突き上げられながら、茅は、「はうぅっ」とか「あうぅぅっ」とか聞こえるあえぎ声を漏らしてながら、頭を大きくゆらしている。
 あまり不自然な体位を長時間行うのもしんどそうだったの、荒野は適当なところで動きを止め、ぐったりとした茅の身体を腕で支えて、繋がったまま、ベッドの上に寝そべらせた。
 茅は、息も絶え絶え、といった様子で、荒野のなすがままになっている。

「茅……」
 ぐったりとなっている茅を仰向けに寝かせると、荒野は、茅の耳元に口を近づけて、囁く。
「気持ち……いい?」
 茅は、せわしなく呼吸をしながら、かすかに頷く。
 どうやら、言葉で返事をする余裕も、ないようだった。
「おれも、気持ちいい。
 茅の中、すっげぇ気持ちいい。今までで、一番気持ちいい……」
 荒野が実感を込めてそういうと、茅は、うっすらと笑ったようにみえた。
 そして、荒野を捉えている茅の部分が、きゅっと荒野を締め付ける。
「……また、動いても、いい?」
 荒野が確認すると、茅は、あえぎながらも、頷いてみせる。
「……いくよ……」
 茅が頷いたのを確認して、荒野は再び動き始める。
 最初のうち、これ以上、茅に負担をかけるのを遠慮して、ゆっくりと動きはじめた荒野だったが、そこから得られる快楽が、今までに経験した中でも群を抜いて気持ちよかったので、すぐに、我を忘れて茅を攻めたてはじめてしまう。
 荒々しい動作で荒野が腰を振ると、茅の内部はそれまでにない複雑な収縮をして、荒野の分身に絡みついてきた。もともと、茅は分泌する愛液の量が多い方だが、それに加えて内側の襞が絶妙の収縮を繰り返しながら、出入りする荒野に絡みついてくる。
 茅も、荒野の動きに合わせて、
「……あぁぁあ、ぅうううぅぅぅ、あぁうぅぅぅぅ……」
 みないな感じで、歌うようなうめき声をあげるながら、下から腕をまわして、荒野にしがみついている。決して大きな声ではないが、茅も自覚しないうちに、喉の奥から声が漏れている、という感じで、茅にそうした声を出させている荒野は、まるで楽器でも演奏しているかのような手応えを感じる。
 荒野の内圧も、茅の反応に応じるかのように高まってきていた。
 実際に挿入する前に、雰囲気を盛り上げるだけ盛り上げておいたのがよかったのか、二人とも、短時間のうちに、同時に、それに、今までに経験したことがないくらいに、深く、高まっていた。
 結合部から得られる快楽は、荒野が今までに感じたことがないくらいに大きなもので……。
「……すっげぇ……気持ちいいっ!」
 と、荒野は、自分でも知らないうちに、子供のような歓声をあげている。
「茅の中、すっげぇ、気持ちいいっ!
 すごいよ、茅、すごいよっ!
 いいよ、茅、好きだよっ! 大好きだよっ! 気持ちいい、気持ちいいっ!」
 がんがん、茅の奥まで突き上げながら、荒野は「気持ちいい」とか「大好き」とか、おおよそ、普段の荒野なら、めったに口にしないような単語を連呼している。




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彼女はくノ一! 第六話(39)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(39)

 この学校では、原則として、一月に一度、全校で一斉に実力テストを行うことになっている。ただし、長期休暇のある月は行われない。たとえば三学期だと、一月と二月は実施したが、春休みや試験休み、それに、卒業式などの行事で日程が押せ押せになる三月は、行われなかった。
 この業者が主催する実力テストは、成績の考査には直接影響を及ぼさないが、代わりに、進路を考慮する上で、大きな指標となる「偏差値」を叩き出すので、学年が上の生徒ほど、真剣な態度で望む傾向がある。
 そうした重要な試験を、平日の最後の授業時間を振りあてて行う背景には、学校側の事情もあった。ただでさえ、文部科学省の方針で、年間を通じての授業時間数が減らされていることに加え、三学期は、他の学期に比較しても、実質授業日数が、
極端に少ない。全校生徒が参加しての、卒業式の予行練習なども行わねばならず、その分にも、日数を割かなければならない……。
 一言でいうと、日程的に、きついから……平日の最後の授業を一時限づつ潰して、一週間五教科分の試験を行うことになった。
 今日は、その初日であり……その初日のテスト科目は、英語だった。

 チャイムが鳴って、答案用紙を回収し、日直が号令をかけて先生が教室を去っていくと、教室内はいつもにもまして騒がしくなった。
 解放感と、諦観の入り交じった吐息、
「……できたー?」
「ぜんぜーん」
 などの、お定まりの会話。
 この日の科目が「英語」だったため、自分の成績が知りたい生徒たちは、楓の周囲に群がった。
 すでに楓は、「先生以上に、英語についての知識がある」との評価を、級友たちの間で得ている。正解をしりたければ、楓か、それとも全教科、受験対策まで含めてまんべんなく丸暗記している茅に聞くのが、一番だった。
「……答え合わせしたい人は、一度廊下にでるの」
 結局、すぐに茅が助け船を出すことになる。
「楓は、今日、掃除当番だし……いつまでも、みんながここにたむろしていると、教室の掃除もできないの」
 茅の言葉に従って、楓の周囲に群がっていた生徒たちが、ぞろぞろと外に出ていく。
 別に茅の語調はきついものではなかったが、どことなく、犯しがたい威厳とか風格のようなものが漂っていて、たいていの場合、茅の言葉に逆らう生徒はいなかった。
 鞄を持って廊下に出た茅を追う形で、生徒たちがでていくと、楓や香也たち、今週の掃除当番は、ようやく机を後ろに下げて、備品のロッカーから箒やちりとりを取り出し、掃き掃除をはじめる。
 男女四名づつ、計八名の掃除当番は、
「……今週は、ずっとこんな感じかなぁ……」
 と、いいあいながら、手を動かしていた。
 実力テストは、今週いっぱい、最後の授業時間があてられる。今週に掃除当番があたったことは、結構、貧乏籤かも知れない……。

 教室の掃除もそろそろ終わろうかという頃、ぴんぽんぱんぽーん、というチャイムとともに、突如、校内放送がはじまった。
『……校内に残っている、生徒のみなさん……』
 玉木の、声だった。
 香也と楓は、顔を見合わせる。
『……現在、図書室において、生徒有志により、実力テストの答え合わせと模範解答の解説が、行われています。
 全学年の試験問題について、解説を行う予定です。
 参加者が多数の場合は、別の教室に移動することもありえますが、興味がある生徒は、とりあえず、図書室に集合してください。
 繰り返します……』
 顔を見合わせていた香也と楓は、玉木の声が同じアナウンスを繰り返しはじめると、どちらからともなく、呟く。
「……茅ちゃん……」
「……茅様……」
 他にも、協力者がいるのかも知れなかったが……例えば、三年の佐久間沙織が、茅の思いつきを手助けした……などいうことは、十分に考えられたが……それでも、「主犯」は、明らかに茅だろう……と、期せずして、二人の推測は、一致する。
 そういうことが可能である、という「能力」と、思い立ったらすぐに実行に移してしまう「実行力」……加えて、最近では、知り合いになった生徒をうまく利用することも、覚えはじめている。
 昨日、荒野がちらりと口にした、「来年度、生徒会長に立候補する」とかいう話しも……こうしてみると、茅に向いているかも、知れない……とか、思えてくる。
「……掃除終わったら、ちょっと見てきましょうか……」
 楓が、ぽつりと呟いた。
「……んー……。
 ぼくも、いく……」
 香也も、楓の意見に賛同する。
 いつものように美術室に向かっても、まだ当分、放送部による、昼休みにやりきれなかった分の撮影作業が続いている筈であり、落ち着いて絵を描ける環境でもないのであった。
「あっ。
 じゃあ、こっちはもう終わりだし、いっちゃっていいよ……」
 同じ掃除当番である、牧野がそういってくれて、
「そうそう」
 矢島も、賛同してくれる。
「やること、もうほとんど残ってないから……」
 流石に、その言葉に甘えるのも悪いと思ったので、香也と楓の二人でゴミ箱を抱えて、中身をゴミ捨て場まで持っていく仕事をさせて貰うことにした。
 香也や楓にしろ、別に先を急いでいるわけでもないし、香也はともかく、楓にしてみれば、中身がぎっしりと詰まったゴミ箱を抱えて移動するなど、造作もない作業だった。

 校庭の隅にあるコンテナの中に、ゴミ箱の中身を空けて教室に戻ると、他の掃除当番が帰り支度をしているところだった。
 ゴミ箱を教室の隅に置き、香也と楓は、そのまま図書室に向かう。あまり、成績とか試験とかに興味がないのか、牧野と矢島はついてこなかった。
 図書室は、それなりに生徒が集まってはいるものの、図書室からはみ出て別の教室を使う、というほどには、盛況ではなかった。
 案の定、茅と沙織が中心になって、他の生徒たちに、正解とか問題の解説を行っている。この時期になると、例外的な例を除いて、ほぼ受験を終えている三年生の姿は、沙織以外に見えず、一年生の分を茅が、二年生の分を沙織が、担当している。
「……よう。来たか……」
 目ざとく香也たちの姿を見つけた荒野が近寄ってきて、二人に声をかけてくれる。
「今、見てたけど……二人とも、教え方がうまいや……」
 荒野は、香也と楓に向かって、そういった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(297)

第六章 「血と技」(297)

 茅の息が整うのを待ってから、荒野は本格的に茅の髪を洗いはじめた。茅の提案により、荒野の分担になったこの仕事に、今では、荒野は、かなり熟練してしまっている。毎晩のように繰り返していれば、いやでも熟練する、というものだ。最近では茅が風邪を引くのを防止するため、茅はバスタブに入って貰ったまま、頭だけを外に出して、荒野が作業をするようになっている。茅の髪は長く、量も多かったから、丁寧に洗うと、すべての作業が完了するまで、かなりの時間を必要とするのだった。荒野自身は、この程度で風邪を引くほど柔ではなかったし、また、今夜のように、風呂に入ってから盛大にうちゃついた場合、茅に休憩を取らせるためにも、都合がよかった。髪を洗い終えるまでの間、お湯の中に浸かっていれば、否が応でも身体は暖まる。むしろ、逆にのぼせてしまわないか、心配になる。
 だから、茅は、荒野に髪を洗って貰っている間にも、両腕を湯の中から出したり、もっと身を乗り出したり、と、何度か姿勢をかえて、身体を外気にさらし、のぼせるのを防止した。
 小一時間ほどをかけて、荒野が慎重な手つきでトリートメントまですませ、最後にシャワーで茅の髪を流すと、今度は茅がバスタブの中からでて、茅が手早く自分の身体を洗っている間に、荒野が湯の中に入る。茅の身体の洗い方は、髪を洗う時よりはよっぽど素早く、簡便な動作だったが、それでも、長時間、裸で外にいた荒野の身体を暖めるのには、十分だった。
 そして、茅が自分の身体を洗い終わると、今度は、茅が荒野の身体を洗ってくれる。髪を洗って貰ったお礼……というわけでもないのだろうが、茅は、力を込めて荒野の背中を流したりする作業を、楽しんでいるようだった。ただし、茅が、荒野の全身を洗い終えるのに、洗髪をする時間を含めても、たしてかからない。最近、また伸びはじめているとはいえ、もともと荒野の髪はさほど長いわけではなく、シャンプーして流せば終わりで、茅の場合ほど入念な手入れを必要とするわけでもない。
 最後に、荒野の全身をシャワーで洗い流してから、再び二人で湯船に入り直す。風呂から上がってからも、茅の髪から湿気を取る作業に、また時間がかかるので、二人とも身体をよく暖めておく必要があった。
 これら、一連の作業は、もう何度も繰り返されてきたもので、一度はじめてしまえば、二人の動きにはいささかの遅滞も見られなかった。

 そして、二人は、もとのように、狭いバスタブの中で身体を密着させる。例によって、荒野の股の間に、茅が身体を割り込ませるような、格好だった。
「……荒野の……また、硬くなってる……」
 茅が、お尻をもぞもぞ動かして、荒野の硬直を自分の肌に擦りつける。
「はいはい」
 荒野は、軽く応じた。
 茅の髪を洗っている時などは、意識が別のところに集中しているため、荒野のそこは力なくうなだれているわけだが、こうした肌を密着させていると、どうしたって茅の存在を意識してしまう。
 荒野は、若い男性として、当然の反応だと思っていた。
「そういうのは、また後でな。
 まずは、暖まって、髪をちゃんと手入れしながら乾かして……」
 髪や身体を洗う前にいじりすぎたせいか、今日の茅は、普段にもまして、興奮しているようだ……と、荒野は思った。
 そう思っている荒野にしてからが、全裸の茅を目前にして、自制しきれなかった……という側面は、あるのだが……。
「髪のお手入れが、終わったら……今日は、日曜だから……」
 そういう茅の言葉は幾分、弾んでいた。
『……するのは、週末だけ……っていったの、おれだもんな……』
 今の生活を続けるためにも、どこかで一線を引かねばならない……という判断が、間違っているとは思わない。やはり、無制限に欲求を解放すること……に対しては、いくら慎重になっても、慎重にすぎるということはない……と、荒野は、今でも、思っている。
 荒野も、茅も……時折、欲望が強すぎて、自分たちで決めたその一線を、なしくずし的に無効にしてしまうことを、怖がっていた。
 だから、荒野は……このような時、ことさら、冷静な態度で、茅に接しなければ、ならない。
「明日の授業とかに、差し障りのない程度にな……」
 荒野は、できるだけ素っ気ない声をだしたつもりだったが……それが成功したのかどうかは、わからない。
 何しろ、荒野にしてからが……茅の中を貫いている時の感触を思い出し、分身を身震いさせ、硬度をさらに増しているくらいなのだ。
 荒野は、理性を総動員して、自分が茅に襲いかかるのを、自制しなければならなかった。
 必死で自制しなければ……このまま、茅の身体を前に倒してお尻を高く持ち上げ、そのまま、貫いてしまう。そういう衝動と、荒野は戦っていた。
 そうしても、茅は、いやがらないだろう。それどころか、歓迎するだろうが……一度、そうなってしまえば、荒野は他の何物も放り出して、際限なく、最後の破滅の瞬間まで、茅の肉に溺れてしまうだろう……という、かなり確実な予感があった。
 それほどに、茅との行為は、荒野にとっては甘美なものだった。
 茅も、荒野の欲望を見透かしたかのように、さらに背中を荒野の肌に密着させ、荒野の腕をとって、自分の前にまわす。そうすると、荒野の腕が、ちょうど茅の胸にあたるようになる。茅の乳房は、そんなに大きくはなかったが、張りと弾力はなかなかのもので、直接触れているだけでも、荒野の欲望を十分に刺激する。
 荒野の股間は、お湯の中で痛いほどに勃起していた。

 風呂から上がると、バスタオルで身体を丁寧に拭い、その後、荒野はパジャマ、茅はバスローブを着て、物置代わりにしている部屋に向かい、暖房をよく効かせる。そこには鏡台もあるから、茅の髪の手入れをするのに都合がよかった。
 再度、茅の髪をバスタオルでよく拭い、できるだけ湿気をとってから、二人がかりでブラッシングを施し、同時に、髪を痛めないように、慎重な手つきでドライヤーを使う。
 この日は、二人とも気が急いているのか、どうしても手つきが乱雑になる傾向があり、何度かお互いに注意しあった。後になって後悔するのは二人ともいやだったので、どうしても丁寧になる。

 ようやく、茅の髪が、なんとか乾くと、茅は鏡台の前から立ち上がって、背中にいた荒野に抱きついてきた。
 荒野は、茅に口唇を塞がれながら、手探りでドライヤーを片づけ、その後、茅を首にぶら下げながら、物置代わりの部屋をでる。
 この場で茅を抱き返して、床の上で犯したい……いや、犯しまくりたい……という欲望も、当然あったが、同じ行為をするのなら、やはり快適な環境でやったほうが、いい。
 ベッドがあるのは、どうせ隣の部屋だし、茅の体重なら、しばらく首にぶら下げていても、荒野にとっては、まるで苦にはならない。
 リモコンをとってその部屋の暖房を切り、灯りを消して、相変わらず荒野の口を貪っている茅を首にぶら下げながら、荒野は隣の部屋に移動する。
 茅の身体をベッドの上になげだし、乱暴な動作で茅のバスローブを左右に押し広げる。茅は少し、荒野から身体を話し、自分の身体にまとわりついたバスローブを脱ぎ捨てて、ベッドの脇に放り、再び荒野に抱きついてくる。
 荒野は、白く目を射る茅の裸体を楽しむ余裕もなく、茅に抱きつかれ、二人して、そのままベッドの上にもつれ合って、転がった。

 二人とも……相手が自分に、自分が相手に、餓えている……という事実を、当然のように、認識していた。




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彼女はくノ一! 第六話(38)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(38)

 やはり、楓は、自分のことをよく観察しているよな……と、教室に帰る途中で、香也は思う。
 先ほどの香也の変化も、傍目には、さほど目立つ変化ではなかった筈だ。少し血の気が引いて、顔が強ばっていたのかも知れないが……それでも、よくよく、香也の様子に注目していなければ、そうとわからないうほどの子細な変化だった……と、香也は思う。
 確かに、「大勢の人からいきなり注目される」可能性と、そこ可能性に対する恐怖……に、ついては、今まで香也が想像していなかったことだけに、一瞬、自分でも意外に思えるほどの衝撃を受けたものだが……香也のつもりとしては、すぐに自制し、あまり態度には、出ていなかった筈、なのだが……数瞬にも満たない子細な変化を、楓は、見逃さなかった。
 やばいなぁ……と、香也は、深く考えたわけではないが、ぼんやりと、そう思ってしまう。
 香也がぼんやりとした危機感を抱くのは……これから、自分が、校内でそれなりに注目されるだろう、という予測についてに、ではない。
 そんな注目は、所詮一過性のものだと、香也は思っている。何かの拍子に、絵が描ける、ということで注目を浴びるにしても……香也のそんなスキルは、校内の生徒たちの関心を持続的に集めるほどの関心は、持たれることはないだろう……と、香也は予測する。
 そもそも、同級生や、前後の学年の生徒たちにとって、「絵を描く」とかいうスキルが、それほど重要な関心時になりうる、とは、香也は思っていない。
 仮に、一時的に話題を集めたとしても……せいぜい数日程度で、香也はもとの「目立たない一生徒」に戻るだろう、と、香也は、思っている。
 この時、香也が漠然と抱いた危機感を言語化すれば、以下のようになる。

 香也が、漠然とした危惧を抱きはじめたのは……楓と自分の関係について、だった。いや、楓でなくとも、孫子でも、テン、ガク、ノリの三人でもいいのだが……自分と、自分に対して、過剰なまでに献身的に尽くしてくれる少女たちとの関係は……香也自身がそれを歓迎しているのか、いないのか、という内面的な問題は保留するにしても……客観的にみて、はやり、健全とはいえないのでは、ないだろうか……


 以前から、香也が漠然と抱いていた不安が、この時に、香也の中で、より具体的な想念にまで育った……というべきか。
 香也は、同居人の少女たちと自分の関係を……やはり、健全とは、いえないのではないか……と、改めて、思いはじめている。
 彼女たちと自分の関係は……同年輩同士のつき合い、というよりは……保護者と被保護者の関係に、近い……と。
 この年齢で、性的な関係を結んでいる……ということよりも、香也は、自分が彼女たちの好意を「当然の前提」として受け入れ、一方的に「依存/被依存」の関係として、固定するのが……怖かった。
 彼女たちの抱擁力と現在の自分の状態を考慮すると、このままずるずると過ごせば、かなり高い確率で、そういう関係になってしまう……。
 そういう関係は、それなりに心地のよい状態なのかも知れないが……香也の本能的な部分が、警笛を鳴らしている。
 今の年齢から、そんな関係に甘えてしまえば……この先、一生、一人では何もできない人間になってしまうぞ……と。
 それを回避するためには……と、香也は、思う……自分の方が成長して、場合によっては、彼女たちに頼られるほどの存在になる……しか、ない。
 以前から、香也は、彼女たちの好意を受け入れ、誰かと特別な関係になることに、漠然とした不安と危機感を抱いていたのだが……そこまで考えて、「そういうことだったのか」、と、妙に腑に落ちる感覚があった。

 香也の無意識は……彼女たちの好意を無条件に甘受することで、香也自身が骨抜きになることを、以前より警戒していたのだった。そのことを、ここに至って、ようやく、香也は自覚した。

 そうした、ぐだぐだな関係を、回避するには……。
『……自分の方が、彼女たちと肩を並べても、遜色のない状態にまで……』
 成長するより他、ない……。
 そうでないと、今の時点で香也がどのような選択をしようが……誰にとっても、不本意な結果しか、うまないだろう……。
 そこまで考えて、香也は、
『随分……ハードルが、高いなぁ……』 
 と、心中で嘆息してしまう。
 彼女たちと、今の自分とを比較すると……一体、何年の歳月が、必要になることか……。
『でも、まあ……』
 待ちきれないくらいなら、彼女たちの方が、自然と香也から離れていくだろう。
 それはそれで、一つの結末だ……と、香也は、思う。

 当面の、香也の目標は……今まで、香也が回避していた事物……つまり、絵を描くこと以外の、ほとんどのことがら……を、逃げずに、自分で処理する、ということだった。そういうところから、手を着けるより他、ない。
 人付き合いとか、勉強とか……その他、今まで香也が意図的に敬遠してきたものは、数多くある。 
 彼女たちのように、「常人以上」の能力を持つ必要はないが、せめて、「普通の人並み」に、それら、香也が今まで回避したり人任せにしてきたものを、自分の手で行うことから、はじめる……。
 漠然と、これから自分が行わなければならないkとを想像した香也は、
『……気が遠くなるような話し、だな……』
 と、思ってしまう。
 いかに、香也が、それら「人並みの行為」をさぼっていたのかは……香也自身が、いやというほど、自覚していた。
 それでも……。
『……いい加減……』
 自分の足で、歩き出さなくては、いけない……と、香也は思う。
 楓や孫子、テン、ガク、ノリはいうに及ばず、荒野や茅、樋口明日樹、有働、玉木、堺、柏……それらの知人、友人たちの好意に、いつまでも甘えているだけでは、いけないのだ……と、香也は、切実に思いはじめている。
『……この先も、みんなと一緒に、歩いていけるように……』
 自分の意志で、歩き出さなくては、いけない……と、香也は、思う。

「……香也様?」
 気づくと、数メートル前に先行した楓が、香也の方を振り返って、怪訝な顔をして香也に声をかけていた。
 考えごとをしている間に、香也の足の動きが、鈍くなったようだった。
「……んー……」
 例によってのんびりとした声を出して、香也は、慌てて、大股に足を踏み出す。
「今、いく……」
 自分の教室はすぐそこだし、もうすぐ、午後の授業がはじまる。
 このあとも、香也の思惑に関わらず、教室では、「いつもの日常」が待っているのだろう。
 時間は、香也にも、他の誰にも、平等に流れていく。
 自分の……これ以上、みんなに遅れるわけには、いかない……と、香也は思う。

 そして、この時の香也は、その後に控えている六時限目に、実力テストが控えていることを、すっかり忘れていた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(296)

第六章 「血と技」(296)

「こうされるの、好きなの?
 痛くない?」
 荒野は、自分を上から見下ろしている茅に向かって、真顔で尋ねる。尋ねる間も、少し力をいれて、こりこりと茅の乳首をもてあそび続ける。
「……んっ!
 痛い……けど……それが、気持ちいいの……」
 茅は、素直に答えた。
 鼻にかかった声で、荒野には、本当に気持ち良さそうに聞こえた。
「それじゃあ……もう少し、強くする?」
 そこで、荒野は、そう尋ねてみる。
「……いいっ……。
 もう少し、強く……んんっ!」
 実際に、荒野が指にいれる力を強くすると、茅は軽く首をのけぞらせた。
「……すごいね、茅……。
 乳首なんかで、こんなになっちゃうんだ……」
 荒野は、故意に指摘した。
「……むぅ……」
 すると、茅は、口唇をとがらせて、荒野に抱きついてくる。
 そのまま荒野に何度目かのキスをしようと、茅が顔を寄せてくるのを、荒野は軽く頭を反らせて回避する。
「ほら、今は、お風呂。
 ちゃんと暖まったから洗わないと、明日に差しつかえるぞ……」
 そういって荒野は、茅の両脇に手を差し入れたま、中腰にたち、茅の身体を軽々と持ち上げ、茅を立たせた後、茅の身体の向きをかえる。
 茅の背中が自分の側に向くようにして立たせた荒野は、そのまま茅の両肩に掌を乗せて下に押し下げ、元通り、茅を自分の膝の上に座らせた。
「……荒野、意地悪なの」
 荒野に後頭部を向けた茅が、不満のこもった声を出した。
「はいはい」
 荒野は、軽くいなすだけで、茅の不満をまともに取り合おうとはしない。
「今は、お風呂……」
「荒野だって……ここ、こんなにしている癖に……」
 茅は、自分の尾てい骨を、荒野の硬直している部分にすり付けるように、腰を動かした。
「ほら。
 湯船の中で、暴れない……」
 荒野は、そういって、茅のあばらのあたりを、両側から手でしっかりと取り押さえた。
 そのまま、茅の背中を、自分の方に引き寄せ……今度は、茅の胴体に腕を回し、茅の背中と荒野の胸板が密着するように、がっしりと抱き寄せる。
「……大人しくしていれば……ちゃんと、気持ちよくしてやるから……」
 荒野はそういってから、片手で先ほど同じように、茅の乳首を摘み、もう一方の手を、茅の下腹部の茂みに向けた。
「……やっ!」
 茅が、荒野の強制的な愛撫から逃れようと身を捩るが、荒野は両腕で茅の身体をがっしりと押さえているので、茅は、その場から逃れることができない。
「今まで、茅に気持ちよくして貰うことが多かったから……おれも、茅をちゃんと気持ちよくしなけりゃな……」
 荒野は、そういって茅の乳首をもてあそびつつ、茅の草むらを指でかき分けて、茅の敏感な突起を探った。
 茅を先に何度かいかせてしまえば、無駄な体力の消耗を防げる……という計算も、あった。何しろ二人とも、明日からまた、平常通りに、通学しなければならない身だ。ここは一つ、早めに茅を満足させて、大人しくして貰うのが、得策だ……と、荒野は、思う。
 茅の陰唇のぬめっとした感触がまず指に触れ、その陰唇に反って、指先を上に向かって動かす。特に力を入れているつもりはなかったが、茅が身を捩った拍子に、第一間接あたりまで、荒野の指が茅自身の中に潜り込んでしまう。
「……うっ」
 とも、
「……ふっ」
 ともつかない吐息を、茅が漏らす。
 荒野は、指先が茅の中に入ったまま、茅の秘裂に添って、指先をゆっくり上に動かした。
「……あっ……あっ……あっ……」
 茅が、嗚咽にも似た低い声を、あげる。
 茅の背中が、細かく震えはじめていた。
「……茅は、感じやすいな……」
 荒野は、後ろから、茅の耳元に囁く。
「というか……どんどん、感じやすくなってるんじゃないか?」
 荒野の指先が秘裂の上にある突起に触れると、茅の背中が大きく身震いする。
 荒野は、茅の乳首を掴んでいる指に、力を込めた。
「今、こうしているみたいに……」
 荒野は、再び、茅の耳元に囁く。
「……茅のここ……硬くなっているのも……摘んでやろうか……」
 そういいながら、荒野は、人さし指の腹を茅の肉芽に押しつけて、少しつぶしてみせた。
「……んぅふっ!」
 茅が、がくりと、上体を前に倒す。
 そうすると、乳首を弄んでいた荒野の腕が、前に引っ張られ、茅の下腹部に潜り込んでいた指と、茅のおなかとに挟まれて、茅の敏感な突起がますます圧し潰される格好になった。
「ひゃっ!」
 という、悲鳴にも似た声をあげ、茅の身体が、今度は、左右にガクガクと震える。
「ほら……そんなに暴れると、敏感なところに当たっちゃったりするぞ……」
 荒野は、囁いて、茅の下腹部に潜り込ませた二本の指で、茅の敏感な突起を、軽く摘む。
「そんなに焦らなくても……今から、茅のここと、胸……同時に、指で潰してやるから……」
 そういって荒野は、しばらく様子を見ていたが、茅は肩を細かく震わせるだけで、特に何も返答はしなかった。
「……ひょっとして……。
 茅、期待している?」
 何気なく、荒野が尋ねてみると、茅の肩が、びくんと震える。
「……図星……かぁ……」
 いいながら、荒野は、茅の乳首と陰核を、軽く力を入れて、摘む。軽く力をいれたまま、少しひしゃげ気味になった乳首と陰核を、腹の指ですり潰すように動かすと、茅が、懇願するような声を上げはじめた。
「……やぁ……違ぁっ! 違うのぉっ! おぅっ! あっ!」
「……すごいな、茅」
 荒野は、冷静な声で指摘する。
「指だけで、こんなになるなんて……。
 茅は、どんどん、えっちになっていく……」
「……ちがうのぉ!
 かはっ!
 荒野がっぁっ!
 荒野が変なこと、するからぁっ!」
 茅は、軽く膝をたてた半端な姿勢のまま、湯船のお湯を跳ねまわして身震いをした。
 しばらく、荒野が強弱をつけて、茅の乳首と陰核を摘んでみせる。
 茅は、それだけで軽く達したったようで、荒野の名を連呼しながら身体を硬直させ、しばらく震えていたかと思うと、いきなりがっくりと身体から力を抜いて、その場にへたり込んで、背を荒野の方に預けた。
 茅は、それから長い間、そのまま荒野に体重を預けたまま、胸を大きく上下させて酸素を体内に取り込んでいる。
 荒野からは見えないが、おそらく、目も閉じているのだろう……と、荒野は思った。
 荒野は、そうして茅が休んでいる間も、茅の脇の下から手を回して、茅の乳房を軽く揉んでみるが、身体を休ませることに忙しく意識が回りきらないのか、茅は、そちらの方の動きには反応しない。
「……こう……や……」
 少しして、茅は、自分の身体を下にずらし、頭のほとんどを湯の中にいれて、下から荒野の顔を見上げた。
 荒野から見れば、お湯の中に揺らめいている茅の黒髪を背景に、見慣れたのとは上下が反転している茅の顔を、下に見下ろしている形になる。
「茅は……荒野の、ものだから……」
 茅は、頭頂部を荒野の胸板にすりつけるようにして、顔をもちあげる。
 湯を吸った黒髪が、持ち上がってきた茅の白い顔の後を追って、ついていく。
 そのまま頭を持ち上げた茅は、荒野の肩の上に頭を預けるようにして、座り直す。
 湯を含んでなま暖かくなった茅の髪が、べったりと荒野の身体の正面を覆い尽くした。
 茅に捉えられているのは……どうみても、おれだよな……と、荒野は思ったが、そのことをその場で口にすることはなかった。




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彼女はくノ一! 第六話(37)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(37)

 樋口明日樹が借りてきた鍵で美術室を開けると、みんなはぞろぞろと連れだって香也の絵を中に運び込む。明日樹は続いて、準備室の鍵も開けた。
「……ここ、勝手に倉庫代わりにしちゃっていいのかな?」
 玉木が、明日樹の開けた準備室を指さして、尋ねる。
「この準備室、一応、美術部の部室も兼ねている筈だし……」
 明日樹は、軽いため息をつきながら、答える。
「……狩野君の絵だから、まったく部活と関係がないってわけでもないし、第一、放送部の方は、備品がいっぱいで、こんな荷物、入りきらないでしょ?
 大丈夫よ、旺杜先生、そういう細かいこと、気にする人じゃないから……」
「……それも、そっか……」
 玉木は、軽く頷いて、持っていた荷物を準備室に運び込む。他の連中も、それに続いた。
「でも……邪魔は邪魔だから、なるべく早く、そっちで引き取って貰えると助かるんだけど……」
 明日樹は、玉木にそう声をかけるのも、忘れなかった。
「……うん。そだね。
 有働君や他のみんなにも声かけて、早めに処理するように進言してみる。早ければ、昼休みから作業に入るよ……」
「……作業?」
 具体的に、これらの絵をどう処理するのか想像がつかない明日樹は、小首を傾げてみせた。
「ま、撮影、だね。
 そのまま、印刷所に回せるのは、放課後に運び出しちゃうけど……。
 フィルムに焼き付ければ印画紙にもできるし、スキャンしちゃえば、デジタル加工もできるし……」
 持ち込んだ絵をすべて準備室を運びいれると、明日樹は鍵を職員室に返しに行き、他の面子は、始業までそれほど間がないこともあり、授業を受けるためにそれぞれの教室に散っていった。
 玉木は、早速携帯を取り出し、メールで関係者各位に連絡を取っているようだった。

 そして昼休み、案の上、香也は、放送部員に呼び出された。楓と、それに牧野と矢島までもが、香也の後をついていく。
「……やあ、どうも。
 今回は、ありがとうございました。期待していた以上のものを、頂いちゃって……」
 有働が、にこやかに香也を出迎えてくれた。
 その後ろでは、立てかけた香也の絵に、三脚に据えたカメラを向けた旺杜先生が、放送部員たちにライトや反射板の位置を指示していたりする。
 旺杜先生は、
「……それで、光度計であたりとってみろ。
 だいたい、均質に光が当たっている筈だ……」
 とかなんとかいうと、慌てて放送部員の何人かが、光度計を取り出して、香也の絵の表面にあててチェックをはじめる。
「……何、しているんですか?」
 楓が、有働に向かって、その作業についての解説を求めた。
「スキャナーで取り込めない大きさのものは、ああして撮影しています」
 有働は、朝の玉木の説明と、同様の意味のことをいった。
「なんか……旺杜先生が、妙に協力的でして……」
「おっ。
 狩野か……」
 美術室の入り口近くにたむろしてた生徒の中から香也の顔を認めた旺杜先生が、香也を手招きする。
「随分と、描いたな……。
 ところで、この絵、データを取った後の使い道とか、もうあるのか?」
「……使い道、ですか?」
 香也は、一瞬、旺杜先生が何をいっているのかわからなかった。
 そもそも、絵は、「使う」ものではない。少なくとも、香也の認識の中では……。
「……ああー……。
 聞き方が、悪かったか……。
 いや、この絵……お前ら、今朝、ぞろぞろと大名行列で運び込んでたろ?
 あれ、意外に目立ってな……。
 で、何人かの先生が、休み時間とかに見に来て、まあ、描かれているモチーフがモチーフだから、なんだこれは、って話しになって……。
 それから、放送部とかボランティアに関わっている生徒から、話しを聞いたりして、だな……。
 結論をいうと、この絵を教室とか廊下とかに、掲示したいって意見が、先生方の中から、ぼちぼち出てきているんだ……」
 予想外の事態に、香也の目が点になった。
「……そのボランティアってのは、あれだろ?
 これから、このゴミの山を片づけて……その過程も、いろいろな方法で伝えていくってことだろ?
 狩野の絵も、その広報の一環で……」
「そうです」
 呆然としている香也の代わりに、有働が、頷いた。
「……まあ、学校ていうのは、いうまでもなく、教育機関なわけだ。
 なら、予算や職員の人手は割けないにしても……生徒が、そういう結構な活動しているのなら、それとなく支援してやるのが、筋じゃないかって話しでな……。
 印刷物やネット向けの素材に使用された後の絵を、校内で展示したらいいんじゃないか、ってことでな……。
 なにより、金も人手もかからないし……」
「……ボランティアとしては、非常にありがたい話しです」
 有働が、頷く。
「これから、活動の成果が出てくれば、ゴミがなくなった風景も、そのうち展示されていくわけで……これ以上の広報も、ないでしょう。
 後は、絵を描いた狩野君の意向次第、というわけですが……」
「……んー……。
 いいけど……」
 話しの流れをようやく理解した香也は、なんとか、頷いてみせる。
 一連のやりとりを目撃していた楓や、牧野と矢島までもが、背中のほうでなにやら騒ぎはじめていた。

 正直、描き上げた絵が、どのように利用されようとも、香也の関心の外にある。
 それでも、躊躇を覚えるのは……。
『……校内、だと……』
 香也が描いた絵だと、かなり多くの生徒たちに知られるのは……避けられないように、思えたからだ。

 現に、今朝、運び込む様子を目撃した生徒は、それなりにいるし……実際に、これらの絵が校内に展示されたり、印刷物やネット上に出回ったりした後、それらの絵と香也の存在を結びつけて考える人間が、増えていく……という想像は、ひっそりと他人の視線を避けて生きてきたい香也にとっては、あまり楽しいものではなかった。
 だが……。
 香也は、放送部員たちに指示を与えながらシャッターを切っていく旺杜先生の姿を、ぼんやりと眺めながら、考える。
 もう、自分は……すでに、以前の状態に引き返せないところまで、深入りしているのではないか……と、今更ながらに、香也は、思う。

「……大丈夫ですか?」
 香也の様子がおかしいことに気づいた楓が、心配そうな顔をして、声をかけてくれた。
「……んー……。
 大丈夫」
 香也は、できるだけ平静な声を出そうと、努める。
「なんでも、ないから……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(295)

第六章 「血と技」(295)

 バスタブに、頃合いにお湯が貯まっていたので茅に「風呂に入ろう」と声をかける。すると茅は脱衣所に入ってきて、荒野に向かって、「脱がせて」といった。今更恥ずかしがる関係でもなし、また、茅がこのような形で甘えてくるのも珍しくはないので、荒野は何の躊躇もなく茅のワンピースに手をかける。
 茅の服を脱がして下着姿にすると、今度は茅が荒野の服に手をかけて、脱がせはじめた。荒野は、茅が脱がせ易いように、屈み込んで上体を茅の方に倒し、両腕をあげる。荒野の上半身がむき出しになると、茅は、荒野の肩に覆い被さった。
「……荒野……」
 茅が、荒野の耳元に口を寄せて、囁く。
「肩が……広い……」
 茅が荒野の肩を抱こうとすると、かなり腕を開かなくてはならなくなる。
「それは、野郎だから……」
 荒野は、短く答えた。
 小柄で華奢な体格をしている茅より、荒野の方が肩幅があるのは、当たり前だった。
 結局、茅は荒野の肩を抱くのを諦め、屈み込んだ荒野の頭に腕を回して、抱き寄せる。
 荒野は、茅の胸元に顔を押しつけられる格好になった。荒野も、茅の腰に腕を回し、軽く力を込めて、ブラ越しに茅の乳房を感じる。大きくはないが、張りのある乳房だと思う。
 荒野はそのまま顔を動かして、茅のブラをずらそうとすると、茅は、荒野の腕を払って、身を離した。
「まだ、駄目……」
 茅は、悪戯っぽい微笑み浮かべて、自分の手で下着を外す。
「お風呂に、入るの……」
 荒野は、その言葉が終わらないうちに、茅に覆い被さって、口唇を奪った。
 茅は、最初のうち、抵抗して荒野の腕の中でもがいていたが、すぐに大人しくなって荒野のなすがままになった。口の中に舌をいれても、あらがうことなく受け入れ、むしろ、積極的に、荒野の舌に自分の舌を絡めてくる。
 荒野は、茅の腰に回した手を降ろして、茅の下着の中に手を入れた。
 すると、それまで大人しくしていた茅が、急にもがきはじめる。
 もちろん、荒野はそんな抵抗を許さず、がっしりと片手で茅の腰を固定しながら、お尻の割れ目に指を這わせるようにして、茅の陰部に触れる。
「……もう……濡れてる……」
 少し顔を離して、茅の目の前で、荒野がそこの感触をあえて言葉に出して指摘する。
 と、再度、茅が身をふりほどこうともがきはじめる。
 しかし荒野は、茅が自分から離れていくことを、許さなかった。もがく茅を、ことさらに抱き寄せ、口唇を塞ぎながら、手で茅の下着を下にずり降ろす。続いて茅の背中に手を回して、ブラのホックを手探りで外した。
 そのころには、観念したのか、茅も抵抗をせず、目を閉じて荒野のなすがままになっている。
 荒野は茅と身体の前面を密着させ、茅の舌を吸い続けた。
 すでになじんだ感触とはいえ、荒野の前は、痛いほどに勃起している。
 茅が二人の身体の間に手を割り込ませて、荒野の硬直している部分を、指先で、輪郭をなぞるように、さすった。
「……荒野の……すっかり、大きくなってる……」
 少し顔を離して、茅が、荒野の顔に息を吹きかけるように、囁く。
「茅の身体が、きもちいから……」
 荒野は、手のひらで茅の背中を撫でながら、答えた。
 実際、茅の肌は、触った時の感触が、ひどく心地よい。しっとりとしていて、こちらの肌に吸いついてくるような感触があった。
「……んっ……」
 頬染めた茅が、吐息混じりに、荒野の、最後に残った下着を降ろす。荒野は抵抗しなかったが、茅が膝下まで荒野の下着を押し下げ、全裸になると、茅の身体を自分の肩の上に乗せて持ち上げ、
「……さぁ、お風呂、お風呂……」
 と、ことさら快活な声を出して、浴室に入った。
 荒野に担がれながら、茅が小さく、「むぅ」と不満の声をあげる。

 二人の身体にざっとシャワーをかけた後、狭いバスタブに、二人で浸かる。もともと、単身で使用することが前提になっている浴槽なので、身体を密着させていても、二人とも肩まで浸かることができないのだが、入浴する時はしょっちゅうこのようなスタイルになるので、二人とも気にしてはいなかった。
 浴槽の中で、茅の身体を前に抱きながら、
『なんだかんだいって、どんどん慣れていくよな……。
 茅の身体にも、今の生活にも……』
 荒野にとって、今の生活と茅との関係は、果てしなく等価であった。もはや、「この先茅と離れて暮らす自分」、というものが、荒野には想像できなくなっている。同様に、今の学校の友人たちと一緒に育ち、成人していくことが、当然のように感じはじめていた。
 理性では……悪餓鬼をはじめとした、各種の不確定要素が多すぎるため、確率的にみて、現在のまま、数年以上、現在の生活を続けられる可能性は、極めて低い……と、思っているのだが、それでも、こうして狭い浴槽の中で、茅の華奢な身体を抱きしめていると、その存在の確かさと同じくらいに、彼らとともに成長し、成人していく自分、というものが、確実にありうる……という錯覚を、持ってしまう……。
 荒野は……冷静になれ、と、自分に言い聞かせる。
 おそらく、この土地にいる関係者の中で、一番俯瞰的な視野を持てるのは、他ならぬ荒野自身、なのである。
 言い換えると……この先、荒野が判断を誤れば、危ういバランスの上に成立している、この土地の荒野、あるいは、一族をめぐる環境は、あっというまに安定を崩して崩壊する……。
 だから、荒野は……何が何でも、冷静な判断力を、失うわけにはいかない……。
「……荒野……考えごと、をしてる……」
 茅が、自分の胸あたりに回されている荒野の腕を、掌で軽く叩きながら、そういう。
「……うん、そう。
 考えごと……いろいろと……」
 荒野は、あえて軽い口調で、茅の疑問を肯定する。
「いろいろ……考えなけりゃならないこと、多いから……」
「荒野は……」
 茅は、首を反らして、下から荒野を見上げる。
「……もう、一人で、抱え込まなくて、いいの。
 茅もいるし……みんなもいるの……」
「そう……だな……」
 荒野は、ゆっくりと首を振ってから、頷いた。
「もう……おれは、一人じゃないんだな……」
 当たり前のこと……ではあったが、改めて口にすると、その事実が、じんわりと荒野の中に染みてきた。
 ここに来た時……荒野は、一人だった。
 しかし……今は、違う。
 茅が、身体の向きを変えて、荒野に抱きついてきた。
「……おいおい……」
 とかいいながらも、荒野は、自分の胸に押しつけられる、濡れた茅の乳房の感触を、楽しんでいる。
 この感触だけ、何度味わっても、飽きない……と、そう思う。
 茅は、やはり、口唇を重ねてきた。
 茅は、キスが好きだった。荒野も、好きだったが。
 お互いの舌の感触を確認するように、執拗に舌を絡ませ合う。
 茅の膝が、荒野の股間をまさぐっていた。偶然そこに触れた、というわけではないらしい。荒野の硬度を確かめるかのように、立て方向に、膝頭をあてて、動かしている。
 荒野は、片手を茅の腰の後ろに置き、もう一方の掌で、茅の乳房を包み込むように、触る。
 しばらく、口唇を重ねながら、揉みしだいた後、親指と人差し指で、すっかり硬くなっている乳首を、少し力をいれて摘んだ。
「……んっ!」
 茅が、鼻にかかった声をあげる。
 決して、嫌がっている響きではなかった。




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彼女はくノ一! 第六話(36)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(36)

 翌朝には、雨は上がっていた。
 香也が眼を醒ましたのは、例によって時間ギリギリだったが、その時間まで香也が眠れた、ということは、早朝には、つまり夜半の時点で、すでに雨があがっていたのだろう……と、香也は推測する。
 これまでの例で考えてみると、早朝に雨が降ったときは、同居人の少女たちのいずれかが、かなり高い確率で香也の布団の中に忍んで来るからだ。今朝はそれがなかったから、彼女たちは、今朝、野外でトレーニングに勤しんでいたのだろう……というのが、香也の想像である。
 通常のパターンなら、香也が眼を醒ます時間には、全員、シャワーを浴びて着替え終えており、寝起きの香也よりもよほどしゃんとした格好をしている。今朝はその「通常のパターン」だった。

 顔を洗い、パジャマを制服に着替えて朝食を摂り、みんなで家の外に出る。
 一歩、外に足を踏み出して、天を仰ぐと、昨日一日、じめじめした天気だったのが嘘のように晴れ渡っていた。快晴の時の冬の空は、心なしか、他の季節よりも透明度が高い……ような、気がする、と、香也は思う。
 庭のプレハブに行って、昨夜梱包した荷物を外に出すのを、みんなに手伝って貰う。こうしてまとめてみると、自分でも「……意外に、描いたな」と思ってしまう。描いている最中は、量のことなど考えはしない。あくまで趣味の延長……というよりは、習慣というか脊髄反射的に「描いて」いて、しかも、普段から「下書き」と「仕上げ」をあまり区別して考える習慣のない香也は、依頼されて絵を描くことは、最近、増えたものの……仕上がった絵がどう使用されるのか、ということまでを考慮して絵を描いた経験が、実はない。
 ……有働さんに、使えそうなものを選んで貰おう。
 使えそうなものがなさそうだったら、アドバイス貰ってまた描こう……。
 とか、内心ではそんな、謙虚を通り越して弱気なことを考えている。

 香也が、楓や孫子、テン、ガク、ノリに手伝って貰って、結果的にはかなり多くなった荷物を玄関前に持ち出すと、荒野が「おっ……」と声を上げる。
 いつもの面子は、すでに集合していた。
「それ……ああ。ひょっとして、ボランティアの……」
 流石に、荒野は勘が良かった。
「……んー……。
 そう」
 香也は、短く答える。
「……短い間に、随分と描いたもんだなぁ……」
 すでに集合していた飯島舞花も、感歎の声を上げる。
 香也は、
「……んー……。
 ぼく、そのあたりの加減っていうのが、どうもよくわからないから……」
 とか、答えた。
 これも、照れているとか謙遜しているわけではなく、香也は本気で「加減がわからない」。
「まあ、いいや。運ぶのは、任せて。
 人数、いるし……」
 こういって舞花は、栗田にも荷物を持たせる。
 もとより、かさばるとはいえ重いものではない。また、荒野や楓、孫子、それに、荒野と樋口明日樹に即され、大樹までもが持ってくれたので、在校生だけで全ての荷物を持つことが出来、テン、ガク、ノリの手を借りる必要はなかった。
 三人娘は、どこか残念そうな、ないしは、拍子抜けの表情で、香也たちを見送る。

 ただでさえ、目立つ容姿の持ち主がぞろぞろ連れだって歩いている、ということで、注目を浴びやすいのに、今朝はほぼ全員が大きな荷物を抱えているテンということで、この日は、いつもにも増して、通行人の皆さんの視線が気になる登校となった。
「やぁやぁ、おはよーさん。
 今日はまた、みなさん、大勢で大きな荷物を抱えますなー……」
 などと脳天気な挨拶とともに途中から合流してきたのは、玉木玉美だった。
「これ、香也君の絵、なんだがな」
 荒野が、挨拶もそこそこに、玉木に告げた。
「……有働君の依頼で描いたものだ。全部」
 荒野にそういわれて、玉木は慌てて、香也が持っていた荷物を、引ったくるようにして奪取する。
 おかげで香也は、自分自身の鞄だけしか持たない身軽な身となった。
 全部、自分が描いた絵なのに……と、多少は後ろめたい思いを抱いていると、荒野が香也の表情からそうと察したのか、
「いいから、いいから。
 香也君は、もうこれだけの絵を描き上げた功労者なんだから、そのままどっしりと構えている……」
 と、声をかけてくれる。
 荒野のかたわらで、樋口明日樹がうんうんと頷いていた。

 校門に近づくにつれ、声をかけてくる生徒が増えてきた。香也はともかく、その他は、それなりに他の生徒たちに顔も知られ、人望もある存在である。
 声をかけてくる生徒たちは、ほぼ例外なく、荒野たちが抱えている荷物をみて不審そうな表情をし、荷物について質問した。
 別に隠す必要もないから、質問された側(荒野だったり、舞花だったり、茅だったり、楓だったり、玉木だったりした)は例外なく、素直に「香也が描いた絵だ」ということと、「有働経由で、ボランティア活動のために描いた」という事実を告げる。
 頻繁に聞かれ、答えたので、香也たちが学校に着く頃には、そうした事実はかなり広範に知られるようになってしまった。また、そうした問答がある度に、それまで面識がなかった生徒も含め、しげしげと顔を覗き込まれたりしたものだから、「他人に注目される」ということに慣れていない香也は、すっかり挙動不審になっている。一緒に登校する人たちにぐるりと囲まれているから、まだしも平静を装うことが可能だったが。
 楓や孫子が、
「もっと、堂々としていてください」
「どっしりと、構えて」
 などと再三、言葉をかけて、ようやく落ち着かせている有様だった。

 校門を通りすぎ、下駄箱が置いてあるエントランスまで到着すると、
「……これだけの量だと、一度、美術準備室に借り置きした方が、いいね……」
 といい、樋口明日樹が職員室に先行し、鍵を借りに行く。
 残った者たちは、上履きに履き替えると、そのまま荷物を抱えて美術室に直行した。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(294)

第六章 「血と技」(294)

 夕食を終えると、茅が食器を片付けて、風呂に入るための準備をし、紅茶をいれてくれる。バスタブにお湯が溜まるまで、お茶を飲みながら寛ぐのが最近の習慣になっている。
「……ふぅ」
 荒野は、ティーセットを手にしたまま、どさりとソファの上に身体を投げ出す。
 ひとことで要約すれば、「平和な一日だった」といっていい、日曜日だった。少なくとも、トラブルなどは、何も起こっていない。
 しかし、荒野は……妙な気疲れをしていた。
「……ふぅ」
 バスルームから出てきた茅が、荒野と同じようにため息をついて、荒野の膝の上に腰掛けた。
 茅がそのまま背中を押しつけてきたので、荒野は慌てて手にしたティーセットを大きく上に上げる。
「……こらこら」
 荒野は、そういいながら、両手で持ったティーセットを、茅の身体の前に回す。
「いきなりそういう真似したら、危ないでしょ?」
「荒野の反射神経なら、この程度のことは、楽にかわせるの」
 茅はそういいながら、荒野の手にしていたティーカップを両手で抱え、完全に背を荒野の方に傾け、体重を預け、「……ん。おいし……」とかいいながら、紅茶を飲んでいる。
 荒野からは、茅の頭頂部を眼下に見下ろす形となる。しかも、茅の柔らかい背中とお尻を、膝と身体の前に密着しているので、否が応でも、茅の体臭や体温を感じてしまう。
 荒野の分身が、早くも反応しはじめていた。
「……荒野の……」
 茅が、そういって、お尻を左右に揺さぶる。
「……硬く、なりはじめているの」
 もちろん、茅の方も、荒野を挑発するために、わざわざそんな言動を取っているのだ。
「そうなるように、しむけている癖に……」
 荒野は、背中から茅の腰に腕を回し、茅の耳元に口を寄せて、囁く。
 そのまま、茅の耳たぶを甘噛みしようとすると、茅は、
「駄目ぇ……」
 といって、身をよじった。
「……紅茶を、飲むの……」
 語尾が、「飲むのぉ」と、尾を引いているせいか、ひどく甘ったるい語調になっている。
「茅は、ゆっくり飲んでいていいよ……」
 そういいながら荒野は、両側から茅のあばらの下あたりを両手でがっしりと固定し、茅の頭頂部に顔をつけて、そこの匂いをかいだ。
「……なっ……」
 荒野が何をしているのか気づいた茅が、慌てて立ち上がろうとする。
 が、荒野にがっしりと押さえつけられているため、思うように身動きできない。
「ほらほら。
 そんなに暴れると、紅茶、こぼすよ……」
 荒野は、あえて冷静な声を出した。
「……荒野……。
 意地悪なのっ!」
 茅は、珍しく慌てた様子で、荒野からなんとか離れようと、もがく。しかし、この手のことで、茅が荒野を出し抜くことは不可能だった。荒野は悠然と、茅の頭の匂いをかいでいる。荒野のフェティッシュな趣味、というよりは、茅の狼狽ぶりが面白くなって、止められなくなったのだった。
「意地悪って……おれ、何もしてないよ。
 茅がおれの膝に乗ってきたから、茅の頭の匂いをかいでいるだけで……」
「それ……へ、変態っぽいの」
 茅はそんなことをいいながら、「……んー」といきんで荒野の膝の上から逃れようとするが、茅の両脇に添えられた荒野の手は、びくりともしない。
「ほら、そんなに暴れると、本当に、紅茶をこぼすから……」
 荒野が冷静に指摘すると、茅は、しばらく動作を止めて考え込んだ後、「……ふぅ……」と深く息をついて、手にしていたティーカップをごくごくと一気飲みする。
 おそらく、もうかなり冷めかけていたのだろうが……それでも、普段の茅らしくない、飲み方だった。そんな飲み方では、味や香りを味わうどころではないだろう……と、荒野は思う。
「……飲んだの」
 茅は、飲み干したティーカップを荒野の目の前に掲げて、見せた。
「荒野……お皿」
 と、平手を、荒野の目の前に差し出す。
「……おう」
 荒野は、指と指の間に挟んでいたティーソーサーを、茅の掌に、乗せた。
「片付けるから、離して……」
 茅が、心なしか、硬い声でいった。
「おう」
 荒野が素直に応じて、茅の腰から手を離すと、茅は、弾かれたように起き上がり、シンクにティーセットを置き、すぐにUターンして、今度は正面から、荒野の胸に飛び込んでくる。
 そして、
「……むぅ」
 と、不満そうに鼻を鳴らし、荒野の胸に顔を埋めて、ずりずりと頬ずりを繰り返す。
「……頭の匂いをかぐなんて……荒野、変態さんなの……」
「だって、茅が、いきなり膝の上にのるから……」
 荒野は、胸に押しつけられている茅の頬が、熱くなっているのを感じながら、そう答える。おそらく、羞恥によるものだろうが……茅は、耳まで真っ赤だった。
「髪の毛の匂いくらいで、そんなに恥ずかしがることないだろう……」
 茅と荒野とは、身体の隅々まで知っている間柄である。
 たかだか体臭だけで、そこまで恥ずかしがる感性が、荒野には理解できない。
「……だってっ!」
 茅は、きっ、と、荒野の顔を見上げる。
「まだ……お風呂に、入ってないし……汗の匂いがするのっ!」
 茅は、珍しく、感情的になっているようだった。
「……いや……冬だから、そんなに汗、掻いてないだろうし……。
 それに、普通に茅の、いい匂いがしてたけど……」
 荒野がそういうと、茅の顔は、ますます真っ赤になった。
「……あー……。
 お風呂、見てこよう……」
 荒野は、どことなくいたたまれなくなって、その場から逃げるように、バスルームに向かう。




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彼女はくノ一! 第六話(35)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(35)

「……こーちゃん、こーちゃん」
 夕食が終わった後、羽生が香也を手招きした。
 テン、ガク、ノリの三人は、炬燵の上にノートパソコンを持ち出して、なにやら作業に集中している。楓と孫子は、洗い物をした後、揃って風呂を使いにいった。真理が在宅中だと、ガス代節約のため、できるだけいっぺんに入浴するようにすすめられるのだった。
 香也を手招きした羽生は、そのまま香也の肩に手をかけて、自分の部屋に引き入れる。
 香也に座布団をすすめた後、正面に座り、軽い咳払いをしてから、話しをきりだした。
「どうっだった、こーちゃん……。
 今日は?」
 羽生なりに、心配してくれているようだった。
「一日中、うちにいたわけだろ?
 なんというか……ああ。
 朝から今まで、プチ修羅場の連続だったのではないかい?」
 なにげに鋭い羽生だった。
「……んー……」
 香也は、唸った。
「……そういわれると……確かに、そういう面もあるんだけど……」
 単数、ないしは、複数の女性といちゃいちゃしているところに他人に踏み込まれ、気まずい思いをしたことが、今日一日で、一体何度あったことか……。
「……でも……そういうのも、別に、不快なだけでもないし……。
 もう少し、回数が減ってくれるといいな、とは、思うけど……」
 香也は、直接的には語らなかったが、性急に性的な関係を結ぼうとする傾向がなければ、この状態も、それなりに心地よい。
「複数の異性が、無条件に自分の存在を肯定し、かしずいてくれる」、というのが、香也の現状であるから、当然といえば当然だ。性差、年齢によらず、誰もが潜在的に持つご都合主義な願望を、現在の香也は、労せずに実現している……とも、いえる。
「……そう考えると……」
 羽生は、現在の香也をとりまく境遇について、そう考えた後、そっとため息をついた。
「……これでなかなか、ストイックな選択をしてるよな……こーちゃん……」
「……んー……」
 香也は、例によって、唸る。
「そんな……ストイックとか、そういうんじゃないと思うけど……」
 香也とて、逃げられないとわかった時、あるいは、肥大する欲望が我慢の限界を突破した時は、素直に目の前の女体にかぶりついているのだ。
 お世辞にも、「ストイック」とは、表現できはしないだろう……と、香也は思う。
「……どちらかというと……その、自信がない、というか……」
 というのも、紛れもない、香也の本音であった。
「……それも……わかるんだけどな……」
 羽生は、天井を仰いだ。
 何しろ、これまでの香也は……ろくに「他人」とつき合ったことがない。異性とかそういうことより、まず、「誰かと親しくする」という感覚が、香也にはピンとこないのだろう。
『……難儀だよなぁー……。
 こーちゃんも、他のみんなも……』
 羽生は、そう思い、口に出しては、
「まあ、なにかあったら、相談にはのるから……」
 とだけいって、香也を解放する。
 香也自身が、彼女たちに対して、どういう方針を取るのか、はっきりと決断していない以上、羽生にできることは、何もない。
 香也が出ていってからも、羽生は、現在のあやうい膠着状態をどうにかして打開する方法はないだろうか……と、しばらく真剣に考えてみた。
『……難しいよなぁ……』
 結局のところ、何もいい案は、思いつかなかったが。

 羽生の部屋を出た香也は、例によって、庭のプレハブに直行する。何枚か、描き溜めた絵を、明日、学校に搬入するつもりだったので、その準備をしなければならなかった。例の、有働に頼まれた不法投棄ゴミの絵だったが、手を着けてみると、思いの外、興が乗ってしまい、必要とされる以上の枚数を描いてしまった気がする……。
 ポスター用に印刷に回すことが前提だったので、最初のうちは画用紙とかイラストボードに描いていたが、後の方になると、描き慣れたキャンバスを使用することも多かった。
 全部合わせると、重量はともかく、それなりにかさばる荷物になりそうだ……と、香也は思った。
 少なくとも、香也一人で持ちきれる大きさではなくなっている。
『……登校する時、みんなに頼んで持って貰おう……』
 と、香也は考え、また、実際にどの絵を使用するのかは、依頼してきた放送部に判断させることにして、とりあえず、香也は描きあがった絵をすべて、搬入するための準備をはじめた。
 紙は、トレーシングペーパーを間にいれて、重ねて紐で束ね、持ちやすいように取っ手をつける。キャンバスも二、三枚づつ重ねてカバーをかけた。
 途中で、風呂上がりの楓と孫子が様子を見に来て、荷造りに手を貸してくれた。重労働というわけではないが、埃が舞い上がる作業であり、風呂上がりの二人に手伝わせることに、香也は抵抗を感じたが、二人は、その程度のことは、まるで気にかけた様子もなく、香也よりも手際よく、必要な絵を梱包していく。
 手を動かしながら、楓と孫子は口を動かしつづけた。孫子は、立ち上げた会社についてのあれこれ、楓は、今日の日中に合った出来事、特に、現象絡みのことを詳細に語る。
 しばらく、三人で荷造りをしていた香也は、ふと、あることに気づいた。
 注意して聞いていないと、他愛のないおしゃべりにしか聞こえないが……今、二人が行っているのは、お互いの目が届かいない場所で、何が起こっているのかを、さりげなく報告しあっているのでは、ないのか……。
 楓と孫子は、香也を巡っては対立しているが、それ以外の目的、つまり、「当面、ここに住み続ける」という目的は、一致している。
 話し合った結果、なのか、それとも、暗黙の了解なのかまでは、わからないが……。
『……案外、この二人……』
 孫子は、楓にシステム開発の仕事を斡旋したりしているし、楓も、そうした孫子の要請に対して、素直に応じている。また、普段の様子からしても、ことさらにいがみ合っているようにも見えない……。
 この二人……香也、という要素がなければ、案外、いいコンビなんじゃないだろうか……。
『だとすれば……』
 他ならぬ自分自身が、一番の余計者なんじゃないか……と、香也は思ったりする。
 香也がいなければ……少なくとも、この家の住人に限っていえば、いがみ合う必要がなくなる……。
 特に卑下しているわけではなく、香也は、自然にそう思ってしまう。

 謙虚、という以前に、素で自分を「取るに足らない存在」と見なしている香也は、「香也」というファクターがなければ、彼女たちも「この家」に執着する理由がなくなる……ということに、本気で気がつかない。




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