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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(160)

第六章 「血と技」(160)

 茅の中と陰核を指でさんざん蹂躙した後、荒野は、不意に動きを止める。
 すでに膝をがくがく震わせていた茅は、浴槽に手を着いて、戸惑ったように硬直していたが、しばらく待って、荒野がそれ以上何もしない、ということがわかると、がくりと足の力を抜いて、その場に尻餅をついた。
 それから、身体の向きを変えて荒野の方に向き直り、「……むぅ……」と不機嫌そうな声を出して、湯を跳ね上げながら、荒野の首に抱き着く。
 荒野は、反射的に茅の体を抱きとめた。
「……意地悪なの……」
 茅が、荒野の耳元で、囁く。拗ねたような響きがあった。
 そういいながら、茅は、荒野の股間をまさぐり、硬直したものを鷲掴みにする。
「……だって、茅が、駄目っていうから……」
 荒野は、からかうような口調で、荒野自身を掴んだ茅の手首を、掴んだ。
「茅……これ、どうするの?」
 荒野がそう尋ねると、茅は、不機嫌そうに「むぅ」という声を出す。
「……いわないと、また、茅のここ、弄っちゃうよ?」
 いって、荒野は、茅の股間に手を延ばし、先ほどまで指を入ていた箇所に触れた。触れた瞬間、茅の口から、「あっ!」という声が漏れる。
 ぬるり、と、荒野の指は、何の抵抗もなく、再び茅の中に入った。中は相変わらず濡れていて、荒野の指をしっとりと包み、ヒクヒクと震えながら軽く締め付ける。茅の中は、今、つかっているお湯と同じくらいに熱かった。
 荒野のものを握っていた茅の力が、緩む。
 荒野は、茅の体を抱き寄せながら、茅の中に入た指を、ゆっくりと動かしはじめる。先ほどの反応をみると、茅は、指を延ばしたまま動かすより、心持ち、指をまげて動かした方が、感じるらしい。
「……あっ。やっ。はっ。あっ。あっ。あっ……」
 茅は、再び荒野の動きに反応しはじめる。
「……だ、駄目ぇ!」
「そんなに、駄目、とかいうと……」
 荒野は、茅の耳元で宣言した。
「またやめるよ、さっきみたいに……」
 そう囁かれた茅は、顔を伏せて、少し肩を震わせた後、いきなり荒野の首を引き寄せて、荒野の口を茅の口で塞いだ。
 茅の舌が、無茶苦茶に荒野の口の中を蹂躙する。
 しかし、荒野が指を動かすのを止めないでいると、「ふっふぁっ!」とか「ふぁんっ!」とかいう茅の吐息が、塞いだ口唇の合間から漏れ出す。
 嬌声を堪えるために荒野の口唇を奪ったのだ、というのが、丸わかりだった。
 茅の手から完全に力が抜け、茅は両腕で荒野にしがみついてきた。しがみつきながら、茅は、さっきまで荒野の分身を握っていた手を、今度は、荒野の手首に、軽く絡ませる。
「……なに?」
 荒野は、にこにこと微笑みながら、茅に尋ねた。
「……も、もう……」
 茅は、顔を伏せて荒野の目を見ないようにしながら、いった。
「指じゃなくて……荒野の……」
「おれの……なに?」
 荒野は、にこにこと微笑みながら、再度、茅に尋ねた。
「……今日の荒野……本当に、いじわるなの……」
 少しふくれ顔になった後、茅は、蚊の鳴くような小さな声でいった。
「荒野の……が、欲しいの……」
「おれの、何が欲しいの?」
 荒野は、にこにこと微笑みながら、茅に尋ねた。三度目。
 茅は、「……むぅー!」と唸りながら、荒野の肩に軽く拳を打ち付ける。
 荒野は、軽く首をそらせて茅の拳を避けながら、茅の背中を抱き寄せ、口唇を奪った。
 そのまま、長々と舌を絡ませる。
 数十秒後、ようやく口を離すと、荒野は、
「何が欲しいのか、ちゃんといってごらん。
 いわないと、あげない……」
 と、茅の耳元で囁く。
 そして、茅のお尻に手をかけて、正面から抱き合ったまま、自分の起立したままの分身を、茅の股間にすりつける。
「……わ、わかたったの……」
 荒野が軽く腰を動かすと、茅は、眉間に軽く皺を寄せた。
 そして、二人の胴体に挟まれている荒野のものの先端を、指先で、まさぐる。
「これが……荒野のこれが、欲しいの……」
「これって、何?」
 荒野は、茅のお尻に両手をかけて、がくがくと上下に揺さぶりはじめた。
 それだけでも刺激を受けるのか、茅が、んふっ! と、鼻息を漏らす。
「荒野の、この、硬いの……」
 茅は、目を閉じながら、小声で懇願した。
「茅の中に、欲しいのぉ……」
「指では駄目なの?」
 荒野は、茅を揺さぶりながら、さらに問いかける。
「指では、駄目ぇ!」
 茅は、首を軽く仰け反らせる。
「指ではなくて……荒野の、おちんちんが欲しいの!」
 荒野は、腕の動きを止め、茅を揺さぶるのをやめた。
「よく、いえました……」
 ぼうぅ、っと半ば放心している茅から身を離して立ち上がり、茅の両脇に手を入れて、茅を立たせる。刺激を与え続けたせいか、茅の足に力が入っていないようなので、茅の手を壁にかけさせ、荒野は茅の背中にとりついた。
「……いや! 後ろからは、いやっ!」
 荒野の意図をようやく察知した茅が、荒野の腕から逃れようとする。
 しかし荒野は、背後から茅を抱き竦めて、茅が逃げるのを許さなかった。
 荒野は、茅の髪の中に鼻面を突っ込んで深呼吸し、茅の匂いをかぐ。
 そして、茅の股間に、自分のいきりたったものを擦りつけた。とはいえ、挿入したわけではなく、陰毛の中のぬるぬるした部分に、自分の分身を押しつけるようにして、ゆるく、動かす。
「茅……これ、欲しくないの?
 ここでやめて、今日はもう寝ようか?」
 ゆっくり前後に腰を動かすと、茅の湿った部分を、上向きなった荒野の亀頭が擦りつける形になる。
「これ、入れないで寝ようか? やめちゃおうっか?」
 茅の体を羽交い締めにしながら、荒野が囁く。
「……やめないで……」
 結局……茅は折れ、あえぐような口調でいった。
「……入れて……荒野の……硬いの……茅の中に、入れて……」
「……おれの何を、どこに入れて欲しいの?」
 荒野は空とぼけて、茅にそう尋ねる。
「ちゃんといってくれないと、わからないよ……」
「……荒野の硬くなったおちんちん、茅の中に欲しいの!」
 ついに、茅は絶叫する。




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彼女はくノ一! 第五話 (243)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(243)

「……春休みに一度、一年生の分の学習を、まとめて復習した方がいいかも知れませんね……」
 香也の勉強をみながら、楓がそんなことをいった。そうしたシーンで口にしている訳だから、話題となっているのは、香也の勉強のことだ。
 少しづつ追いついているとはいえ、入学してから半年以上、ほとんど手をつけていなかった、というハンデは、一日一時間前後の学習ではなかなか埋まりきるものではない。
「そうですわね……」
 孫子も、頷く。
「そのあたりで一度、まとまった時間を取っていただくのが、現実的かも知れません……。
 春休みの午前中の時間に、一年時のまとめを集中して行う、というのは、どうでしょう?」
「……んー……」
 左右からそういわれて、香也は唸った。
「……それは、いいけど……。
 その……二人とも、もう少し、離れて……」
 楓と孫子は、香也の頬に吐息がかかるほどに体を密着させいる。左右から、それだけ柔らかい体を押し付けられたら、香也の意識は確実にそっちの方に集中する。実際の話し、あんまりくっつかれると、もはや勉強どころではない、という気になってくる。
 楓と孫子は顔を見合わせ……非常に残念そうな顔をしながら、香也から少し体を離した。二人とも、隙を見せると擦り寄ってくるので、数分に一度、こうして注意を即して少し距離を取って貰っている。
 楓と孫子は、不満そうな表情をありありと浮かべながら、香也から少し体を離した。
「……できれば、春休みといわず、週末くらいは少し時間をとっていただきたいところですけど……」
 孫子が、何食わぬ顔をして、先程の話題を続ける。
「もともと……かなり、遅れていますので……後追いでいくにせよ、早めにはじめれば、後が楽になりますし……」
「問題は、時間……ですよね。
 香也様としては、できるだけ、絵の方に時間を割きたい……でも、学習したことを覚えるのには、それなりに時間を取られる……」
 楓も、そういって頷く。
 楓も孫子も、香也にはできるだけ自由に絵を描いてもらたい、と思っている。同時に、学校の勉強の方も、そこそこの成績を修めて貰いたい、とも、思っている。
 前者はともかく、後者の案件に関しては、香也も完全に賛同している訳ではない。香也の世界はまだまだ狭いので、現在の社会で学歴が持つ意味、というものを完全には理解していなかったし、「楓や孫子が熱心に勧めるから」付き合っている、という感覚で、決して自分から進んで取り組んでいる訳ではない。

 楓や孫子にしてみれば、香也が将来、美大に進学したいと志望した時、選択の自由を確保できるだけの学力はつけてやりたい、と、思っている。
 美術関係の仕事は、そうした学歴が全てだとは言わない。が、アカデニズムに関係しているか否かで、現実的にはスタートの時点でかなり差がついてしまう、というのが、孫子の意見であり、そうした社会的な知識は孫子ほどもたない楓にしてみても、血縁やコネが重要視される「一族の社会」の中で、これまで係累がないばかりに不遇の時代を過ごしてきたわけで、その手の現実的な感覚に対しては、十分に頷けるだけの根拠がある、と思っている。
 幸いに、香也は、まだまだ若い。
 今から将来を見据えて計画的に精進して行けば、それなりに未来は開けて行く筈で……逆にいうと、無計画に自分のやいりたいことばかりに邁進していたら、この先しなくてもいい苦労ばかりを背負い込み、絵を描く、どころではない人生を送ることも、想定できる。
 要は、全ては香也次第、ということなのだが……しかし、勉強に対する香也のモチベーションは、相変わらず低いままだった。楓や孫子が説明すれば、たいていの理屈は理解するし、暗記科目なども、やればやっただけ、成果を出すから、決して頭が悪いとは思わないのだが……。
「……もう少し、やる気になってくださると……もっと効率よくできるのですけど……」
 孫子は、そういって軽く溜め息をつく。孫子にしても、無闇に香也を拘束したい訳ではない。
 同じ時間、勉強するのでも、目的意識を持ってやるのとそうでないのとでは、履修状況にかなりの差が出てくる。
 香也の場合、圧倒的に「やる気」がなかった。
 それをいったら香也は、勉強だけではなく、絵を描くこと以外のこと、全てに対して、決定的に意欲を欠いている訳だが……。
 香也は……。
『……自分の未来とか将来……というものに、関心が持てないのではないか……』
 今まで孫子が観察してきた結果、出てきたのが、そういう結論だった。
 香也が欠いているのは、未来への展望だけではない。
 香也にとっては、過去もまた未来と同等に、あまり重要なものではないらしい。幼少時のことをほとんど覚えていない、というのは、どうも本当らしいかった。それ以外にも、香也が昔のことを話す、など経験は、絶えてない。記憶がない、というのではなく、他人に話して聞かせるほど、香也が関心を持てることが、なかった……と、そんな雰囲気だった。こちらから水を向ければ、香也が記憶していることに関しては、それなりに話しはするのだから……覚えていない、ということでは、ない。覚えている事柄に対して、他人に話して聞かせるほど、関心を持っていないだけで……。
 どうやったら……こんな、無防備な人格が、ここまで無事に成長できるのだろうか……と、孫子は、そんな疑問に思う。
 香也が、極力、外界の事物を自分の意識から排除することで成長して来たとするなら……孫子は、自分の心身も、身の回りの環境も、自分のコントロール下に置き、統御しようとする欲望に従って過ごして来た……
 孫子とは、そういう、少女だった。

 孫子自身は、将来、数多くの人々を束ね、導くことを期待されて、そのための教育を受けてきた。物心ついてからは、自発的に、より多くのことを吸収してきた。そのような家に生まれてきた責任……という意識もあったが、それは一面的な建前に過ぎず、孫子は、それまで自分が限界だと思っていた壁を突破することに、無上の快楽を覚える性質だったからだ。その快楽を得るためには、平素からの地道な努力や勉強も厭わなかった。孫子にとって、自分自身のスペックを高くチューニングすることは何物にも代え難い娯楽であり、教材や講師を調達するための資力も十分に備えていたし、保護者である鋼蔵も、そうした孫子の行動を止めようとはしなかった。
 だから、孫子は、興味を持ったものには何にでも挑戦し、たいていは、ものにしてきた。同年配の友人たちは、そうした挑戦のための準備に比べると、ひどく退屈に思えた。話すことといったら、おしゃれのこと、遊びのこと、他人の噂話し、それに、家柄のこと……。孫子が通っていた学校には、「自分のことを、自分の言葉で話す」生徒は、ほとんどいなかった。孫子には、それら「ご学友」は、「大衆」という鋳型から大量生産されたレプリカントとしか認識できなかった。生まれた家がたまたま裕福だったからといって、それだけで魅力的な人格が形成される訳ではない……ということを、孫子は、かなり早くから思い知らされた。
 そして、その中に埋没するまい……と、そう自分に言い聞かせて、過ごしてきた。
 だから……そのため、この家に来るまで、孫子は「親しい友人」というものを持ったことがない。





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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(159)

第六章 「血と技」(159)

 茅の体を抱えてバスルームに入った荒野は、茅を湯船に腰掛けさせて、ざっとシャワーを浴びせてから湯船の中に入れる。早々に体を暖めないと、風邪でも引きかねない、と。思ったからだ。
「……荒野も入るの……」
 湯船に入った茅は、荒野の腕にすがりついて、荒野を湯船に引き込む真似をする。
「はいはい」
 荒野は適当に相槌をうちながら、ざっとシャワーで体を流して、湯船に入る。ユニットバスほどではないが、それでも狭い湯船に二人一緒に入るとなると、かなり無理矢理な形になる。茅は一度中腰になって背後に空間を作り、荒野が入り易いようにした。
 そして二人は、いつものように、荒野の膝の上に茅が座る、という形で、お湯につかる。荒野の胸板に茅の背中が密着すると、荒野のすぐ目前に、茅の後頭部がある形になる。茅の、なめらかな肌の感触、それに、鼻先で間近に感じる茅の体臭……に、一度萎えかけた荒野の分身が、再び、硬度を取り戻す。
「……硬くなっている……」
 と、茅は、お尻にあたる感触について、報告し、荒野の腕を手にとって、自分の胸の前に回すように、位置を変える。
「……茅だって、ここ……」
 荒野がそういって、そこだけ上を向いている茅の乳首を指で摘むと、茅は「……んっ。んんんんっ」と、喉を鳴らす。
「荒野が、そんなにするからぁ……」
 と、甘えた声をだしたので、荒野は、手を下に延ばして、茅の陰毛を指でかき分けた。
「そうか?
 さっきは、何もしないでも、腰砕けになってたようだけど……」
 そういいながら、割れ目に沿って軽く指先を擦りつけると、茅は荒野の腕を自分の胸に押し付けるように抱いて、「……ふんっ!」と息を吐く。
「……さっき、咥えていただけで、ここ濡らして軽くいっていたろ?」
 荒野が耳元で囁くと、茅は首を振りながら、
「……違うの、違うのぉ……」
 と、切なそうな声をあげる。
「あれは……久しぶり、だったから……」
「久しぶり、っていったって、そんな、何十日も間を空ていたわけではないだろ?」
 いいながら、荒野は、指先を茅の中に侵入させる。
 茅がまた、「んっ!」と一際強い声で鳴いた。
 先程の余韻もあるのか、いつもより敏感になっているな……と、荒野は思った。
「……そんな声を聞くと……」
 荒野は、人差し指に次いで、中指も同時に、茅の中に入れる。二本の指を根元まで、一気に突っ込むと、ほとんど抵抗がなく、ぬるりと入った。荒野の二本の指を、茅の襞がひくひくと締めつけている。
「ますます、鳴かせたくなる……」
 荒野は、茅の中に侵入した指をゆっくりと折り曲げる。
 茅は、荒野の腕をかき抱いて、ぐったりとし、
「荒野の……意地悪……」
 と、かすれた声でいった。
「さっきは、茅が一方的に舐めていた癖に……」
 荒野はそういって、軽く曲げた二本指で、今度は、膣の内壁をするように動かす。
 荒野はゆっくりと動かしたつもりだったが、茅は、
「……ひゃぁっ!」
 と、ひときわ、大きな声をあげた。
「……ここ、感じるの? 茅?」
 のんびりとした口調でいいながら、荒野は、早さを変えずに、ゆっくりと指を、茅の中で往復させる。荒野の指先が内壁をする度に、茅は「ひゃっ!」とか「ふぁっ!」という悲鳴を上げて、身を捩り、全身を震わせた。
 荒野は、そうした茅の反応が楽しくなって、荒野の指から逃れようとする茅の腰に左手をかけ、逃がさないように注意しながら、指を挿入出させる。
 茅は、落ちつかない様子でもぞもぞとお尻を振るうちにじわじわと腰を浮かせ、ついには、完全に、荒野の目に陰部を晒すように、腰を高く掲げる。
「……そんなに、高くお尻をあげていると、丸見えだぞ……」
 茅の割れ目をすぐ目の前にしながら、荒野がいう。荒野が散々、指を出し入れしたお陰で、薄い陰毛越しに、充血してピンク色になった襞が、少しまくれ上がっていた。色素は沈殿してなくて、きれいな色だ……と、荒野は思う。
「荒野が……そんなことを、するから……」
 息を弾ませながら、懇願する口調で、茅が答える。
「……そんなことって、どんなこと?」
 いいながら、荒野は、茅の中にいれたままだった指を、ゆっくりと抜いた。指を抜くと、透明な液体が絡み付いてきて、とろり、と、糸を引く。
「……いえないの……」
 しばらく間を置いてから、茅が、消え入りそうな小さな声で呟いた。
「……そっか……」
 荒野は、そういって、茅の腰に両手をかけて逃がさないようにし、顔を近づける。
「……やあぁっ!」
 局部に荒野の吐息を感じた茅は、身じろぎをして逃れようとしたが、荒野にがっしりとお尻の両脇を掴まれているので、逃れることはできなかった。
「……駄目っ! そこは駄目なのぉっ!」
 茅の絶叫にも特に反応せず、荒野は平然と、
「さっき、茅も、おれの、口でしたじゃん……」
 といって、茅の割れ目に口をつける。
 割れ目に沿って軽く舌先を這わせると、ザラザラとし陰毛の感触の奥に、湿った感触があった。
『……茅の……。
 奥から、溢れてくる……』
 荒野は、湿っている部分を舌でこじ開け、にゅるんと尖らせた舌を挿入する。その瞬間、抱き着いている茅の臀部が朱に染まって、熱を持った。
「……あはぁあっ!」
 茅の奥から、吐息が漏れる。
 茅の中に入った荒野の舌は、丁寧に、襞の奥をかき分ける。匂いも味も、あまり感じなかった。ただ、舌を動かすごとに、奥の方から透明な液体がとどめなく沸いてきて、荒野の顔の下半分を濡らした。
 しばらく、茅の悲鳴のような嬌声とぴちゃぴちゃという水音が、バスルームに響く。
 さらにしばらく、そうして舌で茅の中を掻き混ぜてから、荒野は、茅の秘裂を指でまさぐり、硬くなった陰核を探り出す。
「……いやぁあああぁっ!」
 勃起した茅の陰核を荒野が指で軽く摘まむと、茅は一際大きな声で絶叫して、身を捩った。
 しかし、荒野は手を緩めず、舌で茅の内部を、指で茅の硬くなった突起を、同時に愛撫する。
 抵抗しても荒野が愛撫をやめない、と悟った茅は、そのうち、がたがたと瘧がかかたかのように震えはじめ、その振動が一際大きくなったと思ったら、がっくりと全身の力を抜いて、その場に尻餅をついてへたり込んだ。

「今日の荒野……」
 しばらく無言で息を整えた後、ようやく茅は、そのような言葉を絞り出す。
「……意地悪なの……」
「茅が、感じ過ぎなんだよ……」
 荒野は、ぐったりとした茅の背中を抱き寄せて、長い髪をかき分けて、耳元に口を近づけ、囁く。
「どんどん敏感になっていくし……」
 荒野は茅の体に回した腕に軽く力を込め、茅の背中と自分の全面をぴったりとくっつけ、茅の耳の後ろに口をつけた。それだけで、茅は、ビクンと、体を震わせる。
「やめっ……それ以上、されると……あっ。あっ。あっ……」
 そういい募る茅を、荒野はさらに責める。
 両足を茅の胴体に廻して逃げられないようにし、茅の股間に手をおいて、お湯の中で茅の陰核を指で弄る。
「駄目ぇ。そこ駄目ぇ。本当に、駄目ぇ……」
 と、茅は、嗚咽に似た声をあげはじめる。





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彼女はくノ一! 第五話 (242)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(242)

 しばらく女同士の雑談が続いた後、
「……そんじゃあ、今夜はそろそろ帰るわ……」
 と、三島が腰をあげた。それを機に、酒見姉妹も立ち上がり、帰る態勢になる。
「……今日は……」
「どうも、ご馳走になりました……」
「……あー。たいしたお構いもできませんで……」
 この家の最年長である羽生が、とりあえず立ち上がって型通りの挨拶を返し、その後、
「……って、もうこんな時間か……意外に時間がたってるし……」
 といって自分の肩を揉みほぐした。
「ま、いいんじゃないか? たまには、こういうのも……」
 そういうと三島は、自分の上着を取ってすたすたと玄関へと向かう。酒見姉妹も、それに倣う。
「どうだ?
 お前らも、勉強になったろ? ん?」
 三島は不意に振り返って、後についてきた酒見姉妹に声をかけた。
「……勉強になった、というか……」
「……楽しかった、です……」
 酒見姉妹は、三島にそう答えた。
 三島は、「そいつぁ、よかった」と素っ気ない口調でいなして、さっさと玄関にでて、靴を履いた。
 そして、一歩外に踏み出して、「……おっ……」と、声をあげる。
「……やけに冷えると思ったら……」
 三島は、掌を上に向けて、天を仰いだ。
「……降ってきたよ……」
 酒見姉妹は、三島の視線を追って、天を見上げる。
 夜の空に、夥しい白い物が、ふわふわとただよっていた。
「ああ……。
 雪……」
 見送りに来た羽生も、暗い中、ちらほらと舞い降りる白い物に気づき、誰にともなく呟く。
「……ボタ雪やミゾレじゃないから、明日の朝あたり、積もりそうだな……」
「……何なに?」
「……へぇ……。
 これが、雪ってやつかぁ……」
 漏れ聞こえて来た声に反応して、テンとガクも外に飛び出して騒ぎはじめる。
 ……そういえば、この子たち、暖かいところで過ごした……とか、この前言っていたか、と、羽生は思い出す。
 ひょっとしたら、これが、生まれて初めてみる雪なのかも知れない……。
「……はいはい。
 雪で遊ぶのは、また明日な……。
 もう遅いから、あんま騒ぐとご近所に迷惑だ……」
 羽生は、テンとガクの肩に手をかけて、やんわりと家の中に戻す。
「……この冷え込みだと積もるだろうし、しばらく溶けないだろうから、今夜は控えておいて……。
 そんな薄着で外に出てると、寒いだろ……」
 テンとガクは、素直に羽生の言葉に従い、「寒い、寒い」と連呼しながら、家の中に入っていく。
「……んじゃ、先生と双子さんたち、また今度……」
 二人が家の中に入ったのを確認した後、羽生は、帰路につく三人に向き直って、手を降った。

 三島と酒見姉妹を見送った後、羽生は家に入ろうとする。と、玄関から出ようとしていた、楓と孫子と鉢合わせになる。
「……どこいくん?」
 羽生が、尋ねる。この雪だし、それに、外出するのも、半端な時間帯だ。
「……プレハブに……」
「今日の分の勉強が、まだですので……」
 ……愚問だったか……と、羽生は思った。
 この二人が行動を共にする用事、といえば、大方は香也絡みなのである。
「……あー。そーね……。
 昨夜はあんなんだったし……こーちゃんも、今日一日、たっぷり籠もっていたから、ちょうどいいか……」
 羽生はそういって、庭の方に回る楓と孫子を見送った。
 羽生は、香也の成績のことを気にしたことはないが、悪いよりは良くなる方がいいと思っているので、楓や孫子の行動を邪魔しようとは思わない。学校の勉強もそれなりに必要だが……羽生は、香也には、もっと広い世界を見て欲しい、と思っている。
『……ま、それも……』
 放っておいても、自然と解消されるだろうけど……とも、思いはじめても、いるが。
 なんだかんだいって、香也の周りには、様々な個性を持った人たちが集まるようになっているし、香也もマイペースでそうした人たちと係わりあうようになってきている。
 あのまま、楓や荒野たちが来ないでいたら……香也の世界は、今そうである環境よりも、ずっと狭いものになっていた筈で……どちらの方が香也のためになるかといったら……その解答は、羽生には、自明のことであるように思える。
 そんなことを考えながら居間に戻った羽生は、炬燵に手足を突っ込んで丸くなる。
『……後、問題があるとすれば……』
 ……こーちゃんの、女性関係だよな……と、羽生は思う。
 今の不自然な状況は……そうそう、長続きは、するものではないだろう……。
 香也は、極度に潔癖でもないが、複数の異性を手玉にとるような器用さも甲斐性も、持ち合わせてはいない。今のところは、楓や孫子の積極的すぎる攻勢に流されている形がだ……こんな不自然な関係は、そのうち、どこからか崩れて行くだろう……と、羽生は予想する。
 楓にしろ孫子にしろ、香也を独占したくなるのは、時間の問題だと思った。さらに、テンやガクたちまでもが、香也を、異性として意識しているらしい……。
『……なんだかなー……』
 と、羽生は思う。
 香也は……世間との関わりを最小限にして、できればずっと、一人で家に籠もって、絵を描き続けたい……と、そう思っているのに違いないのだ。
 でも……その願望もまた、現実的なものではない。
 いつまでも現実から逃避し続けている訳にはいかないから、否応無く、香也と世間との関わりを増やして行く傾向にある現在の状況は、それなりに歓迎すべきだとは思うが……。
『……それにしても……』
 変化が早すぎる、というのはあるよな……とも、羽生は思うのだった。
 香也があの通りのマイペースだから、なんとかバランスが取れているようなものだが……もし、香也が他人の顔色を極端に気にかける性格だったとしたら……ノイローゼになっていても、決して、不思議ではない。
 例えば、香也が、荒野ほど他人を気遣う性格だったとしたら……かなり、悲惨なことになっているような、気がする……。
『そういう意味では……』
 現在の状況は、いい塩梅なのかも知れない。
 もう少し、香也の例の「……んー……」で、みんな、ごまかされてくれるだろう。
 ああいう、「どうとでも解釈できる、曖昧な態度」にも、それなりに利点はある……ということだった。
 この先、香也が誰を選ぶのか、今の時点では、まるで予測がつかないのだが……いずれ、その時が来たら……香也に選ばれなかった子は……。
『……盛大に、泣くのだろうな……』
 そうなったらなったで……みんなで、盛大に残念会でもやろう……と、羽生は思った。

 羽生がそんなことをぼんやり考えているうちに、香也を連れて居間に戻って来た楓と孫子が、三人で炬燵に入って、教科書やノートを広げはじめる。
「……お風呂にでも、入るか……」
 羽生は独り言をいって、立ち上がった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(158)

第六章 「血と技」(158)

 お茶をした後、茅にせがまれて一緒に風呂に入った。茅の髪を洗うのを手伝うため、特に用事がなければ、茅とはほとんど毎日、一緒に風呂に入っているのだが、今夜は、なんだか茅の様子がおかしかった。さらにはっきりいうと、お茶を飲み終わって、カップとソーサーをシンクに片付けようと荒野が立ち上がった時、後ろから抱きついてきた。
「……荒野の匂い……ひさしぶり……」
「毎日、一緒に寝ているだろう……」
 数日前、荒野の方から性行為を控えるように申し渡して以来、行為そのものはしていないのだが、就寝時には相変わらず一緒で寝ている。
「昨夜は……独り寝だったの……」
 茅は、顔を荒野の背中に押しつけながら、拗ねたようにいう。その口調が媚を含んでいるようにも、シルヴィとのことを責めているようにも聞こえ、荒野は少しドキリとした。
「……たった、一晩なのに……」
 茅は、荒野の背中に、さらに強く頬を押し当てる。
「……寂しかったの……」
「わ、わかったから、ちょっと離して……」
 シンクにカップとソーサーを置いた荒野は、とりあえず、茅の体を離そうと後ろに手を回そうとした。しかし、茅は、荒野の腕を器用に避けて、背中に密着し続ける。
「……駄目ぇ……」
 茅は、今度は、甘えたような声をだした。
「昨日の……と、何日か、止められていた分……今日は、いっぱいやるのぉ……」
 荒野は、茅の声に、いつもは感じることがない、濡れたような響きを感じた。
『まさか……もう、スイッチ入っているのか?』
 荒野は、心中で冷汗をかいた。
 荒野が密かに狼狽している隙に、茅は、全身の力を駆使して、ずりずりと荒野をバスルームの方に押しやる。
「……わかった! わかったからっ!」
 荒野はそういって茅の体をもぎはなそうとする。
「茅、いい加減に、腕を放しなさいって……」
 そんなことをいいながらも、脱衣所まで茅に押し切られる。力が強い、というより、荒野の重心の移動をよく読んでいる、という感触があった。二本足歩行をしていれば、常時、二足を地面につけているわけではない。片足だけが着地している状態なら、茅でも荒野を押し切ることが出来る。
 茅……相撲とか柔道やらせたら、結構、いい線までいくのではないか……とか、荒野は思った。全身、高性能センサー、という性質に加え、毎朝の運動を欠かさないせいで、最近では、茅も、基礎的な体力や身体能力も、全般的に底上げされている。
「……駄目なのぉ……」
 拗ねているのか甘えているのか、判断しづらい口調で、茅はいった。
「今日は、今までやれなかった分、一杯、ご奉仕するのぉ……」
 そういいながら、茅は、荒野のベルトに手をかける。
「……ちょ……茅、服ぐらい、自分で脱げるから……」
 荒野の声に焦燥が混じる。
「……んっ……荒野の、匂い……」
 荒野のベルトを緩めた茅は、そのまま服を上にずらして、荒野の腹部を撫でさすりながら、下着ごとジーパンをずり降ろそうとする。
 茅の体を押しつけられて反応した荒野の分身が引っかかったが、茅は気にせず一気に引き降ろし、荒野の下半身は丸出しになった。服と下着が引っかかって一度下を向いた荒野自身が、本来の弾力ですぐに上向きになり、茅の顔のすぐ下で、ぶるんと震える。当然、茅もその様子を凝視している。
「荒野の……元気……」
 きょとん、とした表情をして、茅はいう。
「茅が、あんなに抱きついてくるから……」
 少し決まりの悪さを感じながら、荒野はそう答える。
「……元気な方が……いいの……」
 いいながら、茅は、荒野の竿を軽く指でささえ、舌先で荒野の鈴口を探った。「茅……洗ってないのに……きたないよ……」
 荒野はそういって茅を止めようとしたが、茅は、首を軽く左右に振って、生暖かい舌先で荒野の先端を清めるのを止めようとはしなかった。
 最初のうち、舌先をちょろちょろと這わす程度のものだったのが、すぐに口に含むようになる。一度、亀頭をすっぽりと口で覆うと、後はとどめもなく舌を使い、舐めあげるようになる。
 荒野は、立ったままで、茅の奉仕を一方的に受けるような形になった。
 茅は、膝立ちになって荒野の股間にとりつき、手は荒野の腿に当てている。
 正直、生暖かい感触は、あまり気持ちがいいとは思えなかったが、茅が自発的にそういういやらしい格好をしている、というシチュエーションの方に、荒野は反応してしまう。
「……んっ……荒野の……ひさしぶり……」
 時折、口を離すと、茅はそんな意味の言葉を切れ切れに漏らす。
 あんまり長い時間、そういう体制で茅が奉仕を続けるので、荒野の股間は茅の唾液でぐっしょりと濡れ、睾丸と陰毛にしずくが付着して床にしたたり落ちている。
「……いつまでもこんな格好していると、風邪ひいちゃうよ……」
 頃合いをみて、荒野は茅の肩に手をかけ、茅の体を引き離した。
 今度は、茅も特に抵抗することもなく、大人しく体を離して、ぺたん、とその場に尻餅をついている。
「ほら……風呂に入って、一緒に暖まろう……」
 荒野は茅の脇の下に手を差し入れ、茅を立たせようとする。
 しかし……持ち上げて、立たせようとしても、足下がぐらついていて、なかなか安定しなかった。
 不審に思って茅の顔を覗き込むと……茅は、なにやら、虚脱した表情をしている。
 どうやら……口で奉仕しているうちに高まってしまい、少し放心状態になっているようだった。
 茅を立たせることはあきらめ、茅を床に座らせたまま、茅の背を壁にたてかけ、荒野は素早く茅の服を脱がせていく。袖から腕を抜くときも、茅は抵抗はせず、荒野にされるがままに動いて服を脱がされていた。
 しかし、最後に一枚になった時点で、何故か、そこに延ばした荒野の手を払い、抵抗しようとする。しかし、茅の腕にまったく力が入っていなかったため、荒野は特に意に介することなく、茅の下着をはぎとった。茅は下着に手をかけて、脱がせようとする荒野に抵抗をするのだが、荒野が茅の腰に手をかけて少し引き寄せ、茅の腿を持ち上げて素早く抜きとると、抵抗のしようもなかった。
 茅が身につけていた最後の一枚を手にした荒野は、そこではじめて、茅が何故いきなり抵抗をはじめたのか、理解した。
 最後に荒野が引き抜いた茅の下着は、手にすれば重さが分かるほど、水分を含んでいた。
 どうやら……茅は、荒野のものを口で愛撫していた際、茅自身もかなり感じていたらしい……。
『……今更……』
 その程度のことを……とは思うものの、そのような部分で羞恥の感覚を残している茅を好ましく思う部分も、荒野にはあった。
 荒野は、残りの自分の衣服を素早く脱ぎ、全裸になった茅の体を、軽々と抱き上げる。
 今度は、大人しく抱き抱えられた茅は、そのまま、荒野の首に腕を回した。




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彼女はくノ一! 第五話 (241)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(241)

 夕食を終え、テン、ガクと酒見姉妹が特に要望したので、食後のデザート、というには重すぎる気がしたが、荒野から渡されたケーキをみんなで食べることになった。羽生が人数分のコーヒーをペーパーフィルターでいれてくれ、甘いものが苦手な香也は、そのマグカップを抱えて、早々に庭のプレハブに退散した。三島も「苦手ってわけではないけど、どちらかというと酒の方がよろしい」と辞退し、しかし、酒を持ち出すわけでもなく、何もいれないコーヒーを啜っている。
「どうせなら、荒野と茅も呼ぼうか?」
 という意見も出たが、三島の「たまには二人っきりにさせとけ。今週は、忙しかったんだから」という鶴の一声で取りやめになった。指摘されてみれば……確かに今週、特に荒野はあちこちに呼ばれ引きずり回され、端から見てもそれとわかるくらいに多忙を極めていた。今日くらい、静かにさせておこう、という三島の意見には、頷けるものがある。
 テンとガクは一口飲んで顔をしかめ、コーヒーの味が分からなるくらい、ミルクと砂糖をごっそりといれて、ようやく満足に飲めるようになった。酒見姉妹と楓は、はやりミルクと砂糖を入れたが、テンやガクほど非常識な量ではなく、あくまで常識の範囲内での使用、羽生と孫子は、ミルクだけで、三島と香也がなにも入れないストレートで飲んでいた。
「コーヒーが悪いというわけではなけど、茅のいれてくれる紅茶の方がおいしい」
 というのが大方の見解だったが、それで羽生が特に気を悪くするということもなかった。茅が普通に使用する茶葉は、実はかなり高級品なのだが、この家でコーヒーを常飲するのは羽生のみであり、それも、徹夜などの時の眠気醒ましのがぶ飲み用、というのが主な用途である。つまり、羽生は、かなり安い豆しか購入しないので、茅の紅茶とそんな安物を比べることさえ不遜だ……と、羽生は思う。
「でもさ……甘いものには、多少苦いもののが、合うだろ?」
 と、羽生はいうのだが、テン、ガク、酒見姉妹は、目の前のケーキに夢中であり、そんな話しはまるで聞いていない。荒野からは一ダース入りの箱を渡されているので、テン、ガク、酒見姉妹の四人は、ケーキを二個づつ、与えられていた。
「……しっかし……お前ら……」
 三島が、四人の食べっぷりをしげしげと見つめ、感心したような、呆れたような声を出す。
「なんていうか……晩飯くったばかりで、よくそんなに入るな……」
「……だって、これ……」
「マンドゴドラのケーキって、今、プレミアなんですよー……」
 酒見姉妹が、実に幸福そうな顔をして、交互にそんなことをいう。
「こういうのは、別腹っていうし……」
 と、テンがいえば、
「おいしいものはおいしいんだから、しょうがないじゃないか……」
 ガクが、そう開き直る。
「……ま、いいけどな……」
 三島は、マグカップを置いて付け加えた。
「あんまり甘いものばかり食い過ぎると……太るぞ」
 その言葉に凍り付いたのは、ケーキに夢中になっている四人ではなく、楓と孫子だった。
「だだだ、だいじょうぶですよ」
 楓が、震える声でそんなことを言いだす。
「これくらい……普段、運動していますから、脂肪の燃焼効率が、いいんです……。
 決して……前より、丸くなんかなっていませんよ?」
 最後は、何故か疑問形だった。
「わたくしは……部分的に、もう少し太りたいのですが……」
 孫子は、敵意に満ちた視線を、楓の「丸くなった」部分に送る。
「天は二物を与えず……とは、よくいったものですわ……」
 そういって、えらく深刻な表情でため息をついた。
「二人とも……」
 そうした話題に関しては他人事である羽生が、楓と孫子に注意を即した。
「そういう……微妙な話題は……お子様体型の人が多い場所では……慎んだ方が……」
 そういう羽生自身は、食べても太らない、脂肪がつきにくい体質であり、故に、他人事である。
 テン、ガク、酒見姉妹、三島は、非好意的な視線で楓と孫子のボディラインを点検している。
 楓にしろ孫子にしろ、自分で心配しているほど貧相な体型ではない。どちらかというと、同性にうらやましがられる方に分類されるだろう。
 テン、ガク、酒見姉妹、それに、三島の五人は……極端にメリハリのない、俗にいう幼児体型であり、特殊な趣味の持ち主以外、あまり歓迎されることがない……と、一般的には、そういうことになっている。
「……ふん……」
 やがて、ガクがそんなことをいいはじめた。
「いいもんね、いいもんね。
 まだまだ成長の余地、あるもんね……」
「そ……そうだよ!」
 いつもは冷静なテンも、何故か口調が怪しい。
「これから先、ボインボインでバツンバツンなナイスバディになっていくんだから!」
「……成長の余地……」
「その、余地……あと、何年?」
 酒見姉妹は、なんだか黄昏れた表情になってしまった。
 二人はそういった後、三島の方を見て、
「「……仲間……」」
 と、手を差し伸べた。
「……そんなところでハモるなぁ!」
 三島が、絶叫する。
「それに……そんな、体型とかばかり気にしてもなぁ……。
 こればっかりは、ダテ食う虫も好きずきっていうか、割れ鍋に閉じ蓋っていうか……。
 ともかく!
 いい男ゲトしようと思っていたら、待っているばかりでは駄目だぁ!
 もはや吶喊あるのみ!」
「……おーい! せんせー!」
 羽生が、どこかしらけた顔をして、三島をたしなめる。
「他の所なら、ともかく……ここで、そういう発言、しゃれにならないから……。
 本気にしたら今後、何起きるかわかんないぞぉー!
 んでもって……そのツケは、うちのこーちゃんとこにいくんだぁ……。
 今でさえ、かなりややこしいことになっているんだから、あまり、無責任なたき付け方、しないでくれぃ……」
 そういう羽生の目は、どこか遠くを見ていた。
 いわれて……三島は、その場にいる連中の顔を、ゆっくりと見渡す。
「……そ、そうだな……」
 たっぷり数十秒、考えて、三島は前言を撤回した。
「あ……あんまり、無理なアプローチしちゃ、いけないぞ!」
「……あんた……。
 普段、無茶なアプローチして、男捕まえているのか……」
 羽生が、ジト目で突っ込んだ。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(157)

第六章 「血と技」(157)

 食後のお茶を飲んでいる時、楓からのメールが着信した。
「……テレビ?」
 不審に思った荒野は、電源を入れる。
 以前、茅が一日中テレビにかじりついていた時期もあったが、今では電源が入っている時間は、極端に少なくなっている。茅も荒野も、ゆっくりテレビをみているような余裕がなかなか作れないのが、現状だった。
「……こういう、ことか……」
 楓のメールにあった、ローカルテレビ局にチャンネルを合わせて、荒野は一人頷く。
 そこには、レポータの質問に受け答えする玉木が映し出されており、その背後では、「シルバーガールズ」の装備に身を包んだテンとガクが六節棍を構えたり、ポーズをとったりしている。プラカードやポスターを広げてカメラの前に出ようとする放送部員たちの姿も、何人か見えた。
 自分でも以外なほどショックに感じなかったのは、遅かれ早かれこのような日が来るであることを、予期していたから……かも、知れない。
「シルバーガールズ」は、目立たなくては、意味がない。ゆえに、機会がありさえすればマスメディアへの露出も積極的に行うだろう。それでなくとも、背後で玉木が主導しているのだから、この程度のことをしても、別に、おかしくはない。
 商店街へは年末にも取材の申し込みがあった、と荒野も小耳に挟んでいる。あの時は、楓も孫子も露出を嫌ったので、取材を断ったわけだが……今では、事情が違ってきている。
 また、商店街の人たちにとっても、たかがローカル局とはいえ、マスメディアで宣伝されれば、うれしくない筈はないのであった。
 ましてや、バレンタイン本番を来週に控えたこの週末は、商店街のイベントにしても、最後の盛り上げ時、である。ここで、テレビ中継が入れば、それまでイベントの存在を知らなかった周辺の住人に対する、大きなアピールになる……。
 商店街からの中継は五分も続かずに終わり、CMの後は、カメラはスタジオを映し出し、中年男のキャスターが、無味乾燥なローカルニュースを読み上げはじめた所で、荒野はリモコンでテレビを消した。

「……なんだか、どんどん大袈裟なことになっていくなぁ……」
 玉木の動きも、だが、孫子の会社も、有働が主導するボランティアも、本来なら荒野たちとはあまり関係が無い、周辺の住人を大勢巻き込みはじめている。
 最初のうち、その影響力は、せいぜい、荒野たちが通う同じ学校の生徒たちくらいまでにしか及んでいなかったが……今では、その範囲は、日毎に大きくなっていく……。
 元はといえば、「茅が安心して住める環境にする」というのが荒野の目的だった訳だが、その目的が、もっと大きな範囲にまで拡大解釈され、「一族と一般人が混在出来る環境を作る」ということに、なってしまった。
 荒野が一族の首長たちの前で自分の意志を表明したことが、一族内部に潜在していた、一般人との融和を求める勢力に、居場所を与え、玉木や有働、孫子の動きとの相乗効果が出始めた……という、時期なのだろう。
 こうした風潮が、いつまで続くのか……この土地で、許容され続けるのか、荒野には、判断出来ない。
 しかし、一度弾みがついたものは、容易なことでは止まらないだろう……という、かなり確実な予感もあった。
 荒野は、そうした懸念を茅に説明し、
「この先……おれたちは、どこまで、行くんだろう……」
 漠然とした不安を、口に出して茅に示した。
「荒野……」
 茅は、荒野に尋ねる。
「……怖いの?」
「怖いな」
 荒野は即座に、呆気なく首肯した。
「……おれたち……。
 所詮、自分たちの都合で、ここまで大勢の人たちを巻き込んでしまっているわで……。
 ここまでして、いいんだろうか?
 そんなことをする資格が、おれたちにはあるんだろうか?」
 自分一人、あるいは、茅や楓など、周囲の数名について、防波堤になる……というぐらいの覚悟なら、荒野とて、とうの昔に腹を括っている。
 しかし、現在の状況は……玉木や有働などの一般人の友人たちも少なからず、深入りさせてしまった。さらにいうなら、もっと大きな範囲で、結果としてこの地域社会をも、変質させつつある。
「誰にも、無理強いはさせていないし……」
 茅の回答は、明確で力強かった。
「なにより、彼らが自発的にやっていることなの。
 彼らの選択を、わたしたちが安易に否定するのは、間違いだと思うの。
 それに……」
 茅たちにも、生き残る権利はあるの……と、茅は、続けた。
 荒野は……数秒、考える。
「茅は……現在のこの状況を、生存競争的な観点でみているのか?」
 考えて……結局、荒野はその疑念を口にした。
「……そうなの」
 茅は、頷く。
「茅だけなら……隠れていれば、いい。
 だけど……茅の子供たちや、それに、テン、ガク、ノリたちも……これから生まれてくる、全ての異能の者に……今までのように、その正体を一生隠して過ごせ、というのは……絶対、間違いだと思うの。
 茅の子供には……荒野の子には、そんな世界を残したくないの……」
 荒野は、必死になって思考を巡らし、茅の思惑をトレースする。
「……茅は……。
 つまり、一般人と一族が平和に共存できる社会なら……一族以上の能力を持つかも知れない、茅と同等の資質の持ち主も、安心して生活できる……。
 そのような社会を作る布石、あるいは、テストケースとして、現在の状況を容認し、あるいは、利用している……。
 そういう……ことなのか?」
「そうなの」
 荒野が短時間に高速で思考を回転させた結果、出した仮説を、茅はあっさりと首肯した。
「……そこまでのスケールでは……考えたこと、なかったな……おれ……」
 半ば、あっけにとられながも、荒野は、そう呟く。
「もっと全然……目先のことしか、目に入っていなかった……」
「荒野は、それでいいの」
 茅は、重ねて頷く。
「今の荒野の立場では、短時間で決断を迫られることが、多い。
 そういう立場に立つ者が、あんまり長期的な視野にばかり拘泥していると、かえって足下を掬われるの。
 才賀のいう、戦略と戦術の違い。
 優れた現場指揮官が、大局を見ることに長けているとは限らないし……また、長けている必要もないの……」
「……なるほど……」
 荒野は、頷いた。
「分業……か……」
 そういった後、不意に、喉の奥から、笑いがこみ上げてくる。
「そう……だな。
 おれ、確かに、そういう難しいこと、とことん考え抜くのは苦手だし……そういう面倒なこと、考えるのは、茅にまかせるよ……」
 しばらくして、そういった荒野の口調には、笑いが滲んでいた。
「ある種の、フィクション……マンガや映画などの映像作品や、小説などの題材として……ミュータント・テーマがあるの。多くは、種という概念を誤解したところで、物語の根本的な部分が設定されているので、科学的には、必ずしも正確なものではないのだけど……。
 そうした物語の中に描かれる、人間以上の存在、ミュータントは……ごく少数の例外を除いて、一般人から迫害されているの。
 こうした設定は、多く、人種差別などの現実を託したメタファーだったりすのだけれど……それでも、茅や、これから現れる茅のような人たちを……一般人に、迫害させるわけにはいかないの……」
「……わかったよ、茅……」
 荒野も、にやにやと笑いながら、頷く。
「目指すは、一般人社会との共存……それも、次の世代にまで引き継げるだけの、強固な土台を、おれも作っていきたい……。
 時間はかかるだろうけど……ひょっとしたら、一生かけても間に合わないかも知れないけど……でも、やりがいのある仕事だと思う」
 そういってから、ふとあることに気づき、荒野はぼそりと付け加えた。
「……ようやく……おれにも、何かを作れそうだよ……」





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彼女はくノ一! 第五話 (240)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(240)

 確認してみると、ほとんど県内にしか放送していない、UHFのチャンネルだった。放映している番組のほとんどをキー局から供給されるコンテンツに依存しているが、一日のうち数時間ほどはその局が製作した番組も放映している。
 この週末、夕方の枠は、地元からの生中継が売りの生活情報番組で、県内をぐるぐる回っている。予算がほとんどかからないし、それに、放映した地区の受けが良くなるから、毒にも薬にもならない代わりに一定の視聴率が確保できる……と、いうような番組だ。
『……でも……テレビに、なんて……』
 出ちゃっていいんだろうか? と、楓は思った。
 一瞬、荒野に連絡すべきかとも思ったが、なにせ生放送、なわけで、今更慌ててもどうしようもない……とはいっても、やはり全く報告をしないのも、問題がある……の、か? 
 などと少し悩んだ末、楓は、とりあえず、この放送について簡単に記述し、荒野あてにメールを送信する。

「……これで……どんどん、引くに引けなくなりますわね……」
 楓が携帯を取り出してキーを叩きはじめると、孫子がそんなことをいいだす。
「加納やあなたたちがおとなしくしていても、あの子たちや周囲の者は、それぞれの思惑で、さらに多くの人を巻き込みながら、動き出している……。
 加納も……もう、一族がどうのという、狭い枠組みを越えたところで考え、自分の先行きを選択しなければならない……」
 独り言のような口調だったが……明らかに、楓に聞かせるための言葉だった。
 孫子は、無駄なおしゃべりに興じる性格ではないし、ここには、楓しかいない。
「……うまく……みんなが、幸せになれる選択が、できるでしょうか?」
 楓は、手を止めて、孫子に話しかける。
「……やってみなければ……わけりませんわ……」
 孫子は、ゆっくりと首を振った。
「不幸になりたいと思って日々を送っている人は、少数派でしょう。
 だけど、すべての人が、幸福なわけではりません。それに……能力的に秀でた人が、そうでない人よりも幸福だということでも、ありません。より多くの努力した人が、そうでない人よりも報われているとも、限りません……。
 不公平なことですが……それが、現実です……」
 楓は、孫子の言葉を噛み締める。
 孫子と楓のスタートラインを思い返してみれば……その言葉は、まぎれもなく現実だった。
「……でも……」
 楓は、ゆっくりと、いった。
「幸せになろうとすることは……出来ます……」
「精一杯、そうすることですわね……」
 孫子はそういって、柔らかく笑った。
 孫子にも、こんな表情ができるのか、と、楓は思った。
「後で、後悔しないように……」
「……はい」
 楓はいった。
「後悔は……絶対に、したくはありません……」
 その後すぐ、羽生譲が帰宅してきたので、その会話はそこで途切れた。
 さらに少しして、テンやガクも帰宅し、例によってプレハブに籠もっていた香也も、居間に呼び出されて夕食となる。
「……先生がご飯作ると、みんなが幸せになるよな……」
 その夕食の席で、羽生がいった。
「先生、マジでいいお嫁さんになれるよ。
 料理はうまいし、一緒にいて退屈しないし……」
「だったら、その相手を差し出せっつーの。
 容姿端麗頭脳明晰高収入で絶倫パイパーなベッドテク持ちだったら誰でも歓迎だぞ」
「……そんなことをいっているから、行き遅れるんです……」
 会話が普通に漫才になるあたり、いつもの二人、だった。
「……でも……」
「本当、おいしい……」
 酒見姉妹も、味噌汁に一口、口をつけただけで、絶句してしまう。
「普通にやることやっていれば、誰が作っても、その程度の味にはなるんだよ……」
 姉妹に料理を教えていた三島は、そう答える。
「慣れればたいした手間ではないんだから、コンビニや外食ばかりではなく、自分でいろいろ試してみろって……。
 いくつかの基本を押さえれば、後はその組み合わせなんだから……。
 特に和食は、いい出汁さえできれば、煮物に味付けに、かなり応用が効くぞ……」
「「……はい……」」
 酒見姉妹は、同時に頷いた。
「……テンちゃんとガクちゃん、さっき、テレビに出てましたね……」
 楓は、テンとガクに話しかける。
「うん。
 今日、徳川さんの工場にいたら、突然、玉木のおねーちゃんが行こうっていいだして……」
「……玉木のおねーちゃん、サプライズだとかいって、ギリギリまで伏せておくんだかからな……」
 二人の反応は、割合に平静なものだった。
「「……て、テレビ!」」
 代わりに、酒見姉妹が大声を出す。
「「……そ、そんなに……目立って……」」
「……テンちゃんたちは、別に、完全に一族というわけでもありませんし……」
 二人の代わりに、考え考え、楓が答える。
「それに……人やお金を集める、という目的もありますから、そのためには仕方がない面もあるかと……」
 荒野に送信したメールに、反応がない……ということは、特に問題はない、と、荒野が考えている……ということなのだろう。
 と、楓は、そう判断している。
「「……そ、そうですか……」」
 酒見姉妹は、一応頷いたが、完全に納得した表情ではない。
「そう……。
 特にシルバーガールズは、人の注目を集めるのが目的、みたいな所があるし……」
 テンが、静かな口調で答える。
「シルバーガールズは、ボランティア活動全般の、イメージキャラでもあるんだから……。
 CMキャラが目立ちたくない、っていうのも、何かおかしいよね……」
 ガクは、悟ったような顔でそういう。
「……でも……あの局、全国ネットではありませんよね……」
 楓は、そう指摘すると、。
「今の時点では、全国にアピールしても、あまり意味がありません」
 孫子が、反駁する。
「……まずは、地元であのキャラクターの知名度をあげることでしょう。ボランティアの看板なんですから、当面は、動員数に影響を与えるような存在でありさえすれば……」
「玉木のおねーちゃんも、そういってた……」
 孫子の言葉に、ガクが頷く。
「コンテンツの内容がしっかりしていれば、ファンは自然に増えるし……今までの手ごたえからいっても、最初の予想以上にいい絵に仕上がっているって……」
「……生身でSFX的なアクション、できちゃう人たちだもんな……」
 羽生も、頷く。
「そりゃあ……いくらでも、見ごたえがある絵が撮れるだろう……」
「……今、一番弱いのが、脚本だって、玉木おねーちゃんがいってた。その次に、合成とか特殊効果の専門家がいないこと……。
 今は、シーン数も少なし、一本あたりの時間が短い、スポット的な映像しかやってないけど……これ以上の展開をするとなると、やはり、一貫性のあるストーリーが必要になるって……。
 映像を加工することに関しては、これからボクとガクが新しいソフト組んでどんどん作業効率上げていくつもりだけど……脚本とかそっちの方は、やはりある程度、経験とか実績のある人を見つけてこなければ、難しいかなって……」
「……そこの、ノッポのねーちゃんなんかどうだ?
 マンガなら、まるっきり未経験ってわけでもなかろう?」
 三島が、そういって羽生を指さす。
「……せんせ。
 箸の先で人を指さない……」
 指名された側の羽生は、そういって憮然とした顔をした。
「マンガとかアニメのメソッドは、それなりに分かるけど……特撮は、また微妙に違う世界だからな……」
 羽生は、やんわりと三島の指名を躱した。
「そうそう。
 今、欲しいのは……特撮に詳しくて、在りものの映像を巧く編集して、筋の通ったドラマに仕立て上げることができる……とか、そういう人で……」
 テンが、羽生の言葉に同調する。
「……ああ。
 そうか。突発的に素材が増えるんだよなあ……今までの例からみると……」
 羽生も、頷く。
 シルバーガールズが出張る事件には、可能な限り玉木率いるカメラマン軍団が追いかけている。
「……でも、それって……この分で行くと、どんどん使えそうな映像だけが溜まっていく……っていうことなんじゃないか?」
「そう……だね。
 そうすると、今までのでてた条件に、そうした膨大な映像を、効率よく使いきれる人……という条件を、つけ加える……」
 ガクが、そういう。
「……そんな都合がいい人……」
 ……いるだろうか? といいそうになって、楓は、はっ、とある人物に思い当たる。
「……います……わね。
 特撮にやたら詳しくて、とんでもない情報処理能力と臨機応変な判断力の持ち主が……」
 孫子が、そういって頷いた。
「……茅様!」
「加納茅……」
 楓と孫子の声が、重なる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(156)

第六章 「血と技」(156)

 帰宅して着替えると、二人してすぐに台所に立つ。
 ここ数日、荒野は「家事は茅の分担」という取り決めを無理に押しつけられていた形だが、この日は太介のおかげで朝、二人でいつも以上の量を調理していることもあり、「たまにやる分には、いいリクエーションだよ」と荒野が手伝いを申し出ると、茅は、あっさりと頷いた。
 米を研ぎ、炊飯器をセットして、茅と一緒に料理の下拵えをする。荒野に南瓜を一口大に切り分ける仕事を指示した。
 確かに、南瓜の皮は分厚く、それに包丁をいれるのは、ちょいとした力仕事であり、茅よりも荒野に向いていた。
 荒野が南瓜と格闘している間に、茅は浅蜊の味噌汁を作る準備をしている。玉木の所で購入している浅蜊は、すでに砂を吐かせているということだったので、そのまま鍋にいれて水を入れ、火にかける。浅蜊は、具自体がいい出汁を出すので、手間がかからなくていい。
 続いて、荒野が細かく切り分けた南瓜も鍋にかける。南瓜は甘みが強いので、特に下味はつけないで、そのまま水気がなくなるまで火にかける。
 それから、茅は荒野に玉葱やパプリカなど、何種類かの野菜を荒野に線切りにするように指示し、茅自身は何種類かの調味料を合わせて小皿に置き、豚肉を取り出して一口大に切り分けて、薄く衣をつけ、ざっとソテーして皿に戻す。
 袋入りの水煮の竹の子を笊にあけ
て水気を切り、荒野が線切りにした野菜と一緒に、油をひいてよく熱した中華鍋にあけ、炒めあわせる。
 ざっと火が通った所で、先ほど衣をつけてソテーした豚肉と合わせ調味料を鍋に入れ、荒野に、浅蜊の鍋の火を止め、味噌を溶き入れるように指示する。
 荒野が味噌を溶き終わった鍋をテーブルの上に降ろすのと、茅が炒め終わった物を大皿にあけるのはほぼ同時で、茶碗や箸などを用意し終わるのと同時に、炊飯器が鳴り、ご飯が炊けたことを告げた。

 二人きりの食事の時は、荒野はもっぱら聞き役に回る。ついこの間まで、外の世界をほとんど知らなかった茅の口から、今では毎日のように新しい名前が出てくる。学校と家とを往復するだけの地味な毎日ではあるが、茅は着実に校内に知り合いを増やしていた。知り合いが増え、対人関係が複雑になる、ということは、茅の世界がより密度を増していく、ということであり、そうした傾向を荒野は歓迎した。また、茅の話しぶりもおおむね上機嫌であり、現在の生活を茅が気に入っていることも、荒野は実感していた。
「……茅」
 良い機会だ、と思ったので、話しが一区切りしたところで、荒野は前々から抱いていた疑問を茅にぶつけてみる。
「その……そういう人付き合い、負担にならないか?」
 茅は……荒野や一般人よりもよっぽど「高密度に」外界を知覚している……らしい。
 その気になれば、対面した相手の内面までも「読ん」だり、また、ある程度、「干渉」することも、可能だ。それは、茅のその能力は、自己申告だけでなく、佐久間現象との一件でも、実証されている。
 そうした能力を持つものが……多様、かつ、精神的に未成熟な一般人がひしめき合う「学校」という環境下に長時間、居つづける……と、いうのは……常時、自分の特殊さを自覚させられる、ということでもある。
 そのような状況は……とても、窮屈なのではないか?
「二つ目の人間の国では、一つ目小僧は珍しがられる。
 一つ目小僧の国では、普通の人間が珍しがられる」
 荒野がそんな意味のことを尋ねると、茅はこのような答え方をした。
「茅は……確かに、様々なものが見える……見えすぎるの。
 おそらく、荒野が今、予測している以上のものを茅はみている。
 でも、それは……」
 単なる個人差、だと思うの……と、茅は、いう。
「一族も、一般人も……それに、テン、ガク、ノリたちも……能力や資質には個人差があり、千差万別なの。
 だから……茅も、人と違っていても、いいの……」
 荒野には……それが、茅の本音なのか、それとも、強がりでそういっているのか、よく判断出来なかった。
 そこで、重ねて尋ねてみた。
「例えば……茅には、この世界は、どう見えるんだ?
 ええと……その、普通の人とは……どういう風に、違ってみえるのか、っていうことで……」
「まず……一般人の五感で受け止められる世界は……茅が知覚できるものよりは、ずっと、粒子が荒いと思うの……」
 茅は、臆することなく、しかし、慎重に言葉を選んで、荒野に説明しはじめる。
「……視覚、聴覚、嗅覚……全てが、日を追うごとに、鋭敏に……きめ細かい所まで、区別できるように、なっていっている……」
「……そんなようなことも、いっていたな……。
 あれ、まだ進行中なのか?」
 荒野が確認すると、茅はこくりと首を縦に振った。
「進行中……。
 加えて、時間がたつほどに……加速度をつけて、肌理が細かくなっている……」
 茅は、常人よりももっと密度の濃い世界を生きている……という話しは、以前にも少し、話して貰った。
「……茅……」
 荒野は、箸を止めていた。
「おれ……何もできないけど、何かできることがあったら、いつでもいってくれ……。
 あー。
 無理を、するな。一人で、抱え込むな……」
「荒野なら、そういうと思ったの」
 茅は、荒野の言葉に頷く。
「でも……大丈夫。
 もう、茅は一人ではないから……。
 それから……これは、能力というよりも、その応用なんだけど……」
 知り合いが近い将来に行うであろう行動を、かなり高い確率で、読めるようになった……と、茅は告げる。
「占いとか、未来予知とかではなくて……過去の行動を記憶し、そこにパターンを見いだす。過去のデータとその人の性格から、確率的にもっとも多い選択を予測する……人力による、シミュレート。
 あくまで、機械的な、推測なの」
 もちろん、陽動を予測する人物のことを知っていればいるほど、的中率は高くなる。それと、近い将来のことほど、明瞭に見える。
 今では、学校で知り合った生徒たちが五分後に何をしているのか、かなり高い確率で、予測することが出来る。
「……なるほど……」
 荒野は、そんな非独創的な呟き以外、この場でいうべき言葉を思いつかなかった。
 完璧な、記憶力。脈拍や呼吸数、それに体温の変化まで、正確に見抜いてしまう知覚。さらに、「人間」に対する、飽くなき好奇心……。
 今の茅なら……その程度の芸当は、何の苦もなく、やってしまえそうだった。
「普通の人たちは……あまりにも、シンプルなアルゴリズムで動いているの」
 茅は、抑揚のない声で、そう告げる。
「あの村から連れ出されて、いろいろな人たちに会って……最初のうちは、なんて薄っぺらい……類型的な、思考パーターンの持ち主が、こんなにいるのだろうか?
 ……と、そう思っていたけど……彼らの方が、正常な存在であり、茅の方が、イレギュラーな化け物なの」
 茅は一瞬、うっすらと微笑んだ。
 荒野に、不快感を与えるような笑みだったが……すぐに、元の表情の読めない顔に戻る。
「荒野……。
 知っている?
 フランケンシュタインとマイ・フェア・レイディは、実は、同じ構造を持つ……。
 ヒトが、ヒトを創る話し……そして、被造物が、創造主を裏切る話しなの……」




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彼女はくノ一! 第五話 (239)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(239)

 三島は狩野家の前で車を停めて楓たちと荷物を降ろし、車を駐車場へと移動させる。楓が、玄関前で一旦荷物を降ろし、鍵を開けて孫子と酒見姉妹を招き入れる。酒見姉妹がこの家に入るのはこれで二度目だったが、前回の時とは楓や孫子への評価がまるで違ってきている。姉妹は、若干おどおどとした挙動で中に入り、率先して大量の荷物を台所に運びこみはじめた。
「……先生も、すぐに来ると思いますから……」
 そういいながら、楓は着替えるために自分の部屋に向かい、孫子もそれに習う。
 従順な酒見姉妹の挙動を見ながら、楓は、「荒野から聞いた話しとは、だいぶ違うなぁ……」とか、思いはじめている。
 他ならぬ楓との対戦で、まるで手も足もでなかった……という経験が、姉妹の楓に対する態度を決定づけた、という発想や自覚は、楓にはなかった。
 楓が着替え終える前に、三島が玄関に入る気配がした。私服に着替えた楓が台所に行くと、三島が酒見姉妹に包丁の使い方を教えている所だった。
「……なんだ、楓か」
 楓の姿に気づくと、三島は詰まらなそうな声を出した。
「今日はこいつらに教えながら、わたしが用意する。
 お前は、休んでいていいぞ……」
 そういって三島は持参した昆布を取り出し、今度は姉妹に向かって出汁の取り方を実演しながら、説明しはじめる。
 姉妹といっしょに聞いていていいか、というと、三島は「お前さんの料理の師は、真理さんだろ」と一蹴される。三島は、楓より少し遅れて来た孫子も同じように台所から追い出した。

 台所から追い出された楓と孫子は、しかたなく居間にいって、炬燵に入る。実は、外から帰ってきたばかりで体が冷えきっており、炬燵の温もりはありがたかったのだが……。
『……気まずい……』
 楓は、基本的には、あまり誰かを嫌いになれない性質だったが……孫子だけは、別だった。他の人も一緒に場でわいわい話すのは特に問題はないのだが、香也のこともあり、二人きりになると、すぐに気まずい沈黙が発生する。
 いや、気まずい、と感じているのは楓だけで、孫子の方は「特にしゃべるほどの用事もないから、黙っているだけ」というだけのことなのだが、一見快活にみえて、その実、「自分がどのようにみえているのか?」ということに関して過敏な楓にとっては、このような沈黙はとても気詰まりだった。
「……あの……」
 と、孫子に声をかけようとして、楓は、以前二人きりになった時、孫子と「世間話し」をしようとして、素っ気なくあしらわれたことを思いだし、あわてて言葉を呑み込む。
  孫子は、楓の挙動が不審なことに気づいていたが、結局何もいわず、常備してある急須と湯呑みを二つ、準備し、ぽこぽことお茶をいれはじめる。
「……あ。
 …………どうも……」
 またも、「わたしがやります」という一言をいうタイミングを逸し、「どうしてこうも、自分は要領が悪いのか」と思いつつ、楓はしかたがなく孫子に頭を下げる。
 ますます気詰まりになった楓は、炬燵の上にあったリモコンを操作して、テレビをつけた。週末の夕方、という時間帯は、普段テレビを見る習慣のない楓にとっては、本当にどうでもいい番組しかやっていない。
 チャンネルを慌ただしく変えて、結局、無難なニュースをやっている局にチャンネルを固定する。
 すると、突然、やけに見慣れた光景が映し出されたので、楓は、目を丸くした。

「……それでは、このイベントは地元学生さんたちが企画したということなんでしょうか?」
 見慣れた商店街を背景に、レポーターにマイクを向けられた玉木は、両手でVサインを作って胸の前につきだした。
「そうでーす!
 いくつかのクラブが連合して行っている、地元活性化運動の一環としてはじまりましたが、今で学校という枠を越えて、もっと多くの人を巻き込んで多様な展開になっていまーすっ!
 この場を借りて、ご協力くださった関係者各位に感謝ぁ!」
 玉木の前にマイクを突き出したレポーターが、テンションの高い玉木の挙動に少し困った顔をしている。
 玉木の後ろには、やはり顔見知りの放送部員たちが、「シルバーガールズ」のポスターを掲げてカメラに写ろうと体を動かしている。玉木の両脇では、シルバーガールズのコスチュームを身につけたテンとガクが、玉木の両脇で六節棍を構えたりポーズを取ったりしている。

「……テレビが来るんなら、うちの会社の宣伝もするように、手配するんだった……」
 というのが、その時、孫子が漏らした感想だった。
 



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(155)

第六章 「血と技」(155)

 一緒に学校を出た楓や酒見姉妹とは、商店街に着く早々に別れた。
 茅がなんとなく二人きりになりたいというサインを送っているような気がしたし、それを除いても、この人混みの中、あれだけ目立つ連中と一緒に歩くのはごめんだ。茅と荒野が二人で買い物をすることはそれほど頻繁にあるわけではない。が、茅と荒野の二人は、すっかり顔なじみになっており、「兄弟」というふれこみも浸透しているので、二人で買い物をしていても、特に注目を浴びるということもない。しかし、全く同じ顔の酒見姉妹まで引き連れていれば、間違いなく、強い印象を残す。普通、「学校の友達」程度では、晩飯の買い物にまで付き合いはしないだろう。
 それに、制服を着てみても実際には学校に通っているわけではない酒見姉妹のことを、無関係の他人にうまく説明できる文句を、荒野は思いつかなかった。
「……荒野」
 雑踏の中で二人きりになると、茅が突然、口を開く。
「昨夜は、何回?」
 人通りの多い中でいきなりそう尋ねられて、荒野は吹き出しそうになる。
「茅……そういう話しは、回りに誰もいない時に……」
 と前置きを置きながらも、茅を不機嫌にさせるのは得策ではない、と感じたのか、
「……二回、だよ……」
 ぼつり、と、荒野は答えた。
「……そう……」
 茅は、一見、なんでもなさそうな顔をして、頷く。
「今夜は、四回……体力のつくものを買うの……」
 以前した、「二倍以上の約束」は、どうやら冗談ではなかったらしい……と、ここにいたってようやく、荒野は納得する。
 そして、文句もいわずに、茅の買い物につき合う。

 当面必要な食料品を買い込んだ後、どうせ、ついでだから、と、マンドゴドラに立ち寄る。顔見知りのバイト店員に、
「ケーキ適当に選んで、一ダースの包みと半ダースの包みにして」
 と声をかけると、すぐに用意してくれた。マスターは、仕事が立て込んでいるのか、この日は顔を見せなかった。
 二つの包みを紙袋に入れて貰い、外に出ると、茅が楓たちを引き留めていた。楓は、酒見姉妹だけではなく、孫子まで引き連れている。四人とも、目一杯荷物を抱えていた。
「……おう。
 お前ら、ちょうどよかった……」
 ……ほい……。
 土産。そっちのみんなで、食べてくれ……」
 そういって荒野は、四人の中で一番荷物の少ない孫子の指に、ケーキの入った紙袋の取っ手を掴ませる
 もともと、一ダースの大きな包みは、何かと世話になっている狩野家にそのまま渡す予定だった。
 全員で談笑しながら、ぞろぞろ歩いていく。
 孫子の話しによると、例の会社の立ち上げは、それなりにうまくいっているようだった。
「……地元商店街の仕事も、しっかりとやるつもりですが……」
 孫子によると、その前に、法人という体裁を整え次第、集まるだけの人数を投入して、この町の至る所に監視カメラを仕掛けるための営業活動を行う、という。
「……徳川の会社が、製品の運用テストとして、無料で各所に設置します……」
 カメラを設置する場所の地主との交渉を、孫子の会社が委託される……という形を取ることになる。当然、徳川の会社から孫子の会社に、少なからぬ金額が流れ込む。
「……例の……悪餓鬼、でしたっけ? そういった方々の備えでもありますが、初期にまとまった収入が保証される契約を確保できたのは、わたくしの会社にとっても、とてもいいことです……」
 孫子の会社に流れ込んだ資金の大半は、すぐに雇用する者に還元していく。実質的に会社に残る金額は、さほど多くはない筈だったが……会社の運転資金もそれだけキープできるし、立ち上げ時から、まとまった金額を動かした、という実績も、できる。
「つまり……仕事は、大丈夫そうだ、と……」
 一通り孫子の話しを聞いた後、荒野は、尋ねた。
「……人は、集まりそうなのか?」
「……それなりに。
 いくつかのフリーペーパーとか情報誌に求人広告を出しています。雇用先が不足しているのか、地元の人たちが、予想よりも多く来ていますわね……。
 それと、これは予測通りなのですが、あなたの一族関係者も……」
 それから孫子は、「商品の宅配業務」の契約をすませた商店の在庫リストを作成し、場合によってはそれをカタログ化したりする作業も、何人かではじめている……と、説明した。
「うちの会社の者が、この周辺を頻繁に歩き回るようになれば……」
「それは、そのまま、監視の役割も果たす……」
 荒野は、孫子の言葉を引き取った。
「才賀……感謝するよ……」
 なんだかんだいって孫子は、自分の才覚をフルに活用して、現在の状況をよりよくするために動いている。
「礼を言われる筋合いではありません。
 それに、資金を出していただいている以上、あなたの会社でもあります……」
 孫子は、すました顔でそう答えた。

「……おー。お前ら……」
 そんなことを話していると、車道の方から声をかけられる。
 見ると、三島が車の窓から首を出して徐行していた。
「今、帰りか?
 全員は無理だが、何人かは乗ってけ……」
 三島自身も小さいが、三島の車も小さい。
 荒野と茅は辞退し、他の四人が荷物をトランクに詰めたりして、窮屈そうに三島の車に乗り込んだ。

 遠ざかっていく三島の車を見送りながら、……予想外のことばかり起こるけど、かなりうまくいっている方だよな……と、荒野はそんなことを、思う。
「……今日は、珍しく平和だった……」
 事件らしい事件といえば、朝一で太介に襲われた程度で……。
 口に出して、荒野が呟くと、茅はきょろきょろとあたりを見合わす。
「……どうした?」
「あまり平和だとかいうと……途端に、何か起きる気がして……」
 ……茅の方も、突発的なイベントが続いていたせいで、多少は神経質になっている。
「……早く帰って、今日はゆっくり休もう……」
 荒野は、そういって頷いた。




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彼女はくノ一! 第五話 (238)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(238)

 荒野、楓、茅、酒見姉妹は、学校を出ると商店街に向かう。
 週末ということもあって、人出は多かった。服装から判断すると、近所の買い物客が六割、イベント目当ての着飾ったお嬢さんたちとその取り巻きが四割といってところか。
 いつもの二倍近くの人がいる勘定で、歩くのにも時間がかかる。二手に分かれて効率よく動こう、ということになって、荒野と茅、楓と酒見姉妹の二組に分かれる。楓は酒見姉妹を押しつけられる段となるとごねたが、荒野は「……そっちの人数のが多いんだから……」と無理に押しつけた。実際、荒野と茅は、多少、来客が多いというはいっても二人暮らしだが、狩野家はその倍以上の人数がいる。当然、食料の消費量も多い……筈だ。
「……こいつらも、喜んで手伝うといっているんだから……」
 そう、荒野は酒見姉妹の背中を押す。
 もちろん、酒見姉妹が実際にそんなことを行ったわけではない。
「まあまあ、松島さん……」
「加納様も、二人っきりになりたいそうですから、その辺のことを汲んで……」
 荒野に背中を押されながら、酒見姉妹は、楓にそう囁くところをみると、少なくとも、楓と行動を共にすることをいやがってはいないようだ。それに、「荒野と茅の都合」というのを持ち出されると、楓も無碍には断れない。
「その二人……せいぜい、こき使ってやってくれ……」
 酒見姉妹に肩を押さえつけられているうちに、荒野はそう言い残して人混みの中に去っていった。
「……行きま、しょうか?」
 荒野の背中が人混みの中に消えたのを確認した楓は、なんとなく居心地の悪くを感じながらも、酒見姉妹にそう声をかける。考えてみれば……楓は、この二人と、長時間話し込んだりした経験がない。
 この時点では、面識はあるが……といった程度の、浅い付き合いにとどまっている。

「……そうなんですか?」
 楓は、買い物がてらに、酒見姉妹と話し込んでいる。
「ご両親から……わたしは、養成所以外のことはよく知らないのですが……そういう技の相伝もあるのですね……」
「……いえ、それでも……」
「基本技も、極めれば……」
 酒見姉妹は、左右から楓の言葉を否定する。
「松島さんと、仁木田さんのストロング・スタイルの戦い方をみたら……」
「小細工は、所詮、小細工だなぁ……って……」
「……はいよ、白菜。
 いつも買ってくれるから、今日は一つおまけしておくから……」
「あ。ありがとうございます。
 じゃあ、これも、お願いします……」
「「……はい」」
 酒見姉妹はすでに両手にいっぱいの荷物を抱えていたが、その荷物の上に乗っけるように、楓はいくつかの白菜を乗せる。もちろん、楓自身も、両手に抱えきれないくらいの荷物を抱えている。
「……あなたたち……」
 荷物の山に足が生えているような三人に、声をかけてくる者がいた。
「……何をなさっているの?」
 制服姿の、才賀孫子だった。
「お買い物、なんですが……白菜、安かったんで、まとめ買いしてお漬け物にでもしようかな、って……」
 そう答えたのは、楓だ。
「才賀さんは……お仕事ですか?」
「そう……だけど。
 もう、帰るところですけど……」
 制服姿の孫子は、まじまじと三人の顔を……特に、酒見姉妹の顔を、見つめた。
「あなた方も……昨日の今日で……」
 孫子の表情は、複雑だった。
 酒見姉妹の調子の良さもさることながら、この二人に平然と荷物持ちをさせている楓の神経が、孫子には理解できない。
「……ええっと……。
 その、加納様の命令ですし……それに、話してみると、そんなに悪い人たちでもないですよ?」
 孫子の表情を読んだ楓が、そう返す。
 屈託のない楓の表情に、孫子は深くため息をついた。
「……わかりました。
 わたくしも、荷物を持ちます……」
 そういって孫子は、楓が持つ荷物を引ったくるようにして、奪い取る。
 この時点で、楓と孫子は、お互いに対して「……敵わないなぁ……」という気後れを感じている。
 楓は、孫子のように、自分で会社を立ち上げるほどの知識や行動力を持たない。また、孫子は孫子で、昨日の今日で酒見姉妹のような得体の知れない相手を易々と信用してしまう楓の人の良さは、真似できない……と、思っている。
「どのみち、帰る先は、一緒ですから……」

 めいっぱい荷物を抱えた四人が商店街の外れまで来ると、マンドゴドラの前に茅が立っていた。
「……ちょっと、待って……」
 荷物を足下に置いた茅が、楓たち四人の姿を認めて、行く先を手で制した。
「……おう。
 お前ら、ちょうどよかった……」
 マンドゴドラの入り口から、マンドゴドラのロゴ入りの手荷物を持った荒野が現れる。
「……ほい……。
 土産。そっちのみんなで、食べてくれ……」
 荒野は、一番荷物が少ない孫子の手に、ケーキが梱包された大きな袋を持たせる。

「……おー。お前ら……」
 マンドゴドラの前からいくらも歩かないうちに、今度は車道から声をかけられた。振り返ると、小型車の窓から三島百合香が、顔を出している。
「今、帰りか?
 全員は無理だが、何人かは乗ってけ……」
「……おれと茅は、いいや」
 即座に、荒野がいう。
「歩いてもいくらもないし。そっちは、一応、女ばかりだし……」
「……そうだな」
 三島も、あっさりと頷く。
 荷物を抱えているという条件は、全員、同じだった。
「……んじゃ、楓と才賀、それに双子、乗ってけ……。
 荷物、いくらかはトランクに入れないと入りきれないだろ……」

「……先生、この二人……」
 窮屈そうに助手席に乗り込むなり、楓は三島にいった。
「料理を、覚えたいっていっていますけど……」
「……そっか……」
 三島はあっさりと承諾して、車を発車させる。
「じゃあ、早速今日から、教えてやるか……。
 材料、たらふく買い込んできたようだし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(154)

第六章 「血と技」(154)

「……今にも降りそうな空模様だな……。
 降る前に、早めに帰るか……冷蔵庫も、空っぽだし……」
 ひとしきり、一族についての周辺知識を説明し終えると、荒野は窓際に立ってそんなことを呟く。
 窓の外はどんよりと厚い雲に覆われていて、その空模様は、佐久間現象とか悪餓鬼たちが襲撃してきた土砂降りの日を連想させる。
「……茅。
 まだここで作業やってくの?
 おれ、買い物もあるし、今日はもう帰りたいんだけど……」
「……ああ。
 加納君たちは今、二人で生活しているんでしたっけ?」
 買い物、という単語を聞いて、有働がそんなことを言いだす。
「……え? そうなの?」
 柏あんなは、その有働の言葉に驚いている。
「飯島先輩と同じマンションに住んでいるとは聞いていたけど……。
 そっか、二人暮らしなんだ……」
「……とはいっても、いろいろがちゃがちゃしているし、来客も多いから、あんまり二人っきり、って感じじゃないんだけどな……」
 荒野は、そう呟く。
「それでも、家事やなんかは、他に誰もやってくれないから、自分たちでやらなければならない。
 今、冷蔵庫空っぽだし、商店街は、最近、人が多すぎて、買い物するのに時間がかかるし、雨、降りそうだし……」
 荒野は窓の外を眺める。
 室内は暖房が効いているが、外は実に、寒そうな光景が広がっていた。
「……今日はもう、いいですよ。茅さん」
 堺雅史が、そう声をかけてくれる。
「当面、急ぎの仕事はないし、茅さんや楓ちゃんは、いつも、何人分も仕事してくれるし……こっちも、いつまでも、甘えてばかりいられないから……」
「……わかったの」
 茅は、素直に立ち上がって、帰り支度をしはじめる。とはいえ、今日はいつもとは違い、荷物がないから、コートをかけている場所までとことこと歩いていくだけだが。
 茅に続いて、酒見姉妹と楓も、帰り支度をしはじめた。
「……楓は……無理して一緒に帰らなくてもいいんだぞ。
 おれも、酒見たちも、いるんだから……」
 荒野は、学校指定の野暮ったいコートに袖を通しながら、楓に話しかける。
「……いえ。
 わたしも、平日は人任せですから、週末くらい、お買い物とかご飯の仕度とか……」
「ああ……そっちか……。
 そういや、真理さん、まだ留守だったよな……。
 じゃあ、荷物持ちも二人余分にいることだし、帰りに一緒に買って回るか……」

 荒野と茅、楓と酒見姉妹は、居残る生徒たちに別れの挨拶をして、実習室を出て行った。
「……なんていうか……さっきまでの会話と、あの、夕飯の買い物の相談とかしている時の、ギャップが……」
 五人の姿がみえなくなったのを確認して、柏あんなが、誰にともなく、そんなことを呟く。
「いくらニンジャでも、ご飯くらい食べるでしょう……」
 大柄な有働勇作が、小柄な柏あんなを見下ろして、そう答える。
「加納先輩……あれで結構、大食らいですよ。
 三人前とか四人前くらいなら、平気で平らげちゃうし……。甘い物に目がないし……」
 そういったのは、堺雅史だ。
「ああいう、生活感とか漂わせているところがあるから……まだしもみんな、萎縮しないでつきあっていられるんだよ……」
 そういう飯島舞花自身も、十分に美形に入る容姿の持ち主だった。
「そうでもなけりゃ……あんな別嬪さんが、何人も固まってたら……学校のやつら、誰も声をかけられないって……」
「実際に話してみると、気さくな人たちばかりなんですけどね……」
 有働勇作も、飯島舞花の言葉に頷く。
「あの人たちは……能力のものすごさと、普段の様子の普通さとが、乖離していると思います……」
「……いえてる」
 飯島舞花も、頷き返す。
「例えばバトルしている時とか、おにーさん、結構凄い目つきするんだけど……普段は、ほにゃららって感じで笑っているもんな……。
 ああやって、愛想がいいのも……警戒されないための、擬態なのかも知れないけど……」
「……飯島先輩も、そう思います?」
 柏あんなが、舞花の推測に同調する。
「楓ちゃんは……裏表がないっていうか、素直すぎて、かえって怖いくらいだけど……加納のお兄さんの方は……かなり意識して、ああいう温厚な態度を保っているような気がしていたんだけど……」
「……そうそう。
 才賀さんの場合は、不機嫌な時は不機嫌な顔をするんだけど……おにーさんの方は……しんどい時とか泣きたい時でも……回りに心配かけたくなくて、無理して笑っていそうだな……」
「……はぁ……いわれてみれば……。
 今だって、十分に複雑な状況で……ストレスも多いと思いますが……それを、全く外には出してないですし……」
 有働も、今までの荒野の態度を思い返しながら、そういう。
「……加納君は……現在の状況に対して、完全に受け身の立場に置かれながら……精一杯、責任を取ろうとしているように、見えます……」
「心配性……っていうか、自分の守備範囲外まで、責任を感じちゃうタイプだよなぁ……」
 舞花が、そういって天井を仰ぐ。
「テンちゃんたち三人や、あの双子だって……別に、おにいさんが面倒をみるべき筋合いはないんだけど……今は、ああやって、当然のように世話しちゃっているし……。
 あれ、下手すると……プレッシャーで、いつか潰れるぞ……」
「……彼は、タフですから……そう簡単には、潰れはしないと思いますが……」
 有働も、頷く。
「それでも……早め早めに、ガス抜きはしておいた方が、良さそうですね……」
「……ほっとくと、絶対に休まないからな、おにーさんは……」
 舞花も、有働と顔を見合わせて、頷く。
「……はいはい!」
 柏あんなが、片手をあげる。
「……よーするに、他人を出汁にして、みんなで遊びに行こう、と……」
「……あんなちゃん……。
 加納先輩だけどこかに連れ出す、というのは、かえって不自然でしょ?」
 堺雅史が、額に手をあてる。




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彼女はくノ一! 第五話 (237)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(237)

 やがて、調理実習室での用事を終え、荒野がパソコン実習室に姿を表した。
 荒野は、楓たちの予測どおり、「シルバーガールズ」の公式サイトをみるなり、周囲の者に二、三の質問をし、なんとも複雑な表情を浮かべた。
 ……自分たちの、ここでの在り方を巡る、一族内部の様々な思惑や葛藤が、表面化しようとしている現在の状況を……荒野は、本心をいえば、面白がっているのだろう……と、これまでの付き合いから、楓は予想する。
 荒野は……ひょっとしたら、自分では気づいていないかもしれないけど……実は、困難な局面に立てば立つほど、生き生きとした表情を見せる。
 身体能力や状況を見極め、即座に解決策を選択、実行できる判断能力や果断さ、比較的安定した精神、等……荒野は、客観的にみても、高い能力を持っているといえる。
 そんな荒野は……その荒野にしてみても、対処可能かどうかわからない難題、というものに直面することを、実は、楽しみにしているのではないか……と、これまでの付き合いから、楓は思いはじめていた。
 と、いうのは、これまで楓がみてきたところ、荒野は、難しい局面になればなるほど……生き生きとした表情になってくるのだ。
 しかし……実際に、面白がっている、ということをこの場で露骨に現すのも不謹慎に思えるから、あわてて表情を引き締めた……ように、楓には、みえた。

 そうした荒野の反応は、ある意味では楓の予測の範囲内だったが、飯島舞花や柏あんなら、周囲にいた普通の生徒たちまでもが、荒野に、一族についての情報を求めてはじめたことは、楓にとっては予想外の出来事だった。
 そして、荒野の方も、そうした要請に応じて、一族の内情などについて、ごく簡単に説明する。
 以前の荒野なら、決してありえないことだが……ここまで巻き込んでいる以上、下手に情報を伏せるよりは、あくまで差し障りのない範囲で、多少なりとも説明をしておいた方がいい……と、そう、判断したのだろう。
 荒野と直接話しているのは、舞花やあんなら、比較的親しい生徒たちだったが、その他の居合わせた生徒たちも、遠巻きにしながらもこちらに注目し、質疑応答に耳を傾けている。
 荒野や楓らが感じている具体的な危機感こそ感じてはいないものの、それらの生徒たちも、はやり興味は持っているようだった。
「……加納様は……」
 楓は、そうした聴衆の存在を意識しながら、回答が十分に予測できる質問を、あえて荒野にしてみる。
「……これから、一族の人たちは……今まで以上に、こちらに介入してくると……そう、お思いですか?」
「……介入して……くるんだろうな……」
 荒野はあっさりと頷いて、「シルバーガールズ」の動画を指さす。
「……こいつが……今まで、おれたちのことをあまり念頭に置いていなかった奴らの注意まで引き付けたってことは……まず、確実だ……」
 荒野の後ろで、酒見姉妹が何度も大きく頷いていた。
「……今までここに来ていた奴らを分類すると、大きく分けて二つ。
 テンやガクたちがどれほどのもんか、って、新種そのものに、興味を持っていたやつ。
 それに……行きがかり上ではじめちまった、正体をカミングアウトした上での、一般人社会での生活とか、そういう状況に、興味を持っていた奴……。
 こいつを公開したおかげで……今度は、それ以外に、腕自慢の奴らが、こぞって挑戦してくる……ってのは、まず、確実だ……」
 それは、楓が予測していた通りの回答だった。
「……何を他人事のように頷いている、楓……」
 荒野は、続けて、呟く。
「その……挑戦をする対象は……あいつら、新種だけではないぞ。
 おれや、お前……おれたちも、一緒くたに狙われるってことなんだぞ……あれだけ大勢の一族の前で、図らずも、最強の弟子という肩書に遜色のない実力を、証明してしまったんだから……」
 荒野にそう指摘されるまで……楓は、自分のことなど、まるで考えたことがなかったい。
「……ほらな……。
 お前、今まで、そういうこと、一度も考えたことなかった、って顔してやがる……」
 荒野は、楓の目をみながら、困惑した表情を浮かべた。
「お前が、自分のことを後回しにする性格だということは、理解している。
 でもな。
 お前……最強の弟子、というレッテルに恥じない能力を持っているってこと、あれだけ大勢の目の前で晒しちまったんだから……。
 お前目当ての刺客がいつ現れても、不思議ではないんだぞ……」
 楓は目を見開いて、きょとんとした表情をした。
 荒野のいうことは、楓にも理解できる。
 しかし、いっかな、実感がわかないのだった。
「……まー……」
 荒野は、楓から目をそらして、視線を上に向けた。
「……いざ、そういうやつが現れたとしても、慌てないで冷静に対処しろ、って話しだ……。
 今のお前といい勝負が出来る奴なんて、そうそういないと思うし……」
「……おにーさん、おにーさん……」
 飯島舞花が、荒野の肩をとんとん、と、指で叩く。
「その、最強の弟子っての……おにーさんたちにとっては、ブランドなんだな……」
「……ブランド……」
 荒野は、虚を突かれた表情になった。
「そういう言い方も……できるのか?
 うちんところは、未だに弱肉強食とか、原始的な価値観で動いている所があるから……。
 いい例が、それ、そこの二人。
 自分たち以上に強いのがごろごろいるってことが分かった途端、すっかり大人しくなったろ?」
 そういって、荒野は、酒見姉妹を指さす。
 酒見姉妹は、「「なんなりと、ご命令を」」と声を揃えて、頭を下げた。
「……こんな具合に、腕試しに勝てば、打ち負かした相手は、かなりこっちのいうことを聞く体制になる。もっと関心すれば、進んで麾下に入ってくれることもある。実際、実際にやりあう、というのは、短時間でお互いの力量を見極めるのには、合理的な手段なんだ。
 だから、出会い頭の腕試しは、なかなかなくらならい……」
 短期間で相手の実力や器量を推し量るには、実際に対戦してみればいい……という思想が、一族の中の、コンセンサスとなっている……。と、荒野は説明した。
「……でも、それだと……」
 有働勇作が片手をあげて荒野に質問する。
「やっぱり、今まで通り、その、節度の決闘が続く……ということになるのではないでしょうか?」
「普通の、未知の相手に対する時は、そうなんだけど……。
 今後、おれや楓に突っかかってくるようなのは……自己の力量一つ、客観的に計れない甘ちゃんか、それとも、どんな汚い手を使ってでも名をあげたいと思っている野心家、そのどちらかだと、思うから……」
 荒野は、大きく延びをしながら、窓の方に近寄る。
「……前者は、いくらでもいいようにあしらえるけど、後者の場合、どんな手を使ってくるのか、予測がつかない。
 場合によっては、明確に、一般人を巻き込むことを忌諱していない、あの悪餓鬼ども以上に汚い手を使ってくることも、あり得る。
 ……今にも降りそうな空模様だな……。
 降る前に、早めに帰るか……冷蔵庫も、空っぽだし……」
 荒野は、窓の外をみて、そんなことをいった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(153)

第六章 「血と技」(153)

 楓、孫子、飯島舞花、柏あんな、テン、ガクら、おなじみの連中をまじえた「手作りチョコ講習」も、無事に第一回目を終えた。
 これだけ大勢の人間を前にして、長時間、一人でしゃべりまくる、という経験は、荒野にしても初めてのことで、感想はといえば、「無我夢中でやっているうちに終わった。気疲れした」という、おおよそ凡庸なものしか出て来ない。
 講習が終わると、そうした顔見知りも含めて、女生徒たちがぞろぞろと外に出て行く。孫子とテン、ガク、それに甲府太介は、用事があるといって下校していった。
 孫子は相変わらず例の会社設立準備に奔走しているし、テン、ガクは徳川の工場に向かい、甲府太介は、涼治に紹介された下宿先に顔をだしてくるという。

 調理実習室の中に料理研の部員しかいなくなると、手分けして片付けと掃除、次の講習の準備がはじまる。次の講習の開始時間まで、三十分しかないから、主催する側の動きはかなり慌ただしくなる。
 掃除が終わり、新しい材料をテーブルの上に配り終わると、すぐに次の講習に参加する生徒たちが入ってくる。
 荒野は教壇の椅子に座って、次の講習に備えて、気持ちの切り替えを行った。

 次の講習も無事終えると、荒野は精神的な疲労を感じて、ぐったりとなった。
 そんな様子を見た他の部員は、「お疲れさまー」とかいいながら、「片付けはこっちでやっておくから」といって、荒野を調理実習室から追い出す。精神的な重圧を伴う講師役を荒野一人に押し付けたことに、それなりに引け目を感じているらしかった。
 荒野は、とぼとぼと廊下を歩いて、パソコン実習室の方に向かう。

「……あっ……加納様!」
「大変なことに……」
 荒野がパソコン実習室に入るなり、酒見姉妹が近寄ってくる。
「……どうした?」
 大変な……という割りには、茅は落ち着き払っている。楓は、若干、青白い顔をしていたが……皆がここに顔を揃えている以上、少なくとも、一刻を争うような性質の異変ではなさそうだ……と、荒野は思った。
「……これ……」
 そういって、茅は、手近の液晶画面を指さしてみせる。
 その画面に写しだされた動画をみて、荒野は、固まった。
 ……一族の内情について、知識のある楓や酒見姉妹の様子がおかしいのが、非常によく納得できた。
「……これ……いつから……」
 荒野は、かすれた声で確認する。
「……今朝方から。
 玉木が徹夜で編集して、できあがってすぐにアップしたそうなの……」
 ……いらんことにばかり熱心なやつだ……と、荒野は思った。
「……ここに写っているやつらの了解は……」
「仁木田は、テンやガクたちの存在を利用して、一族に揺さぶりをかけようとしているの。
 そして、それはテンたちにもメリットがある。
 撮影以外にも、多様な一族の技を吸収する機会なの……」
 茅が、手早く結論を提示した。
「……そういう、ことか……」
 荒野は、茅の言葉に頷いた。
「今の時点では、双方にとって、メリットがある……。
 でも、揺さぶりをかけられた方は……」
「……今のところ、それらしい動きは確認できてないですけど……」
 楓が、いった。
「でも……時間の問題、だと思います……。
 現在、わたしたちが、公然と一般人社会で暮らしはじめたことを、よく思っていない人たちは、それなりにいるだろうし……。
 それ以外に、あの映像を見て、テンやガクに挑戦してみたくなった人たちとかが……」
 楓のその言葉は……荒野の予測と、大体のところ、一致する。
「……今でだって、十分にややこしいってのに……」
 荒野は、その場で自分の頭を掻き毟りたい衝動に駆られたが、自制して大きく深呼吸をする。
 今、荒野が取り乱せば、楓とか下の者は、もっと狼狽する。
「……ったく。
 玉木の奴は、いろんな画が撮れから、歓迎するんだろうがな……」
「……なあ、おにいさん……。
 それって、今までと、違うのか?」
 飯島舞花が液晶ディスプレイを指さしながら、荒野に尋ねる。
「今までと来ていた人たちとも、こうしてやりあっているじゃないか……」
「……こんなの……じゃれあいだよ……」
 荒野は、答えた。
「今まで来ていた連中というのは、基本的に、こちらに適応することを望んでやってくる。
 多少の腕比べをすることがあっても、敵意があるわけではない……」
 荒野の後ろで、酒見姉妹が頷いていた。
「……この映像が世界中に公開されちまった事で……そういう移住組に加えて……テンやガクたちと、本気で立ち会いたくなった奴らとか、そもそも、おれたちがここで行っている、共存路線自体が気に食わない奴らまでを、挑発しまくったようなもんだ……。
 そういう奴らは……おそらく、本気でこっちを潰しにやってくる……」
「……それって……仲間内の内紛、ってわけ?」
 荒野の話しを聞いた柏あんなが、聞き返す。
「一族……っていっても、異なる出自をもつ者たちが寄り集まっているだけだから……。
 その中で協同作業を行うための連絡組織は整備されているけど、統一的な指揮系統があるわけではない。
 おれたちは、一枚板ではないんだ。
 ……話し合い、もそれなりに尊重されるんだが……それも、話し合いに望む者同志に、大きな実力の開きがないことが前提の場合だけで……」
 荒野は、ため息をつく。
「……最低限の実力のさえない者の声には、誰も、耳を貸さない……」
「……実力主義と合議制の混合、ってこと?」
 今度は舞花が、質問する。
「さっきもいったように……統一的な、トップダウン式の組織ではないから、合議制といいきれるのかどうか、わからないけど……一族全体に関わるような重要な議題は、その時の有力者集団のトップ同志が、話し合いの場を設けて決議する。
 末端の方は……大体、実力が上、と見なされた者の下に、別の者が従う……という形だな……。
 時々、合議制になるけど、基本は、実力とか能力に応じて責任と指揮権を委任される形だ……」
「そうか……」
 有働勇作が、荒野の説明に頷く。
「現場の判断に任せる局面が多いから、自然とそういう形に……」
「……そうそう。
 おれたちは、ミッションごとに必要なスキルを持つ人材を集合させて小隊を編成し、ミッションをクリアして別の仕事につけば、また別の人たちを組む……というのが普通だから……小人数だと、実力主義で即断即決、の方が、判断が早いし、なにかと小回りが効いて便利なんだ……。
 かえって、一族のトップが集合して決議するような議題は、数十年に一回とか、そんな割合でしか発生しない……」
 荒野自身、ついこの間、その「数十年に一度のトップ会談」に顔を出して来たばかりなのだが、もちろん、そんな説明はしない。この場で説明をする必要も、ない。
「あの……じゃあ、さ……」
 柏あんなが、おずおずと片手をあげた。
「ものは考えようで……そういう、これから襲いかかってくる人たちを、片っ端から返り討ちにしちゃったら……その人たちは、加納先輩のいうことをきいてくれる、っていうことですよね?」
「……いうことをきいてくれる……って、いうより……せいぜいがとこ、耳を傾けてくれる、って程度だけど……」
 荒野は、肩を竦めた。
「……逆にいうと、これから一回でも負ければ、おれや三人組は、一族全体から、かなり軽く見られる、ということでもある……。
 そうなると……今後、有形無形の様々なバックアップを受けるのは、難しくなるな……」
 実に、楽しい状況だ……と、荒野は思う。
 惜しいのは、荒野自身が、このイベントの中心にいる当事者であることで……もしもこれが他人事だったら、もっと心の底から、楽しんでいられただろう……。
 だが、現実は……これから、一度でも負ければ……その結果は、荒野たちの先行きに直接影を落とすことになる。





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彼女はくノ一! 第五話 (236)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(236)

「「……えっ!」」
 その後、酒見姉妹は、空いていた末端にとりついて、この学校の生徒たちが管理するサイトを片っ端からチェックしはじめた。
 その過程で、ある映像をみつけたため、二人して同時に、思わず大声をあげる。
 実習室にいた生徒たちが、いっせいに手を停めて、椅子に座ったまま硬直している酒見姉妹の方に視線を集める。
「どう……しました?」
 楓が、双子に、そう声をかけた。
 別に監督責任があるわけではないが……今、実習室にいる中では、立場的にみれば、楓が、双子に一番近いポジションにいる。
「……これ……」
 双子は楓を手招きして、液晶画面を指さした。
 楓も立ち上がり、双子の背後までとことこと歩いていって、画面を覗き込む。
「……あっ!」
 一目見るなり、楓も、双子と同様に、息を飲んだ。
「……どうしたの?」
 楓に続いて、茅も双子がみていた末端を覗き込む。
「……これ……。
 一族の人たちが……顔出しで、出ちゃっています……」
 楓が指さした液晶の中では、徳川の工場内で行われた、「シルバーガールズ対六人」の場面を編集した動画が、再生されていた。
「……は、はやく、荒野様に……」
「待つの」
 慌てて立ち上がり、廊下に出ようとする楓の肩に、茅が手を置いて、引き留める。
「……これ、もう、あちこちの動画共有サイトにポストされているから……もう、手遅れなの……」
 そういって、動画が再生されている下にあるカウンターを指さす。
「もう……万単位の人が、みてる……」
 楓が、そういったっきり、絶句する。
「……とりあえず、玉木に確認して見る。
 楓は、テンかガクに、電話して……」
 実習室に居合わせた生徒たちも、楓と茅の会話を聞いて、手元の末端を操作し、シルバーガールズのサイトにアクセスして、内容を確認しはじめる。
「……これ、徳川の工場でやってたあれだろ?」
「何が問題なんだ?」
「馬鹿!
 あの人たち、正体を明かしちゃいけないことになっているだろっ!」
「……でも、あの、形変えられる人とか、犬みたいな顔をした人、確かに特撮怪人チックだよな……」
 そんなざわめきが起こる中、楓と茅は自分の携帯を取り出して、電話をかけはじめた。
 一般人である他の生徒たちはピンと来ないかもしれないが……こんな真似をすれば、本来なら買わなくてもいい筈の、一族内部からの強い反発を招いてしまうことは、容易に予測できるのだった。

 楓が登録してあるテンの携帯を呼び出すと、ちょうど手が空いていたのか、コール音一回ででた。
「……テンちゃん!」
 楓は、勢い込んで話し出す。
「今、ネットで、シルバーガールズの最新動画、見たんだけど!」
『……あ。あれ?
 よく撮れてたでしょ? 駿河さんとかも結構ノリノリで協力してくれたし……』
 それを聞いた楓は、軽い目眩を感じた。
「……その……。
 あの時のリーダー格、ええと、仁木田さんっていいましっけ?
 その人は、何も言わなかったんですか?」
『仁木田さん?
 今、ここにいるよ。
 ええと……あ。向こうでなんか、電話してる……』
「……楓」
 茅が、片手をあげて、楓に合図する。
「今、仁木田は、こっちに出ているの……」
 楓は、茅に近づいて、聞き耳をたてた。

『……何、一般人があれを見たって、どうせ実写とは思わないって……』
 茅の手にした電話から、仁木田の声が聞こえる。
 気づくと、酒見姉妹も楓にならって、茅の背中に耳を寄せて、聞き耳をたてている。
「一般人よりは……むしろ、一族の反応の方が、気掛かりなの……」
 茅は諄々と語り、酒見姉妹は、茅の言葉に頷いている。
『……今更、何をおっしゃいますかね、加納の姫さん……』
 電話越しに、仁木田のうっそりとした口調が伝わって来た。
『あなた方は……すでに、十分に、従来の一族のあり方を揺るがしている。
 正体を明かしながら一般人に混じって暮らす……という選択をした時点で、旧来の一族の在り方を、否定する意図を、明らかにしたんだ……。
 保守的な連中の神経を逆なでしているのは、今更のことでございましょう……』
「……それでも……」
 茅は冷静な、事実を指摘する口調で、言い募った。
「むやみに、そうした保守層を刺激するような情報を発信するのは……足元を、突き崩すような行為だと思うの……」
『あなた方は……ソレを承知の上で、コレをおっぱじめたわけではないんですかい?』
 仁木田の口調も、少しも怯むところがなかった。
『……実際、若い連中を中心に、陸続とこの土地に一族の者が集まっているでしょう……。
 加納の姫さんよ。
 どうあがいても、時計の針が逆に回転することはありないんだ……。
 一度おっぱじめたんなら、後は行き着くところまで加速していくより他、道はなんじゃないですかい?』
「……わかったの……」
 茅は、相変わらず静かな口調を保っている。
「あなた方は……あなた方の狙いは、茅たちの存在と、この土地の状況を利用して、一族内の秩序を揺るがすこと……」
『……おっと……。
 どうか、起こらないでくださいよ、姫さん。
 おれたちはこれでも、加納の、荒野の敵ってわけではないんだ……。
 こうして、撮影にも積極的に協力している……』
「……怒っては、いないの。
 荒野や茅にそれなりの立場があるように、あなた方にも、立場や思惑が、ある……。
 少なくとも現在の時点では、正面切って敵対する意志はない……それが確認できただけでも、今の時点では、収穫なの……」
『……ご理解を頂いて、ありがたいこってす……』
 今度の仁木田の声は、笑いを含んでいる。
『姫さんがご指摘の通り、目下のところ、我々の利害は、さほどずれていません。
 だから、この状況が変化するまで、我々はあなた方に協力しますよ……』
「荒野に……そう、伝えるの」
 そういって、茅は通話を切った。
「……なあ……茅ちゃん。
 今の、どういうこと?」
 いつの間にか近くに来ていた飯島舞花が、茅に尋ねる。
「……彼らの狙いは、現在の一族の主流である、六主家の力を削ぎ、自分たちマイノリティの立場を、相対的に強化すること……。
 そのための道具として、現在、この土地で起こっている一連の出来事を利用し、六主家体制に揺さぶりをかけようとしているの……」
 茅は、そう解説した。
「……一族内部の勢力争いの道具として、この状況を、利用しようとしているの……」
「それでも……」
 楓は、茅の言葉に続けて、話し出す。
「彼らは、敵ではないんです……わたしたちにとっては。
 彼らにしてみれば……テンちゃんやガクちゃんの能力や有用性が証明されるほど、一族に動揺を与える訳ですから……」
「……それで、撮影に協力的だったり、あの二人と仲良さそうにしていたりするのか……」
 舞花も、頷く。
「あの二人が強くなればなるほど……あの人たちにとっては、都合がいい。だから、あの二人を、強くしようとしているし、協力もしている。
 それに、おにーさんたちにとっても、戦力が増強されるのは歓迎……。
 動機や目的には、不純なものがあるけど……確かに、完全に敵対しているわけではないな……」
「……テンちゃん……」
 楓は、自分の携帯に話しかけた。
「仁木田さんが考えていることは、当然、予測しているわけですね……」
「一族を越える」ということに拘り、常に大きな状況を見ようとするテンなら、その辺の見落としはない筈だ……と、楓は思っていた。
『当然だよ、楓おねーちゃん……。
 そもそも、仁木田さん、そういう動機、まるで隠そうとしてないし……。
 その動機についての倫理的な評価は差し控えるけど、少なくとも、フェアな協力者だと思うよ……』
 一族内部の勢力争いの道具として、「新種」の存在が、利用されはじめている……こうした状況を、荒野は想定しているのだろうか……と、楓は思った。
「……おそらく、荒野はこいうと思うの……」
 楓の疑念を見透かしたように、茅が話しはじめる。
「……あー。
 世の中、茅が好きな子供向けの番組みたいに、白黒がはっきりと分かれている訳じゃないから、ある程度は、仕方がないんじゃないかな?
 仁木田さんにしろ、テンやガクにしろ、完璧にコントロールして、こっちの意図どおりに動かそうとしても、実際問題として無理だし……成り行きにまかせて、しばらく様子をみる以外に、方法はないんじゃないかな……。
 もう、この映像……こうして世界中に発信されているわけだし……今更、それをなかったことにもできないし……」
 そういって茅は、動画が再生されている、液晶ディスプレイを指さす。
 口調やイントネーションまで含めて、完璧に、この場で「荒野がいいそうなこと」を真似ていた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(152)

第六章 「血と技」(152)

 どんよりとした空模様の中、三島は、荒野たちを乗せて学校まで送る。教員用の駐車場で車を停めると、
「……んじゃ、わたしゃあ、しばらく保健室の方にいるから……」
 といって、去っていった。
 取り残された荒野は、茅と太介をひきつれて、若干名、部活に勤しんでいる生徒が点在するがらんとした校庭を経由して、中央玄関まで移動する。
「……お前は、そこのスリッパで履いて……」
 と、来賓用の下駄箱を指さす。
 通常の学校へ通学した経験もある太介は、以前の荒野たちほど世間知らずでもなく、「校舎内は土足厳禁」の基本ルールも当然のようにわきまえていたので、「……うっす……」と短く返事をして、素直に荒野の指示に従った。
 自分たちの上履きに履き替えた荒野と茅は、太介を伴ったと三人で、薄暗い廊下を、調理実習室へと目指す。
 ……いつもより、薄暗いな……と感じた荒野は、すぐにその原因に思い当たる。
 今日は、授業がないから、廊下の照明が、すべて消してあるのだ。晴れた日なら気にならないが、昼間でも厚い雲に遮られて陽光が差さない今日のような天候の日は、見慣れた廊下が随分陰気に感じられた。

 調理実習室にたどり着くと、料理研の女生徒たちが、総出で講習の準備をはじけているところだった。荒野は、「今日の主役だし、一番大変なパートを担当するから……」という理由で、事前の準備への参加は、やんわりと断られていた。少し前、飯島舞花にそれとなく確認した所、この「料理研主催、手作りチョコ講習」は、確かに毎年の年中行事になっているが、今年はいつになく盛り上がっている、といわれた。
 荒野が顔見知りの部員たちに挨拶をすると、
「御苦労様です。
 今日と明日、よろしくお願いします」
 とか、
「……いつもは、一日で済むんだけどね……今年は、希望者が例年の三倍以上、来ているから……」
 舞花の証言を裏付けるようなことも、いわれる。
 大変だ、というわりに、下準備も手を抜いていないのは、校内の女子の手前、手を抜けば、料理研の威信にかかわる、と考えているからだろう……と、荒野は推測する。
 運動部等とは違い、大会やコンクールなど、晴れの舞台が用意されていない料理研は、この日ばかりは、過分に注目を集める。
 要するに、料理研の生徒たちも、同じ女性としてここではしくじることは沽券に関わる、と考えており、それなりに張り切っているのだった。
「……それで、加納君。
 妹さんはいつものことだけど、そっちの男の子は……」
 部員の一人が、そういって太介を指さす。
「……ああ。これ。
 知り合いが、勝手について来たというか……。
 邪魔だったら帰しますけど、こいつも何でもするっていうんで、遠慮なく用事押し付けてください……」
「ども、荒野さんの知り合いの、甲府太介です。
 できることなら何でも手伝いますので、本当、遠慮なく用事いいつけてください……」
 太介も、荒野の言葉に合わせ、殊勝なことをいって頭をさげる。
 荒野たちを取り囲んだ生徒たちが、「かわいいー」とか騒ぎはじめたが、もちろん、本気で太介の容姿を褒めたたえているのではなく、まだまだその容貌に幼さを残す太介がしっかりした口を利いた、というギャップに感じ入った、ということをワン・フレーズで表現しただけにすぎない。
 しかし、少し年上のおねーさんたちにいっせいに騒がれて、太介は少し腰が引き気味になった。
「……はいはい。
 おびえないでよろしい。
 みんな、いい人ばかりだから……」
 そういって荒野は、太介の肩に手を置いて、強引に前に出す。
「……で、とりあえず、おれたちは、何を手伝えばいいですか?」
 荒野がそういうと、他の部員たちは額を寄せ合って話はじめる。
「……もう……今日の分の準備は、大体の所、終わっているけど……」
「……チョコ、一人分に分けるの、やってもらったら?
 あれ、結構、力仕事だったし……」
「そっか……男手の方が……」

 相談の結果、荒野と太介は、実習室の隅で、キロ単位で購入したブロック状の固まりを、二百グラムづつに分割する仕事をすることになった。
「……これ、結構、力いる……」
 実際にやってみた太介が、呟く。
 専用の機器、などという気の利いた者はないから、包丁で切れ目をいれて、体重をかけ、左右に揺すったりして、不器用にばらしていく。
「かといって、力入れ過ぎると、粉々になっちまうし……」
 荒野もなれない仕事に、すぐに額に汗を浮かべはじめた。
「細かくなる分には、構わないから。重ささえ、均一にしてくれれば……。
 破片が小さい方が、かえって溶けやすくなるし……」
「……これ、今日の分は、みなさんがやったんですか?」
 荒野は、部員たちを見渡して、尋ねてみる。
 女性の細腕で、数十人分の材料を、軽量どおりに切り分けるのは、かなりの重労働な筈だ……と、荒野は、思った。
 すると、部員たちは、すぐに種明かしをしてくれる。
 話しを聞いてみれば、なんのことはない。包丁を熱して、その熱でチョコを溶かながら切った……という。
 その話しを聞いた荒野と太介は、顔を見合わせた。
「……その方が……切り口が、きれいか……」
「第一……力、入れなくて済むし……」
 それから、他の部員たちにやり方を指導して貰い、ブロック状のチョコに定規をあて、熱した包丁でまっすぐに切り分けていった。荒野も太介も、一度やり方を覚えると、回数をこなすほどに手際がよくなり、作業効率が上がってくる。

 用意されたチョコをだいたい切りそろえ終わったところで、ちょうどいい時間になり、講習の参加者がばらばらと集まりはじめた。そうした参加者は、全員、女生徒なわけで、対応とか受け付けは、荒野以外の料理研の部員たちが行った。受け付けといっても事前に手渡している整理券の番号をチェックし、名簿に印をつけるだけで、後は、来る端から適当にグループを作って談笑している。
 ふと窓の外に目をやると、寒そうに肩をそびやかし、校庭をつっきって校舎の方に一人で向かってくる楓の姿を見つけた。楓はまだ気づいていないようだが、その少し後ろに、テンとガクの姿も見える。テンとガクだけが制服姿ではないので、遠目にもよく判別できた。
『……迎えにいってやるか……』
 片付けを終えた荒野は、そんなことを思いながら手を洗い、廊下へと出る。
 茅と太介も、荒野の後についてきた。




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彼女はくノ一! 第五話 (235)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(235)

「……これ、あの二人……」
「なんで、あんな派手な格好しているのかと思ったけど……」
 シルバーガールズ公式サイトとやらをみて、真っ先に反応したのは、酒見姉妹だった。
「「……こういうことだったんですかぁ……」」
「あの二人は、正義の味方になるといっているの。
 ガクは、おそらく本気で。テンは、多分に自嘲混じりに……」
 双子の感嘆に答えたのは、茅だ。
「……ただひとつ、確実にいえることは……あの二人……それに、ノリを含めた三人は、一族以上の自分の能力を、一族とはまったく違った方面に活用するだろう……と、いうことなの……」
 茅のその言葉に、双子は瓜二つの顔を見合わせる。
「では……その、茅様は?」
 その後、双子の一方が、言いにくそうに、茅にそう訊ねる。それが姉の純であるのか、妹の粋であるのか、この場にいる誰にも見分けがつかない。
「……茅様も、その……後の三人と同じ、新種ってやつなんでしょ?」
 いつの間にか、自習室は静まり返っている。この場にいるみんなが、双子と茅のやり取りを注視していることに、楓は気づいた。
「茅の居場所は……ここなの」
 茅は、周囲が静まり返ったことにも気づかぬ風で、ぐるりと腕を巡らし、実習室内を示す。
「荒野が用意して、茅が作った居場所。
 それが……ここなの。
 しばらくは、卒業するまでは……全力で、ここを守るの」
 茅の口調は静かで淡々としていたが……酒見姉妹は、気圧されたように固唾を呑んだ。
 酒見姉妹は、戸惑った顔をして、再び、顔を見合わせている。
 能力とか、そんな表面的なことではなく……もっと根本的な部分で、「新種」は、「一族」とは、別種の存在である……と、姉妹がはじめて悟ったのが……この瞬間、なのかも知れない。
 彼女たちは……自分たちとは、別の行動原理で動いている……と、そう、実感しないわけにはいかなかった。
「……ちょっと、いいかな?」
 少し離れた所に座っていたパソコン部の部員が、片手をあげて立ち上がった。
 二年の、男子生徒だった。
「おれ……そっちの事情とか、よくわからないけど……松島さんが転校してきて、この部に入って……かなり、変わったよ。それも、いい方に。
 少し後に、加納さんとか加納の兄の方とか出入りしはじめて、放送部のやつらと協同作業も増えて……それまで、週一とかせいぜい二回くらいしか、ここに来てなかったのが、毎日放課後になるとここに来て、こうして休日も返上して、作業やっている……。
 それは、パソコン部だけではなく、放送部だって似たようなもんだろうけど……」
 その生徒の言葉に、実習室内の生徒たちが、いっせいに頷く。
「……前とは比較にならないくらい、こっちに時間を取られるようになったけど……それが、全然、苦にならない。むしろ、楽しいんだ。
 だから……んー……うまくは、いえないんだけど……松島さんとか加納兄弟とかには、感謝している」
「……あとあと!」
 別の生徒が、片手をあげて立ち上がる。
 今度は、一年の女生徒だった。
「わたし、パソコン部員でも、放送部員でもないんだけど……これ……自主勉強会の関係で、すっごく助かってます!
 うち、今、事情があって経済的に苦しくて……塾どころか参考書も買えない状態で、進学も、半分は諦めかけていたんだけど……これのお陰で、なんとかなりそうなんです……。
 ここに来ると、いろいろな教材がタダで手にはいるし、分からない時、誰かしらに聞けるから……それに、暖房費も学校持ちだから、入り浸って、お手伝いしながら勉強しています……」
 そういって、パソコンの画面を指さす。
 その画面には、茅などがまとめた自主勉強会のサイトが表示されている。
「おれ、放送部の一年なんだけど……」
 今度は、一年生の男子が片手をあげて、立ち上がる。
「……賑やかなのが好きだから、ノリで放送部に入った。
 だから、有働先輩がいうような立派なことには、実の所、あんまり関心ない。それに、加納先輩たちの事情も……こういってはなんだけど、他人事だと思っている。
 ただ、こうしてみんなと、大勢で集まって、一つのことに取り組む雰囲気っていうのが好きだから、ここにいる。
 加納先輩たちが何者だろうと……そういう人たちが転校してこなかったら……この学校は、間違いなく、詰まらない場所……単なる、退屈で窮屈な箱だったろうと思う。
 玉木先輩あたりが時折、かき回しても……表面に多少、さざ波を起こすくらいで……その退屈さってのは、根本的な所では、変わらなかったんじゃないかな?
 だから、おれが卒業するまでは、そういう人たちには、ここにいて欲しいと思う。
 自分でも、勝手な理屈だとは思うけど……」

「……わかった! わかりましたから!」
「もう……十分ですぅっ!」
 その後も、手をあげる者が続出した。
 次々と、その場にいた生徒たちが手をあげて発言しようとするのを、酒見姉妹は手で制する。
「……茅たちは、触媒にはなったけど……後は、ここの生徒たち、一人一人の力なの……」
 そんな酒見姉妹に、茅が静かな声で説明をする。
「……彼らの一人一人が、主役なの。
 そのような意識の存り様は……恐らく、一族のものではないの……」
「「……確かに……」」
 酒見姉妹は、同時に呟いて、賛意を現した。
「「個々人の技量を誇り、その能力に応じて階位を定める一族のロジックと、ここのロジックとは…」」
 明確に、隔たりがある……と、双子も認めないわけにはいかなかった。
「……いや、能力に応じて……っていう区分は、実は、ここにもあるんだけど……」
 堺雅史は、飄然とした口ぶりでそういって、肩をすくめる。
「……ぼくらの誰も、楓ちゃんや茅さんみたいなスキル、ないわけだし……。
 でもそれは……あんなちゃんにペーパー・テストでいい点と取れといっても無理だし、逆に、ぼくに、あんなちゃん並みに喧嘩に強くなれっていっても無理なように……適所適材で分業すればいいだけだしさ……。
 実際、放送部とパソコン部は、そういう適所適材で共同作業、しているし……」
「……まぁくん……後で、おしおき……」
 堺の背後で柏あんながぼそっと呟くと、堺が全身を硬直させて、実習室内にいる生徒の間に、さざ波のような失笑が走った。
「……で、まあ……。
 わかりやすくいうと、ここにいる誰もが、主役なんだよね、ここでは。
 中には、友達に誘われてここに来ている人もいるだろうけど、強制されてまで、こうして週末に通学している人も、流石にいないだろうし……」
 気を取り直した堺がそう続けると、そこここでその言葉に頷く者が続出する。
「……そういう意味では……今、加納さんがいった、触媒、という言葉は……実に的確な比喩なのです……」
 有働勇作が、堺の言葉を引き取る。
「……加納さんたちは……それまでの状況を変えるための、いいきっかけには、なった。
 彼らがいなければ……現在のこの状況は、ありえなかった。
 しかし……全部が全部、彼らのためかというと……それは、違うのです。
 ここにいる一人一人がいなければ……自分の意志でここにいなければ……この状況は、ないのです……。
 ぼくたち、一人一人が、主役です……」
 有働は、穏やかな声でそう続ける。
 有働は、酒見姉妹の方に視線を向けた。
「……ぼくは……あなたがたが、どういういきさつでここにいるのか、知りません。
 だけど……あなた方は、ここで、何をなそうとしているのですか?」
 有働にそういわれて……酒見姉妹は、返答に詰まった。
「……あなたがたも、主役になれることを祈ります……」
 双子からの返答がないことを確認し、有働はそういって椅子に座る。
 それが合図になって、他の生徒たちも各自、それまでやっていた仕事を再開しはじめた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(151)

第六章 「血と技」(151)

「……だから、な。ここに居着きたいというのなら止めはしない。なんなら、ここに住むことになった一族の関係者にお前、紹介して、手ほどきをして貰うように交渉してもいい。ぼちぼち、現場経験がある連中や現役の連中も、集まってきているし……。
 でも、おれはなぁ……。
 今いったような感じで、今後、どういうことが起こるのか予測できないし、そうでなくても様々な用事で手一杯だし……ってことで、とてもじゃないが、弟子なんてとる余裕はない……」
 太介が「今、ここで何が起こっているのか」ということを大方理解したようだ……と判断した荒野は、そういって太介を諭した。
「最低限、自分の面倒は、自分で見るように、努力くらいはしてくれ……」
「……いや、あに……荒野さんのお立場は、よくわかりました……」
 太介は、真面目な顔をして頷いた。
「そういうことなら……このおれも、何なりと用事、いいつけてください……」
「……お前が何にもしでかさないことが、おれにとっては一番、ありがたいんだけと……」
 荒野は、ため息をつく。それから、壁にかかっている時計に目をやり、
「って……もうこんな時間か……。
 今日は、これから学校に行かなくてはならないんだよな……」
 と、いった。
 思いの外、話しが長くなったため、気づくと、もう昼前といっていい時刻になっていた。
「そうだな。
 では、少し早いけど、メシにすっか? ん?」
 三島百合香が、そんなことをいいながら、立ち上がる。
「荒野、冷蔵庫の中の材料、使うぞ……」
「……いつもなら、それで問題ないんですが……」
 荒野は、肩を竦めた。
「……今日は、そこの大食らいが大方の食料を食い散らかした後でして……」
 冷蔵庫を開いた三島は、中を覗き込んでその場で硬直する。
 ……見事に、何もなかった。
「……ふーん……」
「……ほぉー……」
 テンとガクが、意味ありげな視線を太介に送り、まじまじとその顔をみつめた。
「……しょ、しょうがないだろっ!
 丸一日以上、飲まず食わずだったんだからっ!」
 太介は頬を赤らめ、捨て鉢に大声をだした。
「……ま……何もないんじゃあ、しかたがないな……」
 三島は、冷蔵庫の前から自分の座っていた椅子まで戻って座り直す。
「今から材料買ってきたら、荒野の用事が間に合わなくなるしな……」
「……あ。そうか。
 今日だったっけ? かのうこうやのアレ?」
 ガクが、突然、何かを思い出したような声をあげた。
「……その口ぶりだと……何か知っているようだけど……お前ら、部外者には関係ないから……」
 荒野は、うろんな目つきでガクを見返す。
「部外者は部外者だけど……」
 テンが、平静な声で横やりを入れた。
「玉木のおねーちゃんから話しきいて、ボクたちも行きたいっていったら、料理研の人たちに話しつけてくれて……ボクたちも参加することになったんだけど……かのうこうや、その話し、聞いてなかった?」
「……なに? いったい、何の話しをしているんだ? ん?」
 三島がみんなの顔をぐるりと見渡して、そう尋ねる。
「今日の午後、荒野……」
 茅が、即座に答えた。
「……荒野、料理研の部活の一環として、学校で、手作りチョコの作り方を教えるの……」
 三島は「……ほぉー……」と関心し、太介は「……えぇー!」と驚きの声をあげる。
「あに……荒野さん!
 菓子作りなんて、するんですか?」
「……お前……朝、おれと茅が料理している端から、平らげてたろ……。
 それに、今もケーキ、実にうまそうな顔をして食っていたし……」
 荒野はじと目で太介を見る。
「……それとも、おれがチョコ作りを教えるのが、そんなにおかしいか?」
「……いや……おいしそうな顔に関しては……おれなんかよりも荒野さんのが、全然、上だと思うけど……」
 荒野に睨まれた太介は、慌てて視線をそらす。
「……そ、そうですよね。
 別に、男がそういう菓子作りやっても、別に構わないですよね……。
 あは。あははははっ……」
 太介は乾いた声でうつろな笑い声を上げはじめる。
 自分の失言を誤魔化そうという意図が、見え見えだった。
「……茅、そのチョコ講習、何時からだ?」
 荒野たちがそんなやりとりをしている間にも、三島は、茅にそんなことを尋ねている。
「……メシが作れないのはしかたがないけど、せめても、車で送ってやる……」
「あ。
 準備もあるから、おれ、一足先に行ってます。ってか、もう着替えて出ます」
 そういって、荒野は立ち上がる。
「……他の人たちは、もう少し時間があるから、ゆっくりしていってください」
「じゃあ、おれも荒野さんと一緒に……。
 下宿先の人と約束した時間まで、まだ少しあるし、向こうでも、なんか手伝えることあったら手伝いますよ……」
「……そうか?」
 荒野がそういったのは、その性質上、料理研主催の今日の講習は、男女比が著しく偏る、ということを気にしているからだ。本音をいえば、何の役に立たなくとも、太介という男性がその場にいるだけで、荒野の精神的な負担は、少し、軽減される。
「んー……授業、やってない日だしな……部外者でも、別に構わないか……」
「別に、構わんだろ。おとなしく見学するだけなら……」
 立ち上がりながら、三島も、荒野の言葉を追認する。
「ゆっくり……といわれても、こんな半端な時間ではなぁ……。
 ついでだし、やっぱ、わたしが車で送っていくわ。
 ちょっと一旦、部屋に帰って、着替えてからまた来る……」
 そういって三島は、玄関から外に出て行く。
 すると、テンとガクも、
「ボクたちも、一旦、帰る。メールとか、チェックしたいし……」
「あ。かのうこうやたち、先に行っていていいよ……」
 と、三島の後を追うように、出て行った。
「……茅も、着替えるの」
 そういって立ち上がり、茅も、荒野が消えていった部屋に入っていった。
 一人、ぽつねんと残された甲府太介は、誰にともなく、
「おれも……着替えるか……」
 といって、床の上に放置されている、テンとガクが持ってきた、風呂敷包みを見下ろした。




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彼女はくノ一! 第五話 (224)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(224)

 他の生徒たちに習って手近な空き教室に入り、作ったばかりのチョコをラッピングする。包装用の紙やリボンなども、何種類か所実のいいデザインのものが、料理研の手によって用意されていた。それぞれ、今回の講習にかかった実費の割り勘分を料理研の部員に支払い、それと引き替えに、ラッピングに必要な物を受け取って、楓たちの講習は終了、ということになる。
 ラッピングも終わると、用事がある、という孫子、テン、ガク、甲府太介とは別れ、学校の外に出て行った。ここの生徒ではない酒見姉妹は、茅がまだ残っているから、という理由で居残っている。この二人は、案外、「茅の護衛」という仕事を、楽しみはじめているらしい……と、楓は思った。
 残された楓たちは、パソコン実習室に向かう。楓は家に帰ることも考えたが、今帰宅したところで特に用事があるわけでもない。それよりも、休日返上で作業に取り組んでいる堺雅史ら、パソコン部員たちの様子を見ておきたかった。特にパソコン部員でもないのに時間がある時は入り浸っている柏あんなはともかく、飯島舞花までが楓たちについてきたのは、少し予想外だったが。
「……いや、せっかく学校に来たんだし、それに、そっちにはあんま顔出したことないから、いい機会だと思ってさ……」
 そういわれてみれば……飯島舞花は、あまりパソコン実習室に来る用事がない。
「家で、あそこ発のサイトとかブログは、結構チェックしているけどね……」
 パソコン部が管理する外部向けのネット・コンテンツは、「放置ゴミ」関連の情報をレポートするための物からはじまったのだが、現在では「自主勉強会」関連の資料や教材なども、日々精力的にアップされ続けている。
 携帯向けの「単語帳ゲーム」のようなコンテンツは、口コミでその存在が広まって、今では校外のユーザーまで巻き込んで、日々ユーザー数を増やし続けている、というし、その他の教材も、各所で注目されはじされはじめているのか、ページビューが増大してきている……と、内情をよく知っている楓が説明すると、舞花は「なるほど」と頷いた。
「……カウンターみていると、凄い勢いで数字が増えているもんな……」

 そんなことを話しながら、パソコン実習室に入ると、いつものパソコン部員たちに混じって、有働勇作が大きな体をかがめるようにして、堺雅史が操作している末端を覗き込んでいた。
「あ。どうも。みなさん、お疲れ様です」
 実習室に入ってきた顔見知りの一団に気づいた有働は、そういって、軽く頭を下げる。
「……あれ?
 この人たちは?」
 そして、すぐに見慣れない酒見姉妹の存在に気づき、怪訝な顔をした。
 有働は、姉妹の姿を徳川の工場で遠目にはみていたが、こうして間近に対峙するのはこれが最初である。
「……わたしたちは……」
「……茅様の、護衛……」
 そういって、まったく同じ顔の酒見姉妹は、有働の目の前についさっき包装し終わったチョコを突き出す。
「……そして、今日は……」
「……チョコを作ってきた所なのです……」
 双子に包装済みのチョコを突きつけられた有働は、若干、引き気味になった。
「……そ、そうです、か……。
 それは、なにより……」
 とか、訳の分からないことを呟いて、さりげなく姉妹から視線をそらす。これがマンガなら、後頭部に冷や汗を表現する水滴型の記号が浮かんでいたことだろう。
「……それで、有働さんは、今日はどんな用事ですか?」
 楓が、有働にそう声をかける。舞花とは違い、パソコン部と共同作業の多い放送部員は、頻繁にこの実習室に出入りしている。有働の用事が新しいプログラムを必要とするものなら、楓が直接話しを聞いた方が、進行がスムーズになる。
「今日のは、明日のイベント関係の告知とか……そっち方面の、打ち合わせ……」
 有働の代わりに、堺雅史が楓に答えた。
「大丈夫。
 特に難しいこともないし、新しくプログラムを組む必要もないから……こっちだけで処理するよ。
 楓ちゃんには、正直、もっと難しい部分を担当して貰いたいし……」
 パソコン部の中では、いつの間にか、ある程度以上のスキルを必要とされる作業は、楓と茅に廻し、他の部員は、そのサポートに回りつつ、徐々に知識を獲得していく……という分業体制が、できあがっていた。その二人のうち茅の方は、自主勉強会の教材作りの方でも中心人物と目されていて、放課後も一カ所にじっととどまっていることがないので、複雑な作業はたいてい楓に廻されているのが、現状だった。
「明日の、美化運動なんだけど……参加希望者、人数が多すぎてどうしようか、とか、そういう話しをしていたんだけど……」
 堺雅史がそう続けると、有働も、「ええ」と相鎚をうった。
「正直……初回から、これほどの参加希望者がでてくるとは、思いませんでした……。
 人数が多く集まるのは、非常にありがたいことなんですが……その、一口に、ゴミを片付ける、といっても、ですね……。
 これだけ膨大な量を、どこに集めるか、集めたものを、どう処理するか……そういった詳細が、まだ決まっていない状態なので……」
 そういって有働は、末端の画面を指さした。画面には、この近辺に放置されたゴミ溜の写真が大写しになっている。
「一応、こうした放置ゴミの被害にあっている土地の地主さんに、何人かお話を聞いた際……どうせ、ゴミで潰されている土地だし、と、期限付きで一時置き場として使用していい、といってくれた方もいるにはいるのですが……」
 有働の話しによると、そういう気前のいい人は、どうみても少数派なのだ、という。
「……気持ち的には、ともかく……」
 柏あんなは、そうコメントした。
「例え、一時的なこととはいえ……あなたの土地に、今まで以上のゴミを置きますよ、といっているわけだから……断るのが普通じゃない?
 集めたゴミをどうするのかも、未定なんだし……」
「……未定、というか……材質ごとに仕分けて、整理する……というところまでは、やるつもりです。
 きちんと分別ができていれば、処理費用も、そうでない時の何分の一かになるということですし……」
 有働の話しによると、分別をしっかり行えば、専用の業者にリサイクルに出せるものもあるし、物によっては、「売れる」ものもある……という。
「……例えば、銅線やコード類なんかは、絶縁体の被覆を剥がして無垢の地金にすると、そこそこの値段で引き取ってくれる業者がいたりするんです……。
 そうやって、細かいところでお金を回収して、処理にお金がかかるゴミの方に廻すつもりですけど……」
「……でも……。
 人件費はタダにして、そうやって節約とか多少、お金を稼いだとしても……なんか、全体的にかかる費用と比べると……」
 舞花は、シビアな指摘をした。
「……焼け石に水……って、感じじゃないのか?」
「……そうなんです。
 こうしたゴミ処理が、そう簡単にお金になるのなら……行政も、民間企業も、率先してやっていると思います……」
 有働は、舞花の言葉にも、頷く。
 有働は、マウスを操作して、画面の隅にあった「シルバーガールズ」のバナーをクリックした。
「玉木さんは、その……。
 そうした、必要な経費を……こうしたコンテンツを売って、補填しようと動いているわけですが……正直、ぼくには、こうしたものがどれだけお金になるのか、よく判断できないのです……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(150)

第六章 「血と技」(150)

 涼治との交渉が一段落したところで、テンとガクが古風な風呂敷包みを抱えて訪ねてきた。
「……はい、これ。
 今朝、頼まれたやつ。
 にゅうたん、朝の忙しい時間に探してくれたから、後で直接お礼をいっておくように……」
 ガクはそういって、持参した大きな風呂敷包みを甲府太介の胸元に押し付けた。
「……おっ……おうっ……」
 荷物を押し付けられた方の太介は、どこか戸惑った表情で生返事をする。
 そもそも太介は、「にゅうたん」とやらに会ったこともない。
「……これ……」
 ……何?
 と問う前に、テンが続きを引き取る。
「服だよ。服。
 古着で悪いけど、これだけあれば、当座、着る物に困らないだろ?」
「……あっ……ああ。
 その……あの……。
 ……ありがとう……」
 ますます困惑した風で、太介ははっきりしない口調で、礼をいう。
「……お礼なら、にゅうたんとかおにーちゃんに。
 二人とも、夕方からならすぐそこの家にいるから……」
 そういってテンは、窓の外を指さす。
「……あっ。ああ……。
 後で、お礼をいいに行く……」
 太介は、すっかりテンやガクのペースに呑まれている。
「あの……その、にゅうたんとかおにーちゃんとかのことも、知りたいけど……おま……じゃ、なかった。君たちは……何者だ?
 朝も一緒にいたけど……やっぱり、一族の関係者?」
 そう返されて、テンとガクは顔を見合わせる。
「……うーん……」
「無関係かどうか……って、ことになると……関係は、それなりにあるけど……」
 小声でそんなことをしばらく囁きあい、結局、荒野に助けを求めた。
「……かのうこうや……こいつ、本当に、ボクらこと、何にも知らないの?」
 二人にしてみれば、まるで予備知識を持たない他人に、複雑な自分たちの境遇をうまく説明する自信がなかった。
「……こいつ……断片的な噂話を真に受けてここまでやってきた粗忽者でな……」
 荒野は、後ろから太介の頭に何度か手を置いて、テンとガクに説明する。
「おそらく……お前らのようなやつらが存在することなんか、想像すらしたことがない筈だ……」
「……弱い上に無知なのか……」
「本当に、へたれだな……」
 荒野の言葉を受けて、テンとガクは太介をボロクソに評価する。
「……ちょっ、ちょっ、ちょっ……」
 太介は、慌てた。
「これでも、おれ……養成所じゃあ、教官にも負けなかったんだけどっ!」
 精一杯の自己主張、だった。
「……だって……ねー……」
「……酒見姉妹に軽くあしらわれる程度じゃあ……」
 テンとガクは再び顔を見合わせ、わざとらしく肩を竦め、再び、わざとらしく囁きたあう。
「……これだから、田舎者は……」
「……広い世界を知らないのっていうか……」
「……こらこら……。
 お前らがそれいうか……」
 結局、荒野が苦笑いをしながら割って入る。
「そういうお前らだって、ついこの間まで島以外の場所にいったこと、なかったろう?」
「で、あの……あに……じゃ、なかった。荒野さん。
 結局のところ……こいつら、何者なんですか?」
「……ああっと……そうだな。
 途中から脱線したけど、そういう話しだった……」
 荒野はしごく真面目な顔で太介に告げた。
「こいつら二人と、そこの茅……それに、今はこの場にいないけど、ノリっていう四人な……。
 一族の遺伝子をつぎはぎして作られた、合成人間なんだそうだ……」
 そう聞いた太介は……目を点にして、たっぷり一分以上、押し黙った。
「……うっそでぇええ……」
 それから、やおらに大声をあげる。
 腹を抱えて笑おうとした太介は、自分以外の者たちが真顔でいるのに気づき、ぴたりと動作を止める。
「……あの……。
 冗談とか、そういうことではなしに……マジで?」
 太介は、恐る恐るといった様子で、荒野に向かって確認して見る。
「……本当に、おまえの言う通り、冗談だったらよかったんだがな……」
 荒野は深刻な顔をして、深いため息をついた。
「その根本的な条件が、冗談だったら……おれも、こんなに苦労しなくてすんだのに……」
 そういう荒野の目は、どこか遠くの……実在しない場所に焦点を合わせている。
「……ええっと……」
 太介は、きょときょとと周囲を見回した。
「……本当に、本当?
 …………合成人間? 合成人間?」
 テン、ガク、茅を指さしながら、確認してくる。
「……失礼だから、他人を指ささない……」
 ガクは、憮然とした顔でそう返した。
「……合成された時の記憶は、当然ながら持っていないけど……今まで推移をみてみると、その仮説は、かなり妥当な結論だと思う……」
 テンは、あくまで淡々とした口調で、そういった。
「……しっかり説明すると、長くなるから……」
 そういって、茅は、ポットを抱え直す。
「……お茶をいれ直すの……」
「……誰でもいいけど……」
 そういって、荒野は財布をだした。
「ひとっぱしりいって、軽いお茶うけでも買ってきてくれ……」
 今までの経緯を順番に語りはじめるとなると……かなり、時間がかかる。
「……あっ……じゃあ、ボクたちが、ぱっと走って、マンドゴドラに行ってくる!」
 途端に、ガクが目を輝かせた。
「……おま……。
 朝っぱらからケーキかよ……。
 まだ、朝飯食べたばっかだろ? お前らも……」
「……いいじゃん。まだまだ入るよ!」
 テンも、ガクの提案を後押しする。
「……いや、おれも、入るけど……。
 ま、いいか……。
 じゃあ、悪いが、テンとガク、ひとっぱしり、行ってきてくれ……お前らが行っている間にも、茅とおれとで説明をはじめとく……」
「……大丈夫!」
「すぐ戻るから……」
 荒野が言い終わらないうちに、テンとガクはばたばたと足音をたてて、慌ただしく出て行った。
「……っと、ここまでお膳立てが揃えば、ついでだ……。
 先生にも声をかけておくか……」
 そういって、荒野は自分の携帯を取り出した。

「……と、まあ……だいたい、こんなところかな……」
 荒野たちは、二時間近くかけて、これまでのいきさつを太介に説明し終えた。完璧な記憶力を持つ茅と、詳細な日報を継続してつけていた三島とが、交互に説明する形になり、マンドゴドラに使いにいったテンとガクもすぐに帰ってきて、その説明に加わった。全員が全員が、ともすると詳細すぎる部分まで語ろうとするので、荒野は特に補足説明を加える必要もなく、いくつかの事実誤認を訂正する時くらいしか、出番がなかいくらいだった。
 最初、殊勝な態度で拝聴していた太介は、話しが進むにつれてポカンと口を開けるようになり、それでも最後まで口を挟まずに聞き入っていた。
 そして、最後まで聞き終えると、
「……あの……それ……全部……騙し、とかでなく……」
 といって、自信なさそうな顔で周囲を見渡す。
「……何度でもいうけど、全部、本当のことだ……」
 荒野は、そう保証した。
「……信じ難いのは、よくわかるけど……。
 なんなら、こいつらの能力、みてみるか?」
 そういって、荒野は、テンとガクを指さす。
「……いや、いいっす……」
 太介が首を横に振ったのは、別に遠慮してのことではない。
 太介は既に、荒野にいわせれば、「同世代の中では、比較的マシ」な酒見姉妹にさえ、いいようにあしらわれていた。これが、荒野たちのいう「新種」を相手にするとなると……。
 そうして「試した」後、自分が無事でいられるのかどうか、太介は自信が持てなかった。
「……とりあえず……記憶力の話しは、本当のようだし……」
 テンと茅の話振りは、時折、「思い出しながら」というよりも、「目の前で起こっていることを実況中継的に伝えている」口調になる。
 おそらく……完璧な記憶力を持つ、という二人は、細部に至るまでかなり詳細に脳裏に再現された像を、的確に言葉に変換していたのだろう。
 落ち着き払った語り振りもそうだが、テンとガクについては折に触れて必要以上に微細にわたる部分にまで言及し、語り手以外の他の誰が慌てて止めに入る、ということが何度かあり、その二人の記憶力について、太介が疑う余地はほとんどなくなった。




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彼女はくノ一! 第五話 (233)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(233)

「……おつかれー……」
 一時間ほどの講習が終わると、大半の生徒たちはぞろぞろと調理実習室から出て行ったのだが、若干名の顔見知りは椅子にぐったりと座り込んだ荒野の周りに寄って来た。
「本当……疲れたわ……」
 荒野は顔をあげて声をかけてきた飯島舞花にそう答える。
「でも……加納様、かなり、わかりやすかったです……」
 楓は、先程の荒野の講習を、そう評する。
「……わかりやすいも何も……」
 げんなりとした口調で荒野は答えた。
「あんなもん、気をつけるのは湯せんする時の温度くらいだし……注意深くやれば、誰でもできるし……」
「内容」、よりも、荒野にとっては、「大勢の注目を浴びながら、長時間しゃべる。しかも、聴衆はほとんど女子」という「条件」の方に、より精神的な重圧を感じていた。
「……野郎……お前一人だったもんな……」
 甲府太介を見ながら、ぽつり、と、付け加える。
「お役に立ちましたか?!」
 勢い込んで、元気よく返事をする甲府太介。
「ああいうのは、役に立つとはいわないの。
 ただ、そこにいただけなんだから……」
 平坦な口調で、茅が突っ込みをいれる。
「……これ……あと三回もやるのか……」
 予定では、今日、休憩を挟んでもう一回。明日の午後も今日と同じように、二回、行われる予定だった。
 受講希望者の人数が多すぎるので、それだけの回数、行われることになったのだが……荒野にしてみれば、いい迷惑でもある。
 同年代の女の子に取り囲まれて、一時間も一人でくっちゃべっているよりは、殺伐とした世界で命の取り合いをしている方が、よっぽど気が楽だ……と、荒野は思った。
「……荒野……汗、かいている……」
 茅がハンカチを取り出して、荒野の額にあてる。
「……どーもー……」
 荒野は気の抜けた返答をして、額におかれた茅のハンカチに手をあてた。
「おにーさん、本格的にお疲れのようだから……」
 飯島舞花が、みんなを見渡して提案する。
「わたしらは、ちょっと消えようか……。
 ラッピングもしたいし……」
 特に反対する者もいなかったので、他の生徒たちに少し遅れて、茅を除く全員で、ぞろぞろと調理実習室を出て行く。
「……あ。
 楓!」
 荒野は、みんなと一緒に出て行こうとする楓を、呼び止める。
「……はい……」
 一度、実習室をでていかけた楓は、荒野の方に戻ろうときびすを返す。
「いや、来なくていい」
 荒野は、自分の方に歩み寄ろうとする楓を、押し止どめる。
「お前……今日と明日は、自分の好きなように過ごせ。
 茅の護衛はおれがやるし、手が必要になったら呼び出すから……」
 こうでもいわないと、楓は、自分から休もうとしない……と、荒野は、思っている。
「これからは……今までとは違った意味で忙しくなると思う。
 複雑な局面下での、微妙な判断が要求される……というか……。
 意味、わかるな?」
 楓は、無言のまま、頷く。
 楓も……前々からいわれていたように、命令を待ってそれを実行するだけの、手駒……以上にならないと、変化が早い、様々な状況に対応できない。
「そのためにも……休める時は休んで、普段からいろいろなことを経験して、見聞をひろげておけ……」
「……わかりました……」
 不承不承、といった感じではあったが……楓は、頷いた。

「……おにーさん、何だって?」
 廊下で楓を待っていた飯島舞花が、楓にそう声をかける。
「ええっと……今日明日は、わたしの好きにしていいって……」
「そっか……」
 舞花は、その返答を半ば予測していたような表情で、頷く。
「おにーさん、あれで気をつかうタイプだからな……。
 不器用なところもあるから、そう見えない時もあるけど……」
「……そう、ですね……」
 楓も、舞花の言葉に頷く。
 何だかんだで……楓は、荒野には、かなり心配をかけていると思う。
「そんなに暗い顔をすることはないよ。
 おにーさんの苦労性は、別に楓ちゃんのせいではないから……」
 舞花は、うつむき加減になった楓にそう声をかける。
「そうそう」
 柏あんなも、舞花の言葉に同調した。
「加納先輩も……なんでもできるようで、鈍感で抜けているところもあるから……」
「特に、女性の気持ちが、推測できないタイプですわね、加納は……」
 孫子も、珍しく尻馬に乗る。
「……そういえば、そんな感じだなぁ……」
 と、舞花が関心したような声を出して、みんなで笑いあった。
「……あれ? どうした?
 少年……」
 調理実習室から出て来た甲府太介に、舞花が声をかける。
「……追い出されました……」
 太介は、世にも情けない顔をして首を振った。
「おれには……ここでの生活の準備とか、一人で片付けなければならないことが、一杯あるだろうって……」
「……宿無しなんだよ、こいつ……」
 ガクが、太介を指さす。
「そうそう、人を指さしてはいけませんっ!」
 楓が、反射的にそういって、ガクの腕を押し下げた。養成所時代、後輩たちの面倒を見ていた時の癖で、こういうときについつい反応してしまう。
「……宿は……長老が、今朝、紹介してくださった方がいらっしゃるので……これから、そこへご挨拶に行きます。半分、面接なんですけど……」
 太介の話しによると、太介は、涼治のつてで紹介された一般人の家庭に、「遠縁」という触れ込みで潜り込むことになるらしい。
「……ただ、そうそううまいだけの話し、というわけでもなく……」
 その家庭には、介護が必要な老人が同居している、という。涼治の知人でもあるその家庭の人たちは、一族のこともうっすらと知らされていて……。
「……そういうことで、おれの力と体力が、あてにされているわけです……」
 下宿代は別に支払うが、太介が介護の手伝いをする、というのが、下宿先からでた条件だった。
 その家庭の人たちも……長年、介護と、自分たちの仕事や生活を両立させることに、疲れ果てている状態で……同居して、介護に協力してくれる人ならば、素性にかかわらず歓迎する、という。
「……で、これから、挨拶というか、面接にいかねばならんのです……。
 で、そこで気に入られなければ、また一から探し直しですね……」
「……ああ……」
 いつもは調子のいい舞花が、そういったっきり絶句する。
 その家庭の状況は……需要と供給の一致、と言い切ってしまうには、あまりにも「重い」。
 本当に……家族同然に世話をしてくれる人が、労働力が、喉から手が出るほど、欲しい……
 そういう、状況なのだろう……と、簡単に推測できてしまう。
「……頑張れ、少年……」
 舞花は、そういって甲府太介の肩を叩いた。
「……うっすっ……」
 太介も、微妙な表情をしながら、そう答える。
 舞花が太介を励ましたのは、太介のためではない。太介を置いてくれる、といってきた、その家庭のために、太介に「頑張れ」といっている。
 そして、太介も、その意図を正確に読み取った上で、そう答えた。
「……おれ……養成所を出て来た時は、こんなことになるとは思わなかったけど……。
 頑張ります……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(149)

第六章 「血と技」(149)

「……さて、と……」
 食後、茅にお茶をいれてもらいながら、荒野は太介に切り出す。
「お前……何を、どこまで知っている?
 どういう噂を聞いて、ここまでやって来た?」
「……うっとぉ……」
 太介は思案顔になる。
「……長老が秘蔵していた使えない逸材が、ついに動いたとかいう噂は、年末当たりから流れていて……それとは別に、だいたい同じ時期に、加納の跡継ぎの、メチャクチャ強い人が帰国したらしい、って噂も聞いていて……少し前から、加納の跡継ぎに、何人かの若手がかかっていったけど、全然相手になんなくて、全員返り討ちにあったって話しが伝わって来て……」
 ……つまり、茅や新種のことについては……。
 そう思い、荒野はちょうどポットを抱えて紅茶を注ぎに来た茅に、素早く目配せをする。
「……嘘ではないの」
 茅は、荒野にだけ聞こえる小声で、素早く囁く。
「……それで……おれに会いに来たってわけか……」
 荒野は、椅子の背もたれに体重をかけて、天を仰ぐ。
「正直、こっちは……お前なんかの面倒をみているほど、暇じゃあないぞ……」
 裏はなさそうだ……ということは、理解できた。
 しかし……だからといって、安易に「押しかけ弟子」なんてものの存在を認めたら、それが悪い前例になって、今後、さらにややこしい事態になりかねない。
 荒野は立ち上がって、自分のノートパソコンを持って来て、テーブルの上に広げ、メールをチェックした。
「……ふむ……。
 嘘は、いっていないようだな……」
 ノートパソコンの画面をみて、荒野がつぶやく。
 養成所の職員から、返信が届いていた。
 もっとも、今までの情報の裏が取れた、というだけのことで、新たな情報が付加されたわけではない。
「……お前、おれの弟子になりたいとかいったな?」
 荒野は、太介に問いただす。
「はいっ!」
 太介は、椅子に座ったまま、背筋をピンと延ばした。
「……そのためには、なんでもできるか?」
 荒野は、重ねて尋ねる。
「やりますっ! やらせてくださいっ!」
 太介は勢い込んで答えた。
「……わかった……。
 では、お前がいた養成所に電話して、事の次第を報告。
 さらに、お前がこれからここで暮らして行けるだけの手配を、全てお前自身ですること……。
 実際問題として……これくらい自分でできなければ、お話しにならないし……。
 以上のことができたら、弟子の件も考えてはみる……」
 荒野は、「弟子に取る」とは、決して明言しない。
「……養成所に、説明……っすか……」
 太介は、背筋を延ばしたまま、硬直する。
 無断でここまで来た関係で、連絡しづらいのだろう。
「……ま……お前が話したくないのなら、この電話は、そのままお前を送り返すための相談になる……。
 このままおれに話させるか、それとも、お前自身で始末をつけるか……どっちでも好きにしろ……」
 荒野は、携帯を取り出して養成所の代表番号にかける。といっても、今朝、電話した時のメモリーを呼び出してリダイヤルするだけだ。
「……あ。
 先ほどは、どうも。加納荒野です。例の、甲府太介の件ですが……」
「……すいません。
 電話、代わってください……」
 悲愴な表情を浮かべ、太介が荒野に手を差し出す。
「……本人が、そう、甲府太介が、なにやらそちらに話したいことがあるそうです。
 今、代わります……」
 荒野が携帯を太介に手渡すと、太介は部屋の隅に移動してこちらに背をむけて、ぼそぼそとなにやら話しはじる。

 せっかく茅がいれてくれた紅茶が冷め切った頃、太介は、
「すいません。
 また、代わってください……」
 と、荒野に携帯を返した。
「……はい、代わりました。再び、加納です……」
 携帯を受け取った荒野は、養成所の職員と話しはじめる。
 茅は、冷え切ったカップを引き取って、中身をシンクにあけ、新しい紅茶をいれ直した。
「ええ。ええ。
 本人の希望は、今、聞いたとおりです。
 ああ。その件について、驚いたといえば驚きましたが……太介君も、まだまだですから、全然問題はなかったです。
 それよりも、本人がこれだけ強く希望しているとなると、一度送り返してもまた脱走してくると思うのですが……。
 ええ。ええ。
 ご存じかと思いますが、正直なところ、こちらもつきっきりで後続の指導をしているほど暇ではないのですが、とりあえず、暇を持てあましている連中には心当たりがありますので、そちらでよければ、みっちりとしごいて貰うことにします。
 いえいえ。どのみち、こっちの新種を鍛えるというついでもありますから。
 はい。はい。
 そうすると、後は書類上の手配とか……」
 しばらくして、荒野が通話を切ると、すぐさま、
「……どうなりましたか?」
 と、太介が尋ねてきた。
「……無理に送り返しても、また抜け出してくるだろうから、こっちで鍛えることにした」
 荒野は簡潔に結論を述べた。
「ただ……おれ、これで結構野暮用が多いから、お前の面倒まで見てやれない。
 こちらでの身分証明とか、必要な手続きとかまでは、向こうでしてくれるとさ……」
 ここで言葉を切り、荒野はため息をついた。
「……お前……向こうでさんざん、煙たがられてたんだなぁ……。
 向こうさん、これでようやくお前をやっかい払いできそうだと思ったのか、懸命におれのご機嫌を取ってたぞ……」
「……おっしっ!」
 そう聞いて太介は、握り拳を胸の前に置いて、気合いをいれた。
「……兄貴!
 これからよろしくお願いします!」
「だから、その兄貴は勘弁してくれって……。
 書類関係がまとまっても、住むところとか生活費の確保とか、お前の問題は山積みなんだから……。
 おれ、そっちまで面倒をみないからな……」
「……お金は……たしか、親の貯蓄がまるまる残っていたと思うけど……」
「だったら、それを自由に使えるように交渉しろ。
 なんなら、うちのじじいに口をきいてやってもいい……」
「じじいって……えっ!
 長老のこっとすかっ!」
 太介は、椅子から立ち上がって直立不動になった。
 太介の両親が残した資産は、通例なら、「太介が成人するまで」という条件で一族の資金源にプールされる。一族にはマネーロンダリングや財テク関係のエキスパートもいるので、そうして数年預けておけば、たいていは色をつけて帰ってくる筈だった。
「じじい、この辺に不動産もかなり持っているからな……。
 なんかいい物件があれば、世話してくれるかも知れない……」
 そういいながらも荒野は、すでに涼治の連絡先へ電話をかけている。




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彼女はくノ一! 第五話 (232)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(232)

「……えーと……それでは、時間になりましたので、そろそろはじめたいと思います……」
 調理実習室で教壇に立った荒野は、「……なんで自分は、ここにいるのだろう……」という顔をしていた。
「みなさん……型は、用意してきましたか? 用意していない人は、ありきたりのハート型でよければこちらにいくつか用意していますので、取りに来てください。
 それでは……まずは、湯せんの準備ですね……。
 二人一組になって、お湯の温度を調整する人と、チョコを溶け易いように刻む人に別れて……」
 それでも、部活で何度か予行練習を行っていたので、手順は、頭に入っている。
 荒野の口は、滑らかに動いていた。

 楓は、同じクラスの柏あんなと組んでいた。柏あんなは湯せんに使うお湯に、学校の備品である調理用の温度計をさして、目盛りを睨んでいる。楓は、料理研が用意したチョコの固まりを、包丁で砕いて細かい破片にしていた。
 加工し易くフレーク状にした調理用チョコも市販されているのだが、必要経費削減と、それに「手作り感」を出すため、料理研の面々は、今回、キロ単位で売買される業務用のブロック状のものを用意している。
 あんまり簡単すぎるのも、つくっていて張り合いとか満足感がないのであった。
「……本職の職人さんは、チョコレートは微妙な差で味が変わるので、温度管理にかなり気を使うそうですが、ここでは、大体でいいと思います……」
 そんな荒野の声が、耳に入る。
「……楓ちゃん、そろそろ……」
「あっ。はい……」
 楓は細かくしたチョコを小さなボウルに入れ、柏あんなに手渡す。あんなは、楓から手渡されたボウルを、お湯をいれた大きなボウルの中に入れる。
「……これで……溶ける筈……」
 楓が見守る中、あんなは慎重な手つきで菓子篦をボウルの中に入れ、かきまぜる。
「……あっ……ちゃんと、溶けてきてる……」
 ボウルに接しているチョコから溶けはじめ、液状になってボウルの底に溜まっていった。
「……えー……チョコを砕いた人、手が空いたら、型の準備をしてください。温度が下がれば、チョコはすぐに固まります。溶けた後は、手早さが勝負です……」
 荒野が注意をし、楓を含む大勢の生徒が慌ただしく動きはじめる。

 才賀孫子は飯島舞花と組んでいた。
 ただし、こちらのペアは、楓とあんなよりはきびきびと小気味よい挙動をしている。どちらも料理の経験がそこそこあるからだろう。舞花は一般的な家庭料理専門だったが、孫子は菓子作りの経験も豊富だった。狩野家にくるまでは、普通の料理よりも菓子を手掛けることが多かったくらいだ。

 孫子と舞花とは対照的に、ひどく危なっかしい手つきだったのは、酒見姉妹。
 当人たちはあまり意識してないが、この姉妹は、「瓜二つの見慣れない顔が、この学校の制服を着て潜り込んでいる」ということで、ひそかに注目の的になっていた。
 この学校も、女子間の個々人のネットワークは陰に日向に張り巡らされていて、「見慣れない顔」はすぐにチェックされるようになっている。それでも正面きって問いただされないのは、姉妹が荒野たちに伴われていたからだった。荒野たち、の中には、荒野たが転入してくる前からこの学校にいる、飯島舞花や柏あんなも含まれる。
「……彼女たちが、何もいわないのなら……」
 自分たちが声をかける必要もない、というのが、そこに集まった大方の生徒の見解だった。
 幸いにして、飯島舞花と柏あんなは、男子にも女子にも好かれている生徒だったので、それなりの信望も集めていた。その二人が、特に不安を感じている様子もないので、酒見姉妹は、いわば、「良質な不審者」なのだろう……と、調理室に集まった生徒たちは判断する。
 その酒見姉妹は、おぼつかない手つきながらも、次第に作業そのものにのめり込んでいった。
 二人は、それまで自分たちで口にするものを自分たちで調理する、という機会に恵まれなかったが、昨夜、荒野と茅に、半ば無理やり基本的なところから仕込まれ、今、こうして、チョコ作り、などという、数日前なら自分たちが手掛けるとも想像もできなかった作業を遂行している。
 これが……やってみると、以外に楽しかった。
 材料がチョコだとさほど感じないが、野菜や果物に包丁をいれると、その瞬間に、切った断面から食材の香りが立ちのぼる。さらに、自分たちの過熱や味付けによって、食材が姿を変えて行く様子は、何かの実験をしているような気がした。
 このチョコ作りも、砕いたり、暖めたり、自分たちの操作によって、材料が姿を変えて行く様子が、面白い……と、酒見姉妹は、思った。
 だから、酒見姉妹は、周囲の、自分たちに向けられる視線が気にならないほど、チョコ作りに熱中した。

「……砕き終わった」
「……温度、OK」
 テンとガクも、以外に手際がいい。
 テンが、あらかじめチョコ作りの工程をネットで検索して、頭に入れていたのが効いている。それに、ガクにしてみれば、業務用の固まりチョコを溶け易い大きさに砕くことくらい、造作もない作業だった。

 その他の女生徒たちは、楓やガクが造作もなく行った、「チョコの固まりを砕く」という作業が、思うほどに進捗しなかった。
 意外に力仕事だった……ということに加え、チョコの固まりも、長い時間手で触れていると、体温で表面が溶けてくる。
「……あの……」
 部屋の隅でおとなしく見学していた甲府太介が、手近にいた生徒に声をかける。
「……それを、細かくすればいいの?
 おれ、手伝おうか?」
 香也のお下がりを着た太介は、小学生ぐらいの子供にみえた。顔立ちはどちらかというと幼く、あまり男性っぽさを感じさせないこともあって、声をかけられた生徒たちは、気軽な気持ちで太介にやらせてみた。
 太介はスピードを乗せて包丁を奮い、女生徒たちが苦労していた固まりを、手際よく破砕する。養成所の訓練よりは、よっぽどたやすい……と、太介は思った。
 あっという間にチョコのブロックを片付けた太介に、すぐに隣のテーブルの生徒たちが助けはを求める声をかけた。太介は、この程度の力仕事ならお手の物、とばかかりに、声をかけられる端からついていって、チョコをばらしていった。

 その一部始終をみていた荒野は、
『ま……いいか……』
 とか、思う。
 嫌われたり排除されたりするよりは、便利に使われる方がまだしもマシというものだ。太介も、テンやガクと同様、今度の春からこの学校に通うようになる。顔見知りが増やしておいたほうが、後々なにかと都合がいいだろう、という計算もある。第一、本人たちが喜んでやっている。
「……だいたい、溶けましたか?
 溶けたら、今度は、型に流し込みます」
 そんなことを思いながら、荒野は、次の手順を説明する。
「……型に入れたチョコを冷やしている間に、同じ要領でホワイト・チョコを溶かします。
 これは、表面に書く文字用のものですから、そんなに大量にはいりません……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(148)

第六章 「血と技」(148)

 朝のトレーニングを終え、甲府太介を連れ帰った荒野は、
「……メシと着替えは用意しておくから、しっかり体を洗え」
 といって、真っ先に甲府太介をバスルームに放り込んだ。
 かなり遠方にある養成所から、着の身着のまま、一昼夜以上の時間をかけて徒歩でここまできた甲府太介は、汗と埃にまみれていた。
 甲府太介をバスルームに放り込んだら、今度は……。
『……さて、あいつを……』
 どうするかな……と、荒野は考えつつ、自分のノートパソコンを広げる。
 太介が世話になっていた養成所の人間から、電話越しに口頭で確認はしていたが……それだけで、完全に信用できるわけではない。
 まず、荒野は着歴に残っていた番号を頼りに、その養成所が「実在」することを確認し、その養成所に、今度はメールで太介についての詳細を問い合わせた。荒野にしてみれば、このワケがわからない時期に、ワケがわからない人間が勝手に飛び込んできた、ということで、扱いに困っている、というのが本音だ。少なくとも、電話で確認した時点では、太介の言葉に嘘はみられなかった。
 簡単にメールの文面をしたため、送信した後、荒野は自分の下着と服を出して、「出たら、これに着替えろ」と申し渡して、バスルームの脱衣所に置く。
 太介の服を洗濯機に放り込んで洗った。
「茅……あいつ……どうしたら、いい?」
 そして、キッチンに戻り、三人分の朝食を準備している茅の背中に語りかける。
「荒野は、どうしたいの?」
 茅は、こちらを振り向かずに答える。
「あいつが……トラップとかでないことが確認できたら、放置しておきたい」
 基本的に荒野は、他人の行動に干渉しようという意志が薄い。
 ただ、この「太介の存在自体が、トラップではないか」という可能性を完全に排除することは……実際にやろうとすると、ひどく難しかった。
「……それなら、簡単……」
 茅は、サラダボウルを抱えて振り返り、荒野の目を見据えた。
「読む」
 ……その手があったか……と、荒野は半ば呆れ、半ば関心した。
 茅が……その気になれば、ある程度、対面している人間の「考えていること」を「読む」ことができる……ということは、佐久間現象の一件で証明されている。
「……そんな、簡単にいうけど……」
 荒野は、言葉を濁す。
「……簡単では、ないの」
 茅は、ゆっくりと首を横に振った。
「読むと……ひどく、疲れるの……。
 でも、必要なら、やるの……場合によっては、書き換える……」
「その……後半のほうは……やるな。今回だけではなく、絶対に、やるな」
 荒野は、真剣な声でいった。
「やばそうなら……放逐すればいいだけだ……」
「わかったの」
 茅は、素直に、頷く。
「甲府太介を読んで……やばそうだったら、荒野にいう。
 茅は、必要な時に結果だけを伝えて、あとは、荒野が判断するの」
「それでいい」
 荒野も、頷く。
 時間的にはともかく、一緒に寝起きしていることもあり、茅との連携もかなり円滑に行えるようになってきているな……と、荒野は思った。
 そこまで打ち合わせがすんだ時、
「……どうも……お先にご馳走になりました……」
 ぶかぶかの荒野の服を着て、頭の上にバスタオルをのせた太介が、バスルームからでてきた。

 三人は、朝食を囲みはじめる。
 いつもはざっとシャワーを浴びてから朝食にするのだが、今日は太介を先に入らせたので、荒野も茅もスポーツウェア姿のままだった。茅はテレビをつけて子供向け番組のチャンネルに合わせているが、今日は戦隊物の日ではないのでさほど真剣には見ていない。
「とりあえず、食え」
 荒野は「こいつは……遠慮とかするようなタマでもなさそうなだ……」と思いつつ、太介にいった。
「何十時間か、飲まず食わずだったんだろう?
 これで足りなかったら、あり合わせのものでなんか作る」
 いつもの通り、サラダとトースト、卵焼き程度の朝食だったが、サラダはいつもより多めに作ったし、トーストも、今、テーブル上に人数分あるのだが、まだ焼いている。
「……ありがたく、いただきます」
 シャワーを使って若干、こざっぱりとした太介は、行儀よく手を合わせて「いただきます」と大声を出して一礼し、荒野の想像以上の速度でテーブルの上のものを食べ出す。
 茅は、太介の食べっぷりを目の当たりにして、数秒目を丸くしていたが、すぐに立ち上がり、冷蔵庫に向かう。とりあえず、果物とか菓子類とか、すぐに食べられるものをテーブルの上に並べはじめ、太介は、それを片っ端から食べはじめた。
 そして、いちど外してたたんだエプロンを広げて、身につけはじめる。
「……荒野、手伝って!」
「……おう!」
 荒野も、自分のエプロンを身につけて、茅を手伝って料理をはじめた。
 荒野自身もそうだし、確認したわけではないが、酒見姉妹もその仲間なのではないか、と荒野は疑っているのだが……一族の者の中で、瞬発力が優れたものの中には、疲れた時などに、とてつもない食欲を発揮するものが、たまにいる。養分を備蓄する方法が、常人とは違うのではないかと思うほどの食欲を見せるものが……。
『一族のはしくれ……ってのは、確実らしいけどな……』
 荒野は、茅と一緒に手早く作れる料理をしながら、太介についてそんなことを思った。

「……ご馳走さまでした!」
 小一時間ほど備蓄分の食糧をさんざんむさぼってから、太介はようやくそういって両手を合わす。
「……お粗末様です……」
 荒野は、ぐったりとした声で答えた。
 茅も荒野も、まだ自分の分の食事を口にしていないのだが……食欲は、大いに減退していた。
「お風呂とお食事を世話していただいて、こういう口を効くのもなんなんですが……」
 太介は、意外に丁寧な口を効く。
「その……こちらの女性は……兄貴の、なんなんでしょうか?」
「……兄貴は、よせ……」
 どこから突っ込んでいいのか分からなかったので、とりあえず荒野はそういった。
「……お前……茅を知らないのか?」
「存じ上げませんので、こうしてお尋ねしている次第で」
 荒野は、深々とため息をついた。
「……じゃあ……その分でいくと、テンやガクのことも、知らないんだろうな……」
「……テン? ガク?」
「今日、会ったばかりだろ……。
 あの、お前と同じくらいの二人のことだ……。
 新種とかの噂、聞いたこと、ないのか? お前……」
「新種?
 そういう話しは……一向に……」
 太介は、真剣な顔をして首を振る。
「おれが聞いた噂は、兄貴と楓さんの……最強の弟子、二人のことばかりで……」
 荒野は、茅に意味ありげな視線を送った。
「……嘘じゃ、ないの……」
 茅は、ぽつりとそういう。
「……するってぇと……この方は……兄貴の妹さんですか?」
 太介がそういうと、茅は、瞬時に不機嫌な顔になった。
「どうして……恋人とか、そういう推測にならないの?」
「……え?
 だ、だって……兄貴、昨夜、別の女の人の所にとまっ……あうっ!」
 太介は、いいかけて、慌てて自分の口をふさぐ。
「……って、ことは……あれ? あれ?」
 太介は、そろっーっと、茅の方をみて、その後、視線を横にずらして荒野の方をみた。
「……兄貴ぃ……おれ、いっちゃあいけないことを、くっちゃべっちゃったかなぁ……」
 ……荒野は一瞬、「茅に直接聞いてみろ」といいたい衝動に駆られた。
「いや、別に、茅に内緒で外泊したわけじゃないから、べつに構わないんだけど……」
 実際に荒野が口にしたのは、そんなことだった。
「なんというか……おれたちの関係は、いろいろと複雑なんだ……」
 ……本当は、複雑なのは「関係」だけではないんだがな……と、荒野は内心で付け加える。




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彼女はくノ一! 第五話 (231)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(231)

 朝食が済むと、香也は背を丸めて庭に出て、プレハブに向かう。それが学校がない日の、香也の行動パターンだった。
 羽生はバイト先のファミレスへ、孫子は孫子で「会社設立準備」のために外出し、「平日は、二人に家事を任せきりだから」という理由で、テンとガクを送り出して、楓一人が母屋に残った。その楓も、午後から学校に用事があるという。テンとガクは、最近、毎日のように徳川の工場に通っている。
『なんだかんだで、最近……みんな、それぞれに忙しくしているな……』
 と、香也は思った。
 みんな……この場所で、それぞれに居場所をみつけはじめている、と。
 そんなことを考えながら、香也はいつものように絵を描く準備をはじめる。何度も反復してきてもはや脊髄反射の域に達しているのではないか、と思われるほどスムーズな動作で灯油ストーブに点火し、イーゼルを立てかけ、その前の椅子に腰掛ける。さほど時間をおかず、目の前のイーゼルに神経を集中させていく。絵の具を搾り、筆を持つと、もはや香也は日常のことを考えない。こうして絵に向かい合っている時以外の自分、というものが、ひどく希薄な、頼りのない存在として感じられる……。

 数時間後、「昼食ができた」と楓が呼びに来たので、香也も再び外界への注意を取り戻した。
 香也は「……んー……」と大きく延びをして、筆を簡単に清めて、立ち上がる。もうそんな時間か、とか、思わないでもなかったが、香也が絵に没入するうちにいつの間にか時間が経過しているのはよくあることなので、別に驚きはしない。
「……もう、お昼か……」
 とか、ぶつくさ呟きながら、楓の後をついて母屋に向かう。
「楓ちゃん、午後は学校にいくとか……。
 また、パソコン部?」
 庭から玄関に向かう途中で、そんなことを聞いてみる。
「いえ。
 パソコン実習室にも顔を出しますが、今日のメインは、調理実習室の方です。
 料理研究部主催で、手作りチョコ講習、というのがあって……。
 わたし、お菓子なんて作ったことがないから、大助かりです……」
 ……香也は、すっごく嫌な予感がした。
「……そ、そんなの……あるんだ……」
「……あるんです。
 毎年恒例で、女子のほとんどが知っています。当日は持ち込み検査が厳しくなるので、近い日付の週末に作って、学校に忘れていくんですよ、みんな……」
 人付き合いが極端に悪い香也は、今までそうした噂を聞いたことはなかったが……女子の間では、案外「常識」に属すること、なのかも知れない……と、香也は思う。
「……おまけに、今年は、加納様が講師を務めるとかで、希望者が例年の二倍とか三倍殺到したそうで、今日と明日の二回にわけてやるんですよ……」
 香也の複雑な心中に気づかない風で、楓はそう続ける。
 ……あっちの荒野さんも、いろいろと大変だなぁ……と、香也は思った。

 そんなわけで、香也と昼食を摂った後、楓は制服に着替えて学校に向かった。食材は料理研がまとめ買いをして、後で実費を参加人数で割って請求してくる、という話しだったので、手ぶらである。
 学校に行く途中、楓は、ふと違和感を感じた。
『……あっ……』
 少し考えて、楓は、その「違和感」の正体に思い当たる。
『……そっか……。
 いつもは、みんなと一緒だから……』
 楓が……たった一人で登校するのは、ひどく珍しいのだった。
 そう気づくと、見慣れた道が、ひどく寂しい風景に見えはじめる。
『とても……寒い……』
 楓は、無意識に首に手をやり、マフラーを巻き直した。
 見上げると……今に一雨来そうな、暗雲だった。
『……今朝までは……あんなによく晴れていたのに……』
 傘を持ってきた方がよかったかな、と、楓は思った。

 学校に到着すると、校門から校庭にかけて、楓と同じように休日登校してきた女子の姿がちらりほらりと見えた。楓のように一人で来ている女子も少しはいたが、大多数の女子は、二人とか三人づつのグループで固まって歩いている。
『……あれ?』
 制服姿の女子の中に、制服を着ていない、小さな二人組の姿をみつけ、楓は驚く。
「……あー! 楓おねーっちゃーんっ!」
「こっちこっちー!」
 ガクとテンが、玄関前で手を振っていた。
「……ど、どーして、ここに……」
「どーしてって……ボクたち、チョコの作り方なんて、知らないもんっ!」
「玉木のおねーちゃんにそういったら、ここにいけばいいよっていってくれて……」
「玉木のおねーちゃん、料理研の人たちの弱み……じゃなかった、仲がよくって、電話一本で手配してくれたよ!」

「……えっと……中は、土足厳禁、だから……」
 楓は少し考えて、「休日だから、大丈夫だろう」と判断し、来賓用のスリッパをテンとガクに手渡す。
「……これに、履き替えて……」
 授業がない日、だし……テンとガクは、生徒の家族みたいなものだから、たぶん、咎められることはないだろう……と、楓は考えることにする。
 脇を通っていく生徒たちが、三人の姿を見ながら小声で囁きあったりクスクス笑ったりしている。
 回りに目立つ人たちが多いので、普段は改めて注目されることもないのだが、楓の名前と顔を知らない者は、校内にはいない。加えて、テンとガクの顔も、「シルバーガールズ」として急速に知られはじめていた。
「……楓ちゃん、その子たち……」
 背中から声をかけられて振り返ると、柏あんなが立っていた。
「あ。柏さん、おはようございます」
 楓は、振り返って一礼する。
「おはよう、は、いいけど……」
「あっ。はい……。
 チョコの作り方習いたいからってことで……玉木さんが、なんか手配したみたいで……」
「なる……玉木さん経由か……。
 ……まあ……徳川君のおねーさんとか姪御さんとかと、同じようなもんか……」
「そういう柏さんも、チョコ講習の方に……」
「うん。
 どのみち、まぁくん、登校しているから、そっちのついでっていうのもあるし……」
 そういわれてみれば、あんなは、授業がない日もパソコン実習室に入り浸っている堺雅史と一緒にいることが多かった。
「……あれ? みんな、来てたんだ……」
 そんな声がしたので振り返ると、今度は、飯島舞花が、立っている。
「楓ちゃんも来るなら……一緒に出てくればよかったな……」
「……なんだよ、お前ら……こんな所につっ立って……。
 って、テンやガクもいるし!」
 今度は、荒野の声がした。
 荒野の後ろには、茅と……少しはこざっぱりとした格好になった、甲府太介がいた。
「……おにーさんも、その子、連れてきているじゃないか……」
「……連れてきている、じゃない……。
 こいつが、離れようとしないんだ……」
 荒野は、憮然とした顔でそう答える。
 テンとガクが、甲府太介を指さして、「ヘタレだー!」と囃したてはじめたので、楓が「そういう悪い言葉、使うのは駄目ですぅ」とかいいながら、二人を追い回す。
「……えー!」
「……生徒以外も、参加していいんですかぁ?」
 何故か制服姿の酒見姉妹が、どこからともなく姿を現す。
「……なに? この騒がしさ……」
 最後に合流してきたのは、才賀孫子だった。
「結局……全員、集まっていますの?」
「おれも……いろいろ、いいたいことは、あるけど……」
 荒野は、どこか諦観の混じった苦笑いを見せながら、そんなことをいった。
「来ちまった者は、しょうがない……。
 誰かに見咎められたら即帰すけど……それまでは、穏便な方向でいこう……」
 この言葉により、テンやガク、甲府太介、酒見姉妹などの部外者は、「当面、黙認」ということになった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(147)

第六章 「血と技」(147)

 酒見姉妹は山刀を振りかぶり、ほぼ同時に甲府太介を前後から挟撃した。太介は、今度は姉妹の山刀を蹴り上げてそれを避ける。
 より正確にいうのなら、前からきた酒見の山刀を蹴り上げ、その勢いを利用して、その場で逆立ちになり、頭上に掲げた両腕を大地につけて自分の体重を支えつつ、背後から来た酒見の山刀を下方に蹴り下げる。
 それだけの動作を、姉妹に前後を挟まれ、ほとんど身動きできない状態で、甲府太助は瞬時に行った。
「……なぁ、おにーさん……」
 飯島舞花が、肩を並べている荒野に尋ねる。
「あの子……あんなに小さいのに、凄いんじゃないのか?」
 太介のアクロバティックな動作は、舞花に強い印象を与えたようだった。
「……あの程度のことなら、基本を覚えた一族なら誰にでも出来るし……」
 荒野は、詰まらなそうな口調で答える。
 本当の手練れなら、より無駄のない動作で、瞬時にカタをつける。あえてそれをやらないで、派手なパフォーマンスに興じようとするあたりは……太介の、慢心だろう、と、荒野は判断する。
 あるいは太介は……荒野にいいところを見せたかったのかも知れないが。
 そして、荒野が考える程度のことは……酒見姉妹にも、予想がついた筈だ。
「……ほら、みてみろ……」
 案の定……バク転の要領でぐるりと一回転した太介の手足には、鎖が絡まっていた。
「今のは、あの双子の陽動だよ……」
 ついさっき、山刀を取り上げられたばかりなのに、同じような攻撃をするのは……「別に何か思惑があって、あえてそうした」としか、思えないのだ。
 酒見姉妹は、「……せーのっ!」とかいいながら、手にした鎖を引っ張っていた。姉妹の手にする鎖に引かれ、太介の体は徐々に横倒しになっていく。
「……あの双子、野呂の血も入っているから……そこそこ器用で、動きも早いんだけど……」
 荒野は、憮然とした調子で舞花に解説してみせる。
「……どちらかというと、あの太介っていうのの油断のが大きいな、今のは……」
 あいつ……「現場で通用するレベルの術者」と対峙した経験が、あんまりないのだろう……と、荒野は太介の評価を下す。
 自分よりも実力のある相手とは出会ったことがない、いわゆる、「井の中の蛙」タイプ。
 養成所では持てあまされていたのか知れないが……そんな狭い場所しかしらず、すべての術者を「そこのレベル」で判断しようとするのが、そもそも間違っている。
「……あ……れ、れ?」
 案の定、当の太介は、いつの間にか自分の手足に絡みついた鎖を見ながら、「どうしてこんなことになっているのかわからない」という表情をしている。
 おそらく、酒見姉妹に、自分の手足を拘束されたことさえ、実際に身動きを封じられるまで気づかなかったに違いない。
 向き合って、鎖をそれぞれ反対方向に引っ張る姉妹の動きに合わせて、甲府太助の体が横倒しになっていく。太介の一方の鎖は両手首にがっしりと絡んでいるし、もう一方の鎖は、左の足首に絡まっている。
「……おい、甲府太助!」
 荒野は、声をかける。
「お前……実戦なら、とっくにやられているぞ……」
 あんなになるまで、自分に向かってきた鎖の存在に気づいていなかった……というのなら、あの鎖が、刃物や手裏剣だったら……運よく致命傷を免れたとしても、手足の腱を傷つけられて、身動きもままならない状態にされている、ということである。
 太介が納得のいかない顔をしているのにも構わず、荒野は酒見姉妹に手を止めるように命じた。
「……あの、双子……」
 飯島舞花がぽつりといった台詞が、荒野にはおかしかった。
「完全にやられ役、っていうわけではなかったんだな……」

 酒見姉妹を下がらせて、太介の手足に絡んだ鎖を解いても、太介はまだ納得のいかない顔をしていた。
「……まだ、やれそうか?」
 荒野がそう水を向けると、太介はぱっと表情を輝かせて、
「やる、やるっ!
 是非、やらせてくださいっ!」
 と、叫んだ。
「そうか……」
 頷いて、荒野は、テンとガクを手招きした。
「ご苦労だが、お前らのうちどちらかが、相手をしてやってくれ……」
 荒野は、わざと太介を刺激するような言い方で、テンとガクに頼み込む。
「……寝込んだりするような重傷を負わせなければ、多少どついても構わない……」
 荒野は太介に背を向けていたが、荒野のその台詞を聞くと、太介の頬がぴくりと引きつった。
「……ボク……。
 自分より弱いと分かっている相手とは……あんま、やりたくないんだよね……」
 テンは、太介に自分の身の程を弁えさせようとしている荒野の意図を察知して、荒野に習って声を張り上げる。
「あの子が相手だと……やる前に、結果は分かっているじゃないか……。
 やるだけ、無駄だよ……」
 これは、ガク。テンとは違い、荒野の意図を察知してそれに同調した訳ではなく……ガクの場合は、その時思っていたことを素直に表明しただけだった。
 太介の顔が、ますます引きつる中、テンとガクはじゃんけんをして、結局、負けた方のガクが太介の相手をつとめることになった。

「……じゃあ……どこからでもかかってきて……なんなら、武器使ってもいいよ……」
 やるきなさそーに前にでたガクは、太介に向かって、ぼつりとそういう。
「……こん、のぉッ!」
 さほど距離が開いているわけでもなかったのに、太介はガクに向かって猛然と突っかかっていった……と、思ったら、真上に放り投げられていた。
「……おっ?」
 気づいたら、地上十メートル以上の空中にいた太介は、自分が今、どういう状態にあるのかを自覚した途端、素早く手足を丸め、顔や首などの急所をカバーした。腕の隙間から地上をみると、ガクが肩を竦めているだけで、投擲武器による攻撃は一切なかった。
 着地寸前にガードを説き、足が下になるように重心を調整。着地し、再度の攻撃に身構えようとした瞬間……太介の体は、また、空高く放り投げられている。
 いつ、ガクが太介に近寄ったのか、どうやって太介を再度真上に放り投げたのか……それさえも、太介には知覚できなかった。

 結局、ガクは立て続けに太介の体を五回ほど放り投げ、その間、太介は、文字通り「手も足も出ない」状態にあった所を、「もう、いいだろう」と荒野にストップをかけられた。
「……ガク、ご苦労だったな。今度、ケーキ食わしてやる……」
 そういって、荒野はガクを開放した。
 ガク以外の連中は、新参者の太介の実力を見極めると興味をなくしたのか、すでに散り散りにいつもの練習に励んでいる。
「太介とやら……お前、今のだけで、何回死んだ?」
 荒野はその場に座り込んだ太介に、諭すような口調で話しかける。
「お前がいた場所では、お前が一番だったのかも知れないが……そんなもん、一歩外に出れば、なんの価値もないから……」
 荒野は急にしおらしくなった太介から、抜け出してきた養成所の番号を聞き出し、その場で電話をかける。




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彼女はくノ一! 第五話 (230)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(230)

 翌日の土曜日、香也はいつもの時間に目覚めた。自然に目が覚めてから、「体が、自然に起きるようになっているなぁ……」と、そんなことを思う。
 少し遅れて目覚めしが鳴るのを、すぐに止め、伸びをしながら上体を起こす。
 楓たちと寝起きを共にするようになってから、健全というか健康的な生活には、なってきている。
 のろのろと起き上がって洗面所に向かい、顔を洗って廊下に出ると、シャワーを浴びたばかりの四人と出くわした。楓と孫子、それに、テンとガクは、最近、朝早くからジョギングにでも出ているらしい。
 香也は彼女たちが出掛けている時間帯はまだ寝ているので、詳しい事は知らないが、シャワーを使った後、上気した顔の彼女らと、この時間にこうして行きあうことが多かった。
 彼女たちが、香也までそのジョギングに連れ出そうとはしないことは、香也には有り難かった。
 朝の挨拶とか他愛のない雑談を交わしながら、香也は居間へ、他の四人は台所へと向かう。香也はそそくさと炬燵に手足を突っ込み、背を丸めた。この時期、朝の空気は冷たく、香也は寒いのが苦手だった。
 例によって、羽生が先に台所に入って支度をはじめていたので、朝食の準備が整うまでさほど待つ必要もなかった。ほどなくして、電子ジャーやみそ汁の入った鍋、それに、皿やどんぶりなどが次々と運ばれてくる。人数が多いということもあって、このところ、狩野家の食事は、香也、真理、羽生の三人で暮らしていた頃と比較して、多品目の総菜が並ぶようになってきている。昨晩の金平牛蒡と里芋の煮っころがしに加え、厚揚げの煮物と佃煮、ホウレン草の胡麻和えなどの副菜が増えていた。
 主菜は、ベーコンエッグと簡素な物だったが、ご飯を食べながらその辺の皿に持ってあるものを適当につまむだけでも、それなりに満腹してしまう。
 食事中、テンとガクが羽生に、香也の古着がどこかに残っていないかと尋ねていた。なんでも、
「……今朝、ボロっちぃ新手が来てさぁ……」
「どうも、それがこっちに居着くらしいんだよね……」
 とのことで、ガクたちのいう「それ」とは、どうやら、香也たちより少し小さい、テンやガクと同じ年格好の少年であるらしい。その場にいた楓や孫子も横から口を挟み、情報を補完したので、その少年が徳川の工場にいた、荒野の同類であるということが判明した……と、いう。
「って、ことは……やっぱ、ニンジャなん?」
 羽生がそういって首を傾げる。
「ええ。
 ……でも、名簿には記載されてないから、荒野様にとっても予想外の子だったみたいです……」
 と、楓は補足する。
「加納のこと……というより、この土地で今、進行している様々なことをひっくるめて……一族の中では、かなり注目をあびているようですわね……。
 今朝のその子は、小耳に挟んだ断片的な噂だけを頼りに、着の身着のままでここまでやってきたようですけど……」
 孫子も、「その、甲府太介という男の子は、楓と同じように、身寄りのない一族の子供をまとめて育てている施設から、考えなしに飛び出してきたらしい」という情報を付け加える。
「着のみ着のままで、か……」
 羽生も、頷く。
「そうか。だから、こーちゃんの古着か……。
 いや、探せばなんかしら、あると思うけど……ズボンやパンツなら、わたしのお古でもいいしな……。
 後で探してみるわ……」
「……お願いします」
 楓もそういって頭を下げた。
「今は、とりあえず、加納様がマンションに連れ帰って、シャワーとかお食事とかの世話をしていますけど……」
 その子は現在、保護者がいない状況で、元の施設に帰るつもりもないらしい。
「……加納の弟子、志望とかで……」
 孫子はそういって肩を竦める。
 荒野から引き離されても、すぐに戻ってくる……と息巻いている……。
「普通の子供なら、無理にでも連れ帰ればそれで終わりでしょうけど……」
「……まあ……現に、その施設ってところから、自力でここまで来ちゃっているわけだし……」
 羽生も、半ば呆れた様子で頷いた。
「いっそのこと、監禁とかしないかぎり……」
 その子の意志を阻止することは、できない……。
「……まったく……一族としての能力をそんな猛襲のために使うなんて……浪費以外の何物でもありませんわ……」
 孫子は、そう嘆いて見せた。
 結局……荒野は、その子については「しばらく手元に置いて、様子をみる」ことになりそうだ……と、困った顔をしながらも、そんな決断を下したようだった。

 楓や孫子の口ぶりから想像するに、予定にないその子の出現に、荒野もそれなりに戸惑ってとまどっていたのではないか……とか、香也は思ったが、そう推測するのと同時に、「荒野なら、多少とまどっていたとしても、臨機応変にどうにかしてして、首尾よく丸く収めたのだろうな」とも、思ってしまう。
 香也の知る荒野とは、突発的な出来事で平然と受け止めてしまえる、即時適応能力に優れた少年だった。優れた観察力と判断力を持ち、状況の変化に応じ、素早く現実的な対応をする柔軟さも持ち合わせている。
 いつも茫洋としている香也自身とは、対極にある資質の持ち主だ、といってもいい。
 現に、今朝現れたばかりの、その子の衣服の手配を、もう、している。この分だと、今日明日中には、その子の住居や書類上の身元偽装などの手配も、終えてしまうのだろう。
『……しっかりしている、というよりも……』
 包容力のある人だよな……と、荒野について、香也はそのように思う。
 なんだかんだいって荒野は、制約の多いこの状況下にあって、楓や孫子にも、できる限り自由に振る舞わせている……好きに、動きたいように動けるような状況を、可能な限り整えようとしている……ように、香也には、見受けられた。
 しばらく手元に置く、というその子にしても、なんだかんだいって荒野は、さりげなく便宜を図り、できるだけ自由に動けるように手配を進めるのだろう。
「……んー……」
 しかし、香也が実際に口に出したのは、まったく別のことだった。
「その子……何歳くらいなの? 学校は、どうするの?」
 話しを聞く限り、かなり年少のような気がする。
 テンとガクが、虚をつかれたような表情をして、お互いの顔を見合わせる。
「……ボクらと、同じくらい……。
 かのうこうやの話しでは、同じ学年だって……」
 珍しく憮然とした顔と声で、ガクが押し出すような声を出す。
「じゃあ……今度の春から、同級生か?」
 羽生が、何気ない口調で確認する。
「近くに住むとかいっているし……このままいくと、同じ学校に、通うことになるね……」
 テンが、羽生の言葉に頷く。
 何故だか……テンとガクは、その「甲府太介」という子の存在を、あまり歓迎していないようだ……と、香也は感じた。





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(146)

第六章 「血と技」(146)

「……と、いうことで、とりあえず連れてきた」
 河川敷でいつもの連中と合流した後、荒野はざっと先程のいきさつを説明し、荒野を不意打ちにしようとした少年を紹介する。
「自称、甲府太介。
 こいつのいうことに裏がないかどうかは、これから確認する。
 確認が取れるまでは、適当に遊んでやってくれ……」
「じゃあさ、じゃあさ……」
 さっそく、ガクが片手を上げた。
「少しは本気を出しちゃって、いいかな?」
「本人に確認しろ」
 荒野は、先ほどの襲撃で、太介の実力はある程度見極めているのだが、あえて詳細に説明しない。
「……本人の自己申告では、二宮系だそうだから、多少のことでは壊れないとは思うけど……」
「いいよ、おれは」
 甲府太介本人が、即座に答える。
「同年配のやつらや教官は、相手にならなかったし……ここに少しは歯ごたえがある奴がいるんなら、いくらでも相手になるよ……」
 ……その言葉に、嘘はないだろうな……と、荒野は思う。
 甲府太介は、二宮の資質が凝縮されて生まれた例だ。大の大人でも、六角を回転抜きで投じてアスファルトに完全にのめり込ませる、などという芸当ができるものは、少ない。それに、本人も、それなりに練習熱心なようだし……。
「……酒見たち!」
 少し考えて、荒野は酒見姉妹に声をかける。
「ちょっと、このチビをからかってやれ!」
「……御下知とあれば」
「……喜んで」
 相変わらず見分けがつかない酒見純と酒見粋が、前に進み出る。
 酒見姉妹を目の当たりにした甲府太介が、よろよろと何歩か後退した。
「……噂くらいきいたことがないか? 酒見の双子の?
 まあ、いいや。
 お前みたいな生まれついての素質に頼りがちなタイプは、トリッキーな攻撃にはからきし弱いからな。
 この双子の相手をして、少しは自分の限界をわきまえておけ……」
「……あ、あの……兄貴……」
「その兄貴というの、やめろ。
 で、なんだ? 怖じけづいたか?」
「……ちょっくらびっくりしたけど……あの、武器使っていい?」
「……どうする?」
 荒野は、酒見姉妹にその質問をそのまま流す。
「お前らの好きにしていいぞ。
 あ。長く入院するような怪我、しない程度に収めるのならな……」
「……では……」
「……わたしたちも……」
 酒見姉妹は、背中のホルスターから山刀を取り出しながら、甲府太介に殺到する。
「……ちょ、ちょっと……。
 まだ、準備できてないのに!」
 甲府太介は、慌ててみせた。完全に腰が引けている。
 そんな太介に、左右から同時に、酒見姉妹が背を向けた山刀を、たたき込む。
 完全な挟撃……に、見えた。
「……いきなりだから……」
 しかし、次の瞬間……慌てたようにみえた甲府太介は、酒見姉妹の山刀を、完全に止めていた。
 両手の親指と人差し指で山刀の刀身を挟み込んでいる。
「……こんな芸のない止め方しか、できないじゃないか……」
 酒見姉妹は、額に汗を浮かべている。
 決して手加減してはいないようだが……山刀は、ピクリとも動かない。
「……双子ども!
 お前ら、気を抜きすぎだ!」
 荒野は、酒見姉妹を叱責する。
「……小さいなりしてても、こいつ、一族だぞ。
 真っ正面からなんの工夫もなくかかっていったら、止められて当然だ!」
「……ねえ、兄貴……」
 涼しい顔をして酒見姉妹の山刀を止めている甲府太介が、荒野に顔を向けて尋ねる。
「兄貴はよせ。
 で……なんだ?」
「この人たち、やっちゃっていいのかな?」
「……入院しない程度にしておけ……」
「……了解……」
 言い終わるや否や……甲府太介が、動いた。
 手で山刀を固定したまま、ほとんど体を横倒しにして、左右の酒見姉妹を足蹴にする。
「……戦力を分散させての、個別撃破……。
 自軍より量的に勝る相手に対する、常套手段ですわね……」
 孫子が、呟く。
 太介は酒見姉妹の「どちらか」片一方に迷うことなく殺到し、同時に、山刀を遠くに放り投げている。相手に使わせるつもりも、自分で使うつもりもないらしい。
 太介に迫られた方の酒見が体制を立て直し、太介に手裏剣を何発か投じる。が、太介は速度を緩めることもせず、手ですべてをたたき落とす。
 太介と酒見が、一瞬、組み合って……すぐに、離れた。
 体格的にほぼ同じくらいだったこともあって、どちらかがはじき飛ばされる、ということもなく、二人とも同時に後退して数メートルほどの距離をとる。
「……姉様!」
 太介の背後で、もう一人の酒見の声がした。わざわざ声を上げた、ということは、自分の存在を気づかせる必要があったからだ。
 その酒見は……「姉様」と呼びかけた、ということは、妹の粋だろう……呼びかけるのと同時に、拾ってきたばかりの山刀を二振り、少し時間差を置いて、太介の背中に向けて投じる。
「……よっ、と……」
 太介は、特に慌てた様子もなく、しかし機敏な動作で振り向きざまに投じられた山刀を両手に掴み、二人の酒見に向け、一振りづつ投げ返す。
「……余裕ね……」
「……でも、それが……」
 山刀を受け取った酒見粋と酒見純は、再度、太介の前後からの挟撃を試みた。
 以前と違うのは、今度は、酒見姉妹も太介の実力を低く見積もっていない、ということだった。
 酒見姉妹は、太介の周囲を旋回しながら、徐々に距離を詰めていく。
「「……命取り!」」
 双子の声が、重なった。




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彼女はくノ一! 第五話 (229)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(229)

 何はともあれ、まずは夕食であった。鍋は火にかけられているし、味噌汁は、一度味噌を溶いたらぐつぐつと煮立てては行けない。風味が飛ぶ。つまり、やりかけの料理を途中で放りだすわけにはいけないし、また、この家の住人は大半が食べ盛りの育ち盛りであり、その食欲は旺盛だった。
 楓と孫子、テンとガク、それに羽生が台所にいれ代わり立ち代わり出入りして、いくらも待たずに完成した料理を炬燵の上に並べて行くのを、香也はぼっーっと眺めた。
 ……こうしているのを見ると、みんな、仲は良さそうなのにな……。
 とか思いながら、部屋の隅に常備してあるスケッチブックに手を延ばし、しゃっしゃっと鉛筆を走らせはじめる。手がすくとこうして手を動かしはじめるのは、香也の場合、癖というよりももはや習性の域に入っている。
 さほど待つこともなく、夕餉の用意が整い、みんなで炬燵を囲んで、
「いただきます!」
 の唱和をし、お食事開始。
 メニューは、金目鯛の焼き物、ワカメと蛸の酢の物、白菜の一夜漬け、里芋の煮っころがし、金平牛蒡、粕汁にご飯。
 狩野家はもともと和食中心だったのが、最近では玉木の家で買い物をすることが多く、海産物が以前より多く使用されるようになっている。
「……それでさ、肝心のこーちゃんはどうなのよ?」
 箸を使いながら、羽生がさりげない口調で切り出す。改まって膝をつきあわせるよりは、こうした雰囲気の方が香也にとってもありがたいのだが、そうした効果をどこまで羽生が計算しているのかは、香也には想像つかない。
「もう、楓ちゃんとかソンシちゃんの方はきっぱり意思表示しているわけでさ、ぶっちゃけた話し、あとはこーちゃん次第だと思うんだけど……」
「……んー……」
 香也は、口の中のものを嚥下し、ゆっくりとした口調で話しはじめる。
「……そういわれても……前にもいった通り、その……ぼくには、そういうの早すぎると思うし……」
「……つまりは、準備出来てない、っと……」
 そういって羽生は、溜息をついた。
「まあ、予想どおりといえば、そうなんなんだけど……。
 あのなー、こーちゃん。
 人生は一度きりしかないし、こんな美少女が向こうからこんなに積極的に迫ってくる、なんてことは……普通なら、まずないぞ……。
 いわまの際にはっきりになってはっきりする、とかじゃあ、現実には、駄目なんだから……」
 羽生は、香也の心情を配慮しながらも、やはり同性である楓や孫子の立場に同情的になってしまう。
 例えば香也が、単なる優柔不断であるとか、女性であれば誰にでも声をかける軟派な性格であるのなら、羽生もよっぽどやりやすいのだが……。
「……んー……。
 でも……特別な好意を持っていないのに、何か、そういう関係をずるずると続けるのも……なんか、違うような気がするし……」
 羽生の言葉に近づきながらも、香也としては、そういうしかない。
「……あー……」
 羽生は、頭を掻き毟りたくなった。いや、食事の場でなかったら、実際にそうしていただろう。
 香也と香也なりに……楓や孫子に対して、誠実であろうとしている。だからこそ、現状ではどっちつかずなわけで……。
「……はーいっ!
 はいはーい!」
 ガクが、元気よく片手をあげる。
「じゃあじゃあ……おにーちゃん、まだ、誰にも決めていないってことだよね!」
 香也は黙って首を縦に振る。
「はいっ!
 じゃあ、ボクも、立候補!」
「ボクも、ボクも!」
 ガクとテンが、競うようにして手を上げる。
「「……ボクも、おにーちゃんの恋人になるっ!」」
 ……しばらく、誰も何もいわなかった。
「……も、もてもてだなぁー、こーちゃん……」
 羽生がどこかしらけきった目で香也をみた。
 ……ここまでこじれてくると、もはや完全に、自分の手には余る……という意識が、羽生の脳裏で急速に膨らんできている。
 香也の方はというと、蒼白な顔をして、「……んー……」と唸りながら脂汗をかきはじめている。
「……えーと、だな……」
 そろそろ真剣に考えるのが馬鹿らしくなってきた羽生は、妥当な妥協点を提案しようとする。
「将来のことはわからないけど……今の時点で、こーちゃんが誰とも付き合うつもりはないっていうのは、はっきりしているわけだから……これ以降の逆セクハラは禁止!」
 羽生は真理の思考をトレースしようとする。
 真理は、年齢的に早いからといって、子供の恋愛に反対するほどタイトな価値観の持ち主ではない。しかし、節操のないフリー・セックス状態を放置することもないだろう。
「……今後、何かする時は、まずこーちゃんの意志を確かめてから!
 真理さんだって、普通の恋愛の末、自然にそういう関係になるんなら……別に、反対はしないと思うし……」
「……それ……」
 うつむき加減の楓が、横目でちらちらと孫子を伺いつつ、ぽつりぽつりと話し出す。
「変な薬、使うなっ、ていうことですよね……」
 根が素直で信じやすい楓は、孫子がシルヴィ経由で入手した媚薬を「服用したら最後、えっちをしないと死んでしまう薬」だと信じ込んでいる。
「わ、わたしだって……あんな変な薬がなければ……もっと、その……自然な過程を経て、ですね……」
「……まるで、薬がなければ香也様とそうなるのは自分だ、といわんばかりの言い草……」
 孫子の目が、すうぅっと細くなる。
「……分限というものをわきまえなさい、加納の犬……」
「……ま、まあ、二人とも……」
 突如険悪な空気になってくるのを、羽生がとりなす。
「そんな、角を立てることも……。
 ほら、こーちゃんも、脅えているし……」
 実際、香也は炬燵に座ったまま、上体を後ろにそらして、見事な及び腰になっている。
 物理的な激突がなくても、楓と孫子が本気で睨み合うと、その場の空気が凍る。
「……ご、ご飯はおいしくいただきましょー!」
「……世界平和祈願! 世界平和祈願!」
 テンとガクが、楓と孫子を見比べながら、羽生に続いて、あわてて割って入る。
 二人は、楓と孫子が実際にぶつかり合ったらどれほどのことができるのか、過去の経験からかなり詳細に想像出来る。ゆえに、仲裁にも、それなりに真剣だった。
「……まっ……いいえですわ……」
 やがて孫子が、目を逸らした。
「要は……香也様を、その気にさせればいいだけで……」
「……ま、まー……その、それは……そうなんだけど……」
 羽生は、簡単にそんなことをいってのける孫子に、呆気に取られている。
 内心では、
『……こーちゃんが、なかなかその気にならないから、回りが苦労しているんじゃないかよー!』
 とか、叫んでいる。
「……折しも、来週はバレンタイン!」
 何故か、孫子は立ち上がって力説した。
「香也様のハートをゲットするのは、このわたくしです!」
「……あー……」
 羽生は、視線をさ迷わせる。
「それは……ソンシちゃん……手作りチョコで、ということ……かな?」
「無論です!」
 孫子は、羽生の問いかけにかぶりを振る。
「腕によりをかけて、ゴージャスかつスイート、なおかつエキサイティングなチョコを作ってみせますわっ!」
 何故かむやみにテンションが高くなっている孫子はだった。
『まず……バレンタインなんて、今時、たいがいに形骸化して、誰も本気にしていないし……。
 それに、こーちゃんは、基本的に、甘いもの、苦手だ……。
 あと……チョコがうまければ、こーちゃんの好意を得られるというものでもないだろう……』
 羽生は、心中で、突っ込みどころを数え上げている。
 羽生の心配をよそに、楓とテン、ガクは、「わたしも!」、「ボクも!」とか、孫子の扇動に乗っかっている。孫子以外は、誰もが素直な子たちであった。
『……ソンシちゃんも……何か、根本的なところで、ズレているところがあるよな……』
 と、羽生は思う。
 香也はと見ると、今まで以上に、蒼白な顔をしている。今度の十四日は、きっとたくさんのチョコが香也の目の間に積み上げられるに違いない。
『……お隣の……カッコいいほうのこーや君なら、甘い物好きだから、歓迎しそうな……』
 しかし、こっちの香也は、甘い物が苦手なのであった。
『……まー……でも……。
 こーなったら、止らないだろうなぁ……』
 と、羽生は思う。





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