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彼女はくノ一! 第五話 (122)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(122)

 荒野の提案を佐久間の長が快諾したのなど、まだ序の口で、その後も、楓の思惑などは軽く飛び越した話しばかりが続いた。
 佐久間の長が、荒野の目の前で茅をスカウトする。
 茅は、お返しに、種としての佐久間の衰退、という仮説を披露し、その根拠として、姫のプロトタイプであった佐久間現象のベースが佐久間の体質であることを指摘する。
 佐久間の長は、茅が提示した推測に関する評価は差し控え、控えていた給仕に案内させ、招待客にテーブルにつかせた。
 スープと前菜が運ばれ、やはり佐久間の長が乾杯の音頭をとったが、その後すぐに、荒野の要請され、「姫の計画」の顛末について、涼治が長々と話しはじめた。

 そこで話された内容は……驚くべき、というよりも、もっと悲痛な……もの、だった。
 当初、出生率の低下を是正するために、加納と佐久間が共同で立ち上げた遺伝子改良計画が、他の勢力の介入により歪められ、「より高性能の人間」をデザインするための計画、に、変質しはじめる。
 一方、計画の存在自体を快く思わない一族の者たちが密かに糾合し、研究施設の襲撃を計画する……。

「……結果は、いうまでもないだろう……。
 場数を踏んだ一族の者が……多少の護衛はついていたとはいえ、ほとんど無防備だった研究者と妊婦、乳幼児、新生児の集団を……不意をついて、襲ったんだ……
 それも、当時の責任者が留守の時を狙いすましてな……。護衛として残された人間は、個々に抵抗を試みたが、事前に命令系統を寸断されていたので、悪あがき程度の抵抗しか、できなかった……」
 救援が駆けつけた時には……研究者と被験者を合わせ、五百からいた人員は……数えるほどしか生き残っていなかった……と、いう。
「……ひどい……」
 涼治が話しを区切った時、楓は小さくつぶやいた。隣をみると、孫子も険しい表情を、している。
 テンとガクは……蒼白な顔をして、細かく震えていた。
「……じゃあ……ボクたちは……その時の、生き残り?」
 しばらくして、ガクが、細い声で呟く。
「そうだ……」
 涼治は、即答した。
「……いち早く事態を察知した研究者の一人が……妊婦と子供を、できるだけ多くシェルターに逃し……自分を囮にして、襲撃者ごと、研究施設を自爆させた……。
 そのおかげで、一部の研究者と、研究の成果である何人かの赤ん坊を残し……一切合切が、瓦礫と化した……。
 計画は……その場で、凍結するしかなかった……」
 涼治は太いため息をついた。
「……今まで黙っていたのは……説明せずにすむのなら……その方がいい、と、思ったからだ……」
「……質問が、ある……」
 それまで俯いていたテンが顔をあげ、涼治の顔をまともに見据えた。
「……その、研究所があった場所って、ひょっとして……。
 ボクたちがいた、島?」
 ガクが勢いよく立ち上がり、テンの顔をみる。
「……その通り……。
 よく、分かったな……」
 涼治は軽く頷く。
「ついでにいうのなら……お前らを育てた男は……その当時、研究施設の警護に当たっていた者の……生き残り、だった……。
 襲撃があった時、執拗に抵抗したため、本人もかなり重症を負ったが……リハビリが済んだ後、残された子供たち引き取ってあの島で暮らす、と、言い出した……。
 我々には、その男を引きとめられなかっよ……。
 その男は……そのような襲撃を企図し、実行した一族すべての者……いいや、人間すべてに……嫌悪と、懐疑心を持つようになっていた……。
 子供たちが大きくなり、自分の意志で島をでるといいだしたら……その時は、素直に手放してやってくれ、と頼み……後は、生活物資の補給など、間接的な支援をするにとどめた……」
 その話しを聞いて……楓は、想像する。
 その時の事件は……まだ物心のつく前だった、茅やテン、ガクなどよりも……直接間接に関係していた大人たちのほうに、暗い影を落としているのではないか、と……。
「……茅と……それに、おれの親父は……」
 荒野が、絞り出すような声で、涼治に質す。
「そのことに、どう、関係するんだ……」
「……茅は、その時に生き残った赤ん坊の一人。
 仁明は、当時、加納側から派遣されていた、計画責任者だった。ただ、襲撃があった時は、たまたま研究所を留守にしていた……。
 いや。
 仁明が島を離れた時を選んで、襲撃が実行された、と、見るべきか……」
「親父は……何で、島から離れたんだよ!」
 荒野が、語気鋭く、叫ぶ。
「……お前が、産まれそうだったんだ……。
 難産だった。
 母体か子供か、どちらか、あるいは両方が危ないといわれていた。
 ヘリで本土に向かう途中……」
 涼治は何度目かのため息をついた。
「……襲撃の報と、それに、母親が死んで、お前が産まれた、という知らせが……前後して、ヘリに届いた。
 さまざまな葛藤があったのだろうが……仁明は、結局、ヘリを島に戻させ……数時間後、瓦礫の山に降り立った……。
 そこで、瓦礫に埋もれて泣き声を上げていた赤ん坊に……お前を産んだ女の名を、与えた……」
「……生き残ったのは、ボクたちだけだったの……」
 ガクが震える声で涼治に尋ねる。
「……大人と赤ん坊、合わせて五十人くらいがなんとか生き残ったが、そのうち二十近くが、その時に負った怪我が元で、一日と保たずに、亡くなった。
 残りの三十人のうち、大人は十人。
 大多数が、遺伝子操作をされた卵子を体内に育てていた妊婦だった。研究者自らの子宮を使用している例もあれば、一族とはまるで関係ない、雇われて外部から連れられてきただけ、という代理母もいた。
 その中には……研究所を爆破した男の、妻もいた。その夫婦は……両者とも、佐久間だ。
 成人男性の生存者は……テン、ガク……お前らがじっちゃんと呼んでいた、あの男だけだ……。
 襲撃者の遺体も、瓦礫の中から多数、発見されたが……それで全員だったのか、それとも、逃げ延びた者がいるのかどうかまでは……現在になっても、判然としていない……。
 生き残った赤ん坊のうち、大半は、一族としての形質を獲得していなかった。そうした子供たちは、成長し、一般人と変わらぬ能力しか持たないと分かった時点で、民間の養護施設に順次、送られた……」

[つづく]
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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(38)

第六章 「血と技」(38)

「……なぁ、じじい……」
 食事がはじまってしばらくしてから、荒野は少し大きな声で、隣に座る涼治に語りかける。歓談の場、と主賓の静寂がいうのなら、多少フランクな言葉遣いでもかまわないだろう。
「茅、テン、ガク、ノリ……それに、ガス弾を使ったやらも……一族の遺伝子をもとにして合成された人間、ということで、いいんだな?
 先生は、デザイン・ヒューマンとかいってたけど……」
 それに……根本的な前提になる「姫の仮説」について検証せずにこのまま話しを進めるのは、効率が悪すぎる。
 先ほどの茅と佐久間静寂のやり取りをみても誰も目だった反応をしなかったところから見ても……「姫の仮説」は、この場にいる人々の中では、暗黙のうちに「前提事項」として織り込まれている……と、判断できた。
 そして……その「暗黙」を「公認」に変換するのに、今ほどいい機会はないのであった。
「……そう、だな……」
 涼治は、ゆっくりと首を振る。
「話しても、よろしいですかな?
 佐久間の……」
 佐久間静寂は、ゆっくりと首を縦にふる。
「……それでは、少し長い話になるが……わしの知る範囲内で、話させていただこう……」
 そう前置きをして、加納涼治は、語る。

 ……まず、先ほど、茅が佐久間にした話しだがな……。大筋、あれで正しいといえば、正しいのだが……事実とは少し事なる部分もある。
 遺伝子という概念が一般的となり、ヒトゲノムの解析がはじまったのは、そう古い話ではないが、われわれ一族の首脳陣は、かなり初期の段階から、ヒトによるヒトの生殖を制御する……という考えに、魅力を感じ、少なくはない資金と人材を投入して研究させた。
 つい今し方、茅が指摘した問題はな……特に佐久間のみ、の問題ではなく、一族の共通の課題でもあった。
 必要な形質を備えた子孫を、より多く残すこと……はな。
 確かに、長い年月、閉鎖的な近親交配を繰り返して来た佐久間に、死産が多かったのはたしかだが……他の六主家も、似たようなものだ。
 能力的に、一般人とあまり変わらない子供の比率が……段々と、多くなりはじめ……百年ほど前からとりはじめた統計によれば……このまま世代を重ねれば、われわれの形質は薄まり、もはや一族としては、成立できないようになるだろう……という予測も、でていた……。

 中でも深刻だったのは……加納と、佐久間だ。

 佐久間は、先程も茅がいったとおり、死産の割合が無視できないほど多くなり……。
 加納は、もともと長命ではあるが……その代わり、生まれてくる子が、加納としての形質を受け継ぐ割合が、ひどく少ない……。
 荒野……お前も、同年配の加納に、会ったことはないだろう?
 あれはな……他の六主家と交配を重ねた結果、長命種としての加納、の個体数自体は、激減しているからだ。混血を重ねても、生まれてくる子供に現れるのは、別の六主家の形質をもった子供たちか、あるいは、成長しても、一般人並の能力しか持たない者で……。
 加納の名にふさわしい能力を持つ者は、現在、世界中からかき集めて来ても、一万人を割っている。
 六主家の中で、一番、人工的な生殖技術を欲していたのは……加納、だよ……。

 そのようなわけで、初期の研究は、加納と佐久間が中心になって行われた。加納が設備や資金を用意し、佐久間が、その知力を生かして研究に従事する……と、計画初期は、そのような分担だった。
 しかし、そうした秘密は、長続きしない。
 他の六主家も、われわれが何をしているかに次第に気づきはじめ……公式非公式に、協力や支援をし、同時に、口を出しくるようにもなった。これもやはり、欲得を勘案した上での取引だ。研究の成果を流用させることが、支援の条件だったわけだ。
「この計画に一枚噛ませないと、研究の存在を一般人社会にリークするぞ」という脅迫も、暗に含んでいた支援だった。

 そんな形で、年月が経つうちに、計画は大規模、かつ、複雑なものになり……同時に……次第に、暴走しはじめた。

 当初こそ、低下した出生率を是正するための研究だった……が……その目的が、外部から流入する資金源による、際限ない要請で、迷走しはじめる……。

 基礎研究がおわり、成功率は高くないものの、実際に遺伝子を多少の手を加えることが可能になった段階で……それまで黙って資金をだしていたものたちが、いっせいに、勝手な要求をつきつけはじめた。
 ようは、自分たちに都合のよい性能をもった人間をデザインしろ……ということで……この成果と生まれて来たのが、茅たちということになるのだが……。

 その成果として、実際に特異な形質を備えた子供たちが生まれはじめる頃になると……それでも、まだまだごく一部の関係者以外、秘密だった筈の計画が……噂、という形で、次第に、他の一族の者に、知れ渡るようになる……。
 どうやら、実際の研究にたずさわた者が、故意にリークしたものらしい……と、後になって判明した。

 計画を歓迎するもの、否定するもの、無関心なもの……反応は、さまざまだった。
 ある者は、このままゆるやかに滅びるのがさだめなら……そのまま、なにもしない方がいい、といい……と、達観し、計画を冷笑した。
 また、ある者は、いい機会だから、一族としてアイデンティティを捨て、このまま一般人の中に溶け込んでしまおう、といい……そのまま、足抜けしけを実行した。
 その他の、ごく一部の者が……計画の存在自体に強い不快感を露わにした。
 そして、計画の噂が広まるにつれ……いつの間にか、そうした不平分子は組織だった動きを見せはじめ……しかも、他の考えを持つ一族に気づかれないように、研究所の襲撃を計画した……。

 一方、実際に計画に携わった研究者の大半は……外部の反応には、あまり関心を持たなかった。

 当時、研究の主体になっていたのは、その計画のために、佐久間から選抜され、英才教育をうけた十代から二十代の青年たちであり……彼らは、一族としての技を仕込まれる変わりに、必要な専門知識と実験に必要な機材を与えられ、長年研究所に隔離された環境で生活を続けていた。
 その結果、彼らは、外部……いや、研究以外の事には、あまり注意を払わないような精神性を育てていた。
 もちろん、護衛を含め、研究を支援するための人員も、若干名は配置されていたが……もともと、研究所は、人目を避けるため、他の人々が滅多に足を踏み入れることがない場所に作られていたため、計画の重要度と建築物の規模に比べ、お話にならないほど少数の戦力しか、配備されなていなかった。

 そして、研究がなんとか成果を見せはじめ……次々と遺伝子操作を施された子供が生まれはじめた頃……研究所は、襲撃された。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第五話 (121)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(121)

 荒神たち、二宮の面々とそれに目に涙を浮かべながら「……これ、立派な老人虐待よ、君……」と頭のてっぺんを手さすって中臣の方を意味ありげに見ている野呂竜斎。
 さらに、顔見知りのシルヴィ・姉崎までもが、
「……はぁーい!」
 と片手を上げてかけよってくる。
 シルヴィはひとしきり荒野と会話した後、孫子の方に近づき、荒野の方からは見えないように位置で親指を上にむけ、ウインクした。
「ソンシ……昨日は、Good Job!」
 孫子は最初、シルヴィがなんのことに関して言っているのか理解できなかった。
「……昨日、は……」
 問い返そうとして……昨日の出来事を思い返し……シルヴィが「何に」対して「いい仕事」である、と、いいたいのかに思い当たり……途端にうつむいて赤面する。
 側にいた楓も、孫子とほぼ同時に「そのこと」に思い当たり、同様にうなじまで真っ赤になった。
 茅や三人の立場を考慮すれば容易に想像うきそうなものだが……彼女らの身近にいて、相応の戦闘能力を保有されている楓と孫子は、一族の関し対象になっているらしい……と、この時点でようやく、楓は思い当たった。
『……まいったなぁ……』
 監視する方も、別にピーピング趣味で監視しているわけではなく……楓や孫子の性生活は、結果として知ってしまう……ということなのだろうが……いずれにせよ、気持ちのいいものではない。

「ねーねー、テン……これ、どういうこと……」
「だからね、ガク……」
 すぐ側では、テンとガクがこそこそ囁きあっている。
「……あー……なるほど……。
 様子見している人達は、どこにいるのか、常時確認する必要があるし……」
「そういうこと。
 ボクらがこの先どう動くのか、というのは、一族の人たちにとっては、重要な関心事なんだ……」
 こそこそ囁きあっているようでいて、実は結構、声が大きい。
『……そ、そんな大声で……』
 ふれまわるような真似、しないで欲しい……と、楓は思った。楓は「羞恥プレイ」という概念を知らなかったが、感覚としてはそれに近いものがある。
 例によって、状況をよく飲み込めていないガクに対して、テンが丁寧に解説している、という形だった。

 真っ赤になってうつむいている楓と孫子、その二人をものほしそーな目でみつめている竜斎、その竜斎をジト目で牽制している中臣……以外の人々は、面白そうな顔をして、一連のやり取りを眺めていた。
 基本的に、一族のものは、総じて好奇心が強い。
 周囲の視線が自分たちに集中していることに気づいた楓は、思わず、「うぉっ!」と小さく叫び、慌てて荒野の後を追う。

 荒野と茅は、いつの間にか二人で先行していて、楓たちとは、少し距離が空いていた。
 楓が速足で二人の後を追うと、他の者たちも、ぞろぞろとそれに続く。
 荒野が大きな扉の中に入りかけた所で、楓はなんとか追いついた。
 扉の中はちょいとした広間になっており、長いテーブルにクロスと皿、それにシルバー類がすでに用意されていた。
 少し離れた場所で涼治と立ち話をしていた和服の女性が、荒野の姿を認め、荒野の方に近づいてくる。
 その和服の女性は、「さくましじま」と名乗った。
 現在の、佐久間の長、だそうだ。
『……しじま、って……』
 例によって、どういう字を当てるのか、楓には見当がつかなかった。
『……支島とか、四縞とか?』
 いずれにせよ、珍しい名なので、覚えやすいことはたしかだ。
 それに、同じ六主家の長でも、いきなり人の胸を揉みしだいた竜斎よりは、よほど貫禄がある。
『……そういえば、師匠も……』
 荒神も、二宮の長であることを、楓は思い出した。
 日常的に稽古をつけてもらっている荒神は、楓にとって身近な存在であること、それに、地位よりも体術の凄さのほうの印象が強いので、ついつい荒神の肩書を忘れそうになるが……。
『師匠……実は、凄い偉い人だったんだ……』
 改めて、楓はそう思った。
 ここにいたって楓は、六主家の長、それも体術では他の六主家を圧倒している二宮の頂点に、直接稽古をつけてもらっている……ということが、いかにだいそれたことであるのかを、実感する。
 つまり……それまでは、あまり、そういうことを考えたことがなかった。
『……でも……』
 楓は並んで立っている荒神と中臣をちらりとみた。
 中臣はメンズ・スーツをきっちりと着こなしていて、目付きも鋭い。
 荒神は、量販店で売られているような、ぱっとしないスーツを来て、やぼったい黒縁眼鏡をかけている。つまり、楓がよく知っている、「浩司先生」モードで、ぽやぽやーっとした締りのないほほ笑みを浮かべている。
『……外見的には……』
 中臣さんの方が、よっぽど偉そうだよな……と、楓は思った。

 楓がそんな事を考えている間に、荒野と「しじま」という佐久間の長との会談は進行して行く。
 荒野が現象の身柄引き渡しを明言し、続いて、茅やテンに佐久間の技を教えられる人材を派遣してくれるよう、佐久間の長に要請する。
 佐久間の長は、あっさりと荒野の要請を呑み、すぐに人選にかかるとさえ、いってくれた。
『……あれ?』
 楓は、佐久間の長が、当然のように、荒野に協力的な態度をとっているのをみて、激しい違和感を抱いた。
『佐久間って……確か……目撃者も滅多に残さないような……』
 閉鎖的な、秘密主義の人たちではなかったっけ……と、楓は首を捻る。当然、その技も、門外不出の筈で……。
 と、そこまで考えた所で、楓はようやく、ある可能性に思いあたった。
『……つまり、加納様の戦力を増強することが……佐久間にとっても、メリットがある……。
 と、いうより……』
 荒野と佐久間……いや、この場にいる人々には……共通の敵、が、いるのだった。

 昨日の襲撃を仕組んだ者への対応策として、
『正式な、佐久間の技が……必要となる』
 つまり、佐久間は……楓たちにとっては依然正体不明である、襲撃者にとってなにがしかの情報を掴んでいる……。
『……おそらく……』
 佐久間の技を身につけないまま向かっていったら……対抗できない相手、なのだ。
 つまり……昨日の襲撃者も、すでに佐久間の技をマスターしていて……佐久間は、荒野たちの戦力を強化して、その襲撃者に、ぶつけようとしている。
 そのために……茅とテンに、門外不出の技を、教えようとしている……。
『……そして、加納様は……』
 そこまで読んで……佐久間に、頼み事をしたのだろう……。
 今回の荒野の「頼み事」は、「将来予想される襲撃者との対決」の際、荒野の勢力が、最前線に立つ……ということと引き換えの、バーター取引であり……。
 その程度のことくらいは、この場にいる人間なら、わざわざ口にするまでもなく、暗黙のうちに了解している事項……なのだろう。

 それまで楓は、「上の者の判断に従っていればいい」という立場であり、物事を深く考える、ということを、意図的に避けて来た。
 それが最近、いろいろな出来事があり、自分で見聞して来たことの「意味」を、こうして考えるようになっている……。
 その結果……。
『なんて……物が、見えていなかったんだろう……』
 と、忸怩たる思いを噛みしめる。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(37)

第六章 「血と技」(37)

『分かる、のか……』
 じっと茅に視線を注いでいる佐久間の長をみて、荒野は思う。
 佐久間の長がどれほどの能力を保持しているのか不明である以上、隠し立てしても無駄だろう……とも、思う。
「以前、ある佐久間の術者と接触したことがありまして……」
 荒野は簡単に説明しようとする。
「……その時に見たことを、真似ているだけです。
 術とか技と呼べるほどでは……」
 ……ないと思います……と、続けようとした荒野の言葉を、佐久間の長が、遮る。
「……加納のボンは、ちびっとそろっとしておくんなまし。
 佐久間の技のことは、わてが一番心得ておるんや。
 今は、この娘はんと話したいのどす。
 娘はん……茅はん、いいましたな?
 加納のボンのいうた通り、誰そに習ったとゆーことではおまへん……というのは、本当でっか?」
 佐久間静寂は、にこやかに笑いながら、茅に問いかける。
 一見して柔和な表情であるため、かえって迫力があった。
「本当なの」
 茅は躊躇せず、即答する。
「見て……頭の中で反芻し、基本原理を推測し、実地に試し……自分で、正しい解を探り出したの」
「……そうでっか……」
 静寂は、さらに目を細めた。
「これは今すぐ、とゆーことではおまへんのやけど……。
 茅はん……。
 この先、佐久間の一員となることを、お考えいただけまへんでっしゃろか?」
 荒野は瞠目した。
 佐久間の出方として、様々なパターンを想定していたつもりだが……まさか、顔を合わせていきなり、それも、衆人環視の状況下で、堂々と茅に「寝返れ」とスカウトしてくることは……。
 流石に、想定していなかった……。
「……考えるだけなら……いいの」
 珍しく、茅は数秒、考え込んだ……ように、見えた。
「でも、期待はしないで欲しいの。
 それに……いくら、佐久間の血が、絶えようとしているからといっても……まだ、時間的な余裕は、何世代分か、ある筈なの……」
 荒野に次いで、今度は、静寂が目を丸くしていた。
「……茅はん……。
 なぜ、佐久間の血が、絶えようとしていると……」
「佐久間は、六主家の中でも、閉鎖的な慣習を持つ。
 源吉がそうであったように、その慣習を嫌い、佐久間から離れる者も多かった筈なの。
 加えて、佐久間の能力は、他の六主家に比較しても特殊すぎる。
 恐らく……その能力を、世代を越えて維持するため、近親婚も盛んに行われていたと考えるの……。
 でも、それは……佐久間の能力を色濃くする為には有効だったけど……長期的に見たら……。
 佐久間の、生物種としての生命力……生殖能力を、確実に落としていた……。
 品種改良された家畜がよくそうであるように、固体として優れた能力を持つ純血より、雑種の方が逞しく、多様な状況に対応でき……結果、そして、生殖能力……つまり、子孫を残す率が、高くなる……。
 そう。推測したの……」
 ここで、茅は一度言葉を切った。
「……この推測に確信を持ったのは……。
 佐久間現象を目の前にして、『読んだ』時……。
 現象は……わたしたちのプロトタイプであると同時に……佐久間の諸元性能を強化したタイプ。
 プロトタイプのベースが佐久間だった、ということは……姫、は……もともと、佐久間のためのものだった……。
 しかも……性能強化は、本来の目的ではなく……おそらく当初は……そう遠くない将来、その特性を維持し続けることができなくなるほど、個体数が減少することを予測し……新しい世代の佐久間を、人工的に殖やそうとする……人工生殖の研究だった、筈なの……。
 でも、その研究が……どこかの時点で、歪んだ……。
 本来の目的から離れ……一族という特殊な遺伝子プールから任意の素材を取り出し、それを組み合わせることに夢中になる者が、出始めた……。
 その結果生まれたのが……茅たち、なの……。
 荒野たちは……姫、と、呼称している子供たちなの……」
「……ほんに、加納のお子たちは、おもろい子がおーいですな……」
 静寂は、茅の答えに、目を細めて頷いた。
「その仮説には……いろいろ言いたいことがありまっけど……長くなるんやさかい、続きは、お膳をしもってにいたしまひょ……」

 静寂がそういって軽く手を振ると、お揃いの服を着た人たちがどこからともなく現れ、荒野たちを席につかせた。
 座る場所はあらかじめ決められていたらしく、荒野は、細長いテーブルの端の席に、もう一方の端には、佐久間静寂が座っている。
 静寂の右には、秦野の男三人。左には、秦野の女三人。
 荒野の右には、茅、楓、孫子。左には、涼治、テン、ガク。
 その中間に、野呂竜斎、荒神、中臣、舎人の三人の二宮、シルヴィ・姉崎の席がある。
 給仕を行う者を除けば、会食の出席者はこれで全部のようだ。

『……考えたな……』
 これだけの距離があると、荒野と静寂が小声で内緒話、ということはできない。荒野が静寂と意志の疎通を図ろうと思えば、間にいる者たちに筒抜けになる。
 つまり……やはり、現象の件はきっかけにすぎず……おそらく、この会食は……佐久間が、荒野たちが「姫」と呼んでいる子供たちについて、他の六主家に説明することが、一番の目的なのだろう。
 その目的のためには……現在、四人の「姫」を預かっている荒野と、佐久間の長の話し合いを、他の六主家に直にみせる……というパフォーマンスが、有効だ……。
『……半分、予測はしていたことではあるけど……』
 それまで姿をひた隠しにしていた佐久間……それも、長が、直接姿をみせる……それも、自発的に、まだまだ若い荒野と話し合うために……というのは……どう考えても、不自然すぎた。
 だから、荒野のことをだしにして、直接自分の口からなにがしかの意志を公式に伝えるためのセレモニーだ……とは、荒野も予測していた。
 その、荒野の予測を裏付けるような、席の配置だった。

「……そろそろ、はじめましょうか」
 グラスに飲み物が注がれ、スープの皿が一通り給仕されると、主催側である佐久間静寂が、大きくはないがよく通る声で話はじめた。
「……この度は、びっくりするほど豪華な顔触れが集まってくださやはった。発起人としては、鼻が高いことでおます。
 皆様、すでにご存じの所とは思いるけど、この度皆様に集まってもろたのは、他かてあらへん。
 先程、加納はんの所のかいらしいお嬢はんがおっしゃりたんや通り、加納はんが、姫、と呼んでいらっしゃるお子たちについて、しゃべるためでおますわ。
 加納の姫様はたいへん利発なお方のようで、先程のお言葉は、ようけの真相をついていらっしゃやはった。
 若干、事実とちゃう部分もありまっけど、その子細については、おいおい、お話させてもらうわ。
 また、不祥事をしでかしたわての身内、佐久間現象を、加納のボンが快く引き渡してくださったことについても、この場をお借りして改めてお礼申し上げます……」
 ここで佐久間静寂は、実際に荒野に向けて、深々と頭を下げた。
「……ともあれ、六主家の主だった者が一堂に会するのも、珍しいことではおますわ。
 後のお話は御膳をいただきもって、そろっと行うことにして……せっかくのスープも冷めますさかい、まずは皆様、ごゆるりとご歓談おくんなはれ……」
 そういって静寂は手にしていたワイングラスを掲げ、「一族の未来に」対して、乾杯の音頭をとった。

[つづき]
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彼女はくノ一! 第五話 (120)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(120)

 山中の狭い道をいくらかいった所で、楓たちが乗ったリムジンが止まる。
 他に建物は見当たらなかったから、あのこじんまりとしたコテージ風の建物が目的地なのだろう、と、楓は見当をつけた。
 運転手が外に出る前に、外に居たスーツ姿の人影が、ドアを明けてくれる。先に出た荒野が、出迎えた人となにやら話し合っていた。
 暴走したガクを取り押さえる時、短いやり取りをした人だ……と思い、楓が近寄って挨拶しようとすると、その人に手で制される。
「そういや、あんときは名乗りあってもいなかったか……。
 ま、中に入れば、そのうち自己紹介大会もあるだろう。それまで待っとくんだな、お嬢ちゃんたち……」
 そういって、その男は、太い笑みを浮かべる。
「お嬢ちゃんたち」と、複数形なのは、後続のリムジンに乗っていたテンとガクが楓のすぐ後ろにまで来ていからだ。
 テンとガクも、楓と同様、出迎えの男に声を掛けようとして、出鼻を挫かれた形である。
 ひょっとしたら……この間のことを、照れ臭いと思っているのかも、知れない……と、楓は思った。
 テンとガクにしてみれば、男に礼の一つも言いたい筈で……おそらく、男は、面と向かって他人に感謝されることに慣れていないのだろう……と、楓は推測する。
 胸もぶ厚いし、顔の造作も全体的に大作りな人だった。
 荒野はその人を「とねりさん」と呼んでいた。それに、この間、テンと話していた内容は、その場にいた楓にも聞こえていた。
『……二宮の、とねりさん……』
 と、楓はその男の名を記憶する。
 そして、
『……とねり、って、どういう字を書くんだろう?』
 とも、思う。

 二宮舎人は、楓と茅がリムジンから降りると、車内に残っていた佐久間現象の体を肩にかつぎ、荒野たち一行を先導する。
 そして、ホテルに入った所で、荒野がいきなり誰かに抱きすくめられた。
「……こぉぉぉやくぅぅぅん……」
 いや、誰か、はないか……人目を気に掛けず、いきなりこんなことをする人は、一人くらいしか思い当たらない。
 二宮荒神……二宮の長であり、荒野の叔父。楓の師匠でも、ある。
 荒神がこの場にいることは、その地位を考えれば別段不思議でもなんでもなかったが……驚いたのは、その「最強」の荒神に、いきなり攻撃を仕掛けて来た物がいたことだ。
 それも、かなりマジモードの殺気を放ちながら……その割に、標的にされた荒神の方はのほほんと受け流して、まるでダメージはなかったが。
 みると、荒神の抱擁からから解放された荒野は、げんなりとした表情をして、成り行きを生暖かく見守っていた。
 その時の荒野の表情を翻訳して言語化するなら、「……またか……」か、あるいは、「……やれやれ……」といった感じだ。
 荒野の表情を確認し、楓は、
『……この二人は……これが、常態なんだな……』
 と納得する。
 やがてその「常態」が一段落した所で、当の荒神がその女性を、「二宮のナンバー2だ」と紹介してくれた。本来なら荒神がやらねばならない組織維持に必要な作業を、その人がやってくれている、と、説明される。
 メンズスーツをきっちりと着こなしている「二宮のナンバー2」さんは、「なかおみ」という名であるらしい。
 この人の名前についても、楓はやはり、
『……どういう字を書くんだろう……』
 と、思った。
 楓には、古典や日本史の素養があまりなかった。

 二宮中臣を紹介をおとなしく聞いている楓に、背後からいきなり抱きすくめ、胸を揉みしだく者がいた。
 あまりにも突然、だったので、楓は、思わず、「うきゃぁ!」とか「なにするですか!」という奇声を発してしまう。せっかくあつらえたばかりドレスを決めているというのに、この扱いはなんですか、などと思ってしまう。
 楓は肘を背後に振って、後ろから抱きついて来た不埓者を成敗しようとするのだが、その不埓者は楓の動きを完全に読んでいるようで、機敏に楓の攻撃を躱しながら「ぷりんちゃーん!」などと叫んでいる。さらにもにゅもにゅ、わしゃわしゃと、しっかり楓の乳房を鷲掴みにした指が、蠢く。
 肘を振り回す拍子に、「うひょひょ」とかいながら、背後から抱きついている人の顔や頭がちらりと見える。
 丸い輪郭の頭部には、見事に頭髪がない。代わりに、顔の下半分は、白い髭に覆われている。
 それに、背中に押し付けられているお腹の感触から、
『……体も顔も、丸っこいお爺さん……』
 と判断する。
「なんなんですか! このエロ達磨は!
 近寄って来たの、全然分からなかったし!」
 動揺し、その「エロ達磨」を振り払おうとしながら、楓はそんな叫び声をあげる。ほとんど、悲鳴に近かった。
 楓の「気配を読む感覚」の鋭敏さは、荒野と荒神の折り紙付きである。
 実はこの少し前に、荒野が「エロ達磨」の正体について解説しているのだが、動揺している楓の耳には入っていない。
 結局、「エロ達磨」から楓を解放してくれたのは、紹介されたばかりの二宮中臣だった。
 中臣は、長い足を高々と上げ、立て続けに「エロ達磨」の頭上に踵を落とす。
 脳を揺さぶられ、楓を抱きすくめる腕の力が緩んだことで、ようやく楓は「エロ達磨」の腕から逃れることができた。
 素早く、荒野の後ろに隠れる。
 ちらりと孫子、テン、ガクを確認すると、遠巻きにしてみていた。その表情は、呆れ返っているようにも、下手に介入してとばっちりを受けたくない、といっているようにも、みえる。
『……はくじょうものー!』
 と、楓は思った。
「エロ達磨」が真っ先に楓を襲ったのは、楓の胸を揉みしだきながら「ぷりんちゃーん」などと腑抜けた声を上げていたことからみても、楓の胸が、その場にいた女性の中で一番「揉み甲斐」があったからであろう……。
 こうしてセクハラの標的にされやすくなるのだから、胸が大きいのも善し悪しである……と、楓は思った。
「……貴女様が、長の新しいお弟子さんですか。お噂はかねがね……。
 あの老害垂れ流し達磨のことは、一族全体の恥ですからどうかお気になさらず……」
 気づくと、「なかおみ」さんが、淡々と楓に話しかけていた。
 口調と態度は淡々とした者だったが、つい先程までその「老害」に思うさま暴力を振るっていたことを考えると……この人も、案外……。
『……この人だけは、怒らせないようにしよう……』
 と、楓は決心する。
 賢明な判断、といえた。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(36)

第六章 「血と技」(36)

『しかし……野呂の長まできているのか……』
 野呂からも、誰かは様子を見に来るもの……とは予測していたが、いきなりトップが顔をみせたのは、荒野にしても予想外だった。
 二宮はトップとナンバー2がそろい踏みしているわけだが……実務関係の実質的な責任者は中臣の方で、荒神は、荒野が関わっている事、それに単純な好奇心で様子を見に来ただけだろう……。
『ってことは……他の六主家も……』
「……はぁーい!」
 荒野の予測を裏付けるように、シルヴィ・姉が片手を上げて近寄ってくる。
「似合うわー、その恰好も……」
 シルヴィもまた、立場上、ここにいてもおかしくはない……どころか、この会食の場にいない方が、むしろ、おかしい……。
 シルヴィは、姉が荒野たちの動向を探るために貼り付けている、目であり耳、……なのである。
 ともあれ、荒野の加納と合わせ、これで、六主家のうち、四つの者が揃ったことになる……。
『……後は……』
 秦野と、佐久間、か……。
 どちらも、今回の件には、深く関与している。
『六主家が全員集合、か……。
 何年ぶり、なんだろうな……』
 下の者が現場レベルで合流したり共同で仕事をすることは珍しくはないが……今回のように、重鎮が一堂に会しての、実質的な首脳会談、となると……。
 それこそ、荒野が産まれる前の、「歴史」以外に実例がない筈だった……。
 少なくとも、「公式」には……ない筈だった。

 佐久間現象の体を抱えた舎人が先導する形で、荒野たちは奥へと案内される。外から見たときはさほど大きな建物には見えなかったが、こうして歩いていると、広く感じる。いや、調度や内装が重厚な印象を受けるものだったので、なおさら広く感じたのかも知れない。
 建物の規模はともかく、このホテルの内装からは、歴史と風格を感じさせた。少なくとも、一族の主だった者を集めても見劣りしないくらいの……。

「……この奥で……残りの皆さんは、お待ちだそうだ……。
 ホストの佐久間の長、加納の長老……それに、残りのゲストが……」
 そういって舎人は分厚い両開きの扉を開け、荒野たちを招き入れる。舎人自身は、扉の影に隠れた。
 確かに、この面子だと……先ほど舎人自身が自嘲気味にいったように……舎人が、「一番下っ端」になってしまうのだろう……。

 中の広間には、純白のクロスが掛けられた細長いテーブルがあり、その上には皿とシルバーが用意されていた。
 テーブルの奥の方で、涼治と和服姿の女性……三十代くらい、に、見えた……が、立ち話をしている。
 テーブルの奥側の席に、左右三人づつ、秦野の男たちと女たちが、座っている。遠目からでも、性別以外の彼らの見分けはつけられなかった。
『……って、ことは……』
 涼治と立ち話をしていた和服の女性が、ゆっくりとこちらに向かってくる。
 そして、荒野の前で立ち止まり、深々と頭を下げる。
「……遠路はるばる、ご苦労さまどすえ。
 この度はわてとこの若いモンがご迷惑をおかけしたようで、まことに遺憾に思うでわ。
 詳しいお話しはお食事をしもって行うことにして、まずはゆるりと寛いでおくんなはれ……」
 佐久間の長は……佐久間静寂と名乗った。

「……その前に……」
 荒野は、舎人が担いでいる現象を示した。
「この荷物の処置について、話させてくれませんか?」
 日常会話に不自由しない程度に日本語は理解しているつもりだったが、荒野にしてみれば、耳慣れない方言は数秒考えないと意味が理解できない時がある。それ以上に、微妙な、感情的なニュアンスが読み取れない。
 そのためにも、最初に話すべき事を話しておきたかった。
「……若い人はせっかちでっせー……」
 コロコロと可愛らしい笑い声をあげながら、静寂はそう応じる。
「……まあ、いいでっしゃろ。
 お話しを伺いまひょ……」
「うちの長老から聞いた話しでは、こいつの身柄が欲しいとのことですが……正直、こっちでもいつまでも手元に置いておいても邪魔になるだけなんで、このまま、お引き取り願って結構です。
 しかし、それとは別に……」
 荒野は、一気にそこまでいった。
 静寂が頷いて、先を即す。
「……それとは別に、佐久間にお願いしたい事があります。
 すでにお聞きになっているかも知れませんが、こちらで面倒を見ている子の中に、佐久間と同等と思える資質を持つ者がおります。
 これらの者に佐久間の技を仕込む人間を……こちらに、派遣していただきたい……」
 そこで荒野は言葉を切った。
 静寂は、黒目がちの大きな双眸で、荒野の顔をじっと見つめた。
 茅が現象を「読んだ」ように……今、静寂は、荒野を「読んでいる」のかも、知れない……と、荒野は思った。
「あんはんは……若くて……真っ直ぐな子やさかい……。
 そこのお荷物とは大違いどす……」
 静寂は宛然と微笑み、目を細めて荒野を見ながら、そう答えた。
「いいでっしゃろ。
 よくみるとそこの子どもたちも、素直そな可愛らし子ばっかり。
 人をつけても、そんな間違いは起こらへんと思うでわ。
 後で、適切な人選をしておきまひょ……」
 案に相違して、静寂があっさりとそういってくれたので、荒野は、肩の荷が下りたような気分になった。

 まだ、細々とした話し合いは必要だったが……今の荒野にとって、真っ先に解決しなければならない課題は、これであっさりと片付いたことになる。
「……かて、もう初歩的なことは、すでに学んでいる子がいてはるようやけど……」
 そういって、静寂は、茅に目をとめる。

注: 作中の京都弁については、
京ことば変換コンバータ まいどおおきに!Ⅱ
にお世話になりました。
でも……これで、正しいのかかなぁ……。
修正案などありましたら(特にネイティブの方)、気が向いたらコメント欄などにお書き込みください。

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彼女はくノ一! 第五話 (119)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(119)

 一方、別の車両には、才賀孫子、テン、ガクの三人が乗っていた。
「孫子おねーちゃん……」
 車に乗り込むなり、ガクが孫子に話しかける。
「ボクらがいない間に……おにーちゃんと、えっちなことしたでしょ?
 さっき抱きついた時、おにーちゃんから、えっちな匂い……孫子おねーちゃんと楓おねーちゃんの匂い……残っていた……」
 テン、ガク、ノリの三人が「おにーちゃん」といえば、それは香也の事だ。
「……もしそうだったとしても、あなた方には関係のないことです。
 それに……今朝方、看病に疲れて楓と二人で、香也様と添い寝したので……体臭が移っていただけではありませんの?」
 孫子は、平然とそう返す。
「違う!」
 ガクが、短く鋭い口調で、孫子の言葉を否定した。
「体臭だけではなく……えっちな気分になる時の匂いとか……おにーちゃんのえっちな汁の匂い……それに、血の臭いなんかも、混じっていた……」
「……ガクがそういうんなら、本当だろうね……。
 ガクの鼻は本物だし、匂いというのは、結構長い時間、残るもんなんだ……。
 だから、否定しても無駄だよ……」
 それまで二人のやりとりを傍観していたテンが、ここで初めて口を開く。
「つまり……昨日から今日にかけて、ボクらが不在だった隙に……孫子おねーちゃんと楓おねーちゃんは、一緒になっておにーちゃんとえっちなことしたんだ……。
 しかも、どちらか……あるいは、両方、はじめてで、出血もした……」
 テンは、真面目な顔をして、そんなことをいう。
「誤魔化しても無駄なら、否定しませんけど……」
 孫子は、軽くため息をついた。
「いずれにせよ……わたくしたちの関係については、わたくしたち自身の問題であり……あなた方にとやかく言われるべき事柄ではありません……」
 孫子は、決然とした顔をして、そう言い切る。
 さほど強い口調ではなかったが……「口出し無用」という意志は、十分に伝えていた。
「……ふーん……」
 孫子の答えを聞いて、ガクは、思案顔になり……そして、こういった。
「じゃあ……仮に、これから、ボクらのうち誰かが……あるいは、全員が……おにーちゃんとえっちなことをしても、それはボクらとおにーちゃんの問題であって……孫子おねーちゃんは、口出し出来ない、ってことだよね……」
「ロジック的には……そうなるね……」
 テンも、頷く。
 孫子のこめかみに、じわり、と、汗が浮かんだ。
「……で、でも……」
 孫子は動揺を隠すように努めたが、完全には成功していなかった。
「……あなた方は、まだ子どもですし……そういうことには早……」
「早過ぎる、ということは、ないよ」
 テンが、孫子の言葉を遮るように、自分の言葉を重ねる。
「三人とも、もう生理あるし……三人とも、医学的には、もう十分、性行為は可能だから……」
「……もちろん、無理矢理、ってことはしないけどさ……。
 力ずくでいったら、ボクらの誰でも、おにーちゃんなんか簡単に押し倒せるんだから……」
 ガクも、テンに追従するように、頷く。
「でも……アプローチかけて……それで、おにーちゃんがその気になったら、その時は……おにーちゃんとボクらの問題で、孫子おねーちゃんは、口出ししないだよね?」
「そうそう。
 孫子おねーちゃん、さっき、確かにそういったよね……」
 テンとガクは、そんなことを言い合いながら頷きあっている。

 孫子は……ろくな反論も出来ずに、絶句することしかできなかった。
 思い返してみれば……孫子自身は、あの時……楓への対抗意識に駆られたばかりに、薬物を使って香也との関係を迫っている。
 香也の意志を……あまり、尊重している……とは、いえない……。
 少なくとも、孫子は……今まで、香也から甘い言葉を囁かれた経験はないわけで……。
 つまり、客観的に見て……これから、何事か画策しようとしているテンとガクに向かって、強いことをいえる立場ではないのであった……。

 孫子が絶句しているうちに、テンとガクは携帯を取り出して、素早い動作でメールを打ち出した。
「……ボクたち、秦野の人たちほどではないけど、一心同体だから……」
「重要な事は、連絡し合うことになっているの……」
「昨日からのことも、ちゃんとノリに伝えているし……」
「今の孫子おねーちゃんとの取り決めも、今、ノリに送信したから……」
 そんなことを言い合いながら、二人はメールを打ち終え、「メール送信」のボタンを押して、孫子に向き直る。
「「にゅうたんが、おにーちゃんは共有財産だっていってた意味が、今、わかったよ……」」
 テンとガクの声が、重なった。
「「……おにーちゃんさえその気になれば……みんなでえっちなことしても、いいんんだ……」」

 孫子は……狭い環境と人間関係の中で育った三人が、対人関係に対して通常の常識を持たないことを失念していた。ましてや……男女関係に至っては……。
 もちろん、机上の空論的な知識はそれなりに持っている筈だったが……いかんせん、それは、経験を伴わない知識であり……したがって、教えられたモラルに関しても、三人は、あまりリアリティを感じていないようだ……。

 いや。
 孫子自身の過去の行動が……一般的なモラルは、あまり気にかけなくてもいい……という前例と言質を、三人の目前に差し出し、与えてしまった……という気も、しないでもない……。

 孫子は、「育ち」に起因する三人の特殊性を、これまで失念、ないしは、軽視していたことを、痛感した。
『……香也様……』
 油断のならないことになってしまった……と、孫子は、内心で歯がみした。
 このような事になって……一番被害を受けるであろうと予測されるのは……香也、なのであった。

 三人がこの先、香也に対してどのようなアプローチをしかけてくるのか……。
 むざむざ、自分で敵を作ってしまったようなものだった……。

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暗闇で、いきなり手首を掴まれて…… (1)

 暗闇で、いきなり手首を掴まれた。

 主張先で、先方の都合で予定していた打ち合わせがキャンセルとなり、三時間ほどの時間がぽっかりとあいた。
 この炎天下、土地鑑もない場所で、時間を潰す場所を探してうろつきまわる気にもならず、たまたま目についた映画館にぶらりと入った。冷気をもとめ適当に時間を潰せさえすればよかったので、その時、上映していた映画の内容さえ、ろくに確認していなかった。
 座席はがらがらだったから、人気がない作品であったことは、確だったが。おれが駆け込んだ時、すでに予告編がはじまっており、まともに映画を観賞する気もなかったおれは、一列まるごとあいていた場所の真ん中へんの座席の選び、そこにどっかりと腰を下ろすと、すぐに目を閉じた。
 そして、やかましい予告編の音声をものとせず、おれが目を閉じてうとうととしはじめると……。

 暗闇で、いきなり手首を掴まれたのだ。

 おれの右手首を掴んだのは、ほっそりとした細い指、だった。
 はっと目を醒まして、目を開けると、やはり、丁寧に手入れされ、キュアを塗られた小さな手が、おれの手首をしっかりと握っていた。
「こっち、見ないで。
 顔を挙げないでいたら、もっといい思い、させてあげる……」
 吐息が頬にかかるほど間近から、そういわれた。
 機先を制された形で、おれは顔をあげられなくなった。
 いや、実際の所は、おれが何か反応するのより早くに、彼女がおれの手を導いて、自分の太股に押しつけてきたので、その感触に唖然として、言葉をさし挟むタイミングを逸した。
 その女の太股は、汗のせいか表面が微かに湿っていて、しっとりとした感触があった。
「騒がなければ、好きに触っていいよ……」
 耳元で、そう囁かれる。
「あと……顔は見ないで……」
 その言葉を証明するように、おれの手首を掴んだ手は、おれの手を、スカートの中に導く。

 元々、ひどく短いスカートだった。白くて柔らかくて、薄い布地で、おれの掌は、難なくその布地の中に潜り込む。

 スカート中に潜り込んだ指先が、スカートよりもっと薄い布地に触れる。
女は、スカートの上からおれの掌を自分の太股に押しつけているので、おれの指先が、女の股間に触れるか触れないか、という微妙な所で固定されている。

「さ。
 触って。でないと、このまま大声をだすから……」
 冷房はむしろ効きすぎているくらいなのに、おれのこめかみに、じわり、と、汗が浮かぶ。

 来る時にみた限りでは、客の入りは少なかったものの……確に、何人かは居たのだ。
 この体勢で騒がれでもしたら……社会的な意味で、おれはオシマイだろう。
 おれはしかたなく、いわれた通りに、指先を、動かす。手の他の部分は、今では女の両手でつかまれて、がっしりと固定されているので、動かすこともできない。
 おれの右手は、女の股間の上、女の両手にがっしりと手首を固定され、女は、おれのうなじに息を吹きかけるようにして、しなだれかかっている。
 目前のスクリーンでは、不安をかきたてるバイオリンの音色に合わせて、自転車に二人乗りをした若い男女が映っている。その男女がは、いかにも職業俳優らしい端正な顔に苦渋の表情を張り付けて、えんえんと灰色のブロック塀が続く道を、自転車で進み続きける。
 かなりの長回しだ、と、おれは思った。そして、客が入らないわけだ、とも、思った。

 そんなことをぼんやりと思いながらも、おれは指先を上下に動かし続ける。
 おれの指先が、薄い布ごしに、女の性器の割れ目に沿って、動く。

 最初のうち、ざりざりと布ごしに隠毛をかき分けるような感触しかしなかったそこは、時間がたつにつれて、うっすらと湿り気を帯はじめている。
「そう……もっと……」
 今や、女はおれの右腕を抱きかかえるようにして肩に完全に頭乗せている。この体勢では、ハスキーな声は聞こえるが、女の顔は確認できない。
 どうやら、女は、おれの腕ごと指から股間までの距離を調整しているらしい。
おれの指が股間の布地を触れるか触れないか、という今の微妙な位置が、女の「好み」なのだろう。
 おれの指先は、布地ごしに女の敏感な部分を浅く掻く程度にとどまり、おれとしては、その頼りない感触に、どうしようもないもどかしさを感じている。
 しかし、どうやら、女はそうした微妙な刺激がお好みで、なおかつ、おれの都合などは気にかけるつもりはないらしい。
「……んっ……ふっ……」
 と、次第に鼻息を荒くしはじめる。
 首筋にかかる吐息を、妙になまめかしく感じた。
 女は、おれの肩に縋りつきながら、おれの掌を自分のももに押しつけている。女の股間にはおれの指先しか届いていないのだが、それでも、少しでも動きを止めると、鼻にかかた声で、
「……もっとぉ~……」
 と、耳元で不満そうな声を上げられる。
 そんなわけで、おれは、せっせと指先を動かして、その女の下着の正面を刺激した。女の方は、おれの肩に体を押しつけた状態で、ビクビク痙攣しはじめ、おれの指先は女の愛液の感触をはっきりと感じている。
 それでもって、おれ自身はといえば、かなり半端な状態である。

 目の前……というか、すぐ横に、おれの愛撫によってかなーりいい状態になっている女がいて、肩に擦り寄ってきているというのに、おれの方からの手出しは事実上、封じられている。それどころか、女の顔さえ、まだ確認できていない。肩に押しつけられる感触から、女のプロポーションの良さは確認できているが、女の顔を確認しようとして、あるいは、女の別の部分をまさぐろうとして少しでも身じろぎしようというものなら、それを察知した女から、
「駄目! 大声を出すわよ……」
 と、耳元で、音量は小さいが鋭い語調で封じられる。
 そういわれてしまえば、痴漢として逮捕されたくはないから、こちらとしては大人しくいうことを聞くしかない。

 実際の所、生殺しのまま、女の快楽に一方的に奉仕させられる、という状態が、しばらく続いた。
 何のことはない。
 その時のおれの状態は、いわゆる、生殺し、というやつである。
「……何もさせないつもりかよ……」
 おれははじめて女に小声で囁きかける。
 女は、ふん、と鼻で笑った。
「満足させてくれたら、いろいろしてあげてもいいけど……」
「じやあ、おれの手を、自由にしろよ……」
 女は、いやぁ、と、子日を含んだ、妙に鼻にかかった声で答える。
 顔をおれの肩に押し付けたままなので、どんな顔をしているかは分からないが、声の感じとうなじや服装から受ける印象では、随分若い。

「……触れるか触れないか、というところで、ちょこちょこやられるのが、好きなんだ?」
「……触れるか触れないか、というところで、ちょこちょこやられるのが、好きなの」
二人とも小声で囁いていたので、そんなやりとりも、傍目には、カップルがいちゃついているように見えているた筈だ。
 おれが指の動きを早くすると、ん、ん、ん、ん、と、女の鼻息が荒くなる。
 おれの手を押さえつける力が一瞬緩んだので、割れ目にそって指を上にスライドさせる。指先が下着越しに硬くなった小さい突起に触れると、女の背が大きく震えた。
 女は相変わらずおれの方に顔を押しつけるようにしているので、顔は見えない。おれの位置からは、女のうなじが丸見えで、そこから感じる汗の匂いが、少しきつくなった気がした。目を見ると、暗闇の中に浮かぶうなじの皮膚が、以前より艶を増し、スクリーンの光を反射しているように感じた。
 もちろん、おれは、今上映中の映画のことなど、まるで頭に入ってこない。
「……感じさせれば、いいんだよな……」
 女の、おれの手首を押さえつける力が弱まったので、ここぞとばかりおれは右手を跳ね上げて女の下着の中に指をいれる。

 女は、
「ふっ!」
 と、吐息をおれの胸元に吐いただけで、とくに抵抗しなかった。

 女が抵抗しなかったことに勢いづいて、おれは、今までおれの右手の手首を押さえつけていた女の手首を左手で掴み、おれ自身の腿の上に置く。
 もともと、女はおれの肩の上に頭を乗せるようにして寄り添っていたので、女の手をそこまで動かすのは、造作もなかった。

 続いて、とりあえず女の下着の中に突っ込んだ手を動かし、肝心の襞や突起は避けるようにして、その左右の陰毛をかきわけるように軽く撫でてやる。
 手を浮かし気味にして、わざと女の短いスカートが捲れ上がるようにしてやった。
 剥き出しになった女の太股が、スクリーンの光を反射する。
 肌が、白い。

「……もう……強引なんだから……」

 思わず見いってしまったおれは、女の声によって、意識を現実に引き戻される。
 おれは、下着の中に突っ込んだ指を動かして、女の隠毛を掻き分け、中指を第二関節まで女の中心に埋没させる。
 ふっ、と、女が吐息を吐いた。

「……こんなにしてて、何をいってやがる……」
 女のそこはすっかり濡れていて、指はすんなりと入った。入口が緩い割には、途中から急に狭く、きつくなる。
 入口からそのきつくなる部分まで、指を往復させる。女が、おれの腕にしがみついてぶるぶる震えはじめる。おれの腕に、女の胸が押しつけられる。ブラの硬い感触ごしに、ほどよい弾力を感じる。わりと、大きい。

「Cくらいあんの?」
「……え?……はん!んん!」
尋ねると、女が間の抜けた声をだしたので、指の動きをさらに早くしながら、さらに重ねて問う。
「だから……ブラの、カップだよ……」
 女の股ぐらが、じゅっ、じゅっ、じゅっ、と水音をたてはじめる。
「……痛いっ。
 痛いって……そんな、いきなり、乱暴に動かれたら……」
 女が弱々しく呟いたが、おれは、じゅっ、じゅっ、じゅっ、じゅっ、と女のあそこにつき立て続ける。
「こんなに、濡れているのに?」
「濡れていても。
……乱暴にされると……んんっ! 痛いの……」
 じゅっ。じゅっ。じゅっ。じゅっ。
「……だ、だから……そんな……激しいのは、んんっ! 駄目だって!」
 じゅっ。じゅっ。じゅっ。じゅっ。
「……だから、駄目だつて……んはぁっ!」
「あんまり大きい声をだすと、気づかれるよ……」
 おれが指摘すると、女は、「……んー……はぁっ!」と、声を押し殺す。
 じゅっ。じゅっ。じゅっ。じゅっ。
「わ、わかったから!
 もう……好きにしていいから……あっ。はっ。はぅっ! ん! ん!」
 これだけ声を出しても、顔と音量をあげないのは流石だな、と、ぼんやり思った。
「へえ……好きにしていいんだ……」
 おれはそういうと、唐突に手の動きを止め、女の股間からも手を外し、おれの肩にもたれかかっていた女の体を、乱暴な動作で引き離す。
「じゃあ、止める」
 いきなりおれの体から引きはがされた女は、
「……え?」
 といったっきり、絶句して弾んだ息を整えている。
 暗い上、前髪が乱れて顔を覆っているので、顔立ちはよく判別できない。
「脅されてあれこれ命令された上、自分だけ、勝手に気持ちよくなって……。
 こっちには、なに一つ、いいことないじゃん……」
 そういいながらもおれは、女の体をじろじろと値踏みするように見渡す。
 小柄だが、胸と尻は大きい。それに、さっき腕に抱きつかれた感触では、ウエストも引き締まっている。
 顔立ちは暗くて確認できないが……体の方は、上々だ。それに、指の感触では、締まりもいい。
「もともと、ここには時間潰しで入ったわけで……。
 そんなところで痴漢にでっち上げられるなんて、ごめんだね……」
 小声でそういって、おれは、中腰で席をたった。
 映画はまだ上映中であり、完全に立ち上がると、後ろに座っている人たちの視界を塞ぐことになる。
 そのまま出口に向かおうとするおれの手首を、女が掴む。
「……なんだよ……」
 おれは、わざと不機嫌な声を出した。
「ご、ごめん……。
 そんな、つもりじゃあ……」
 女は、涙声になっている。
「……とにかく、おれ、もう出るから……」
 おれは、映画が上映中であるため、小声でそう呟く。
 おれがそう囁いて出口に向かうと、女もおれの手首を掴んだまま、おれの後をついてくる。
 暗闇を抜けて人気のない通路にでても、女はまだおれの手首を掴んだままだった。
「いつまで握っているの、それ?」
 おれがそういって自分の手首を振ると、女は慌てて手を離し、垂れた前髪を描き上げる。
 想像していたよりも若い女だった。
 まだ、二十前だろう。
 顔の造作も……決して悪くはない。鼻の周辺に薄いそばかすが浮いていたが、愛嬌のある顔だと思う。服装がカジュアルなせいもあって、OLか学生、ではないか、と思った。
「……あ、あの……」
 先ほど、おれに命令した時とはうってかわっておどおどした声で、女は呟いた。
「怒って、ない?」
 美人、というわけではないが、あんな痴女めいた真似をして男を誘うような女にも、見えない。
「怒って、って……あのねえ……」
 おれは、喫煙コーナーまで歩いていって、そこのシートに座り、煙草に火をつける。女も、おれの後を追ってとことこ歩いてきて、おれの隣に座った。
「きみ……誰にでも、あんなことやっているの?」
 妙に、気分がいらついていた。
「誰にでも……って、わけじゃあ……」
 女は、顔を伏せて唇を尖らせる。
 なんというか……親や教師に叱られている小学生みたいな表情だった。
 こいつ……予想より、若いのかもしれないな……と、思った。
 女は俯いたまま何も言おうとしなかったので、おれはすぐに煙草を一本吸い終わってしまった。
 そのまま女の返答を待つ理由もなかったので、おれは何も言わず立ち上がり、歩き出す。
 女は、顔を伏せたまま、無言のままついてくる。
「トイレだよ。手、洗いにいくの」
 おれが低く呟くと、女は肩をびくんと振るわせる。
 この女は……さっきまでおれを脅すような真似をしていたのに、今は怖がっているのか?
 そのくせ、おれの後をとことことついてくる。この女がなにを考えているのか……まるで、分からない。
 それまでの状況が状況だったので、不気味にも感じた。
 映画が上映中、ということもあり、通路には誰もいなかった。売店や入り口から遠いこともあり、映画館の係員にも出会わないまま、トイレまでつく。
 おれが男性用のトイレに入っていくと、驚いたことに、女もそのまま中までついてきた。
「何考えているんだ? お前……」
 手洗い場の鏡越しに一瞥すると、女は肩をすくませたが、外に出て行こうとはしない。
 しかたなく、おれは無視することにして、これみよがしに盛大に石けんを泡立てて、手を洗いはじめる。
 すると……。
 女は、いきなりおれの背中に、抱きついてきた。
「こんな所で、いきなり、何すんだよ……お前」
 おれはしゃこしゃこ手を泡立てながら、不機嫌な声を出す。初対面の女にいきなり積極的に攻められて喜ぶのはAVとか作り物の世界だけの話しだ。どんな病気を持っているか分かったモンじゃないし、第一、ストーカーっぽくて、普通は、引く。
「あの……怒らないで、ください……」
 おれの背中に抱きついたまま、泣きそうな声でそういう女。
「あのなー……。
 いいから、出てけ。ここ、男性用のトイレ……」
「な……なんでもしますから……ゆ、ゆるして……」
 ぐずついた声で、それでも、後ろから手を回して、おれの太股とか股間とかをゆっくりとまさぐってくる。
「ほら……ここ……こんなに大きくなってる……」
 おれのソコは、さっきの刺激と、今、背中に感じる女の感触ですっかり硬くなっている。ブラの硬い感触ごしに、先ほど暗闇の中で確認した女の大きな胸が押しつけられていた。
「いや、男だから、生理的にはそうなるけどな……。
 ……って、だから、ジッパー開けるなって!
 淫乱か、お前は……」
 おれは手についた泡を洗い流しながら、答える。
「ら、楽にしてあげようと思って……」
「いらんことするなって。
 初対面でどこの誰かも分からない相手と、こんなところでそんなことをするつもりはない……」
 おれがそういうと、背後から回された手が、がっしりとおれの手首を掴んだ。
「どこの誰か知っている人となら……」
 女はそういって、おれの右手にあるものを握らせる。
「……ちゃんと、してくれるんですね……」
 おれの掌に、ハンカチとパスケースが握らされていた。
 顔の前にかざしてしげしげと見聞すると、パスケースの中には免許証と学生証が入っていた。
 おれはハンカチで手を拭ってから、パスケースを開いてしげしげとみた。
 免許証と学生証によると、女はギリギリ関係を持っても法には触れない年齢で、しかも、おれが出た大学よりよっぽど偏差値の高い四年生の大学だ。学部は比較英文学……って、一体、何を勉強するんだ?
 免許証や学生証についていた写真は、今おれの背中に抱きついている女より、数段幼く、かつ野暮ったくみえる。写真の方は、どことなく垢抜けていないティーンエイジャー、という印象だったが、今おれに抱きついているのは、若くて薄着の、どことなく軽薄な印象を与える女だった。
「……とりあえず、離せ……」
 おれは乱暴に身をよじって、女の腕をもぎ離す。
「びょ、病気もありませんよ……。
 だ、だから……して……ください……好きなこと……」
 女はどもりながら、しかし、何ともいえない強い眼光を放っておれの目を見据える。
 丸顔で、化粧は濃いめだが、別に不細工なわけではない。第一、体が、いい。基本的に細身で、胸と腰回りがいい具合に張っている。化粧の濃さもあって、どこか腰が軽そうな印象を受けた。
 一言でいえば、コンパにでもいけば、それなりに相手には不自由しない外見に思えるのだが……。
 だから、なんでこんな所で? しかもおれなんだ?
 という疑問が、脳裏をよぎる。
「……もっと、その……。
 大学の知り合いとかに、適当な相手とかいないのか?」
 おれは、若干引き気味になりながら、弱気に話しかけた。
 容姿はそこそこだが、映画館の中であんな真似をして、しかも、男子トイレの中までついてくる……というのは、やはり尋常ではない。
 下手に関わり合いにならない方が、無難……と、思えた。

「……どうしてもそういう相手が欲しければ……逆ナンパでも出会い系でも、好きしろ……」
 そういっておれは、トイレから出ようとする。
 おれだって独身だが、こんな訳の分からない相手にかぶりつくほどには、飢えている訳ではない。
「……だ、駄目なんです!
 ……それじゃあ……」
 再び、女は、背後からおれの手首を掴む。
「いざって時に、逃げられちゃうんです……」
 ずりずり、と、女は手首を引っ張って、おれの体をトイレの個室の方に連れて行こうとする。
「見るだけ! 見て駄目なら、それでもういいです……。
 諦めますから……もう少しだけ、つき合ってください……」
 女は、そんな意味不明のことをいっている。
 おれは腕時計で時間を確かめ、ため息を一つついて、結局、女に従った。
 騒がれるのが恐い……というより、このまま映画館の外にでて汗まみれになるのも億劫だったから、見るだけ、というのなら、もう少しつき合ってもいいか……と、思い始めていた。
 女の目的と行動原理は相変わらず不明だったが……今まで話してきた感触から、少なくとも、話しが通じない相手では、ないらしい……と、思いはじめている。
 ただ……一見、大人しそうなこの娘が、何故こんな真似をするのか……という部分は、いまだに理解できなかった。
「さっき、気持ちよくしてもらった分……」
 個室にはいると、女はおれを便座に腰掛けさせ、股間のジッパーに手をかける。
「……気持ちよく、しますから……」
 女は締まりのない愛想笑いを浮かべて、上目使いにおれの顔色を伺う。
「……その前に……」
 おれは、股間に延びかけた女の手首を掴む。
「本当に、病気、ないんだろうな?
 後、どうしてこんな真似をするのか、その理由を聞かせてもらおうか……。
 さっきもいったが、男漁りなら、他にもっと確実な方法があるはずだ……」
 有無をいわさない強い語調でそういうと、女は締まりのない愛想笑いを引っ込め、真顔になる。
「もうー……ここまできて、そういうこと……。
 えらいの捕まえちゃったなぁ……。
 いいよ。理由、みせる。
 その代わり……ここまで来たんだから、逃げないでよね……」
 そういって女は、狭い個室の中で精一杯後ずさり、自分のスカートを捲りあげる。
「……本当……逃げないでよね……」
 そういうと女はスカートの裾を口にくわえ、両手で下着の両端の結び目をほどく。
 下着がおち、白い肌と局部を覆う黒い茂みとが露わになる。
 そして、茂みの上には、蛇が鎌首をもたげて、女の陰部を呑み込もうと、口を開いていた。

[つづき]
■初出: ウラネコの徘徊
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暗闇で、いきなり手首を掴まれて…… 目次

「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(35)

第六章 「血と技」(35)

 会食の場所はホテルだと聞いていたので、てっきり県庁所在地などの都市部に向かうのだと思いこんでいたが、車は建物が少なくなる方向に向かいはじめた。一時間ほど走った後、山中の「ホテル」というよりは、「コテージ」といった方がしっくり来るような二階建ての建物の前で降ろされる。
『……ま、人目は少ない方が都合はいいか……』
 荒野はそう納得し、外にいた男がリムジンのドアを開いたので、外に出た。
「……荒野……」
 リムジンのドアを開けた男が、荒野の恰好を上から下まで視線をさまよわせた末、そういった。
「今夜は、愉快な恰好をしているなぁ……」
「……舎人さんも、呼ばれたのか……」
 スーツ姿の男は、二宮舎人だった。
「……一応、偉いさんの前に出向くわけだから……。
 失礼がないように、と……」
 そういって、荒野は肩をすくめた。
「実は、才賀に一任したら、こうなった」と正直に白状したところで、荒野にはなんの利益はないので、別にくわしくは説明しなかった。
「……おれも、証人、兼、使いっ走りってこってな……。
 多分、今日の出席者の中では、おれが一番下っ端だ……」
 舎人は鼻の頭を掻きながら、そういう。
 そうしたやりとりをしている間に、別の車両に乗っていた孫子、テン、ガクがこっちに近寄ってくる。舎人と面識のある楓とテン、ガクは、声をかけようとしたが、「後で、正式な名乗り合いがあるはずだから……」と、舎人に制された。
 茅と楓がリムジンから出た後、舎人は佐久間現象の体を抱えて荒野たちを先導した。

「……こぉぉぉやくぅぅぅん……」
 舎人に先導されてコテージ風のホテルに入ると、荒野はいきなり横合いから抱きつかれた。
 いきなりこんな事をする者には、荒野は一人しか心当たりがない……。
「あー!」
「荒神さんだー!」
 テンとガクが、荒野に抱きついている荒神を指さした。
「……いやぁ……ぼくが本業に精を出している間に、いろいろあったようだねぇ……」
 荒神はそんなことをいいながら、荒野の肩口に頬ずりしている。
「……油断、してた……」
 荒神に抱きすくめられながら、荒野は、ぼそりと呟く。
 考えてみれば……荒神は二宮の長でもある。
 この場に来ていても、不思議ではない。
「……失礼!」
 小さな囁きが聞こえてきたかと思うと、荒野を抱きすくめる荒神の腕から、いきなり力が抜ける。
「……長……」
 見ると、二十代後半くらいに見える、男物のスーツを着た色白の女性が、荒神の手首を取って背中に回している所だった。
「加納の若様に……」
 その女性の束縛を瞬時に解き、後退する荒神。
 荒神に劣らない速度で追いつめる女性。
「恥をかかせてはいけませんと……」
 荒神と女性が、神速、といっていいほどの速度で拳を交えている。
 しかし、両者とも、相手の攻撃を紙一重で避けているため、腕が宙を切る風切音だけがいたずらに響いている。
「いつもいっているでしょ!」
 女性の足払いが決まった!
 ……と思ったが、一度横転しかけた荒神は、そのまま床に手をつき、腕の力だけで空中に身を躍らせる。
 空中で体を回転させ、足を下にして、着地。
「君たちは、初めてだったね?
 この美女が、二宮のナンバー2。
 不甲斐ないぼくの代わりに実質、二宮の組織を維持している人だ。
 二宮中臣という……」
 荒神は何事もなかったような顔をして、楓たちに男装の麗人を紹介する。
「……若様……。
 帰国したのは存じ上げておりましたが、ご挨拶にも行かず……。
 また、この度は、うちの者がとんだ粗相をしでかしたようで……」
 中臣の方は、やはり何事もなかったように荒野に向かって挨拶を述べていた。
 少し離れた所で、楓たちが呆気にとられている。
『……この程度で驚いていたら……』
 この先、かなり疲れることになるぞ……と、荒野は思った。
 一族の者は、地位が上になればなるほど、人格に「癖」が出てくる……という傾向がある。例えば……。

「うひょひょ……」
「……うきゃぁ!
 な、なにするですか!」
「ぷりんちゃーん!」
「……楓。
 後ろからいきなり抱きついて、お前の胸揉んでいるセクハラ達磨が、今の野呂の長な。
 名前は、野呂竜齊……」
「……ふん! ふん! ふん!」
 楓にセクハラしまくっている野呂竜齊の頭頂部に、二宮中臣の踵落としが立て続けにヒットする。
 その場に倒れはしなかったが、一瞬意識が遠ざかり、竜齊の腕から力が抜けた隙に、楓は竜齊の腕を解き、瞬時に荒野の後ろに移動した。
「な、な、な……」
 楓は、自分の胸のあたりを腕で隠しながら、叫ぶ。
「なんなんですかこのエロ達磨は!
 近寄ってきたの、全然分からなかったし!」
 かなり、動揺していた。
 楓の言葉に、テンとガクがはっとした表情になって、顔を見合わせる。
『……これで、術者としては、一流だからなあ……』
 荒野は、数年ぶりで見るのに、まるで変わっていない竜齊や中臣の姿に半ば安堵する。
 体力とかを総合して考えれば、実戦能力は野呂良太の方が上であろうが……老いたとはいえ、竜齊もまだまだ第一線で通用する実力を保持している……。
 でっぷりと太った体躯に丸顔の禿頭、年齢不詳で顔の下半分を白いヒゲで覆っている甚平姿の竜齊も、以前見たときと全然変わっていないように見えたが……一見して二十代半ばの中臣も、荒野が初めて見た幼少時から、今と同じ外見だった。
 実際には何歳なんだろう……と、尋ねてみたい好奇心も昔はあったが……中臣の実年齢を探る者は、いつの間にか姿を消す……という噂話が、一族の中で広く流布していたので……荒野は、なるべく「そのこと」を考えないようにしている。

「……貴女様が、長の新しいお弟子さんですか……。お噂は、かねがね……。
 あの老害垂れ流し達磨のことは、一族全体の恥ですから、どうかお気になさらず……。
 もうボケが入っていますし、老い先の短い身ですので、どうかご寛恕のほどを……」
 二宮中臣は、楓に丁重に挨拶しながら、同時に、謝罪にかこつけて竜齊への当てこすりをいう、という微妙に巧妙な口上を述べている。
 態度は丁寧だが、根は辛辣……というのが、二宮中臣の性格である。
 また、それくらいのタマでなくては、無責任無思慮無配慮奔放気まぐれな荒神の下で「二宮のナンバー2」など、務まらないのであった。

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彼女はくノ一! 第五話 (118)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(118)

 香也の両脇からテンとガクの柔らかい体が押し付けられている形だった。これだけ密着していると、楓や孫子とは違って、まだ脂肪層が薄いんだなぁ……ということまで、分かってしまうであった。
 あと、二人とも、ブラをしていない……いや、硬いパットの入っていないスポーツブラくらいは、着けているのかもしれないが、ふくらみかけの、あるかないかの膨らみの形まで分かってしまうのだった。
 今、二人の体と香也の体は密着しているので、ぐんにゃりとつぶれてしまっている。ガクのクッションの方が、テンのそれより中身が入っている感じだ。
 そうした、まだ全然女性の体になりきっていない二人に挟まれて抱きつかれていると、特に幼児趣味のない香也もなんとなくそんな気分になってしまう……のだった。
 現実の感触に加え、「二対一」というシュチュエーションから、昨日の昼間の楓や孫子とのあれこれまで連想してしまい、香也は必死になって自制心を総動員し、体が反応するのを抑えようとした。
 今、立ってしまったら、これだけ密着しているのでテンとガクにはすぐにそれと知れる。そして、この場には、楓も孫子も、茅も荒野も、執事さんだか羊さんだかが率いて来たミシン軍団もいるのであった。
 今、この場で……テンとガクに、
「あー。お兄ちゃん、立っているー!」
 とか、大声で無邪気に指摘されたら、なんかまた結構ややこしいことになりそうな気が、ひしひしとした。
 香也はムンクの「叫び」を細部まで克明に思い出そうとすることで、自分自身がいきり立つのを必死で抑えようとした。

「……なにやっているですか?」
 香也を救ったのは、突如現れた楓の一声だった。
 見れば、ドレス姿の楓が、仁王立ちになって香也の方を上から睨んでいる。
 迫力はあったが……不思議に、愛嬌も感じさせる表情だった。
 しかし、テンとガクは楓の登場に別の印象を持っているようで、瞬時に香也から体を離し、正座をしてビッと背筋を伸した。
 二人が離れたことで、香也は、ほっとしたような残念に思うような、不思議な心境になる。
「香也様はご病気なのです。風邪がうつるから、あまりくっつかない方がいいのです」
 楓が続けると、ガクとテンはガクガク頷きながら、
「「はい! わかりましたぁ!」」
 と声を重ねた。
 香也が周囲を見渡すと、少しはなれたところで羽生譲と荒野が苦笑いをしながらこっちをみており、孫子は、いつの間にか持って来た大きなゴルフバッグのジッパーを開かけたところで、何故か手を止めていた。孫子もすでに黒のドレスを着ていたので、衣装とゴルフバッグはミスマッチだ……と、ゴルフバッグの中に何が入っているのか知らない香也は、ふとそう思った。

 それから、ほんの小一時間ほどで作業を終えたミシン軍団が白髪の執事、渋谷さん(香也も、名刺を貰って丁重に挨拶された。順也も真理も不在の今、渋谷の論理によると、香也がこの家の主人代行、ということになるらしい)に率いられ、来た時と同様、統制の取れた素早さで、あっというまに道具を搬出し、姿を消す。
 それから、荒野に率いられて、盛装した茅、楓、孫子、テン、ガクが出て行き、入れ替わりに、三島百合香と飯島舞花が居間に入って来た。
 三島はうどん玉の入ったビニール袋持参で、舞花は珍しく栗田を伴っていない。
 日曜の夜、ということで栗田は自宅に帰っているのだろう。
 その間、香也は、炬燵にあたりながら、盛装した荒野たちや、ミシンを使っていたお針子軍団、執事さんなどのスケッチをちゃっちゃと残ししていく。目新しいものをみるとこうして手を動かしてしまうのが香也であり、もともと症状の軽い風邪も、もう、かなり回復している。
 まだ少し熱っぽい気もするが、こうして炬燵にあたりながら鉛筆を動かしていても、別段体に負担がかかる感触もしなかった。
「……へぇ……。
 こんな格好してたんだ……直にみてみたかったな……」
 香也の前に湯呑みをお気ながら、舞花が香也のスケッチブックをのぞき込んで、そういう。
「……んー……」
 香也は、うなる。
「……なんか、偉い人に会いに行くって……」
「みんなで、おにーさん関係の偉い人にか……。
 そういや、昼間の説明会でもそんなことちらりといっていっけか……」
 自分の前にも湯呑みを置いて、舞花はそのまま炬燵に自分の足を押し込んだ。
「……そっちの方も、直にみてみたかったな……」
「……あいつらの関係者って、何気に濃いやつが多いからな……」
 台所の方から、三島百合香が会話に参加してくる。
「じいさんあたりはまだしもまともなんだが……帽子男だろ、荒神にシルヴィ……源吉のじいさん……それに、捕虜というかお荷物の現象……」
 三島が出会った順番に、指折り数えて行く。
「……確かに、なんというか……個性豊かな人が多いな……」
 やはり台所で動きながら、羽生譲も呟く。
「……一族の偉いさんが集まるっていってたけど……荒神、あれで一応二宮のトップだろ……あれを基準にして他のトップも推し量ると……」
「そういう癖の強い人たち相手に、駆け引きか……。
 カッコいいこーや君も、苦労しそうだなあ……今夜は……」
 年長者二人は、したり顔でそんなことを言い合いあっている。

 一方、荒野たちは、迎えに来たリムジン二台にに分乗して移動していた。
 荒野、茅、楓、それに針を刺されて意識を喪失している佐久間現象が先行する車両に、孫子、テン、ガクの三人が後続の車両に、といった分配である。
 運転席と後部座席はガラス板で仕切られ、後部の客席は向かい合わせになっている。運転手がドアを開て中に案内する際、「冷蔵庫にお飲み物が入っていますので、ご自由にお飲みください」とクーラーのある場所を示してくれた。荒野たちが成人していたら、葉巻でも勧めたのではないか、というほど、冗談めいた豪華さだ。
 そんな待遇を予期していなかった楓は、かえって居心地が悪かが、荒野や茅は平然としている。荒野はぐったりしている現象の体をシートの上に降ろして座らせ、自分もその上に座る。楓が向かい合ったシートの奥の方、現象の正面にすわり、茅がその隣り、荒野の正面に座る。中は足を伸ばしても向い側に座る人の足とぶつからないほど広々としていて、シートのクッションも、ほどよく効いていた。
 楓たちが乗ると、リムジンはすぐに発車したが、ほとんど振動を感じないので、楓は、しばらく発車したことに気づかなかった。車のサスが上等なのと、運転技術が優秀なのと……両方、なのだろう。
「……あのぉ……」
 楓は、ここに至って、ようやく今日の会合の重要さを実感してくる。
「今日、集まる人たちって……かなり、偉い人たち、なんですか……」
 思わず、荒野に上目使いで聞いてしまう。
「佐久間の長とうちのじじい以外に誰が来るのか聞かされていないけど……」
 荒野は、むしろ素っ気ない口調で答える。
「……この現象の件は、むしろ口実で……実質、茅やテン、ガクの、正式なお披露目みたいなものだから……それなりのクラスのが揃うんじゃないか?
 基本的に、一族の上の方のやつらって、好奇心旺盛で物見高いのが多いし……なにかきっかけがありさえすれば、わっと群がって来る……。
 今まで、監視だけですんだのは……多分、姫の存在に、箝口令がしかれていたからだと思う……。
 今回の襲撃で、一般人にも多数の目撃者をつくってしまって……それで、もはや知らぬ存ぜぬ、もできなくなってきたから、今後の方針も含めて、対策を練り直したい……といった所だろうな……」
 荒野の口調はひどく平坦なものだったが……楓には、とんでもなく重たい推測を、さらりと言われたように思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(34)

第六章 「血と技」(34)

 テンが光沢のあるイブニングドレス着ていなければ、ミシンにかぶりつきになっている、という状態もあまり不自然ではなかったのだろうが……。
『……なんか、すっげえ違和感……』
 純日本風の居間に炬燵、茅とガクはどうやらシルクらしいドレス姿、テンはミシンにかぶりつきで、その他の三人は炬燵に入っている。
 唯一、生き生きとしているのは孫子くらいなもので、孫子は職人たちの手元を見ては、細かい指示を与えている。荒野にはとくわからない世界だが、服装に関しては、孫子なりのこだわりというものがあるのだろう。
 やがて、奥に引っ込んでいた楓が出てきた……と思ったら、すぐに取っ捕まって、採寸に連れて行かれた。
 しばらくすると、荒野とガクの分ができた、といわれ、別室で着替える。
「これは……」
 手渡された衣装は、タキシードだった。
 それも、純白の……。
「やり過ぎなんじゃあ、ないか……これ……」
 ぶつくさ言いながらも、荒野は着替える。孫子のため……というよりは、ここまで出向いて来たテイラーさんたちの手前、文句をいうのも自粛した。

 着替えて居間に戻ると、パジャマにどてら姿の香也が、ドレス姿のテンと、紺色のタキシードのガクに絡み付かれているところだった。
 荒野が止めには入ろうとする前に……。
「……なにやっているですか?」
 やはりドレスに着替えていた楓が、明らかに怒った表情で、仁王立ちになっていた。
 楓はオレンジ色のドレスで、こうして立っていると起伏の激しい身体のラインを、ドレスの柔らかい布地がいい具合に隠している。
 楓の声を聞いた途端、香也に取りついていたガクとテンがぴょこんと香也から飛び離れ、その場で正座し、「いえ、別に、何も」と、平坦な口調でいいながら、ぶんぶんと頭を左右に振る。
 以前の何回かの衝突の末、二人は、「楓には逆らわない方がいい」ということを、かなり深い部分で学習している。
「香也様はご病気なのです。風邪がうつるから、あまりくっつかない方がいいのです」
 楓が続けると、ガクとテンは、
「「はい! わかりましたぁ!」」
 と、声を揃えた。
 一部始終を目撃した荒野は、
『……なんだかなぁ……』
 と思う。
 楓が三人組に対する抑止力として機能しているのは歓迎すべきことなのだろうが……それとは別に……なんだかなぁ……。

 試着後の微妙な調整も終わり、才賀家の執事さん率いるテーラー軍団が来た時と同様、ばたばたと一斉に帰って行くと、今度は入れ替わりに羽生譲が帰って来た。
「……おおー。なんだなんだ……」
 荒野たちの格好をみた羽生譲は、目を剥いて驚きの表情を浮かべた。
「……これから舞踏会でもはじまるのか?」
「……いえ、どちらかというと……親類の集まりみたいなもんなんですが……才賀に服装の準備頼んだら、こんなんしちゃって……」
 そういって、炬燵に入った荒野は、軽く手を広げて自分のタキシードを見せる。
「ま、みんな似合っているからいいけど……。
 親類みたいなっていうと、ニンジャの関係?」
「ええ……うちら一族のお偉方と、これからお食事っていうこってす……」
「そうか……みんな、これから出かけるのか……。
 せっかく、玉木さん家から、牡蛎仕入れて来たのに……」
 どうやら、夕食用に買って来たらしい。
「……すいません。
 食材が余りそうなら……飯島とか、三島先生あたり呼ぶといいっすよ」
「……そーだねー……。
 でも、牡蛎は、どうするかな……鍋は昨日やったし……」
「香也君の風邪、まだ直りきってないし、豪華な鍋焼きうどんなんてどうですか?」
「……牡蛎鍋うどんか……麺は……あったかな……先生にひとっ走り買って来て貰うか……」
 そんな会話の合間にも、香也はスケッチブックを取り出して、鉛筆を走らせている。もうだいぶ体調が復調して来た、ということもあるし、珍しい格好をしている同居人たちをみると、どうしても描きたい、という気分になってしまうようだ。
 昨日の昼頃から筆をとっていないので、フラストレーションが溜まっている、ということもあった。

「……さて……」
 しばらくして、荒野が腰を上げた。
「……そろそろ迎えの車がくる時間なんで、ちょっと荷物取って来ます」
「……荷物?」
「今日の、取引材料」
 佐久間現象の身柄、だった。

 念のため、楓と孫子を連れていくつもりだったが、ガクとテンもついて来た。
「なんだ……やはり、引き渡す前に聞きたいことあるのか?」
「ううん。別に」
「ただ、どんな顔をしているのか、見ておきたかっただけ」
 現象の顔を、直に確認したかったらしい。

「現象! 入り口を、開るぞ!」
 マンションに入り、電灯をつけ、全員で入り口を固めて、バスルームの扉を開る。
 現象は浴室に隅に目を閉じてすわっていたが、荒野が入って行くとジロリと白目がちの目を見開いて、睨んだ。
「立て……。
 お前を、移送する。
 針を使わせてもらうぞ……」
 佐久間現象は荒野に逆らう事なく立ち上がった。
「……そのまま、前にでろ」
 現象が何歩か歩いたところで、荒野は素早く現象のうなじに針を差し込む。
 全身の力が抜け、倒れ込む現象の体に後ろから腕を回し、抱え、そのまま前に回り、肩にかついだ。
「……さて、いくか……」
 荒野が、なんでもないようにいって、同行者たちを促す。
「こいつ……かのうこうやのこと、一瞬いやな目でみたね……」
 ガクが、いう。
「ああ……。
 こいつの中では、今は雌伏期間なんだろう。
 将来自由になったら、復讐にくるかもな……」
「……それって、逆恨みなんじゃあ……」
 テンが、尋ねる。
「こいつが襲って来たのを、撃退したって聞いているけど……」
「こいつにとっては……そういう理屈はどうでもいいんだろう。どんな理由があろうが、自分に都合の悪いことを強要してくるやつ、楯突くやつは、すべて敵……そういう、思考回路の持ち主は意外に多い……」
「一族の中にも?」
「一族の中には、そういうのは少ないなあ……。実力差の幅がある社会だから、そういう身の程知らずはいたとしてもすぐに淘汰される。
 そういう心性が多いのは……どちらかというと、一般人の方だ……」
 荒野は、テンとガクに、丁寧に説明する。
 島育ちで、あまり他人というものを知らない三人組は、こういう解説が必要な場合もある。
「……一族に多いのは、自分よりも強いものには媚びへつらい、弱いものにはやたら威勢のいい……小者タイプのサディストだ。
 この現象は……実力差がある相手にでも、玉砕覚悟で向かっていく……」
 なにせ、佐久間と二宮の顔に平然と泥を塗るような真似をするやつだ。
「こいつの性格も、やったことも……到底認めることはできないけど……度胸と図々しさだけは、たいしたもんだと思うよ……」

 荒野が佐久間現象をかついでマンションの下に降りると、ちょうど迎えのハイヤーが到着したところだった。人数が多くなることはあらかじめ伝えておいたので、このような庶民的な土地には似つかわしくないリムジンが二台、連なっている。
 その二大に分乗して、荒野たちは六主家の重鎮たちが待ち構えている会食の場へと向かった。

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彼女はくノ一! 第五話 (117)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(117)

「……そういや、そろそろ進路の話しなんかも出てくる時期だけど、カッコいいこーや君はどうするの?」
 大清水先生の言葉が誘い水になったのか、帰り道、そんな話題になる。
「ニンジャの専門学校、とかあるの?」
「……あるかよ、そんなもん……」
 荒野は苦笑いする。
「ニンジャの専門学校」に一番近いのは、幼少時、同じ年頃の一族の子供たちが集められ、一年近く続けられたキャンプだろう。あの時に、基本的な技が大体たたき込まれた。
「……まだ、ここに居続けられるかどうかもはっきりしないのに……進路もなにもないだろう……。
 そういう玉木はどうなんだ? はやり、進学高狙いなのか?」
 どこまで本気でいっているのか分からないが、玉木は「キー局の女子アナ志望」を公言している。だとすれば、最低限、学歴は必要であるし、それ以外の競争も激しい筈だった。
「……一応、志望は……。
 まだまだ頑張らないといけないんだけど……」
 玉木の顔はひきつっていた。
「……そこいくと、もう軌道にのっている自営業のトクツー君、成績優秀で進学先よりどりみどりの有働君は、気楽でいいよな……」
 名前が上がっている有働と徳川は、帰る方向が違うから、この場にはいない。
「……玉木も、もっと勉強しろよ……」
 荒野は、無難にそういう。やればやっただけ、成果があがる世界ではある。
「……あのー……」
 楓が、おずおずと切り出す。
「どうせなら、また、勉強会みたいなのをやっては……。
 年末みたいに……」
「……あー……それは、いいな……。
 ボランティアの参加者も、それが原因で成績が下がった、とかいったら外聞が悪いし……人数が膨れ上がる分、今度は学校の教室が使えるし……」
 荒野は、楓の提案に頷く。
 学校側も、放課後に生徒が自発的に集まって自習するのを、止めやしないだろう。
「それ、やるのなら、茅も手伝うの」
 完璧な記憶力を持つ茅は、いわば、人間あんちょこともいうべき存在だ。
 このような局面では、さぞや重宝されることだろう。
 そんなことを話している間に商店街の端についたので玉木と別れる。
「……さて、今夜は、これから……」
 玉木と別れたことで、荒野は思考を切り替える。
 今夜は……一族の重鎮との、会談がある。名目上は、荒野たちが確保した佐久間現象の身柄を引き渡すことが目的だが……実質的には、現象を裏で操っていた襲撃者たちの、対策会議だろう……と、荒野は推察している。
 考えに沈む荒野に、孫子が、「着替えたら、家にくるように」と声をかけた。
「……服?」
 そういえば、午前中にそんなことを、孫子に頼んだような気もする。
「ああ……あれか……。
 で、これからみんなで、服屋にでも行くのか?」
「まさか……。
 服屋の方が、こっちに来きますの。もう近くに待機しています。連絡をいれれば、五分もしないうちにこっちに到着しますわ。
 大ざっぱなオーダーは出しておきましたから、後は細かい部分の寸法を体に合わせるだけですわね……。
 本当は時間があった方がいい仕事ができるのですが、今回は急に決まった会合ですからしかたありませんわ……」

 孫子の言葉どおり、電話をいれると、いくらもしないうちに、慇懃な物腰の男女が車で玄関口に乗りつけ、慌ただしくミシンとか布地とか道具類を家の中に入れはじめた。
 炬燵に入ってくつろいでいたテンとガクが、何事かと目を丸くしている。
「……最初は、この二人の分を、お願い」
「かしこまりました、お嬢様」
 渋いおっさんが孫子に恭しく頭を下げる、合図すると、数人が二人の体を抱えて、襖で仕切られた向こう側へと連れていかれる。
「……わっ! ちょっと!」
「くすぐったい!」
 テンとガクの声が聞こえる。
「裁縫に必要な寸法をとらせていただいているだけですので、ご心配には及びません……」
 何事かと……と、棒立ちになっている楓に向かって、孫子に頭を下げていた渋いおじさんが、名刺を差し出した。
「お初にお目にかかります。わたくし、才賀家の家政全般を取り仕切っている渋谷と申します」
 渋谷の名刺には「才賀家執事頭」という肩書が印刷されていた。

 やがて、ガクが解放され、居間に戻ってくる。
 どことなく、虚脱した様子だった。
「どう……だった?」
「ボクは、包帯が目立たないよう……今回は、メンズだって……。
 って、今気づいたけど、今回はってなんだよ! 今回は、って! 次回もありなの!
 ……あっ……テンはドレスだから、体に布を巻き付けてその場で鋏をいれている……。
 知らなかった……お洋服って、こういうふうに作るんだね……」
 今回のはかなり極端な例だと思う……と、楓は思った。
「……そちらの……楓様、でしたな。
 楓様も、準備が出来次第、採寸させていただきたく思います……」
「いっ……今、着替えて来ます!」
 楓は一度直立不動になって、それから自室に戻る。
 学校の制服を着たままだった。
 それにしても……年上の男性に「様」付けで呼ばれ、恭しく扱われることが、こんなにも落ち着かないものだとは……。

 楓が着替えている間に、荒野と茅が到着していた。
 とはいえ、茅の姿は居間にはない。
 ガクの場合と同様、荒野も早々に解放されたが、茅はまだ職人たちにつきあわされている。
 孫子は、どことなく生き生きとした様子で、テーラーたちの仕事ぶりを監督していた。時折、作業を中断させ、短く指示を出したりしている。
 孫子のサイズについては、この場に来ているテーラーならば熟知しているので、いまさら計る必要もない、ということだった。
「……才賀家御用達し、ってやつか……」
「あのおじさん……執事さんだそうです……さっき、名刺貰いました……」
「羊さん? あの、孫子おねーちゃんの家来さん、羊なんだ……」
「羊ではなく、執事だろ。英語で言うと、バトラー……」
 荒野、楓、ガクは炬燵に入って額を集め、なんとなく小声でそんな会話を交わしている。

 いくらもしないうちに、テンと茅が、ドレス姿で居間に戻って来る。いわゆる、イブニングドレス、というやつで……純和風のこの家の居間には、似つかわしくはなかったが……どちらも、似合っていた。
「……殿方の分もできたそうでございます……。
 あちらで、御召し替えを……」
 羊ではなく執事の渋谷さんが、やはり恭しく荒野とガクに一礼する。
「……ボク、殿方ではないんだけど……」
「メンズ、ってこったろ……いいから、さっさと着替えろ……」
 ぶつくさいいながら、二人は別々の襖の向こうに消えた。
「さ。次は、楓様の番でございます……」

「……んー……」
 と唸りながら、どてら姿の香也が居間に姿を現した。そして、居間周辺をしげしげと見回し、
「……コスプレ大会?」
 と、印象を述べて首を傾げる。
 どうやら、いつにない騒がしさを不審に思って、様子を見に来たらしい。
「……おにいちゃんだー!」
 といいながら、ドレス姿のテンが香也の首に抱きつく。
「あっ! テン! ずるい! じゃあ、ボクも!」
 いつの間にか着替え終わったガクも、背後から香也に抱き着く。
 ガクは、紺色のタキシード姿のだった。
 前後からいきなり余分な負荷をかけられた香也は、すぐによろめてしりもちをついた。
 それでも横から香也の首に抱きつき続けるテンとガクは。
「……あなたがた……」
 いつの間にか、孫子が真っ正面に仁王立ちになっていた。
「香也様が、ご病気だということ……分かっているのかしら……」
 孫子の顔は、見事に引きつっていた。
「……えー!
 だって……ほら、熱、ないよ! もう!」
 テンは、これ見よがしに、香也と頬っぺた同士を密着させていう。なにげに、香也の肩のあたりに自分の胸をすりつけていた。
 無邪気さを装って、意外に強引なのであった。
「……熱、ないし……ボクら、一晩、お兄ちゃんにあわなかったし……それに、一晩あわないうちに……お兄ちゃんから、へんな匂いがするようになっているし……」
 ガクの言葉は、後半にいくにしたがって、小さくなっていった。
「……ボクの匂いだって、お兄ちゃんにつけちゃうんだもんね!」
 上目使いに孫子を睨みながらそういって、ガクは香也に体を密着させる。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(33)

第六章 「血と技」(33)

 説明会は、それから二時間以上続いた。後半は説明会というよりも、ボランティア活動の、今後の具体的な方針を決める会議のような様相を呈してきたが、その頃にはばらばらと生徒たちが帰りはじめ、最後まで残っていた生徒は開始時の半分ほどに減っていた。
 それでも、斎藤遥にいわせれば、帰った生徒の大半はメアドの登録をすませて帰って行ったので、実質初日としては上出来……ということだった。

「……徳川先輩とか楓ちゃんとか茅ちゃんほど、極端にできるわけではないけど……」
 合流してきたパソコン部を代表して、堺雅史がいう。
「……ぼくらも、ぼくらなりに、今日は進みました……」
 現在構築中のシステムは、学校の部活の延長上……に、しては、随分と実用的なプログラムだし、それに基幹部は楓と茅の二人でほとんど完成させている。しかし、細かいアレンジやデバッグは無数に存在し、それを一つ一つ潰している最中だという。
「次に大規模なシステムを組む時は、最初からぼくら自身で組む、くらいのことは、できるようになっていたいですね……」
 そうした反応をみるにつけ、荒野は複雑な心境になった。
 彼ら、一般人の生徒たちは……自分たちがいなくとも、別に困りはしない。
 荒野たちがはこの土地に来るまで、なんの不自由もなく、ごく普通の日常生活を送っていたのだから、当然といえば当然、なのだが……。
 やはり、この土地に執着するのは……荒野自身の、エゴなのだった……。

 今回の説明会を聞きに来ていた教員、大清水先生と岩崎先生は、前者がいつもの通り、後者が他の大半の生徒たちと同様、今日、提示された一族うんぬんの情報をまともに消化できず、戸惑っているのがありありと分かる、といった感じで、このうち大清水先生の方は、
「ボランティアもいいが、学業も怠るな」的な常識論を去りぎわに残して行くだけの精神的余裕を保持していた。

 有働と玉木とともに、荒野と茅、それに楓は、ぞろぞろ帰って行く生徒たちを、頭を下げて見送り、その後、残っていた放送部とパソコン部の生徒、それに徳川と孫子とともに、視聴覚室の掃除を行う。
 大人数だったせいで、掃除はあっと言う間に終わり、この日は完全にお開きとなった。
 とはいえ、放送部もパソコン部も、プログラムやら映像、文書資料の整理とか、自宅に持ち帰って仕事を続ける者も少なくはなかったので、「解散」ではあったが、完全な「お開き」とは言えないのかも知れない。
 最初のきっかけは荒野たちの存在を正当化するためのものだった筈、である。そのボランティア活動が、今では玉木や有働、徳川、それに無数の放送部員やパソコン部の有志たちに主体が移っていた。
『いや……それは、最初から……だったか……』
 少し考えて、荒野はそう思い直す。
 ボランティア活動を発案したのも玉木たちだったし……荒野たちは、その容姿を生かして、せいぜい、一時的に一目を引くためのゲストとして利用されただけだ……。
 そこには必要性と必然性があるだけであり、荒野たちの主体性など、最初からなかった……という言い方も、できた。
『そういや……おれ……』
 これまで……自分の意志でやりたくて、やってきたことって……。
『……あまり、思いつかないな……』
 ここに来るまで、一族の一員として生きて来たことに、迷いなどなかった。ほんの少し視野をずらせば、一般人として、いくらでも安穏な生き方ができる……という知識は、かなり早くから持っていた筈だが……そうした「足抜けして、以後の生涯を一般人として生きる」、という行き方には、以前なら、まるで魅力を感じなかったのだが……。
 最近の荒野は変容し、揺らいでいる。
『……彼のように……』
 不意に、プレハブの中で背を向けて、一心に絵に取り組んでいる香也の背中を思い出す。
 あれだけ真剣に向き合える対象を……荒野が持っていれば、また話しは違ったのだろうが……。
『おれには、本当に……』
 なにも、やりたいことがないからなあ……と、荒野は思う。荒野は、大抵のことは器用にこなすが……自分自身が望むこと、は……実は、よくわからない……。
 荒野は、帰り道でそんなことを考えていた。

「……着替えたら、すぐにこっちにくるように……」
 楓と孫子とマンションの前で別れようとすると、孫子にそういわれた。荒野が怪訝な顔をすると、
「……忘れましたの?」
「荒野、病院で、服のこと、才賀に頼んだの」
 孫子は眉間に軽く皺を寄せ、茅が思い出させてくれる。
「ああ……あれか……。
 で、これからみんなで、服屋にでも行くのか?」
「まさか……。
 服屋の方が、こっちに来きますの。もう近くに待機しています。連絡をいれれば、五分もしないうちにこっちに到着しますわ。
 大ざっぱなオーダーは出しておきましたから、後は細かい部分の寸法を体に合わせるだけですわね……。
 本当は時間があった方がいい仕事ができるのですが、今回は急に決まった会合ですからしかたありませんわ……」
 荒野は軽くめまいを感じた。
 ……テーラーを呼び付けて、その場で裁縫させる……。
 そういう発想を電話だけで実現してしまう……しかも、そのことをまるで不自然に思っていないあたりが……あまりにも、才賀だった。

 一旦マンションに帰ってシャワーを浴び、着替えて狩野家に向かう。
 玄関には十名分以上の見慣れない靴が置いてあり、居間とか続きの間では、テーラーさんがミシンを持ち込んで一心不乱に縫い物をしていた。ミシンは、五台あって、もちろん、フル稼働……ちょいとした戦場気分か味わえた。
「……あ。かのうこうやだ……」
 荒野が茫然としていると、下から声をかけられた。
「なんだ、ガクか……。
 体の方は、もう、大丈夫なのか?」
「……うん。傷は、盛り上がってきているから、何日かできれいにふさがると思う。
 頭の方は……正確な検査結果がでるまで何日かかかるそうだけど、今のところ、異常がないって……」
「……そうか……」
 と、荒野が頷きかけた所、声を聞きつけたテーラーの一人が荒野の前に進み出る。
「あなた様が、今回唯一の男性、ですね……。
 才賀様から万事、承っております。
 採寸させていただきますので、どうぞこちらに……」
 みると、茅も同じように、メジャーを持った鬼気迫る表情のテーラーさんに追い詰められている所だった。

 十五分後。
 体の隅から隅まで詳細に採寸される、という慣れないことをして精神的に疲弊した荒野は、ぐったりとなって炬燵の温もりを堪能していた。
「……なんか……凄いなあ……」
 横目で、職人さんたちが奮戦しているのをみて、思わず吐息を漏らす。
「凄いよね……テンなんか、ミシンにかぶりつきだし……」
 ガクも荒野と同じように炬燵に当たりながら、そう呟いた。荒野と同じくらいに、呆気に取られているらしい。
 テンは、職人さんの手元をかぶりつきで覗き込んでいる。

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彼女はくノ一! 第五話 (116)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(116)

 茅は、目前の生徒たちを見る。生徒たちの心理が、徳川の説明が進むほどに、表層的な興味本位から真剣な共感へと推移して行く様子を、茅は興味深く見届けた。群集心理、というものもあるのだろう。
 昨日の出来事を説明し終えた徳川が、いよいよ本格的にボランティア活動の打ち合わせに移行する時、「これ以降は退屈な話になるから、興味のない者は退出した方がいい」と勧告した際も、視聴覚室から出て行く生徒たちはほとんどいなかった。

 少数の例外は、斎藤遥で、これは出て行ってからすぐに紙の束を抱えて帰ってきた。そして、話が一段落したとこで紙の束を抱えて教壇に向かい、
「……ボランティアに協力できる方は、この紙に書いてある方法で、メアドを登録してください。一度登録すれば、後は自分の都合のいい日時を指定するだけで、作業に参加できます……」
 と、抱えてきた紙を集まってきた生徒達に配りはじめる。
 構築したばかりの、スケジュール管理システムへの、簡易登録マニュアルだった。

 そんな幕間劇を挟みながらも、話し合いは続いて行く。
 企画と広報を玉木と有働が中心となった放送部有志、必要なシステム回りをパソコン部有志、抽象的な達成目標を具体的な事業として再構築するする役割を、徳川と才賀孫子が行う。
 徳川篤朗は、名義は姉のものとしているとはいえ、事実上、自分でそれなりの事業を起こしている現役の経営者であり、才賀孫子もそれなりの教育を幼い頃からなされているため、同級生よりはよほど世間知というものがある。
「……人手と、それをマネジメントするシステムとは、すでに土台ができあがっているようなのだな……」
 と、徳川。
「ああ。
 後は、この場にいる人だけではなく、外に向けての広報は……」
 と、孫子。
「ああ。そっちの方は、うちらに任せて……」
 と、玉木。
「……後は、金か……いくつか、適切なアイデアがないこともないのだが……」
「……例えば?」
「うちの工場でなにがしかの製品を作って売り、その収益の数パーセント、純利益のほとんどをプールするのだ……」
「……それじゃあ、トクツー君所の会社に旨みがないじゃん……」
「協賛企業として、製品にでかでかとうちの会社のロゴでもいれておくのだ。PR活動の一環として考えれば、そのていどの出費はできるのだ……」
「……あ。CMかぁ……商店街の人たちにも声かけて見るかなあ……」
「例えば、ゴミを放置される所、というのは、たいてい人目が行き届かない所なのだ。
 そういう場所専用に設置する監視カメラなど、結構売れると思うのだ。
 夜中に不自然な場所に停車した車のナンバーとか、不自然な荷物を抱えてうろうろしている人の顔を撮影するアルゴリズムは簡単に構築できるし、何事もなければ稼働率は低いメカニズムなので、風力発電や太陽電池と組み合わせれば、電源がない場所にも設置できるのだ……」
「ああ……誰もいない場所にゴミを捨てようとすると……いきなりフラッシュが炊かれて……そういう場所には、確かに放置ゴミは少なくなるかも……」
「肖像権など、法律の問題があるから、いきなり撮影する前に、音声か何かで警告をする方がいいのだ」
「……この場所は私有地です。無断でゴミを投棄するのは違法です。今、車のナンバーを撮影しました。数日内に車両の所有者に通知がいきます。場合によっては裁判所から呼び出されることもあります……」
 徳川がそう説明すると、玉木がいきなりかしこまった声を出しはじめる。
「……そっか……ニッチなニーズだけど……確かにそういう装置が必要な場所は、あるよなぁ……」
「……とりあえず、早速試作品を幾つか作るので、市内の投棄場所の地主に持っていって、効果があるかどうか、試して見るのだ。それで効果がありそうだったら、ネットを使って全世界に向けて売るのだ……」
「……じゃあ、その交渉は、ぼくがやります……」
 有働が、片手を上げた。
「何人か、話を聞いた地主さんもいますし……」
「頼む。
 最初の数個は、試作品ということで、無償提供するのだ。
 そっちで成果が出れば、後は口コミで顧客が増える筈なのだ……」
「……お役所、無人の駐車場、敷地の広い工場や倉庫……それに、自然保護団体……それなりに、買い手はいそうですよね……」
「人の目が行き届かないのなら、機械にやらせればいいのだ……」
「その事業……うまく行きそうだったら、設備投資に必要な資金は、わたくし個人が出します……」
「才賀か……そうすると、株主か共同経営者という形になるのだ……。
 となると、いっそ、新しい法人を作った方がいいか……」
 孫子と徳川が関わると、どんどん話が大きくなって行くのだった。
「……有働……。
 ゴミの方が一段落したら、独居老人の巡回をはじめる、とかいう話もしてたな……」
「……あ。はい……。
 この辺も、たいがい高齢化が進んでいますから……」
「……必要とあれば、効率的に介護をするのに必要な器具も作ってやるのだ……」

 それから二時間以上、いろいろと話し込んだ後、
「……もう、時間も時間だし、今日はお開きということでいいんじゃないか?」
 と荒野が言い出す。
 途中から、特に斎藤遥がメアドの登録法をかい書いた紙を配り初めてから、ばらばらと帰って行く生徒が増えたため、今では視聴覚室も閑散としている。
「そうですね……今日だけで、参加希望者、二十人以上増えていますし……。
 初日の説明会でこれだけの成果が出れば、上等かと……」
「……じゃあ、ぼくは、ゴミ投棄場所の地主さんと交渉して、徳川君の監視カメラを設置させてもらったり、ゴミを片付ける日程を組んだりします……」
 これは、有働勇作。
「わたしは……放送部有志を引っ張って、広報関係の続きだな……好きに使えるタレントもいるし、やれることは多いし……」
 これは、玉木玉美。
「ぼくは、必要な機器類と製造ラインの設計に入るのだ……」
 これは、徳川篤朗。
「わたくしは、もう少し事業計画を見直して見ます。将来、仕事は多様化しそうな気もしますし……」
 これは、才賀孫子。
「……なんか、おれ……あんまり出る幕、ないような……」
 これは、加納荒野。
「組織だった動きが必要な局面になってくると、個人的な能力の高低は、あまり問題視されなくなってくるのだ……」
 徳川が、荒野に向かって言う。
 荒野は、反論できなかった。
「……つまり……凄いのは、加納先輩だけではなかった、ということですね……」
 そうまとめたのは、斎藤遥だった。
「今日の説明会で……同じ学校に通う生徒にも、いろいろな人がいる、と、みんなも分かったと思います……」
「……そうだな……」
 荒野はしみじみと頷いた。
「才賀は、どちらかというとおれたちに近い人種だから置いておくにしても……。
 玉木とか徳川とかみていると、自分がさほど特殊な人種ではないという錯覚を覚えるよ……」
「やだなあ……。
 カッコいいこーや君がいなかったら、わたしたちもボランティアなんて面倒な事ははじめなかったって……」
 玉木が、けらけらと笑い声をたてる。
「……ボランティアも大いに結構だが……」
 最後まで残っていた大清水先生が、いきなり近寄ってきて、声をかけてきた。
「……勉強の方も、忘れないようにな。
 三学期ももう半ばだし、加納や玉木たちは来年三年生なんだ……」
 夢も希望もない言い草が、いかにもこの先生らしい……と、荒野は思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(32)

第六章 「血と技」(32)

 徳川篤朗は、昨日の出来事についての補足説明を終えると、有働と玉木の方に振り返り、
「……で、ボランティアの方に関しては、どこまで話したのだ?」
 と尋ねた。
 有働と玉木は顔を見合わせた後、
「……が、概略は、だいたい……」
 と、有働がぼそぼそと小声で答える。
「ボランティア活動そのものが、そもそも加納たちに人気を集めることを目的として発案された事は、もう説明したのか?」
 徳川が、重ねて尋ね、玉木と有働は揃って首を横に振った。
 徳川は腕を組んで、「うーむ……」と呻る。
「……そこが、肝心な所ではないか……」
 しばらくして組んだ腕を解いた徳川は、ボリボリと頭をかきながら、今度は荒野のほうに振り返った。
「もう一度確認しておくが……。
 加納。
 お前らは、出来れば、ここに留まりたいと思っているのだな?」
「……あ。ああ……」
 荒野は、徳川がなにをいいたいのか図りかね、それでも頷いた。
「ここにいる生徒ども。聞いた通りなのだ。
 我々、ぼくと玉木と有働は、ちょいとしたきっかけで、ここにいる生徒どもより一足先に、加納たちの正体を知ったのだ。
 そして、この土地で平穏に暮らしたい、という加納たちを助けるつもりで、玉木と有働が、ボランティア活動をすることで、地元で、加納たちの評判と知名度を上げることを思いついた。
 いいや。もっと正確に言うのなら、将来、こうして加納の正体がバレバレになった時に、加納が姿を消さなくてもいいような土壌を作るために、加納たちがこの土地にとって有益な存在となる方法を、考えた結果、ボランティア活動という隠れ蓑を思いついた、というべきか……。
 いずれにしろ、玉木や有働からでて来そうな発想ではあるのだ……」
 徳川は、一人でうんうんと頷いている。
「……で、そのボランティアの方が軌道に乗って、加納たちの顔が売れる前に、敵の不意打ちを食らって……今日、こうして加納が正体を自分の口から語っている……。
 とまあ、こういう次第なのだな……。
 玉木。
 放送部では、加納の正体やらをあらかじめ知っていたのは、何人くらいになるのだ?」
「あらかじめ知っていたのは……二人。もう少しボランティアの方が進めば……いずれ、徐々に話していったとは思うけど……。
 わたしと有働君だけ。だから、昨日、商店街で銀ピカたちのビデオを回していた子たちも、かなり驚いたと思う……」
 玉木の言葉に、近くにいた放送部員たちが真顔でうんうんと頷いている。
「では、その、詳しい裏情報を知らされないまま協力していた放送部員たちは……こうして事情を知った今、どう思っているのだ?」
 徳川は、机の上に設置されていたマイクを掴んで、手近にいた放送部員の一人に手渡した。
「ど、どうって……」
「昨日は……結果として、事情を知らされないまま、加納やら、銀ピカやらに協力してきた訳だが……それは、間違っていたと思うか、無益だったと思うのか……と、聞きたいのだ。
 自分がやってきたことは……玉木たちのいいなりになって手伝ってきたことは、間違いだと思うか?」
「間違い……では、ないと思う。
 あのチビ二人も加納も……悪いことは、していない訳だし……。
 むしろ、みんなを助けてくれたわけだし……」
「……そういう見解が聞きたかったのだ」
 徳川は、その放送部員から、マイクをもぎ取る。
「この中に、パソコン部員はいるか?
 たしかパソコン部にも、ボランティア活動に使うためのシステムを組んでいるのがいたと思うが……」
「……あ。
 はい! わたし、パソコン部……」
 生徒たちの中に埋もれていた斉藤遥が、徳川の声に元気よく手を挙げて答える。放送部員に話しが振られたあたりから、この展開を予期していたようだ。
「……個人的には、プログラム関係よりも放送部とのパイプ役、してたんだけど……。
 でも、こうして事情が分かった今でも、ボランティア活動も加納先輩たちを支援することも、全然、問題ないと思います……」
「……そういう事なのだな……」
 徳川は、斉藤遙の返答に満足そうに頷く。
「……ということで、玉木。
 ここまで説明した上で、ボランティア活動に協力するつもりのない生徒には、お引き取り願った方がいいと思うのだが……。
 加納には加納の目的と目論見があり、玉木や有働には別の目的があるのかも知れないが……そういった内情と、ボランティア活動自体の功罪は、話しが別なのだ。
 加納がこの活動をきっかけに、地元に自分の存在をアピールしたければそうすればいい。玉木が加納たちの存在を利用して商店街に客を呼ぶのも悪くはない。
 その活動によって、助かる人がいる……という成果の方が、個々人の動機よりも重要な筈なのだ。
 有働! 現在の問題点は?」
「……まだ立ち上げたばかりなので、いろいろあり過ぎるくらいですが……」
 有働は、何故か直立不動になって、答える。
「……一番大きな問題は……お金です!
 人手その他の問題は、自力でなんとかなりそうですが……」
「資金、か……」
 徳川は、数秒考えた。
「才賀!」
「寄付するつもりは、ありません」
 才賀孫子が、徳川の答えを先取りする。
「お金を出すのは簡単ですが……そんなものは、使えばすぐに消えてしまうので……一時的な解決は可能でも、際限がありませんわ……」
「……同感、なのだ……」
 徳川は、孫子の返答に、満足そうに頷く。
「だから……NPOを作るから、才賀の名義を貸せ、といったら……交渉は可能なのか聞きたいのだ……」
「そのNPOの、内実によりますわね……」
 今度は、孫子が満足そうに頷いた。
「有働と玉木、それに、この徳川が作るのだから、半端なシステムにはならないのだ……。
 ……さて、ここからは、本格的な組織作りの話し合いになる。
 興味のない者には退屈な話しになると思うので、興味本位で来てみただけの連中は、早々に退出することを推奨するのだ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (115)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(115)

 楓がそんなことを考えている間に、荒野への質疑応答が終わり、徳川篤朗が乱入してきて商店街の出来事を出際良く説明していく。玉木や有働は黒板にタイムテーブルを書いたりプロジェクターで再生する映像や音声を操作したり、と、補助的な役割に徹している。
 だいたいの所は、楓自身も、昨夜のうちに聞かされていた情報がほとんどだったのだが、今回はある程度予備知識を持っていた所に、その場に居合わせた人々の証言とかビデオ映像とかを使って復習してくれたようなもので、今までわかりにくかった細部も、改めて楓の脳裏に刻み込まれることになった。
 それと当時に、荒野やテン、ガクが悪戦苦闘している最中に、自分は香也たちとあーんなことやこーんなことをやっていたことになるわけでの、そのギャップに少々の疚しさも感じる。
 楓にとって、香也との関係はかなり大きなウェイトを占める関心事であるわけだが……楓が、今のように香也とともに居続ける事が出来なくては、元も子もないのだった……。

 楓は、視聴覚室の後ろの方で立ち見している才賀孫子をちらりと見た。
 教壇の後方に座らせられている楓からは、生徒たちの反応がよく見える。教員である大清水先生と岩崎先生も最前列で一連の説明を聞いていたが、収支苦虫を噛みつぶしたような表情の大清水先生はともかく、岩崎先生の方は、他の生徒たちと大差ない反応をしていた。
 岩崎先生も、生徒たちも……一言でいうと……呆気に、とられている。生徒たちの方は、多少、荒野に対して羨望の目を向ける者もいないでもないが……大半は、今しがた、荒野や玉木、有働、徳川によってもたらされた情報を消化しきれておらず、どのように反応したらよいのか、戸惑った表情をしていた。
 そんな中で、才賀孫子だけが……うっすらと、微笑みを浮かべていた。
 倫理的な余裕が、自然に表面に表れている……とも見えるし、今の状況を面白がっているようにも、見えた。
『あの人は……』
 自分とは、違う……と、楓は思う。
 孫子には、ここが駄目でも帰る場所があるが……楓には、もう後がないのだった。
 失敗が許させるか立場か、否か……という差は、大きい……。

 才賀孫子はほくそ笑んでいる。
 楓が勘ぐったように、「余裕があるから」ではなく、純粋に現在の状況を、面白がっている。孫子は、いざとなれば「消耗品」として蕩尽されることもあり得る人員として教育された楓とは違い、将来、才賀衆という組織の中でかなり上位を占めことも想定した教育をなされており、従って、楓よりは、広範な視野で物事を見ることに慣れている。
 荒野は……追いつめられている。
 襲撃者たち……について、荒野は、時折、「一族キラー」という言い方をすることがあるが……今、こうして、長年、一族が秘匿してきた情報の一端を、多人数に開示している荒野のやり方、こそ……従来の一族の在り方を、根底から否定しているのではないだろうか……。
 そのようなエキセントリックな方法を選択しなければ、この場所に残れない……ということは、理解できるのだが……正体を隠したまま姿を消すことより、正体を晒してこの場に残る、あるいは、情報をあえて開示して、周辺の者に理解や協力を求める……という選択は……すでにして、「忍」、のものではない……。
 そのような発想を「是」とする荒野は……どこまで自覚的にしているのか、までは、孫子には判断しかねるのだが……すでに、一族の基準からすれば、異端的な存在となっている、といえた。
 仮に、現在行っている説明会なりボランティア活動なりが、荒野たちの思惑通りに奏功したとしても……正体を晒しながら、一般人に混じって平和な日常を渇望する……というのは、どう考えても、一族の生き方ではないのだ。
 見方によっては……荒野自身が、従来の一族の在り方に反する者、として処罰の対象になることも、あり得るのではないだろうか……。
 仮に、現在、荒野が行っている「一般人社会への、公然とした融和」を、現在の一族が荒野とならって「是」とするのなら……それはそれで、従来の在り方を変革する、ということになる……。
 これもまた、角度を変えてみれば……「一族キラー」である、とは、いえないだろろうか?
 そして、今夜……荒野と自分たちは、現在、一族を統べる者たちとの会見を控えている。
 孫子は、荒野とは違って、六主家のおもだった者たちと知見があるわけではないが……。
 そうした古参たちに対し、荒野は現在の状況を、どのように説明するのか……また、このようの荒野の言動を、現在の一族主流は、どのように思っているのか……。
 一族の事に関しては、孫子は、たまたまこの場に居合わせただけの部外者に過ぎないのだが……直接の利害関係がない身、だからこそ、この先、荒野の選択が、荒野自身にとって、そして、一族全体にとって……どのような意味を持ってくるのか……というマクロな部分に、純粋な興味を抱くことができた。
 そして……孫子は、これからのことを想像して、うっすらと微笑む。

 茅は、楓、孫子、荒野、それに、他の生徒たちを、教壇の上から等分に眺めている。荒野たちもそうだが、他の生徒たちの反応は、なかなかに興味深い……と、思う。
 未だ、人間の思考を予測することができない茅にとっては、大抵の人間は面白いのだが……このような不測の事態に直面した人間の反応ほど、複雑で予測不能で……面白いものは、ない。
 なにしろ、茅が公然と外出するようになったのは、年末からで、まだ三ヶ月も経っていない。基本的な原則さえ理解すれば、容易に結果が予想できる物理法則とは違い、ただそれだけの時間では、人間の反応を予測することは不可能だった。
 人間の反応は……あまりにも、個体差がありすぎる。
 茅は、目立たないように、荒野の後ろに座りながら、鋭敏な感覚で、知覚できる範囲内にいる全ての人間の感情を探る。
 発汗、体臭、呼吸の速度、顔色、心拍数……などを分析すれば、感情が動くこと、自体は、外からでもだいたい分かる。
 一固体に意識を集中しさえすれば、佐久間現象の中を「読んだ」ように、あまり抽象的な思考でなければ、ある程度までは「読む」ことが可能だったが……これは、意識の集中以外に、現在、茅が持つ情報処理能力をかなりの時間、消費しなければできないことだから、よほど必要がなければ、やりたくはない。
 他者の思考を「読んだ」り、あるいは、強制的に、感覚を遮断したりすることは、茅にとって、かなり「疲れる」ことなので、日常的に軽々しく行おうとは、思わない。
 現在の所、茅は、自分のそうした能力を、どうしても必要な時か……あるいは、荒野に必要とされた時にしか、使用したくはないと思っている。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(31)

第六章 「血と技」(31)

 荒野への質疑応答が一段落すると、今度は商店街への襲撃まで説明することになった。
 玉木と有働が昨夜、話し合った結果、
「……今後もこういうことが起こり得るんなら、学校側だけにでも正直に理由を話して、協力を求めた方がいい……」
 という結論になったからだ。
 とはいえ、その結論も、
「今後、何か有った時、後から責任を追求されるよりは、今のうちに話しておいた方が、まだしもマシ……」
 という「消極的な賛成」、ではあったが……。

「……詳しい説明をする前に、いっておくと……」
 昨日、学校と商店街で、実際に何があったのか……ということを説明する前に、荒野は前置きとして、そう語り出した。
「彼ら……学校とか商店街とか襲ったやつらの目的は……おれたち、なんだ。
 だから、おれたちがこの町からいなくなれば、少なくともこの町の人々に被害がでることはない。
 正直……かなり、考えたよ。
 このまま、なにも言わずに、この町から出て行く方がよかったのではないかって……。
 でも……何人か、事情を知っている人が……それでは、場所が変わるだけで、根本的な問題はなにも解決しないっていってくれて……かろうじて、こうして踏みとどまっている。
 でも……この先、敵、が……無関係の人たちを巻き込むようなことを仕掛けて来たら……その時は、出て行くかもしれない……」
 考えに考えた末、今、この場に立っている荒野の言葉には……重みが、あった。

 荒野の前置きの後、学校への襲撃と前後して行われた商店街での一連の出来事を、玉木と有働が交互に説明しはじめる。
 学校での動きと同時進行だったので、ビデオに残されていたタイムスタンプを頼りに、タイムテーブルを黒板に書き出したり、あるいは、テンやガクが、ゴスロリ・スタイルの秦野の女たちと乱闘している映像などもプロジェクターで見せたりしながら、してかなり苦労して説明した。
 テンとガクの二人と、秦野の女たちの戦いは、どこかコミカルで非現実的な印象をみている者に与えたので、
「これは、実際にあったことだ!」
 と説得するのに苦労した。
 放送部員なら、これくらい手の込んだいらずらくらい、仕掛けかねない……というのが、生徒たちの一致した見解だった。

 その疑惑に答える形で、実際にカメラを持っていた放送部員数人が教壇の上に呼ばれ、それぞれに見たことを証言する。
 さらに説明が進んで、ガス弾が使用された際の映像も流れ、ガスの中に残ったガクに、必死に呼びかけるテンの音声、救出のため、煙の中に入って行く荒野の映像と音声、それに、次々に煙の中に入って行き、煙を吐き出し続けるガス弾をキャッチボールしながらあっと言う間に遠くに運び出して行く秦野の女たち……などの映像が流れ出すと、さすがに捏造疑惑を口にする者は少なくなっていった。
 ガス弾を抱えて線路上をひた走る荒野と秦野の女たちは、昨日、少なからぬ人々に目撃されており、その噂を聞いたり、あるいは、直接かいま見たりした生徒たちが騒ぎはじめたことも、信憑性を保証するのに一役買った。

「……なんだなんだ!
 まだ昨日の事をはなしているのか、愚民ども……」
 そこまで説明がすんだ時、不遜な言葉と態度で人込みをかき分けて教壇に向かって来た生徒がいた。
「……徳川、か……」
 相変わらず、図体の大きな黒猫を頭にのせている。
「……加納がここにいると聞いて来たのだ。
 昨日の服に染み込んでいた成分を分析した結果を、知らせにきたのだ。
 二酸化炭素とコーンスターチ、それに粉山葵と乾燥させたマスタード、粉末にした唐辛子など……。
 ふん。つまらん。
 おおよそ、予想どおり結果だったのだ。
 あのプラスチックの容器の中には、大気に触れると化学反応を起こして容積を急激に増す物質と、ありふれた安物の調味料、それに、色付けのコーンスターチがぎっしり詰まっていた、というわけなのだ。
 人騒がせな、いたずらなのだ。
 まったく、毒ガスかと思って一時は覚悟を決めたぼくが、馬鹿みたいなのだ……」
 玉木と有働が止める間もなく、徳川は強引に人込みをかき分けて教壇に立つ。
「……いいか、想像力のない愚民どものためにわざわざ説明してやるとだな、毒ガスが使われはじめたのは……」
 と簡単な歴史から始まり、現代化学兵器がいかに毒性が強く、なおかつ、不意に使用された際、対抗手段ないものなのかを延々と具体的に説明しはじめる。
 徳川の説明があまりにも真に迫っていたため、青い顔をする生徒が続出し、もちろん、その場はシーンと静まり返った。
「……で、たまたま、ぼくはその場に、商店街にいて、あの銀ピカの子らの活躍をモニターしていたのだ。
 そこに、加納の声で、そこから逃げろ、という連絡が入って来て……ああ。このあたりだな。加納の声に反応して、上から降ってくるガス弾を、銀ピカの一人が指さしているところなのだ……」
 有働が、徳川の話しに合わせて、そのシーンをプロジェクターに映すように、操作している。
「……はい、この後、黒い女たちと銀ピカの一人が、逃げる。
 この時点ではガスの正体はわかっていないし、少しでも化学兵器についての知識があれば、当然の判断なのだ。
 ぼくが逃げなかったのは、ぼくの足では到底間に合わないと思ったからで……。
 で、ここで、銀ピカの一人が、誠に愚かな事に残る。有働、音声……ああ。でたでた。ここなのだ。仲間が逃げろといっているのに、逃げない。こやつは正真証明の、愚か者なのだ。
 で、残って……はい……ガスが、少なくとも即死するような性質のものではないことを、自分の体で、体を張って証明した……。
 で、この音。
 やつのヘルメットに落下して来たガス弾が、ぶつかった音なのだ。
 あれだけの高度から落ちれば、エネルギー量は相当なものになる。気を失う程度ですんだのは、かなり運がいいのだ。ガス弾の容器が壊れやすい、やわな構造であったことが幸いしたのだな。
 で、ここ、加納が煙の中に入って行く……。
 こやつも、馬鹿なのだ。
 いくら即死はしないといっても……こんな正体不明のガスの中に、まっしぐらに突っ込んで行くのは、正気の沙汰ではないのだ。
 でも、こういう……我が身を顧みない馬鹿は、今時、絶滅寸前で希少価値があるから、保護する必要がある……。
 というのが、ぼくの結論なのだ……」
 ここで、徳川篤朗は小脇に挟んでいた大判の紙を黒板の上に固定して掲示する。
「……次に、このガス弾の軌道を分析したのが、このプリントアウトなのだ。これは、web上で閲覧できる衛星写真にマーキングを行ってプリントアウトしたものなのだ。
 ビデオに写っている中で、一番時間を溯れる地点は、ここ。ここから、この太い矢印を通過して、着地点が、このアーケドの上……。
 この点線の部分が、ビデオに写っていないので未確認だが、おそらくガス弾が通過したであろう軌跡を予測したもの……。
 この、軌道の延長上にあるビルは、この付近には、ここ、しかない……。
 最初、ガス弾が落下するのを見た時は、ぼくもてっきりランチャーを使用して打ち上げたのかと思ったのだが……加納の話しとビデオに残された映像を確認してみると、ガス弾の本体は、極めて脆弱な、べこべこのプラスチック製だという。そんな華奢なものを火薬や圧縮した気体で打ち上げれば、すぐにでも空中分解してしまうのだ。
 よって、このガス弾は、どっかの体力馬鹿が、力任せに投げ付けた、という結論になる……。
 そして……投げらるのに適切な場所は、方角からいって、このビルの上しかありえない。
 で、このビルから、着地点まで、直線距離で、六百五十メートル以上あるのだ……」
 ここで、徳川篤朗は、少し間を空けた。
「……誰か、砲丸投げの世界記録を記憶している者はいないか?
 ともかく、そんなのが子供だましにみえるほど身体能力を、このガス弾を投げつけた者は持っている、というのは、事実なのだ。
 そしてそいつらは、他人の迷惑や生死には、まるで頓着していない。今回のガス弾や学校での騒ぎを考えれば、そのことも、極めて明瞭なのだ。
 加納とかあの銀ピカなどの馬鹿愚かがいなかったら、どれほどの被害が出たことか……。
 さらに! こんな非常識なのを、日本の警察が取り締まれるわけがないのだ。
 こんなのを相手にできるのは……」
 徳川は、荒野の肩に手をおいた。
「……こういう、後先考えない絶滅危惧種的にレアな馬鹿愚かだけななのだ。
 こういうレアなのは、放っておく勝手にどこかに消えてしまうので、この学校の生徒どもも、せいぜい加納たちの扱いを考えるといいのだ……」

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彼女はくノ一! 第五話 (114)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(114)

 楓は教壇の上、という目立つ位置に座らせながら、他の聴衆たちと同様に、玉木と有働、それに荒野が行う説明を黙って聞き続けている。もちろん、そこで説明される内容は、すでに楓が知っているものがほとんどなのではあったが、大勢の前で、まるで予備知識のない人に向けて、理解しやすいように語句を選んで理路整然と語れる三人が、楓には大きく見えた。

 それに、あらかじめ知っていることでも、角度を変えた見方を提示されると、妙に腑に落ちる所がある。
 楓があらかじめ知っている事柄であっても、
『……そういう、ことなのか……』
 と改めて確認できたことが、多かった。
 有働の説明は、生真面目さを反映してか、時に細部に拘泥し過ぎて全体像が見えにくくなりがち。玉木は、歯切れがよく、言葉に勢いがあるが、有働とは逆に詳細な部分をニュアンスでごまかしてしまうしまう傾向がある。荒野は、一見軽快なしゃべり方をしているように見せかけて、その実、どこまで話していいのか、一言一言吟味する慎重さを感じた……。
 三者三様、の個性はあったが……三人とも、聞いている者を引き付ける話し方を心得ている……という印象を受ける。
 荒野は、特に「姫の仮説」に触れなくてもいいよう、茅の生い立ちに関する情報には、細心の注意を払って迂回しているように見受けられた。
 途中、「昨日の再現」と称して、靴を履き替えた荒野が窓から飛び出していってひとしきり校庭を駆け巡り、再び窓に飛び込んでくる、というパフォーマンスを実演して見せると、生徒たちは、他の細々とした事柄にはもはや拘泥しようとはせず、「荒野個人」に興味を手中させはじめた。
『加納様の、計算……』
 なのだろうな、と、茅は思う。
 他の事柄……学校内に十名以上の暴徒が乱入した……あるいは、商店街にガス弾を投げ込んだ者が存在した……という不吉な事実……それに、茅や楓から、生徒たちの目を逸らすため……あえて、昨日の一件で正体が割れてしまった自分に注意を集めている……。
 いいかえれば、あえて、我が身を楯にしている……。
 その甲斐あって、この場にいる生徒たちの注意は、確かに荒野に集中しているのだが……。
『こういうの……長続きは、しないんじゃないかな……』
 楓は、そう思う。
 一時の熱狂は……すぐに冷める。
 そして、冷めた後に残るのは……。
『……不信感……。
 それに……自分より優れた者に対する……憎悪……』
 楓は、荒野の元に集まった生徒たちの顔を見渡し、不意に悪寒を感じて、自分の二の腕を抱き締めた。
 楓が……再三、荒野がいっていた、「目立つような真似をするな」という言葉の意味を……この時初めて理解した。
 顔を輝かせて荒野の周囲に集まってくる生徒たちと、荒野自身は……明らかに、別の存在だ。
 そして……なにか、ごく些細なきっかけさえあれば……今、生徒たちが荒野に向けている羨望は……容易に恐怖へと、反転するだろう。
 そして……荒野は、先程、生徒の一人に質問された時、楓のことを「茅の世話係」と、ことさら矮小化するようないいか方をした。
 それも……楓に注意を向けさせないようにするための、工夫の一つなのだろう……。

『……なんて……』
 生徒たちに囲まれて、いつものよう愛想笑いをしている荒野をみて……楓は、初めて、荒野の孤独に思い当たった。
『……寂しそうな……』
 楓は荒野に頼れるが……荒野自身は、頼るべき相手が誰もいない。どんな不測の自体にも自分自身で判断を下し、その責も自分自身で追わなければならない……。
 一般人の社会に紛れ込んだ存在……であるのと同時に、荒野は、一族の中でも、孤立した位置にいる。
 加えて……茅や楓自身、三人組の将来に対しても、少なからず責任を背負っている……。

 楓には……大勢の生徒たちに囲まれて笑っている荒野の笑顔が、とても心細いものに見えた。

 それから、少し前から、荒野に、
「自分自身の判断で動いて見ろ」
 と何度か繰り返して言われていたのを思い出す。
 あれは、言い換えれば……荒野の負担をこれ以上増やすな……と、いうことでもあるのだろう……。
 少しして、三人組がきて、昨日の襲撃があって……今、学校に残れるように、こうして生徒たちに理解を求め……その後、今夜は、一族の重鎮たちとの会談という、神経を使う仕事が待ち構えている……。
 こうして考えると……現在、荒野の負担は……心理的にも物理的にも……相当なものになる筈で……。

「……楓……」
 そんなことを考えていると、いつの間にか、茅が楓の隣に立っていた。
「荒野には……茅がついているの……。
 茅は、いつまでも荒野の味方なの……」
 楓が考えていることを見透かしているかのように……茅は、そういう。
 いや。昨夜の佐久間現象への尋問での茅の様子を考慮視すると、実際に「読んだ」のかも、知れなかった。
 もっとも、楓は、ポーカーフェイスの茅とは違い、思っていることは、割りと顔にでる性質だから……もっと一般的に、顔色だけから、なんとなく察しをつけた……ということも十分にありえたのだが……。
 そう。
 とにかく……荒野の側には、つねに、茅がいる。
 味方である楓にはとって、この二人がいれば、たいていの問題はなんとかしてくれる、頼りになる存在だが……。
 敵……例えば、昨日の襲撃者、とか……あるいは、一族の、現在の主流にとって……このまま、茅や三人組が順調に成長し……外見上、荒野の勢力が、日増しに潜在能力を増していくことは……果たして、歓迎すべきことなのだろうか……。

『……この先……まだまだ複雑なことに……なるのかも、知れない……』
 これまでの楓は……考えることは、荒野たち上の者に任せておけばいい……と、そう思っていた。
 しかし……荒野に言われた通り、自分で、現在、自分たちを取り巻く状況を冷静に分析してみると……自分たちは、実に微妙なバランスの上で、今の生活を営んで来たことに……気づく。
 今、うまくいっているのが不思議なくらいで……こうして、正体をある程度明かした荒野が……所詮、一時的な、かりそめの感情なのかもしれないが……それでも、まがりなりにも、現に生徒たちに受け入れられていることも含めて……。
『今までが……むしろ、うまく行き過ぎていたんだ……』
 客観的に判断すれば……そう、結論するしかない。

『今の生活を、守るためには……』
 楓は……頭をフルに回転させる。
 もっと強くならなくては、いけない。
 いざという時も……荒野の判断が仰げない時でも、自分自身で判断し、動けるようにならなければいけない。
 それに……三人組にも、そうなってもらわなければ、いけない……。
 今以上に、鍛える。身体だけではなく、とっさの判断能力まで、含めて……。
 そして、できれば……三人組も、同じように……。
 特に、ガクは……大きすぎる能力と、発想の短絡さが、いかにもアンバランスで……みていて、実に、あやうい……。
 他の二人は……それなりに、慎重だったり、思慮深かったりするのだが……ガクは、能力はともかく、頭の中は、外見どおりに子供っぽい……。
『……ガクが、動けるようにようになったら……。
 今夜か、明日あたりにでも……』
 もう少し真剣に、向き合って話してみよう……と、楓は思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(30)

第六章 「血と技」(30)

「……さて、ついに主役が到着しましたので、ここで皆さんお待ちかね、昨日、一体何が起こったのか、という説明を行いたいと思います……」
 荒野たちと小声で話していた玉木は、再びマイクを取って生徒たちに向き直った。
「……とはいえ、わたしたちも同時に二か所に存在することはできません。今回説明することは、数人の関係者や目撃者の断片的な話しを統合して再構成したものであることを、最初にお断りしておきます……」
 そう断りをいれて、玉木は、昨日、パソコン実習室に突如「佐久間現象」と名乗った少年が乱入して来た事、そして、それを迎え撃つ形で、荒野が校庭で数人の不審者を撃退した顛末……などを、話した。
 直接目撃していなかった生徒たちが、ざわめきはじめる。
「……ええと。
 ちょっと静かにしてくれますかぁ?
 にわかに信じられない……というのは、分かりますが……事実です。目撃者も、多数、います……この中にも、います……」
 玉木が懸命にざわめきを静めようとするのだが……一向に、静まる様子はない。

「……荒野!」
 いきなり、集まった生徒たちの後ろの方から、茅の声がした。
「靴、持って来たの!
 実演して見せれば、納得すると思うの……」
 茅は、荒野のスニーカーを手に持って、振っている。
 玉木が昨日の説明を行っている最中に、気配を絶って、こそり靴を取りにいっていたらしい……。

「……そうだな……。
 やって、みせようか……」
 そういうと荒野は一歩前に進み、
「茅!
 それ、こっちに投げて!」
 と叫ぶ。
 荒野が、茅が放り投げた自分のスニーカーを受け取る間に、楓が素早く窓際に移動し、窓を開ける。
「……いいか、よく見てろよ!」
 スニーカーを手にした……と思ったら、次の瞬間には、荒野は楓が開け放った窓枠に腰掛け、上履きをスニーカーに履き替える所だった。
「昨日は非常時だったんで、上履きのままいったけど……。
 それに、場所も、この視聴覚室ではなくて、パソコン実習室だったけど……」
 そういいながら、靴を履き替えた荒野は、窓枠の上に立ち上がった。
「……だいたい、こんな感じ、だったと思う……」
 何げない口調でそういって……高々と……外に飛び出した。

 呆気に取られて多くの生徒たちが見守る中、荒野の体躯は、昨日と同じように放物線を描いて、高々と飛ぶ。落ちながら……やはり、昨日と同じように、くるくると体を回転させていた。
 校庭の中央部に着地した荒野は、はじめは着地点を中心とした渦巻き状に、外に……次に、ジグザグに疾走しはじめた。
 昨日と違うのは、雨が振っていないため、水しぶきのカーテンが発生しなかったことで……。
 そのため、ともすれば、動きが早すぎる点のような荒野の動きに目の方がついていけず、見失いがちになった。

 五分ほど適当に走った所で、荒野は昨日と同じように、出て行った窓枠に飛び込んでくる。
「……とまあ、昨日は、だいたい、こんな感じだったと思うけど……」
 窓枠に腰掛けてスニーカーを上履きに履き替えながら、荒野がそういうと、それまで静まり返っていた生徒たちが、パラパラと拍手をする者が現れた。
 その拍手は次第に大きなものになり、ついには、その場にいた全員が、手を叩くようになる。
 荒野は……苦笑いしつつも、拍手してくれた人たちに、手を振った。
 拍手がいつまでも収まらないので……玉木は、ここで五分ほどの休憩をいれることを、宣言する。
 すると、生徒たちは、雪崩をうったように、わっと荒野の周囲に集まってきた。
 実際には、荒野の周囲に集まってきた生徒たちが静まるのに、五分以上の時間が必要だったが。

「……で、この六主家という、大きく分けて六つの団体……血族……が中核となって、一族を形成している。この他に、外郭として外からスカウトされてきた人たちとか、それと知らずに一族の活動をバックアップしたりしている人たちが、大勢いる訳だけど……。
 で、おれはその六主家の一つ、加納の本家にたまたま生まれて、小さい頃からいろいろ仕込まれたりしている訳……」
 その後、荒野は生徒たちの要請を受け、詳しく話すと差し障りの部分は、具体的な部分を適当にぼかしつつ、説明を行う。
「……で、今回のおれの任務は……ある事情によって、かなり特殊な育ち方をしたこいつを、社会に適合させること。その特殊な事情というのは、おれも詳しくは聞かされていないので、この場では話せない。
 同じクラスの人とか……こいつの、浮世離れしたところを知っている人も、この中には多いと思う……」
 そういって荒野は、隣に立っていた茅の頭を、掌で軽く叩く。
 姫の仮説、については話さない。話すとややこしくなる……ということもあるが、荒野たちの推測をこの場にいる人たちに話しても、混乱するばかりで益は少ない……と、判断する。
「……で、それなりに問題を孕みながらも、昨日まではそれなりにうまくいっていたんだけど……。
 昨日、白昼堂々、佐久間現象と名乗るやつが学校に乗り込んできて、その場にいた生徒を巻き込むような真似をしでかしてくれたので……それも、ご破算に、なった……。
 あの時、おれは……正体を明かして、その場にいる人たちに被害を与えないため、学校に侵入してきたやつらを一掃するか……それとも、他の生徒たちの一緒に、無力な一学生として、やつらにいいようにされるのかの選択を迫られ……前者を、選択した。
 昨日、学校で起こったのは、そういうことだ……」
 そこまで話した所で、荒野はマイクを離して、そばにいた玉木に小声で、「商店街のことも、話したほうがいいのか?」と確認する。
「……その前に、一度質問を受け付けた方がいいかと……。
 あんまりいっぺんにいろいろな事をいっても、消化しきれないだろうし……」
 玉木も、小声で答える。
「……ええ……。
 今、玉木さんに確認した所、ここらで一度質疑応答を受け付けた方がいい、ということなんで、そうします……。
 ここまでで何か質問……聞きたいことがある人、いますか?」
 荒野がマイクに向き直ってそういうと、軽い笑い声が上がって、何人かの生徒が手を上げた。
「今、加納君がやったような動き……誰にでも練習すればできますか?」
「誰にでもできる……とは、断言できません。
 ですが、幼少時からかの習練で、ある程度までは誰でもできるようになります。そのために必要な習練は、メニューがあまりにもきついので、この場にいる人たちにお勧めしようとは思いませんが……」
「同じ時期にこの町に来た松島さんや才賀さんとは、どういう関係ですが?」
「楓……一年の松島さんは、茅の世話のために女手も必要だろうと、うちのじじいが勝手に手配してくれた者です。
 二年の才賀さんは……さて。
 なんで、転入して来たんでしょうねぇ?
 才賀さんの保護者の方とは以前から面識がありますが、才賀さん本人とはここで出会ってからのお付き合いなので、詳しいことは直接ご本人にお聞きください」
「一年の狩野香也君と同じ名前ですが、親類かなにかですか?」
「彼と彼の家の人たちには、家が近いということもあってかなりお世話になっていますが、全くの他人です。
 名前の音が同じなのは、偶然です」
「付き合っている人はいますか?」
「今の所……いません。
 正直……最近は、予想外の事ばかり次々と起こるので、そんなことを考えている余裕もありません……」
 そんな感じで、説明会は荒野が心配していた割りには、穏やか雰囲気で進行していった。

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彼女はくノ一! 第五話 (113)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(113)

 玉木の言葉どおり、説明会は、最初は昨日までに放送部員たちが調べ上げて来た写真やデータをプロジェクターで投影しながら、有働が用意して来た説明文を読み上げる、といういたって地味な展開ではじまった。それらのデータは、昨日のうちにリアルタイムでブログにアップされた写真や文章を元にし、有働が地図と関連づけて分布図にしたりしたものだった。

「……というわけで、今まで調べた範囲内では、周辺に民家がほとんどなく、工場や倉庫が集まっている西の地区の、隙間みたいな場所に、多くの不法投棄が行われている、ということで……。
 これは、これらの地区が、夜間になると極端に人目が減る、ということと、また、付近に居住する住民が少なく、その分、投棄に対する罪悪感が減る、ということなのだろうと推測します。加えて、この付近は道路幅が広く、目の行き届かない私道などにゴミを投棄して、そのまま車で逃げやすい……などの、地の理もあります。
 他に、住宅街にもいくつか、ゴミ溜まりができているような場所も点在していますが……これらは、西の地域に比べると、規模的にも小さいですし、捨てられているゴミも、ほとんどが小さな家庭ゴミです。これらは、撤去が比較的容易な訳ですが……西の地域の方は……写真を見てもらえば分かる通り、寝具や大型家電、果ては、バイクや車両など、撤去に費用がかかるものが、固まって捨てられております……」
 最初のうち、有働の説明をあまり真剣に聞いていなかった生徒たちは、それでも私語などをすると即座に追い出されるので、しかたなしにおとなしく聞いている……といった風情だったが、数々の写真を大写しにされ、町の地図に赤いポイントを打たれたものなどと一緒に提示されると、最初は写真に圧倒され、次に地図をみて、これらの投棄場所が自分たちの生活圏と重なった場所であることを確認すると、次第に興味を示しはじめた。
「……で、これらのうち、人数が集まりさえすれば、すぐに片付けられるのは……」
 不法投棄場所、を示す赤い点の三分の一ほどが、青い点に変わる。
「……残りが、人手だけでは解決できない投棄場所、ということになります。これらを片付けようとしたら……ゴミを運び出すためのトラックや、ゴミ処理場へ支払う費用などを用意しなければなりません。それらの試算は、これから行う予定です……。
 なお、今回発表したデータはすべてWEB上に公表しており、随時更新されております。興味なる方は……」
 と、データの集積と連絡用に使用しているブログのアドレスを口頭でいい、その後、
「……このアドレスは、構内の掲示板に貼ってあるポスターにも書いてあるので、興味のある方は、後で確認してください……。
 ええ。
 ぼくの方からの、現時点での中間報告は、以上です……」
 有働は深々と一礼して、説明を終える。
「……はい。
 有働君、ありがとうございました。これから質疑応答に移る訳ですが、その前に今後の予定などを、簡単にご説明願えれば……」
 司会役の玉木がいうと、有働は再びマイクを取る。
「……はい。
 今後の予定は、ですね……。
 引き続き、調査の方を続行しながら、集まった人数で、片付けることが可能な場所から、町の美化運動を継続的に行いたいと思います。
 合わせて、ですね……なかなか手がつけられない場所の方も、ゴミの撤去に必要な費用などを具体的に試算し、そのための資金集めなども、順次、やっていきたいと思います……」
 有働がそう答えると、見守っていた生徒たちから、
「……おおー……」
 という歓声ともため息ともつかない吐息が漏れた。
 大半の生徒たちは、そこまで本気で取り組むつもりだとは、思わなかったのだろう。

 続いて、質疑応答に移った。
「この調査、どれくらいの時間をかけて行ったものですか?」
「ええと……はじめたのは、先週ですね。
 実質、二、三日というところです。パソコン部の協力者が無料で使えるブログのアカウントを取ってくれれたので、後は放送部の有志の人たが飛び回って、携帯で写真とか所在地とかのデータを送ってくれました……」
「今、このボランティア活動に、何人くらいの人が動いているんですか? また、誰でも手伝えますか?」
「今、動いている人数は……ちゃんとした名簿とか作っていませんし、その時々、自発的に手を貸してもらえる人のみでやっていますので、実態数はこれと明示できるものではないのですが……。
 昨日、動いていた人数は、放送部の有志とパソコン部の有志、合わせて、二、三十人、といったところでしょうか……。
 あと、やる気さえあれば、手を貸してもらえる方は、誰でも歓迎します。これも、まだまだ立ち上げたばかりなので、まだちゃんとした窓口を作っていないのですが……それが用意できるまでは、お手伝い希望の方は、とりあえず、こちらにいる二年の玉木珠美さんに申し出てください……」
「さっき、資金集めがどうこうっていっていたけど……具体的に、当てがあるの?」
「それについては、現在、いくつか計画している所ですが……未定の部分が多いので、今の段階ではいえることはあまりありません。
 しっかりした会計のシステムとか、学校側の許可とかの問題がありますので……。
 ただ、資金集めのための準備は、進行中です」
「それは、具体的に……これ、とかですか?」
 質問者の女生徒が、ポストカードを掲げる。
 美容院や商店街で配っている、非売品のポストカード……荒野や茅、楓や孫子などがモデルをしている、ポストカードだった。
 生徒たちが、軽くざわつきはじめる。
「……はいはい。お静かに!
 そうです。それも、確かに資金源の一つとして、考えています。
 それで、試験的に、やってみました。
 ですが、今の時点では、モデルさんたちに支払う報酬としてのギャラは、一切、発生していません……」
 玉木が、騒然としじめた場内を静めるように、若干声を大きくして、マイクに向かう。
「……ええ。
 そのポストカードを配りはじめた最初のお店……カッコいい……じゃなかった、二年の方の加納荒野君とか、ここにいる松島さんとかがカットモデルをやった美容院さんなんですが、ポストカードを配りはじめた日から、予約が殺到しました。
 それに、商店街の方も……昨年末のイベントとか、ケーキ屋さんとか、それに、現在進行中の、イベントでも……彼らの存在が、前提となって、売上が倍増しています。
 ですが、彼らは、今の時点では……年齢的な問題で、金銭で報酬を受け取ることを、拒んでいます。学校とか法律とかの問題で、そうしたポーズをとらざるをえない部分も、多々ありますが……」
 玉木珠美は、最前列に座る先生方の方を、意味ありげにみた。
「……それで、こちらの方で発生する筈のギャラを、ボランティア活動に流用しようという案は、確かに出ています。
 ですが、それはまだ案の段階で……関係者の打ち合わせもなにも、全然できておりません……。
 第一……彼らの存在ばかりに頼っていては、この活動の意味がないのです……」
 ここで玉木は、人ごみをかき分けて教壇に近づいて来る荒野と茅の姿に気づいた。
「……はい。
 有働君の説明が一段落したところで、遅れていた主役が到着したようです……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(29)

第六章 「血と技」(29)

「……なんで、現象が逃げやすいように、わざと隙を作ったの?」
 制服姿の茅と二人で外に出てしばらくすると、茅唐突にそう聞いてきた。非難する口調ではない。茅は、不思議そうな……荒野の真意が汲めない、といった顔をしていた。
「センサーを仕込んでいて……遠くに移動すれば、逃げられても追えないと思うの……」
「もっともな疑問だけど……」
 荒野は、茅の言葉に頷く。
「現象は、現に逃げなかったろ?
 今の状況は、現象にとっても都合いいんだよ、きっと……」
 茅は、荒野の言葉の先を即すように、頷いた。
「現象は……今では、このまま、佐久間に引き渡されることを、望んでいる……」
「自分を追放した、佐久間を憎んではいないの?」
「憎んでいるからこそ、かな……。
 差し違いになっても……佐久間の長に何か仕掛けようって……つもり、なんだと思う……。
 このままおとなしくしていれば……おれたちは、佐久間の長に、やつを引き渡す……。その時までは、現象は大人しくしているさ……。
 今のやつは……自分の恨みに取り付かれている。それを晴らす機会を目の前にぶら下げておけば、自分からは、逃げない……」
『でも……現象よりも佐久間の方が、上手だろうな……』
 と、荒野は思う。
 以前、荒神が源吉を攻撃できなかったように……現象に対して、何らかの処置を施している筈だったが……それは、佐久間の側の問題だ。
 荒野は、佐久間が要求したとおり、現象を会談の場まで持っていく……所までは、責任を持つつもりだが、その後、現象と佐久間との間にどんな事が起ころうとも、手出しをせずに見守るだけにするつもりだった。
「仮に、現象が逃げたとしても……今回、現象を動かしたたやつらの元に、今さら帰れるわけもなし……やつ単独では、なにもできないよ……」
「……そう……」
 茅は、荒野の説明に頷いてみせたが、不承不承、という感じだった。
「でも……現象単独でも……わたしたちに対する、悪い印象や噂を広めることは、できるの……」
 佐久間の技は、洗脳や心理、情報操作に特化している。
 茅の心配は、確かに的を射ているのだが……。
「……やりたいように、やらせておくさ……」
 荒野は、不敵に見える笑顔をみせる。
「もう……おれたちのこと、ここまでオープンになっちゃったし……今日の説明会で、おれたちのことを知る人は、さらに多くなる……。
 ここまで来ちゃったら……逃げ隠れをするのは、かえって逆効果だ……。
 やつが、おれたちの印象を悪くしようとするのなら、好きにさせておく。
 おれたちは、事実でそれに対抗すればいい。
 自分たちの手で、自分たちの評判を守っていけばいい……って、それだけじゃないかな……。
 もともと、そのために、有働君や玉木が、ボランティアがどうのこうのと動いてくれたわけだし……ここまで良い条件が重なったこの土地でやれなければ……多分、どこに場所を移しても、根を張って生きることは、できないと思う……」
 ここに来る前の荒野のように……根無し草として……「一族の一員である」という事以外のアイデンティティを捨てて、移動する度に新しい名前や経歴など、嘘で固めた身分を用意し、身に纏い続ける……などという生活を、茅にはさせたくない。
「わかったの……」
 茅は、今度こそ納得のいった表情で頷いた。
「荒野……もう、後がない、と、思っているの……」
「……ああ……」
 荒野も、意外に真剣な顔で頷く。
「やつらの妨害が勝つか……おれたちの信用が勝つか……。
 これからが、本当の勝負だよ……」
 今日の説明会は、確かに重要な、荒野たちが今後も学校に残れるかどうかを占うものだが……それが成功したとしても、まだまだ、先は長いのだった。
 荒野たちのような「異物」がこの土地に受け入れられようとするのなら……この先、とんでもない努力が必要となるだろう……。
 それでも……。
『努力する、価値はある……』
 と、荒野は思う。

 ある意味で……一族とか、昨日の襲撃者の一味とは、「敵」というよりは「障害」で……荒野たちの本当の「敵」は……特に荒野たちに害意を持っているわけではない、「一般人の偏見」というやつになる筈で……。
 この、「本当の敵」は……無形で、手応えがない分……苦戦することは、確かなことだった……。

 幸い、在庫があったので、学校指定の店で制服を買い、その店の更衣室で早速着替え、二人で学校に向かう。店をでた頃には、説明会の開始時刻から、二十分ほどが経過していた。
「ここから学校まで……十五分くらい、かかるかな?」
 制服に着替えた荒野は、携帯の画面で時刻を確認しながら、そう呟く。
「走って、いく?」
 茅が、首を傾ける。
「いや……いい……」
 荒野は、そう答えた。
 今までに携帯に何にも連絡がない所をみると、それなりに順調に進行しているのだろう。
「焦る必要は、ないよ……。
 ゆっくり行こう……」
 おれたちは……玉木や有働君を、もっと信用すべきだ……と、内心でつけ加える。

 結局、荒野たちが学校に着いた時には、説明会の開始時刻から四十分以上経過していた。
 休日の学校は、相変わらずガランとしている。今日は、昨日とは違って天気がいいのに、校庭で部活をしている生徒の姿も見えなかった。
 上履きに履き替えて、やはりガランとして人気のない廊下を歩いて、視聴覚室に向かう。
 ……と、視聴覚室前の廊下に、人だかりができていた。

「……ええ。
 そういう経緯がありまして、今回のボランティア活動を、始動させることになったわけです……」
 マイクを通した、有働勇作の声が廊下にまで響いてくる。
「……あ! 加納君、こっちこっち……」
 廊下の人だかりの中の一人、女生徒が、荒野の姿に気づいて手招きをした。
 同じクラスの、本田三枝だった。
「はい、主役登場だから、君たち、道を開けなさい……」
 本田の声で荒野の存在に気づいた生徒たちが、ぼそぼそ近隣の生徒たちと囁き合いながら、それでも荒野と茅に道を開けていく。
 荒野と茅は、そうして開けられた道を進んでいく。
「あ。来た来た。おにーさん……。
 今、有働君が、ボランティアの本当の目的を説明し終わったところ……」
 人混みの中を移動している途中で、そういって肩を叩かれた。
 飯島舞花だ。その隣に、栗田精一もいる。
「がんばれよ、加納君……」
 途中で、同じのクラスの嘉島にも、声をかけられる。
 嘉島の周辺には、顔見知りの野球部員たちが固まっていた。
「いつも御馳走になっているからな。野球部は、君の味方だ……」
「……もちろん、料理研も……」
 荒野と同じクラブの部員たちの姿も、あった。
「がんばってね、加納君!」
 と口々に声をかけられる。
 茅も、文芸部の生徒たちやクラスメイトたちに、声をかけられていた。

「……はい。
 有働君の説明が一段落したところで、遅れていた主役が到着したようです……」
 玉木が、人混みをかき分けて教壇に近づいていた荒野たちに気づき、マイクを片手にそういって手招きをする。おかげで、周辺の生徒たちが進んで道をあけてくれたので、格段に前に進みやすくなった。
 荒野と茅は、ようやく教壇の上……マイクを握っている玉木の前に立つ。
「玉木……こんなに、人が……。
 お前、どんな魔法、使ったんだ?」
 荒野が小さな声で囁くと、玉木はにやにや笑って答えた。
「何いっているんだい、カッコいいおにーさん……。
 ここにいる人のほとんど、君たち目当てなんだから……」
 君たちの普段の行いが、ここにいる人たちを集めたんだよ……と、玉木は荒野に告げる。

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彼女はくノ一! 第五話 (112)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(112)

 実習室から楓についてきたのは、柏あんなと斉藤遙を含む数名、だった。

「わたしが残っていても、やることないし……」
 柏あんなは、肩をすくめて、そういう。どことなく、釈然としていない様子で、すっきりとしていない表情をしていた。
「差別とか、そういうのじゃないけど……わからないまま、というのは、もっと恐いし……」

「……いやぁー……面白くなってきましたねー」
 斉藤遙は、柏あんなとは対照的に、晴れやかな顔をしている。
「謎の転校生に、本当に秘密があったとは……。
 なんか、現実離れした展開ですよ?」
 一見、興味本位な発言をする割に、斉藤遙は、真面目な表情をしていた。

 そんな二人と並んで歩く楓の心中は、複雑である。
 養成所で育った楓は、実のところ、今になっても「一般人」と「一族の関係者」の差異を、あまり実感できないでいる。以前から何度か荒野に「目立つような真似をするな」と諭されても、イマイチ、自身の言動に対する注意が散漫になりがちなのは、楓の認識の甘さによるところが大きい。
 確かに、身体能力的には、雲泥の差があるのだろうが……一般人だって、結構、個人差が大きい。例えば、日頃から体を動かしている柏あんなと、インドア系の堺雅史とでは、性差を考慮しても柏あんなの方が、筋力と反応速度、両面において優れていると思う……。

「そういえば……楓ちゃんも、あの人たちの関係者なんでしょ?」
 柏あんなは、声を潜めて楓に囁きかける。
 柏あんなの中では、昨日の話の内容は、あまり実感を伴っていないし、チラリと見ただけの、映像の中の忍装束と、今、目の前にいる楓は、結びついていない。
「ええ、まあ……。
 詳しいことは、今の時点では話せませんが……」
 楓も、言葉を濁す。
 楓の正体がはっきり知れる時は、いずれくるのであろうが……今の時点では、なるべく伏せておけ……と、昨夜、いわれている。
「……わたしも、あんまり聞きたくないけど……。
 そうだよね、同じ時期にこの町に来て、一緒に転入してきたんだから……全くの偶然、っていう方が、都合良すぎるよね……」
「……いや、そのあたりは、将来のサプライズということで、伏せたままにしておきましょう……」
 斉藤遙は、にこやかにそういった。
 楓としては、
「……はぁ……」
 と頷くよりほか、ない。
 楓は、今一緒に歩いている三人を、奇妙な組み合わせだ……と、思った。

 視聴覚室は、楓の予想を越えた盛況で、人で溢れていた。出入り口から、人があふれ出ている。
「楓ちゃん、こっちこっち!」
 どうしようかと廊下で立ちすくんでいると、顔見知りの女生徒たちに手招きされた。
「……ちょっと、あんたたち!
 この人たちは関係者なんだから、道開けなさいよ!」
 同じクラスの、牧野さんと矢島さんは、無理矢理人混みをかき分けて、楓たちを手招きする。
 意外に、強引だったが、かき分けられた方の生徒たちも、楓の顔をみると納得したように頷いて、後ずさった。
 そうして、なんとか視聴覚室に入る。
「……うわぁー……」
 楓たちは、中の混雑を目の当たりにし、揃って間延びした声を上げた。
 視聴覚室の座席が全て埋まっているのはもちろんだが、通路にまでぎっしりと折りたたみ椅子が並べられ、さらに、立ち見の生徒たちまでいる。
「立錐の余地もない」とは、このような状態を指すのか……と、楓たちは実感した。学年もクラスもまちまちだったが……人数的に、二クラス分以上の生徒たちが……下手すれば、三桁に届きそうな人数が、来ている……。
 前の方には、荒野のクラスの担任である大清水先生と、楓たちのクラスの担任である岩崎先生が並んで座っていて、有働勇作となにやら話している。有働勇作はこちらに背を向けていたが、背が高く、背中が他の男子生徒と比較して一回り大きいので、顔を見なくても判別が出来る。
 この学校で百八十オーバーの生徒は、男子なら有働、女子なら飯島舞花くらいしか思いつかない。
「……あーっ!」
 有働の隣にいた女生徒が、いきなり大声を大声を出して、楓の方を指さした。玉木珠美、だ。
「楓ちゃん、こっちこっち!
 カッコいいこーや君たちがくるまで、ちょっと前に出てきて!」
 玉木に名指しで手招きされ、視聴覚室にいた生徒全員の注目を浴び、楓は少しビビリつつも前の方に移動する。楓が移動するにつれて、周囲の生徒たちが道を開けてくれた。てっきり楓の後をついてくるとばかり思った柏あんなや斉藤遙は、楓が前進するのを、手を振って見送っている。
 はっきりいって、薄情だ……と、楓は思った。

「なにか……お手伝いすること、ありますか?」
 玉木に手招きされるまま、注目を浴びながら視聴覚室の前に出た楓は、なるべく不機嫌さを声に出さないよう、気をつけながら、そう尋ねる。
「別にないけど……とりあえず、ここに、座っておいて。
 楓ちゃんは、見た目もいいから、飾り……」
 玉木は忙しなくそういって、すぐに楓に背をむけ、マイクを弄りはじめる。
「……すいませんねー。いつも強引で……」
 そういって楓に頭を下げるのは、有働である。
「……いいですけど、別に……」
 有働の方に目を向けた拍子に、有働と話していた先生方と目があったので目礼する。
 大清水先生はいつもの通り、むっつりとした表情のまま軽く頭を下げただけだったが、楓の担任である岩崎先生は、尋ねてもいないのに、
「……大清水先生に、来ておいた方がいいって誘われたもので……」
 などと説明してくれる。
「でも……予想以上に、人が来てますね……」
 楓は小声で、有働勇作に尋ねた。
「……ええ……。
 なんか、口コミで、予想以上にあつまっちゃって……」
 有働はそういって、楓にだけ見えるようにそっと指でさしながら、
「……あそこの女子たちが、加納君のファンで、あそこにいるのが調理研、あっちに固まっているのが、文芸部関係の茅さんの知り合いで……」
 などと、小声で教えてくれる。

 楓も、荒野もあまり意識したことはなかったが……自分たちは、予想を越えて、この学校の生徒たちの興味を引いていたらしい……。

「……あーあー。マイクのテスト中……。
 遠くの方にいる人、聞こえますかぁ? なんか、廊下にまではみ出す盛況のようですが、本日は賑々しくご来場くださり、ありがとうございます……」
 玉木が、どこまで本気で言っているのか判断しかねる口調で、マイクテストを兼ねた挨拶を行った。
「……ええ。
 本日の主役である加納兄弟は、都合に少々遅れるようですが、時間になりましたので、そろそろ開始したいと思います。
 皆様のほとんどは、昨日あった、学校での出来事の噂を聞きつけて、この場に駆けつけたのだと予測しますが、その話題については、しばらくお待ちください。
 その前に、現在、放送部とパソコン部有志による、この町の不法投棄ゴミについての調査の、中間報告をさせていただきたいと思います。
 というか、むしろこの説明会の本題はこっちなので、興味のない方は、席を立って廊下で聞いている人にスペースを譲ってあげてください……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(28)

第六章 「血と技」(28)

 翌日の日曜日、久々の独り寝であるにも関わらず、荒野は九時過ぎまで熟睡していた。早朝から茅に付き合っている普段より、何時間も余分に寝過ごしていたことになる。目覚めて時刻を確認した荒野は、寝ボケ眼のままキッチンに向かい、冷蔵庫に残っていた有り合わせの食材を適当に調理して、自分でいれたコーヒーで流し込む。自分一人で作って自分一人で食べる食事は、どうしても雑で適当な料理になる……というところまで考えて、バスルームに閉じこめている佐久間現象のことをようやく思い出した。そういえば、今朝はまだトイレにも行ってないし、顔も洗っていない。
 荒野はマグカップを片手にバスルームの扉の前まで移動し、扉をノックする。
「……よう。起きてる?
 メシ、食うか? 食うんなら、用意するけど……」
 寝起きであることに加え、そもそも相手が「招かれざる客」である。別に虐待するつもりもないが、言葉遣いはどうしてもぶっきらぼうになる。
 返事は……昨夜と同様、なかった。
 自分のノートパソコンを立ち上げて、バスルーム周辺に設置したセンサーで集積した情報を確認する。
 呼吸も体温も正常。佐久間現象は……相変わらず、バスルームの隅で蹲っている……。
 無駄な体力の消耗を抑えている……ということから、荒野は、佐久間現象っが、「脱出、ないしは……反撃する機会を伺っている……」と判断し、気を引き締めた。
 相手の心がまだ折れていない以上……一人の時に、不用意に接触するのはよそう、と。

 ゆっくりと冷蔵庫の残り物を片付け、キッチンの流しで簡単に顔を洗っているところに、茅が帰ってきた。茅は着替えだけを手早く済ませると、荒野と一緒に隣の狩野家に引き返す。
 午後から玉木と有働が主体になって行われる説明会があるので、ガクへの見舞いは午前中に済ましておきたい。ガクとテンへは、あれから判明した情報を説明する必要もあり、早めに面会しておきたかった。
 ガクが入院している病院へは、荒野と茅、楓と孫子の四人でいくつもりだった。
 荒野は狩野家でトイレを借り、四人でぞろぞろ歩いて駅の向こう側にあるという、ガクの入院している病院へと向かう。途中、マンドゴドラに寄って、手みやげのケーキを四つほど、包んで貰う。荒野たちは話しが終わればすぐに家に戻るつもりだったので、それだけあれば足りる筈だった。

 入院していたガクは思ったよりは元気そうだったが、同時に、昨日の暴走についても、かなり深刻に悔いているように見えた。
 俯いて涙を流すガクを、テンが遠慮なく叱責する。
 ガクは、自分が生命の危険にさらされれば暴走する体質であることを自覚しながら、自衛のための努力を怠っていた、と。
 それは荒野も指摘しておきたかった所であった……ガクとは付き合いの長いテンの口から容赦ない口調で指摘され、すっかりしょげかえっているガクをみると、逆に元気づけておいた方がいいように思えてきた……。
『……ま……』
 冷静な、時に酷薄に思えるほど的確に状況を判断するテンと、逆に、一時的な感情に捕らわれがちなガク……二人を足して二で割ると、ちょうどいいのにな……と、荒野は思う。
 しかし、そうそううまい具合に行かないのが、現実なのだった。
『自分たちの能力を、悪用しようとしていないだけ、ましか……』
 荒野としては、そう自分に言い聞かせて無理にでも納得するより他ない。
 それから、今夜、佐久間の長からの招待されている件、その場で佐久間現象を引き渡したい、ということも含めて説明し、テンとガクに同意を求め、同席するように誘った。
 佐久間現象については……聞きたいことさえ聞いてしまった今となっては、かえって持てあまし気味だった。佐久間の長が引き取りたいというのなら、それに乗じるのが一番に思えた。
 テンとガクの二人は、現象に引き渡しについては特に異論を挟まず、夕食には二人揃って出席する、と答える。荒野は、そうした場に相応しい服装を、孫子に見繕ってくれるように依頼した。別に盛装する必要はないが……かといって、六主家の重鎮が集まる席に、若輩者の集まりがあまりにラフな服装で出向くのも憚られる。孫子なら、そうしたTPOに合わせた服装をうまく選択してくれるだろう。
 荒野の依頼を快諾した孫子は、その場で携帯電話を取り出したが、テンに病院内で携帯の使用は禁止されている、と指摘され、慌てて病室の外に出て行った。
 入れ替わりに、精密検査をする場所まで送るガクを送る、という三島百合香が入ってきたので、それを機に病院を出た。二人とは、どのみち夕方に再会することになる。詳しい話しは、それ以降でもできるのだった。

 帰りに「どうせ商店街を通るから」と、食材の買い出しもすませる……つもりだったが、こちらに関しては、当てが外れた。
 冷蔵庫の中身が欠乏しはじめてきたからだが……晴天の日曜日ということもあり、ゴシック・ロリータのイベントとの相乗効果で、まだ昼前だというのに、商店街は予想外に混み合っていて、人混みをかき分けて歩くのに、思いの外時間を取られた。今日はこれから、学校での説明会、佐久間の長、その他ゲストとの会食……と、予定が詰まっているので、軽く話し合って、最低限の買い物だけを済ませ、足早に帰路につく。学校に向かう前に、昼食も、用意しなければならない。
 商店街から出てしばらく行った所で、荒野は佐久間現象の分の食事を一切考慮していなかった事に気づき、慌てて途中でコンビニに立ち寄って、適当に弁当を購入した。思い返してみれば、現象には昨夜、適当に冷蔵庫の中の食料を手渡しただけで、今朝も食事を出していない。一日や二日食べなくても死にやしないだろうが、うまく話がまとまれば、現象は今夜にでも佐久間に引き渡されるわけで、その先で、荒野たちが捕虜となった現象を虐待した……などという風評を立てられるのも不本意だった。

 家路を辿る途中で、楓に「制服はどうするのか?」と指摘された。
 指摘されて初めて……荒野は、昨日、ガスを浴びた時に着ていたものしか、制服を持っていなかったことに思い当たる。上着は、ガス弾をくるんで川に放り込んだままだし、下とワイシャツは、ガスの成分分析をしたい、と申し出た徳川篤朗に預けたままだった。
 早めに昼食を済ませ、学校の制服上下も、新たに調達しなければいけないようだった……。
『……説明会には、確実に遅れるな……』
 別に出欠を取られるわけではないのだが……自分が大きな役割を果たす筈の会合に遅れていく……というのも、荒野にしてみれば、歯がゆい所があった。
 自分たちの存在がなければ、玉木や有働もボランティア活動がどうこう、ということははじめなかった筈であり……もちろん、二人にしろ徳川篤朗や放送部員たちにしろ、面白がって自発的にやっていること、なのではあるのだが……それでも、根本の契機は、荒野たちが、この町に来たこと……なのは、動かせない事実である。
『そういうこと……今、考えても、しかたがないか……』
 狩野家について昼食の準備を開始する頃には、荒野は、そう割り切っていた。

 元々症状の重くなかった香也の風邪は、かなり快方に向かっており、その香也を含めた五人で昼食を摂った後、茅と二人で一旦マンションに帰り、茅は制服に着替えはじめた。
 バスルームの扉を開けると、現象はうろんな目つきで荒野を睨んだ。
 荒野は平然と、
「腹減ったら、これ食え」
 とだけいって、袋のままコンビニ弁当を投げ入れ、そのまま扉を閉める。
 扉を閉めてから、
「おれたち、これからまた外出するけど、まだセンサーは生きているからな。
 しばらくじっとしておいた方が、身のためだぞ」
 と念を押しておいた。
 例によって、現象は、返事をしなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (111)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(111)

 狩野家に着くと、約束どおり荒野は、茅と一緒に冷凍していた余り物のご飯と冷蔵庫にあった適当な食材、それに、乾貝柱などを一緒くたに弱火で煮込んでお粥を作る。その間に、楓と孫子は、掃除だとか洗濯だとかにばたばたと動き回っていた。
 家が広い分、やろうと思えば掃除も際限がないし、病院で預かっていたテンとガクの着替えをどうせ洗うなら、と、たちどころに他の住人の分も汚れ物を集めてくる。これくらいの大所帯になると、たかが家事でも、これでなかなか大変なのであった。

 いい具合に鍋の中身に火が通って来たところで火を止め、玉子を多めに割りいれて、掻きぜ、火を止め、鍋ごと炬燵の上に持っていき、鍋敷きの上に鍋を置く。
 中身が薄い分、あまり満腹感はないかもしれないが、消化はいいし、栄養的にも十分な筈だった。
 荒野は、通りかかった楓に声をかけ、みんなを集めてもらった。孫子と楓、それに、パジャマ姿の香也が、居間に集合し、昼食となる。
 居間に出て来た香也は、若干赤い顔をしていたが、それ以外は平常どおりで、熱も朝よりは下がっている、という。ひきはじめの段階で楓と孫子が手厚すぎるほどの看護を行ったので、あまり重い症状にならないうちに直りかけけている……ように、見受けられた
「……そういや、おれたち夕方からいなくなるけど……香也君の食事はどうするんだ?」
 食事中、荒野がそう水を向けると、孫子と楓が「あっ!」という顔になる。どうやら、考えていなかったらしい……。
「……ご飯は、炊飯器のタイマーをセットしておくとして……何か作り置きしておいて、暖めるだけにしておいた方が、いいですね……。
 羽生さん、遅くなるかも知れませんし……」
 楓が、そう答える。
 続いて、
「そういえば……加納様……。
 替えの制服、あるんですか?」
 と、問い返した。
「……あっ……」
 今度は、香也が絶句する番だった。
 そういえば……学校の制服は、昨日のガス騒動の際に台なしにしたものしか、持っていない……。
「今から、指定の店に買いにいくか……」
 在庫がありさえすれば、すぐに入手できるだろう。
 午後からの説明会には少し遅れて行くことになるが、荒野が多少遅れていっても、説明すべきことは多々ある。特に支障は起こらない筈だった。
「……そうですね……どうせ、明日からも使う訳ですし……」
 楓はそういって頷いたが……今後、生徒たち、あるいはこの町の人々が、こぞって荒野たちの存在を疎ましく思いはじめる……つまり、学校に通学する必要がなくなる……事態になることも、十分に想定できる……ことを、この場にいる誰もが、知っていた。
 知っていたが、その可能性について、あえて口にする者は、誰もいなかった。

 昼食を済ませると、荒野と茅は狩野家を退出し、香也は自室に戻り、楓と孫子は学校に向かう準備をした。
 楓も孫子も……昨日、不本意ながらも正体を暴露してしまった荒野が……今日の説明会には集まって来た生徒たちに、どのように迎え入れられるのか……かなり差し迫った興味を持っている。
 まかり間違えば、明日は我が身……文字どおり、「他人事ではない」のだった。
 楓と孫子は制服に着替え、ほぼ同時に家を出た。しかし、会話はない。ここの所、二人一組で行動する機会が増えており、加えて、昨日の昼間は、香也をはさんであーんなことやらこーんなことやらをさんざんやらかした間柄ではあるが……いや、そのようなことをやった後だからこそ……二人きりになると……気まずい。
「あ、あの……」
 学校に着くまで、ずぅーっと黙り込んでいることに耐え切れなくなった楓が、孫子に語りかける。
 施設育ちの楓は常に身の回りに他人がいる、という環境を当然のこととしている。故に、すぐそばにそばに知り合いがいるのに会話がない状況に、耐性がない。例外は、絵を描いている香也のそばにいる時くらいなものだ。
 こういう時は……とりあえず、当たり障りのない話題……そう思った楓は、
「……き、昨日は雨だったけど……今日は、いいお天気ですね……」
 と、切り出した。
 当たり障りのない……というより、おおよそどうでもいい話題、ではある。が……世間話の糸口なんて、そんなもんだ……という認識が、楓には、ある。
 肩を並べて歩いている孫子は、そう切り出してきた楓の顔をまじまじと見つめた。
 まるで、信楽焼きの狸がいきなりしゃべり出した、とでもいいたげな、珍しいものを見る目で、おおよそ三分ほど楓の顔を眺め、楓が「……自分はなにか……知らず知らずのうちに……とんでもなく無礼なことをいってしまったのではないか……」と、不安に思いはじめた頃、ふと目線を上にそらし、空をみる。
「……そう……確かに、いい天気ですわね……。
 でも、そんなことは、いちいち指摘されなくても、こうして野外を歩いていれば、誰にでも認識できることではありませんの?」
 孫子は、淡々とした口調で、そうのたもうた。

 ……楓は、以後学校に到着するまで、孫子に語りかけることはなかった。
 育ちも性格も異なるこの二人は、香也の存在を抜きにしても、意外にお互いのことを意識しあっているのだが……この時点では、あまりにも歯車が噛み合っていなかった。

「……あ。来た来た……って、あれ?
 カッコいいほうの荒野君兄弟とは、一緒じゃなかったの?」
 二人が学校に到着し、上履きに履き替えていると、玉木玉美に声をかけられた。
「加納様は……昨日の件で駄目になった制服を調達してからこっちに来るとかで、少し遅れるそうです……」
 楓がそう説明すると、玉木も、
「ああ……。
 ……そっかー……」
 と、納得のいった表情で、頷く。
「……まあ、こっちも、うどー君の真面目なレポートとかいろいろあるんで、遅れてくれた方が、かえっていいのか……。
 表向き、今回の説明会は、ボランティア活動の、ということになっているから……荒野君たちのことを最初に決めちゃったら、そっちの方どころじゃあ、なくなるもんな……」
 などと、低く呟く。
「まだ、視聴覚室の方で準備があるから」と差っていく玉木に孫子はついていき、楓の方は、二人とは別れてパソコン実習室に向う。昨日の件もあったし、パソコン部の面々の様子を確認しておきたかった。
 楓が実習室に入ると、画面に見入って何やら作業を行っていた筈の部員たちが目敏く楓の存在に気づき、瞬時に楓は部員たちに取り囲まれる。
「……加納のお兄さんの方がニンジャで……」
「昨日の校庭で……」
「妹さんが説明しかけたけど、途中で中断しちゃって……」
「駅前でも……」
 楓に注目している、というより、昨日の出来事と体験をいまだ消化しきれておらず、その混乱をぶつける矛先として、たまたま昨日、現場にいなかった楓を選んだ……ということらしい。
「……はい! はい!」
 楓の周りに集まって来た生徒たちを一喝して静めたのは、柏あんなだった。
「今、楓ちゃんにそんなこといっても何も変わらないでしょ? もう少しすれば、視聴覚室でちゃんと詳しい説明をしてくれるっていうんだから、それまでおとなしくしてる!」
 そういいながら、柏あんなはパソコン部の部員をかき分け、楓の肩に手を置いて、楓の体を人垣の中から引きずり出す。
「……それよりも!
 作りかけのソフトの方、しっかりやろうよ!
 楓ちゃんと茅ちゃんにばかり頼っていても、しょうがないし……」
 堺雅史は他の部員たちとは違って、楓に近寄るということはなく作業を続行していたのだが……人垣の外から、唐突に、そう声をかけた。
「……加納兄弟は確かに特殊な人たちかも知れないけど……。
 少なくとも、ぼくらには、なにも悪いことをしてこなかったじゃないか! むしろ、危害を加えてくるやつらから……身を呈して守ってくれているじゃないか! みんな、昨日の、みてたでしょ? そういう人たちを……興味本位で話しのネタにするって、間違っているよ!」
 普段、おとなしい堺が一息にまくしたてると、実習室内にいた生徒たちは、しーんと静まり返る。
「それに……あの二人は、ぼくらに、知識もくれたんだ……」
 堺雅史は、茅が注文して、荒野が運び込んだプログラム関係の技術書の山を指さす。それらの技術書は、適当な置き場所がないので、とりあえず、実習室の後ろのスペースに、梱包してきた段ボールを床に敷いただけで、無造作に置かれたままだった。
「ああいう技術とか経験とかは……自分で試行錯誤しなければ、身につかないよ……。
 せっかく、あんなに参考書をいただいたんだから……それを、無駄にしないようにしようよ……。
 昨日の説明、とかはさ……向こうがしてくれる、っていっているんだから……別に、今日明日のうちに、急いで聞きにいく必要ないと思うけど……。
 明日以降も……休み時間にでも、気軽に声をかければ、話せる範囲内で話してくれると思うし……」

 やがて、視聴覚室での説明会が始まる時間になったが、席を立って実習室を出たのは、楓を含めてほんの数人程度だった。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(27)

第六章 「血と技」(27)

 狩野家での温かい食事を楽しんでから、茅とともにマンションに帰る。徳川浅黄が向こうに泊まる、ということで、今夜は茅も一緒に、狩野家で泊まることになっていた。茅は、自分のパジャマなど持つとすぐにお隣りにとって返した。

「……おい、いるんだろう?」
 一人になった荒野は、バスルームの扉に話しかける。少なくともセンサーは、まだ佐久間現象が中にいる、というデータを示している。
「こっちのいうことに正直に答えてくれたら、温かい食事を用意してやってもいい……」
 命に別状はないとはいえ……真冬のバスルームに閉じ込められて、快適な訳がないのだ。
 しかし、バスルームの中に佐久間現象がいる気配はあっても、返答はない。
「……返事は、なしか……」
 まあ、いい……。
 と、荒野は思う。
 なら……一方的に、話すだけだ。
「お前は……一族も、一般人も……無差別に憎んでいるようだけど……そういうのって、空しいぞ……。
 少なくとも、なにも生み出さない……」
 荒野は床に尻を据え、バスルームの扉に背を預ける。
 扉越しに佐久間現象に背中を見せている形だが、荒野はそのことに頓着しない。中の気配くらいは読めるし、現象が武器になりそうな物は所持していないことは、すでに確認済みだった。
 それに……。
『この期におよんで、抵抗するようであれば……』
 まだしも、救いようがある……と、思った。
 荒野は、今回の件で初めて佐久間現象という存在をしった訳だが……現象の立ち回り方を見ていると、否応無しに気づく事実がある。
 佐久間現象には……破滅願望が、ある。周囲を、できるだけ広い範囲を巻き込んで、自滅したいと思っている。
 今回の件も、その願望を……謎の首謀者たちに見透かされ、扇がれた結果だ……と、荒野は観察していた。
「……確かに、一族は、卓越した能力を持ちながら、実際にやっているのは単なる汚れ仕事の請負だし、一般人は……無能で、特に佐久間なんて頭のいい連中から見たら、救いようがないほど、愚かでもあるんだろう……。
 でも……一般人は、愚かで無能かもしれないけど……したたかで、つよいよ……」
 相変わらず、佐久間現象からの反応はない。
 しかし、気配を探ると、荒野の言葉に聞き耳を立てていることがわかる。
「……おれは、加納だ。加納だから、人より早く大人の身体になる。それに、本家直系でもあるから、身体ができあがると同時に最低限の訓練を受け、その後、他の一族に混じって、第一線で何年か働いてきた……。第一線、というか、最前線だな。一番、人員の消耗が激しい場所だ。
 知っていると思うが、加納は、他の六主家とか一般人とか間に入って、交渉の窓口になることが多い。だから、直系男子は、早いうちからそうして現場に出され、実践訓練とコネクション作りやらされるんだ。生死を共にした仲、というのは、強いからな……。
 で……普通の、一般人の子供なら無邪気に遊び回っているような時期に、何年かこの世のどん底を這いずり回ってきて……いきなり、この、平和な国に、来た。
 いや、生まれたのはこの国だそうだから、帰ってきた、というのが正しいのかな……。
 でも……こっちに来た当初は、この国の平和さになかなか馴染めなかったよ……。
 そのうち、茅が来て、そんなことを考える余裕もなくなってくるんだけど……」
 ここで、荒野は、笑った。
「……本当、短い間に、いろいろな事があって……いろいろな人と知り合った。
 それまで知らなかった世界をいくつか垣間見た。
 中でも、印象的だったのは……おれと同じくらいの年齢なのに、もう、何十枚、何百枚って絵を描いているヤツがいたことだな……。
 それを見つけた時は、本当にびっくりしたよ。物置みたいなところに、びっしりと迫力のある絵が無造作に放りだされていて、しかもそれがたった一人の……おれとそんなに年が変わらないやつが描いたもんなんだ……。
 いや、本人は、いたってのほほんとしたやつなんだが……絵のほうは、本物だ。誰かの真似からはじまって……今、自分の……紛れもなく彼自身の絵に、なりかかっている。
 おれには……そう、みえる。
 いろいろ、ショックだったね。
 おれが泥沼の底をはいずり回っているうちに、一方で、同じ年頃のやつがそんなことをしている。おれがやってきたことは、引き算だが、彼が営々とやって来たことは、足し算だ……」
 荒野はそこで言葉を区切り、首を振った。
「……それから……おれは、それまで見えなかったいろいろな物が、人が、目にはいるようになってきた。
 確かに一般人と一族とでは、能力に差がある訳だけど……でも、たまたま一族にうまれるいたのが、そんなに偉いことかな、とも、思い始はじめた。
 他の一族や、それにおれ自身も……所詮、お前と大同小異だよ、佐久間現象……。
 自分の能力を誇りながら、一方では、一般人社会から爪弾きになることを恐れ、その能力を秘匿する。
 内心では一般人を蔑みながら、その実、一般人の社会に寄生している……」
 おれたち一族は……どんなに秀でた能力を持っていても……今までのままでは、寄生虫のままだ……。
 と、荒野は続ける。
「……だって……おれたちがやっている汚れ仕事ってのは、要するに一般人の愚行の後始末以上のものでしかない。
 もちろん、誰かが片付けなければならない……一族以外の一般人が手掛ければ、もっと手際悪くなる。おれたちがやった時の、何十倍もの犠牲をだしちまうだろう……。
 だけどな、そんな汚れ仕事を、どんなにスマートに片付けて見せたところで……おれたち一族が、一般人社会の生産性に、なんら寄与していないってことは確実なわけで……。
 おれたちの能力ってのは、今までのところ、どっかの馬鹿が作りかけた負債をほんの少し軽減する程度のことでしかなくて……」
 ……マイナスの値を少なくすることと、プラスの値を増やすことは、根本的に違うよな……。
 と、荒野は沈んだ声で呟く。
「……おれは、そういう意味で……何かを作った経験は……これまでに、したことがない。
 だから、平然と物を作り、社会を維持している一般人を、尊敬する。
 同時に、そうした一般人の社会を壊そうとする者には、本気で、敵対する……。
 だから……」
 荒野は、深々と息をついだ。
「……お前は、明日の夜、佐久間の長に引き渡される訳だが……その後、佐久間がお前をどう処分するのかも、おれの知ったことではないが……」
 ……今後、お前がおれの前に姿を表すとして……その時に、今日と同じようなことをしようとしていたら……。
「おれは……おそらく、全力で、お前に敵対する……」

 荒野は、それだけをいうと、立ち上がり、最後に、
「……おやすみ……」
 とだけ言い残して、寝室に向かった。

 佐久間現象は、ついに最後まで言葉を発しなかった。

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彼女はくノ一! 第五話 (110)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(110)

「……それでどうだ? ガクの調子は?」
「病院って、退屈!」
 荒野が問いかけると、ガクが顔を上げて元気よく答える。テンと荒野の会話を聞いていつうちに、少しは普段の調子を取り戻したらしい。
「そりゃ……退屈だろうけど……」
 尋ねた荒野の方は、苦笑いする。
「身体の方は、どうなんだ?」
「手足の方はね、昨日、傷口ふさいだから、後は肉が盛り上がってくるのを待てばいいって。それまでの間、激しい運動、しちゃ駄目だって。傷が開くから……」
「頭の方は……これから精密検査だったな」
「うん。午後一で。もっと設備が整った場所に移動するんで、もう少ししたら、先生が迎えに来るんだって……」
 荒野は、頷く。
「じゃあ……今夜は、テンと一緒に来れるのか?」
 佐久間の招待に応じるのか、と、荒野は確認した。
「行くよ! もちろん!」
 ガクは勢いよく頷く。
「聞いた感じでは、ボクらにとっても重要な会合みたいだし……それに、ボクも、いつまでもテンに考えさせてばかりではいけないんだ……」
「……よし。
 じゃあ、検査が終わったら、テンと二人で、家で待ってろ……。
 おれたちは午後一で学校の人たちに向けの説明会がある……そしたら、みんなで一緒に服を買って、そのまま佐久間の招待に応じよう……」
「……服?」
 ガクだけではなく、テンも揃って首を捻っている。
「今回の集まりは、一族のお偉方が雁首並べるみたいだから……事実上、お前らのお披露目みたいな意味合いも出てくると思う……。
 お前ら……軽装で出向いていって、足元を見られたくないだろう?」
 二人が荒野の言葉の意味を咀嚼している間に、荒野は孫子の方に振り返って、いった。
「……そういうことで、才賀、こいつらと……それに、茅と楓の分も……一族のお偉方の前に立っても見劣りのしないような服、見立ててやってくれないか?
 お前なら、そういうのは詳しいだろ?」
「……それは、いいのですけど……」
 孫子は、軽く眉間に皺を寄せた。
「そういう当の本人の、分は……」
 と、荒野の胸元を指さす。
「おれは……スーツぐらい、持っているけど……」
 孫子は深くため息をついた。
「他人の服装には口を挟むくせに、自分は安物の既製服で済ませるつもりですか……。
 いいです。まとめてこちらで手配します……」
 孫子がそういって携帯電話を取り出そうとすると……。
「……孫子おねーちゃん……」
 その手を、テンが制した。
「ここ、携帯電話、使用禁止……」
 テンが、病室の壁に貼ってある張り紙を指さした。

「……うぉーっす、元気にしてたか、ガキども!
 って、なんだ、荒野とその他一同、来てたのか……。
 せっかく見舞いにきてくれたところなんだが、ガクはこれから別のところで検査だ……」
 気まずい沈黙がしばらく続いたところで、三島百合香がハイテンションで病室に入って来る。
 それを機に、荒野たちは病院を辞した。

「……昼まで、少し間があるか……」
 荒野は、どうせ駅前を通るし、買い物をしていこうかな……と思いはじめている。
 冷蔵庫の中がそろそろ隙間が目立ちはじめているし、それに、今日は午後から予定が詰まっているから、のんびりと買い物をしている余裕はなさそうだ……という思惑もある。
「……それでしたら……」
「ええ。わたしたちの、ほうも……」
 荒野が「帰りに買い物をしていきたい」というと、孫子と楓も頷いた。そういえば真理が不在のため、現在の狩野家の家事は、同居人全員で分担して行っている……という話だ。その同居人のうち、ガクとテンは今みてきた通り、香也は風邪で寝ていて、羽生譲は朝からバイト……ということになると、今日まともに動けるのは、楓と孫子だけ、ということになる。
「……そっか……じゃあ、一緒に買っていってついでに昼も一緒に作るか……」
 どうせ、今日は一日のほとんどの時間を共にするわけで……買い物にせよ、食事作りにせよ、一緒にやったほうが合理的だ……と、荒野は思う。
「台所使わせてもらえば、昼は茅とおれで用意するけど……」
「……それは、助かるのですけど……」
 孫子は、少し困惑顔になった。
「香也様があの調子なので……お昼は、残り物のご飯でお粥でも作ろうかと……」
「ああ……病人食ね。
 うん。いいよ。そうしよう……」
 荒野軽く頷いて、貝柱の乾物くらい買ってか帰ろうかな……と思いはじめている。そして、孫子が香也のことを、さりげなく「香也様」と呼んでいたことに気づいた。楓は以前からそう呼んでいたが……孫子は、以前は香也のことをなんと呼んでいたっけ……。
 そんなやり取りをしながら、一同はそろそろ人通りが多くなりはじめた駅前商店街に向かう。

 その場にいた全員が忘れていたが……商店街では、今、商店街主催の「ゴシック・ロリータ祭り」の真っ最中だった。天候に祟られた昨日はさほどでもなかったが……日曜で快晴の今日は、まだ午前中だというのに、昨日の五割増しくらいの人がいる。それも、人込みの大半は、十代から二十代の女性であり……。
「才賀……良かったな。
 趣味のお仲間がこんなに集まって……」
 とは、荒野。
「壮観……。
 これだけ集まると、迫力が、ありますねー……」
 と、楓。
「マイナーな嗜好の持ち主ほど……同好の士への同胞意識は強くなる傾向があるの」
 これは、茅。
「茅、楓……せっかくの機会だから、同じような格好して、この中に入って見れば……」
 と荒野が勧めると、楓は、
「あはっ。あはははあははっ……」
 と笑ってごまかし、茅は、
「あの格好……ヒラヒラが多すぎて、動きにくそうなの……」
 と、眉を顰めた。
「……高尚な趣味は、なかなか世の中に受け入れられないものですわ……」
 それぞれの反応を、孫子はそういって受け流す。

 ともあれ、いつもより人が多かったので移動に時間かかりすぎ、買い物は最小限で切り上げなくてはならかった。
「……でも、ちゃんとお客さん、集まってくれて、良かったですねえ……」
 帰り道に、楓がそんな風に話はじめる。
「昨日のあれがあったから……結構心配だったんですけど……」
 明るい口調だが……内容的には、深刻なものをはらんでいる。
「結局、あのガスは……一般人の中に被害者がでなかったことで、撮影用に使用した発煙筒、ということになっているらしいな……」
 玉木の機転……の、結果、だろう……。
「……幸運によるところが大きかったよな、今回は……」
 荒野も、真剣な顔をして頷く。
 少しでも処置を誤れば……惨事が待ち受けていた。
 こんな幸運が、そうそう続く訳はない……とも、思う。
「根本的な対策は……首謀者を捜し出して、拘束すること、なんだけど……」
 そうした解決策を実行するには、膨大な人的リソースが必要となる。
「……駄目元で、今夜、頼んでみるよ……。
 あんな、なにをしでかすのか分からないやつら、野放しにしておくな、って……」
 一族にとっても、今回の件は看過できない筈なのだが……それでも首謀者が捕まっていない、というあたりに、不気味さを感じる……。
 一族の中枢に近い者が、首謀を手引きするなり、情報のリークなりをして……一族の裏をかきつづけているのは、確かなように思えた。
 そもそも、佐久間現象は、佐久間と二宮のホットラインを無断で使用していたらしいし……。
『どんどん……話しが大掛かりになっていくな……』
 と、荒野は思った。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(26)

第六章 「血と技」(26)

 佐久間現象の尋問が一通り終わると、荒野は現象をバスルームに閉じ込めることにした。その際、冷蔵庫にあった果物とか食パンを適当に手渡す。
「……逃げたかったら、逃げてもいいぞ……。おれたちを相手にして逃げきれると思うのなら」
 そういって、荒野は背後にいる茅、楓、孫子を肩でしめす。
「才賀はさっき言った通りだし……茅も楓もおれも、お前に対しては怒りを感じている、ということを忘れるな。お前が無抵抗なら、このままの状態で佐久間に引き渡すが……お前が無駄な抵抗をすると、引き渡すのはお前の死体になる、という可能性も、十分にある……。お前を攻撃したいと思っているのは、才賀だけではないから。
 向うさんは、お前の身柄を要求しているけど、生死までは指定していないということを忘れるな……。
 最後に……」
 荒野は親指と人差し指で摘まんだ、小さな金属片を佐久間現象の顔の前にかざして見せる。
「……これ、一種のセンサーなんだけど……このセンサーから人が離れると、リアルタイムでおれの携帯にそのことを通知する仕掛けになっている。
 これを、バスルームに多数、仕掛けておく。バスルーム内から人がいなくなると、すぐにおれに知らせる。
 バスルームの外のセンサーには、逆に、バスルームから人が出て来くると、おれに知らせるようにセットしてある。
 この中にいるかぎり、水と食料には不自由しないから、後は好きにしてくれ。
 もし逃げることがあったら……おれたちは、手加減なしにお前を追撃する。その途中の事故で、万が一負傷、ないしは死亡したとしても、お前の自業自得だからそのつもりで……。
 さあ、おれたちは、お隣りに暖かい飯を食いにいこう……」
 相変わらず、無言のままの佐久間現象をバスルームに閉じ込めて、荒野は他のみんなを即してマンションから出て行った。

 完全に周囲から人気が絶えると、「糞っ!」とか「畜生!」とかその他聞くに耐えない罵倒雑言がバスルームの中に響いたが、しばらく立つとそれも止んで、しん、と静かになった。

 狩野家の居間に入ると、飯島舞花、柏あんなが台所にたっていて、栗田精一、堺雅史、斎藤遥、徳川篤朗、徳川浅黄が炬燵に入っている。斎藤遥は、居間の隅に置いてあったスケッチブックを広げ、徳川浅黄とお絵かきをしていた。
「その紙、一枚欲しいの……」
 あいさつもそこそこに、スケッチブックから一枚の紙を貰うと、茅はそれを炬燵の天板に置き、浅黄から受け取ったクレヨンを使いはじめる。
 しかし、茅の描き方は、かなり異様だった。
 紙の上から、左右に手を振りながら、所々に点を売っていく。一通り点を打ち終わると、今度は別の色のクレヨンを持って、同じように点を打つ。
 最初のうちはもやもやと不明瞭だったものが、次第に人の顔らしき輪郭を浮かび上がらせて行く……。

「……ただいまーっと……あれ?
 みんな揃って、何してんの?」
 茅が異常な方法で絵を描いているのを、全員で見守っている所に、羽生譲が帰宅してくる。
「茅ちゃん……プロッターみたいな描き方するんだな……。
 で、だれ? この子たち?
 お友達?」
 羽生が帰ってきた時、茅は二枚目の絵に取り掛かっていた。
「お友達には、なれそうもない人たち……なの」
 羽生譲が手に持った紙には、十歳前後の端正な顔立ちの子供が、写実的なタッチで描かれている。写実的な……というより、写真にレタッチ処理をして、無理やりクレヨン画にしたような絵に仕上がっていた。
「佐久間現象を動かし、わたしたちを攻撃してきた……多分、張本人。
 現象の記憶の中で、見つけた映像をハードコピーしているの……」
 そういいながらも、茅は、別の角度からみた同一人物の絵を、同様の手法で何枚か描いてみせた。
「これ……コピーしておいた方が、いいな……」
 次々に出来上がってくる絵を検分しながら、荒野が呟く。
「……あ、うちのスキャナーとか使っていいよ……」
 羽生譲が荒野の言葉に反応すると、楓が、
「あっ! はい!
 今やります!」
 と、描き上がった紙を持って立ち上がる。
「これが……おれたちの、敵なのかぁ……」
 荒野は、茅の手元を覗き込みながら、妙に関心したような声を出した。
 実の所……あまり、実感は沸かないのだが……。
『次に会う時も……同じ姿をしているかなあ……』
 その辺は、あまり自信がない。荒野自身や、茅、ノリの例がある。
 今回、いくらでも追撃が可能であったのに、逃げることを優先したのも……やつら自身の身体が完全に成長仕切るまで、時間的な猶予が欲しかったから……という、理由なのかも知れなかった。
 そうではないと仮定しても……完全にとどめを刺さずに去った、ということは、今回の襲撃は、現時点での荒野たちの実力を推し量るための、いわば、威力偵察的な意味合いが強かったのだろう……。
 その敵が……。
『……テンたちと、だいたい、同じ年頃にみえるな……』
 子供の外観をしている、というのは、荒野にしてみると、かなりやりずらい。
 それでも……自分たちは姿を現さず、佐久間現象やガス弾など、周到な用意をした上で、遠くからこれ以上はない、というほどの悪辣な嫌がらせを荒野たちにしてくれたのは……この、二人なのである。他に、手伝っている者たちも何人かはいるのだろうが……佐久間現象の話から判断する限り、この二人は、かなり中枢に近い部分にいる……。
『そう遠くない将来……』
 こいつらを頭とした一党は、荒野たりと正面からぶつかり合うことになる。彼らがどのような行動原理で動いているのか、現在の時点では判断材料が少なすぎるが……一族、特に荒野の周辺の人々に好意的ではない事だけは、はっきりしている。無関係の第三者を巻き込んでの攻撃も辞さない程なのだから……。
 ……その、本格的な攻撃を開始する時までには……せめて、外見上、自分と同年配に見える程度には、育っていて欲しい……と、荒野は思った。
 そうすれば……安心して、全力で叩き潰せる……。

 そうこうするうちに、三島百合香も狩野家にやってきて、風邪を引いて寝込んでいた香也も居間に呼ばれ、大人数の夕食がはじまった。ちゃんこ鍋というマニアックなメニューで、簡単なレピシを教えて三島が作らせたらしい。
「……この手の鍋は、身体が暖まるし、一度にいろいろな食品がとれるからな」
 とは、三島百合香の弁である。
 あれで一応は、風邪を引いているというこの家の息子を気遣っているらしい。

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彼女はくノ一! 第五話 (109)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(109)

 羽生譲はファミレスのバイトが入っているということで、朝食後、すぐに身支度をして愛用のスーパーカブに跨がって出て行った。
 路面はまだ乾ききっていなかったが、昨日の大雨が嘘のように晴れわっっていた。

 茅は朝食の後片付けを手伝ってくれた後、浅黄の相手をしてくれた。というか、浅黄と一緒のレベルで遊んでいるように見えた。
 依然として風邪が直っていない香也は自室に戻ってすぐ布団に入る。
 楓と孫子は、二人で手分けしてバタバタと掃除をはじめる。こうして二人で掃除してみると分かるが……羽生譲の祖父が建て、その後何度か改装を経ているこの家は、実に広い。
 家自体が広いから、普段、使用する部分を中心にして、適当な所で切り上げるつもりだった。こうして実際に掃除をしてみると、真理は毎日、こんなことを繰り返していたのか……と、感心をする。これだけ広い家を、多少の手伝いはあったとはいえ、実質一人でこなしていた、というのは……地味に、凄い……と、楓は思った。
 十時過ぎにタクシーが迎えに来たので、それに浅黄を乗せてやり、茅は一度マンションに戻って着替えて、荒野を伴って戻って来た。これから、茅と荒野、それに、楓と孫子の四人で、ガクが入院している病院にいくことになっている。
 病院は意外に近くて、駅の向こうにある個人経営の小さな所だ、という。
「……まあ、そこは、ベッドと手術施設借りているだけ、みたいな感じだそうだけど……」
 涼治の手配で、手術時にはどこからか腕の良い執刀医が呼ばれて来たし、これから行う脳の検査は、また別の、もっと施設の充実した場所に移動して行われる、という。
「……テンからのメールによると、止血処理は終わっているから、後は傷がふさがるまで安静にしていればいい、ってことだけど……」
 そういいながら荒野は、行き掛けにマンドゴドラに寄って、お見舞い用にケーキを一ダースほど包んでもらった。
「……あいつの場合、花より団子、だろう……」

 駅向こうの病院は三階建ての、小さいが小ぎれいな建物で、受付で尋ねると、ガクは個室を与えられているようだった。
「たいした……傷ではなかった、って話だけど……。 他の患者さんの邪魔にならないように、という配慮かな……」
 そんなこといいあいながら、受付で案内された部屋に向かう。ノックしてから、全員で入っていく。
 ベッドに寝そべったガクと、パイプ椅子に座ったテンとが、ババ抜きをやっていた。ガクの両腕には包帯が巻かれていたが、それ以外は普段どおりに見えた。
「なんだ、元気そうじゃないか。
 ほれ、これ、お見舞い……」
 そういって荒野は、ケーキの入った大きな箱をガクの膝の上に置く。
「……これ……」
 ケーキの箱を抱えたガクが、何故か俯いた。
「こんなの貰う資格なんて……ボクには……みんなに迷惑をかけて……」
 ケーキの箱に、ボタボタと水滴が落ちる。
「ガク……昨日から、この調子なんだ……。
 暴走した時のことを思い出すと……」
 テンが小声で、荒野たちに伝える。
「あのなあ、ガク……」
 荒野はガクの頭の上に掌を置いた。
「お前は、精一杯やった。
 お前のお陰でガスの被害は最小限で済んだし、お前の暴走は、事故であってお前の責任ではない……。
 お前は、出来る範囲内で、ちゃんと正義の味方してたよ……」
「……でも……。
 でも……」
 ガクはぐずぐず泣きはじめる。
「かのうこうやは、甘いよ」
 テンが、意外に厳しい声を出す。
「ガク……自分の体質……外部の衝撃によって意識を失うと暴走するっていう体質を分かっていた筈なのに……自分の身を、危険にさらした。
 ここはボクらしかいない無人島ではないし……あそこでガクは、自分の身を危険にさらす選択をしてはいけなかったんだ……」
「それも、一理ではあるんだがな……」
 テンの言葉に、荒野は頷く。
「そうだな……楓。
 昨日、ガクを取り押さえる時に……お前、ろくな打ち合わせもしてなかったのに、まっしぐらにガクに突っ込んでいっただろ?
 どうしてあんな危ない真似、できたんだ?」
「……え?」
 いきなり話しを振られた楓は、少しの間狼狽したが、すぐに、
「えっ……とぉ……。
 あの場には、大勢、人がいましたし……短時間でもガクちゃんの動きを止められれば、後は他の人がなんとかしてくれるかなぁって……」
「テン……これが、お前らと楓の違いだ。
 楓は、無条件に、たまたまその場にいた連中がバックアップしてくれることを、信じられる。
 お前らは、全てを自分たちだけで解決しようとする……。
 ガクは、自分一人でガスの中に残る前に、他の人たちと対応策を練ることもできた筈だし……テンも、ガクの行動を自分一人で背負い込もうとしすぎている……。
 仲がいいのは結構だが……もはや、事態はお前らの力だけで収拾出来るほど、単純なものではなくなってきているんだ……」
 ガクとテンは、荒野の話しを真剣な顔で聞いている。
「とりあえず……お前らは、もう少しおれたちの事を当てにしていい。
 特にガクの暴走体質については……こっちにも害が及んでくる問題だから、茅が前に約束した通り、おれたちも体を張って止める。
 それから、昨日の一連の件について、今の時点までに分かったことを伝えておくと……」
 荒野は続けて、昨夜、佐久間現象を尋問して判明した事実を、手短に語って聞かせる。
 現象も、テンやガクと同質の存在……ただし、佐久間の技を仕込まれた存在であること。
 現象の背後に、さらに黒幕がいること。その黒幕の正体は、今の時点でははっきりしていないこと。「一族キラーとして育てられた存在ではないか?」という、荒野の仮説。
 それに、佐久間の長から、今夜夕食に誘われていること……などを、荒野は、二人に説明する。
「……で、その佐久間の長から、現象の身柄が欲しい、って打診があったんだけど……聞くことも聞いたし、おれは、さっさと佐久間に渡しちゃっていいと思っている……。
 お前らとしては、どうだ? 現象の引き渡しに異論はないか? それと、引き渡す前に、やつに確認しておくことは?」
「かのうこうやは……そうやって、ボクらの意見を聞くんだね……」
 テンが、真剣な顔で荒野にいう。
「将来は分からないが……当面、お前らとは、同盟関係だと思っている。今のところ、利害が衝突する局面はないし……正直、危なっかしい所もかなりあるけど、何だかんだいって、お前らの潜在能力を考えると、むやみに敵対するのは、どう考えても得策ではない」
「それは、わかるけど……今の時点では、ボクらは未熟だ。能力的に、ではなく、判断能力が。
 ボクらは……経験知が、あまりにも不足している。
 かのうこうやは、ボクらの未熟を理由にして、一方的に命令し、それに従うよう強制することもできる筈だ……」
「おいおい……」
 荒野は首を振った。
「おれ……お前らのことまで、責任、持てないぞ……」
 言外に「自分の進むべき道は、自分で選択しろ」と言っている。ガクたちの年齢を理由にして保護者を気取ろうとは、荒野は思っていない。
「分かった……当面、ボクらとかのうこうやは、同盟関係だ……」
 テンは、重々しく頷いた。
「その、ゲンショウっていうのには、特に聞きたいことないけど……佐久間の長が出てくるんなら……一つ、お願いしたいことがあるんだ……」
「いってみろよ。
 今回の件は、佐久間の廃棄物処理が甘かった、というのも原因になっている。よほど過大な要求でなければ、呑んでくれる可能性が高いぞ……」
「過大な要求かどうか、判断が難しい所だけど……。
 ボク、佐久間の技を習いたい。
 それも、ボクが単身佐久間の本拠地に行くのは危険すぎるから、出来れば家庭教師に、こっちまで出向いて貰いたい……」
 テンの要求を聞いた後……少し考えて、荒野は頷いた。
「向うが呑んでくれるかどうか分からないが……いい、アイデアだ。
 テンと茅に、佐久間の技を……できる範囲内でいいから、教えられる家庭教師を、要求してみよう……」

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(25)

第六章 「血と技」(25)

「佐久間現象は、自分の意志でおれたちを襲撃した」
「肯定なの」
「佐久間現象に、おれたちへの襲撃を命じた者がいる」
「肯定なの」
「その命令者は、複数」
「肯定なの」
「その命令者は、二人?」
「肯定なの」
「その命令者は、二人とも男?」
「否定なの」
「その命令者は、二人とも女?」
「否定なの」
「その命令者は、男女のペア?」
「肯定なの」
「その命令者は、年上に見えた」
「否定なの」
 不思議な、尋問だった。
 質問をするのは荒野、答えるのは茅。
 質問をされている筈の佐久間現象は、荒野たちに背を向けて、ソファの上で背を丸めている。表情を読み取らせまいと努めているようにも、ただ単にいじけているようにも見える。
 いずれにせよ、非協力的な態度を改善する気はなさそうだ……と見た荒野は、現象の態度には構わず、知りたいことを聞き出すことにした。茅がいる限り、現象の抵抗は無意味だ。
 しかし、この方法にも限界があって……。
「……うーん……出来れば、その命令者たちの外見ぐらい、把握しておきたいんだけど……。
 茅、現象の記憶から、映像とか読み取れないか?」
「試したことはないけど……原理的には……出来るかもしれないの……。
 ちょっと、やってみる……」
 荒野が確認すると、早速茅は、目を閉じて、黙想しはじめた。
 佐久間現象の背が、ビクン、と震える。
 現象の内部を、茅が見えない触手で探っているのを、感じているのだろう。
 微弱な……生体電流だが電磁波だか、それとも、現代の科学では検出不能な「何か」なのかは、荒野の知るところではなかったが……。
「……見えた。
 二人の、ローティーンの、男女……後で、似顔絵を描いてみる」
「……うん……任せる……」
 茅、絵なんて描けたのかな……と、疑問に思いながら、荒野は尋問を続ける。
「佐久間現象と直接接触したのは、その二人だけ」
「肯定なの」
「その二人とは、頻繁に接触していた」
「否定なの」
「その二人と最後にあったのは、つい最近だ」
「否定なの」
「その二人と直接顔を合わせたのは、ずっと前に一度だけ?」
「肯定なの」
「あとは、メールや電話で連絡を取っていた」
「肯定なの」
「学校を襲った奴らを集めたのは、佐久間現象だ」
「肯定なの」
 ……口先三寸でもなんとか集められた若い衆はともかく、二宮舎人は「正式な仕事だ」といっていた。
「二宮舎人を呼び出すため、佐久間上層部の連絡網を無断で使用した」
「肯定なの」
 現象は、佐久間上層部の人間になりすまして、二宮上層部に、偽の仕事を依頼した……。
『そりゃ……身柄の引き渡しも要求するし、お偉方も集まるよなあ……』
 真相が分かってくるにつれて、荒野は段々と呆れかえってきた。
 佐久間現象一人によって……佐久間上層部と二宮上層部は、完全に面目を潰された形だ。
 現象は、よっぽど厚顔で恐いもの知らずなのか……それとも、捨て鉢になっているのか、の……どちらかだろう……。
「秦野の女たちをここまで引っ張り出してきたのも、佐久間現象だ」
「肯定なの」
 佐久間、二宮に加え、秦野まで……。
 もっとも、秦野と学校を襲った若い連中は、舎人とは違って、現象の口車はあったにせよ、自分の意志で来たようだが……。
「……話しを、二人の命令者に戻す。
 その命令者の背後にいる者について、佐久間現象は、なにか心当たりがある」
「……否定、なの」
 それまで即答していた茅が、今回に限り、回答に遅延があった。
「茅……何故、いいよどんだ?」
「現象、少し考えていたの。考えて、それで、やはり心当たりはないと結論しているの」
 茅の躊躇いは、現象の思考の乱れを反映したためだ、という。
「なるほど……では、問い直す。
 佐久間現象は、二人の命令者の背後関係を、推測したことがある」
「肯定なの」
「佐久間現象は、二人の命令者とその背後について、自分なりの推論を持っている」
「肯定なの」
「佐久間現象に命令した二人は、一族キラーとして育てられた姫である、と、想定している」
「肯定なの」
「一族の存在を憎む佐久間現象は、喜んで二人に手を貸した」
「肯定なの」
「命令者二人に手を貸しているのは、二人を育てたやつらだ、と、想像している」
「肯定なの」
「佐久間現象は、命令者二人、並びに、その仲間の居場所を知っている」
「否定なの」
「佐久間現象は、命令者二人、並びに、その仲間の居場所は知らないが、どこにいるかくらいは想像できる」
「肯定なの」
「佐久間現象は、命令者二人、並びに、その仲間は、すでに、遠くに去った、と、想像している」
「肯定なの」
「その想像には、根拠がある。
 例えば、佐久間現象は、事が終わったら、一度高飛びする、という情報をあらかじめ与えられていた」
「肯定なの」

 ……荒野の質問はそんな調子で小一時間ほど続き、飯島舞花から「晩ご飯の準備完了」というメールが来たところで、終了することにした。
「……こんなもんかな……」
 荒野が聞きたいことは一通り、聞くことが出来たが……。
「……他に、こいつに聞きたいこと、ある?」
 荒野はそういって、茅、楓、孫子の顔を、順々に見渡す。三人は、首を振った。
「……あのお……一つ、いいですか?」
 それまで遠巻きにして見ていた有働勇作が、遠慮がちに手を挙げた。
「ああ……いいよ、質問してみな……」
 荒野は、頷く。有働なら、変な質問をしないと思っていた。
「これだけのことをしかけて……怪我人や死人がでることは、予想していませんでしたか?」
「……質問は、イエスかノーで答えられる形にしたほうがいい」
「では……佐久間現象は、今回の襲撃によって、怪我人や、最悪、死人などの被害者が出ても構わない……と、思っていた」
「肯定なの」
「佐久間現象は、学校や商店街で、一族とは無関係の被害者が出ることを望んでいた」
「肯定なの」
 茅の答えを確認した有働勇作は、感慨深い表情を浮かべて、しきりに首を振った。
「……わかりました。
 佐久間現象……あなたは、最低なのです……」

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