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2006-05

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髪長姫は最後に笑う。第五章(71)

第五章 「友と敵」(71)

 夕食が終わり、自分の食器を流しに片づけると、三人組は「水着、試してみる」といってバタバタと風呂場に向かった。
 香也はお茶を飲んで一服してから、もやは日課となっている、一時間ほどの勉強を、孫子と楓の二人に見守られて行う。当初、香也の勉強は二人が交代で見ていたが、今では、なし崩し的に二人に両側から見守られて、という形になっていた。孫子と楓は、どちらも自分以外の女性が香也にすり寄ることが気に入らないようで、お互いに牽制しつつ、自分の体はできるだけ香也に近づけようとする。最初のうちは、香也もかなり居心地が悪かったが、勉強する場所をプレハブから居間に移すと、真理や羽生の手前、二人とも遠慮がちになるので、今では炬燵にあたりながら、夕食後に小一時間、三人で勉強することになっている。
 もっとも、昨日のように、楓と孫子が揃って帰宅後すぐに自分の部屋に籠もってしまった時など、不測の事態の際には、中止になるわけだが……。

この夜は、そうして勉強をしている最中に、「着替え、もってくの忘れたー!」とバスタオルだけを身につけた三人がどやどやと居間を横断する、という椿事以外に特筆すべきことは起こらず、無事一時間のお勤めを終えると、香也はいつものようにプレハブに移動する。
 プレハブに入る、ということは、香也が絵を描く、ということであり、楓も孫子も香也のこうした活動を邪魔するつもりはないらしく、中に入って静かに見ていることはあっても、必要以上に香也に言葉をかけたりすることはなかった。
「絵を描いている時の香也には不干渉」という不文律でもできているような具合だった。
 その夜は楓は風呂に入りに行き、孫子は自分の勉強にいそしんでいるようで、香也は一人でプレハブに向かう。楓も孫子も、香也が絵を描く時、いつも見にくる、というわけでもないので、香也が一人でプレハブに向かうことは、さして珍しいことでもなかった。
 電灯のスイッチを入れ、灯油ストーブに燃料を入れて火をつけてから、中が暖まる間に「今日はなにを描こうか」と少し考える。
 ここ数日、羽生譲のパソコンが事実上使用不要だったこともあり、堺雅史に頼まれたゲームの作業のほうが滞っている。香也の仕事は、シナリオに描かれたキャラクターのビジュアルイメージを固定することで、その仕事は、「ただ絵を描いて渡せば、それでおしまい」という性質のものではない。何度もイメージのやりとりを繰り返し、何度もだめ押しを貰って修正を繰り返し、ようやく一体のデザインを固定する……という気の遠くなる作業の繰り返しで、ネットに接続できる末端が自由に使えない状況では、ただでさえ煩雑な作業がさらに迂遠に感じるようになる。
 そのため、ここ数日は、ゲームのほうの作業を中断して、自分の絵を描いていたのだが……。
『ぼちぼち……再開、かな……』
 そう思った香也は、キャンバスに向かうのでなく、スケッチブックを取り出して開き、鉛筆でラフな線を描いてみる。
 そういえば、人体を描くのもひさしぶり、だから……。
『……練習に……』
 あの三人を、描いてみようか……と、思う。
 先ほど、三人に「水着姿を描け」といわれたこともあって、試しに、描いてみる。
 あまり細部まで書き込まなかったが、瞬く間に、何体かの人間らしい形が、紙の上に現れる。どうせラフなスケッチだから、と、香也はどんどん描き飛ばす。ごく簡単なスケッチだったが、それでも、体型と水着の型とで、「どれが誰」、と、指摘できる程度の細部は持っていた。
 香也は、茅ほどで完璧な記憶力は持たなかったが、わずか数時間前にみた像の、視覚的な再現くらいなら、わけもなくできた。つまり、目の前にモデルがいない、ということ自体は、あまり障害にはならない。
 スケッチブックのページを何枚か埋めていくと、不意に耳元で、「ほぇー」という間の抜けた声が聞こえてきた。
 驚いて顔を上げると、後ろから身を乗り出し、香也に顔をくっつけんばかりにして香也の手元を覗き込んでいたパジャマ姿の少女と、目があった。
「……おにいちゃん、本当に絵描きさん、なんだ……」
 三人組の中で眼鏡をかけた子……たしか、ノリとかいう少女は、香也と目が合うと、あわてて姿勢を正した。
「こめんね。邪魔するつもりじゃあ、なかったんだけど……羽生さんの部屋でこういうのみつけて……。こういうの、素人の人が作った雑誌なんでしょ?
 それで、おにいさんもこういうの描くのかなぁ、って……」
 ノリが手にしていたのは、まさしく香也が作画のほとんどを行った同人誌だったわけだが……。
「……んー……」
 と、香也は唸った。
 絵にもいろいろあって、その中でも同人誌の絵は、極めて特異なポジションにある、ということを、この子にどのように説明するか……真剣に、考えはじめている。
「……そういうの、興味、あるの?」
 とりあえず、香也は、ノリが持ってきた薄っぺらい冊子を指さして、聞いてみる。
 ノリたちはかなり特異な環境で育っている……と、荒野に聞いたばかりだった。

 この子たちが「絵」というものにたいして、どれほど知識を持っているのか、また、ノリが興味を持ったのは、その同人誌のどのへんの部分にたいしてなのか……それがはっきりしないことには、とんちんかんなやりとりをすることになる。
「絵」にだけ興味あるのか、それとも、ストーリーの方に興味を持ったのか……。
 後者であるとすれば、香也がよけいな口出しをする前に、「羽生さんに聞いた方が……」とそっちに振るつもりだった。香也にしてみても、そういうことに興味を持つ、というのはよくわかるし……だけど、そっちの方面のことは、同性同士のほうが何かと忌憚なく意見を交換できるだろう。
「こういうの……って、いうか……絵を、自分の絵を、売っている人たちがいるってことに、前から、興味あって……」
 ノリは、いつもよりおずおずとした様子で、そう答える。
『つまり……絵、のほうなのかな……』
「それいったら……順也さん……ぼくのお父さん、真理さんの旦那さん……職業的な画家、なんだけど……」
 香也がそういうと、ノリは、
「……ええー!」
 と大声を上げた。
 どうやら、初耳だったらしい。
「……んー……」
 香也は少し考えた。
「……順也さんの絵は、東京の美術品専門の倉庫に保管してあるけど……コピーとか写真なら、真理さんが持っているから、興味があるなら、明日にでも見せてもらうといい……」
 ノリは、こくこくと頷いた。
「……ノリちゃん……だったっけ?
 絵、描いたことある? ちょっと、描いてみる?」
 そういって香也が持っていた鉛筆を差し出してみると、ノリは、「なにを言われているのか、わからない」という、きょとんとした顔をした。
「……紙とか道具とか、ここにはいっぱいあるから。
 興味があるのなら……失敗してもいいから、少し、好きに描いてみない?」
 そういってスケッチブックの新しいページを開いて差し出すと、しばらくキョトンとしていたノリは、「い……いいの?」と上目使いに香也に確認し、香也が頷くと、やおら鉛筆とスケッチブックをとって、慣れない手つきで鉛筆を走らせはじめた。

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彼女はくノ一! 第五話 (29)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(29)

 平日の昼間、ということで、バスの中はがらがらだった。
 楓と柏あんな、孫子と三人組は後部座席のほうに陣取り、ショッピングセンターに到着するまでの短い時間、おしゃべりをして過ごすことになる。
「ボクたち、バスに乗るの、初めてなんだよねー……島には、バスなかったから」
 ガクが物珍しそうにバスの中を見回しながら、不用心にそんなことを言いはじめる。
「……なかったんだ、バス……」
 柏あんなは、どう反応していいのかわからない、といった表情で答える。
「うん! 前にいた島には、バスも車も道路もなかった!
 車に乗ったの、本土に来てから!」
 あんなの不審そうな表情にも気づかず、ガクが元気よく続ける。
 他の二人はといえば、ノリは澄ましておとなしくシートに座っているし、テンは車内よりも外の光景に興味があるのか、子供がよくやるように、完全に体を窓の方に向けて、シートに膝立になって外を見ている。
「この子たち、田舎の出ですので……」
 孫子が落ち着き払った様子でフォローを入れる。
「……そ、そうなの?」
 孫子のような落ち着き払った年上の人にそう断言されると、あんなとしてもそれ以上追求しづらい。基本的にあんなは、フランクなノリは好きだが、少しかしこまったような場の空気が、あまり好きではない。
 故に、どことなく近寄りがたい雰囲気を持つ孫子にも、苦手意識を持っていた。
「……三人は、姉妹なの?」
 それで、柏あんなは話題を逸らした。
「ううん!」
 ガクは、元気よく否定した。
「遺伝子走査でも重複する箇所はほとんどないし、近親者とはいえない、だから姓も別々につけたって、じっちゃんがいってた!」
 イデンシがどうのこうのと、耳慣れない、難しい単語がいきなりガクの口から出たので、あんなは面食らった表情をした。
「この子たち、わたしと同じ、身よりのない子たちで……」
 楓がそう耳打ちすると、あんなは「ああ!」と合点がいった表情をし、
「……そっかぁ……だから、加納先輩のおじいさん経由で、あの家に預けられたのか……」
 柏あんなは、三人についてそのように理解した。
 当たらずとも遠からず、といったところだろう。
 あんなが突如出現した三人についてある程度納得すると、話題はこれから買いにいく水着のほうに移った。
 柏あんなは、「バカンス用じゃあなくて、普段着るものなら……」と前置きした上で、「あまり派手な柄とか色のものではないほうがいい」と忠告してくれた。
 土曜日の午前中、練習にいく予定である市立の温水プールは、運動不足の中高年がウォーキングしていたり小学校低学年の児童が水遊びをしていたり、といった客層だったので、そんな中でトロピカルカラーの派手な水着を着ていったら、目立って仕方がない。
 楓も茅も、もとよりそんな派手なものは選ぶ気はなかったので、なんら問題はなかった。三人については……どんなに派手な水着を選んだ所で「かわいい!」の一言ですまされてしまう年恰好だったので、別の意味で問題なかった。
 それから何故か「体型」の話題に移った。
 これから成長するのであろう三人は問題外としても、楓を除いた茅、孫子、あんなは揃ってスレンダーなタイプだったので、問われるままに楓がブラのサイズについて口を滑らせると、途端に周囲の空気と楓を除いた六人の目つきが変わった。
『……あわわ……』
 と内心で泡を食いながら、楓が慌てて、
「……み、みなさん、まだまだ成長期ですし、これから大きくなりますよ……」
 と、フォローするつもりでいうと、
「成長期……まだ大きくなる気ですか……楓ちゃん」
 と、柏あんな。
「それ以上育つと……垂れるわよ……」
 と、孫子。
「……楓……敵……」
 はっきり聞こえないようにぶつくさ呟きはじめる茅。
 三人とも、目が据わっていた。
「……大丈夫」
 いきなり背中から手を回され、服の上から乳房を鷲掴みされた楓は、「うひゃあ!」、と悲鳴をあげた。
「全然、垂れてない。むしろ、張りがあってブラを上に持ち上げている……」
 テンだった。
 いくら同性だからって……。
「……い、いきなりなにするですか……」
 慌てたり焦ったりすると接続詞や助詞を省略しがちになる楓だった。
「感じます?」
 いきなり、ノリが楓に顔を近づけてきた。
「本当に、そういうので感じます?
 羽生さんの本では、その他に耳の裏とかが敏感だったり弱点だったりするんですけど……」
「……ど、どういう本読んでいますか!」
 みると、ガクは少し離れたところで「おぱーい、おぱーい」と叫んでいた。
「……はい。公共の乗り物の中で騒がない……」
 見かねたのか、三人組と楓の頭をこんこんこんこんと一人づつ拳で軽く叩いて、注意を即した。
 ふと我に返った楓が前のほうを見ると、バックミラー越しにこっちのほをうろんなものを見る目つきでみていた初老の運転手と、目があった。

 急に恥ずかしさを覚えた楓は、後はショッピングセンターに着くまでシートの上に縮こまって過ごした。

 売場につくと、三人組ははじめて実際にみる大量のカラフルな布地に最初、圧倒され、次の興味を覚えて実際に触って肌触りを確かめてみたり、あきらかにサイズ的に大きすぎる商品を自分たちの体の前にあててみたりして騒ぎはじめた。
 孫子が三人を注意しながら、子供向けの商品が置いてあるほうに押しやってくれたので、楓と茅は柏あんなの助言を聞きながらゆくりと選ぶことができた。
 二人ともこそさらプールサイドで注目を浴びる必要もなかったので、結局、比較的地味な印象の水着を選ぶことになったが……それでも、最終的に決定するまでは、何度か試着し直さなければならなかった。
 一時間ほどかかって楓と茅が買い物を終えても、三人はまだ騒いでいた。なんだか、単に遊んでいるのか、それとも本当に買う気があるのか、疑わしくなってくる。
 孫子がほとんど三人につきっきりで、声が大きくなりすぎる度に注意していたので、店員さんは孫子に任せた感じでほとんど三人のほうには近寄らなかった。ああみえて孫子は、それなりに面倒見がいいらしい。
 茅と楓の用事が終わったのを確認すると、孫子は「もうすぐ夕食の時間だけど……」と三人に耳打ちする。
 すると、それまで騒いでいた三人は、ばたばたと買うべき水着を本気で選びはじめ、三十分もしないで精算まで済ませた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(70)

第五章 「友と敵」(70)

 バスが「ショッピングセンター前」の停留所で止まり、一同はぞろぞろとバスを降りた。
『……彼女たちの前で、下着のサイズの話しをしてはいけない……』
 という教訓を、楓に残して。

「茅ちゃん……デザインはどうする? バカンス用じゃなくて練習用の水着なら、地味な色のワンピースでいいと思うけど……」
「あんなに任せるの。茅、そういうのよく分からないの……」
 柏あんなと茅はそんなことを話し合いながら、あんなの先導で水着を売っているテナントのほうに向かっている。
 楓がその二人の後ろについて歩いていると、背後で、
「……そういえば、あなたたち、ここに来るのは初めてなのでは……」
「ううん。真理さんがねー。昨日、車で連れてきてくれたー……」
「食べ物の材料もいっぱい買ったけど、その他に、お洋服もいっぱい買って貰ったー……」
 才賀孫子と三人組が、そんなことを話している。
『……そういえば……』
 楓は、思い出す。
 茅と楓も、同じように真理に連れられて、ここに当座の着替えを買いに来たのだった。その時と同じように、真理は張り切って三人の服を見立てたのだろう。なにしろ、支払いは他人持ちなのだ。
『……あの時も……』
 真理が張り切って買い物をしすぎたおかげで、購入総額がすごいことになってしまい、一日かけて見て回る予定が、昼過ぎには切り上げて家に帰ることになったのだった……。
 荒野から、「これ、自由に使ってくれてかまわないですから」といわれてカードを渡されていたのだが、調子に乗ってあれこれと買っているうちに、根っからの庶民である真理のほうが、かえってビビリが入ってしまったようだった。
 おかげで、茅と楓は、冬物の衣服には困らないことになったのだが……。
『……たしか、その日の午後……』
 才賀孫子が、現れたのだった……。
 そんな出来事があったのが、ついこの間、のような気がしたが……実際には、あれから、まだ、半年もたっていないのだ……。
『……その割には……』
 自分は、今の環境に馴染みすぎている……と、楓は、思う。
 ここに来てから、大事なものが沢山出来た。あるいは、出来すぎたのかも、知れない……。
 同じ年頃の女の子たちと一緒に、こうした賑やかな場所に買い物に来る、などいうことは……つい半年前の、養成所に居た頃の楓なら、とても考えられないことだった。
『……あの頃の、わたしは……』
 替えのきく、消耗品でしかなかった……と、楓は思う。
 確かに養成所内での成績は良かったほうだが……だからといって、特別扱いされるほど、でもなかった。むしろ、「成績がいい割には」いつまでも現場にだしてもらえない、不良品の消耗品、だった……と、思う。
 今の楓に、荒野は、「自分の意志で動け」といい、孫子は「卑屈なところが嫌いだ」といった。今日、茅は、「荒野のために、強くなるの」と、楓の目をみながら、まっすぐ言い放った。楓に、「どうして、強くなったの? なろうとしたの?」と、尋ねながら……。
 彼らの言葉に、まともに言い返せない今の楓に……このように、肩を並べて歩く資格があるのだろうか……と、楓は、ふと思ってしまう。
『変わったのは、周囲の環境で……』
 わたし自身は、養成所にいた頃と、まったく変わっていない……消耗品のままなのではないか、と……。
「……楓ちゃん、どうしたの?」
 柏あんなが、誰とも話さず、黙り込んで遅れがちに歩いている楓に気づいて、振り返った。
「あ……な、なんでも、ありません……」
 楓は歩みを進めて、先頭をゆくあんなと茅のほうに合流した。

「……ええっと……オーソドックスなところで、ワンピース……。
 その他には、タンキニとかセパレート、になるのかな……ここいらへんのも、スポーティなデザインのあるし……。
 後は、ボディスーツ型というのもあるけど、これなんかはかえって体のラインがはっきり出たり……」
 売り場につくと、柏あんなは、説明しながら商品を一つ一つ指さしたり手にとってみたりして、解説する。柄とかから入っていかないあたりが、なんとなく専門的に感じた。
 茅と楓は、そんなあんなの解説を神妙に聞いていたが、三人組は例によって、
「わぁー! これ、ほとんど紐!」とか、「色がきつすぎて目がチカチカかするー」とか騒いでいる。孫子は、そんな三人に向かって、「あんまり大声で騒がない! お店の人に追い出されますわよ!」といなしている。
 柏あんなの解説が一通り終わると、時間をかけて気に入ったデザインのものを何着か選んで、試着させて貰う。
 三人組も、一通り騒いだ後は、それなりに神妙な顔をして水着を選んでいた。
 何度か試着したり、他の人たちに見て貰って意見を聞いたりしているうちに徐々に候補が絞られてきて、売り場で選び始めてから一時間ほどかけて、茅と楓はようやく一着に決定した。
 茅が紺色の地に白のラインが縦に入ったセパレート・タイプ、楓は濃い臙脂色のワンピース、と、どちらも比較的地味目のデザインに落ち着いた。セパレート、といっても、茅が選んだ水着は布地の面積が大きく、肌の露出度的には、楓が選んだワンピースのほうが、背中が大きく開いていて大胆だったりする。
 三人組は、初めてのことで目移りするのか、茅たちが精算を済ませた後もさらに三十分以上あれこれ物色していた。選んでいる、というよりも、あれこれの水着を着替えて見せ合うことを楽しんでいるような風情で、孫子が「もう、時間的に遅いし、これ以上かかるとお夕飯が遅れるから……」と指摘すると、途端にバタバタと決めはじめる。どうやら、色気よりも食い気、水着選びよりも、それが長引いて夕食が遅れることの方が、三人には耐えられないことらしい。
 ガクがポップな柄の入ったタンキニ、ノリがマリンカラーのホルター、テンが黄色いビキニだった。
 三人ともまだまだ体の凹凸が足りないので、どんな水着を選んでもあまり色っぽい感じにはならず、それをいいことに、各自の好みで勝手に選んだように見えた。
 孫子と柏あんなは、何着か水着を所持していることもあって、なにも買わなかった。

 どこかで一服してから帰ろうかとも思ったが、外はすでに日が落ちており、三人組が早く帰りたがったので、真っ直ぐにバス停に向かった。
 十分ほどバスに揺られてから、集合したバス停で降りて、つき合ってくれた柏あんなにみんなで礼をいって別れ、狩野家の前で茅と別れた。
 家に入った後、三人組は自分たちの部屋に駆け込み、買ったばかりの水着に着替えて、そのままの姿で夕食を摂った。三人とも、どうやら、寒さには耐性があるらしい。
 夕食の後、三人は「自分たちの水着姿を描け」と香也に強要し、困らせていた。

 水着を買いにいったことが、よほど、嬉しかったらしい。

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彼女はくノ一! 第五話 (28)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(28)

 その日、楓は茅と一緒に下校した。
 帰る方向が一緒なため、と考えると不自然ではないのだが、今までは茅が時間いっぱいまで図書室に籠もっていて、極力、茅と一緒に下校するようにしていた楓も、自分の部活がない時は、美術室の香也のところで時間を潰し、香也、樋口明日樹、茅、楓の四人で帰ることがほほとんどだったため、実は二人きりで、こんなに早い時間に帰る、ということは珍しい。

「……でも、どうしていきなり泳ぎなんて……」
 そんな帰り道で、楓は茅に尋ねる。
「体を鍛えたいの」
 茅の返答は簡潔だった。
「ええっと……ですから、どうして……」
「強くなるの」
 茅は「なんでそんな分かりきったことを聞くのか」とでもいいたげな、憮然とした顔をしていた……ように、思えた。
 茅の表情は、読みにくい。
 荒野などは、茅の機嫌の善し悪しが分かるようだが……その他の人間にしてみれば、茅の表情は限りなくポーカーフェイスに近い。
「荒野のお荷物にならないために、強くなるの」
 その言葉を聞いた楓は「え?」という表情になる。
「……荒野のために、強くなるの」
 茅が確認するようにいう。そして、楓の方に顔を向け、
「楓は……どうして、強くなったの? なろうとしたの?」
 と、逆に聞き返した。
「わ、わたしは……」
 そんなことを改めて正面から聞かれた経験のない楓は、狼狽える。
「その……そうするのが、当たり前だったから……」
 いい成績を収めないと、施設から追い出されたから……。
「茅は、違うの」
 茅は再び視線を前方に向けて、言葉を継ぐ。
「茅は……荒野の足を、引っ張りたくないの。
 そのために、強くなるの……」

 マンションの前で一度茅と別れ、楓は狩野家に入った。玄関に靴があったことで、あの三人が在宅していることを知る。真理と羽生は、留守にしているようだった。自分の部屋に入り外出の支度をしていると、
「楓おねーちゃん……」
 と声をかけながら、ガクが襖を小さく開けた。
「……どこか、行くの?」
「うん、ちょっと」
 着替え終わった楓は鏡を覗き込んで髪型をチェックしながら答える。
「茅様とかお友達とかと、お買い物に……」
「……ついていって、いい?」
「他の二人は?」
 茅は、はじめてガクのほうに顔を向けた。
「羽生さんの部屋が片付いたから……二人とも、そっちに籠もってる。
 テンはネット、ノリはマンガに夢中……」
 ……それで、今日は三人とも家にいたのか……と、楓は納得した。
 昨日、無事作業を終え、マンドゴドラのマスターに動画データを焼いたDVDを引き渡した。そして、部屋の中に縦横に走っていたLANケーブルも外し、荒野と茅に借りたノートパソコンも返したので、今日から、羽生の部屋はかなりすっきりと片付いてしまった。
「……ガクはそういうのに興味ないの?」
「……あんまり……」
 ガクはそういって、ゆっくりと首を横に振った。
 こころなしか、しょぼーんとしているように思えた。
『……いつも三人一緒に行動していると思ったけど……』
 それなりに、嗜好は異なるらしい。
 他の二人は、それぞれ夢中になるものがあったが、ガクにはなかった。そのため、所在なくて暇を持てあましていたらしい……。
「……じゃあ、おねーちゃんたちと一緒にお買い物に行こうか?
 茅様と一緒に、水着買いに行くんだけど……」
「……水着!」
 ガクが顔を上げ、表情を明るくした。
「水着! 着たことないんだよね! 島では、裸で泳いだから!」
 三人と「じっしゃん」とかいう人しかいない環境なら……特に必要なかったのだろう。
「ね! ノリとテンも誘ってきて、いい!」
「もう聞こえているよ、ガク……」
「……家の中で、そんなに大声出せば……」
 いつの間にか、ガクの後ろに、ノリとテンが来ていた。
「……いい……と、思うけど……」
 楓は、少し考えこんだ。
「あなた達も買うのなら……お金は、大丈夫なの?」
「うん。真理さんが、無駄遣いしなければ、これを使ってもいいって……」
 ノリが、クレジットカードを楓に見せた。
「水着って、別に無駄遣いじゃないよね?」
 そんなことを話しているうちに、
「……ただいま帰りました……」
 という才賀孫子の声が、玄関のほうから聞こえてきた。

「……そう、あなたたちも行くの……」
 孫子は制服のまま、楓の部屋の前で腕を組んだ。
「いいわ。茅には、わたくしから連絡しておきます。楓は、加納にお願い……」
 そういって、孫子は自分の携帯を取り出した。
「はい。わかりました……」
 と、孫子の言葉に従おうとして、楓は、はっとあることに気づいた。
「……あの……そうすると、ひょっとして才賀さんも……」
「いくわよ、もちろん。
 あなたがたのような問題児の集団をそのまま行かせるわけにはいかないでしょ。……」
「……問題児の集団……ですか……」
 自分もその中に含まれてている……という自覚は、どうもないらしい。
 この場に加納荒野がいたら「お前がそれいうか、お前が」と言ったのではないか……と、楓は思った。

 孫子が支度するのを待って、全員でぞろぞろと集合場所のバス停に向かう。
 バス停には、すでに茅と柏あんなが揃って楓たちを待っていた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(69)

第五章 「友と敵」(69)

 昼休みが終わりかけた頃、茅からメールが来た。
今日、帰ってから水着を買いにいくの

 というたった一行の内容だった。
 すぐに予鈴が鳴ったし、茅に聞き返すよりは……と、荒野は楓に手早くメールを送信した。楓は茅と同じクラスであり、なにかしら事情を知っている可能性が高かった。
茅の水着について知っていることがあれば。
オクレ。

「オクレ」とは「送信完了、受信準備よし」程度の意味合いを持つ用語である。自衛隊などで無線使用時に用いられる。
 送信しおえると同時に、二宮浩司先生こと二宮荒神が教室に入ってきたので、通信は一時中断となった。
 教師としての二宮浩司先生は、遅刻早退欠勤などはないのはもちろんのこと、早めで教室に入って授業終了時間よりかなり前に「今日はこれまで」と授業を終えてしまう。それでいて、内容のほうも重要な要点のみを簡潔に説明するので、生徒間での人気は高かった。

 そんなわけで、荒野が楓の返信メールを開いたのは、二宮浩司先生の授業がいつも通り、規定の時間より五分ほど早く終り、「他のクラスはまだ授業中だから、チャイムが鳴るまで騒がないように」と言い残して二宮先生が教室を出てからだった。
 そこには数行にわたって、「茅が柏あんなに泳ぎ方を教えてくれと依頼し、それなら……という感じで、茅と柏あんな、それに楓の三人で、放課後、ショッピングセンターに水着を買いにいく約束をした」、といった内容が書かれていた。
『楓のやつ……こういうの要約して書くの、下手だな……』
 楓のメールの文面は重複が多く、お世辞にも「うまい文章」とは言い難かった。
『プログラムとかは、プロ並のものを仕上げるのに……』
 よりによって日本語の文章が下手、というアンバランスが、なんとなく楓らしかった。
 そう思って、荒野が携帯の画面をみてうっすらと笑っていると、
「……どうしましたの?」
 と誰かが尋ねてきた。荒野はそちらのほうを振り返りもせず、
「ああ。妹のヤツが友達と水着を買いに行くことになったみたいで……」
 と説明しかけ、はっとして振り返る。

 腕組みをした才賀孫子が、思案顔で立っていた。

「……そう。妹さんが水着を……」
 そういって孫子は、自分の携帯を取り出してすばやく文字入力をしはじめ、すぐに送信ボタンを押した。
「ご安心下さいな、お兄様。
 妹さんたちは、このわたくしが責任を持って引率してさしあげますから……」
 才賀孫子はそういって、荒野にあでやかな笑みを浮かべた……ので、荒野は、すっげぇ不安になった。
「お手柔らかに、お願いします……」
 すっげぇ不安には駆られたものの、今日は部活がある日だったので、荒野としてはそう返答するのが精一杯だった。
 荒野が部活を休むと、野球部を初めとする数十名に及ぶ欠食児童めいた運動部員たちの相手を料理研の女生徒たちだけですることになる。それに、たかだか女の子同士で買い物に行くのに、荒野が同行するというのも、なんだか過保護すぎるように思えた。
 加えて、買う物がよりによって「水着」である。
 女性数名の集団の中に荒野一人が混ざった状態で女物の水着売り場に行く……という想像は、荒野をげんなりとさせた。
『……そうそう……たかだか、買い物にいくだけだし……』
 荒野は自分自身にそういい聞かせながら、楓に向けて「買い物はいいが、くれぐれも注意するように」と念を押す文面のメールを打った。

 六時限目はあっという間に過ぎ去り、荒野は自前の調理道具をエプロンで包んだものを手に、調理実習室に向かった。
 運動部員たちが差し入れてくれる食材に、正月に食べ残した餅が多くなってきたので、今日はそれを片付けることにする。
 硬くなったり黴が生えかかったりしたものも多かったから、まず部員たちで手分けして、包丁で丁寧に黴をこそげ落とす。
「……え?」
 そうした下拵えが終わった頃、楓から電話が来た。
「……あの三人も、一緒に行く、だって!」
 調理実習室の隅にいって電話を取り、思わず大声を出した荒野を、料理研の部員たちがこわごわと注目しはじめた。
「あ……いや、なんでもない。こっちの話しだから……」
 荒野は部員たちにそういって愛想笑いし、携帯を掌で包むようにして口を密着し、小声でいった。
「それで……って。
 ああ。まあ、行きたいってのを無理に止める権利はないけどよ……。
 いいか。楓。こうなったら頼みの綱は、お前だ。
 お前が、あの三人を、しっかり監督するんだぞ……」
 荒野はそういって電話を切った。
 不安材料は山ほどあったが……なるようにしか、ならないだろう。
「……小豆もあったから、善哉なんかもいいかもしれないな……」
 荒野は部員たちにそう提案してみた。
 餅、という食材の調理法は、極めてバラエティーに富んでいる……。
『まあ……楓と才賀が揃っていれば、あの三人は押さえ込めるだろう……』

 荒野が硬くなった餅の調理法について頭を悩ませている頃、楓はショッピングセンターに向かうバスの中で、居心地の悪い思いをしていた。
 ショッピング・センターまでは少々距離があり、三人や楓、孫子は自転車を持たなかったので、結局はバス停の前で柏あんなと待ち合わせることになる。狩野家の庭先にも、一応二台ほど、自転車が放置されていた。が、真理や羽生は普段の移動手段として車やスーパーカブを使用しており、香也も自前の足で動ける範囲でしか移動しないので、ここ数年ほとんど使用された形跡がみられず、錆の浮いたそれらは、かなり徹底した整備なしに乗るのは、危険であるように思えた。
 また、仮にそれを使用したとしても、まだ三人分の足が、足りなかった。
 それで、ショッピング・センターまでバスを使うことになったのだが……。
『……な、なんで……』
 楓は、孫子、あんな、それに三人組のジト目攻勢にあっていた。
『なんで……ブラのサイズを正直に答えただけで……』
 こんな居心地の悪い目に遭わなくてはならないのか……。

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彼女はくノ一! 第五話 (27)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(27)

 昨日の騒ぎが知れ渡っているのか、通学中、香也たちのグループに声をかけてくる人が、いつもより格段に増えた。
 一行の中では比較的目立たない風貌の香也、栗田精一、樋口兄弟なども、いつの間にか名前が知られているようで、樋口大樹は誰にともなく「もう、ここいらで悪いことできないな」とか、ぼそりと呟いた。別に「ここいらで悪いこと」などするつもりはないが、その所感には香也も思わず頷きたくなる。
 他の、なにかと目立つ面子に引きずられて、という理由が大きいが、香也自身の顔や名前もいつの間にか学校内外に浸透しており、もはや、「目立たない一学生」とはいえなくなっている。基本的に他人の顔は憶えても、名前を覚えることが苦手な香也は、クラスメイト全員の空で似顔絵くらいはその場で描けるが、名前は記憶していない。しかし今では、香也の顔と名前のほうは、しっかり知られている。校内でも「狩野香也」の顔と名前を知らない人間のほうが少数派だろう。
 そのように考えると、香也自身はさして変わっていない(少なくとも、変わったという自覚はない)が、年を越したあたりから、香也を取り巻く環境は、激変している……といっても、過言ではなかった。
 それ以前は、そもそも通学中に、見知らぬ生徒や近所の人々に挨拶される、などという経験を、香也はしたことがない。
『……それもこれも……』
 彼らが、来てからのことだ……と、香也は思う。
 香也自身に関しては、その変化が良い変化かどうかと言えば……一般的な基準で考えれば、いい変化……に、なるのだろう。
 それまで、樋口明日樹を除けば学校内に親しい友人がおらず、また、香也自身、そうした存在を特に必要としなかった、という状態は……ごく普通に考えれば、やはりいびつな在り方だった……と、香也自身でさえ、思う。
 たとえ、香也自身の中に「それでも別にかまわない」と思ってしまう部分があったとしても……そうした個人的な心情と、世間並みの基準は、また別の問題だ……ということも、香也は理解している。
 そうした状況を、有無を言わさずに変革してしまったのが、「彼らの出現」によるものなわけだが……。
「香也に与えた影響」のほうはともかく、「彼ら自身にとっては」、今の状況というのは……。
『どうなんだろう?
 少し前までは、荒野さん、目立つことをひどく警戒していた気がするけど……』
 今では、「どうせ、手に余る」と言わんばかりに、開き直っているようにも、見えた。
 最低限、荒野自身と茅、この二人は、あまり人前にでないようにしている……つもり、らしい、けど……。
 彼ら、荒野と茅の二人は、ただでさえ、普通に往来を歩いているだけでも、十分に目立つ風貌の持ち主だった。
 それが……今では、学校どころか、この近所では、顔を知らない者がいない、というほどの有名人になっている。特に商店街の近辺では、顔だけではなく、名前のほうも知れ渡っていたし、名前を知らない人々にしても「ほら、あのケーキ屋のCMにでてた」といえば、即座に「ああ。あの」と頷くような存在になっていた。
 そうした現状というのは、荒野にとって……。
『本意か不本意か……といったら、不本意な筈、なんだけど……』
 それ以前に、次々に襲いかかってくる予想外の出来事に対処する方で、手一杯なのだろう……と、いう気もする……。

 香也にとって、友人知人が増えることは、たぶん、いいことだ。
 しかし、荒野にとって、自分のことを知る人間が増えるのが、いいことなのかどうか……。
『まあ……ぼくなんかが考えても、どうしようもないことなんだけど……』
 結局、香也はそんな結論をつける。
 とはいっても、以前の香也なら、そもそも、「他人の身を案じる」ことができるほど、他人に興味を持つことさえなかったわけで……。
 香也自身はさほど自覚していなかったが、香也も、確実に内面に変化を起こしていた。

「……泳ぎを習いたい?」
 昼休み、加納茅が柏あんなに頼み事をする場に香也が居合わせたのは、単なる偶然だ。昼休み、食事が済んでからも、香也は大抵自分の席で大人しくしている。柏あんなの席は、香也の席からいくらも離れていなかった。
 故に、とことこ歩いてきた茅が、柏あんなに話しかけた内容も、特に聞き耳を立てていなくとも自然に耳に入ってくる。
「茅、泳いだことないの」
 加納茅はそういって、柏あんなに頷いた。
「それに、水泳は全身運動だって、この間読んだ本に書いてあったの」
「あー……まったくの、初心者さんかぁ……」
 柏あんなは、なにやら考え込む。柏あんなは水泳部に所属していた。
「どうせシーズンオフで、部活は毎日あるって訳じゃないし……。
 教えるのはいいけど……部長……飯島先輩のほうが、教えるの、うまいよ……」
「舞花より……」
 ずい、と、茅は柏あんなのほうに身を乗り出した。
「……あんなのほうが、茅の体型に近いの」
 柏あんなは、身を乗り出した茅のほうをまじまじとみつめた。
 特に、胸のあたり。
「……同士よ」
 しばらく間を置いて、柏あんなは、右手を差し出す。
 茅は、柏あんなの右手をしっかりと握りかえした。
「……茅ちゃん、水着持ってる?
 持ってなかったら、今日か明日、買いに行こう……」
「……あ、あの……茅様……」
 しばらく茅の後ろで成り行きを見守っていた楓が、慌てて割ってはいる。
「放課後、学校から離れるのなら、わたしも一緒に……」
「……楓ちゃんも、一緒に水着買いに行く?」
 柏あんなは、にこにこ笑いながら楓のほうを振り向く。柏あんなは、笑顔のまま、楓の全身に視線を走らせた。
 特に、胸のあたり。
「楓ちゃん……水着、似合いそうだもんね……」
 目が、笑っていなかった。

 今週の土曜日は、狩野家で三人組の歓迎バーベキュー・パーティーが予定されており、柏あんなも堺雅史とともに呼ばれている。
 日曜日は、その三人と一緒に茅が健康診断を受ける日だった。
 だから、練習の第一日目は土曜日の午前中、市立の温水プールにいって運動をしてお腹を空かせた後、バーベキューでタンパク質を補給する、ということに決まった。
 茅も楓も、水着を持っていなかったが、学校へまとまった現金を持っていなかったので、一度帰って着替えてから、再度集合してショッピングセンターに行こう、ということになった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(68)

第五章 「友と敵」(68)

 その翌朝も、茅は早起きをした。
 茅が起き出した気配に荒野も身を起こし、トレーニング・ウェアに着替えて、室内でのストレッチからつき合う。いつもと違うのは、外に出てからだった。
 茅は、初っぱなからダッシュをはじめ、河原に着いてからは、土手上の遊歩道をマイペースで走るのではなく、河川敷に降りて、そこで五十メートルほどの距離を、全力疾走で往復し始めた。もちろん、全力疾走で走り続ける、ということは出来ないから、折り返し折り返しで短い休憩をいれ、息を整える。
『……持久力よりも、瞬発力重視、か……』
 荒野は、茅自身が考えてきたメニューをこなしはじめたのを間近にみても、特に止めようとはしなかった。茅も、一族の基準にはとうてい及ばないものの……一般人の、同年輩の女子の水準を越えるくらいの基礎体力は、すでに獲得している。
 自分の状態を把握している茅が、自分でメニューなり目標を作たのであれば、あとは無理をしないように見守るだけだった。茅はしなやかで強靱なの足腰を獲得しはじめおり、よほど無茶な使い方をしなければ、故障することもない筈だ。

 茅が休み休みの短距離走を延々と続けているうちに、例の三人組が河川敷に降りてきた。
「おはよー!」とか「今日は早いね!」とか挨拶しながら、荒野の回りに集まってくる。
 そして、茅の様子に気づいて、荒野に向かってなにか答いたげな顔を向けた。
「茅は、今日から、自分で考えたメニューをこなしている……」
 荒野は、ごく簡単にそう説明した。
「……あんなんやっても、ボクらには追いつけないのに……」
 ぼそり、と、テンが身も蓋もないことをいった。
「ボクら、小さい頃から三人で競い合って、ここまで来たのに……」
 茅には、競争相手がいなかったし、闘争心も育たなかった……と、いいたいらしい。
 テンの言葉が聞こえたのか、茅が、いきなり足を止めた。
 顔を伏せて、自分の膝に手を乗せて、肩で息をしている。
 その肩が、震えていた。
『……あ……』
 荒野は、背筋に冷たいものが流れるような感覚を、味わった。
『……茅……怒ってる? ……の、か?』
「……今は、そうだけど……」
 茅が、汗まみれの顔を上げてテンの顔を見据えた。
「……これからは、違うの。すぐに、あなた達を、追い抜いてみせる……」
 おいおい……と、荒野は思った。
 今回ばかりは、茅の言葉に、苦笑いしたい気持ちになった。
 持久力、瞬発力……それに、膨大な体術体系……こうした身体的、包括的な技術を短期間に身につけることは、たしかに難しい。というより、常識で考えれば、まず、不可能だ。
 三人は……あえて教えられていない部分もあるようだが……基本的な技能は、だいたい身につけているようだった。
『……茅……こういうところも、あったんだな……』
 テンが指摘するように、それまで、茅に「イーブンの競争相手」と認識する相手が身の回りにいなかった……というのは、事実だが……考えてみれば、この三人と茅は、別々の育てられ方をしたとはいえ、ほぼ「同じ様な存在」でもあるわけで……。
『……茅……三人に、敵愾心を燃やしている?』
 それに……加えて。
『……茅の、本当の年齢……という要素も、ある……』
 普段、おとなしいからあまり気にならないが……茅の精神年齢は、三人と大して変わらないのかもしれない……。
 いや、茅が加納の者と同じ様な成長の仕方をした、と、仮定すると……茅の実年齢は、三人よりいくつか下、ということさえ、考えられた。
 それらの要素を考え合わせると……。
『……ムキになるな、というほうが、無理か……』
 ……実際にいろいろと試してみて、無理なものは無理だ……と、納得できれば、茅もおとなしくなるだろう……。
 荒野としては、そう思うよりほか、なかった。

「……茅ちゃんが頑張るのは勝手だけど……」
 ノリが、眼鏡を親指でずりあげる。昨日届いた眼鏡をかけることに、まだ慣れていないらしい。
「……その間、ボクたちも先にいっちゃうから……ここには、じっちゃんよりも強い人たちがゴロゴロいるし……」
「……楓おねーちゃん、強かったなぁ……」
 ガクが、畏敬を込めた声でそういう。昨日、文字通り叩きのめされたことで、かえって楓に対する敬意が沸いてくるようになったらしい。
「……楓おねーちゃんに、稽古つけて貰おうかな……」
 ……確かに、二宮に近い体質を持つガクの戦闘スタイルは、楓のスタイルに親和性がある。
 そもそも荒神が楓を二番弟子に選んだのだって……素質があると見抜いた、というのは当然にしても、資質的に二宮のやり方に適している、と見たからだろう……。
「じゃあ、ボクは……ガクほど力持ちじゃあないんで、孫子おねーちゃん……」
 ノリが、片手をあげる。
「……遠くから一撃必殺、って、かっこいいし」
 冷静で、遠目が効き、観察力があり、野呂の者並の機動力を持ったノリが、ロングレンジの近代火銃で武装したら……。
『……竜騎兵、ならぬ、竜歩兵、だな……それも、独自の判断で動ける……』
 荒野はそんな便利な駒が身内にいたら、さぞかし便利だろうな……と、思ってしまう。
「ボクはぁ……うーんとねぇ……まだ、わからない……」
 最初にみんなをたきつけたテンは、にぱー、と無邪気に笑って、即答を避けた。
「……荒神のおじさんとか、かのうこうやとかは確かに強いけど、誰でも真似できるってわけじゃあ、なさそうだし……。
 それに、玉木おねーちゃんがいってた、トクツークンっていう人のことも気になるし……別に、学ぶ対象は、一族の人だけに限定しなくてもいいよね?」
 荒野にしてみれば……このテンが、三人の中では一番得体が知れない。
 身体能力的に見れば、たしかに一族の水準を抜いているとはいえ、三人の中では最低だろう。力ではガクが、速度ではノリが明らかに勝っている。
 しかし、三人が何かしらの問題にぶつかったとき、イニシアチブをとるのは、どうもこのテンらしい。
 より正確にいうなら……。
『……ノリが見てきたことを報告して、テンが決断を下す……』
 というところか。
 勝手に突出していくガクが斥候役、それを観察して自分の意見と合わせて報告するの参謀役がノリ、決断を下し、最後に動くのがテン……という性格による役割分担が、三人の間で自然でき上がっているらしい……と、荒野は観察していた。

「……今でも……」
 ようやく息を整えた茅が、顔をあげる。
 今までなにも言わなかった茅が、いきなり話し始めたことで、その場にいた全員が茅に注視した。
「……この程度の……」
 次の瞬間、茅はガクの背後にいた。
「……ことは……」
 いきなり背後から聞こえた声にガクが振り返った時には、茅はもうノリの目前にいる。
 茅の動きを見切れずに動揺した三人が、視線をさまよわせる。
「……できるの……」
 最後に茅は、テンの真っ正面に立って、ぺちぺちと平手でテンの頬を軽く叩く。
 忽然と目の前に現れた茅に、テンが目を見張る。
「……でも、この歩き方、とても疲れるからやりたくないの……」
 最後に、茅は荒野の前に出現して、「むぅ」と可愛いらしくむくれて見せた。

 三人にも、荒野にも……移動が追跡できなかった。
 見事な「気配絶ち」だった。

「……お前らが軽視するのは勝手だがな……」
 荒野は動揺を押し隠して、あっけにとられている三人にいった。
「……茅、とんでもなく見切りのいい目を持っているし、一度見た技は、自分で、すぐその場で真似できる……」
 荒野自身も、今まで忘れていたが……。
『……茅……年末、商店街で……はじめてみる気配絶ち、あっけなく見破って……すぐに真似してみせたんだよな……』
「茅にはうっかり手の内晒さない方がいいぞ。
 茅に見せれば、すぐに技を盗まれるから……」
 ……やっぱり……潜在的に、将来一番脅威となりうるのは、茅なのではないのか……。
 荒野は、そう思いはじめている。

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彼女はくノ一! 第五話 (26)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(26)

 その夜、荒野は狩野家の庭にあるプレハブを訪れた。最近では珍しく、楓と孫子の姿は見あたらず、香也は一人でキャンバスに向かっている。
『……胃薬でも飲んで寝込んでるかな?』
 とか、思わないでもなかったが、荒野はなにも言わずに香也の背中を眺めていた。
 下手に香也に声をかけて、香也の集中力を乱したくなかった。
「……あの子たち……」
 しばらくして、香也の方から声をかけてきた。
 しかし、荒野に背中を向けたままで、手も止めていない。
「……君たちの、関係者?」
「……たぶん」
 荒野は香也に答える。
 そういえば、香也にはまだ、あの三人のことを説明していない。
 もっとも、荒野自身、あの三人について、きちんと説明できるほどには、よく知っているというわけでもないのだが……。
「……茅と似たような境遇で育てられている。
 証拠はないけど、おそらく、茅の同類……」
 今の時点で荒野にわかっているのは、結局その程度のことでしかない。
 荒野たちがいう「姫の仮説」とやらも、まだ確実に裏が取れているわけではないのだ。
「……じゃあ、君たちの仲間だ……」
「仲間……なのかね……」
 今後、状況の変化によっては、敵対する可能性もある……と、荒野は思っている。
 これだけなれ合ってしまうと、たしかにやりにくい面もあるのだが……。
「でも……素直な、いい子たちじゃないか……」
「そうなんだけど……ね」
 大抵のテロリストは大儀を掲げ、自分の破壊行為を善行だと信じて行う。「素直である」ということは、必ずしも美徳であるとは限らない。あの三人の場合は、今の時点でも一般人はおろか、一族の術者の平均を遙かに抜きんでる身体能力を持っているわけで……だからこそ、やっかいな存在だと、思っている。
 強力な能力を秘め、社会経験に乏しく、善悪の判断にイマイチ信頼が置けない子供……。
 敵であるか否か、という以前に……身近においているだけでも、警戒心を持つのに十分な存在だ……と、荒野は認識している。
「あいつらが、早めに社会常識を学習してくれることを願うよ……」
 荒野としては、そういうしかない。
「大丈夫だよ」
 香也は、荒野に向かってそう繰り返した。
「大丈夫だよ」

 話題になっている三人は、血糖値の上がるものを大量に摂取した直後だというのに、帰宅後、真理が作った夕食もいつものように平らげ、風呂に入って仲良く早めに就寝している。
 楓と孫子は、夕食を辞退し、救急箱の中にあった整腸剤を服用してから早々に自分の部屋に引きこもっていた。

 おかげで香也は、その日、帰宅後の時間、久々にゆっくりと自分の絵に取り組むことができた。
 興が乗っていたため、いつもより遅くまでプレハブに籠もり、やはりいつもより遅い時間に就寝したにも関わらず、翌日の目覚めは爽快だった。
 目覚ましが鳴る前に起きあがり、顔を洗い、自分の部屋に帰って制服に着替える。
 そうしてからようやく目覚ましが鳴ったので、いくらも鳴らないうちにそれを止める。
 どたどたと部屋に入ってきた楓と孫子が、布団を片づけて着替え終わっている香也をみて少し驚いたような顔をした。
 たしかに、いつもなら布団の中でぐずぐずしている時間だ。
 三人で居間に行くと、ちょうど外出していた三人組が帰宅してきた所で、トレーニングウェアのまま、賑やかに食卓についていた。かなり朝早くから外に走りにっでているらしいが、三人とも汗ひとつかいていない。
 三人は日中、香也たちが学校にいている間に、真理について買い物や家事につき合っているらしく、三人が来てからいくらもたっていないのに、三人の衣服や持ち物は増えてきている。炊事や洗濯などを手伝って貰っているかわり、と、真理が衣服や細々としたものを買い与えているらしい。
 朝食を終えると、いつものように三人で家を出る。
 マンション前あたりで、荒野や茅、飯島舞花、栗田精一、樋口兄弟と合流して、学校へと向かう。
「……昨日、マンドゴドラで大食い大会をやったんだって?」
 飯島舞花が、誰にともなくそう質問をする。
「友達にきいたんだけど……」
「大食い大会をやったんじゃない。いつの間にか、大食い大会になってたんだ」
 荒野がちらりと楓や孫子のほうに視線を投げながら、答えた。
「……誰かさんたちが、張り合ってくれたおかげでね」
「ははぁ。張り合いましたか……」
「……なんだ? お前もでたかったのか?
 羽生さんあたりにお願いすれば、またなんか企画してくれるかも知れないぞ……」
 荒野は、「おれは関係したくないけど」と小声で付け加える。
「いやいやいや……」
 舞花は掌を顔の前で左右に仰いで見せた。
「……わたし、甘いもの、あんま好きじゃないんで、そういうの出たくないし……。
 ただ、タマちゃんのメイド服姿が拝みたかったなぁ、って……」
「……一応、撮影しているの……」
 茅が、自分の携帯の液晶画面を舞花に提示した。
「……おお。人気者じゃないか、タマちゃん!
 笑顔がひきつっているし、もみくちゃになっているし……」
「玉木、魚屋の娘だからか、客の扱いはそれなりに巧かったけど……。
 あそこ、あいつん家のご近所だからなぁ……玉木の知り合い、多そうだったぞ……」
「なんでマンドゴドラばっかりこんな客寄せするんだ、って怒っている人いたの……」
「……まあ、今度あの商店街でなにかやることになったら……できるだけあの三人に、やらせよう……あいつら、そういうの抵抗ないみたいだし……客受け、よかったし……」
 荒野は昨日、ノリノリでカメラに向かってピースサインなどしていた三人の様子を思い出しながら、そういう。
「……でも、玉木と羽生さんの結びつきは、より一層強まったような……」

「……やっほぉー!」
 その玉木は、いつも以上の元気さで合流してきた。
 昨日の事は、あまりダメージになっていないらしい。
「……おーい……結局、ケーキ代はどうした……」
 荒野が尋ねると、
「……返済に無理のない範囲内で三十六回払いにして貰って、足りない分は羽生さんにお借りしたのだ!」
 とピースサインをしてくれた。
「……他のお店からも、あの手のイベントの申し込みが殺到して、もう大変!」
「……おれと茅は二度と関わらないからな……あの三人に直接頼め……」
「あの三人と孫子ちゃんはもう承諾済みなのさ!
 次回のイベントはゴスロリ四人囃子だぁ!」
 ……なんなんだ、それは。
 荒野は「突発的美少女イベントで商店街の活性化を!」とかわけのわからないことを通学路で喚きはじめた玉木を、畏怖の感情を込めて見つめた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(67)

第五章 「友と敵」(67)

 荒野と茅、三人、香也、楓……と、来た順番に一列に座っていたので、孫子は楓の隣りの席に鞄を置き、コートとかける。そして、カウンターでコーヒーとモンブランを注文した。
 楓と孫子の分の料金は、荒野と茅に準じて「店の奢りで食べ放題」ということになっている。マンドゴドラのCM映像に出演したギャラ代わり、だった。

 香也の左右で、香也以外の人々は黙々と食べ続けていた。
 荒野と茅が甘いものを好むのは、以前から知っている。三人は、その荒野と茅以上に好きなようで、お代わりをしに席を立つ都度に目をキラキラさせて新しいケーキを物色して、一回一回慎重に選んでいる。
 香也の反対側の隣りに座る楓も、「今日は疲れているので」といいながら、盛大にケーキを平らげはじめた。楓の隣りに座った孫子も、淡々とした態度で、しかしその実すごいペースでフォークを振るう。
 香也が小さなレモン味のチーズケーキを一つ、なんとかコーヒーで流し込む間に、左右に座った楓と孫子は、三個ずつ完食してさらにおかわりを求めていた。
 端の方に座った荒野と茅は、満足したのかケーキをお代わりするのはやめて、悠然と飲み物をすすっている。
 香也と、荒野と茅の間に座っている三人組は、楓と孫子以上のハイペースでお代わりを続けていた。
 甘いものがあまり好きではない香也にしてみれば、見ているだけで胃酸が胸をこみ上げてくるような光景だった。
 それに、店の外にも、人垣が出来始めている。
『……早めに、退散しよう……』
 そう思った香也は、残っていたコーヒーを一気に飲み、荒野にだけ「先に帰る」とだけ耳打ちして、店を後にした。
 まだ姿が見えない玉木が迷惑をかけた謝罪の印として奢ってくれる、という話しだったが、自分の分の飲み物とケーキ代はちゃんと精算した。
『……玉木さん……大変だな……』
 三人の食べっぷりを見ながら、香也はそんなことを思う。
 三人がケーキを食べるペースは、いまだ衰えなかった。

「……え? あ。玉木か? ようやく解放されたって? それは良かったな……。
 でも、なるべく早くこっちに来た方がいいぞ。え? ああ。なんか人が集まって来ちゃってな。少し騒がしいか。
 ああ。みんな揃っている。いや、一人、香也君だけ先に帰っていったな。ちゃんと自分の分の料金は精算していった。感謝とけよ……。
 え? ああ。早くこっち来た方がいいってのはな、何故かこの場のノリで大食い大会がはじまっちゃってな。いや、おれと茅は入ってないけど、それ以外の五人は、まーよく食べるわ……。あんなちっこい体のどこに入っていくんだか……。
 玉木、ちゃんとカードもってこいよ。分割じゃないと払いきれないぞ、これ……」

 玉木がマンドゴドラに到着した時、店の周辺は大変なにぎわいになっていた。
 店の前ではマスターとバイトの店員が拡声器を持ち出して呼び込みをしながらワゴンセールをしている。
 ウィンドウの前に陣取った奴らは、ひっきりなしにフラッシュを焚いてカメラとかビデオとかを構えている。
 三人組は、それに応えて無邪気に笑ったりポーズを取ったりしながら、ケーキを平らげている。
 楓と孫子は、並んで座りながら、お互いに時折横目で進行状況を確認しながら、自分のペースを調整し……淡々と食べ続けている。
 楓は制服姿、孫子は何故かゴスロリ姿だった。
 何故か……ではない。
 よく見ると、ショーウィンドウ上部に据え付けられた液晶ディスプレイの映像が、お正月モードからバレンタインモードに切り替わっていた。玉木自身や放送部員が撮影を手伝い、少しは編集も手伝ったアレだ。孫子の恰好は、その映像に合わせた……という口実で、孫子が着ているのだろう。
 それら、ケーキを食べ続ける人々の後ろで、茅がホワイトボードに向かっている。何故ホワイトボードなんてものがここにある? ホワイトボードには、楓、孫、が、て、の、という五人の頭文字が上部に書かれており、その下に「正」の字がずらずらずらずらずらと幾つも並んでいる。
「……これって……」
 玉木の顔が、蒼白になった。
 分割払いにしてもらうにせよ……とても、学生の小遣い銭程度では、払いきれない金額になっているような気がする……。
「こいつらが平らげた、ケーキの数だ。
 安心しろ、楓と才賀の分は店の奢りだから、お前が払うのは、この三人の分だけだ……」
 荒野はそういって、ホワイトボードの「そのあたり」を指さす。
 その部分の「正」の字が、一番多い。他の部分にある「正」の字の、軽く二倍以上はある……
 その数をざっと数えた玉木は、さらに震えあがった。
「……才賀さん!」
 玉木は孫子の肩に縋り付いた。
「お願いだから、お金貸して!」
「……いいですけど……」
 孫子は、にっこりと微笑んだ。
「……十日で一割の利子でもよろしければ……」
「なんやてー! トイチって、あんたはナニワのヤミキンでっかぁ!」
「これでも、商売人の家系に生まれましたもので……」
「……カッコいいほうのこーや君!」
「今回は諦めろ。お前の自業自得だ……」
 荒野にしてみれば、玉木には、是非「懲りて」貰いたいところなわけで……。
「あああ。神も仏もないものか……あ。パツキンのべっぴんさんめっけ……。
 おねーさん、無利子でお金……」
「いいけど……返済は体でしてくださる?
 ヴィ、実はバイセクシャルなんだけどぉ……うふふふ」
「わはぁあ! そうくるかぁ!
 あ。羽生さんだー! 師匠ー! 弟子の窮状を……」
「……いいけど……」
 羽生譲はため息をついた。
「これ着て、今日一日売り子さんね……」
 そういって、荒野から預かったメイド服を差し出す。
『……結局、カッコいいほうのこーや君がいってた通りになってやんの……』

 こうして、メイド服に着替えた玉木珠美は、その日、マンドゴドラの在庫が売り切れるまで、ワゴンセールの売り子さんをやるハメになった。
 ご近所とお客さんには、なかなか好評で、「一緒に写真撮らせてください」という依頼が殺到した。
「……たまには自分が注目されるのもいいだろ……」
 とは、荒野の談である。

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彼女はくノ一! 第五話 (25)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(25)

 あの三人組が保健室を出ていき、楓はベッドで寝息を立てている。
 保健室に残ったシルヴィは、三島に向かって自分の懸念を手短に話した。
「……なにかと思えば……」
 大体のところを理解した三島は、つまらなさそうに呟いた。
「あのな。
 お前さんは知らないかもしれないが、荒野は、今までの一族のやり方に満足しているわけではないぞ……。
 ここ最近はそうでもないがな、こっちに来たばかりの頃は、なにかというと『おれら、ヨゴレですから』、だ。
 ひどく暗い目をしてなぁ……」
 荒野があいつらや茅を使って、今までの一族のあり方を根底から否定しようとするんでは……という、シルヴィが示した可能性は、三島にとってはなんら奇異なものではない。
「……もっとありそうなのは……だ。
 荒野が、あいつら引き連れて、一族からすっぽり足抜けして、お前らのいう一般人として暮らしはじめる、ってことだな……」
 事実、荒野が「将来、足抜けするかも知れない」みたいな事をいっているのを、三島は何度か聞いている。
 それに……ここでの生活が長引くにつれ、荒野の表情は、根底から明るいものになっていっている……ように、三島には、見えた。
「いずれにしろ、まだ先の話しだし……荒野の選択に、回りの大人が今から気を揉んだり干渉したりするのも、大人げないと思うがね……」
 荒野がこの学校を卒業するまで、と考えても……まだ、一年以上ある。
 たしかに、荒野が最終的な選択を求められるのは、まだ先だろう……。
「それに、だ……」
 三島はシルヴィが一番聞かれたくないことを、ズバリと尋ねてきた。
「……お前さん自身は、一体どうしたいんだ?
 今後、荒野が足抜けするなり、一族全員に宣戦布告するなりしたら……お前さん、やつを止めるのか? 止められるのか? それともやつらの側に立って共闘でもするのか? ん?」
 シルヴィは、答えられなかった。

 放課後の開始を告げるチャイムが鳴っても、楓は目覚めなかった。
 廊下や校庭のほうからざわめきが聞こえはじめる。
「……楓ちゃん……大丈夫ですか?」
 しばらくして、遠慮がちなノックの後、二人分の鞄を持った狩野香也が入ってきた。
 香也が楓のベッドの近くに立つと、気配を感じた楓が薄目を開け、そっちの方を見える。再び目を閉じて、掛け布団の中に潜り込もうとする動きが、止まる。
 一拍の間。
 がばり、と、掛け布団を跳ね上げ、楓がベッドの上に中腰になって起きあがる。
 香也が「……大丈夫?」と尋ねると、楓はこくこくと頷いた。

 二人が、肩を並べて保健室を出ていくのを、シルヴィと三島は黙って見守った。
 戸が閉まり、二人が完全に保健室から離れたのを確認して、
「……なあ。ああいうのは、あの年頃しかできないだろう?
 荒野も、あの三人のチビどもも、まだまだそんな年頃なんだよ……ガキなんだよ……」
「……そう……ね」
 シルヴィは背を反らせて、腰掛けていた安物の丸椅子を軋ませる。
「ああいうの見ていると……なんか、真面目に悩むの、馬鹿らしくなっちゃう……」
「時にお前さん、甘いものはいける口か?
 わたしゃ、駄目だから行かないがな、今日これから、商店街のケーキ屋で……」

 シルヴィがマンドゴドラに着いた時、店内はかなり盛り上がっていた。
 というか……アルコール抜きで、どうしてここまで盛り上がれるのか?
 店内も盛り上がっているようだが、店の前に人だかりができていた。
 人混みをかき分けるようにしてシルヴィが店内に入っていくと、シルヴィを見つけた荒野が手招きする。
「……いや、最初は、楓と才賀が、例によって張り合いはじめてな……」
 二人が並んでケーキを食べるうちに、ケーキの大食い競争になっていった。
 二人が来る前から盛大にケーキを平らげていた三人組も、二人を見習って食べるペースをあげる。
 そうこうするうちに、店の前で、足を止める人が出始める。
 マンドゴドラの喫茶コーナーは、ウィンドウに面したカウンターで、外からは丸見えだった。そこで、五人の美少女が血相を変えてケーキの大食い合戦を行っているわけで……。
「……そのうち、羽生さんができあがったばかりのコレ届けに来てな……」
 そういって荒野は、ショーウインドウの上部に設置されている液晶ディスプレイを指さす。正確には、そこに映し出される映像を。
 楓や孫子、それに荒野や茅が、盛装というか仮装をして戯れている映像がリピートされているらしい。数十秒ごとに「ケーキはマンドゴドラ」という文字が大書きされたボード、店の簡略地図、それにHTTPアドレスなどが挟まる。
「……え。本日は当店マンドゴドラインターネット通販開始記念セールといたしまして、店内全品二割引セールを行っております……」
 拡声器でそんなことをいっているのは、この店のオーナーパティシエらしい。
 店の前に出したワゴンに梱包済みの商品を山積みにして、とちらでもバイトらしいティーンエイジャーの少女が忙しくお客の応対を行っている。
「……あれは?」
 シルヴィは、どこから持ち出したのか、ホワイトボードに向かって淡々と「正」の字を書き続けている茅を指さす。
「……茅は、あまりいっぱい食べられないから、カウント係だと……」
 よくみると、ホワイトボードの上部に、楓、才、が、て、の……という頭文字が書いてある。また、「正」の字も、誰かが完食する度に一画づつ書き加えているようで……と、いうことは、「正」の字が一つある、ということは、五個のケーキを完食した、ということらしい……。
 シルヴィは、「正」の字の数をざっと数えて、一瞬、目眩を感じる。
「……おーい……孫子ちゃーん……言われたもの、持ってきたぞう……」
 羽生譲が、人混みをかき分けて店内に入ってくる。手に、なにやら箱状の荷物を抱えていた。
 羽生譲からその箱を受け取った才賀孫子は、一旦店の奥に引っ込んで、三分もしないうちに戻ってきた。
 制服姿から、例のトチ狂った……ディスプレイの中と同じ、黒を基調としたミニスカのドレスに小さなコウモリの羽を模したものを背中にくくりつけた恰好に変わっていた。
 店のウィンドウ前に陣取っていた連中が、一斉に「おおっ!」とどよめきをあげて、携帯やらデジカメやらのレンズを向ける。フラッシュが焚かれると、楓はまぶしそうにそっちの方向に腕をかざし、三人は両手でVサインを作ったりポーズを取ったりする。
「……こういう騒ぎになっているんだけど……ヴィはどうする?」
「……どうする、って……コウ、決まっているじゃない」
 シルヴィは荒野に向かって微笑んだ。
「大食いなんて馬鹿な真似はしないけど……おいしくケーキをいただくわ。
 こんな騒ぎ、端から見ているだけより……」
 中に入って、一緒になって騒いだ方が……面白いに……決まっている。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(66)

第五章 「友と敵」(66)

「……片づいたか……」
 楓から「事態収拾」の電話連絡を受け取った荒野は、安堵のため息をついた。
 折り返し、マンションで待機している茅に電話を入れ、「これからそっちに向かう」と伝え、電話を切ると同時に、気配を絶ったまま、電線の上をダッシュし始める。口実を用意して学校をさぼっている関係上、誰かに自分の姿を見られるのは避けたかったし、荒野は、元々目立つ風貌であることに加え、地元ではもはや有名人であるといってもいい。
 用心に越したことはないのであった。

 マンションに着くと、茅は外出の支度を調えて待っていたので、そのまま外にでてマンドゴドラに向かう。
 偽の連絡で学校を早退してからそれなりに時間がたち、なんだかんだでもう放課後の時間になっていた。今なら私服で公然と外出してもあまり怪しまれないだろう、と、荒野は判断した。
 先ほどの楓の連絡によれば、玉木はまだしばらく教師たちに拘束されているようだが、一足先についてマンドゴドラでゆっくりするのも悪いことではない……と、荒野は思う。
 今日は、気苦労が多すぎた……と。
『……自分自身で動けない状態、というのも……』
 これはこれで、疲れる……と、思う。
 荒野は、「他人に命令を下して、後は成果が出るのを待つだけ」という立場にはまだ慣れておらず、「いっそのこと、自分自身で動いて片づけてしまったほうが……」よっぽど、楽だ……と、そう、考える。
 マンドゴドラに向かう道すがら、荒野は楓とのやりとりで知り得た情報をぽつぽつと口頭で伝える。とはいっても、楓も手短に事実関係のみを伝えただけなので、荒野とて詳しい経緯を知っている訳ではない。
 三人が、何故か荒野たちと入れ違いに学校内に侵入したこと。
 楓とシルヴィがそれを探知し、思いの外短時間で三人の身柄を順番に拘束したこと。
 一端、保健室に集められた三人には、荒野が電話越しに口止めをしておいたこと。
 今の時点で荒野が話せるのは、その程度の事でしかなかった。後の詳細なことについては、あの三人や楓と合流した後にでも、直接聞くしかない。
『……実際にやらせてみると……』
 荒野は、そう思った。
『楓も……体を動かすことにかけては、予想外に優秀だよなぁ……』
 と。
 登場の仕方が仕方だったので、当初の荒野の楓への評価は、辛くなりがちであった。しかし、時間がたつにつれて、その辛くなりがちな評価へも、かなり上向きに修正がかかりつつある。
『……あの三人も……』
 楓や茅のように……一刻も早くこの町に……というよりは、一般人の社会に……馴染んで貰いたいものだ、と、これはかなり本気で思う。
『……でも、まあ……』
 同時に、あまり心配する必要もないか、とも思う。
 茅や楓についても、当初、かなり心配していたが……二人とも、予想したよりも短時間で、実社会に馴染みはじめている。
 あの三人も……すぐに今の環境に、慣れてしまうだろう。
 いつも三人で固まってわいわいやっている分、単独で動き回られるよりは心配がない。誰かがろくでもないことをしでかしそうになっても、誰かがストッパーになる。物怖じしない分、慣れるのも早そうだ……と、無理にでもそう考えることにした。

 やはり集合場所のマンドゴドラについたのは、荒野たちが最初だった。
 カウンターで顔見知りのバイト店員に、とりあえず紅茶とコーヒー、それにショートケーキと苺のミルフィーユを一つづつ、注文する。ショーウィンドウに面したカウンターに茅と並んで座って、ショートケーキとミルフィーユを交互に食べる。ショーウィンドウ越しに見える、道行く人々に指さされるのも、いつの間にか慣れてしまった。なにしろ、頭上の液晶ディスプレイには、未だに荒野と茅が着物姿でケーキをパクついている。
『……もう、一月も終わりかぁ……』
 荒野は、ケーキをコーヒーで流し込みながら、そんなことを考える。
 いつもバタバタしているので長く感じるが、学校が始まってから、まだ一月も立っていない……。
 でも、そんないつもの馬鹿騒ぎとその後始末を、徐々に楽しみはじめている自分にも、気づいていた。
『……誰も害することがない分……』
 こういう馬鹿騒ぎで疲れるのも、まあ、いいか……と、そう思ってしまう自分がいる。
 荒野たちがカウンターに座ってから、入り口の自動ドアが開閉する頻度が、格段に多くなってきた。なんだかんだいって、自分たちの存在に集客効果があることは、確かなようだ。
 以前、眼があってサインをねだられた事があったので、この店のカウンターに座っている時は、なるべくケーキを買いに来たお客さんのほうは見ないようにしている。

 荒野とか茅が静かにマンドゴドラのケーキを堪能して十五分ほどして、賑やかに笑いざわめきながら例の三人組が入ってくる。
「お……それかぁ、昨日、玉木と選んだのって……」
 三人のうち、ノリは、縁なしの丸眼鏡をかけていた。
「……玉木のおねーちゃんは、もっと凝ったデザインのを薦めてくれたけど……」
 そういってノリは、はにかみを含んだ笑顔を見せた。
『……この子が、一番冷静……』
 出会ったばかりの頃は、同じ年格好ということもあって、三人の性格がなかなか掴めなかった。いろいろあった今では、
『ガクが、やや短絡的な性格。テンは、一見ぼんやりしているようだけど、思慮深い……』
 そんな風に、性格の違いを把握しつつある。
「……玉木はまだ来てないけど、先になんか注文してこいよ。
 一昨日の食べ方は酷かったぞ。これから、見苦しくないケーキの食べ方を教えてやる……」
 ようは、「手掴みではなく、フォークを使え」というだけの単純なことなのだが、三人はケーキさえ口にできれば不満はないのか、素直に荒野が教えた通りの食べ方をした。

「お。来た来た……」
 三人がケーキをパクつき始めた頃に、マスターが店の奥から出てきた。
「……今日来るって聞いていたから、たっぷり用意してあるからな……」
 マスターは、例によっていかつい顔中に笑顔を貼り付けている。
『こいつら……一昨日も、売り上げに貢献しているからなぁ……』
 そう思いながら荒野は、マスターに、
「カードは使えるようになりました?」
 と確認した。
 マスターは、レジに貼ってあった信販会社のマークが入ったシールを指さし、
「ばっちり。昨日、手続きが完了した」
 と、親指と人差し指で丸を形作った。
『……なら、玉木でもなんとか払えそうだな……』
 荒野は、そう思う。
 ……何十回払いになるのかは、知らないが。

 三人が、仲良く三度目のおかわりをする頃、制服姿のまま、鞄を抱えた楓と香也が、肩を並べて店の中に入ってくる。
 少し遅れて、やはり制服姿の孫子が、来店した。

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彼女はくノ一! 第五話 (24)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(24)

 三人の身柄を全て確保し追えた時、屋上にいた三人を追い込みはじめてから、十分もたっていなかった。
 シルヴィは楓の腕の中で気を失っているガクの体を受け取る。
 短時間とはいえ、あれだけ激しく動いた直後なのだ。楓の体に、疲労が残っていない筈はなかった。
 二人して、気配を絶って三島たちが居る保健室に戻る。
 シルヴィがガクを抱えているのを確認すると、ノリとテンが眼を見開いた。
 楓は、やはり疲れているのか、しゃべるのは専らシルヴィに任せている。
 シルヴィが先ほどの顛末を説明すると、ノリとテンは意味ありげに顔を見合わせて、こわごわと三島に治療を受けている楓の背中に視線を向けた。
『……この子たち……』
 自分たちより強力な者がいない狭い世界で育ってきた三人だけに……程度の差こそあれ、怖いもの知らず、なのだろう……と、シルヴィは予測する。そして、ここにきて、どうやら自分たちでは太刀打ちできそうもない存在……天敵になりうる存在に、出会った……。
 と、すれば……。
『……どんどん、厄介な存在になるわね……』
 シルヴィは、荒野が酷い勘違いをしている、と思っている。
 茅、ノリ、テン、ガク……こうした、先天的に突出した能力を持つ子供たちを、隔離した環境下に置いて育ててきたのは……彼らを守るため……ではなく、反対に、彼らが暴走した時、周囲に被害を与えることなく「排除」するため……なのではないだろうか……。
 彼らが一族全体にとって危険である理由は、大きく分けて二つ。
 まず、彼ら自身の個体として能力が、他の一族に比較しても強大なものになりうる可能性がある、ということ。
 もう一つは、そうした存在である彼らが、自らの能力を誇示しはじめたら……今まで秘匿していた一族の存在自体も……彼らに引きずられ、衆目に曝されることになる、ということ……。
 最初の可能性をあらかじめ潰しておくために、わざと、他の一族なら受けて当然の知識や教育を、彼らには受けさせなかったのではないのか……。
 茅は、体術全般に加え、一族特有の基本的な技が伝えられていない。
 別に育てられた三人は、一通り基本的な技は習得しているようだが、その技を効果的に生かすためのメソッドや思想を欠いている。
 どちらにせよ、彼らの教育方針に意図的な欠落があるのは確かであり……「何故、そのような欠落があるのか?」と考えた時……シルヴィには、たった一つの解答しか、思い浮かばない……。
『……強力すぎる存在に、しないため……』
 いざ、その存在を抹消しようという時……手こずることのないように、あえてウィーク・ポイントを設定した……。
 そう考えるのは……穿ちすぎだろうか?
『……でも……』
 彼らは……少なくともノリとテンは……今、「恐れ」を知った。
「恐れ」を知った、ということは……今まで以上に用事深くなった、ということっで……逆にいうと、どんなに突出した能力を持とうとも、警戒心を知らなければ、たいした脅威ではない、ともいえる……。
 小さな変化、ではあるが……ノリとテンは、「警戒すべき存在」を認知したことにより……一段と、容易ならざる存在へと変貌した、とも、いえる。
『……コウ……わかっている?』
 彼らは、まだ、子供だ……。
 子供は……こうして社会に出て、様々な人々や出来事に触れたはじめたことで……どんどん成長していく……。
 そして、十分に成長した彼らを、他の一族の者たちは、どのような眼で見始めるのか……。
『……あなた……長老から……。
 とんでもない時限爆弾を……預けられているのよ……』
 現在のところ、荒野は、まだ、自分たちの正体が町の人々に知られることしか、警戒していない……。
 しかし、それ以外に……茅やあの子たちと行動を共にすることで、自分の所属する一族全体と対立する可能性があることに……荒野は、気づいているのだろうか?
 そこまで考えたところで、シルヴィは、その構図に見覚えがあることに、気づいた。
『……これって……』
 突出した能力を持つマイノリティと、凡庸な能力しか持たないマジョリティ……という構図は、まさに……「一族」と「一般人」の関係ではないか……。
『違い、は……』
「一族」が自らの存在を「一般人」に対して秘匿しているのに対して……茅やこの子たちは……それこそ、生まれた時から「一族」の監視下にある、ということだ。
 かくいうシルヴィ自身、そうした監視網を構成する一員であるわけで……。
『……長老は……コウに、一体なにをさせたいのか……』
 考えているうちに、シルヴィは、どんどん訳が分からなくなってくる……。
 今の時点で、彼らを一カ所に集め、社会に順応させることで……一族が得ることができるメリットを……シルヴィは、思いつけなかった……。
 むしろ……あえて、彼らを成長させ、より手がつけられない存在に育てようとしむけている……ようにしか、思えない……。
『なにかを、させたい……のでは、なくて……』
 ……本気で、コウがこの先、どんな選択をするのか……見守っているだけなのではないか……。
 ふ、と……シルヴィは、そんなことを思った。
 そうした、突出した戦力になりうる人材を……荒野が、今後、どのように扱い……どのような関係を結ぶのか……。
 長老だけではなく、一族のうち、かなりの人間が、この土地での荒野たちの動向に、注目している……。

 で、荒野やその周囲の人間たちが実際にこの地でやっていることが……三島のいう「Japanese Lave Comedy!」とかいう他愛ない馬鹿騒ぎであるあたりが、かなりアレなんではあるが……。

 シルヴィがそんなことを考えている間に、三人は保健室から出て行き、楓はベッドに潜り込んで寝息をたてはじめている。
「お前さん、なんかいいたそうなツラしているな……」
 三島は、シルヴィに新しいお茶をいれてくれた。
 シルヴィは、三島に、今まで考えていたことを話し始める。三島は、事情は知っているが、一族内部の者ではない。
 そういう意味では、憶測でしかない内容を語る相手として、ちょうど良い距離に立つ人物だった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(65)

第五章 「友と敵」(65)

「……ラスト・ワン……最後の一人だよーん……」
 テンを抱いたシルヴィが三度目に保健室に入ってきた。出て行った、と思ったら帰ってきた……という感じで、テンにいわせれば、「ノリの時と同じくらい」という短時間での終決だった。
 ガクなら、もっと時間をかせげる……と、当然のように思いこんでいたノリとテンは、顔を見合わせる。
「……あの……ガク、二人がかりで……」
 代表して、ノリが尋ねてみた。
「……それがねー……」
 シルヴィ・姉は、ベッドの上にガクを寝かせると、後ろについてきた楓の体を、自分の前に押し出した。
「……戻った時には、ほとんど終わってた。カエデとガクがとっくみ合いのケンカしてて、ヴィ、手出しする隙、なかったよ……。
 センセ、カエデの傷、お願い……」
 ノリとテンは、毒気の抜かれた表情で、ベッドに横たえられたガクの顔を見る。
 昨日と同じように、幸福そうな顔をして、寝ているようにしか見えなかった……。
「……ガクを、一人で……あんな短い時間で……ノックアウト?」
 ノリが、呆然とした顔をして、ガクを指さしながら、テンに聞き返す。
「……だからいったろ……楓おねーちゃんを怒らさない方がいいって……」
 テンは、コクコクと首を縦に振った。
「……こんなに短時間に、というのは……ボクも、予想外だったけど……」
 移動の時間も考えれば……シルヴィが戻った時、ほとんど終わりかけていた、というのも、決して誇張ではないだろう……。
 ノリとテンは、こわごわ、こちらに背を向けて三島に治療を受けている楓の背中をみる。傷、といっても、何カ所かに浅い切り傷程度しか負っていないようで、三島は、消毒して絆創膏を貼っているだけだ。
 再度、ベッドに横たわるガクをみやる。ガクは、完全に気を失っている。
「……楓……お前は、急に気分が悪くなって、保健室で寝ていることにしといたから……後で口裏あわせとけ。
 っと。
 こっちは、これで、終わり……そっちのチビのほうはいいのか? ん?」
「気を失っているだけ……。
 頭を打っているわけではないし、水でもぶっかければ眼を醒ますわん……」
 シルヴィは、おどけた仕草で肩をすくめた。
「……そうかそうか」
 三島は、足で地面を蹴って、椅子のキャスターをゴロゴロ転がし、ベッドの方に近づいてくる。
「……ん、じゃ、放課後になるまで暇だな。
 その時間で、お前さんにコイツがどうやって気を失ったのか教えてもらうことにするか……」
 三島は、そういってシルヴィを即した。
 それから、ノリとテンのほうに顔を向け、
「……お前らも、興味あるだろ? ん?」
 といった。
 質問の形をした、断定だった。

 シルヴィの詳しい説明を聞いて、ノリとテンは、重ねて愕然とした。
 シルヴィの説明が正確なものなら……ガクは……正面からやり合って……完敗した、ということになる……。
 ノリとテンは、ガクが野生動物並みにタフで強靱な肉体を持っていることを、知っている……。
 丈夫で体力が有り余っているおかげで、島で生活していた時から、物事をあまり深く考えずにとりあえず興味のあるものには手を出してみる、近寄ってみる……という性向が顕著になったくらいで……。
 罠や小細工以外で……正面から、人間が、一対一でガクとやりあって無事でいられるなんて……それどころか、ガクのほうを完膚無きまでに叩きのめしてしまうなんて……。
 シルヴィが説明している間、楓は決まり悪そうな様子でもじもじしていた。その態度から考えても……嘘や誇張では、なさそうだ……と、二人は判断した。
 ノリとテンは、どちらともなく眼を覗きこみ、うんうんと何度か頷きあう。
『……今後、楓おねーちゃんには、出来る限り逆らわないことにしよう……』
 という意志は、たったそれだけの挙動で伝わった。
 いわゆる、以心伝心。

 六時限目が終わる直前にガクをたたき起こし、ノリとテンがガクを支えるようにして、三人は学校を去った。
 玉木への口止めの件は、ノリとテンが血相を変えて「ガクにも徹底させます! いいきませます!」と力説して保証してくれたので、楓はそれを信用することにした。
 ガクを除いた二人が、必要以上に緊張しているように見えたのが気にはなったが……今は、荒野に命じられた口止め工作が無事完了したことのほうが、大事だった。
 楓は三人が保健室を出て行くのと同時に荒野に電話をかけ、思いの外うまくいった、と伝えた。楓がそう伝えると、荒野の声も、電話越しにもありありと分かるほどに、安堵した響きに変化する。
 楓は、荒野のねぎらいの言葉を、素直な気持ちで耳にした。
 そうこうするうちに、放課後になったことを告げるチャイムがなり、しん、と静まりかえっていた校内が、一気に騒がしくなる。
 聞き慣れた、号令、床を椅子の脚がする音、廊下を上履きで歩く時の足音、人の声……。
 念のため、三島の設定した通りに、楓は、しばらく保健室のベッドに横たわり、安静にしていることにした。ついさっき、時間的にはほんの数分……ではあるものの、あの三人を相手に、かなりの運動もしている。実際のところ、体中の細胞が、疲弊しているような感覚も、あった……。
 ベッドの上で、布団にくるまって気持ちよくうとうとしていると、周囲に人の気配を感じた。薄目を開けて様子を伺ってみると、よく知っている顔が眼に入ったので、楓は掛け布団を吹き飛ばすような勢いで上体を跳ね起こした。
「……あ……あっ……あっ……」
 楓の鞄を持った、香也が、枕元に立っていた。
『……み、見られた……寝顔、見られちゃった……』
 そんなことを楓が考えているのをよそに、香也は、「……んー……」といつものように唸っている。香也は、しばらく唸ってから、ようやく、
「……楓ちゃん……大丈夫?」
 と、いった。
 楓は、大きくかぶりを振った。
「楓、せっかくお迎えが来たんだ。一端、一緒に帰ったらどうだ? ん?」
 香也の後ろで、三島百合香が、からかうような口調でそういった。
「今日は、みんなで玉木にケーキ奢らせるんだろ? ん?
 玉木の方は、まだ絞られているから、もう少し遅れると思うぞ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (23)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(23)

 網に捕らわれたテンを残し、ガクとノリは塀の上を別々の方向に走り出す。
 楓は、ノリには目もくれず、ガクの後を追った。
 今朝、香也の布団に忍び込んでいたのはガクであり、一番強く口封じをする必要があるのがガクだ……と、楓は、自分に言い聞かせる。
 決して、嫉妬ではない、と。
 ガクの足は速いといえば早かったが、以前、野呂良太の後を追った経験もある楓にしてみれば、驚愕するほどの速度でもなかった。
『……すぐ、追いつける』
 と思い、実際に、本気でダッシュを開始すると、瞬時にガクの背中にぶつかりそうになった。
『……えっ!』
 勢い余った楓は、ぶつかる寸前に塀の上を強く蹴り、ガクの頭上を追い越して、ガクの目前二十メートルほどの地点に着陸する。
 不意に頭上から楓が降ってくるのを目撃したガクは、眼を見開いて急いで足を止めた。
 おかげで、真っ正面から楓と正面衝突することだけは免れる。
『……なに!』
 一足に頭上を飛び越した楓、それを真っ正面から目撃したガク……二人が、驚いて、顔がくっつきそうになる近距離で向かい合って、棒立ちになる。
 楓は、自分の突進力を甘く見積もりすぎていたし、ガクは、楓の脚力を見くびっていた……というより、自分の身体性能を過信する傾向があった。
 二人が驚いていたのもつかぬ間、武器を使うような間合いでもなく、二人は、正面から向き合ったまま、手足を縦横にふるって相手にダメージを与えようとする。とはいえ、双方とも眼も反射神経も秀でていたので、かわせる攻撃は全てかわす。そのため、実際にヒットするのは、せいぜい数十発に一発程度の割合だ。
 幅の狭い塀の上で、びゅんびゅんと音をたて、二人の四肢が、二人の周囲の大気を切り裂く。
 もし、その時の二人の手足の動きを見きる存在がいたら、洗練された近接戦闘術の応酬に息を呑んだことだろう。

『……なんて……』
 そして、実際にそんな存在であったシルヴィ・姉は、保健室を二往復してテンとノリの身柄を三島百合香に預け、帰ってきたところで、二人の戦闘をみつけ、その場で息を呑んだ。
『……ハイレベルな……』
 ここまで研ぎ澄まされた攻防を見ることは、シルヴィにしても初めてのことだった。
 大人の……これまでシルヴィが見てきた、一族の中でも一流といわれる人材の中でも……素手の格闘で、これほど洗練された動きを行えるものは……数えるほどしかいない。
 シルヴィの見るところ、二人の実力はほぼ伯仲していて……ただ、速度と駆け引きには楓に一日の長があり、ガクは、タフさと力において、楓に勝っているように思えた。
 楓は、緊迫した攻撃の合間に、フェイントなども織り込むだけの余裕があり、また、手数も、攻撃が実際にヒットする割合も、ガクよりはよほど多い。
 しかし、攻撃が当たっても、ガクのほうは、深刻なあまりダメージにはならないらしい。
 楓とは逆に、ガクの攻撃が楓に当たることは希……だが、当たると、楓の体全体が一瞬浮き上がる。
 当たらないまでも、掠めただけでも……楓の体が、揺れる。
 体重と身長は楓のほうがガクよりも大きかったが……そうした外見とはうらはらに……ガクは、打撃力に秀でた、パワーファイターだった。

 一発。また一発。
 それまでガクの攻撃をはじき、かわし続けていた楓が、まず側頭部に、次ぎに顎に、立て続けにガクの掌底を受けた。
 ぐらり、と、楓の上体が揺れる。
『……いった?』
 顎は、やばい。
 脳に衝撃を受け、揺さぶられれば……意識は、遠のく。
 これは、どんなに鍛えてもどうしようもない、人間の構造的な弱点だ。
 ガクも、勝利を確信したのか、それまで小刻みに打ち込んでいた右手を大きく振りかぶる。
『……次の一打で、決めるつもりだ……』
 それまでにない大きなモーションを取ったガクに、楓は体を揺らすばかりで、反応できない……ように、みえた。
 ガクが、動く。
 腕が……というより、ガクの体全体が、前にスライドした。
 テンの体全体のバネを全て、一点に集約した、渾身の一撃……のように、見えた打撃……。
 しかし、悶絶したのは、楓ではなく、ガクのほうだった。

 ガクが体中のバネを使って楓に突進してくる。
 その瞬間、ガクの攻撃により、意識を失いかけていたように見えた楓は、俊敏に動いた。
 状態を大きく倒す。
 手を突き出す。
 楓がやったのは、ただそれだけの挙動だった。
 が……楓の額がガクの頭頂部に、楓の拳がガクのみぞおちに……カウンター状に、入る。
 ガクは、突進するエネルギーを上から潰され、つんのめったところに、楓の拳をみぞおちに受け、がっ、と、肺の中の空気を一気にはき出す。
 勢いがついていた分、上から潰されてもガクの体は前に進み続ける。
 そのガクの体を楓は抱きとめるが……勢いが強すぎ、慣性を殺しきれずに、楓の体ごと、ずるずると前に進み続ける。場所は、足場の悪い塀の上……で、あり……二人はもつれ合って、塀から転げ落ちる……寸前、に……。
 ガクが突進してきたエネルギーを利用し、自分の体を重りにして、ガクの体を振り回し、上空に放り投げた。
 ガクと楓では、体格も違うし、体重差もある。正面からぶつかれば、はじかれるのは、もともとガクのほうだ。
 楓は塀から落ちた。が、足から、着地した。
 この程度の高さは、楓にとってはどうという障害でもない。
 着地してから、上を見上げ、悠然とガクが落下してくるのを待ち……危なげなく、両腕で受け止める。

 楓が受け止めたガクは、白目を剥いて気を失っていた。

『……Oh, My God……』
 その有様を見ていたシルヴィは……眼を、点にしていた。
『……コウ……あんた、一族史上最高の精鋭部隊、作りかけているって……気づいている?』
 テンにしろ、楓にしろ……このレベルの術者がごろごろいるようなったら……自分たちのようなオールドタイプは……早晩、お払い箱だろう……。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(64)

第五章 「友と敵」(64)

 荒野との電話を切るのとほぼ同時に、シルヴィ・姉が網の塊を担いで保健室に入ってきた。
「……なんだ、それは……」
「例の三人の片割れ。とりあえず、ここに置かせてね」
 そういってシルヴィはベッドの上にその塊を置く。
「まだもう二人、残っているから……」
 といって、呆然としている三島百合香を残し、シルヴィは保健室から出ていった。
 ……数十秒後、はっとなにかに気づいたように、三島は机の上からハサミを手に取り、ベッドの周りのカーテンを閉める。
「……誰だかしらないけど、今、ほどいてやるからな……」
 そういいながら、網をハサミで切り始めた。
「……どおもぉ、センセー……」
 網を切り顔の部分が露わになると、中に入っていたテンは、脳天気な表情で三島百合香に挨拶をした。
「……お前ら、なぁ……」
 三島は、呆れながらも携帯で荒野を呼び出す。
「ああ。荒野か。
 一匹目、早速こっちに運ばれてきたぞ。
 こいつらにいいたいことあったら、直接いえ……」
 そういって、網の中から顔だけをだしたテンに、携帯を差し出した。

 テンが自発的に網にかかった後、当然のことながら、二人は別々の方向に逃げ出した。しかし、例のクスリが散布されているおそれのある屋上へは出ることはできなかったので、下に降りるしかない。シルヴィは風向きを考慮して、校庭があるほうとは反対側に二人を追い込んでいた。
 ぶら下がった窓枠から手を放せば、その下はすぐに学校の外周を囲んだ塀になる。
 その塀を、二人は反対方向に逃げ出した。
 楓は、躊躇せずガク一人の後を追う。
 それに気づいたノリが振り返り、楓の気を引こうと投擲武器を用意しはじめると……。
「……はぁーい……」
 足と手の部分に、なにかひも状のモノが絡みついていた。
 見ると、化繊を編んで作ったらしい、細い紐の両端に重りをつけたモノが、手と足に絡みついていた。
『……楓おねーちゃんに気を取られている隙に……』
 別の人間に、狙われていたらしい。
「……ごめんねー。
 ヴィ、アラゴトは苦手だけどぉ、背後からこっそり忍び寄るのは得意なのぉ……」
 金髪青眼の女性が、身動きをかなり制限されたノリの前に姿を現す。
『……うわぁー……ガイジンさんだー……』
 そう思いつつ、ノリは体のバネだけを使って跳び、その女性から距離を取ろうとする。手足の動きを制限されていても、その程度は、できた。
「……だめよー。オイタしちゃぁ……」
 空中に飛んだノリの体に、紐状のモノが巻き付いた。手足に絡んでいるモノとは違い、今度の紐状のモノは意志を持っているかのようにノリの体を締め付ける。
 みると、その一端を、金髪の女性がしっかりと握っていた。
「痛い思い、したくはないでしょ?
 別に取って食おうってわけじゃないしぃー……」
 体の動きをかなり制限されながらも、ノリはなんとか塀と校舎の間の、幅の狭い隙間に着地する。
 金髪の女性は、相変わらず手にした鞭でノリの体を縛めながら、塀の上からノリを見下ろしていた。
「……ただちょっと、コウがあなたたちにお話ししたいこと、あるっていうだけだからぁ……」
『……鞭使い……か……』
 ノリは、観念する。
 幸い、極端な害意はないようだし……体の自由が効かない今の状態で相手をするのは、分が悪すぎる……と、感じた。

「……センセ、二人目、お願い……」
 二人目のノリは、せいぜい、手足を拘束されている程度で、テンほどには厳重に梱包されてはいなかった。テンの時と同じく、シルヴィはノリの体をベッドに放り出すと、すぐに廊下に出て行く。
「……ノリは、あの人に捕まったの?」
 先に確保されたテンは、ようやく網を切り、身体の自由を取り戻したところだった。
「うん。楓おねーちゃんがガクのほうに向かっていったから、テンを援護しようとしたら、その隙に、これ、やられちゃった……」
 そういって、テンに自分の手首に巻き付いた紐を見せる。
「ノリ……油断したな……」
「だ、だってしょうがないじゃないか! 楓おねーちゃんにあんな仲間、いるとは思わなかったし……」
「……でも……ノリ……その人の気配、まったく気づかなかったんでしょ?」
「……うっ……うん……」
 二人は同時にため息をついてうなだれた。
 テンは、指折り数えはじめた。
「……かのうこうや、楓おねーちゃんや孫子おねーちゃん……」
 ノリも、それに続ける。
「……荒神のおじさん、さっきの金髪のおねーちゃん……のらさん……」
 ノリとテンは再度、顔を見合わせてため息をついた。
「……じっちゃんは、島を出たって、ボクたちに適うヤツ、そんなにいないっていってたけど……」
「……ボクらより、強いヤツなんて……ゴロゴロいるじゃん……」
「……で、でも!」
 ぱっと顔を上げて、ノリが明るい声でいった。
「……まだ、ガクがいるよ!
 昨日はガク、早めに眠っちゃったから、実力発揮できなかったけど……今日は最後まで残っている。ガク、ボクらの中では、一番強いんだから!」
「たしかに、ボクらの中では、ガクが一番強いけど……」
 しかし、テンはノリの言葉に同調せず、「……やれやれ」といった感じで、首を左右に振る。
「……ノリたちは……昨日の楓おねーちゃんの様子、見てないからなぁ……」
「……え?」
 ノリの表情が、ひきつった。
「……楓おねーちゃん、って……そんなに……」
 ノリのほうにしてみれば、昨日、直接対決した孫子の抜け目の無さ、のほうが、印象に強いのだが……。
「……強いし、それに、いざとなれば、容赦しない……」
 テンは、キッパリとノリに断言した。
 なにしろ、昨日……楓は、味方である筈の孫子ごと、ノリに大量の六角を投げつけたのだ。
 いくら、テンが挑発した結果、とはいえ……テン自身は、ノリとガクに同じ事ができるのか? ……と、いうと……。
 テンが簡単に昨日の顛末を説明すると、ノリの顔が覿面に青ざめる。
「……そ、そんなの!
 ……適うわけないじゃん!」
「……しかも、ガク……今、楓おねーちゃんとさっきの金髪の人、二人を相手にしているんだ……」
 叫びだしたノリに、テンは冷静に指摘する。
「……おーい……お前ら……」
 湯飲みを二つのせた盆を抱えた三島百合香が、二人に呼びかけた。
「……お前ら、勝手に学校に入ってきた部外者で、今は授業中なんだってこと、忘れるなよ……。
 もう少し静かにしろ……そっちの二人目は、今、紐を切ってやるから……」

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彼女はくノ一! 第五話 (22)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(22)

「……へぇ……」
 五時限目が終わり、教室を飛び出した四人は、屋上に来ていた。学校の屋上への出入り口は普段、締め切ったままだったが、この四人にしてみれば、正規のルート以外で屋上にでることなど、なんの造作もない。
「……君たちは、昨日からあの家にお世話になている。
 それで、今日は、暇だから、見学に来た……と、そういうのかい?」
 荒神はどこからか取り出した缶入りのお汁粉を三人の子供たちに配る。
 二足の草鞋を履く荒神が、当座のねぐらである狩野家に帰らない日は珍しくない。昨夜、荒神は帰宅せず、学校から直接別口の職場に向かい、仕事を済ませてから明け方にこの町に戻ってきて、直接学校に出勤した。
 だから、荒神がこの三人に対面するのはこれが初めてだった。
「うん!」
 三人は元気よく返事をした。
 荒神に振る舞われた缶入り汁粉の味が思いの外美味に感じられたこと、それに先ほどの教室での動きで、荒神も一族の関係者だとわかっていたので、三人は荒神に問われるままに、今までの経緯を順番に語る。
『……どんどん面白い状況になってくるなぁ、この町……』
 荒神は内心でそんなことを考えている。
『……雑種ちゃん、才賀の小娘、それにこの子たち……荒野君……。
 君は、この子たちを、どこに連れていくつもりだい?』
「……さて、と……。
 残念だけど、もうすぐ次の授業が始まる。これでも表向きはここの教師でね。ぼくは、もう戻らなければならない……」
 そういって、荒神は三人を残して屋上から姿を消した。
「面白いおじさんだったねー!」
「お汁粉、甘くておいしー!」
「いいひとだー! ご馳走さまー!」
 三人は口々にそんなことをいいながら、荒神を見送った。

 それから少しして、六時限目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「……これから、どうする?
 マンドゴドラに行くまでは、まだ少し時間があるけど……」
 ノリがパーカーのポケットから古風な懐中時計を取り出して、時刻を確認した。
 この少女たちのいう「じっちゃん」の、唯一の形見だ。この中では一番しっかりしているノリが預かって、肌身離さずに持ち歩いている。
「ノリは、ケーキ屋に行く前に、タマねーちゃんと一緒に眼鏡取りに行くんだよねー……」
「どっちにしろ、学校終わるまで、タマおねーちゃんも他のみんなも、遊んでくれないみたいだし……」
 ついさっきの雑談で、三人が「学校」についてなんの知識を持たないということに気づいた荒神は、ざっと学校の目的とシステムを三人に伝えている。
 学校とは、社会を構成するまでに至らない年齢の人々が、集団生活や学問を教授される場であり、そのため、生徒たちは決まった時間、授業という形で拘束される……と、今では三人とも知っている。
 荒野、茅、香也、楓、孫子、玉木……など、彼女ら三人が知っている人々は、揃って「学校の生徒」であり、従って、放課後になるまでは拘束される。
 つまり……三人とは、遊んでくれない。
「……ん?」
 屋上で車座になってそんなことを確認し合っていると、ガクが鼻をひくつかせた。
「やばい! この感覚……。
 みんな! 息を止めて、下に逃げて!」
 そういったガクが、率先して屋上から逃げ出す。
 息を止めたまま、脱兎のような素早い動きで、手すりを乗り越え、階下に向かった。
 他の二人も、わけも聞かずにすぐにガクに続く。

「……やっぱり、同じクスリに引っかかるほど、甘くはないかぁ……」
 三人が消えた後の屋上に、シルヴィ・姉崎が姿を現した。
 孫子が昨日、あの三人のうちの誰かに、同じクスリを用いた、ということは知っていた。シルヴィの現在の任務は、香也と茅に近づいてくる者、全ての監視と報告、だ。昨夜、孫子と楓があの三人と激突した騒ぎも、当然、詳細に監視している。
 無味無臭、で、常人はもとより、一族の大半の者にも気づかれる心配はなかった筈のクスリだったが……。
「……少なくとも一人、とんでもなく鼻が効くのがいるようね……」
 いずれにせよ、正面から対決したら、シルヴィはあの三人の足下にも及ばない。
 自分の役割は、三人を追い込むこと……と、シルヴィは割り切っていた。
「……最強の、二番弟子……あなた一人で、あの三人に対抗できる?」
 シルヴィは、そう呟く。
 両方の実戦データが採取できれば……シルヴィとしては、かなり都合が良かった。

『……生け捕り……だもんなぁ……』
 その頃楓は、ぼやいていた。
 相手は本気で逃げて行くが、楓のほうは、手を抜くわけにもいかず……。
「倒せ!」といわれるよりは、「捕らえろ!」という指示のほうが、実行する側にしてみれば、数段難易度が高い。
 しかも、今は授業中の学校……自分はもとより、あの三人の姿が、教員や生徒たちに目撃されることも、できれば避けたい……。
『……シルヴィさん……追い込んでくれたのはいいけど、分散は……』
 多対一、では、いくらなんでも分が悪すぎる……。
 一対一で、時間差をおいての個別撃破、ということであれば、なんとかなるかも知れない……と、いうのが、楓の目算だった。
 シルヴィとの事前のうち合わせで、「三人の発見」し、「楓に見える範囲内に、三人をおびき出す」、それにできれば、「三人を、バラバラにする」よう、お願いした。
 姉崎は、そうした補助的な細工の巧者だ……と、荒野が断言したので、それを信じた形だ。

 屋上からプラスチックの雨樋にとりついて下に降りようとしていた三人に向け、楓はとりあえず、窓から身を乗り出して霞網を投げる。先ほど、
「生け捕りなら、この程度のもんは必要だろ?」
 という言葉とともに、荒野に手渡されたものだった。
 足場になる場所に乏しい状況下であるにもかかわらず、三人は雨樋から跳躍して散会した……かに、見えた。
「……え?」
 散会したかに見えた……が、一人だけ、その場から動かず、むざむざ楓が投じた網に入った者がいた。
「テン!」
「なにやっているだよ!」
「いいの、いいの。
 楓おねーちゃん、怒らせると怖いし……追っかけてきた、ってことは、なんか用事があるんだよ……」
 反射的に跳躍し、近くのサッシ窓などの僅かな突起に指をかけたまま、テンが仲間たちに声をかける。
 意外に、暢気な声だった。
「ノリとガクも、早めに降参したほうがいいよ……」
 怒った時の楓の怖さは……テンは、昨日、骨の髄まで染みこむほどに学習していた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(63)

第五章 「友と敵」(63)

「何故、あと数十分以内にあの三人を捕まえなければならないのか」という理由を荒野に説明され、シルヴィ・姉崎は声をあげて笑った。
 あの三人のうち一人が、今朝、狩野香也の寝床に潜り込み、それを発見した楓と孫子が、一悶着起こした。
 いってみれば、それだけの話しだ……。
 他愛のない、子供たち同士の戯れ合いではないか……と、シルヴィは思う。
 が、荒野は、「……玉木のヤツがいなければ、たしかにその場で終わる話しなんだけど……」と苦い表情で言葉を濁した。
 玉木と放送部の活躍ぶりは、シルヴィも見ている。あの年齢にしてはなかなかの行動力……とは思うものの、それ程の脅威になるとは、シルヴィは思っていない。
 ところが、その後に続いた荒野の言葉を聞いて、シルヴィは絶句した。
「……玉木には、昨日、おれたちのこと、だいたい説明しているからな……。
 これ以上変に好奇心刺激して騒がれると、なんかの拍子に、全てばれる……」
 荒野のいう「おれたちのこと、だいたい」とは、要するに「一族関係のこと」ということで……。
「……コウ? 正気?」
 シルヴィは眉をひそめた。
「あ。でも、荒神とかヴィのことは話してないから、安心して……」
 荒野は、何でもないことのように、続ける。
「……最低最悪でも、おれたちが姿をくらませればいいだけだから……」
「それがわかっているのなら、何故、一般人にそういうこといっちゃうの!」
 思わず、シルヴィは詰問する口調になってしまう。
「分かっているさ。
 だからこうして、これ以上玉木たちの興味を刺激しないように、三人を捜して口止めしようとしているわけだろ?
 玉木のように好奇心が強すぎるタイプには、あらかじめこっちの情報をある程度開示して、協力してくれるように求めた方が、後々、なにかと融通が利くんだよ……」
 荒野は、昨夜、玉木と有働に自分たちのことを説明した時のように、淡々とした口調でシルヴィに自分の思惑を説明する。
「おれは……玉木や、この町の人たちや、学校の奴らを騙したいわけではなくて……だから、必要を感じ、相手を信用できれば、自分たちの正体くらいは明かす……」
 意外に真剣なその口調から、シルヴィは荒野が本気であることを悟ったが……同時に、到底、自分には出来ない選択だ……とも、思った。
『……コウ……若いわぁ……』
 荒野にとって玉木は、たまたま「同じ学校に通う生徒」というだけの、ごくごく浅い関係でしかない。その玉木を、条件付きであっても信用して、自分の正体を打ち明ける程度には信用してしまう……。
 一族の従来の基準に照らし合わせれば、甘いといえば甘い判断なのだが……。
『……その方が、相手も信用してくれる……』
 この土地で、荒野は、単なる打算や欲得ずくではない人間関係を築きつつある……と、シルヴィは感じる。
「……じゃあ、なおさら、そのタマキを刺激して、暴走させないようにしないとね……」
 シルヴィは優しい声で荒野にいった。
 シルヴィが知っているのは、幼い頃のコウでしかない。しかし、そこまで他人を……それも、一族の者でもなんでもない、一般人を無条件で信用してしまえる心情は……用心深く疑り深い、一族の思考法からは出てこない。
 この土地に来て、荒野は、確実に変化しはじめていた。
『コウがどこまで自覚しているのか……それに、その甘さを、どこまで貫き通せるのか……』
 最後まで、見てみたい……と、シルヴイは思った。
「……そうと決まれば、あの三人を早く捕まえましょう。
 ここにいる三人がいれば、大抵のことはできるわ……」
「……あ。それなんだけど……」
 勢い込んでそういったシルヴィに、荒野は申し訳なさそうな顔をして、水を差した。
「……おれ、今、学校に行けないから……じじいが事故にあって、早退して見舞いにいっていることになっているんで……」
 そういわれてはじめて……荒野が私服であることに、シルヴィは改めて気づかされた……。
「コウ……もしやとは思うけど……。
 あの野生児三匹……実質、ヴィとカエデの二人で、なんとかしろっていうの?」
 シルヴィのこめかみに、青筋が浮かぶ。
「あ……ああ。そう、なるなぁ……」
 荒野はあらぬ方向に視線をそらし、こめかみのあたりを人差し指でぽりぽりと掻く。
「カモン! カエデ!
 三匹のデーモン、ハントしにいくわよ!」
 シルヴィは足音も荒く、学校に向かっていく。その後ろに、楓がついていく。
『……大丈夫かな……あの二人……』
 その後ろ姿をみながら、荒野はひどく心配になった。
 能力的な面では、不安はない。楓もシルヴィも、タイプは異なるが、術者としてはそれぞれ第一線の技量を持っている。
 あの二人で出来なければ、その他に何人投入しても無駄だろう、とさえ、思う。
 しかし……。
『あの二人……今まであんまり、付き合ったこと、ないんだよなぁ……』
 性格面では、かなり不安があった。
 術者としてのシルヴィは、力押しよりも搦め手が得意なタイプで、性格的には、どちらかというと自分の能力を過信するタイプ。
 楓は、力押しなら大抵の相手に負けやしないが、細かい駆け引きや小細工は苦手だ……。
 適性的にも性格的にも、ほぼ逆であって……それがうまくマッチすればいいが……反発しあうとなると……。
『……目も当てられない結果にも、なりえる……か』
 そう思った荒野は、携帯を取り出して、三島に電話をかけはじめた。
『……あと、二十分かそこいらが、勝負か……』
 六時限が終わるまで、もう三十分も残されてはいなかった。
「……あ。先生? うん。おれ、荒野。
 うん。早退したんだけど、それ、偽装で、実はいろいろと細かい事情があって、実は今朝……」
 荒野は、電話に出た三島百合香に向かって、先ほどシルヴィ・姉崎にしたのとほぼ同じ説明を繰り返す。
『……お前んところも、まあ……。
 いつまでも、落ち着かないというか……』
 時折、茶々を入れながらも、おおむね大人しく荒野の説明を聞き終えた三島は、意味ありげなため息をついた。
「……おれもそう思うけどね……いずれにせよ、放っておくわけにもいかないから、そんなわけで、今、楓とヴィ……シルヴィが、あの三人を捕まえに、学校にいってる。
 万が一、なんかとんでもない騒ぎになったら、先生の方でもそれとなくフォローしておいて。
 おれ、今日は、学校にいくわけにはいかないから……」

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彼女はくノ一! 第五話 (21)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(21)

 今のところ、四人の乱入者に気づいているのは楓だけで、最初のうちは大人しくしていた四人も、そのことを知っているせいか、授業が進むにつれ、段々と図に乗ってきた。
 一族の関係者の間で「気配を絶つ」といわれる技は、本来、教室のような「区切られ、密閉され、多人数の視覚を誤魔化す」のには不向きな技、だった筈だが……「最強」の荒神はともかく、他の三人までもが、楓以外の生徒たちに存在を気づかれないまま、縦横に教室中を飛び跳ねている様子を目の当たりにし……楓は、かなり釈然としないものを感じた。
『……普通にうるさくしていれば、授業妨害で叱って排除できるものを……』
 現時点で、彼ら四人の存在に気づいているのは楓だけ……で、あり……そのような状況で楓一人が怒り狂えば、楓のほうが「授業妨害」の烙印を押させるのであった。
 つまり、楓一人が我慢すれば、いい。
 それで、「なにもなかったこと」としてそのまま平和な日常の時間が経過するだけ……であり、逆に、下手に騒ぎたてれば、楓の方が白眼視される……。
 そんな理不尽な状況の中で、楓は、クラス中を駆け回って走り回れるノリ、テン、ガクの三人を、極力意識の外に置くように、勤めた。
 三人だけではなく、荒神までもが三人の尻馬に乗って、気配を絶ち、無言のまま、三人と競うようにして、無邪気にはしゃぎだした。
 三人はどうやら、無言のまま「バレずにどこまで暴れられるか?」という競技を開始し始めたらしい。
 最初のうちは、後ろからそっと生徒の机の上を覗き込み、ノートを読む程度で済んでいたが、そのうち、ずらりと並んだ机の上を飛び跳ねて移動し始め、「床に足をつけない」というルールで、鬼ごっこが始まる。三人ならだけまだしも、スーツ姿の荒神までもが、いつの間にかあ三人に混ざって遊びはじめる。
 大の大人が、子供に交ざって遊びのもどよ? とか思うのだが、荒神という人格は、もともとそのような稚気を持つ人だと知っているので、楓もなんとか納得して我慢し続ける。

 普段通り、どことなく自信に欠けた様子で授業を進行させている岩崎先生も、授業を受けている生徒たちも、普段通りに授業を受けている。
 そんな、いつも通りの教室で、三人組と荒神が、パントマイムのように無言、無音のまま机の上を飛び回り、しかも、その四人の存在に、楓以外のものは全く気づいていない……。

 シュールな、光景だった。
 楓は、自分の忍耐力を、局限まで試されているような気分に陥った。精神衛生上、非常に、悪い時間だった。

 三人と荒神とは、授業が進行するにつれ、楓の顔色が(怒りで)蒼白になっていったことに気づいていたので、授業終了と同時に、競うようにして教室から飛び出ていって、姿を消した。
 楓は、授業終了の号令がおわるのと同時に彼らを追いかけようとしたが、ちょうどその時、マナーモードにしてポケットの中に入れっぱなしにしている携帯が震え、メールの着信を告げた。
 ディプレイを確認すると、荒野からのメールで、慌てて表示させると、案の定、荒野はあの三人を探しているようだった。
 楓は廊下に出て、荒野に電話をかけた。
 一応、校則では校内への携帯電話の持ち込みは禁止されている筈だったが、宇今時そんな時代遅れの規則に従う生徒などいる筈もなく、教師たちも「授業中に公然と使用しなければいい」という具合に黙認していた。
 廊下には、楓と同じように携帯で通話をしたりメールを打ったりしている生徒の姿が、何人か見えたので、楓は特に目立たなかった。
「……あの三人、ついさっきまで、この教室にいましたぁ!」
 荒野が電話に出るのと同時に、開口一番、楓は意気込んで話し始めた。
 先ほどの授業中、あの三人にいいように暴れられ、自分自身は手出し出来なかったことが、よほど悔しいらしい。
「加納様! なんであの三人が学校に来ているんですか!」
 普段はどちらかというと大人しい印象のある楓が、珍しく大きな声をあげていたので、周囲にいた顔見知りの生徒たちが珍しそうに楓の方を振り返る。
『……学校に……その教室に、いた……だと……』
 楓の剣幕に気圧されたのか、しばらくの間を置いて、荒野が低い声で答えはじめた。
『……あの三人がなぜ学校にいたのか……出来れば、本人たちに聞いてみたいね……じっくり……』
「……あ……ああああ、あの……加納、様?」
 周囲の注目を集めつつある……ということに気づいた楓は、声を潜める。
 電話越しに聞こえる荒野の声も、気のせいか、かなり不機嫌に響いた。
「き、教室に来ていた、と、いっても……大人しく、他の人にみつからないように見学していただけで……。
 そ、そりゃあ……岩崎先生や他の人たちのの視線をかいくぐって、ことさらに飛んだり跳ねたりしたから、わたしの心臓的には、すっごぉく、悪かったですけぉ……」
 荒神のことは、あえて伏せておいた。
 荒野が荒神のこととなると、何故だかムキになる傾向があることに、楓は気づいている。
『楓、命令だ』
 荒野は冷酷な声になって楓に命じた。
『あの三人を、一刻も早く引っ捕らえろ。授業を放棄しても構わない。さっきまでそこにいた、ということは、まだ学校付近にたむろしている可能性が高い。
 三人全員が無理なら、ガクにだけでもいい。放課後になる前に、会って話しておきたいことがあるんだ。
 おれも、すぐにそちらに向かう』
 普段の時と楓に「指令」を発する時、荒野の声にみなぎる緊迫感は、まるで違う。
 何故荒野が、今の時点で三人を捕獲することにそこまで拘るのか、楓には見当がつかなかったが……楓は、荒野の指令に応じるべく、気配を絶ち、学校内を探索しはじめた。

 荒野が指定した場所に急行した楓が人通りの絶えた路地裏に着くと、荒野は先に到着していてた。急いで三人の行方に関して情報交換をする。交換、とはいっても、楓の方がほとんど一方的にしゃべるような感じになったが。
 そうこうするうちに、シルヴィ・姉までもがその場に現れたので、楓は驚愕した。シルヴィと荒野が話し始めた内容から察するに、荒野の方からシルヴィに助けを求めたらしい。
 荒神とは別の意味合いで、荒野はシルヴィのことを敬遠しているようだったが……それを押して、助けを求めた……ということは、よほど、荒野はせっぱ詰まっているらしい……。
 と、考えたところで、楓は、ふとあることに気づいた。
「……あのぉ……加納様……」
 楓は片手をあげて、おずおずと荒野のその疑問をぶつけてみる。
「あの三人……放っておいても、あと一時間もすれば、マンドゴドラに現れる筈……だと、思うんですけど……」
 昨日の騒動の精算として、大本の原因を作った玉木が、関係者全員にケーキを奢る約束になっていた。
「だから……」
 荒野は、弱々しく首を振って楓に思い出させた。
「……その前に、奴らを言い含めて、確実に口止めしておきたいんだ……。
 あの玉木が、だな……今朝のことを知ったら、やばいと思わないか?」
 楓は、「あっ!」と声をあげた。
 荒野に指摘されるまで、そのことに思い至らなかった自分が、いかにも迂闊に思えた。
「なに? どういうこと?」
 狩野家での今朝の出来事を知らないシルヴィが、眉をひそめて荒野に説明を求める。
「oh!
It's Japanese Love and Comedy!」
 荒野が簡単に今朝のことを説明すると、シルヴィは遠慮なく笑い声をたてた。
「センセイのいうところのニッポンのデントー! ラブコメね!」
 今朝の騒動の当事者の一人でもあった楓はいたたまれなくなり、その場から逃げだしたい気持ちでいっぱいになった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(62)

第五章 「友と敵」(62)

 荒野による小一時間ほどの「三人探し」は見事な徒労に終わった。
 為す術もなくなった荒野は、まずマンションで待機している茅に電話をかけ、「三人が狩野家に帰っていないか」確認してもらい、次いで、楓にメールを打って「三人の行くような場所に心当たりはないか?」と尋ねてみた。
 ちょうど、五時限目と六時限目の間の休憩時間だったこともあり、メールを送信してからいくらもしないうちに楓から電話があった。
『……あの三人、ついさっきまで、この教室にいましたぁ!』
 荒野が電話を受けるのと同時に、何故か楓が、急いた様子で話し始めた。
『加納様! なんであの三人が学校に来ているんですか!』
 楓の剣幕と、話されている内容を理解し、荒野の目が点になる。
「……学校に……その教室に、いた……だと……」
 しばらく唖然としてから……荒野は、低い声で答えた。
「……あの三人がなぜ学校にいたのか……出来れば、本人たちに聞いてみたいね……じっくり……」
『……あ……ああああ、あの……加納、様?』
 荒野の機嫌が覿面に悪くなったことを察した楓が、動揺してどもりはじめる。
『き、教室に来ていた、と、いっても……大人しく、他の人にみつからないように見学していただけで……。
 そ、そりゃあ……岩崎先生や他の人たちのの視線をかいくぐって、ことさらに飛んだり跳ねたりしたから、わたしの心臓的には、すっごぉく、悪かったですけぉ……』
「楓、命令だ」
 荒野は電話越しにぴしゃりと楓に命令した。
「あの三人を、一刻も早く引っ捕らえろ。授業を放棄しても構わない。さっきまでそこにいた、ということは、まだ学校付近にたむろしている可能性が高い。
 三人全員が無理なら、ガクにだけでもいい。放課後になる前に、合って話しておきたいことがあるんだ。
 おれも、すぐにそちらに向かう」

 楓にはそう命じたものの、荒野は、楓一人では荷が勝ち過ぎるだろう、と思っていた。「能力」の問題ではない。相手が三人であり、楓は一人しかいない、という「数」の違いは、どうにもしようがなかった。同じような背格好をしたあの三人が、本気で目くらましをし始めれば、楓でなくともいいように翻弄されるのは目に見えている。
『……本当なら、頼りたくはないんだが……』
 荒野は学校に向かいながら、電話で茅に簡単に事情を説明した後、もう一人、学校にいる関係者に電話をかけて、協力を要請した。

「……やつらの居場所、目星ついたか?」
 学校付近の人通りの少ない路地裏で、荒野と楓は待ち合わせをした。
 一端、急用を用意して早退した関係で、私服の荒野がのこのこ学校内に舞い戻るわけにもいかない。この時間に制服姿で学校の近所をうろついているのもそれなりに目立ちはしたが、楓のほうはなんとでもいいわけが可能だった。
 楓は、荒野の問いかけには、静かに首を振るだけだった。
「……校舎内は一通り探してみたんですけど……それらしい気配は……」
 楓がそういうのなら、すでに校舎内にはいない可能性が高い……と、荒野は思った。いくら広い、といっても、楓の気配を読む感受性は、下手すると荒野よりも鋭敏なくらいだ。
 あの三人のような非凡な存在なら、二十メートルや三十メートル先からでもかぎ取れるだろう。それに、楓の移動速度が加われば、校内を一通り走査しても時間的にいくらもかからない筈だった。
「……校舎内にいない、とすれば、すでに学校を出たか……」
「……部室棟とか、体育館あたりはまだ調べてないんじゃない?」
 突如、楓の背後に人影が現れた。
 その人影の気配を察知できないまま背後を取られた恰好の楓は、ギョッとして、慌てふためいて振り返った。
 知らない間に背後をとられる、ということは……楓の属する世界では、相手に生命線を握られる、というのに等しい……。
「……はぁーい!」
 気配を読むことに長けた楓にさえ、気取られずに現れた人影は、楓と目が合うと、片手を挙げて軽い口調で挨拶をした。
 シルヴィ・姉だった。
「気にすることないわよ。
 埋伏と探索とが、実戦力には乏しい姉の得手なんだから……」
 二宮や秦野のように荒事を得意とはしないかわりに、息を潜めて自身の存在を秘匿し、とことん情報を収集して生還することを得意とするのが、姉や野呂だった。足や反射神経に秀でた野呂は単独行動での潜伏や先鋒に、身体能力的には他の六主家に劣る姉は、独自のコネクションや薬物、技の体系を持っている……と、言われている。
 が、当然の如く全ての手の内を外部の漏らしてはいないから、部外者には全容は窺い知れない。
『……この人……』
 楓は、内心で冷や汗をかいている。
『……その気になれば……』
 先ほど、声をかけられるまで気づかなかった……ということは、楓をどうにでも出来た、ということでもある。
 正面からぶつかったら……シルヴィは、「最強」に直に手ほどきを受けているほどの実力を持つ楓の、敵ではない……。しかし、「暗殺」という手段に訴えられたら……。
『……防ぐ、手だてはない……』
 強さ……とは、所詮相対的なものであり……様々な方向性の強さが、ある……と、楓は思った。
 六主家の人々というのは……本当に、凄い……。
「……コウがわざわざ頼み事をしてくれるなんて、日本に来てからはじめてじゃない?
 オネーサン、ウレシーワー、オトート、ヨヤク、アマエテクレタノネン」
 後半のイントネーションは、いかにも、といった態の、わざとらしいガイジン・カタコト・アクセントだった。
「本当は、後が怖いから、甘えたくはなかったんだけどね……」
 対する荒野は、いつもと同じように冷静な態度を崩せなかった。
「この手の鬼ごっこは、昔から得意だったろ?
 ヴィ、対価は払うから、あの三人を捕まえる事に協力してくれ。
 時間が……ないんだ……」
 六時限目が終わり、放課後になるまで、三十分ほどしか残されていなかった。
「いいのよー……対価、だなんて……」
 ヴィ、こと、シルヴィ・姉は、婉然と笑う。
「他ならぬ、コウの頼みだもん。
 それに……あの子たちも、なかなか面白そうな子たちじゃない……」
「……飼い慣らせるんなら、ヴィにくれてやってもいいぞ……」
 半ば本気で、荒野はそういった。
 もっとも、あの三人がシルヴィ・姉の手に負えるとは、まるで思っていなかったが……。
『……あいつら……』
 茅や楓よりも、よっぽど手強いからなぁ……ある意味……。

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彼女はくノ一! 第五話 (20)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(20)

 基本的に、狩野家の食卓は賑やだ。香也はぼーっとしているし、真理もおっとりしているところがあるから静まりかえってもよさそうなものだが、普段から口数の多い羽生譲がいるのでバランスが取れている。これで、楓と孫子が加わると、羽生が降った話題にそれぞれ相反する反応を示し、二人でえんえんと議論をし始める、なんてこともしょっちゅうあって、少なくともこの二人が来てからこっち、食事の席で静まりかえった、ということは、絶えてなかった。
 それが、この日の朝食は、しーんとと静まりかえってしまった。
 いや。
 厳密にいうと、香也、楓、孫子の三人に羽生譲がきまずーい様子で静まりかえっていて、真理は至って普段通り、三人娘は仲間内でわいのわいのとおかずの取り合いをしていて実に賑やかだったりするのだが……。
 香也の左右に座っている楓や孫子が、そことはない緊張感を漂わせて黙々と箸を使っている関係で……香也の心情風景的には、否応なく、ひじょーに気詰まりな静寂に包まれているような気分になった。

『……胃、痛くなりそう……』
 香也は、登校前からげっそりとした気分になった。
 起き抜けに身に覚えのない女性に抱きつかれていることに気づき、その後、鉄砲を突きつけられたり、自分はなにも疚しいことはしていないと口泡飛ばしながらしどろもどろに説明したり……といった慌ただしい時間を過ごした後の登校だから、多少、気分がすぐれないことがあっても、無理はない……。
「また、なんかあった?」
 と、加納荒野が尋ねたが、香也は力無くゆっくりと首を横にふった。
 こんな事は……一緒に登校するみんなの前で、おおやけに相談はできない。
 楓や孫子の前である、ということもあったが……それ以外に、樋口明日樹などの耳には、絶対に、入れられなかった。
 これ以上、香也を複雑なものにしたくなかった。
 結局、香也は、今にも泣きそうな顔をして首を横に振った。
「……昼休み、美術室……」
 その態度だけで、荒野はなにやら察するところがあったのか、香也にだけ聞こえるような小声で、
「……昼休み、美術室……」
 と呟いた。
 今までのことがあるから、荒野なりに香也の身を案じ、相談に乗ってくれようとしているらしい……。
 他に相談相手のあてがあるわけでもない香也は、荒野の心遣いが心底ありがたかった。

 午前の授業中、香也はいつもにも増してぼーっとしていた。
 香也はもともと授業を熱心に受けるタイプではない。が、そのいつもと比較しても教師たちの言っていることが頭に入らず、耳を素通りしていって、あっという間に四時限分の時間が経過していく。
 朝食の時と同じように味がしない給食を機械的に口に運んで平らげ、足早にならないように気をつけながら、トイレにでもいくような振りをして、教室を出て行く。
 目指すは、美術室。
 出て行く時にちらりと確認したが、同じクラスの楓は香也の挙動に特に不信感を持った様子はなく、牧野と矢島となにやらおしゃべりに興じていた。

 美術室に到着すると、先に来ていた荒野に腕を引っ張られるようにして、美術準備室に連れ込まれる。昼休みの美術室に人気はなかったが、確かに狭い準備室のほうが密談には向いていたし、荒野は外見的に目立つ生徒であり、香也も周囲の交友関係から最近の校内では注目度がかなり上昇している。
「二人きりで、昼休みに、美術室にいた」
 ということを目撃され、噂されたら、それはそれで面倒なことになりそうな気もした。
 楓と仲が良い、香也と同じクラスの牧野や矢島が好むような同性同士の関係、ということではなくて、玉木とかに嗅ぎつけられ、玉木経由で孫子や楓に伝わることを、荒野は警戒したのだろう……と、香也は思った。
 荒野に即されるまま、香也は、今朝の出来事を、ぽつりぽつりと語り出した。

 一通りの話しを聞き終わった荒野は、深々とため息をついた後、
「事情は、よく理解できた。放置すればこっちにとっても良くないことになりそうなので、しかるべき対処をさせてもらう」
 と明言し、香也を先に帰らせた。

 香也が自分の教室に帰らないうちに、校内放送で「加納荒野君」と「加納茅」さんが呼び出された。
 香也が教室に入った時、すでに茅の姿は教室内になく、しばらくして帰ってきた茅は、「早退するの」とだけ告げて、テキパキと帰り支度をし始めた。
 茅が教室から出て行ってすぐに、昼休みの終了五分前を告げるチャイムが鳴った。
 廊下や校庭に遊びに出ていた生徒たちがばたばたと教室に入りはじめ、あたりがにわかに騒がしくなった。

 五時限目は、担任の岩崎硝子先生が担当する英語の授業だった。
 しかし、その授業が始まる少し前から、松島楓は奇妙な胸騒ぎと異様な気配を感じていて、そんなものを感じてしまう自分の感性に対して疑問を持った。
 楓の「気配を読む力」に関しては、加納荒野でさえ舌を巻く。つまり、楓のその手の鋭敏さ、ということについては、荒野の折り紙付きであるわけで……その楓が、「不穏で危険な空気」が近づいてくることを、感じ取っていた……。
 ここは、一般人が通うごく普通の学校であり……楓に警戒心を起こされるような人間は、数えるほどしかいない。
「脅威度」を基準にして名前を挙げていけば、まずダントツで荒神、次ぎに荒野、孫子、と続き……かなり下がって、シルヴィ・姉が入る……。
 と、いったところだろうか?
 それ以外の人間は、楓にとっては「脅威」とは、感じられなかった。
 しかし……教室のすぐ外に近づいてくる気配は、楓のよく知っている「校内最大の脅威」が放つ気配に、よく似ている……というのは、一体どうしたことだろうか?
 教師としての二宮浩司は、一年の授業は受け持っていない。
 また、学校内では二宮浩司になりきっている二宮荒神は、用もないのに一年生の教室付近に出没する、などという素人臭い真似をする筈もない……。
 にも関わらず……今現在、教室に近づいてくるのは、間違えようもない「荒神」の気配だった……。
 楓が、人知れず緊張して自分の席に座っていると……。
 いつものように、出席簿と教科書を抱えた岩崎先生が教室内に入ってきた。
 ほぼ同時に、岩崎先生以外の、この場にいてはならない筈の人物が立て続けに四人も教室に入ってきたので、楓はその場で反射的に立ち上がり、思わず驚愕の声を発しそうになり……周囲の生徒たちを意識して、あやうく自制した。
 楓の近隣の席に座る生徒たちだけが、号令の前に立ち上がった楓を不思議そうに見上げたが、すぐに日直が「きりーつ……」と声を出したので、一足先に立ち上がった楓は、すぐに他の生徒たちに紛れた。
『……な、なんで……あの子たちが教室に……』
 岩崎先生が入ってくるのと前後して教室に乱入してきたのは、荒神と、テン、ガク、ノリの四人だった。四人はほぼ完全に気配を絶っていたし、入ってくるなり教室の最後部に素早く移動したので、彼らの乱入に気づいたのは、楓だけだった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(61)

第五章 「友と敵」(61)

 幸か不幸か、荒野はいざという時のためにいつでも早退できるような仕掛けを用意していた。現在の環境がどのように変化するのか予断を許さない状況があるので、学校に通うようになる前にあらかじめ準備していた仕掛けの一つだ。
 荒野がある番号に電話をかけ、三回コール音を鳴らしてから切る、という行為を三回繰り返す。
 と、三分もしないうちに校内放送で茅と荒野が職員室に呼び出される。
 職員室に向かうと、職員たちがそれなりに神妙な顔で、
「……今、君たちのおじいさんが事故に遭われて、病院にかつぎ込まれたそうだ……」
 と、あらかじめ決められていた設定通りの説明をされる。
 荒野と茅は一旦自分たちの教室に戻り、帰り支度をしてから悠々と校門を出た。
『……こんな変な展開に対応するために準備していた仕掛けじゃないんだがなぁ……』
 そもそもこの仕掛けは、もっと逼迫した状況下を想定して用意していたもので……涼治に架空の急病になったり架空の事故に遭遇したり架空の危篤になって貰うことには、なんの疚しさも感じなかったが……このような仕掛けはあまり頻繁に使える性質のものでもないので……こういうことでこの仕掛けを発動しなければならないこと対するある種の馬鹿馬鹿しさというものは、荒野も感じては、いる。
『……ようするに、子供一人を説得するだけのことだもんなぁ……』
 説得するだけのこと……ではあるけれども、今日の放課後までになんとか言いくるめなければならない、という緊急性だけは、あった。
 マンションへの帰り道で、荒野は茅に事情を説明し、協力を求めた。

 まだ授業が終わってない時間帯に制服姿でうろつくのも賢い選択とはいえないので、荒野と茅は一旦マンションに帰って着替えることにする。
「……とりあえず、お隣りにってみるか?」
「昨日の昼間は、真理と買い物にいっていた、といっていたの……」
 茅も、今日の三人の行き先は聞いていないらしい。そもそも、いつもと同じように、今日も三人一緒に行動している、という保証もない。
 ただ、他に宛もないので、とりあえず同居している真理と羽生の携帯にかけてみることにする。羽生はバイト中なのか留守録に切り替わり、買い物中の真理はすぐに電話に出たが、今日は三人とは別行動だという。
 ほかに手がかりもなかったので、まずはお隣りの狩野家を訪ねてみる。まず玄関で声をかけてみて、返答がなかったので、念のため、庭にいって母屋の気配を伺ってみる。
 たしかに、完全に、誰もいないようだった。
「……さて、どうするか……」
 荒野が、呟く。
 他に、やつらがいきそうなところ、というと……。

 茅を一緒に連れ回すとかえって移動速度が落ちるので、連絡要員としてマンションに残って貰うことにし、荒野は三人が興味を示しそうな場所に片っ端から捜して廻ることにする。
 なにぶん、午後の授業が終わるまで、もういくらもない。時間的にも余裕がないので、荒野は、気配を絶って全速力で付近をかけずり廻った。
 ……公園、商店街、ファーストフードなどの飲食店、ゲームセンター、ショッピングセンター……どこを捜しても三人の姿は見つからず、時間だけが過ぎ去っていく……。
『……やつら、どこにほっつき歩いているんだ?』
 時間が経過するにつれ、荒野は焦りはじめた。
『こうなると……やつらにも携帯、持たせておくべきかなぁ……』

「……ねぇ……勝手に入っちゃっていいのかなぁ……」
「大丈夫だよ。学校って子供が来るための場所だっていってたもん」
「それに、気配を絶っていれば、かのうこうや以外には、見つかる心配ないし……」
 荒野が三人の姿を捜して町中を走り回っている頃、三人は学校に来ていた。
 昨日、一日で家の付近のめぼしい遊び場所は大体探索し終わっていた。
 もともと、小さな町でもあったし、昼間、他のみんなが学校に行っている時間に、真理に連れられて当座必要なものを買い揃えながら、大体の場所へは案内して貰っている。
 それでも午前中は真理を手伝って家の掃除などの家事の手伝いをしていたが、昼食が済んで真理が買い物にいくと、途端に手持ち不沙汰になった。
 車で出かけていった真理を見送ってから、「さて、今日は何をしようか」、という話しになった時、誰からともなく、「春から行くという、学校って場所に下見にいってみないか?」ということになった。

 そもそも、これほど多くの人間がひしめいている環境でさえ、島育ちの三人には十分に驚異なのに……「学校」という場所には、自分たちと同じ年頃の人間だけが数十人とか数百人(!)、同じ制服を着て押し込められているらしい……。
 その「学校」という場所について、概要は知らされていたものの、具体的な知識をなんら持っていなかった三人は、「それでは、そっと見にいってみよう」という事で意見が一致した。今から行けば、その「生徒たち」が一カ所に集まっていったいなにをしているのか、その秘密も実地に見聞できる筈……だった。

 学校内に忍び込むと、念のため、三人は気配を絶ってあたりをうろつきはじめる。
 昼食を終えてからすぐに学校に直行したため、三人が学校内に侵入したのは、昼休みもそろそろ終わろうかという頃合いだった。
 生徒たちはグラウンドにでて球技に興じていたり、教室内で雑談を交わしていたりする。全体に、雑然とした雰囲気だった。
 しばらく学校内をうろつき廻った三人は、
「学校とは……同じ年頃の人間を集めて、みんなで仲良く遊ぶための場所である」
 と認識した。
 春になれば、自分たちも、この場にいる生徒たちと同じ制服を着て、この遊びの輪の中に入れるんだ……と、思うと、悪い気はしなかった。
 そのうち、校内放送が「かのうこうや」と「かのうかや」を「しょくいんしつ」に呼び出した。
「しょくいんしつ」というのは、多分、「職員室」であり、察するところ、大人の職員が集まるところだろう……と察した三人は、それらしい「室」を捜して校内をうろつき廻った。
 はじめに目星をつけた、作業着姿の初老の男性が湯呑みを傾けて待機していた部屋は、部屋の入り口に「用務員室」というプレートがかかっていたので、「どうやら『しょくいんしつ』とは違うらしい」ということになった。しかし、三人には「職員室」の「職員」と「用務員室」の「用務員」との明確な差異が、よく理解できない。
 しかし、こんな場所に「かのうこうや」や「かのうかや」を呼び出すような用事は思いつかなかったので、「しょくいんしつ」とは、どこか別に場所だろう……ということで、三人の意見は一致した。

 さらにしばらく校内をうろついていると、ほどなくして「職員室」が見つかった。「用務員室」と同じ様なプレートが入り口にかかっていたので、まず間違いはない。
 放送があってから職員室を探し当てるまで、少し時間経過していたので、「かのうこうや」と「かのうかや」とは、顔を合わせずに済んだ。
「職員室」の中には、スーツ姿だったりジャージ姿だったりするものの、大勢の大人がいて、たしかにたった一人しかいなかった「用務員室」とは全然雰囲気が違う。
 学校に勤める大人は、単数だと「用務員」、複数だと「職員」と呼称する奇妙な習慣があるらしい……と、三人は見当をつけた。
 やがて、午後の授業開始を告げる予鈴がなり、「職員室」内にいた「職員」たちは、銘々教科書や出席簿、プリントの束などを抱えて、受け持っている授業のある教室へと散っていった。

 三人は小声で相談した結果、若い女性の職員の後を着いていくことにする。その若い女性の職員の体に、かすかに狩野荒野と松島楓、それに、加納茅の体臭が移っていたのを関知したからだ。
『……珍しい、お客さんですねぇ……』
 そうした三人の様子を、目を細めて見守っていた人間が、職員室内に一人だけ、いた。
 二宮浩司、こと、二宮荒神である。
 もちろん、荒神は三人の存在を少し前から関知していた。しかし、学校にいる間は、荒神はあくまで浩司であり、荒神ならともかく二宮浩司という若い教師が三人の存在に気づく可能性はまずない……ので、二宮浩司になりきっている荒神は、三人の存在に気づいたようなそぶりをまるでみせなかった。
 そして、その日の五時限目、二宮浩司はたまたま受け持っている授業がなかった。
『……空き時間だけ、一時的に荒神に戻るのもアリですかねぇ……』
 浩司でもある荒神はそう考える。
 そして、三人にも気づかれないように気配を絶って、気配を絶っている三人の後をつけはじめた。
 二宮浩司ではない二宮荒神は、この手の突発的なイベントが、大好きだった。

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彼女はくノ一! 第五話 (19)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(19)

 翌朝、目が覚めた時、狩野香也は胸の上に確かな重みを感じた。
『……え?』
 ふと疑問に感じ、半覚醒の視線を下げ……目を、剥く。
『……ええっ?』
 誰か、の、頭頂部が、見えた。
 その、誰か、は、いつの間にかはだけられた香也の裸の胸に顔を密着させるようにして、軽い寝息をたてている。
『……ええええっ!?』
 香也の眠気は、一遍に吹っ飛んだ。

 香也の胸にとりついて寝息を立てている「誰か」は、はだけた香也の胸にぴったり横顔を密着させていた。当然、体も密着しているわけで、「誰か」のかすかな胸の膨らみが、圧し潰されている感触が、あった……。
 それに、半ば香也の上に乗っかっている体重も、やけに軽い……ことから考えてみても……あの三人のうちの、「誰か」、なのだろう……。
 次第に事態を理解しはじめていた香也は、ちらりと視線をあげて枕元の目覚まし時計を確認する。
 と、ちょうど、セットした時間になったので、ベルが鳴り響きはじめた。
 反射的に手を伸ばし、目覚ましを止める。止めてから、
『……時計、そのままにして、この子に自然に起きて貰った方が、よかったかな……』
 と、思った。

 次第にはっきりしてきた頭で、香也は思考を巡らせる。
 なぜ、この子と一緒の布団で寝ているのか?
 ……わからない。

 少なくとも、昨夜香也が布団に入った時は、いつものように一人だった。
『……問題なのは……』
 この子が、香也にしがみついて離れないこと、と……目が覚めた時から、香也のアレが、硬く起立していること、だった……。

 香也の胴体をしっかり掴んで離さないその子の腕を香也がそっと引き剥がそうとすると、その子はむにゃむにゃいいながら、もぞもぞと蠢き、より一層体を密着させた。密着したまま、その子が薄いパジャマの生地越しに体を擦りつけてくるので、香也はそのこの小さな胸や、股間の感触を感じてしまって……おかげで、香也の意図に反して、最初単なる朝の生理現象で硬直していた香也のアレは、今では明確に欲望を刺激されたために反り返らんばかりに怒張し始めている。しかも、その子は腕と足を香也の胴体に回し、今では香也の上に乗りかかるばかりになってもぞもぞと動いている。これ以上はない、というくらいに大きくなっている香也のアレは、香也の腹とその子の股間とに挟まれて微妙な圧迫と振動を伝えられている……。
『……この子……本当は起きていて、わざとやっているんじゃないか……』
 と、思わないでもなかったが、揺り動かしてみてた時の反応をなどを見ても特に不自然な所はなく、どうやら本当に眠っているらしかった。
 本当に眠っている割には、香也にしがみつく力が、やけに強い。
 香也も、もざもざ座視、いや、寝視、していたわけではなく、その子を引き剥がそうとしてみたり、起こすために、力を込めて胴体に絡んでいるその子の腕や足を引き剥がしたり、声をかけながらかなり強く揺り動かしたりしてみたが、一向に効果はない。
 その子は、目を覚ます様子もなかったし、一旦は丁寧に引き剥がすことに成功した腕も、別の腕や足に取りかかっている最中にまた元通り香也の胴体に絡みつく。
 その子を引き剥がそうといろいろ試みるうちに、香也の息が荒くなり、うっすらと全身に汗をかき始めた。
『……いけない!』
 ちらりと先ほど止めた目覚まし時計に視線を走らせ、香也はますます焦った。
 あの二人がこの部屋に香也を起こしにくる時間まで、もういくらもない。
 焦った香也は、敷き布団を跳ね上げ、いよいよ本腰を入れてその子を引き剥がしにかかる。
『……この……いい加減……離れて……』
 もはや香也は、真冬の朝だというのに汗だくである。
 自分の胴体に絡んでくるその子の手足と、本格的に格闘しはじめる。
 普段運動らしい運動をしたことがない香也にとっては、重労働もいいところだった。

 ちらり、と、
『……こんな思いをするくらいなら、早めに大声で誰かに助けを呼んだ方がよかったかな……』
 と、思わないでもなかった。
 今では……朝っぱらからこの子に組み付かれ、上半身裸で汗だくになっているわけで……単純に同衾している現場を押さえられるのと、どっちがマシだろう……と、ふと、思ったりもした。
 どのようなシュチュエーンで見つかろうが、香也の立場がこれ以上ない、というくらいにやばいことには……あまり、変わらないような気もしたが……。

 香也が、寝ながらしがみついてくるその子と格闘に夢中になっていると……。
 がらり、と、襖が開いた。

 顔をそちらのほうに向けると、制服姿の楓と孫子が立っている。
「……お、おはよう……」
 とりあえず、香也は掠れた声で朝の挨拶をした。
 なんだか、ひどく間抜けな行為に思えた。

 楓も孫子も、表情が凍りついていた。

 孫子は、表情を凍りつかせたまま、くりると背を向けて、とたとたとどこかに去っていった。
 楓は、ゆっくりと絡み合っている香也とその子のそばに近寄ってきて、無表情のまま、その子の肩のあたりに手を伸ばし、ぎゅう、とその子の肩の肉を指でつまみ、ねじり上げた。
「うふっ」
 楓が、小さく笑い声をあげる。
「うふふふふふふっ」
 笑い声をあげながら、楓は、その子の肉をぎゅーっとつまみ上げた。
「……いたいっ! いたいいたいいたい痛いっ!」
 そこで、ようやくその子が目を覚まし、がばりと身を起こす。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」
 そして、楓の背後の空間をみて、硬直した。
「……この場で、手撃ちにします。
 なにか、いい残すことは?」
 ライフルを構えた孫子が、うっすらと微笑んでいた。

 銃口の先にいる香也が、
「……うわっー!」
 と反射的に悲鳴をあげてへっぴり腰のままあたふたと逃げ出そうとする。
 香也に絡みついていたその子と楓が、ライフルをもった孫子に組みつく。

 その日の狩野家の朝は、そんな騒ぎから始まった。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(60)

第五章 「友と敵」(60)

 翌朝も、茅と荒野はいつものようにランニングに出かけた。
 昨日と違うのは、茅が「もっと本格的に体力づくりするの」と言いだし、いつより三十分ほど早く家をでたこと、それに、例の三人組と外で会わなかったこと、だ。朝から例の三人と顔をあわせなかったことで、荒野はどちらかというとほっとしたが、茅のほうがむしろ不満そうな表情を浮かべた。
 その日から、茅は、自分で考案したメニューを消化しはじめた。というか、消化しようと努めた。
 それまでランニング以外に運動らしい運動をしてこなかった茅が、いきなり腕立てとか腹筋を五十回四本セット、などをやろうとしても体がついてこない。そうした作業をこなせるだけの筋力が、今の時点ではついていない。
「……いや、茅……そのメニュー、無理だって……」
「……やるの!」
 そういいながら茅は、息をぜいぜい弾ませながら、今の時点でも辛うじてできるヒンズースクワットをやり続ける。
『……いきなりそういうことやっても……二、三日筋肉痛でうごけなくなるだけだぞ……』
 そう思いながらも、荒野は茅のことを暖かく見守り続けた。
 痛い思いをすれば、茅も懲りるだろう……と、この時は、そう思っていた。

 結局、最初からとばしすぎた茅は、途中で動けなくなり、荒野に運ばれてマンションに戻った。茅をバスルームに放り込み、朝食を用意した後、荒野はぐったりしている裸の茅を時間が許す限りマッサージする。食欲がない、という茅に無理矢理食事を摂らせ、なんとかいつもの時間に外に出る。

 いつものように狩野家の前に集合すると、香也はげっそりと憔悴した様子で、楓と孫子は目に見えて機嫌が悪かった。
 見送りに来た三人娘だけが妙に元気で……荒野は、小声でこっそりと香也に「また、なんかあった?」と尋ねたが、香也は力無くゆっくりと首を横にふった。今にも泣きそうな顔をしていた。
『……なにかあった、というのは確実だが……この場では、話せない……ということか……』
 今までの経験から、荒野はそう判断する。
 ……そういえば、今朝は、昨日とは違い、あの三人は、早起きして来なかった……。
「……昼休み、美術室……」
 荒野がそっと小声で呟くと、香也は感謝に満ちたまなざしで荒野を見つめ、小さく頷いた。

 やがて樋口兄弟、飯島舞花、栗田精一なども揃い、いつものようにぞろぞろと学校に向かう。今朝は、舞花と明日樹がよくしゃべり、他の面子は口数が少なかった。商店街の近くで例によって玉木珠美が合流する。玉木は、表面上昨日までとは変わらず、大声で舞花や明日樹と世間話に花を咲かせた。
『……あっちのほうは、どうにか大丈夫そうだな……』
 好奇心さえ満足させてやれば、よけいな干渉はしてこないだろう……と、荒野は玉木の性格を、そう読んだ。
 そもそも、玉木たち放送部の連中だって、営利目的に特ダネを狙っているのではなく……あくまで、自分たちの興味を満足させることを主目的とした、の他愛のない部活動だ。玉木や有働の原動力は、「知ること」であって、「知った事実を公表すること」には、あまり関心がないのではないか?
 例の「号外」やこの間の囲碁勝負のように、多くの生徒たちの興味を引き立てる内容ならともかく……荒野や茅の正体や自出など、珍しくはあるがあまりゴシップの種にはなりにくい、地味な内容は……一通りのことを知ってしまえば、たちまち玉木たちの好奇心は減退してしまう……と、荒野は推測し、そのため、昨夜みんなを集め、時間を割いて一通りの説明を行ったのであった。
『……これで、これ以上の玉木対策は、とりあえず必要ないな……』
 荒野は、その朝、そう見通しをつけたが……その考えは、甘かった。

 逆にいえば、事実を知った上でも、玉木は……ゴシップネタさえあれば、興味を示すし、探ろうとするし、公表するのだった。
 この後、荒野は、それまでとは別の意味で玉木たち放送部の暗躍に悩まされることになる。
 なにせ、お隣りの狩野家は、目下、飯島舞花がいうところの「家庭内ハーレム状態」であり、そのハーレムの中心人物であるはずの香也は、潜在的な人間嫌い……。
 ゴシップネタの温床、といってもいい環境下にあることを、香也は失念していた。

 その玉木は、校門の前に待ちかまえていた教師たちに、始業前に連れ去られていった。
 たまたま通りがかった顔見知りの放送部員の話しだと、
「いつもの事です。
 半日か一日、教師の監視付きでお説教と反省文責めにあうだけですから」
 などと澄ました顔をして解説してくれた。
『……こいつら……慣れているのか? こういうことに? 常習犯なのか?』
 つき合わされる教師たちのほうこそ、いい迷惑だ……と、荒野は心底同情した。
 玉木に、ではなく、職務に忠実な教師たちに。

 いつもの通りに午前中の授業を終え、給食を平らげ、美術室に向かう。特に早食いするつもりがなくても、荒野は食べるのが早い。いつもなら、長すぎる昼休みは時間を持て余すものだが、この日は幸いなことに香也と美術室で落ち合うことになった。
 荒野に少し遅れて美術室に入ってきた香也は、香也の腕を引っ張るようにして美術準備室に入り、急いで鍵をかけた。美術部員である関係で、合い鍵を渡されているらしい。
 いつもとは違った香也の様子に少し引き気味になりながら、荒野は、香也に尋ねた。
「……昨夜……あるいは、今朝……なにか、あった?」
「……今朝、起きたら……」
 そう尋ねられた香也は、じわり、と目に涙をためる。
 とぎれとぎれで前後する香也の話しをまとめると、
「……パジャマが半ば脱げかかっていて……隣りに、ガクが寝ていた……」
 ということらしかった。
 もちろん、香也には、なぜそんなことになっているのか、まるで理由がわからない。香也が熟睡している間に、ガクが布団の中に入ってきて、香也のパジャマを脱がせた、としか思えない。
 さらにまずいことには……香也を起こしに来た孫子と楓に、その現場を押さえられたのだ、という……。

 一通りの事情を理解した荒野は、目眩を感じた。
『……放課後になる前に、ガクに話しを聞いておいたほうがいいな……』
 と、荒野は判断する。
 今日の放課後、昨日の騒動のペナルティとして玉木にマンドゴドラのケーキを奢らせる約束をしていた。
 今の状態で、三人娘、楓、孫子、それに玉木……という面子を一カ所に集めることは……。
 ニトログリセリン貯蔵庫内で、あえて喫煙行為をするようなものだ。
 荒野は、午後の授業はさぼって、学校の外にガクを探しに行くことにした。

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彼女はくノ一! 第五話 (18)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(18)

 家に着いてからもガクは、こんこんと眠り続けた。
 しかたなくノリとテンが玄関で有働からガクの身柄を預かり、二人で風呂場まで運んでいく。脱衣所でガクの服を脱がし、風呂場に運び入れてシャワーで冷水を浴びせると、ようやく、ガクが悲鳴をあげながらとび起きた。
 首を振って髪にかかった水滴をはらっているガクに、
「顔、ちゃんと洗ったほうがいいよ……」
 と、ノリが手鏡を手渡す。
「……顔?」
 ガクは、首を傾げつつノリから手渡された手鏡を覗き込んだ。
 一瞬、息を呑んでから、
「……なんじゃこりゃー!」
 と、絶叫する。
「……すごいよね、今のガクの顔……余白が残っていたら、ボクもなんか描いたのに……」
 二人のそばで成り行きを見守っていたテンが、いかにも残念そうな声で呟いた。
 最初にガクの顔に落書きをした孫子は、素知らぬ顔をして湯船に浸かっている。
 同じように湯船に浸かりながら、楓はテンのほうから視線を逸らしている。
 テンは、洗顔石鹸を盛大に泡立て、執拗に顔を洗い始めた。

 風呂から上がる頃には、落書きのほとんどをなんとか落とすことができた。洗いすぎて、顔の皮膚がひりひりしたが、顔一面に落書きをつけたままよりは、よほどマシだ。
 それからみんなで夕食いただき、それが終わると、今度は荒野が皆をマンションのほうに誘った。
 ノリ、テン、ガクの三人は荒野たちのマンションの中に入るのは初めてだったので、物珍しそうにキョロキョロあたりを見回した。有働と玉木も荒野たちのマンションに入るのは初めてだったが、何の変哲もない室内の様子よりも関心を持っている懸念事項があったため、三人のようにキョロキョロあたりを見渡す、ということもなかった。
 茅が紅茶を用意しているうちに、とても成人にはみえない三島百合香という小さな女性(前に荒野に聞いた通り、自分たちより小さいくらいだな、と、三人は思った)が分厚い封筒を持って騒がしく入ってきくる。
「全員揃ったから……」と前置きをし、荒野はまず「今日の騒ぎの元凶は、玉木の号外だから……」と、、玉木に、「明日にでも、迷惑をかけた全員にマンドゴドラのケーキを奢るように」と申し渡した。
 玉木は「……ケーキくらいなら……」と不承不承頷き、三人の少女は無邪気に歓声をあげた。

 それから、荒野に即される形で、有働と玉木が、今日、不審に思ったことについて、その場にいた全員に説明した。
 それは、三人と楓と孫子が抗争した際にでた騒音とか、目撃者の証言とか、遺留品などの物証とかだったが……確かに、「……適当にごまかせない所まできているな……」と思わせるだけのものを、玉木と有働は掴んでいた。
 荒野は、この土地に来てから今までのことをかいつまんで玉木と有働に話して聞かせた。途中で、三島が、楓が、才賀が、口を挟み、荒野の話しを補完していく。
 ついでに、孫子が半壊したライフルをゴルフバッグの中から取り出したり、あくまでマンションの室内でも可能な範囲内で楓や三人が軽くトンボを切ったり棍を振り回して演舞して見せたりした。
 室内でも可能な範囲、とはいってもこの面子が間近で動くとなると、風圧だけでも十分な迫力と説得力がある。なにしろ、平然と発射されたライフル弾をたたき落としてしまう連中なのである。

 そうした本物の持つ迫力に気圧された、というわけでもないが、玉木と有働は、時折質問をした以外、おとなしく荒野たちの話しを聞いていた。
 延々と、自分たちが漠然と予想していた以上に詳細な内容を当事者の口から聞いているのだが、玉木と有働はそのことに対してはむしろ、感謝するよりは呆れ返っているように見えた。
 あるいは、次々に提示される情報量が多すぎて、頭の中で処理し切れていないようにも、見えた。
 新参者の三人も、今まで荒野、茅、楓、孫子の事情についてよく知らず、また、理解しようという努力もしていなかったので、荒野たちの話しをかなり興味深く拝聴することができた。
 話しが現在、つまり、学校に通いはじめて、四人が現在の境遇と生活になんとかなじみはじめた時に、自分たち三人が来て……今日の騒動が起こって……収束する……というところまで済んだ時、荒野は、
「……そんなわけで、おれたち、このまま静かに普通の学生として暮らしたいだけなんだ……協力してくれると、有り難い……」
 と、玉木と三人に向かって頭を下げた。
 今日の騒動の元凶となった「号外」を作った玉木、楓と孫子をたきつけ、対立させて騒動をさらに大きなものにした三人は……荒野が淡々と事情を説明し、命令や強制をするのでもなく、素直に頭をさげて「お願い」をしてきたことで、かなりばつの悪い思いを味わった。

 話しがだいたい終わった時には、あと数十分ほどで日付が変わる、という時刻になっていた。
「……残りの話しや質問があったら、明日以降に……」
 ということになり、玉木は有働に送られて、後の面子はそれぞれの居場所に帰っていく。
 とはいっても、三島は同じマンション内の部屋だし、他の人々はお隣りの一軒家という至近距離だったが。

 三人組と楓と孫子は、物音を立てないようにそっと玄関から家に入り、それぞれの部屋に戻る。楓と孫子は狭いながらも個室を与えられており、三人は、共同で一部屋を使っている。
 三人は押入から布団を出して敷き、今日、真理に買ってもらったばかりの真新しいパジャマに着替えて布団の中に潜り込む。
 昼間暴れ回り、夕食後にも荒野たちのマンションで長話につき合っていたため、披露の溜まっていたノリとテンは軽い寝息をたててすぐに熟睡し始めた。
 夕方に熟睡していたせいか、ガクだけがいつまでも眠ねず、かといってすぐ隣りに寝ている二人を起こす気にもなれず、布団の中でにじんまりともせずに過ごした。
 しばらく目を閉じて寝返りをうつなどしていたが、ついにどうにもじっとして横になっていることに飽きてしまい、他の二人を起こさないようにそっと寝床を抜け出して部屋をでる。
 寝静まった家の中で他にすることもなく、いきたくもないトイレにいき用を足す。
 それでも一向に眠気が訪れないので、足音を忍ばせてこの家の人々の寝顔を覗いて廻る。
 真理、羽生、楓、孫子……楓と孫子は、平常時であれば自分が眠っている所に誰かが侵入してくれば、すぐそれと察知し飛び起きる筈だったが、この日ばかりは久方ぶりに全力を尽くして戦ったので、ガクが忍び込んでもぐっすりと熟睡したままだった。
 孫子の部屋で一瞬、「……落書き、しちゃおうかな……」と考えないでもなかったが、楓と孫子を怒らせるとどういう怖い目にあうのか、風呂場で湯船に浸かっていた時、仲間のノリとテンに延々と聞かされていたので、あやういところで思いとどまる。
 最後に入った香也の部屋で、急に昨夜の風呂場での出来事を思い出し、カッと体が熱くなる。
『……昨日は、なんかみんなはしゃいでいたなあ……』
 香也が、家族同然に育った「じっちゃん」以外に、はじめて間近に裸をみた異性であるから……という照れ隠しが、大きかったのだろう……とは思うが……。
『……自分で、自分のあそこ……お兄ちゃん鼻に擦り付けちゃったんだよなぁ……』
 そんなことを思いながら、寝ている香也に顔を近づけ、まじまじと顔を見つめる。
 それだけで、心臓が大きく脈打った。
 見ているうちにどんどんおかしな気分になってきて、慌てて香也の顔から目をそらす。
 すると、今度は首筋に目がいく。
『……ちょっとくらい、いいよね……』
 真冬の、夜中である。
 じっとしていると、流石に寒い。
 ガクは、そっと香也の布団をめくり、その中に潜り込んだ。
 香也の体温で暖められた布団の中は、暖かかった。
 それ以上に、香也の匂いがした。
『……お兄ちゃんの匂い……』
 ガクが香也の首筋に顔を密着させても、香也は目を覚まさない。
 ガクは、香也の胸のボタンをそっと外し、香也の胸に耳を密着させる。
『……お兄ちゃんの、体温……お兄ちゃんの、心臓の音……』
 そうしていると、それまでまるで眠くなかったのが嘘のように、猛烈な眠気に襲われた。
 ガクは、特に深く考えることもなく、そのまま香也の胸に顔を密着させて、眠りはじめる。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(59)

第五章 「友と敵」(59)

「……あれ……まだあった筈……だけど……」
 少なくとも、捨てた憶えは、なかった。
 自室に入った羽生譲は、パソコンのLANケーブルなどをかき分けて押し入れの荷物を片っ端から出し始めた。
 古着などを入れっぱなしにしている段ボールを開け、ごそごそとなにかを探している。
『……楓ちゃん……あの制服で明日、学校にいくのはきつかろう……』
 そんなことを、羽生譲は思っていた。
『……喧嘩も、たまにはいいだろうけど……』
 ……なにも、制服のままで暴れることはないよなぁ……。

 結局、部屋中を古着だらけにしながらも、楓たちが風呂から上がるまでには、目的のものを取り出すことができた。
 昔、羽生譲が、楓たちと同じ学校に通っていた時に着用していた、制服。それに、鞄。
 楓の制服はどうしようもないほどに汚れていたし、鞄は、いったいどうやったら短時間でここまでボロボロにすることができるのか、疑問に思うほどの惨状だった。制服のほうに関しては、クリーニングにでも出せばきれいになるだろうが、鞄のほうは……。
『……まだ、新品だったのに……』

 羽生が押し入れの奥から発掘してきたブツを風呂上がりの楓に手渡すと、楓はしきりに恐縮して、何度も何度も羽生に頭を下げた。
 ひとしきり楓に頭を下げられてから、羽生は、ちょいちょいと楓の目の届かない所まで、孫子を手招きする。
「……鞄、あの状態だろ?
 教科書やノートはともかく、ほかの……例えば、シャーペンの芯とかは、まず全滅だと思う……」
 と、孫子に耳打ちする。
 孫子は、それら文具関係に関しては、すぐに新しいものを楓に渡す、と断言した。

「……他のものは、実はよく分からないんですけど……」
 それから居間に入ると、玉木のツレだという有働という大柄な少年が、炬燵の上に重そうなビニール袋を置いて、荒野に顔を向けて静かな口調でなにかいっていた。
 手に、なにやら細長い金属片を持っている。
「……例えばこれなんかは……先のほうに、刃がついています。
 あちこちに散在してたし、最初は工作機械の部品かなんかがぶちまけられただけなのかな、って思いましたが……幾つかは、コンクリートの壁とか塀、それに、道路のアスファルトに、突き刺さっていたんですよね……。
 で、自分でも一つとって、実際に、投げてみたら……実に、投げやすいバランスなんです……。
 はじめて手にするぼくが、こう、ダーツ投げの要領で投げても……だいたい、狙った所に飛ぶんです。
 おまけに、ダーツの矢とは、比較にならないくらいに、重い……」
 ……これ、手で投げることを前提にした、武器、でしょ?
 と、かなり真面目な顔をして、有働は荒野に詰め寄っていた。
「……難しい話しは、後々……」
 その時、タイミング良く玉木が居間に入ってくる。
「晩ご飯できたから、炬燵の上、片づけて……。
 ウドー君、その辺のことに関しては、後でカッコいいほうのこーや君が、ちゃんと説明してくれるっていうから……まずは、お食事にしよう……」
 そんなことをいっている間に、香也も帰宅し、先に風呂に入った連中も髪を乾かして居間に集まってくる。

 その後の食事は、いつもと同じような感じだった。
 人数が増えた分、騒がしさもいつもより増したことを除いては。

 食事の後、
「……うちじゃあちょっと狭いけど……」
 といいながらも、荒野は、楓、孫子、ガク、テン、ノリの三人娘、それに玉木と有働を、自分たちのマンションに誘った。勿論、茅もついていく。
 狩野家からマンションに移動する途中で、
「……先生、いるかな……」
 といいながら、電話を取り出して三島を呼ぶ。

 こうして、関係者と事情を説明する必要ができた玉木と有働が荒野と茅のマンションに集合した。茅がお茶をいれる準備をしている間に、三島百合香も自室から降りてきた。
「……玉木と有働君は、いろいろと聞きたいことが山積みになっているだろうけど、まずは、聞いてもらいたい……」
 この人数が入るには少し狭すぎるリビングに全員が揃い、ティーカップが人数分回ると、荒野は、そう口火を切った。
「まず……今日の騒動の元凶は、玉木と放送部の号外にあると思う。
 それで、まずは玉木に、迷惑をかけた楓と孫子、それにこの三人に対して、謝罪して欲しい。それについて……玉木にとって相応のペナルティになり、無駄に疲れることをした連中に利益になる方法、というのを……いろいろ、考えたんだけど……。
 玉木。
 明日あたり、お前がこの五人にケーキを奢る、というのはどうだ? マンドゴドラで、食い放題。それくらいしていいくらい、この五人、ボロボロになってたぞ……」
 てっきり、荒野たちが抱える秘密……とやらについて話して貰えるもの……と決め込んでいた玉木は、思わぬ荒野の発言に愕然とし、反射的に反論しかけた。が、……あたりを見回して、即座に思いとどまる。
 三人娘は目を輝かせ、期待の籠もったまなざしを玉木に向けているし、楓と孫子は、未だ敵意の衰えぬ視線で、玉木の顔をみつめている。
『……いかん……』
 なんとなく、ここで「のー!」とでもいったら……無事では済まないような、そんな予感がひしひしとしてきた……。
 しかたなく、玉木はこくこくと頷く。
 三人娘が「わーい!」と無邪気に喜びの声を上げる。
 この時点で玉木は、三人のケーキの食べっぷりについて、予備知識を持たなかった。
「……マンドゴドラ、今度からカードでの支払いも大丈夫になるんだって……分割払いも、多分、大丈夫だと思う……」
 玉木が頷くのを確認した後、荒野は、そういって意味ありげににやりと笑った。
「……で、後は、玉木たちが知りたがってた、おれたちの正体についてだけど……」
 その後に続いた荒野の説明は、長くて奇妙で、とても信じられないような話しだった。しかし、途中の質問にもよどみなく返答され、また、その場に居合わせた荒野以外の人々も時折補足説明を挟み、三島百合香は、今までに荒野と茅の行状を記録したテキストのハードコピーまで持参してきていた。
 そんなこともあったので、玉木と有働は、荒野たちの話しを信じないわけにはいかなかった。

 その夜、玉木が帰宅する頃には、深夜といっていい時間になっていた。
 有働が、家まで送ってくれた。
「……あんなの、みんなにばらせないよね……」
「……ばらしても、信じてくれる人、いませんよ……」
 帰り道に、そんなことを言い合った。
 二人とも、今夜聞いた説明を他言するつもりはなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (17)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(17)

 有働勇作と合流した後、玉木珠美は情報交換をする。先に近藤ビルについていた有働は、玉木がその辺の道端で様々な不審物を発見し、種類別にビニール袋に入れて保管していた。
 ガタイがでかくて口べただからなにかと誤解されがちだが、有働はこれで地道な調査とかは得意だし、機転もきく。玉木とつるむことが多いのも、同じ放送部に所属しているからというより、志望する進路がだいたい同じ方面だからだった。性格的な向き不向きを考慮して分業しあうことが多いが、有働と玉木はお互いの能力に対しては全幅の信頼を置きあっている。
 現在、放送部の部員数が多く、時に逸脱をしながらも活発な活動を行っている理由は、この二人が揃っていて、活発に動いているから、という原因によるところが大きい。先日の孫子と徳川の囲碁勝負のように、なにかというとイベントを計画し、実行にまで持っていってしまうバイタリティに引き寄せられた連中が多かった。

 二人して、五寸釘の親玉みたいな細長い金属片や硬いゴムで出来たひしゃげた十字型の破片とか、ビニール袋の中に集められた意味ありげな不審物を覗き込みながら、「さてこれらは、いったいなんのためにここに残されたのだろう?」と揃って首を捻っていると、近藤ビルの中から玉木の知っている子供が二人、寄り添うようにして出てきた。
 近藤ビルに入っているテナントは、地元中小企業の事務所であり、そのビルと子供の取り合わせはいかにもミスマッチだった。共用部分の廊下や階段などには出入りできるだろうが、ビルの中には、子供が興味を示すようなものが、全くといっていいほどない。
 そう思って、玉木がその二人の子供の顔を確認すると、驚いたことに、昨日、狩野家で知ったばかりの……その存在をネタにして玉木が「号外」を作るきっかけになった子供たちだった。三人のうち、ガクは玉木の家で弟と妹の落書き帳になっている。さっき別れたばかりの残りの二人が、揃って、ここにいた。
 二人は、玉木の存在に気づくと、その場に棒立ちになって硬直した。
 その二人のほうから、「オモチャのちゃちゃちゃ」の可愛らしいメロディが鳴り響く。二人のうち、もう一人に肩を貸している方(たしか、テンといった。テンの肩に体重を預けるようにしてすがりついている方が、ノリ)がごそこそポケットをさぐり、携帯を取り出す。
 そして、少し話し込んだ後、
「……かのうこうやから……話しがあるって……」
 と、携帯を玉木に差し出した。
 渡された携帯で加納荒野と話しながら、玉木は、
『……絶対、偶然……ってことは、ないよな……』
 と思った。

 携帯で荒野に指示された通り、四人で一端玉木の家に向かい、まだ目を醒まさないガクを有働に背負わせる。
「女の子の体に公然と密着できるなんて、滅多にないことだぞ。役得だなあ、ウドー君!」
 と玉木が茶化すと、
「……役得と感じるほど、まだ膨らんでません……密着しているからこそよくわかりますが、ほぼ、真っ平らです」
 有働勇作は、真面目な顔をして答えた。
 傍でそんな会話を聞いていたノリとテンは、馬鹿にされていると思ったのか、有働にかみつきそうな顔をしていたが、ガクを背負って運んでくれていることを考慮すると、怒りを表面化できないので、なんとも複雑な情けない表情をしていた。

 商店街のはずれで、学校から帰る途中らしい、狩野香也、樋口明日樹、加納茅と出くわす。
 玉木たちも狩野香也の家へ向かう途中だったし、学校の最終下校時刻をいくらか回ったくらいの時刻だったので、偶然とはいっても、十分にあり得る偶然だった。
 玉木と二人の子供たちは、自分の知っている範囲内で今日の出来事を問われるままに三人語った。それを聞いた香也と明日樹がなんとも複雑な表情をし、茅だけが一人澄ました顔をしている。
 玉木にとって、香也と明日樹の反応はまだしも予測できたが、茅が動揺を露わにしていないことに関しては、違和感を持った。
 そういえば、この茅という子は、あの徳川に、囲碁で圧勝しているのだ。それも、経験はなく、見よう見まねのぶつけ本番だ、と、自称していた。
『……この子が……転入生四人の中で、一番得体が知れないのかも……』
 玉木は、そう思う。
 他の三人も謎や疑問に思う点は多いのだが……他の三人は、それまで経験したことをなんとなく匂わせる言動を、多少の差こそあれしているのだが……茅の場合、そうした「過去を推測させるもの」が、極端に乏しいような気がするのだ。
『……こりゃ……カッコいいほうのこーや君の説明が、ますます楽しみになってきた……』
 どのように予測しても、荒野の説明はかなり突拍子のないものになるだろう。そもそも、今、玉木の前にいる、荒野たち転入生四人組や、それに、この、三人の子供たち……の存在自体が、どうしようもなく、「変」なのだ。
 どこか、嘘っぽいというか、日常性から乖離している、というか……。
 それら、「変」で「非現実的」な人々が、どこから、なぜ集まってきたのか……という説明も……やはり、「変」で「非現実的」なものに、なってしまうのではないだろうか?
 例えば、説明を聞いた後、玉木が容易に信じられなかったり、信じたとしても、玉木自身が「……これは、公表できないな……」と思ったりしてしまうような……。
 そんな、複雑怪奇な事情が、彼らの背後にはあるような気がした。

 狩野家の前につくと、玄関前に、荒野、楓、孫子、が揃っていた。
 軽く挨拶や会話をかわしていると、庭のほうから「バイトの帰りに荒野たちと合流した」という羽生譲もやってきて、玄関を開けて、全員で入ろうとする。
 出迎えた真理は、楓と孫子、それに、三人の子供たちの様子をみて、顔をひきつらせ、その場で「風呂場に直行して、お風呂できれいにしてくるように」と言い渡した。
 汗と埃にまみれた五人の様子は……それほど、酷い有様だった。
 五人が風呂に入っている間に、玉木は例によって自宅から持ち込んだ食材を真理に渡し、真理と一緒に夕食の手伝いをした。羽生譲は奥に引っ込み、香也は明日樹を家まで送りにいった。
 家が自営業をやっている関係上、玉木が弟や妹の食事を用意する機会も多く、本格的な料理をした経験こそないものの、玉木も、包丁の扱いや簡単な味付け程度なら、経験もある。
 今まで一方的に御馳走になってばかりだったので、たまには自分でも手伝いたかった。
 有働は、居間で荒野や茅となにやら話し込んでいた。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(58)

第五章 「友と敵」(58)

「あ、テン? どうした。もう落ち着いたか? ノリは、回収できた?」
 荒野は携帯電話を取り出し、登録してある楓の携帯の番号にかける。楓の携帯は、今、テンが持っている筈だった。
「なに? そこに玉木が来ているって? なんで……って、まあ、いいけど……ちょっと、玉木とかわって。
 あ。玉木? うん、加納だけど……うん。うん。
 そうか……音、か……才賀の銃は消音だけど、着弾音までは消せないもんなぁ……あ。いや。どのみち玉木には説明するつもりだったから。うん。うん。ま、概ねそちらの推測通りなんだけど、詳しいことは、またの機会にな……今は……」
 荒野は、足元でぐったり座り込んでいる楓と孫子を見下ろした。
「……見境なく暴れ回ってくださった大きなお子様約二名、お持ち帰りしなけりゃならないから……。うん。とりあえず、またテンとかわってくれるか?
 おお。テン、どうだ、そっちは。ノリはなんとか動けそうか?
 そうか。お前が肩かせば、家まではなんとかなるか……じゃあ、玉木んところにいるガクは? え? 有働君もいるの? まだ寝てたら、有働君が背負っていってくれるって? うん。うん。まあ、悪いから、ちょっと帰りに玉木の家に寄って、出来るだけガク、たたき起こしてみてくれ。それでも起きないようだったら、ちゃんと有働君にお礼いうんだぞ……うん。うん。
 じゃあ、一端切るから。なんかあったら、連絡くれ。うん……」

「……さて、お前ら……」
 通話を切った後、荒野は足元に蹲る二人の「大きなお子様」たちを軽く睨んだ。
「……なにか、いうことはあるか?」

「大きなお子様」たち約二名……楓と孫子は、肩で息をしているばかりで、まだしばらくはおしゃべりをする余裕もないようだった。
 荒野は大きくため息をつくと、
「……羽生さんにしがみつくくらいはできるな?」
 と確認しながら孫子を羽生譲のスーパーカブの後部座席に座らせ、自分は楓を背負い、半ば壊れかけている孫子のライフルを片手に持つ。
「それじゃあ、羽生さん。才賀のやつ、お願いします」
「ういうい。それよりもカッコいいほうのこーや君、そっちのほうこそ大丈夫か?」
「これくらい、余裕っす。羽生さんが制限速度守ってたら、おれのほうが早く着きますよ」
 荒野がそう請け合うと、羽生は「ほー! たいしたもんだ……」と素直に感嘆した。
 そしで、スーパーカブのスターターをキックし、中州の土手の上を橋のほうへ向かって走り出す。
 その背中を見送ってから、荒野は、楓を背負ったまま、姿を消した。

 狩野香也と樋口明日樹が部活を終え、いつもの時間に帰宅しようとすると、玄関でやはり下校時刻ギリギリまで図書室で粘っていた加納茅とばったり出くわした。
 ごく自然に一緒に帰ろう、ということになる。
「……最近は、トレーニング法とかスポーツ医学の本を読んでいるの……」
 とかいう茅の話しを聞きながら歩いていると、商店街の近くで目立つ一団と合流した。
 玉木珠美と有働勇作……という組み合わせは見慣れたものだったが、それに、三人の子供たちが加わっている。しかも、そのうち一人は有働に背負われて寝息をたてていた。
「……どうしたの、玉木たち……」
 樋口明日樹が三人を代表して尋ねると、
「詳しい事情は、こっちにもよくわからないんだけどね……」
 玉木は明日樹に、困った顔をしてみせる。
 なにかにつけて歯切れのいい物言いをする玉木がこういう表情をすること自体、かなり珍しい。
「……どっちかというと、この子たちのほうが詳しい事情、知っていると思うな……」
 と、玉木はノリとテンを指さした。
 玉木に話しを振られたノリとテンは、
「えーっ……と、ねえ……最初のきっかけは、玉木のおねーちゃんで……」
「孫子おねーちゃんと楓おねーちゃんが怒っちゃって、玉木おねーちゃん襲撃して……」
「二人が玉木おねーちゃん、襲うのを、ボクら勘違いして、いろいろあって……」
「そしたら、みーんな、ぼろぼろに疲れて……やっぱ、喧嘩って、やってもいいこと、一つもないよね!」
 ノリとテンはそういって顔を見合わせ、「わははははは」と無邪気に笑い声を上げた。

 樋口明日樹は、大まかな部分はわかったような気がしたが、細かい部分はどうにも理解が及ばなかった。
 狩野香也は、かなり細かい部分まで想像できるような気がしたが、あまり克明に想像力を駆使するといろいろと怖い想像になってしまいそうなので、深く考えないことにした。
 加納茅は、前後の状況からかなり細密に今日の出来事を想像できたが、なにもいわなかった。

「……そうそう。うちのウドー一号君がな、今日、ある場所で、こんなもんをいっぱい拾ったんだが……」
 と、玉木は、バッグの中から大きめの透明なビニール袋をいくつか取りだして、中身を見せてくれた。
 見覚えのある、楓の六角と手裏剣が、数十個。
 見覚えのない、十字型に平たくひしゃげたゴムも多数。
 破裂した……としか思えない、元はゴルフボールだったらしい物体幾つか。
「……んー……」
 香也は、唸りながら、表情が変わらないように気をつけた。
「……詳しいことは、加納君に、聞いて……」
 香也には、そういうのが、精一杯だった。
「大丈夫大丈夫」
 玉木はけらけらと笑った。
「そのへんの説明は、後でカッコいいほうのこーや君にじっくりとしてもらう予定だから。もうアポ、取っているもんね……」

 全員で香也の家につくと、ちょうど羽生譲がスーパーカブを庭に入れているところだった。
 なぜか汚れてぐったりと生気のない楓と孫子、それにいつも通りの荒野も、玄関の前に集合している。羽生譲が玄関前に戻ってきたところで、戸を開き、全員で「ただいまー!」と唱和した。

 出迎えた真理は、一瞬にして顔を引きつらせた後、女性陣全員に即刻風呂に直行するよう、命じた。

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彼女はくノ一! 第五話 (16)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(16)

 テンは孫子に首根っこを掴まれたまま、つま先立ちの高さにまで持ち上げられる。
 テンを目前にかざしたまま、孫子は楓のほうに突進していった。
 楓は、相変わらず手持ちの六角を景気よく「こちらのほう」にぶち込み続ける。
 逃げ場を封じられ、否応なく六角が降り注ぐ方向に真っ正面から突進していくテンは、ダース単に六角を必死になってたたき落とさなければならないハメになった。一つでも取りこぼせば、命中して痛い思いをするのは自分なのである。痛い思い……程度で済めばまだいいが、楓の投げる六角をまともに自分の肉体で受け止めたら、肉がひしゃげる、骨が砕ける、血管は引きちぎられる……で、最悪を予想すれば、一生引きずる障害を残す……ということも、考えられた。
 テンは、悲鳴をあげながらも必死になって棍をふるい、六角をたたき落としつづける。

 テンの脇に熱く焼けたライフルの銃身が押しつけられる。孫子は、そのテンの脇からライフルの銃身を突き出し、突進しながら、楓に向かって断続的に発砲した。走りながら、ということで、狙い自体は正確さにかけたが、楓への牽制にはなる。
 楓は、孫子の銃撃を見切って身をかわしながら、手持ちの武器を投げつけるペースは落とさない。
 おかげでテンは、それまでの生涯で最大の恐怖を味わうことになった。
 孫子は、楓の目前にまで迫ると、今度はテンの体全体を容赦なく楓に叩きつける。
 楓は孫子に無象長に投げられたテンの体をやはり軽々と避けた。楓は、その場で跳躍して孫子とテンの頭上を飛び越える。
 テンの体は孫子の束縛から逃れ、地面に転がった。
 テンという楯も失い、跳躍中に楓が放った攻撃がいくつか、孫子のライフルに命中しはじめ、耳障りな音を立てた。
 楓が着地する頃には、弾倉を入れ替える間もないし、精密機械でもあるライフルにいくつものシャレにならない衝撃を受けた、と判断したのか、孫子は体のを楓のほうに向き代えながら、ライフルから手を放し、空中で器用に回転させて、まだ熱い銃身を片手で掴む。同時に、もう一方の手で、腰のホルダーからコンバットナイフを抜きはなった。
 楓と孫子が、激突する。
 次の瞬間には、今度はほぼ同時に跳び下がり、五メートルほどの距離をとって一瞬睨み合ってから、お互いの目を見つめ合ったまま、凄い勢いで走り去っていった。

 後に残されたテンは、しばらく地面に座り込んで動けなかった。

 テンが気づくと、いつのまにかすぐ側に荒野が立っていた。
 荒野は「あの二人は、あまり刺激するな」、「落ち着いたら、ノリを回収して帰れ」、「なにかあったら電話で連絡しろ」ということをテンにつげ、自分は「あの二人の様子をみてくる」と言い残して、すぐに姿を消した。

「……おー……うどーちゃんかぁー……どうした、今頃?
 え? 学校? 家に呼び出しの電話はいったけど、例によって居留守つかって貰っている。ま、そっちの件は、明日一日、じっくりとしぼられて反省文大会でもするさ。
 え? 銃声、のようなもの? この近くで?
 近藤ビルって……ああ。あそこのぼろいのか。知っている知ってる。
 うん。つい今し方? ああ。近いし、いくいく。すぐいく。用意したらすぐでてく。
 うん。詳しい事は現地ででね……」
 玉木は電話を切ると、デジカメ、ボイスレコーダー、ビデオカメラ、それに「放送部」のロゴが入った腕章……などの取材用具一式をバッグに詰めはじめる。そして、未だ寝息を立て続けているガクの顔に悪戯描きをしている弟と妹に向かって、
「……おねーちゃん、近所に用事出来たから、ちょっとでてくるな。
 おねーちゃんが留守の間にその子が起きたら、電話一本いれてくれ……」
 と声をかけて家を出た。

 近所の主婦・Aの証言。
「大きな音? 聞いた聞いた。十分くらい前かね。ぱんぱんぱん、って、パンク音みたいなのが何度も続けて……。
 え? あれ、近藤ビルの近く? そんなに近かったの……。
 いえ、事故とかはなかったみたいよ。救急車もパトカーもきてなかったし……」
 OL・Bの証言。
「……聞いた聞いた。うちの会社の入っているビルのすぐ側で大きな音がしたんで、慌てて音のしたほうの窓、開けて外をみてみると、なんか子供が道路の座り込んでた。
 音が出るモデルガンとかで遊んでたのかなーって思って、あまり気にしなかったんだけど……。
 うん。その前後は、全然静かだったよ。いつもの通りっていうか……」
 学生・C、Dの証言。
「その音、帰る途中で聞いただけどさ……」
「すぐ近くで聞こえたんで、二人して音のしたほうにかけてったんだよな」
「そしたら、うちの制服着た女と、軍服……」
「馬鹿。あれ、戦闘服っての。都市迷彩の」
「そうそう。そういうコスプレしてナイフとモデルガンもった女が一瞬現れて、あすぐどっかいっちゃったんだよな……」
「見えたの、ほんの一瞬だったから……夢でも見たんじゃないかと思ったけど……」
「二人一緒に、同じ幻覚みるのというのもなあ……」

 近藤ビルに行くまでの間、玉木は通りががった人々に簡単にインタビューして回る。カメラを廻しさえしなければ、足を停めて付き合ってくれる人の数もそれなりにいた。
 基本的に、この辺の人々は愛想が良く親切だ。事件や刺激が少ない田舎町ということもあり、玉木の「放送部」の腕章をみると、「あれ、結局なんだったの?」と玉木に聞き返してくる者も少なくなかった。
 証言してくれた人々の大半は、「音を聞いた」だけだったが、まれに、その音の前後に、関係ありそうな幾人かの人物を目撃した、という証言が得られた。
 そうした人々の証言に共通しているキャラクターは、「子供」と、「学校の制服姿の女の子」、「野戦服の女」……。
 このうち、制服の女子と野戦服の女は、組み合っている所とか、塀の上を走っているところとかが目撃されていた……。

『……ひょっとすると……』
 玉木は、商店街周辺で、年末、囁かれていたある噂を思い出す。
 ……サンタとトナカイが、以前、ショッピングセンターで暴れた二人組と同一人物である、という噂……。
 その噂は、二人が大量のお客を商店街に呼んでくれるようになった頃から、誰に命じられたわけでもないのに、自然に自粛するような空気が出てきて、すぐに下火なり、今ではほとんど忘れ去られているが……。

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髪長姫は最後に笑う。第五章(57)

第五章 「友と敵」(57)

「……あの分だと、ノリも当分、動けないだろうな……」
「……あと、一人ですわね……」
 孫子も荒野も、「ノリはリタイア」ということに関しては、意見が一致していた。

 実弾よりも危険はないとはいえ、スタン弾といえども、まとも命中すれば、とても、痛い。それこそ、痺れてしばらくはまともに動く気力がなくなるほどに、痛い……。
 だからこそ、「無力化」するための弾丸とされているわけだが……。
「でも……おれのみたところ、最後の一人が、あの三人の中では、一番くせ者だぞ……。
 ……あとの二人は、ある意味わかりやすいけど……テンには、どこか得体の知れないところがある……」
 荒野はそういって孫子に注意を即したが、孫子は、もとより油断をするつもりはなかった。事実、こうして荒野としゃべっている間も、周囲に敵の兆候がないかどうか、必死に探っている……。

 変化は、唐突に起こった。

 荒野がいう「三人の中で一番くせ者」のテンが、慌てた様子で、無防備に孫子たちの前に姿を現す。
 孫子と目があったテンは、「……やっべぇ……」という顔をして逃げようとするが、孫子はにっこりと微笑んで躊躇なく銃撃を開始した。踊るような動作で器用に弾道を読んで避けていくテン。
 しかし、その背後に迫ってくる人影を認めた荒野は、すぐにその場から離れた。
 テンに続いて現れた楓は、遠目にはっきりとわかるくらいに……激怒、している。
 荒野の見立てが確かなことは、楓が次々とテンと孫子の二人に向けて、ろくに標準もつけずに六角を斉射したことからも、証明された。

 紐で連結された六角は、結び目を解いて、強い力で引っ張りながら投擲することで、一度に数十発を放出することができる。もちろん、思い通りに運用するためには、取り扱いに熟練を要するのだが、逆に言うと、重く、持ち運びに不便なわりに愛好する術者が多いのは、扱い方を覚えれば、非常に使い勝手がいいから……ということになる。
 防弾チョッキを着ていても、かなりのダメージを与える弾丸を一挙動で何十発も同時に撃てるようなものだ。
 楓は、一連、二連、三連……と、次々と、六角の弾幕を、二人の方に送り出す。

 可哀想なのは、二人に挟まれたテンだった。
 最初のうちはどうにかこうにか二人の攻撃をかわしていたが、すぐに孫子に、文字通り首根っこを掴まれた。
 孫子は、テンの体を片手で掲げ、もう一方の手に愛用のライフルを構えて、楓のほうに突進していった。
 テンは……いわば、孫子の生きた楯となった。

 うなりをあげて迫り来る何十発もの六角を、棍で片っ端から弾いたりたたき落としたりする。そうしなければ、自分に命中する。背後から孫子に首根っこを掴まれている以上、逃げ場はない。
 結果として、孫子とテンの前の攻撃は、全てテンが弾くこととなったが……テンの顔は恐怖でひきつって、すっかり涙目になっている……。
『……可哀想に……』
 とも、荒野も思わないでもなかったが……よくよく考えてみれば、二人の確執を自分たちのために利用しようとしたことが遠因となって招いた事態でもあり……自業自得である、ともいえる。

 テンの「生きた楯状態」は、すぐに終わりを告げた。
 ライフルを乱射しながら孫子が肉薄すると、楓はすぐに「正面からの攻撃は無意味」と判断したらしく、大きく跳躍して二人の頭上を飛び越え、背後にでる。
 その途中、頭上から若干の手裏剣を放ったが、その攻撃を読んでいた孫子は、もはや無用となったテンの体を放り投げつつ回避し、楓のいる背後に、油断なく体の向きをかえた。
 孫子に放り出されたテンは、その場にへなへなと崩れ落ちた。
 ……どうやら、恐怖で腰が立たないらしい。

「……昨日、二人で逢い引きしていたそうですわね!」
「……さっきはよくも容赦なく集中砲火あびせくれましたのです!」
 楓と孫子の二人は、テンには目もくれず、二人でなんか盛り上がっている。
『あーあぁー……』
 結局こうなるのか……と、荒野は思った。
 二人は、もの凄い勢いでどつきあいながら移動していって、すぐに視界から消えた。
『ようするにあの二人……なんでもいいからきっかけさえあれば……激突するんだよな……』
 普段は隠れているが……あの二人の間には、水面下では、かなり切迫した軋轢がある……。

「……あのなぁ……」
 荒野は、一人残されたテンに忠告した。
「これに懲りたら、今後、あの二人を利用しようなんて思うな……。
 あいつら、黙ってお前らに利用されているような殊勝なタマじゃないから……」
 その場にうずくまったままだったテンは、涙でぐちょぐちょになった顔で傍に立つ荒野をみあげ……無言のまま、大きく何度もかぶりを振った。
「……おれは、あいつらの後、追うから……。
 お前は、落ち着いたら屋上にいるノリを回収しろな……。
 お前、携帯持っているか?」
 テンは再び無言でこくこく頷いて、先ほど楓のポケットから無断で拝借した携帯を示した。
「……それ、楓のだろ……まあ、いいけど。楓には、後でちゃんと謝っておけよ。
 それにおれの番号も登録されているから、落ち着いたら、連絡してくれ……」
 荒野はそういうと、テンの前から姿を消した。

 その日、愛車のスーパーカブに跨ってバイト先から帰宅中の羽生譲は、橋の上で見覚えのある人影を二つ、目撃した。
『……おんやぁ……』
 二つの人影は、飛びはねぶつかり合いながら、羽生の進行方向から来て、羽生が今来た方向へ向かって進んでいく。
『……激しい、既視感……』
 羽生がそう思っていると、案の定、二人を追うようにしてもう一人分の人影がこっちに向かってくる。
 羽生は、交通量が極端に少ないのをいいことに、その場でUターンをし、後から追ってきた人影……加納荒野に追いつき、話しかけた。
「……どしたぁ! カッコいい荒野君! また喧嘩かぁ!」
「また喧嘩、です……まったく、あの二人は……」
 ちょうど、孫子が来た日、楓と激突しているのを見かけた橋の上だった。
 あの時はバイトへの出勤途中、今は、バイトからの帰り、という違いこそあったが……場所も時刻も、だいたい同じだった。
「……もうすぐ、二人ともスタミナ切れになるころなんですがねー……」
 荒野は、羽生のスーパーカブに併走しながら、言外に「……処置なし」というニュアンスをにじませて、ゆっくりと首を左右にふる。

 羽生譲と加納荒野が追跡していくと、二人はあの時と同じように中州の土手のほうに向かい、そこで向き合って激突し、そこで、お互いの体にもたれかかるようにして崩れ落ちた。

 あの時と同じ、「夕日をバックにしたダブルノックアウト」だった。

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彼女はくノ一! 第五話 (15)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(15)

 ノリは、機械的な動作で連続して五個のゴルフボールを眼下の孫子に向けて投擲する。
 モーションこそは機械的なもだったが、ノリの瞬発力にプラスしてスリングを使用したことによる付加加速、さらに上から下に投げ降ろすことによって得られる重力加速度までもが加わって、小さなゴルフボールには膨大な位置エネルギーが集積されている。
 だが……。
『……え?』
 ノリは、我が目を疑った。
 投擲の動作を終えるか終えないか、というタイミングで、孫子が自分の身を地面に投げだして寝そべり、ライフルを真上に向けた。
 まるで、ノリの攻撃を、あらかじめ予測していたかのような、タイミングだった。
『……やばい!』
 地面に横になった孫子と一瞬目があったノリは、慌てて体の向きを変えた。
 このタイミングであの姿勢になった孫子は……容易に、ノリが投げ降ろしたゴルフボールを迎撃できる筈だった。なにせ、ボールは孫子に向かってまっしぐらに飛んでいっている。
 的のほうから真っ直ぐ自分に向かってきているわけで……クレイ射撃よりも、よほどたやすく打ち落とせる……。
 案の定、ノリの背後で破裂音が五つ、立て続けに響いた。
 ゴルフボールに孫子の銃弾が命中した音、だろう。
 だが、ノリにはそんなことを考える余裕すらなかった。
 その、五つの着弾音が聞こえるか聞こえないか、というタイミングで、お尻に、痛烈な打撃を感じ、ノリは思わず悲鳴を上げる。
 そのゴム弾に下から突き上げられるようにして、ノリは屋上の柵を越え、どさりと内側に倒れ込んだ。
 ……お尻が、痛む……というより、ジンジンと痺れるような感覚があり、ノリは、しばらく起きあがれなかった。

『……他愛もない……』
 二人目をしとめた後、孫子は空漠たる心境になった。
 ただ、筋力や速度において一般人より勝る……というだけなら、野生動物と変わらないではないか。この程度の素材に、荒野たちがなんで大騒ぎしているのか、わからなくなる……。
 そんなことを考えながら起きあがると、当の荒野が姿を現す。どうやら、近くでこちらの様子を伺っていたらしい。
「どうやって……真上からの攻撃、察知したんだ?」
 と、荒野が尋ねてきた。
「……影」
 孫子は、ライフルの銃口で地面を指さしながら、答える。
「不自然な影が映ったので……咄嗟に転がって、射撃できる姿勢になったのですわ」
 細心の注意を払い、敵のいかなる兆候も見逃さない……。
 孫子にいわせれば、こんなことは、基本中の基本だった。
 孫子の答えを聞いて、荒野も拍子抜けしたような顔をしている。内心で「聞くまでもないことを聞いた」とでも、自嘲しているのだろう……。
「……あの分だと、ノリも当分、動けないだろうな……」
 孫子もそう思う。
 もともと、衝撃を与えて身動きができないようにするためのゴム弾だった。それが、あのノリという子に、まともに命中している。
 下手をすれば気を失っているし、意識を保っていても、しばらくはまともに動けない筈だった……。
「……あと、一人ですわね……」
 といって、孫子も、荒野の意見に異論がないことを表明した。
「でも……おれのみたところ、最後の一人が、あの三人の中では、一番くせ者だぞ……」
 荒野が、ぽつりと呟く。
「……あとの二人は、ある意味わかりやすいけど……テンには、どこか得体の知れないところがある……」
 テンに対する荒野の評価がどうであろうとも、孫子は、油断するつもりはなかった……。

『……あちゃぁ……』
 その様子を近くに隠れて見守っていたテンは、出ていくタイミングを完全に逸していた。
『……ノリが失敗しても……少しでも混乱してくれれば、まだしも付け入る隙ができたのに……』
 テンは、小さく頭を垂れて、ため息をついた。
『……もう少し粘ってくれよぉ……ノリぃ……』
 そのテンの顔のすぐ前を、銀色の線が走る。
『……え?』
 テンは、疑問に思いながらも予想外の方向からの攻撃を反射的に避けた。
 そのテンを追いたてるように、次々と棒手裏剣が何処からか飛来する。
『……ちょっ、ちょっ、ちょっ……』
 ……このままでは……とは思うものの、テンには、避難場所を選択する余裕はなかった。連射される棒手裏剣の標準は正確だったし、それ以上に投げつけられる速度と頻度が尋常ではない。
 棒手裏剣に追い立てられて、テンは隠れていた場所から飛び退く。
 結果として、すぐに側にいる孫子と荒野の前に、姿を現さなければならなかった。そして、
『……うぅわぁ……』
 孫子と、目があった。
 にっこりと微笑んだ孫子は、テンに銃口を向けて、躊躇なく発砲しはじめる。同時に、何故か荒野が慌てて孫子から距離を取り始めているのを、視界の隅に認める。
『……こ、これって……』
 孫子が発砲しはじめるのと同時に、棒手裏剣の攻撃は、「六角の一斉投擲」に切り替わった。
 姿を現した楓は、見境なく何十発もの六角を、一連、二連、三連……と、一気に解き放ちはじめる。
 ……テンと、孫子のいる方向に向けて……。
『……さ、最悪のパターンじゃん!』
 テンは、楓と孫子に挟撃されていた。

 もともと、「楓と孫子をぶつけ、その隙に二人を攻撃する」というのは、テンの策だった。
 それを、逆用された形だ。
 今まで姿を消していた楓は、テンを孫子の前に追い込んで、孫子とテンが交戦しはじめた混乱を狙って、二人に無差別攻撃をしていた……。

 狼狽しながらも棍をふるって楓の六角を弾き続けるテンの首根っこを、何者かが掴んだ。

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